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  • 特開-路面標示組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183766
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】路面標示組成物
(51)【国際特許分類】
   E01F 9/518 20160101AFI20231221BHJP
   E01F 9/524 20160101ALI20231221BHJP
   E01F 9/576 20160101ALI20231221BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20231221BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20231221BHJP
【FI】
E01F9/518
E01F9/524
E01F9/576
C09D201/00
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097453
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000159021
【氏名又は名称】株式会社キクテック
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188765
【弁理士】
【氏名又は名称】赤座 泰輔
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 敏之
(72)【発明者】
【氏名】松尾 明人
(72)【発明者】
【氏名】寺倉 嘉宏
【テーマコード(参考)】
2D064
4J038
【Fターム(参考)】
2D064AA05
2D064AA22
2D064BA06
2D064BA11
2D064CA03
2D064CA09
2D064EA01
2D064EB26
2D064JA01
4J038BA212
4J038BA221
4J038BA222
4J038BA231
4J038NA27
4J038PB05
(57)【要約】
【課題】石油に対する依存度を少なくすることができる路面標示組成物を提供すること。
【解決手段】路面標示組成物は、結合材、可塑剤、体質材、顔料及びガラスビーズを含有し、溶融させて施工する路面標示組成物である。路面標示組成物は、結合材に、テルペン樹脂、ロジン樹脂、乳酸樹脂又はこれら誘導体、の少なくとも何れか1つを含有し、可塑剤に、植物油及び/又は植物油誘導体、を含有し、石油に対する依存度を少なくすることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合材、可塑剤、体質材、顔料及びガラスビーズを含有し、溶融させて施工する路面標示組成物であって、
該結合材が、テルペン樹脂、ロジン樹脂、乳酸樹脂又はこれらの誘導体、の少なくとも何れか1つを含有し、
該可塑剤が、植物油及び/又は植物油誘導体、を含有することを特徴とする路面標示組成物。
【請求項2】
前記結合材が、テルペン樹脂、ロジン樹脂又はこれらの誘導体、の少なくとも何れか1つを含有することを特徴とする請求項1に記載の路面標示組成物。
【請求項3】
前記可塑剤が前記植物油誘導体を含有し、該植物油誘導体がエポキシ化植物油及び/又は植物油変性アルキドであることを特徴とする請求項1に記載の路面標示組成物。
【請求項4】
植物系ワックス及び/又は動物系ワックスを含有することを特徴とする請求項1に記載の路面標示組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の技術分野は、道路、滑走路、駐車(機)場などの路面に塗装して車両、機体および歩行者の進路や停止線などを明示する路面標示を形成する路面標示組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
路面に塗装して車両などの進路や停止線などを明示する路面標示を形成する路面標示組成物として、特許文献1には、熱可塑性結合材、体質材、可塑剤及びガラスビーズを含有する路面標示組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-326993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載された路面標示組成物は、熱可塑性結合材に石油由来の結合材が使用されているため、石油に対する依存度が大きく、将来的に使用することができなくなるおそれがあるという課題があった。
【0005】
本明細書の技術が解決しようとする課題は、上述の点に鑑みてなされたものであり、石油に対する依存度を少なくすることができる路面標示組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書の実施形態に係る路面標示組成物は、結合材、可塑剤、体質材、顔料及びガラスビーズを含有し、溶融させて施工する路面標示組成物であって、
該結合材が、テルペン樹脂、ロジン樹脂、乳酸樹脂又はこれらの誘導体、の少なくとも何れか1つを含有し、
該可塑剤が、植物油及び/又は植物油誘導体、を含有することを特徴とする。
【0007】
本明細書の実施形態に係る路面標示組成物によれば、結合材が、石油由来ではない生物由来の樹脂である、テルペン樹脂、ロジン樹脂、乳酸樹脂又はこれら誘導体、の少なくとも何れか1つを含有し、可塑剤が、植物油及び/又は植物油誘導体、を含有しているため、石油に対する依存度を少なくすることができる。
【0008】
ここで、上記路面標示組成物において、前記結合材が、テルペン樹脂、ロジン樹脂又はこれらの誘導体、の少なくとも何れか1つを含有するものとすることができる。
【0009】
これによれば、路面標示組成物から形成された路面標示は、耐油性を高めることができる。
【0010】
また、上記路面標示組成物において、前記可塑剤が前記植物油誘導体を含有し、該植物油誘導体がエポキシ化植物油及び/又は植物油変性アルキドであるものとすることができる。
【0011】
これによれば、路面標示組成物は、エポキシ化植物油や植物油変性アルキドが酸化の抑制されたものであるため、保存性を高めることができる。
【0012】
また、上記路面標示組成物において、植物系ワックス及び/又は動物系ワックスを含有するものとすることができる。
【0013】
これによれば、路面標示組成物から形成された路面標示は、耐汚染性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本明細書の実施形態に係る路面標示組成物によれば、石油に対する依存度を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本明細書の実施形態に係る路面標示組成物の施工を示すモデル断面図(A)、そのモデル斜視図(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本明細書の実施形態に係る路面標示組成物について説明する。なお、本発明の範囲は、実施形態で開示される範囲に限定されるものではない。実施形態の路面標示組成物は、路面標示用塗料( JIS K 5665:2018 )に規定される3種(1号、2号、3号)の、溶融させて施工する粉体状塗料である。なお、1号、2号、3号の違いは、塗料中におけるガラスビーズの含有量の違いである。
【0017】
本明細書において、路面標示組成物の配合量や配合比を表す際は、特に断らない限り、質量単位であり、揮発分を含む粉体状の塗料状態で表すものとする。また、配合単位を示す「%」は、特に断らない限り、「質量%」を意味するものとする。
【0018】
ガラス転移温度(Tg)(℃)は、動的粘弾性法( Dynamic Viscoelasticity )で測定したものとする。また、塗料粘度(dPas)は、塗料組成物を230℃で溶融させて調製した組成物試料を、230℃以上に保温した専用容器(深さ:120mm、直径:80mm)に8分目程度まで入れ、粘度計(ビスコテスタ「VT-04F」リオン株式会社製)のローターを浸して、かき混ぜながら200℃まで自然放冷させ、200℃で測定したものとする。
【0019】
実施形態に係る路面標示組成物は、結合材、可塑剤、体質材、顔料及びガラスビーズなどの原材料を含有し、溶融させて適正粘度の流動性を持たせて路面に施工するものである。
【0020】
結合材とは、これら原材料を結合させるとともに、被塗装面である路面に密着させる樹脂である。路面標示組成物は、路面に施工され、路面標示として使用された際に、路面から剥がれにくいこと、つまり、高い密着性が要求され、また、車両のタイヤに幾度となく踏まれても摩耗しにくいこと、つまり、高い耐久性が要求される。このため、結合材には、密着性と耐久性に優れる石油由来の合成樹脂が使用され続けてきた。実施形態に係る路面標示組成物は、結合材が、生物由来(バイオマス由来)の、テルペン樹脂、ロジン樹脂、乳酸樹脂又はこれら誘導体、の少なくとも何れか1つを含有し、可塑剤が、生物由来の、植物油及び/又は植物油誘導体、を含有することによって、石油に対する依存度を少なくすることができるとともに、密着性と耐久性に優れることを見いだしたものである。また、結合材が、テルペン樹脂、ロジン樹脂又はこれら誘導体、の少なくとも何れか1つを含有するものであることによって、路面標示組成物から形成された路面標示は、耐油性を高めることができることを見いだしたものである。
【0021】
テルペン樹脂とは、テルペン系単量体を含む原料を重合して得られるオリゴマー、ポリマーである。テルペンは、植物又は動物の体内で作られる生物由来の物質であり、主に、マツ科の樹液やミカン科の果実から採取することができる。テルペンは、一般的に、イソプレン(C58)の重合体であり、モノテルペン(C1016)、セスキテルペン(C1524)、ジテルペン(C2032)などの基本骨格が存在する。これらを基本骨格とする単量体がテルペン系単量体であり、例えば、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α-フェランドレイン、α-テルピネン、γ-テルピネン、テルピノーレン、1,8-シネオール、1,4-シネオール、α-テルピンネオール、β-テルピンネオール、γ-テルピンネオール、サビネン、パラメンタジエン類、カレン類等が存在する。また、テルペン誘導体には、テルペン系単量体と共重合可能な他の単量体、例えばベンゾフラン(C86O)等のクマロン系単量体;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルトルエン、2-フェニル-2-ブテン等のビニル芳香族化合物;フェノール、クレゾール、キシレノール、プロピルフェノール、ノリルフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、メトキシフェノール、ブロモフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール系単量体を含有するものがある。
【0022】
テルペン樹脂は、市販品も使用することができ、市販品として、テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル株式会社製)、タマノルシリーズ(荒川化学工業株式会社製)などを使用することができる。
【0023】
ロジン樹脂とは、ロジン酸を含む原料を重合して得られるオリゴマー、ポリマーである。ロジン酸は、植物内で作られる生物由来の物質であり、主に、マツ科の樹液から採取することができる。ロジン酸として、例えば、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、パラストリン酸、ピマール酸、イソピマール酸、サンダラコピマール酸、レボピマール酸、デヒドロアビエチン酸などの基本骨格が存在する。ロジン酸は、変性、重合させることにより、ロジン樹脂とし、ロジン樹脂の種類としては、ロジンエステル、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、重合ロジン樹脂などを使用することができる。
【0024】
ロジン樹脂は、市販品も使用することができ、市販品として、ロジン樹脂、ロジン誘導体(ロジンエステル、ロジンフェノール、不均化ロジンエステル)(荒川化学工業株式会社製)、ロジン樹脂、ロジン誘導体(ロジンエステル、ロジンフェノール、不均化ロジンエステル)(ハリマ化成グループ株式会社製)、タマノルシリーズ(荒川化学工業株式会社製)、ORシリーズ(星光PMC株式会社製)などを使用することができる。
【0025】
乳酸樹脂とは、L-乳酸及び/又はD-乳酸を主たる構成成分とし、エステル結合によって重合した樹脂である。乳酸樹脂は、乳酸以外に他の共重合成分を含有することができ、他の共重合成分として、エチレングリコール、ブロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p-カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、およびカプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5-オキセパン-2-オンなどのラクトン類などを使用することができる。
【0026】
乳酸樹脂は、市販品も使用することができ、市販品として、REVODEシリーズ(神戸精化株式会社製)、ラクリエFCシリーズ(富士ケミカル株式会社製)、テラマック(ユニチカ株式会社製)、バイオデグマー(株式会社ビーエムジー製)などを使用することができる。
【0027】
なお、従来から路面標示組成物に使用されている石油由来の結合材は、例えば、脂肪族系石油樹脂、ポリブテン等の石油系炭化水素系樹脂、クマロン・インデン樹脂等のクマロン系樹脂、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂等のフェノール系樹脂、芳香族系炭化水素樹脂、不飽和炭化水素重合体、イソプレン系樹脂、水素添加炭化水素樹脂、炭化水素系粘着化樹脂等が使用可能である。
【0028】
路面標示組成物における結合材の含有率は、10~25質量%とすることができる。作業性に優れ、正常な塗膜(路面標示)を得ることができるためである。路面標示組成物における結合材の含有率が10質量%未満である場合には、塗装温度(200℃)における粘度が高く、良好な作業性が得られないおそれがある。一方、含有率が25質量%を超える場合には、結合材が過剰な量となり、不経済となるおそれがあるとともに、路面標示組成物を路面に施工して形成された路面標示が、粘着性を有し、路面を走行する車両等のタイヤに密着して、路面標示が路面から剥がれるおそれがある。別の実施形態として、路面標示組成物における結合材の含有率は、12~23質量%とすることができ、さらに別の実施形態として、13~20質量%とすることができる。
【0029】
可塑剤とは、結合材に、柔軟性、たわみ性などの塑性を与える有機材料である。路面標示組成物の結合材に、柔軟性、たわみ性などの塑性が与えられることによって、路面標示組成物は、路面に施工され、路面標示として使用された際に、路面標示の割れや剥がれを抑制することができる。可塑剤は、結合材の樹脂の間に浸透して、樹脂の分子間力を弱め、樹脂鎖を動きやすくさせることによって、樹脂のガラス転移温度(Tg)を低下させ、結合材に、柔軟性、たわみ性などの塑性を与える。このため、可塑剤には、樹脂との相溶性が良いこと、揮発性が小さいことが要求される。このため、可塑剤には、これら特性に優れる石油由来の合成樹脂が従来から使用され続けてきた。実施形態に係る路面標示組成物は、可塑剤が、植物油及び/又は植物油誘導体であることによって、樹脂との相溶性が良いこと、揮発性が小さいことを見いだしたものである。
【0030】
可塑剤に使用される植物油としては、大豆油、亜麻仁油、パーム油、トール油(パルプ製造の際の副産物の油)、荏胡麻油、オリーブ油、グレープ油、コーン油、ココナッツ油、胡麻油、米油、菜種油、向日葵油、紅花油、綿実油、落花生油などを使用することができる。これらの中でも、可塑性に優れる、大豆油、亜麻仁油、パーム油、トール油を使用することができる。
【0031】
これら可塑剤としての植物油は、酸化しやすいため、これら植物油をエポキシ化やアルキド変性化させた植物油誘導体とし、酸化をし難くして、使用することができる。エポキシ化やアルキド変性化された植物油誘導体の市販品として、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油(新日本理化株式会社製)、植物油変性アルキド樹脂(荒川化学工業株式会社製)などを可塑剤として使用することができる。
【0032】
なお、従来から、石油由来の結合材が使用された路面標示組成物に使用されている可塑剤として、例えば、鉱物油、エポキシ系、フタル酸系、アジピン酸系、リン酸系などがある。鉱物油としては、例えば、ナフテン系、パラフィン系、オレフィン系のものが使用されている。これらは、石油由来の可塑剤である。
【0033】
路面標示組成物における可塑剤の含有率は、0.3~5質量%とすることができる。塗膜(路面標示)に、柔軟性、たわみ性などの塑性を与えることができるためである。路面標示組成物における可塑剤の含有率が0.3質量%未満である場合には、塗膜に十分な塑性を与えることができないおそれがある。一方、可塑剤の含有率が5質量%を超える場合には、可塑剤によって塗膜に汚れが付きやすくなり、耐汚染性が劣るおそれがあるあるとともに、路面標示組成物を路面に施工して形成された路面標示が、粘着性を有し、路面を走行する車両等のタイヤに密着して、路面標示が路面から剥がれるおそれがある。別の実施形態として、路面標示組成物における可塑剤の含有率は、0.5~3質量%とすることができ、さらに別の実施形態として、0.7~2.5質量%とすることができる。
【0034】
体質材とは、微細な粒子であり、路面標示組成物として高価な結合材の配合量を減少させるとともに、粒子の粒度分布の組み合わせにより、路面標示組成物の施工の際の作業性を改善するものである。また、体質材は、路面標示組成物が施工され路面標示として使用される際に、強度を付与するとともに、耐摩耗性を向上させるものである。体質材としては、炭酸カルシウム、珪砂、砕石粉、セルベン(衛生陶器粉砕物)、タルク、クレー、高炉スラグ、硫酸バリウムなどを使用することができる。
【0035】
路面標示組成物における体質材の含有率は、5~75質量%とすることができる。路面標示組成物から形成される路面標示をきれいな塗膜とすることができ、かつ、塗膜に十分な塑性を与えることができるためである。路面標示組成物における体質材の含有率が5質量%未満である場合には、相対的に結合材が過剰な量となり、不経済となるおそれがあるとともに、路面標示組成物を路面に施工して形成された路面標示が、粘着性を有し、路面を走行する車両等のタイヤに密着して、路面標示が路面から剥がれるおそれがある。一方、含有率が75質量%を超えると、結合材が過少となり、塗膜に、柔軟性、たわみ性などの塑性を与えることができないおそれがある。別の実施形態として、路面標示組成物における体質材の含有率は、10~70質量%とすることができ、さらに別の実施形態として、15~65質量%とすることができる。
【0036】
顔料とは、特定の波長の光を反射する材料であり、路面標示組成物から形成される路面標示に色彩を与えるとともに隠ぺい性を付与する原材料である。路面標示組成物に使用する顔料は、付与する色彩に応じた汎用の顔料を使用することができる。顔料の例として、白;酸化チタン、亜鉛華、黒;カーボンブラック、赤;ベンガラ、キナクリドン、青;コバルトブルー、フタロシアニンブルー、黄;ニッケルチタンイエロー、モノアゾイエロー、などを使用することができる。
【0037】
路面標示組成物における顔料の含有率は、0.5~15質量%とすることができる。路面標示組成物から形成される塗膜(路面標示)に、十分な着色力と隠ぺい力を与えることができるためである。路面標示組成物における顔料の含有率が0.5質量%未満である場合には、着色力と隠ぺい力が十分とならないおそれがあるばかりか、塗膜の耐候性が劣るおそれがある。一方、顔料の含有率が15質量%を超えると、着色力と隠ぺい力に大差はなく、不経済となるおそれがある。別の実施形態として、路面標示組成物における顔料の含有率は、1~10質量%とすることができ、さらに別の実施形態として、1.5~5質量%とすることができる。
【0038】
ガラスビーズとは、光透過性のあるガラスからなるビーズであり、路面標示組成物から形成される路面標示に含有されることにより、車両の前照灯の再帰反射効果が得られ、車両からの視認性を向上させることができるものである。ガラスビーズは、路面標示塗料用ガラスビーズ( JIS R 3301:2014 )に規定されるガラスビーズやこれと同等のガラスビーズを使用することができる。
【0039】
路面標示組成物におけるガラスビーズの含有率は、10~60質量%とすることができる。車両の前照灯の再帰反射効果が得られ、車両からの視認性を向上させることができるためである。路面標示組成物におけるガラスビーズの含有率が10質量%未満である場合には、再帰反射効果が十分に得られないおそれがある。一方、60質量%を超えると、結合材が過少となり、塗膜に、柔軟性、たわみ性などの塑性を与えることができないおそれがあるとともに、塗装された路面標示が摩耗した際に、表出したガラスビーズによって、車両のタイヤが滑りやすくなるおそれがある。別の実施形態として、路面標示組成物におけるガラスビーズの含有率は、15~55質量%とすることができる。なお、路面標示用塗料( JIS K 5665:2018 )の3種では、路面標示組成物におけるガラスビーズの含有率は、1号では15~18質量%、2号では20~23質量%、3号では25質量%以上と規定されている。
【0040】
路面標示組成物には、その他添加剤として、適宜、天然ワックス、沈降防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、流動性付与材などを配合することができる。
【0041】
天然ワックスとは、天然に産出されるワックスであり、路面標示組成物に添加され、施工された路面標示組成物からなる路面標示の表面に表出することにより、路面標示の表面の汚れの付着を抑制するものである。天然ワックスとしては、みつろう、ミンクオイル、吸着精製ラノリン、鯨ろうなどの動物系ワックス、カルナバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、木ろう、ホホバワックスなどの植物系ワックス、また、さとうきびなどを原料にして製造したエタノールから作られる植物由来のバイオポリエチレンワックスなどを使用することができる。
【0042】
路面標示組成物における天然ワックスの含有率は、0.1~5質量%とすることができる。路面標示の表面の汚れの付着を好適に抑制することができるためである。路面標示組成物における天然ワックスの含有率が0.1質量%未満である場合には、路面標示の表面の汚れの付着を好適に抑制することができないおそれがある。一方、5質量%を超えると、汚れの付着の抑制の効果に大差はなく、不経済となるおそれがある。別の実施形態として、汚れ防止剤の含有率は、0.2~2.5質量%とすることができ、さらに別の実施形態として、0.3~2.0質量%とすることができる。
【0043】
実施形態の路面標示組成物は、これら原材料を含有率に合わせた配合量で混合させることによって、路面標示組成物とすることができる。混合機は、パドルミキサ、ナウターミキサ、リボン混合機、円錐スクリュ型混合機、ヘンシェル型混合機などの汎用の混合機を使用することができる。
【0044】
次に、路面標示組成物の塗装方法について説明する。路面標示組成物の塗装に使用する溶融塗装機(スリッタ)は、汎用の溶融塗装機であれば使用することができ、例えば、図1に示す溶融塗装機29を使用することができる。
【0045】
図1に示す溶融塗装機29は、塗料供給口35を備え、該塗料供給口35は元側水平部と先側水平部との間が傾斜部で連結され、水平移動する水平シャッター37を備えている。水平シャッター37は、前進して先側水平部をアプリケータ33に当接させることにより(二点鎖線位置)、塗料供給口35を閉じるようになっている。塗料充填容器31には、塗料を保温溶融可能な加熱手段(例えば、ガスバーナ、電熱ヒータなど)が付設されている。
【0046】
塗料の加熱温度(保温設定温度)は、塗布中の塗料の固化を防ぐため、塗料が溶融する温度より高めの温度(例えば、軟化点が110℃の塗料に対して、180~ 220℃の温度)の範囲で適宜設定する。溶融塗装機29は、アプリケータ33と路面Rとの間に隙間(スリット)sを有した状態で使用する。このときの隙間sは、設定膜厚(通常、1~3mm)と同一とする。こうして、路面Rに路面標示が形成される。
【実施例0047】
実施形態の路面標示組成物は、組成の異なる路面標示組成物について、以下に記載する品質試験を行ない、その評価を行なった。
【0048】
密度(23℃)(g/cm3
密度は、JIS K 5665:2018(路面標示用塗料)8.6 密度に準拠して測定した。そして、密度が2.0~2.3 g/cm3であるものを○、2.0 g/cm3未満又は2.3 g/cm3を超えるものを×、として評価した。
【0049】
軟化点(℃)
軟化点は、JIS K 5665:2018(路面標示用塗料)8.9 軟化点に準拠して測定した。そして、軟化点が80~120℃であるものを○、120℃を超えて200℃以下であるものを△、80℃未満又は200℃を超えるものを×、として評価した。
【0050】
拡散反射率(%)
拡散反射率は、JIS K 5665:2018(路面標示用塗料)8.15 拡散反射率に準拠して測定した。そして、拡散反射率が75%以上であるものを○、75%未満であるものを×、として評価した。
【0051】
黄色度
黄色度は、JIS K 5665:2018(路面標示用塗料)8.17 黄色度に準拠して測定した。そして、黄色度が0~0.10であるものを○、0.10を超えるものを×、として評価した。
【0052】
圧縮強さ(23℃)(kN/cm2
圧縮強さは、JIS K 5665:2018(路面標示用塗料)8.19 圧縮強さに準拠して測定した。そして、圧縮強さが0.802 kN/cm2以上であるものを○、0.802 kN/cm2未満であるものを×、として評価した。
【0053】
屋外暴露耐候性
屋外暴露耐候性は、JIS K 5665:2018(路面標示用塗料)8.26 屋外暴露耐候性に準拠して測定した。そして、屋外暴露耐候性が12か月後に割れ、剥がれ及び色の変化の程度が大きくないものを○、6か月後に割れ、剥がれ及び色の変化の程度が大きくなく、12か月後に割れ、剥がれ及び色の変化の程度が大きいものを△、6か月後に割れ、剥がれ及び色の変化の程度が大きいものを×、として評価した。
【0054】
石油依存度
石油依存度は、路面標示組成物の石油由来の原材料の含有率が1質量%未満であるものを○、石油由来の原材料の含有率が1~10質量%であるものを△、石油由来の原材料の含有率が10質量%を超えるものを×、として評価した。
【0055】
実施例に使用した原材料の詳細を以下に記載する。
【0056】
テルペン樹脂A…テルペン樹脂(YSレジン)
テルペン樹脂B…芳香族変性テルペン樹脂
ロジン樹脂A…ロジン誘導体A
ロジン樹脂B…ロジン誘導体B
乳酸樹脂…乳酸樹脂
脂肪族系石油樹脂…C5系石油樹脂
可塑剤A…エポキシ化大豆油
可塑剤B…植物油変性アルキド
可塑剤C…フタル酸系可塑剤
酸化チタン…アナターゼ型酸化チタン(平均粒子径(メジアン径d50):0.25μm)
炭酸カルシウム…重質炭酸カルシウム(平均粒子径:20μm)と粒状大理石(粒子径:0.1~0.5mm)を50/50で混合したもの
ガラスビーズ…路面標示塗料用ガラスビーズ( JIS R 3301:2014 準拠品)
天然ワックスA…植物系ワックス
天然ワックスB…バイオポリエチレンワックス
天然ワックスC…動物系ワックス
その他添加剤…沈降防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤など
これらは全て市販品である。なお、脂肪族系石油樹脂、可塑剤C及びその他添加剤の一部は、石油由来の原材料である。
【0057】
路面標示組成物の試験例を表1~表3に記載する。試験例1~5及び試験例7~14が実施例であり、試験例6が比較例である。なお、表中、石油由来の原材料に、※印を付した。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
(試験例1~6)
試験例1~6は、結合材の種類と可塑剤の種類を変更した試験例である。試験例1は、結合材にテルペン樹脂Aを用い、可塑剤にエポキシ化大豆油を用いたものである。試験例1の評価は、密度が2.0~2.3 g/cm3の範囲にあり、軟化点が80~120℃の範囲にあり、拡散反射率が75%以上、黄色度が0~0.10の範囲にあり、圧縮強さが0.802 kN/cm2以上、屋外暴露耐候性が12か月後に割れ、剥がれ及び色の変化の程度が大きくないものであり、評価が優れるものであった。また、試験例1の路面標示組成物の石油由来の原材料の含有率は、1質量%未満であり、石油に対する依存度を少なくすることができた。
【0061】
試験例2は、結合材にテルペン樹脂Bを用い、可塑剤に植物油変性アルキドを用いたものである。試験例3は、結合材にロジン誘導体Aを用い、可塑剤に植物油変性アルキドを用いたものである。試験例4は、結合材にロジン誘導体Bを用い、可塑剤にエポキシ化大豆油を用いたものである。試験例2~試験例4の評価は、試験例1同様に優れるものであり、かつ、石油に対する依存度を少なくすることができた。
【0062】
試験例5は、結合材に乳酸樹脂を用い、可塑剤にエポキシ化大豆油を用いたものである。試験例5の評価は、屋外暴露耐候性が、6か月後に割れ、剥がれ及び色の変化の程度が大きくないものの、12か月後に割れ、剥がれ及び色の変化の程度が大きく、耐候性に劣るものであった。乳酸樹脂が耐水性に劣るのが原因と推測される。試験例5のその他の評価は、試験例1同様に優れるものであり、かつ、石油に対する依存度を少なくすることができた。
【0063】
試験例6は、結合材に石油由来のC5系石油樹脂を用い、可塑剤に石油由来のパラフィン系可塑剤を用いたものである。試験例6の評価は、試験例1同様に優れるものであるが、従来の石油由来の路面標示組成物であるため、石油に対する依存度が大きいものであった。
【0064】
(試験例7~11)
試験例7~11は、結合材にテルペン樹脂とロジンエステル樹脂を、それぞれ単独と組み合わせて用いて、かつ、天然ワックスを添加した試験例である。テルペン樹脂とロジンエステル樹脂をそれぞれ単独と組み合わせた試験例7~11の評価は、試験例1同様に優れるものであり、かつ、石油に対する依存度を少なくすることができた。なお、試験項目にはないが、試験例7~11は、試験例1と比較して、路面標示の表面の汚れの付着が抑制されたものであった。試験例7~11に添加された天然ワックスが、施工された路面標示組成物からなる路面標示の表面に表出することにより、路面標示の表面の汚れの付着が抑制されたものと推測される。
【0065】
(試験例12~14)
試験例12~14は、従来の石油由来の結合材のC5系石油樹脂を、テルペン樹脂とロジンエステル樹脂の組み合わせに置き換えた試験例であり、従来の主流の石油樹脂から、段階的に生物由来の樹脂への置き換えが可能であるかを確認したものである。試験例12~14の評価は、試験例1同様に優れるものであり、生物由来の樹脂への段階的な置き換えが可能であることが確認できた。
【0066】
なお、実施形態の路面標示組成物は、その構成を以下のような形態に変更しても実施することができる。
【0067】
実施形態の路面標示組成物では、結合材、可塑剤、体質材、顔料及びガラスビーズを含有するものとしたが、路面標示組成物は、結合材、可塑剤、体質材及び顔料を含有し、ガラスビーズを含有しないものとすることができる。これによれば、路面標示組成物は、溶融の際に、必要量のガラスビーズが添加されることにより、路面標示組成物におけるガラスビーズの含有率を自由に設定することができる。
【0068】
実施形態の路面標示組成物は、路面に塗装して車両などの進路や停止線などを明示する路面標示を形成する路面標示組成物としたが、もちろん、視線誘導などを目的とした、カラー路面標示を形成する路面標示組成物とすることもできるものである。
【符号の説明】
【0069】
29 溶融塗装機
31 塗料充填容器
33 アプリケータ
35 塗料供給口
37 水平シャッター
R 路面
s 隙間
図1