(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183778
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】等速自在継手用ブーツ、等速自在継手、及び等速自在継手用ブーツの製造方法
(51)【国際特許分類】
F16D 3/84 20060101AFI20231221BHJP
F16D 3/223 20110101ALI20231221BHJP
F16J 3/04 20060101ALI20231221BHJP
F16J 15/52 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
F16D3/84 R
F16D3/84 J
F16D3/84 W
F16D3/223
F16J3/04 D
F16J15/52 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097476
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100148987
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 礼子
(72)【発明者】
【氏名】小原 美香
【テーマコード(参考)】
3J043
3J045
【Fターム(参考)】
3J043AA03
3J043CB13
3J043DA10
3J043DA11
3J043FA04
3J043FA07
3J043FB04
3J045AA14
3J045BA02
3J045CB07
3J045CB16
3J045EA03
(57)【要約】
【課題】等速自在継手のアッシー組立てから車両に取り付けるまでの間、部品点数を増やさず低コストにボール脱落防止機能を有する等速自在継手用ブーツ、等速自在継手、及び等速自在継手用ブーツの製造方法を提供する。
【解決手段】等速自在継手の外側継手部材の外周面に装着される大径取付部と、等速自在継手の内側継手部材に連結された動力伝達軸の外周に装着される小径取付部と、大径取付部と小径取付部との間に設けられ、軸方向に交互に形成された複数の山部と谷部とからなる蛇腹部とを有するエラストマー製のブーツ本体を備えた等速自在継手用ブーツである。周方向に肉厚の円環部が、大径取付部に最も近い大径端谷部に接触して設けられ、円環部が大径端谷部を支持する谷部支持構造である。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
等速自在継手の外側継手部材の外周面に装着される大径取付部と、前記等速自在継手の内側継手部材に連結された動力伝達軸の外周に装着される小径取付部と、前記大径取付部と前記小径取付部との間に設けられ、軸方向に交互に形成された複数の山部と谷部とからなる蛇腹部とを有するエラストマー製のブーツ本体を備えた等速自在継手用ブーツにおいて、
周方向に肉厚の円環部が、前記大径取付部に最も近い大径端谷部に接触して設けられ、前記円環部が前記大径端谷部を支持する谷部支持構造であることを特徴とする等速自在継手用ブーツ。
【請求項2】
前記ブーツ本体は、熱可塑性ポリエステルエラストマーであることを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手用ブーツ。
【請求項3】
前記円環部の材料が、前記ブーツ本体と同じ材料であることを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手用ブーツ。
【請求項4】
前記円環部は、前記ブーツ本体よりも高い弾性率を有するエラストマー又はプラストマーであることを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手用ブーツ。
【請求項5】
前記ブーツ本体と前記円環部とが一体化されていることを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手用ブーツ。
【請求項6】
前記請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の等速自在継手用ブーツを装着したことを特徴とする等速自在継手。
【請求項7】
前記請求項1に記載の等速自在継手用ブーツの製造方法であって、
エラストマー製のブーツ本体を一次成形し、
前記ブーツ本体を、外金型により外側から保持するとともに、内側からコア金型にて保持して、前記コア金型と前記ブーツ本体の大径端谷部との間に二次成形空間を形成し、
前記二次成形空間に、ランナ機構を介して溶融材料を射出充填し、前記ブーツ本体の大径取付部と大径端谷部との間に、周方向に一定の肉厚となる円環部を二次成形することを特徴とする等速自在継手用ブーツの製造方法。
【請求項8】
前記ブーツ本体の蛇腹部内径面及び大径取付部に前記コア金型が接触して、コア金型の内部に前記ランナ機構が設けられていることを特徴とする請求項7に記載の等速自在継手用ブーツの製造方法。
【請求項9】
前記ブーツ本体の蛇腹部内径面のうち、前記大径端谷部の内径面に前記コア金型が接触することを特徴とする請求項8に記載の等速自在継手用ブーツの製造方法。
【請求項10】
前記ブーツ本体の蛇腹部内径面のうち、前記大径端谷部の谷底から大径取付部までの傾斜面に前記コア金型が接触することを特徴とする請求項8に記載の等速自在継手用ブーツの製造方法。
【請求項11】
前記請求項1に記載の等速自在継手用ブーツの製造方法であって、
エラストマー製のブーツ本体を一次成形し、
前記ブーツ本体を、固定側外金型とブーツ軸方向に移動する可動側外金型とを有する外金型により外側から保持するとともに、内側からコア金型にて保持して、前記外金型と前記ブーツ本体の大径端谷部との間に二次成形空間を形成し、
前記二次成形空間に、ランナ機構を介して溶融材料を射出充填し、前記ブーツ本体の大径端谷部に、周方向に一定の肉厚となる円環部を二次成形することを特徴とする等速自在継手用ブーツの製造方法。
【請求項12】
前記固定側外金型と前記可動側外金型との合わせ目が、前記大径端谷部と小径取付部側で隣接する山部の頂点より大径取付部側にあり、前記山部の頂点は、大径側取付部と蛇腹部との間の肩部の径以下であることを特徴とする請求項11に記載のブーツ製造方法。
【請求項13】
前記請求項1に記載の等速自在継手用ブーツの製造方法であって、
エラストマー製のブーツ本体を一次成形し、
前記ブーツ本体を、固定側外金型とブーツ径方向に移動する可動側外金型とを有する外金型により外側から保持するとともに、内側からブーツ本体の軸方向に移動可能なコア金型にて保持して、前記外金型と前記ブーツ本体の大径端谷部との間に二次成形空間を形成し、
前記二次成形空間に、ランナ機構を介して溶融材料を射出充填し、前記ブーツ本体の大径端谷部に、周方向に一定の肉厚となる円環部を二次成形することを特徴とする等速自在継手用ブーツの製造方法。
【請求項14】
前記固定側外金型の内部に前記ランナ機構が設けられていることを特徴とする請求項11から請求項13のいずれか1項に記載の等速自在継手用ブーツの製造方法。
【請求項15】
前記外金型の内側形状が、一次成形されたブーツ本体の蛇腹形状と同一であることを特徴とする請求項7から請求項13のいずれか1項に記載のブーツ製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速自在継手用ブーツ、等速自在継手、及び等速自在継手用ブーツの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固定式等速自在継手として、BJ、UJタイプの等速自在継手が知られている。また、近年においては、軽量、コンパクトな固定式等速自在継手として、8個のボールを備えたものもある。これらの等速自在継手は、最大作動角45deg.以上取ることができ、主に自動車フロント用ドライブシャフトのタイヤ側に適用される。また、これらの等速自在継手は、自動車リア用ドライブシャフトのタイヤ側や、自動車用のプロペラシャフトにも適用される場合もある。
【0003】
これらの等速自在継手をリア用やプロペラシャフト用に適用する場合、最大作動角は、フロント用に適用するときのように45deg.以上をとる必要は無く、リア用であれば30deg.以下、プロペラシャフトであれば10deg.以下である。外輪のカップ長さは、最大作動角に応じた角度に必要な長さで良いため、リア用やプロペラシャフト用に使用する外輪のカップ長さは、軽量化、コスト低減のため、フロント用に使用する外輪よりも短く設定することがある。しかしながら、この場合、等速自在継手を搬送する際や、車両に等速自在継手を組み付ける際、
図12に示すように、等速自在継手が角度をとりすぎて、ボールが脱落する恐れがあり、これを防止する手段を付与する必要がある。
【0004】
通常、フロント用の等速自在継手は、ボールが脱落する角度より低い角度で外輪とシャフトを干渉させることで、角度ストッパーとなり、ボール脱落を防止しているが、リア用に外輪のカップを短くした場合、シャフトが干渉する前にボールが脱落してしまう。そこで、特許文献1から特許文献4のように、ボールの脱落を防止する方法が提案されている。
【0005】
特許文献1のものは、シャフトに外径方向に突出する突起部を設けて、ボールが脱落する前に外輪の開口端面とシャフトの突起部とを干渉させるものである。特許文献2のものは、シャフトに延在部を設けて、延在部の先端と外輪のカップ底を干渉させるものである。特許文献3のものは、保持器を軸方向に延長させ、保持器とシャフトを干渉させるものである。特許文献4のものは、保持器の内周側に係止部材を設け、係止部材と内輪の面取部とを係止させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-280359号公報
【特許文献2】特開平3-113124号公報
【特許文献3】特開2008-215403号公報
【特許文献4】特開2008-215404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のものは、シャフトに突起を形成するために、シャフトを切削加工する前の素材径を大きくする必要があり、コスト高の要因となる。特許文献2のものは、シャフトの軸端部が必要以上に長くなり、シャフトの重量増加を招く。特許文献3のものは、保持器が特殊な形状となり、保持器のコスト高、重量増加の要因となる。特許文献4のものは、係止部材を用いるため、部品点数が多くなり、コスト高の要因となる。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みて、等速自在継手のアッシー組立てから車両に取り付けるまでの間、部品点数を増やさず低コストにボール脱落防止機能を有する等速自在継手用ブーツ、等速自在継手を提供する。また、前記機能を有する等速自在継手用ブーツの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の等速自在継手用ブーツは、等速自在継手の外側継手部材の外周面に装着される大径取付部と、前記等速自在継手の内側継手部材に連結された動力伝達軸の外周に装着される小径取付部と、前記大径取付部と前記小径取付部との間に設けられ、軸方向に交互に形成された複数の山部と谷部とからなる蛇腹部とを有するエラストマー製のブーツ本体を備えた等速自在継手用ブーツにおいて、周方向に肉厚の円環部が、前記大径取付部に最も近い大径端谷部に接触して設けられ、前記円環部が前記大径端谷部を支持する谷部支持構造となるものである。
【0010】
本発明の等速自在継手用ブーツによれば、円環部が、大径取付部に最も近い大径端谷部に接触して設けられ、この円環部が大径端谷部を支持する谷部支持構造となるため、大径端谷部及びその近傍の剛性が高くなり、ブーツの蛇腹部の大径取付部側の変形を抑えることができる。これにより、動力伝達軸(シャフト)もしくは転動体(ボール)とブーツの接触後にはそれ以上作動角が取れなくなって、特に、自動車リア用ドライブシャフト等、最大作動角を制限して適用する低角度域専用の固定式等速自在継手では、固定式等速自在継手組立後に高作動角を取ることができなくなり、結果的にボールが脱落することを防ぐことができる。すなわち、本発明の円環部は大径端谷部を支持する谷部支持構造となり、この谷部支持構造は、シャフトの倒れ込みを防止して高角度を取れなくする、いわゆるシャフトストッパーとなってボールの脱落防止もしくは大径端谷部とボールとが直接干渉して脱落を防止する機構となる。
【0011】
前記ブーツ本体は、熱可塑性ポリエステルエラストマーであるのが好ましい。これにより、ブーツ本体は、ブーツとして必要な耐熱性、耐久性、屈曲強度を備え、さらには耐久性や軽量化においても優れたものとなる。
【0012】
前記円環部の材料が前記ブーツ本体と同じ材料であれば、ブーツ本体と円環部とが一体化しやすいものとなる。また、前記円環部が前記ブーツ本体よりも高い弾性率を有するエラストマー又はプラストマーであれば、円環部の剛性が高くなり、シャフトストッパーとしての機能を高めることができる。
【0013】
前記ブーツ本体と前記円環部とが一体化されているのが好ましい。これにより、円環部のブーツ本体からの剥離(脱利)を防止することができる。
【0014】
本発明の等速自在継手は、前記本発明の等速自在継手用ブーツを装着したものである。これにより、本発明の等速自在継手は、ボールの脱落防止機構を有するものとなる。
【0015】
本発明の等速自在継手用ブーツの製造方法は、前記本発明の等速自在継手用ブーツの製造方法であって、エラストマー製のブーツ本体を一次成形し、前記ブーツ本体を、外金型により外側から保持するとともに、内側からコア金型にて保持して、前記コア金型と前記ブーツ本体の大径端谷部との間に二次成形空間を形成し、前記二次成形空間に、ランナ機構を介して溶融材料を射出充填し、前記ブーツ本体の大径取付部と大径端谷部との間に、周方向に一定の肉厚となる円環部を二次成形するものである。
【0016】
本発明の等速自在継手用ブーツによれば、蛇腹ブーツであるブーツ本体を成形した後(一次成形)、シャフトストッパーとなる円環部を大径取付部と大径端谷部との間に射出成形にて成形(二次成形)するものである。シャフトストッパーつき等速自在継手用ブーツは、例えばインジェクションブロー工法により製造可能であるが、インジェクションブロー工法は設備が大型になりやすくサイクルタイムも長いため、結果としてコスト高になりやすい。また、ブーツすべてが同一材料という制約を受ける。これに対して、本発明の製造方法では、低コスト、かつ、材料の自由度を高めることができる。
【0017】
前記構成において、前記ブーツ本体の蛇腹部内径面及び大径取付部に前記コア金型が接触して、コア金型の内部に前記ランナ機構が設けられるようにしてもよい。
【0018】
前記構成において、前記ブーツ本体の蛇腹内径面のうち、前記大径端谷部の内径面に前記コア金型が接触するようにしたり、前記ブーツ本体の蛇腹部内径面のうち、前記大径端谷部の谷底から大径取付部までの傾斜面に前記コア金型が接触するようにしてもよい。
【0019】
本発明の他の等速自在継手用ブーツの製造方法は、前記本発明の等速自在継手用ブーツの製造方法であって、エラストマー製のブーツ本体を一次成形し、前記ブーツ本体を、固定側外金型とブーツ軸方向に移動する可動側外金型とを有する外金型により外側から保持するとともに、内側からコア金型にて保持して、前記外金型と前記ブーツ本体の大径端谷部との間に二次成形空間を形成し、前記二次成形空間に、ランナ機構を介して溶融材料を射出充填し、前記ブーツ本体の大径端谷部に、周方向に一定の肉厚となる円環部を二次成形するものである。
【0020】
前記構成において、前記固定側外金型と前記可動側外金型との合わせ目が、前記大径端谷部と小径取付部側で隣接する山部の頂点より大径取付部側にあり、前記山部の頂点は、大径側取付部と蛇腹部との間の肩部の径以下としてもよい。
【0021】
本発明のさらに他の等速自在継手用ブーツの製造方法は、前記本発明の等速自在継手用ブーツの製造方法であって、エラストマー製のブーツ本体を一次成形し、前記ブーツ本体を、固定側外金型とブーツ径方向に移動する可動側外金型とを有する外金型により外側から保持するとともに、内側からブーツ本体の軸方向に移動可能なコア金型にて保持して、前記外金型と前記ブーツ本体の大径端谷部との間に二次成形空間を形成し、前記二次成形空間に、ランナ機構を介して溶融材料を射出充填し、前記ブーツ本体の大径端谷部に、周方向に一定の肉厚となる円環部を二次成形するものである。
【0022】
前記構成において、前記固定側外金型の内部に前記ランナ機構が設けられるようにしてもよい。
【0023】
前記構成において、前記外金型の内側形状が、一次成形されたブーツ本体の蛇腹形状と同一としてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の等速自在継手用ブーツ及び等速自在継手は、等速自在継手のアッシー組立てから車両に取り付けるまでの間、部品点数を増やさず低コストにボール脱落防止機能を有するものとなる。また、前記機能を有する等速自在継手用ブーツを低コスト、かつ、材料の自由度を高めて製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1A】本発明の第1の実施形態に係る等速自在継手用ブーツが装着された等速自在継手の縦断面図である。
【
図1B】本発明の第1の実施形態に係る等速自在継手用ブーツが装着された等速自在継手が作動角を取った状態を示す縦断面図である。
【
図2】前記
図1の等速自在継手用ブーツを製造する射出成形金型の断面図である。
【
図3】前記
図1の等速自在継手用ブーツを製造する他の射出成形金型の断面図である。
【
図4】前記
図1の等速自在継手用ブーツを製造する別の射出成形金型の断面図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態に係る等速自在継手用ブーツが装着された等速自在継手の縦断面図である。
【
図6】前記
図5の等速自在継手用ブーツを製造する射出成形金型の断面図であり、(a)は外金型の閉状態、(b)は外金型の開状態を示す。
【
図7】前記
図5の等速自在継手用ブーツを製造する他の射出成形金型の断面図であり、(a)は外金型の閉状態、(b)は外金型の開状態を示す。
【
図8】本発明の第3の実施形態に係る等速自在継手用ブーツが装着された等速自在継手の縦断面図である。
【
図9】前記
図8の等速自在継手用ブーツを製造する射出成形金型の断面図である。
【
図10】前記
図8の等速自在継手用ブーツを製造する他の射出成形金型の断面図であり、(a)は外金型の閉状態、(b)は外金型の開状態、(c)は外金型の開状態及びコア金型が離間した状態を示す。
【
図11】前記
図8の等速自在継手用ブーツを製造する別の射出成形金型の断面図である。
【
図12】従来の等速自在継手用ブーツが装着された等速自在継手の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の第1の実施形態に係る等速自在継手用を
図1に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態の等速自在継手用ブーツが装着された等速自在継手の縦断面図を示す。等速自在継手は、外側継手部材1、内側継手部材2、トルク伝達ボール(以下、単にボールともいう)3および保持器4を主な構成とする。外側継手部材1の球状内周面5には複数のトラック溝6が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。内側継手部材2の球状外周面7には、外側継手部材1のトラック溝6に対向するトラック溝8が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。外側継手部材1のトラック溝6と内側継手部材2のトラック溝8との間にトルクを伝達する複数のボール3が1個ずつ組み込まれている。外側継手部材1の球状内周面5と内側継手部材2の球状外周面7との間に、ボール3を保持する保持器4が配置されている。
【0027】
内側継手部材2の軸心孔の内周に雌スプライン9が形成され、動力伝達軸(シャフト)10の端部雄スプライン11がこの内側継手部材2の軸心孔に嵌入されて、雌スプライン9と端部雄スプライン11とが嵌合する。また、シャフト10の端部雄スプライン11には周方向溝12が形成され、この周方向溝12にストッパとしての止め輪13が装着されている。
【0028】
そして、外側継手部材1の開口部はブーツ14にて密封される。ブーツ14は、ブーツ本体14aと円環部14bとから構成されている。ブーツ本体14aは、大径取付部15aと、小径取付部15bと、大径取付部15aと小径取付部15bとを連結する屈曲部としての蛇腹部15cとからなる。
【0029】
蛇腹部15cは2山~7山程度の山部16aと谷部16bとで構成され、小径取付部15bから大径取付部15aに向かって、小径取付部15bに最も近い第1山部(小径端山部)16a1、第1谷部(小径端谷部)16b1、第2山部16a2、第2谷部16b2、そして大径取付部15aに最も近い第3山部(大径端山部)16a3、第3谷部(大径端谷部)16b3とからなり、山部16a、谷部16bが軸方向に交互に形成されている。大径端谷部16b3は肩部16cを経て大径取付部15aに接続されている。
【0030】
ブーツ本体14aの材質としては特に制限されるものではなく、ブーツとして必要な耐熱性、耐久性、屈曲強度を備えている材料であればよい。例えば、熱可塑性樹脂エラストマーや、CRやシリコーン、HNBR、塩化エチレンに代表されるゴム等が使用でき、特に、熱可塑性ポリエステルエラストマーが望ましい。これにより、ブーツ本体14aは、ブーツとして必要な耐熱性、耐久性、屈曲強度を備え、さらには耐久性や軽量化においても優れたものとなる。
【0031】
円環部14bは周方向に肉厚となるものであって、大径取付部15aに最も近い大径端谷部16b3に接触して設けられる。本実施形態では円環部14bは、大径取付部15aと大径端谷部16b3との間の肩部16cの内径面に設けられる。すなわち、円環部14bは、大径端谷部16b3の谷底から外側継手部材1の開口端1aまで延びて、開口端1aと当接している。ブーツ本体14aと円環部14bとは、後述する製造方法にて製造されることにより一体化されている。
【0032】
この円環部14bにて、大径端谷部16b
3及びその近傍の剛性が高くなり、ブーツ14の蛇腹部15cの大径取付部側の変形を抑えることができる。また、本ブーツ14は、肉厚とならない谷部16bを1箇所以上有し(本実施形態では、第1谷部16b
1と第2谷部16b
2)、等速自在継手の作動に追従し、可動性が確保される。この肉厚とならない谷部16bの数は、必要な作動角に応じて適宜調整される。すなわち、
図1Aに示すように、ブーツは、大径取付部15aから第3谷部16b
3までがブーツ固定域となり、第3谷部16b
3から蛇腹部15cの小径取付部側までがブーツ可動域となる。これにより、シャフト10あるいはボール3(
図1B参照)とブーツ14の接触後にはそれ以上作動角が取れなくなって、特に、自動車リア用ドライブシャフト等、最大作動角を制限して適用する低角度域専用の固定式等速自在継手では、固定式等速自在継手組立後に高作動角を取ることができなくなり、結果的にボールが脱落することを防ぐことができる。このように、本発明の円環部14bは大径端谷部16b
3を支持する谷部支持構造となり、この谷部支持構造は、いわゆるシャフトストッパーあるいはボールストッパーとなってボールの脱落防止機構となる。
【0033】
円環部14bの材質は、エラストマーまたはプラストマーを選択することができるが、特に制限されるものではなく、射出成形に適した材料を選択できる。円環部14bの材料がブーツ本体14aと同じ材料である場合、ブーツ本体14aと円環部14bとが一体化しやすいものとなる。また、円環部14bが、ブーツ本体14aよりも高い弾性率を有するエラストマー又はプラストマーであれば、円環部14bの剛性が高くなり、シャフトストッパーとしての機能を高めることができる。
【0034】
ブーツ14の大径取付部15aは、外側継手部材1の外周面の被取付面17にブーツバンド19により締付固定され、小径取付部15bは、シャフト10の外周面18にブーツバンド20により締付固定される。ブーツバンド19、20の種類は問わず、従来から使用されているワンタッチバンド、ロープロファイルバンド、オメガバンド等を使用することができる。
【0035】
次に、前記等速自在継手用ブーツの製造方法を
図2を用いて説明する。まず、ブーツ本体14aを一次成形する。一次成形したブーツ本体14aは、外側継手部材1と締結する大径取付部15aとシャフト10と締結する小径取付部15bとを備えており、両者は蛇腹部15cでつながれている。成形方法は特に問わないが、コストや精度の点でプレスブロー工法が望ましい。一次成形したブーツ本体14aは、二次成形するための製造装置(射出成形金型)に装着される。
【0036】
図2には、二次成形(射出成形)する金型21の一例が示されている。この金型21は、一次成形されたブーツ本体14aを保持した状態において、この金型21内に形成された二次成形空間Sに溶融材料を射出充填し、ブーツ本体14aの大径取付部15aと大径端谷部(本実施形態では第3谷部16b
3)との間に円環部14bを二次成形で一体化するものである。
【0037】
金型21は、ブーツ本体14aを外側から保持する外金型22a、22bと、ブーツ本体14aを内側から保持するコア金型23とを備えている。
【0038】
外金型22a、22bは、ブーツ軸方向に沿って分割され、径方向において対称の割型となっている。外金型内面25a、25bはブーツ本体14aに沿った形状となっており、大径取付部対応面25a1、25b1,小径取付部対応面25a2、25b2、蛇腹部対応面25a3、25b3とを備える。外金型22a、22bは、コア23に対して夫々矢印方向(つまり、ブーツ本体14aの径方向)に開閉可能に構成されている。
【0039】
コア金型23はブーツ本体14aの大径側端部15aと嵌合する大径部26と、外側継手部材1の端面形状を模擬した外輪模擬部27と、大径端谷部(第3谷部16b3)と接触する小径部28とを有する。コア金型23の小径部28が第3谷部16b3と接触することで、コア金型23とブーツ本体14aの第3谷部16b3との間に、射出成形(二次成形)できる二次成形空間Sを形成することができる。
【0040】
コア金型23には、ランナ29とゲート30とを備えたランナ機構24が設けられており、ゲート30は、二次成形空間Sに対応する位置に設けられる。
図2における図示例では、ブーツ本体14aの小径側に溶融材料をランナ29へ繋ぐ孔31を設けた冶具32が取り付けられており、ブーツ本体14aの小径側より溶融材料が射出される構造となっている。
【0041】
このような金型21において、
図2に示すように外金型22a、22bを開状態として、一次成形されたブーツ本体14aはコア金型23に装着される。すなわち、ブーツ本体14aの大径取付部15aは、コア金型23の大径部26に嵌合し、ブーツ本体14aの第3谷部16b
3は、コア金型23の小径部28に嵌合する。これにより、ブーツ本体14aはコア金型23に対して安定して位置決め装着され、コア金型23の外輪模擬部27、小径部28、及びブーツ本体14aの第3谷部16b
3との間に二次成形空間Sを形成することができる。コア金型23に設けられたゲート30は、二次成形空間Sに位置する。
【0042】
外金型22a、22bを閉状態とすると、ブーツ本体14aは外金型22a、22b及びコア金型23により保持される。この場合、ブーツ本体14aの大径取付部15a、小径取付部15b及び蛇腹部15cは、夫々外金型内面25a、25bの大径取付部対応面25a1、25b1,小径取付部対応面25a2、25b2、蛇腹部対応面25a3、25b3と当接してブーツ本体14aが保持される。
【0043】
この状態で、二次成形空間Sに、ゲート30より溶融樹脂が射出され、二次成形が行われる。この二次成形された部分が円環部14bとなって、前記等速自在継手用ブーツ14が製造される。二次成形に使用した樹脂は、本実施形態では、一次成形されたブーツ本体14aの材料と同じとしている。割型である外金型22a、22bが開き、形成された等速自在継手用ブーツ14を小径側方向へ引っ張ることで脱型される。脱型方法はこれに拘らず、コア金型23自体が下降した後に割型が開く構造にしてもよいし、割型が開いた後にブーツ大径側端部を押してコア金型23から外す構造にしてもよい。また、成形と脱型の両立を考えると、
図2に示すようにコア金型23の小径部28はブーツ軸方向と垂直であることが望ましいが、脱型を優先して、小径部28は、ブーツ14の小径取付部側に向かって縮径するテーパとしてもよい。
【0044】
図3は、二次成形する射出成形金型の他の例を示す。この金型33の外金型34a、34bの内面35a、35bは、大径取付部対応面35a1、35b1,小径取付部対応面35a2、35b2、蛇腹部対応面35a3、35b3とを備える。蛇腹部対応面35a3、35b3が、ブーツ本体14aの蛇腹部15cの夫々の山部16a
1、16a
2、16a
3に沿うことにより、蛇腹部15cに概略沿った形状となっている点が
図2の金型21と異なっており、本金型33はコスト低減を図ることができる。この外金型34a、34bも、
図2の金型21と同様に、コア金型36に対して夫々矢印方向(つまり、ブーツ本体14aの径方向)に開閉可能に構成されている。
【0045】
また、コア金型36は、その小径部37が第3谷部16b3と接するとともに、第3谷部16b3と隣接する第2谷部16b2の大径取付部側傾斜面16dとも接している。これにより、二次成形で溶融樹脂が注入される二次成形空間Sの密閉度がより高まっている。コア金型36にはランナ40及びゲート41が設けられている。
【0046】
コア金型36は固定型38に固定されており、固定型38にはランナ40に繋がる孔39が設けられている。この孔39から溶融樹脂が射出され、コア金型36に設けられたランナ40,ゲート41を介して溶融樹脂が二次成形空間Sに射出される。これにより、
図3に示す金型33は、
図2の金型21と比較して射出構造がより簡素化される。
【0047】
図4は、二次成形する射出成型金型の別の例を示す。この金型42は、外金型43が分割型ではなく、
図4の矢印で示すように、ブーツ軸方向へ移動する点が
図2の金型21と異なる。コア金型45は固定型46に固定されており、外金型43が、固定型46に対して
図4の矢印方向(ブーツ軸方向)に近接離間して開閉可能に構成されている。外金型内面44の軸方向長さLは、ブーツ本体14aの全長(つまり、大径取付部15aの端部から小径取付部15bの端部)とほぼ同一であり、
図4に示す状態のように、外金型43と固定型46とを接触させることで一次成形されたブーツ本体14aを軸方向に保持することができる。これにより、安定して二次成形ができる。
【0048】
コア金型45は、その小径部47が第3谷部16b
3の大径取付部側傾斜面48で接しており、二次成形で溶融樹脂が注入される二次成形空間Sの密閉度がより高まっている。
図4の図示例においてもコア金型45にランナ49a及びゲート49bが設けられ、固定型46にはランナ49aに繋がる孔49cが設けられている。この孔49cから溶融樹脂が射出され、ランナ49a及びゲート49bを介して溶融樹脂が二次成形空間Sに射出される。
【0049】
このように、本実施形態の等速自在継手用ブーツ及び等速自在継手は、等速自在継手のアッシー組立てから車両に取り付けるまでの間、部品点数を増やさず低コストにボール脱落防止機能を有するものとなる。また、本発明の等速自在継手用ブーツの製造方法は、前記機能を有する等速自在継手を低コスト、かつ、材料の自由度を高めて製造することができる。
【0050】
図5は第2実施形態の等速自在継手用ブーツが装着された等速自在継手の縦断面図を示す。本実施形態の等速自在継手用ブーツ50は、円環部50bの形態が第1実施形態の円環部と相違している。第2実施形態のブーツ50も、ブーツ本体50aと円環部50bとから構成されている。ブーツ本体50aは、大径取付部51aと、小径取付部51bと、大径取付部51aと小径取付部51bとを連結する屈曲部としての蛇腹部51cとからなる。蛇腹部51cは2山~7山程度の山部52aと谷部52bとで構成される。
【0051】
図5に示すように、ブーツ50の蛇腹部51cは、小径取付部51bから大径取付部51aに向かって、小径取付部51bに最も近い第1山部(小径端山部)52a
1、第1谷部(小径端谷部)52b
1、第2山部52a
2、第2谷部52b
2、そして大径取付部51aに最も近い第3山部(大径端山部)52a
3、第3谷部(大径端谷部)52b
3とからなり、山部52a、谷部52bが軸方向に交互に形成されている。大径端谷部52b
3の大径取付部側傾斜面62は、外側継手部材1の開口端1aに当接している。
【0052】
円環部50bは周方向に肉厚となるものであって、大径取付部51aに最も近い大径端谷部52b3に接触して設けられる。本実施形態では、円環部50bは、大径端谷部(第3谷部)52b3の外径側に設けられる。すなわち、円環部50bは、大径取付部51aと蛇腹部51cとの間の肩部61から、第3山部52a3にわたって肉厚となるものであり、円環部50bが第3谷部52b3を外径側から覆っている。大径端谷部(第3谷部52b3)の大径取付部側傾斜面62は、外側継手部材1の開口端1aと接触する構造となっている。
【0053】
第2実施形態の円環部50bも、前記第1実施形態の円環部14bと同様の作用効果を奏する。特に本実施形態では、大径端谷部(第3谷部52b
3)の大径取付部側傾斜面62が、外側継手部材1の開口端1aと接触する構造としているため、等速自在継手が大角度をとった場合は、円環部50bが外輪トラックに食い込む形になり、ボールの脱落を防止する機能を高めることができる。なお、
図5に示す等速自在継手において、
図1に示す等速自在継手と同様の構成については、
図1と同一符号を付してその説明を省略する。
【0054】
次に、
図5に示す等速自在継手用ブーツの製造方法を、
図6を用いて説明する。まず、ブーツ本体50aを一次成形する。一次成形したブーツ本体50aは、外側継手部材1と締結する大径取付部51aと、シャフト10と締結する小径取付部51bとを備えており、両者は蛇腹部51cでつながれている。一次成形したブーツ本体50aは、二次成形するための製造装置(射出成型金型)に装着される。
【0055】
図6には、二次成形(射出成形)する金型53の一例が示されている。この金型53は、一次成形されたブーツ本体50aを保持した状態において、この金型53内に形成された二次成形空間Sに溶融材料を射出充填し、ブーツ本体50aの大径端谷部(本実施形態では第3谷部52b
3)に円環部50bを二次成形で一体化するものである。
【0056】
金型53は、ブーツ本体50aを外側から保持する外金型54a、54bと、ブーツ本体50aを内側から保持するコア金型55と、外金型54a及びコア金型55を固定する固定型56とを備えている。
【0057】
外金型54a、54bは、ブーツ周方向に沿って分割された割型となっており、大径側の第1金型54aと小径側の第2金型54bとからなる。第1金型54aは、固定型56に固定される固定側外金型であり、第2金型54bは、
図6(a)の矢印に示すようにブーツ軸方向に移動可能な可動側外金型である。第2金型54bの内面59は、ブーツ本体50aの蛇腹部51cの夫々の山部52a
1、52a
2、52a
3に沿う。第1金型54aの内面58は、ブーツ本体50aの肩部61及び第3山部52a
3と接触することで、第1金型54aとブーツ本体50aの大径端谷部52b
3の外径面との間に射出成形(二次成形)できる二次成形空間Sを形成することができる。
【0058】
第1金型54aと第2金型54bとの割型の合わせ目(接合面位置)60は、大径端谷部(第3谷部)52b3と小径取付部側で隣接する山部(第3山部52a3)の頂点より大径取付部側に位置している。さらに、第3山部52a3の頂点は、大径取付部51aと蛇腹部51cとの間の肩部61の径以下としている。すなわち、肩部61から小径側に向かって山径が縮径されたものとなっている。割型の合わせ目60の位置は、ブーツ本体50aの蛇腹部51cの設計により適宜決定されるが、このような構成とすることにより、脱型し易いものとなる。
【0059】
コア金型55は、大径端谷部52b3の大径取付部側傾斜面62と接することにより、ブーツ本体50aを支持することができる。コア金型55は、固定型56に固定される。
【0060】
ランナ機構57は、第1金型54aから固定型56にわたって形成されたランナ63及び第1金型54aに設けられるゲート64とから構成される。ゲート64は、二次成形空間Sに対応する位置に設けられる。これにより、固定型56より溶融材料が射出される構造となっている。
【0061】
このような金型53において、第2金型54bを開状態として(
図6(b)参照)、一次成形されたブーツ本体50aは、コア金型55に装着される。すなわち、ブーツ本体50aは、大径取付部51aが、コア金型55の外径と第1金型54aの内径との空間に嵌め込む形で装着される。図示例では、大径取付部51aは第1金型54aに嵌合させているが、コア金型55の外径に嵌合状態にすることにより固定させてもよい。このとき、第1金型54aの内面58及び第3谷部52b
3との間に二次成形空間Sを形成することができる。第1金型54aに設けられたゲート64は、二次成形空間Sに位置している。
【0062】
第2金型54bを閉状態(
図6(a)参照)とすると、ブーツ本体50aは外金型54a、54b及びコア金型56により保持される。この場合、ブーツ本体50aの大径取付部51aから第3山部52a
3までは第1金型54aの内面58に当接し、第3山部52a
3から小径取付部51bまでは第2金型54bの内面59と当接してブーツ本体50aが保持される。
【0063】
この状態で、二次成形空間Sに、ゲート64より溶融樹脂が射出され、二次成形が行われる。この二次成形された部分が円環部50b(
図6(b)参照)となって、前記等速自在継手用ブーツ50を製造することができる。
図6(b)に示すように割型である第2金型54bが開き、形成された等速自在継手用ブーツ50を小径側方向へ引っ張ることで脱型される。外金型54a、54bの合わせ目60が、大径端谷部(第3谷部52b
3)と小径取付部側で隣接する山部(第3山部)52a
3の頂点より大径取付部側に位置し、さらに、第3山部52a
3の頂点は、大径側取付部51aと蛇腹部51cとの間の肩部61の径以下としているので、ワンアクションで脱型が可能である。脱型方法はこれに拘らず、割型が開いた後にブーツ大径側端部を押してコア金型55から外す構造にしてもよい。
【0064】
図7は、二次成形する射出成形金型の他の例を示す。この金型65は、ブーツ本体50aを外側から保持する外金型66a、66bと、ブーツ本体50aを内側から保持するコア金型67と、外金型66a、66b及びコア金型67を固定する固定型68とを備えている。
【0065】
外金型66a、66bは、ブーツ軸方向に沿って分割された割型となっており、径方向において対称の第1金型66aと第2金型66bとからなる。第1金型66aは、移動しない固定側外金型であり、第2金型66bは、
図7(a)の矢印に示すようにブーツ径方向に移動可能な可動側外金型である。外金型内面69a、69bは、ブーツ本体50aの蛇腹部51cの夫々の山部52a
1、52a
2、52a
3に沿った形状となっており、大径取付部対応面69a1、69b1,小径取付部対応面69a2、69b2、蛇腹部対応面69a3、69b3とを備える。外金型66a、66bの蛇腹部対応面69a3、69b3は、ブーツ本体50aの肩部61及び第3山部52a
3と接触することで、外金型66a、66bとブーツ本体50aの大径端谷部52b
3の外径面との間に射出成形(二次成形)できる二次成形空間Sを形成することができる。
【0066】
第1金型66aには、ランナ70とゲート71とを備えたランナ機構72が設けられており、ゲート71は、二次成形空間Sに対応する位置に設けられる。
【0067】
コア金型67は、
図7(a)の矢印に示すようにブーツ軸方向に移動可能なものであって、大径端谷部52b
3の大径取付部側傾斜面62と接することにより、ブーツ本体50aを支持することができる。コア金型67は、固定型68に固定される。
【0068】
このような金型65において、第2金型66bを開状態として(
図7(b)参照)、一次成形されたブーツ本体50aは、
図6に示す方法と同様に、コア金型67に装着される。このとき、外金型66a、66bの内面69a、69b及び第3谷部52b
3との間に二次成形空間Sを形成することができる。第1金型66aに設けられたゲート71は、二次成形空間Sに位置している。
【0069】
第2金型66bを閉状態(
図7(a)参照)とすると、ブーツ本体50aは外金型66a、66b及びコア金型67により保持される。この状態で、二次成形空間Sに、ゲート71より溶融樹脂が射出され、二次成形が行われる。この二次成形された部分が円環部50bとなって前記等速自在継手用ブーツ50を製造することができる。
図7(b)に示すように割型である第2金型66bが開き、さらに、コア金型67が軸方向に移動することで、形成された等速自在継手用ブーツ50は脱型される。なお、
図7に示す等速自在継手用ブーツの製造方法において、
図6と同様の構成については、
図6と同一符号を付してその説明を省略する。
【0070】
図8は第3実施形態の等速自在継手用ブーツが装着された等速自在継手の縦断面図を示す。本実施形態の等速自在継手用ブーツ80は、円環部80bの形態が第1、第2実施形態の円環部と相違している。第3実施形態のブーツ80も、ブーツ本体80aと円環部80bとから構成されている。ブーツ本体80aは、大径取付部81aと、小径取付部81bと、大径取付部81aと小径取付部81bとを連結する屈曲部としての蛇腹部81cとからなる。蛇腹部81cは2山~7山程度の山部82aと谷部82bとで構成される。
【0071】
図8に示すように、ブーツ80の蛇腹部81cは、小径取付部81bから大径取付部81aに向かって、小径取付部81bに最も近い第1山部(小径端山部)82a
1、第1谷部(小径端谷部)82b
1、第2山部82a
2、第2谷部82b
2、そして大径取付部81aに最も近い第3山部(大径端山部)82a
3、第3谷部(大径端谷部)82b
3とからなり、山部82a、谷部82bが軸方向に交互に形成されている。大径端谷部82b
3の大径取付部側傾斜面91は、外側継手部材1の開口端1aに当接していない。
【0072】
円環部80bは、周方向に肉厚となるものであって、大径取付部81aに最も近い大径端谷部82b3に接触して設けられる。本実施形態では、円環部80bは、大径端谷部(第3谷部)82b3の外径側に設けられる。すなわち、円環部80bは、大径取付部81aと蛇腹部81cとの間の肩部83から第3山部82a3にわたって肉厚となるものであり、円環部80bが第3谷部82b3を外径側から覆っている。この場合、大径端谷部82b3の大径取付部側傾斜面91と肩部83とは、外側継手部材1と当接することなく離間している。
【0073】
第3実施形態の円環部80bも、前記第1実施形態の円環部14bと同様の作用効果を奏する。なお、
図8に示す等速自在継手において、
図1に示す等速自在継手と同様の構成については、
図1と同一符号を付してその説明を省略する。
【0074】
次に、
図8に示す等速自在継手用ブーツの製造方法を、
図9を用いて説明する。まず、ブーツ本体80aを一次成形する。一次成形したブーツ本体80aは、外側継手部材1と締結する大径取付部81aと、シャフト10と締結する小径取付部81bとを備えており、両者は蛇腹部81cでつながれている。一次成形したブーツ本体80aは、二次成形するための製造装置(射出成型金型)に装着される。
【0075】
図9には、二次成形(射出成形)する金型84の一例が示されている。この金型84は、一次成形されたブーツ本体80aを保持した状態において、この金型84内に形成された二次成形空間Sに溶融材料を射出充填し、ブーツ本体80aの大径端谷部(本実施形態では第3谷部82b
3)に円環部80bを二次成形で一体化するものである。
【0076】
金型84は、ブーツ本体80aを外側から保持する外金型85a、85bと、ブーツ本体80aを内側から保持するコア金型86と、外金型85a及びコア金型86を固定する固定型87とを備えている。
【0077】
外金型85a、85bは、ブーツ周方向に沿って分割された割型となっており、大径側の第1金型85aと小径側の第2金型85bとからなる。第1金型85aは、固定型87に固定される固定側外金型であり、第2金型85bは、
図9の矢印に示すようにブーツ軸方向に移動可能な可動側外金型である。第2金型85bの内面89は、ブーツ本体80aの蛇腹部81cの夫々の山部82a
1、82a
2、82a
3に沿う。第2金型85bの内面89は、ブーツ本体80aの肩部83及び第3山部82a
3と接触することで、第2金型85bとブーツ本体80aの大径端谷部82b
3の外径面との間に射出成形(二次成形)できる二次成形空間Sを形成することができる。第1金型85aと第2金型85bとの割型の合わせ目(接合面位置)90は、肩部83よりも大径取付部側に位置している。第3山部82a
3の頂点は肩部83の径以下としている。すなわち、肩部83から小径側に向かって山径が縮径されたものとなっている。このような構成とすることにより、脱型し易いものとなる。
【0078】
コア金型86は、大径端谷部82b3の大径取付部側傾斜面91と接することにより、ブーツ本体80aを支持することができる。コア金型86は、固定型87に固定される。
【0079】
ランナ機構92は、第2金型85bに形成されたランナ93及びゲート94とから構成される。ゲート94は、二次成形空間Sに対応する位置に設けられる。
【0080】
このような金型84において、
図6(b)と同様に第2金型85bを開状態として、一次成形されたブーツ本体80aは、コア金型86に装着される。
図6の場合は、大径端谷部の大径取付部側傾斜面は、コア金型の軸方向端面に沿って当接しているのに対し、
図9の場合は、大径端谷部82b
3の大径取付部側傾斜面91はコア金型86の軸方向端面に沿っていない。このとき、第2金型85bの内面89及び第3谷部82b
3との間に二次成形空間Sを形成することができる。第2金型85bに設けられたゲート94は、二次成形空間Sに位置している。
【0081】
図9に示すように、第2金型85bを閉状態とすると、ブーツ本体80aは外金型85a、85b及びコア金型86により保持される。この場合、ブーツ本体80aの大径取付部81aは第1金型85aの内面88に当接し、蛇腹部81c及び小径取付部81bは第2金型85bの内面89と当接してブーツ本体80aが保持される。
【0082】
この状態で、二次成形空間Sに、ゲート94より溶融樹脂が射出され、二次成形が行われる。この二次成形された部分が円環部80bとなって、前記等速自在継手用ブーツ80を製造することができる。割型である第2金型85bが開き、形成された等速自在継手用ブーツ80を小径側方向へ引っ張ることで脱型される。
【0083】
図10は、二次成形する射出成形金型の他の例を示す。この金型95は、ブーツ本体80aを外側から保持する外金型96a、96bと、ブーツ本体80aを内側から保持するコア金型97と、外金型96a、96b及びコア金型97を固定する図示省略の固定型とを備えている。
【0084】
外金型96a、96bは、ブーツ軸方向に沿って分割された割型となっており、径方向において対称の第1金型96aと第2金型96bとからなる。第1金型96aは、固定型に固定される固定側外金型であり、第2金型96bは、
図10(a)の矢印に示すようにブーツ径方向に移動可能な可動側外金型である。外金型の内面98a、98bの形状は、ブーツ本体80aの蛇腹形状と同一形状となっており(ただし、肩部83から第3山部82a
3までに対応する位置は直線状であり、蛇腹形状と同一ではない)、大径取付部対応面98a1、98b1,小径取付部対応面98a2、98b2、蛇腹部対応面98a3、98b3とを備える。外金型96a、96bの蛇腹部対応面98a3、98b3は、ブーツ本体80aの肩部83及び第3山部82a
3と接触することで、外金型96a、96bとブーツ本体80aの大径端谷部82b
3の外径面との間に射出成形(二次成形)できる二次成形空間Sを形成することができる。
【0085】
第1金型96aには、ランナ99とゲート100とを備えたランナ機構101が設けられており、ゲート100は、二次成形空間Sに対応する位置に設けられる。
【0086】
コア金型97は、
図10(b)の矢印に示すように軸方向に移動可能なものである。コア金型97はブーツ本体80aの大径側端部81aと嵌合する大径部102と、大径端谷部(第3谷部82b
3)と接触する小径部103とを有する。
図11に示すように、コア金型97がテーパ部104を有し、大径端谷部82b
3の大径取付部側傾斜面91をテーパ部104と接触させるようにすると、大径端谷部82b
3の大径取付部側傾斜面91をサポートすることができ、二次成型工程がより安定する。
【0087】
このような金型95において、第2金型96bを開状態として(
図10(b)参照)、一次成形されたブーツ本体80aはコア金型97に装着される。このとき、外金型96a、96bの内面98a、98b及び第3谷部82b
3との間に二次成形空間Sを形成することができる。第1金型96aに設けられたゲート100は、二次成形空間Sに位置している。
【0088】
第2金型66bを閉状態(
図10(a)参照)とすると、ブーツ本体80aは外金型96a、96b及びコア金型97により保持される。この状態で、二次成形空間Sに、ゲート100より溶融樹脂が射出され、二次成形が行われる。この二次成形された部分が円環部80bとなって、前記等速自在継手用ブーツ80を製造することができる。
図10(b)に示すように割型である第2金型86bが開き、さらに、
図10(c)に示すように、コア金型97が軸方向に移動することで、形成された等速自在継手用ブーツ80は脱型される。
【0089】
なお、
図10、
図11に示す等速自在継手用ブーツの製造方法において、
図9と同様の構成については、
図9と同一符号を付してその説明を省略する。
【0090】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、内外継手部材のトラック溝の形態や、外側継手部材の開口側でのボールとトラック溝間の案内状態やボールの保持状態等、固定式等速自在継手の型式は問わない。
【0091】
ブーツ本体や円環部の材質は限定されることなく、ブーツとして必要な耐久性を有するものであれば種々採用できる。ブーツ本体と円環部との材質は同一であっても相違していてもよい。ブーツ本体の形成方法はどのようなものでもよい。前記実施形態では、ブーツ本体に1箇所の円環部を設けるようにしたが、円環部は2箇所以上有していてもよく、例えば、第1実施形態と第2実施形態の円環部の両方を有していたり、第1実施形態と第3実施形態の円環部の両方を有するものであってもよい。
【0092】
実施形態における金型は一例であって、外金型の内側形状やコア金型の形状は、ブーツ本体を外側と内側とで保持できるものであれば、図示されたものに限らない。ランナ機構を設ける位置としては、二次成形空間に溶融樹脂を射出できるものであればいずれの位置に設けてもよく、図示された位置に限られない。
【符号の説明】
【0093】
1 外側継手部材
15a、52a、82a 大径取付部
15b、52b、82b 小径取付部
2 内側継手部材
10 シャフト
16a、52a、82a 山部
16b、52b、82b 谷部
16b3、52b3、82b3 大径端谷部
16c、52c、82c 蛇腹部
14a、51a、81a ブーツ本体
14b、51b、81b 円環部
22、54、85 外金型
23、55、86 コア金型
S 二次成形空間
24、57、92 ランナ機構
48、62、91 傾斜面
60 合わせ目
16c、61、83 肩部