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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183604
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】合成繊維用処理剤、及び合成繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/224 20060101AFI20231221BHJP
   D06M 13/192 20060101ALI20231221BHJP
   D06M 13/17 20060101ALI20231221BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20231221BHJP
   D06M 13/256 20060101ALI20231221BHJP
   D06M 13/292 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
D06M13/224
D06M13/192
D06M13/17
D06M15/53
D06M13/256
D06M13/292
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097202
(22)【出願日】2022-06-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】本郷 勇治
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA07
4L033AB01
4L033AC09
4L033BA14
4L033BA18
4L033BA21
4L033BA28
4L033BA39
4L033CA48
(57)【要約】
【課題】合成繊維の繊維間への接着剤の浸透性、及び高温毛羽抑制効果を向上させる。
【解決手段】合成繊維用処理剤は、下記の完全エステル化合物(A1)を含む平滑剤(A)、及び下記のジカルボン酸化合物(B)を含有する。
完全エステル化合物(A1):3価以上4価以下の多価アルコールと1価カルボン酸との完全エステル化合物。
ジカルボン酸化合物(B):分子中に水酸基を0個以上1個以下有する炭素数3以上10以下のジカルボン酸、及びその塩から選ばれる少なくとも1つ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の完全エステル化合物(A1)を含む平滑剤(A)、及び下記のジカルボン酸化合物(B)を含有することを特徴とする合成繊維用処理剤。
完全エステル化合物(A1):3価以上4価以下の多価アルコールと1価カルボン酸との完全エステル化合物。
ジカルボン酸化合物(B):分子中に水酸基を0個以上1個以下有する炭素数3以上10以下のジカルボン酸、及びその塩から選ばれる少なくとも1つ。
【請求項2】
前記ジカルボン酸化合物(B)の炭素数が、4以上6以下である請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
前記合成繊維用処理剤の全質量に対して、前記ジカルボン酸化合物(B)を構成するジカルボン酸を0.01質量%以上1質量%以下の割合で含有する請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
前記合成繊維用処理剤の全質量に対して、前記完全エステル化合物(A1)を25質量%以上70質量%以下の割合で含有する請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
更に、ノニオン界面活性剤(C)、及びイオン界面活性剤(D)を含有する請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項6】
前記イオン界面活性剤(D)が、スルホン酸化合物(D1)、及びリン酸エステル化合物(D2)から選ばれる少なくとも1つを含む請求項5に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤が、付着していることを特徴とする合成繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維間への接着剤の浸透性、及び合成繊維の高温毛羽抑制効果を向上できる合成繊維用処理剤、及び合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
合成繊維の紡糸延伸工程等において、例えば平滑性、制電性等の向上の観点から、合成繊維の表面に処理剤を付着させる処理が行われることがある。
また、合成繊維は、産業資材として多く利用されている。例えばタイヤコード、エアバッグ等の自動車分野、カーペット、テント等の建築分野、広告布等の商業分野、ロープ、漁網等の農業・水産業分野、コンベアベルト、命綱等の土木分野で利用されている。これらの中でも、ゴム製品の補強材として広く用いられている。ゴム製品の補強材として用いる際には、合成繊維に接着剤を塗布して、ゴム材に接着することが行われる。
【0003】
例えば製糸時に合成繊維に処理剤を付着させた後、合成繊維の撚糸を製織して織物を作製する。この織物に接着剤を塗布して、織物とゴム材を接着することが行われる。または、処理剤と接着剤とを予め混合して混合液を作製する。製糸時に混合液を合成繊維に付着させた後、合成繊維の撚糸を製織して織物を作製する。この織物とゴム材を接着することが行われる。または、製糸時に処理剤と接着剤を個別に合成繊維に付着させた後、合成繊維の撚糸を製織して織物を作製する。この織物とゴム材を接着することが行われる。また、ゴム材との接着は、織物でだけでなく原糸や撚糸に対しても行われる。
【0004】
従来、特許文献1~3に開示の合成繊維用処理剤が知られている。特許文献1は、ポリエーテルを含有する仮撚加工用紡糸油剤について開示する。特許文献2は、ポリエーテル、カルボン酸塩、アルキルホスフェート、及び脂肪族二塩基酸を含有する合成繊維の摩擦仮撚用油剤について開示する。特許文献3は、エステル成分、アマイド、及びポリオキシアルキレン変性シリコーンを含有するポリアミド繊維用処理剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平5-65625号公報
【特許文献2】特許第4463327号公報
【特許文献3】特許第3165284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の合成繊維用処理剤は、合成繊維をゴム製品の補強材として用いる際の合成繊維に対する接着剤の付着性について何ら考慮されていない。合成繊維に対する接着剤の付着性を向上させるためには、繊維間への接着剤の浸透性を向上させることが挙げられる。付着性の向上は、繊維への接着剤の均一な塗布に繋がり、接着ムラを抑制する。さらには、付着工程での接着剤の飛散による損失や、接着性を担保するための接着剤の過剰な付与も抑制できる。また、合成繊維の紡糸延伸工程において、合成繊維が高温に晒されると毛羽が生じやすくなる虞があった。合成繊維の繊維間への接着剤の浸透性、及び高温毛羽抑制効果の更なる向上が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、合成繊維用処理剤において、所定の化合物を含有する構成が好適であることを見出した。
上記課題を解決する各態様を記載する。
【0008】
態様1の合成繊維用処理剤は、下記の完全エステル化合物(A1)を含む平滑剤(A)、及び下記のジカルボン酸化合物(B)を含有することを要旨とする。
完全エステル化合物(A1):3価以上4価以下の多価アルコールと1価カルボン酸との完全エステル化合物。
【0009】
ジカルボン酸化合物(B):分子中に水酸基を0個以上1個以下有する炭素数3以上10以下のジカルボン酸、及びその塩から選ばれる少なくとも1つ。
態様2は、態様1に記載の合成繊維用処理剤において、前記ジカルボン酸化合物(B)の炭素数が、4以上6以下である。
【0010】
態様3は、態様1又は2に記載の合成繊維用処理剤において、前記合成繊維用処理剤の全質量に対して、前記ジカルボン酸化合物(B)を構成するジカルボン酸を0.01質量%以上1質量%以下の割合で含有する。
【0011】
態様4は、態様1~3のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤において、前記合成繊維用処理剤の全質量に対して、前記完全エステル化合物(A1)を25質量%以上70質量%以下の割合で含有する。
【0012】
態様5は、態様1~4のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤において、更に、ノニオン界面活性剤(C)、及びイオン界面活性剤(D)を含有する。
態様6は、態様5に記載の合成繊維用処理剤において、前記イオン界面活性剤(D)が、スルホン酸化合物(D1)、及びリン酸エステル化合物(D2)から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0013】
態様7の合成繊維は、態様1~6のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤が、付着していることを要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、合成繊維の繊維間への接着剤の浸透性、及び高温毛羽抑制効果を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1実施形態>
以下、本発明の合成繊維用処理剤(以下、処理剤ともいう)を具体化した第1実施形態を説明する。
【0016】
本実施形態の処理剤は、下記の完全エステル化合物(A1)を含む平滑剤(A)、及び下記のジカルボン酸化合物(B)を含有する。
完全エステル化合物(A1):3価以上4価以下の多価アルコールと1価カルボン酸との完全エステル化合物。
【0017】
ジカルボン酸化合物(B):分子中に水酸基を0個以上1個以下有する炭素数3以上10以下のジカルボン酸、及びその塩から選ばれる少なくとも1つ。
処理剤が上記平滑剤(A)、及びジカルボン酸化合物(B)を含有することにより、合成繊維の繊維間への接着剤の浸透性、及び高温毛羽抑制効果を向上させることができる。
【0018】
(平滑剤(A))
平滑剤(A)は、上記の完全エステル化合物(A1)を含む。
完全エステル化合物(A1)の原料となる3価以上4価以下の多価アルコールの具体例としては、例えば、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、1,2,3-ブタントリオール、1,2,4-ブタントリオール、エリスリトール、1,2,3-ペンタトリオール、1,2,4-ペンタトリオール等が挙げられる。
【0019】
完全エステル化合物(A1)の原料となる1価カルボン酸としては、公知のものを適宜採用でき、飽和カルボン酸であっても、不飽和カルボン酸であってもよい。また、直鎖状のものであっても、分岐鎖構造を有するものであってもよい。
【0020】
カルボン酸の具体例としては、例えば、(1)オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、ヘンイコサン酸、ドコサン酸、テトラコサン酸等の直鎖アルキル脂肪酸、(2)2-エチルヘキサン酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソオクタデカン酸等の分岐アルキル脂肪酸、(3)クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、エイコセン酸、リノール酸、αリノレン酸、γリノレン酸、アラキドン酸等の直鎖アルケニル脂肪酸、(4)ヒマシ油脂肪酸、ゴマ油脂肪酸、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸、ナタネ油脂肪酸、パーム油脂肪酸、パーム核脂肪酸、ヤシ油脂肪酸等の天然由来の脂肪酸等が挙げられる。
【0021】
完全エステル化合物(A1)の具体例としては、例えばトリメチロールプロパンとパーム核脂肪酸のトリエステル、ナタネ油等の植物油、ペンタエリスリトールテトラカプリラート等が挙げられる。
【0022】
これらの完全エステル化合物(A1)は、一種類の完全エステル化合物(A1)を単独で使用してもよいし、又は二種以上の完全エステル化合物(A1)を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0023】
平滑剤(A)は、上記完全エステル化合物(A1)以外に、処理剤の分野において適用される平滑剤(A2)を含有してもよい。平滑剤(A2)としては、例えば鉱物油(動粘度が40℃で5mm/s以上のもの)、ポリオレフィン、完全エステル化合物(A1)以外のエステル化合物等が挙げられる。
【0024】
鉱物油としては、例えば芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素等が挙げられる。より具体的には、例えばスピンドル油、流動パラフィン等が挙げられる。
【0025】
ポリオレフィンは、平滑成分として用いられるポリ-α-オレフィンが適用される。ポリオレフィンの具体例としては、例えば1-ブテン、1-ヘキセン、1-デセン等を重合して得られるポリ-α-オレフィン等が挙げられる。ポリ-α-オレフィンは、市販品を適宜採用できる。
【0026】
平滑剤(A2)の具体例としては、例えばジイソセチルアジパート、オレイルオレアート、ジ(オレイル)チオジプロピオナート等が挙げられる。
上記平滑剤(A)は、一種類の平滑剤(A)を単独で使用してもよいし、又は二種以上の平滑剤(A)を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0027】
処理剤中において、完全エステル化合物(A1)の含有割合の下限は、処理剤の全質量に対して、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。完全エステル化合物(A1)の含有割合の上限は、処理剤の全質量に対して、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。完全エステル化合物(A1)の含有割合が上記数値範囲であると、高温毛羽抑制効果をより向上させることができる。
【0028】
(ジカルボン酸化合物(B))
ジカルボン酸化合物(B)は、分子中に水酸基を0個以上1個以下有する炭素数3以上10以下のジカルボン酸、及びその塩から選ばれる少なくとも1つである。
【0029】
分子中に水酸基を0個以上1個以下有する炭素数3以上10以下のジカルボン酸としては、公知のものを適宜採用でき、飽和カルボン酸であっても、不飽和カルボン酸であってもよい。脂肪族カルボン酸であっても、芳香族カルボン酸であってもよい。炭素数3以上10以下のジカルボン酸としては、例えばマロン酸、コハク酸、オキシコハク酸(リンゴ酸)、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸等の脂肪族カルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族カルボン酸等が挙げられる。
【0030】
上記ジカルボン酸の塩としては、例えばアルカリ金属塩、アミン塩、ホスホニウム塩等が挙げられる。
上記アルカリ金属塩を形成するアルカリ金属としては、例えばナトリウム、カリウム等が挙げられる。
【0031】
上記アミン塩を形成するアミンとしては、例えば、(1)メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、オクチルアミン等の脂肪族アミン類、(2)アニリン、ピリジン、モルホリン、ピペラジン、これらの誘導体等の芳香族アミン類や複素環アミン類、(3)モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ブチルジエタノールアミン、オクチルジエタノールアミン、(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン塩、ラウリルジエタノールアミン等のアルカノールアミン類、(4)アンモニア等が挙げられる。
【0032】
上記ホスホニウム塩を形成するホスホニウム基としては、(1)テトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、トリメチルエチルホスホニウムトリメチルプロピルホスホニウム、トリメチルオクチルホスホニウム、トリメチルドデシルホスホニウム、トリメチルオクタデシルホスホニウム等のリン原子に結合する有機基が全て脂肪族炭化水素基であるホスホニウム基、(2)トリメチルフェニルホスホニウム、トリエチルフェニルホスホニウム、トリブチルフェニルホスホニウム、ジメチルジフェニルホスホニウム、トリフェニルエチルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウム等のリン原子に結合する有機基のうちで少なくとも一つが芳香族炭化水素基であるホスホニウム基等が挙げられる。中和時に水が生成される時は、それが処理剤と混ざってもよく、除去してから処理剤に混合してもよい。また、事前に調製したジカルボン酸の中和物を処理剤に混ぜてもよく、処理剤中で中和させてもよい。ジカルボン酸化合物を処理剤に混ぜるときは、相溶化剤に混ぜてから処理剤に混ぜてもよい。
【0033】
ジカルボン酸化合物(B)の具体例としては、例えばアジピン酸とラウリルアミン1モルに対してエチレンオキサイドを4モル付加したものを1:1molで中和させたもの(以下、アジピン酸ラウリルアミンEO4塩ともいう。)、フマル酸、リンゴ酸、マロン酸ジカリウム塩(マロン酸と水酸化カリウムを1:2molで中和させ、脱水したもの)、セバシン酸ジカリウム塩(セバシン酸と水酸化カリウムを1:2molで中和させ、脱水したもの)等が挙げられる。
【0034】
これらのジカルボン酸化合物(B)は、一種類のジカルボン酸化合物(B)を単独で使用してもよいし、又は二種以上のジカルボン酸化合物(B)を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0035】
ジカルボン酸化合物(B)の炭素数は、好ましくは4以上6以下である。ジカルボン酸化合物(B)の炭素数が、4以上6以下であると、高温毛羽抑制効果をより向上させることができる。
【0036】
処理剤の全質量に対して、ジカルボン酸化合物(B)を構成するジカルボン酸の含有割合の下限は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。ジカルボン酸の含有割合の上限は、処理剤の全質量に対して、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.6質量%以下である。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0037】
ここで、上記「ジカルボン酸化合物(B)を構成するジカルボン酸の含有割合」とは、ジカルボン酸化合物(B)において、対イオンを水素とした時のジカルボン酸の量を意味するものとする。すなわち、ジカルボン酸化合物(B)がジカルボン酸のカリウム塩である場合、カリウムが水素に置き換わったジカルボン酸の含有割合を意味する。
【0038】
ジカルボン酸の含有割合が上記数値範囲であることにより、本発明の効果をより効率的に発現させることができる。ジカルボン酸の含有割合は、処理剤を調製する際の各原料の配合量から算出することができる。また、後述する液体クロマトグラフ質量分析法によって測定することもできる。
【0039】
(ノニオン界面活性剤(C))
処理剤は、さらにノニオン界面活性剤(C)を含有してもよい。処理剤中にノニオン界面活性剤(C)が含まれることにより、処理剤の外観の安定性を高めることができ、また合成繊維に塗布する際の希釈液として、水及び/又は有機溶剤といった極性の異なる溶媒を適用することが可能となる。
【0040】
ノニオン界面活性剤(C)としては、例えばアルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有する化合物、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有するエーテル・エステル化合物、天然油脂にアルキレンオキサイドを付加させた化合物又はその化合物とカルボン酸類とをエステル化させた化合物、アミン化合物として例えば一級有機アミンにアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有する化合物、脂肪酸アミド類にアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有する化合物、アミン化合物とカルボン酸類とを縮合されたアミド化合物、カルボン酸類と多価アルコール等との部分エステル化合物等が挙げられる。
【0041】
ノニオン界面活性剤(C)の原料として用いられるアルコール類の具体例としては、例えば、(1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、トリアコンタノール等の直鎖アルキルアルコール、(2)イソプロパノール、イソブタノール、イソヘキサノール、2-エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソトリアコンタノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール、イソペンタコサノール、イソヘキサコサノール、イソヘプタコサノール、イソオクタコサノール、イソノナコサノール、イソペンタデカノール等の分岐アルキルアルコール、(3)テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、(4)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール、(6)フェノール、ノニルフェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール等が挙げられる。
【0042】
ノニオン界面活性剤(C)の原料として用いられるカルボン酸類の具体例としては、例えば、(1)オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンエイコサン酸、ドコサン酸等の直鎖アルキルカルボン酸、(2)2-エチルヘキサン酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソオクタデカン酸等の分岐アルキルカルボン酸、(3)オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸等の直鎖アルケニルカルボン酸、(4)安息香酸等の芳香族系カルボン酸、(5)リシノール酸等のヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。
【0043】
ノニオン界面活性剤(C)の(ポリ)オキシアルキレン構造を形成する原料として用いられるアルキレンオキサイドとしては、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドが好ましい。アルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数は、適宜設定されるが、好ましくは0.1モル以上250モル以下、より好ましくは1モル以上200モル以下、さらに好ましくは2モル以上150モル以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中における付加対象化合物1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。アルキレンオキサイドは、一種類のアルキレンオキサイドを単独で使用してもよいし、又は二種以上のアルキレンオキサイドを適宜組み合わせて使用してもよい。アルキレンオキサイドが二種類以上適用される場合、それらの付加形態は、ブロック付加、ランダム付加、及びブロック付加とランダム付加の組み合わせのいずれでもよく、特に制限はない。
【0044】
ノニオン界面活性剤(C)の原料として用いられる多価アルコールの具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、グリセリン、ジグリセリン、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0045】
ノニオン界面活性剤(C)の原料として用いられる脂肪族アミン又は一級有機アミンの具体例として、例えばメチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、オクタデシルアミン(ステアリルアミン)、オクタデセニルアミン、ヤシアミン等が挙げられる。
【0046】
ノニオン界面活性剤(C)の原料として用いられる脂肪酸アミドの具体例としては、例えばオクチル酸アミド、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、ベヘン酸アミド、リグノセリン酸アミド等が挙げられる。
【0047】
ノニオン界面活性剤(C)の具体例としては、例えばオレイルアルコール1モルに対しエチレンオキサイド(以下、EOという。)8モル付加したもの、イソトリデカノール1モルに対してプロピレンオキサイド(以下、POという。)12モル付加したものにEO12モルを付加したもの、硬化ひまし油1モルに対しEO10モル付加したもの、硬化ひまし油1モルにEO25モル付加したものをオレイン酸2モルでエステル化した化合物、硬化ひまし油1モルに対しEO20モル付加したものをアジピン酸で架橋し、ステアリン酸で末端エステル化した化合物(質量平均分子量5000)、ソルビタンモノラウラート、ソルビタンモノオレアート1モルにEO8モル付加したもの、ポリエチレングリコール(質量平均分子量400)とオレイン酸のジエステル、ラウリルアミン1モルに対しEO8モル付加したもの、オレイン酸ジエタノールアミド1モルに対しEO3モル付加したもの等が挙げられる。
【0048】
これらのノニオン界面活性剤(C)は、一種類のノニオン界面活性剤(C)を単独で使用してもよいし、又は二種以上のノニオン界面活性剤(C)を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0049】
処理剤中において、ノニオン界面活性剤(C)の含有割合の下限は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。また、かかるノニオン界面活性剤(C)の含有割合の上限は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0050】
ノニオン界面活性剤(C)の含有割合が上記数値範囲であることにより、処理剤の外観の安定性をより高めることができる。また、合成繊維に塗布する際の希釈液として、水や有機溶剤といった極性の異なる溶媒をより適用しやすくなる。
【0051】
(イオン界面活性剤(D))
処理剤は、さらにイオン界面活性剤(D)を含有してもよい。処理剤中にイオン界面活性剤(D)が含まれることにより、合成繊維の紡糸延伸工程において、処理剤を付着させた合成繊維が延伸ローラやガイドを通過した際に発生する静電気を抑制することができる。
【0052】
イオン界面活性剤(D)としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。
アニオン界面活性剤としては、公知のものを適宜採用できる。アニオン界面活性剤の具体例としては、例えば(1)ラウリルリン酸エステル塩、セチルリン酸エステル塩、オクチルリン酸エステル塩、オレイルリン酸エステル塩、ステアリルリン酸エステル塩等の脂肪族アルコールのリン酸エステル塩、(2)ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸エステル塩等の脂肪族アルコールにエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを付加したもののリン酸エステル塩、(3)ラウリルスルホン酸塩、ミリスチルスルホン酸塩、セチルスルホン酸塩、オレイルスルホン酸塩、ステアリルスルホン酸塩、テトラデカンスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、二級アルキルスルホン酸(C13以上15以下)塩、二級アルキルスルホン酸(C11以上14以下)塩、α-オレフィンスルホン酸塩等の脂肪族スルホン酸塩又は芳香族スルホン酸塩、(4)ラウリル硫酸エステル塩、オレイル硫酸エステル塩、ステアリル硫酸エステル塩等の脂肪族アルコールの硫酸エステル塩、(5)ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン)ラウリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸エステル塩等の脂肪族アルコールにエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを付加したものの硫酸エステル塩、(6)ひまし油脂肪酸硫酸エステル塩、ごま油脂肪酸硫酸エステル塩、トール油脂肪酸硫酸エステル塩、大豆油脂肪酸硫酸エステル塩、なたね油脂肪酸硫酸エステル塩、パーム油脂肪酸硫酸エステル塩等の脂肪酸の硫酸エステル塩、(7)ひまし油の硫酸エステル塩、ごま油の硫酸エステル塩、トール油の硫酸エステル塩、大豆油の硫酸エステル塩、菜種油の硫酸エステル塩、パーム油の硫酸エステル塩等の油脂の硫酸エステル塩、(8)ラウリン酸塩、オレイン酸塩、ステアリン酸塩等の脂肪酸塩、(9)ジオクチルスルホコハク酸塩等の脂肪族アルコールのスルホコハク酸エステル塩等が挙げられる。アニオン界面活性剤の対イオンとしては、例えばカリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミン塩、(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン塩、ジブチルエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩等が挙げられる。
【0053】
アニオン界面活性剤としては、高温毛羽抑制効果をより向上させる観点から、上記(3)のスルホン酸塩と、上記(1)又は(2)のリン酸エステル塩とから選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。なお、スルホン酸塩、リン酸エステル塩は、それぞれスルホン酸化合物(D1)、リン酸エステル化合物(D2)ともいうものとする。
【0054】
イオン界面活性剤(D)が、スルホン酸化合物(D1)、及びリン酸エステル化合物(D2)から選ばれる少なくとも1つを含むことにより、高温毛羽抑制効果をより向上させることができる。
【0055】
スルホン酸化合物(D1)の具体例としては、例えば2級アルカンスルホン酸ナトリウム塩(アルカンの炭素数が11以上14以下であるもの)、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム塩、α-オレフィンスルホン酸ナトリウム塩等が挙げられる。
【0056】
リン酸エステル化合物(D2)の具体例としては、例えばオレイルアルコールEO6モル付加物のリン酸エステル-トリエタノールアミン塩、イソセチルリン酸エステル-ジブチルエタノールアミン塩等が挙げられる。
【0057】
アニオン界面活性剤は、スルホン酸化合物(D1)、及びリン酸エステル化合物(D2)以外のアニオン界面活性剤(D3)を含有してもよい。アニオン界面活性剤(D3)の具体例としては、例えばラウリル硫酸ナトリウム塩が挙げられる。
【0058】
これらのアニオン界面活性剤は、一種類のアニオン界面活性剤を単独で使用してもよいし、又は二種以上のアニオン界面活性剤を適宜組み合わせて使用してもよい。
カチオン界面活性剤の具体例としては、例えばラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0059】
両性界面活性剤の具体例としては、例えばベタイン型両性界面活性剤等が挙げられる。
これらのイオン界面活性剤(D)は、一種類のイオン界面活性剤(D)を単独で使用してもよいし、又は二種以上のイオン界面活性剤(D)を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0060】
処理剤中において、イオン界面活性剤(D)の含有割合の下限は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上である。また、かかるイオン界面活性剤(D)の含有割合の上限は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは6質量%以下である。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0061】
処理剤中において、スルホン酸化合物(D1)の含有割合の下限は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上である。また、かかるスルホン酸化合物(D1)の含有割合の上限は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0062】
処理剤中において、リン酸エステル化合物(D2)の含有割合の下限は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上である。また、かかるリン酸エステル化合物(D2)の含有割合の上限は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0063】
スルホン酸化合物(D1)、リン酸エステル化合物(D2)、又はイオン界面活性剤(D)の含有割合が上記数値範囲であることにより、処理剤を付着させた合成繊維が延伸ローラやガイドを通過した際に発生する静電気をより好適に抑制することができる。
【0064】
(その他成分(E))
処理剤は、さらにその他成分(E)を含有してもよい。その他成分としては特に制限されず、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ポリエーテル変性シリコーン、ジメチルポリシロキサン、6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルアニリノ)-2,4-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン等が挙げられる。また、保管時の外観の安定性等を高める観点から、処理剤と水を予め混合させておいてもよく、その場合、処理剤と水の混合比率は、(処理剤の質量/水の質量)=85/15~99.9/0.1であることが好ましい。
【0065】
<第2実施形態>
次に、本発明による合成繊維を具体化した第2実施形態を説明する。本実施形態の合成繊維は、第1実施形態の処理剤が付着している合成繊維である。処理剤を合成繊維に付着させる際の形態としては、希釈溶媒で希釈した希釈液、例えば有機溶媒溶液、水性液等として付与してもよい。希釈溶媒には、処理剤の繊維への付着性と経済性の観点から炭素数10以上15以下の炭化水素や、水を使用することが好ましい。合成繊維は、水性液等の希釈液を、例えば紡糸又は延伸工程等において合成繊維に付着させる工程を経て得られる。合成繊維に付着した希釈液は、延伸工程、乾燥工程により希釈溶媒を蒸発させてもよい。付着させる工程も紡糸工程であれば特に制限はない。延伸もしくは熱処理工程において、200℃以上のローラーを通過させる工程を有する製造設備、工程での使用により、発明の効果がより期待できる。
【0066】
本実施形態の処理剤が付与される合成繊維の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)ポリエチレンテレフタラート、ポリトリメチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、ポリ乳酸、これらのポリエステル系樹脂を含有して成る複合繊維等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維等が挙げられる。これらの中でポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維に適用されることが好ましい。
【0067】
処理剤を合成繊維に付着させる割合に特に制限はないが、処理剤を合成繊維に対し0.1質量%以上3質量%以下の割合(水等の溶媒を含まない割合)となるよう付着させることが好ましい。かかる構成により、本発明の効果をより向上させる。また、処理剤を付着させる方法は、特に制限はなく、例えばローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、浸漬給油法、スプレー給油法等の公知の方法を採用できる。
【0068】
本発明において、合成繊維の用途としては、特に限定されないが、産業資材に用いられる合成繊維が好ましい。例えばエアバッグ用繊維、シートベルト用繊維、タイヤコード用繊維、カーペット用繊維、テント用繊維、広告布用繊維、漁網用繊維、コンベアベルト用繊維、ロープ用繊維等の自動車、建築、商業、農業・水産業、土木等の分野で使用される合成繊維がより好ましい。
【0069】
上記の産業資材のうち、ゴム製品の補強材として用いる場合において、ゴム材との接着に使用される接着剤は特に制限されない。ゴム材との接着に使用される公知の接着剤を使用することができる。ゴム材との接着に使用される公知の接着剤としては、例えばエポキシ化合物、イソシアネート化合物、レゾルシン・ホルムアルデヒド・ラテックス(RFL)溶液等が挙げられる。これらの中でも、エポキシ化合物が好ましい。また、これら接着剤の混合物や接着剤と界面活性剤の混合物等も挙げられる。また、接着剤を付与する際に、水や有機溶剤で希釈した溶液を付与させてもよく、そのままの状態で付着させてもよい。
【0070】
本発明の処理剤、及び接着剤を、合成繊維に付着させる手順は特に制限されない。
例えば製糸時に合成繊維に処理剤を付着させた後、合成繊維の撚糸を製織して織物を作製する。この織物に接着剤を塗布して、織物とゴム材を接着してもよい。または、処理剤と接着剤とを予め混合して混合液を作製する。製糸時に混合液を合成繊維に付着させた後、合成繊維の撚糸を製織して織物を作製する。この織物とゴム材を接着してもよい。または、製糸時に処理剤と接着剤を個別に合成繊維に付着させた後、合成繊維の撚糸を製織して織物を作製する。この織物とゴム材を接着してもよい。また、ゴム材との接着は、織物でだけでなく原糸や撚糸に対しても行われる。原糸に接着剤を付与する時は、延伸前であっても、延伸後であってもよい。製糸した後、接着剤を付与して再度巻き取りなおしてもよい。
【0071】
<効果>
上記実施形態の処理剤及び合成繊維の効果について説明する。
(1)上記実施形態の処理剤では、下記の完全エステル化合物(A1)を含む平滑剤(A)、及び下記のジカルボン酸化合物(B)を含有する。
【0072】
完全エステル化合物(A1):3価以上4価以下の多価アルコールと1価カルボン酸との完全エステル化合物。
ジカルボン酸化合物(B):分子中に水酸基を0個以上1個以下有する炭素数3以上10以下のジカルボン酸、及びその塩から選ばれる少なくとも1つ。
【0073】
したがって、合成繊維の繊維間への接着剤の浸透性、及び高温毛羽抑制効果を向上させることができる。
(2)ジカルボン酸化合物(B)の炭素数が、4以上6以下である。したがって、高温毛羽抑制効果をより向上させることができる。
【0074】
(3)合成繊維用処理剤の全質量に対して、ジカルボン酸化合物(B)を構成するジカルボン酸を0.01質量%以上1質量%以下の割合で含有する。したがって、本発明の効果をより効率的に発現させることができる。
【0075】
(4)合成繊維用処理剤の全質量に対して、完全エステル化合物(A1)を25質量%以上70質量%以下の割合で含有する。したがって、高温毛羽抑制効果をより向上させることができる。
【0076】
(5)ノニオン界面活性剤(C)、及びイオン界面活性剤(D)を含有する。したがって、処理剤の外観の安定性を高めることができ、また合成繊維に塗布する際の希釈液として、水及び/又は有機溶剤といった極性の異なる溶媒を適用することが可能となる。また、処理剤を付着させた合成繊維が延伸ローラやガイドを通過した際に発生する静電気を抑制することができる。
【0077】
(6)イオン界面活性剤(D)が、スルホン酸化合物(D1)、及びリン酸エステル化合物(D2)から選ばれる少なくとも1つを含むことにより、高温毛羽抑制効果をより向上させることができる。
【0078】
<変更例>
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
【0079】
・上記実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の製造途中又は製造後に、処理剤の品質保持のための上記以外の安定化剤、制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、防腐剤、防錆剤等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【0080】
・上記実施形態の処理剤は、上述したノニオン界面活性剤(C)、及びイオン界面活性剤(D)を配合しなくてもよい。また、処理剤は、ノニオン界面活性剤(C)、及びイオン界面活性剤(D)を両方配合してもよく、ノニオン界面活性剤(C)、及びイオン界面活性剤(D)のいずれか一方を配合してもよい。
【0081】
・上記実施形態の処理剤において、イオン界面活性剤(D)は、スルホン酸化合物(D1)、及びリン酸エステル化合物(D2)以外であってもよい。
・上記実施形態の処理剤において、その他成分(E)は省略されていてもよい。
【実施例0082】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、特に限定のない限り、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0083】
試験区分1(処理剤の調製)
(実施例1)
表1に示されるように、平滑剤(A)である完全エステル化合物(A1)としてトリメチロールプロパンとパーム核脂肪酸のトリエステル(A1-1)を40部(%)、ペンタエリスリトールテトラカプリラート(A1-3)を20部(%)、ジカルボン酸化合物(B)としてアジピン酸ラウリルアミンEO4塩(B-1)を0.1部(%)、ノニオン界面活性剤(C)としてイソトリデカノール1モルに対してPO12モル付加したものにEO12モルを付加したもの(C-2)を10部(%)、硬化ひまし油1モルに対しEO10モル付加したもの(C-3)を10部(%)、硬化ひまし油1モルにEO25モル付加したものをオレイン酸2モルでエステル化した化合物(C-4)を14部(%)、ラウリルアミン1モルに対しEO8モル付加したもの(C-9)を2部(%)、イオン界面活性剤(D)であるスルホン酸化合物(D1)として2級アルカンスルホン酸ナトリウム塩(アルカンの炭素数が11以上14以下であるもの)(D1-1)を1.85部(%)、リン酸エステル化合物(D2)としてイソセチルリン酸エステル-ジブチルエタノールアミン塩(D2-2)を2部(%)、その他成分(E)として、ジメチルポリシロキサン(E-2)を0.05部(%)とを含む実施例1の処理剤を調製した。
【0084】
(実施例2~11、比較例1~5)
実施例2~11、比較例1~5の処理剤は、実施例1の処理剤と同様にして、平滑剤(A)、ジカルボン酸化合物(B)、ノニオン界面活性剤(C)、イオン界面活性剤(D)、及びその他成分(E)を表1に示した割合で含むように調製した。
【0085】
平滑剤(A)の種類と含有量、ジカルボン酸化合物(B)の種類と含有量、ノニオン界面活性剤(C)の種類と含有量、イオン界面活性剤(D)の種類と含有量、その他成分(E)の種類と含有量を、表1の「平滑剤(A)」欄、「ジカルボン酸化合物(B)」欄、「ノニオン界面活性剤(C)」欄、「イオン界面活性剤(D)」欄、「その他成分(E)」欄にそれぞれ示す。
【0086】
【表1】
表1に記載する平滑剤(A)、ジカルボン酸化合物(B)、ノニオン界面活性剤(C)、イオン界面活性剤(D)、その他成分(E)の詳細は以下のとおりである。
【0087】
<平滑剤(A)>
(完全エステル化合物(A1))
A1-1:トリメチロールプロパンとパーム核脂肪酸のトリエステル
A1-2:ナタネ油
A1-3:ペンタエリスリトールテトラカプリラート
(A1以外の平滑剤(A2))
A2-1:ジイソセチルアジパート
A2-2:オレイルオレアート
A2-3:ジ(オレイル)チオジプロピオナート
<ジカルボン酸化合物(B)>
B-1:アジピン酸ラウリルアミンEO4塩(アジピン酸とラウリルアミン1モルに対しエチレンオキサイドを4モル付加したものを1:1molで中和させたもの)
B-2:フマル酸
B-3:リンゴ酸
B-4:マロン酸ジカリウム塩(マロン酸と水酸化カリウムを1:2molで中和させ、脱水したもの)
B-5:セバシン酸ジカリウム塩(セバシン酸と水酸化カリウムを1:2molで中和させ、脱水したもの)
<Bとは異なるカルボン酸化合物(rB)>
rB-1:ドデセニルコハク酸ジカリウム塩(ドデセニルコハク酸と水酸化カリウムを1:2molで中和させ、脱水したもの)
rB-2:酒石酸トリエタノールアミン塩(酒石酸とトリエタノールアミンを1:2molで中和させたもの)
rB-3:オレイン酸カリウム塩(オレイン酸と水酸化カリウムを1:1molで中和させ、脱水したもの)
<ノニオン界面活性剤(C)>
C-1:オレイルアルコール1モルに対しEO8モル付加したもの
C-2:イソトリデカノール1モルに対してPO12モル付加したものにEO12モルを付加したもの
C-3:硬化ひまし油1モルに対しEO10モル付加したもの
C-4:硬化ひまし油1モルにEO25モル付加したものをオレイン酸2モルでエステル化した化合物
C-5:硬化ひまし油1モルに対しEO20モル付加したものをアジピン酸で架橋し、ステアリン酸で末端エステル化した化合物(質量平均分子量5000)
C-6:ソルビタンモノラウラート
C-7:ソルビタンモノオレアート1モルにEO8モル付加したもの
C-8:ポリエチレングリコール(質量平均分子量400)とオレイン酸のジエステル
C-9:ラウリルアミン1モルに対しEO8モル付加したもの
C-10:オレイン酸ジエタノールアミド1モルに対しEO3モル付加したもの
<イオン界面活性剤(D)>
(スルホン酸化合物(D1))
D1-1:2級アルカンスルホン酸ナトリウム塩(アルカンの炭素数が11以上14以下であるもの)
D1-2:ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム塩
D1-3:α-オレフィンスルホン酸ナトリウム塩
(リン酸エステル化合物(D2))
D2-1:オレイルアルコールEO6モル付加物のリン酸エステル-トリエタノールアミン塩
D2-2:イソセチルリン酸エステル-ジブチルエタノールアミン塩
(D1、D2以外のイオン界面活性剤(D3))
D3-1:ラウリル硫酸ナトリウム塩
<その他成分(E)>
E-1:ポリエーテル変性シリコーン
E-2:ジメチルポリシロキサン
E-3:6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルアニリノ)-2,4-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン
<ジカルボン酸の含有割合の測定方法>
処理剤の全質量に対して、ジカルボン酸化合物(B)を構成するジカルボン酸の含有割合は、液体クロマトグラフ質量分析法(以下、LC/MSという。)によって測定することができる。
【0088】
LC/MSの測定は、下記の条件で行った。
・液体クロマトグラフ(LC)
使用装置:Waters社製のUPLC H-Class
分析カラム:Shodex社製のRSpak DE-213(内径2.0mm×長さ150mm)
カラム温度:40℃
移動相A液:0.1質量%ギ酸超純水溶液
移動相B液:0.1質量%ギ酸アセトニトリル溶液
グラジエント条件:0分(A/B=95vol%)→5分(A/B=95vol%)→20分(A/B=5vol%)→30分(A/B=5vol%)
流速:0.2mL/min
・質量分析(MS)
使用装置:Waters社製のSQD2
イオン化モード:ESI SIM Negative
処理剤に用いたジカルボン酸化合物(B)のジカルボン酸を標品として検量線を作成し、処理剤中のジカルボン酸量を測定した。結果を表1の「処理剤の全質量に対するジカルボン酸の比率」欄に示す。測定されたジカルボン酸量は、処理剤を調製する際のジカルボン酸化合物(B)の配合量から計算されるジカルボン酸量と略同じであった。
【0089】
試験区分2(高温毛羽抑制効果の評価)
調製した各合成繊維用処理剤をイオン交換水で希釈して15%溶液とした。1000デシテックス、126フィラメント、固有粘度0.93の無給油のポリエチレンテレフタラート繊維に、上記の溶液をガイド給油法にて不揮発分として付与量0.6質量%となるように付与した。溶液を付着させたポリエチレンテレフタラート繊維を、初期張力1.5kg、糸速度300m/分で、表面温度220℃の梨地クロムピンに接触させて走行させた。ピン接触後の繊維の毛羽数を毛羽計数装置(東レエンジニアリング社製)にて10分間当たりの毛羽数を測定し、次の評価基準で評価した。結果を表1の「高温毛羽」欄に示す。
【0090】
なお、本発明において、高温毛羽抑制効果における高温とは、200℃以上を意味するものとする。
・高温毛羽抑制効果の評価基準
◎◎(優れる):毛羽数が5個未満である場合
◎(良好):毛羽数が5個以上8個未満である場合
○(可):毛羽数が8個以上10個未満である場合
×(不可):毛羽数が10個以上である場合
試験区分3(浸透性の評価)
調製した各合成繊維用処理剤をイオン交換水で希釈して10%溶液とした。この溶液に、公知の接着剤として、エポキシ化合物であるポリグリセロールポリグリシジルエーテルを、濃度が5%となるように添加した。溶液を混合して、水性液を調製した。洗浄済みポリエステルタフタを用意した。調製した水性液5μLを、ポリエステルタフタ上に滴下した。ポリエステルタフタ上の水性液を目視で確認した。滴下直後の水性液は液滴状であるが、ポリエステルタフタに浸透することによって液滴は消失する。液滴が消失するまでの時間を計測し、次の評価基準で評価した。結果を表1の「浸透性」欄に示す。
【0091】
・浸透性の評価基準
○(可):280秒未満である場合
×(不可):280秒以上である場合
なお、浸透性の評価は、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルとポリエステルタフタを用いて行ったが、本発明の効果はポリグリセロールポリグリシジルエーテルとポリエステルタフタを用いた態様に限定されない。合成繊維に対する接着剤の浸透性を評価するうえで、便宜上ポリグリセロールポリグリシジルエーテルとポリエステルタフタを用いた。
【0092】
表1の結果からも明らかなように、各実施例の処理剤は、高温毛羽抑制効果、及び浸透性の評価がいずれも可以上であった。本発明によれば、合成繊維の繊維間への接着剤の浸透性、及び高温毛羽抑制効果を向上させることができる。
【手続補正書】
【提出日】2022-08-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の完全エステル化合物(A1)を含む平滑剤(A)、及び下記のジカルボン酸化合物(B)を含有し、
更に、ノニオン界面活性剤(C)、及びイオン界面活性剤(D)を含有し、
前記イオン界面活性剤(D)が、スルホン酸化合物(D1)、及びリン酸エステル化合物(D2)から選ばれる少なくとも1つを含み、
前記スルホン酸化合物(D1)の含有割合が5質量%以下であり、前記リン酸エステル化合物(D2)の含有割合が5質量%以下であることを特徴とする合成繊維用処理剤。
完全エステル化合物(A1):3価以上4価以下の多価アルコールと1価カルボン酸との完全エステル化合物。
ジカルボン酸化合物(B):分子中に水酸基を0個以上1個以下有する炭素数3以上10以下のジカルボン酸、及びその塩から選ばれる少なくとも1つ。
【請求項2】
前記ジカルボン酸化合物(B)の炭素数が、4以上6以下である請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
前記合成繊維用処理剤の全質量に対して、前記ジカルボン酸化合物(B)を構成するジカルボン酸を0.01質量%以上1質量%以下の割合で含有する請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
前記合成繊維用処理剤の全質量に対して、前記完全エステル化合物(A1)を25質量%以上70質量%以下の割合で含有する請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤が、付着していることを特徴とする合成繊維。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維間への接着剤の浸透性、及び合成繊維の高温毛羽抑制効果を向上できる合成繊維用処理剤、及び合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
合成繊維の紡糸延伸工程等において、例えば平滑性、制電性等の向上の観点から、合成繊維の表面に処理剤を付着させる処理が行われることがある。
また、合成繊維は、産業資材として多く利用されている。例えばタイヤコード、エアバッグ等の自動車分野、カーペット、テント等の建築分野、広告布等の商業分野、ロープ、漁網等の農業・水産業分野、コンベアベルト、命綱等の土木分野で利用されている。これらの中でも、ゴム製品の補強材として広く用いられている。ゴム製品の補強材として用いる際には、合成繊維に接着剤を塗布して、ゴム材に接着することが行われる。
【0003】
例えば製糸時に合成繊維に処理剤を付着させた後、合成繊維の撚糸を製織して織物を作製する。この織物に接着剤を塗布して、織物とゴム材を接着することが行われる。または、処理剤と接着剤とを予め混合して混合液を作製する。製糸時に混合液を合成繊維に付着させた後、合成繊維の撚糸を製織して織物を作製する。この織物とゴム材を接着することが行われる。または、製糸時に処理剤と接着剤を個別に合成繊維に付着させた後、合成繊維の撚糸を製織して織物を作製する。この織物とゴム材を接着することが行われる。また、ゴム材との接着は、織物でだけでなく原糸や撚糸に対しても行われる。
【0004】
従来、特許文献1~3に開示の合成繊維用処理剤が知られている。特許文献1は、ポリエーテルを含有する仮撚加工用紡糸油剤について開示する。特許文献2は、ポリエーテル、カルボン酸塩、アルキルホスフェート、及び脂肪族二塩基酸を含有する合成繊維の摩擦仮撚用油剤について開示する。特許文献3は、エステル成分、アマイド、及びポリオキシアルキレン変性シリコーンを含有するポリアミド繊維用処理剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平5-65625号公報
【特許文献2】特許第4463327号公報
【特許文献3】特許第3165284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の合成繊維用処理剤は、合成繊維をゴム製品の補強材として用いる際の合成繊維に対する接着剤の付着性について何ら考慮されていない。合成繊維に対する接着剤の付着性を向上させるためには、繊維間への接着剤の浸透性を向上させることが挙げられる。付着性の向上は、繊維への接着剤の均一な塗布に繋がり、接着ムラを抑制する。さらには、付着工程での接着剤の飛散による損失や、接着性を担保するための接着剤の過剰な付与も抑制できる。また、合成繊維の紡糸延伸工程において、合成繊維が高温に晒されると毛羽が生じやすくなる虞があった。合成繊維の繊維間への接着剤の浸透性、及び高温毛羽抑制効果の更なる向上が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、合成繊維用処理剤において、所定の化合物を含有する構成が好適であることを見出した。
上記課題を解決する各態様を記載する。
【0008】
態様1の合成繊維用処理剤は、下記の完全エステル化合物(A1)を含む平滑剤(A)、及び下記のジカルボン酸化合物(B)を含有し、更に、ノニオン界面活性剤(C)、及びイオン界面活性剤(D)を含有し、前記イオン界面活性剤(D)が、スルホン酸化合物(D1)、及びリン酸エステル化合物(D2)から選ばれる少なくとも1つを含み、前記スルホン酸化合物(D1)の含有割合が5質量%以下であり、前記リン酸エステル化合物(D2)の含有割合が5質量%以下であることを要旨とする。
【0009】
完全エステル化合物(A1):3価以上4価以下の多価アルコールと1価カルボン酸との完全エステル化合物。
ジカルボン酸化合物(B):分子中に水酸基を0個以上1個以下有する炭素数3以上10以下のジカルボン酸、及びその塩から選ばれる少なくとも1つ。
【0010】
態様2は、態様1に記載の合成繊維用処理剤において、前記ジカルボン酸化合物(B)の炭素数が、4以上6以下である。
態様3は、態様1又は2に記載の合成繊維用処理剤において、前記合成繊維用処理剤の全質量に対して、前記ジカルボン酸化合物(B)を構成するジカルボン酸を0.01質量%以上1質量%以下の割合で含有する。
【0011】
態様4は、態様1~3のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤において、前記合成繊維用処理剤の全質量に対して、前記完全エステル化合物(A1)を25質量%以上70質量%以下の割合で含有する。
【0012】
態様の合成繊維は、態様1~のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤が、付着していることを要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、合成繊維の繊維間への接着剤の浸透性、及び高温毛羽抑制効果を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1実施形態>
以下、本発明の合成繊維用処理剤(以下、処理剤ともいう)を具体化した第1実施形態を説明する。
【0015】
本実施形態の処理剤は、下記の完全エステル化合物(A1)を含む平滑剤(A)、及び下記のジカルボン酸化合物(B)を含有し、更に、ノニオン界面活性剤(C)、及びイオン界面活性剤(D)を含有し、イオン界面活性剤(D)が、スルホン酸化合物(D1)、及びリン酸エステル化合物(D2)から選ばれる少なくとも1つを含み、前記スルホン酸化合物(D1)の含有割合が5質量%以下であり、前記リン酸エステル化合物(D2)の含有割合が5質量%以下である。
【0016】
完全エステル化合物(A1):3価以上4価以下の多価アルコールと1価カルボン酸との完全エステル化合物。
ジカルボン酸化合物(B):分子中に水酸基を0個以上1個以下有する炭素数3以上10以下のジカルボン酸、及びその塩から選ばれる少なくとも1つ。
【0017】
処理剤が上記平滑剤(A)、及びジカルボン酸化合物(B)を含有することにより、合成繊維の繊維間への接着剤の浸透性、及び高温毛羽抑制効果を向上させることができる。
(平滑剤(A))
平滑剤(A)は、上記の完全エステル化合物(A1)を含む。
【0018】
完全エステル化合物(A1)の原料となる3価以上4価以下の多価アルコールの具体例としては、例えば、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、1,2,3-ブタントリオール、1,2,4-ブタントリオール、エリスリトール、1,2,3-ペンタトリオール、1,2,4-ペンタトリオール等が挙げられる。
【0019】
完全エステル化合物(A1)の原料となる1価カルボン酸としては、公知のものを適宜採用でき、飽和カルボン酸であっても、不飽和カルボン酸であってもよい。また、直鎖状のものであっても、分岐鎖構造を有するものであってもよい。
【0020】
カルボン酸の具体例としては、例えば、(1)オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、ヘンイコサン酸、ドコサン酸、テトラコサン酸等の直鎖アルキル脂肪酸、(2)2-エチルヘキサン酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソオクタデカン酸等の分岐アルキル脂肪酸、(3)クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、エイコセン酸、リノール酸、αリノレン酸、γリノレン酸、アラキドン酸等の直鎖アルケニル脂肪酸、(4)ヒマシ油脂肪酸、ゴマ油脂肪酸、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸、ナタネ油脂肪酸、パーム油脂肪酸、パーム核脂肪酸、ヤシ油脂肪酸等の天然由来の脂肪酸等が挙げられる。
【0021】
完全エステル化合物(A1)の具体例としては、例えばトリメチロールプロパンとパーム核脂肪酸のトリエステル、ナタネ油等の植物油、ペンタエリスリトールテトラカプリラート等が挙げられる。
【0022】
これらの完全エステル化合物(A1)は、一種類の完全エステル化合物(A1)を単独で使用してもよいし、又は二種以上の完全エステル化合物(A1)を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0023】
平滑剤(A)は、上記完全エステル化合物(A1)以外に、処理剤の分野において適用される平滑剤(A2)を含有してもよい。平滑剤(A2)としては、例えば鉱物油(動粘度が40℃で5mm/s以上のもの)、ポリオレフィン、完全エステル化合物(A1)以外のエステル化合物等が挙げられる。
【0024】
鉱物油としては、例えば芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素等が挙げられる。より具体的には、例えばスピンドル油、流動パラフィン等が挙げられる。
【0025】
ポリオレフィンは、平滑成分として用いられるポリ-α-オレフィンが適用される。ポリオレフィンの具体例としては、例えば1-ブテン、1-ヘキセン、1-デセン等を重合して得られるポリ-α-オレフィン等が挙げられる。ポリ-α-オレフィンは、市販品を適宜採用できる。
【0026】
平滑剤(A2)の具体例としては、例えばジイソセチルアジパート、オレイルオレアート、ジ(オレイル)チオジプロピオナート等が挙げられる。
上記平滑剤(A)は、一種類の平滑剤(A)を単独で使用してもよいし、又は二種以上の平滑剤(A)を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0027】
処理剤中において、完全エステル化合物(A1)の含有割合の下限は、処理剤の全質量に対して、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。完全エステル化合物(A1)の含有割合の上限は、処理剤の全質量に対して、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。完全エステル化合物(A1)の含有割合が上記数値範囲であると、高温毛羽抑制効果をより向上させることができる。
【0028】
(ジカルボン酸化合物(B))
ジカルボン酸化合物(B)は、分子中に水酸基を0個以上1個以下有する炭素数3以上10以下のジカルボン酸、及びその塩から選ばれる少なくとも1つである。
【0029】
分子中に水酸基を0個以上1個以下有する炭素数3以上10以下のジカルボン酸としては、公知のものを適宜採用でき、飽和カルボン酸であっても、不飽和カルボン酸であってもよい。脂肪族カルボン酸であっても、芳香族カルボン酸であってもよい。炭素数3以上10以下のジカルボン酸としては、例えばマロン酸、コハク酸、オキシコハク酸(リンゴ酸)、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸等の脂肪族カルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族カルボン酸等が挙げられる。
【0030】
上記ジカルボン酸の塩としては、例えばアルカリ金属塩、アミン塩、ホスホニウム塩等が挙げられる。
上記アルカリ金属塩を形成するアルカリ金属としては、例えばナトリウム、カリウム等が挙げられる。
【0031】
上記アミン塩を形成するアミンとしては、例えば、(1)メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、オクチルアミン等の脂肪族アミン類、(2)アニリン、ピリジン、モルホリン、ピペラジン、これらの誘導体等の芳香族アミン類や複素環アミン類、(3)モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ブチルジエタノールアミン、オクチルジエタノールアミン、(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン塩、ラウリルジエタノールアミン等のアルカノールアミン類、(4)アンモニア等が挙げられる。
【0032】
上記ホスホニウム塩を形成するホスホニウム基としては、(1)テトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、トリメチルエチルホスホニウムトリメチルプロピルホスホニウム、トリメチルオクチルホスホニウム、トリメチルドデシルホスホニウム、トリメチルオクタデシルホスホニウム等のリン原子に結合する有機基が全て脂肪族炭化水素基であるホスホニウム基、(2)トリメチルフェニルホスホニウム、トリエチルフェニルホスホニウム、トリブチルフェニルホスホニウム、ジメチルジフェニルホスホニウム、トリフェニルエチルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウム等のリン原子に結合する有機基のうちで少なくとも一つが芳香族炭化水素基であるホスホニウム基等が挙げられる。中和時に水が生成される時は、それが処理剤と混ざってもよく、除去してから処理剤に混合してもよい。また、事前に調製したジカルボン酸の中和物を処理剤に混ぜてもよく、処理剤中で中和させてもよい。ジカルボン酸化合物を処理剤に混ぜるときは、相溶化剤に混ぜてから処理剤に混ぜてもよい。
【0033】
ジカルボン酸化合物(B)の具体例としては、例えばアジピン酸とラウリルアミン1モルに対してエチレンオキサイドを4モル付加したものを1:1molで中和させたもの(以下、アジピン酸ラウリルアミンEO4塩ともいう。)、フマル酸、リンゴ酸、マロン酸ジカリウム塩(マロン酸と水酸化カリウムを1:2molで中和させ、脱水したもの)、セバシン酸ジカリウム塩(セバシン酸と水酸化カリウムを1:2molで中和させ、脱水したもの)等が挙げられる。
【0034】
これらのジカルボン酸化合物(B)は、一種類のジカルボン酸化合物(B)を単独で使用してもよいし、又は二種以上のジカルボン酸化合物(B)を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0035】
ジカルボン酸化合物(B)の炭素数は、好ましくは4以上6以下である。ジカルボン酸化合物(B)の炭素数が、4以上6以下であると、高温毛羽抑制効果をより向上させることができる。
【0036】
処理剤の全質量に対して、ジカルボン酸化合物(B)を構成するジカルボン酸の含有割合の下限は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。ジカルボン酸の含有割合の上限は、処理剤の全質量に対して、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.6質量%以下である。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0037】
ここで、上記「ジカルボン酸化合物(B)を構成するジカルボン酸の含有割合」とは、ジカルボン酸化合物(B)において、対イオンを水素とした時のジカルボン酸の量を意味するものとする。すなわち、ジカルボン酸化合物(B)がジカルボン酸のカリウム塩である場合、カリウムが水素に置き換わったジカルボン酸の含有割合を意味する。
【0038】
ジカルボン酸の含有割合が上記数値範囲であることにより、本発明の効果をより効率的に発現させることができる。ジカルボン酸の含有割合は、処理剤を調製する際の各原料の配合量から算出することができる。また、後述する液体クロマトグラフ質量分析法によって測定することもできる。
【0039】
(ノニオン界面活性剤(C))
処理剤は、さらにノニオン界面活性剤(C)を含有してもよい。処理剤中にノニオン界面活性剤(C)が含まれることにより、処理剤の外観の安定性を高めることができ、また合成繊維に塗布する際の希釈液として、水及び/又は有機溶剤といった極性の異なる溶媒を適用することが可能となる。
【0040】
ノニオン界面活性剤(C)としては、例えばアルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有する化合物、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有するエーテル・エステル化合物、天然油脂にアルキレンオキサイドを付加させた化合物又はその化合物とカルボン酸類とをエステル化させた化合物、アミン化合物として例えば一級有機アミンにアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有する化合物、脂肪酸アミド類にアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有する化合物、アミン化合物とカルボン酸類とを縮合されたアミド化合物、カルボン酸類と多価アルコール等との部分エステル化合物等が挙げられる。
【0041】
ノニオン界面活性剤(C)の原料として用いられるアルコール類の具体例としては、例えば、(1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、トリアコンタノール等の直鎖アルキルアルコール、(2)イソプロパノール、イソブタノール、イソヘキサノール、2-エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソトリアコンタノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール、イソペンタコサノール、イソヘキサコサノール、イソヘプタコサノール、イソオクタコサノール、イソノナコサノール、イソペンタデカノール等の分岐アルキルアルコール、(3)テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、(4)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール、(6)フェノール、ノニルフェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール等が挙げられる。
【0042】
ノニオン界面活性剤(C)の原料として用いられるカルボン酸類の具体例としては、例えば、(1)オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンエイコサン酸、ドコサン酸等の直鎖アルキルカルボン酸、(2)2-エチルヘキサン酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソオクタデカン酸等の分岐アルキルカルボン酸、(3)オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸等の直鎖アルケニルカルボン酸、(4)安息香酸等の芳香族系カルボン酸、(5)リシノール酸等のヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。
【0043】
ノニオン界面活性剤(C)の(ポリ)オキシアルキレン構造を形成する原料として用いられるアルキレンオキサイドとしては、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドが好ましい。アルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数は、適宜設定されるが、好ましくは0.1モル以上250モル以下、より好ましくは1モル以上200モル以下、さらに好ましくは2モル以上150モル以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中における付加対象化合物1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。アルキレンオキサイドは、一種類のアルキレンオキサイドを単独で使用してもよいし、又は二種以上のアルキレンオキサイドを適宜組み合わせて使用してもよい。アルキレンオキサイドが二種類以上適用される場合、それらの付加形態は、ブロック付加、ランダム付加、及びブロック付加とランダム付加の組み合わせのいずれでもよく、特に制限はない。
【0044】
ノニオン界面活性剤(C)の原料として用いられる多価アルコールの具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、グリセリン、ジグリセリン、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0045】
ノニオン界面活性剤(C)の原料として用いられる脂肪族アミン又は一級有機アミンの具体例として、例えばメチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、オクタデシルアミン(ステアリルアミン)、オクタデセニルアミン、ヤシアミン等が挙げられる。
【0046】
ノニオン界面活性剤(C)の原料として用いられる脂肪酸アミドの具体例としては、例えばオクチル酸アミド、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、ベヘン酸アミド、リグノセリン酸アミド等が挙げられる。
【0047】
ノニオン界面活性剤(C)の具体例としては、例えばオレイルアルコール1モルに対しエチレンオキサイド(以下、EOという。)8モル付加したもの、イソトリデカノール1モルに対してプロピレンオキサイド(以下、POという。)12モル付加したものにEO12モルを付加したもの、硬化ひまし油1モルに対しEO10モル付加したもの、硬化ひまし油1モルにEO25モル付加したものをオレイン酸2モルでエステル化した化合物、硬化ひまし油1モルに対しEO20モル付加したものをアジピン酸で架橋し、ステアリン酸で末端エステル化した化合物(質量平均分子量5000)、ソルビタンモノラウラート、ソルビタンモノオレアート1モルにEO8モル付加したもの、ポリエチレングリコール(質量平均分子量400)とオレイン酸のジエステル、ラウリルアミン1モルに対しEO8モル付加したもの、オレイン酸ジエタノールアミド1モルに対しEO3モル付加したもの等が挙げられる。
【0048】
これらのノニオン界面活性剤(C)は、一種類のノニオン界面活性剤(C)を単独で使用してもよいし、又は二種以上のノニオン界面活性剤(C)を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0049】
処理剤中において、ノニオン界面活性剤(C)の含有割合の下限は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。また、かかるノニオン界面活性剤(C)の含有割合の上限は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0050】
ノニオン界面活性剤(C)の含有割合が上記数値範囲であることにより、処理剤の外観の安定性をより高めることができる。また、合成繊維に塗布する際の希釈液として、水や有機溶剤といった極性の異なる溶媒をより適用しやすくなる。
【0051】
(イオン界面活性剤(D))
処理剤は、さらにイオン界面活性剤(D)を含有してもよい。処理剤中にイオン界面活性剤(D)が含まれることにより、合成繊維の紡糸延伸工程において、処理剤を付着させた合成繊維が延伸ローラやガイドを通過した際に発生する静電気を抑制することができる。
【0052】
イオン界面活性剤(D)としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。
アニオン界面活性剤としては、公知のものを適宜採用できる。アニオン界面活性剤の具体例としては、例えば(1)ラウリルリン酸エステル塩、セチルリン酸エステル塩、オクチルリン酸エステル塩、オレイルリン酸エステル塩、ステアリルリン酸エステル塩等の脂肪族アルコールのリン酸エステル塩、(2)ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸エステル塩等の脂肪族アルコールにエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを付加したもののリン酸エステル塩、(3)ラウリルスルホン酸塩、ミリスチルスルホン酸塩、セチルスルホン酸塩、オレイルスルホン酸塩、ステアリルスルホン酸塩、テトラデカンスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、二級アルキルスルホン酸(C13以上15以下)塩、二級アルキルスルホン酸(C11以上14以下)塩、α-オレフィンスルホン酸塩等の脂肪族スルホン酸塩又は芳香族スルホン酸塩、(4)ラウリル硫酸エステル塩、オレイル硫酸エステル塩、ステアリル硫酸エステル塩等の脂肪族アルコールの硫酸エステル塩、(5)ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン)ラウリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸エステル塩等の脂肪族アルコールにエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを付加したものの硫酸エステル塩、(6)ひまし油脂肪酸硫酸エステル塩、ごま油脂肪酸硫酸エステル塩、トール油脂肪酸硫酸エステル塩、大豆油脂肪酸硫酸エステル塩、なたね油脂肪酸硫酸エステル塩、パーム油脂肪酸硫酸エステル塩等の脂肪酸の硫酸エステル塩、(7)ひまし油の硫酸エステル塩、ごま油の硫酸エステル塩、トール油の硫酸エステル塩、大豆油の硫酸エステル塩、菜種油の硫酸エステル塩、パーム油の硫酸エステル塩等の油脂の硫酸エステル塩、(8)ラウリン酸塩、オレイン酸塩、ステアリン酸塩等の脂肪酸塩、(9)ジオクチルスルホコハク酸塩等の脂肪族アルコールのスルホコハク酸エステル塩等が挙げられる。アニオン界面活性剤の対イオンとしては、例えばカリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミン塩、(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン塩、ジブチルエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩等が挙げられる。
【0053】
アニオン界面活性剤としては、高温毛羽抑制効果をより向上させる観点から、上記(3)のスルホン酸塩と、上記(1)又は(2)のリン酸エステル塩とから選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。なお、スルホン酸塩、リン酸エステル塩は、それぞれスルホン酸化合物(D1)、リン酸エステル化合物(D2)ともいうものとする。
【0054】
イオン界面活性剤(D)が、スルホン酸化合物(D1)、及びリン酸エステル化合物(D2)から選ばれる少なくとも1つを含むことにより、高温毛羽抑制効果をより向上させることができる。
【0055】
スルホン酸化合物(D1)の具体例としては、例えば2級アルカンスルホン酸ナトリウム塩(アルカンの炭素数が11以上14以下であるもの)、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム塩、α-オレフィンスルホン酸ナトリウム塩等が挙げられる。
【0056】
リン酸エステル化合物(D2)の具体例としては、例えばオレイルアルコールEO6モル付加物のリン酸エステル-トリエタノールアミン塩、イソセチルリン酸エステル-ジブチルエタノールアミン塩等が挙げられる。
【0057】
アニオン界面活性剤は、スルホン酸化合物(D1)、及びリン酸エステル化合物(D2)以外のアニオン界面活性剤(D3)を含有してもよい。アニオン界面活性剤(D3)の具体例としては、例えばラウリル硫酸ナトリウム塩が挙げられる。
【0058】
これらのアニオン界面活性剤は、一種類のアニオン界面活性剤を単独で使用してもよいし、又は二種以上のアニオン界面活性剤を適宜組み合わせて使用してもよい。
カチオン界面活性剤の具体例としては、例えばラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0059】
両性界面活性剤の具体例としては、例えばベタイン型両性界面活性剤等が挙げられる。
これらのイオン界面活性剤(D)は、一種類のイオン界面活性剤(D)を単独で使用してもよいし、又は二種以上のイオン界面活性剤(D)を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0060】
処理剤中において、イオン界面活性剤(D)の含有割合の下限は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上である。また、かかるイオン界面活性剤(D)の含有割合の上限は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは6質量%以下である。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0061】
処理剤中において、スルホン酸化合物(D1)の含有割合の下限は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上である。また、かかるスルホン酸化合物(D1)の含有割合の上限は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0062】
処理剤中において、リン酸エステル化合物(D2)の含有割合の下限は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上である。また、かかるリン酸エステル化合物(D2)の含有割合の上限は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0063】
スルホン酸化合物(D1)、リン酸エステル化合物(D2)、又はイオン界面活性剤(D)の含有割合が上記数値範囲であることにより、処理剤を付着させた合成繊維が延伸ローラやガイドを通過した際に発生する静電気をより好適に抑制することができる。
【0064】
(その他成分(E))
処理剤は、さらにその他成分(E)を含有してもよい。その他成分としては特に制限されず、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ポリエーテル変性シリコーン、ジメチルポリシロキサン、6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルアニリノ)-2,4-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン等が挙げられる。また、保管時の外観の安定性等を高める観点から、処理剤と水を予め混合させておいてもよく、その場合、処理剤と水の混合比率は、(処理剤の質量/水の質量)=85/15~99.9/0.1であることが好ましい。
【0065】
<第2実施形態>
次に、本発明による合成繊維を具体化した第2実施形態を説明する。本実施形態の合成繊維は、第1実施形態の処理剤が付着している合成繊維である。処理剤を合成繊維に付着させる際の形態としては、希釈溶媒で希釈した希釈液、例えば有機溶媒溶液、水性液等として付与してもよい。希釈溶媒には、処理剤の繊維への付着性と経済性の観点から炭素数10以上15以下の炭化水素や、水を使用することが好ましい。合成繊維は、水性液等の希釈液を、例えば紡糸又は延伸工程等において合成繊維に付着させる工程を経て得られる。合成繊維に付着した希釈液は、延伸工程、乾燥工程により希釈溶媒を蒸発させてもよい。付着させる工程も紡糸工程であれば特に制限はない。延伸もしくは熱処理工程において、200℃以上のローラーを通過させる工程を有する製造設備、工程での使用により、発明の効果がより期待できる。
【0066】
本実施形態の処理剤が付与される合成繊維の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)ポリエチレンテレフタラート、ポリトリメチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、ポリ乳酸、これらのポリエステル系樹脂を含有して成る複合繊維等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維等が挙げられる。これらの中でポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維に適用されることが好ましい。
【0067】
処理剤を合成繊維に付着させる割合に特に制限はないが、処理剤を合成繊維に対し0.1質量%以上3質量%以下の割合(水等の溶媒を含まない割合)となるよう付着させることが好ましい。かかる構成により、本発明の効果をより向上させる。また、処理剤を付着させる方法は、特に制限はなく、例えばローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、浸漬給油法、スプレー給油法等の公知の方法を採用できる。
【0068】
本発明において、合成繊維の用途としては、特に限定されないが、産業資材に用いられる合成繊維が好ましい。例えばエアバッグ用繊維、シートベルト用繊維、タイヤコード用繊維、カーペット用繊維、テント用繊維、広告布用繊維、漁網用繊維、コンベアベルト用繊維、ロープ用繊維等の自動車、建築、商業、農業・水産業、土木等の分野で使用される合成繊維がより好ましい。
【0069】
上記の産業資材のうち、ゴム製品の補強材として用いる場合において、ゴム材との接着に使用される接着剤は特に制限されない。ゴム材との接着に使用される公知の接着剤を使用することができる。ゴム材との接着に使用される公知の接着剤としては、例えばエポキシ化合物、イソシアネート化合物、レゾルシン・ホルムアルデヒド・ラテックス(RFL)溶液等が挙げられる。これらの中でも、エポキシ化合物が好ましい。また、これら接着剤の混合物や接着剤と界面活性剤の混合物等も挙げられる。また、接着剤を付与する際に、水や有機溶剤で希釈した溶液を付与させてもよく、そのままの状態で付着させてもよい。
【0070】
本発明の処理剤、及び接着剤を、合成繊維に付着させる手順は特に制限されない。
例えば製糸時に合成繊維に処理剤を付着させた後、合成繊維の撚糸を製織して織物を作製する。この織物に接着剤を塗布して、織物とゴム材を接着してもよい。または、処理剤と接着剤とを予め混合して混合液を作製する。製糸時に混合液を合成繊維に付着させた後、合成繊維の撚糸を製織して織物を作製する。この織物とゴム材を接着してもよい。または、製糸時に処理剤と接着剤を個別に合成繊維に付着させた後、合成繊維の撚糸を製織して織物を作製する。この織物とゴム材を接着してもよい。また、ゴム材との接着は、織物でだけでなく原糸や撚糸に対しても行われる。原糸に接着剤を付与する時は、延伸前であっても、延伸後であってもよい。製糸した後、接着剤を付与して再度巻き取りなおしてもよい。
【0071】
<効果>
上記実施形態の処理剤及び合成繊維の効果について説明する。
(1)上記実施形態の処理剤では、下記の完全エステル化合物(A1)を含む平滑剤(A)、及び下記のジカルボン酸化合物(B)を含有する。
【0072】
完全エステル化合物(A1):3価以上4価以下の多価アルコールと1価カルボン酸との完全エステル化合物。
ジカルボン酸化合物(B):分子中に水酸基を0個以上1個以下有する炭素数3以上10以下のジカルボン酸、及びその塩から選ばれる少なくとも1つ。
【0073】
したがって、合成繊維の繊維間への接着剤の浸透性、及び高温毛羽抑制効果を向上させることができる。
(2)ジカルボン酸化合物(B)の炭素数が、4以上6以下である。したがって、高温毛羽抑制効果をより向上させることができる。
【0074】
(3)合成繊維用処理剤の全質量に対して、ジカルボン酸化合物(B)を構成するジカルボン酸を0.01質量%以上1質量%以下の割合で含有する。したがって、本発明の効果をより効率的に発現させることができる。
【0075】
(4)合成繊維用処理剤の全質量に対して、完全エステル化合物(A1)を25質量%以上70質量%以下の割合で含有する。したがって、高温毛羽抑制効果をより向上させることができる。
【0076】
(5)ノニオン界面活性剤(C)、及びイオン界面活性剤(D)を含有する。したがって、処理剤の外観の安定性を高めることができ、また合成繊維に塗布する際の希釈液として、水及び/又は有機溶剤といった極性の異なる溶媒を適用することが可能となる。また、処理剤を付着させた合成繊維が延伸ローラやガイドを通過した際に発生する静電気を抑制することができる。
【0077】
(6)イオン界面活性剤(D)が、スルホン酸化合物(D1)、及びリン酸エステル化合物(D2)から選ばれる少なくとも1つを含むことにより、高温毛羽抑制効果をより向上させることができる。
【0078】
<変更例>
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
【0079】
・上記実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の製造途中又は製造後に、処理剤の品質保持のための上記以外の安定化剤、制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、防腐剤、防錆剤等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【0080】
・上記実施形態の処理剤は、上述したノニオン界面活性剤(C)、及びイオン界面活性剤(D)を配合しなくてもよい。また、処理剤は、ノニオン界面活性剤(C)、及びイオン界面活性剤(D)を両方配合してもよく、ノニオン界面活性剤(C)、及びイオン界面活性剤(D)のいずれか一方を配合してもよい。
【0081】
・上記実施形態の処理剤において、イオン界面活性剤(D)は、スルホン酸化合物(D1)、及びリン酸エステル化合物(D2)以外であってもよい。
・上記実施形態の処理剤において、その他成分(E)は省略されていてもよい。
【実施例0082】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、特に限定のない限り、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0083】
試験区分1(処理剤の調製)
(実施例1)
表1に示されるように、平滑剤(A)である完全エステル化合物(A1)としてトリメチロールプロパンとパーム核脂肪酸のトリエステル(A1-1)を40部(%)、ペンタエリスリトールテトラカプリラート(A1-3)を20部(%)、ジカルボン酸化合物(B)としてアジピン酸ラウリルアミンEO4塩(B-1)を0.1部(%)、ノニオン界面活性剤(C)としてイソトリデカノール1モルに対してPO12モル付加したものにEO12モルを付加したもの(C-2)を10部(%)、硬化ひまし油1モルに対しEO10モル付加したもの(C-3)を10部(%)、硬化ひまし油1モルにEO25モル付加したものをオレイン酸2モルでエステル化した化合物(C-4)を14部(%)、ラウリルアミン1モルに対しEO8モル付加したもの(C-9)を2部(%)、イオン界面活性剤(D)であるスルホン酸化合物(D1)として2級アルカンスルホン酸ナトリウム塩(アルカンの炭素数が11以上14以下であるもの)(D1-1)を1.85部(%)、リン酸エステル化合物(D2)としてイソセチルリン酸エステル-ジブチルエタノールアミン塩(D2-2)を2部(%)、その他成分(E)として、ジメチルポリシロキサン(E-2)を0.05部(%)とを含む実施例1の処理剤を調製した。
【0084】
(実施例2~7、参考例8~11、比較例1~5)
実施例2~7、参考例8~11、比較例1~5の処理剤は、実施例1の処理剤と同様にして、平滑剤(A)、ジカルボン酸化合物(B)、ノニオン界面活性剤(C)、イオン界面活性剤(D)、及びその他成分(E)を表1に示した割合で含むように調製した。
【0085】
平滑剤(A)の種類と含有量、ジカルボン酸化合物(B)の種類と含有量、ノニオン界面活性剤(C)の種類と含有量、イオン界面活性剤(D)の種類と含有量、その他成分(E)の種類と含有量を、表1の「平滑剤(A)」欄、「ジカルボン酸化合物(B)」欄、「ノニオン界面活性剤(C)」欄、「イオン界面活性剤(D)」欄、「その他成分(E)」欄にそれぞれ示す。
【0086】
【表1】
表1に記載する平滑剤(A)、ジカルボン酸化合物(B)、ノニオン界面活性剤(C)、イオン界面活性剤(D)、その他成分(E)の詳細は以下のとおりである。
【0087】
<平滑剤(A)>
(完全エステル化合物(A1))
A1-1:トリメチロールプロパンとパーム核脂肪酸のトリエステル
A1-2:ナタネ油
A1-3:ペンタエリスリトールテトラカプリラート
(A1以外の平滑剤(A2))
A2-1:ジイソセチルアジパート
A2-2:オレイルオレアート
A2-3:ジ(オレイル)チオジプロピオナート
<ジカルボン酸化合物(B)>
B-1:アジピン酸ラウリルアミンEO4塩(アジピン酸とラウリルアミン1モルに対しエチレンオキサイドを4モル付加したものを1:1molで中和させたもの)
B-2:フマル酸
B-3:リンゴ酸
B-4:マロン酸ジカリウム塩(マロン酸と水酸化カリウムを1:2molで中和させ、脱水したもの)
B-5:セバシン酸ジカリウム塩(セバシン酸と水酸化カリウムを1:2molで中和させ、脱水したもの)
<Bとは異なるカルボン酸化合物(rB)>
rB-1:ドデセニルコハク酸ジカリウム塩(ドデセニルコハク酸と水酸化カリウムを1:2molで中和させ、脱水したもの)
rB-2:酒石酸トリエタノールアミン塩(酒石酸とトリエタノールアミンを1:2molで中和させたもの)
rB-3:オレイン酸カリウム塩(オレイン酸と水酸化カリウムを1:1molで中和させ、脱水したもの)
<ノニオン界面活性剤(C)>
C-1:オレイルアルコール1モルに対しEO8モル付加したもの
C-2:イソトリデカノール1モルに対してPO12モル付加したものにEO12モルを付加したもの
C-3:硬化ひまし油1モルに対しEO10モル付加したもの
C-4:硬化ひまし油1モルにEO25モル付加したものをオレイン酸2モルでエステル化した化合物
C-5:硬化ひまし油1モルに対しEO20モル付加したものをアジピン酸で架橋し、ステアリン酸で末端エステル化した化合物(質量平均分子量5000)
C-6:ソルビタンモノラウラート
C-7:ソルビタンモノオレアート1モルにEO8モル付加したもの
C-8:ポリエチレングリコール(質量平均分子量400)とオレイン酸のジエステル
C-9:ラウリルアミン1モルに対しEO8モル付加したもの
C-10:オレイン酸ジエタノールアミド1モルに対しEO3モル付加したもの
<イオン界面活性剤(D)>
(スルホン酸化合物(D1))
D1-1:2級アルカンスルホン酸ナトリウム塩(アルカンの炭素数が11以上14以下であるもの)
D1-2:ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム塩
D1-3:α-オレフィンスルホン酸ナトリウム塩
(リン酸エステル化合物(D2))
D2-1:オレイルアルコールEO6モル付加物のリン酸エステル-トリエタノールアミン塩
D2-2:イソセチルリン酸エステル-ジブチルエタノールアミン塩
(D1、D2以外のイオン界面活性剤(D3))
D3-1:ラウリル硫酸ナトリウム塩
<その他成分(E)>
E-1:ポリエーテル変性シリコーン
E-2:ジメチルポリシロキサン
E-3:6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルアニリノ)-2,4-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン
<ジカルボン酸の含有割合の測定方法>
処理剤の全質量に対して、ジカルボン酸化合物(B)を構成するジカルボン酸の含有割合は、液体クロマトグラフ質量分析法(以下、LC/MSという。)によって測定することができる。
【0088】
LC/MSの測定は、下記の条件で行った。
・液体クロマトグラフ(LC)
使用装置:Waters社製のUPLC H-Class
分析カラム:Shodex社製のRSpak DE-213(内径2.0mm×長さ150mm)
カラム温度:40℃
移動相A液:0.1質量%ギ酸超純水溶液
移動相B液:0.1質量%ギ酸アセトニトリル溶液
グラジエント条件:0分(A/B=95vol%)→5分(A/B=95vol%)→20分(A/B=5vol%)→30分(A/B=5vol%)
流速:0.2mL/min
・質量分析(MS)
使用装置:Waters社製のSQD2
イオン化モード:ESI SIM Negative
処理剤に用いたジカルボン酸化合物(B)のジカルボン酸を標品として検量線を作成し、処理剤中のジカルボン酸量を測定した。結果を表1の「処理剤の全質量に対するジカルボン酸の比率」欄に示す。測定されたジカルボン酸量は、処理剤を調製する際のジカルボン酸化合物(B)の配合量から計算されるジカルボン酸量と略同じであった。
【0089】
試験区分2(高温毛羽抑制効果の評価)
調製した各合成繊維用処理剤をイオン交換水で希釈して15%溶液とした。1000デシテックス、126フィラメント、固有粘度0.93の無給油のポリエチレンテレフタラート繊維に、上記の溶液をガイド給油法にて不揮発分として付与量0.6質量%となるように付与した。溶液を付着させたポリエチレンテレフタラート繊維を、初期張力1.5kg、糸速度300m/分で、表面温度220℃の梨地クロムピンに接触させて走行させた。ピン接触後の繊維の毛羽数を毛羽計数装置(東レエンジニアリング社製)にて10分間当たりの毛羽数を測定し、次の評価基準で評価した。結果を表1の「高温毛羽」欄に示す。
【0090】
なお、本発明において、高温毛羽抑制効果における高温とは、200℃以上を意味するものとする。
・高温毛羽抑制効果の評価基準
◎◎(優れる):毛羽数が5個未満である場合
◎(良好):毛羽数が5個以上8個未満である場合
○(可):毛羽数が8個以上10個未満である場合
×(不可):毛羽数が10個以上である場合
試験区分3(浸透性の評価)
調製した各合成繊維用処理剤をイオン交換水で希釈して10%溶液とした。この溶液に、公知の接着剤として、エポキシ化合物であるポリグリセロールポリグリシジルエーテルを、濃度が5%となるように添加した。溶液を混合して、水性液を調製した。洗浄済みポリエステルタフタを用意した。調製した水性液5μLを、ポリエステルタフタ上に滴下した。ポリエステルタフタ上の水性液を目視で確認した。滴下直後の水性液は液滴状であるが、ポリエステルタフタに浸透することによって液滴は消失する。液滴が消失するまでの時間を計測し、次の評価基準で評価した。結果を表1の「浸透性」欄に示す。
【0091】
・浸透性の評価基準
○(可):280秒未満である場合
×(不可):280秒以上である場合
なお、浸透性の評価は、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルとポリエステルタフタを用いて行ったが、本発明の効果はポリグリセロールポリグリシジルエーテルとポリエステルタフタを用いた態様に限定されない。合成繊維に対する接着剤の浸透性を評価するうえで、便宜上ポリグリセロールポリグリシジルエーテルとポリエステルタフタを用いた。
【0092】
表1の結果からも明らかなように、各実施例の処理剤は、高温毛羽抑制効果、及び浸透性の評価がいずれも可以上であった。本発明によれば、合成繊維の繊維間への接着剤の浸透性、及び高温毛羽抑制効果を向上させることができる。