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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183595
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】車両用開閉体の制御装置
(51)【国際特許分類】
   E05F 15/75 20150101AFI20231221BHJP
   E05F 15/643 20150101ALI20231221BHJP
   B60J 5/04 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
E05F15/75
E05F15/643
B60J5/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097191
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】菅 隆浩
【テーマコード(参考)】
2E052
【Fターム(参考)】
2E052AA09
2E052CA06
2E052DA03
2E052DB03
2E052EA16
2E052EB01
2E052EC01
2E052GA10
2E052GB12
2E052GD07
2E052JA03
2E052KA06
(57)【要約】
【課題】開閉体が変位している場合に、一律、自重による落下と判定することを抑制できるようにした車両用開閉体の制御装置を提供する。
【解決手段】PU82は、スライドドア20が全開状態から変位する場合、スライドドアの位置と変位速度との関係をサンプリングする。PU82は、サンプリングされた位置と変位速度との組の時系列データの累乗近似式を生成する。PU82は、スライドドア20の速度が累乗近似式から求まる速度から大きく乖離する場合に、スライドドア20が変位する要因が人による手動操作であると判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置情報取得処理、および手動判定処理を実行するように構成され、
前記位置情報取得処理は、センサの出力値に基づき車両の開閉体の位置情報を取得する処理であり、
前記手動判定処理は、前記位置情報に基づき算出される前記開閉体の挙動に基づき前記開閉体が人によって変位操作されているか否かを判定する処理である車両用開閉体の制御装置。
【請求項2】
前記手動判定処理は、基準設定処理、および逸脱判定処理を含んで且つ、前記逸脱判定処理によって逸脱すると判定される場合、前記開閉体が人によって変位操作されていると判定する処理であり、
前記基準設定処理は、基準設定領域における前記開閉体の挙動に基づき、判定領域における前記開閉体の挙動を定める処理であり、
前記判定領域は、前記基準設定領域よりも変位終端位置に近い領域であり、
前記変位終端位置は、全開位置および全閉位置のうちの前記開閉体の変位方向の前方に対応する位置であり、
前記逸脱判定処理は、前記判定領域における前記開閉体の挙動が前記基準設定処理によって設定された基準から逸脱するか否かを判定する処理である請求項1記載の車両用開閉体の制御装置。
【請求項3】
前記手動判定処理による前記開閉体が人によって変位操作されているか否かの判定を無効領域において行わないように構成されており、
前記無効領域は、前記判定領域よりも前記変位終端位置に近い領域である請求項2記載の車両用開閉体の制御装置。
【請求項4】
前記基準設定処理は、前記判定領域における前記開閉体の位置と変位速度との関係を定める処理である請求項2記載の車両用開閉体の制御装置。
【請求項5】
前記基準設定処理は、累乗近似式算出処理、および基準範囲設定処理を含み、
前記累乗近似式算出処理は、前記基準設定領域における前記開閉体の位置と変位速度との関係を表現する累乗近似式を算出する処理であり、
前記基準範囲設定処理は、前記判定領域における前記開閉体の位置毎に、前記累乗近似式が定める変位速度からの乖離が所定以下の領域を基準範囲に設定する処理である請求項2記載の車両用開閉体の制御装置。
【請求項6】
ブレーキ処理、および減少処理を実行するように構成され、
前記ブレーキ処理は、前記開閉体に前記開閉体の変位を妨げる力を付与する処理であり、
前記減少処理は、前記手動判定処理によって前記開閉体が人によって変位操作されていると判定される場合、前記ブレーキ処理によって付与される前記開閉体の変位を妨げる力を減少させる処理である請求項1記載の車両用開閉体の制御装置。
【請求項7】
前記開閉体は、モータのトルクによって駆動され、
前記ブレーキ処理は、前記モータの回生制御によって前記開閉体に前記開閉体の変位を妨げる力を付与する処理である請求項6記載の車両用開閉体の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用開閉体の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば下記特許文献1には、スライドドアの加速度の検出値に基づき、スライドドアが自重により落下しているか否かを判定する装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-315069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、スライドドアの変位制御がなされていないにもかかわらずスライドドアが変位する要因は、自重による落下に限らない。たとえば、人が手動でスライドドアを開閉する場合がある。その場合に、自重による落下と判定される場合には、人がスライドドアを開閉する際に抵抗力が付与される等、不適切な制御がなされるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.位置情報取得処理、および手動判定処理を実行するように構成され、前記位置情報取得処理は、センサの出力値に基づき車両の開閉体の位置情報を取得する処理であり、前記手動判定処理は、前記位置情報に基づき算出される前記開閉体の挙動に基づき前記開閉体が人によって変位操作されているか否かを判定する処理である車両用開閉体の制御装置である。
【0006】
車両が傾斜面で停止しているために開閉体が自重によって変位する場合には、一定の加速度がかかる。一方、開閉体が人によって変位操作される場合には、加速度が一定とならない傾向にある。したがって、開閉体が自重によって変位する場合と、開閉体が人によって変位操作される場合とでは、開閉体の挙動が異なる傾向にある。そのため、上記構成では、開閉体の挙動に基づき、開閉体が人によって変位操作されているか否かを判定する。これにより、開閉体が変位している場合に、一律、自重による落下と判定することを抑制できる。
【0007】
2.前記手動判定処理は、基準設定処理、および逸脱判定処理を含んで且つ、前記逸脱判定処理によって逸脱すると判定される場合、前記開閉体が人によって変位操作されていると判定する処理であり、前記基準設定処理は、基準設定領域における前記開閉体の挙動に基づき、判定領域における前記開閉体の挙動を定める処理であり、前記判定領域は、前記基準設定領域よりも変位終端位置に近い領域であり、前記変位終端位置は、全開位置および全閉位置のうちの前記開閉体の変位方向の前方に対応する位置であり、前記逸脱判定処理は、前記判定領域における前記開閉体の挙動が前記基準設定処理によって設定された基準から逸脱するか否かを判定する処理である上記1記載の車両用開閉体の制御装置である。
【0008】
車両が傾斜面に停止しているために開閉体が重力加速度によって変位する場合、開閉体の加速度は、傾斜面の傾斜角に依存する。さらに、開閉体の経年変化によって開閉体の変位に際して開閉体の変位を妨げようとする力の大きさが変化する。したがって、重力加速度に起因した開閉体の基準となる挙動を予め定めておくことは困難である。
【0009】
そこで上記構成では、まず、基準設定領域における開閉体の挙動が重力加速度に起因して生じていると仮定することによって、判定領域における開閉体の挙動を設定する。この設定により、開閉体が重力加速度に起因して変位している場合には、開閉体の判定領域における挙動は、基準設定領域において設定された挙動と整合するはずである。したがって、判定領域における開閉体の実際の挙動が設定された挙動から逸脱する場合に、手動操作である旨判定できる。
【0010】
3.前記手動判定処理による前記開閉体が人によって変位操作されているか否かの判定を無効領域において行わないように構成されており、前記無効領域は、前記判定領域よりも前記変位終端位置に近い領域である上記2記載の車両用開閉体の制御装置である。
【0011】
変位終端位置に近い領域においては、変位終端位置から遠い領域と比較して、開閉体に加わる開閉体の変位を妨げようとする力が大きくなる傾向がある。そのため、変位終端位置に近い領域においては、開閉体が重力加速度に起因して変位している場合であっても基準設定領域において設定した開閉体の挙動に対する実際の挙動のずれが大きくなるおそれがある。そこで、上記構成では、無効領域を設けることにより、誤って手動操作である旨判定されることを抑制できる。
【0012】
4.前記基準設定処理は、前記判定領域における前記開閉体の位置と変位速度との関係を定める処理である上記2または3記載の車両用開閉体の制御装置である。
手動によって開閉体が変位するにつれて、開閉体の変位速度は、基準設定領域において設定した開閉体の変位速度から大きく逸脱する傾向がある。そのため、上記構成では、開閉体の位置と変位速度との関係によって開閉体の挙動を定量化することにより、手動操作であるか否かを高精度に判定できる。
【0013】
5.前記基準設定処理は、累乗近似式算出処理、および基準範囲設定処理を含み、前記累乗近似式算出処理は、前記基準設定領域における前記開閉体の位置と変位速度との関係を表現する累乗近似式を算出する処理であり、前記基準範囲設定処理は、前記判定領域における前記開閉体の位置毎に、前記累乗近似式が定める変位速度からの乖離が所定以下の領域を基準範囲に設定する処理である上記2~4のいずれか1つに記載の車両用開閉体の制御装置である。
【0014】
開閉体が重力加速度によって変位する場合、理論上、開閉体の変位速度は、変位量の平方根に比例する。そこで、上記構成では、累乗近似式を用いることにより、開閉体が重力加速度によって変位する場合の近似式を適切に表現することができる。
【0015】
6.ブレーキ処理、および減少処理を実行するように構成され、前記ブレーキ処理は、前記開閉体に前記開閉体の変位を妨げる力を付与する処理であり、前記減少処理は、前記手動判定処理によって前記開閉体が人によって変位操作されていると判定される場合、前記ブレーキ処理によって付与される前記開閉体の変位を妨げる力を減少させる処理である上記1~5のいずれか1つに記載の車両用開閉体の制御装置である。
【0016】
上記構成では、手動操作と判定される場合に開閉体の変位を妨げる力を減少させることにより、人が開閉体を変位させる際に人にかかる負荷を軽減できる。
7.前記開閉体は、モータのトルクによって駆動され、前記ブレーキ処理は、前記モータの回生制御によって前記開閉体に前記開閉体の変位を妨げる力を付与する処理である上記6記載の車両用開閉体の制御装置である。
【0017】
上記構成では、回生制御によってブレーキ処理を構成することから、モータに電力を供給する場合と比較して、エネルギ消費率を小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一実施形態にかかるスライドドアおよびその制御装置を示すブロック図である。
図2】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
図3】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
図4】同実施形態にかかるスライドドアの位置および変位速度の推移を示すタイムチャートである。
図5】同実施形態にかかる判定基準を例示するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
「前提構成」
図1に示すように、車両10は、車体12およびスライドドア20を備えている。車体12の側部には、開口部14が設けられている。車体12は、開口部14の前端において、上下方向における中央部にストライカ18を有する。ストライカ18は、略U字状をなし、後方に向かって突出する。スライドドア20は、開口部14を全閉する全閉位置および開口部14を全開する全開位置の間で開閉作動する。本実施形態では、スライドドア20が後方に移動することで開作動し、スライドドア20が前方に移動することで閉作動する。また、スライドドア20は、ドアロック装置22を備えている。ドアロック装置22は、スライドドア20が全閉位置に位置する場合にストライカ18と係合することで、スライドドア20を全閉位置に拘束する。
【0020】
車体12には、アッパレール30、センターレール40、およびロアレール50が設けられている。アッパレール30は、開口部14の上方に配置されている。センターレール40は、開口部14の後方に配置されている。ロアレール50は、開口部14の下部に配置されている。スライドドア20は、連結部材32,60,52のそれぞれを介して、アッパレール30、センターレール40、およびロアレール50のそれぞれに連結されている。
【0021】
車両10は、ドアアクチュエータ70を備えている。ドアアクチュエータ70は、モータ72、インバータIVおよびコントローラ74を備えている。モータ72は、たとえばワイヤまたはベルトなどを介して動力をスライドドア20に伝達する。モータ72の回転方向によって、スライドドア20を閉作動させるか、スライドドア20を開作動させるか、が定まる。
【0022】
モータ72は、3相ブラシレスモータである。インバータIVは、スイッチング素子SW1,SW2の直列接続体、スイッチング素子SW3,SW4の直列接続体、およびスイッチング素子SW5,SW6の直列接続体が並列接続されたものである。そして、それら直列接続体には、直流電圧源であるバッテリの電圧が印加されている。コントローラ74は、スイッチング素子SW1~SW6をオン・オフ操作する。
【0023】
制御装置80は、制御対象としてのスライドドア20の開閉状態を制御すべく、ドアロック装置22およびドアアクチュエータ70を操作する。制御装置80は、上記制御のために、モータ72の回転角を感知する回転角センサ76の出力信号Smを参照する。出力信号Smは、モータ72が所定の回転角となる都度、パルス状の波形となるものである。
【0024】
制御装置80において、PU82、記憶装置84および周辺回路86は、通信線88を介して通信可能とされている。PU82は、CPU、GPU、およびTPU等のソフトウェア処理装置である。周辺回路86は、内部の動作を規定するクロック信号を生成する回路、電源回路、およびリセット回路等を含む。制御装置80は、記憶装置84に記憶されたプログラムをPU82が実行することにより、スライドドア20を開閉制御する。特に、車両10のユーザがユーザインターフェース90を操作することによって、全閉状態のスライドドア20を開状態とする指示がなされると、PU82は、スライドドア20を開放制御する。
【0025】
「ブレーキ処理」
PU82は、スライドドア20が開操作された後、停止すると、車両10が傾斜面に停止している場合であってもスライドドア20の変位を抑制すべく、ブレーキ処理を実行する。
【0026】
図2に、ブレーキ処理の手順を示す。図2に示す処理は、記憶装置84に記憶されたプログラムをPU82がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって各処理のステップ番号を表現する。
【0027】
図2に示す一連の処理において、PU82は、まずブレーキフラグFが「1」であるか否かを判定する(S10)。ブレーキフラグFは、「1」である場合にブレーキ処理を実行していることを示す。ブレーキフラグFは、「0」である場合にブレーキ処理を実行していないことを示す。
【0028】
PU82は、ブレーキフラグFが「0」であると判定する場合(S10:NO)、スライドドア20が全開状態であるか否かを判定する(S12)。PU82は、全開状態であると判定する場合(S12:YES)、ブレーキ処理を実行するとともに、ブレーキフラグFに「1」を代入する(S14)。本実施形態では、PU82は、モータ72を回生制御すべく、下側アームのスイッチング素子SW2,SW4,SW6を同時にオン状態とする。詳しくは、PU82は、下側アームのスイッチング素子SW2,SW4,SW6を同時にオン・オフ操作する。そしてPU82は、オン・オフ操作の1周期に対するオン時間の時比率Dutyによって、スライドドア20に加える制動力を調整する。ここで、制動力は、人がスライドドア20を手動で閉操作する場合にスライドドア20を変位可能な大きさに設定されている。
【0029】
なお、PU82は、S14の処理を完了する場合と、S10の処理において肯定判定する場合と、S12の処理において否定判定する場合と、には、図2に示す一連の処理を一旦終了する。
【0030】
「手動操作に対処する処理」
上述のブレーキ処理がなされているときにスライドドア20が人によって閉操作される場合には、人がスライドドア20を閉操作するのに不必要に負荷がかかる。ただし、スライドドア20の全開状態においてブレーキ処理を実行しない場合には、車両10が傾斜面で停止している場合に、スライドドア20が勢いよく全閉位置に向けて変位するおそれがある。そこで、PU82は、ブレーキ処理を実行するものの、手動操作がなされていると判定する場合には、ブレーキ処理を中止する。
【0031】
図3に、手動操作に伴うブレーキ処理の解除に関する処理の手順を示す。図3に示す処理は、記憶装置84に記憶されたプログラムをPU82がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。
【0032】
図3に示す一連の処理において、PU82は、まずブレーキフラグFが「1」であるか否かを判定する(S20)。PU82は、ブレーキフラグFが「1」であると判定する場合(S20:YES)、出力信号Smに基づくスライドドア20の位置xを取得する(S22)。位置xは、PU82によって出力信号Smに基づき算出される。次にPU82は、位置xの時系列データに基づき、スライドドア20が閉方向に変位しているか否かを判定する(S24)。PU82は、スライドドア20が閉方向に変位していると判定する場合(S24:YES)、位置xの時系列データに基づきスライドドア20の変位速度vを算出する(S26)。ここで、PU82は、たとえば図3に示す一連の処理の前回の実行タイミングにおけるS22の処理と今回の実行タイミングにおけるS22の処理とのそれぞれで取得した位置xの差分を変位速度vとしてもよい。
【0033】
PU82は、スライドドア20の位置xが基準設定領域A1に入っているか否かを判定する(S28)。基準設定領域A1は、スライドドア20の全開位置に近い所定の領域である。基準設定領域A1は、スライドドアの全開位置および全閉位置の中央よりも全開位置に近い領域である。PU82は、基準設定領域A1に入っていると判定する場合(S28:YES)、S22の処理において取得した位置xと、S26の処理において算出した変位速度vとを記憶装置84に記憶する(S30)。S30の処理は、基準設定領域A1における位置xおよび変位速度vの組に関する時系列データを記憶装置84に記憶する処理である。
【0034】
一方、PU82は、基準設定領域A1に入っていないと判定する場合(S28:NO)、位置xが、基準設定領域A1から判定領域A2に移行したタイミングであるか否かを判定する(S32)。判定領域A2は、基準設定領域A1に隣接する領域である。特に判定領域A2は、基準設定領域A1よりも、スライドドア20の全閉位置に近い領域である。
【0035】
PU82は、図3に示す一連の処理の前回のタイミングにおいて基準設定領域A1であって且つ今回のタイミングにおいて判定領域A2にある場合に、S32の処理において肯定判定する。PU82は、肯定判定する場合、基準設定領域A1におけるスライドドア20の位置xおよび変位速度vの関係を累乗近似式によって定める場合のフィッティングパラメータa,bを算出する(S34)。
【0036】
ここで、PU82は、変位速度vの近似値vaを、以下の式とする。
va=a・x^b
なお、「x^b」は、xのb乗であることを示す。PU82は、たとえばS30の処理によって記憶した位置xおよび変位速度vの組に関する時系列データに基づき、最小二乗法によってフィッティングパラメータa,bを算出してもよい。
【0037】
図4に、フィッティングパラメータa,bを算出することによって生成された近似曲線と生データとを例示する。
図4において、速度波形曲線fh1~fh4は、スライドドア20が人によって手動で閉操作される場合の位置xに応じた変位速度vの推移を示す。速度波形曲線fh1~fh4に沿って記載されている破線は、対応する累乗近似式である。また、図4において速度波形曲線fg1~fg3は、車両10が傾斜面で停止しているためにスライドドア20が重力加速度によって変位する場合の位置xに応じた変位速度vの推移を示す。なお、速度波形曲線fg2は、速度波形曲線fg1よりも、車両10がより急な傾斜面に停止している場合の曲線である。また、速度波形曲線fg3は、速度波形曲線fg2よりも、車両10がより急な傾斜面に停止している場合の曲線である。速度波形曲線fg1~fg3に沿って記載されている破線は、対応する累乗近似式である。
【0038】
図3に戻り、PU82は、S32の処理において否定判定する場合、位置xが、判定領域A2に入っているか否かを判定する(S36)。PU82は、判定領域A2に入っていると判定する場合(S36:YES)、変位速度vの上限VHおよび下限VLを設定する(S38)。PU82は、上限VHを、近似値vaに所定量Δを加算した値とする。また、PU82は、下限VLを、近似値vaから所定量Δを減算した値とする。ただし、近似値vaは、最新の位置xを入力として上記の式にて算出された値である。
【0039】
そして、PU82は、変位速度vが下限VL以上であって且つ上限VH以下であるか否かを判定する(S40)。この処理は、車両10が傾斜面に停止しているためにスライドドア20が重力加速度によって変位するか否かを判定する処理である。すなわち、スライドドア20が重力加速度によって変位する場合、理論上は、スライドドア20の変位速度vは変位量の平方根に比例する。したがって、ブレーキ処理やスライドドア20に加わる摩擦力等が大きく変動しない限り、上記フィッティングパラメータa,bによって定められた近似値vaは、判定領域A2において実際の変位速度vを近似すると考えられる。これに対し、スライドドア20が人によって閉操作されている場合には、一定の加速度によって変位しない傾向がある。そのため、判定領域A2において、近似値vaが示す値に対して実際の変位速度vは大きくずれる傾向がある。
【0040】
PU82は、変位速度vが下限VL以上であって且つ上限VH以下であると判定する場合(S40:YES)、自重落下であると判定する(S42)。すなわち、スライドドア20が変位している原因が、人による操作ではなく、スライドドア20に重力加速度が加わっているためであると判定する。
【0041】
一方、PU82は、変位速度vが下限VLよりも小さいか上限VHよりも大きいと判定する場合(S40:NO)、スライドドア20が手動操作されている旨判定する(S44)。そしてPU82は、ブレーキ処理を停止するとともにブレーキフラグFに「0」を代入する(S46)。
【0042】
なお、PU82は、S30,S34,S42,S46の処理を完了する場合と、S20,S24,S36の処理において否定判定する場合と、には、図3に示す一連の処理を一旦終了する。ちなみに、PU82は、たとえばユーザインターフェース90にスライドドア20を閉じる指令が入力される場合等にも、ブレーキ処理を停止する。
【0043】
「本実施形態の作用および効果」
PU82は、スライドドア20が全開状態とされると、ブレーキ処理を実行する。これにより、車両10が傾斜面において停止している場合であっても、スライドドア20が大きく加速することを抑制できる。
【0044】
PU82は、ブレーキ処理の実行中にスライドドア20が変位する場合、基準設定領域A1において、位置xおよび変位速度vを周期的にサンプリングする。そしてPU82は、それら周期的にサンプリングされた時系列データに基づき、位置xに対する変位速度vの関係を規定する累乗近似式を生成する。そして、PU82は、判定領域A2において、都度の位置xに応じて累乗近似式から定まる近似値vaを算出する。次にPU82は、近似値vaに応じて上限VHおよび下限VLを算出する。そして、PU82は、変位速度vが下限VL以上且つ上限VH以下の基準範囲から外れるか否かを判定する。PU82は、基準範囲から外れると判定する場合、スライドドア20を人が操作していると判定して、ブレーキ処理を停止する。これにより、人がスライドドア20を操作する際に、その操作を妨げる力が付与されることを抑制できる。
【0045】
図5に、基準設定領域A1において図4に示した速度波形曲線fh1~fh4,fg1~fg3の挙動を示したケースのそれぞれについて、その後の挙動を示す。図5において、判定領域A2と無効領域A3とを記載している。無効領域A3は、判定領域A2よりも全閉位置に近い領域である。無効領域A3は、S36の処理によって否定判定されているときにおけるスライドドア20の位置xを示す領域である。図5には、基準設定領域A1における位置xおよび変位速度vの時系列データに応じて定めた上限VHおよび下限VLの縦軸座標上の位置を固定した表示としている。
【0046】
図5に示すように、手動操作によって生成された速度波形曲線fh1~fh4は、判定領域A2において下限VL未満となって基準範囲から外れている。これに対し、重力加速度の作用によってスライドドア20が変位した場合の速度波形曲線fg1~fg3は、判定領域A2において、下限VL以上であって且つ上限VH以下の基準範囲に入っている。なお、速度波形曲線fg1~fg3も、無効領域A3においては、基準範囲から外れている。これは、無効領域A3においては、スライドドア20の変位を妨げる力が大きく増加したためである。スライドドア20の変位を妨げる力が大きく増加する要因としては、たとえばスライドドア20が高速で全閉位置に到達することによる衝撃を抑制することを狙った構造上の要因がある。
【0047】
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1]位置情報取得処理は、S22の処理に対応する。手動判定処理は、S32~S44の処理に対応する[2,4]基準設定処理は、S32~S38の処理に対応する。逸脱判定処理は、S40~S44の処理に対応する。基準設定領域は、基準設定領域A1に対応する。判定領域は、判定領域A2に対応する。[3]無効領域は、無効領域A3に対応する。[5]累乗近似式算出処理は、S34の処理に対応する。基準範囲設定処理は、S38の処理に対応する。[6,7]ブレーキ処理は、S14の処理に対応する。制限処理は、S46の処理に対応する。
【0048】
<その他の実施形態>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0049】
「基準設定処理について」
・スライドドア20の位置xと変位速度vとの関係を定める手法としては、累乗近似式を用いる手法に限らない。たとえば、変位速度vが位置xの平方根に比例するとして、変位速度vと位置xとの関係を以下のように定めてもよい。
【0050】
v=a・√(x)
ここでは、フィッティングパラメータは、「a」のみとなる。また、上記の式に定数項を加えた以下の式としてもよい。
【0051】
v=a・√(x)+b
この場合、フィッティングパラメータは、「a」と「b」となる。
・スライドドア20の挙動としては、位置x毎の変位速度vを定めるものに限らない。たとえば、位置x毎に同位置xに到達するまでの所要時間Tを定める式であってもよい。その場合、所要時間Tを、位置xの関数として、累乗近似式にて定量化してもよい。またこれに代えて、所要時間Tと位置xとの関係を以下のように定めてもよい。
【0052】
T=a・√(x)
また、上記の式に定数項を加えた以下の式としてもよい。
T=a・√(x)+b
・スライドドア20の挙動を、位置xを独立変数とする関数によって定量化することも必須ではない。たとえば基準となるタイミングからの経過時間を独立変数として且つ、位置xを従属変数とする関数によって定量化してもよい。ここで、基準となるタイミングは、たとえばS20の処理において否定判定されていた状態から肯定判定される状態に切り替わったタイミングとしてもよい。また、たとえば、経過時間を独立変数として且つ、従属変数を変位速度vとする関数によってスライドドア20の挙動を定量化してもよい。
【0053】
「手動判定処理の実行条件について」
・上記実施形態では、スライドドア20が全閉方向に変位する場合に手動判定処理を実行したが、これに限らない。たとえばスライドドア20が全開方向に変位する場合に手動判定処理を実行してもよい。
【0054】
・手動判定処理としては、スライドドア20が全開位置から変位した場合または全閉位置から変位した場合に実行する処理に限らない。たとえば、全開位置と全閉位置との間の位置で停止状態からスライドドア20が変位を開始した場合に手動判定処理を実行してもよい。
【0055】
「基準設定領域A1、判定領域A2、および無効領域A3について」
・たとえば「手動判定処理の実行条件について」の欄に記載したように、スライドドア20が全開方向に変位する場合に手動判定処理を実行する場合、全開位置付近に無効領域A3を設定してもよい。
【0056】
・上記実施形態では、基準設定領域A1および判定領域A2を予め定められた領域としたが、これに限らない。たとえば、それらの領域を状況に応じて設定してもよい。これは、「手動判定処理の実行条件について」の欄に記載したように、全開位置と全閉位置との間の位置で停止状態からスライドドア20が変位を開始した場合に手動判定処理を実行する場合に特に有効である。すなわち、その場合、変位を開始した位置から所定距離までを基準設定領域A1に都度設定すればよい。その場合、判定領域A2の始点は、都度設定される基準設定領域A1の終点とすればよい。ただし、判定領域A2の終点については、上記実施形態で定めた点とすることが望ましい。換言すれば、無効領域A3については固定した領域とすることが望ましい。
【0057】
「ブレーキ処理について」
・ブレーキ処理としては、下側アームの全スイッチング素子SW2,SW4,SW6を同時にオン、オフ操作する処理に限らない。たとえば、時比率制御についてはこれを行うことなく、下側アームの全スイッチング素子SW2,SW4,SW6をオン状態に維持してもよい。
【0058】
・ブレーキ処理によってオン操作される対象となるスイッチング素子が、下側アームのスイッチング素子SW2,SW4,SW6であることは必須ではない。たとえば、上側アームのスイッチング素子SW1,SW3,SW5であってもよい。
【0059】
・ブレーキ処理に用いるモータ72の回生手法としては、上側アームの短絡処理、または下側アームの短絡処理に限らない。たとえば、スイッチング素子SW1~SW6の全てを開状態とする処理であってもよい。ただし、その場合、インバータIVの出力端子とモータ72との間にリレーを設けることが望ましい。その場合、ブレーキ処理を停止させる手段として、リレーを開状態とする処理を選択できる。
【0060】
・ブレーキ処理が、モータ72の回生制御を利用することは必須ではない。上側アームのスイッチング素子SW1,SW3,SW5のいずれか1つと、下側アームのスイッチング素子SW2,SW4,SW6のいずれか1つとをオン状態に維持してもよい。
【0061】
・たとえば下記「モータについて」の欄に記載したように、直流モータを採用する場合、Hブリッジ回路のスイッチング制御によってブレーキ処理を実現してもよい。すなわち、たとえば、スライドドア20の変位方向とは逆側にモータが回転する方向のトルクを生成するスイッチングパターンにおいて、所定の時比率制御を実行してもよい。またたとえば、クラッチが備えられたモータにおいて、クラッチの締結によってブレーキ処理を実行してもよい。
【0062】
・上述のいずれのブレーキ処理の場合であっても、スライドドア20を人が変位操作する場合にスライドドア20を変位させようとする力よりもブレーキ処理によるスライドドア20の変位を妨げる力の方が小さいことが望ましい。この場合における変位を妨げる力の大きさは、たとえば、車両10が所定以上の傾斜面に停止している場合にスライドドア20を停止状態に保てない大きさとしてもよい。ここで、所定以上の傾斜面の傾斜角は、たとえば10°以下の値であってもよい。なお、こうした設定は、クラッチ付の直流モータにおいても採用されることが望ましい。
【0063】
「ブレーキ処理の実行条件について」
・上記実施形態では、スライドドア20が全開位置となることをトリガとしてブレーキ処理を実行したが、これに限らない。たとえば、スライドドア20の変位制御がなされていないにもかかわらず、スライドドア20が変位していることを条件にブレーキ処理を実行してもよい。
【0064】
「手動判定処理による判定結果の利用について」
・上記実施形態では、自重落下であると判定される場合にはブレーキ処理を継続することとしたが、これに限らない。たとえばスライドドア20の変位を抑制するための力を増大させてもよい。これは、たとえば、上側アームまたは下側アームの短絡処理に時比率制御を加えた処理から、時比率制御を加えることなく、短絡状態を継続する処理に切り替えることで実現できる。またたとえば、アームの短絡処理から、スイッチング素子SW1~SW6の全てを開状態とする処理に切り替えることによって実現できる。またたとえば、アームの短絡処理から、上側アームのスイッチング素子SW1,SW3,SW5のいずれか1つと、下側アームのスイッチング素子SW2,SW4,SW6のいずれか1つとをオン状態に維持する処理に切り替えることによって実現できる。
【0065】
・自重落下であると判定されて且つ、スライドドア20が異物を挟み込んだことが検知される場合に、スライドドア20の変位を抑制するための力を増大させてもよい。またたとえば、自重落下であると判定されて且つ、スライドドア20が異物を挟み込んだことが検知される場合に、スライドドア20を全開方向に変位させる制御を実行してもよい。
【0066】
「モータについて」
・開閉体を駆動するモータとしては、ブラシレスモータに限らない。たとえばブラシ付きの直流モータであってもよい。さらに、クラッチが備えられたモータであってもよい。このクラッチは、回転軸に制動力を付与する。なお、直流モータの駆動回路としては、たとえばHブリッジ回路を採用すればよい。
【0067】
「開閉体について」
・開閉体としては、スライドドア20に限らない。たとえば、ヒンジ機構を利用したドアであってもよい。その場合であっても、傾斜面での停車時には、ドアが重力加速度によって加速される可能性がある。そしてその場合、手動操作との挙動の相違に基づき、手動操作がなされているか否かを判定することは有効である。
【0068】
「制御装置について」
・制御装置としては、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態において実行される処理の少なくとも一部を実行するたとえばASIC等の専用のハードウェア回路を備えてもよい。すなわち、制御装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成を備える処理回路を含んでいればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶する記憶装置等のプログラム格納装置とを備える処理回路。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える処理回路。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える処理回路。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置は、複数であってもよい。また、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【符号の説明】
【0069】
10…車両
12…車体
14…開口部
20…スライドドア
22…ドアロック装置
30…アッパレール
32…連結部材
40…センターレール
50…ロアレール
52…連結部材
60…連結部材
70…ドアアクチュエータ
72…モータ
74…コントローラ
76…回転角センサ
80…制御装置
図1
図2
図3
図4
図5