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特開2023-183650エレベータ制御装置、エレベータ制御方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183650
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】エレベータ制御装置、エレベータ制御方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/02 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
B66B5/02 S
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097275
(22)【出願日】2022-06-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塲 健翔
【テーマコード(参考)】
3F304
【Fターム(参考)】
3F304EA06
3F304EA11
3F304EA18
3F304EA26
3F304EB05
(57)【要約】
【課題】 ロープスリップ距離が1階床以上の場合でもパルス補正を正しく行えるようにすること。
【解決手段】 実施形態のエレベータ制御装置は、巻上機の回転に同期してパルス発生器から出力されるパルス信号をカウントし、そのパルスカウント値から乗りかごの位置を検出するかご位置検出部と、前記巻上機とロープとの間に位置ずれが生じたか否かを判定するかご位置ずれ判定部と、前記巻上機とロープとの間に位置ずれが生じた場合に、前記乗りかごを最寄階に移動させる運転制御部と、前記ロープの前記巻上機に対するロープスリップ距離を所定の演算により推定し、推定したロープスリップ距離を用いてかご位置のずれ量を推定し、推定したかご位置のずれ量と前記かご位置検出部のパルスカウント値に対応する階とから、前記運転制御部により移動された前記乗りかごの着床階を特定するかご位置ずれ量推定部と、前記かご位置検出部のパルスカウント値を、前記特定された着床階に対応する値に補正する補正部とを具備する。
【選択図】 図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻上機の回転に同期してパルス発生器から出力されるパルス信号をカウントし、そのパルスカウント値から乗りかごの位置を検出するかご位置検出部と、
前記巻上機とロープとの間に位置ずれが生じたか否かを判定するかご位置ずれ判定部と、
前記巻上機とロープとの間に位置ずれが生じた場合に、前記乗りかごを最寄階に移動させる運転制御部と、
前記ロープの前記巻上機に対するロープスリップ距離を所定の演算により推定し、推定したロープスリップ距離を用いてかご位置のずれ量を推定し、推定したかご位置のずれ量と前記かご位置検出部のパルスカウント値に対応する階とから、前記運転制御部により移動された前記乗りかごの着床階を特定するかご位置ずれ量推定部と、
前記かご位置検出部のパルスカウント値を、前記特定された着床階に対応する値に補正する補正部と
を具備する、エレベータ制御装置。
【請求項2】
前記かご位置ずれ量推定部は、前記ロープスリップ距離の演算に、少なくともロープスリップ時における前記乗りかごの速度およびかご内荷重の情報を用いる、
請求項1に記載のエレベータ制御装置。
【請求項3】
前記かご位置ずれ量推定部は、
候補として予め複数のかご位置のずれ量が用意されたテーブル情報の中から、前記推定したロープスリップ距離に対応するかご位置のずれ量を選択する、
請求項1に記載のエレベータ制御装置。
【請求項4】
前記テーブル情報上の前記複数のかご位置のずれ量の候補は、1階高の半分の距離毎に4つ以上用意されている、
請求項3に記載のエレベータ制御装置。
【請求項5】
前記テーブル情報においては、
前記複数のかご位置のずれ量の候補のそれぞれに対応するように、ロープスリップ時における前記乗りかごの運転方向、および、かご位置のパルスカウント値と着床位置のパルスカウント値との大小関係を示す情報が記載されている、
請求項4に記載のエレベータ制御装置。
【請求項6】
巻上機の回転に同期してパルス発生器から出力されるパルス信号をカウントし、そのパルスカウント値から乗りかごの位置を検出するかご位置検出部と、前記巻上機とロープとの間に位置ずれが生じたか否かを判定するかご位置ずれ判定部と、前記巻上機とロープとの間に位置ずれが生じた場合に、前記乗りかごを最寄階に移動させる運転制御部とを備えたエレベータ制御装置が実行するエレベータ制御方法であって、
前記ロープの前記巻上機に対するロープスリップ距離を所定の演算により推定し、推定したロープスリップ距離を用いてかご位置のずれ量を推定し、推定したかご位置のずれ量と前記かご位置検出部のパルスカウント値に対応する階とから、前記運転制御部により移動された前記乗りかごの着床階を特定することと、
前記かご位置検出部のパルスカウント値を、前記特定した着床階に対応する値に補正することと
を含む、エレベータ制御方法。
【請求項7】
巻上機の回転に同期してパルス発生器から出力されるパルス信号をカウントし、そのパルスカウント値から乗りかごの位置を検出するかご位置検出部と、前記巻上機とロープとの間に位置ずれが生じたか否かを判定するかご位置ずれ判定部と、前記巻上機とロープとの間に位置ずれが生じた場合に、前記乗りかごを最寄階に移動させる運転制御部とを備えたエレベータ制御装置のコンピュータに、
前記ロープの前記巻上機に対するロープスリップ距離を所定の演算により推定し、推定したロープスリップ距離を用いてかご位置のずれ量を推定し、推定したかご位置のずれ量と前記かご位置検出部のパルスカウント値に対応する階とから、前記運転制御部により移動された前記乗りかごの着床階を特定する機能と、
前記かご位置検出部のパルスカウント値を、前記特定した着床階に対応する値に補正する機能と
を実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エレベータ制御装置、エレベータ制御方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータ制御装置は、エレベータシステムのコストダウン等を目的として巻上機に取り付けられた電動機制御用のエンコーダ(パルス発生器)から送られるパルス信号をカウントすることで乗りかごの位置を把握している。しかし、エレベータ走行中に停電や異常検知などにより緊急停止した場合に、ロープスリップによって階高の半分以上の大幅なパルスずれが発生すると、最寄階でのパルス補正時に間違った階床パルスに補正する可能性がある。これに対する対策として、最寄階着床時に階床パルスと現在認識しているパルスとの大小関係から階床誤認識しているかを判断し、パルスを補正する方法があるが、この方法では、1階床以上ロープスリップした場合にパルス補正が正しく行われない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許6096852号公報
【特許文献2】特許6646117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明が解決しようとする課題は、ロープスリップ距離が1階床以上の場合でもパルス補正を正しく行うことができる、エレベータ制御装置、エレベータ制御方法、およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態のエレベータ制御装置は、巻上機の回転に同期してパルス発生器から出力されるパルス信号をカウントし、そのパルスカウント値から乗りかごの位置を検出するかご位置検出部と、前記巻上機とロープとの間に位置ずれが生じたか否かを判定するかご位置ずれ判定部と、前記巻上機とロープとの間に位置ずれが生じた場合に、前記乗りかごを最寄階に移動させる運転制御部と、前記ロープの前記巻上機に対するロープスリップ距離を所定の演算により推定し、推定したロープスリップ距離を用いてかご位置のずれ量を推定し、推定したかご位置のずれ量と前記かご位置検出部のパルスカウント値に対応する階とから、前記運転制御部により移動された前記乗りかごの着床階を特定するかご位置ずれ量推定部と、前記かご位置検出部のパルスカウント値を、前記特定された着床階に対応する値に補正する補正部とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施形態に係るエレベータの構成の一例を示す図である。
図2図2は、着床検出センサ22の構成の一例を示す図である。
図3図3は、エレベータ制御装置30の機能構成を示すブロック図である。
図4図4は、階床パルステーブル36の一例を示す図である。
図5図5は、階床間の階高長を説明するための図である。
図6図6は、ずれ量判定用テーブル37の一例を示す図である。
図7図7は、すべり距離が階高以上となった場合の制御の一例を説明するための図である。
図8図8は、エレベータ制御装置30による動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して、実施の形態について説明する。
【0008】
<エレベータの構成>
図1は、実施形態に係るエレベータの構成の一例を示す図である。
【0009】
昇降路10内にエレベータの乗りかご11とカウンタウエイト(吊り合い錘)12が設けられており、それぞれに図示せぬガイドレールに昇降動作可能に支持されている。乗りかご11は、かご上にシーブ14を有している。そのシーブ14に一端が昇降路頂上部に固定されたロープ13が架設されている。ロープ13は、トラクションシーブ15を介してカウンタウエイト12上のシーブ16に架設され、その他端部を昇降路頂上部に固定している。
【0010】
トラクションシーブ15は、巻上機17のモータ軸に取り付けられている。巻上機17の駆動によりトラクションシーブ15が回転することで、トラクションシーブ15に巻回されたロープ13を介して乗りかご11とカウンタウエイト12が昇降路10内をつるべ式に昇降動作する。
【0011】
ここで、本実施形態では、乗りかご11の移動中の位置(絶対位置)を連続的に検出するために、巻上機17のモータ軸にエンコーダ(パルス発生器)18を取り付けている。エンコーダ18は、巻上機17の回転に同期させたパルス信号を出力する。
【0012】
また、乗りかご11にはかごドア19が設けられている。かごドア19は、乗りかご11が任意の階に着床したとき、その階の乗場20に設けられた乗場ドア21に係合して開閉動作する。なお、駆動源(ドアモータ)は乗りかご11側にあり、乗場ドア21は着床時にかごドア19に追従して開閉動作する。
【0013】
乗りかご11の底部には、各階床毎に定められた着床位置を検出するための着床検出センサ22が設けられている。図2に示すように、着床検出センサ22は、複数(ここでは3つ)のリミットスイッチSA,SC,SBが運転方向に所定の間隔で配列された構成を有する。一方、昇降路10内には各階床毎に所定の長さを有する着検板(着床検出板)23が設けられている。
【0014】
リミットスイッチSA,SC,SBは、例えば投光器と受光器を対向させたコの字型光電センサからなり、投光器と受光器との間の光を着検板23が遮ることでスイッチング動作してON信号を出力する。図2の例では、乗りかご11がUP方向(上方向)に運転しているときは、SA-SC-SBの順でONする。乗りかご11がDN方向(下方向)に運転しているときは、SB-SC-SAの順でONする。
【0015】
<エレベータ制御装置30の機能構成>
図3は、本実施形態におけるエレベータ制御装置30の機能構成を示すブロック図である。
【0016】
エレベータ制御装置30を構成する個々の機能は、例えばコンピュータに実現させるためのプログラムとして構成されていてもよい。
【0017】
エレベータ制御装置30は、かご位置検出部31、着床位置検出部32、運転制御部33、かご位置ずれ判定部34、補正部35、階床パルステーブル(情報テーブル)36、ずれ量判定用テーブル(情報テーブル)37、かご位置ずれ量推定部38を備える。
【0018】
かご位置検出部31は、巻上機17の回転に同期してエンコーダ18から出力されるパルス信号をカウントし、そのパルスカウント値から乗りかご11の移動中の位置を連続的に検出する。また、かご位置検出部31は、検出したパルスカウント値を記憶するための記憶部31aを備えている。
【0019】
着床位置検出部32は、乗りかご11の移動に伴い、階床毎に定められた着床位置を検出する。また、着床位置検出部32は、階床毎に定められた着床位置の情報を記憶するための記憶部32aを備えている。
【0020】
運転制御部33は、巻上機17を通じてエレベータの走行を制御する。例えば、運転制御部33は、かご位置検出部31によって検出されるかご位置に基づいて乗りかご11を所定の速度で目的階まで移動させた後、着床位置検出部32によって検出される当該階床の着床位置に乗りかご11を着床させる。また、運転制御部33は、かご位置検出部31によって検出されるかご位置にずれが発生した場合(かご位置検出部31のパルスカウント値が現在のかご位置を正しく示していない場合)、もしくは、後述するかご位置ずれ判定部34により位置ずれが検出された場合に、乗りかご11を最寄階に移動させる。
【0021】
かご位置ずれ判定部34は、巻上機17とロープ13との間に位置ずれが生じたか否かを判定する。例えば、かご位置ずれ判定部34は、かご位置検出部31が検出する乗りかご11のかご位置(かご位置検出部31のパルスカウント値)と、着床位置検出部32の検出した乗りかご11の着床位置(着床位置検出部32のパルスカウント値)との間に、例えば50mm、100mm、200mmなどの予め定めた所定値以上の誤差が生じた場合、かご位置検出部31の検出結果に位置ずれが生じたと判定する。また、かご位置ずれ判定部34は、判定結果を記憶するための記憶部34aを備えている。
【0022】
また、かご位置ずれ判定部34は、巻上機17の駆動中に乗りかご11が急停止された場合に、かご位置検出部31の検出結果に位置ずれが生じたと判定するように構成されてもよい。例えば停電やその他の原因、例えば、乗りかご11の運行に影響するような不具合(部品の破損やセンサの異常等)により乗りかご11(巻上機17)が急停止した場合、乗りかご11およびカウンタウエイト12の慣性により、ロープ24がトラクションシーブ28上を滑る場合がる。この場合、乗りかご11が移動しているにも拘わらずエンコーダ18からパルス信号が出力されず、かご位置検出部31の検出結果が実際の乗りかご11のかご位置、つまり、階床パルステーブル36に示されるパルス数と異なってしまう場合がある。このような場合、かご位置ずれ判定部34は、乗りかご11の位置ずれが発生していると判定することができる。
【0023】
図4に、階床パルステーブル36の一例を示す。
階床パルステーブル36には、予めPD(ポジションデータ)セット時に乗りかご11を各階床に着床させたときに得られるパルス数が記憶されている。
【0024】
例えば、図5に示すように1階と2階との間の階高長が3000(mm)、2階と3階との間の階高長が3000(mm)、3階と4階との間の階高長が3000(mm)…であったとする。PDセット時に最下階(1階)からUP方向に運転したときにエンコーダ18から出力されるパルス数を逐次カウントすることで、1階:「000000」,2階:「003000」,3階:「006000」,4階:「009000」…といったパルス数が得られる。これらのパルス数(パルスカウント値)を各階床と関連付けて階床パルステーブル36に記憶しておく。
【0025】
位置ずれが発生していなければ、乗りかご11が各階に着床したときに、かご位置検出部31にてカウントされるパルス信号のパルスカウント値は階床パルステーブル36に記憶された各階床のパルス数と同じになる。
【0026】
補正部35は、かご位置検出部31のパルスカウント値を、後述するかご位置ずれ量推定部38(後述)により特定された着床階に相当する値に補正する。具体的には、乗りかご11の位置ずれが発生している場合、すなわち、乗りかご11が最寄階に着床して、かごドア19(乗場ドア21)が開動作させられた場合、かご位置検出部31で検出される乗りかご11のかご位置を、かご位置ずれ量推定部38により特定される着床階の位置(正規かご位置)に合わせる。つまり、補正部35は、特定された着床階(最寄階)階床のかご位置(パルス数)を階床パルステーブル36から読み出し、そのかご位置(パルス数)に基づいて、かご位置検出部31のパルスカウント値(かご位置検出部31が認識するエンコーダ18のカウント値)を補正する。この補正部35は、補正処理に使用する記憶するための記憶部35aを備えている。
【0027】
ずれ量判定用テーブル37は、かご位置ずれ量推定部38がかご位置のずれ量を推定するために使用する情報である。その詳細については後で述べる。
【0028】
かご位置ずれ量推定部38は、かご位置ずれ判定部34により巻上機17とロープ13との間に位置ずれが生じたと判定された場合に、ロープ13の巻上機17に対するロープスリップ距離を所定の演算により推定し、推定したロープスリップ距離を用いて、ずれ量判定用テーブル37を参照することでかご位置のずれ量を推定し、推定したかご位置のずれ量とかご位置検出部31のパルスカウント値に対応する階とから、運転制御部33により移動された前記乗りかごの着床階を特定する。
【0029】
また、かご位置ずれ量推定部38は、ロープスリップ距離の演算に、少なくともロープスリップ時における乗りかご11の速度およびかご内荷重の情報を用いる。
【0030】
また、ずれ量判定用テーブル37には、候補として予め複数のかご位置のずれ量が用意されており、かご位置ずれ量推定部38は、その中から、推定したロープスリップ距離に対応するかご位置のずれ量を選択する。ずれ量判定用テーブル37上の複数のかご位置のずれ量の候補は、1階高の半分の距離毎に4つ以上用意されている。また、ずれ量判定用テーブル37においては、複数のかご位置のずれ量の候補のそれぞれに対応するように、ロープスリップ時における乗りかご11の運転方向、および、かご位置検出部31の検出結果から得られるかご位置のパルスカウント値と、着床位置検出部32の検出結果から得られる着床位置のパルスカウント値との大小関係を示す情報が記載されている。
【0031】
<ずれ量判定用テーブル37の例>
ずれ量判定用テーブル37の例を図6に示す。
【0032】
図6に示すように、ずれ量判定用テーブル37には、ロープスリップ距離についての複数の候補が用意されている。具体的には、「階高の半分以下」、「階高の半分~1階高以下」、「1階高~1階高+1階高の半分」、「1階高+1階高の半分~2階高」、・・・が予め用意されている。また、各候補に対応するように、ロープスリップ時における乗りかご11の運転方向、および、かご位置のパルスカウント値(以下、「かご位置パルス」)と、着床位置検出部32の検出結果から得られる着床位置のパルスカウント値(階床パルス)との大小関係が記載されている。
【0033】
リレベル後のかご位置のパルスカウント値と、認識されている階床に対応するパルスとの大小関係は、ずれ量判定用テーブル37に記載されているかご位置パルスと階床パルスとの大小関係から把握することができる。かご位置パルスと階床パルスとの大小関係は、1階高の半分の距離毎に変わるものとなっている。これにより、「かご位置パルスと階床パルスとの大小関係」および「ロープスリップ距離」から、現在の正しいかご位置を把握することができるようになっている。
【0034】
例えば、運転方向が「UP」で且つ「階床パルス>かご位置パルス」である場合は、G1に属する複数の候補「階高の半分以下」、「1階高~1階高+1階高の半分」、・・・のうちのいずれかに該当することがわかる。いずれに該当するのかは、演算したロープスリップ距離から判定することができる。
【0035】
また、例えば、運転方向が「DN」で且つ「階床パルス>かご位置パルス」である場合は、G2に属する複数の候補「階高の半分~1階高以下」、「1階高+1階高の半分~2階高」、・・・のうちのいずれかに該当することがわかる。いずれに該当するのかは、演算したロープスリップ距離から判定することができる。
【0036】
<ロープスリップ距離の推定>
ブレーキ動作遅れによる空走を無視すると、ロープスリップ距離は、下記の(1)式から算出することができる。
【0037】
S=V/2β …(1)
但し、S:ロープスリップ距離[m]、V:ロープスリップ開始時の速度[m/s]、β:ロープスリップ時の減速度
例えばUP運転中のロープスリップ時の減速度βは、下記の(2)~(4)式から算出することができる。
【0038】
β=g・A/B …(2)
A=Tr(W+W+WTC+WCPC+WRC
-(WCW+WCPCW+WRCW) …(3)
B=Tr(W+W+WTC+WCPC+Rsp・WRC
+(WCW+WCPCW+Rsp・WRCW) …(4)
但し、W:かご質量[kg]、W:かご積載[kg]、WTC:かご側テールコード質量[kg]、WCPC:かご側コンペン質量[kg]、WRC:かご側メインロープ質量[kg]、WCW:カウンタウエイト質量[kg]、WCPCW:カウンタウエイト側コンペン質量[kg]、WRCW:カウンタウエイト側メインロープ質量[kg]、Rsp:ローピング係数、g:重力加速度[m/s]、Tr:許容トラクション比
許容トラクション比Trは、下記の(5)式から算出することができる。
【0039】
Tr=eκ・μ・θ …(5)
但し、κ:溝係数、μ:動摩擦係数、θ:ロープ巻付角[rad]
(2)~(4)式においては、W、WTC、WCPC、WRC、WCPCW、WRCW が、荷重、かご位置によって変化するが、Wが支配的であるため、その他の変数を0とみなすことができる。すなわち、ロープスリップ時の減速度βは、下記の(6)式のように簡略化して表すことができる。
【0040】
β=g・(Tr(W+W)-WCW)/(Tr(W+W)+WCW) …(6)
、WCW、Tr、gは、予め定められた定数である。そのため、かご積載Wのみがわかれば、減速度を算出することができる。
【0041】
<すべり距離が階高以上のケース>
次に、図7を参照して、エレベータ走行中に停電や異常検知などにより緊急停止した場合に、すべり距離が階高以上となった場合の制御の一例を説明する。
【0042】
(1)かご位置パルスと実際のかご位置とが以下の状態のときに、UP方向の走行中に緊急停止が発生したとする。
【0043】
かご位置パルス(C1):4700mm
実際のかご位置(R1):4700mm
(2)ロープスリップ後に停止し、ロープスリップ距離が3300mmであるとすると、かご位置パルスと実際のかご位置とは以下のようになる。
【0044】
かご位置パルス(C1):4700mm
実際のかご位置(R2):8000mm
(3)リレベルが行われ、乗りかご11が1000mm移動されたとすると、かご位置パルスと実際のかご位置とは以下のようになる。
【0045】
かご位置パルス(C2):5700mm
実際のかご位置(R3):9000mm
この時、かご位置パルス(C2)は、5700mmなので、図4の階床パルステーブルから、乗りかご11は「3F」にあると認識される。6000mm>5700mmであることから、図6のずれ量判定用テーブルから、「UP」の「階床パルス>かご位置パルス」に該当することがわかり、実際のロープスリップ距離は、G1に属する複数の候補「階高の半分以下」、「1階高~1階高+1階高の半分」、・・・のうちのいずれかに該当することがわかる。
【0046】
ここで、推定したロープスリップ距離が3100mmであったとすると、実際のロープスリップ距離は、「1階高~1階高+1階高の半分」に該当することがわかる。
【0047】
従って、かご位置パルスが、1階高分パルスがずれていることがわかるので、「4F」に対応するようにかご位置パルスを補正すればよいということになる。
【0048】
<エレベータ制御装置30による動作の一例>
図8のフローチャートを参照して、エレベータ制御装置30による動作の一例を説明する。
【0049】
最初に、巻上機17とロープ13との間に位置ずれが生じることでロープスリップが発生したか否かが判定される(S1)。
【0050】
ロープスリップが発生した場合には、ロープスリップ発生時の運転方向、速度、かご内荷重の情報が所定の記憶領域に記録される(S2)。
【0051】
次に、ロープスリップ距離が推定される(S3)。ここでの処理を(a)と称す。
【0052】
次に、安全に回路復帰が完了したか否かが判定される(S4)。
【0053】
安全に回路復帰が完了した場合は、リレベルが行われ(S5)、乗りかご11の着床が完了したかが判定される(S6)。
【0054】
着床が完了した場合は、かご位置パルスから階床が判断される(S7)。ここでの処理を(b)と称す。
【0055】
次に、ロープスリップ時の運転方向、処理(b)で求めた階床のパルスとかご位置パルスの大小関係から、ロープスリップ距離の候補が推定される。ここでの処理を(c)と称す。
【0056】
最後に、処理(a),(c)の結果から、現在の階床が判定され、かご位置パルスが補正される。
【0057】
<まとめ>
実施形態によれば、ロープスリップ距離が1階床以上の場合でもパルス補正を正しく行えるようにすることができる。
【0058】
また、ハードウェアの要素を追加することなくソフトウェアの変更のみで実現することができる。これによりロープスリップ後のエレベータの早期復旧が可能になる。
【0059】
なお、1階高の半分単位でロープスリップ距離を推定できれば良いので、ロープ質量を省略する例を示したが、昇降行程が高いなどで支配的になってくる場合はロープ質量を加味した計算としてもよい。
【0060】
また、パルスの補正量がロープスリップ距離になるため、ロープスリップ回数や距離の累計を蓄積し、ロープ交換時期の目安として保守データとして活用してもよい。
【0061】
また、高速機種でロープスリップの問題からガバナPGを採用している機種においてもガバナPGを無くしてコストダウンを図ることが可能になる。
【0062】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
10…昇降路、11…乗りかご、12…カウンタウエイト、13…ロープ、14…シーブ、15…トラクションシーブ、16…シーブ、17…巻上機、18…エンコーダ(パルス発生器)、19…かごドア、20…乗場、21…乗場ドア、22…着床検出センサ、23…着検板、SA,SC,SB…リミットスイッチ、30…エレベータ制御装置、31…かご位置検出部、32…着床位置検出部、33…運転制御部、34…かご位置ずれ判定部、35…補正部、36…階床パルステーブル、36…階床パルステーブル、37…ずれ量判定用テーブル、38…かご位置ずれ量推定部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2023-06-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻上機の回転に同期してパルス発生器から出力されるパルス信号をカウントし、そのパルスカウント値から乗りかごの位置を検出するかご位置検出部と、
前記巻上機とロープとの間に位置ずれが生じたか否かを判定するかご位置ずれ判定部と、
前記巻上機とロープとの間に位置ずれが生じた場合に、前記乗りかごを最寄階に移動させる運転制御部と、
前記ロープの前記巻上機に対するロープスリップ距離を所定の演算により推定し、推定したロープスリップ距離を用いてかご位置のずれ量を推定し、推定したかご位置のずれ量と前記かご位置検出部のパルスカウント値に対応する階とから、前記運転制御部により移動された前記乗りかごの着床階を特定するかご位置ずれ量推定部と、
前記かご位置検出部のパルスカウント値を、前記特定された着床階に対応する値に補正する補正部と
を具備し、
前記かご位置ずれ量推定部は、
候補として予め複数のかご位置のずれ量が1階高の半分の距離毎に4つ以上用意されたテーブル情報の中から、前記推定したロープスリップ距離に対応するかご位置のずれ量を選択し、選択したかご位置のずれ量が1階床以上のロープスリップに該当するのか否かを判定する、
エレベータ制御装置。
【請求項2】
前記かご位置ずれ量推定部は、前記ロープスリップ距離の演算に、少なくともロープスリップ時における前記乗りかごの速度およびかご内荷重の情報を用いる、
請求項1に記載のエレベータ制御装置。
【請求項3】
前記テーブル情報においては、
前記複数のかご位置のずれ量の候補のそれぞれに対応するように、ロープスリップ時における前記乗りかごの運転方向、および、かご位置のパルスカウント値と着床位置のパルスカウント値との大小関係を示す情報が記載されている、
請求項に記載のエレベータ制御装置。
【請求項4】
巻上機の回転に同期してパルス発生器から出力されるパルス信号をカウントし、そのパルスカウント値から乗りかごの位置を検出するかご位置検出部と、前記巻上機とロープとの間に位置ずれが生じたか否かを判定するかご位置ずれ判定部と、前記巻上機とロープとの間に位置ずれが生じた場合に、前記乗りかごを最寄階に移動させる運転制御部とを備えたエレベータ制御装置が実行するエレベータ制御方法であって、
前記ロープの前記巻上機に対するロープスリップ距離を所定の演算により推定し、推定したロープスリップ距離を用いてかご位置のずれ量を推定し、推定したかご位置のずれ量と前記かご位置検出部のパルスカウント値に対応する階とから、前記運転制御部により移動された前記乗りかごの着床階を特定することと、
前記かご位置検出部のパルスカウント値を、前記特定した着床階に対応する値に補正することと
を含み、
前記着床階を特定することは、
候補として予め複数のかご位置のずれ量が1階高の半分の距離毎に4つ以上用意されたテーブル情報の中から、前記推定したロープスリップ距離に対応するかご位置のずれ量を選択し、選択したかご位置のずれ量が1階床以上のロープスリップに該当するのか否かを判定することを含む、
エレベータ制御方法。
【請求項5】
巻上機の回転に同期してパルス発生器から出力されるパルス信号をカウントし、そのパルスカウント値から乗りかごの位置を検出するかご位置検出部と、前記巻上機とロープとの間に位置ずれが生じたか否かを判定するかご位置ずれ判定部と、前記巻上機とロープとの間に位置ずれが生じた場合に、前記乗りかごを最寄階に移動させる運転制御部とを備えたエレベータ制御装置のコンピュータに、
前記ロープの前記巻上機に対するロープスリップ距離を所定の演算により推定し、推定したロープスリップ距離を用いてかご位置のずれ量を推定し、推定したかご位置のずれ量と前記かご位置検出部のパルスカウント値に対応する階とから、前記運転制御部により移動された前記乗りかごの着床階を特定する機能と、
前記かご位置検出部のパルスカウント値を、前記特定した着床階に対応する値に補正する機能と
を実現させるためのプログラムであって、
前記着床階を特定する機能は、
候補として予め複数のかご位置のずれ量が1階高の半分の距離毎に4つ以上用意されたテーブル情報の中から、前記推定したロープスリップ距離に対応するかご位置のずれ量を選択し、選択したかご位置のずれ量が1階床以上のロープスリップに該当するのか否かを判定する、
プログラム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0005
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0005】
実施形態のエレベータ制御装置は、巻上機の回転に同期してパルス発生器から出力されるパルス信号をカウントし、そのパルスカウント値から乗りかごの位置を検出するかご位置検出部と、前記巻上機とロープとの間に位置ずれが生じたか否かを判定するかご位置ずれ判定部と、前記巻上機とロープとの間に位置ずれが生じた場合に、前記乗りかごを最寄階に移動させる運転制御部と、前記ロープの前記巻上機に対するロープスリップ距離を所定の演算により推定し、推定したロープスリップ距離を用いてかご位置のずれ量を推定し、推定したかご位置のずれ量と前記かご位置検出部のパルスカウント値に対応する階とから、前記運転制御部により移動された前記乗りかごの着床階を特定するかご位置ずれ量推定部と、前記かご位置検出部のパルスカウント値を、前記特定された着床階に対応する値に補正する補正部とを具備し、前記かご位置ずれ量推定部は、候補として予め複数のかご位置のずれ量が1階高の半分の距離毎に4つ以上用意されたテーブル情報の中から、前記推定したロープスリップ距離に対応するかご位置のずれ量を選択し、選択したかご位置のずれ量が1階床以上のロープスリップに該当するのか否かを判定する