(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183735
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】エレベータシステム
(51)【国際特許分類】
B66B 3/00 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
B66B3/00 L
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097402
(22)【出願日】2022-06-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白倉 邦彦
【テーマコード(参考)】
3F303
【Fターム(参考)】
3F303CB25
3F303CB31
(57)【要約】
【課題】乗りかご内の鏡やポスターなどの設置物上の画像に影響されずに、乗りかご内に乗車した利用者を正確に検知して、乗車人数の誤算を防ぐ。
【解決手段】一実施形態に係るエレベータシステムは、撮像手段と、人物検知手段と、追跡手段と、検知処理手段とを備える、上記撮像手段は、乗りかご内から出入口付近の乗場を含む範囲を撮影する。上記人物検知手段は、上記撮像手段によって得られた画像から人物を検知する。上記追跡手段は、上記人物検知手段によって検知された上記人物を追跡する。上記検知処理手段は、上記追跡手段によって得られる上記人物の追跡距離と位置とに基づいて、上記乗りかご内に乗車した利用者を検知する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗りかご内から出入口付近の乗場を含む範囲を撮影する撮像手段と、
上記撮像手段によって得られた画像から人物を検知する人物検知手段と、
上記人物検知手段によって検知された上記人物を追跡する追跡手段と、
上記追跡手段によって得られる上記人物の追跡距離と位置とに基づいて、上記乗りかご内に乗車した利用者を検知する検知処理手段と
を具備したことを特徴とするエレベータシステム。
【請求項2】
上記検知処理手段は、
上記人物の追跡距離が一定距離以上であり、かつ、上記画像の上側を上記乗場としたときに、上記人物の位置が予め設定された基準位置よりも下であれば、当該人物を上記乗りかご内に乗車した利用者として判断することを特徴とする請求項1記載のエレベータシステム。
【請求項3】
上記検知処理手段は、
上記人物の追跡距離が上記一定距離未満、あるいは、上記人物の位置が上記基準位置よりも上であれば、当該人物を検知対象から除外することを特徴とする請求項2記載のエレベータシステム。
【請求項4】
上記検知処理手段は、
上記人物の追跡距離が上記一定距離未満であった場合、上記乗りかご内に設置された鏡を含む設置物上の画像と判断して、検知対象から除外することを特徴とする請求項3記載のエレベータシステム。
【請求項5】
上記検知処理手段は、
上記人物の位置が上記基準位置よりも上であった場合、当該人物を上記乗場にいる利用者であると判断することを特徴とする請求項3記載のエレベータシステム。
【請求項6】
上記基準位置は、上記画像上の上記乗りかごのシルの位置に定められていることを特徴とする請求項2記載のエレベータシステム。
【請求項7】
上記検知処理手段は、
上記乗りかご内に乗車した利用者を検知した場合に、乗車人数をカウントすることを特徴とする請求項1記載のエレベータシステム。
【請求項8】
上記乗りかごの運転を制御する運転制御手段を備え、
上記運転制御手段は、
上記撮像手段の画像から得られる乗車人数が一定人数を超えている場合に、乗場呼びの登録階を通過する満員運転に切り替えることを特徴とする請求項1記載のエレベータシステム。
【請求項9】
上記乗りかごに設けられた荷重検知手段を備え、
上記運転制御手段は、
上記荷重検知手段によって検知される積載荷重値を考慮して、上記満員運転に切り替えることを特徴とする請求項8記載のエレベータシステム。
【請求項10】
上記乗りかごに設けられた荷重検知手段を備え、
上記撮像手段の画像から得られる乗車人数と、上記荷重検知手段によって検知される積載荷重値から算出される乗車人数との誤差に基づいて、上記撮像手段または上記荷重検知手段に対する故障診断を行う故障診断手段をさらに具備したことを特徴とする請求項1記載のエレベータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、乗りかご内に設置されたカメラを用いて利用者を検知するエレベータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エレベータの乗りかご内にカメラを設置しておき、このカメラで撮影した画像を処理することで、乗りかご内に乗車している利用者の人数などを検知し、その検知結果をエレベータの運転制御に反映させるシステムが知られている。
【0003】
この種のシステムでは、画像処理によって利用者を正確に検知することが必要となる。ところが、乗りかご内に鏡が設置されていると、その鏡に映った利用者を誤検知することがある。乗りかご内に人物のポスターなどが貼られている場合も同様であり、そのポスター上の人物を利用者として誤検知することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5230793号公報
【特許文献2】特許第6611685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
乗りかご内の鏡やポスターなどの設置物上の画像を利用者として誤検知すると、乗車人数を実際よりも多くカウントしてしまうため、例えば満員の判定を誤り、運行効率を低下させる要因となる。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、乗りかご内の鏡やポスターなどの設置物上の画像に影響されずに、乗りかご内に乗車した利用者を正確に検知して、乗車人数の誤算を防ぐことのできるエレベータシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態に係るエレベータシステムは、撮像手段と、人物検知手段と、追跡手段と、検知処理手段とを備える、上記撮像手段は、乗りかご内から出入口付近の乗場を含む範囲を撮影する。上記人物検知手段は、上記撮像手段によって得られた画像から人物を検知する。上記追跡手段は、上記人物検知手段によって検知された上記人物を追跡する。上記検知処理手段は、上記追跡手段によって得られる上記人物の追跡距離と位置とに基づいて、上記乗りかご内に乗車した利用者を検知する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は一実施形態に係るエレベータシステムの構成を示す図である。
【
図2】
図2は同実施形態における乗りかご内の出入口周辺部分の構成を示す図である。
【
図3】
図3は同実施形態におけるカメラの撮影画像の一例を示す図である。
【
図4】
図4は同実施形態におけるフレームNの画像の一例を示す図である。
【
図5】
図5は同実施形態におけるフレームN+1の画像の一例を示す図である。
【
図6】
図6は同実施形態における撮影画像の一例を示す図であり、利用者が乗りかご内に乗車した後に乗場に引き返した状態を示す図である。
【
図7】
図7は同実施形態における撮影画像の一例を示す図であり、乗りかご内に人物のポストが貼られている状態を示す図である。
【
図8】
図8は同実施形態におけるエレベータシステムの動作を説明するためのフローチャートである。
【
図9】
図9は上記
図8のステップS16で実行される利用者検知処理の詳細を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は応用例として満員運転への切替えを説明するためのフローチャートである。
【
図11】
図11は応用例として積載荷重値を考慮した満員運転への切替えを説明するためのフローチャートである。
【
図12】
図12は応用例として故障判断を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
なお、開示はあくまで一例にすぎず、以下の実施形態に記載した内容により発明が限定されるものではない。当業者が容易に想到し得る変形は、当然に開示の範囲に含まれる。説明をより明確にするため、図面において、各部分のサイズ、形状等を実際の実施態様に対して変更して模式的に表す場合もある。複数の図面において、対応する要素には同じ参照数字を付して、詳細な説明を省略する場合もある。
【0010】
図1は一実施形態に係るエレベータシステムの構成を示す図である。なお、ここでは、1台の乗りかごを例にして説明するが、複数台の乗りかごでも同様の構成である。
【0011】
乗りかご11の出入口上部に、撮像手段として用いられるカメラ12が設置されている。具体的には、カメラ12は、乗りかご11の出入口上部を覆う幕板11aの中にレンズ部分を直下方向に向けて設置される。カメラ12は、例えば魚眼レンズ等の超広角レンズを有し、180度以上の視野角で乗りかご11内を含む撮影対象を広範囲に撮影する。カメラ12は、1秒間に数コマ(例えば30コマ/秒)の画像を連続的に撮影可能である。
【0012】
なお、カメラ12の設置場所は、かごドア13付近であれば、乗りかご11の出入口上部でなくても良い。例えば、乗りかご11の出入口に近い天井面など、乗りかご11内の床面全域を含むかご室内全体と戸開時に出入口付近の乗場15を撮影可能な場所であれば良い。
【0013】
また、乗りかご11の底部には、乗りかご11内の積載荷重値を検知するための荷重検知器10が設置されている。この荷重検知器10によって検知された積載荷重値は、図示せぬ伝送ケーブル(テールコード)を介してエレベータ制御装置30に送られる。
【0014】
各階の乗場15において、乗りかご11の到着口には乗場ドア14が開閉自在に設置されている。乗場ドア14は、乗りかご11の到着時にかごドア13に係合して開閉動作する。なお、動力源(ドアモータ)は乗りかご11側にあり、乗場ドア14はかごドア13に追従して開閉するだけである。以下の説明においては、かごドア13を戸開している時には乗場ドア14も戸開しており、かごドア13が戸閉している時には乗場ドア14も戸閉しているものとする。
【0015】
カメラ12によって連続的に撮影された各画像(映像)は、画像処理装置20によってリアルタイムに解析処理される。なお、
図1では、便宜的に画像処理装置20を乗りかご11から取り出して示しているが、実際には、画像処理装置20はカメラ12と共に幕板11aの中に収納されている。
【0016】
画像処理装置20には、記憶部21と検知部22とが備えられている。記憶部21は、カメラ12によって撮影された画像を逐次保存すると共に、検知部22の処理に必要なデータを一時的に保存しておくためのバッファエリアを有する。なお、記憶部21には、撮影画像に対する前処理として、歪み補正や拡大縮小、一部切り取り等の処理が施された画像が保存されるとしても良い。
【0017】
検知部22は、例えばマイクロプロセッサからなり、カメラ12の撮影画像を用いて乗りかご11内や乗場15にいる利用者を検知する。この検知部22を機能的に分けると、人物検知部22a、追跡部22b、検知処理部22cで構成される。なお、これらは、ソフトウェアによって実現しても良いし、IC(Integrated Circuit)等のハードウェアにより実現しても良いし、ソフトウェアおよびハードウェアを併用して実現しても良い。また、画像処理装置20の一部あるいは全部の機能をエレベータ制御装置30に持たせることでも良い。
【0018】
人物検知部22aは、カメラ12によって得られた画像から人物を検知する。追跡部22bは、人物検知部22aによって検知された人物を追跡する。人物検知方法として、例えばCoHOG(Co-Occurrence Histograms of Oriented Gradients:輝度勾配方向共起ヒストグラム)特徴量が用いられる。また、人物追跡方法としては、フレーム画像間でCoHOG特徴量によって特定された人物を追跡する方法などが用いられる。
【0019】
検知処理部22cは、追跡部22bによって得られる人物の追跡距離と位置とに基づいて、乗りかご11内に乗車した利用者を検知する。「追跡距離」とは、撮影画像上で対象物の追跡を開始してから現時点までの累積距離である。「位置」とは、撮影画像上の対象物のx,y座標位置であり、少なくともY方向(戸開閉方向と直交する方向)の座標位置を含む。検知処理部22cは、乗りかご11内に乗車した利用者を検知した場合に乗車人数としてカウントする機能を有する。
【0020】
ここで、「追跡距離」は、人物の追跡を開始してから現時点までの間に人物が移動した距離であり、移動の方向は関係しない。検知処理部22cは、人物の追跡距離と位置が下記の判定条件を満足するときに、当該人物を乗りかご11内に乗車した利用者であると判断する。
・人物の追跡距離が予め設定された一定距離Th以上
・人物の位置が基準位置Pyよりも下
上記基準位置Pyは、かごシル47のかご床面19側の一側部のY方向の座標位置に定められている(
図4参照)。
【0021】
エレベータ制御装置30は、CPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータからなる。エレベータ制御装置30は、運転制御部31、戸開閉制御部32、通知部33、故障診断部34を備える。
【0022】
運転制御部31は、乗りかご11の運転制御を行う。具体的には、運転制御部31は、カメラ12の撮影画像から得られる乗車人数が一定人数を超えている場合に、乗場呼びの登録階を通過する満員運転に切り替えるなどの運転制御を行う。「カメラ12の撮影画像から得られる乗車人数」とは、検知処理部22cでカウントされた乗車人数のことである。戸開閉制御部32は、乗りかご11が乗場15に到着したときのかごドア13の戸開閉を制御する。詳しくは、戸開閉制御部32は、乗りかご11が乗場15に到着したときにかごドア13を戸開し、所定時間経過後に戸閉する。
【0023】
ここで、例えばかごドア13の戸開動作中に検知処理部22cによって、かごドア13の近くにいる利用者が検知された場合には、戸開閉制御部32は、ドア事故(戸袋への引き込まれ事故)を回避するための戸開閉制御を行う。具体的には、戸開閉制御部32は、かごドア13の戸開動作を一時停止するか、逆方向(戸閉方向)に動かす、あるいは、かごドア13の戸開速度を遅くする。通知部33は、検知処理部22cの検知結果に基づいて、乗りかご11内の利用者に注意を喚起する。
【0024】
また、エレベータ制御装置30には、故障診断部34が備えられている。故障診断部34は、カメラ12の撮影画像から得られる乗車人数と、乗りかご11の積載荷重値から算出される乗車人数との誤差に基づいて、カメラ12または荷重検知器10に対する故障診断を行う。
【0025】
図2は乗りかご11内の出入口周辺部分の構成を示す図である。
乗りかご11の出入口にかごドア13が開閉自在に設けられている。
図2の例では2枚戸両開きタイプのかごドア13が示されており、かごドア13を構成する2枚のドアパネル13a,13bが間口方向(水平方向)に沿って互いに逆方向に開閉動作する。なお、「間口」とは、乗りかご11の出入口と同じである。
【0026】
乗りかご11の出入口の両側に正面柱41a,41bが設けられており、幕板11aと共に乗りかご11の出入口を囲っている。「正面柱」は、出入口柱あるいは出入口枠とも言い、裏側にはかごドア13を収納するための戸袋が設けられているのが一般的である。
図2の例では、かごドア13が戸開したときに、一方のドアパネル13aが正面柱41aの裏側に設けられた戸袋42aに収納され、他方のドアパネル13bが正面柱41bの裏側に設けられた戸袋42bに収納される。
【0027】
正面柱41a,41bの一方あるいは両方に表示器43や、行先階ボタン44などが配設された操作盤45、スピーカ46が設置されている。
図2の例では、正面柱41aにスピーカ46、正面柱41bに表示器43、操作盤45が設置されている。
【0028】
また、
図3に示すように、乗りかご11の背面49の出入口と対向する場所に、矩形状の鏡50が設置されている。この鏡50は、例えば車椅子利用者が乗りかご11内から降車するときのバックミラーとして利用される。なお、鏡50としては、「ガラスタイプ」だけではなく、「ステンレスミラータイプ」も含む。
【0029】
乗りかご11の出入口上部の幕板11aの中央部に、魚眼レンズ等の超広角レンズを有するカメラ12が設置されている。カメラ12は、所定のフレームレート(例えば30フレーム/秒)で、乗りかご11内と出入口付近の乗場15を撮影する。このカメラ12によって撮影された画像は、
図1に示した画像処理装置20に与えられ、利用者または物を検知するための検知処理に用いられる。
【0030】
図3はカメラ12の撮影画像の一例を示す図である。かごドア13(ドアパネル13a,13b)と乗場ドア14(ドアパネル14a,14b)が全開した状態で、乗りかご11の出入口上部から180度以上の視野角でかご室内全体と出入口付近の乗場15を撮影した場合を示している。上側は乗場15、下側は乗りかご11内である。
【0031】
乗場15において、乗りかご11の到着口の両側に三方枠17a,17bが設けられており、その三方枠17a,17bの間の床面16に所定の幅を有する帯状の乗場シル18が乗場ドア14の開閉方向に沿って配設されている。また、乗りかご11の床面19の出入口側に所定の幅を有する帯状のかごシル47がかごドア13の開閉方向に沿って配設されている。
【0032】
ここで、乗りかご11内に鏡50が設置されている場合、撮影画像上で鏡50に写り込んだ利用者の鏡像を誤検知して、乗車人数をダブルカウントしてしまうなどの問題が生じる。この場合、撮影画像上で鏡50の設置場所に対応したエリア(鏡エリア)をマスクすれば、鏡50による誤検知を防ぐことができる。しかし、鏡エリアを設定するためには、物件毎に鏡50に関する情報(設置場所等)を事前にシステムに与えておく必要があり、非常に手間がかかる。
【0033】
以下では、撮影画像上で鏡50に写り込んだ利用者の鏡像などに影響されずに、乗りかご11内に乗車した利用者を検知して、乗車人数を正しくカウントする方法について説明する。
【0034】
図4はフレームNの画像の一例を示す図、
図5はフレームN+1の画像の一例を示す図で図である(Nは任意の整数)。なお、ここでは画像の変化をわかりやすくするため、便宜的にフレームNとフレームN+1との間隔を長めにしている。図中のP1は利用者、点線は利用者P1の移動の軌跡を表している。乗りかご11の背面49の出入口と対向する位置に鏡50が設置されており、この鏡50に利用者P1の鏡像が写り込んでいる。
【0035】
乗りかご11が戸開しているときに、カメラ12によって撮影された画像から人物を検知する。人物検知方法として、例えば「CoHOG特徴量」が用いられる。「CoHOG特徴量」とは、画像中の各画素での輝度勾配強度の組み合わせによりヒストグラムを作成し、ブロック内の縦、横、斜めのエッジの組み合わせを定量化し、ブロック毎に求めたヒストグラムをつなぎ合わせ、ベクトル化したものである。このCoHOG特徴量を用いて人物の形状を予め学習しておき、その学習結果と現在の画像から抽出したCoHOG特徴量とに基づいて人物を検知する。
【0036】
いま、利用者P1が人物として検知され、識別情報としてID11が付与されたとする。カメラ12から所定のフレームレートで得られる各画像からID11の利用者P1の動きを追跡処理する。なお、人物追跡方法としては、フレーム画像間でCoHOG特徴量を用いて同一人物を追跡する方法などが用いられる。
【0037】
ここで、乗りかご11内に鏡50が設置されていると、この鏡50に写る利用者P1の鏡像も人物として誤検知される可能性がある。この鏡像は、鏡50の中だけに現れ、鏡50の範囲内で動いている。したがって、鏡像の動きを追跡処理した場合、その追跡処理によって得られる距離(追跡距離)は実像に比べて短いことがわかる。本実施形態では、この鏡像と実像との追跡距離の違いに着目し、一定距離Th以上の追跡距離を有する人物を利用者P1の実像として判別する。なお、「一定距離Th」は、カメラ12の位置と、乗りかご11のサイズ、間口の広さ、三方枠17a,17bの側面のY方向の幅サイズなどを考慮して、撮影画像上で検知される利用者が乗場15から乗りかご11の間口付近まで移動するまでの平均的な距離から定められている。
【0038】
また、追跡処理によって利用者P1の実像を判別できても、利用者P1が乗場15の周辺を移動している場合も考えられる。そこで、撮影画像の上側を乗場15としたときに、撮影画像上の中心付近に存在するかごシル47のかご床面19側の一側部のY方向の座標位置を基準位置Pyとして定めておく。追跡処理によって実像と判別された利用者P1のY方向の位置が上記基準位置Pyより下であれば、利用者P1を乗りかご11内に乗車した利用者として認定し、乗車人数をカウントする。
【0039】
図4の例では、利用者P1の追跡距離が一定距離Thよりも短く、かつ、利用者P1のY方向の位置が基準位置Pyより上である。この時点では、まだ、利用者P1を乗りかご11内に乗車した利用者として認定されない。
図5の例では、利用者P1が一定距離Th以上であり、かつ、利用者P1のY方向の位置が基準位置Pyより下である。この時点で、利用者P1を乗りかご11内に乗車した利用者として認定し、乗車人数を+1カウントする。
【0040】
一方、
図6に示すように、識別情報ID12が付与された利用者P2が乗りかご11に乗車した後に、乗場15に引き返したとする。この場合、追跡距離は一定距離Thの条件を満たすが、利用者P2のY方向の位置が基準位置Pyより上になる。したがって、利用者P2を乗車人数から除外する。
【0041】
鏡50の設置位置は、乗りかご11の背面49に限らず、側面48a,48bであっても良い。鏡50が乗りかご11内のどこに設置されていても、鏡50に写る人物の鏡像の動きは少ない。したがって、追跡距離によって、鏡50に写る人物の鏡像を検知対象から除外でき、乗車人数の誤カウントを防ぐことができる。
【0042】
また、
図7に示すように、例えば乗りかご11内に人物のポスター51が貼られていた場合も同様である。このポスター51の人物を誤検知する可能性があるが、ポスター51の人物には動きはないので、追跡距離によって検知対象から除外できる。乗りかご11内にモニターが設置されていた場合も同様である。モニターに人物の画像が表示されていた場合に、その人物の動きはモニター画面の中であり、フレーム画像間の追跡処理によって得られる追跡距離は少ないため、検知対象から除外できる。
【0043】
次に、本実施形態におけるエレベータシステムの動作を説明する。
図8はエレベータシステムの動作を説明するためのフローチャートである。このフローチャートで示される処理は、主として画像処理装置20によって実行される。
【0044】
いま、乗りかご11が任意の階で戸開している場合を想定する。乗りかご11内に設置されたカメラ12は、所定のフレームレートで乗りかご11内と出入口付近の乗場15を撮影している。カメラ12によって撮影された画像は、画像処理装置20の記憶部21に時系列順に記憶される。
【0045】
乗りかご11が戸開しているとき(ステップS11のYes)、画像処理装置20の検知部22は、記憶部21に記憶された各画像を時系列順に読み出し、これらの画像から人物を検知する(ステップS12)。なお、人物検知処理や追跡処理については、上述した「CoHOG特徴量」など、一般的に知られている方法を用いるものとし、ここではその詳しい説明を省略する。
【0046】
ここで、新たな人物が検知された場合(ステップS13のYes)、検知部22は、その人物に識別情報(ID)を付し、当該人物の追跡を開始する(ステップS14)。検知部22は、カメラ12から時系列順に得られる各画像の中で上記識別情報が付された同一人物を追跡処理する(ステップS15)。検知部22は、この追跡処理によって得られる人物の追跡距離と位置に基づいて、乗りかご11内に乗車した利用者を検知する(ステップS16)。
【0047】
詳しくは、
図9に示すように、検知部22は、まず、人物の追跡距離をチェックし、この追跡距離が一定距離Th以上あるか否かを判断する(ステップS21)。追跡距離が一定距離Thに満たない場合には(ステップS21のNo)、検知部22は、追跡中の人物が鏡50に写る人物の鏡像、あるいは、ポスター51などの設置物上の画像であると判断し、当該物を検知対象から除外する(ステップS24)。
【0048】
一方、追跡距離が一定距離Th以上であった場合には(ステップS21のYes)、検知部22は、追跡中の人物の位置が基準位置Pyより下であるか否かを判断する(ステップS22)。上述したように、基準位置Pyは、撮影画像上の中心付近に存在するかごシル47のY方向の位置に定められている。追跡中の人物のY方向の位置が基準位置Pyより下であれば(ステップS22のYes)、検知部22は、当該人物を乗りかご11内に乗車した利用者であると判断する(ステップS23)。追跡中の人物のY方向の位置が基準位置Pyより上であれば(ステップS22のNo)、検知部22は、当該人物を乗場15にいる利用者であると判断し、検知対象から除外する(ステップS24)。
【0049】
このようにして、追跡中の人物を乗りかご11内に乗車した利用者であると判断した場合には、検知部22は、その利用者を乗車人数のカウントに含める(
図8のステップS17)。乗りかご11が戸開している間、上述した処理が切り返され、乗りかご11内に乗車した利用者を対象にして、乗車人数がカウントされる。この場合、鏡50に写る人物の鏡像や、ポスター51上の人物などは検知対象から除外されるため、乗車人数が誤カウントされることはない。
【0050】
乗りかご11内に利用者が乗車した後も、追跡処理は継続されている。したがって、
図6に示したように、乗車人数としてカウント済みの利用者P2が乗りかご11から降車した場合には、乗車人数のカウント値を-1して、現在の乗車人数を正すことができる。この場合、識別情報によって利用者が特定されているため、誰が降車したのかを判別できる。また、乗りかご11内のドア近くに乗車していた利用者が後方の利用者を降車させるために、一旦、乗場15に出て、再び乗車するケースがある。上述したように、識別情報によって利用者が特定されているので、同じ画像の範囲内であれば、利用者が一旦乗場15に出て、再び乗車したこと認識して、乗車人数のカウント値に正しく反映させることができる。この場合、利用者が降車したときに、乗車人数のカウント値が-1され、再び乗車したときに、カウント値が+1される。
【0051】
このように本実施形態によれば、撮影画像上で検知された人物の追跡距離(追跡を開始してからの累積距離)に着目することで、乗りかご11内に鏡50が設置されている場合に、その鏡50に写る人物の鏡像を検知対象から除外することができる。したがって、撮影画像上で鏡エリアをマスクしておく必要もなく、また、例えばステレオカメラを用いて人物を3次元で追跡しなくても、1台のカメラ12だけで得られる人物の追跡距離と位置により、乗りかご11内に乗車した利用者だけを正確に検知して、その検知結果を乗車人数に反映させることができる。
【0052】
これは、乗りかご11内にポスター51が貼られている場合やモニターが設置されている場合でも同様であり、これらの設置物上の画像を追跡距離によって検知対象から除外でき、乗りかご11内に乗車した利用者だけを正確に検知して、その検知結果を乗車人数に反映させることができる。
【0053】
なお、上記実施形態では、乗りかご11の戸開時を想定して説明したが、戸閉時でも同様であり、追跡処理によって得られる追跡距離と位置とから鏡50に写る人物の鏡像やポスター51上の人物などを検知対象から除外して、乗りかご11内の利用者だけを正しく検知できる。
【0054】
(応用例)
カメラ12の撮影画像から乗車人数が得られると、以下のようなことを実現できる。
(1)かご内状況の表示
例えば、乗場15に設けられた図示せぬインジケータに乗車人数をかご内状況として表示する。具体的には、エレベータ制御装置30が画像処理装置20から検知部22でカウントされた乗車人数を取得し、当該乗りかご11が着床している階の乗場15のインジケータにその乗車人数を現在のかご内状況として表示する。これにより、乗場15にいる利用者は、現在の乗車人数を把握でき、例えば乗車人数が多い場合には乗車しないなどの行動を取ることができる。
【0055】
(2)満員運転への切替え
カメラ12の撮影画像から得られる乗車人数は、鏡50に写る人物の鏡像やポスター51上の人物などを含まず、乗りかご11内に乗車している利用者だけを正しくカウントしたものである。したがって、この乗車人数を用いれば、満員状態を正しく判定して、乗場呼びの登録階を通過させる満員運転に切替えることができる。
【0056】
具体的には、
図10に示すように、乗りかご11が戸閉したときに、エレベータ制御装置30は、画像処理装置20から検知部22でカウントされた乗車人数を取得する(ステップS31)。乗車人数が乗りかご11の定格人数として定められた一定人数以内であれば(ステップS32のYes)、エレベータ制御装置30は、乗りかご11を乗場呼びの登録階に停止させて通常運転を行う(ステップS33)。一方、乗車人数が一定人数を超える場合には(ステップS32のNo)、エレベータ制御装置30は、満員運転に切り替え、乗りかご11を乗場呼びの登録階に停止させずに、利用者の行先階に直行する(ステップS33)。なお、上記乗場呼びの登録階には、別の乗りかごを応答させるか、あるいは、乗りかご11内の利用者を行先階で降ろした後に応答する。
【0057】
(3)積載荷重値を考慮した満員運転への切替え
カメラ12の撮影画像から得られる乗車人数が乗りかご11内の利用者だけを正しくカウントしたものであっても、例えば利用者の体重や荷物等によって、乗りかご11の積載荷重値が変わってくる。したがって、乗車人数だけでなく、積載荷重値も満員判定の条件に含めることが好ましい。
【0058】
具体的には、
図11に示すように、乗りかご11が戸閉したときに、エレベータ制御装置30は、画像処理装置20から検知部22でカウントされた乗車人数を取得する(ステップS41)。乗車人数が乗りかご11の定格人数として定められた一定人数以内であれば(ステップS42のYes)、エレベータ制御装置30は、荷重検知器10から乗りかご11の現在の積載荷重値を取得する(ステップS43)。積載荷重値が乗りかご11の定格荷重値として定められた一定荷重値以内であれば(ステップS44のYes)、エレベータ制御装置30は、乗りかご11を乗場呼びの登録階に停止させて通常運転を行う(ステップS45)。一方、乗車人数が一定人数を超える場合(ステップS42のNo)あるいは積載荷重値が一定荷重値を超える場合には(ステップS44のNo)、エレベータ制御装置30は、乗場呼びの登録階を通過させる満員運転に切り替える(ステップS46)。
【0059】
(4)故障判断
カメラ12の撮影画像から得られる乗車人数と、荷重検知器10の積載荷重値から算出される乗車人数とを比較することで、カメラ12または荷重検知器10に対する故障判断を行うことができる。
【0060】
具体的には、
図12に示すように、乗りかご11が戸閉したときに、エレベータ制御装置30は、荷重検知器10から乗りかご11の現在の積載荷重値を取得し(ステップS51)、この積載荷重値から乗車人数を算出する(ステップS52)。例えば、積載荷重値が500kgであった場合、利用者の平均荷重を60kgとすれば、乗車人数=8人として求められる。
【0061】
ここで、エレベータ制御装置30は、積載荷重値から算出した乗車人数と画像処理装置20から得られる乗車人数と比較する(ステップS53)。その結果、両者の乗車人数に一定値以上の誤差があれば(ステップS54のYes)、エレベータ制御装置30は、カメラ12あるいは荷重検知器10が故障していると判断し、例えば図示せぬ監視センターに発報するなどして対処する(ステップS55)。
【0062】
以上述べた少なくとも1つの実施形態によれば、乗りかご内の鏡やポスターなどの設置物上の画像に影響されずに、乗りかご内に乗車した利用者を正確に検知して、乗車人数の誤算を防ぐことのできるエレベータシステムを提供することができる。
【0063】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
10…荷重検知器、11…乗りかご、11a…幕板、12…カメラ、13…かごドア、14…乗場ドア、15…乗場、16…乗場の床面、17a,17b…三方枠、18…乗場シル、19…乗りかごの床面、20…画像処理装置、21…記憶部、22…検知部、22a…人物検知部、22b…追跡部、22c…検知処理部、30…エレベータ制御装置、31…運転制御部、32…戸開閉制御部、33…通知部、34…故障診断部、41a,41b…正面柱、41a-1,41b-1…正面柱の内側側面、42a,42b…戸袋、43…表示器、44…行先階ボタン、45…操作盤、46…スピーカ、47…かごシル、48a,48b…側面、49…背面、50…鏡、51…ポスター。
【手続補正書】
【提出日】2023-06-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗りかご内から出入口付近の乗場を含む範囲を撮影する撮像手段と、
上記撮像手段によって得られた画像から人物を検知する人物検知手段と、
上記人物検知手段によって検知された上記人物を追跡する追跡手段と、
上記追跡手段によって上記人物の追跡を開始してから現時点までの移動距離を示す追跡距離と現時点の位置とに基づいて、当該人物が上記乗りかご内に乗車した利用者か否かを判断する検知処理手段と
を具備したことを特徴とするエレベータシステム。
【請求項2】
上記検知処理手段は、
上記人物の追跡距離が一定距離以上であり、かつ、上記画像の上側を上記乗場としたときに、上記人物の位置が予め設定された基準位置よりも下であれば、当該人物を上記乗りかご内に乗車した利用者として判断することを特徴とする請求項1記載のエレベータシステム。
【請求項3】
上記検知処理手段は、
上記人物の追跡距離が上記一定距離未満、あるいは、上記人物の位置が上記基準位置よりも上であれば、当該人物を検知対象から除外することを特徴とする請求項2記載のエレベータシステム。
【請求項4】
上記検知処理手段は、
上記人物の追跡距離が上記一定距離未満であった場合、上記乗りかご内に設置された鏡を含む設置物上の画像と判断して、検知対象から除外することを特徴とする請求項3記載のエレベータシステム。
【請求項5】
上記検知処理手段は、
上記人物の位置が上記基準位置よりも上であった場合、当該人物を上記乗場にいる利用者であると判断することを特徴とする請求項3記載のエレベータシステム。
【請求項6】
上記基準位置は、上記画像上の上記乗りかごのシルの位置に定められていることを特徴とする請求項2記載のエレベータシステム。
【請求項7】
上記検知処理手段は、
上記乗りかご内に乗車した利用者を検知した場合に、乗車人数をカウントすることを特徴とする請求項1記載のエレベータシステム。
【請求項8】
上記乗りかごの運転を制御する運転制御手段を備え、
上記運転制御手段は、
上記撮像手段の画像から得られる乗車人数が一定人数を超えている場合に、乗場呼びの登録階を通過する満員運転に切り替えることを特徴とする請求項1記載のエレベータシステム。
【請求項9】
上記乗りかごに設けられた荷重検知手段を備え、
上記運転制御手段は、
上記荷重検知手段によって検知される積載荷重値を考慮して、上記満員運転に切り替えることを特徴とする請求項8記載のエレベータシステム。
【請求項10】
上記乗りかごに設けられた荷重検知手段を備え、
上記撮像手段の画像から得られる乗車人数と、上記荷重検知手段によって検知される積載荷重値から算出される乗車人数との誤差に基づいて、上記撮像手段または上記荷重検知手段に対する故障診断を行う故障診断手段をさらに具備したことを特徴とする請求項1記載のエレベータシステム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
一実施形態に係るエレベータシステムは、撮像手段と、人物検知手段と、追跡手段と、検知処理手段とを備える、上記撮像手段は、乗りかご内から出入口付近の乗場を含む範囲を撮影する。上記人物検知手段は、上記撮像手段によって得られた画像から人物を検知する。上記追跡手段は、上記人物検知手段によって検知された上記人物を追跡する。上記検知処理手段は、上記追跡手段によって上記人物の追跡を開始してから現時点までの移動距離を示す追跡距離と現時点の位置とに基づいて、当該人物が上記乗りかご内に乗車した利用者か否かを判断する。