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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183744
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】水性塗料組成物、塗膜および機械
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20231221BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20231221BHJP
   C09D 183/06 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D7/63
C09D183/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097416
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】392007566
【氏名又は名称】ナトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(74)【代理人】
【識別番号】100210985
【弁理士】
【氏名又は名称】執行 敬宏
(72)【発明者】
【氏名】細川 裕之
(72)【発明者】
【氏名】藤井 啓統
(72)【発明者】
【氏名】細川 了平
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】北野 真友香
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DG101
4J038DG191
4J038DG302
4J038DL051
4J038JC34
4J038KA07
4J038KA08
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA04
4J038PA06
4J038PA18
4J038PB06
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】塗膜としたときに切削油または潤滑油に対する耐性が改善された水性塗料組成物を提供すること。
【解決手段】ヒドロキシ基含有樹脂(A)と、イソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有するイソシアネート化合物(B)と、エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)と、エポキシ基含有シラン化合物(D)と、を含有する、水性塗料組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシ基含有樹脂(A)と、
イソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有するイソシアネート化合物(B)と、
エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)と、
エポキシ基含有シラン化合物(D)と、
を含有する、水性塗料組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の水性塗料組成物であって、
前記重縮合物(C)と前記エポキシ基含有シラン化合物(D)の質量比((D)/(C))が、0.1以上10以下である、水性塗料組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水性塗料組成物であって、
前記ヒドロキシ基含有樹脂(A)、前記イソシアネート化合物(B)、前記重縮合物(C)及び前記エポキシ基含有シラン化合物(D)の合計量に対する、前記重縮合物(C)の含有量が、0.1質量%以上10質量%以下である、水性塗料組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の水性塗料組成物であって、
前記ヒドロキシ基含有樹脂(A)、前記イソシアネート化合物(B)、前記重縮合物(C)及び前記エポキシ基含有シラン化合物(D)の合計量に対する、前記エポキシ基含有シラン化合物(D)の含有量が、1質量%以上50質量%以下である、水性塗料組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の水性塗料組成物であって、
前記エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)において、
Si原子1molに対するエポキシ基の含有量が0.05mol以上である、水性塗料組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載の水性塗料組成物であって、
前記ヒドロキシ基含有樹脂(A)の水酸基価が50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である、水性塗料組成物。
【請求項7】
請求項1または2に記載の水性塗料組成物であって、
さらに顔料を含有する、水性塗料組成物。
【請求項8】
請求項1または2に記載の水性塗料組成物であって、
切削油または潤滑油を用いる機械を塗装するために用いられる、水性塗料組成物。
【請求項9】
請求項1または2に記載の水性塗料組成物により形成された塗膜。
【請求項10】
請求項9に記載の塗膜を備える、切削油または潤滑油を用いる機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗料組成物、塗膜および機械に関する。
【背景技術】
【0002】
水性塗料組成物は水を溶剤または分散剤とした塗料組成物であり、溶剤系塗料組成物と比べて一般的に揮発性有機化合物(VOC)の使用量が少ない。そのため、環境対応等の点から水性塗料組成物への要求が高まってきている。
【0003】
水性塗料組成物について記載された文献としては、例えば特許文献1が挙げられる。当該文献では、特定のアクリル樹脂を含むアクリルエマルション(A)、水分散性ポリイソシアネート(B)、並びにエポキシ基含有アルコキシシランの加水分解物(C)を含有する改修プライマー用組成物が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-249491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水性塗料組成物を用いて、工作機械(金属等の素材に、切断、穿孔、研削、研磨、圧延、鍛造、折り曲げ等の加工を施すための機械)や、その他の機械の表面を塗装することが考えられる。
しかし、本発明者の知見によれば、従来の水性塗料組成物による塗膜に、工作機械の使用時に用いられる切削油が接触したり、その他の機械の使用時に用いられる潤滑油が接触したりすることにより、塗膜の剥離ないし劣化が進みやすいという問題があった。つまり、従来の水性塗料組成物は、切削油または潤滑油に対する耐性という点で、改善の余地があった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。本発明は、塗膜としたときに切削油または潤滑油に対する耐性が改善された水性塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下に示す水性塗料組成物、塗膜および機械が提供される。
[1]
ヒドロキシ基含有樹脂(A)と、
イソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有するイソシアネート化合物(B)と、
エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)と、
エポキシ基含有シラン化合物(D)と、
を含有する、水性塗料組成物。
[2]
上記[1]に記載の水性塗料組成物であって、
上記重縮合物(C)と上記エポキシ基含有シラン化合物(D)の質量比((D)/(C))が、0.1以上10以下である、水性塗料組成物。
[3]
上記[1]または[2]に記載の水性塗料組成物であって、
上記ヒドロキシ基含有樹脂(A)、上記イソシアネート化合物(B)、上記重縮合物(C)及び上記エポキシ基含有シラン化合物(D)の合計量に対する、上記重縮合物(C)の含有量が、0.1質量%以上10質量%以下である、水性塗料組成物。
[4]
上記[1]~[3]のいずれかに記載の水性塗料組成物であって、
上記ヒドロキシ基含有樹脂(A)、上記イソシアネート化合物(B)、上記重縮合物(C)及び上記エポキシ基含有シラン化合物(D)の合計量に対する、上記エポキシ基含有シラン化合物(D)の含有量が、1質量%以上50質量%以下である、水性塗料組成物。
[5]
上記[1]~[4]のいずれかに記載の水性塗料組成物であって、
上記エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)において、
Si原子1molに対するエポキシ基の含有量が0.05mol以上である、水性塗料組成物。
[6]
上記[1]~[5]のいずれかに記載の水性塗料組成物であって、
上記ヒドロキシ基含有樹脂(A)の水酸基価が50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である、水性塗料組成物。
[7]
上記[1]~[6]のいずれかに記載の水性塗料組成物であって、
さらに顔料を含有する、水性塗料組成物。
[8]
上記[1]~[7]のいずれかに記載の水性塗料組成物であって、
切削油または潤滑油を用いる機械を塗装するために用いられる、水性塗料組成物。
[9]
上記[1]~[8]のいずれかに記載の水性塗料組成物により形成された塗膜。
[10]
上記[9]に記載の塗膜を備える、切削油または潤滑油を用いる機械。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、塗膜としたときに切削油または潤滑油に対する耐性が改善された水性塗料組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施形態に基づいて説明する。
【0010】
本実施形態では、数値範囲を示す「A~B」は特に断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0011】
本実施形態における固形分とは、水性樹脂組成物から水および有機溶剤を除外した成分のことである。すなわち、水性塗料組成物を基材に塗布して塗膜を形成した際に、基材上に残存する成分のことである。
【0012】
本実施形態における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
【0013】
本実施形態における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
【0014】
[水性塗料組成物]
本実施形態の水性塗料組成物は、
ヒドロキシ基含有樹脂(A)と、
イソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有するイソシアネート化合物(B)と、
エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)と、
エポキシ基含有シラン化合物(D)と、
を含有する。
【0015】
本実施形態の水性塗料組成物によれば、切削油または潤滑油に対する耐性が改善された塗膜を形成することができる。このような効果がもたらされるメカニズムは明らかではないが、上記の成分(A)~(D)の相乗効果によるものと推測される。
【0016】
なお、エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)とエポキシ基含有シラン化合物(D)は重縮合物と単量体の関係であるところ、いずれか一方のみ含有したとしても上記の効果はもたらされないということが本発明者らの検討により明らかになっている。このことから、これらの成分の相乗効果が上記の効果が発現するにあたって重要であると推測される。
【0017】
以下、本実施形態の水性塗料組成物が含有する各成分について詳細に説明する。
【0018】
<ヒドロキシ基含有樹脂(A)>
本実施形態におけるヒドロキシ基含有樹脂(A)とは、ヒドロキシ基を含有する樹脂のことである。ヒドロキシ基含有樹脂(A)のヒドロキシ基が後述のイソシアネート化合物(B)のイソシアネート基と反応することにより、塗膜が硬化する。
【0019】
以下、上記ヒドロキシ基含有樹脂(A)の水酸基価の好適な数値範囲について記載するが、ヒドロキシ基含有樹脂(A)が溶液や分散液の形態で入手したものであった場合、ヒドロキシ基含有樹脂(A)の水酸基価は、溶液や分散液の固形分あたりの水酸基価とする。
【0020】
上記ヒドロキシ基含有樹脂(A)の水酸基価は、好適には50mgKOH/g以上であり、より好適には60mgKOH/g以上であり、さらに好適には70mgKOH/g以上である。これにより水性塗料組成物から形成される塗膜の架橋密度が上がり、塗膜の機械的特性がより一層改善される。
【0021】
上記ヒドロキシ基含有樹脂(A)の水酸基価は、好適には200mgKOH/g以下であり、より好適には190mgKOH/g以下であり、さらに好適には180mgKOH/g以下である。これにより、水性塗料組成物から形成される塗膜において、架橋に利用されずに残存する残存ヒドロキシ基の量を低減させられるため、塗膜の耐水性がより一層改善される。
【0022】
上記ヒドロキシ基含有樹脂(A)の水酸基価は、好適には50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、より好適には60mgKOH/g以上190mgKOH/g以下であり、さらに好適には70mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である。これにより、塗膜の機械的特性と耐水性のバランスがより一層改善される。
【0023】
なお、水酸基価は、典型的には、JIS K 0070の規定に基づき求めることができる。
【0024】
使用可能なヒドロキシ基含有樹脂(A)は特に限定されず、塗料組成物を加熱したときに、少なくともイソシアネート化合物(B)と反応しうるものであれば、特に制限なく用いることができる。
【0025】
ヒドロキシ基含有樹脂(A)としては、ポリオール樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ニトロセルロース樹脂、ロジン変性樹脂、マレイン酸樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体などの樹脂であって、ヒドロキシ基を含有するものを例示できる。
【0026】
ヒドロキシ基含有樹脂(A)は、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリル樹脂を含有することが好ましい。
【0027】
ヒドロキシ基含有樹脂(A)の剤形は特に限定されないが、水性塗料組成物を調製するのが容易であるという観点から、水系のディスパージョン(分散液)であることが好ましい。
【0028】
ヒドロキシ基含有樹脂(A)は、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリル樹脂を含有し、且つ水系のディスパージョン(分散液)であることが好ましい。
このようなヒドロキシ基含有(メタ)アクリル樹脂を含有する水系のディスパージョン市販品としては、DIC株式会社のバーノック(登録商標)シリーズ、ダイセル・オルネクス社のMACRYNAL(登録商標)シリーズ等を例示できる。
【0029】
本実施形態の水性塗料組成物は、ヒドロキシ基含有樹脂(A)を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
【0030】
上記ヒドロキシ基含有樹脂(A)、上記イソシアネート化合物(B)、上記エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)及び上記エポキシ基含有シラン化合物(D)の合計量に対する、上記ヒドロキシ基含有樹脂(A)の含有量は、好適には1質量%以上であり、より好適には5質量%以上であり、さらに好適には10質量%以上である。
【0031】
上記ヒドロキシ基含有樹脂(A)、上記イソシアネート化合物(B)、上記エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)及び上記エポキシ基含有シラン化合物(D)の合計量に対する、上記ヒドロキシ基含有樹脂(A)の含有量は、好適には90質量%以下であり、より好適には85質量%以下であり、さらに好適には80質量%以下である。
【0032】
上記ヒドロキシ基含有樹脂(A)、上記イソシアネート化合物(B)、上記エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)及び上記エポキシ基含有シラン化合物(D)の合計量に対する、上記ヒドロキシ基含有樹脂(A)の含有量は、好適には1質量%以上90質量%以下であり、より好適には5質量%以上85質量%以下であり、さらに好適には10質量%以上80質量%以下である。
【0033】
<イソシアネート化合物(B)>
本実施形態におけるイソシアネート化合物(B)とは、イソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有する化合物のことである。
【0034】
使用可能なイソシアネート化合物(B)は特に限定されず、塗料組成物を加熱したときに、少なくともポリエステル樹脂(A)と反応しうるものであれば、特に制限なく用いることができる。
【0035】
イソシアネート化合物(B)の具体例としては、例えば、以下を挙げることができる。
【0036】
脂肪族系ジイソシアネート化合物:ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネートなど。
【0037】
脂環式系ジイソシアネート化合物:イソホロンジイソシアネート、4,4´-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン-2,4-(又は-2,6-)ジイソシアネート、1,3-(又は1,4-)ジ(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,2-シクロヘキサンジイソシアネート等。
【0038】
芳香族ジイソシアネート化合物:キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4´-ジフェニルメタンジイソシアネート、(m-又はp-)フェニレンジイソシアネートなど。
【0039】
その他のポリイソシアネート類:トリフェニルメタン-4,4´,4´´-トリイソシアネート等の3個以上のイソシアネ-ト基を有するポリイソシアネート化合物類、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、ポリアルキレングリコール、トリメチロ-ルプロパン、ヘキサントリオ-ル等のポリオールの水酸基に対してイソシアネート基が過剰量となる量のポリイソシアネート化合物を反応させてなる付加物類、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4´-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4´-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)などのビューレットタイプ付加物、イソシアヌル環タイプ付加物など。
【0040】
イソシアネート化合物(B)の市販品としては、コベストロ社のBayhydur(登録商標)シリーズ、DIC株式会社のバーノック(登録商標)シリーズ、およびエボニック社のVESTAGON(登録商標)シリーズ等を例示できる。
【0041】
また、上記のイソシアネート化合物のイソシアネート基の一部又は全部がブロック剤によりブロックされたブロックドイソシアネート化合物も挙げることができる。より具体的には、アルコール、フェノール、ラクタム、オキシムなどのブロック剤によってイソシアネート基がブロックされたブロックドイソシアネート化合物も硬化剤として用いることができる。
【0042】
なお、ブロック剤としては、フェノール系ブロック剤、ラクタム系ブロック剤またはオキシム系ブロック剤が好ましい。
フェノール系ブロック剤としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、ニトロフェノール、クロロフェノール、エチルフェノール、ヒドロキシジフェニル、t-ブチルフェノール、ヒドロキシ安息香酸メチル等を挙げることができる。
ラクタム系ブロック剤としては、ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム、β-プロピオラクタム等:
オキシム系ブロック剤としては、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロヘキサンオキシム等を挙げることができる。
【0043】
イソシアネート化合物(B)の有するイソシアネート基の量は、イソシアネート化合物全体に対するイソシアネート基の質量の割合で表現することができる。イソシアネート化合物(B)全体に対するイソシアネート基の質量の割合(以下NCO量という)は、好ましくは5~50%、より好ましくは5~30%、さらに好ましくは10~25%である。これにより、塗膜の機械物性等がより一層改善される。
【0044】
なお、NCO量は、典型的には、JIS K 6806の規定に基づき求めることができる。
【0045】
ヒドロキシ基含有樹脂(A)が有するヒドロキシ基のモル数に対する、イソシアネート化合物(B)が有するイソシアネート基のモル数の比(NCO/OH)は、0.5~1.5であることが好ましく、0.8~1.2であることが好ましい。これにより、塗膜の機械物性等がより一層改善される。
【0046】
本実施形態の水性塗料組成物は、イソシアネート化合物(B)を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
【0047】
上記ヒドロキシ基含有樹脂(A)、上記イソシアネート化合物(B)、上記エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)及び上記エポキシ基含有シラン化合物(D)の合計量に対する、上記イソシアネート化合物(B)の含有量は、好適には1質量%以上であり、より好適には5質量%以上であり、さらに好適には10質量%以上である。
【0048】
上記ヒドロキシ基含有樹脂(A)、上記イソシアネート化合物(B)、上記エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)及び上記エポキシ基含有シラン化合物(D)の合計量に対する、上記イソシアネート化合物(B)の含有量は、好適には50質量%以下であり、より好適には45質量%以下であり、さらに好適には40質量%以下である。
【0049】
上記ヒドロキシ基含有樹脂(A)、上記イソシアネート化合物(B)、上記エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)及び上記エポキシ基含有シラン化合物(D)の合計量に対する、上記イソシアネート化合物(B)の含有量は、好適には1質量%以上50質量%以下であり、より好適には5質量%以上45質量%以下であり、さらに好適には10質量%以上40質量%以下である。
【0050】
<エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)>
本実施形態におけるエポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)としては、エポキシ基含有シラン化合物を重縮合させたものであれば任意のものを使用することができる。
【0051】
エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)の重縮合の原料となるエポキシ基含有シラン化合物の具体例としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン等の3-グリシドキシトリアルコキシシラン;3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジプロポキシシラン等の3-グリシドキシアルキルジアルコキシシラン;2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を例示できる。
【0052】
エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)は、エポキシ基含有シラン化合物を重縮合反応させることにより得ることができる。
たとえば、メトキシシランを重縮合反応させる場合、加水分解によりメタノールを脱離させながら重合反応させることにより重縮合物(C)を得ることができる。
【0053】
重縮合反応は任意の条件で行えばよいが、反応効率の観点から、常温以上で行うことが好適であり、50℃以上で行うことがより好適であり、60℃以上で行うことがさらに好適であり、70℃以上で行うことがよりさらに好適である。なお、重縮合物の分解を防ぐ観点から、重縮合反応は通常300℃以下で行われる。
【0054】
重縮合反応に際しては、重縮合反応を促進するためにpHを調整してもよい。たとえば、塩酸、硫酸などの酸を用いて低pHにしてもよいし、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどの塩基を用いて高pHにしてもよい。
【0055】
また、減圧下で重縮合反応を行ってもよい。減圧下で重縮合反応を行うことにより、重縮合反応を促進することができる。
たとえば、メトキシシランを重縮合反応させる場合、加水分解によりメタノールを脱離させながら重縮合反応を進行させることになるが、この際に減圧によりメタノールを除去することで、重縮合反応を促進することができる。
【0056】
前述の通り、エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)はエポキシ基含有シラン化合物を重縮合反応させて得ることができるが、この際、一部のエポキシ基が開環する場合がある。
【0057】
開環せずに残存したエポキシ基の量の指標として、Si原子1molに対するエポキシ基の含有量(mol)を用いることができる。この値は、重縮合物(C)中のシランに対するエポキシの量を示すので、開環せずに残存した中のエポキシ基の量が多いほど、この値が大きくなる。
【0058】
Si原子1molに対するエポキシ基の含有量(mol)は、特開2020-050858号公報の[0039]~[0041]段落に記載された方法を参考にして、H-NMR分析により得ることができる。
【0059】
具体的には、エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)のH-NMRを測定し、エポキシ基上の水素原子Hのピーク面積と、ケイ素原子に隣り合う炭素原子上の水素原子Hのピーク面積を得て、得られたピーク面積の比率([水素原子Hのピーク面積]/[水素原子Hのピーク面積])を、Si原子1molに対するエポキシ基の含有量(mol)とすることができる。
水素原子Hと水素原子Hの位置は下記一般式(1)で示した通りである。
【0060】
【化1】
【0061】
一般式(1)において、nは0より大きな任意の数であり、Rは任意の有機基であり、Rは任意の有機基またはヒドロキシ基である。有機基としては、アルキル基、アルコキシ基、チオアルキル基等を例示できる。
【0062】
本実施形態にかかるエポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)において、Si原子1molに対するエポキシ基の含有量(mol)は、好適には0.01mol以上であり、より好適には0.05mol以上であり、さらに好適には0.10mol以上である。
上記数値範囲以上であることにより、エポキシ基の量を一定以上確保することになる。これにより、水性塗料組成物から形成される塗膜の耐水性がより一層改善される。
【0063】
本実施形態にかかるエポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)において、Si原子1molに対するエポキシ基の含有量(mol)は、好適には0.99mol以下であり、より好適には0.98mol以下であり、さらに好適には0.97mol以下、よりさらに好適には0.96mol以下である。
上記数値範囲以下であることにより、エポキシ基開環により生ずるヒドロキシ基が一定量確保されることになり、ヒドロキシ基がイソシアネート化合物(B)等と反応して形成される架橋構造も一定量確保されることになる。これにより水性塗料組成物から形成される塗膜の機械的物性がより一層改善される。また、これにより水性塗料組成物から形成される塗膜の耐切削油性がより一層改善される。
【0064】
本実施形態にかかるエポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)においては、Si原子1molに対するエポキシ基の含有量(mol)が、好適には0.01mol以上0.99mol以下であり、より好適には0.05mol以上0.98mol以下であり、さらに好適には0.10mol以上0.97mol以下である。
これにより、水性塗料組成物から形成される塗膜の機械的物性と耐水性のバランスがより一層改善される。
【0065】
また、本実施形態にかかるエポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)中のエポキシ基の量を示すものとして、エポキシ当量を用いることもできる。なお、エポキシ当量はJIS K7236:2001に則って測定することができる。
【0066】
本実施形態にかかるエポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)のエポキシ当量は、好適には100以上、より好適には150以上、さらに好適には200以上である。
【0067】
本実施形態にかかるエポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)のエポキシ当量は、好適には4000以下、より好適には3000以下、さらに好適には2500以下である。
【0068】
本実施形態の水性塗料組成物は、エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
【0069】
上記ヒドロキシ基含有樹脂(A)、上記イソシアネート化合物(B)、上記エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)及び上記エポキシ基含有シラン化合物(D)の合計量に対する、上記エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)の含有量は、好適には0.1質量%以上であり、より好適には0.5質量%以上であり、さらに好適には1.0質量%以上である。
【0070】
上記ヒドロキシ基含有樹脂(A)、上記イソシアネート化合物(B)、上記エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)及び上記エポキシ基含有シラン化合物(D)の合計量に対する、上記エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)の含有量は、好適には10質量%以下であり、より好適には7.5質量%以下であり、さらに好適には5.0質量%以下である。
【0071】
上記ヒドロキシ基含有樹脂(A)、上記イソシアネート化合物(B)、上記エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)及び上記エポキシ基含有シラン化合物(D)の合計量に対する、上記エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)の含有量は、好適には0.1質量%以上10質量%以下であり、より好適には0.5質量%以上7.5質量%以下であり、さらに好適には1.0質量%以上5.0質量%以下である。
【0072】
<エポキシ基含有シラン化合物(D)>
本実施形態におけるエポキシ基含有シラン化合物(D)としては、シラン化合物であってエポキシ基を含有するものであれば任意のものを使用することができる。
【0073】
エポキシ基含有シラン化合物(D)の具体例としては、エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)の重縮合の原料となるエポキシ基含有シラン化合物の具体例として上記したものを例示することができる。
【0074】
本実施形態の水性塗料組成物は、エポキシ基含有シラン化合物(D)を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
【0075】
本実施形態にかかるエポキシ基含有シラン化合物(D)のエポキシ当量は、好適には160以上、より好適には200以上、さらに好適には220以上である。
【0076】
本実施形態にかかるエポキシ基含有シラン化合物(D)のエポキシ当量は、好適には400以下、より好適には350以下、さらに好適には300以下である。
【0077】
エポキシ当量はJIS K7236:2001に則って測定することができる。
【0078】
上記ヒドロキシ基含有樹脂(A)、上記イソシアネート化合物(B)、上記エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)及び上記エポキシ基含有シラン化合物(D)の合計量に対する、上記エポキシ基含有シラン化合物(D)の含有量は、好適には1質量%以上であり、より好適には5質量%以上であり、さらに好適には10質量%以上である。
【0079】
上記ヒドロキシ基含有樹脂(A)、上記イソシアネート化合物(B)、上記エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)及び上記エポキシ基含有シラン化合物(D)の合計量に対する、上記エポキシ基含有シラン化合物(D)の含有量は、好適には50質量%以下であり、より好適には45質量%以下であり、さらに好適には40質量%以下である。
【0080】
上記ヒドロキシ基含有樹脂(A)、上記イソシアネート化合物(B)、上記エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)及び上記エポキシ基含有シラン化合物(D)の合計量に対する、上記エポキシ基含有シラン化合物(D)の含有量は、好適には1質量%以上50質量%以下であり、より好適には5質量%以上45質量%以下であり、さらに好適には10質量%以上40質量%以下である。
【0081】
上記エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)と上記エポキシ基含有シラン化合物(D)の質量比((D)/(C))は、好適には0.1以上であり、より好適には0.2以上であり、さらに好適には0.3以上である。これにより水性塗料組成物から形成される塗膜の耐切削油性がより一層改善される。
【0082】
上記エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)と上記エポキシ基含有シラン化合物(D)の質量比((D)/(C))は、好適には10以下であり、より好適には9以下であり、さらに好適には8以下である。これにより水性塗料組成物から形成される塗膜の耐切削油性がより一層改善される。
【0083】
上記エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)と上記エポキシ基含有シラン化合物(D)の質量比((D)/(C))は、好適には0.1以上10以下であり、より好適には0.1以上9以下であり、さらに好適には0.2以上8以下である。これにより水性塗料組成物から形成される塗膜の耐切削油性がより一層改善される。
【0084】
<任意成分>
本実施形態の水性塗料組成物は、必要に応じ上記以外の任意の成分を含んでもよい。
【0085】
本実施形態の水性塗料組成物は、さらに顔料を含有することが好ましい。これにより、塗膜を所望の色味とし、塗膜の意匠性を高めることができる。
【0086】
顔料として使用可能なものは特に限定されない。例えば、公知の無機顔料や有機顔料などの着色顔料を用いることができる。具体的には、二酸化チタン(チタン白)、亜鉛華、鉛白、塩基性硫酸鉛、硫酸鉛、リトポン、硫化亜鉛、アンチモン白などの白色顔料;カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、黒鉛、鉄黒(黒色酸化鉄)、アニリンブラックなどの黒色顔料;ナフトールエローS、ハンザエロー、ピグメントエローL、ベンジジンエロー、パーマネントエロー、黄鉄(黄色酸化鉄)などの黄色顔料;クロムオレンジ、クロムバーミリオン、パーマネントオレンジなどの橙色顔料;酸化鉄、アンバーなどの褐色顔料;ベンガラ(赤色酸化鉄)、鉛丹、パーマネントレッド、キナクリドン系赤顔料、ジケトピロロピロール系赤顔料などの赤色顔料;コバルト紫、ファストバイオレット、メチルバイオレットレーキなどの紫色顔料、群青、紺青、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、インジゴなどの青色顔料;クロムグリーン、ピグメントグリーンB、フタロシアニングリーンなどの緑色顔料などが挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。
【0087】
本実施形態の水性塗料組成物中の顔料の量は特に限定されず、所望する色味や他の性能との兼ね合いにより適宜調整すればよい。一例として、顔料の含有量は、上記ヒドロキシ基含有樹脂(A)、上記イソシアネート化合物(B)、上記エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)及び上記エポキシ基含有シラン化合物(D)の合計量を100質量部としたとき、典型的には50~150質量部、好ましくは70~100質量部である。
【0088】
本実施形態の水性塗料組成物は、塗膜表面の平滑性を高める効果がある添加成分を含んでもよい。このような成分としては、塗料分野で公知の表面調整剤、消泡剤(塗装時に巻き込んだ空気を破泡する成分)、可塑剤、シリコーン化合物、ワックス、レベリング剤、ワキ防止剤などが挙げられる。
表面調整剤および消泡剤としては、例えば、BYK社製のBYKシリーズを挙げることができる。
【0089】
さらに、別の任意の成分として、本実施形態の水性塗料組成物は、ヒドロキシ基含有樹脂(A)以外の樹脂成分、硬化触媒、カップリング剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、磁性粉、帯電制御剤などを含んでもよい。
また、本実施形態の水性塗料組成物は、DPDM(ジプロピレングリコールジメチルエーテル)等の水性溶剤を含んでもよい。
【0090】
任意成分は、1種のみを用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0091】
<用途>
本実施形態の水性塗料組成物の用途は特に限定されないが、切削油または潤滑油を用いる機械を塗装するために用いられることが好ましい。
【0092】
切削油および潤滑油には、大きく分けて、主成分が鉱油および/または脂肪油である油性のものと、水で希釈して用いられる水溶性のものとがある。
【0093】
ここで、水溶性切削油の分類について補足すると、水溶性切削油は、さらに、JISによる分類で、A1種:乳白色(エマルション)、A2種:半透明ないし透明(ソリュブル)、または、A3種:透明(ソリューション)に分類される。
【0094】
また、潤滑成分として合成潤滑剤を含有する切削油も近年用いられている。このような切削油は、天然成分(主に鉱油)を含まないことから「オイルフリー」と呼ばれたり、化学合成された潤滑成分(合成潤滑剤)を適用していることから、「シンセティック」と呼ばれたりすることがある。
【0095】
本実施形態の水性塗料組成物は切削油または潤滑油に対する耐性が改善された塗膜を提供できるため、上記したような切削油または潤滑油を用いる機械を塗装するために好適に用いることができる。
【0096】
切削油または潤滑油を用いる機械の材質としては、典型的には金属、好ましくは鉄(鉄鋼材)であるが、これに限定されるものではない。また、機械の形状は特に限定されない。
なお、本実施形態の水性塗料組成物が塗装される機械の表面には、防錆性や密着性などの観点で、何らかの前処理がされていてもよい。前処理としては、洗浄、脱脂、ブラスト、プライマーコート、前加熱、乾燥、皮膜形成(例えばリン酸亜鉛処理)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0097】
[塗膜]
本実施形態の塗膜は、上記の水性塗料組成物により形成されたものである。
【0098】
上記態の水性塗料組成物を、基材の表面に塗布することにより、本実施形態の塗膜を形成することができる。塗布方法は特に限定されず、スプレー、刷毛、ローラー等任意の手段により塗布することができる。
【0099】
本実施形態の塗膜を形成する基材の材質は特に限定されず、金属、樹脂、石材、木材、紙など任意の材質のものでよい。
【0100】
本実施形態の塗膜は硬化させてもよい。硬化の方法は限定されず、常温で硬化させてもよいし、熱処理により硬化させてもよい。
熱処理の温度や時間は、基材層の変形などが無い範囲で適宜設定すればよい。温度は例えば30~140℃、時間は例えば1分~24時間である。熱処理の具体的な方法としては、熱風や、公知のコーティングマシンの乾燥炉(ドライヤー)を用いる等の方法を挙げることができる。
【0101】
[機械]
本実施形態の機械は、上記の塗膜を備えるものである。
【0102】
本実施形態の機械の種類は特に限定されないが、その使用時に切削油または潤滑油を用いるものであることが好ましい。
【0103】
使用時に切削油または潤滑油を用いる機械としては、工作機械、すなわち、金属等の材料に、切断、穿孔、研削、研磨、圧延、鍛造、折り曲げ等の加工を施すための機械が挙げられる。
工作機械として、より具体的には、旋盤、ボール盤、中ぐり盤、フライス盤、研削盤、歯切り盤、マシニングセンタ、ターニングセンタ等を挙げることができる。
また、潤滑油を用いる機械として、より具体的には、内燃機関(エンジン)、変速機、差動装置、ポンプ、ベアリング等を挙げることができる。
【0104】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0105】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0106】
[Si原子1molに対するエポキシ基の含有量(mol)]
特開2020-050858号公報の[0039]~[0041]段落に記載された方法を参考にして、H-NMR分析により、Si原子1molに対するエポキシ基の含有量(mol)を得た。
【0107】
まず、下記の条件で、得られたエポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C-1)のH-NMRを測定した。
・周波数:400MHz
・スキャン回数:64回
・溶剤:重クロロホルム
・標準:テトラメチルシラン
【0108】
次いで、エポキシ基上の水素原子Hのピーク面積と、ケイ素原子に隣り合う炭素原子上の水素原子Hのピーク面積を得て、得られたピーク面積の比率([水素原子Hのピーク面積]/[水素原子Hのピーク面積])を、Si原子1molに対するエポキシ基の含有量(mol)とした。
なお、水素原子Hと水素原子Hの位置は下記一般式(1)で示した通りである。
【0109】
【化2】
【0110】
一般式(1)において、nは0より大きな任意の数であり、Rは任意の有機基であり、Rは任意の有機基またはヒドロキシ基である。有機基としては、アルキル基、アルコキシ基、チオアルキル基等を例示できる。
【0111】
[エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)の合成]
<エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C-1)の合成>
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び空気導入口を備えた反応容器に、窒素雰囲気下で、Dynasylan(登録商標)GLYMO(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、エボニック社製)を100質量部装入した。次いで、メタノール40質量部と1規定塩酸10質量部の混合物を装入し、攪拌した。攪拌を続けながら、反応容器内の温度を60℃まで昇温し、更に4時間攪拌し、反応混合物を得た。
得られた反応混合物に0.1規定塩酸を加えてpHを3.0に調整した。得られた反応物をフィルターでろ過し、水を加えて固形分40.0%に調整し、エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C-1)を得た。
【0112】
上記の方法により得られた、エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C-1)のSi原子1molに対するエポキシ基の含有量(mol)は、0.50molであった。
【0113】
<エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C-2)の合成>
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び空気導入口を備えた反応容器に、窒素雰囲気下で、Dynasylan(登録商標)GLYMOを100質量部装入した。次いで、水9.2質量部と、メタノール5.3質量部、炭酸水素ナトリウム0.01質量部の混合物を装入し、攪拌した。攪拌を続けながら、反応容器内の温度を70℃まで昇温し、更に2時間攪拌し、反応混合物を得た。
得られた反応混合物を60℃まで冷却し、0.1規定塩酸を加えてpHを5.6に調整した。pHを5.6に調整した反応混合物を10mbar以下の減圧下、100℃で1時間攪拌し、反応物を得た。得られた反応物をフィルターでろ過し、水を加えて固形分40.0%に調整し、エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C-2)を得た。
【0114】
上記の方法により得られた、エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C-2)のSi原子1molに対するエポキシ基の含有量(mol)は、0.95molであった。
【0115】
[水性塗料組成物の調製]
表1に示す各成分の詳細は下記の通りである。
【0116】
<ヒドロキシ基含有樹脂(A)>
・バーノック(登録商標)WD-566:ヒドロキシ基含有アクリル樹脂の水系ディスパージョン、固形分あたりの水酸基価100mgKOH/g、固形分43質量%、DIC株式会社製
・MACRYNAL(登録商標) VSM 6299w/42WAB:ヒドロキシ基含有アクリル樹脂の水系ディスパージョン、固形分あたりの水酸基価135mgKOH/g、固形分42%、ダイセル・オルネクス社製
【0117】
<イソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有するイソシアネート化合物(B)>
・Bayhydur(登録商標)3100:ポリイソシアネート、NCO量17.4%、コベストロ社製
・バーノック(登録商標)DNW-5500:ポリイソシアネート、NCO量13.5%、DIC株式会社製
【0118】
<エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)>
・上記[エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)の合成]で得られたエポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C-1)
・上記[エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)の合成]で得られたエポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C-2)
【0119】
<エポキシ基含有シラン化合物(D)>
・Dynasylan(登録商標)GLYMO:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、エボニック社製
【0120】
<その他の成分>
・消泡剤 BYK-025:ポリシロキサン系消泡剤、BYK社製
・表面調整剤 BYK-347:ポリエーテルシロキサン系界面活性剤、BYK社製
・溶剤 DPDM:ジプロピレングリコールジメチルエーテル、三協化学株式会社製
・水
・顔料 CR-95:二酸化チタン、石原産業株式会社製
【0121】
<水性塗料組成物の調製>
(実施例1)
表1に記載の成分名と配合量にしたがい、ヒドロキシ基含有樹脂(A)、溶剤、水および顔料を用意し、これらを混合して混合液を得た。
得られた混合液をチタニアビーズとともにポリエチレン容器に入れ、ペイントシェーカー(浅田鉄工株式会社製)で2時間シェイクし、その後チタニアビーズをろ過し、分散液を得た。
得られた分散液に、表1に記載の成分名と配合量にしたがい、イソシアネート化合物(B)、エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)、エポキシ基含有シラン化合物(D)、消泡剤および表面調整剤を加え、混合し、水性樹脂組成物を得た。
【0122】
(実施例2~9、比較例1~2)
表1に記載の各成分の配合量にしたがい、実施例1と同様にして水性樹脂組成物を得た。
【0123】
[試験用塗板の作製]
市販の冷延鋼板(日本テストパネル社製、SPCC-SD:幅75mm×長さ150mm×厚み0.8mm)を基材として、これに上記[水性塗料組成物の調製]で得られた水性樹脂組成物を、乾燥膜厚が約50μmとなるようにエアスプレーで塗装した。なお、エアスプレーでの塗装にあたって、水性樹脂組成物を適宜シンナーで希釈した。
塗装した基板を常温で7日間乾燥し、基板表面に塗膜が形成された試験用塗板を得た。
【0124】
[物性試験]
得られた試験用塗板を用い、以下の各試験を行った。
【0125】
<密着性>
上記[試験用塗板の作製]で得られた試験用塗板を用い、JIS K5600-5-6(1999)「塗膜の機械的性質-付着性(クロスカット法)」に基づき試験を行った。そして、基材に対する塗膜の密着性を、以下の評価基準に基づいて評価した。
結果を表1に示す。
【0126】
5:カットのふちが完全に滑らかで、どの格子の目にもハガレがない
4:カットの交差点における塗膜の小さなハガレがあり、剥離部分の面積が5%未満
3:剥離部分の面積が5%以上15%未満
2:剥離部分の面積が15%以上35%未満
1:剥離部分の面積が35%以上
【0127】
<耐温水性>
まず、上記[試験用塗板の作製]で得られた試験用塗板の塗膜に、カッターナイフの切り刃を30度に保持して、素地に達するよう2mm間隔の平行線を11本引き、それらの平行線に直交する2mm間隔の平行線を11本引いて、塗膜に100個の碁盤目を形成した。
この碁盤目が形成された試験用塗板を40℃の温水に240時間浸漬させた後の各試験用塗板を目視で観察し、ブリスター発生等の外観異常と塗膜の剥離について確認し、以下の基準に基づいて評価した。
結果を表1に示す。
【0128】
5:すべての碁盤目において剥離が無く、目視観察による外観異常も無い。
4:すべての碁盤目において剥離が無いが、ブリスター発生等の外観異常が有る。
3:50個未満の碁盤目において剥離が有る
2:50個以上の碁盤目において剥離が有る。
1:塗膜全体が基板から剥離している。
【0129】
<水性切削油への耐性>
水性切削油として、以下の4種を準備した。
・シンタイロ9954(カストロール社製)
・ユシローケン シンセティック#663(ユシロ化学工業株式会社製)
・ユシローケン EC50T3(ユシロ化学工業株式会社製)
・ブラソカット4000ストロング(ブラザー・スイスルーブ社製)
【0130】
上記の方法により碁盤目が形成された試験用塗板を得て、これを上記の各水溶性切削油の5%水溶液に、50℃、240h(10日間)の条件で浸漬した。
240時間経過後に試験板を各水溶液から取り出し、試験用塗板の外観異常の有無及び塗膜の剥離の有無について、目視で観察した。そして、ブリスター発生等の外観異常発生、または1個以上の碁盤目での剥離発生までにかかった時間により、以下の基準に基づいて評価した。
結果を表1に示す。
【0131】
5:240時間経過後において、外観異常、塗膜剥離ともに発生しない。
4:200時間以上240時間未満。
3:150時間以上200時間未満。
2:100時間以上150時間未満。
1:100時間未満。
【0132】
<油性切削油への耐性>
油性切削油として、以下を準備した。
・リライアカット TG30(ENEOS株式会社製)
【0133】
上記の方法により碁盤目が形成された試験用塗板を得て、これを上記の油性切削油に、50℃、240h(10日間)の条件で浸漬した。
240時間経過後に試験板を油性切削油から取り出し、試験用塗板の外観異常の有無及び塗膜の剥離の有無について、目視で観察した。そして、<水性切削油への耐性>の項目で記載した基準に基づいて評価した。
結果を表1に示す。
【0134】
<耐衝撃性>
温度23℃、相対湿度50%の条件下、デュポン式耐衝撃試験機を使用して評価した。
具体的には、上記の方法により得られた試験用塗板の塗膜面に対し、おもり重量500g、撃ち型の尖端直径1/2インチ、落下高度10~50cmの条件で衝撃試験を行い、塗膜が割れない最大の高さ(cm)を測定した。
結果を表1に示す。
【0135】
<耐屈曲性>
JIS K5600-5-1(1999)「塗膜の機械的性質-耐屈曲性(円筒形マンドレル法)」に準拠した屈曲試験を行って、上記<塗膜の形成>で得られた各試験板を変形させた。試験後の塗膜状態について目視観察を行い、以下の基準で評価した。なお、試験はタイプ1の試験装置で、直径3mmの円筒形マンドレルを使用して行った。
結果を表1に示す。
【0136】
4:塗膜に割れが無い
3:塗膜に極僅かな亀裂が入るものの、塗膜剥離はなし
2:塗膜に亀裂が入るものの、塗膜剥離はなし
1:亀裂が入り、塗膜剥離が起きる
【0137】
【表1】
【0138】
表1に示されるとおり、本実施形態の水性塗料組成物から形成された塗膜(実施例1~9)は、エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)を含有しない水性塗料組成物から形成された比較例1の塗膜、エポキシ基含有シラン化合物(D)を含有しない水性塗料組成物から形成された比較例2の塗膜に比べ、切削油への耐性が優れていた。すなわち、本実施形態の水性塗料組成物によれば、切削油への耐性が改善した塗膜を形成できることが示された。
【0139】
また、実施例2と9の対比から、エポキシ基含有シラン化合物の重縮合物(C)のSi原子1molに対するエポキシ基の含有量がある程度少ないほうが、水性塗料組成物から形成される塗膜の耐屈曲性および耐切削油性が良好となる傾向にあることが読み取れる。