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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183738
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】液晶素子、液晶素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20231221BHJP
   G02F 1/1339 20060101ALN20231221BHJP
【FI】
G02F1/1337 520
G02F1/1339 505
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097406
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】都甲 康夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 里実
【テーマコード(参考)】
2H189
2H290
【Fターム(参考)】
2H189EA04Y
2H189FA22
2H189FA52
2H189HA12
2H189JA10
2H189LA05
2H290AA34
2H290AA35
2H290AA44
2H290BD01
2H290BF54
2H290BF58
2H290BF93
2H290BF94
(57)【要約】      (修正有)
【課題】特別な配向膜を必要とせず製造しやすい液晶素子の製造方法の提供等。
【解決手段】第1基板と第2基板の相互間に液晶材料を配置することによって液晶層を形成すること、前記第1基板又は前記第2基板の前記一面と対向する他面に対して斜交する方向から当該第1基板又は第2基板を介して前記液晶層へ光照射を行うことにより、前記第1絶縁膜の前記液晶層と対向する面に前記第1基板の一面に対して傾斜した方向に配置したポリマーを有する第1ポリマー層を形成するとともに、前記第2絶縁膜の前記液晶層と対向する面に前記第2基板の一面に対して傾斜した方向に配置したポリマーを有する第2ポリマー層を形成すること、を含み、前記液晶材料は、光により重合可能なモノマーであってその中央部に二重結合を有するトランス体であるモノマーを含有するものである、液晶素子の製造方法である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1基板の一面側に第1絶縁膜を形成すること、
(b)第2基板の一面側に第2絶縁膜を形成すること、
(c)前記第1基板と前記第2基板の各前記一面の相互間に液晶層を形成すること、
(d)前記第1基板及び前記第2基板の少なくとも一方の前記一面と対向する他面に対して斜交する方向から前記液晶層へ光照射を行うことにより、前記第1基板の一面に対して傾斜した方向に配置したポリマーを有する第1ポリマー層を前記第1絶縁膜の前記液晶層と対向する面に形成するとともに、前記第2基板の一面に対して傾斜した方向に配置したポリマーを有する第2ポリマー層を前記第2絶縁膜の前記液晶層と対向する面に形成すること、
を含み、
前記(c)において前記液晶層の形成に用いられる液晶材料は、光により重合可能なモノマーであってその中央部に二重結合を有するトランス体であるモノマーを含有するものである、
液晶素子の製造方法。
【請求項2】
前記(d)における前記光照射の際の前記斜交する方向は、前記第1基板又は前記第2基板の何れかの前記他面に対して30°以上60°以下の角度をなす方向である、
請求項1に記載の液晶素子の製造方法。
【請求項3】
前記モノマーは、紫外光により重合可能なモノマーである、
請求項1に記載の液晶素子の製造方法。
【請求項4】
前記モノマーは、2箇所以上の重合部位を有する、
請求項1に記載の液晶素子の製造方法。
【請求項5】
前記モノマーは、カルコン基を含むモノマーである、
請求項1に記載の液晶素子の製造方法。
【請求項6】
前記第1絶縁膜及び前記第2絶縁膜は、シリカ又はチタニアを用いて形成される無機絶縁膜である、
請求項1に記載の液晶素子の製造方法。
【請求項7】
前記第1絶縁膜及び前記第2絶縁膜は、主鎖が無機物であり側鎖を有した垂直配向膜であって配向処理が行われていない垂直配向膜である、
請求項1に記載の液晶素子の製造方法。
【請求項8】
前記(e)は、前記第1基板又は前記第2基板の前記他面側に前記液晶層を部分的に遮光するマスクを配置して当該マスクを介して前記光照射を行うことを含み、前記マスクの配置を変えるごとに前記光照射が行われる、
請求項1に記載の液晶素子の製造方法。
【請求項9】
一面側に第1絶縁膜を有する第1基板と、
一面側に第2絶縁膜を有し、前記第1絶縁膜と前記第2絶縁膜とが対向する状態にて、前記第1基板との相互間に隙間を設けて配置された第2基板と、
前記第1基板と前記第2基板の前記隙間に配置された液晶層と、
前記第1絶縁膜の前記液晶層と対向する面に配置されており、前記第1基板の一面に対して傾斜した方向に配置したポリマーを有する第1ポリマー層と、
前記第2絶縁膜の前記液晶層と対向する面に配置されており、前記第2基板の一面に対して傾斜した方向に配置したポリマーを有する第2ポリマー層と、
を含む、液晶素子。
【請求項10】
前記第1絶縁膜及び前記第2絶縁膜は、シリカ又はチタニアを用いて形成される無機絶縁膜である、
請求項9に記載の液晶素子。
【請求項11】
前記液晶層は、前記第1ポリマー層及び/又は前記第2ポリマー層による配向規制力を受けて一様配向している、
請求項9に記載の液晶素子。
【請求項12】
前記第1ポリマー層及び前記第2ポリマー層の各々の前記ポリマーは、中央部に二重結合を有するトランス体のモノマーが重合したものである、
請求項9に記載の液晶素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液晶素子、液晶素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2019-128383号公報(特許文献1)には、一対の基板と、一対の基板間に配置された液晶層と、一対の基板の少なくとも一方の液晶層側の表面に配置された配向膜と、液晶層と各配向膜との間に配置されたポリマー層を有する液晶表示装置が記載されている。この液晶表示装置において、液晶層は、電圧無印加時に所定方向に配向された液晶化合物を含み、各配向膜は、ポリアミック酸構造及びポリイミド構造の少なくとも一方を主鎖に有する第一重合体を含み、第一重合体は、重合開始剤として機能する官能基を有し、各ポリマー層は、カルコン基を有する少なくとも一種のモノマーを重合させてなる第二重合体を含有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-128383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示に係る具体的態様は、特別な配向膜を必要とせず製造しやすい液晶素子の製造方法を提供することを目的の1つとする。
本開示に係る具体的態様は、上記製造方法によって得られる液晶素子を提供することを他の目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]本開示に係る一態様の液晶素子の製造方法は、(a)第1基板の一面側に第1絶縁膜を形成すること、(b)第2基板の一面側に第2絶縁膜を形成すること、(c)前記第1基板と前記第2基板の各前記一面の相互間に液晶層を形成すること、(d)前記第1基板及び前記第2基板の少なくとも一方の前記一面と対向する他面に対して斜交する方向から前記液晶層へ光照射を行うことにより、前記第1基板の一面に対して傾斜した方向に配置したポリマーを有する第1ポリマー層を前記第1絶縁膜の前記液晶層と対向する面に形成するとともに、前記第2基板の一面に対して傾斜した方向に配置したポリマーを有する第2ポリマー層を前記第2絶縁膜の前記液晶層と対向する面に形成すること、を含み、前記(c)において前記液晶層の形成に用いられる液晶材料は、光により重合可能なモノマーであってその中央部に二重結合を有するトランス体であるモノマーを含有するものである、液晶素子の製造方法である。
[2]本開示に係る一態様の液晶素子は、(a)一面側に第1絶縁膜を有する第1基板と、(b)一面側に第2絶縁膜を有し、前記第1絶縁膜と前記第2絶縁膜とが対向する状態にて、前記第1基板との相互間に隙間を設けて配置された第2基板と、(c)前記第1基板と前記第2基板の前記隙間に配置された液晶層と、(d)前記第1絶縁膜の前記液晶層と対向する面に配置されており、前記第1基板の一面に対して傾斜した方向に配置したポリマーを有する第1ポリマー層と、(e)前記第2絶縁膜の前記液晶層と対向する面に配置されており、前記第2基板の一面に対して傾斜した方向に配置したポリマーを有する第2ポリマー層と、を含む、液晶素子である。
【0006】
上記構成によれば、特別な配向膜を必要とせず製造しやすい液晶素子の製造方法が提供される。また、当該製造方法によって得られる液晶素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1(A)は、第1実施形態の液晶素子の構成を説明するための模式的な断面図である。図1(B)は、第1ポリマー層又は第2ポリマー層の有するポリマーを模式的に示した図である。
図2図2(A)~図2(F)は、第1実施形態の液晶素子の製造方法を説明するための図である。
図3図3(A)~図3(C)は、第1実施形態の液晶素子の製造方法を説明するための図である。
図4図4(A)及び図4(B)は、液晶層へ光照射を行う工程の変形例を説明するための図である。
図5図5(A)は、第2実施形態の液晶素子の構成を説明するための模式的な断面図である。図5(B)は、第3実施形態の液晶素子の構成を説明するための模式的な断面図である。
図6図6は、カルコン基を含むモノマーを用いて作製された実施例1の液晶素子における光照射時の照射角度とプレティルト角の関係を示す図である。
図7図7は、実施例2の液晶素子における光照射時の照射角度とプレティルト角の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1(A)は、第1実施形態の液晶素子の構成を説明するための模式的な断面図である。図示の液晶素子1は、対向配置された第1基板11及び第2基板12、複数の画素電極13、対向電極14、第1絶縁膜15、第2絶縁膜16、第1ポリマー層17、第2ポリマー層18、液晶層19及び封止材20を含んで構成されている。
【0009】
第1基板11及び第2基板12は、それぞれ、例えば平面視において矩形状の透明基板であり、互いの一面を対向させて配置されている。第1基板11及び第2基板12としては、例えばガラス基板やプラスチック基板を用いることができる。第1基板11と第2基板12の間には、例えば樹脂膜などからなる球状スペーサー(図示省略)が分散配置されており、それら球状スペーサーによって基板間隙が所望の大きさ(例えば数μm程度)に保たれている。
【0010】
なお、球状スペーサーに代えて、樹脂等からなる柱状体を第1基板11側若しくは第2基板12側に設け、それらをスペーサーとして用いてもよい。また、図示を省略するが液晶素子1は、第1基板11と第2基板12の各々の外側(液晶層19と対向しない側)に偏光板ないし偏光素子を配置することができ、各偏光板等と第1基板11ないし第2基板12との間には位相差板などの光学補償板を配置することができる。
【0011】
複数の画素電極13は、第1基板11の一面側に設けられている。これらの画素電極13は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。本実施形態では、各画素電極13と対向電極14とが向かい合う部分において画素部が構成される。
【0012】
対向電極14は、第2基板12の一面側に設けられている。この対向電極14は、第1基板11の各画素電極13と対向するようにして一体に設けられている。対向電極14は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。
【0013】
第1絶縁膜15は、第1基板11の一面側において各画素電極13を覆って設けられている。第2絶縁膜16は、第2基板12の一面側において対向電極14を覆って設けられている。第1絶縁膜15と第2絶縁膜16とは、互いに対向する状態にて相互間に隙間を設けて配置されている。第1絶縁膜15及び第2絶縁膜16は、一例としてシリカ又はチタニアを用いて形成される無機絶縁膜であることが好ましく、例えばチタノシロキサン系無機絶縁膜を用いることができる。第1絶縁膜15及び第2絶縁膜16の各々には、ラビング処理などの配向処理は行われていない。
【0014】
第1ポリマー層17は、第1絶縁膜15の液晶層19と対向する面において液晶層19と接するように配置されている。また、第2ポリマー層18は、第2絶縁膜16の液晶層19と対向する面において液晶層19と接するように配置されている。第1ポリマー層17は、第1基板11の一面に対して傾斜した方向に配置した複数のポリマー(重合体)を有する。同様に、第2ポリマー層18は、第2基板12の一面に対して傾斜した方向に配置した複数のポリマー(重合体)を有する。
【0015】
液晶層19は、第1基板11と第2基板12との隙間に設けられている。液晶層19は、例えば、流動性を有するネマティック液晶材料を用いて構成される。液晶層19は、例えば、負の誘電率異方性を有する液晶材料を用いて構成される。液晶層19の層厚は、例えば4μm程度とすることができる。液晶層19は、第1ポリマー層17及び第2ポリマー層18による配向規制力を受けて配向しており、電圧無印加時(閾値以下の電圧印加時を含む)において、例えば85°~89.9°程度のプレティルト角を有して一様配向している。
【0016】
封止材20は、第1基板11と第2基板12の間において液晶層19を囲むように設けられており、液晶層19を封止する。図示のように本実施形態では、封止材20は、第1絶縁膜15、第2絶縁膜16、第1ポリマー層17及び第2ポリマー層18が設けられた領域の外側を囲むように設けられている。
【0017】
図1(B)は、第1ポリマー層又は第2ポリマー層の有するポリマーを模式的に示した図である。各ポリマー21は、第1絶縁膜15及び第2絶縁膜16のそれぞれの一面22に傾斜して配置されている。別言すると、各ポリマー21は、第1基板11及び第2基板12の一面に対して傾斜した方向に配置されている。第1実施形態における各ポリマー21は、分子の中央部に二重結合を有するトランス体のモノマーが光照射(本実施形態では紫外線照射)によって重合したものであり、2箇所以上の重合部位を有する。また、各ポリマー21は、カルコン基を含むモノマーを重合させたものであることも好ましい。
【0018】
図示の例では、各ポリマー21は、図中の左上方向へ向かって一様に配置されている。ここでいう「一様」とは、各ポリマー21が厳密に同一方向へ向かっていることをいうのではなく、おおよそ同じ方向へ向かっていることをいう。これらのポリマー21により液晶層19に対する配向規制力が発揮され、液晶層19の液晶分子を一様に配向させることができる。なお、ここではポリマー21のみを図示しているが第1絶縁膜15及び第2絶縁膜16のそれぞれの一面22にはモノマーが残留していてもよい。
【0019】
一例として、カルコン基を含むモノマーを用いた場合の配向規制力の発現機構については以下のように推察される。カルコン基を含むモノマーの分子(RM分子)には反応部分が3つあり、インナーオレフィン(分子中央の二重結合)が両末端の反応部分より光重合しにくい。分子の中央部の二重結合はシス-トランス体を取り得るがトランス体が支配的である。トランス体の場合、RM分子の中央部の二重結合により分子の向きは僅かに傾斜すると考えられる。光照射前において液晶層19の液晶分子はほぼ完全に垂直配向しており、RM分子も同じ方向を向いているがトランス体であるため、それぞれの分子は僅かに傾斜している。液晶層19に対して斜め方向から光照射を行った場合、紫外光を受けやすい部分のインナーオレフィンが重合し、残ったトランス体であるRM分子が傾斜しているため、それらにより僅かに液晶分子を配向させる効果が生じると考えられる。
【0020】
図2(A)~図2(F)及び図3(A)~図3(C)は、第1実施形態の液晶素子の製造方法を説明するための図である。なお、各工程は矛盾や不整合を生じない限りにおいてそれらの順番を入れ替え、あるいは並行して行うことも可能であるし、図示及び説明をしない他の工程(例えば洗浄工程など)が適宜追加されてもよい。
【0021】
まず、各画素電極13を一面11aに有する第1基板11を用意するとともに(図2(A))、対向電極14を一面12aに有する第2基板12を用意する(図2(B))。上記したように、各画素電極13及び対向電極14は、それぞれ、例えば第1基板11、第2基板12のそれぞれの一面に成膜されたITO膜をフォトリソグラフィ技術等によってパターニングすることによって得られる。
【0022】
次に、第1基板11の一面11a側に、各画素電極13を覆うようにして第1絶縁膜15を形成する(図2(C))。同様に、第2基板12の一面12a側に、対向電極14を覆うようにして第2絶縁膜16を形成する(図2(D))。
【0023】
第1絶縁膜15及び第2絶縁膜16は、例えばシリカ又はチタニアを用いて形成される無機絶縁膜であることが好ましく、例えばチタノシロキサン系無機絶縁膜を用いることができる。第1絶縁膜15及び第2絶縁膜16の成膜方法については特に限定がなく、スパッタ法、蒸着法、CVD法、印刷法など適宜用いることができる。特に、チタノシロキサン系無機絶縁膜などの印刷法を適用可能な絶縁膜を用いて第1絶縁膜15及び第2絶縁膜16を形成することが工程の簡素化という点では好ましい。
【0024】
次に、第1基板11又は第2基板12の一面側に封止材20を塗布する(図2(E))。図示の例では第2基板12の一面12a側に封止材20を塗布しているが第1基板11の一面11a側に封止材20が塗布されてもよい。本実施形態では光硬化性樹脂からなる封止材20が用いられる。また、封止材20が塗布されていない側の基板(本実施形態では第1基板11)の一面側にはギャップコントロールのための球状スペーサーが散布される。
【0025】
次に、第1絶縁膜15と第2絶縁膜16とが対向する状態にて、第1基板11と第2基板12とを貼り合わせる(図2(F))。第1基板11と第2基板12の相互間には球状スペーサーによって隙間が設けられる。
【0026】
次に、図示しない注入口(封止材20の一部を開口させた部位)を通じて、第1基板11と第2基板12との隙間に真空注入法によって液晶材料を注入することによって液晶層19を形成する(図3(A))。本実施形態では、光(特に紫外線)により重合可能なモノマーを含有する液晶材料であって当該モノマーがその中央部に二重結合を有するトランス体である当該液晶材料が用いられる。液晶材料に含まれるモノマーは、2箇所以上の重合部位を有するモノマーであることが好ましく、また、カルコン基を含むモノマーであることが好ましい。
【0027】
なお、液晶材料の注入に際してはODF(One Drop Fill)法が用いられてもよい。この場合には、封止材20の形成後、第1基板11と第2基板12を貼り合わせる以前に、封止材20によって囲まれた領域内に液晶材料を滴下(配置)し、その後に第1基板11と第2基板12とを貼り合わせるようにすればよい。
【0028】
次に、第1基板11又は第2基板12の一面と対向する他面に対して相対的に斜交する方向から当該第1基板11又は第2基板12を介して液晶層19へ光照射を行う(図3(B))。この工程においては、液晶層19に対して電圧を印加せずに行うことが製造上より好ましい。なお、光照射時に液晶層19へ電圧を印加することを否定するものではない。電圧を印加する場合であれば、光照射の開始時点からある程度の期間(例えば30秒間~2分間)は液晶層19へ電圧を印加せずに上記の通り斜め方向から光照射を行い、その後に液晶層19へ電圧を印加することで、電圧の大きさによって積極的にプレティルト角を制御できると考えられる。電圧印加時における光照射方向については特に限定がなく、引き続き斜め方向としてもよいし、それ以外の方向(例えば正面方向)としてもよい。
【0029】
ここで、本実施形態では封止材20として光硬化性の物質(樹脂等)が用いられているので、図3(B)に示す工程において同時に封止材20を硬化させることができる。それにより、従来の製造過程に対して第1ポリマー層15及び第2ポリマー層16を形成するための工程を新たに追加する必要がなく製造方法の簡素化を図ることができる。なお、ここでは封止材として光硬化性樹脂を用いる場合について記載したが熱硬化性樹脂を用いてもよい。真空注入を行う場合に注入口を塞ぐためのエンドシール材(注入口封止材)としては光硬化性樹脂が好ましく、図3(B)に示す工程において同時にエンドシール材を硬化させることができる。それにより、従来の製造過程に対して第1ポリマー層15及び第2ポリマー層16を形成するための工程を新たに追加する必要がなく製造方法の簡素化を図ることができる。
【0030】
本実施形態では第2基板12の一面12aと対向する他面12bに対して斜交する方向から紫外光が照射される。例えば、第2基板12の他面11に対する法線aを基準とすると、紫外光UVは、法線aから角度θをなすように斜交する方向から照射される。この角度θは適宜設定することが可能であり、例えば30°~60°の間で設定することができる。なお、第1基板11の他面に対して相対的に斜交する方向から光照射が行われてもよいし、第1基板11の他面側と第2基板の他面側の双方においてそれぞれの他面に対して斜交する方向から光照射が行われてもよい。
【0031】
上記した光照射によって液晶層19に含まれていたモノマーが重合する。これにより、第1基板11側に第1ポリマー層15が形成されるとともに第2基板12側に第2ポリマー層16が形成される(図3(C))。第1ポリマー層15及び第2ポリマー層16は、それぞれ上記した図1(B)に示したように第1基板11及び第2基板の各一面に対して傾斜した方向に配置したポリマーないしモノマーを有する。第1ポリマー層15及び第2ポリマー層16によって液晶層19に配向規制力が与えられて液晶層19が一様に配向する(図3(C))。以上により、液晶素子1が完成する。
【0032】
図4(A)及び図4(B)は、液晶層へ光照射を行う工程の変形例を説明するための図である。本工程においては、図4(A)に示すように、液晶層19の図中左側領域を部分的に遮蔽するマスク30を第2基板12の他面側に配置して当該マスク30を介して光照射が行われる。次いで、図4(B)に示すように、液晶層19の図中右側領域を部分的に遮蔽するようにマスク30の配置が変更され、当該マスク30を介して光照射が行われる。
【0033】
図示の例では、図4(A)に示す工程において第2基板12の法線から時計回りに角度θ1だけ傾いた方向から光照射が行われ、図4(B)に示す工程では第2基板12の法線から反時計回りに角度θ2だけ傾いた方向から光照射が行われている。なお、角度θ1と角度θ2の設定は例示であり、同一の方向(時計回りないし反時計回り)において角度が異なるように角度θ1と角度θ2が設定されてもよい。例えば、各工程のいずれも第2基板12の法線から時計回りに光照射方向が設定され、角度θ1=30°、角度θ2=45°といったように設定することができる。このようにすることで、光照射方向が異なる領域に対応して液晶層19のプレティルト角を異なる大きさや方向に設定することができる。また、マスク30の配置を変更する回数は上記した2回に限られず、より多くの回数を設けてもよい。
【0034】
図5(A)は、第2実施形態の液晶素子の構成を説明するための模式的な断面図である。図5(A)に示す第2実施形態の液晶素子1aは、上記した第1実施形態の液晶素子1と比較し、第1絶縁膜15及び第2絶縁膜16のそれぞれが垂直配向膜からなる第1絶縁膜15a及び第2絶縁膜16aに変更されている点が異なっており、それ以外の構成は共通である。第1絶縁膜15a及び第2絶縁膜16aとしては、それぞれ、主鎖が無機物であり、かつ側鎖を有した垂直配向膜が用いられる。また、第1絶縁膜15a及び第2絶縁膜16aのそれぞれに対してはラビング処理等の配向処理は行われていない。そして、第1ポリマー層17は第1絶縁膜15aと液晶層19との間に配置され、第2ポリマー層18は第2絶縁膜16aと液晶層19との間に配置されている。このような第2実施形態の液晶素子1aによっても上記した第1実施形態の液晶素子1と同等の効果が得られる。
【0035】
図5(B)は、第3実施形態の液晶素子の構成を説明するための模式的な断面図である。図5(B)に示す第3実施形態の液晶素子1bは、上記した第1実施形態の液晶素子1と比較し、第1絶縁膜15及び第2絶縁膜16のそれぞれが省略されている点が異なっており、それ以外の構成は共通である。この液晶素子1bにおいては、第1ポリマー層17は第1基板11及び各画素電極13と液晶層19との間に配置され、第2ポリマー層18は第2基板12及び対向電極14と液晶層19との間に配置されている。このような第3実施形態の液晶素子1aによっても上記した第1実施形態の液晶素子1と同等の効果が得られる。
【0036】
(実施例1)
第1実施形態の液晶素子1の構成を有する実施例の液晶素子を作製した。第1基板11及び第2基板12としてはそれぞれガラス基板を用い、第1絶縁膜15及び第2絶縁膜16としてはそれぞれチタノシロキサン系無機絶縁膜を用いた。第1絶縁膜15及び第2絶縁膜16にはラビング処理等の配向処理は行っていない。液晶層19の層厚は約4μmとした。液晶材料としては誘電率異方性が負のネマティック液晶材料を用いた。液晶材料には、第1ポリマー層17及び第2ポリマー層18を形成するためのモノマーとして、カルコン基を含むモノマー又はカルコン基を含まないモノマーを0.1wt%、0.2wt%、0.5wt%又は1.0wt%で添加した。なお、添加量は例えば0.1wt%~5wt%で調整可能である。カルコン基を含むモノマーは、分子の中央部にも二重結合を有するトランス体であり、かつ重合部位が2箇所以上あるという特徴を有する。液晶層19に対する光照射工程では、第2基板12に対して相対的に45°の角度をなす方向(図3(B)参照)から紫外光を照射した。紫外光の照射量は20J/cm(=28mW/cm×12min)とした。なお、液晶材料には0.1wt%~10wt%程度でセルフアライメント剤を添加してもよい。
【0037】
カルコン基を含むモノマーを用いて作製された液晶素子と、カルコン基を含まないモノマーを用いて作製された液晶素子との外観比較では、前者のほうが液晶層19の配向の均一性により優れる傾向が見られた。
【0038】
図6は、カルコン基を含むモノマーを用いて作製された実施例1の液晶素子における光照射時の照射角度とプレティルト角の関係を示す図である。モノマーの添加量は、0.1wt%、0.2wt%、0.5wt%、1.0wt%の4パターンを設定した。照射角度θ(図3(B)参照)は、30°、45°、60°の3パターンを設定した。モノマーの添加量が0.1wt%の場合と0.2wt%の場合には、光照射時の照射角度にほとんど依存せずにプレティルト角が89.9°~90°であり、照射角度が60°の場合でもプレティルト角が89.9°程度である。プレティルト角が90°の垂直配向またはプレティルト角が89.9°程度の略垂直配向の液晶層19を得たい場合には、光照射時の照射角度の誤差に対するマージンが多く確保できて有益であると考えられる。
【0039】
他方、モノマーの添加量が0.5wt%の場合と1.0wt%の場合には、光照射時の照射角度に対するプレティルト角の依存性がより明確に現れることが分かった。具体的には、プレティルト角は88.0°~89.7°の範囲で得られた。また、照射角度が大きくなるほどプレティルト角が小さくなる傾向が見られた。液晶層19に対してプレティルト角を積極的に付与したい場合には、照射角度によってこれを制御できるため有益であると考えられる。
【0040】
(実施例2)
第2実施形態の液晶素子1aの構成を有する実施例の液晶素子を作製した。第1基板11及び第2基板12としてはそれぞれガラス基板を用い、第1絶縁膜15a及び第2絶縁膜16aとしては、それぞれ、主鎖が無機物であり、かつ側鎖を有した垂直配向膜を用いた。第1絶縁膜15a及び第2絶縁膜16aにはラビング処理等の配向処理は行われていない。液晶層19の層厚は約4μmとした。液晶材料としては誘電率異方性が負のネマティック液晶材料を用いた。液晶材料には、第1ポリマー層17及び第2ポリマー層18を形成するためのモノマーとして、カルコン基を含むモノマーを0.3wt%で添加した。カルコン基を含むモノマーは、分子の中央部にも二重結合を有するトランス体であり、かつ重合部位が2箇所以上あるという特徴を有する。液晶層19に対する光照射工程では、照射角度θ(図3(B)参照)を30°、45°、60°の3パターンに設定した。紫外光の照射量は20J/cm(=28mW/cm×12min)とした。なお、液晶材料には0.1wt%~10wt%程度でセルフアライメント剤を添加してもよい。
【0041】
図7は、実施例2の液晶素子における光照射時の照射角度とプレティルト角の関係を示す図である。光照射時の照射角度に対するプレティルト角の依存性が現れることが分かった。具体的には、プレティルト角は89.4°~88.9°の範囲で得られた。また、照射角度が大きくなるほどプレティルト角が小さくなる傾向が見られた。
【0042】
(実施例3)
上記した実施例1と同様の条件によって液晶素子を作製し、光照射時においてマスクを用いて複数回の光照射を行った。具体的には、光照射工程(図4(A)、図4(B)参照)において、マスク30によって遮光されていない領域に対して第2基板12の法線から時計回りに45°傾いた方向から光照射を行い、次いで、マスク30の配置を変更し、変更後のマスク30によって遮光されていない領域に対して第2基板12の法線から反時計回りに30°傾いた方向から光照射を行った。
【0043】
得られた液晶素子のプレティルト角を計測したところ、光照射時の照射角度を45°とした領域ではプレティルト角が88.4°であり、光照射時の照射角度を30°とした領域でもプレティルト角が88.4°であった。また、光照射時の照射角度を45°とした領域と照射角度を30°とした領域は、互いの最良視認方向(プレティルト角の付く方向)が180°反対であった。つまり、マルチドメイン配向が得られていた。
【0044】
以上のような各実施形態並びに各実施例によれば、特別な配向膜を必要とせず製造しやすい液晶素子の製造方法が提供される。また、当該製造方法によって得られる液晶素子が提供される。
【0045】
なお、本開示は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本開示の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上記した各実施形態等で説明した数値条件等は例示に過ぎず、それらの数値条件等に限定されない。
【0046】
本開示は、以下に付記する特徴を有する。
【0047】
(付記1)
(a)第1基板の一面側に第1絶縁膜を形成すること、
(b)第2基板の一面側に第2絶縁膜を形成すること、
(c)前記第1基板と前記第2基板の各前記一面の相互間に液晶層を形成すること、
(d)前記第1基板及び前記第2基板の少なくとも一方の前記一面と対向する他面に対して斜交する方向から前記液晶層へ光照射を行うことにより、前記第1基板の一面に対して傾斜した方向に配置したポリマーを有する第1ポリマー層を前記第1絶縁膜の前記液晶層と対向する面に形成するとともに、前記第2基板の一面に対して傾斜した方向に配置したポリマーを有する第2ポリマー層を前記第2絶縁膜の前記液晶層と対向する面に形成すること、
を含み、
前記(c)において前記液晶層の形成に用いられる液晶材料は、光により重合可能なモノマーであってその中央部に二重結合を有するトランス体であるモノマーを含有するものである、
液晶素子の製造方法。
(付記2)
前記(d)における前記光照射の際の前記斜交する方向は、前記第1基板又は前記第2基板の何れかの前記他面に対して30°以上60°以下の角度をなす方向である、
付記1に記載の液晶素子の製造方法。
(付記3)
前記モノマーは、紫外光により重合可能なモノマーである、
付記1又は2に記載の液晶素子の製造方法。
(付記4)
前記モノマーは、2箇所以上の重合部位を有する、
付記1~3の何れか1つに記載の液晶素子の製造方法。
(付記5)
前記モノマーは、カルコン基を含むモノマーである、
付記1~4の何れか1つに記載の液晶素子の製造方法。
(付記6)
前記第1絶縁膜及び前記第2絶縁膜は、シリカ又はチタニアを用いて形成される無機絶縁膜である、
付記1~5の何れか1つに記載の液晶素子の製造方法。
(付記7)
前記第1絶縁膜及び前記第2絶縁膜は、主鎖が無機物であり側鎖を有した垂直配向膜であって配向処理が行われていない垂直配向膜である、
付記1~5の何れか1つに記載の液晶素子の製造方法。
(付記8)
前記(e)は、前記第1基板又は前記第2基板の前記他面側に前記液晶層を部分的に遮光するマスクを配置して当該マスクを介して前記光照射を行うことを含み、前記マスクの配置を変えるごとに前記光照射が行われる、
付記1~7の何れか1つに記載の液晶素子の製造方法。
(付記9)
一面側に第1絶縁膜を有する第1基板と、
一面側に第2絶縁膜を有し、前記第1絶縁膜と前記第2絶縁膜とが対向する状態にて、前記第1基板との相互間に隙間を設けて配置された第2基板と、
前記第1基板と前記第2基板の前記隙間に配置された液晶層と、
前記第1絶縁膜の前記液晶層と対向する面に配置されており、前記第1基板の一面に対して傾斜した方向に配置したポリマーを有する第1ポリマー層と、
前記第2絶縁膜の前記液晶層と対向する面に配置されており、前記第2基板の一面に対して傾斜した方向に配置したポリマーを有する第2ポリマー層と、
を含む、液晶素子。
(付記10)
前記第1絶縁膜及び前記第2絶縁膜は、シリカ又はチタニアを用いて形成される無機絶縁膜である、
付記9に記載の液晶素子。
(付記11)
前記液晶層は、前記第1ポリマー層及び/又は前記第2ポリマー層による配向規制力を受けて一様配向している、
付記9又は10に記載の液晶素子。
(付記12)
前記第1ポリマー層及び前記第2ポリマー層の各々の前記ポリマーは、中央部に二重結合を有するトランス体のモノマーが重合したものである、
付記9~11の何れか1つに記載の液晶素子。
【符号の説明】
【0048】
11:第1基板、12:第2基板、13:画素電極、14:対向電極、15、15a:第1絶縁膜、16、16a:第2絶縁膜、17:第1ポリマー層、18:第2ポリマー層、19:液晶層、20:封止材、21:ポリマー、30:マスク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7