(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183636
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】超音波検査方法および超音波検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 29/12 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
G01N29/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097248
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森永 武
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047AB04
2G047BA03
2G047BA04
2G047BC04
2G047BC10
2G047GF08
2G047GF11
2G047GG02
2G047GG32
(57)【要約】
【課題】板材において、欠陥が生じている深さ位置を特定することができる超音波検査方法および超音波検査装置を提供する。
【解決手段】検査対象の板材Sの表面S1から、板材Sの厚さ方向に、超音波を、バースト正弦波として入射し、反射成分を検出する検査を、バースト正弦波の周波数を掃引しながら行う計測工程と、反射成分において共振が起こる共振周波数として、欠陥のない板材Sの板厚tに対応する共振周波数である板厚共振周波数とは異なる周波数が複数検出された場合に、それらの周波数を着目共振周波数として抽出する、共振周波数抽出工程と、周波数軸に沿って隣接する2つの着目共振周波数の差分をΔf、板材の内部における音速をVとして、板材において、表面からの深さがV/2Δfの位置xに、欠陥Dが存在すると判定する、欠陥深さ判定工程と、をこの順に実施する、超音波検査方法とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象の板材の表面から、前記板材の厚さ方向に、超音波を、バースト正弦波として入射し、反射成分を検出する検査を、前記バースト正弦波の周波数を掃引しながら行う計測工程と、
前記反射成分において共振が起こる共振周波数として、欠陥のない前記板材の板厚に対応する共振周波数である板厚共振周波数とは異なる周波数が複数検出された場合に、それらの周波数を着目共振周波数として抽出する、共振周波数抽出工程と、
周波数軸に沿って隣接する2つの前記着目共振周波数の差分をΔf、前記板材の内部における音速をVとして、前記板材において、表面からの深さがV/2Δfの位置に、欠陥が存在すると判定する、欠陥深さ判定工程と、
をこの順に実施する、超音波検査方法。
【請求項2】
前記計測工程に先立って、前記板厚共振周波数を有するバースト正弦波を、前記板材の表面から前記板材の厚さ方向に入射し、反射成分において共振が起こるか否かを判定する検査を、前記板材の表面に沿って位置を変えながら行い、共振が起こらない、または共振が弱くなった位置が存在すると、その位置の内部に欠陥が存在すると判定する欠陥探索工程を実施し、
前記欠陥探索工程で、内部に欠陥が存在すると判定された位置が存在すると、その位置において、前記計測工程、共振周波数抽出工程、欠陥深さ判定工程を実施し、前記欠陥の深さ位置を評価する、請求項1に記載の超音波検査方法。
【請求項3】
前記共振周波数抽出工程において、
前記反射成分に対して、強制励振が低減された後の時間領域に解析ゲートを設け、前記解析ゲートの中で、共振が起こっているか否かの判定を行い、
前記解析ゲートの開始時間を、前記周波数の掃引に伴って変更する、請求項1に記載の超音波検査方法。
【請求項4】
超音波を、バースト正弦波として発生させるとともに、検出することができる検査部と、
前記検査部にて発生させる前記バースト正弦波の周波数を掃引する掃引部と、
前記検査部での検出結果から、共振周波数の抽出と分析を行う解析部と、を有し、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の超音波検査方法を実施する、超音波検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波検査方法および超音波検査装置に関し、さらに詳しくは、板材の内部に欠陥が存在する深さを特定するための超音波検査方法および超音波検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属等よりなる検査対象物において、内部に発生した欠陥を検出する手法として、超音波探傷が広く用いられている。超音波探傷の手法としては、パルスエコー法が一般的に利用されている。パルスエコー法においては、パルス超音波を検査対象物に入射し、検査対象物の内部の欠陥による超音波の反射を検出するものであり、反射成分によって欠陥の存在を検出できるとともに、パルスを入射した後、欠陥による反射成分が検出されるまでの時間によって、欠陥が存在する深さ位置を特定することもできる。しかし、パルスエコー法においては、検査対象物の表面および底面の近傍に、欠陥が生じていても検出することができない不感帯が生じる。検査対象物が薄い板材である場合には、板厚において不感帯が占める割合が大きくなり、特に板厚が小さい場合には、厚さ方向の全域が不感帯となってしまう。よって、薄い板材に対してパルスエコー法を適用する場合には、欠陥が存在しても検出できない可能性がある。
【0003】
薄い板材に対して超音波探傷を行う方法の1つとして、非特許文献1に説明されている方法等、ガイド波(板波)を用いる方法がある。ガイド波は、板材内でのモード変換により生じ、板材の面に沿った方向に波束が伝播する成分である。ガイド波は、拡散損失の影響が少なく、長距離を伝播可能であり、その伝播経路の途中に欠陥が存在していれば、反射の発生によって検知することができる。また、薄い板材に対して超音波探傷を行う別の方法として、局部共振法が挙げられる。局部共振法においては、板材の厚さ方向に、バースト波を入射する。バースト波の周波数を、板材の板厚と音速から定まる共振周波数に合わせておけば、欠陥のない健全部では、板材の表面と底面の間で共振が起こる一方、内部に欠陥が存在する不健全部では、共振が起こらないか、弱くなる。板材の面に沿って、バースト波を入射する位置を変化させながら、共振の有無を識別し、共振が起こらない位置を検知すれば、その位置の内部に欠陥が存在することを特定できる。バースト波を用いた超音波探傷は、特許文献1,2等に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-068209号公報
【特許文献2】特開2008-107101号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】黒石卓司ら、「5mから15mの配管探傷が瞬時に行える”ガイド波による探傷監視システム”」三菱重工技報 第42巻、第3号、138-141頁(2005年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、ガイド波やバースト波を用いて超音波探傷を行えば、薄い板材においても、内部の欠陥を検出することが可能となる。しかし、それらの方法を用いる場合には、板材の面に沿った方向で、欠陥が存在する位置を特定することはできても、板材の厚さ方向に沿って、欠陥が存在している深さ位置を特定することは難しい。板材において、欠陥が存在する深さを特定することは、例えば、欠陥が影響を無視できる深さ位置に存在するのかについての判断や、欠陥を除去するために板材をどの程度の深さまで削ればよいかの見積もりなど、欠陥の取り扱いに関する検討を行ううえで、有益な情報となる。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、板材において、欠陥が生じている深さ位置を特定することができる超音波検査方法および超音波検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明にかかる超音波検査方法および超音波検査装置は、以下の構成を有する。
[1]本発明にかかる超音波検査方法は、検査対象の板材の表面から、前記板材の厚さ方向に、超音波を、バースト正弦波として入射し、反射成分を検出する検査を、前記バースト正弦波の周波数を掃引しながら行う計測工程と、前記反射成分において共振が起こる共振周波数として、欠陥のない前記板材の板厚に対応する共振周波数である板厚共振周波数とは異なる周波数が複数検出された場合に、それらの周波数を着目共振周波数として抽出する、共振周波数抽出工程と、周波数軸に沿って隣接する2つの前記着目共振周波数の差分をΔf、前記板材の内部における音速をVとして、前記板材において、表面からの深さがV/2Δfの位置に、欠陥が存在すると判定する、欠陥深さ判定工程と、をこの順に実施するものである。
【0009】
[2]上記[1]の態様において、前記計測工程に先立って、前記板厚共振周波数を有するバースト正弦波を、前記板材の表面から前記板材の厚さ方向に入射し、反射成分において共振が起こるか否かを判定する検査を、前記板材の表面に沿って位置を変えながら行い、共振が起こらない、または共振が弱くなった位置が存在すると、その位置の内部に欠陥が存在すると判定する欠陥探索工程を実施し、前記欠陥探索工程で、内部に欠陥が存在すると判定された位置が存在すると、その位置において、前記計測工程、共振周波数抽出工程、欠陥深さ判定工程を実施し、前記欠陥の深さ位置を評価するとよい。
【0010】
[3]上記[1]または[2]の態様において、前記共振周波数抽出工程において、前記反射成分に対して、強制励振が低減された後の時間領域に解析ゲートを設け、前記解析ゲートの中で、共振が起こっているか否かの判定を行い、前記解析ゲートの開始時間を、前記周波数の掃引に伴って変更するとよい。
【0011】
[4]本発明にかかる超音波検査装置は、超音波を、バースト正弦波として発生させるとともに、検出することができる検査部と、前記検査部にて発生させる前記バースト正弦波の周波数を掃引する掃引部と、前記検査部での検出結果から、共振周波数の抽出と分析を行う解析部と、を有し、上記[1]から[3]の態様のいずれか1つの超音波検査方法を実施するものである。
【発明の効果】
【0012】
上記[1]の発明にかかる超音波検査方法においては、計測工程にて、バースト正弦波の板材への入射と、反射成分の検出を、周波数を掃引しながら行い、共振周波数抽出工程において、板厚に対応する板厚共振周波数以外の共振周波数を着目共振周波数として抽出する。この着目共振周波数におけるバースト正弦波の共振は、板材の内部に存在する欠陥によって生じるものである。よって、共振周波数を検出することで、板材の内部の欠陥を検出することができる。さらに、着目共振周波数における共振は、板材の表面と欠陥の間での定在波の発生によるものであり、その着目共振周波数は、xを欠陥の深さ位置、nを自然数として、2x/nとなる。このことから、欠陥深さ判定工程において算出されるように、2つの隣接する着目共振周波数(nに対応する共振周波数とn+1に対応する共振周波数)の差分をΔf、板材の内部における音速をVとした場合に、x=V/2Δfとして、欠陥の深さxを特定することができる。このように、薄い板材であっても、バースト正弦波の周波数を掃引し、検出された共振周波数を分析することで、欠陥の存在の検出に加え、その欠陥の深さ位置の特定を行うことができる。
【0013】
上記[2]の態様においては、欠陥探索工程において、周波数を固定したバースト正弦波を用いて、板材の表面の様々な位置で、欠陥の有無を検査したうえで、欠陥が存在すると判定された位置で、欠陥の深さ位置の特定を行っている。欠陥探索工程においては、板厚共振周波数で検査を行っており、欠陥の存在しない健全部では共振が起こる一方、内部に欠陥が存在する不健全部では共振が起こらない、または弱くなるため、板材の面に沿った広い領域において、欠陥の有無を特定し、さらに、板材の面内方向のどの位置に欠陥が存在するのかを明らかにすることができる。そのようにして、面内方向で欠陥の存在を特定した位置で、周波数の掃引を含んで、欠陥の深さ位置を特定することになる。そのため、板材における欠陥の有無、欠陥の面内方向の位置、深さ方向の位置の各情報を、効率的に取得することができる。
【0014】
上記[3]の態様においては、共振周波数抽出工程において、強制励振が低減された後の時間領域に解析ゲートを設けて、共振の有無の判定を行うため、強制励振の影響を避けて、共振の有無を判定することができる。強制励振は、板材の表面および底面での超音波の反射に伴うものであり、入射するバースト正弦波の周波数を掃引するのに伴い、強制励振が出現する時間領域が変化する。そこで、共振の有無を判定する解析ゲートの開始時間を、周波数の掃引に伴って変更することで、各周波数において、強制励振が十分に低減されてから、共振の有無の判定を行うことができる。
【0015】
上記[4]の発明にかかる超音波検査装置は、バースト正弦波の発生と検出を行う検査部と、検査部にて発生させるバースト正弦波の周波数を掃引する掃引部と、検査部で得られた結果から共振周波数の抽出と分析を行う解析部を有しており、上記[1]~[3]の態様の超音波検査方法を実施し、板材において欠陥が生じている深さ位置を特定するのに、適した装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる超音波検査装置の概略を示す模式図である。
【
図2】欠陥を有する板材における超音波の挙動を説明する図である。
【
図3】バースト波を入射した際に検出される反射波の波形を説明する図であり、(a)は共振が起こっている場合、(b)は共振が起こっていない場合を示している。
【
図4】欠陥が生じている箇所において検出される共振周波数を示す模式図である。共振が起こる周波数を縦棒にて表示している。
【
図5】実施例で使用した試料の構造を示す図である。
【
図6】実施例で検出された反射波の波形の例を示している。(a)は健全部で共振が起こっている状態(周波数:10.7MHz)、(b)は肉厚2.0mmの人工欠陥の箇所で共振が起こっていない状態(周波数:10.7MHz)、(c)はその人工欠陥の箇所で共振が起こっている状態(周波数:11.4MHz)を示している。
【
図7】周波数を10.7MHzに固定して、試料表面全域に対して探傷検査を行って得られた、反射成分の強度の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態にかかる超音波検査方法および超音波検査装置について説明する。本発明の一実施形態にかかる超音波検査方法は、板材において、欠陥が存在する深さ位置を特定するものであり、本発明の一実施形態にかかる超音波検査装置を用いて、実行することができる。
【0018】
[検査の対象]
検査の対象とする板材の材質は、特に限定されるものではないが、金属の板材を好適な検査対象とすることができる。板材の厚さは、特に限定されるものではないが、パルスエコー法による超音波探傷では、欠陥の検知を行えない程度に薄いものであることが好ましい。欠陥の種類も、板材の内部に形成され、板材に入射した超音波の少なくとも一部を反射するものであれば、特に限定されるものではないが、板材が金属よりなる場合に、欠陥として、内部の損傷、析出物等の不純物、材料の変形等を挙げることができる。
【0019】
[超音波検査装置]
本発明の一実施形態にかかる超音波検査装置について説明する。
図1に、本実施形態にかかる超音波検査装置1の概略を示す。超音波検査装置1は、検査部としての探触子2と、掃引部としての周波数スキャナ3と、解析部としてのコンピュータ4を備えている。
【0020】
探触子2は、超音波の送信と受信を行うことができるセンサプローブであり、本実施形態においては、超音波をバースト正弦波B(以下、単に「バースト波」と称する場合がある)として発生させ、検出できる形態のものを使用する。以下では、検査部として、検査対象の板材Sの表面S1からバースト波Bを入射し、底面S2で反射した反射成分を検出する形態の探触子2を用いる場合について説明しており、装置構成および検査工程の簡素性の観点等から、その形態が好ましいが、板材Sの底面S2の外側で、透過成分を検出する形態で、検査部を構成してもよい。
【0021】
周波数スキャナ3は、探触子2にて発生させるバースト正弦波Bの周波数を掃引する。つまり、バースト正弦波Bの周波数を、所定の範囲内で、所定の刻みにて変化させる。周波数スキャナ3で波長を掃引しながら探触子2による検査を行うことで、周波数の異なるバースト波Bを入射した際の検出結果を用いて解析を行うことができる。
【0022】
コンピュータ4は、検査部における検出結果、つまり検出した超音波の波形を示す検出信号を入力され、その検出結果から、後に超音波検査方法について詳しく説明するように、共振周波数の抽出と分析を行う。そして、分析結果から、検査対象の板材Sにおける欠陥の有無の判定、および欠陥の位置の特定を行う。また、コンピュータ4は、周波数スキャナ3や、次に説明する移動部5等、超音波検査装置1を構成する各種装置の制御を行うことができる。
【0023】
超音波検査装置1は、探触子2,周波数スキャナ3,コンピュータ4に加えて、移動部5、水槽(図略)等、他の部材を備えてもよい。移動部5は、探触子2を、検査対象の板材Sの表面S1に沿って、相対移動させるものである。移動部5により、板材Sの表面S1の様々な箇所で、探触子2による超音波検査を行うことができる。図示した形態では、固定した板材Sに対して、移動部5によって探触子2を移動させているが、探触子2を固定し、板材Sを移動させる形態であってもよい。水槽は、貯留した水の中に板材Sおよび探触子2を浸漬し、水浸法にて超音波検査を行うのに、用いることができる。
【0024】
[超音波検査方法]
次に、上記の超音波検査装置1を用いて実施される、本発明の一実施形態にかかる超音波検査方法について説明する。本実施形態にかかる超音波検査方法においては、(1)欠陥探索工程を任意ではあるが実施したうえで、(2)計測工程、(3)共振周波数抽出工程、(4)欠陥深さ判定工程を、この順に実施する。以下、各工程について説明する。
【0025】
(1)欠陥探索工程
欠陥探索工程においては、欠陥の有無および位置が未知の板材Sに対して、欠陥の有無を判定するとともに、欠陥が存在する場合に、板材Sの面内方向における欠陥の存在位置を特定する。
【0026】
欠陥探索工程においては、周波数を固定したバースト波Bによる超音波検査を、板材Sの表面S1の複数の位置において行う。具体的には、板材Sの表面S1から、板材Sの厚さ方向に、バースト波Bを入射し、反射成分の検出を行う検査を、移動部5によって探触子2を板材Sの表面S1に沿って移動させながら、板材Sの表面S1の広い領域の各位置で行う。
【0027】
バースト波Bの周波数は、欠陥のない板材Sの板厚に対応する共振周波数としておく。つまり、
図2に示す健全部P1のように、板材Sに欠陥が生じていない領域において、板材Sの表面S1と底面S2の間で共振が起こり、定在波Wが発生する周波数としておく。この共振周波数を、以降、板厚共振周波数F(F
1,F
2,F
3,…)と称する。定在波Wは、入射したバースト波Bの半波長の整数倍が板厚に等しくなる条件で生じるため、板厚共振周波数Fは、tを板厚、Vを板材Sの内部における音速、nを自然数として、以下の式(1)によって表される。
F=nV/2t (1)
板厚共振周波数Fは、上記式(1)を用いた計算によって定めても、実測によって定めても、いずれでもよい。実測による場合には、健全部P1に対して、周波数スキャナ3を用いて周波数を掃引しながら、探触子2による検査を行い、共振が起こる周波数を特定すればよい。
【0028】
板厚共振周波数Fを有するバースト波Bを板材Sに入射すると、
図2に示すように、健全部P1においては、共振が起こる。しかし、内部に欠陥Dが存在する不健全部P2では、共振が起こらない、あるいは共振が弱くなる(以下、「共振が起こらない」とまとめて称する)。厳密には、少なくとも一部のn値において、共振が起こらなくなる。
【0029】
よって、探触子2を板材Sの表面S1に沿って移動させながら、板厚共振周波数Fでの検査を行った場合に、健全部P1では、共振が発生し、
図3(a)の解析ゲートGにおいて見られるように、高強度の反射成分が出現するのに対し、不健全部P2では、
図3(b)の解析ゲートGにおいて見られるように、共振が起こらず、反射成分が低強度でしか出現しない。
図3(a),(b)は、反射成分の音圧の時間変化の波形を示しており、板材Sの表面S1および底面S2での反射に由来する高強度の強制励振(領域R1)が低減された後、自由振動(領域R2)が起こる時間に、信号検出を行う解析ゲートGを設けている。この自由振動領域R2での反射成分の強度が、共振の有無を反映する。
【0030】
このように、板材Sに入射するバースト波Bの周波数を板厚共振周波数Fに固定して、反射成分を検出する検査を行うことで、板材Sの表面S1において、共振が起こっている位置は、欠陥Dが存在しない健全部P1となっている一方、共振が起こらない位置は、内部に欠陥Dが存在する不健全部P2となっていると判定することができる。よって、板材Sの表面S1の各位置で検査を行うことで、欠陥Dの有無の判定、および板材Sの面内における欠陥Dの位置の特定を行うことができる。位置の特定は、探触子2から出射されるバースト波Bのスポット径と同程度の空間分解能で行うことができる。
【0031】
この欠陥探索工程において、板材Sにおいて欠陥Dが存在する位置が表面S1の面内で特定されると、その特定した位置において、後続の(2)~(4)の各工程を実施し、欠陥Dの深さ方向の位置を評価する。これにより、板材Sの表面S1において、欠陥Dが存在することが明らかになっている位置に対してのみ、後続工程を実施すればよいので、板材Sにおける欠陥Dの有無の評価、および面内方向と深さ方向の両方における欠陥Dの位置の特定を、効率的に実施することができる。なお、板材Sの製造上の特性や、他の検査の結果により、板材Sにおいて欠陥Dが生じている位置が既知である場合には、欠陥探索工程を省略し、その既知の位置において、欠陥Dの深さ位置の特定を行えばよい。また、板材Sの面積が小さい場合等には、欠陥探索工程を省略し、板材Sの表面S1の複数の位置のそれぞれにおいて、次に述べる(2)~(4)の検査を実施し、欠陥Dの有無と深さ位置の特定を行うようにしてもよい。
【0032】
(2)計測工程
次に、上記の欠陥探索工程によって、内部に欠陥Dが存在する不健全部P2であることが明らかになった位置において、欠陥Dの深さ位置を特定するために、計測工程を実施する。
【0033】
計測工程においては、板材Sの厚さ方向にバースト波Bを入射し、反射成分を検出する検査を、バースト波Bの周波数を掃引しながら行う。つまり、不健全部P2の表面S1に探触子2を配置し、周波数スキャナ3によってバースト波Bを構成する正弦波の周波数を掃引しながら、探触子2によるバースト波Bの発生と検出を行う。計測工程で得られた計測結果は、入射波の周波数ごとに、検出された超音波の波形を示す検出信号として得られ、コンピュータ4に入力される。
【0034】
(3)共振周波数抽出工程
次に、計測工程で得られた計測結果に基づき、コンピュータ4にて、共振が起こっている周波数の抽出を行う。
【0035】
周波数を掃引しながら検査を行う計測工程において、ある周波数にて共振が起こると、周波数を固定した欠陥探索工程について
図3(a)に示したのと同様に、反射成分の強度が大きくなる。一方、共振が起こっていない場合には、
図3(b)に示したのと同様に、反射成分の強度が小さい状態に留まる。そこで、共振周波数抽出工程においても、欠陥探索工程と同様に、反射成分の強度に基づいて、共振の有無を判定する。この共振の有無の判定を、周波数ごとに行い、共振が起こっている周波数を抽出する。
【0036】
板材Sの表面S1において計測工程を実施した位置は、先の欠陥探索工程によって、内部に欠陥Dが生じている不健全部P2であることが判明しており、欠陥Dは、超音波を反射する。よって、このような不健全部P2にバースト波Bを入射すると、
図2に示すように、板材Sの表面S1と欠陥Dとの間に、定在波W’が発生し、共振が起こる可能性がある。定在波W’は、半波長の整数倍が、板材Sの表面S1と欠陥Dとの距離xに等しくなる条件で選択的に生じるため、計測工程において、バースト波Bの周波数を掃引しながら反射成分を計測した計測結果において、特定の周波数でのみ、共振が生じることになる。この共振周波数を、着目共振周波数f(f
1,f
2,f
3,…)と称することにする。着目共振周波数fは、nを自然数として、以下の式(2)によって表される。
f=nV/2x (2)
【0037】
着目共振周波数fと板厚共振周波数Fは相互に異なっている。これは、式(1)と式(2)が、分母にtが含まれるかxが含まれるかで相違している点にも現れており、x<tであることから、自然数n(定在波の腹の数)が同じであれば、着目共振周波数fの方が板厚共振周波数Fよりも高くなる(f
n>F
n)。つまり、欠陥Dが存在している箇所においては、周波数を掃引した際に、共振周波数として、板厚共振周波数Fとは異なる周波数に、着目共振周波数fが生じることになる。厳密には、少なくとも一部の着目共振周波数fが、板厚共振周波数Fとは異なる周波数に生じることになる。
図4に、欠陥Dが生じている不健全部P2にて観測される共振周波数を示す。ここでは横軸を周波数とし、共振が出現する位置に縦棒を表示している。図示したとおり、欠陥Dでの反射に伴い、n=1,2,…に対応する着目共振周波数f
1,f
2,…に、離散的に共振が生じる。着目共振周波数fは、等間隔に出現する。一方、不健全部P2では、板厚共振周波数F(F
1,F
2,…)には共振は生じない。
【0038】
このように、共振周波数抽出工程において、板厚共振周波数Fとは異なる着目共振周波数fにおける共振を検出することで、計測工程を実施したその位置の内部に、欠陥Dが生じていることを確認できる。さらに、nの値の異なる複数の着目共振周波数fを抽出すれば、次の欠陥深さ判定工程において、欠陥Dの深さxを特定することができる。
【0039】
ここで、共振周波数抽出工程における共振の有無の判定は、解析ゲートGを設けて行うことが好ましい。欠陥探索工程について、
図3を参照しながら説明したのと同様、高強度の強制励振が十分に低下した後の自由振動領域R2に解析ゲートGを設けて、その解析ゲートGの中に収まる計測結果のみを解析に用いることで、強制励振の影響を避けて、続く解析を高精度に実施することができる。ここで、板材Sに入射するバースト波Bの周波数の掃引に伴って、解析ゲートGの開始時間を変更することが好ましい。上記のように、強制励振は、板材Sの表面S1および底面S2でのバースト波Bの反射によるものであり、反射に要する時間が、周波数によって変化することにより、強制励振に由来する反射成分の強度が十分に低下する時間が、周波数によって変わるからである。周波数が高くなるほど、強制励振の強度が早期に低下することになり、解析ゲートGの開始時間を早い時間に設定しても、強制励振の影響を十分に避けることができる。例えば、ゲート開始時間sを、下の式(3)によって設定することができる。
s=m・a/f+b (3)
ここで、mはバースト波Bにおける波数を示す。a,bは定数である。定数bは、表面S1での反射までに要する時間や、探触子2の応答時間等の寄与を含んでいる。
【0040】
(4)欠陥深さ判定工程
板材Sにおいて、計測工程を実施した箇所の内部に欠陥Dが生じていれば、先の共振周波数抽出工程において、複数の着目共振周波数fにおける共振が検出される。ここで、複数の着目共振周波数fについて、低周波数側からn番目の共振周波数をfn、n+1番目の共振周波数をfn+1とし、それらの共振周波数の差分をΔfとする。この場合に、式(2)を利用して、差分Δfを、以下の式(4)のように表現できる。
Δf=fn+1-fn
=(n+1)V/2x-nV/2x
=V/2x (4)
【0041】
さらに、式(4)より、欠陥Dの深さxは、下の式(5)のように表現される。
x=V/2Δf (5)
つまり、
図4に示した周波数f
1とf
2、また周波数f
2とf
3のように、周波数軸に沿って隣接する2つの着目共振周波数f
nとf
n+1を抽出すると、その差分Δfから、式(5)によって、欠陥Dの深さxを特定することができる。具体的には、板材Sにおいて、表面S1からの深さがV/2Δfの位置に、欠陥Dが存在すると判定することができる。
【0042】
以上のように、本実施形態にかかる超音波検査方法においては、適宜、欠陥探索工程によって、板材Sにおける欠陥Dの有無の評価と、欠陥Dが存在する面内方向の位置の特定を行ったうえで、周波数を掃引しながらバースト波Bを用いた検査を行い、板厚共振周波数Fとは異なる周波数で共振が起こる着目共振周波数fを抽出することで、欠陥Dが存在する深さ位置を特定することができる。これにより、従来のパルスエコー法では不感帯の存在によって十分に探傷が行えなかった薄い板材Sに対しても、欠陥Dの検出を行うことができる。さらに、周波数を固定したバースト波や、ガイド波を用いた探傷とは異なり、欠陥Dの深さ位置まで特定することができる。欠陥Dの深さ位置を特定することで、深さ位置に応じて、欠陥Dの扱いを検討することができる。例えば、金属の板材Sに欠陥Dが形成されているとして、欠陥Dの位置が十分に浅ければ、材料特性に深刻な影響を与えるものではないとして欠陥Dを無視する一方、欠陥Dの位置が深い場合には、板材Sの厚みの一部を削る等、欠陥Dを除去するための対策を行うという判断を実施できる。さらに、欠陥Dを除去する場合に、材料を削るべき厚さの指標を得ることができる。
【実施例0043】
以下に本発明の実施例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。ここでは、人工的な欠陥を設けた試料に対して、周波数可変のバースト波を用いた超音波検査を行うことで、欠陥の深さを特定できるかを検証した。
【0044】
[試験方法]
試料として、
図5に示すように、厚さ5mmのアルミニウムの板材に人工欠陥を形成したものを準備した。人工欠陥としては、板材の底面側(下面側)から、断面四角形の溝を形成した。板材の表面から溝の底部(上端部)までの肉厚(以下、単に「肉厚」と称する)を、それぞれ2.5mm、2.0mm、1.5mmとした3種の人工欠陥を作製した。
【0045】
作製した試料に対して、上記で説明した本発明の実施形態にかかる超音波検査方法に基づく探傷試験を実施した。探傷試験としては、各人工欠陥の位置において、板材の表面側から、バースト正弦波を入射し、反射成分を検出する検査を、バースト正弦波の周波数を掃引しながら行った。探触子としては、振動子径6.4mmのフラット型のものを用いた。周波数の掃引は、7~15MHzの範囲にて、0.1MHz刻みで行った。また、反射波の検出には、2~20MHzのバンドパスフィルターを用いた。検査は水浸法にて行い、水距離は30mmとした。
【0046】
共振周波数の抽出に際しては、上記式(3)によって、周波数に応じた解析ゲートを設定した。そして、解析ゲート内における検出信号の二乗和平均により、反射成分の強度を求め、その強度の極大値を共振周波数とした。合わせて、参照用に、バースト波の周波数を、板厚共振周波数に相当する10.7MHzに固定して、試料表面全域の各位置において、バースト波を入射して反射成分を検出する探傷検査を行った。
【0047】
[試験結果]
まず、周波数を10.7MHzに固定し、試料表面全域に対して探傷検査を行った結果を示す。
図6(a),(b)にそれぞれ、人工欠陥が形成されていない健全部と、人工欠陥(肉厚2.0mm)が形成された不健全部において検出された反射成分の波形を示しているが、不健全部において、明らかに、健全部よりも、自由振動領域における振幅が小さくなっており、健全部にて起こっている共振が、不健全部では起こっていないことが確認される。
【0048】
さらに、
図7に、試料表面の各位置における反射成分の強度分布を示している。ここでは、検出強度が高い位置ほど、明るく表示している。
図7において、3本の人工欠陥に対応する位置に、筋状の暗い領域が観測されている。これは、
図6(a),(b)に示されるように、板厚共振周波数において、健全部では共振が起こるが、人工欠陥が存在する不健全部では共振が起こらないことによる。
図7において、3本の人工欠陥はいずれも、類似した強度分布を与えており、この検査の結果からは、人工欠陥の肉厚を区別することはできない。このように、周波数を板厚共振周波数に固定した探傷検査では、人工欠陥の面内方向における位置を特定することはできるが、欠陥の深さ位置に関する情報は得られない。
【0049】
次に、人工欠陥が設けられた位置において、バースト波の周波数を掃引しながら行った検査の結果を示す。上記のとおり、
図6(b)は、人工欠陥(肉厚2.0mm)の位置で、板厚共振周波数である10.7MHzのバースト波を入射して得られた反射成分の波形を示しているが、自由振動領域の強度が小さくなっており、共振は起こっていない。一方、
図6(c)に、同じ人工欠陥の位置で、周波数11.4MHzのバースト波を入射して得られた反射成分の波形を示しているが、
図6(b)の共振が起こっていない場合と比較して、明らかに、自由振動領域の強度が大きくなっており、
図6(a)の健全部で共振が起こっている場合と類似した挙動が見られている。このことから、人工欠陥の位置において、板厚共振周波数とは異なる周波数において、共振が起こっていることが確認される。
【0050】
さらに、3種の人工欠陥の位置で得られた、代表的な周波数における反射波の強度を、表1にまとめる。
【0051】
【0052】
表1では、極大値をとる周波数として抽出された共振周波数に対応する欄を、黒塗りで表示している。
図6(c)で共振の発生が確認されている肉厚2.0mmで周波数11.4MHzの場合も、共振周波数として抽出されている。表1によると、3種いずれの人工欠陥でも、板厚共振周波数である10.7MHzでは共振が起こっていない一方、板厚共振周波数とは異なる周波数で、共振が起こっている。また、3種の人工欠陥で、共振周波数が相互に異なっている。いずれの人工欠陥でも、共振周波数は複数抽出されている。特に、肉厚2.5mmの人工欠陥については、表示した周波数領域の中で3つの共振周波数が抽出されており、それらの共振周波数は、等間隔に出現している。さらに、共振周波数の間隔Δfは、人工欠陥の肉厚が大きくなるほど、小さくなっている。これらの挙動から、観測されている共振周波数は、試料表面と人工欠陥の間での共振によって出現していることが示唆される。
【0053】
さらに、3種の人工欠陥のそれぞれについて、共振周波数の間隔Δfから、上記式(5)に基づいて(音速:6320m/s)、欠陥の深さ位置(x)を算出すると、表の右下部に示したように、肉厚1.5mm、2.0mm、2.5mmの人工欠陥について、それぞれ1.58mm、2.11mm、2.43mmとなっている。いずれも、算出結果が、形成した人工欠陥の肉厚とほぼ一致している。この結果から、観測されている共振が、試料表面と人工欠陥の間の領域で起こっていること、また、共振周波数が、肉厚つまり試料表面と人工欠陥の間の距離を反映したものであることが分かる。そして、バースト波の周波数を掃引しながら超音波検査を行い、共振周波数の間隔を分析する手法により、欠陥の深さ位置を特定できることが、確認される。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明した。本発明は、これらの実施形態に特に限定されることなく、種々の改変を行うことが可能である。