(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183587
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】絶縁シート、及び多層基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/46 20060101AFI20231221BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
H05K3/46 T
H05K3/46 B
H05K1/03 610H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097173
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】小松 聖虎
(72)【発明者】
【氏名】森田 高章
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 祐介
【テーマコード(参考)】
5E316
【Fターム(参考)】
5E316AA12
5E316AA43
5E316CC08
5E316CC32
5E316DD03
5E316DD24
5E316DD32
5E316DD33
5E316FF31
5E316GG17
5E316GG28
5E316HH40
(57)【要約】
【課題】収縮歪みの抑制と、層間密着性の確保を両立できる絶縁シート、及び多層基板の製造方法を提供する。
【解決手段】誘電体フィラー63は、絶縁シート22に25vol%以上、50vol%以下含まれる。このように液晶ポリマー61に所定量の誘電体フィラー63を添加することで、絶縁シート22の収縮歪みを抑制することができる。ここで、誘電体フィラー63の粒度分布は、二箇所以上の極大点を有すると共に、0.1μm以上、0.8μm以下の範囲に小粒径側の第1の極大点PA1を有する。このように、小粒径側で極大点を形成する程度の量の小粒径の誘電体フィラー63が添加されることで、少ない添加量にて収縮歪みを抑制することができる。このように、誘電体フィラー63の添加量を低減することで、絶縁シート22の層間密着性を向上することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマーを含有する熱可塑性樹脂と、無機フィラーと、を含む絶縁シートであって、
前記無機フィラーは、前記絶縁シートに25vol%以上、50vol%以下含まれ、
前記無機フィラーの粒度分布は、二箇所以上の極大点を有すると共に、0.1μm以上、0.8μm以下の範囲に小粒径側の第1の極大点を有し、
前記第1の極大点が0.1μm以上、0.3μm未満の範囲である場合、前記小粒径側の粒度分布割合は、前記無機フィラー全体の体積に対して5vol%以上、35vol%以下であり、
前記第1の極大点が0.3μm以上、0.8μm以下の範囲である場合、前記小粒径側の粒度分布割合は、前記無機フィラー全体の体積に対して10vol%以上、35vol%以下である、絶縁シート。
【請求項2】
前記無機フィラーの粒度分布は、1μm以上、3μm以下の範囲に大粒径側の第2の極大点を有する、請求項1に記載の絶縁シート。
【請求項3】
前記無機フィラーのアスペクト比は、0.7以上、1.0以下である、請求項1に記載の絶縁シート。
【請求項4】
導電膜に配線を形成する工程と、
前記配線上に層間接続用ポストを形成する工程と、
前記配線上に絶縁材料を供給する工程と、
前記絶縁材料を熱プレスして請求項1に記載の絶縁シートを形成する工程と、
前記絶縁シートを少なくとも1層以上含む基材シート群を積層して熱プレスして多層基板とする工程と、を備える、多層基板の製造方法。
【請求項5】
前記絶縁材料は、粉末の液晶ポリマー、及び粉末の無機フィラーを含む、請求項4に記載の多層基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁シート、及び多層基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の基材シートが積層された多層基板が知られている。たとえば、下記特許文献1には、基材シートが熱可塑性樹脂を含む絶縁シートを備える構造が開示されている。また、特許文献1には、絶縁シートが液晶ポリマーを含むことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来技術に係る絶縁シート内では、液晶ポリマーの分子配向が局所的に偏ることで、シート面内に熱膨張差が生じることにより、収縮歪みが発生する可能性があった。これに対し、絶縁材料に無機フィラーを添加することで液晶ポリマーの分子配向を制御することで収縮歪みを抑制した場合、絶縁シートを用いた多層基板の層間密着性が問題となる可能性があった。従って、収縮歪みの抑制と、層間密着性の確保を両立できる絶縁シートが求められていた。
【0005】
本発明は、収縮歪みの抑制と、層間密着性の確保を両立できる絶縁シート、及び多層基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係る絶縁シートは、液晶ポリマーを含有する熱可塑性樹脂と、無機フィラーと、を含む絶縁シートであって、無機フィラーは、絶縁シートに25vol%以上、50vol%以下含まれ、無機フィラーの粒度分布は、二箇所以上の極大点を有すると共に、0.1μm以上、0.8μm以下の範囲に小粒径側の第1の極大点を有し、第1の極大点が0.1μm以上、0.3μm未満の範囲である場合、小粒径側の粒度分布割合は、無機フィラー全体の体積に対して5vol%以上、35vol%以下であり、第1の極大点が0.3μm以上、0.8μm以下の範囲である場合、小粒径側の粒度分布割合は、無機フィラー全体の体積に対して10vol%以上、35vol%以下であってよい。
【0007】
絶縁シートにおいて、無機フィラーは、絶縁シートに25vol%以上、50vol%以下含まれる。このように液晶ポリマーに所定量の無機フィラーを添加することで、絶縁シートの収縮歪みを抑制することができる。ここで、無機フィラーの粒度分布は、二箇所以上の極大点を有すると共に、0.1μm以上、0.8μm以下の範囲に小粒径側の第1の極大点を有する。このように、小粒径側で極大点を形成する程度の量の小粒径の無機フィラーが添加されることで、少ない添加量にて収縮歪みを抑制することができる。このように、無機フィラーの添加量を低減することで、絶縁シートの層間密着性を向上することができる。また、第1の極大点が0.1μm以上、0.3μm未満の範囲である場合、小粒径側の粒度分布割合は、無機フィラー全体の体積に対して5vol%以上、35vol%以下であり、第1の極大点が0.3μm以上、0.8μm以下の範囲である場合、小粒径側の粒度分布割合は、無機フィラー全体の体積に対して10vol%以上、35vol%以下である。このように、第1の極大点が0.3μm以上、0.8μm以下の範囲である場合、第1の極大点が0.1μm以上、0.3μm未満の範囲である場合よりも、小粒径側の粒度分布割合の下限値を大きくしている。これにより、小粒径側の第1の極大点と大粒径側の第2の極大点とが近づくような粒度分布の場合であっても、小粒径側の無機フィラーの添加量を確保して、少ない添加量にて層間密着性を向上できる。以上より、収縮歪みの抑制と、層間密着性の確保を両立できる。
【0008】
無機フィラーの粒度分布は、1μm以上、3μm以下の範囲に大粒径側の第2の極大点を有してよい。この場合、大粒径の無機フィラーで液晶ポリマーの分子配向を好適に制御することができる。
【0009】
無機フィラーのアスペクト比は、0.7以上、1.0以下であってよい。この場合、無機フィラーで液晶ポリマーの分子配向を好適に制御することができる。
【0010】
本発明の一形態に係る多層基板の製造方法は、導電膜に配線を形成する工程と、配線上に層間接続用ポストを形成する工程と、配線上に絶縁材料を供給する工程と、絶縁材料を熱プレスして上述の絶縁シートを形成する工程と、絶縁シートを少なくとも1層以上含む基材シート群を積層して熱プレスして多層基板とする工程と、を備える。
【0011】
この多層基板の製造方法によれば、上述の絶縁シートと同趣旨の作用・効果を得ることができる。
【0012】
絶縁材料は、粉末の液晶ポリマー、及び粉末の無機フィラーを含んでよい。この場合、絶縁シート内の無機フィラーの粒度分布を容易に制御することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、収縮歪みの抑制と、層間密着性の確保を両立できる絶縁シート、及び多層基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る多層基板を示した概略断面図である。
【
図2】
図1に示した基材シートを示した概略断面図である。
【
図3】
図1に示した多層基板の製造方法の各工程を示した図である。
【
図4】
図1に示した多層基板の製造方法の各工程を示した図である。
【
図5】絶縁シートの製造工程のうち、配線上に絶縁材料を供給する工程における絶縁材料を示す概念図である。
【
図6】誘電体フィラーの粒度分布を示すグラフである。
【
図7】誘電体フィラーの粒度分布の他の例を示すグラフである。
【
図11】実験に係る絶縁シートの粒度分布を示すグラフである。
【
図12】実験に係る絶縁シートの粒度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
図1に示すように、実施形態に係る多層基板1は、複数の基材シート20が積層された構成を有する。本実施形態では、3層の基材シート20を含む多層基板1について説明する。
【0017】
図1および
図2に示すように、基材シート20は略均一厚さの薄膜状の外形を有する。基材シート20は、絶縁シート22と、絶縁シート22に埋設された層間接続用ポスト30および配線40とを備えている。
【0018】
絶縁シート22は、上面20aおよび下面20bを有する薄膜状部材である。絶縁シート22は、液晶ポリマー(LCP)を含有する熱可塑性樹脂と、無機フィラーと、を含む。絶縁シート22の詳細な構成については、後述する。
【0019】
層間接続用ポスト30は、導電材料で構成されており、本実施形態ではCuで構成されている。層間接続用ポスト30は、基材シート20の厚さ方向に沿って延在して基材シート20を貫通しており、別体で構成された配線部32と本体部34とを備えている。層間接続用ポスト30の高さ(基材シート20の厚さ方向に関する長さ)は、30~100μm程度であり、一例として50μmである。
【0020】
配線部32は、絶縁シート22の下面20bに対して平行に延びる平板状の薄片部分である。配線部32はほぼ均一な厚さを有する。配線部32の厚さは、一例として10μmである。配線部32の下面は、層間接続用ポスト30の下面30bを構成しており、層間接続用ポスト30の下面30bは、基材シート20の下面20bに対して平行かつ面一となっている。配線部32の上面は、層間接続用ポスト30の下面30bおよび基材シート20の下面20bに対して平行に延在している。
【0021】
本体部34は、配線部32から上方に向かって上面20aまで延びる柱状部分である。本実施形態では、本体部34は、その延在方向(すなわち、基材シート20の厚さ方向)に直交する断面の形状が円形である形状を有する。本体部34の直径は、本体部34の延在方向において均一となるように設計されている。本体部34の上面は、層間接続用ポスト30の上面30aを構成している。層間接続用ポスト30の上面30aは、基材シート20の上面20aに対して平行かつ面一となっている。
【0022】
配線40は、層間接続用ポスト30と同じ導電材料で構成されており、本実施形板ではCuで構成されている。配線40は、略長方形断面を有している。配線40は、基材シート20の下面20b側に形成されており、上面20a側には形成されていない。配線40は、絶縁シート22の下面20bに対して平行に延びており、下面20bに露出している。配線40の下面は、基材シート20の下面20bに対して平行かつ面一となっている。配線40の上面は、配線40の下面および基材シート20の下面20bに対して平行に延在している。配線40はほぼ均一な厚さを有する。配線40の厚さは、層間接続用ポスト30の配線部32の厚さと同一であり、一例として10μmである。配線40は、下面20b側において基材シート20の回路の一部を形成している。
【0023】
続いて、上述した多層基板1の製造方法について、
図3、4を参照しつつ説明する。
【0024】
多層基板1を製造するためには、基材シート20を製造する必要がある。基材シート20を製造する際には、まず、
図3(a)に示すように、一方の主面50a側に導電膜51が設けられた支持板50を準備する。支持板50は、平板状を有し、たとえば、ガラスエポキシやガラス、シリコン等で構成することができる。導電膜51は、めっきシードとして機能する膜であり、たとえばCu等の金属で構成することができる。導電膜51は、スパッタ等で成膜した金属膜であってもよく、Cu箔等の金属箔であってもよい。または、支持板50の一部と導電膜51を兼ねてキャリア付きの極薄銅箔などを用いてもよい。そして、支持板50の主面50a上に、上述した層間接続用ポスト30および配線40を形成する。具体的には、
図3(a)~
図3(d)に示す工程に沿って、支持板50の主面50a上に層間接続用ポスト30および配線40をめっき形成する。
【0025】
図3(a)に示す工程では、支持板50の主面50a上にレジスト52をパターニングする。レジスト52は、上述した層間接続用ポスト30の配線部32の領域および配線40の領域に開口を有する。
【0026】
図3(b)に示す工程では、レジスト52を用い、導電膜51をシードとするCuの電解めっきにより、第1のめっき層53を形成する。その後、
図3(c)に示す工程においてレジスト52を除去する。第1のめっき層53が、層間接続用ポスト30の配線部32および配線40となる。
【0027】
図3(d)に示す工程では、
図3(a)~
図3(c)に示した工程と同様の工程(すなわち、レジストパターニング、電解めっきおよびレジスト除去)により、Cuの電解めっきにより第2のめっき層54を形成する。本実施形態では、第1のめっき層53を形成した後であって第2のめっき層54を形成する前にレジスト52を除去する手順を示しているが、レジスト52は、第2のめっき層54を形成する際に用いるレジストを除去する際に同時に除去してもよい。第2のめっき層54は、層間接続用ポスト30の配線部32となる第1のめっき層53上にのみ選択的に形成される。第2のめっき層54は、層間接続用ポスト30の本体部34となる。第2のめっき層54を形成した後、第1のめっき層53および第2のめっき層54の表面、特に第2のめっき層54の頂面54aに、Cuの酸化を防止するための層(Cr層、Ti層、Sn層、SnAg層等)を形成することができる。
【0028】
続いて、支持板50の主面50a上に設けられた層間接続用ポスト30および配線40を一体的に覆う絶縁シート22を形成する。具体的には、
図4(a)~
図4(c)に示す工程に沿って絶縁シート22を形成する。
【0029】
図4(a)に示す工程では、絶縁シート22の形成に先立ち、支持板50の主面50a上に、絶縁シート22が形成される領域を囲む枠55(枠体)を設ける。枠55は、支持板50の厚さ方向から見て層間接続用ポスト30および配線40を一体的に囲むように設けられる。本実施形態では、枠55は、層間接続用ポスト30の高さと同じ高さを有する。たとえば、第1のめっき層53および第2のめっき層54を形成する工程において、枠55の形状に対応する開口を有するレジストをパターニングすることで、めっきで構成された枠55を支持板50の主面50a上に形成することができる。また、別途に準備した部材を支持板50の主面50a上に枠55として配置してもよい。枠55は、絶縁シート22を形成する工程において、絶縁シート22の絶縁材料が領域外への流出するのを抑制し、かつ、所望厚さよりも薄くなる事態を招き得る過剰なプレスを防止することができるため、絶縁シート22の厚さ制御に有用である。上述した手順でめっきにより枠55を形成した場合には、第2のめっき層54の上面の高さ位置と枠55の上面の高さ位置とが一致がしやすく、そのため、絶縁シート22の厚さ制御にさらに有用である。
【0030】
図4(b)に示す工程では、支持板50の主面50a上の枠55内に絶縁シート22となる絶縁材料60を供給して、枠55に囲まれた領域を絶縁材料60で覆う。このとき、主面50aに形成されている第1のめっき層53および第2のめっき層54も絶縁材料60により覆われる。そして、熱プレート62を用いて、支持板50を主面50a側から熱プレスし、その後、冷却する。
【0031】
その結果、
図4(c)に示すように、枠55内において、支持板50の主面50aが絶縁シート22により覆われる。このとき、第2のめっき層54の頂面54aが絶縁シート22から露出する。熱プレス後に、第2のめっき層54の頂面54aに樹脂膜が形成されている場合には、絶縁シート22から第2のめっき層54の頂面54aを露出させるために、CMPや砥石研磨、フライカット等の研磨処理をおこなってもよい。
【0032】
そして、最後に、導電膜51とともに支持板50を絶縁シート22から除去して、
図2に示した基材シート20を得る。導電膜51や支持板50の除去には、熱剥離接着剤を使用した手法やレーザーによる剥離、公知のエッチング技術や、砥石研磨等の研磨処理など任意の手法を利用することができる。
【0033】
基材シート20は、絶縁シート22を形成する際に用いた枠55を除いた態様であってもよく、枠55を備えた態様であってもよい。基材シート20が枠55を備える場合、枠55は、絶縁シート22の厚さ方向から見て絶縁シート22の周囲を囲み、かつ、層間接続用ポスト30の高さと同じ高さを有するようにすることができる。
【0034】
上述のようにして複数作製された基材シート20は、複数枚重ねた基材シート群の状態で熱プレスにより一括積層することで、上述した多層基板1が得られる。基材シート20を重ねる際、層間接続用ポスト30の上面30aおよび下面30bの一方または両方に、AuやSn、Ag、はんだなどで構成された接続用の導体層を形成してもよい。
【0035】
次に、絶縁シート22の構成について
図5及び
図6を参照して更に詳細に説明する。
図5は、絶縁シート22の製造工程のうち、配線40上に絶縁材料60を供給する工程(
図4(b)の工程)における絶縁材料60を示す概念図である。
図6は、無機フィラーとしての誘電体フィラー63の粒度分布を示すグラフである。
図5に示すように、絶縁材料60は、粉末の液晶ポリマー61、及び粉末の誘電体フィラー63を含む。
【0036】
液晶ポリマー61の構造は特に限定されず、例えば、フェノールおよびフタル酸とパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体の構造を採用してもよい。または、液晶ポリマー61として、エチレンテレフタレートとパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体の構造、2,6-ヒドロキシナフトエ酸とパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体の構造を採用してもよい。粉末の状態の液晶ポリマー61の粒径は、3μm~30μm(平均粒径10μm)の範囲であってよい。この粒径は、液晶ポリマー61の熱プレス前の粒径である。
【0037】
誘電体フィラー63として、例えばシリカ、チタン酸ストロンチウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、酸化チタン、アルミナなどを採用してよい。誘電体フィラー63は、絶縁シート22に25vol%以上含まれてよい。また、誘電体フィラー63は、絶縁シート22に50vol%以下含まれてよい。なお、絶縁シート22の誘電体フィラー63以外の体積部分は、液晶ポリマー61である。誘電体フィラー63のアスペクト比は、0.7以上であってよい。誘電体フィラー63のアスペクト比は、1.0以下であってよい。なお、本実施形態では、無機フィラーとして高誘電率の無機フィラーである誘電体フィラー63を例示しているが、これに限定されない。例えば、無機フィラーとして、高周波特性に優れた低誘電率、低誘電正接の絶縁材料が採用されてもよく、例えば中空シリカや窒化ホウ素などが採用されてもよい。
【0038】
次に、誘電体フィラー63の粒度分布について説明する。まず、多層基板1中の誘電体フィラー63の粒度分布を測定する手法の一例について説明する。まず、多層基板1の樹脂成分の酸素雰囲気下での焼成除去後、内在する誘電体フィラー63の凝集分解後、一般的な粒度分布計にて測定する方法が挙げられる。
【0039】
具体的に、多層基板1をアルミナ等のセラミックのるつぼ(加熱中の微小粉末飛散防止処理をすること)に入れて、液晶ポリマー61の分解温度より高く、且つ、誘電体フィラー63と銅が溶融しない温度で加熱処理を行う。炭化した樹脂を酸化させて除去するために、加熱処理は大気雰囲気下にて実施する必要がある(加熱処理条件の例:600℃で1時間以上)。
【0040】
次に、得られた灰分より、回路部の金属を除去するため、誘電体フィラー63の粒径に対して、十分に目の大きい篩を使って、誘電体フィラー63と金属を分離する。なお、可能であれば事前に回路金属の無い部分のみを選択して、焼成した方がより良いし、回収方法は、篩を使っても手作業で銅を取り除いても良い。
【0041】
次に、焼成処理によって生じた誘電体フィラー63の凝集を解砕する。解砕の方法は、誘電体フィラー63そのものを破壊しないように溶媒中で超音波処理するのが最もよいが、凝集の程度によっては、誘電体フィラー63を破壊しない条件範囲でのメディアを使用したボールミル方式などを用いても良い。
【0042】
上述のような手法によって得られた誘電体フィラー63の粒度分布の測定方法としては、次のような手順が挙げられる。例えば、誘電体フィラー63をMEK溶媒中に、必要に応じて分散剤と共に添加し、超音波分散機で誘電体フィラー63の2次凝集を解砕する。次に、得られた分散液を、粒度分布測定装置(Malvern Panalytical社製 ZETA SIZER Nano-ZSなど)で、粒度分布を測定する。
【0043】
上述のような測定方法によって、
図6に示すような誘電体フィラー63の粒度分布が得られる。
図6に示すように、誘電体フィラー63の粒度分布は、二箇所以上(
図6では二箇所)の極大点PA1,PA2を有する。また、粒度分布は、第1の極大点PA1と第2の極大点PA2との間に、極小点PB1を有する。極大点PA1,PA2は、粒度分布の曲線の接線の傾きが正から負へ切り替わる点である。極小点PB1は、粒度分布の曲線の接線の傾きが負から正へ切り替わる点である。極小点PB1における粒径の位置に境界線L1を設定する。このとき、境界線L1よりも負側の粒度分布を「小粒径側の粒度分布」と称し、境界線L1よりも正側の粒度分布を「大粒径側の粒度分布」と称する場合がある。また、第1の極大点PA1が小粒径側の極大点に該当し、第2の極大点PA2が大粒径側の極大点に該当する。
【0044】
誘電体フィラー63全体の体積に対する境界線L1よりも負側の領域の粒度分布の割合を小粒径側の粒度分布割合と称する。誘電体フィラー全体の体積に対する境界線L1よりも正側の領域の粒度分布の割合を小粒径側の粒度分布割合と称する。
図6においては、粒度分布のグラフの全体、すなわちピークスタートPSからピークエンドPEの箇所の面積が誘電体フィラー全体の体積に該当する。当該粒度分布全体の面積に対する、ピークスタートPSから極小点PB1までの箇所の面積が、小粒径側の粒度分布割合に該当する。粒度分布全体の面積に対する、極小点PB1からピークエンドPEまでの箇所の面積が、大粒径側の粒度分布割合に該当する。
【0045】
なお、粒度分布の測定結果のグラフは、拡大視においては測定誤差やばらつきなどにより微小な振動を行うことで、極大点と極小点が多数存在する場合がある。この場合、粒度分布に対して公知の平滑化処理を行うことで、微小な振動を平滑化した粒度分布に対して、極大点PA1,PA2及び極小点PB1を設定してよい。
【0046】
なお、粒度分布は、三箇所以上の極大点を有してよい。例えば、
図7(a)に示すように、粒度分布は、三つの極大点PA1,PA2,PA3を有してよい。このとき、最も小さい第1の極大点PA1が小粒径側の極大点となり、それ以外の極大点PA2,PA3は、大粒径側の第2の極大点となる。なお、
図7(b)(c)に示すように、粒度分布は、極大点を形成しない、緩やかなピークを有してもよい。このピークは、接線の傾きの正負は変化しないが、粒度分布において上側に突出した部分となる。
図7(b)の粒度分布は、大粒径側の第2の極大点PA2より正側に、ピークPK1を有する。
図7(c)の粒度分布は、極小点PB1と大粒径側の第2の極大点PA2との間に、ピークPK2を有する。
図7に示す粒度分布においても、境界線L1を基準として粒度分布割合が決定する。
【0047】
誘電体フィラー63の粒度分布は、0.1μm以上の範囲に小粒径側の第1の極大点PA1を有してよい。また、粒度分布は、0.8μm以下の範囲に小粒径側の第1の極大点PA1を有してよい。粒度分布は、1μm以上の範囲に大粒径側の第2の極大点PA2を有する。粒度分布は、3μm以下の範囲に大粒径側の第2の極大点PA2を有する、なお、第2の極大点PA3も同様の範囲であってよい。
【0048】
また、第1の極大点PA1が0.1μm以上、0.3μm未満の範囲である場合、小粒径側の粒度分布割合は、誘電体フィラー63全体の体積に対して5vol%以上、35vol%以下であってよい。第1の極大点PA1が0.3μm以上、0.8μm以下の範囲である場合、小粒径側の粒度分布割合は、誘電体フィラー63全体の体積に対して10vol%以上、35vol%以下であってよい。
【0049】
次に、本実施形態に係る絶縁シート22、及び多層基板1の作用・効果について説明する。
【0050】
絶縁シート22において、誘電体フィラー63(無機フィラー)は、絶縁シート22に25vol%以上、50vol%以下含まれる。このように液晶ポリマー61に所定量の誘電体フィラー63を添加することで、絶縁シート22の収縮歪みを抑制することができる。ここで、誘電体フィラー63の粒度分布は、二箇所以上の極大点を有すると共に、0.1μm以上、0.8μm以下の範囲に小粒径側の第1の極大点PA1を有する。このように、小粒径側で極大点を形成する程度の量の小粒径の誘電体フィラー63が添加されることで、少ない添加量にて収縮歪みを抑制することができる。このように、誘電体フィラー63の添加量を低減することで、絶縁シート22の層間密着性を向上することができる。また、第1の極大点PA1が0.1μm以上、0.3μm未満の範囲である場合、小粒径側の粒度分布割合は、誘電体フィラー63全体の体積に対して5vol%以上、35vol%以下であり、第1の極大点PA1が0.3μm以上、0.8μm以下の範囲である場合、小粒径側の粒度分布割合は、誘電体フィラー63全体の体積に対して10vol%以上、35vol%以下である。このように、第1の極大点PA1が0.3μm以上、0.8μm以下の範囲である場合、第1の極大点PA1が0.1μm以上、0.3μm未満の範囲である場合よりも、小粒径側の粒度分布割合の下限値を大きくしている。これにより、小粒径側の第1の極大点PA1と大粒径側の第2の極大点PA2とが近づくような粒度分布の場合であっても、小粒径側の誘電体フィラー63の添加量を確保して、少ない添加量にて層間密着性を向上できる。以上より、収縮歪みの抑制と、層間密着性の確保を両立できる。
【0051】
例えば、
図8は、誘電体フィラー63の粒度分布が一つの極大点しか有さない比較例1と、二つの極大点を有する実施例1の性能に関する測定結果である。
図8(a)は、誘電体フィラー63の添加量と収縮歪みとの関係を示す測定結果のグラフである。
図8(b)は、誘電体フィラー63の添加量と絶縁シート22のシート密着力との関係を示す測定結果のグラフである。ここでは、絶縁シート22の表面と銅箔との間の密着力を測定した。
図8(a)に示すように、実施例1では、比較例1に比して誘電体フィラー63の添加量が同じであるにも関わらず、収縮歪みを低減できている。
図8(a)における実施例1は、比較例1の添加量40vol%の場合と同等に収縮歪みを低減できている。
図8(b)に示すように、実施例1は、収縮歪みの低減性能が同等である比較例1の添加量40vol%の場合よりもシート密着力を向上出来ている。このように、実施例1は、比較例1よりも収縮歪みの抑制と、層間密着性の確保を両立できている。
【0052】
誘電体フィラー63の粒度分布は、1μm以上、3μm以下の範囲に大粒径側の第2の極大点PA2,PA3を有してよい。この場合、大粒径の誘電体フィラー63で液晶ポリマー61の分子配向を好適に制御することができる。
【0053】
誘電体フィラー63のアスペクト比は、0.7以上、1.0以下であってよい。この場合、誘電体フィラー63で液晶ポリマー61の分子配向を好適に制御することができる。
【0054】
本実施形態に係る多層基板1の製造方法は、導電膜51に配線40を形成する工程と、配線40上に層間接続用ポスト30を形成する工程と、配線40上に絶縁材料60を供給する工程と、絶縁材料60を熱プレスして上述の絶縁シート22を形成する工程と、絶縁シート22を少なくとも1層以上含む基材シート群を積層して熱プレスして多層基板1とする工程と、を備える。
【0055】
この多層基板1の製造方法によれば、上述の絶縁シート22と同趣旨の作用・効果を得ることができる。
【0056】
絶縁材料60は、粉末の液晶ポリマー、及び粉末の誘電体フィラー63を含んでよい。この場合、絶縁シート22内の誘電体フィラー63の粒度分布を容易に制御することができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に限定されず、種々の変更を行うことができる。たとえば、多層基板を構成する基材シートは、3層に限らず、適宜増減することができる。また、層間接続用ポストの配線部の構成材料と本体部の構成材料は、同一の材料であってもよく、異なる材料であってもよい。
【0058】
以下に実施例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
[実施例]
大粒径の誘電体フィラーとして粒径が2μmのシリカ(「シリカ1」と称する)を準備し、小粒径の誘電体フィラーとして粒径が0.6μmのシリカ(「シリカ2」と称する)を準備した。「シリカ1」のみを液晶ポリマーに添加した絶縁材料を用いて作成した絶縁シートを比較例1とした。「シリカ1」と「シリカ2」の配合比を
図9に示すように組み合わせた「組成1」~「組成8」の誘電体フィラーを準備し、これらの誘電体フィラーを液晶ポリマーに添加した絶縁材料を用いて絶縁シートを作成した。組成1,組成5による絶縁シートを比較例2,3とした。組成2~4,6~8による絶縁シートを実施例1~6とした。なお、比較例1~3、及び実施例1~6において、誘電体フィラーは、絶縁シートに30vol%含まれていた。
【0060】
実施例1~6及び比較例1~3の誘電体フィラーの粒度分布を測定した。
図11(a)は比較例1の粒度分布を示し、
図11(b)は比較例2の粒度分布を示し、
図11(c)は実施例1の粒度分布を示し、
図11(d)は実施例2の粒度分布を示す。
図12(a)は実施例3の粒度分布を示し、
図12(b)は比較例3の粒度分布を示し、
図12(c)は実施例4の粒度分布を示し、
図12(d)は実施例5の粒度分布を示し、
図12(e)は実施例6の粒度分布を示す。比較例1~3及び実施例1~6に対応する粒度分布の極小点及び極大点を検出すると共に、小粒径側の粒度分布割合及び大粒径側の粒度分布割合を検出した。これらの検出結果を
図9の「粒度分布」の項目に示す。なお、比較例1,2については大粒径径側の粒度分布割合が100%であるものとした。比較例3は、小粒径側の粒度分布割合が55vol%であり、35vol%を超えていた。実施例1~6は何れも二箇所以上の極大値を有し、第1の極大点が0.1μm以上、0.3μm未満の範囲である場合、小粒径側の粒度分布割合は、誘電体フィラー全体の体積に対して5vol%以上、35vol%以下であり、第1の極大点が0.3μm以上、0.8μm以下の範囲である場合、小粒径側の粒度分布割合は、誘電体フィラー全体の体積に対して10vol%以上、35vol%以下であった。
【0061】
比較例1~3及び実施例1~6の絶縁シートについて、CTEばらつき、収縮歪み、及びシート間の密着力を測定した。CTEばらつきは、熱機械分析(TMA)で測定した。この測定方法では、一枚の絶縁シートから四箇所(中心部、端部から各二箇所)のCTEを測定して、CTEの最大値と最小値の差を「CTEばらつき」とした。密着力は、液晶ポリマーから銅配線を垂直に引き剥がした時の剥離強度(ピール強度)をプッシュプルゲージで測定した。測定結果を
図9に示す。更に、
図10(a)では、
図10(b)に示す評価基準を用いて、比較例1~3及び実施例1~6の測定結果を評価した。比較例1,2では、CTEばらつき及び収縮歪みが不合格であった。比較例3は、CTEばらつき及び収縮歪みは合格であったが、シート間の密着力が不合格であった。一方、実施例1~6は、CTEばらつき、収縮歪み、及びシート間の密着力がいずれも合格であった。
【0062】
[形態1]
液晶ポリマーを含有する熱可塑性樹脂と、無機フィラーと、を含む絶縁シートであって、
前記無機フィラーは、前記絶縁シートに25vol%以上、50vol%以下含まれ、
前記無機フィラーの粒度分布は、二箇所以上の極大点を有すると共に、0.1μm以上、0.8μm以下の範囲に小粒径側の第1の極大点を有し、
前記第1の極大点が0.1μm以上、0.3μm未満の範囲である場合、前記小粒径側の粒度分布割合は、前記無機フィラー全体の体積に対して5vol%以上、35vol%以下であり、
前記第1の極大点が0.3μm以上、0.8μm以下の範囲である場合、前記小粒径側の粒度分布割合は、前記無機フィラー全体の体積に対して10vol%以上、35vol%以下である、絶縁シート。
[形態2]
前記無機フィラーの粒度分布は、1μm以上、3μm以下の範囲に大粒径側の第2の極大点を有する、形態1に記載の絶縁シート。
[形態3]
前記無機フィラーのアスペクト比は、0.7以上、1.0以下である、形態1又は2に記載の絶縁シート。
[形態4]
導電膜に配線を形成する工程と、
前記配線上に層間接続用ポストを形成する工程と、
前記配線上に絶縁材料を供給する工程と、
前記絶縁材料を熱プレスして形態1~3の何れか一項に記載の絶縁シートを形成する工程と、
前記絶縁シートを少なくとも1層以上含む基材シート群を積層して熱プレスして多層基板とする工程と、を備える、多層基板の製造方法。
[形態5]
前記絶縁材料は、粉末の液晶ポリマー、及び粉末の無機フィラーを含む、形態4に記載の多層基板の製造方法。
【符号の説明】
【0063】
1…多層基板、20…基材シート、22…絶縁シート、30…層間接続用ポスト、40…配線、61…液晶ポリマー、62…誘電体フィラー(無機フィラー)、PA1…第1の極大点、PA2,PA3…第2の極大点。