(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183666
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】マスチック接着剤の評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/04 20060101AFI20231221BHJP
G01N 3/08 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
G01N3/04 E
G01N3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097302
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝井 雅剛
(72)【発明者】
【氏名】新田 正喜
(72)【発明者】
【氏名】坂井 智哉
(72)【発明者】
【氏名】梅本 陽一
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AB01
2G061AC03
2G061BA04
2G061CA09
2G061CB02
2G061DA16
2G061EA02
(57)【要約】
【課題】本開示の目的は、マスチック接着剤の評価方法を提供することである。
【解決手段】本実施形態のマスチック接着剤の評価方法は、治具X及び治具Yを含む、引張試験機に取り付け可能な一対の治具の、治具Xにマスチック接着剤を塗布する工程A、前記マスチック接着剤が塗布された治具Xと、治具Yとをマスチック接着剤を介して接触させる工程B、引張試験機に取り付けられた、マスチック接着剤を介して接触する一対の治具を、所定温度に加熱し保持する工程C、及び前記所定温度下で、引張試験を行う工程Dとを含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスチック接着剤の評価方法であり、
治具X及び治具Yを含む、引張試験機に取り付け可能な一対の治具の、治具Xにマスチック接着剤を塗布する工程A、
前記マスチック接着剤が塗布された治具Xと、治具Yとをマスチック接着剤を介して接触させる工程B、
引張試験機に取り付けられた、マスチック接着剤を介して接触する一対の治具を、所定温度に加熱し保持する工程C、及び
前記所定温度下で、引張試験を行う工程Dを含む、
マスチック接着剤の評価方法。
【請求項2】
前記工程Aの前に、前記治具Xを、引張試験機に取り付ける工程I-1及び、
工程Aの前又は、工程Aの後、且つ工程Bの前に、前記治具Yを、引張試験機に取り付ける工程IIを含む、
請求項1に記載のマスチック接着剤の評価方法。
【請求項3】
工程Aの後、且つ工程Bの前に、前記マスチック接着剤が塗布された治具Xを、引張試験機に取り付ける工程I-2、及び
工程Aの前又は、工程Aの後、且つ工程Bの前に、前記治具Yを、引張試験機に取り付ける工程IIを含む、請求項1に記載のマスチック接着剤の評価方法。
【請求項4】
前記治具X及び治具Yの少なくとも一方が、温度検出手段を備えている、請求項1に記載のマスチック接着剤の評価方法。
【請求項5】
前記工程Dにより、マスチック接着剤の引張強度及び伸びを求める、請求項1に記載のマスチック接着剤の評価方法。
【請求項6】
前記治具Xが、引張試験機のチャックに取り付け可能な取り付け部、及びマスチック接着剤が塗布されるマスチック接着剤塗布面を有しており、
前記治具Yが、引張試験機のチャックに取り付け可能な取り付け部、及び治具Xに塗布されたマスチック接着剤が接触するマスチック接着剤接触面を有する、請求項1に記載のマスチック接着剤の評価方法。
【請求項7】
前記治具X及び治具Yの少なくとも一方に、熱電対挿入部を有し、前記熱電対挿入部に熱電対が挿入された状態で前記工程C及び工程Dを行う、請求項1に記載のマスチック接着剤の評価方法。
【請求項8】
引張試験機のチャックに取り付け可能な取り付け部、及びマスチック接着剤が塗布されるマスチック接着剤塗布面を有する治具X及び、引張試験機のチャックに取り付け可能な取り付け部、及び治具Xに塗布されたマスチック接着剤が接触するマスチック接着剤接触面を有する治具Yを含む、一対の治具。
【請求項9】
前記治具X及び治具Yの少なくとも一方に、熱電対挿入部を有する、請求項8に記載の治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マスチック接着剤の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の意匠面の一部を形成するアウターパネルと、アウターパネルの内側に配置されるインナーパネルとを接着する車両用のマスチック接着剤が知られている。例えば、特許文献1の請求項1では、熱可塑性樹脂を主成分とし、発泡剤及び硬化剤を含み、動的粘弾性測定によって求められる粘度ηが150℃以上の温度において7×103[Pa・s]以下であることを特徴とする樹脂系マスチックシーラが開示されている。なお、マスチックシーラとマスチック接着剤とは同義である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マスチック接着剤としては、様々な検討、提案が行われているが、新車両の生産時、CV(Confirmation Vehicle)生産時等に、マスチック接着剤がちぎれる、剥がれる等の問題が起きることがあった。この問題を解決するために、従来は、マスチック接着剤の塗布量の調整、塗布位置の調整、マスチック接着剤の変更等を実車で繰り返していた。
【0005】
本開示は、マスチック接着剤の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行ったところ、実車を用いることなく、マスチック接着剤の評価を行う方法を見出し、本開示に至った。
【0007】
本実施形態の態様例は、以下の通りに記載される。
【0008】
(1) マスチック接着剤の評価方法であり、
治具X及び治具Yを含む、引張試験機に取り付け可能な一対の治具の、治具Xにマスチック接着剤を塗布する工程A、
前記マスチック接着剤が塗布された治具Xと、治具Yとをマスチック接着剤を介して接触させる工程B、
引張試験機に取り付けられた、マスチック接着剤を介して接触する一対の治具を、所定温度に加熱し保持する工程C、及び
前記所定温度下で、引張試験を行う工程Dを含む、
マスチック接着剤の評価方法。
(2) 前記工程Aの前に、前記治具Xを、引張試験機に取り付ける工程I-1及び、
工程Aの前又は、工程Aの後、且つ工程Bの前に、前記治具Yを、引張試験機に取り付ける工程IIを含む、
(1)に記載のマスチック接着剤の評価方法。
(3) 工程Aの後、且つ工程Bの前に、前記マスチック接着剤が塗布された治具Xを、引張試験機に取り付ける工程I-2、及び
工程Aの前又は、工程Aの後、且つ工程Bの前に、前記治具Yを、引張試験機に取り付ける工程IIを含む、(1)に記載のマスチック接着剤の評価方法。
(4) 前記治具X及び治具Yの少なくとも一方が、温度検出手段を備えている、(1)~(3)のいずれかに記載のマスチック接着剤の評価方法。
(5) 前記工程Dにより、マスチック接着剤の引張強度及び伸びを求める、(1)~(4)のいずれかに記載のマスチック接着剤の評価方法。
(6) 前記治具Xが、引張試験機のチャックに取り付け可能な取り付け部、及びマスチック接着剤が塗布されるマスチック接着剤塗布面を有しており、
前記治具Yが、引張試験機のチャックに取り付け可能な取り付け部、及び治具Xに塗布されたマスチック接着剤が接触するマスチック接着剤接触面を有する、(1)~(5)のいずれかに記載のマスチック接着剤の評価方法。
(7) 前記治具X及び治具Yの少なくとも一方に、熱電対挿入部を有し、前記熱電対挿入部に熱電対が挿入された状態で前記工程C及び工程Dを行う、(1)~(6)のいずれかに記載のマスチック接着剤の評価方法。
(8) 引張試験機のチャックに取り付け可能な取り付け部、及びマスチック接着剤が塗布されるマスチック接着剤塗布面を有する治具X及び、引張試験機のチャックに取り付け可能な取り付け部、及び治具Xに塗布されたマスチック接着剤が接触するマスチック接着剤接触面を有する治具Yを含む、一対の治具。
(9) 前記治具X及び治具Yの少なくとも一方に、熱電対挿入部を有する、(8)に記載の治具。
【発明の効果】
【0009】
本開示により、マスチック接着剤を容易に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は治具X及び治具Yの概略図の一例を示す外観斜視図である。
【
図2】
図2は治具Xが熱電対挿入部を有する態様の一例を示す断面概略図である。
【
図3】
図3は治具Xにマスチック接着剤を塗布する工程の一例を示す。
【
図5】マスチック接着剤で接着されたアウターパネルとインナーパネルとの概略図を示す。
【
図6】実施例1における、3種のマスチック接着剤(セメダイン社製 S440、Henkel社製 RB6306、又はイイダ産業社製 OROTEX)を170℃で5分間保持した場合における引張試験の結果を示す。
【
図7】実施例2における、マスチック接着剤(Henkel社製 RB11167)を170℃で5分間保持した場合と、190℃で5分間保持した場合の引張試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態のマスチック接着剤の評価方法及び一対の治具について詳細に説明する。本明細書では、適宜図面を参照して本発明の特徴を説明する。図面では、明確化のために各部の寸法及び形状を誇張しており、実際の寸法及び形状を正確に描写してはいない。それ故、本発明の技術的範囲は、これら図面に表された各部の寸法及び形状に限定されるものではない。また、以下の説明で参照する図面において、同一の部材又は同様の機能を有する部材には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0012】
本実施形態のマスチック接着剤の評価方法は、治具X及び治具Yを含む、引張試験機に取り付け可能な一対の治具の、治具Xにマスチック接着剤を塗布する工程A、前記マスチック接着剤が塗布された治具Xと、治具Yとをマスチック接着剤を介して接触させる工程B、引張試験機に取り付けられた、マスチック接着剤を介して接触する一対の治具を、所定温度に加熱し保持する工程C、及び前記所定温度下で、引張試験を行う工程Dを含む、マスチック接着剤の評価方法である。また、本実施形態の一対の治具は、引張試験機のチャックに取り付け可能な取り付け部、及びマスチック接着剤が塗布されるマスチック接着剤塗布面を有する治具X及び、引張試験機のチャックに取り付け可能な取り付け部、及び治具Xに塗布されたマスチック接着剤が接触するマスチック接着剤接触面を有する治具Yを含む。
【0013】
(マスチック接着剤)
本実施形態のマスチック接着剤の評価方法では、マスチック接着剤の評価が可能である。マスチック接着剤は一般に加熱することにより硬化する。従来のマスチック接着剤の評価では、加熱により硬化した後、室温等の低温領域まで冷却したものを、マスチック接着剤(マスチック接着剤の硬化物)の物性として測定することが一般的であった。本実施形態のマスチック接着剤の評価方法では、マスチック接着剤を加熱している状態でマスチック接着剤に対して引張試験を行うことが可能であるため、従来は評価することができなかった、硬化中のマスチック接着剤、或いは硬化後の高温状態のマスチック接着剤の評価を行うことができるため、極めて有用である。
【0014】
本実施形態において、マスチック接着剤としては、特に制限はなく、例えば車両の構成部材であるアウターパネルと、アウターパネルの内側に配置されるインナーパネルとを接着する目的で使用される接着剤であればよい。マスチック接着剤は、一般に耐デント性が求められる用途で使用され、例えば車両のボンネット、トランクリッド、ドア、ルーフ等で使用される。マスチック接着剤の構成成分としては、特に制限はないが、例えば主剤としてゴムが含まれることが好ましい。ゴムとしては架橋型、部分架橋型、未架橋型を問わず使用することが可能である。また、マスチック接着剤としては、それ以外の成分として、例えば架橋剤、架橋促進剤、充填剤、軟化剤、吸湿防止剤、発泡剤等を含んでいてもよい。マスチック接着剤としては、市販品を用いてもよく、適宜調製したものを用いてもよい。マスチック接着剤としては、例えば特開2012-67191号公報に記載されたマスチック接着剤を用いることができる。
【0015】
(一対の治具)
本実施形態のマスチック接着剤の評価方法では引張試験機に取り付け可能な一対の治具が用いられる。該一対の治具は、治具X及び治具Yを含み、治具Xが、マスチック接着剤が塗布される治具であり、治具Yは、マスチック接着剤が塗布された治具Xと、マスチック接着剤を介して接触する。
【0016】
前記治具Xが、引張試験機のチャックに取り付け可能な取り付け部、及びマスチック接着剤が塗布されるマスチック接着剤塗布面を有することが好ましい。また、前記治具Yが、引張試験機のチャックに取り付け可能な取り付け部、及び治具Xに塗布されたマスチック接着剤が接触するマスチック接着剤接触面を有することが好ましい。治具X及び治具Yの概略図の一例を外観斜視図として
図1に示す。
図1では、取り付け部11、及びマスチック接着剤塗布面13を有する治具X10、取り付け部21、及びマスチック接着剤接触面23を有する治具Y20が図示されている。
図1では、マスチック接着剤塗布面13及びマスチック接着剤接触面23が直径30mmである旨が図示されているが、該直径は、後述の実施例で採用した直径であり、該直径は適宜変更することが可能である。治具Xは、引張試験機に取り付けた際に、マスチック接着剤塗布面が略水平且つ上向きとなることが好ましく、治具Yは、引張試験機に取り付けた際に、マスチック接着剤接触面が略水平且つ下向きとなることが好ましい。
【0017】
本実施形態のマスチック接着剤の評価方法においては、前記治具X及び治具Yの少なくとも一方が温度検出手段を備えていることが好ましい。治具が温度検出手段を備えることにより、マスチック接着剤の温度をより正確に知ることができる。温度検出手段としては、特に制限はないが、例えば熱電対を治具と組み合わせることが可能である。該態様を可能とするために、例えば前記治具X及び治具Yの少なくとも一方に、熱電対挿入部を有することが好ましい。熱電対挿入部に熱電対を挿入した状態で、本実施形態のマスチック接着剤の評価方法を実施することにより、治具、及びマスチック接着剤の温度を随時測定することができる。すなわち、前記治具X及び治具Yの少なくとも一方に、熱電対挿入部を有し、前記熱電対挿入部に熱電対が挿入された状態で前記工程C及び工程Dを行うことが、マスチック接着剤の評価方法の好ましい実施態様の一つである。熱電対挿入部は、治具X及び治具Yの少なくとも一方に有していればよく、両方に有していてもよい。治具X10が熱電対挿入部15を有する態様の一例の断面概略図を
図2に示す。
【0018】
(工程A)
本実施形態のマスチック接着剤の評価方法は、前記治具Xにマスチック接着剤を塗布する工程Aを有する。工程Aでは、治具Xにマスチック接着剤を塗布するが、該塗布は治具Xが引張試験機に取り付けられた状態で行ってもよく、治具Xが引張試験機に取り付けられていない状態で行ってもよい。
【0019】
マスチック接着剤の、塗布後の形状としては特に制限はないが、例えば、略円柱状、略四角柱状、略円錐状が挙げられる。塗布は例えば型を用いて行うことができ、治具Xにマスチック接着剤を塗布する工程の一例を、
図3に示す。
図3では、治具X10のマスチック接着剤塗布面上に、型30を配置し、型30の開口部31にマスチック接着剤40を塗布する。次いで型30を除去することにより、マスチック接着剤塗布面上に開口部31の形状に応じた形状のマスチック接着剤41を塗布することができる。
図3では、マスチック接着剤41は円柱状であるが、形状は円柱状に限定されない。また、
図3ではマスチック接着剤41は、直径15mm、高さ4mmであるが、該寸法は、後述の実施例で採用した寸法であり、該寸法は適宜変更することが可能である。
【0020】
(工程I-1)
本実施形態のマスチック接着剤の評価方法は、任意の工程として工程I-1を含んでいてもよい。工程I-1は、前記工程Aの前に、前記治具Xを、引張試験機に取り付ける工程である。なお、工程I-1に変えて、後述の工程I-2を有していてもよい。
【0021】
(工程I-2)
本実施形態のマスチック接着剤の評価方法は、任意の工程として工程I-2を含んでいてもよい。工程I-2は、工程Aの後、且つ工程Bの前に、前記マスチック接着剤が塗布された治具Xを、引張試験機に取り付ける工程である。
【0022】
(工程II)
本実施形態のマスチック接着剤の評価方法は、任意の工程として工程IIを含んでいてもよい。工程IIは、工程Aの前又は、工程Aの後、且つ工程Bの前に、前記治具Yを、引張試験機に取り付ける工程である。
【0023】
(工程B)
本実施形態のマスチック接着剤の評価方法は、前記マスチック接着剤が塗布された治具Xと、治具Yとをマスチック接着剤を介して接触させる工程Bを有する。工程Bでは、治具X上に塗布されたマスチック接着剤の厚さが、塗布された際の厚さよりも薄くなるように接触させることが好ましい。具体的には工程Bでは、治具X上に塗布されたマスチック接着剤の厚さが、塗布された際の厚さ30~92%になるように、接触させることが好ましい。該厚さの変化は、(工程Bを行った際のマスチック接着剤の厚さ)/(工程Aで塗布されたマスチック接着剤の厚さ)×100で算出することができる。前記範囲では、治具Yに十分にマスチック接着剤が触れることになり、より正確にマスチック接着剤の評価を行うことが可能である。工程Bは、一対の治具(治具X及び治具Y)が、引張試験機に取り付けられた状態で行われることが好ましい。すなわち、工程Bの前の任意の時点で、治具X及び治具Yはそれぞれ引張試験機に取り付けられることが好ましい。
【0024】
前記工程A及びBは、通常は10~40℃、好ましくは室温、例えば20~30℃で行われる。
【0025】
(工程C)
本実施形態のマスチック接着剤の評価方法は、引張試験機に取り付けられた、マスチック接着剤を介して接触する一対の治具を、所定温度に加熱し保持する工程Cを有する。前記所定温度としては、マスチック接着剤を車両部材の製造時に使用する際の温度と同程度であることが好ましく、例えば160~210℃であり、好ましくは170~190℃である。前記温度は、例えば治具X及び治具Yの少なくとも一方が備える温度検出手段、具体的には、治具X及び治具Yの少なくとも一方が有する熱電対挿入部に挿入された熱電対により、測定することが好ましい。工程Cにおいて、所定温度に保持する時間としては、例えば2~60分であり、好ましくは3~20分である。
【0026】
(工程D)
本実施形態のマスチック接着剤の評価方法は、前記所定温度下で、引張試験を行う工程Dを有する。前記引張試験を行うことにより、マスチック接着剤の引張強度及び伸びを求めることが好ましい。工程C及び工程Dにより、加熱によりマスチック接着剤の硬化中、或いは硬化直後の物性を、加熱条件下で測定することができる。このため、本実施形態のマスチック接着剤の評価方法では、マスチック接着剤を用いて車両部材を製造する際に発生することがあった、マスチック接着剤のちぎれ、剥がれ等が、評価対象のマスチック接着剤において、所定温度条件下で発生するか否かを、事前に評価することが可能となる。工程B~工程Dの一例を
図4に示す。
図4では、チャック50に取り付けられた治具X10上にマスチック接着剤41が塗布されており、チャック50に取り付けられた治具Y20と対向している。
図4(B)(工程B)において、接着剤41と治具Y20とが接触する。この際、マスチック接着剤41の厚さは接触前よりも薄くなる。
図4では、接触前のマスチック接着剤41の厚さは4mmであるが、工程Bにより3mmとなる。該厚さは、後述の実施例における厚さであり、該厚さは適宜変更することが可能である。
図4(C)(工程C)において、所定温度に加熱される。すなわち、工程Cにおいて、加熱雰囲気70下に保持され、温度は熱電対60等によって測定される。
図4(D)(工程D)において、所定温度下で、引張試験が行われ、マスチック接着剤の評価が可能である。
【0027】
マスチック接着剤は、車両の意匠面の一部を形成するアウターパネルと、アウターパネルの内側に配置されるインナーパネルとを接着するために通常使用される。なお、インナーパネルとしては、インパクトビームであってもよい。マスチック接着剤で接着されたアウターパネルとインナーパネルとの概略図を
図5に示す。アウターパネル80と、インナーパネル90との間にマスチック接着剤41が存在し、通常車両部材には耐デント性が求められるため、該マスチック接着剤を、線塗布(ビード状に塗布)することにより、剛性が確保されてきた。マスチック接着剤を硬化する際には、通常加熱が行われるが、アウターパネルの形状や、例えば温風による加熱を行う場合には、温風のむらにより、加熱中にアウターパネルとインパクトパネルとの距離が近づく部分や、遠ざかる部分が存在した。このような場合、特に遠ざかる場合に、マスチック接着剤のちぎれ、剥がれ等が発生することがあり、従来から問題となっていた。従来のマスチック接着剤の評価方法では、マスチック接着剤の物性評価は、硬化後、室温等の低温で行われていたため、上述の加熱時におけるちぎれ、剥がれの発生を予測することはできなかったが、本実施形態のマスチック接着剤の評価方法では、所定温度下で引張試験を行うことにより、所定の温度におけるマスチック接着剤の物性、好ましくは引張強度及び伸びを評価することができるため、加熱時のちぎれ、剥がれの発生の予測等に極めて有用な情報を得ることができる。
【実施例0028】
以下、実施例を挙げて本実施形態を説明するが、本開示はこれらの例によって限定されるものではない。
【0029】
[実施例1]
直径30mmのマスチック接着剤塗布面を有する治具X及び、直径30mmのマスチック接着剤接触面を有する治具Yを用意した。治具X及びYの概略図を
図1に示す。治具X及びYは共に直径30mmの金属棒を加工することにより作製した。なお、治具Xは熱電対挿入部を有する(図示せず)。
【0030】
治具Xの接着剤塗布面に、型を用いてマスチック接着剤を円柱状に塗布(直径15mm、高さ4mm)した。該操作(工程A)を、
図3に示す。マスチック接着剤が塗布された治具X及び治具Yを、引張試験機のチャックに取り付けた。該操作(工程I-2、及び工程II)は図示しなかった。
【0031】
引張試験機に取り付けられた治具Xに、治具Yを接近させ、マスチック接着剤を介して、治具Xと治具Yとを接触させた。このとき、マスチック接着剤の高さは3mmとなった。該操作(工程B)を
図4に示す。治具Xの熱電対挿入部に熱電対を挿入した。引張試験機内を、所定温度(170℃)で所定時間(5分間)保持したのち、速やかに該所定温度(170℃)で引張試験を行った。該操作(工程C及び工程D)を
図4に示す。
【0032】
以上の操作により、マスチック接着剤の、170℃で5分間保持した場合における、当該温度での引張試験を行った。前記引張試験では、引張試験強度及び伸び(変異)を評価した。また、引張試験後、マスチック接着剤と治具Xとの接触部分の面積を算出し、引張試験強度を該面積で除することにより引張強度(N/mm
2)を算出した。マスチック接着剤としては、セメダイン社製 S440、Henkel社製 RB6306、又はイイダ産業社製 OROTEXを使用した。3種類のマスチック接着剤について、引張強度及び変位を
図6に示す。
図6において、セメダイン社製 S440を用いた際の引張強度及び変位を(3)、Henkel社製 RB6306を用いた際の引張強度及び変位を(1)、又はイイダ産業社製 OROTEXを用いた際の引張強度及び変位を(2)として示した。
【0033】
図6より、他のマスチック接着剤と比べて、伸びが大きく劣るマスチック接着剤(Henkel社製 RB6306)を、マスチック接着剤が該温度条件下に晒される車両部材の生産に使用した場合には、その生産時に、マスチック接着剤のちぎれ、剥がれが発生すると、実際の車両部材や車両の生産の前に推測することができる。
【0034】
[実施例2]
マスチック接着剤を、Henkel社製 RB11167に変更し、所定温度を170℃又は190℃とした以外は実施例1と同様に行い、引張強度及び伸び(変異)を評価した。170℃で5分間保持した場合及び190℃で5分間保持した場合の引張強度と変異の関係を
図7に示す。
図7において、所定温度を170℃とした際の引張強度及び変位を(4)、所定温度を190℃とした際の引張強度及び変位を(5)として示した。
図7より、190℃で5分間保持した場合には、伸び(変異2mm)未満で剥離することが確認された。このため、Henkel社製 RB11167は、接着時に高温(例えば190℃)条件下に晒される車両部材の製造に使用することは不適当であると、予測することが可能となる。
【0035】
本明細書中に記載した数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。例えば、数値範囲の上限値及び下限値を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、数値範囲の上限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、また、数値範囲の下限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0036】
以上、本実施形態を詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本開示に含まれるものである。