(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183598
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 41/34 20060101AFI20231221BHJP
F02D 41/04 20060101ALI20231221BHJP
F02D 41/22 20060101ALI20231221BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
F02D41/34
F02D41/04
F02D41/22
F02D45/00 345
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097196
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】土屋 富久
【テーマコード(参考)】
3G301
3G384
【Fターム(参考)】
3G301HA01
3G301HA04
3G301HA22
3G301JA21
3G301KA06
3G301LB04
3G301MA11
3G301MA19
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3G301PA01Z
3G301PB08Z
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3G384AA01
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3G384BA13
3G384BA18
3G384CA04
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3G384EB04
3G384FA01Z
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3G384FA15Z
3G384FA28Z
3G384FA54Z
3G384FA56Z
3G384FA58Z
(57)【要約】
【課題】プレイグニッションの発生を抑制する。
【解決手段】電子制御ユニット20は、吸気バルブ14の閉弁後の燃料噴射が可能な期間である第1噴射期間よりも要求噴射量分の燃料噴射に要する期間が短い場合には、要求噴射量QS分の燃料を第1噴射期間に噴射するようにインジェクタ18を制御する。また、電子制御ユニット20は、要求噴射量QS分の燃料噴射に要する期間が第1噴射期間よりも長い場合には、第1噴射期間と、圧縮行程開始前の燃料噴射が可能な期間である第2噴射期間と、に分割して要求噴射量QS分の燃料を噴射するようにインジェクタ18を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒内に燃料を噴射するインジェクタを備えるとともに、圧縮行程の開始後に吸気バルブが閉弁するエンジンを制御する装置であって、
前記圧縮行程の開始前の既定の期間、及び前記吸気バルブの閉弁後の既定の期間の一方を第1噴射期間とするとともに他方を第2噴射期間としたとき、
要求噴射量分の燃料噴射に要する期間が前記第1噴射期間よりも長い場合には前記第1噴射期間及び前記第2噴射期間に分割して前記要求噴射量分の燃料を噴射するように前記インジェクタを制御するプレイグ防止噴射処理と、
を行うエンジン制御装置。
【請求項2】
前記プレイグ防止噴射処理は、前記要求噴射量分の燃料噴射に要する期間が前記第1噴射期間より短い場合には前記要求噴射量分の燃料を前記第1噴射期間に噴射するように前記インジェクタを制御する請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
プレイグニッションが発生し易い状態にあるか否かを判定する判定処理を行い、
前記判定処理において前記プレイグニッションが発生し易い状態にあると判定された場合にのみ、前記プレイグ防止噴射処理を行う
請求項1又は請求項2に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記判定処理は、エンジントルク及びエンジン水温に基づき、前記プレイグニッションが発生し易い状態にあるか否かを判定する請求項3に記載のエンジン制御装置。
【請求項5】
前記判定処理は、前記インジェクタの燃料の噴射圧に基づき、前記プレイグニッションが発生し易い状態にあるか否かを判定する請求項3に記載のエンジン制御装置。
【請求項6】
前記第1噴射期間は、前記吸気バルブの閉弁後の既定の期間である請求項1に記載のエンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載等のエンジンでは、高負荷運転時等の筒内温度が高くなったときに、点火プラグ等がホットスポットとなってプレイグニッションが発生することがある。特許文献1に記載のエンジン制御装置では、プレイグニッションの発生が検知された場合に燃料噴射量の増量や点火時期の進角により燃焼速度を速めることで、プレイグニッションを抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジンの燃料噴射量や点火時期の通常の制御目標値は、燃費性能や排気性能の点で最適な値が設定されている。そのため、燃料噴射量を増量したり、点火時期を進角したり、すると、エンジンの燃費性能や排気性能が悪化してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するエンジン制御装置は、気筒内に燃料を噴射するインジェクタを備えるとともに圧縮行程の開始後に吸気バルブが閉弁するエンジンを制御する装置である。ここで、圧縮行程の開始前の既定の期間、及び吸気バルブの閉弁後の既定の期間の一方及び他方をそれぞれ第1噴射期間、及び第2噴射期間とする。上記エンジン制御装置は、要求噴射量分の燃料噴射に要する期間が第1噴射期間よりも長い場合には、第1噴射期間及び前記第2噴射期間に分割して要求噴射量分の燃料を噴射するようにインジェクタを制御するプレイグ防止噴射処理を行う。
【0006】
エンジンの気筒の上部には、排気バルブや点火プラグ等の、エンジン運転中にホットスポットになり易い部位が存在する。一方、圧縮行程には、ピストンが気筒内を上昇して、気筒内の吸気を押し上げる。このとき、吸気バルブが開弁していると、気筒内の吸気が吸気ポートに抜けるため、上方に向う気流が気筒内に発生する。こうした気流が発生している期間に燃料を噴射すると、燃料噴霧がその気流に乗って気筒上方に向う。このとき、排気バルブや点火プラグ等が高温となっていると、燃料噴霧がそれらに触れて着火してプレイグニッションが発生する虞がある。すなわち、圧縮行程開始後に吸気バルブが閉弁するエンジンでは、圧縮行程の開始から吸気バルブの閉弁までの期間に気筒内に燃料を噴射すると、プレイグニッションが発生し易くなる。
【0007】
上記プレイグ防止噴射処理では、第1噴射期間内では、要求噴射量分の燃料を噴射し切れない場合に、第1噴射期間と第2噴射期間とに分割して要求噴射量分の燃料を噴射するようにインジェクタを制御している。すなわち、プレイグ防止噴射処理では、圧縮行程の開始から吸気バルブの閉弁までの、燃料を噴射するとプレイグニッションが発生し易い期間を避けて燃料噴射を行っている。そのため、プレイグニッションが発生し難くなる。
【0008】
要求噴射量分の燃料噴射に要する期間が第1噴射期間より短い場合には、要求噴射量分の燃料を第1噴射期間に噴射するようにインジェクタを制御するように上記プレイグ防止噴射処理を構成してもよい。このようにプレイグ防止噴射処理を構成すれば、要求噴射量分の燃料噴射に要する期間が第1噴射期間より短い場合にも、燃料を噴射するとプレイグニッションが発生し易い期間を避けて燃料噴射が行われる。
【0009】
なお、エンジンの運転状態によっては、圧縮行程の開始から吸気バルブの閉弁までの期間に燃料を噴射しても、プレイグニッションが発生し難い場合がある。よって、プレイグニッションが発生し易い状態にあるか否かを判定する判定処理を行い、同判定処理においてプレイグニッションが発生し易い状態にあると判定された場合にのみ、上記プレイグ防止噴射処理を行うようにしてもよい。なお、エンジントルクが大きいときやエンジン水温が高いときには、気筒内の温度が高くなってプレイグニッションが発生し易くなる。よって、上記判定処理でのプレイグニッションが発生し易い状態にあるか否かの判定は、エンジントルク及びエンジン水温に基づき行うようにしてもよい。一方、圧縮行程の開始から吸気バルブの閉弁までの期間に燃料を噴射しても、燃料噴射圧が十分に高ければ、噴霧が気筒内に乗り難いため、プレイグニッションが発生し難くなる。よって、上記判定処理でのプレイグニッションが発生し易い状態にあるか否かの判定は、インジェクタの燃料の噴射圧に基づき、行うようにしてもよい。
【0010】
なお、上記エンジン制御装置は、吸気バルブの閉弁後の既定の期間を、第1噴射期間とするように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】エンジン制御装置の一実施形態の構成を模式的に示す図である。
【
図2】同エンジン制御装置が実行する燃料噴射制御ルーチンのフローチャートである。
【
図3】(A)は吸気バルブの開閉状態を、(B)は必要噴射期間が第1噴射期間長以下の場合の燃料噴射の実施状況を、(C)はエンジンがプレイグ運転域で運転されておらず、かつ必要噴射期間が第1噴射期間よりも長い場合の燃料噴射の実施状況を、(D)はエンジンがプレイグ運転域で運転されており、かつ必要噴射期間が第1噴射期間長よりも長い場合の燃料噴射の実施状況を、それぞれ示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、エンジン制御装置の一実施形態を、
図1~
図3を参照して詳細に説明する。
<エンジン制御装置の構成>
まず、
図1を参照して、本実施形態のエンジン制御装置の構成を説明する。本実施形態のエンジン制御装置が制御の対象とするエンジン10は、車両に搭載されている。また、エンジン10は、水素ガスを燃料とする水素ガスエンジンとして構成されている。
【0013】
エンジン10は、気筒11を有している。気筒11の内部には、図中上下方向に往復動自在にピストン12が配置されている。そして、気筒11の内部には、燃焼を行う燃焼室13がピストン12により区画形成されている。気筒11の上部には、吸気バルブ14を介して吸気ポート15が接続されている。また、気筒11の上部には、排気バルブ16を介して排気ポート17が接続されている。さらに、気筒11の上部には、気筒11内に水素ガスを噴射するインジェクタ18と、インジェクタ18が噴射した水素ガスを点火する点火プラグ19と、が設置されている。なお、このエンジン10における吸気バルブ14のバルブタイミングは、閉弁時期が圧縮行程の開始後となるように設定されている。
【0014】
こうしたエンジン10の制御を行う電子制御ユニット20は、演算処理装置21と記憶装置22とを備えている。記憶装置22には、制御に用いるプログラムやデータが記憶されている。演算処理装置21は、記憶装置22から読み込んだプログラムを実行することで、エンジン10の制御に係る各種処理を実施する。本実施形態では、こうした電子制御ユニット20がエンジン制御装置に対応する。
【0015】
電子制御ユニット20には、クランク角センサ23、エアフローメータ24、水温センサ25、アクセルペダルセンサ26、燃圧センサ27が接続されている。クランク角センサ23は、エンジン10のクランク軸の回転位相を検出するセンサである。エアフローメータ24は、エンジン10の吸入空気量を検出するセンサである。水温センサ25は、エンジン10の冷却水の温度であるエンジン水温THWを検出するセンサである。アクセルペダルセンサ26は、運転者のアクセルペダル操作量ACCを検出するセンサである。燃圧センサ27は、インジェクタ18に供給される燃料の圧力を検出するセンサである。電子制御ユニット20は、クランク角センサ23の検出結果からエンジン10の回転速度であるエンジン回転数NEを求めている。また、電子制御ユニット20は、エアフローメータ24が検出した吸入空気量とエンジン回転数NEとに基づき、エンジン負荷率KLを求めている。エンジン負荷率KLは、燃焼室13の吸気の充填率を表わしている。更に電子制御ユニット20は、燃圧センサ27の検出結果等に基づき、インジェクタ18の燃料の噴射圧PFを求めている。なお、電子制御ユニット20は、上記以外にも、車両の各部に設置された各種のセンサが接続されている。
【0016】
<燃料噴射制御>
電子制御ユニット20は、エンジン制御の一環として、インジェクタ18の燃料噴射制御を行う。以下、燃料噴射制御の詳細を説明する。
【0017】
図2に、燃料噴射制御のために電子制御ユニット20が実行する燃料噴射制御ルーチンのフローチャートを示す。エンジン10の運転中に電子制御ユニット20は、同ルーチンを既定の制御周期毎に繰り返し実行する。なお、
図2に示される各時期の値は、圧縮上死点からのクランク角の進角量を表わしている。よって、値の大きい時期は、値の小さい時期よりも早い時期となる。また、
図2及び
図3に示される各期間の値は、該当期間におけるクランク軸の回転量を表わしている。
【0018】
本ルーチンを開始すると、電子制御ユニット20はまずステップS100において、エンジン回転数NE、アクセルペダル操作量ACC等に基づき,要求噴射量QSを演算する。要求噴射量QSは、インジェクタ18の水素ガス噴射量の要求値である。
【0019】
続いて電子制御ユニット20はステップS110において、要求噴射量QS、エンジン回転数NE、及び噴射圧PFに基づき、必要噴射期間TSを演算する。必要噴射期間TSは、要求噴射量QS分の水素ガス噴射に要する時間を、現在のエンジン回転数NEでの同時間におけるクランク軸の回転角に換算した値を表わしている。クランク角は、エンジン10の出力軸であるクランク軸の回転角を表わしている。なお、インジェクタ18の水素ガスの噴射率、すなわち単位時間当たりの水素ガスの噴射量は、噴射圧PFが高いほど大きくなる。そのため、要求噴射量QSが一定、かつエンジン回転数NEが一定の場合の必要噴射期間TSは、噴射圧PFが低いほど長くなる。また、単位時間当たりのクランク軸の回転角は、エンジン回転数NEが高いほど大きくなる。よって、要求噴射量QSが一定、かつ噴射圧PFが一定の場合の必要噴射期間TSは、エンジン回転数NEが高いほど短くなる。
【0020】
次に、電子制御ユニット20はステップS120において、エンジン10の運転がプレイグ運転域で行われているか否かを判定する。プレイグ運転域は、プレイグニッションが発生し易いエンジン10の運転域を表わしている。プレイグニッションは、点火プラグ19や排気バルブ16が高温の場合に発生し易くなる。エンジントルクTEが高いときには、同エンジントルクTEが低いときよりも、気筒11内で多くの燃料が燃焼される。よって、エンジントルクTEが高いときには、同エンジントルクTEが低いときよりもプレイグニッションが発生し易くなる。また、点火プラグ19や排気バルブ16の温度が高くなるときには、エンジン水温THWも高くなる。そのため、エンジン水温THWが高いときには、同エンジン水温THWが低いときよりも、プレイグニッションが発生し易くなる。一方、後述のように、噴射圧PFが低いときには、同噴射圧PFが高いときよりも、プレイグニッションが発生し易くなる。そのため、本実施形態では、エンジントルクTE、エンジン水温THW、及び噴射圧PFに基づき、エンジン10の運転がプレイグ運転域で行われているか否かを判定している。
【0021】
電子制御ユニット20は、エンジン10の運転がプレイグ運転域で行われていない場合(S130:NO)にはステップS140に処理を進める。そして、電子制御ユニット20はそのステップS140において、最終噴射終了時期T1よりも噴射停止マージンTMの分だけ早い時期を、第1噴射終了時期IE1の値として設定する(EI1←T1+TM)。また、電子制御ユニット20はそのステップS140において、第1噴射終了時期IE1よりも必要噴射期間TSの分だけ早い時期を第1噴射開始時期IS1の値として設定する(SI1←EI1+TS)。そして、電子制御ユニット20は、ステップS150において、第1噴射開始時期IS1から第1噴射終了時期IE1までの期間の水素ガスの単段噴射をインジェクタ18に指令した後、今回の制御周期における本ルーチンの処理を終了する。
【0022】
なお、最終噴射終了時期T1は、水素ガス噴射を許容可能な期間の終了時期である。本実施形態では、ピストン12が圧縮上死点に位置する時期を最終噴射終了時期T1としている。なお、電子制御ユニット20の噴射停止の指令からインジェクタ18が実際に水素ガス噴射を停止するまでには遅れがある。噴射停止マージンTMは、そうした噴射停止の遅れ時間を、現在のエンジン回転数NEでの同遅れ時間におけるクランク軸の回転角に換算した値を表わしている。電子制御ユニット20は、こうした噴射停止マージンTMの値をエンジン回転数NEに基づき演算している。
【0023】
これに対して、エンジン10の運転がプレイグ運転域で行われている場合(S130:YES)には、電子制御ユニット20はステップS160に処理を進める。ステップS160において、電子制御ユニット20は、第1噴射期間TTを演算する。ここで、吸気バルブ14の閉弁時期IVCから最終噴射終了時期T1までの期間T0とする。第1噴射期間TTは、期間T0から噴射停止マージンTMを引いた期間をクランク角で表したものである。こうした第1噴射期間TTは、吸気バルブ14の閉弁後の燃料噴射が可能な期間を表わしている。そして、電子制御ユニット20は、続くステップS170において、必要噴射期間TSが第1噴射期間TTよりも長いか否かを判定する。必要噴射期間TSが第1噴射期間TT以下の場合(S170:NO)には、電子制御ユニット20は上述のステップS140に処理を進める。これに対して、必要噴射期間TSが第1噴射期間TTよりも長い場合(S170:YES)には、電子制御ユニット20はステップS180に処理を進める。
【0024】
ステップS180に処理を進めると、電子制御ユニット20はそのステップS180において、最終噴射終了時期T1よりも噴射停止マージンTMの分だけ早い時期を第1噴射終了時期IE1の値として設定する。また、同ステップS180において電子制御ユニット20は、吸気バルブ14の閉弁時期IVCを第1噴射開始時期IS1の値として設定する。さらに、同ステップS180において電子制御ユニット20は、圧縮行程の開始時期T2よりも噴射停止マージンTMの分だけ早い時期を第2噴射終了時期IE2の値として設定する(IE2←T2+TM)。加えて、同ステップS180において電子制御ユニット20は、必要噴射期間TS及び第1噴射期間TTの差(=TS-TT)の分だけ圧縮行程の開始時期T2よりも早い時期を第2噴射開始時期IS2の値として設定する(IS←IE2+TS-TT)。そして、電子制御ユニット20は続くステップS190において、次の2つの期間に分けての分割噴射をインジェクタ18に指令する。すなわち、第2噴射開始時期IS2から第2噴射終了時期IE2までの期間と、第1噴射開始時期IS1から第1噴射終了時期IE1までの期間との2つの期間である。そしてその指令後、電子制御ユニット20は今回の制御周期における本ルーチンの処理を終了する。
【0025】
なお、本実施形態では、こうした燃料噴射制御ルーチンにおけるステップS140~S190の処理がプレイグ防止噴射処理に対応している。また、ステップS120、S130の処理が、プレイグニッションが発生し易い状態にあるか否かを判定する判定処理に対応している。
【0026】
<実施形態の作用効果>
本実施形態の作用及び効果について説明する。以下の説明では、吸気バルブ14の閉弁時期IVCよりも後の燃料噴射が可能な期間を第1噴射期間とする。また、圧縮行程の開始時期T2よりも前の燃料噴射が可能な期間を第2噴射期間と記載する。なお、本実施形態では、第1噴射期間についてその長さを述べる場合には「第1噴射期間TT」と記載している。
【0027】
図3(A)に、エンジン10における吸気バルブ14の開閉状態の推移を示す。なお、
図3の横軸の数値は、圧縮行程の終了時期に対するクランク角の進角量[°BTDC]を表わしている。なお、ここでは、ピストン12が吸気下死点に位置する時期から圧縮上死点に位置する時期までの期間を圧縮行程としている。
図3(A)に示すように、エンジン10の吸気バルブ14の閉弁時期IVCは、圧縮行程の開始時期T2よりも遅い時期に設定されている。すなわち、エンジン10では、圧縮行程開始後に、吸気バルブ14が開弁している期間が存在する。ピストン12が気筒11内を上昇する圧縮行程中に吸気バルブ14が開弁していると、ピストン12により押圧された気筒11内の吸気が吸気ポート15に抜けるため、気筒11内に上方に向う気流が発生する。
【0028】
一方、エンジン10の高負荷運転時等には、点火プラグ19や排気バルブ16等が高温となって、火種となるホットスポットが気筒11の上部に形成される。このとき、圧縮行程中の吸気バルブ14が開弁している期間にインジェクタ18が水素ガスを噴射すると、気流に乗って噴霧が気筒11の上方に向う。そして、気筒11の上部に形成されたホットスポットに噴霧が触れてプレイグニッションが発生する可能性がある。このように、圧縮行程中に吸気バルブ14が開弁している期間に水素ガスを噴射すると、プレイグニッションが発生し易くなる。以下の説明では、圧縮行程の開始時期T2から吸気バルブ14の閉弁時期IVCまでの期間を、プレイグ噴射期間と記載する。
【0029】
図2の燃料噴射制御ルーチンのステップS170において電子制御ユニット20は、必要噴射期間TSが第1噴射期間TTよりも長いか否かを判定している。必要噴射期間TSは、現在のエンジン回転数NE及び噴射圧PFの下で、要求噴射量QS分の燃料噴射に要する期間を表わしている。すなわち、同ステップS170では、要求噴射量QS分の燃料噴射に要する期間が第1噴射期間TTよりも長い否かを判定している。必要噴射期間TSが第1噴射期間TTよりも長い場合には、第1噴射期間TT内には、要求噴射量QS分の水素ガスを噴射し切れないことになる。この場合には、要求噴射量QS分の水素ガスを一度に噴射しようとすると、すなわち要求噴射量QS分の水素ガス噴射を単段噴射で行おうとすると、プレイグ噴射期間に水素ガス噴射が行われることになる。
【0030】
なお、エンジントルクTEが低い場合やエンジン水温THWが低い場合には、点火プラグ19や排気バルブ16は、噴霧が着火するほど高温とならない。よって、そうした場合には、プレイグ噴射期間に水素ガスを噴射しても、プレイグニッションは発生し難くなる。また、インジェクタ18の噴射圧PFが高いほど、噴霧の運動量が大きくなる。そのため、噴射圧PFがある程度以上の場合には、気筒11内の気流による噴霧の進行方向の変化が小さくなることから、プレイグ噴射期間に水素ガスを噴射してもプレイグニッションは発生し難くなる。
【0031】
図2のステップS120において電子制御ユニット20は、エンジントルクTE、エンジン水温THW、及び噴射圧PFに基づき、エンジン10の運転がプレイグ運転域で行われているか否かを判定している。上記のようにプレイグ運転域は、プレイグニッションが発生し易いエンジン10の運転域を表わしている。よって、同ステップS120では、エンジントルクTE、エンジン水温THW、及び噴射圧PFに基づき、プレイグニッションが発生し易い状態にあるか否かを判定する判定処理が行われている。
【0032】
図2の燃料噴射制御ルーチンにおいて電子制御ユニット20は、ステップS120においてエンジン10の運転がプレイグ運転域で行われていると判定した場合には、上記ステップS170の判定を実施する。そして、電子制御ユニット20は、必要噴射期間TSが第1噴射期間TTよりも短いか同じである場合には、ステップS140及びステップS150の処理を実施する。この場合には、水素ガス噴射を単段噴射で行い、かつその単段噴射を第1噴射終了時期IE1に終了するように、水素ガス噴射が行われる。
【0033】
図3(B)に、この場合の燃料噴射の実施状況の一例を示す。この場合には、必要噴射期間TSが第1噴射期間TTよりも短いため、要求噴射量QS分の水素ガス噴射が第1噴射期間TT内で行われる。よって、この場合には、プレイグ噴射期間の水素ガス噴射は行われない。
【0034】
一方、電子制御ユニット20は、ステップS170において必要噴射期間TSが第1噴射期間TTよりも長いと判定した場合には、ステップS180及びステップS190の処理を実施する。この場合には、吸気バルブ14の開弁後の第1噴射期間に終始に亘って水素ガス噴射を行うとともに、それでは足りない分の水素ガスを、圧縮行程開始前の第2噴射期間に噴射するように、水素ガスの分かつ噴射が行われる。
【0035】
図3(D)に、この場合の燃料噴射の実施状況の一例を示す。この場合には、プレイグ噴射期間の前後に分割して要求噴射量QS分の水素ガスの噴射が行われる。よって、この場合にも、プレイグ噴射期間の水素ガス噴射は行われない。
【0036】
なお、ステップS120においてプレイグニッションが発生し易い状態にないと判定した場合の電子制御ユニット20は、ステップS140及びステップS150の処理を通じて水素ガス噴射を実施する。この場合には、必要噴射期間TSが第1噴射期間TTよりも長いか否かに拘わらず、要求噴射量QS分の水素ガス噴射が単段噴射で行われる。
【0037】
図3(C)に、この場合の燃料噴射の実施状況の一例を示す。なお、
図3(C)の例は、必要噴射期間TSが第1噴射期間TTよりも長い場合となっている。この場合には、必要噴射期間TSが第1噴射期間TTよりも長いか否かに拘わらず、単段で水素ガス噴射が行われる。そのため、この場合には、プレイグ噴射期間にも水素ガス噴射が行われる場合がある。ただし、この場合には、プレイグ噴射期間に水素ガスを噴射してもプレイグニッションが発生し難い状況にある。
【0038】
以上の本実施形態のエンジン制御装置によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本実施形態では、次の態様でインジェクタ18を制御するプレイグ防止噴射処理を行っている。すなわち、プレイグ防止噴射処理では、要求噴射量QS分の燃料噴射に要する期間が第1噴射期間TTより短い場合には要求噴射量QS分の燃料を第1噴射期間に噴射するようにインジェクタ18を制御する。また、プレイグ防止噴射処理では、要求噴射量QS分の燃料噴射に要する期間が第1噴射期間TTよりも長い場合には第1噴射期間及び第2噴射期間に分割して要求噴射量QS分の燃料を噴射するようにインジェクタ18を制御する。これにより、プレイグニッションが発生し易いプレイグ噴射期間の水素ガス噴射が行われなくなる。そのため、本実施形態のエンジン制御装置には、プレイグニッションの発生を抑える効果がある。
【0039】
(2)本実施形態では、プレイグニッションが発生し易い状態にあるか否かを判定している。そして、プレイグニッションが発生し易い状態にあると判定した場合にのみ、上記プレイグ防止噴射処理を実施している。すなわち、プレイグニッションが発生し易い状態に無い場合には、プレイグ噴射期間の水素ガス噴射を許容している。そして、これにより、必要噴射期間TSが第1噴射期間TTよりも長い場合にも、分割噴射を行わずに単段噴射を行うようにしている。インジェクタ18の駆動電流は、噴射開始時に大きくなる。そのため、分割噴射を行わないことで、インジェクタ18の駆動のための電力消費が抑えられる。また、噴射の開始直後、終了直前の期間には、インジェクタ18の水素ガス噴射率のばらつきが大きくなる。そのため、分割噴射を行わずに噴射回数を減らすことで、水素ガス噴射量の精度を高められる。さらに、分割噴射を行わずに噴射回数を減らすことでは、インジェクタ18の噴射終了時におけるノズルの着座によるノズルシートの摩耗も抑えられる。
【0040】
(3)本実施形態では、エンジントルクTE及びエンジン水温THWに基づき、プレイグニッションが発生し易い状態にあるか否かを判定している。プレイグニッションの原因となる気筒11内のホットスポットは、エンジントルクTEが高い場合やエンジン水温THWが高い場合に形成され易い。そのため、エンジントルクTE及びエンジン水温THWに基づくことで、プレイグニッションが発生し易い状態にあるか否かを的確に判定できる。
【0041】
(4)本実施形態では、インジェクタ18の噴射圧PFに基づき、プレイグニッションが発生し易い状態にあるか否かを判定している。噴射圧PFが高い場合には、噴霧の運動量が大きいため、気筒11内の気流により、噴霧の進行方向が変化し難くなる。そのため、噴射圧PFが高いときには、プレイグ噴射期間に水素ガスを噴射しても、プレイグニッションが発生し難くなる。よって、噴射圧PFに基づくことで、プレイグニッションが発生し易い状態にあるか否かを的確に判定できる。
【0042】
(5)水素ガスを燃料とするエンジン10では、超希薄燃焼を行うことで、NOx排出量を低減できる。圧縮行程後半に水素ガスを噴射すると、点火プラグ19の周辺に水素ガスの濃度が高い領域を形成できるため、超希薄燃焼時にも水素ガスの着火性を確保できる。これに対して、吸気行程中に水素ガスを噴射した場合には、吸気行程中に水素ガスを噴射した場合には、圧縮行程中に水素ガスを噴射した場合よりも、吸気への水素ガスの撹拌が進む。そのため、吸気行程中に水素ガスを噴射して超希薄燃焼を行う場合には、点火プラグ19の周辺の水素ガス濃度が着火に必要な濃度に満たなくなって、失火が生じ易くなる。これに対して、本実施形態では、プレイグ防止噴射処理に際して、圧縮行程中の第1噴射期間では要求噴射量QS分の水素ガスを噴射し切れない場合にのみ、吸気行程中の第2噴射期間に水素ガスを噴射するようにしている。そのため、超希薄燃焼時の失火が抑えられる。
【0043】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・圧縮行程の開始前の既定の期間を第1噴射期間とするとともに、吸気バルブ14の閉弁後の既定の期間を第2噴射期間として、プレイグ防止噴射処理を実施するようにしてもよい。すなわち、次の態様でプレイグ防止噴射処理を実施するようにしてもよい。まず、圧縮行程の開始前の燃料噴射が可能な期間よりも必要噴射期間TSが短い場合には、圧縮行程の開始前の燃料噴射が可能な期間に要求噴射量QS分の水素ガス噴射を実施する。そして、圧縮行程の開始前の燃料噴射が可能な期間よりも必要噴射期間TSが長い場合には、圧縮行程の開始前の燃料噴射が可能な期間と、吸気バルブ14の閉弁後の燃料噴射が可能な期間とに分割して、要求噴射量QS分の水素ガス噴射を実施する。こうした場合にも、プレイグ噴射期間の水素ガス噴射を回避できるため、プレイグニッションの発生を抑えられる。
【0044】
・上記実施形態では、プレイグ防止噴射処理において、必要噴射期間TSが第1噴射期間TTよりも短い場合には、要求噴射量QS分の水素ガス噴射を第1噴射期間に実施していた。必要噴射期間TSは、要求噴射量QSが少ないほど短くなる。また、必要噴射期間TSは、エンジン回転数NEが低いほど短くなる。よって、必要噴射期間TSが第1噴射期間TTよりも短い場合は、エンジン10の運転が低回転、低負荷で行われている場合となる。低回転、低負荷のエンジン10の運転条件では、ホットスポットが発生し難い。そのため、プレイグ防止噴射処理においても、必要噴射期間TSが第1噴射期間TTよりも短い場合には、圧縮行程の開始から吸気バルブ14の閉弁までの期間の水素ガス噴射を許容するようにしてもよい。
【0045】
・
図2のステップS120における判定を、エンジントルクTE、エンジン水温THW、及び噴射圧PFの組合せ以外のパラメータの組合せに基づき行うようにしてもよい。
・プレイグニッションが発生し易い状態にあるか否かの判定を行わずに、燃料噴射制御ルーチンを実施するようにしてもよい。この場合には、プレイグニッションが発生し易い状態にあるか否かに拘わらず、プレイグ防止噴射処理が実施されることになる。すなわち、プレイグニッションが発生し易い状態にあるか否かに拘わらず、プレイグ噴射期間の水素ガス噴射が実施されなくなる。
【0046】
・上記実施形態での燃料噴射制御は、水素ガス以外の燃料を使用するエンジンにも適用してもよい。
【符号の説明】
【0047】
10…エンジン
11…気筒
12…ピストン
13…燃焼室
14…吸気バルブ
15…吸気ポート
16…排気バルブ
17…排気ポート
18…インジェクタ
19…点火プラグ
20…電子制御ユニット
21…演算処理装置
22…記憶装置
23…クランク角センサ
24…エアフローメータ
25…水温センサ
26…アクセルペダルセンサ
27…燃圧センサ