(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183779
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】等速自在継手、及び等速自在継手の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16D 3/06 20060101AFI20231221BHJP
F16D 3/20 20060101ALI20231221BHJP
F16D 3/227 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
F16D3/06 E
F16D3/20 J
F16D3/227 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097478
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100196346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 貴士
(72)【発明者】
【氏名】梁 正武
(72)【発明者】
【氏名】宮内 宣幸
(57)【要約】
【課題】摺動式等速自在継手のスプライン嵌合部の歯面間にグリースを供給し、これによりスプライン部が早期に損傷する事態を防止する。
【解決手段】摺動式等速自在継手10は、外側継手部材15と、転動体19と、内側継手部材18と、密封部材23とを備える。外側継手部材15の内側空間15aにグリースGが充填され、内側継手部材18とシャフト22とがスプライン嵌合部26を介して相互に連結されている。スプライン嵌合部26を構成する雄スプライン部27と雌スプライン部28のうち、一方のスプライン部27に捩れ角θが付与され、かつ摺動式等速自在継手10の未使用状態で、スプライン嵌合部26の軸方向一端部26aにグリースGが付着している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面にトラック溝が形成された外側継手部材と、前記トラック溝に転動可能に配置された転動体と、前記転動体を介して前記外側継手部材との間で角度変位及び軸方向変位を許容しながらトルクを伝達する前記内側継手部材と、前記内側継手部材と連結されるシャフトと、前記外側継手部材の内側空間を密封する密封部材とを備え、前記外側継手部材の内側空間にグリースが充填され、前記内側継手部材と前記シャフトとがスプライン嵌合部を介して相互に連結される摺動式等速自在継手において、
前記スプライン嵌合部を構成する雄スプライン部と雌スプライン部のうち、一方のスプライン部に捩れ角が付与され、かつ
前記摺動式等速自在継手の未使用状態で、前記スプライン嵌合部の軸方向一端部に前記グリースが付着していることを特徴とする摺動式等速自在継手。
【請求項2】
前記捩れ角は、10′以上でかつ20′以下である請求項1に記載の摺動式等速自在継手。
【請求項3】
前記グリースのちょう度が310以上でかつ340以下である請求項1に記載の摺動式等速自在継手。
【請求項4】
内周面にトラック溝が形成された外側継手部材と、前記トラック溝に転動可能に配置された転動体と、前記転動体を介して前記外側継手部材との間で角度変位及び軸方向変位を許容しながらトルクを伝達する前記内側継手部材と、前記内側継手部材と連結されるシャフトと、前記外側継手部材の内側空間を密封する密封部材とを備え、前記外側継手部材の内側空間にグリースが充填され、前記内側継手部材と前記シャフトとがスプライン嵌合部を介して相互に連結される摺動式等速自在継手の製造方法において、
前記内側継手部材に前記転動体が保持されると共に前記シャフトが連結された状態の内側部品を準備する準備工程と、
前記グリースを前記外側継手部材の内側空間に充填する充填工程と、
前記内側部品を前記外側継手部材の内側空間に導入して、前記内側部品を前記外側継手部材に組付ける第一組付け工程と、
前記内側部品を組付けた状態の前記外側継手部材に前記密封部材を組付ける第二組付け工程とを備え、
前記第二組付け工程を実施する前に、前記スプライン嵌合部の軸方向一端部に前記グリースを付着させることを特徴とする摺動式等速自在継手の製造方法。
【請求項5】
前記準備工程で、前記スプライン嵌合部の軸方向一端部に前記グリースを塗布する請求項4に記載の摺動式等速自在継手の製造方法。
【請求項6】
前記充填工程を実施した後、前記第一組付け工程で、前記スプライン嵌合部の軸方向一端部が前記外側継手部材の内側空間に充填された状態の前記グリースに付着する位置まで、前記内側部品を前記外側継手部材の前記内側空間の底部に向けて移動させる請求項4に記載の摺動式等速自在継手の製造方法。
【請求項7】
前記第一組付け工程を実施した後に前記充填工程を実施し、かつ前記充填工程で、前記スプライン嵌合部の軸方向一端部に前記グリースが付着するように、前記グリースの充填量を調整する請求項4に記載の摺動式等速自在継手の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速自在継手、及び等速自在継手の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
等速自在継手は、駆動側と従動側の二軸間で回転動力を等速で伝達可能とするものであり、自動車や各種産業機械などの動力伝達系に組み込まれて使用されている。この等速自在継手は、固定式等速自在継手と、摺動式等速自在継手とに大別され、摺動式等速自在継手は、さらにボールタイプとトリポードタイプとに大別される。ボールタイプの場合、外側継手部材に対して摺動可能な内側部品が、主に内輪とケージとボールとで構成され、トリポードタイプの場合、内側部品が、主にトリポード部材(トラニオン)とローラとで構成される。
【0003】
ボールタイプの場合、内輪の内周に設けた雌スプライン部と、回転軸となるシャフトの外周に設けた雄スプライン部とが嵌合(スプライン嵌合)することで、内輪とシャフトとが回転及び動力伝達可能に連結される。トリポードタイプの場合、トリポード部材の内周に設けた雌スプライン部と、回転軸となるシャフトの外周に設けた雄スプライン部とが嵌合することで、トリポード部材とシャフトとが回転及び動力伝達可能に連結される。
【0004】
また、何れのタイプの摺動式等速自在継手においても、外側継手部材の内側空間にグリースなどの潤滑剤が充填され、ボールタイプにおいては、ボールと外側継手部材との円滑な摺動、トリポードタイプにおいては、ローラと外側継手部材との円滑な摺動をそれぞれ図っている(例えば、特許文献1及び特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-155404号公報
【特許文献2】特開2018-48695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した摺動式等速自在継手のスプライン嵌合部においては、振動や騒音の原因となるガタを抑制する観点から、雌スプライン部と雄スプライン部とが締め代もしくは極めて小さな隙間を伴って嵌合されるように、各スプライン部の寸法が設定されている。そのため、たとえ外側継手部材の内側空間に上記摺動部に相応する量のグリースを充填したとしても、充填したグリースを、スプライン嵌合部の軸方向一端部から各スプライン部の歯面(嵌合面)間にまで行き渡らせることは難しい。この種の等速自在継手のように相互に連結固定されるスプライン嵌合部であっても、トルクが繰り返し作用することにより一方のスプライン部が他方のスプライン部に押し付けられて少なからず変形は生じる。そのため、歯面間の潤滑が不十分だと、各スプライン部が早期に損傷する事態を招くおそれがある。
【0007】
以上の実情に鑑み、本発明により解決すべき技術課題は、摺動式等速自在継手のスプライン嵌合部の歯面間にグリースを供給し、これによりスプライン部が早期に損傷する事態を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題の解決は、本発明に係る摺動式等速自在継手によって達成される。すなわち、この等速自在継手は、内周面にトラック溝が形成された外側継手部材と、トラック溝に転動可能に配置された転動体と、転動体を介して外側継手部材との間で角度変位及び軸方向変位を許容しながらトルクを伝達する内側継手部材と、内側継手部材と連結されるシャフトと、外側継手部材の内側空間を密封する密封部材とを備え、外側継手部材の内側空間にグリースが充填され、内側継手部材とシャフトとがスプライン嵌合部を介して相互に連結される摺動式等速自在継手において、スプライン嵌合部を構成する雄スプライン部と雌スプライン部のうち、一方のスプライン部に捩れ角が付与され、かつ摺動式等速自在継手の未使用状態で、スプライン嵌合部の軸方向一端部にグリースが付着している点をもって特徴付けられる。
【0009】
上記スプライン嵌合部に対するグリースの供給態様がスプライン嵌合部の耐久性に及ぼす影響について、発明者らが鋭意検討した結果、雄スプライン部と雌スプライン部の一方に捩れ角を付与してなるスプライン嵌合部の軸方向一端部にグリースを塗布した状態で回転運動によるトルク伝達を行うことによって、各スプライン部の歯面間にグリースが浸入し、歯面間の潤滑状態が改善されることが判明した。これは、例えば以下のようなメカニズムであると推察される。すなわち、等速自在継手の回転時(トルク伝達時)、一方のスプライン部が他方のスプライン部に押し付けられることで変形を生じる。これにより捩れ角を付与された一方のスプライン部と他方のスプライン部との円周方向隙間がスプライン嵌合部の軸方向一端側(例えば外側継手部材のステム部側)で広がる。一方で、スプライン嵌合部の軸方向他端側では、捩れ角を付与された一方のスプライン部と他方のスプライン部との嵌合により閉塞された状態にある。そのため、トルク伝達に伴い一方のスプライン部が変形することで、スプライン部の歯面間に楔状の負圧空間が発生し、スプライン嵌合部の軸方向一端部に付着した状態のグリースがスプライン部の歯面間に引き込まれる。
【0010】
本発明は上記知見に基づきなされたもので、スプライン嵌合部を構成する雄スプライン部と雌スプライン部の一方に捩れ角を付与すると共に、摺動式等速自在継手の未使用状態において、スプライン嵌合部の軸方向一端部にグリースが付着している状態とした。このように構成することによって、等速自在継手の回転運動時(トルク伝達時)、スプライン嵌合部の軸方向一端部に付着した状態のグリースがスプライン部の歯面間に繰り返し供給される。結果、各歯面にグリースが広く行き渡り、歯面間が良好な潤滑状態に保たれる。従って、スプライン嵌合部の耐久性を向上させて、早期の損傷を防止することが可能となる。
【0011】
また、本発明に係る摺動式等速自在継手において、捩れ角は、10′以上でかつ20′以下であってもよい。
【0012】
スプライン嵌合部を構成する一方のスプライン部の捩れ角を上述の範囲に設定することによって、組付け時における内側継手部材とシャフトとの円滑な嵌合動作を保証しつつも、トルクが繰り返し作用するのに伴うグリースの引き込み作用を十分に享受することが可能となる。
【0013】
また、本発明に係る摺動式等速自在継手において、グリースのちょう度が310以上でかつ340以下であってもよい。
【0014】
摺動式等速自在継手の回転に伴い、外側継手部材の内側空間に充填されたグリースは遠心力を受ける。そのため、流動性の高いグリースであれば、摺動式等速自在継手の回転に伴い容易に外側継手部材の内周面又はブーツなどの密封部材の内周面に向けて流動する。ここで、ちょう度を上述の範囲に調整してなるグリースを用いることで、摺動式等速自在継手の回転に伴う遠心力が生じた場合においても、少なくともスプライン嵌合部の軸方向一端部に付着した状態のグリースが周囲に離散する事態を可及的に防止することができる。従って、本構成によれば、トルクが繰り返し作用する環境下においてグリースの歯面間への引き込み作用を継続的にかつ安定的に発生させることが可能となる。
【0015】
また、前記課題の解決は、本発明に係る摺動式等速自在継手の製造方法によっても達成される。すなわち、この製造方法は、内周面にトラック溝が形成された外側継手部材と、トラック溝に転動可能に配置された転動体と、転動体を介して外側継手部材との間で角度変位及び軸方向変位を許容しながらトルクを伝達する内側継手部材と、内側継手部材と連結されるシャフトと、外側継手部材の内側空間を密封する密封部材とを備え、外側継手部材の内側空間にグリースが充填され、内側継手部材とシャフトとがスプライン嵌合部を介して相互に連結される摺動式等速自在継手の製造方法において、内側継手部材に転動体が保持されると共にシャフトが連結された状態の内側部品を準備する準備工程と、グリースを外側継手部材の内側空間に充填する充填工程と、内側部品を外側継手部材の内側空間に導入して、内側部品を外側継手部材に組付ける第一組付け工程と、内側部品を組付けた状態の外側継手部材に密封部材を組付ける第二組付け工程とを備え、第二組付け工程を実施する前に、スプライン嵌合部の軸方向一端部にグリースを付着させる点をもって特徴付けられる。
【0016】
このように、内側部品(転動体とシャフト、及び内側継手部材の一体品)が組付けられた状態の外側継手部材に密封部材を組付ける前に、内側継手部材とシャフトとのスプライン嵌合部の軸方向一端部にグリースを付着させるようにすれば、未使用状態においてスプライン嵌合部の軸方向一端部にグリースが付着した状態の摺動式等速自在継手が得られる。従って、本発明に係る摺動式等速自在継手と同様、等速自在継手の回転時(トルク伝達時)、捩れ角を設けた一方のスプライン部が変形することで、スプライン部の歯面間に楔状の負圧空間が発生し、スプライン嵌合部の軸方向一端部に付着した状態のグリースがスプライン部の歯面間に引き込まれる。上述した現象がトルク伝達の度に繰り返し生じることで、各歯面にグリースが広く行き渡り、歯面間が良好な潤滑状態に保たれる。従って、本発明に係る摺動式等速自在継手の製造方法によっても、スプライン嵌合部の耐久性を向上させて、早期の損傷を防止することが可能となる。
【0017】
また、本発明に係る摺動式等速自在継手の製造方法において、準備工程で、スプライン嵌合部の軸方向一端部にグリースを塗布してもよい。
【0018】
このように、内側部品を組み立てる準備工程の段階で、スプライン嵌合部の軸方向一端部にグリースを塗布することで、その後の工程を何ら変更することなく容易にグリースを必要箇所に付着させることができる。また、外側継手部材に内側部品を組付ける前であれば、付着箇所の視認が可能であるから、スプライン嵌合部の軸方向一端部にグリースを漏れなく確実に付着させることができる。
【0019】
また、本発明に係る摺動式等速自在継手の製造方法において、充填工程を実施した後、第一組付け工程で、スプライン嵌合部の軸方向一端部が外側継手部材の内側空間に充填された状態のグリースに付着する位置まで、内側部品を外側継手部材の内側空間の底部に向けて移動させてもよい。
【0020】
このようにすれば、従来行っていた第一組付け工程における内側部品の導入動作を利用して、スプライン嵌合部の軸方向一端部にグリースを付着させることができる。よって、内側部品の組付け作業と同時にグリースの付着作業を行うことができ、従来と同等の作業効率を維持した状態でグリースをスプライン嵌合部の軸方向一端部に付着させた摺動式等速自在継手を製造することが可能となる。
【0021】
また、本発明に係る摺動式等速自在継手の製造方法において、第一組付け工程を実施した後に充填工程を実施し、かつ充填工程で、スプライン嵌合部の軸方向一端部にグリースが付着するように、グリースの充填量を調整してもよい。
【0022】
このように、内側部品の組付け後でかつ密封部材の組付け前であれば、例えば外側継手部材と内側部品との隙間から外側継手部材の内側空間に向けてグリースを充填することができる。また、この方法だと、グリースの充填量を調整するだけで(例えば従来よりも多めにグリースを充填するだけの作業で)必要箇所にグリースを容易に付着させることができる。従って、この方法によっても、従来と同等の作業効率を維持した状態でグリースをスプライン嵌合部の軸方向一端部に付着させた摺動式等速自在継手を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
以上より、本発明によれば、摺動式等速自在継手のスプライン嵌合部の歯面間にグリースを供給することができるので、スプライン部が早期に損傷する事態を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る摺動式等速自在継手の断面図である。
【
図2】
図1に示すスプライン嵌合部を平面展開した状態を概念的に示した図である。
【
図3】トルク伝達時における
図1に示すスプライン嵌合部の平面展開図である。
【
図4】本発明の第一実施形態に係る摺動式等速自在継手の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図4に示す準備工程におけるグリースの塗布作業を説明するための断面図である。
【
図6】本発明の第二実施形態に係る摺動式等速自在継手の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【
図7】
図6に示す第一組付け工程におけるグリースの付着作業を説明するための断面図である。
【
図8】本発明の第三実施形態に係る摺動式等速自在継手の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【
図9】
図8に示す充填工程におけるグリースの充填作業を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の第一実施形態を図面に基づき説明する。
【0026】
なお、以下の実施形態において本発明に係る摺動式等速自在継手としては、自動車のドライブシャフトに組み込まれるボールタイプの摺動式等速自在継手を例示する。もちろん、本発明は、ボールタイプに限らず、トリポードタイプの摺動式等速自在継手にも適用可能である。
【0027】
図1は、本発明の第一実施形態に係るダブルオフセット型摺動式等速自在継手10の断面図を示している。この摺動式等速自在継手10は、例えばドライブシャフトのインボード側に配設され、軸方向に延びる断面円弧状のトラック溝11が内周面12の円周方向複数箇所に形成されたマウス部13及びステム部14を有する外側継手部材15と、外側継手部材15のトラック溝11と対をなして軸方向に延びる断面円弧状のトラック溝16が外周面17の円周方向複数箇所に形成された内側継手部材18と、外側継手部材15のトラック溝11と内側継手部材18のトラック溝16との間に介在してトルクを伝達する複数個のボール19と、外側継手部材15の内周面12と内側継手部材18の外周面17との間に配設されてボール19を保持するケージ20とを備える。この場合、内側継手部材18と、ボール19と、ケージ20とで、外側継手部材15の内側空間を継手軸心方向に沿って摺動可能な内部部品21が構成される。
【0028】
また、摺動式等速自在継手10は、外側継手部材15及びシャフト(ここでは中間シャフト)22の外周を覆うブーツ23と、ブーツ23の所定箇所に装着されるブーツバンド24,25とをさらに備える。なお、ここでいうブーツ23が本発明に係る密封部材に相当する。
【0029】
ブーツ23は、大径側端部23aと、小径側端部23bと、大径側端部23aと小径側端部23bとの間に形成され蛇腹形状をなすベローズ23cとを一体に有する。この場合、第一ブーツバンド24をブーツ23の大径側端部23aに装着することで、大径側端部23aが外側継手部材15の開口側端部に固定され、第二ブーツバンド25をブーツ23の小径側端部23bに装着することで、小径側端部23bがシャフト22の外周面22aに固定される。上述のようにブーツ23が外側継手部材15とシャフト22に固定されることで、外側継手部材15の内側空間15aが密封された状態となり、グリースGの外部空間への漏洩が防止され得る。
【0030】
外側継手部材15の内側空間15aには、潤滑剤としてのグリースGが充填される。これにより、外側継手部材15に対してシャフト22が所定の範囲内で作動角をとりながら回転する際、摺動式等速自在継手10の摺動部における所要の潤滑性を確保可能としている。なお、
図1では、所定回転した後のグリースGの分布状態(
図1中、散点模様で示す部分)を示している。すなわち、摺動式等速自在継手10の回転により、外側継手部材15の内側空間15aに充填されたグリースGは、回転に伴う遠心力を受けて径方向外側に流動する。その結果、
図1に示すように、主に外側継手部材15の内周面12(トラック溝11)上、及びブーツ23のベローズ23c内周面上にグリースGの大部分が流動した状態にある。
【0031】
内側継手部材18とシャフト22の一端部とはスプライン嵌合部26を介して相互に連結されている。シャフト22の他端部は、固定式等速自在継手の内側継手部材と例えばスプライン嵌合部(何れも図示は省略)を介して相互に連結されている。
【0032】
スプライン嵌合部26は、複数の雄スプライン部27と、複数の雌スプライン部28とで構成される。雄スプライン部27は、シャフト22の軸方向一端部外周に設けられ、雌スプライン部28は、内側継手部材18の内周に設けられる。シャフト22の軸方向一端部を内側継手部材18の内周に挿入することで、雄スプライン部27と雌スプライン部28とが嵌合され、内側継手部材18とシャフト22とが相互に連結される。本実施形態では、雄スプライン部27が、シャフト22の軸方向一端部の外周全域にわたって設けられると共に、雌スプライン部28が、内側継手部材18の内周全域にわたって設けられており、これにより雄スプライン部27と雌スプライン部28とが全周にわたって嵌合している。また、本実施形態では、シャフト22の外周面22aのうち雄スプライン部27の軸方向一端部27aと軸方向に少し離れた位置に周方向溝29が形成されており、この周方向溝29に止め輪30が装着されている。これにより、シャフト22の内側継手部材18に対する軸方向の移動が止め輪30により規制され得る。
【0033】
図2は、スプライン嵌合部26を平面展開した状態を概念的に示した図である。
図2に示すように、雄スプライン部27と雌スプライン部28の一方(ここでは雄スプライン部27)に、所定の捩れ角θが付与されている。本実施形態では、外側継手部材15側からトルクの入力があった場合、ボール19を介して内側継手部材18が
図2中の上方向に回転(移動)した結果、雄スプライン部27の軸方向一端部27a(ここでは、シャフト22のインボード側端部)が押圧される。言い換えると、トルク伝達時、雄スプライン部27の軸方向一端部27aが押圧されて変形するように、雄スプライン部27の捩れ方向が設定されている。なお、後述のように、雌スプライン部28に対する雄スプライン部27の実際の捩れ角θはごくわずか(視認することが難しいレベルの大きさ)であるから、
図2及び
図3では実際の捩れ角θよりも誇張して描いている。また、同様の理由で、長手方向寸法に対する円周方向寸法の比も大きく描いている。
【0034】
ここで、捩れ角θの大きさは原則として任意であり、例えば後述する負圧発生効果を考慮した場合、捩れ角θは5′以上に設定され、より好ましくは10′以上に設定される。その一方で、雄スプライン部27と雌スプライン部28との嵌合のし易さを考慮した場合、捩れ角θは30′以下に設定され、より好ましくは20′以下に設定される。
【0035】
上記構成のスプライン嵌合部26の軸方向一端部26a(
図1でいえば、マウス部13の底部13aに近い側の端部)には、グリースGが付着している。このグリースGは、少なくとも未使用状態においてスプライン嵌合部26の軸方向一端部26aに付着している。本実施形態では、
図1中の拡大図に示すように、シャフト22の周方向溝29に取付けられた止め輪30と、内側継手部材18との間に軸方向の隙間が形成されている。そのため、例えば後述するグリース付着工程S5で比較的容易にグリースGをスプライン嵌合部26の軸方向一端部26aに供給して付着させることが可能となる。
【0036】
なお、図示は省略するが、止め輪30の強度に特に問題がないようであれば、止め輪30に複数の切り欠き部を設けて、シャフト22の軸端側(
図1でいえば右側)から、スプライン嵌合部26の軸方向一端部26aが視認できるようにしてもよい。このようにすることで、軸方向一端部26aによりグリースGを付着させ易くなり、選択可能なグリースGの付着手段が増える。
【0037】
グリースGとしては、およそ摺動式等速自在継手10に適用可能な範囲で公知の種類のグリースが制限なく使用可能である。ここで、摺動式等速自在継手10の回転時、例えばスプライン嵌合部26の軸方向一端部26aに付着したグリースGの遠心力による飛散のし難さを考慮した場合、ちょう度が310以上でかつ340以下に調整されたグリースが好適である。
【0038】
以下、上記構成の摺動式等速自在継手10の製造方法の一例(本発明の第一実施形態)を主に
図4及び
図5に基づいて説明する。
【0039】
図4は、本発明の第一実施形態に係る摺動式等速自在継手10の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図4に示すように、本実施形態に係る摺動式等速自在継手10の製造方法は、準備工程S1と、充填工程S2と、第一組付け工程S3と、第二組付け工程S4と、グリース付着工程S5とを備える。以下、各工程S1~S5の詳細を時系列順に説明する。
【0040】
(S1)準備工程
(S5)グリース付着工程
本工程S1では、内側継手部材18にボール19が保持されかつシャフト22が連結された状態の内側部品21を準備する(準備工程S1)。具体的には、
図5に示すように、ポケットにボール19を収容した状態のケージ20を内側継手部材18の外周に取付ける。また、内側継手部材18の内周にシャフト22の軸方向一端部を挿入して、雄スプライン部27を雌スプライン部28に嵌合した後、止め輪30を装着する。これにより、複数のボール19が内側継手部材18に対して転動可能に保持されると共にシャフト22が内側継手部材18に対して動力伝達可能に連結された状態の内側部品21が得られる。
【0041】
なお、上述した嵌合動作は、雄スプライン部27と雌スプライン部28との間に所定の締め代又は非常に小さな隙間を伴った状態で行われる。これにより、内側継手部材18に対するシャフト22の固定強度が担保される。
【0042】
また、内側部品21の組立て後、所定の位置及び姿勢に内側部品21を保持した状態で、内側継手部材18とシャフト22との間のスプライン嵌合部26の軸方向一端部26aにグリースGを付着させる(グリース付着工程S5)。本実施形態では、
図5に示すように、グリース塗布装置のノズル40を、内側部品21のスプライン嵌合部26に対応する半径方向位置に配置した状態で、ノズル40又は内側部品21をシャフト22の中心軸線まわりに回転させながら、ノズル40からグリースGを吐出する。これにより、全てのスプライン嵌合部26の軸方向一端部26aにグリースGが塗布され、付着した状態となる。
【0043】
なお、上述したグリース付着工程S5において、準備工程S1で止め輪30を装着する前の状態の内側部品21(図示は省略)に対して、ノズル40からグリースGをスプライン嵌合部26に塗布してもよい。
【0044】
(S2)充填工程
本工程S2では、内側部品21を組付ける前の外側継手部材15の内側空間15aにグリースGを充填する(図示は省略)。この際、グリースGの充填量は、摺動式等速自在継手10の種類、用途等に応じて従来通りの適切な値に設定される。
【0045】
(S3)第一組付け工程
本工程S3では、スプライン嵌合部26の一部にグリースGを付着させた内側部品21を、グリースGを充填した状態の外側継手部材15の内側空間15aに導入して、内側部品21を外側継手部材15に組付ける(図示は省略)。
【0046】
(S4)第二組付け工程
本工程S4では、第一組付け工程S3で得た内側部品21と外側継手部材15との一体品に、さらに密封部材としてのブーツ23を取付ける。具体的には、上述のように、第一ブーツバンド24の装着によりブーツ23の大径側端部23aを外側継手部材15の開口側端部に固定し、第二ブーツバンド25の装着によりブーツ23の小径側端部23bをシャフト22の外周面22aに固定することにより、外側継手部材15の内側空間15aを含む摺動式等速自在継手10の内部空間が密封された状態となる。これにより、
図1に示す摺動式等速自在継手10が完成する。
【0047】
以下、本実施形態に係る摺動式等速自在継手10の作用効果を説明する。
【0048】
まず
図1に示す摺動式等速自在継手10が回転していない状態(トルクが作用していない状態)では、
図2に示すように、雄スプライン部27は、厳密には、その軸方向両端部27a,27bで雌スプライン部28と嵌合し、スプライン嵌合部26を形成している。この際、スプライン嵌合部26の軸方向一端部26a(
図2でいえば右側端部)にはグリースGが付着している。
【0049】
そして、摺動式等速自在継手10の回転時(トルク伝達時)、外側継手部材15からボール19を介して内側継手部材18に所定方向のトルクT(
図3中の矢印で示す向き)が伝達されると、このトルクTにより、シャフト22の雄スプライン部27は内側継手部材18の雌スプライン部28からトルクTと同じ向きに押圧される。これにより、雄スプライン部27の軸方向一端部27aが変形し、雄スプライン部27の歯面27cが軸方向一端部27aの側で大きく雌スプライン部28の歯面28cと密着した結果、雄スプライン部27と雌スプライン部28との円周方向間隔Wがスプライン嵌合部26の軸方向一端部26a側から軸方向中間領域側にかけて広がる。一方で、スプライン嵌合部26の軸方向他端部26b側では、捩れ角θを付与された雄スプライン部27と雌スプライン部28との嵌合(密着)により閉塞された状態にある。そのため、トルク伝達に伴い雄スプライン部27が変形することで、雄スプライン部27と雌スプライン部28の歯面27c,28c間に楔状の負圧空間Sが発生する。ここで、スプライン嵌合部26の軸方向一端部26aにはグリースGが付着している。そのため、負圧空間Sの発生に伴い、軸方向一端部26aに付着した状態のグリースGが雌雄のスプライン部27,28の歯面27c,28c間に引き込まれる。
【0050】
以上のようにして、トルク伝達の度に、スプライン嵌合部26の軸方向一端部26aに付着した状態のグリースGが各スプライン部27,28の歯面27c,28c間に繰り返し供給された結果、各歯面27c,28cにグリースGが広く行き渡り、歯面27c,28c間が良好な潤滑状態に保たれる。従って、本実施形態に係る摺動式等速自在継手10によれば、スプライン嵌合部26の耐久性を向上させて、早期の損傷を防止することが可能となる。
【0051】
また、本実施形態に係る摺動式等速自在継手10の製造方法では、内側部品21を準備する準備工程S1の段階で、スプライン嵌合部26の軸方向一端部26aにグリースGを塗布したので、その後の工程S2~S4を従来と何ら変更することなく容易にグリースGを必要箇所(軸方向一端部26a)に付着させることができる。また、外側継手部材15に内側部品21を組付ける前(第一組付け工程S3の前)であれば、付着箇所の視認が可能であるから(
図5を参照)、スプライン嵌合部26の軸方向一端部26aにグリースGを漏れなく確実に付着させることができる。また、ノズル40をスプライン嵌合部26の軸方向一端部26aに向けて配置し、摺動式等速自在継手10の中心軸線まわりに摺動式等速自在継手10又はノズル40を回転(軸回転)させながらグリースGを吐出することにより、全てのスプライン嵌合部26の軸方向一端部26aに対して漏れなくかつ簡易にグリースGを塗布することができる。
【0052】
また、準備工程S1の中で、グリースGをスプライン嵌合部26の軸方向一端部26aに付着させるのであれば、上述のように、止め輪30を装着する前にグリースGを付着させることも有効である。止め輪30がない状態であれば、より容易にグリースGを付着させることができる一方、内側部品21の準備段階であるため、グリースGの付着後に止め輪30を容易に装着することが可能となる。
【0053】
以上、本発明の第一実施形態を説明したが、本発明に係る摺動式等速自在継手及びその製造方法は上記例示の形態に限定されることなく、本発明の範囲内において任意の形態を採り得る。
【0054】
図6は、本発明の第二実施形態に係る摺動式等速自在継手10の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図6に示すように、本実施形態における摺動式等速自在継手10の製造方法は、第一実施形態と同様、準備工程S1と、充填工程S2と、第一組付け工程S3と、第二組付け工程S4と、グリース付着工程S5とを備える。一方で、グリース付着工程S5の実施段階が第一実施形態と相違する。以下、第一実施形態との相違点を中心に各工程S1~S5の詳細を時系列順に説明する。
【0055】
(S1)準備工程
本工程S1では、第一実施形態と同様にして、内側継手部材18にボール19が保持されかつシャフト22が連結された状態の内側部品21を準備する。これにより、複数のボール19が内側継手部材18に対して転動可能に保持されると共にシャフト22が内側継手部材18に対して動力伝達可能に連結された状態の内側部品21が得られる。
【0056】
(S2)充填工程
本工程S2では、内側部品21を組付ける前の外側継手部材15の内側空間15aにグリースGを充填する(図示は省略)。本実施形態においても、グリースGの充填量は、摺動式等速自在継手10の種類、用途等に応じて従来通りの適切な値に設定される。
【0057】
(S3)第一組付け工程
(S5)グリース付着工程
本工程S3では、準備工程S1で準備した内側部品21を、グリースGを充填した状態の外側継手部材15の内側空間15aに導入して、内側部品21を外側継手部材15に組付ける。
【0058】
この際、外側継手部材15の内側空間15aには所定量のグリースGが充填された状態にある。そのため、この外側継手部材15を
図7に示す姿勢で保持した場合、内側空間15aに充填されたグリースGの液面Ga位置は、常に同じ外側継手部材15の軸線方向位置となる(
図7を参照)。よって、この際、内側部品21の導入深さ位置(ここでは軸線方向位置)を管理することで、スプライン嵌合部26の軸方向一端部26aをグリースGの液面Ga位置又は液面Gaよりもマウス部13の底部13aに近い位置まで移動させる(
図7中、実線で示す位置)。これにより、視認できない状態であっても、毎回確実にグリースGをスプライン嵌合部26の軸方向一端部26aに付着させることが可能となる。
【0059】
なお、組付け完了時の基準位置が定まっている場合には、一旦グリースGが付着する位置まで内側部品21を移動させた後、グリースG付着時とは逆向きに移動させて基準位置まで内側部品21を戻せばよい。
【0060】
また、グリースGのちょう度によっては、外側継手部材15の軸線方向を鉛直方向に一致させた状態で外側継手部材15を保持し、この姿勢の外側継手部材15に内側部品21を上方から下方に向けて導入し、かつグリースGの液面Ga位置又は液面Gaよりも下方位置にまで内側部品21を移動させることによって、グリースGをスプライン嵌合部26の軸方向一端部26aに付着させてもよい。
【0061】
(S4)第二組付け工程
本工程S4では、第一実施形態と同様に、第一組付け工程S3で得た内側部品21と外側継手部材15との一体品に、さらに密封部材としてのブーツ23を取付ける。これにより、外側継手部材15の内側空間15aを含む摺動式等速自在継手10の内部空間が密封された状態となる。これにより、
図1に示す摺動式等速自在継手10が完成する。
【0062】
上述したように、本実施形態に係る摺動式等速自在継手10の製造方法では、充填工程S2を実施した後、第一組付け工程S3で、スプライン嵌合部26の軸方向一端部26aが外側継手部材15の内側空間15aに充填された状態のグリースGに付着する位置まで、内側部品21を外側継手部材15のマウス部13の底部13aに向けて移動させるようにしたので、従来行っていた第一組付け工程S3における内側部品21の導入動作を利用して、スプライン嵌合部26の軸方向一端部26aにグリースGを付着させることができる。よって、内側部品21の組付け作業と同時にグリースGの付着作業を行うことができ、従来と同等の作業効率を維持した状態でグリースGをスプライン嵌合部26の軸方向一端部26aに付着させた摺動式等速自在継手10を製造することが可能となる。
【0063】
図8は、本発明の第三実施形態に係る摺動式等速自在継手10の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図8に示すように、本実施形態における摺動式等速自在継手10の製造方法は、第一及び第二実施形態と同様、準備工程S1と、充填工程S2と、第一組付け工程S3と、第二組付け工程S4と、グリース付着工程S5とを備える。一方で、グリース付着工程S5の実施段階が第一実施形態と第二実施形態の何れとも相違する。以下、第一及び第二実施形態との相違点を中心に各工程S1~S5の詳細を時系列順に説明する。
【0064】
(S1)準備工程
本工程S1では、本発明の第一及び第二実施形態と同様に、内側継手部材18にボール19が保持されかつシャフト22が連結された状態の内側部品21を準備する。これにより、複数のボール19が内側継手部材18に対して転動可能に保持されると共にシャフト22が内側継手部材18に対して動力伝達可能に連結された状態の内側部品21が得られる。
【0065】
(S3)第一組付け工程
本工程S3では、本発明の第一及び第二実施形態と同様に、準備工程S1で準備した内側部品21を、グリースGを充填した状態の外側継手部材15の内側空間15aに導入して、内側部品21を外側継手部材15に組付ける。これにより、内側部品21と外側継手部材15との一体品が得られる。この時点では、スプライン嵌合部26の軸方向一端部26aに未だグリースGは付着していない。
【0066】
(S2)充填工程
(S5)グリース付着工程
本工程S2では、内側部品21を組付けた状態の外側継手部材15の内側空間15aにグリースGを充填する。ここで、内側部品21が外側継手部材15の所定の軸線方向位置に配置されている場合、所定の軸線方向位置にある内側部品21のスプライン嵌合部26の軸方向一端部26aにグリースGが付着可能なように、グリースGの充填量を設定する。本実施形態では、
図9に示すように、摺動式等速自在継手10の取付け先(例えば自動車のドライブシャフト)に応じて設定される軸線方向基準位置に内側部品21が配置される場合、この内側部品21のスプライン嵌合部26の少なくとも軸方向一端部26aにまでグリースGが到達するように、グリースGを充填する。
図9に示す例では、内側部品21が軸線方向基準位置に配置された状態において、ボール19中心の軸線方向位置までグリースGが充填された状態を示している。これにより、視認できない状態であっても、毎回確実にグリースGをスプライン嵌合部26の軸方向一端部26aに付着させることが可能となる。
【0067】
また、本実施形態においても、グリースGのちょう度によっては、外側継手部材15の軸線方向を鉛直方向に一致させた状態で外側継手部材15と内側部品21との一体品を保持し、この姿勢の外側継手部材15の内側空間15aに上述した量のグリースGを充填することによって、グリースGをスプライン嵌合部26の軸方向一端部26aに付着させてもよい。
【0068】
(S4)第二組付け工程
本工程S4では、第一及び第二実施形態と同様に、第一組付け工程S3で得た内側部品21と外側継手部材15との一体品に、さらに密封部材としてのブーツ23を取付ける。これにより、外側継手部材15の内側空間15aを含む摺動式等速自在継手10の内部空間が密封された状態となる。これにより、
図1に示す摺動式等速自在継手10が完成する。
【0069】
以上述べたように、本実施形態に係る摺動式等速自在継手10の製造方法では、第一組付け工程S1を実施した後に充填工程S2を実施し、かつ充填工程S2で、スプライン嵌合部26の軸方向一端部26aにグリースGが付着するように、グリースGの充填量を調整した。このように、内側部品21の組付け後でかつブーツ23の組付け前であれば、外側継手部材15と内側部品21との隙間又は内側部品21を構成する部品間の隙間から、外側継手部材15の内側空間15aに向けて、より正確には、内側空間15aのうち内側部品21よりも底部13aに近い側の領域にグリースGを充填することができる。また、この方法だと、グリースGを従来よりも多めに充填するだけの作業で、スプライン嵌合部26の軸方向一端部26aにグリースGを容易に付着させることができる。従って、この方法によっても、従来と同等の作業効率を維持した状態でグリースGをスプライン嵌合部26の軸方向一端部26aに付着させた摺動式等速自在継手10を製造することが可能となる。
【0070】
なお、本発明に係る摺動式等速自在継手10の製造方法は、上述した方法には限られない。要は、第二組付け工程S4でブーツ23を外側継手部材15とシャフト22に取付ける前に、グリースGをスプライン嵌合部26の軸方向一端部26aに付着させ得る限りにおいて、任意のグリース付着手段を採用することが可能である。
【符号の説明】
【0071】
10 摺動式等速自在継手
11 トラック溝
12 内周面
13 マウス部
13a 底部
14 ステム部
15 外側継手部材
15a 内側空間
16 トラック溝
17 外周面
18 内側継手部材
19 ボール
20 ケージ
21 内側部品
22 シャフト
22a 外周面
23 ブーツ
23a 大径側端部
23b 小径側端部
23c ベローズ
24,25 ブーツバンド
26 スプライン嵌合部
26a 軸方向一端部
26b 軸方向他端部
27 雄スプライン部
27a 軸方向一端部
27b 軸方向他端部
27c,28c 歯面
28 雌スプライン部
29 周方向溝
30 止め輪
40 ノズル
G グリース
Ga 液面
S 負圧空間
S1 準備工程
S2 充填工程
S3 第一組付け工程
S4 第二組付け工程
S5 グリース付着工程
T トルク
W 円周方向間隔
θ 捩れ角