(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183717
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】安定構造探索システム、安定構造探索方法及び安定構造探索プログラム
(51)【国際特許分類】
G16C 10/00 20190101AFI20231221BHJP
【FI】
G16C10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097375
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】片山 健太朗
(57)【要約】
【課題】粗視化モデルの安定構造を探索する際の計算量を削減する。
【解決手段】安定構造探索システムは、列状に配置されるN個(Nは2以上の整数)の粒子が格子空間に配置されたモデルにおいて、前記列におけるi+1番目の粒子の前記格子空間における座標を、前記列におけるi番目の粒子の前記格子空間における座標と、前記格子空間における前記i番目の粒子と前記i+1番目の粒子の相対座標により表現された状態変数とを用いて算出する算出部と、前記状態変数が変更されるごとに、前記N個の粒子の各々の前記格子空間における座標に基づき前記モデルのエネルギの値を計算する計算部と、前記エネルギの値が極小値となる前記状態変数を特定する特定部とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
列状に配置されるN個(Nは2以上の整数)の粒子が格子空間に配置されたモデルにおいて、前記列におけるi+1番目の粒子の前記格子空間における座標を、前記列におけるi番目の粒子の前記格子空間における座標と、前記格子空間における前記i番目の粒子と前記i+1番目の粒子の相対座標により表現された状態変数とを用いて算出する算出部と、
前記状態変数が変更されるごとに、前記N個の粒子の各々の前記格子空間における座標に基づき前記モデルのエネルギの値を計算する計算部と、
前記エネルギの値が極小値となる前記状態変数を特定する特定部と
を有する安定構造探索システム。
【請求項2】
前記状態変数に含まれるN-1個の変数のうちのいずれかの変数を変更する探索部を更に有する、請求項1に記載の安定構造探索システム。
【請求項3】
前記相対座標は、前記格子空間において、前記i番目の粒子を原点に配置した場合の、前記i+1番目の粒子の座標である、請求項1に記載の安定構造探索システム。
【請求項4】
前記算出部は、前記状態変数が変更された場合の前記i+1番目の粒子の座標を、変更後の状態変数に基づいて算出する、請求項3に記載の安定構造探索システム。
【請求項5】
前記算出部は、i+2番目の粒子からN番目の粒子の各々が、前記i+1番目の粒子の移動に伴って平行移動するものとして、前記i+2番目の粒子から前記N番目の粒子の各々の座標を算出する、請求項4に記載の安定構造探索システム。
【請求項6】
前記計算部は、前記N個の粒子の各々の前記格子空間における座標に基づいて、前記N個の粒子の間の相互作用に基づく前記エネルギの値を計算する、請求項2に記載の安定構造探索システム。
【請求項7】
前記エネルギには、前記N個の粒子の間の角度に応じたエネルギ、前記N個の粒子の間の二面角に応じたエネルギ、前記N個の粒子の間の斥力または引力に応じたエネルギ、前記N個の粒子が環状構造を有する場合の、両端の粒子の間の距離に応じたエネルギ、のいずれかが含まれる、請求項6に記載の安定構造探索システム。
【請求項8】
前記計算部は、前記状態変数が更新された後の前記エネルギと、前記状態変数が更新される前の前記エネルギとの差分を計算する、請求項5に記載の安定構造探索システム。
【請求項9】
前記探索部は、前記計算部により計算された差分が、所定の条件を満たす場合に、前記状態変数の変更を可と判定する、請求項6に記載の安定構造探索システム。
【請求項10】
前記特定部は、前記所定の更新回数の範囲で更新された前記状態変数のうち、前記探索部によって変更可と判定された場合の前記状態変数であって、前記状態変数に対応する前記エネルギが極小値となる前記状態変数を特定する、請求項9に記載の安定構造探索システム。
【請求項11】
列状に配置されるN個(Nは2以上の整数)の粒子が格子空間に配置されたモデルにおいて、前記列におけるi+1番目の粒子の前記格子空間における座標を、前記列におけるi番目の粒子の前記格子空間における座標と、前記格子空間における前記i番目の粒子と前記i+1番目の粒子の相対座標により表現された状態変数とを用いて算出し、
前記状態変数が変更されるごとに、前記N個の粒子の各々の前記格子空間における座標に基づき前記モデルのエネルギの値を計算し、
前記エネルギの値が極小値となる前記状態変数を特定する、
処理をコンピュータが実行する安定構造探索方法。
【請求項12】
列状に配置されるN個(Nは2以上の整数)の粒子が格子空間に配置されたモデルにおいて、前記列におけるi+1番目の粒子の前記格子空間における座標を、前記列におけるi番目の粒子の前記格子空間における座標と、前記格子空間における前記i番目の粒子と前記i+1番目の粒子の相対座標により表現された状態変数とを用いて算出し、
前記状態変数が変更されるごとに、前記N個の粒子の各々の前記格子空間における座標に基づき前記モデルのエネルギの値を計算し、
前記エネルギの値が極小値となる前記状態変数を特定する、
処理をコンピュータに実行させるための安定構造探索プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定構造探索システム、安定構造探索方法及び安定構造探索プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、創薬の分野では、副作用の少ない中分子(分子量500~3000)が着目されており、中分子の安定構造を探索するための探索方法の開発が進められている。
【0003】
一例として、粗視化モデルについて、粗視化粒子間の相互作用ポテンシャルを用いて、安定構造を探索する方法が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/230303号
【特許文献2】特開2020-194487号公報
【特許文献3】特開2019-179304号公報
【特許文献4】特開2021-82165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記方法の場合、粗視化粒子の数が増加すると、計算量が増大し、求解が困難になる。
【0006】
一つの側面では、粗視化モデルの安定構造を探索する際の計算量を削減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様によれば、安定構造探索システムは、
列状に配置されるN個(Nは2以上の整数)の粒子が格子空間に配置されたモデルにおいて、前記列におけるi+1番目の粒子の前記格子空間における座標を、前記列におけるi番目の粒子の前記格子空間における座標と、前記格子空間における前記i番目の粒子と前記i+1番目の粒子の相対座標により表現された状態変数とを用いて算出する算出部と、
前記状態変数が変更されるごとに、前記N個の粒子の各々の前記格子空間における座標に基づき前記モデルのエネルギの値を計算する計算部と、
前記エネルギの値が極小値となる前記状態変数を特定する特定部とを有する。
【発明の効果】
【0008】
粗視化モデルの安定構造を探索する際の計算量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】安定構造探索システムの適用例を示す図である。
【
図2】粗視化モデルの安定構造探索処理の概要を示す図である。
【
図6】エネルギ計算処理の各項の詳細を示す第1の図である。
【
図7】エネルギ計算処理の各項の詳細を示す第2の図である。
【
図8】安定構造探索システムのシステム構成及び端末装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図9】安定構造探索システムのシステム構成及びイジング装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図10】端末装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図11】安定構造探索処理の流れを示すフローチャートである。
【
図12】探索処理の詳細を示す第1のフローチャートである。
【
図13】探索処理の詳細を示す第2のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、各実施形態について添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する。
【0011】
[第1の実施形態]
<安定構造探索システムの適用例>
はじめに、第1の実施形態に係る安定構造探索システムの適用例について説明する。
図1は、安定構造探索システムの適用例を示す図である。
【0012】
一般に、創薬の分野では、これまで低分子を用いることが主流であったが、低分子の場合、標的タンパク質以外のタンパク質にも結合しやすく、目的以外の機能を阻害する可能性があった。このため、近年では、副作用の少ない中分子が着目されている。
【0013】
一方で、医薬候補の中分子の場合、安定構造を探索する際の計算量が膨大となる。そこで、本願出願人は、まず、特定の中分子(例えば、環状ペプチド)に絞り込むとともに、以下の2つのフェーズにわけて、絞り込んだ中分子について安定構造を探索するための探索方法の開発を進めている。
【0014】
第1のフェーズは、アミノ酸分子を1つの粒子で表現(粗視化)することで粗視化モデル(モデルの一例)を生成し、粗視化モデルの安定構造を探索するフェーズである。なお、第1の実施形態に係る安定構造探索システムは、
図1の点線枠で示した、第1のフェーズに適用されるシステムであって、かつ、粗視化モデルの安定構造を探索する際の計算量の削減を実現するシステムである。
【0015】
第2のフェーズは、探索した安定構造の粗視化モデルに基づき、全原子による安定構造の探索を行い、更に、探索した安定構造の全原子モデルに基づき、薬効の検証を行うフェーズである。
【0016】
なお、第2のフェーズにおいて、所望する薬効が得られなかった場合には、第1のフェーズに戻り、粗視化モデルについて更なる安定構造を探索する。これらのサイクルは、所望する薬効が得られるまで繰り返し行い、所望する薬効が得られた場合には、その時の安定構造の全原子モデルに基づき、例えば、製薬メーカにより中分子医薬が合成され、活性評価等(いわゆるウェット実験)が行われることになる。
【0017】
以下に詳説する第1の実施形態に係る安定構造探索システムは、このような中分子創薬の一連の流れのうち、第1のフェーズに適用されるシステムである。
【0018】
<粗視化モデルの安定構造探索処理の概要>
次に、第1の実施形態に係る安定構造探索システムによる、粗視化モデルの安定構造の探索処理の概要について説明する。
図2は、粗視化モデルの安定構造探索処理の概要を示す図である。
【0019】
第1の実施形態に係る安定構造探索システムでは、直鎖状に繋がったアミノ酸分子として、
・ペプチドの主鎖粒子を形成するアミノ酸のα炭素を中心とした骨格部分、及び、
・側鎖粒子、
をそれぞれ1つの粗視化された粒子(粗視化粒子)に置き換え、
・例えば、面心立方格子(FCC:face-centered cubic)の空間(格子空間)に列状に配置、
することで、複数の粗視化粒子を含む粗視化モデルを生成し、生成した粗視化モデルの安定構造を、組み合わせ最適化問題として、イジング装置を用いて探索する。
【0020】
図2において、符号210は、複数の粗視化粒子(
図2の例では、5個の粗視化粒子)を面心立方格子(FCC:face-centered cubic)の空間(格子空間)に配置した初期状態の粗視化モデルを模式的に示したものである。なお、
図2の例では、図示の簡略化のため、面心立方格子の空間を2次元平面で表現している。
【0021】
図2に示すように、第1の実施形態に係る安定構造探索システムでは、粗視化モデル(符号210)の安定構造を探索する際、面心立方格子の空間において各粗視化粒子の位置を移動させることで粗視化モデルの状態遷移を繰り返す。そして、第1の実施形態に係る安定構造探索システムでは、状態遷移を繰り返す過程で、
・遷移前のエネルギ値と遷移後のエネルギ値との差分に基づいて遷移可否(変更可否ともいう)をそれぞれ判定し、
・遷移可(変更可)と判定した遷移後(変更後)のエネルギ値の中から最小のエネルギ値(正確には、極小値となるエネルギ値)を特定する。これにより、第1の実施形態に係る安定構造探索システムでは、安定構造の粗視化モデル(符号220)を探索する。
【0022】
具体的には、第1の実施形態に係る安定構造探索システムでは、マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC:Markov-Chain Monte Carlo)を利用し、
・遷移前のエネルギ値よりも遷移後のエネルギ値が小さい場合には、遷移可と判定し、
・遷移前のエネルギ値よりも遷移後のエネルギ値が大きい場合であっても、両者の差分が所定の熱ノイズよりも小さい場合には、遷移可と判定する、
ことで(つまり、所定の条件を満たす場合に遷移可と判定することで)、局所解に陥ることなく、最小のエネルギ値を特定する。
【0023】
また、第1の実施形態に係る安定構造探索システムでは、パラレルテンパリング法(PT:Parallel Tempering)を利用して粗視化モデルの状態遷移を繰り返すことで、効率的に、最小のエネルギ値を特定する。
【0024】
加えて、第1の実施形態に係る安定構造探索システムでは、
・列状に配置される複数の粗視化粒子のうち、当該列におけるi+1番目の粗視化粒子の座標を、当該列におけるi番目の粗視化粒子の座標からの相対座標により表現された状態変数を用いて算出し、
・当該状態変数を用いて算出される、各粗視化粒子の座標に基づいて、粗視化粒子間の相互作用に基づくエネルギ値を計算する、
ことで、少ない計算量で、最小のエネルギ値を特定する(詳細は後述)。ここでいう、「状態変数」とは、粗視化モデルの状態(粗視化モデルの各粗視化粒子の座標)を特定するための変数である。
【0025】
なお、
図2において、符号220は、第1の実施形態に係る安定構造探索システムにより最小のエネルギ値が特定されることで探索された粗視化モデルの安定構造を、模式的に示したものである。ただし、符号210同様、図示の簡略化のため、符号220では、面心立方格子の空間を2次元平面で表現している。
【0026】
<相対座標により状態変数を表現することの利点>
上述したように、第1の実施形態に係る安定構造探索システムでは、i+1番目の粗視化粒子の座標を、i番目の粗視化粒子の座標からの相対座標により表現された状態変数を用いて算出する。そこで、以下では、相対座標により状態変数を表現することの利点について説明する。
【0027】
図3は、相対座標による表現方法を示す図である。なお、
図3の例では、説明の簡略化のため、面心立方格子の空間を2次元平面で表現している。
【0028】
このうち、
図3(a)は、比較例として、絶対座標により状態変数を表現した場合を示している。
図3(a)に示すように、粗視化モデルに含まれる1番目の粗視化粒子の位置が決定されると、1番目の粗視化粒子に隣接する2番目の粗視化粒子の候補位置は、4通りとなる。
【0029】
また、2番目の粗視化粒子の候補位置それぞれに隣接する、3番目の粗視化粒子の候補位置は、8通りとなる。更に、3番目の粗視化粒子の候補位置それぞれに隣接する、4番目の粗視化粒子の候補位置は、16通りとなる。
【0030】
このように、絶対座標により表現された状態変数を用いて各粗視化粒子の座標を特定しようとすると、粗視化モデルに含まれる粗視化粒子の数が大きくなるほど、粗視化粒子の候補位置の数が増えるため、状態変数のBit数が増大する。
【0031】
一方、
図3(b)は、相対座標により状態変数を表現した場合を示している。
図3(b)に示すように、粗視化モデルに含まれる1番目の粗視化粒子の位置が決定されると、1番目の粗視化粒子に隣接する2番目の粗視化粒子の候補位置は、4通りとなる。
【0032】
また、粗視化モデルに含まれる2番目の粗視化粒子の位置が決定されると、2番目の粗視化粒子の候補位置に隣接する、3番目の粗視化粒子の候補位置は、3通りとなる。更に、粗視化モデルに含まれる3番目の粗視化粒子の位置が決定されると、3番目の粗視化粒子の候補位置に隣接する、4番目の粗視化粒子の候補位置は、3通りとなる。
【0033】
このように、相対座標により表現された状態変数を用いて各粗視化粒子の座標を特定する場合、粗視化モデルに含まれる粗視化粒子の数に関わらず、i+1番目の粗視化粒子の候補位置の数は一定となるため、状態変数のBit数も増えない。
【0034】
つまり、
図3(b)に示すように相対座標により状態変数を表現した場合、状態変数のBit数を削減できるといった利点がある。
【0035】
<状態変数の具体例>
次に、相対座標により表現された状態変数の具体例について説明する。
図4は、状態変数の具体例を示す図である。
【0036】
図4(a)に示すように、面心立方格子(FCC)410の中心位置を原点(座標=(0,0,0))とし、i番目の粗視化粒子が原点に位置していたとする。この場合、i番目の粗視化粒子に隣接するi+1番目の粗視化粒子の位置は、12通りとなる(<0>~<11>参照)。そして、12個の粗視化粒子の原点からの相対座標は、以下のようになる。
<0>の位置の相対座標:(-1,-1,0)
<1>の位置の相対座標:(-1,1,0)
<2>の位置の相対座標:(1,-1,0)
<3>の位置の相対座標:(1,1,0)
<4>の位置の相対座標:(-1,0,-1)
<5>の位置の相対座標:(-1,0,1)
<6>の位置の相対座標:(1,0,-1)
<7>の位置の相対座標:(0,-1,-1)
<8>の位置の相対座標:(0,-1,-1)
<9>の位置の相対座標:(0,-1,1)
<10>の位置の相対座標:(0,1,-1)
<11>の位置の相対座標:(0,1,1)
つまり、i番目の粗視化粒子に隣接するi+1番目の粗視化粒子の座標は、上記12通りの相対座標のいずれかとなる(符号420参照)。
【0037】
図4(b)は、一例として、8個の粗視化粒子が含まれる粗視化モデルの各粗視化粒子の座標を、相対座標により表現された状態変数を用いて算出した例を示している。具体的には、0番目の粗視化粒子の座標を原点(座標=(0,0,0))とし、状態変数=[0,1,4,6,3,2,7]とした場合、
・1番目の粗視化粒子の座標=0番目の粗視化粒子の座標+<0>の位置の相対座標、
・2番目の粗視化粒子の座標=1番目の粗視化粒子の座標+<1>の位置の相対座標、
・3番目の粗視化粒子の座標=2番目の粗視化粒子の座標+<4>の位置の相対座標、
・4番目の粗視化粒子の座標=3番目の粗視化粒子の座標+<6>の位置の相対座標、
・5番目の粗視化粒子の座標=4番目の粗視化粒子の座標+<3>の位置の相対座標、
・6番目の粗視化粒子の座標=5番目の粗視化粒子の座標+<2>の位置の相対座標、
・7番目の粗視化粒子の座標=6番目の粗視化粒子の座標+<7>の位置の相対座標、
と算出することができる。
【0038】
<エネルギ計算処理の詳細>
次に、第1の実施形態に係る安定構造探索システムが粗視化モデルの安定構造を探索する際に実行する、粗視化粒子間の相互作用に基づくエネルギ計算処理の詳細について説明する。
図5は、エネルギ計算処理の詳細を示す図である。
【0039】
図5に示すように、粗視化モデルの安定構造を探索する際に実行されるエネルギ計算処理(符号510参照)には、粗視化粒子間の相互作用に基づくエネルギとして、
・粗視化粒子間の角度に応じたエネルギ、
・粗視化粒子間の二面角に応じたエネルギ、
・粗視化粒子間の斥力または引力に応じたエネルギ、
・環状構造を有する場合の、両端の粗視化粒子間の距離に応じたエネルギ、
についての計算処理が含まれ、下式1により表される。
【0040】
【数1】
なお、上式1において、K
θ、K
τ、K
endは、各項の重みを表している。また、上式1において、θはi-1番目~i+1番目までの連続する3つの粗視化粒子がなす角度を表し、τはi-2番目~i+1番目までの連続する4つの粗視化粒子がなす二面角を表している。また、θ
0は角度の目標値を表し、τ
0は二面角の目標値を表している。また、r
ijはi番目の粗視化粒子とj番目の粗視化粒子との間の距離を表し、σ
ijはi番目の粗視化粒子とj番目の粗視化粒子との間の自然状態での距離を表している。更に、r
1Nは、両端の粗視化粒子間の距離を表し、R
thは両端の粗視化粒子間の距離の目標値を表している。
【0041】
ここで、第1の実施形態に係る安定構造探索システムでは、上記エネルギ計算処理を実行するにあたり、各粗視化粒子の位置を移動させたことに伴って生じたエネルギ値の差分を計算対象とする。これにより、第1の実施形態に係る安定構造探索システムによれば、エネルギ計算処理の計算量を削減することができる。
【0042】
図6及び
図7は、エネルギ計算処理の各項の詳細を示す第1及び第2の図である。
図6の符号610に示すように、第1の実施形態に係る安定構造探索システムでは、粗視化粒子間の角度に応じたエネルギを計算する際、粗視化粒子の位置を移動させたことに伴って生じたエネルギ値の差分を計算対象とする。
【0043】
具体的には、i番目の粗視化粒子に対して、i+1番目の粗視化粒子が移動することで、粗視化モデルの状態が遷移した場合、
・i+1番目の粗視化粒子が移動する前の、i-1番目の粗視化粒子と、i番目の粗視化粒子と、i+1番目の粗視化粒子との間でなす角度θ(i+1番目の粗視化粒子が移動する前の、i番目の粗視化粒子周辺の角度θ)と、
・i+1番目の粗視化粒子が移動した後の、i-1番目の粗視化粒子と、i番目の粗視化粒子と、i+1番目の粗視化粒子との間でなす角度θ'(i+1番目の粗視化粒子が移動した後の、i番目の粗視化粒子周辺の角度θ')と、
の差分(=θ-θ')に応じたエネルギを、粗視化粒子間の角度に応じたエネルギとして計算する。換言すると、i-1番目の粗視化粒子周辺の角度、i-2番目の粗視化粒子周辺の角度、・・・等は、i+1番目の粗視化粒子が移動する前と移動した後とで、変化しないため、粗視化粒子間の角度に応じたエネルギの計算には含めない。また、i+2番目以降の各粗視化粒子は、i+1番目の粗視化粒子が移動する際、角度を維持したまま平行移動する。つまり、i+1番目の粗視化粒子周辺の角度、i+2番目の粗視化粒子周辺の角度、・・・等は、i+1番目の粗視化粒子が移動する前と移動した後とで、変化しないため、粗視化粒子間の角度に応じたエネルギの計算には含めない。
【0044】
同様に、
図6の符号620に示すように、第1の実施形態に係る安定構造探索システムでは、粗視化粒子間の二面角に応じたエネルギを計算する際、粗視化粒子の位置を移動させたことに伴って生じたエネルギ値の差分を計算対象とする。
【0045】
具体的には、i番目の粗視化粒子に対して、i+1番目の粗視化粒子が移動することで、粗視化モデルの状態が遷移した場合、
・i+1番目の粗視化粒子が移動する前の、i-2番目~i番目までの粗視化粒子によって形成される面Aと、i-1番目~i+1番目までの粗視化粒子によって形成される面Bとの間でなす二面角τと、
・i+1番目の粗視化粒子が移動した後の、i-2番目~i番目までの粗視化粒子によって形成される面Aと、i-1番目~i+1番目までの粗視化粒子によって形成される面B'との間でなす二面角τ'と、
の差分(=τ-τ')に応じたエネルギを、粗視化粒子間の二面角に応じたエネルギとして計算する。換言すると、i-3番目~i-1番目までの粗視化粒子によって形成される面と、i-2番目~i番目までの粗視化粒子によって形成される面との間でなす二面角等は、i+1番目の粗視化粒子が移動する前と移動した後とで、変化しない。このため、粗視化粒子間の二面角に応じたエネルギの計算には含めない。また、i+2番目以降の各粗視化粒子は、i+1番目の粗視化粒子が移動する際、角度を維持したまま平行移動する。つまり、i-1番目~i+1番目までの粗視化粒子によって形成される面と、i番目~i+2番目までの粗視化粒子によって形成される面との間でなす二面角等は、i+1番目の粗視化粒子が移動する前と後とで、変化しない。このため、粗視化粒子間の二面角に応じたエネルギの計算には含めない。
【0046】
また、
図7の符号710に示すように、第1の実施形態に係る安定構造探索システムでは、粗視化粒子間の斥力または引力に応じたエネルギを計算する際、異なるグループに属する粗視化粒子同士の全ての組み合わせを計算対象とする。換言すると、同一グループに属する粗視化粒子間の斥力または引力については、エネルギの計算には含めない。
【0047】
具体的には、i番目の粗視化粒子に対して、i+1番目の粗視化粒子が移動することで、粗視化モデルの状態が遷移した場合、
・i+1番目の粗視化粒子が移動する前の、グループA(i番目以前の各粗視化粒子が属するグループ)及びグループB(i+1番目以降の各粗視化粒子が属するグループ)にそれぞれ属する各粗視化粒子間の全ての組み合わせについて計算した斥力または引力と、
・i+1番目の粗視化粒子が移動した後の、グループA(i番目以前の各粗視化粒子が属するグループ)及びグループB(i+1番目以降の各粗視化粒子が属するグループ)にそれぞれ属する各粗視化粒子間の全ての組み合わせについて計算した斥力または引力と、
の差分に応じたエネルギを、粗視化粒子間の斥力または引力に応じたエネルギとして計算する。換言すると、グループAに属する粗視化粒子間の斥力または引力に応じたエネルギは、i+1番目の粗視化粒子が移動する前と後とで、変化しないため、粗視化粒子間の斥力または引力に応じたエネルギの計算には含めない。また、グループBに属する各粗視化粒子は、i+1番目の粗視化粒子が移動する際、距離を維持したまま平行移動するため、グループBに属する粗視化粒子間の斥力または引力は、i+1番目の粗視化粒子が移動する前と後とで、変化しない。このため、粗視化粒子間の斥力または引力に応じたエネルギの計算には含めない。
【0048】
なお、
図7の符号720に示すように、粗視化モデルが環状構造を有する場合、i番目の粗視化粒子に対して、i+1番目の粗視化粒子が移動することで粗視化モデルの状態が遷移すると、両端の粗視化粒子間の距離は必ず変化する。
【0049】
このため、環状構造を有する場合の、両端の粗視化粒子間の距離に応じたエネルギについては、i+1番目の粗視化粒子が移動するごとに、常に計算される(粗視化モデルが環状構造を有する場合には、計算対象から除外されることはない)。
【0050】
<安定構造探索システムのシステム構成及び各装置の機能構成>
次に、第1の実施形態に係る安定構造探索システムのシステム構成及び各装置の機能構成について、
図8及び
図9を用いて説明する。
図8は、安定構造探索システムのシステム構成及び端末装置の機能構成の一例を示す図である。また、
図9は、安定構造探索システムのシステム構成及びイジング装置の機能構成の一例を示す図である。
【0051】
(1)安定構造探索システムのシステム構成及び端末装置の機能構成
図8に示すように、第1の実施形態に係る安定構造探索システム800は、端末装置810とイジング装置820とを有する。
【0052】
端末装置810には、安定構造探索指示プログラムがインストールされており、当該プログラムが実行されることで、端末装置810は、状態変数入力部811、エネルギモデル入力部812、探索指示部813、実行指示部814として機能する。
【0053】
状態変数入力部811は、安定構造の探索対象となる、初期状態の粗視化モデル(符号210)の入力を受け付ける。なお、状態変数入力部811は、アミノ酸残基数N(Nは2以上の整数)及びアミノ酸の残基配列の設定を受け付けることで、粗視化モデル(符号210)を特定する。また、状態変数入力部811は、N-1個の状態変数をランダムに決定することで、粗視化モデル(符号210)の初期状態とする。
【0054】
また、状態変数入力部811は、状態変数を表現するための相対座標(符号420)の入力を受け付ける。なお、状態変数入力部811が入力を受け付けた、初期状態の粗視化モデル(符号210)及び相対座標(符号420)は、実行指示部814に通知される。
【0055】
エネルギモデル入力部812は、粗視化粒子間の相互作用に基づくエネルギ計算処理を実行する際に用いる計算式(符号510)の入力を受け付ける。なお、エネルギモデル入力部812が入力を受け付けた計算式(符号510)は、実行指示部814に通知される。
【0056】
探索指示部813は、粗視化モデル(符号210)について安定構造を探索する際の探索回数または探索を行う変数の入力を受け付ける。ここでいう探索回数または探索行う変数とは、イジング装置820における状態変数の更新回数と等価である。なお、探索指示部813が入力を受け付けた探索回数または探索を行う変数は、実行指示部814に通知される。
【0057】
実行指示部814は、状態変数入力部811、エネルギモデル入力部812、探索指示部813より通知された各情報に基づいて、安定構造の探索を行うようイジング装置820に指示する。なお、実行指示部814では、
・探索対象:粗視化モデル(符号210)、
・粗視化モデルの初期状態:ランダムに決定された状態変数
・状態変数の表現方法:相対座標(符号420)、
・探索処理時のエネルギ計算方法:計算式(符号510)、
・探索処理時の状態変数の更新回数:探索回数または探索を行う変数、
を送信することで、イジング装置820に対して探索指示を行う。
【0058】
また、実行指示部814は、イジング装置820に対して探索指示を行うことでイジング装置820より探索結果を受信する。実行指示部814が受信する探索結果には、最小のエネルギの計算結果と、そのときの状態変数とが含まれる。これにより、実行指示部814では、粗視化モデル(符号210)についての安定構造と、安定構造における粗視化モデル(符号220)の粗視化粒子間の相互作用に基づくエネルギとを出力することができる。
【0059】
(2)安定構造探索システムのシステム構成及びイジング装置の機能構成
続いて、
図9を用いてイジング装置820の機能構成について説明する(安定構造探索システム800のシステム構成については、
図8を用いて説明済みであるため、ここでは説明を割愛する)。
【0060】
イジング装置820には、安定構造探索プログラムがインストールされており、当該プログラムが実行されることで、イジング装置820は、探索部910、最適解特定部920、状態変換部930、エネルギ計算部940として機能する。
【0061】
探索部910は、端末装置810からの探索指示に基づいて、粗視化モデル(符号210)について安定構造を探索し、探索結果を端末装置810に送信する。具体的には、探索部910は、粗視化モデル(符号210)について、指示された探索回数(または探索を行う変数)の範囲内で状態変数を更新(変更)する。また、探索部910は、状態変数を更新し粗視化モデルの状態を遷移させるごとに算出されたエネルギ値に基づいて遷移可否を判定する。また、探索部910は、遷移可と判定したエネルギ値の中から特定された、最小のエネルギ値及びそのときの状態変数を、探索結果として、端末装置810に送信する。
【0062】
図9の例は、探索部910が、現在の状態変数([0,1,9,6])についてエネルギ計算部940により計算されたエネルギ値を、最適解特定部920に通知した様子を示している。また、
図9の例は、探索部910が、状態変数を、[0,1,9,6]から[0,1,4,6]へと更新し、最適解特定部920及び状態変換部930に通知した様子を示している。
【0063】
最適解特定部920は特定部の一例である。最適解特定部920は、探索部910からエネルギ値が通知されるごとに、エネルギ値格納部950に格納されたエネルギ値と比較し、通知されたエネルギ値の方が小さい場合に、通知されたエネルギ値を、エネルギ値格納部950に格納する。これにより、最適解特定部920では、最小のエネルギ値を特定することができる。
【0064】
また、最適解特定部920は、探索部910から更新後の状態変数が通知されるごとに保持し、対応するエネルギ値が探索部910から通知され、かつ、当該対応するエネルギ値をエネルギ値格納部950に格納した場合には、状態変数格納部960に格納する。これにより、最適解特定部920では、最小のエネルギ値に対応する状態変数を特定することができる。
【0065】
状態変換部930は算出部の一例であり、探索部910から更新後の状態変数が通知されるごとに、相対座標格納部970を参照し、状態遷移後の粗視化モデルの各粗視化粒子の座標を算出する。なお、相対座標格納部970には、端末装置810からの探索指示に伴って送信された、相対座標が格納されているものとする。
【0066】
図9の例は、探索部910から更新後の状態変数として、[0,1,4,6]が通知されたことで、状態変換部930が、相対座標に基づいて、下記のように、各粗視化粒子(粗視化粒子0~粗視化粒子4)の座標を算出した様子を示している。
・粗視化粒子0:(0,0,0)
・粗視化粒子1:(0,0,0) +(-1,-1,0)=(-1,-1,0)
・粗視化粒子2:(-1,-1,0)+(-1,1,0) =(―2,0,0)
・粗視化粒子3:(-2,0,0) +(-1,0,-1)=(-3,0,-1)
・粗視化粒子4:(-3,0,-1)+(1,0,-1) =(-2,0,-2)
なお、状態変換部930により算出された、状態遷移後の粗視化モデルの各粗視化粒子の座標は、エネルギ計算部940に通知される。
【0067】
エネルギ計算部940は、状態変換部930から状態遷移後の粗視化モデルの各粗視化粒子の座標が通知されるごとに、エネルギ計算処理を実行する。具体的には、エネルギ計算部940は、端末装置810からの探索指示に伴って送信された、計算式(符号510)に基づいて、
図6及び
図7を用いて説明した計算対象について、エネルギ値を計算する。なお、エネルギ計算部940により計算されたエネルギ値は、探索部910に通知され、探索部910では、更新後の状態変数([0,1,4,6])を更新前の状態変数として取り扱うことで、次の探索を行う。
【0068】
<端末装置のハードウェア構成>
次に、端末装置810のハードウェア構成について説明する。
図10は、端末装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0069】
図10に示すように、端末装置810は、プロセッサ1001、メモリ1002、補助記憶装置1003、I/F(Interface)装置1004、通信装置1005、ドライブ装置1006を有する。なお、端末装置810のプロセッサ1001、補助記憶装置1003、I/F装置1004、通信装置1005、ドライブ装置1006は、バス1007を介して相互に接続されている。
【0070】
プロセッサ1001は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等の各種演算デバイスを有する。プロセッサ1001は、各種プログラム(例えば、安定構造探索指示プログラム等)をメモリ1002上に読み出して実行する。
【0071】
メモリ1002は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の主記憶デバイスを有する。プロセッサ1001とメモリ1002とは、いわゆるコンピュータを形成し、プロセッサ1001が、メモリ1002上に読み出した各種プログラムを実行することで、当該コンピュータは上記各種機能を実現する。
【0072】
補助記憶装置1003は、各種プログラムや、各種プログラムがプロセッサ1001によって実行される際に用いられる各種情報を格納する。
【0073】
I/F装置1004は、外部装置の一例である操作装置1010、出力装置1020と、端末装置810とを接続する接続デバイスである。
【0074】
通信装置1005は、ネットワークを介してイジング装置820と通信するための通信デバイスである。
【0075】
ドライブ装置1006は記録媒体1030をセットするためのデバイスである。ここでいう記録媒体1030には、CD-ROM、フレキシブルディスク、光磁気ディスク等のように情報を光学的、電気的あるいは磁気的に記録する媒体が含まれる。また、記録媒体1030には、ROM、フラッシュメモリ等のように情報を電気的に記録する半導体メモリ等が含まれていてもよい。
【0076】
なお、補助記憶装置1003にインストールされる各種プログラムは、例えば、配布された記録媒体1030がドライブ装置1006にセットされ、該記録媒体1030に記録された各種プログラムが読み出されることでインストールされる。あるいは、補助記憶装置1003にインストールされる各種プログラムは、通信装置1005を介してネットワークからダウンロードされることで、インストールされてもよい。
【0077】
なお、ここでは、端末装置810のハードウェア構成についてのみ説明し、イジング装置820のハードウェア構成について説明しなかったが、イジング装置820のハードウェア構成は、例えば、端末装置810と同様であってもよい。あるいは、イジング装置820のハードウェア構成は、いわゆる量子コンピュータのハードウェア構成と同様であってもよい。
【0078】
<安定構造探索処理の流れ>
次に、安定構造探索システム800による安定構造探索処理の流れについて説明する。
図11は、安定構造探索処理の流れを示すフローチャートである。
【0079】
ステップS1101において、端末装置810は、アミノ酸の残基数N(Nは2以上の整数)及びアミノ酸の残基配列の設定を受け付けることで、安定構造の探索対象となる粗視化モデルを特定する。
【0080】
ステップS1102において、端末装置810は、N個の粗視化粒子の粗視化モデルについて、初期状態をランダムに決定する。具体的には、端末装置810は、N-1個の状態変数をランダムに決定する。
【0081】
ステップS1103において、端末装置810は、状態変数を表現するための相対座標の入力を受け付ける。また、端末装置810は、探索処理時のエネルギ計算処理に用いる計算式の入力を受け付ける。また、端末装置810は、探索処理時の状態変数の更新回数として、探索回数または探索を行う変数を受け付ける。更に、端末装置810は、受け付けた各情報に基づいて、粗視化モデルの安定構造の探索を行うようイジング装置820に探索指示を送信する。
【0082】
ステップS1104において、イジング装置820は、探索処理を実行する。なお、イジング装置820による探索処理の詳細は、後述する。
【0083】
ステップS1105において、端末装置810は、イジング装置820より探索結果を受信し、探索対象の粗視化モデルについての最小のエネルギ値の計算結果と、そのときの状態変数とを出力する。
【0084】
<探索処理の流れ>
次に、イジング装置820による探索処理(ステップS1104)の詳細について
図12及び
図13を用いて説明する。
図12及び
図13は、探索処理の詳細を示す第1及び第2のフローチャートである。
【0085】
図12のステップS1201において、イジング装置820は、初期状態の粗視化モデル(符号210)についてエネルギ値を計算し、計算したエネルギ値を、現時点での最小のエネルギ値(minE)として格納する。
【0086】
ステップS1202において、イジング装置820は、粗視化モデルのN個の粗視化粒子の座標を特定するN-1個の状態変数のうち、いずれか1つをランダムに選択し、index=Xを設定する(X=0~N-2のいずれかの整数)。
【0087】
ステップS1203において、イジング装置820は、状態変数Xを更新する。なお、ここでは、状態変数Xを更新したことで移動する粗視化粒子をi+1番目の粗視化粒子とする。
【0088】
ステップS1204において、イジング装置820は、i+1番目の粗視化粒子の座標を算出する。具体的には、イジング装置820は、i番目の粗視化粒子の座標に、状態変数Xに対応する相対座標を加算することで、i+1番目の粗視化粒子の座標を算出する。
【0089】
ステップS1205において、イジング装置820は、i+2番目~N番目の粗視化粒子の座標を更新する。具体的には、イジング装置820は、i+1番目の粗視化粒子の移動に合わせて、i+2番目~N番目の粗視化粒子を平行移動させることで、i+2番目~N番目の粗視化粒子の座標を更新する。
【0090】
ステップS1206において、イジング装置820は、状態変数Xを更新することで状態が遷移した遷移後の粗視化モデルの各粗視化粒子の座標に基づいて、エネルギ値E'を計算する。
【0091】
続いて、
図13のステップS1301において、イジング装置820は、現時点での最小のエネルギ値(minE)として格納されたエネルギ値Eと、ステップS1206において計算されたエネルギ値E'との差分を算出する。また、イジング装置820は、算出した差分が、所定の熱ノイズ(
図13の例では、-Tlog(a))未満であるか否かを判定する。なお、aは一様乱数であり、a∈[0,1]を満たす値である。
【0092】
ステップS1301において、所定の熱ノイズ(-Tlog(a))未満であると判定した場合には(ステップS1301においてYESの場合には)、ステップS1302に進む。
【0093】
ステップS1302において、イジング装置820は、遷移可と判定し、更新後の状態変数を採用するとともに、エネルギ値を更新する(エネルギ値E'でエネルギ値Eを置き換える)。
【0094】
一方、ステップS1301において、所定の熱ノイズ(-Tlog(a))以上であると判定した場合には(ステップS1301においてNOの場合には)、ステップS1303に進む。
【0095】
ステップS1303において、イジング装置820は、遷移不可と判定し、更新後の状態変数を棄却する。
【0096】
ステップS1304において、イジング装置820は、エネルギ値Eが、最小のエネルギ値(minE)よりも小さいか否かを判定する。ステップS1304において、エネルギ値Eが、最小のエネルギ値(minE)よりも小さいと判定した場合には(ステップS1304においてYESの場合には)、ステップS1305に進む。
【0097】
ステップS1305において、イジング装置820は、エネルギ値Eを、現時点での最小のエネルギ値(minE)として格納する。また、イジング装置820は、対応する状態変数を、現時点での最適な状態変数として格納する。
【0098】
一方、ステップS1304において、エネルギ値Eが、最小のエネルギ値(minE)以上であると判定した場合には(ステップS1304においてNOの場合には)、ステップS1306に進む。
【0099】
ステップS1306において、イジング装置820は、状態変数の更新回数が、探索指示に伴って送信された探索回数(または探索を行う変数)に到達したか否かを判定する。ステップS1306において、探索回数(または探索を行う変数)に到達していないと判定した場合には(ステップS1306においてNOの場合には)、
図12のステップS1202に戻る。
【0100】
一方、ステップS1306において、探索回数(または探索を行う変数)に到達したと判定した場合には(ステップS1306においてYESの場合には)、最小のエネルギ値(minE)と、最適な状態変数とを、探索結果として端末装置810に送信する。その後、ステップS1105に戻る。
【0101】
<計算量の削減効果>
次に、第1の実施形態に係る安定構造探索システム800による、安定構造探索処理時の計算量の削減効果について説明する。
図14は、計算量の削減効果の一例を示す図である。
【0102】
このうち、符号1410は、比較例として、粗視化粒子の数N=20の場合に、
・絶対座標により表現された状態変数を用い、かつ、
・計算対象を限定せずにエネルギを計算する、
ことで、安定構造を探索した場合の計算量を示している。
【0103】
一方、符号1420は、粗視化粒子の数N=20の場合に、第1の実施形態に係る安定構造探索システム800が、
・相対座標により表現された状態変数を用い、かつ、
・粗視化粒子の位置を移動させたことに伴って生じたエネルギの差分を計算対象とする、
ことで、安定構造を探索した場合の計算量を示している。
【0104】
なお、符号1410、符号1420に示す計算量に関する各項目のうち、"Bit数"とは、各粗視化粒子の座標を表現するのに必要なBit数を表している。また、"状態総数"とは、粗視化モデルに含まれる各粗視化粒子が採りうる座標の組み合わせの数を表している。また、"RAM容量"とは、エネルギ計算処理の際に必要なメモリの容量を表している。
【0105】
また、各項目についての計算量は、格子空間が面心立方格子の場合、及び、ナイトウォークの場合それぞれについて示した。
【0106】
符号1410と符号1420との対比から明らかなように、第1の実施形態に係る安定構造探索システム800によれば、安定構造探索処理時の各計算量を大幅に削減することができる。換言すると、第1の実施形態に係る安定構造探索システム800によれば、現状の計算機能力のもとで、探索対象とする粗視化モデルの粗視化粒子の数Nを大幅に増やすことができる。
【0107】
以上の説明から明らかなように、第1の実施形態に係る安定構造探索システム800は、列状に配置されるN個の粗視化粒子が格子空間に配置された粗視化モデルにおいて、当該列におけるi+1番目の粗視化粒子の格子空間における座標を、
・当該列におけるi番目の粗視化粒子の格子空間における座標と、
・格子空間におけるi番目の粗視化粒子とi+1番目の粗視化粒子の相対座標により表現される状態変数と、
を用いて算出する。また、第1の実施形態に係る安定構造探索システム800は、状態変数が変更されるごとに、限定した計算対象のもとで、N個の粗視化粒子の各々の格子空間における座標に基づき粗視化モデルのエネルギの値を計算する処理を繰り返し実行する。
【0108】
これにより、第1の実施形態に係る安定構造探索システムによれば、エネルギが最小となる状態変数を特定し、粗視化モデルの安定構造を探索する際の計算量を削減することができる。
【0109】
[第2の実施形態]
上記第1の実施形態では、探索処理時のN-1個の状態変数のうち、いずれか1つをランダムに選択して更新する場合について説明したが、選択する状態変数はランダムでなくてもよい。例えば、1番目の状態変数からN-1番目の状態変数まで、順に選択するなど、所定の順序で選択して、更新してもよい。
【0110】
なお、更新後の状態変数の値には、面心立方格子の場合、12通りの値が含まれるが、いずれの値に更新するかは、ランダムに決定されるものとする。
【0111】
また、上記第1の実施形態では、エネルギ計算処理に用いる計算式(符号510)において、Kθ、Kτ、Kend等の各項の重みを固定としたが、各項の重みは、例えば、アミノ酸の種類に応じて変更してもよい。
【0112】
また、上記第1の実施形態では、安定構造探索システム800が、端末装置810とイジング装置820とを有するものとして説明したが、端末装置810とイジング装置820とは、一体の装置であってもよい。この場合、安定構造探索プログラムには、安定構造探索指示プログラムが含まれ、
図8を用いて説明した端末装置810の各機能部と、
図9を用いて説明したイジング装置820の各機能部とが、イジング装置820において実現されるものとする。
【0113】
なお、開示の技術では、以下に記載する付記のような形態が考えられる。
(付記1)
列状に配置されるN個(Nは2以上の整数)の粒子が格子空間に配置されたモデルにおいて、前記列におけるi+1番目の粒子の前記格子空間における座標を、前記列におけるi番目の粒子の前記格子空間における座標と、前記格子空間における前記i番目の粒子と前記i+1番目の粒子の相対座標により表現された状態変数とを用いて算出する算出部と、
前記状態変数が変更されるごとに、前記N個の粒子の各々の前記格子空間における座標に基づき前記モデルのエネルギの値を計算する計算部と、
前記エネルギの値が極小値となる前記状態変数を特定する特定部と
を有する安定構造探索システム。
(付記2)
前記状態変数に含まれるN-1個の変数のうちのいずれかの変数を変更する探索部を更に有する、付記1に記載の安定構造探索システム。
(付記3)
前記相対座標は、前記格子空間において、前記i番目の粒子を原点に配置した場合の、前記i+1番目の粒子の座標である、付記1に記載の安定構造探索システム。
(付記4)
前記算出部は、前記状態変数が変更された場合の前記i+1番目の粒子の座標を、変更後の状態変数に基づいて算出する、付記3に記載の安定構造探索システム。
(付記5)
前記算出部は、i+2番目の粒子からN番目の粒子の各々が、前記i+1番目の粒子の移動に伴って平行移動するものとして、前記i+2番目の粒子から前記N番目の粒子の各々の座標を算出する、付記4に記載の安定構造探索システム。
(付記6)
前記計算部は、前記N個の粒子の各々の前記格子空間における座標に基づいて、前記N個の粒子の間の相互作用に基づく前記エネルギの値を計算する、付記2に記載の安定構造探索システム。
(付記7)
前記エネルギには、前記N個の粒子の間の角度に応じた第1エネルギ、前記N個の粒子の間の二面角に応じた第2エネルギ、前記N個の粒子の間の斥力または引力に応じた第3エネルギ、前記N個の粒子が環状構造を有する場合の、両端の粒子の間の距離に応じた第4エネルギ、のいずれかが含まれる、付記6に記載の安定構造探索システム。
(付記8)
前記計算部は、前記状態変数が更新された後の前記エネルギと、前記状態変数が更新される前の前記エネルギとの差分を計算する、付記5に記載の安定構造探索システム。
(付記9)
前記第1エネルギは、前記状態変数が変更され、前記i+1番目の粒子が移動することで変更した前記角度の、変更前の前記角度との差分に基づいて計算される、付記8に記載の安定構造探索システム。
(付記10)
前記第2エネルギは、前記状態変数が変更され、前記i+1番目の粒子が移動することで変更された前記二面角と、変更前の前記二面角との差分に基づいて計算される、付記8に記載の安定構造探索システム。
(付記11)
前記第3エネルギは、1番目の粒子から前記i番目の粒子が含まれる第1のグループと、前記i+1番目の粒子から前記N番目の粒子が含まれる第2のグループとの間で、異なるグループにそれぞれ属する粒子同士の全ての組み合わせについて計算される、付記8に記載の安定構造探索システム。
(付記12)
前記探索部は、前記計算部により計算された差分が、所定の条件を満たす場合に、前記状態変数の変更を可と判定する、付記6に記載の安定構造探索システム。
(付記13)
前記特定部は、前記所定の更新回数の範囲で更新された前記状態変数のうち、前記探索部によって変更可と判定された場合の前記状態変数であって、前記状態変数に対応する前記エネルギが極小値となる前記状態変数を特定する、付記12に記載の安定構造探索システム。
(付記14)
列状に配置されるN個(Nは2以上の整数)の粒子が格子空間に配置されたモデルにおいて、前記列におけるi+1番目の粒子の前記格子空間における座標を、前記列におけるi番目の粒子の前記格子空間における座標と、前記格子空間における前記i番目の粒子と前記i+1番目の粒子の相対座標により表現された状態変数とを用いて算出し、
前記状態変数が変更されるごとに、前記N個の粒子の各々の前記格子空間における座標に基づき前記モデルのエネルギの値を計算し、
前記エネルギの値が極小値となる前記状態変数を特定する、
処理をコンピュータが実行する安定構造探索方法。
(付記15)
列状に配置されるN個(Nは2以上の整数)の粒子が格子空間に配置されたモデルにおいて、前記列におけるi+1番目の粒子の前記格子空間における座標を、前記列におけるi番目の粒子の前記格子空間における座標と、前記格子空間における前記i番目の粒子と前記i+1番目の粒子の相対座標により表現された状態変数とを用いて算出し、
前記状態変数が変更されるごとに、前記N個の粒子の各々の前記格子空間における座標に基づき前記モデルのエネルギの値を計算し、
前記エネルギの値が極小値となる前記状態変数を特定する、
処理をコンピュータに実行させるための安定構造探索プログラム。
【0114】
なお、上記実施形態に挙げた構成等に、その他の要素との組み合わせ等、ここで示した構成に本発明が限定されるものではない。これらの点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0115】
800 :安定構造探索システム
810 :端末装置
811 :状態変数入力部
812 :エネルギモデル入力部
813 :探索指示部
814 :実行指示部
820 :イジング装置
910 :探索部
920 :最適解特定部
930 :状態変換部
940 :エネルギ計算部