(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183605
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】乗客コンベアのトラス変位抑制装置
(51)【国際特許分類】
B66B 23/00 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
B66B23/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097203
(22)【出願日】2022-06-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】井上 昭彦
【テーマコード(参考)】
3F321
【Fターム(参考)】
3F321AA04
3F321CD20
3F321GA37
(57)【要約】
【課題】建築部に対するトラスの変位を抑制することができる乗客コンベアのトラス変位抑制装置を得る。
【解決手段】乗客コンベアのトラス変位抑制装置7は、ベアリングプレート51の上面に固定されている突起部材71と、ベアリングプレート51に支持された上部支持アングル12を突起部材71に連結している棒状部材72とを備えている。上部支持アングル12は、トラス本体端部111に固定された上部固定部121を有している。突起部材71は、トラス本体11の長手方向において上部固定部121に対向している。棒状部材72は、トラス本体11の長手方向において上部固定部121が上部建築梁10から離れている状態で、突起部材71及び上部固定部121に固定されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築部に固定されたベアリングプレートの上面に固定されている突起部材と、
前記ベアリングプレートに支持された掛かり部材を前記突起部材に連結している棒状部材と
を備え、
前記掛かり部材は、トラス本体の長手方向の端部であるトラス本体端部に固定された固定部を有しており、
前記突起部材は、前記トラス本体の長手方向において前記固定部に対向しており、
前記棒状部材は、前記トラス本体の長手方向において前記固定部が前記建築部から離れている状態で、前記突起部材及び前記固定部に固定されている乗客コンベアのトラス変位抑制装置。
【請求項2】
前記棒状部材は、ねじ棒であり、
前記ねじ棒は、前記ねじ棒に取り付けられた複数のナットによって前記固定部及び前記突起部材に固定されている請求項1に記載の乗客コンベアのトラス変位抑制装置。
【請求項3】
前記棒状部材の強度は、前記トラス本体の強度よりも小さくなっている請求項1又は請求項2に記載の乗客コンベアのトラス変位抑制装置。
【請求項4】
前記トラス本体端部の内部には、機械室が設けられており、
前記トラス本体端部には、前記機械室から前記棒状部材に向けて開放された開口部が設けられている請求項1又は請求項2に記載の乗客コンベアのトラス変位抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、乗客コンベアのトラス変位抑制装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、受け梁に対するトラスの掛かり代を計測するために、目盛りの付いた計測棒を受け梁に水平に押し付けた状態で、受け梁からトラスの定点までの長さを計測棒によって計測する乗客コンベアの掛かり代変位確認方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に示されている従来の乗客コンベアでは、受け梁に対するトラスの変位を抑制することができない。このため、例えば地震が発生した場合、小規模地震であっても、受け梁に対してトラスが大きく変位してしまい、乗降口における床板などの部品にトラスが接触して部品が破損してしまうおそれがある。
【0005】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、建築部に対するトラスの変位を抑制することができる乗客コンベアのトラス変位抑制装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る乗客コンベアのトラス変位抑制装置は、建築部に固定されたベアリングプレートの上面に固定されている突起部材と、ベアリングプレートに支持された掛かり部材を突起部材に連結している棒状部材とを備え、掛かり部材は、トラス本体の長手方向の端部であるトラス本体端部に固定された固定部を有しており、突起部材は、トラス本体の長手方向において固定部に対向しており、棒状部材は、トラス本体の長手方向において固定部が建築部から離れている状態で、突起部材及び固定部に固定されている。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る乗客コンベアのトラス変位抑制装置によれば、建築部に対するトラスの変位を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1によるエスカレータを示す側面図である。
【
図4】
図3の下部建築梁が通常設置状態から下部固定部に近づいている状態を示す拡大図である。
【
図5】
図4の下部建築梁が下部固定部に接触した状態を示す拡大図である。
【
図6】
図2の棒状部材が破損した状態を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1によるエスカレータを示す側面図である。図において、乗客コンベアとしてのエスカレータは、上階と下階との間に設置されている。上階には、建築部としての上部建築梁10が設けられている。下階には、建築部としての下部建築梁20が設けられている。エスカレータのトラス1は、上部建築梁10と下部建築梁20との間に懸架されている。
【0010】
トラス1には、無端状に連結された複数の踏段2が支持されている。複数の踏段2は、トラス1内に設置された図示しない駆動機の駆動力により、上階と下階との間で循環移動する。
【0011】
トラス1上には、一対の欄干3が設けられている。一対の欄干3のそれぞれは、トラス1の長手方向に沿って配置されている。トラス1の長手方向は、上部建築梁10と下部建築梁20とを結ぶ仮想線に沿った方向である。一対の欄干3は、トラス1の幅方向において互いに対向している。トラス1の幅方向は、トラス1の長手方向に直交しかつ水平な方向である。各欄干3の外周部には、複数の踏段2と同期して移動する移動手摺4が設けられている。
【0012】
トラス1は、トラス本体11と、上部支持アングル12と、下部支持アングル13とを有している。
【0013】
トラス本体11は、複数のアングル材が組み合わされて構成された構造体である。トラス本体11の長手方向は、トラス1の長手方向と一致している。トラス本体11の幅方向は、トラス1の幅方向と一致している。
【0014】
トラス本体11の長手方向の一端部は、トラス本体11の長手方向において、上部建築梁10に上部トラス本体端部111として対向している。トラス本体11の長手方向の他端部は、トラス本体11の長手方向において、下部建築梁20に下部トラス本体端部112として対向している。
【0015】
上部トラス本体端部111の内部には、上部機械室14が設けられている。下部トラス本体端部112の内部には、下部機械室15が設けられている。駆動機は、上部機械室14に設置されている。
【0016】
上部支持アングル12は、上部トラス本体端部111に掛かり部材として固定されている。下部支持アングル13は、下部トラス本体端部112に掛かり部材として固定されている。上部支持アングル12及び下部支持アングル13のそれぞれは、トラス本体11の幅方向に沿って配置されている。
【0017】
上部建築梁10には、上部トラス支持装置5が設けられている。上部トラス支持装置5は、上部支持アングル12を支持している。下部建築梁20には、下部トラス支持装置6が設けられている。下部トラス支持装置6は、下部支持アングル13を支持している。トラス1を含むエスカレータの荷重は、上部トラス支持装置5及び下部トラス支持装置6によって支持されている。
【0018】
上部支持アングル12と上部トラス支持装置5との間には、複数のトラス変位抑制装置7が設けられている。各トラス変位抑制装置7は、上部建築梁10に対するトラス1の変位を抑制する。本実施の形態では、トラス変位抑制装置7の数が2つとなっている。
【0019】
図2は、
図1のII部を示す拡大図である。上部支持アングル12は、上部固定部121と、上部突出部122とを有している。
【0020】
上部固定部121は、上部トラス本体端部111の端面の上部に固定された板状部である。上部固定部121は、上部トラス本体端部111の端面に沿って配置されている。
【0021】
上部突出部122は、上部固定部121の上端部からトラス本体11の長手方向の外側へ突出している。トラス本体11の幅方向に直交する平面における上部支持アングル12の断面形状は、上部固定部121及び上部突出部122によってL字状となっている。
【0022】
上部突出部122は、水平板部122aと、複数の補強部122bとを有している。水平板部122aは、トラス本体11の幅方向に沿って配置されている。複数の補強部122bは、水平板部122aの下面に設けられている。複数の補強部122bは、トラス本体11の幅方向において互いに間隔をあけて配置されている。
【0023】
上部トラス支持装置5は、ベアリングプレート51と、複数のスペーサ52とを有している。
【0024】
ベアリングプレート51は、上部建築梁10の上面に固定されている。本実施の形態では、上部固定部121に対向するベアリングプレート51の端面の位置と、上部固定部121に対向する上部建築梁10の端面の位置とが、トラス本体11の長手方向において同位置となっている。なお、上部固定部121に対向する上部建築梁10の端面の位置が、上部固定部121に対向するベアリングプレート51の端面の位置よりも、上部固定部121に近い位置であってもよい。
【0025】
複数のスペーサ52は、ベアリングプレート51の上面に互いに重なった状態で配置されている。また、複数のスペーサ52は、上部突出部122の下面とベアリングプレート51の上面との間に介在している。本実施の形態では、各補強部122bの下面とベアリングプレート51の上面との間に複数のスペーサ52が介在している。上部突出部122は、複数のスペーサ52を介してベアリングプレート51に載せられている。これにより、上部支持アングル12は、複数のスペーサ52を介してベアリングプレート51に支持されている。
【0026】
上部固定部121は、トラス本体11の長手方向において、ベアリングプレート51及び上部建築梁10のそれぞれから離れて配置されている。エスカレータの通常設置状態では、上部建築梁10及びベアリングプレート51のそれぞれと上部固定部121との間にトラス上部隙間としての隙間が存在している。また、エスカレータの通常設置状態では、上部建築梁10及びベアリングプレート51のそれぞれから上部固定部121までの距離、即ちトラス上部隙間の寸法が上部隙間基準値d1となっている。
【0027】
トラス変位抑制装置7は、トラス本体11の幅方向において、上部支持アングル12の両端部にそれぞれ配置されている。各トラス変位抑制装置7は、突起部材71と、棒状部材72とを有している。
【0028】
突起部材71は、ベアリングプレート51の上面に固定されている。本実施の形態では、突起部材71が直方体状のブロックである。突起部材71は、水平板部122aの下面とベアリングプレート51の上面との間に配置されている。突起部材71は、トラス本体11の長手方向において上部固定部121に対向している。これにより、突起部材71は、上部固定部121からトラス本体11の長手方向へ離れて配置されている。
【0029】
棒状部材72は、トラス本体11の長手方向において上部固定部121が上部建築梁10から離れている状態で、突起部材71及び上部固定部121に固定されている。これにより、棒状部材72は、上部固定部121を突起部材71に連結している。
【0030】
本実施の形態では、棒状部材72がトラス1の長手方向に沿って水平に配置されている。また、本実施の形態では、棒状部材72がねじ棒となっている。突起部材71には、棒状部材72が通された貫通孔が建築側通し穴として設けられている。
【0031】
上部トラス本体端部111を構成する複数のアングル材のうち、トラス本体11の幅方向の両端部に位置するアングル材は、一対の上部縦アングル材111aとして配置されている。トラス本体11の幅方向における上部固定部121の両端部は、各上部縦アングル材111aに固定されている。上部縦アングル材111a及び上部固定部121には、棒状部材72が通された貫通孔がトラス側通し穴として設けられている。
【0032】
棒状部材72は、突起部材71の建築側通し穴と、上部縦アングル材111a及び上部固定部121のトラス側通し穴とに通された状態で、トラス本体11の長手方向に沿って配置されている。
【0033】
棒状部材72には、複数のナット73が取り付けられている。棒状部材72は、突起部材71を挟む2つのナット73によって突起部材71に固定されている。また、棒状部材72は、上部縦アングル材111a及び上部固定部121を挟む2つのナット73によって上部縦アングル材111a及び上部固定部121に固定されている。
【0034】
棒状部材72の強度は、トラス本体11の強度よりも小さくなっている。これにより、棒状部材72及びトラス1に過大な力が加わった場合、トラス1よりも棒状部材72が破損しやすくなっている。本実施の形態では、棒状部材72の長手方向における棒状部材72の圧縮強度が、トラス本体11の長手方向におけるトラス本体11の圧縮強度よりも小さくなっている。これにより、本実施の形態では、棒状部材72及びトラス1に過大な圧縮力が加わった場合、トラス1よりも棒状部材72が破損しやすくなっている。
【0035】
上部トラス本体端部111には、上部トラス本体端部111を構成する複数のアングル材に囲まれた開口部111bが設けられている。開口部111bは、上部機械室14から棒状部材72に向けて開放されている。これにより、上部機械室14に入った作業者は、上部機械室から開口部111bを通して目視によって棒状部材72の状態を確認することができる。
【0036】
図3は、
図1のIII部を示す拡大図である。下部支持アングル13は、下部固定部131と、下部突出部132とを有している。
【0037】
下部固定部131は、下部トラス本体端部112の端面の上部に固定された板状部である。下部固定部131は、下部トラス本体端部112の端面に沿って配置されている。
【0038】
下部トラス本体端部112を構成する複数のアングル材のうち、トラス本体11の幅方向の両端部に位置するアングル材は、一対の下部縦アングル材112aとして配置されている。トラス本体11の幅方向における下部固定部131の両端部は、各下部縦アングル材112aに固定されている。
【0039】
下部突出部132は、下部固定部131の上端部からトラス本体11の長手方向の外側へ突出している。トラス本体11の幅方向に直交する平面における下部支持アングル13の断面形状は、下部固定部131及び下部突出部132によってL字状となっている。
【0040】
下部突出部132は、水平板部132aと、複数の補強部132bとを有している。水平板部132aは、トラス本体11の幅方向に沿って配置されている。複数の補強部132bは、水平板部132aの下面に設けられている。複数の補強部132bは、トラス本体11の幅方向において互いに間隔をあけて配置されている。
【0041】
下部トラス支持装置6は、ベアリングプレート61と、複数のスペーサ62とを有している。
【0042】
ベアリングプレート61は、下部建築梁20の上面に固定されている。本実施の形態では、下部固定部131に対向するベアリングプレート61の端面の位置と、下部固定部131に対向する下部建築梁20の端面の位置とが、トラス本体11の長手方向において同位置となっている。なお、下部固定部131に対向する下部建築梁20の端面の位置が、下部固定部131に対向するベアリングプレート61の端面の位置よりも、下部固定部131に近い位置であってもよい。
【0043】
複数のスペーサ62は、ベアリングプレート61の上面に互いに重なった状態で配置されている。また、複数のスペーサ62は、下部突出部132の下面とベアリングプレート61の上面との間に介在している。本実施の形態では、各補強部132bの下面とベアリングプレート51の上面との間に複数のスペーサ62が介在している。下部突出部132は、複数のスペーサ62を介してベアリングプレート61に載せられている。これにより、下部支持アングル13は、複数のスペーサ62を介してベアリングプレート61に支持されている。
【0044】
下部固定部131は、トラス本体11の長手方向において、ベアリングプレート61及び下部建築梁20のそれぞれから離れて配置されている。エスカレータの通常設置状態では、下部建築梁20及びベアリングプレート61のそれぞれと下部固定部131との間にトラス下部隙間としての隙間が存在している。また、エスカレータの通常設置状態では、下部建築梁20及びベアリングプレート61のそれぞれから下部固定部131までの距離、即ちトラス下部隙間の寸法が下部隙間基準値d2となっている。
【0045】
下部トラス支持装置6と下部支持アングル13との間には、トラス変位抑制装置は設けられていない。これにより、下部支持アングル13は、下部トラス支持装置6に支持されたまま、トラス下部隙間の寸法が変化する方向へ下部トラス支持装置6及び下部建築梁20に対して変位可能になっている。
【0046】
次に、動作について説明する。エスカレータが設置されている建物が地震の発生などによって揺れると、上部建築梁10と下部建築梁20との間の水平距離が変化する。このとき、上階では、上部トラス支持装置5と上部支持アングル12とがトラス変位抑制装置7によって連結されているため、トラス上部隙間の寸法は上部隙間基準値d1に維持される。一方、下階では、トラス下部隙間の寸法が下部隙間基準値d2から変化し、下部建築梁20がトラス1に対して水平方向へ変位する。
【0047】
図4は、
図3の下部建築梁20が通常設置状態から下部固定部131に近づいている状態を示す拡大図である。小規模地震又は中規模地震が発生した場合には、上部建築梁10と下部建築梁20との間の水平距離の変化量がトラス下部隙間の下部隙間基準値d2よりも小さい。このため、小規模地震又は中規模地震が発生しても、トラス下部隙間がなくなることはなく、下部建築梁20が下部固定部131に接触することはない。これにより、トラス変位抑制装置7及びトラス1が上部建築梁10及び下部建築梁20から圧縮力を受けることが回避され、トラス変位抑制装置7及びトラス1が破損することが防止される。なお、
図4では、トラス1に対する下部建築梁20の変位により、トラス下部隙間の寸法が下部隙間基準値d2よりも小さい値d3となっている。
【0048】
一方、大規模地震が発生した場合には、上部建築梁10と下部建築梁20との間の水平距離の変化量がトラス下部隙間の下部隙間基準値d2よりも大きくなる。このため、下部建築梁20が下部固定部131に接触する。
【0049】
図5は、
図4の下部建築梁20が下部固定部131に接触した状態を示す拡大図である。下部建築梁20が下部固定部131に接触すると、トラス下部隙間がなくなる。従って、この状態では、下部建築梁20が上部建築梁10に近づく方向へさらに変位されようとすると、下部固定部131が下部建築梁20によって押されて、トラス変位抑制装置7及びトラス1が上部建築梁10及び下部建築梁20から圧縮力を受ける。
【0050】
トラス変位抑制装置7及びトラス1が上部建築梁10及び下部建築梁20から受ける圧縮力の大きさが過大になると、トラス1ではなくトラス変位抑制装置7の棒状部材72が破損する。棒状部材72が破損すると、上部支持アングル12と突起部材71との連結状態が解除される。これにより、上部建築梁10がトラス1に対して変位可能になる。上部建築梁10がトラス1に対して変位可能になると、トラス1が受ける圧縮力の大きさが小さくなり、トラス1が破損することが防止される。このように、大規模地震が発生した場合にも、トラス1の破損が防止される。
【0051】
図6は、
図2の棒状部材72が破損した状態を示す拡大図である。トラス変位抑制装置7が圧縮力を受けると、上部固定部121と突起部材71との間において棒状部材72の長手方向に棒状部材72が圧縮力を受ける。このため、棒状部材72が破損するときには、上部固定部121と突起部材71との間の位置で棒状部材72が破損する。これにより、棒状部材72は、突起部材71に固定された第1部分72aと、上部固定部121に固定された第2部分72bとに分離される。
【0052】
また、棒状部材72が破損したとき、棒状部材72は、棒状部材72の長手方向に圧縮力を受けている。このため、棒状部材72が第1部分72aと第2部分72bとに分離されると、第1部分72aと第2部分72bとが互いに押されて、第1部分72a及び第2部分72bの少なくともいずれかが曲がって塑性変形する。第1部分72a及び第2部分72bの少なくともいずれかが塑性変形した状態は、地震が収まった後でも維持される。
【0053】
地震が収まった後、上部機械室14に入った作業者が開口部111bを通して目視によって棒状部材72の状態を確認する。棒状部材72が破損している場合には、棒状部材72の交換などのトラス変位抑制装置7の復旧作業が行われる。
【0054】
このようなトラス変位抑制装置7では、上部建築梁10に固定されたベアリングプレート51の上面に突起部材71が固定されている。棒状部材72は、トラス本体11の長手方向において上部固定部121が上部建築梁10から離れている状態で、突起部材71及び上部固定部121に固定されている。このため、上部建築梁10とトラス1とを棒状部材72によって連結することができる。これにより、地震が発生した場合でも、上部建築梁10に対するトラス1の変位を抑制することができる。
【0055】
また、棒状部材72は、ねじ棒であり、棒状部材72に取り付けられた複数のナット73によって上部固定部121及び突起部材71に固定されている。このため、上部固定部121及び突起部材71のそれぞれに対する棒状部材72の固定作業を容易にすることができる。また、棒状部材72に対する上部固定部121及び突起部材71のそれぞれの固定位置を容易に調整することができる。
【0056】
また、棒状部材72の強度は、トラス本体11の強度よりも小さくなっている。このため、トラス1よりも棒状部材72を破損しやすくすることができる。これにより、大規模地震の発生によって棒状部材72及びトラス1に過大な圧縮力がトラス1の長手方向へ加わった場合でも、棒状部材72の破損によってトラス1が破損することを防止することができる。また、突起部材71と上部固定部121との間の位置で棒状部材72を破損させることができる。従って、突起部材71と上部固定部121とが互いに離れていることから、棒状部材72の破損部分を突起部材71と上部固定部121との間に露出させることができる。
【0057】
ここで、地震が発生しているときにトラス1が上部建築梁10に対して変位しても、地震が収まった後には、上部建築梁10の復元力によってトラス1が上部建築梁10に対して元の位置に戻ることが多い。このようにトラス1が地震発生前の元の位置に戻った場合でも、棒状部材72の破損部分が突起部材71と上部固定部121との間に露出しているため、地震が収まった後に棒状部材72の状態を容易に確認することができる。従って、トラス1が変位したかどうかの判断、棒状部材72の交換の要否の判断などを容易に行うことができる。このようなことから、地震が収まった後のエスカレータの復旧を早期に行うことができる。
【0058】
また、上部トラス本体端部111には、上部機械室14から棒状部材72に向けて開放された開口部111bが設けられている。このため、上部機械室14に入った作業者が開口部111bを通して目視によって棒状部材72の状態を容易に確認することができる。これにより、棒状部材72の状態の確認をさらに容易にすることができ、地震が収まった後のエスカレータの復旧をさらに早期に行うことができる。
【0059】
なお、上記実施の形態では、トラス変位抑制装置7の数が2つとなっている。しかし、トラス変位抑制装置7の数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0060】
また、上記実施の形態では、棒状部材72が複数のナット73によって上部固定部121及び突起部材71のそれぞれに固定されている。しかし、上部固定部121及び突起部材71のそれぞれに棒状部材72を溶接によって固定してもよい。
【0061】
また、上記実施の形態では、トラス変位抑制装置7が上階において上部トラス支持装置5と上部支持アングル12とを連結している。しかし、トラス変位抑制装置7が下階において下部トラス支持装置6と下部支持アングル13とを連結していてもよい。この場合、突起部材71は、下部トラス支持装置6のベアリングプレート61の上面に固定される。また、この場合、棒状部材72は、トラス本体11の長手方向において下部固定部131が下部建築梁20から離れている状態で、突起部材71及び下部固定部131に固定される。さらに、この場合、上階では、上部トラス支持装置5と上部支持アングル12とがトラス変位抑制装置7によって連結されない。このようにしても、下部建築梁20とトラス1とを棒状部材72によって連結することができ、地震が発生した場合に下部建築梁20に対するトラス1の変位を抑制することができる。
【0062】
また、トラス変位抑制装置7が下階において下部トラス支持装置6と下部支持アングル13とを連結した場合、下部機械室15から棒状部材72に向けて開放された開口部を下部トラス本体端部112に設けてもよい。このようにすれば、下部機械室15に入った作業者が下部トラス本体端部112の開口部を通して目視によって棒状部材72の状態を容易に確認することができる。これにより、棒状部材72の状態の確認をさらに容易にすることができ、地震が収まった後のエスカレータの復旧をさらに早期に行うことができる。
【0063】
また、上記実施の形態では、乗客コンベアとしてのエスカレータにトラス変位抑制装置7が適用されている。しかし、乗客コンベアとしての動く歩道にトラス変位抑制装置7を適用してもよい。
【0064】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0065】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0066】
(付記1)
建築部に固定されたベアリングプレートの上面に固定されている突起部材と、
前記ベアリングプレートに支持された掛かり部材を前記突起部材に連結している棒状部材と
を備え、
前記掛かり部材は、トラス本体の長手方向の端部であるトラス本体端部に固定された固定部を有しており、
前記突起部材は、前記トラス本体の長手方向において前記固定部に対向しており、
前記棒状部材は、前記トラス本体の長手方向において前記固定部が前記建築部から離れている状態で、前記突起部材及び前記固定部に固定されている乗客コンベアのトラス変位抑制装置。
(付記2)
前記棒状部材は、ねじ棒であり、
前記ねじ棒は、前記ねじ棒に取り付けられた複数のナットによって前記固定部及び前記突起部材に固定されている付記1に記載の乗客コンベアのトラス変位抑制装置。
(付記3)
前記棒状部材の強度は、前記トラス本体の強度よりも小さくなっている付記1又は付記2に記載の乗客コンベアのトラス変位抑制装置。
(付記4)
前記トラス本体端部の内部には、機械室が設けられており、
前記トラス本体端部には、前記機械室から前記棒状部材に向けて開放された開口部が設けられている付記1~付記3のいずれか一項に記載の乗客コンベアのトラス変位抑制装置。
【符号の説明】
【0067】
10 上部建築梁(建築部)、11 トラス本体、12 上部支持アングル(掛かり部材)、13 下部支持アングル(掛かり部材)、14 上部機械室(機械室)、15 下部機械室(機械室)、20 下部建築梁(建築部)、51 ベアリングプレート、61 ベアリングプレート、71 突起部材、72 棒状部材、73 ナット、111 上部トラス本体端部(トラス本体端部)、111b 開口部、112 下部トラス本体端部(トラス本体端部)、121 上部固定部(固定部)、131 下部固定部(固定部)。