(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183698
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】試験装置
(51)【国際特許分類】
G01N 17/02 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
G01N17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097347
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河原崎 琢也
(72)【発明者】
【氏名】榊原 洋平
(72)【発明者】
【氏名】内田 正宏
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 一平
【テーマコード(参考)】
2G050
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050BA01
2G050CA07
2G050EB03
(57)【要約】
【課題】液体アンモニアの液抵抗を低下させる。
【解決手段】試験装置110は、液体アンモニア、カルバミン酸イオン、および、無機アンモニウム塩の混合液Mを貯留する容器120と、容器120内の混合液Mを冷却する冷却部130と、試験片142および対極144を少なくとも有し、容器120内の混合液Mに浸漬される電極ユニット140と、電極ユニット140に対し、電流を印加する印加部160と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体アンモニア、カルバミン酸イオン、および、無機アンモニウム塩の混合液を貯留する容器と、
前記容器内の前記混合液を冷却する冷却部と、
試験片および対極を少なくとも有し、前記容器内の前記混合液に浸漬される電極ユニットと、
前記電極ユニットに対し、電流を印加する印加部と、
を備える、試験装置。
【請求項2】
前記冷却部は、前記混合液を-10℃以下に冷却する、請求項1に記載の試験装置。
【請求項3】
前記印加部は、前記電極ユニットに対し、前記対極の材料に応じた上限電圧以下の電圧を印加する、請求項1または2に記載の試験装置。
【請求項4】
前記容器内の前記混合液の液抵抗を取得する取得部を備える、請求項1または2に記載の試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体アンモニアを貯蔵するタンク、および、液体アンモニアの運搬に要する機器には、鋼材等の金属材料が用いられている。このような金属材料の経年劣化を把握するために、応力腐食割れ試験が行われている。
【0003】
液体アンモニア中における鋼材の応力腐食割れ試験として、気体のアンモニアを常温で加圧して液体アンモニアを生成し、液体アンモニア中に鋼材および対極を浸漬して、鋼材を電気化学的にアノード分極する技術が提案されている(例えば、特許文献1)。例えば、20℃で試験を行う場合、0.857MPa以上に加圧してアンモニアを液化させる。特許文献1の技術では、液体アンモニアにカルバミン酸アンモニウムを添加し、応力腐食割れを促進させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載されたような常温で試験を行う従来技術では、気体のアンモニアを液化させるために、0.8MPa以上に加圧する必要がある。そうすると、加圧に要するポンプ、液体アンモニアを収容するための耐圧容器等の費用が高くなったり、高圧ガス保安法等の規制を満たすための手続が煩雑になったりするという問題があった。
【0006】
そこで、気体および液体のアンモニアを常温未満に冷却して、0.8MPa未満の圧力で応力腐食割れ試験を行うことが考えられる。しかし、液体アンモニアを常温未満に冷却すると、常温である場合と比較してカルバミン酸アンモニウムが電離しにくくなる。そうすると、常温である場合と比較して液体アンモニアの液抵抗が高くなり、通電による応力腐食割れの促進度合いが小さくなってしまうという問題がある。
【0007】
本開示は、このような課題に鑑み、液体アンモニアの液抵抗を低下させることが可能な試験装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る試験装置は液体アンモニア、カルバミン酸イオン、および、無機アンモニウム塩の混合液を貯留する容器と、容器内の混合液を冷却する冷却部と、試験片および対極を少なくとも有し、容器内の混合液に浸漬される電極ユニットと、電極ユニットに対し、電流を印加する印加部と、を備える。
【0009】
また、冷却部は、混合液を-10℃以下に冷却してもよい。
【0010】
また、印加部は、電極ユニットに対し、対極の材料に応じた上限電圧以下の電圧を印加してもよい。
【0011】
また、容器内の混合液の液抵抗を取得する取得部を備えてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、液体アンモニアの液抵抗を低下させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る試験システムを説明する図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る試験装置を説明する図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る試験方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
図1は、本実施形態に係る試験システム100を説明する図である。
図2は、本実施形態に係る試験装置110を説明する図である。
図1に示すように、試験システム100は、試験装置110と、アンモニア供給管210と、第1窒素供給管220と、洗浄水タンク222と、第2窒素供給管230と、第3窒素供給管232と、第1排気管240と、廃液タンク242、244と、第2排気管246と、接続管250と、空気供給管252と、第3排気管254と、真空ポンプ260と、吸引ビン262と、圧力センサ270と、スクラバ272と、ドラフトチャンバ274とを含む。なお、
図1中、理解を容易にするために、試験装置110の一部を省略する。
【0016】
試験装置110は、例えば、応力腐食割れ(SCC:Stress Corrosion Cracking)試験を行う。応力腐食割れ試験は、試験片142が割れるか否か、割れるまでの時間、どの程度の応力が試験片142に印加されると割れるか等を把握する試験である。
図2に示すように、試験装置110は、容器120と、冷却部130と、電極ユニット140と、制御装置150と、を含む。
【0017】
容器120は、耐圧容器である。容器120は、本体122と、蓋部124とを含む。容器120は、混合液Mを貯留する。混合液Mは、液体アンモニア、カルバミン酸イオン(NH2CO2
-)、および、無機アンモニウム塩を含む。カルバミン酸イオン前駆体を液体アンモニアに供給することで、混合液M中にカルバミン酸イオンを生成させる。カルバミン酸イオン前駆体は、例えば、カルバミン酸アンモニウム(NH4CO2NH2)、二酸化炭素(CO2)、尿素(CO(NH2)2)、炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)、および、炭酸水素アンモニウム(NH4HCO3)のうちの1または複数である。本実施形態では、カルバミン酸イオン前駆体として、カルバミン酸アンモニウムを例に挙げる。無機アンモニウム塩は、例えば、硝酸アンモニウム(NH4NO3)、塩化アンモニウム(NH4Cl)、および、硫酸アンモニウム((NH4)2SO4)のうちの1または複数である。
【0018】
本実施形態において、後述する演算部164によって演算される混合液Mの液抵抗が、所定値以下になるように、無機アンモニウム塩が混合される。液抵抗は、単位長さ当たりの抵抗値で示される。所定値は、試験片142と対極144との間の距離、および、試験片142と対極144との間に流れる電流密度に基づいて決定される。試験片142と対極144との間の距離が決定されている場合、試験片142と対極144との間の電圧降下量は液抵抗と比例する。このため、電圧降下量を無視できる程度に小さい液抵抗を所定値とする。
【0019】
冷却部130は、容器120内の混合液Mを冷却する。冷却部130は、例えば、熱交換器132と、チラー134とを含む。熱交換器132は、容器120の外壁に設けられる。チラー134は、熱交換器132に冷媒を循環させる。
【0020】
冷却部130は、-10℃以下-34℃以上に混合液Mを冷却する。本実施形態において、冷却部130は、例えば-20℃に混合液Mを冷却する。
【0021】
電極ユニット140は、容器120内の混合液Mに浸漬される。本実施形態において、電極ユニット140は、試験片142、対極144、および、参照極146を含む。試験片142は、液体アンモニアを貯蔵するタンク、または、液体アンモニアの運搬に要する機器に用いられる金属材料で構成される。試験片142は、例えば、鋼材である。試験片142は、作用極として機能する。本実施形態において、試験片142は、不図示の治具によって応力が負荷される。
【0022】
対極144および参照極146は、液体アンモニア中において不活性な材料で構成される。対極144および参照極146を構成する材料は、例えば、白金(Pt)、オーステナイト系ステンレス鋼、アルミニウム、または、炭素である。オーステナイト系ステンレス鋼は、例えば、SUS304、SUS316である。
【0023】
制御装置150は、制御部152と、メモリ154とを含む。
【0024】
制御部152は、CPU(中央処理装置)を含む半導体集積回路(制御基板、または、PLC(programmable logic controller))で構成される。制御部152は、ROMからCPUを動作させるためのプログラムやパラメータ等を読み出す。制御部152は、ワークエリアとしてのRAMや他の電子回路と協働して試験装置110全体を管理および制御する。
【0025】
メモリ154は、ROM、RAM、フラッシュメモリ、HDD等で構成される。メモリ154は、制御部152に用いられるプログラムや各種データを保持する。
【0026】
本実施形態において、制御部152は、印加部160、測定部162、演算部164としても機能する。
【0027】
印加部160は、試験片142と参照極146との間の電圧を監視し、この電圧が所定の値となるように、試験片142と対極144との間に直流電流を流す。本実施形態において、印加部160は、試験片142と参照極146との間に、対極144の材料に応じた上限電圧以下の電圧を印加する。上限電圧は、アンモニアの電気分解の進行程度によって決定される。上限電圧は、対極144の材料によって異なる。例えば、印加部160は、対極144として白金電極を用いる場合、試験片142と参照極146との間に、0.0V超、0.7V(上限電圧)以下の電圧を印加する。また、印加部160は、対極144としてSUS304電極を用いる場合、試験片142と参照極146との間に、0.0V超、1.0V(上限電圧)以下の電圧を印加する。
【0028】
測定部162(取得部)は、電極ユニット140のインピーダンスを測定する。演算部164(取得部)は、インピーダンスに基づき、混合液Mの液抵抗を演算する。
【0029】
図1に戻って説明すると、アンモニア供給管210は、アンモニアの供給源と、容器120とを接続する。アンモニアの供給源は、例えば、アンモニアガスボンベである。アンモニア供給管210には、開閉弁V10、減圧機構212、開閉弁V6が設けられる。
【0030】
開閉弁V10は、アンモニア供給管210に形成される流路を開閉する。減圧機構212は、アンモニア供給管210における開閉弁V10と、容器120との間に設けられる。減圧機構212は、アンモニアの供給源から供給されるアンモニアを減圧して、容器120に供給されるアンモニアの流量を調整する。開閉弁V6は、アンモニア供給管210における減圧機構212と容器120との間に設けられる。開閉弁V6は、アンモニア供給管210に形成される流路を開閉する。
【0031】
第1窒素供給管220は、窒素の供給源と、洗浄水タンク222とを接続する。窒素の供給源は、例えば、窒素ガスボンベである。洗浄水タンク222は、洗浄水を貯留する。第1窒素供給管220には、開閉弁V1、減圧機構224、ガス流量計226、開閉弁V3が設けられる。
【0032】
開閉弁V1は、第1窒素供給管220に形成される流路を開閉する。減圧機構224は、第1窒素供給管220における開閉弁V1と、洗浄水タンク222との間に設けられる。減圧機構224は、窒素の供給源から供給される窒素を減圧して、洗浄水タンク222に供給される窒素の流量を調整する。
【0033】
ガス流量計226は、第1窒素供給管220における減圧機構224と洗浄水タンク222との間に設けられる。ガス流量計226は、窒素の流量を調整する。開閉弁V3は、第1窒素供給管220におけるガス流量計226と、洗浄水タンク222との間に設けられる。開閉弁V3は、第1窒素供給管220に形成される流路を開閉する。
【0034】
第2窒素供給管230は、第1窒素供給管220におけるガス流量計226および開閉弁V3の間と、アンモニア供給管210における減圧機構212および開閉弁V6の間とを接続する。第2窒素供給管230には、開閉弁V2、V5が設けられる。開閉弁V2、V5は、第2窒素供給管230に形成される流路を開閉する。開閉弁V2は、第1窒素供給管220側に設けられる。開閉弁V5は、アンモニア供給管210側に設けられる。
【0035】
第3窒素供給管232の一端は、第2窒素供給管230における開閉弁V2と開閉弁V5との間に接続される。第3窒素供給管232の他端は、洗浄水タンク222に貯留された洗浄水に浸漬される。
【0036】
第1排気管240は、アンモニア供給管210における開閉弁V6および容器120の間と、廃液タンク242とを接続する。廃液タンク242、244は、水を貯留する。第1排気管240には、安全弁SVが設けられる。安全弁SVは、容器120の圧力が第1所定圧超となったら開弁される。第1所定圧は、例えば、0.2MPaである。
【0037】
第2排気管246は、容器120と廃液タンク244とを接続する。第2排気管246には、開閉弁V9、V13が設けられる。開閉弁V9、V13は、第2排気管246に形成される流路を開閉する。開閉弁V9は、容器120側に設けられる。開閉弁V13は、廃液タンク244側に設けられる。
【0038】
接続管250は、容器120と、第2排気管246における開閉弁V9および開閉弁V13の間とを接続する。接続管250には、開閉弁V7、V8が設けられる。開閉弁V7、V8は、接続管250に形成される流路を開閉する。開閉弁V7は、容器120側に設けられる。開閉弁V8は、第2排気管246側に設けられる。
【0039】
空気供給管252の一端は、大気開放される。空気供給管252の他端は、第2排気管246における開閉弁V9と開閉弁V13との間に設けられる。空気供給管252には、開閉弁V11、V12が設けられる。開閉弁V11、V12は、空気供給管252に形成される流路を開閉する。開閉弁V11は、他端側に設けられる。開閉弁V12は、一端側に設けられる。
【0040】
第3排気管254は、空気供給管252における開閉弁V11および開閉弁V12の間と、真空ポンプ260の吸入側とを接続する。吸引ビン262は、第3排気管254における空気供給管252との接続箇所と、真空ポンプ260の吸入側との間に設けられる。吸引ビン262は、第3排気管254を通じて供給されるガスに含まれる液体を除去する。吸引ビン262を備えることにより、真空ポンプ260に液体が吸引されてしまう事態を回避できる。これにより、真空ポンプ260の故障を防止できる。
【0041】
圧力センサ270は、容器120内の圧力を測定する。スクラバ272は、廃液タンク242、244に接続される。スクラバ272は、アンモニアを浄化する。ドラフトチャンバ274は、容器120を収容する。ドラフトチャンバ274は、内部空間内の気体を排気する。
【0042】
[試験方法]
続いて、上記試験システム100を用いた試験方法について説明する。
図3は、本実施形態に係る試験方法の処理の流れを示すフローチャートである。
図3に示すように、試験方法は、設置工程S110、真空工程S120、添加ガス供給工程S130、冷却工程S140、液化工程S150、試験工程S160、除去工程S170を含む。なお、初期状態において、開閉弁V1~V13は閉じられている。以下、各工程について説明する。
【0043】
[設置工程S110]
容器120の本体122内にカルバミン酸アンモニウムおよび無機アンモニウム塩を設置する。また、本体122内に、電極ユニット140を設置する。そして、蓋部124によって本体122の開口を閉じる。
【0044】
[真空工程S120]
真空工程S120は、容器120内を真空引きする工程である。真空工程S120では、開閉弁V7、V8、V9、V11が開かれる。そして、真空ポンプ260を動作させる。圧力センサ270によって測定された圧力が第2所定圧になったら真空ポンプ260の動作を停止する。第2所定圧は、例えば、-0.1MPaである。
【0045】
[添加ガス供給工程S130]
添加ガス供給工程S130は、容器120内に添加ガスを供給する工程である。添加ガスが空気である場合、開閉弁V9が閉じられ、開閉弁V12が開かれる。そして、圧力センサ270によって測定された圧力が第3所定圧になったら、開閉弁V7、V8、V11、V12が閉じられる。第3所定圧は、容器120内に目標量の空気が貯留された際の圧力である。目標量の空気は、液体アンモニアに溶解させる酸素の目標量に基づき設定される。なお、液体アンモニアに含まれる酸素の量が多いほど、応力腐食割れが進行する。また、空気に換えて、酸素ガスボンベから容器120内に酸素を供給してもよい。
【0046】
[冷却工程S140]
冷却工程S140は、容器120内を冷却する工程である。冷却工程S140では、すべての開閉弁V1~V13が閉じられる。そして、冷却部130が動作される。冷却部130は、容器120内を-10℃以下-34℃以上に冷却する。
【0047】
[液化工程S150]
液化工程S150は、アンモニアを容器120内に供給し、容器120内においてアンモニアを液化させる工程である。液化工程S150では、開閉弁V6、V10が開かれる。そして、容器120における液体アンモニアの貯留量が所定量となったら、開閉弁V6、V10が閉じられる。所定量は、電極ユニット140が液体アンモニアに浸漬される液体アンモニアの貯留量である。液化工程S150が行われることにより、容器120内に混合液Mが貯留される。
【0048】
[試験工程S160]
試験工程S160では、すべての開閉弁V1~V13が閉じられる。試験工程S160は、電極ユニット140に制御装置150が接続される。そして、印加部160は、試験片142と参照極146との間の電圧を監視し、この電圧が所定の値となるように、試験片142と対極144との間に直流電流を流す。本実施形態において、印加部160は、試験片142と参照極146との間に、対極144の材料に応じた上限電圧以下の電圧を印加する。これにより、試験片142に対し、応力腐食割れ試験が行われる。試験工程S160が終了したら、除去工程S170が行われる。
【0049】
[除去工程S170]
除去工程S170は、混合液Mを容器120から除去する工程である。除去工程S170では、開閉弁V7、V8、V13を開く。また、冷却部130の動作を停止させる。これにより、容器120内の混合液Mが気化し、廃液タンク244に供給される。
【0050】
そして、容器120内の圧力が大気圧まで低下したら、開閉弁V1、V2、V5、V6が開かれる。これにより、容器120内が窒素で置換される。容器内120内が窒素で置換されたら、開閉弁V1、V2、V5、V6、V7、V8、V13が閉じられ、当該試験方法が終了する。
【0051】
以上説明したように、本実施形態の試験装置110では、混合液Mを冷却する冷却部130を備える。これにより、常温である場合よりも容器120内の圧力を下げることができる。したがって、常温である場合よりも容器120のコストを削減することが可能となる。
【0052】
また、本実施形態の試験装置110では、電極ユニット140が浸漬される混合液Mが、液体アンモニア、カルバミン酸イオン、および、無機アンモニウム塩を含む。混合液Mがカルバミン酸イオンを含むことにより、試験片142の表面への不働態被膜の形成を抑制することができる。これにより、試験片142への応力腐食割れを促進させることが可能となる。
【0053】
また、混合液Mが無機アンモニウム塩を含むことにより、カルバミン酸アンモニウムとは無関係に無機アンモニウム塩が電離する。これにより、混合液Mが常温よりも低温であっても、混合液Mの液抵抗を、常温である場合と同程度、もしくは、常温である場合よりも低下させることが可能となる。したがって、試験装置110は、通電による試験片142の応力腐食割れの促進度合いを、常温である場合と同程度、もしくは、常温である場合よりも大きくすることが可能となる。
【0054】
また、無機アンモニウム塩は、有機塩と比較して、低温で電離しやすい。したがって、無機アンモニウム塩を添加することにより、有機塩を添加する場合よりも効率よく、混合液Mの液抵抗を低下させることができる。
【0055】
また、上記したように、冷却部130は、-10℃以下に混合液Mを冷却する。これにより、容器120内の圧力を0.2MPa以下とすることができる。したがって、試験装置110を高圧ガス保安法の規制対象外とすることが可能となり、高圧ガス保安法の規制を満たすための手続を省略することができる。
【0056】
また、上記したように、冷却部130は、-10℃以下、-34℃以上に混合液Mを冷却する。これにより、試験装置110は、液体アンモニアを貯蔵するタンクと同程度の条件で応力腐食割れ試験を行うことができる。なお、大気圧で液体アンモニアを貯蔵するタンクの温度は、-33.4℃である。
【0057】
また、上記したように、印加部160は、電極ユニットに対し、対極144の材料に応じた上限電圧以下の電圧を印加する。これにより、アンモニアの電気分解を抑制することができる。これにより、窒素ガスの生成を抑制することが可能となる。したがって、窒素ガスによる容器120の圧力上昇を抑えることができる。
【0058】
また、上記したように、試験装置110は、測定部162および演算部164を備える。これにより、試験装置110は、混合液Mの液抵抗を取得できる。したがって、試験片142に対する応力腐食割れの促進度合を把握することが可能となる。
【0059】
[第1の実施例]
実施例Aおよび比較例Aの試験条件を下記表1に示す。
【0060】
【0061】
表1に示すように、実施例Aと比較例Aとは、試験片142を浸漬する混合液のみが異なる。実施例Aの混合液は、液体アンモニア、カルバミン酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、および、100ppmの酸素を含む。一方、比較例Aの混合液は、液体アンモニア、硝酸アンモニウム、および、100ppmの酸素を含み、カルバミン酸アンモニウムを含まない。
【0062】
混合液の温度を-20℃とした。また、試験片142として、HT80(高張力鋼)を用いた。また、参照極146として白金電極を用いた。
【0063】
そして、試験片142を混合液に浸漬し、試験片142と参照極146との間の保持電位を+0.5Vとした。また、試験片142の混合液への浸漬時間を1週間とした。
【0064】
その結果、実施例Aでは、試験片142に応力腐食割れが発生した。一方、比較例Aでは、試験片142に応力腐食割れが発生しなかった。
【0065】
以上の結果より、混合液にカルバミン酸イオンを含ませることにより、試験片142への応力腐食割れを促進できることが確認された。
【0066】
[第2の実施例]
対極144として、白金電極またはSUS304電極を、作用極として鉄電極を、参照極146として白金電極を用いて、混合液中でアノード分極を行った。混合液は、液体アンモニアに、5質量%のカルバミン酸アンモニウムおよび5質量%の硝酸アンモニウムを含む。また、作用極と参照極146との間の電圧(電位差)を0.0Vから2.0Vまで変化させて、作用極と対極144との間を流れる電流密度を測定した。
【0067】
図4は、分極曲線を示す図である。
図4中、縦軸は、電流密度[mA・cm
-2]を示し、横軸は、電位差[V]を示す。また、
図4中、実線は、対極144として白金電極を用いた場合の分極曲線を示す。
図4中、破線は、対極144としてSUS304電極を用いた場合の分極曲線を示す。
【0068】
図4に示すように、対極144として白金電極を用いた場合であっても、SUS304電極を用いた場合であっても、電位差を増加させると、電流密度が増加した。
【0069】
また、対極144として白金電極を用いた場合、電位差が0.7V超になると、電流密度が急激に増加することが分かった。また、対極144としてSUS304電極を用いた場合、電位差が1.0V超になると、電流密度が急激に増加することが分かった。
【0070】
これらの結果から、対極144として白金電極を用いた場合、電位差が0.7V以下である場合、下記式(1)に示す反応が進行し、電位差が0.7V超となると、式(1)に加えて、下記式(2)に示す反応が進行したと推察される。
Fe → Fe2+ + 2e- …式(1)
8NH3 → N2 + 6NH4
+ +6e- …式(2)
【0071】
同様に、対極144としてSUS304を用いた場合、電位差が1.0V以下である場合、式(1)に示す反応が進行し、電位差が1.0V超となると、式(1)に加えて、式(2)に示す反応が進行したと推察される。
【0072】
以上の結果から、対極144として白金電極を用いる場合、印加部160は、試験片142と参照極146との間に、0.0V超、0.7V(上限電圧)以下の電圧を印加することで、アンモニアの分解を抑制して、窒素ガスの発生を抑制できることが確認された。また、対極144としてSUS304電極を用いる場合、印加部160は、試験片142と参照極146との間に、0.0V超、1.0V(上限電圧)以下の電圧を印加することで、アンモニアの分解を抑制して、窒素ガスの発生を抑制できることが確認された。
【0073】
[第3の実施例]
溶液A~Fを作成した。そして、溶液A~Fに100ppmの酸素を溶解させ、-20℃とし、液抵抗を測定した。溶液A~Fにおける液体アンモニアおよび酸素以外の組成を表2に示す。
【0074】
【0075】
溶液Aは、液体アンモニアにカルバミン酸アンモニウムを溶解させたものである。溶液Bは、溶液Aに硝酸アンモニウムを溶解させたものである。溶液Cは、溶液Aに塩化アンモニウムを溶解させたものである。
【0076】
溶液Dは、液体アンモニアに硫酸アンモニウムを溶解させたものである。溶液Eは、液体アンモニアに硝酸アンモニウムを溶解させたものである。溶液Fは、液体アンモニアに塩化アンモニウムを溶解させたものである。
【0077】
図5は、液抵抗の測定結果を示す図である。
図5中、縦軸は、液抵抗RS[Ω・cm]を示し、横軸は、経過時間[hr(時間)]を示す。また、
図5中、白色の四角は溶液Aの測定結果を示し、黒色の四角は溶液Bの測定結果を示し、灰色の四角は溶液Cの測定結果を示す。
図5中、白色の丸は溶液Dの測定結果を示し、黒色の丸は溶液Eの測定結果を示し、灰色の丸は溶液Fの測定結果を示す。
【0078】
図5に示すように、溶液A~Fにおいて、時間が経過するに従って、液抵抗が低下することが確認された。これは、時間が経過するに従って、カルバミン酸アンモニウムおよび無機アンモニウム塩が液体アンモニアに分散されたと推察される。
【0079】
また、溶液Aでは、50時間経過しても、液抵抗が1.0E+03[Ω・cm]超であった。一方、溶液Bでは、3時間経過後において、液抵抗が1.0E+03[Ω・cm]未満となり、23時間経過後および28時間経過後において、液抵抗が1.0E+02[Ω・cm]未満となった。また、溶液Cでは、溶液Bよりは、液抵抗が高いものの、3時間経過後において、液抵抗が1.0E+03[Ω・cm]未満となり、23時間経過後および28時間経過後において、液抵抗が1.0E+02[Ω・cm]未満となった。
【0080】
以上の結果から、液体アンモニア、および、カルバミン酸イオンに加えて、無機アンモニウム塩として塩化アンモニウムを添加することで、混合液の液抵抗が低下することが確認された。また、液体アンモニア、および、カルバミン酸イオンに加えて、無機アンモニウム塩として硝酸アンモニウムを添加することで、混合液の液抵抗がより低下することが確認された。
【0081】
また、溶液Dでは、3時間経過後において、液抵抗が1.0E+04[Ω・cm]未満であったが、22時間経過後以降において、液抵抗が1.0E+03[Ω・cm]未満となった。溶液Eでは、3時間経過後において、液抵抗が1.0E+02[Ω・cm]未満となり、21時間経過後以降において、液抵抗が1.0E+01[Ω・cm]未満となった。溶液Fでは、3時間経過後において、液抵抗が1.0E+03[Ω・cm]未満となり、21時間経過後以降において、液抵抗が1.0E+02[Ω・cm]未満となった。
【0082】
以上の結果から、硫酸アンモニウムを添加することで、硝酸アンモニウムおよび塩化アンモニウムと同様に、液体アンモニアの液抵抗が低下することが確認された。したがって、液体アンモニア、および、カルバミン酸イオンに加えて、無機アンモニウム塩として硫酸アンモニウムを添加すると、混合液の液抵抗を1.0E+03[Ω・cm]未満とすることができると推察される。
【0083】
なお、液体アンモニアのみの液抵抗の測定も試みたが、液抵抗が高すぎて測定できなかった。
【0084】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0085】
例えば、上記実施形態において、電極ユニット140が、試験片142、対極144、および、参照極146を備える場合を例に挙げた。しかし、電極ユニット140は、試験片142および対極144を少なくとも備えていればよい。この場合、制御装置150は、混合液Mの液抵抗を測定してもよい。
【0086】
また、上記実施形態において、印加部160が、電極ユニット140に対し、上限電圧以下の電圧を印加する場合を例に挙げた。しかし、印加部160は、電極ユニット140に対し、上限電圧超の電圧を印加してもよい。
【0087】
また、上記実施形態において、試験装置110が演算部164を備える場合を例に挙げた。しかし、演算部164は、必須の構成ではない。例えば、試験装置110は、電極ユニット140とは別体の、混合液Mの液抵抗を取得する取得部を備えていてもよいし、取得部を備えていなくてもよい。
【0088】
また、上記実施形態において、冷却部130が混合液Mを-10℃以下に冷却する場合を例に挙げた。しかし、冷却部130による冷却温度に限定はない。冷却部130は、少なくとも、混合液Mを常温(例えば、25℃)未満に冷却すればよい。
【0089】
また、試験片142の表面積を小さくして、試験片142と対極144との間を流れる電流量を減らしてもよい。これにより、窒素ガスの発生を抑制することが可能となる。
【0090】
また、容器120内に撹拌機を備えてもよい。これにより、液体アンモニアへの、カルバミン酸イオンおよび無機アンモニウム塩の拡散を加速させることができる。
【0091】
また、上記実施形態において、試験装置110が、応力腐食割れ試験を行う場合を例に挙げた。しかし、試験装置110は、応力腐食割れ試験以外の電気化学的試験を行ってもよい。
【符号の説明】
【0092】
M 混合液
110 試験装置
120 容器
130 冷却部
140 電極ユニット
142 試験片
144 対極
160 印加部
162 測定部(取得部)
164 演算部(取得部)