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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183723
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】高圧ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F02M 41/12 20060101AFI20231221BHJP
   F02M 37/06 20060101ALI20231221BHJP
   F02M 37/08 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
F02M41/12 360A
F02M41/12 320B
F02M37/06 Z
F02M37/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097385
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 大輔
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066AC08
3G066BA51
(57)【要約】
【課題】 高圧ポンプの内部に燃料を充填する時間を従来よりも短縮させる
【解決手段】 燃料を圧送するプランジャ52を往復動させるカム50と、カム50を収容するカム室51と、カム室51へ燃料を供給する低圧ポンプ3と、オーバーフローバルブ60と、を備えた高圧ポンプ5において、オーバーフローバルブ60は、カム室51内の燃料圧力により開弁する第1弁装置71と、第1弁装置71内に配置され、低圧ポンプ3の上流側の燃料圧力により開弁する第2弁装置75と、を備え、高圧ポンプ5の内部に燃料が充填される際、該燃料は、低圧ポンプ3を経由する第1経路と、低圧ポンプ3の上流側から分岐し、オーバーフローバルブ60を経由する第2経路と、を介して高圧ポンプ5の内部へ供給され、カム室51内の燃料圧力により第1弁装置71が開弁し、第1弁装置71の開弁よりも前に、第2経路内の燃料圧力により第2弁装置75が開弁する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を圧送するプランジャ(52)と、
前記プランジャ(52)を往復動させるカム(50)と、
前記カム(50)を収容するカム室(51)と、
前記カム室(51)へ燃料を供給する低圧ポンプ(3)と、
オーバーフローバルブ(60)と、
を備えた高圧ポンプ(5)において、
前記オーバーフローバルブ(60)は、
前記カム室(51)内の燃料圧力により開弁する第1弁装置(71)と、
前記第1弁装置(71)内に配置され、前記低圧ポンプ(3)の上流側の燃料圧力により開弁する第2弁装置(75)と、を備え、
外部装置(29)により前記高圧ポンプ(5)の内部に燃料が充填される際、
該燃料は、前記低圧ポンプ(3)を経由する第1経路と、前記低圧ポンプ(3)の上流側から分岐し、前記オーバーフローバルブ(60)を経由する第2経路と、を介して前記高圧ポンプ(5)の内部へ供給され、
前記カム室(51)内の燃料圧力が所定の圧力に達した時に前記第1弁装置(71)が開弁し、
前記第1弁装置(71)の開弁よりも前に、前記第2経路内の燃料圧力により前記第2弁装置(75)が開弁する
高圧ポンプ(5)。
【請求項2】
前記第1弁装置(71)は、前記オーバーフローバルブ(60)内の空気を外部へ排出するためのエア抜き孔(73c、73d)を備える、請求項1に記載の高圧ポンプ。
【請求項3】
前記外部装置(29)は、製造段階において前記高圧ポンプ(5)が車両に組付けられた後、前記高圧ポンプ(5)内へ燃料を供給する電動式のポンプである、請求項1に記載の高圧ポンプ(5)。
【請求項4】
前記外部装置(29)は、ガス欠後又は高圧ポンプ(5)の交換後の再始動時に、前記高圧ポンプ(5)内へ燃料を供給する手動式のポンプである、請求項1に記載の高圧ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部が燃料により潤滑され、内部の燃料圧力が過大となることを防止するためのオーバーフローバルブを備えた高圧ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の燃焼室に直接燃料を噴射する燃料噴射弁を備えた、直噴式の内燃機関が公知である。特に、直噴式の内燃機関がディーゼルエンジンである場合、蓄圧式燃料噴射制御装置が広く用いられている。
【0003】
蓄圧式燃料噴射制御装置は、燃料タンク内の燃料を高圧ポンプへ供給する低圧ポンプと、低圧ポンプから供給された燃料をコモンレールへ圧送する高圧ポンプと、高圧ポンプから圧送された高圧燃料を蓄積するコモンレールと、コモンレールから供給される高圧燃料を内燃機関の燃焼室へ噴射する燃料噴射弁と、各種センサの出力を受信し、高圧ポンプや燃料噴射弁等の電子制御要素の制御を行うための制御装置と、を備える。(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-185125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蓄圧式燃料噴射制御装置に使用される高圧ポンプとして、内部が燃料により潤滑される、いわゆる燃料潤滑式のポンプが使用されることがある。燃料潤滑式の高圧ポンプにおいては、高圧ポンプを駆動するためのカムが収容されているカム室へ燃料が供給される。カム室へ供給された燃料は、カム周辺の潤滑に供されると共に、燃料を圧送するための加圧室へ達する。加圧室へ達した燃料は、カムにより駆動されるプランジャの往復動によりコモンレールへ圧送される。
【0006】
カム室をはじめとする高圧ポンプ内への燃料の供給手段として、低圧ポンプが使用される。また、当該低圧ポンプが、高圧ポンプの内部に備えられる場合がある。この場合、低圧ポンプは、高圧ポンプ同様、内燃機関の駆動力により作動する。
【0007】
蓄圧式燃料噴射制御装置の高圧ポンプとして、燃料潤滑式のポンプが使用される場合、製造段階において蓄圧式燃料噴射制御装置が車両に組付けられた後、内燃機関の最初の運転よりも前に、高圧ポンプの内部が燃料で満たされる必要がある。この時、外部装置としての電動式のポンプが高圧ポンプの燃料入口に接続され、この電動式のポンプにより高圧ポンプの内部に燃料が充填される。
【0008】
ここで、低圧ポンプが高圧ポンプの内部に備えられている場合、電動式のポンプにより高圧ポンプへ供給される燃料は、次述する第1経路及び第2経路を経てカム室へ至る。第1経路は、燃料が低圧ポンプを通過した後にカム室へ至る経路である。第2経路は、燃料がカム室の内部の燃料圧力により開弁するオーバーフローバルブを通過した後にカム室へ至る経路である。
【0009】
しかしながら、第2経路は、カム室の燃料圧力がある程度高まり、オーバーフローバルブが開弁した後でなければ燃料供給路として機能しない。従って、オーバーフローバルブが開弁するまでの間は、第1経路のみにより、カム室へ燃料が供給される。ここで、第1経路においては、低圧ポンプがカム室への燃料供給の抵抗となる。よって、内部に低圧ポンプを備える燃料潤滑式の高圧ポンプにおいては、電動式のポンプにより燃料を高圧ポンプへ充填する工程に要する時間が長くなるという問題があった。
【0010】
また、市場におけるガス欠後の再始動時にあっては、ハンドプライマと呼ばれる手動式のポンプが用いられ、燃料が高圧ポンプに供給される。この時にも、製造段階同様、燃料を高圧ポンプへ供給する時間が長くなるという問題があった。また、自動車の整備工場やディーラー等において高圧ポンプを交換した際にも同様の問題があった。
【0011】
本発明は、上記のような課題を背景としてなされたものであり、内部に低圧ポンプを備える燃料潤滑式の高圧ポンプにおいて、外部装置により高圧ポンプの内部に燃料を充填する際の時間を従来よりも短縮させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、燃料を圧送するプランジャと、前記プランジャを往復動させるカムと、前記カムを収容するカム室と、前記カム室へ燃料を供給する低圧ポンプと、オーバーフローバルブと、を備えた高圧ポンプにおいて、前記オーバーフローバルブは、前記カム室内の燃料圧力により開弁する第1弁装置と、前記第1弁装置内に配置され、前記低圧ポンプの上流側の燃料圧力により開弁する第2弁装置と、を備え、外部装置により前記高圧ポンプの内部に燃料が充填される際、該燃料は、前記低圧ポンプを経由する第1経路と、前記低圧ポンプの上流側から分岐し、前記オーバーフローバルブを経由する第2経路と、を介して前記高圧ポンプの内部へ供給され、前記カム室内の燃料圧力が所定の圧力に達した時に前記第1弁装置が開弁し、前記第1弁装置の開弁よりも前に、前記第2経路内の燃料圧力により前記第2弁装置が開弁する高圧ポンプが提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、内部に低圧ポンプを備える燃料潤滑式の高圧ポンプにおいて、外部装置により高圧ポンプの内部に燃料を充填する際の時間を短縮させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態に係る高圧ポンプ5を備えた蓄圧式燃料噴射制御装置1の構成例を示す概要図である。
図2】本発明の実施の形態に係るオーバーフローバルブ60の断面図である。
図3図2の部分拡大図である。
図4図3のB-B断面を示す図である。
図5】外部装置29から高圧ポンプ5へ燃料が充填される際の、オーバーフローバルブ60の動作を説明するための図である。
図6】外部装置29から高圧ポンプ5へ燃料が充填される際の、オーバーフローバルブ60の動作を説明するための図である。
図7】外部装置29から高圧ポンプ5へ燃料が充填される際の、オーバーフローバルブ60の動作を説明するための図である。
図8】従来のオーバーフローバルブ600を説明するための図である。
図9】従来のオーバーフローバルブ600を説明するための図である。
図10】従来と本発明における、カム室51内の圧力上昇を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しつつ説明する。尚、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。また、それぞれの図中、同じ符号が付されているものは同一の要素を示しており、適宜説明が省略されている。また、各図において、詳細部分の図示が適宜簡略化または省略されている。また、重複する説明については、適宜簡略化または省略されている。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係る高圧ポンプ5を備えた蓄圧式燃料噴射制御装置1の構成例を示す概要図である。蓄圧式燃料噴射制御装置1は、図示されない内燃機関に燃料を噴射する装置である。蓄圧式燃料噴射制御装置1は、燃料タンク2と、高圧ポンプ5と、コモンレール6と、燃料噴射弁7と、制御装置(ECU)10と、を備える。本実施の形態に係る高圧ポンプ5は、燃料タンク2の燃料を吸い上げる低圧ポンプ3を内部に備える。
【0017】
燃料タンク2と高圧ポンプ5内に備えられた低圧ポンプ3とは、低圧燃料通路12で接続されている。高圧ポンプ5とコモンレール6とは、高圧燃料通路13で接続されている。コモンレール6と燃料噴射弁7とは、高圧燃料通路14で接続されている。高圧ポンプ5、コモンレール6、燃料噴射弁7には、余剰燃料を燃料タンク2に戻すためのリターン通路16、17、18がそれぞれ接続されている。また、燃料タンク2と高圧ポンプ5との間には、燃料フィルタ22が備えられている。
【0018】
図1において、二点鎖線で示された部分が高圧ポンプ5を示す。高圧ポンプ5及び高圧ポンプ5の内部に備えられた低圧ポンプ3は、共に図示されない内燃機関の駆動力により作動する。低圧ポンプ3は、燃料タンク2から汲み上げた燃料を、通路3aを介してカム室51へ供給する。カム室51は、高圧ポンプ5のプランジャ52を駆動するためのカム50を収容する。本実施の形態においては、低圧ポンプ3として、ギアポンプが用いられている。
【0019】
カム室51へ供給された燃料は、カム室51の潤滑に供されると共に、通路51aを介して加圧室53へ供給される。加圧室53へ供給された燃料は、カム50により駆動されるプランジャ52の往復動によりコモンレール6へ圧送される。尚、図1においては、プランジャ52は1本のみ描かれているが、複数のプランジャ52を備えていても構わない。
【0020】
また、カム室51へ供給された燃料の一部は、カム室51周辺のベアリング24等の潤滑に供された後、通路16aを経て排出される。尚、低圧ポンプ3のリターン燃料は通路16bを経て排出される。通路16aへ排出された燃料と通路16bへ排出された燃料とは、リターン通路16を介して燃料タンク2へ戻される。
【0021】
カム室51と加圧室53との間には、高圧ポンプ5の加圧室53へ供給される燃料の流量を調節する流量制御弁54が備えられている。流量制御弁54としては、例えば、供給される電流値の大きさによって弁体のストローク量が調節され、燃料が通過するポートの面積を可変とする電磁比例式制御弁が用いられる。流量制御弁54は、加圧室53に供給される燃料の流量を調節することにより、コモンレール6の内部の燃料圧力(以下、レール圧ともいう)を制御するために用いられる。すなわち、レール圧が、燃料噴射弁7から噴射される燃料の圧力となる。流量制御弁54に対する通電制御は、制御装置10によって行われる。
【0022】
流量制御弁54と加圧室53との間には、ゼロデリバリスロットル55が接続されている。要求される高圧ポンプ5の燃料圧送量が零である時、流量制御弁54を通過する燃料が最大限絞られるが、その場合であってもわずかな燃料が流量制御弁54を通過することがある。この時流量制御弁54を通過したわずかな燃料は、ゼロデリバリスロットル55を通じて通路55aへ排出され、リターン通路16を介して燃料タンク2へ戻される。
【0023】
流量制御弁54とカム室51との間には、オーバーフローバルブ60が接続されている。オーバーフローバルブ60は、蓄圧式燃料噴射制御装置1の通常運転時において、カム室51内の燃料圧力が過大となった時に、カム室51内の燃料をカム室51の外部へ排出する。すなわち、オーバーフローバルブ60は、カム室51内の燃料圧力を所定範囲に保つ。また、高圧ポンプ5の使用開始時等、外部装置により高圧ポンプへ燃料を充填する際にも、燃料がオーバーフローバルブ60を通過する。オーバーフローバルブ60の詳細については後述する。
【0024】
コモンレール6は、高圧ポンプ5から圧送される高圧の燃料を一時的に蓄積し、燃料噴射弁7に対して高圧の燃料を供給する。コモンレール6には、レール圧を測定するためのレール圧センサ21が取り付けられている。レール圧センサ21のセンサ信号は制御装置10に送られ、レール圧の制御に用いられる。
【0025】
コモンレール6は、機械式の安全弁23を備える。安全弁23は、通常運転時は、スプリングによる所定のセット力を受けた弁体がシート部に着座して閉弁している。安全弁23は、レール圧が安全弁23の開弁圧を超えると開弁し、コモンレール6内の燃料をリターン通路17へ排出する。
【0026】
燃料噴射弁7は、図示されない内燃機関の各気筒に備えられる。燃料噴射弁7は、噴射孔が設けられたノズルボディと噴射孔を閉塞するニードル弁とを備える。燃料噴射弁7は、制御装置10による背圧制御部への通電制御によって、ニードル弁の後端側に作用する背圧が逃されることで噴射孔が開かれ、燃料が図示されない内燃機関の気筒に噴射される様構成される。
【0027】
燃料噴射弁7は、例えば、背圧制御部としてソレノイドバルブが備えられた電磁制御型の燃料噴射弁や、背圧制御部としてピエゾ素子が備えられた電歪型の燃料噴射弁が用いられる。燃料噴射弁7は、ニードル弁の背圧制御によって生じる動的リーク燃料やニードル弁等の摺動部から漏れ出す静的リーク燃料を、リターン通路18へ排出する。
【0028】
燃料フィルタ22と高圧ポンプ5との間には、外部装置29が接続されている。本実施の形態における外部装置29は、電動式のポンプである。外部装置29は、製造段階において蓄圧式燃料噴射制御装置1が車両に組付けられた後、高圧ポンプ5の内部に燃料を充填するために用いられる。よって、外部装置29は、高圧ポンプ5の内部に燃料が充填された後、取り外される。また、ガス欠後の再始動時や、整備工場やディーラー等において高圧ポンプ5が交換された際には、外部装置29として、電動式のポンプの代わりに、ハンドプライマと呼ばれる手動式のポンプが用いられ、高圧ポンプ5の内部に燃料が充填される。
【0029】
次に、本発明の実施の形態に係る高圧ポンプ5内に備えられるオーバーフローバルブ60について説明する。図2は、本発明の実施の形態に係るオーバーフローバルブ60の断面図である。オーバーフローバルブ60は、ハウジング61と、第1弁装置71と、第2弁装置75と、を備える。
【0030】
ハウジング61は、中空の円筒状に形成され、軸方向に貫通する貫通孔62を備える。ハウジング61は、貫通孔62の内部に、後述する第1弁装置71及び第2弁装置75を収容する。第1弁装置71及び第2弁装置75は、燃料圧力により作動する。
【0031】
第1弁装置71は、第1弁体72と、第1スプリング80と、プラグ81と、キャップ82と、を備える。ハウジング61の一端側には、キャップ82が装着されている。キャップ82には、軸方向に貫通する軸方向開口部83が形成されている。軸方向開口部83は、通路51aを介してカム室51に連通する(図1参照)。キャップ82は、溶接、あるいは、かしめ等、適宜の方法でハウジング61に装着される。
【0032】
第1弁体72は、ハウジング61の貫通孔62内に摺動自在に保持される。第1弁体72の他端側は、第1スプリング80の一端側に当接している。第1スプリング80の他端側はプラグ81に当接している。
【0033】
プラグ81は、ハウジング61の他端側から貫通孔62内へ圧入されている。プラグ81は、第1スプリング80が第1弁体72に所定のセット力を与える位置に圧入される。よって、ハウジング61の貫通孔62における、第1弁体72とプラグ81との間の領域が、第1スプリング80を収容するスプリング室62aとなる。
【0034】
第2弁装置75は、第2弁体76と、第2スプリング77と、支持部材74と、を備える。第2弁体76と、第2スプリング77と、支持部材74とは、第1弁体72に形成された収容孔73e内に収容されている。収容孔73eは、一端側がキャップ82側へ開口する軸方向孔として形成されている。収容孔73eの他端側には、第2弁装置75の閉弁時に第2弁体76が着座するシート面72cが形成されている。
【0035】
第2弁体76は、第1弁体72の収容孔73e内に摺動自在に保持される。第2スプリング77の一端側は、支持部材74に当接している。支持部材74は、中空の円盤形状をなし、収容孔73eの一端側端部に、溶接、あるいは圧入等、適宜の方法により固定されている。第2スプリング77の他端側は、第2弁体76に当接する。第2スプリング77は、第2弁体76をシート面72cへ押圧する。
【0036】
ハウジング61は、径方向に形成され、貫通孔62とハウジング61の外部とを連通する第1開口部63を備える。第1開口部63は、通路63aを介して、高圧ポンプ5内で、低圧ポンプ3の上流側へ連通している(図1参照)。ハウジング61は、第1開口部63よりも他端側に、径方向に形成され、貫通孔62とハウジング61の外部とを連通する第2開口部64を備える。第2開口部64は、高圧ポンプ5のリターン通路16へ連通している(図1参照)。
【0037】
尚、本実施の形態においては、第1開口部63は、ハウジング61の軸方向視において90度おきに4個形成されるが、その数は4個に限定されない。また、第1開口部63が複数形成されている場合、全ての第1開口部63は、高圧ポンプ5の通路63aへ連通している。
【0038】
また、本実施の形態においては、第2開口部64は1個形成されているが、その数は1個に限定されず、複数形成されていても構わない。第2開口部64が複数形成されている場合、全ての第2開口部64は、高圧ポンプ5のリターン通路16へ連通している。
【0039】
図3は、図2のAで示される領域の部分拡大図である。図4は、図3のB-B断面を示す図である。以下、図3及び図4を参照しつつ、第1弁装置71及び第2弁装置75についてさらに説明する。
【0040】
図3に示される様に、第2弁体76は、着座部76aと、接続部76bと、弁体ガイド部76cと、第2スプリングガイド部76dと、を備える。着座部76aは、第2弁装置75の閉弁時に、第1弁体72の収容孔73eに形成されたシート面72cに着座する。弁体ガイド部76cは、外周部が収容孔73eの内周面に接し、第2弁体が収容孔73e内を摺動する際に、第2弁体76をガイドする。接続部76bは、着座部76aと弁体ガイド部76cとを繋ぐ、円錐形状の部分である。第2スプリングガイド部76dは、弁体ガイド部76cのキャップ82側端面に形成されている、円柱状の突起部分である。弁体ガイド部76cは、第2スプリング77の内側に入ることで、第2スプリング77をガイドする。尚、弁体ガイド部76cには、外周面に複数の溝が形成されており、当該溝を燃料が通過できる様になっている。
【0041】
第1弁体72の軸方向中央部には、一端側がシート面72cの中心部において収容孔73eと連通する第1連通孔73aが形成されている。第1連通孔73aの直径は、第2弁体76がシート面72cに着座する際のシート径よりも小さい。すなわち、第2弁体の閉弁時、第2弁体76がシート面72cに着座することにより、収容孔73eと第1連通孔73aとの連通が遮断される。第1連通孔73aの他端側は、第1弁体72を径方向に貫通する第2連通孔73bに連通している。第1弁体72の一端側がキャップ82に当接している状態において、第2連通孔73bの径方向の開口部、すなわち、第1弁体72の外周面における開口部は、ハウジング61の第1開口部63に連通している。
【0042】
尚、ハウジング61の貫通孔62における、第1開口部63が形成されている部分には、軸方向において第1開口部63の直径よりも長い領域に、内径が拡大された、拡径部65が形成されている。拡径部65が形成されていることにより、周方向において、第2連通孔73bの径方向の開口部とハウジング61の第1開口部63との位相がずれている場合においても、第2連通孔73bと第1開口部63とは確実に連通する。
【0043】
また、図4に示される様に、第1弁体72には、中心軸から離れた部分において、軸方向に、第3連通孔73cが形成されている。本実施の形態においては、第3連通孔73cは2本形成されている。第3連通孔73cは、一端側が収容孔73eに連通する。第3連通孔73cは、第2弁体76がシート面72cに着座する際のシート径より径方向外側において、収容孔73eと連通する。第3連通孔73cの他端側は、第1弁体を径方向に貫通する第4連通孔73dに連通する。ここで、第4連通孔73dの径方向の開口部、すなわち、第1弁体72の外周面における開口部は、第1弁体72の一端側がキャップ82に当接した状態において、拡径部65よりも、第1弁体72の他端側に位置し、第1開口部63と連通することはない。
【0044】
また、本実施の形態においては、第1連通孔73a及び第2連通孔73bの中心軸を含む平面(以下、第1平面ともいう)と、第3連通孔73c及び第4連通孔73dの中心軸を含む平面(以下、第2平面ともいう)とが、直交するように形成されている。ただし、第1平面と第2平面は直交していなくてもよく、第1平面に中心軸を置く連通孔(第1連通孔73a及び第2連通孔73b)と、第2平面に中心軸を置く連通孔(第3連通孔73c及び第4連通孔73d)とが交わらない様に形成されていればよい。
【0045】
図5から図7は、外部装置29から高圧ポンプ5へ燃料が充填される際の、オーバーフローバルブ60の動作について説明するための図である。外部装置29から高圧ポンプ5へ燃料が充填される際には、燃料が低圧ポンプ3を経由してカム室51へ至る第1経路と、燃料が、低圧ポンプ3の上流側で分岐し、オーバーフローバルブ60を経由してカム室51へ至る第2経路とから燃料が充填される。
【0046】
外部装置29の駆動開始前においては、第1弁装置71及び第2弁装置75は閉弁している。すなわち、第1弁装置71においては、第1弁体72の一端側がキャップ82に当接しており、また、第2弁装置75においては、第2弁体76がシート面72cに着座している。
【0047】
外部装置29の駆動が開始されると、第1経路において、燃料は低圧ポンプ3を経由してカム室51へ供給される。この時、低圧ポンプ3は駆動していないため、燃料は、低圧ポンプ3のギアポンプの隙間を通過してカム室51へ至る。
【0048】
一方、第2経路において、燃料は、低圧ポンプ3の入口側から分岐した通路63aを介して、オーバーフローバルブ60のハウジング61に形成された第1開口部63へ供給される。第1開口部63へ供給された燃料は、第1弁体72に形成された第2連通孔73bを介して第1連通孔73aへ達する。この時、第2経路においては、低圧ポンプ3に起因する抵抗を受けないため、外部装置29から供給される燃料圧力が第1連通孔73aに作用する。また、第2弁装置75の開弁圧は、第1連通孔73aへ達した燃料圧力、換言すれば、外部装置29が供給する燃料圧力よりも低く設定されている。よって、第1連通孔73aへ達した燃料は、その燃料圧力により第2弁装置75を開弁させ、収容孔73e、キャップ82の軸方向開口部83、通路51aを経てカム室51へ至る(図1及び図5参照)。
【0049】
よって、カム室51内の燃料圧力は、第1経路及び第2経路を経て供給される燃料により上昇する。その後、第1弁体72は、収容孔73eの他端側(第1スプリング80側)の底面73fと、底面73fの半径方向内側のシート面72cとにおいて受けるカム室51内の燃料圧力により、ストローク(図5の紙面下側への移動)を開始する。
【0050】
その後、第1弁体72のストロークが図6の位置まで達した時、第1弁体72の第2連通孔73bとハウジング61の第1開口部63との連通が遮断される。よって、第1連通孔73aへの外部装置29からの燃料供給がなくなる。その後も、第1経路から供給される燃料によりカム室51側の燃料圧力は上昇を続ける。そして、第2弁体76を挟んだ第1連通孔73a側の燃料圧力とカム室51側の燃料圧力との差が小さくなり、やがて、カム室51側の燃料圧力が第2弁体76に作用する力と第2スプリング77の付勢力との合力が、第1連通孔73a側の燃料圧力が第2弁体に作用する力を上回り、第2弁装置75が閉弁する。
【0051】
第2弁装置75の閉弁後も、カム室51内の燃料圧力は、第1経路を経て外部装置29から供給される燃料により上昇を続ける。このため、第1弁体72はさらにストロークを続ける。
【0052】
図7は、図4と同じ方向からオーバーフローバルブ60を見た断面図である。第1弁体72のストロークがさらに進むと、図7に示される様に、第1弁体72のストロークにより形成された、貫通孔62における第1弁体72とキャップ82との間の領域と、ハウジング61の第1開口部63とが連通する。すなわち、第1開口部63とカム室51とが連通する。換言すれば、第1弁装置71が開弁する。この時、再び外部装置29から、第1開口部63を介してカム室51へ燃料が供給されることとなる。
【0053】
この時、貫通孔62における第1弁体72とキャップ82との間の領域と、ハウジング61の第1開口部63とが連通することにより形成される流路面積は、第2弁装置75の開弁により形成される流路面積よりも大きい。よって、第1弁体のストロークが図7の状態に達した後は、第2弁装置75を介してカム室51へ燃料が供給されていた時に比べ、カム室51の燃料圧力が急速に上昇する。
【0054】
また、図7の状態においては、第1弁体72の第4連通孔73dが、第1スプリング80を収容するスプリング室62aと連通している。すなわち、第1弁体72の収容孔73eとスプリング室62aとが、第1弁体72の第3連通孔73c及び第4連通孔73dを介して連通する。
【0055】
スプリング室62aは、ハウジング61の第2開口部64を介して高圧ポンプ5のリターン通路16と連通しているため、スプリング室62a内の圧力は収容孔73eよりも低い。よって、第4連通孔73dとスプリング室62aが連通することにより、第1開口部63から、収容孔73e、第3連通孔73c、第4連通孔73d、第2開口部64を経由してリターン通路16へ至る燃料の流れが生じる。この流れを利用して、オーバーフローバルブ60内のエア抜きが行われる。すなわち、第3連通孔73c及び第4連通孔73dは、オーバーフローバルブ60内の空気を外部へ排出するためのエア抜き孔として機能する。
【0056】
尚、蓄圧式燃料噴射制御装置1の通常運転時においては、オーバーフローバルブ60は、カム室51内の燃料圧力を所定範囲に保つ様機能する。すなわち、オーバーフローバルブ60は、カム室51内の燃料圧力が過大となった時、第1弁体72が第1スプリング80のセット力に抗してストロークし、第1開口部63及び第2開口部からカム室51内の燃料を排出する。
【0057】
次に、比較例として、従来のオーバーフローバルブ600について説明する。図8及び図9は、従来のオーバーフローバルブ600を説明するための図である。従来のオーバーフローバルブ600は、ハウジング610と弁装置700とを備える。弁装置700は、弁体720と、スプリング80と、プラグ81と、キャップ82と、を備える。
【0058】
弁体720は、一端側(キャップ82側)が開口する軸方向孔730を備える。軸方向孔730の他端側は、軸方向が閉塞され、径方向には連通孔731が形成されている。連通孔731は、弁体720の外周面より穿設され、軸方向孔730へ至る、径方向の孔である。
【0059】
外部装置29による高圧ポンプ5に対する燃料の充填が始まると、燃料は低圧ポンプ3を経由してカム室51へ送られる。一方、弁体720がストロークしていない状態においては、連通孔731の径方向外側端部は、ハウジング610に形成された軸方向の貫通孔62の内面により閉塞されている。よって、オーバーフローバルブ600を経由してカム室51へ燃料が供給されることはない。
【0060】
その後、カム室51内の燃料圧力の上昇により、弁体720がストロークし、図9の状態に達すると、弁体720のストロークにより形成された、貫通孔62における弁体720とキャップ82との間の領域と、ハウジング610の第1開口部63とが連通する。すなわち、第1開口部63とカム室51とが連通する。換言すれば、この時、第2経路が連通する。この後、カム室51内燃料圧力は急速に上昇する。
【0061】
また、この時、弁体720の軸方向孔730が、連通孔731を介してスプリング室62aと連通する。よって、第1開口部63から、軸方向孔730、連通孔731、スプリング室62a、第2開口部64を経由してリターン通路16へ至る燃料の流れが生じる。この流れを利用して、オーバーフローバルブ600内のエア抜きが行われる。
【0062】
従来のオーバーフローバルブ600においては、弁体720のストロークが図9の状態となるまで、すなわち、第1開口部63とカム室51とが連通するまで、外部装置29からカム室51への燃料の供給経路は、低圧ポンプ3を経由してカム室51へ至る経路(第1経路)のみとなる。
【0063】
図10は、外部装置29から高圧ポンプ5に燃料が充填される際の、従来と本発明における、カム室51内の圧力上昇を示す図である。
【0064】
図10において、縦軸はカム室51内の燃料圧力を示し、横軸は、外部装置29の駆動時間を示す。また、図10において、一点鎖線は従来のオーバーフローバルブ600が使用された場合の圧力上昇、実線は本発明に係るオーバーフローバルブ60が使用された場合の圧力上昇を示す。縦軸のp1は、外部装置29が高圧ポンプ5に燃料を充填する際の、カム室51内の燃料の目標圧力を示す。
【0065】
まず、従来のオーバーフローバルブ600が使用された場合について説明する。時刻t0で外部装置29の駆動が開始されると、時刻t3までの間、カム室51内の燃料圧力が上昇し、時刻t3においてその圧力はp0となる。この間燃料は、低圧ポンプ3を経由する第1経路のみを通過してカム室51へ供給される。
【0066】
時刻t3において、ハウジング610の第1開口部63とカム室51とが連通する。すなわち、第2経路が連通する。そして、カム室51内の燃料圧力は急速に上昇し、目標圧力のp1に達する。
【0067】
次に、本発明のオーバーフローバルブ60が使用された場合について説明する。時刻t0において外部装置29の駆動が開始されると、低圧ポンプ3を経由する第1経路と、オーバーフローバルブ60の第2弁装置75を経由する第2経路との双方から燃料がカム室51へ供給される。
【0068】
そして、時刻t1において、第2弁装置75が閉弁する。よって時刻t1を過ぎると、第2経路が一旦閉鎖されるため、第1経路のみからのカム室51への燃料供給となり、カム室51内の燃料圧力の上昇速度は一旦低下する。その後時刻t2において、カム室51内の燃料圧力がP0となり、ハウジング61の第1開口部63とカム室51とが連通する。すなわち、第2経路が再度連通する。そして、カム室51の燃料圧力が急速に上昇し、目標圧力のp1に達する。尚、第1開口部63とカム室51とが連通する時におけるカム室51内の燃料圧力が、本発明における所定の圧力に相当する。
【0069】
本発明のオーバーフローバルブ60が使用された場合においては、時刻t0から時刻t1までの間、第1経路と第2経路双方からカム室51へ燃料が供給される。よって、この区間の圧力上昇の速度が従来に比べて早い。
【0070】
時刻t1に達すると、第2経路が閉鎖され、第1経路のみからカム室51へ燃料が供給されるため、カム室51内の圧力上昇速度が低下する。よって時刻t1から時刻t2までの間、実線と一点鎖線の傾きが一致する。しかしながら、時刻t0から時刻t1までの間の圧力の上昇速度が本発明の方が早いため、第1開口部63とカム室51とが連通するまでの時間が従来よりも本発明の方が早い。よって、カム室51内の燃料圧力が目標圧力P1に達するまでの時間が、従来よりも本発明の方が早い。
【0071】
以上、説明した様に、本発明のオーバーフローバルブ60を使用することにより、車両の製造段階における、外部装置29による高圧ポンプ5内へ燃料を充填する際の時間を短縮することができる。
【0072】
また、本発明に係るオーバーフローバルブ60のハウジング61は、従来品に対し、第1開口部63の周囲に拡径部65を形成する加工を追加するのみで製造可能であるため、本発明に係るハウジング61の製造のために、大きな工程変更を行う必要がない。
【符号の説明】
【0073】
1:蓄圧式燃料噴射制御装置、3:低圧ポンプ、5:高圧ポンプ、29:外部装置、50:カム、51:カム室、52:プランジャ、60:オーバーフローバルブ、71:第1弁装置、72:第1弁体、75:第2弁装置、76:第2弁体、73a:第1連通孔、73b:第2連通孔、73c:第3連通孔(エア抜き孔)、73d:第4連通孔(エア抜き孔)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10