(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183656
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】放射線治療計画装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
A61N5/10 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097287
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅野 仁一
(72)【発明者】
【氏名】市橋 正英
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AC01
4C082AE01
4C082AJ08
4C082AN02
4C082AN05
(57)【要約】
【課題】放射線抵抗性領域に対する放射線照射による治療効果を確保すること。
【解決手段】 実施形態に係る放射線治療計画装置は、画像取得部、治療計画取得部、生成部及び評価部を有する。画像取得部は、放射線治療対象者に関するヨード密度の分布を表すヨード密度画像を取得する。治療計画取得部は、前記放射線治療対象者に関する治療計画を取得する。生成部は、前記ヨード密度画像に基づいて放射線の照射領域におけるヨード密度の度数分布を表すヒストグラムを生成する。評価部は、前記ヒストグラムに基づいて前記治療計画を評価する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線治療対象者に関するヨード密度の分布を表すヨード密度画像を取得する画像取得部と、
前記放射線治療対象者に関する治療計画を取得する治療計画取得部と、
前記ヨード密度画像に基づいて放射線の照射領域におけるヨード密度の度数分布を表すヒストグラムを生成する生成部と、
前記ヒストグラムに基づいて前記治療計画を評価する評価部と、
を具備する放射線治療計画装置。
【請求項2】
前記評価部は、
前記ヒストグラムに基づいてヨード密度が第1閾値を下回る又は第2閾値を上回る体積の割合を算出し、
前記割合に基づいて前記治療計画を評価する、
請求項1記載の放射線治療計画装置。
【請求項3】
前記評価部は、
ヨード密度が前記第1閾値を下回る体積の第1割合を算出し、
前記第1割合が低酸素領域体積割合の第3閾値を上回る場合、前記治療計画のうちの照射線量を増加する、
請求項2記載の放射線治療計画装置。
【請求項4】
前記評価部は、
ヨード密度が前記第1閾値を下回る体積の第1割合を算出し、
前記第1割合が第3閾値を上回る場合、警告情報を出力する、
請求項2記載の放射線治療計画装置。
【請求項5】
前記照射領域のうちの前記ヨード密度が前記第1閾値を下回る画像領域を視覚的に強調して表示する表示制御部を更に備える、請求項3又は4記載の放射線治療計画装置。
【請求項6】
前記評価部は、
ヨード密度が前記第2閾値を上回る体積の第2割合を算出し、
前記第2割合が第3閾値を上回る場合、前記照射領域に対する照射線量を低下するように前記治療計画を修正する、
請求項2記載の放射線治療計画装置。
【請求項7】
前記評価部は、
前記ヨード密度が前記第2閾値を上回る体積の第2割合を算出し、
前記第2割合が第3閾値を上回る場合、警告情報を出力する、
請求項2記載の放射線治療計画装置。
【請求項8】
前記照射領域のうちのヨード密度が前記第2閾値を上回る画像領域を視覚的に強調して表示する表示制御部を更に備える、請求項6又は7記載の放射線治療計画装置。
【請求項9】
表示制御部を更に備え、
前記評価部は、前記ヒストグラムに基づく前記治療計画の評価結果を出力し、
前記表示制御部は、前記評価結果を表示機器に表示する、
請求項1記載の放射線治療計画装置。
【請求項10】
前記ヨード密度画像は、ヨード系造影剤が投与された前記放射線治療対象者に対するデュアルエナジーCTスキャンにより収集された高エネルギー投影データと低エネルギー投影データとに基づいて生成された、前記ヨード系造影剤が強調された物質弁別画像である、請求項1記載の放射線治療計画装置。
【請求項11】
前記画像取得部は、ヨード系造影剤が投与された前記放射線治療対象者に対するデュアルエナジーCTスキャンにより収集された高エネルギー投影データと低エネルギー投影データとに基づいて生成された、前記ヨード系造影剤が強調された物質密度画像である前記ヨード密度画像と前記ヨード系造影剤が抑制された物質密度画像である水密度画像とを取得し、
前記治療計画取得部は、前記水密度画像に基づいて前記治療計画を設定する、
請求項1記載の放射線治療計画装置。
【請求項12】
前記治療計画取得部は、
前記水密度画像に基づいて前記照射領域のうちの腫瘍領域の輪郭を設定し、
設定された前記輪郭を前記ヨード密度画像に基づいて修正する、
請求項11記載の放射線治療計画装置。
【請求項13】
コンピュータに、
放射線治療対象者に関するヨード密度の分布を表すヨード密度画像を取得させる機能と、
前記放射線治療対象者に関する治療計画を取得させる機能と、
前記ヨード密度画像に基づいて放射線の照射領域におけるヨード密度の度数分布を表すヒストグラムを生成させる機能と、
前記ヒストグラムに基づいて前記治療計画を評価させる機能と、
を実現させる放射線治療計画プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、放射線治療計画装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
固形腫瘍には低酸素部位が存在する。低酸素部位は放射線に対する抵抗性を呈する。従って放射線治療照射対象の腫瘍に放射線抵抗性部位が存在する場合、放射線治療計画においてCT画像に基づき立案された計画線量では、放射線抵抗性部位に対して十分な治療効果が得られない場合がある。また、放射線抵抗性部位はCT画像では精度良く特定することが困難である。放射線抵抗性部位を精度良く特定するためには、PET検査等の追加の検査が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、放射線抵抗性領域に対する放射線照射による治療効果を確保することである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る放射線治療計画装置は、画像取得部、治療計画取得部、生成部及び評価部を有する。画像取得部は、放射線治療対象者に関するヨード密度の分布を表すヨード密度画像を取得する。治療計画取得部は、前記放射線治療対象者に関する治療計画を取得する。生成部は、前記ヨード密度画像に基づいて放射線の照射領域におけるヨード密度の度数分布を表すヒストグラムを生成する。評価部は、前記ヒストグラムに基づいて前記治療計画を評価する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、放射線治療システムの構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、放射線治療計画装置の構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、放射線治療計画装置による治療計画処理の典型的な流れを示す図である。
【
図4】
図4は、
図3のステップS3における腫瘍領域の輪郭の修正処理を模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、ヨード密度体積ヒストグラム(IVH)における低酸素領域体積割合を示す図である。
【
図7】
図7は、低酸素領域が腫瘍領域の全体に分布しているときの照射線量の増加態様を模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、低酸素領域が腫瘍領域の局所に分布しているときの照射線量の増加態様を模式的に示す図である。
【
図9】
図9は、ヨード密度体積ヒストグラム(IVH)における高酸素領域体積割合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら、放射線治療計画装置及びプログラムの実施形態について詳細に説明する。
【0008】
図1は、本実施形態に係る放射線治療システム1の構成例を示す図である。
図1に示すように、放射線治療システム1は、DECT(Dual Energy CT)装置2、放射線治療計画装置3、放射線治療装置4及び放射線治療情報システム(OIS:oncology information system)を有する。DECT装置2、放射線治療計画装置3及び放射線治療装置4は、ネットワークを介して互いに通信可能に接続される。放射線治療システム1は、放射線治療対象者の放射線治療に関する治療計画を立案し当該治療計画に従い放射線治療を実行するシステムである。本実施形態において放射線治療対象者は、ヒトである患者を想定するが、これに限定する意図ではなく、動物にも適用可能である。
【0009】
DECT装置2は、患者にDECT撮影を施してDECT画像を生成するX線コンピュータ断層撮影装置である。本実施形態に係るDECT撮影としては、ヨード系造影剤が強調された物質密度画像であるヨード密度画像とヨード系造影剤が抑制された物質密度画像である水密度画像とが取得される。ヨード密度画像は、各画素にヨード密度値が割り当てられた、ヨード密度値の空間分布を表す画像である。ヨード密度画像は、ヨード系造影剤が強調された画像であるので造影剤画像とも呼ばれる。水密度画像は、各画素に水密度値が割り当てられた、水密度値の空間分布を表す画像である。水密度画像はヨード系造影剤とは異なる成分である水が強調された画像であるので非造影剤画像とも呼ばれる。ヨード密度画像と水密度画像とはDECT画像の一例である。DECT画像は、2次元状に配列されたピクセルにより構成される2次元画像でもよいし、3次元状に配列されたボクセルにより構成される3次元画像でもよい。DECT画像のデータは、例えば、放射線治療計画装置3に送信される。
【0010】
放射線治療計画装置3は、DECT装置2により生成されたDECT画像を利用して患者の治療計画を作成するコンピュータである。治療計画のデータは、放射線治療情報システム5に供給される。
【0011】
放射線治療情報システム5は、放射線治療に係る種々の情報(放射線治療情報)を管理・保存するコンピュータネットワークシステムである。一例として、放射線治療情報システム5は、放射線治療計画装置3から供給された治療計画のデータを保存する。
【0012】
放射線治療装置4は、放射線治療計画装置3により作成された治療計画に従い患者に放射線を照射して患者を治療する。放射線治療装置4は、操作室に設けられた制御装置、治療室に設けられた治療架台と治療寝台とを有する。制御装置は、放射線治療情報システム5に保存された治療計画のデータに基づいて、治療架台及び治療寝台の位置や照射線量等の設定を行う。治療寝台は、患者の治療部位がアイソセンタに略一致するように天板を移動する。治療架台は、回転軸回りに回転可能に照射ヘッド部を支持する。照射ヘッド部は、治療計画に従い放射線を照射する。具体的には、照射ヘッド部は、多分割絞り(マルチリーフコリメータ)により照射野を形成し、当該照射野により正常組織への照射を抑える。治療部位に放射線が照射されることにより当該治療部位が消滅又は縮小する。本実施形態に係る治療部位は、腫瘍、より詳細には、固形腫瘍を想定する。固形腫瘍には低酸素部位が存在する。低酸素部位は、血流が乏しく、酸素濃度が低く、放射線抵抗性が高い傾向にある。以下、治療対象の腫瘍又は固形腫瘍を対象腫瘍と呼ぶことにする。
【0013】
図2は、放射線治療計画装置3の構成例を示す図である。放射線治療計画装置3は、処理回路31、記憶装置32、表示機器33、入力機器34及び通信機器35を有する。処理回路31、記憶装置32、表示機器33、入力機器34及び通信機器35間のデータ通信はバスを介して行われる。
【0014】
処理回路31は、CPU(Central Processing Unit)及びGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサを有する。記憶装置32等にインストールされた放射線治療計画プログラムを実行することにより、当該プロセッサは、画像取得機能311、治療計画取得機能312、生成機能313、評価機能314及び表示制御機能315を実現する。なお、各機能311~315は単一の処理回路で実現される場合に限らない。複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより各機能311~315を実現するものとしても構わない。
【0015】
画像取得機能311の実現により、処理回路31は、種々の画像を取得する。例えば、処理回路31は、DECT装置2により収集されたDECT画像、すなわち、ヨード密度画像と水密度画像とを取得する。
【0016】
治療計画取得機能312の実現により、処理回路31は、患者に関する治療計画を取得する。具体的には、処理回路31は、腫瘍領域の輪郭、リスク臓器(OAR:organ at risk)領域の輪郭及び照射条件を設定する。照射条件は、少なくとも照射領域、照射方向、照射線量及び線量率を含む。照射領域は、放射線が照射される領域である。腫瘍領域は、対象腫瘍である固形腫瘍の画像領域に対応する。リスク臓器は、放射線感受性が比較高い人体組織である。リスク臓器領域は、リスク臓器の画像領域に対応する。照射方向は、照射される放射線の照射角度に対応する。照射角度は、放射線治療装置4に搭載される照射ヘッドのアイソセンタ回りの角度を意味する。照射線量は、放射線治療において照射される放射線の線量を意味する。なお、線量率は、単位時間あたりに照射される線量を意味する。
【0017】
生成機能313の実現により、処理回路31は、画像取得機能311により取得されたヨード密度画像に基づいて放射線の照射領域におけるヨード密度の度数分布を表すヒストグラム(IVH:iodine concentration volume histogram)を生成する。
【0018】
評価機能314の実現により、処理回路31は、生成機能313により生成されたIVHに基づいて治療計画を評価する。より詳細には、処理回路31は、IVHに基づいてヨード密度が第1のヨード密度閾値を下回る又は第2のヨード密度閾値を上回る体積の割合を算出し、当該体積割合に基づいて治療計画を評価する。第1のヨード密度閾値を下回るヨード密度を有する部分は、ヨード系造影剤が比較的集積しておらず、すなわち、血流が乏しく、対象腫瘍の低酸素部位に対応する。そこで、第1のヨード密度閾値を下回るヨード密度を有する画素の集合を低酸素領域と呼ぶことにする。反対に、第2のヨード密度閾値を上回るヨード密度を有する部分は、ヨード系造影剤が比較的集積しており、すなわち、血流が豊富であり、対象腫瘍の高酸素部位に対応する。そこで、第2のヨード密度閾値を上回るヨード密度を有する画素の集合を高酸素領域と呼ぶことにする。第1のヨード密度閾値と第2のヨード密度閾値とは同一値であってもよいし異なる値でもよい。治療計画の評価は、治療計画の適又は不適の評価、不適の場合の治療計画の修正を含む。
【0019】
表示制御機能315において処理回路31は、種々の情報を表示機器33に表示する。例えば、処理回路31は、評価機能314による治療計画の評価結果等を表示する。
【0020】
記憶装置32は、種々の情報を記憶するROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、半導体記憶装置等の記憶装置である。記憶装置32は、上記記憶装置以外にも、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、フラッシュメモリ等の可搬型記憶媒体や、半導体メモリ素子等との間で種々の情報を読み書きする駆動装置であってもよい。また、記憶装置32は、放射線治療計画装置3にネットワークを介して接続された他のコンピュータ内にあってもよい。例えば、記憶装置32は、治療計画プログラム等を記憶する。
【0021】
表示機器33は、処理回路31の表示制御機能315に従い種々の情報を表示する。表示機器33としては、例えば、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、有機ELディスプレイ(OELD:Organic Electro Luminescence Display)、プラズマディスプレイ又は他の任意のディスプレイが適宜使用可能である。また、表示機器33は、プロジェクタでもよい。
【0022】
入力機器34は、ユーザからの各種の入力操作を受け付け、受け付けた入力操作を電気信号に変換して処理回路31に出力する。具体的には、入力機器34は、マウス、キーボード、トラックボール、スイッチ、ボタン、ジョイスティック、タッチパッド及びタッチパネルディスプレイ等が適宜利用可能である。当該入力機器への入力操作に応じた電気信号を処理回路31へ出力する。入力機器34は、マイクロフォンにより収集された音声信号を指示信号に変換する音声認識装置でもよい。入力機器34は、ネットワーク等を介して接続された他のコンピュータに設けられた入力機器でもよい。
【0023】
通信機器35は、放射線治療システム1に含まれる他の装置との間でデータ通信するためのインタフェースである。例えば、通信機器35は、DECT装置2からネットワークを介してDECT画像のデータを受信する。また、通信機器35は、放射線治療装置4にネットワークを介して治療計画のデータを送信する。
【0024】
次に、放射線治療計画装置3の動作例について説明する。
【0025】
図3は、放射線治療計画装置3による治療計画処理の典型的な流れを示す図である。
図3に示すように、処理回路31は、まず、画像取得機能311の実現により、ヨード系造影剤が注入された患者に対するDECT撮影により得られた水密度画像とヨード密度画像とを取得する(ステップS1)。
【0026】
本実施形態に係るDECT撮影においては、患者にヨード系造影剤が注入される。ヨード系造影剤が注入されて対象腫瘍が造影された状態においてDECT装置2は、高エネルギーX線と低エネルギーX線とで患者をスキャンして高エネルギーX線での投影データと低エネルギーX線での投影データとを収集する。高エネルギーX線と低エネルギーX線とは、所定ビュー数毎に交互に照射されてもよいし、所定数の回転毎に交互に照射されてもよい。DECT装置2は、高エネルギーX線での投影データと低エネルギーX線での投影データとに基づき物質弁別処理を施して、ヨード系造影剤が強調された物質密度画像であるヨード密度画像とヨード系造影剤が抑制された物質密度画像である水密度画像とを生成する。物質弁別処理は、2種以上の基準物質をX線減弱係数のエネルギー依存性を利用して数学的に弁別する手法である。本実施形態に係る基準物質は、ヨードと水とを想定している。
【0027】
上記の通り、ヨード密度画像と水密度画像とは略同時に収集された高エネルギーX線での投影データと低エネルギーX線での投影データとに基づき生成されるものであるので、撮影部位は解剖学的に略同一であり、位置ずれは生じていないと見做すことができる。なお、処理回路31は、以後の処理のため、ヨード密度画像と水密度画像とに対して剛体又は非剛体レジストレーションを施して解剖学的領域の位置合わせを実施してもよい。
【0028】
ステップS1が行われると処理回路31は、治療計画取得機能312の実現により、水密度画像に基づき、患者に関する治療計画を作成する(ステップS2)。ステップS2において処理回路31は、治療計画として、腫瘍領域の輪郭、リスク臓器領域の輪郭及び照射条件等を設定する。
【0029】
腫瘍領域及びリスク臓器領域の輪郭の設定方法は任意の方法により行われればよい。例えば、ユーザにより手動的に行われるとよい。具体的には、以下の手順で行われる。まず、処理回路31は、水密度画像を表示機器33に表示する。ユーザは、マウスやタブレットペン等の入力機器34を介して、水密度画像に描出されている腫瘍領域及びリスク臓器領域各々を囲い込む輪郭を描画する。処理回路31は、輪郭で囲まれた画像領域を、腫瘍領域又はリスク臓器領域として設定する。腫瘍領域及びリスク臓器領域各々が複数ある場合、個別に設定される。他の例として、処理回路31は、水密度画像に対して画像認識処理を施して腫瘍領域及びリスク臓器領域を抽出し、抽出された腫瘍領域の全体を囲う輪郭及びリスク臓器領域の全体を囲う輪郭を自動的に決定してもよい。
【0030】
処理回路31は、照射条件として、照射方向、照射領域及び照射線量を設定する。照射方向は、初期的には手動的又は自動的に任意値に設定されればよい。照射領域は、病変部位の形に合わせ、多分割絞り(マルチリーフコリメータ)により成形される、放射線を照射する範囲を意味する。照射領域には腫瘍領域やリスク臓器領域等を含む。照射線量は、放射線治療により腫瘍領域に照射される線量の総量を意味する。照射線量は、初期的には手動的又は自動的に設定されればよい。
【0031】
ステップS2が行われると処理回路31は、治療計画取得機能312の実現により、ステップS2において設定された腫瘍領域の輪郭を、ステップS1において取得されたヨード密度画像に基づいて修正する(ステップS3)。
【0032】
図4は、ステップS3における腫瘍領域の輪郭の修正処理を模式的に示す図である。
図4に示す水密度画像I1とヨード密度画像I2とは模式的な画像を表している。水密度画像I1とヨード密度画像I2とは、患者の同一撮像部位の画像である。上記の通り、解剖学的領域の位置が一致している水密度画像I1とヨード密度画像I2とが取得される。水密度画像I1には腫瘍領域I11と腫瘍領域I11の周辺組織の画像領域(以下、周辺組織領域)I12とが描出されている。周辺組織は正常組織であってもよいし、リスク臓器であってもよい。ヨード密度画像I2には腫瘍領域I21と腫瘍領域I21の周辺組織の画像領域(周辺組織領域)I22とが描出されているとする。なお腫瘍領域I11と腫瘍領域I21とは解剖学的に同一の固形腫瘍を描画したものであり、周辺組織領域I12と周辺組織領域I22とは解剖学的に同一の周辺組織を描画したものであるとする。
【0033】
ステップS2において水密度画像I1に基づいて治療計画の一要素である腫瘍領域I11の輪郭I13が特定される。ここで、対象腫瘍が当該周辺組織に浸潤しているが、水密度画像I1の特性により、ヨード系造影剤で造影された対象腫瘍に関する腫瘍領域I11の描画能が低く、当該浸潤部位が周辺組織領域I12に埋もれ描画されていないものとする。この場合、輪郭I13は、水密度画像I1に描画された腫瘍領域I11を囲うように描画されるので、当該浸潤部位を囲うことはできない。
【0034】
対象腫瘍は、酸素濃度が低い低酸素部位と酸素濃度が高い高酸素部位とを含むものとする。低酸素部位は、血流が乏しいのでヨード密度値が低い。高酸素部位は、血流が豊富なのでヨード密度値が高い。腫瘍領域I21は、低酸素部位に関する画像領域(低酸素領域)I23と低酸素部位以外の部位に関する画像領域(非低酸素領域)I24とを含む。低酸素部位以外の部位は、第1のヨード密度閾値を上回るヨード密度を有する部位に対応する。ヨード密度画像I2は、その特性により、腫瘍領域I21の描画能が高いので、周辺組織に浸潤している浸潤部位も描画することが可能である。
【0035】
図4に示すように、水密度画像I1とヨード密度画像I2との比較に基づいて、ヨード密度画像I2において腫瘍領域I21の輪郭I25が修正される。輪郭修正の処理手順の一例は下記の通りである。まず、処理回路31は、水密度画像I1において特定された腫瘍領域I11の輪郭I13を、ヨード密度画像I2に写像(コピー)する。これによりヨード密度画像I2に、腫瘍領域I21の輪郭I25が描画される。輪郭I25は、対象腫瘍のうちの周辺組織に浸潤した部位に対応する画像領域I241まで囲うことができていない。
【0036】
処理回路31は、表示制御機能315の実現により、ヨード密度画像I2を表示機器33に表示する。ユーザは、入力機器34を介して、ヨード密度画像I2に描画された輪郭I25を、腫瘍領域I21の全体を囲むように手動的に修正する。当該修正により、腫瘍領域I21の全体を囲む輪郭I26が生成される。ヨード密度画像I2において生成された修正後の輪郭I26は、水密度画像I1に写像されてもよい。このように本実施形態によれば、対象腫瘍の描画能に優れたヨード密度画像を利用することにより、腫瘍領域の輪郭を高精度に特定することが可能になる。
【0037】
なお、輪郭修正処理は上記手動的方法のみに限定されない。例えば、処理回路31は、ヨード密度画像I2に対して閾値処理や画像認識処理等を施して腫瘍領域I21を抽出し、抽出された腫瘍領域I21の全体を囲むように輪郭I25を修正してもよい。他の例として、処理回路31は、抽出された腫瘍領域I21の全体を囲むような輪郭I26を新たに生成してもよい。また、輪郭修正処理は必須ではなく、必要に応じて省略されてもよい。
【0038】
輪郭修正後、処理回路31は、治療計画の一要素として、放射線治療において照射される放射線の線量の予測値(以下、予測線量値)の空間分布である線量分布を生成してもよい。一例として処理回路31は、水密度画像に基づき、腫瘍領域の輪郭やリスク臓器領域の輪郭、照射方向、照射領域、照射線量等を加味して、等価TAR(Tissue-Air Ratio)法や微分散乱空中線量比法、微小体積法、モンテカルロ法、コンボリューション法等の任意の線量計算アルゴリズム従い線量分布を計算可能である。
【0039】
ステップS3が行われると処理回路31は、生成機能313の実現により、ステップS3による輪郭修正後の腫瘍領域のヨード密度体積ヒストグラム(IVH)を生成する(ステップS4)。IVHの生成手順の一例は以下の通りである。まず、処理回路31は、ヨード密度画像における腫瘍領域を構成する画素毎に、当該画素に割り当てられたヨード密度値を特定し、ヨード密度値毎の体積割合を計算する。体積割合は、腫瘍領域の体積に対する各ヨード密度値の領域の体積の割合を表す。体積は、1画素あたりの体積×画素数で規定されてもよいし、画素数で規定されてもよい。体積割合の計算対象は、ステップS3における修正後の輪郭により画定された腫瘍領域に設定される。次に、処理回路31は、ヨード密度値毎の体積割合を表す度数分布をIVHとして生成する。IVHは、具体的には、縦軸を体積割合[%]で、横軸をヨード密度[mgl/ml]で表すグラフである。
【0040】
ステップS4が行われると処理回路31は、評価機能314の実現により、IVHにおいてヨード密度閾値を下回る体積割合(以下、低酸素領域体積割合)を計算する(ステップS5)。
【0041】
図5は、IVH50における低酸素領域体積割合51を示す図である。
図5に示すように、ステップS4において、縦軸を体積割合[%]で、横軸をヨード密度[mgl/ml]で表すIVH50が生成されている。処理回路31は、IVHにヨード密度閾値Th1を設定する。第1のヨード密度閾値Th1は、低酸素部位が有すると期待されるヨード密度値の上限値に設定される。ヨード密度閾値Th1は、経験的に求められた値に設定されてもよいし、ヨード密度画像から予測される値に設定されてもよい。処理回路31は、ヨード密度閾値Th1を下回る体積割合51を低酸素領域体積割合として計算する。低酸素領域体積割合51は、低酸素領域が腫瘍領域に占める体積割合を意味する。
【0042】
ステップS5が行われると処理回路31は、評価機能314の実現により、ステップS5において計算された低酸素領域体積割合に基づいて、ステップS2において作成された治療計画を評価する。一例として、処理回路31は、低酸素領域体積割合が体積割合閾値を上回る場合、治療計画を構成する要素のうちの照射線量を増加する。低酸素領域体積割合が体積割合閾値を上回る場合、処理回路31は、その旨の評価結果を意味する警告情報を出力してもよい。また、処理回路31は、低酸素領域を視覚的に強調して表示機器33に表示してもよい。以下、具体的に説明する。
【0043】
ステップS5が行われると処理回路31は、評価機能314の実現により、ステップS5において計算された低酸素領域体積割合が体積割合閾値を上回るか否かを判定する(ステップS6)。体積割合閾値は、例えば、許容できる低酸素領域体積割合の上限値に設定される。低酸素領域体積割合が体積割合閾値を上回る場合、処理回路31は、治療計画が許容範囲内にないと判定する。一方、低酸素領域体積割合が体積割合閾値を上回らない場合、処理回路31は、治療計画が許容範囲内にあると判定する。処理回路31は、低酸素領域体積割合が体積割合閾値を上回るか否かを表す評価結果を出力する。
【0044】
ステップS6において低酸素領域体積割合が体積割合閾値を上回ると判定された場合(ステップS6:YES)、処理回路31は、表示制御機能315の実現により、低酸素領域体積割合が体積割合閾値を上回る旨の評価結果を表す警告画面を表示する(ステップS7)。警告画面は、一例として、表示機器33に表示される。警告画面は上記警告情報の一例である。
【0045】
図6は、警告画面I3の一例を示す図である。
図6に示すように、警告画面I3は、IVH50の表示領域I31、ヨード密度画像I2の表示領域I32、低酸素領域体積割合の表示領域I33、第1のヨード密度閾値の表示領域I34、体積割合閾値の表示領域I35及び評価結果の表示領域I36を含む。表示領域I31にはIVH50が表示される。IVH50において低酸素領域体積割合51を容易に把握することを支援するため低酸素領域体積割合51が色や模様等で強調されてもよい。表示領域I32にはヨード密度画像I2が表示される。ヨード密度画像I2において低酸素領域I23を容易に把握することを支援するため低酸素領域I23が色や模様等で強調されてもよい。なお、低酸素領域I23は、IVH50においてヨード密度閾値Th1を下回る画素により構成される画像領域に対応する。表示領域I33には、低酸素領域体積割合の数値(例えば、30%)が表示される。IVH50、ヨード密度画像I2及び低酸素領域体積割合の数値を並べて表示することにより、ユーザが低酸素領域体積割合の大小を判断することが可能になる。
【0046】
図6に示すように、IVH50とヨード密度画像I2とを並べて表示することにより、低酸素領域I23を低酸素領域体積割合51の根拠として提示することが可能になる。これにより低酸素領域体積割合51の信頼度を高めることが可能になる。また、低酸素領域体積割合の数値を表示することにより、低酸素領域体積割合を客観的に評価することが可能になる。
【0047】
図6に示すように、表示領域I34には、第1のヨード密度閾値の数値が表示される。表示領域I34に数値を入力することによりヨード密度閾値を変更することも可能である。表示領域I35には、体積割合閾値の数値が表示される。表示領域I35に数値を入力することにより体積割合閾値を変更することも可能である。表示領域I36には、低酸素領域体積割合に対する評価結果に応じたメッセージが表示される。例えば、ステップS6において低酸素領域体積割合が体積割合閾値を上回ると判定された場合、「低酸素領域体積割合が多いです」「照射線量を増加してください」等のメッセージが表示される。「低酸素領域体積割合が多いです」等の評価結果を表示することにより、ユーザは、低酸素領域体積割合の大小に関する客観的な評価を把握することが可能になる。また、「照射線量を増加してください」等の対処策を表示することにより、ユーザは、自己の取り得る行動を確認することが可能になる。
【0048】
なお、
図6に示す警告画面I3は一例であり、表示内容はこれに限定されない。すなわち、警告画面I3は、表示領域I31,I32,I33,I34,I35及びI36の全てが表示される必要はなく、これらのうちの何れかの情報が表示されなくてもよいし、他の情報が表示されてもよい。また、警告画面I3の内容、すなわち評価結果は、音声としてスピーカから出力されてもよい。
【0049】
ステップS7が行われると処理回路31は、腫瘍領域に対する照射線量を増加するように治療計画を修正する(ステップS8)。上記の通り、低酸素部位は放射線抵抗性が比較的高い。よって、低酸素領域体積割合が体積割合閾値を上回る場合、予め設定された照射線量を対象腫瘍に投与したとしても、対象腫瘍又は低酸素部位に対して見込み通りの治療効果を得ることが出来ないことが想定される。そこで処理回路31は、低酸素領域体積割合が体積割合閾値を上回る場合、腫瘍領域に対する照射線量を増加する。照射線量を増加することにより、対象腫瘍又は低酸素部位に対して期待通りの治療効果を得ることが可能になる。
【0050】
照射線量の増加量は、一例として、対象腫瘍の全体が非低酸素部位であるとしたときの治療効果が得られるような値に決定される。なお、非低酸素部位は、対象腫瘍のうちの低酸素部位を除く部位を意味する。当該増加量は、低酸素部位と非低酸素部位との放射線の感受性の差異に基づいて決定されるとよい。線量分布の形状は、照射線量の増加前後で変化させなくてもよいし、低酸素領域の形状等に応じて変化させてもよい。
【0051】
ステップS8において処理回路31は、腫瘍領域に占める低酸素領域の分布態様に応じて照射線量の増加態様を変化させてもよい。低酸素領域の分布態様は、一例として、低酸素領域が腫瘍領域の全体に分布する態様と低酸素領域が腫瘍領域の局所に分布する態様とに区分される。
【0052】
図7は、低酸素領域I23が腫瘍領域I21の全体に分布しているときの照射線量の増加態様を模式的に示す図である。
図7に示すように、低酸素領域I23が腫瘍領域I21の全体に分布している場合、処理回路31は、腫瘍領域I21を含む全体領域70の照射線量を増加させる。一例として、全体領域70の照射線量を一律に所定値(+〇Gy)だけ増加される。より詳細には、全体領域70に含まれる各画素に設定された照射線量値を所定値だけ増加される。この場合、非低酸素領域I24についても照射線量値が増加されることとなる。
【0053】
図8は、低酸素領域I23が腫瘍領域I21の局所に分布しているときの照射線量の増加態様を模式的に示す図である。
図8に示すように、低酸素領域I23が腫瘍領域I21の局所に分布している場合、処理回路31は、低酸素領域I23を含む局所領域80にブースト照射領域を設定し、ブースト照射領域80に対して追加の照射線量を設定する。ブースト照射領域80は、非低酸素領域I24に対する照射線量の増加を低減するため、非低酸素領域I24をなるべく含まないように設定される。より詳細には、処理回路31は、低酸素領域I23を含み且つ正常組織領域を含まない放射線の照射方向を決定し、決定された照射方向からの放射線の照射経路をブースト照射領域80に設定する。更にブースト照射領域80は、上記条件を満たし、且つ非低酸素領域を通過する体積が最小になるように設定されるとよい。ブースト照射領域80に対して照射線量値が追加される。より詳細には、ブースト照射領域80に含まれる各画素に対して照射線量値を、ブースト照射の照射線量値(+△Gy)だけ追加する。この場合、非低酸素領域I24に対する照射線量の増加を低減することが可能になる。
【0054】
ステップS6において低酸素領域体積割合が体積割合閾値を上回らないと判定された場合(ステップS6:NO)又はステップS7が行われた場合、処理回路31は、当該時点における治療計画を確定版の治療計画に設定し、治療計画プログラムによる治療計画処理を終了する。その後、放射線治療装置4は、確定版の治療計画に従い患者に放射線を照射し、放射線治療を実施することとなる。
【0055】
【0056】
図3に示す治療計画処理によれば、処理回路31は、低酸素領域を放射線抵抗性の高い領域であると同視し、低酸素領域体積割合と体積割合閾値との比較に基づいて照射線量が適切か否かを評価する。具体的には、処理回路31は、IVHを利用して低酸素領域体積割合を特定し、低酸素領域体積割合が体積割合閾値を上回る場合、照射線量を増加するように治療計画を修正する。当該一連の処理によれば、放射線抵抗性を加味した高精度の治療計画を立案することが可能になる。
【0057】
なお、上記の
図3に示す治療計画処理は一例であり、これに限定されず、種々の変形例が可能である。以下、変形例1乃至6について説明する。変形例1乃至6は、相互に組合せ可能である。
【0058】
(変形例1)
上記実施例に係る処理回路31は、低酸素領域体積割合が体積割合閾値を上回る場合、照射線量を増加させるとした。低酸素領域体積割合が体積割合閾値を下回る場合、対象腫瘍には血流が比較的豊富で放射線抵抗性が高い高酸素部位が多く存在することが期待される。そこで変形例1に係る処理回路31は、低酸素領域体積割合が体積割合閾値を下回る場合、照射線量を減少させる。照射線量の減少量は、照射線量の設定時に見込まれた低酸素領域体積割合とステップS5において計算された低酸素領域体積割合との差分に応じて決定されるとよいし、ユーザにより任意値に設定されてもよい。これにより、対象腫瘍の放射線抵抗性を加味した照射線量を設定することが可能になる。
【0059】
(変形例2)
上記実施例に係る処理回路31は、IVHに基づいてヨード密度閾値を下回る体積割合(低酸素領域体積割合)を特定し、低酸素領域体積割合と体積割合閾値との比較に基づいて放射線治療計画を評価するものとした。変形例2に係る処理回路31は、ステップS5において、IVHに基づいて第2のヨード密度閾値を上回る体積割合(以下、高酸素領域体積割合)を特定する。高酸素領域体積割合は、高酸素領域が腫瘍領域に占める体積割合を意味する。高酸素領域は、DECT画像のうちの高酸素部位に対応する画像領域を意味する。
【0060】
図9は、IVH50における高酸素領域体積割合52を示す図である。
図9に示すように、処理回路31は、IVH50に第2のヨード密度閾値Th2を設定する。ヨード密度閾値Th2は、低酸素領域体積割合を特定するためのヨード密度閾値Th1と同一値でもよいし、異なる値でもよい。一例として、ヨード密度閾値Th2は、高酸素部位が有すると期待されるヨード密度値の下限値に設定される。ヨード密度閾値Th2は、経験的に求められた値に設定されてもよいし、ヨード密度画像から予測される値に設定されてもよい。処理回路31は、ヨード密度閾値Th2を上回る体積割合52を高酸素領域体積割合として計算する。
【0061】
高酸素領域体積割合が得られると処理回路31は、高酸素領域体積割合と体積割合閾値との比較に基づいて治療計画を評価する。当該体積割合閾値は、低酸素領域体積割合に対する体積割合閾値と同一値でもよいし異なる値でもよい。放射線治療計画の評価方法は、
図3に示す方法と同様である。例えば、処理回路31は、高酸素領域体積割合が体積割合閾値を上回る場合、照射線量が許容範囲内にないと判定し、高酸素領域体積割合が体積割合閾値を下回る場合、照射線量が許容範囲内にあると判定する。高酸素領域体積割合が体積割合閾値を上回る場合、処理回路31は、腫瘍領域に対する照射線量を低下するように治療計画を修正するとよい。これにより腫瘍部位に対する治療効果を維持したまま照射線量を低下させることが可能になる。
【0062】
処理回路31は、照射線量が許容範囲内にないと判定した場合、その旨の警告情報を出力する。警告情報としては、高酸素領域体積割合が体積割合閾値を上回る旨の評価結果を意味する警告画面を表示機器33に表示してもよいし、評価結果を意味する音声をスピーカから出力してもよい。警告画面においては、IVHとヨード密度画像とが表示されるとよい。IVHにおいては高酸素領域体積割合が視覚的に強調され、ヨード密度画像においては高酸素領域が視覚的に強調されるとよい。
【0063】
(変形例3)
上記実施例において処理回路31は、照射領域のうちの腫瘍領域に関するIVHを生成するものとした。変形例3に係る処理回路31は、照射領域のうちのOAR(organ at risk)等の腫瘍領域以外の領域に関するIVHを生成してもよい。処理回路31は、OARに関するIVHに基づいて低酸素領域体積割合又は高酸素領域体積割合を計算し、低酸素領域体積割合又は高酸素領域体積割合に対する体積割合閾値の比較に基づいて治療計画を評価することが可能である。処理回路31は、腫瘍領域に関する低酸素領域体積割合又は高酸素領域体積割合に対する体積割合閾値の比較と、OARに関する低酸素領域体積割合又は高酸素領域体積割合に対する体積割合閾値の比較との双方に基づいて治療計画を評価してもよい。
【0064】
(変形例4)
上記実施例において処理回路31は、低酸素領域体積割合及び/又は高酸素領域体積割合と体積割合閾値との比較に基づいて、治療計画のうちの照射線量を修正するものとした。変形例4に係る処理回路31は、治療計画のうちの照射領域、照射方向、照射門数及び/又は線量分布等を修正してもよい。例えば、低酸素領域体積割合が体積割合閾値を上回る場合又は高酸素領域体積割合が体積割合閾値を下回る場合、処理回路31は、低酸素領域に対する投与線量を増加させるために照射門数を増加し、腫瘍領域の線量分布を理想型にするために照射領域や照射方向を修正してもよい。他の例として、処理回路31は、照射門数を維持したまま、低酸素領域に対する投与線量が増加するように腫瘍領域の線量分布を修正してもよい。線量分布を修正するために照射領域や照射方向が修正されてもよい。変形例4によれば、照射線量を修正することなく、対象腫瘍の放射線抵抗性に応じた最適な治療計画を立案することが可能になる。
【0065】
(変形例5)
上記実施例において処理回路31は、水密度画像に基づいて治療計画を作成するものとした。変形例5に係る処理回路31は、水密度画像以外の如何なる医用画像に基づいて治療計画を作成してもよい。このような医用画像としては、物質弁別画像ではないCT画像やフォトンカウンティングCT画像、MR画像等が使用可能である。
【0066】
(変形例6)
上記実施例において処理回路31は、DECT装置2により収集されたヨード密度画像に基づいてIVHを生成するものとした。変形例6に係る処理回路31は、ヨード系造影剤の集積度を表す他の画像に基づいてIVHを生成してもよい。このような画像としては、例えば、フォトンカウンティングCT装置により収集されたフォトンカウンティングCT画像が利用可能である。
【0067】
(総括)
上記の説明の通り、本実施形態に係る放射線治療計画装置3は、処理回路31を有する。処理回路31は、放射線治療対象者に関するヨード密度の分布を表すヨード密度画像を取得する。処理回路31は、放射線治療対象者に関する治療計画を取得する。処理回路31は、ヨード密度画像に基づいて放射線の照射領域におけるヨード密度の度数分布を表すヒストグラム(IVH)を生成する。処理回路31は、IVHに基づいて治療計画を評価する。
【0068】
上記の構成によれば、照射領域におけるIVHに基づき治療計画を評価することにより、放射線抵抗性を加味した最適な治療計画を立案することが可能になる。
【0069】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、放射線抵抗性領域に対する放射線照射による治療効果を確保することができる。
【0070】
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU、GPU、或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC))、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサは記憶回路に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、記憶回路にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。また、プログラムを実行するのではなく、論理回路の組合せにより当該プログラムに対応する機能を実現しても良い。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。さらに、
図1及び
図2における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。
【0071】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0072】
1 放射線治療システム
2 DECT装置
3 放射線治療計画装置
4 放射線治療装置
5 放射線治療情報システム
31 処理回路
32 記憶装置
33 表示機器
34 入力機器
35 通信機器
311 画像取得機能
312 治療計画取得機能
313 生成機能
314 評価機能
315 表示制御機能