IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -燃料供給装置 図1
  • -燃料供給装置 図2
  • -燃料供給装置 図3
  • -燃料供給装置 図4
  • -燃料供給装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183599
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】燃料供給装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 37/00 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
F02M37/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097197
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】土屋 富久
(57)【要約】
【課題】気筒でプレイグニッションが発生した際に、当該気筒内のガスが筒内噴射弁内に流入することを抑制できるようにすること。
【解決手段】内燃機関10の制御装置60は、筒内噴射弁16への供給燃圧を調整するために調圧装置23を制御する。制御装置60は、内燃機関10の運転状態が所定の運転状態ではない場合に、供給燃圧がベース燃圧で保持されるように調圧装置23を制御する燃圧保持処理と、内燃機関10の運転状態が所定の運転状態である場合に、筒内噴射弁16の燃料噴射後に供給燃圧がベース燃圧よりも高くなるように調圧装置23を制御する燃圧増大処理とを実行する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒と、前記気筒内に燃料を噴射する筒内噴射弁と、を備える内燃機関に設けられている燃料供給装置であって、
前記筒内噴射弁に供給する燃料の圧力である供給燃圧を調整する燃圧調整装置と、前記燃圧調整装置を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記内燃機関の運転状態が所定の運転状態ではない場合に、前記供給燃圧がベース燃圧で保持されるように前記燃圧調整装置を制御する燃圧保持処理と、
前記内燃機関の運転状態が前記所定の運転状態である場合に、前記筒内噴射弁の燃料噴射後に前記供給燃圧が前記ベース燃圧よりも高くなるように前記燃圧調整装置を制御する燃圧増大処理と、を実行する
燃料供給装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記内燃機関の運転状態が前記所定の運転状態である場合、前記筒内噴射弁の燃料噴射の開始前に前記供給燃圧が減少しているように前記燃圧調整装置を制御する燃圧減少処理を実行する
請求項1に記載の燃料供給装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記燃圧減少処理において、前記筒内噴射弁の燃料噴射の開始前までに前記供給燃圧が前記ベース燃圧まで減少しているように前記燃圧調整装置を制御する
請求項2に記載の燃料供給装置。
【請求項4】
前記内燃機関は複数の前記気筒を有するものであり、前記燃料供給装置は、前記複数の気筒に対応する複数の前記筒内噴射弁を備えており、
前記複数の気筒のうち、最もプレイグニッションが発生する確率の高い気筒に対応する前記筒内噴射弁を規定の筒内噴射弁としたとき、
前記制御装置は、前記燃圧増大処理において、前記規定の筒内噴射弁の燃料噴射後の前記供給燃圧が前記ベース燃圧よりも高くなるように前記燃圧調整装置を制御する
請求項1~請求項3のうち何れか一項に記載の燃料供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気筒と気筒内に燃料を噴射する筒内噴射弁とを備える内燃機関に設けられている燃料供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、水素を燃料とする内燃機関に適用される制御装置を開示している。内燃機関は複数の気筒を備えている。当該制御装置は、複数の気筒の何れかでプレイグニッションの発生を検知した場合、プレイグニッションの発生を検知した気筒内での燃料の燃焼速度を上昇させるための制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-130473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
気筒内でプレイグニッションが発生すると、当該気筒の内圧が高くなる。そのため、気筒内に燃料を噴射する筒内噴射弁を燃料噴射弁として備えた内燃機関では、気筒内でプレイグニッションが発生すると、当該気筒の内圧が高くなったことに起因して筒内噴射弁が開弁することがある。このように筒内噴射弁が開弁すると、気筒の内圧が高いため、当該気筒内のガスが筒内噴射弁内に流入してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための燃料供給装置は、気筒と、前記気筒内に燃料を噴射する筒内噴射弁と、を備える内燃機関に設けられている。この燃料供給装置は、前記筒内噴射弁に供給する燃料の圧力である供給燃圧を調整する燃圧調整装置と、前記燃圧調整装置を制御する制御装置と、を備えている。前記制御装置は、前記内燃機関の運転状態が所定の運転状態ではない場合に、前記供給燃圧がベース燃圧で保持されるように前記燃圧調整装置を制御する燃圧保持処理と、前記内燃機関の運転状態が前記所定の運転状態である場合に、前記筒内噴射弁の燃料噴射後に前記供給燃圧が前記ベース燃圧よりも高くなるように前記燃圧調整装置を制御する燃圧増大処理と、を実行する。
【0006】
筒内噴射弁に供給される燃料の圧力が高いほど、気筒の内圧が高くなっても筒内噴射弁が開弁しにくい。そこで、上記燃料供給装置では、内燃機関の運転状態が所定の運転状態である場合には、筒内噴射弁の燃料噴射後に供給燃圧がベース燃圧よりも高くなる。これにより、気筒でプレイグニッションが発生して当該気筒の内圧が高くなっても筒内噴射弁が開弁されにくくなる。その結果、気筒でプレイグニッションが発生した際に、当該気筒内のガスが筒内噴射弁内に流入することを抑制できるようになる。
【0007】
上記燃料供給装置の一例において、前記制御装置は、前記内燃機関の運転状態が前記所定の運転状態である場合、前記筒内噴射弁の燃料噴射の開始前に前記供給燃圧が減少しているように前記燃圧調整装置を制御する燃圧減少処理を実行する。
【0008】
供給燃圧が高すぎると、筒内噴射弁の燃料噴射量を微調整しにくくなる。この点、上記燃料供給装置では、筒内噴射弁の燃料噴射の開始前に供給燃圧が減少される。そのため、内燃機関の運転状態が所定の運転状態である場合に筒内噴射弁の燃料噴射量の制御性が低下することを抑制できる。
【0009】
上記燃料供給装置の一例において、前記制御装置は、前記燃圧減少処理において、前記筒内噴射弁の燃料噴射の開始前までに前記供給燃圧が前記ベース燃圧まで減少しているように前記燃圧調整装置を制御する。
【0010】
上記燃料供給装置では、内燃機関の運転状態が所定の運転状態である場合、供給燃圧がベース燃圧まで減少されてから筒内噴射弁の燃料噴射が開始される。そのため、内燃機関の運転状態が所定の運転状態である場合の筒内噴射弁の燃料噴射量の制御性を、内燃機関の運転状態が所定の運転状態ではない場合と同程度の水準にできる。
【0011】
前記内燃機関が複数の前記気筒を有するものであるとき、上記燃料供給装置の一例は、前記複数の気筒に対応する複数の前記筒内噴射弁を備えている。そして、前記複数の気筒のうち、最もプレイグニッションが発生する確率の高い気筒に対応する前記筒内噴射弁を規定の筒内噴射弁としたとき、前記制御装置は、前記燃圧増大処理において、前記規定の筒内噴射弁の燃料噴射後の前記供給燃圧が前記ベース燃圧よりも高くなるように前記燃圧調整装置を制御することが好ましい。
【0012】
複数の気筒を有する内燃機関では、プレイグニッションの発生確率が気筒毎に異なる。そこで、上記燃料供給装置では、内燃機関の運転状態が所定の運転状態である場合には、複数の気筒のうち、プレイグニッションが最も発生する確率の高い気筒に対応する筒内噴射弁の燃料噴射後に供給燃圧がベース燃圧よりも高くなるようにした。これにより、当該筒内噴射弁内に気筒内のガスが流入することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、第1実施形態の燃料供給装置を備える内燃機関システムの概略を示す構成図である。
図2図2は、同内燃機関システムが備える筒内噴射弁を示す断面図である。
図3図3は、第1実施形態の燃料供給装置において、制御装置が実行する処理ルーチンを示すフローチャートである。
図4図4は、第1実施形態の燃料供給装置における作用を説明するためのタイミングチャートである。
図5図5は、第2実施形態の燃料供給装置において、制御装置が実行する処理ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、燃料供給装置の第1実施形態を図1図4に従って説明する。
図1は、本実施形態の燃料供給装置を備える車載の内燃機関システムを図示している。内燃機関システムは、内燃機関10と、内燃機関10の状態を検出する検出系と、内燃機関10を制御する制御装置60とを備えている。
【0015】
<内燃機関>
内燃機関10は、水素ガスを燃料とする内燃機関である。内燃機関10は、複数の気筒11と、クランク軸12と、吸気通路13と、スロットルバルブ14と、排気通路15とを備えている。図1に示す本例では、内燃機関10は4つの気筒11を備えている。本明細書では、4つの気筒を総称して説明するときにはこれらを「気筒11」とし、これらを区別して説明するときには気筒#1、気筒#2、気筒#3及び気筒#4とする。
【0016】
吸気通路13は、複数の気筒11内に導入する空気が流れる通路である。スロットルバルブ14は吸気通路13に設置されている。スロットルバルブ14の開度であるスロットル開度を調整することにより、吸気通路13を流れる空気の量である吸入空気量が調整される。
【0017】
内燃機関10は、複数の筒内噴射弁16と複数の点火装置17とを備えている。1つの気筒11に対して1つの筒内噴射弁16と1つの点火装置17とが設けられている。筒内噴射弁16は、気筒11内に燃料を噴射する燃料噴射弁である。筒内噴射弁16の構成については後述する。複数の気筒11内では、空気と燃料とを含む混合気が点火装置17の放電によって燃焼される。混合気の燃焼によって得た動力がクランク軸12に伝達されることにより、クランク軸12が回転する。複数の気筒11内では混合気の燃焼によって排気が生成される。こうした排気は、複数の気筒11内から排気通路15に排出される。
【0018】
内燃機関10は、燃料タンク21と、燃料供給通路22と、調圧装置23、デリバリパイプ24と、減圧機構25とを備えている。燃料タンク21、燃料供給通路22、調圧装置23、デリバリパイプ24及び減圧機構25は、内燃機関10に設けられている「燃料供給装置」の一例を構成する。
【0019】
燃料タンク21は、高圧の燃料を貯留している。燃料供給通路22は、燃料タンク21に貯留されている燃料をデリバリパイプ24に供給する通路である。調圧装置23は、燃料供給通路22に設置されている。調圧装置23は、制御装置60による制御によって、燃料供給通路22を流れる燃料の圧力を減圧するものである。そのため、燃料供給通路22のうち、調圧装置23よりもデリバリパイプ24側の部分を流れる燃料の圧力は、燃料供給通路22のうち、調圧装置23よりも燃料タンク21側の部分を流れる燃料の圧力よりも低い。
【0020】
デリバリパイプ24には、複数の筒内噴射弁16が接続されている。すなわち、デリバリパイプ24は、複数の筒内噴射弁16に供給する燃料を一時的に貯留する。以降の記載では、デリバリパイプ24内の燃料の圧力を「供給燃圧」という。
【0021】
減圧機構25は、デリバリパイプ24の供給燃圧を減圧する機構である。減圧機構25は、第1パージ通路26と、第1パージバルブ27と、貯留室28と、第2パージ通路29と、第2パージバルブ30とを有している。
【0022】
第1パージ通路26は、デリバリパイプ24と貯留室28とを繋ぐ通路である。第1パージバルブ27は、電子制御式のバルブである。第1パージバルブ27は第1パージ通路26に設置されている。貯留室28は、第1パージ通路26から流入した燃料を一時的に貯留する。第1パージバルブ27が閉弁している場合、第1パージ通路26を介したデリバリパイプ24から貯留室28への燃料の流出が規制される。一方、第1パージバルブ27が開弁している場合、第1パージ通路26を介してデリバリパイプ24から貯留室28に燃料が流出される。
【0023】
第2パージ通路29は、貯留室28と吸気通路13とを繋ぐ通路である。詳しくは、第2パージ通路29は、吸気通路13のうち、スロットルバルブ14よりも下流の部分に接続されている。第2パージバルブ30は、電子制御式のバルブである。第2パージバルブ30は第2パージ通路29に設置されている。第2パージバルブ30が閉弁している場合、第2パージ通路29を介して貯留室28から吸気通路13に燃料が供給されない。一方、第2パージバルブ30が開弁している場合、第2パージ通路29を介して貯留室28から吸気通路13に燃料が供給される。
【0024】
図2を参照し、筒内噴射弁16の構成について説明する。
筒内噴射弁16は、筒状のボディ41と、シート部材42と、ニードル43と、閉弁スプリング44と、電磁コイル45とを有している。シート部材42は、ボディ41の先端部411に保持されている。シート部材42には、燃料を気筒11内に噴射する噴射口46が形成されている。
【0025】
ニードル43は、シート部材42に接近する方向、及びシート部材42から離間する方向に移動可能な状態でボディ41内に収容されている。ニードル43がシート部材42の弁座に着座している場合、噴射口46が閉塞される。このように噴射口46が閉塞されている筒内噴射弁16の状態を、「筒内噴射弁16が閉弁している」という。一方、ニードル43がシート部材42の弁座から離間している場合、噴射口46が開放される。このように噴射口46が開放されている筒内噴射弁16の状態を、「筒内噴射弁16が開弁している」という。
【0026】
ボディ41の内周面とニードル43との間には、燃料が流れる内部燃料通路47が形成されている。内部燃料通路47は、デリバリパイプ24と繋がっている。そのため、筒内噴射弁16が開弁されると、内部燃料通路47が噴射口46と繋がる。このとき、内部燃料通路47の圧力が気筒11の内圧よりも高いと、燃料が噴射口46から気筒11内に噴射される。
【0027】
閉弁スプリング44は、ニードル43をシート部材42に押し付ける方向にニードル43を付勢している。電磁コイル45に電流が流れると、ニードル43をシート部材42から離間させる方向の電磁力が発生する。そのため、電磁コイル45に電流を流すことにより、閉弁スプリング44の付勢力に抗してニードル43がシート部材42から離間する。これにより、筒内噴射弁16が開弁する。一方、電磁コイル45への通電を停止すると、閉弁スプリング44の付勢力によってニードル43がシート部材42に押し付けられる。これにより、筒内噴射弁16が閉弁する。
【0028】
<検出系>
図1に示すように、検出系は、検出結果に応じた信号を制御装置60に出力する複数のセンサを備えている。検出系は、センサとして、クランク角センサ51、エアフローメータ52、油温センサ53、水温センサ54、吸気温センサ55及び燃圧センサ56を有している。
【0029】
クランク角センサ51はクランク軸12の回転角を検出する。クランク角センサ51の検出値に基づいたクランク軸12の回転速度を「機関回転数NE」という。エアフローメータ52は吸入空気量を検出する。エアフローメータ52の検出値に基づいた吸入空気量を「吸入空気量GA」という。油温センサ53は、内燃機関10内を循環するオイルの温度を検出する。油温センサ53の検出値に基づいたオイルの温度を「油温TPo」という。水温センサ54は、内燃機関10内を循環する冷却水の温度を検出する。水温センサ54の検出値に基づいた冷却水の温度を「冷却水温TPw」という。吸気温センサ55は吸気通路13のうちスロットルバルブ14を通過した空気の温度を検出する。吸気温センサ55の検出値に基づいた空気の温度を「吸気温TPa」という。燃圧センサ56は供給燃圧を検出する。燃圧センサ56の検出値に基づいた供給燃圧を「供給燃圧FP」という。
【0030】
<制御装置>
図1に示すように、制御装置60は、CPU61及びメモリ62を有している。メモリ62には、CPU61によって実行される各種の制御プログラムが記憶されている。そして、CPU61は、制御プログラムを実行することにより、複数のセンサからの信号に基づき、スロットルバルブ14の開度、筒内噴射弁16の燃料噴射量、及び点火装置17の点火タイミングを制御する。また、制御装置60は、燃料供給装置を構成する調圧装置23、第1パージバルブ27及び第2パージバルブ30を制御する。すなわち、制御装置60は、「燃料供給装置」の一例を構成する。
【0031】
<供給燃圧を調整する制御>
図3を参照し、供給燃圧FPを調整する制御について説明する。図3は、当該制御の処理ルーチンを図示している。制御プログラムをCPU61が実行することにより、制御装置60が所定の制御サイクル毎に本処理ルーチンを実行する。
【0032】
本処理ルーチンにおいてステップS11では、制御装置60は、内燃機関10の状態量として、機関回転数NE、吸入空気量GA、機関負荷率KL、油温TPo、水温TPw、吸気温TPa、供給燃圧FPを取得する。
【0033】
ここで、機関負荷率KLは、機関回転数NE及び吸入空気量GAに基づいて導出できる。機関負荷率KLは、気筒11内における空気充填率の指標値である。具体的には、機関負荷率KLは、基準流入空気量に対する1気筒の1燃焼サイクル当たりの流入空気量の割合である。なお、基準流入空気量は、機関回転数NEに応じて変わる。
【0034】
ステップS13において、制御装置60は、内燃機関10の運転状態が所定の運転状態であるか否かを判定する。内燃機関10の運転状態とは、機関回転数NEと機関負荷率KLとで示す内燃機関10の運転状態である。所定の運転状態とは、気筒11内でプレイグニッションが発生しやすい状態であるか否かを判断するためのものである。所定の運転状態は、実験及びシミュレーションなどによって設定される。内燃機関10の運転状態が所定の運転状態である場合は、気筒11内でプレイグニッションが発生しやすいと見なす。内燃機関10の運転状態が所定の運転状態ではない場合は、気筒11内でプレイグニッションが発生しにくいと見なす。
【0035】
所定の運転状態は、油温TPo、水温TPw及び吸気温TPaによって可変する。これは、気筒11内の温度が高いほどプレイグニッションの発生確率が高くなるためである。そのため、制御装置60は、油温TPo、水温TPw及び吸気温TPaを基に気筒11内の温度が高いと推測した場合には、気筒11内の温度が高くないと推測した場合と比較して内燃機関10の運転状態が所定の運転状態であると判定されやすくなるように、所定の運転状態を適宜変更する。
【0036】
制御装置60は、内燃機関10の運転状態が所定の運転状態ではないと判定した場合(S13:NO)、処理をステップS15に移行する。供給燃圧FPの目標値を供給燃圧目標値FPTrとしたとき、ステップS15において、制御装置60は供給燃圧目標値FPTrとしてベース燃圧FPbを設定する。ベース燃圧FPbは、内燃機関10の現時点の運転状態に応じた供給燃圧FPである。そして、ステップS17において、制御装置60は、供給燃圧目標値FPTrに基づいて燃圧調整装置を操作する。例えば、制御装置60は、供給燃圧FPが供給燃圧目標値FPTrよりも低い場合、調圧装置23を操作することにより、燃料供給通路22を介してデリバリパイプ24に供給される燃料の量を増大させる。これにより、供給燃圧FPが増大される。一方、制御装置60は、供給燃圧FPが供給燃圧目標値FPTrよりも高い場合、調圧装置23を操作することにより、燃料供給通路22を介してデリバリパイプ24に供給される燃料の量を減少させる。これにより、供給燃圧FPの増大が制限される。すなわち、制御装置60は、内燃機関10の運転状態が所定の運転状態ではない場合に、供給燃圧FPがベース燃圧FPbで保持されるように燃圧調整装置を制御する。したがって、ステップS15及びS17が、「燃圧保持処理」に対応する。その後、制御装置60は本処理ルーチンを一旦終了する。
【0037】
一方、ステップS13において、制御装置60は、内燃機関10の運転状態が所定の運転状態であると判定した場合(YES)、処理をステップS19に移行する。ステップS19において、制御装置60は、複数の筒内噴射弁16のうち、規定の筒内噴射弁の燃料噴射が完了したタイミングであるか否かを判定する。
【0038】
ここで、気筒11内でプレイグニッションが発生する確率は、気筒11毎に異なる。例えば、複数の気筒11のうち、内部温度が最も高くなりやすい気筒でプレイグニッションが発生しやすい。そこで、本実施形態では、内燃機関10における冷却水の流路の形状、内燃機関10を循環するオイルの流路の形状、及び車両のエンジンコンパートメント内における内燃機関10の設置位置及び向きなどの諸元を基に、複数の気筒11のうち、プレイグニッションが最も発生しやすいと想定される気筒が規定の気筒として設定されている。そして、複数の筒内噴射弁16のうち、規定の気筒内に燃料を噴射する筒内噴射弁16が、規定の筒内噴射弁に設定されている。
【0039】
ステップS19において、制御装置60は、規定の筒内噴射弁の燃料噴射が完了したタイミングであると判定した場合(YES)、処理をステップS23に移行する。一方、制御装置60は、規定の筒内噴射弁の燃料噴射が完了したタイミングではないと判定した場合(S19:NO)、処理をステップS21に移行する。
【0040】
ステップS21において、制御装置60は、以下の条件(A1)及び(A2)の少なくとも一方が成立しているか否かを判定する。
(A1)規定の気筒の行程が吸気行程であること。
(A2)規定の筒内噴射弁が燃料噴射中であること。
【0041】
制御装置60は、2つの条件(A1)及び(A2)の少なくとも一方が成立している場合(S21:YES)、処理をステップS27に移行する。一方、制御装置60は、2つの条件(A1)及び(A2)の何れもが成立していない場合(S21:NO)、処理をステップS23に移行する。
【0042】
ステップS23において、制御装置60は、供給燃圧目標値FPTrとして増大燃圧FPupを設定する。増大燃圧FPupは、ベース燃圧FPbよりも高い燃圧である。そして、ステップS25において、制御装置60は、供給燃圧目標値FPTrに基づいて燃圧調整装置を操作する。例えば、制御装置60は、供給燃圧FPが供給燃圧目標値FPTrよりも低い場合、調圧装置23を操作することにより、燃料供給通路22を介してデリバリパイプ24に供給される燃料の量を増大させる。一方、制御装置60は、供給燃圧FPが供給燃圧目標値FPTrよりも高い場合、調圧装置23を操作することにより、燃料供給通路22を介してデリバリパイプ24に供給される燃料の量を減少させる。すなわち、制御装置60は、内燃機関10の運転状態が所定の運転状態である場合に、供給燃圧FPがベース燃圧FPbよりも高くなるように燃圧調整装置を制御する。したがって、ステップS23及びS25が、「燃圧増大処理」に対応する。その後、制御装置60は本処理ルーチンを一旦終了する。
【0043】
ここで、増大燃圧FPupについて説明する。増大燃圧FPupは、気筒11内でプレイグニッションが発生して気筒11の内圧が高くなっても、当該気筒11に対応する筒内噴射弁16が開弁しないようにするための燃圧である。増大燃圧FPupは、以下の関係式(式1)を満たすように設定されている。関係式(式1)において、「Fs」は、筒内噴射弁16の閉弁スプリング44がニードル43に付与する付勢力である。「Ph」は、内部燃料通路47の燃料圧力である。「Pp」は、プレイグニッションが発生した場合における気筒11の内圧の想定値である。筒内噴射弁16が閉弁している場合、閉弁スプリング44の付勢力Fsと内部燃料通路47の燃料圧力Phとの和が内圧の想定値Pp以上である場合、気筒11でプレイグニッションが発生しても筒内噴射弁16が開弁されない。内部燃料通路47の燃料圧力Phは、供給燃圧FPとほぼ等しい。そこで例えば、内圧の想定値Ppから付勢力Fsを引いた値と所定のオフセット値αとの和が、増大燃圧FPupとして設定される。
【0044】
Fs+Ph≧Pp ・・・(式1)
ステップS27において、制御装置60は、供給燃圧目標値FPTrとしてベース燃圧FPbを設定する。そして、ステップS29において、制御装置60は、供給燃圧目標値FPTrに基づいて燃圧調整装置を操作する。例えば、制御装置60は、供給燃圧FPが供給燃圧目標値FPTrよりも低い場合、調圧装置23を操作することにより、燃料供給装置を介してデリバリパイプ24に供給される燃料の量を増大させる。これにより、供給燃圧FPが増大される。一方、制御装置60は、供給燃圧FPが供給燃圧目標値FPTrよりも高い場合、第1パージバルブ27を開弁させることにより、デリバリパイプ24内の燃料を貯留室28に流出させる。これにより、供給燃圧FPがベース燃圧FPbに向けて減少される。すなわち、制御装置60は、内燃機関10の運転状態が所定の運転状態である場合、規定の筒内噴射弁の燃料噴射の開始前に供給燃圧FPが減少しているように燃圧調整装置を制御する。具体的には、制御装置60は、規定の筒内噴射弁の燃料噴射の開始前までに供給燃圧FPがベース燃圧FPbまで減少しているように燃圧調整装置を制御する。したがって、ステップS27及びS29が、「燃圧減少処理」に対応する。その後、制御装置60は本処理ルーチンを一旦終了する。
【0045】
<本実施形態の作用>
図4を参照し、内燃機関10の運転状態が所定の運転状態である場合の作用について説明する。図4の(A)は規定の気筒の吸気バルブの開閉の推移を示し、図4の(B)は規定の筒内噴射弁の燃料噴射の時期を示し、図4の(C)は供給燃圧FPの推移を示す。
【0046】
図4に示す例では、タイミングt11で吸気バルブが開弁される。すなわち、規定の気筒で吸気行程が開始される。タイミングt11では、供給燃圧目標値FPTrとして増大燃圧FPupが設定されている。
【0047】
吸気行程中のタイミングt12で、供給燃圧目標値FPTrが、増大燃圧FPupからベース燃圧FPbに変更される。ベース燃圧FPbは増大燃圧FPupよりも低い。そのため、供給燃圧FPがベース燃圧FPbまで減少されるように、減圧機構25が作動する。具体的には、第1パージバルブ27が開弁されてデリバリパイプ24内の燃料が貯留室28に流出される。これにより、図4の(C)に二点鎖線で示すように供給燃圧FPがベース燃圧FPbに向けて減少する。本例では、規定の筒内噴射弁の燃料噴射が開始されるタイミングt13では、供給燃圧FPがベース燃圧FPbまで減少している。
【0048】
なお、貯留室28に貯留された燃料は、第2パージバルブ30を開弁させることにより、第2パージ通路29を介して吸気通路13に供給される。
規定の筒内噴射弁で燃料噴射が行われている期間では、供給燃圧目標値FPTrがベース燃圧FPbで保持されている。そのため、当該期間では、供給燃圧FPがベース燃圧FPbとなるように、デリバリパイプ24の燃料の給排が調整される。
【0049】
タイミングt14で規定の筒内噴射弁の燃料噴射が終了される。すると、供給燃圧目標値FPTrがベース燃圧FPbから増大燃圧FPupに変更される。このように供給燃圧目標値FPTrが増大されると、供給燃圧FPもまた増大燃圧FPupに向けて増大される。すなわち、規定の筒内噴射弁の燃料噴射後に供給燃圧FPがベース燃圧FPbよりも高くなる。
【0050】
<本実施形態の効果>
(1-1)内燃機関10の運転状態が所定の運転状態である場合には、規定の筒内噴射弁の燃料噴射後に供給燃圧FPがベース燃圧FPbよりも高くなる。これにより、規定の気筒でプレイグニッションが発生して規定の気筒の内圧が高くなっても規定の筒内噴射弁が開弁されにくくなる。その結果、規定の気筒でプレイグニッションが発生した際に、規定の気筒内のガスが規定の筒内噴射弁内に流入することを抑制できる。
【0051】
(1-2)規定の筒内噴射弁の燃料噴射後に供給燃圧FPをベース燃圧FPbよりも高くしても、規定の筒内噴射弁の次回の燃料噴射の開始前には供給燃圧FPがベース燃圧FPbまで減少している。そのため、内燃機関10の運転状態が所定の運転状態である場合に規定の筒内噴射弁の燃料噴射量の制御性が低下することを抑制できる。より詳しくは、内燃機関10の運転状態が所定の運転状態である場合の規定の筒内噴射弁の燃料噴射量の制御性を、内燃機関10の運転状態が所定の運転状態ではない場合と同程度の水準にできる。
【0052】
(第2実施形態)
燃料供給装置の第2実施形態を図5に従って説明する。なお、第2実施形態では、規定の気筒を推定するための処理ルーチンを実行する点が第1実施形態と異なっている。以下の説明においては、第1の実施形態と相違する部分について主に説明するものとし、第1実施形態と同一の部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0053】
図5を参照し、規定の気筒の推定について説明する。図5は、規定の気筒を推定するための処理ルーチンを図示している。制御プログラムをCPU61が実行することにより、制御装置60が所定の制御サイクル毎に本処理ルーチンを実行する。
【0054】
本処理ルーチンにおいてステップS31では、制御装置60は、複数の気筒11の何れかでプレイグニッションが発生したか否かを判定する。制御装置60は、プレイグニッションを検知した場合(S31:YES)、処理をステップS33に移行する。一方、制御装置60は、プレイグニッションを検知していない場合(S31:NO)、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0055】
ステップS33において、制御装置60は、複数の気筒11の中から、プレイグニッションが発生した気筒を特定する。そして、制御装置60は、プレイグニッションが発生した気筒11のカウンタCnt(#N)を1だけインクリメントする。例えば、プレイグニッションが発生した気筒11が気筒#1である場合、制御装置60は、カウンタCnt(#1)を1だけインクリメントする。このようにカウンタCnt(#N)を更新すると、制御装置60は処理をステップS35に移行する。
【0056】
ステップS35において、制御装置60は、内燃機関10でのプレイグニッションの発生回数の合計値CntAを1だけインクリメントする。すなわち、合計値CntAは、気筒#1のカウンタCnt(#1)と、気筒#2のカウンタCnt(#2)と、気筒#3のカウンタCnt(#3)と、気筒#4のカウンタCnt(#4)との和と等しい。このように合計値CntAを更新すると、制御装置60は処理をステップS37に移行する。
【0057】
ステップS37において、制御装置60は、発生回数の合計値CntAが判定値CntAth以上であるか否かを判定する。プレイグニッションの発生確率が最も高い気筒を特定するのに必要な値が、判定値CntAthとして設定されている。例えば、判定値CntAthとして、内燃機関10の気筒数よりも大きい値が設定されている。制御装置60は、合計値CntAが判定値CntAth以上である場合(S37:YES)、処理をステップS39に移行する。一方、制御装置60は、合計値CntAが判定値CntAth未満である場合(S37:NO)、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0058】
ステップS39において、制御装置60は、複数の気筒11の中から、対応するカウンタCnt(#N)が最も大きい気筒を選択する。そして、制御装置60は、選択した気筒を規定の気筒に設定する。このように規定の気筒を設定すると、制御装置60は本処理ルーチンを一旦終了する。
【0059】
なお、合計値CntAが判定値CntAth未満である場合、制御装置60は、上記第1実施形態で説明したように、内燃機関10の諸元から最もプレイグニッションが発生しやすいと想定される気筒を規定の規定に設定する。
【0060】
<本実施形態の効果>
本実施形態では、上記第1実施形態の効果(1-1)及び(1-2)と同等の効果に加え、以下の効果をさらに得ることができる。
【0061】
(2-1)同じ型式の内燃機関10であっても、最もプレイグニッションが発生しやすい気筒が機種毎に異なる可能性がある。そこで、本実施形態では、内燃機関10が運転されている場合、実際にプレイグニッションが発生した気筒11を特定することにより、プレイグニッションが最も発生しやすい気筒を把握するようにしている。これにより、最も発生しやすい気筒で実際にプレイグニッションが発生した場合に、当該気筒に対応する筒内噴射弁16が開弁されてしまい、気筒内のガスが筒内噴射弁16内に流入することを抑制できる。
【0062】
(変更例)
上記複数の実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記複数の実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0063】
・燃圧減少処理では、供給燃圧FPを増大燃圧FPupよりも低くできるのであれば、供給燃圧目標値FPTrとして、ベース燃圧FPbとは異なる燃圧を設定してもよい。例えば、増大燃圧FPupとベース燃圧FPbとの間の燃圧を供給燃圧目標値FPTrとして設定してもよい。
【0064】
・燃圧減少処理の実行は必須ではない。
・燃圧増大処理では、供給燃圧FPをベース燃圧FPbよりも高くできるのであれば、上記関係式(式1)を満たすように供給燃圧目標値FPTrを設定することは必須ではない。
【0065】
・内燃機関の気筒数は4つでなくてもよい。例えば、内燃機関の気筒数は、1つでもよいし、3つでもよいし、5つ以上であってもよい。
・燃料供給装置が筒内噴射弁16に供給する燃料は、水素ガス以外の気体燃料であってもよい。
【0066】
・燃料供給装置が筒内噴射弁16に供給する燃料は、気体燃料でなくてもよい。
・制御装置60は、CPUとROMとを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。すなわち、制御装置60は、以下(a)~(c)の何れかの構成であればよい。
【0067】
(a)制御装置60は、コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備えている。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含んでいる。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含んでいる。
【0068】
(b)制御装置60は、各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備えている。専用のハードウェア回路としては、例えば、特定用途向け集積回路、すなわちASIC又はFPGAを挙げることができる。なお、ASICは、「Application Specific Integrated Circuit」の略記であり、FPGAは、「Field Programmable Gate Array」の略記である。
【0069】
(c)制御装置60は、各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうちの残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えている。
【符号の説明】
【0070】
10…内燃機関
11,#1~#4…気筒
16…筒内噴射弁
21…燃料タンク
22…燃料供給通路
23…調圧装置
25…減圧機構
60…制御装置
図1
図2
図3
図4
図5