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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183740
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】ゴルフボール
(51)【国際特許分類】
   A63B 37/00 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
A63B37/00 132
A63B37/00 328
A63B37/00 140
A63B37/00 144
A63B37/00 418
A63B37/00 212
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097409
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】小松 淳志
(57)【要約】
【課題】 ディンプルの底面がゴルフボールの外側方向に向かって凸状に湾曲した形状を有する構成によって、確実に飛距離を向上させることができるゴルフボールを提供する。
【解決手段】 本発明のゴルフボールは、コアと、コアの外側に位置し、表面に複数のディンプル10を有するカバーとを備え、ディンプルの底面12は、ボール外側方向に向かって凸状に湾曲した第1の凸状部分13Aと、第1の凸状部分の平面領域に、更にボールの外側方向に向かって凸状に湾曲した第2の凸状部分13Bを有し、第1の凸状部分と第2の凸状部分との円形状の境界16の直径が、第1の凸状部分の円形状の平面領域17の直径の半分以下であり、カバーの材料のショアD硬度Hとディンプルの底面の中央の凸状部分における深さd(単位:mm)との関係が以下の式1:
(H-78)/(-300)>d ・・・(式1)
を満たす。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、前記コアの外側に位置し、表面に複数のディンプルを有するカバーとを備えたゴルフボールであって、
前記ディンプルの底面が、ゴルフボールの外側方向に向かって凸状に湾曲した形状の第1の凸状部分を有しており、この第1の凸状部分の平面領域には、更にゴルフボールの外側方向に向かって凸状に湾曲した形状の第2の凸状部分を有しており、前記第1の凸状部分と前記第2の凸状部分との円形状の境界の直径が、前記第1の凸状部分の平面領域の直径の半分以下であり、
前記ディンプルの底面の前記第2の凸状部分における深さdは、ディンプルの外周縁の両端を結ぶ線Sを基準として、前記第2の凸状部分の最も高い地点までの垂直距離であり、
前記カバーの材料のショアD硬度Hと前記深さd(単位:mm)との関係が以下の式1:
(H-78)/(-300)>d ・・・(式1)
を満たす、ゴルフボール。
【請求項2】
ディンプルの体積占有率VRが0.75未満である請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項3】
前記カバーの材料のショアD硬度が50~60である請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項4】
前記コアと前記カバーとの間に中間層を更に備え、前記中間層の材料のショアD硬度が55以上である請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項5】
前記中間層の材料のショアD硬度が、前記カバーの材料のショアD硬度よりも高い請求項4に記載のゴルフボール。
【請求項6】
前記カバーの外側に位置するコーティング層を更に備え、前記コーティング層が艶消し粒子を含み、前記コーティング層の表面の平均粗さRaが0.5~1.0であり、ディンプルの体積占有率VRが0.70未満である請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項7】
前記第1及び第2の凸状部分を有するディンプルが、前記カバー表面のディンプル総数の50%以上である請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項8】
前記第2の凸状部分が、5~20mmの曲率半径Rを有する球冠形状である請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項9】
前記5~20mmの曲率半径Rを有する球冠形状の第2の凸状部分を有するディンプルに加えて、5mm未満の曲率半径Rを有する球冠形状の第2の凸状部分を有するディンプルが配置されており、前記5mm未満の曲率半径Rを有する球冠形状の第2の凸状部分を有するディンプルが、前記カバー表面のディンプル総数の1~10%である請求項8に記載のゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボールを打撃すると、ゴルフボールにバックスピンがかかることはよく知られている。ドライバーショットでバックスピンがかかり過ぎると、ボールが吹き上がる傾向があるため、飛距離を延ばすためには、一般的にはバックスピン量を減らすことが求められる。バックスピン量を減らすために、ドライバーショット時のフェースとの摩擦力を上げることができるゴルフボールが提案されている。
【0003】
例えば、特開2017-006555号公報には、ゴルフボールの表面に形成されている複数のディンプルの形状を、ディンプルの底面が、ゴルフボールの外側方向に向かって凸状に湾曲した形状とするとともに、所定の荷重をゴルフボールにかけた際のゴルフボールのたわみ量Hと、ゴルフボール表面にディンプルが全くない場合の仮想平面積Sと、所定の荷重をかけた際に平面に接するゴルフボールの面積である加圧面積PSとの関係が所定の式を満たすゴルフボールが記載されている。
【0004】
また、特開2017-079905号公報には、コアと、カバーと、これらの間の少なくとも1層の中間層とを備えたゴルフボールであって、ボールの表面硬度から中間層被覆球体の表面硬度を引いた値、及び中間層被覆球体の表面硬度からコア表面硬度を引いた値がそれぞれ所定の範囲であり、コア硬度分布において、コア中心の硬度、コア中心から5mmの位置の硬度、コア中心から10mmの位置の硬度、コア中心から15mmの位置の硬度、及びコア表面の硬度をそれぞれ所定の範囲であり、コア表面硬度からコア中心硬度を引いた値が所定の範囲であり、且つ、ボール初速Vと、所定の荷重をゴルフボールにかけた際のゴルフボールのたわみ量Hとの関係V/Hが所定の範囲であるゴルフボールが記載されている。
【0005】
更に、特開2017-086579号公報には、内層及び外層からなる2層コアと、カバーと、これらの間の少なくとも1層の中間層と、カバー表面の塗膜層とを備えるゴルフボールであって、コア硬度分布において、内層コア中心の硬度Cc、内層コア中心から10mmの位置の硬度C10、内層コア表面の硬度Cs、及び外層コア表面の硬度Cssが、所定の2つの式を満足し、更に、コアに中間層を被覆した球体の表面硬度がボールの表面硬度よりも高いゴルフボールが記載されております。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-006555号公報
【特許文献2】特開2017-079905号公報
【特許文献3】特開2017-086579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特開2017-006555号公報、特開2017-079905号公報、特開2017-086579号公報のいずれの文献にも、ディンプルの底面がゴルフボールの外側方向に向かって凸状に湾曲した形状を有するディンプルを配置することが記載されているが、本発明者は、このようなディンプルは、凸状形状が空力特性上、不利になることから、凸状形状によって摩擦力が上がりバックスピン量が下がっても、実際の飛距離の向上に必ずしも寄与しない場合があるという知見を得た。また、このような底面が凸状のディンプルのゴルフクラブに対する摩擦力は、カバーの材料硬度に影響を受けるが、上記の文献では特に言及されていない。
【0008】
そこで、本発明は、ディンプルの底面がゴルフボールの外側方向に向かって凸状に湾曲した形状を有する構成によって、確実に飛距離を向上させることができるゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、コアと、前記コアの外側に位置し、表面に複数のディンプルを有するカバーとを備えたゴルフボールであって、前記ディンプルの底面は、ゴルフボールの外側方向に向かって凸状に湾曲した形状の第1の凸状部分を有しており、この第1の凸状部分の平面領域には、更にゴルフボールの外側方向に向かって凸状に湾曲した形状の第2の凸状部分を有しており、前記第1の凸状部分と前記第2の凸状部分との円形状の境界の直径は、前記第1の凸状部分の平面領域の直径の半分以下であり、前記ディンプルの底面の前記第2の凸状部分における深さdは、ディンプルの外周縁の両端を結ぶ線Sを基準として、前記第2の凸状部分の最も高い地点までの垂直距離であり、前記カバーの材料のショアD硬度Hと前記深さd(単位:mm)との関係は以下の式1:
(H-78)/(-300)>d ・・・(式1)
を満たすものである。
【0010】
前記ゴルフボールにおけるディンプルの体積占有率VRは0.75未満としてもよい。
【0011】
前記カバーの材料のショアD硬度は50~60としてもよい。
【0012】
前記コアと前記カバーとの間に中間層を更に備えてもよく、前記中間層の材料のショアD硬度は55以上としてもよい。
【0013】
前記中間層の材料のショアD硬度は、前記カバーの材料のショアD硬度よりも高くしてもよい。
【0014】
前記カバーの外側に位置するコーティング層を更に備えてもよく、前記コーティング層は艶消し粒子を含んでもよく、前記コーティング層の表面の平均粗さRaは0.5~1.0としてもよく、ディンプルの体積占有率VRは0.70未満としてもよい。
【0015】
前記第1及び第2の凸状部分を有するディンプルは、前記カバー表面のディンプル総数の50%以上としてもよい。
【0016】
前記第2の凸状部分は、5~20mmの曲率半径Rを有する球冠形状としてもよい。
【0017】
前記5~20mmの曲率半径Rを有する球冠形状の第2の凸状部分を有するディンプルに加えて、5mm未満の曲率半径Rを有する球冠形状の第2の凸状部分を有するディンプルを配置してもよく、前記5mm未満の曲率半径Rを有する球冠形状の第2の凸状部分を有するディンプルは、前記カバー表面のディンプル総数の1~10%としてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ディンプルの底面が、ゴルフボールの外側方向に向かって2段階で凸状に湾曲した形状の部分を有しており、第1の凸状部分と第2の凸状部分との円形状の境界の直径を、第1の凸状部分の平面領域の直径の半分以下とし、ディンプルの底部の中央の凸状部分の深さdとカバーの材料硬度との関係を上記式1のように規定することで、フルショット(ドライバーからミドルアイアンのショット)でのクラブフェースとの接触面積を増加させることができ、バックスピン量を低減し、飛距離向上を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係るゴルフボールの一実施の形態を示す斜視図である。
図2図1に示すゴルフボールの一つのディンプルの拡大断面図である。
図3】本発明に係るゴルフボールの別の実施の形態を示す斜視図である。
図4図3に示すゴルフボールの一つのディンプルの拡大断面図である。
図5】比較例4のゴルフボールの一例を示す斜視図である。
図6図5に示すゴルフボールの一つのディンプルの拡大断面図である。
図7】実施例1のゴルフボールのディンプルを示す写真である。
図8】実施例4のゴルフボールのディンプルを示す写真である。
図9】比較例4のゴルフボールのディンプルを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るゴルフボールの一実施の形態について説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0021】
本発明に係るゴルフボールは、その一実施形態として、図1に示すように、コア(図示省略)と、コアの外側に位置し、表面に複数のディンプル10を有するカバーとを備えている。ゴルフボール1の表面のうち、複数のディンプル10の間の部分を、通常、陸部20と呼んでいる。陸部20は、ゴルフボール1の球状の表面を構成するものであり、よって、陸部20は、曲率表面を有する。
【0022】
ゴルフボール1の表面に形成されるディンプル10の平面形状(すなわち、ディンプル10の外周縁11を、又はディンプル10と陸部20との境界線を、そのディンプルの真上から見た形状)は、円形や多角形(例えば正六角形)、非円形等の形状であってよい。本実施の形態は、平面形状が多角形(略正六角形)のものである。円形のディンプルの直径、及び多角形のディンプルの場合はその外接円の直径は、2~5mmの範囲内にすることが好ましい。ゴルフボールの表面上に形成した全てのディンプルの直径を同一にする必要はなく、2~5mmの範囲内であれば異なっていてもよい。例えば、大きさが異なる少なくとも3種類のディンプルを配置することが好ましく、これによって、ゴルフボールの球状表面上に隙間なく均一にディンプルを配置することができる。
【0023】
そして、本実施の形態のディンプル10は、その底面の一部がボールの外側方向に向かって2段階に凸状に湾曲した形状をしている。ディンプル10のその直径に沿った断面図を図2に示す。図2に示すように、ディンプル10は、その外周縁11の一端から一端へとつながる湾曲した形状の底面12を有している。この底面12としては、その中央の領域において、ボールの外側方向に向かって2段階に凸状に湾曲した形状の部分、すなわち、中央凸状部分13と、その外周の環状の領域において、ボールの外側方向に対して凹状に湾曲した形状の部分がある。
【0024】
この中央凸状部分13は、ディンプルの最深部18からゴルフボールの外側方向に向かって最初に凸状に湾曲した形状の第1の凸状部分13Aと、この第1の凸状部分13Aの平面領域において、更に凸状に湾曲した形状の第2の凸状部分13Bを有している。
【0025】
第1の凸状部分13Aの平面領域は、その平面形状が円形であり、その直径(すなわち図2に示す平面領域の両端17間の距離W1)は、ディンプルの外周縁12から中央地点15までの距離を100とすると、35~65の範囲が好ましく、40~60の範囲がより好ましく、45~55の範囲内が更に好ましい。
【0026】
第1の凸状部分13Aと第2の凸状部分13Bとの境界16は、その平面形状が円形であり、その直径(すなわち図2に示す第2の凸状部分13Bの両端間の距離W2)は、第1の凸状部分13Aの平面領域の直径(すなわち距離W1)の半分以下である。この境界16の直径(すなわち距離W2)の下限は、第2の凸状部分13Bが形成できる大きさであれば特に限定されるものではないが、例えば、平面領域の直径(すなわち距離W1)を100とすると、25以上とすることが好ましい。
【0027】
ディンプル10の中央凸状部分13における深さdは、ディンプルの外周縁11の両端を結ぶ線Sを基準として、中央凸状部分13の最も高い地点(中央地点15)までの垂直距離である。中央凸状部分13の深さd(単位:mm)は、後述するカバーを形成する材料のショアD硬度Hとの関係が、以下の式1:
(H-78)/(-300)>d ・・・(式1)
を満たすものである。すなわち、深さdが(H-78)/(-300)の値よりも深いと、ゴルフクラブのフェースとの接触面積が十分ではなく、摩擦力を向上させることができない。(H-78)/(-300)-dの値は、0.002以上が好ましく、0.005以上がより好ましい。このような値となる深さdとすることにより、カバーの材料硬度に応じて、優れた摩擦力を確実に得ることができる。(H-78)/(-300)-dの値の上限は、特に限定されないが、0.030以下が好ましく、0.025以下がより好ましい。
【0028】
中央凸状部分13の両側に位置する最深点18において、深さが最大となり、そこから陸部20の間はボールの外側に向かって凸状に湾曲した形状の底面となっている。最深点18の平面上における位置は、ディンプルの外周縁11から中央地点15までの距離を100とすると、20~45の範囲が好ましく、25~40の範囲がより好ましく、30~35の範囲内が更に好ましい。
【0029】
ディンプル10の深さDは、中央凸状部分13の深さdによって異なり、例えば、中央凸状部分13の深さdよりも、0.025mm以上深くすることが好ましく、0.030mm以上深くすることがより好ましい。ディンプル10の深さDの上限は、特に限定されないが、中央凸状部分13の深さdよりも、0.200mm以下が好ましく、0.150mm以下がより好ましい。
【0030】
本実施の形態においては、第2の凸状部分13Bは球冠形状(球を1つの平面で切りとった部分の表面形状)を有している。球冠形状は、5~20mmの曲率半径Rを有していることが好ましい。このような範囲の曲率半径Rの球冠形状にすることで、フルショット時において中央凸状部分13全体をクラブフェースとより十分に接触させることができ、ゴルフボールのバックスピン量を更に減らし、飛距離をより向上させることができる。
【0031】
ゴルフボールの表面上に形成した全てのディンプルが、上述した2段階に凸状に湾曲した中央凸状部分13を備える必要はなく、ディンプルの総数に対して、50%以上のディンプルがこの中央凸状部分を備えることが好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましく、90%以上が最も好ましい。もちろん、全てのディンプルが備えるようにしてもよい。このような2段階に凸状に湾曲した中央凸状部分を備えるディンプルは、優れた空力等方性および空気抵抗を発揮する観点から、ゴルフボール全体に均等に配置することが好ましい。
【0032】
なお、球冠形状の中央凸状部分を備えるディンプルが全て同一の曲率半径Rを有している必要はなく、5~20mmの範囲内で異なる曲率半径Rを有していればよい。例えば、ゴルフボールの表面上に形成したディンプルの総数に対して、曲率半径Rが5mm以上10mm未満のディンプルが1~10%、10mm以上15mm未満のディンプルが20~40%、15mm以上20mm以下のディンプルが30~50%という構成にしてもよい。また、曲率半径Rが上記よりも小さい、すなわち5mm未満の球冠形状を有する中央凸状部分を備えたディンプルを、上述した曲率半径Rが5~20mmの球冠形状のディンプルとともに配置してもよい。例えば、ゴルフボールの表面上に形成したディンプルの総数に対して、曲率半径Rが5mm未満のディンプルが1~10%となるようにしてもよい。なお、この曲率半径Rの下限は、特に限定されないが、例えば1mm以上である。
【0033】
なお、ディンプルの総数の上限は、これに限定されないが、500個以下が好ましく、450個以下がより好ましい。また、ディンプルの総数の下限は、これに限定されないが、250個以上が好ましく、300個以上がより好ましい。
【0034】
ディンプルの体積占有率VR(すなわち、ディンプルがないと仮定したゴルフボールの仮想球容積に対して、ディンプルの縁に囲まれた平面から下方に形成されるディンプル容積の総和が占める比率)は、0.75%未満とすることが好ましい。上記のようにディンプルが2段階に凸状に湾曲した中央凸状形状を有する場合、空力特性上、不利になることから、ディンプルの体積占有率VRを0.75%未満とすることで、ゴルフボールの弾道が上がり、上述したバックスピン量の低減と合わせて、飛距離をより向上させることができる。ディンプルの体積占有率VRは、0.73%以下が好ましく、0.70%以下がより好ましい。ディンプルの体積占有率VRの下限は、特に限定されないが、例えば、0.65%以上とすることが好ましく、0.68%以上とすることがより好ましい。
【0035】
ディンプルの表面占有率SR(すなわち、ディンプルがないと仮定したゴルフボールの仮想球面の全表面積に対して、ディンプルの面積の総和が占める比率)を、70%以上とすることが好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましい。ディンプルの表面占有率SRの上限は、特に限定されないが、99%以下が好ましい。
【0036】
カバーを形成する材料としては、これらに限定されないが、アイオノマー樹脂、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、熱硬化性ポリウレタン、またはこれらの混合物を使用して形成することができる。また、カバーには、上記の主成分の他に、他の熱可塑性エラストマーや、ポリイソシアネート化合物、脂肪酸又はその誘導体、塩基性無機金属化合物、充填材などを添加することができる。
【0037】
カバーを形成する材料のショアD硬度Hは、上述したように、式1を満たすものである。よって、ディンプルの中央凸状部分の深さdによって左右されるものの、カバーを形成する材料のショアD硬度Hは、例えば、50以上が好ましく、53以上がより好ましい。また、カバーを形成する材料のショアD硬度Hは、65以下が好ましく、62以下がより好ましく、60以下が更に好ましい。このような数値範囲にすることで、ドライバーからミドルアイアンまでのショットにおいて適正なスピン量にすることができる。
【0038】
カバーの厚さの下限は、これに限定されないが、0.2mm以上が好ましく、0.4mm以上がより好ましい。また、カバーの厚さの上限は、4mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましく、2mm以下が更に好ましい。
【0039】
コアは、主成分としてゴムを含むゴム組成物により形成することができる。この主成分となるゴム(基材ゴム)としては、広く合成ゴムおよび天然ゴムを用いることができ、これに限定されないが、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリウレタンゴム(PU)、ブチルゴム(IIR)、ビニルポリブタジエンゴム(VBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ニトリルゴム(NBR)、シリコーンゴムを用いることができる。ポリブタジエンゴム(BR)としては、例えば、1,2-ポリブタジエンやシス1,4-ポリブタジエン等を用いることができる。
【0040】
コアには、このような基材ゴムの他、任意に、例えば、共架橋材、架橋開始剤、充填材、老化防止剤、異性化剤、素練り促進剤、硫黄、及び有機硫黄化合物を添加することができる。また、主成分として、ゴムに代えて、樹脂を使用してもよく、例えば、熱可塑性エラストマーや、アイオノマー樹脂、またはこれらの混合物を用いることもできる。
【0041】
共架橋材としては、これに限定されないが、例えば、α、β-不飽和カルボン酸またはその金属塩を用いることが好ましい。α、β-不飽和カルボン酸またはその金属塩としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、およびこれらの亜鉛塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などがある。共架橋材の配合は、これに限定されないが、例えば、基材ゴムを100重量部として、約5重量部以上が好ましく、約10重量部以上がより好ましい。また、共架橋材の配合は、約70重量部以下が好ましく、約50重量部以下がより好ましい。
【0042】
架橋開始剤としては、これに限定されないが、有機過酸化物を用いることが好ましく、例えば、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン等がある。架橋開始剤の配合は、これに限定されないが、例えば、基材ゴムを100重量部として、約0.10重量部以上が好ましく、約0.15重量部以上がより好ましく、約0.30重量部以上が更に好ましい。また、架橋開始剤の配合は、約8重量部以下が好ましく、約6重量部以下がより好ましい。
【0043】
充填材としては、これに限定されないが、例えば、銀、金、コバルト、クロム、銅、鉄、ゲルマニウム、マンガン、モリブデン、ニッケル、鉛、白金、スズ、チタン、タングステン、亜鉛、ジルコニウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化マンガンなどを用いることができる。充填材は、粉末形状が好ましい。充填材の配合は、これに限定されないが、例えば、基材ゴムを100重量部として、約1重量部以上が好ましく、約2重量部以上がより好ましく、約3重量部以上が更に好ましい。また、充填材の配合は、約100重量部以下が好ましく、約80重量部以下がより好ましく、約70重量部以下が更に好ましい。
【0044】
老化防止剤としては、これに限定されないが、例えば、ノクラックNS-6(大内新興化学工業社製)等の市販品を用いることができる。老化防止剤の配合については、これに限定されないが、基材ゴムを100重量部として、約0.1重量部以上が好ましく、約0.15重量部以上がより好ましい。また、老化防止剤の配合は、約1.0質量部以下が好ましく、約0.7質量部以下がより好ましい。
【0045】
有機硫黄化合物(しゃっかい材)を添加することで、コア40の反発性を向上させることができる。有機硫黄化合物としては、チオフェノール類、チオカルボン酸類及びそれらの金属塩から選ばれる。チオフェノール類、チオカルボン酸類としては、ペンタクロロチオフェノール、4-t-ブチル-o-チオフェノール、4-t-ブチルチオフェノール、2-ベンズアミドチオフェノール等のチオフェノール類、チオ安息香酸等のチオカルボン酸類がある。また、これらの金属塩としては、亜鉛塩などが好ましい。有機硫黄化合物の配合は、これに限定されないが、基材ゴムを100重量部として、約0.5重量部以上が好ましく、約1重量部以上がより好ましい。また、有機硫黄化合物の配合は、約3重量部以下が好ましく、約2重量部以下がより好ましい。
【0046】
コアを形成する材料のショアD硬度の上限は、60以下が好ましく、50以下がより好ましく、40以下が更に好ましい。一方、コアを形成する材料のショアD硬度の下限は、これに限定されないが、20以上が好ましく、30以上がより好ましい。コアの材料硬度をこのような範囲にすることで、ゴルフボールの打感を良くすることができる。
【0047】
コアの厚さの下限は、ゴルフボールに所定の反発力を付与するために、4.5mm以上であればよく、10mm以上がより好ましい。一方、コアの厚さの上限は、特に限定されないが、25mm以下が好ましく、20mm以下がより好ましい。また、コアは、一層に限定されず、例えば、複数の層からなるコアとしてもよい。この場合、コアの各層の硬度は、ゴルフボールの内側から外側に向かって高くなるようにすることが好ましい。
【0048】
コアとカバーとの間には、任意に中間層(図示省略)を設けてもよい。中間層を設けることで、ドライバーからミドルアイアンまでのショットにおいて適正なスピン量にすることができる。
【0049】
中間層の材料としては、これに限定されないが、以下の加熱混合物を主材として用いることが好ましい。この材料を中間層に用いることにより、打撃時に低スピン化することができ、大きな飛距離を得ることができる。
(a)オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、
(b)オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物と
を重量比で100:0~0:100になるように配合したベース樹脂と、
(e)このベース樹脂に対して重量比で100:0~50:50になるように配合した非アイオノマー熱可塑性エラストマーと、
ベース樹脂と(e)成分を含む樹脂成分100重量部に対して、
(c)分子量が228~1500の脂肪酸及び/又はその誘導体5~150重量部と、
(d)ベース樹脂及び(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性無機金属化合物0.1~17重量部。
【0050】
なお、「主材」とは、中間層の総重量に対して50重量%以上、好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上の材料を意味する。
【0051】
中間層を形成する材料のショアD硬度は、55以上が好ましく、57以上がより好ましい。中間層を形成する材料のショアD硬度は、カバーを形成する材料のショアD硬度よりも高いことが好ましい。これにより、ドライバーからミドルアイアンまでのショットにおいて適正なスピン量にすることができる。中間層を形成する材料のショアD硬度の上限は、特に限定されないが、65以下が好ましく、63以下がより好ましい。
【0052】
中間層の厚さは、これに限定されないが、0.5mm以上が好ましく、1mm以上がより好ましい。また、中間層20の厚さは、10mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましく、3mm以下が更に好ましい。
【0053】
カバーの表面には、任意にコーティング層(又は塗装層とも呼ぶ)(図示省略)を設けてもよい。コーティング層は、塗料用組成物にて形成される。また、塗料用組成物は、艶消し粒子を含んでもよい。塗料用組成物としては、特に限定されないが、例えば、ウレタン系塗料を用いることが好ましい。ゴルフボールの過酷な使用環境に耐え得る必要から、2液硬化型のウレタン塗料、特に、無黄変のウレタン塗料を用いることがより好ましい。
【0054】
2液硬化型のウレタン塗料の場合、主剤としては、飽和ポリエステルポリオール、アクリルポリオールやポリカーボネートポリオール等の各種ポリオールを用いることが好ましい。硬化剤であるイソシアネートとしては、無黄変ポリイソシアネート、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート等のアダクト体、ビュレット体、イソシアヌレート体、又はこれらの混合物を用いることが好ましい。
【0055】
艶消し粒子としては、例えば、シリカ系、メラミン系、アクリル系等が挙げられる。具体的には、シリカ、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリスチレン、ポリアクリル酸ブチルなどが挙げられ、有機系のものでも無機系のものでもよいが、特に、シリカが好適に用いられる。
【0056】
このような艶消し粒子がコーティング層に含まれると、空力性能が不利になるが、本実施の形態では、ディンプルの体積占有率VRが0.75未満であることから、弾道が上がることで、飛距離を維持することができる。艶消し粒子がコーティング層に含まれる場合、ディンプルの体積占有率VRを0.70未満としてもよい。これにより、更に弾道を上げて、飛距離を向上させることができる。
【0057】
艶消し粒子の比表面積としては、消光性や塗布性の点から、BET比表面積で200~400m/gであることが好ましく、250~350m/gがより好ましい。また、艶消し粒子の平均一次粒子径は、スピン性能と消光性の点から、1.0~3.0μmが好ましく、2.0~2.8μmがより好ましい。平均一次粒子径が3.0μmを超えると、ボール表面が粗くなるため、ゴルフボールのスピン性能に悪影響を及ぼし、スピン性能が低下するおそれがある。一方、平均一次粒子径が小さすぎると、消光性効果が小さくなるおそれがある。
【0058】
艶消し粒子の配合量は、コーティング層の塗料組成物の主剤(樹脂成分と溶剤との合計量)100質量部に対して、好ましくは5~10質量部とすることができる。この配合量が多すぎると、塗料組成物の粘度が上がり塗布作業性が悪くなる傾向にあり、少なすぎると、消光性効果が小さくなるおそれがある。コーティング層の表面の平均粗さRaは、アプローチ時のボールのスピン量と消光性の両立の点から、0.5~1.0であることが好適である。この塗膜の表面粗さRaは、JIS B0601(1994)の算術平均粗さを意味する。
【0059】
なお、ディンプル10の中央凸状部分13の第2の凸状部分13Bの形状を、図2に示すように球冠形状とした実施の形態について説明してきたが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、例えば、図3及び図4に示す別の実施形態で示す形状を有するディンプルを用いてもよい。以下に、この別の実施形態について説明する。なお、図1図2と同様の構成については同様の符号を付し、その詳しい説明は省略する。
【0060】
図3に示すように、ゴルフボール1Aの表面には、複数のディンプル10Aが形成されており、このディンプル10Aは、図4に示すように、その底面の中央において、ボールの外側方向に向かって2段階に凸状に湾曲した形状の中央凸状部分14を有しているが、図2のようにその頂点が球冠形状となっておらず、その頂点の部分は平坦となっている。
【0061】
より具体的に説明すると、ディンプルの最深部18からゴルフボールの外側方向に向かって最初に凸状に湾曲した形状の第1の凸状部分14Aと、この第1の凸状部分14Aの平面領域において、更に凸状に湾曲した形状の第2の凸状部分14Bを有しているが、この第2の凸状部分の中央の領域では、頂点が平坦となっている。
【0062】
第1の凸状部分14Aとこの表面が平坦な第2の凸状部分14Bとの境界16は、その平面形状が円形であり、その直径(すなわち図4に示す第2の凸状部分14Bの両端間の距離W2)は、図1図2の実施形態と同様に、第1の凸状部分14Aの平面領域の直径(すなわち距離W1)の半分以下である。この境界16の直径(すなわち距離W2)の下限は、頂点が平坦である第2の凸状部分14Bが形成できる大きさであれば特に限定されるものではないが、例えば、平面領域の直径(すなわち距離W1)を100とすると、25以上とすることが好ましい。
【0063】
第2の凸状部分14Bの平坦な領域における深さdは一定である。なお、この第2の凸状部分14Bにおける深さdは、上述したように、ディンプルの外周縁11の両端を結ぶ線Sを基準とするものである。第2の凸状部分14Bの深さdは、図1図2の実施形態と同様に、カバーを形成する材料のショアD硬度Hとの関係が、上記の式1を満たすものである。(H-78)/(-300)-dの値は、0.002以上が好ましく、0.005以上がより好ましい。このような値となる深さdとすることにより、カバーの材料硬度に応じて、優れた摩擦力を確実に得ることができる。(H-78)/(-300)-dの値の上限は、特に限定されないが、0.010以下が好ましく、0.008以下がより好ましい。
【0064】
このようにディンプル10Aの底面の形状を、ボールの外側方向に向かって2段階に凸状に湾曲した形状とし、その2段階目の第2の凸状部分14Bの頂点の形状を平坦にしても、2段階目の凸状部分の形状を球冠形状にした場合と同様に、フルショット時において中央凸状部分14全体をクラブフェースと十分に接触することから、ゴルフボールのバックスピン量を減らすことができ、飛距離向上を達成することができる。
【実施例0065】
表1の実施例1に示す構成のゴルフボールを作製した。コアの配合については表3に、中間層およびカバーの配合については表4に、塗装層の配合については表5に示す。単位は全て重量部である。ディンプルの配列は、図1に示すパターンとした。ディンプルの底部の形状は、図2に示すように、その中央の領域において、ボールの外側方向に向かって2段階に凸状に湾曲した形状とし、2段目の凸状部分を5~20mmの範囲の曲率半径Rを有する球冠形状とした。ディンプルの更に詳しい仕様を表6に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
表3中のポリブタジエンは、JSR社製、商品名「BR01」、アクリル酸亜鉛は、日本触媒社製のものである。有機過酸化物Aは、日油社製、商品名「パークミルD」であり、有機過酸化物Bは、日油社製、商品名「パーオキサC-40」である。老化防止剤は、2,2-メチレンビス(4-メチル-6-ブチルフェノール)、大内新興化学工業社製、商品名「ノクラックNS-6」である。酸化亜鉛は、堺化学工業社製、商品名「酸化亜鉛3種」である。ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩は、ZHEJIANG CHO&FU CHEMICAL社製である。
【0070】
【表4】
【0071】
表4中の「HPF1000」は、THE DOW CHEMICAL COMPANY社製のアイオノマー樹脂である。「ハイミラン1605」は、三井・ダウポリケミカル社製のアイオノマー樹脂である。「AM7329」は、三井・ダウポリケミカル社製のアイオノマー樹脂である。「サーリン9320」は、THE DOW CHEMICAL COMPANY社製アイオノマー樹脂である。
【0072】
【表5】
【0073】
表5中の主剤の「ポリオール」としては、以下の方法によって合成したポリエステルポリオールを用いた。先ず、環流冷却管、滴下漏斗、ガス導入管及び温度計を備えた反応装置に、トリメチロールプロパン140質量部、エチレングリコール95質量部、アジピン酸157質量部、1,4-シクロヘキサンジメタノール58質量部を仕込み、撹拌しながら200~240℃まで昇温させ、5時間加熱(反応)させた。その後、酸価4、水酸基価170、重量平均分子量(Mw)28,000のポリエステルポリオールを得た。「艶消し粒子」としては、丸尾カルシウム社製「Finesil X-35」を使用した。
【0074】
硬化剤の「イソシアネート」としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)のヌレート体(イソシアヌレート体)である旭化成社製の商品名デュラネートTPA-100(NCO含有量23.1%、不揮発分100%)を用いた。溶剤としては主剤、硬化剤ともに酢酸ブチルを用いた。上記の配合の2液硬化型ウレタン塗料を使用し、ディンプルが形成されたカバーの表面にエアースプレーガンにより塗装を行い、塗装層を形成した。
【0075】
【表6】
【0076】
表6中のA~Eタイプのディンプルは、中央の凸状部分における深さdが全て表1に示す深さdの値であるが、それぞれ凸状部分の曲率半径Rに応じてディンプルの直径(略六角形の外接円の直径)は異なる。ディンプルの大きさは、Aタイプが最も小さく、BタイプからEタイプへと順に大きくなっている。Fタイプのディンプルは、サポートピンにより形成された従来のディンプルである。
【0077】
このような構成の実施例1のゴルフボールについて、そのスピン量および飛距離を評価する試験を行った。先ず、ゴルフ打撃ロボットにドライバーのクラブ(ブリヂストンスポーツ社製の「TourB XD-5」(W#1)(ロフト角9.5°))を装着して、ヘッドスピード45m/sでサンプルのゴルフボールを打撃し、バックスピン量および飛距離を測定した。また、ゴルフ打撃ロボットにミドルアイアンのクラブ(ブリヂストンスポーツ社製の「TourB X-CB」(I#6))を装着して、ヘッドスピード42m/sでサンプルのゴルフボールを打撃し、バックスピン量を測定した。その結果を表1に示す。
【0078】
比較のため、実施例1とはカバーの材料硬度、ディンプルの体積占有率VR、ディンプルの中央の凸状部分における深さdを適宜変えて式1の条件を満たさなくした点を除き、実施例1と同様の構成とした表2に示す比較例2、3のゴルフボールを作製し、実施例1と同様にそのスピン量および飛距離を評価する試験を行った。その結果を表2に示す。なお、比較例2、3のディンプルも、表6と同様の仕様であり、各例において、A~Fタイプのディンプルの直径は変えずに、中央の凸状部分における深さdを変えた(後述する実施例2~8、比較例1も同様である)。
【0079】
表1、表2に示すように、式1の(H-78)/(-300)>dの条件を満たした実施例1のゴルフボールでは、式1の条件を満たさなかった比較例2、3と比べて、ドライバーショットでのバックスピン量が少なく、飛距離を向上させることができた。また、ミドルアイアンでのバックスピン量も、比較例2、3と比べて実施例1の方が少なかった。よって、ミドルアイアンでの飛距離も向上させることができると考えられる。
【0080】
また、カバーの材料硬度を比較例2、3とそれぞれ同じ硬度とし、ディンプルの体積占有率VRとディンプルの中央の凸状部分における深さdを変えて式1の条件を満たす構成とした点を除き、実施例1と同様の構成とした表1に示す実施例2、3のゴルフボールを作製し、実施例1と同様にそのスピン量および飛距離を評価する試験を行った。その結果を表1に示す。表1、表2に示すように、実施例2、3は、式1の条件を満たさなかった比較例2、3と比べて、ドライバーショットでのバックスピン量が少なく、飛距離を向上させることができた。また、ミドルアイアンでのバックスピン量も、比較例2、3と比べて実施例2、3の方が少なかった。よって、ミドルアイアンでの飛距離も向上させることができると考えられる。
【0081】
カバーの材料硬度を実施例1と同じ硬度として、ディンプルの体積占有率VRとディンプルの中央の凸状部分における深さdを変えて式1の条件を満たさない構成とした点を除き、実施例1と同様の構成の比較例1のゴルフボールを表2に示す。上記の試験結果を加味したシミュレーションでは、比較例1は、表2に示すように、凸状部分における深さdが深すぎるため、クラブとの接触面積が小さくなり、実施例1よりもドライバーショットでのバックスピン量が多く、飛距離が低下する。ミドルアイアンでのバックスピン量も、比較例1は実施例1よりも多いことから、飛距離が低下すると考えられる。
【0082】
更に、ディンプルの中央の凸状部分における深さdを実施例1と同じ深さに維持しつつ、図3図4に示すようにディンプルの2段目の凸状部分の形状を球冠ではなく、表面を平坦とした点を除き、実施例1と同様の構成とした実施例4のゴルフボールを作製し、実施例1と同様にそのスピン量および飛距離を評価する試験を行った。その結果を表1に示す。なお、更に詳しいディンプルの仕様を表7に示す。
【0083】
【表7】
【0084】
表7中のG~Kタイプのディンプルは、表6中のA~Eタイプのディンプルにそれぞれ対応しており、同様のディンプルの直径、同様の1段目の凸状部分の平面領域の直径、同様の1段目と2段目の凸状部分の円形の境界の直径を有している。Lタイプのディンプルは、サポートピンにより形成された従来のディンプルで、表6のFタイプのディンプルと同一である。
【0085】
表1に示すように、2段目の凸状部分の表面を平坦とした実施例4のゴルフボールは、2段目の凸状部分が球冠形状の実施例1と比べると、ドライバーショットでのバックスピン量が若干多く、飛距離も若干短かったものの、比較例1に比べると飛距離を向上させることができた。また、ミドルアイアンでのバックスピン量も、実施例4は実施例1よりも若干多かったものの、比較例1と比べると少なくよって、ミドルアイアンでの飛距離も向上させることができると考えられる。
【0086】
これに対し、ディンプルの中央の凸状部分における深さdを実施例1と同じ深さに維持しつつ、図5図6に示すように、ディンプルの底面がその中央において凸状に1段階のみ湾曲した形状とし、この中央凸状部分35の表面を平坦な形状とした点を除き、実施例1と同様の構成とした比較例5のゴルフボールを作製した。より具体的に説明すると、ディンプル30の外周縁32の一端から一端へとつながる底面34は、その中央の領域において、ボールの外側方向に向かって凸状に1段階のみ湾曲する中央凸状部分35が形成されており、その表面は平坦となっている。この平坦な領域の両端37間の距離Wは、図2図4に示す第1の凸状部分13A、14Aの平面領域の両端17間の距離W1と同等である。また、中央凸状部分35の平坦な領域における深さdも、図2図4と同様にディンプルの外周縁32の両端を結ぶ線Sを基準とするものである。中央凸状部分35の両側の領域では、その最深点38において、深さDが最大となるように湾曲している。ディンプルの更に詳しい仕様を表8に示す。
【0087】
【表8】
【0088】
表8のM~Qタイプのディンプルは、表6のA~Eタイプのディンプルにそれぞれ対応しており、同様のディンプルの直径を有している。また、表8のM~Qタイプのディンプルの凸状部分の平坦な領域の直径は、表6のA~Eタイプのディンプルの1段目の凸状部分の平面領域の直径とそれぞれ同様である。Rタイプのディンプルは、サポートピンにより形成された従来のディンプルで、表6のFタイプのディンプルと同一である。そして、実施例1と同様にそのスピン量および飛距離を評価する試験を行った。その結果を表2に示す。
【0089】
また、実施例1のゴルフボールを35m/sの速度で発射して透明板に衝突させた際のディンプルを映した写真を図7に示し、同様の条件で実施例4、比較例4のゴルフボールを透明板に衝突させた際のディンプルを映した写真を図8図9にそれぞれ示す。
【0090】
図7図8に示すように、ディンプルの中央の凸状部分を2段にした実施例1、4は、凸状部分のほぼ全面が透明板に接触しているのに対し、図9に示すように、ディンプルの中央の凸状部分が1段でその表面が平坦である比較例4は、凸状部分のうちの中央の箇所が透明板に十分に接触していないことがわかる。よって、表2に示すように、比較例4は、カバーの材料硬度と凸状部分における深さdとの関係である式1を満たしているものの、フルショット時におけるクラブフェースとの接触面積が実施例1、4よりも小さいことから、実施例1、4よりもドライバーショットでのバックスピン量が多く、飛距離が低下した。また、ミドルアイアンでのバックスピン量も、比較例4は実施例1、4よりも多いことから、飛距離が低下すると考えられる。
【0091】
更に、ディンプルの体積占有率VRとディンプルの中央の凸状部分における深さdを変えた点を除き、実施例1と同様の構成とした実施例5のゴルフボールを作製し、実施例1と同様にそのスピン量および飛距離を評価する試験を行った。その結果を表1に示す。
【0092】
ディンプルの体積占有率VRが0.78とした実施例5は、ディンプルの体積占有率VRが0.72の実施例1と比べると、ドライバーショットでのバックスピン量が若干多くなり、飛距離が低下した。また、ミドルアイアンでのバックスピン量も、実施例5は実施例1と比べると、ドライバーショットでのバックスピン量が若干多く、飛距離が低下すると考えられる。換言すれば、ディンプルの体積占有率VRを0.75未満にすることで、ドライバーショットでもミドルアイアンでも飛距離をより向上させることができることがわかる。
【0093】
更に、表9に示すように、塗装層に艶消し粒子を配合させた点と、式1の条件を満たさない点、ディンプルの体積占有率VRを0.68、0.75とした点を除き、比較例4と同様に1段階の凸状部分で、表面を平坦としたディンプルの構成の参考例1、2のゴルフボールを作製し、実施例1と同様にそのスピン量および飛距離を評価する試験を行った。
【0094】
【表9】
【0095】
艶消し粒子を配合させた参考例1、2は、いずれもドライバーショットでのバックスピン量が比較例4より若干多くなったが、体積占有率VRを0.68と低くした参考例1は飛距離が向上した一方、体積占有率VRを0.75と高くした参考例2は飛距離が低下した。また、ミドルアイアンでのバックスピン量も、参考例1、2はほぼ同等であったが、体積占有率VRを0.68と低くした参考例1は飛距離が向上し、体積占有率VRを0.75と高くした参考例2は飛距離が低下すると考えられる。
【0096】
塗装層に艶消し粒子を配合させた点、ディンプルの体積占有率VRとディンプルの中央の凸状部分における深さdを適宜変えた点を除き、実施例1と同様の構成の実施例4、5のゴルフボールを表1に示す。実施例6、7のゴルフボールを表1に示す。上記の試験結果を加味したシミュレーションでは、実施例6、7は、表1に示すように、ドライバーショットでのバックスピン量がほぼ同等であるものの、実施例1と同じ体積占有率VRが0.72の実施例7よりも、体積占有率VRが0.68の実施例6の方が飛距離をより向上させることができる。また、ミドルアイアンでのバックスピン量も、実施例6、7はほぼ同等であった。よって、ミドルアイアンでの飛距離の向上も、実施例7よりも実施例6の方が優れると考えられる。
【0097】
また、中間層の材料硬度をカバーの材料硬度よりも低くした点を除き、実施例1と同様の構成とする実施例8のゴルフボールを表1に示す。上記の試験結果を加味したシミュレーションでは、実施例8は、表1に示すように、ドライバーショットでのバックスピン量は実施例1と同等で、飛距離を維持することができるものの、ミドルアイアンでのバックスピン量は高くなる。よって、ミドルアイアンでの飛距離の向上は劣ると考えられる。
【符号の説明】
【0098】
1、3 ゴルフボール
10、30 ディンプル
11、31 外周縁
13、14 中央凸状部分
13A、14A 第1の凸状部分
13B、14B 第2の凸状部分
16 第1の凸状部分と第2の凸状部分との境界
17 第1の凸状部分の平面領域の端
20、40 陸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9