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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183780
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】摺動式等速自在継手
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/227 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
F16D3/227 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097480
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大輝
(72)【発明者】
【氏名】杉山 達朗
(72)【発明者】
【氏名】小林 正純
(57)【要約】      (修正有)
【課題】鍛造、熱処理の実用精度レベルを基に、外側継手部材のトラック溝のPCD寸法に対する内側継手部材の選択組合せの実用を可能にし、かつ、耐久性、強度、NVH特性を確保できるダブルオフセット型の摺動式等速自在継手を提供すること。
【解決手段】ケージ5の球状外周面の曲率中心と球状内周面の曲率中心が、継手中心に対して軸方向の反対側にオフセットした摺動式等速自在継手1において、外側継手部材2のトラック溝7の継手軸方向のスライド範囲中央部Cに対して奥側に10mmから開口側に10mmの範囲を中央範囲Wとし、当該中央範囲Wに、外側継手部材2のトラック溝7のPCDが最小となる部位7aを形成し、中央範囲Wにおけるトラック溝7、9のPCDすきまΔの最小値を0.010mm~0.100mmとすると共に、中央範囲Wにおける外側継手部材2のトラック溝7のPCD相互差を0.150mm以下としたことを特徴とする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状内周面に直線状の複数のトラック溝が軸方向に沿って形成された外側継手部材と、球状外周面に前記外側継手部材の直線状の複数のトラック溝に対向する直線状の複数のトラック溝が軸方向に沿って形成された内側継手部材と、前記外側継手部材の直線状の複数のトラック溝と前記内側継手部材の直線状の複数のトラック溝間に組込まれた複数のトルク伝達ボールと、前記トルク伝達ボールをポケットに収容し、前記外側継手部材の円筒状内周面と前記内側継手部材の球状外周面に接触案内される球状外周面と球状内周面を有するケージとからなり、前記ケージの球状外周面の曲率中心と球状内周面の曲率中心が、継手中心に対して軸方向の反対側にオフセットした摺動式等速自在継手において、
前記外側継手部材のトラック溝の継手軸方向のスライド範囲中央部に対して奥側に10mmから開口側に10mmの範囲を中央範囲とし、当該中央範囲に、前記外側継手部材のトラック溝のPCDが最小となる部位を形成し、
前記中央範囲におけるトラック溝のPCDすきまの最小値を0.010mm~0.100mmとすると共に、
前記中央範囲における前記外側継手部材のトラック溝のPCD相互差を0.150mm以下としたことを特徴とする摺動式等速自在継手。
【請求項2】
前記中央範囲を除く領域における各トラック溝のPCD相互差を0.170mm以下としたことを特徴とする請求項1に記載の摺動式等速自在継手。
【請求項3】
前記トラック溝が塑性加工で成形された表面であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の摺動式等速自在継手。
【請求項4】
前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝のそれぞれと前記トルク伝達ボールとがアンギュラコンタクトしたことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の摺動式等速自在継手。
【請求項5】
前記複数のトルク伝達ボールの個数を6~8個としたことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の摺動式等速自在継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械などの動力伝達系、例えば、自動車のドライブシャフトやプロペラシャフトに使用される摺動式等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のドライブシャフトに適用される等速自在継手には、大別すると、2軸間の角度変位のみを許容する固定式等速自在継手と、角度変位および軸方向変位を許容する摺動式等速自在継手がある。自動車のドライブシャフトは、通常、駆動車輪側(アウトボード側ともいう)に固定式等速自在継手が用いられ、デファレンシャル側(インボード側ともいう)に摺動式等速自在継手が用いられ、これらの2つの等速自在継手を中間シャフトで連結して構成されている。等速自在継手は、それぞれ使用条件や用途などに応じて各種選択される。
【0003】
摺動式等速自在継手としては、ダブルオフセット型等速自在継手(DOJ)やトリポード型等速自在継手(TJ)が代表的である。DOJタイプの摺動式等速自在継手は、製造コストが安価なことや、継手内部の回転方向ガタが少ないことで広く用いられている。また、DOJタイプの摺動式等速自在継手は、ボールの個数が6個のものや8個のものが知られており、特許文献1には、ボール個数を8個としたコンパクトな設計のDOJが記載され、特許文献2には、作動角の高角化と、より軽量・コンパクト化を図った、最大作動角が30°以上とれるDOJが記載されている。
【0004】
DOJタイプの摺動式等速自在継手は、円筒状内周面に直線状の複数のトラック溝が軸方向に沿って形成された外側継手部材と、球状外周面に外側継手部材の直線状の複数のトラック溝に対向する直線状の複数のトラック溝が軸方向に沿って形成された内側継手部材と、外側継手部材の直線状の複数のトラック溝と内側継手部材の直線状の複数のトラック溝間に組込まれた複数のトルク伝達ボールと、トルク伝達ボールをポケットに収容し、外側継手部材の円筒状内周面と内側継手部材の球状外周面に接触案内される球状外周面と球状内周面を有するケージとからなり、ケージの球状外周面の曲率中心と球状内周面の曲率中心が、継手中心に対して軸方向の反対側にオフセットした構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-73129号公報
【特許文献2】特開2007-85488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
DOJタイプの摺動式等速自在継手は、製造コストを安価にするために、外側継手部材のカップ部内および内側継手部材のトラック溝を冷間鍛造で仕上げ、熱処理後、カップ部内および内側継手部材のトラック溝を研削加工等による仕上げ加工を施さないことが一般的である。そのため、冷間鍛造の精度の影響に加えて、さらに、トラック溝の熱処理によって生じる熱処理変形により、外側継手部材、内側継手部材のトラック溝のピッチ円直径PCDは、トラック溝間でばらつきが生じる。トラック溝のピッチ円直径PCD(以下、単にPCDともいう)は、トラック溝にトルク伝達ボールを押し付けたときの継手直径上のボールの中心間距離である。トラック溝間において、PCDの最大値と最小値とに差が生じる。このトラック溝間のPCDの最大値と最小値の差をPCD相互差という。
【0007】
PCD相互差は、トラック溝とボールとの間のトラックすきまであるPCDすきまのばらつきに影響する。つまり、トラック溝間において、PCDすきまの最大値と最小値の差に影響を及ぼす。このPCDすきまのトラック溝間の最大値と最小値の差をPCDすきまの相互差ともいう。
【0008】
PCDすきまの相互差が過大になると、トルク負荷時にトラック溝間で均等に荷重を受けられない可能性がある。その結果、特定のトラック溝で集中的に荷重を受けるため、耐久性、強度、NVH特性が悪化する恐れがある。
【0009】
また、工程上では、適正なPCDすきまを確保するために、外側継手部材のトラック溝のPCD寸法に応じて内側継手部材を選択組合せすることが一般的である。この選択組合せの効率的な実用を可能にすることが生産性、製造コストの面で重要である。
【0010】
上記のような問題に鑑み、本発明は、鍛造、熱処理の実用精度レベルを基に、外側継手部材のトラック溝のPCD寸法に対する内側継手部材の選択組合せの実用を可能にし、かつ、耐久性、強度、NVH特性を確保できるダブルオフセット型の摺動式等速自在継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の目的を達成するために、(a)鍛造、熱処理の限界にある精度、(b)トラック溝のPCD寸法に対する内側継手部材の選択組合せの効率的な実用の可能性、(c)耐久性、強度、NVH特性(振動特性)の確保という多面的な項目を種々検討した。その結果、ダブルオフセット型の摺動式等速自在継手を装着した実車で最も使用頻度の高いスライド範囲であるトラック溝の継手軸方向の中央範囲における円周方向ガタに焦点を当ることが解決の鍵になることに到達し、当該中央範囲におけるPCDすきまの最小値およびPCD相互差を設定するという新たな着想により、本発明に至った。
【0012】
前述の目的を達成する技術的手段として、本発明は、円筒状内周面に直線状の複数のトラック溝が軸方向に沿って形成された外側継手部材と、球状外周面に前記外側継手部材の直線状の複数のトラック溝に対向する直線状の複数のトラック溝が軸方向に沿って形成された内側継手部材と、前記外側継手部材の直線状の複数のトラック溝と前記内側継手部材の直線状の複数のトラック溝間に組込まれた複数のトルク伝達ボールと、前記トルク伝達ボールをポケットに収容し、前記外側継手部材の円筒状内周面と前記内側継手部材の球状外周面に接触案内される球状外周面と球状内周面を有するケージとからなり、前記ケージの球状外周面の曲率中心と球状内周面の曲率中心が、継手中心に対して軸方向の反対側にオフセットした摺動式等速自在継手において、前記外側継手部材のトラック溝の継手軸方向のスライド範囲中央部に対して奥側に10mmから開口側に10mmの範囲を中央範囲とし、当該中央範囲に、前記外側継手部材のトラック溝のPCDが最小となる部位を形成し、前記中央範囲におけるトラック溝のPCDすきまの最小値を0.010mm~0.100mmとすると共に、前記中央範囲における前記外側継手部材のトラック溝のPCD相互差を0.150mm以下としたことを特徴とする。上記の構成により、鍛造、熱処理の実用精度レベルを基に、外側継手部材のトラック溝のPCD寸法に対する内側継手部材の選択組合せの実用を可能にし、かつ、耐久性、強度、NVH特性を確保できるダブルオフセット型の摺動式等速自在継手を実現することができる。
【0013】
具体的には、上記の中央範囲を除く領域における前記外側継手部材のトラック溝のPCD相互差を0.170mm以下としたことにより、継手を車両に組み付ける際や、走行中の路面状況により車両が突き上げられた際等に、ボールがトラック溝内を不要な干渉なく滑らかにスライドすることができる。
【0014】
上記トラック溝が塑性加工で成形された表面であることにより、製造コストを安価にすることができる。
【0015】
上記の外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝のそれぞれとトルク伝達ボールとの接触をアンギュラコンタクトにしたことにより、円周方向ガタを確実に抑制することができる。
【0016】
上記複数のトルク伝達ボールの個数を6~8個としたことにより、自動車や各種産業機械などの動力伝達系に好適なダブルオフセット型の摺動式等速自在継手を構成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、鍛造、熱処理の実用精度レベルを基に、外側継手部材のトラック溝のPCD寸法に対する内側継手部材の選択組合せの実用を可能にし、かつ、耐久性、強度、NVH特性を確保できるダブルオフセット型の摺動式等速自在継手を実現することができる。
【0018】
本発明によれば、円周方向ガタを抑制しNVH特性を確保できるため、特に回転トルクの伝達応答性の向上と、静粛性の向上が求められるモータ駆動の電動自動車により好適なダブルオフセット型の摺動式等速自在継手を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施形態に係る摺動式等速自在継手の縦断面図で、図2のB-N-B線における縦断面図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る摺動式等速自在継手の横断面図で、図1のA-A線における横断面図である。
図3図2のB-N線における1つのトラック溝、トルク伝達ボールおよびケージを拡大して示す横断面図である。
図4図1のスライド範囲中央部を示す縦断面図である。
図5図4のスライド範囲中央部を解説する模式図である。
図6】本実施形態の摺動式等速自在継手のトラック溝間のPCDのばらつきを説明する横断面図である。
図7】外側継手部材のトラック溝のPCD相互差を測定する測定機の概要図である。
図8】内側継手部材のトラック溝のPCD相互差を測定する測定機の概要図である。
図9】(a)図は外側継手部材のトラック溝のPCDの最小値を測定する測定機の概要図で、(b)図は、外側継手部材のトラック溝のPCDの最小値を測定する原理図である。
図10】内側継手部材のトラック溝のPCDの最大値を測定する測定機の概要図で、(a)図は平面図あり、(b)図は部分縦断面を有する正面図である。
図11】内側継手部材のトラック溝のPCDの最大値を測定する原理図である。
図12】本発明の第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手の縦断面図で、図13のB-N-B’線における縦断面図である。
図13】本発明の第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手の横断面図で、図12のA-A線における横断面図である。
図14】本発明の第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手の内側組立体の第1の変形例の縦断面図である。
図15】本発明の第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手の内側組立体の第2の変形例の縦断面図である。
図16図15のE部の拡大図である。
図17】本発明の第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手の内側組立体の第3の変形例の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の第1の実施形態に係るダブルオフセット型の摺動式等速自在継手を図1図11に基づいて説明する。図1は、本実施形態の摺動式等速自在継手の縦断面図で、図2のB-N-B線における縦断面図である。図2は、本実施形態の摺動式等速自在継手の横断面図で、図1のA-A線における横断面図である。図3は、図2のB-N線における1つのトラック溝、トルク伝達ボールおよびケージを拡大して示す横断面図である。
【0021】
図1図2に示すように、摺動式等速自在継手1は、いわゆる、ダブルオフセット型の摺動式等速自在継手(DOJと略称することもある。)であり、外側継手部材2、内側継手部材3、トルク伝達ボール4およびケージ5を主な構成とする。外側継手部材2の円筒状内周面6には、8本のトラック溝7が円周方向に等間隔で、かつ軸方向に沿って直線状に形成されている。内側継手部材3の球状外周面8には、外側継手部材2のトラック溝7と対向するトラック溝9が円周方向に等間隔で、かつ軸方向に沿って直線状に形成されている。外側継手部材2のトラック溝7と内側継手部材3のトラック溝9との間に8個のトルク伝達ボール(以下、単にボールともいう)4が1個ずつ組み込まれている。ボール4はケージ5のポケット5aに収容されている。
【0022】
ケージ5は、球状外周面11と球状内周面12を有し、球状外周面11は外側継手部材2の円筒状内周面6と嵌合して接触案内され、球状内周面12は内側継手部材3の球状外周面8と嵌合して接触案内される。ケージ5の球状外周面11は曲率中心をO1とする曲率半径Rc1で形成され、球状内周面12は曲率中心をO2とする曲率半径Rc2で形成されている。内側継手部材3の球状外周面8は曲率中心をO2とする曲率半径Riで形成されている。曲率中心O1、O2は、軸線N上に位置し、継手中心Oに対して軸方向の反対側に等距離Fでオフセットされている。これにより、継手が作動角を取った場合、外側継手部材2と内側継手部材3の両軸線がなす角度を二等分する平面上にボール4が常に案内され、二軸間が等速回転で伝達される。
【0023】
外側継手部材2の開口側端部に止め輪溝15が設けられ、この止め輪溝15に止め輪17が装着されて、図1に示す内側継手部材3、ボール4、ケージ5からなる内側組立体Iが、外側継手部材2の開口側端部から抜け出すのを防止する。外側継手部材2の開口側端部の外周にブーツ装着溝16が設けられている。外側継手部材2の反開口側にはステム部(軸部)2bが一体に形成され、デファレンシャル(図示省略)に連結される。
【0024】
内側継手部材3の球状外周面8に直線状のトラック溝9が形成されているので、内側継手部材3の軸方向の中心から両端に行くにつれてトラック溝9の溝深さが浅くなる。内側継手部材3の連結孔13にスプライン(セレーションを含む、以下同じ)14が形成され、中間シャフト(図示省略)の軸端部がスプライン嵌合され、内側継手部材3に対して、中間シャフト肩部と止め輪(図示省略)によって軸方向に固定される。
【0025】
図1のA-A線で示すケージ5の軸方向中心に8個のポケット5aが円周方向に等間隔で設けられ、隣接するポケット5a間は柱部5b(図2参照)となっている。ケージ5の大径側端部の内周に内側継手部材3を組み込むための切欠き5cが設けられている。ケージ5のストッパ面5dは、球状外周面11に接線として接続する円すい状に形成されている。本実施形態の摺動式等速自在継手1では、最大作動角は、例えば25°に設定されている。ケージ5は、継手が作動角を取った場合、外側継手部材2と内側継手部材3の両軸線がなす角度の半分だけ傾くので、ストッパ面5dの傾斜角度Sは12.5°に設定されている。これにより、摺動式等速自在継手1の最大許容角度を規制することができる。
【0026】
図3に基づいて、外側継手部材2のトラック溝7、内側継手部材3のトラック溝9とトルク伝達ボール4とのアンギュラ接触、トラック溝7、9のPCDおよびPCDすきまを説明する。図3は、図2のB-N線における1つのトラック溝7、9、トルク伝達ボール4およびケージ5を示す。外側継手部材2のトラック溝7と内側継手部材3のトラック溝9の横断面は、2つの円弧を組合せたゴシックアーチ形状に形成されている。このため、ボール4は、トラック溝7、9に対して各2つの点C1、C2、C3、C4でアンギュラコンタクトする。トラック溝7、9の横断面形状は、前述したゴシックアーチ形状に限られず、楕円形状であってもよい。
【0027】
図3に示すように、外側継手部材2のトラック溝7のピッチ円直径と内側継手部材3のトラック溝9のピッチ円直径を区別して表記する場合は、外側継手部材2のトラック溝7のピッチ円直径をToPCDと表記し、内側継手部材3のトラック溝9のピッチ円直径をTiPCDと表記する。ToPCDは、TiPCDより、中央値で例えば、0.050mm程度大きく設定されている。その結果、トルク伝達ボール4の中心Obは、ToPCDとTiPCDとの間の径方向中間に位置し、無負荷状態において、ボール4と外側継手部材2のトラック溝7および内側継手部材3のトラック溝9との間にトラック接触角α方向にトラックすきまが形成される。トラック接触角α方向のトラックすきまに基づく半径方向のすきま成分がPCDすきまδ1である。つまり、PCDすきまδ1は次式で表される。
PCDすきまδ1=ToPCD-TiPCD
本明細書および特許請求の範囲において、PCDすきまは上記の意味を有する。
【0028】
ボール4の直径DBALL図2参照)は、基準直径(一定寸法)であるので、鍛造精度、熱処理変形により、外側継手部材2のトラック溝7のピッチ円直径ToPCDと内側継手部材3のトラック溝9のピッチ円直径TiPCDがばらつくと、PCDすきまδ1は変動する。具体的には、外側継手部材2のトラック溝7のピッチ円直径ToPCDが大きくなり、内側継手部材3のトラック溝9のピッチ円直径TiPCDが小さくなると、PCDすきまδ1は大きくなる。反対に、ToPCDが小さくなり、TiPCDが大きくなると、PCDすきまδ1は小さくなる。
【0029】
PCDすきまδ1に基づいて、円周方向ガタが生じる。本実施形態の摺動式等速自在継手1では、トラック溝7、9の横断面形状がゴシックアーチ形状に形成されているので、継手内部の回転方向ガタ量を確実に抑制でき、EVにおけるトルク負荷応答性も良好である。図3では、TiPCDとToPCDとの寸法差やPCDすきまδ1を誇張して図示している。
【0030】
トラック接触角αは、図3の直線Laと直線Lbとの間の角度αである。直線Laはトラック溝7、9の横断面の中心線で、図2のB-N線に対応する。直線Lbは、トラック溝7、9の側面におけるボール4の接触点C1、C2、C3、C4とボール4の中心Obを結ぶ直線である。
【0031】
本実施形態の摺動式等速自在継手1では、ボール4とトラック溝7、9とがアンギュラコンタクトとするものを例示したが、アンギュラコンタクトに限定されるものではなく、外側継手部材2および内側継手部材3のトラック溝7、9の横断面形状を円弧形状とし、ボール4とトラック溝7、9とがそれぞれ1点で接触するサーキュラコンタクトとしてもよい。
【0032】
本実施形態のダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1の全体的な構成は以上のとおりである。次に特徴的な構成を説明する。特徴的な構成は次の(1)~(3)である。
(1)外側継手部材のトラック溝の継手軸方向のスライド範囲中央部に対して奥側に10mmから開口側に10mmの範囲を中央範囲とし、当該中央範囲に、外側継手部材のトラック溝のPCDが最小となる部位を形成したこと。
(2)中央範囲におけるトラック溝のPCDすきまの最小値を0.010mm~0.100mmとしたこと。
(3)中央範囲における外側継手部材のトラック溝のPCD相互差を0.150mm以下としたこと。
【0033】
上記の特徴的な構成(1)~(3)は以下の検討経過を経て到達した。すなわち、本発明者らが(a)鍛造、熱処理の限界にある精度レベル、(b)トラック溝のPCD寸法に対する内側継手部材の選択組合せの効率的な実用の可能性、(c)耐久性、強度、NVH特性(低振動特性)の確保という多面的な項目を種々検討した結果、ダブルオフセット型の摺動式等速自在継手を装着した実車で最も使用頻度の高いスライド範囲である外側継手部材のトラック溝の継手軸方向の中央範囲における円周方向ガタに焦点を当ることが解決の鍵になることに辿り着き、当該中央範囲におけるPCDすきまの最小値および外側継手部材のトラック溝のPCD相互差を設定するという新たな着想によって、上記の特徴的な構成(1)~(3)に到達した。
【0034】
図面を参照して、特徴的な構成を順次説明する。特徴的な構成(1)は、ダブルオフセット型の摺動式等速自在継手を装着した実車で最も使用頻度の高いスライド範囲である外側継手部材のトラック溝の継手軸方向の中央範囲にPCDすきまを精度よく形成するために、中央範囲に、外側継手部材のトラック溝のPCDが最小となる部位を形成したものである。特徴的な構成(1)について、図4図5に基づいて具体的に説明する。図4は、図1の外側継手部材のトラック溝の継手軸方向の詳細を示し、スライド範囲中央部を示す縦断面図である。図5は、図4のスライド範囲中央部を解説する模式図である。
【0035】
ダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1の外側継手部材2は、一般的には、鍛造工程、切削工程、焼入れ工程、研削工程により製作され、カップ部内は冷間鍛造で仕上げられる(焼入れ工程後の研削工程等での仕上げ加工は施さない)。また、内側継手部材3は、一般的には、鍛造工程、切削工程、熱処理工程、研削工程により製作され、トラック溝9冷間鍛造で仕上げられる(焼入れ工程後の研削工程等での仕上げ加工は施さない)。図4に示すように、外側継手部材2のトラック溝7の継手軸方向のスライド範囲中央部C(セット位置でもある)を基準にして、スライド範囲中央部Cに対して、奥側にw(=10mm)から開口側にw(=10mm)の範囲を中央範囲Wとする。そして、鍛造工程と熱処理工程にて、図示のように、中央範囲Wに外側継手部材2の全てのトラック溝7のそれぞれのPCDが最小となる部位7aを形成する。ここで、本明細書および特許請求の範囲における中央範囲Wに、外側継手部材のトラック溝のPCDが最小となる部位を形成したとは、外側継手部材の全てのトラック溝のそれぞれについてPCDが最小となる部位を形成する意味を有する。中央範囲Wに形成したトラック溝7のPCD(ToPCD、図3参照)が最小となる部位7aが、後述するトラック溝7、9のPCDすきまΔおよび外側継手部材2のトラック溝7のPCDを設定する際の基準になる。
【0036】
図4では、中央範囲Wに形成したトラック溝7のPCD(ToPCD)が最小となる部位7aの理解を容易にするために、ボール4を内側継手部材3のトラック溝9に押し付けた状態(トラック溝9の溝底隙間は図示省略)で、かつ、外側継手部材2のトラック溝7の溝底とボール4との間にPCDすきまΔを図示している。トラック溝7の溝底とボール4との間に図示したPCDすきまΔは、図3に示すように、接触角αの方向に形成されるものであるが、便宜上、図示方法を一部修正している。
【0037】
外側継手部材2のトラック溝7のPCD(ToPCD)は、カップ部2aの開口側からスライド範囲中央部C(中央範囲W)にかけて徐々に小さくなり、スライド範囲中央部C(中央範囲W)から奥側にかけて徐々に大きくなる形状としている。上記の軸方向に徐々に変動するPCDの変動寸法は、0.100mm~0.300mm程度である。
【0038】
スライド範囲中央部Cについて説明する。スライド範囲中央部Cは、摺動式等速自在継手1の組立体が車両に取り付けられた後の摺動式等速自在継手1の継手中心Oの軸方向位置であり、セット位置でもある。図4に示すように、ダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1は、外側継手部材2の開口側端部には、内側継手部材3、ボール4、ケージ5からなる内側組立体Iの脱落防止のために止め輪17が取り付けられることが多く、摺動式等速自在継手1は、スライド範囲中央部C(セット位置)を中心に図5に示すスライド範囲の領域で使用される。具体的には、図5に示すように、カップ部2aの開口側は、ボール4と止め輪17(図4参照)とが線X1の位置で干渉することにより、開口側の軸方向スライドが規制される。一方、カップ部2aの奥側は、ケージ5とカップ部2aの底部とが線X2の位置で干渉すること、又はシャフト(図示省略)とカップ部2aの開口部2c(図4参照)とが線X3の位置で干渉することにより、奥側の軸方向スライドが規制される。図示のように、作動角の増加につれて、線X1~X3に囲まれた軸方向スライド量は減少する。
【0039】
ここで、スライド範囲中央部Cを定義する。スライド範囲中央部Cは、車両の使用条件で任意に設定される。つまり、スライド範囲中央部Cは、カップ部2aの開口部からカップ部2aの底部までの線X1~X3で囲まれた軸方向の中心位置からずれる場合がある。したがって、一般的な車両走行時の摺動式等速自在継手1の継手中心Oの軸方向の変位の中心をスライド範囲中心部Cと定義する。スライド範囲中心部Cを基準に、一般的な車両走行時に常時使用される領域を包含できるのが、「スライド範囲中心部C±10mm」であり、この領域において、トラック溝7、9のPCDすきまΔ、トラック溝7のPCD(ToPCD)を規定する。本明細書および特許請求の範囲における外側継手部材のトラック溝の継手軸方向のスライド範囲中央部は、上記の意味を有する。
【0040】
図4の中央範囲Wにおけるトラック溝7、9のPCDの状態およびPCD相互差の測定方法を図6図8に基づいて具体的に説明する。図6は本実施形態の摺動式等速自在継手のトラック溝のPCDのばらつきを説明する横断面図で、図7は外側継手部材のトラック溝のPCD相互差を測定する測定機の概要図で、図8は内側継手部材のトラック溝のPCD相互差を測定する測定機の概要図である。
【0041】
図7に基づいて、中央範囲Wにおける外側継手部材2のトラック溝7のPCD相互差を測定する方法を説明する。図7に示すように、測定機20は、一対のアーム22に設けられた測定用ボール21とマイクロメータ23を主な構成とする。2つの測定用ボール21を外側継手部材2のトラック溝7に当接させてPCDを測定する。図6のToPCD(1)~ToPCD(4)の全てを測定し、マイクロメータ23の最大値と最小値の差よりPCD相互差(ToPCD相互差)を測定する。
【0042】
図8に基づいて、内側継手部材3のトラック溝9のPCD相互差を測定する方法を説明する。図8に示すように、測定機25は、一対のアーム27に設けられた測定用ボール26とマイクロメータ28を主な構成とする。2つの測定用ボール26を内側継手部材3のトラック溝9に当接させてPCDを測定する。図6のTiPCD(1)~TiPCD(4)の全てを測定し、マイクロメータ28の最大値と最小値の差よりPCD相互差(TiPCD相互差)を測定する。
【0043】
図6に示すように、8個のトルク伝達ボール4を組込んだ本実施形態の摺動式等速自在継手1では、継手直径上にトラック溝7、9のPCDが4つずつ形成される。外側継手部材2のトラック溝7については、位相角ψ=0°のPCDをToPCD(1)、位相角ψ=45°のPCDをToPCD(2)、位相角ψ=90°のPCDをToPCD(3)、位相角ψ=135°のPCDをToPCD(4)とする。内側継手部材2のトラック溝9については、位相角ψ=0°のPCDをTiPCD(1)、位相角ψ=45°のPCDをTiPCD(2)、位相角ψ=90°のPCDをTiPCD(3)、位相角ψ=135°のPCDをTiPCD(4)とする。
【0044】
前述したように、鍛造精度および熱処理変形により、外側継手部材2のトラック溝7のToPCD(1)~ToPCD(4)および内側継手部材3のトラック溝9のTiPCD(1)~TiPCD(4)は、ばらつきを生じる。ただし、図6では、ToPCD(1)~ToPCD(4)およびTiPCD(1)~TiPCD(4)のそれぞれのばらつきについては図示を省略している。ここで、ToPCD(1)~ToPCD(4)の全てのトラック溝7のPCD(ToPCD)の中の最大値と最小値の差を外側継手部材2のトラック溝7のPCD相互差と定義する。本明細書および特許請求の範囲において、外側継手部材のトラック溝のPCD相互差は上記の意味を有する。また、TiPCD(1)~TiPCD(4)の中の最大値と最小値の差を内側継手部材3のトラック溝9間のPCD相互差と定義する。その結果、ボール4の直径DBALLは基準直径(一定寸法)であるので、PCDすきまΔにばらつきを生じる。このような技術的問題に着目して本実施形態に到達した。
【0045】
内側組立体Iを収容する外側継手部材2のカップ部2aは、筒状で直径寸法も比較的大きいので、その内面に形成されるトラック溝7のPCD相互差は厳しい傾向にあるが、近年の生産技術開発により、外側継手部材2のトラック溝7のPCD相互差は上限で0.150mmの水準に到達した。これに対して、内側継手部材3は、直径寸法が比較的小さく、その外面に形成されるトラック溝9のPCD相互差は0.020~0.030mm程度に抑えられ、トラック溝9にボール4を組込んだ内側継手部材3のPCDランク公差幅は、0.020mm程度に抑制できることが判明した。その結果、外側継手部材2のトラック溝7のPCD相互差の値に比べたとき、内側継手部材3のPCDランク公差幅は極めて小さいので、選択組合せの取り扱い上、好適であることが判明した。これらの知見が解決手段の糸口になった。
【0046】
特徴的な構成(2)は、中央範囲におけるトラック溝のPCDすきまΔの最小値を0.010mm~0.100mmとしたことである。
【0047】
トラック溝のPCDすきまΔの最小値の下限を0.010mm以上としたことで、ボール4がトラック溝7内を不要な干渉なく滑らかにスライドすることが可能になり車両への装着時の摺動抵抗による取り扱い性が良好で、かつ、実車で最も使用する頻度の高いスライド範囲の中央範囲WにおけるトラックすきまΔが最小になるので、円周方向ガタを抑制することができ、耐久性、強度、NVH特性(低振動特性)を確保できる。
【0048】
また、PCDすきまΔの最小値の上限を0.100mm以下とすることで、トラック溝7、9とボール4との間でバランスよく荷重を受けることが可能となり、耐久性、強度、NVH特性(低振動特性)を確保できる。
【0049】
さらに、PCDすきまΔの最小値を0.010mm以上とし、0.100mm以下とすることで、外側継手部材のトラック溝のPCDに対する内側継手部材の選択組合せを実用可能にする。すなわち、PCDすきまΔの最小値の下限値0.010mmと上限値0.100mmとの間には0.090mmの幅が設けられているので、例えば、トラック溝9にボール4を組込んだ0.020mm程度のPCDランク公差幅を持つ適宜数のランクの内側継手部材3による選択組合せを実用可能にする。
【0050】
具体的に、外側継手部材2のトラック溝7のPCDに対して、トラック溝9にボール4を組込んだ内側継手部材3の選択組合せ方法を説明する。選択組合せの作業の前に、外側継手部材2のトラック溝7の中央範囲WにおけるPCDの最小値および内側継手部材3のトラック溝9のPCDの最大値を測定する。選択組合せの作業の流れの一例として、測定済の内側継手部材3を複数貯留しておき、トラック溝7の中央範囲WにおけるPCDの最小値を測定した外側継手部材2の測定データと照合し、中央範囲におけるトラック溝のPCDすきまΔの最小値の範囲(0.010mm~0.100mm)を満たす内側継手部材3を選択組合せする。
【0051】
トラック溝のPCDの最小値を測定する測定方法を図9図11に基づいて説明する。図9(a)は外側継手部材のトラック溝の中央範囲WにおけるPCDの最小値を測定する測定機の概要図で、図9(b)は、外側継手部材のトラック溝のPCDの最小値を測定する原理図である。図10(a)は、内側継手部材のトラック溝のPCDの最大値を測定する測定機の平面図で、図10(b)は内側継手部材のトラック溝の最大値を測定する測定機の部分縦断面を有する正面図である。図11は内側継手部材のトラック溝のPCDの最大値を測定する原理図である。
【0052】
図9(a)に示すように、外側継手部材2のトラック溝7のPCDの最小値を測定する測定機30は、ベース31、テーブル32、測定用ボール33、ボール保持部34、テーパ軸部材35、操作レバー36およびマイクロメータ37を主な構成とする。ボール保持部34はテーブル32上に固設され、測定用ボール33をポケット34a内に半径方向、円周方向に移動可能に収容している。テーパ軸部材35は、円錐状外周面35aを有し、ボール保持部34に収容された測定用ボール33の内接円の半径方向内側に配置されている。テーパ軸部材35は、操作レバー36により、上下方向(外側継手部材2の軸方向)に移動可能に構成され、テーパ軸部材35の上下方向の移動により、測定用ボール33の外接円は半径方向に拡縮する。テーパ軸部材35の上下方向の移動量がマイクロメータ37と連携した構成となっている。
【0053】
外側継手部材2のトラック溝7の中央範囲WにおけるPCDの最小値の測定方法を説明する。測定機30の測定用ボール33の外接円が半径方向に縮径した状態で、外側継手部材2のトラック溝7を測定用ボール33に位相を合わせて被せ、外側継手部材2をテーブル32上に載置する。図9(a)に示すように、テーパ軸部材35を下方向に移動させ、円錐状外周面35aを測定用ボール33に当接させ、測定用ボール33をトラック溝7に押し付ける。トラック溝7のPCDはばらついているので、図9(b)に測定原理を示すように、8個の測定用ボール33の内、散点表示した3個のボール33が、テーパ軸部材35の円錐状外周面35aと当接させることにより、外側継手部材2のトラック溝7のPCD(ToPCD)の最小値(ToPCDmin)が測定される。
【0054】
図10(a)、図10(b)に示すように、内側継手部材3のトラック溝9のPCDの最大値を測定する測定機40は、ベース41、テーブル42、測定用ボール43、ボール保持部44、テーパ穴部材45、操作レバー46およびマイクロメータ47を主な構成とする。ボール保持部44はベース41上に固設され、測定用ボール43をポケット44a内に半径方向、円周方向に移動可能に収容している。テーパ穴部材45は、円錐状内周面45aを有し、ボール保持部44に収容された測定用ボール43の外接円の半径方向外側に配置されている。テーパ穴部材45は、操作レバー46により、上下方向(内側継手部材3の軸方向)に移動可能に構成され、テーパ穴部材45の上下方向の移動により、測定用ボール43の内接円は半径方向に拡縮する。テーパ穴部材45の上下方向の移動量がマイクロメータ47と連携した構成となっている。
【0055】
内側継手部材2のトラック溝9のPCDの最大値を測定方法を説明する。測定機40の測定用ボール43の内接円が半径方向に拡径した状態で、内側継手部材3のトラック溝9を測定用ボール43に位相を合わせて被せ、内側継手部材3をテーブル42上に載置する。図10(a)に示すように、テーパ穴部材45を下方向に移動させ、円錐状内周面45aを測定用ボール43に当接させ、測定用ボール43をトラック溝9に押し付ける。トラック溝9のPCDはばらついているので、図11に測定原理を示すように、8個の測定用ボール43の内、3個の測定用ボール43が、テーパ穴部材45の円錐状内周面45aと当接させることにより、内側継手部材3のトラック溝9のPCD(TiPCD)の最大値(TiPCDmax)が測定される。
【0056】
外側継手部材2のトラック溝7のPCDの最小値(ToPCDmin)と内側継手部材3のトラック溝9のPCDの最大値(TiPCDmax)および相互差(TiPCD相互差)との差がPCDすきまの最小値である。すなわち、外側継手部材2のトラック溝7のPCD最小位相と内側継手部材3のトラック溝9のPCD最大位相の位相合わせを考えることなく、外側継手部材2のトラック溝7の中央範囲WにおけるPCDすきまΔの最小値Δminは次式で表される。
Δmin=ToPCDmin-TiPCDmax-TiPCD相互差
本明細書および特許請求の範囲における外側継手部材のトラック溝の中央範囲WにおけるPCDすきまΔの最小値は、上記の意味を有する。
【0057】
以上の方法で測定したPCDすきまΔの最小値Δminが、中央範囲WにおけるPCDすきまΔの最小値である0.010mm~0.100mmを満足する外側継手部材2と内側継手部材3とを選択組合せする。
【0058】
一方で、外側継手部材のトラック溝の中央範囲WにおけるPCDすきまΔの最大値について種々検討、検証した結果、上記のPCDすきまΔの最大値は、0.250mmが上限であることが判明した。PCDすきまΔの最大値が0.250mmを超えると、トルク負荷時にガタ打ち音などが発生し、NVH特性(振動特性)を確保できないことが判明した。そして、中央範囲WにおけるPCDすきまΔの最小値である0.010mm~0.100mmの範囲が、前述した選択組合せの実用条件に加えて、PCDすきまΔの最大値の上限0.250mm内を確保する手段に導いた。
【0059】
具体的には、中央範囲WにおけるPCDすきまの最小値である0.010mm~0.100mmの範囲は、中央範囲WにおけるPCDすきまΔの最大値Δmaxの上限値0.250mmを実質的に変動させる関係にある。上限値0.250mmを確保するためには、PCDすきまの最小値Δminである0.010mm~0.100mmの上限値0.100mmをPCDすきまΔの最大値Δmaxの上限値0.250mmから差し引いた0.150mmを、中央範囲Wにおける外側継手部材2のトラック溝7のPCD相互差の上限値とする必要があり、次の特徴的な構成(3)が導かれる。
【0060】
特徴的な構成(3)は、中央範囲における外側継手部材のトラック溝のPCD相互差を0.150mm以下としたことである。
【0061】
前述した外側継手部材2のトラック溝7の中央範囲WにおけるPCDの最小値を測定する測定作業とは別に、図7に示す測定機20により、図6のToPCD(1)~ToPCD(4)の全てを測定する。ToPCD(1)~ToPCD(4)の中の最大値と最小値の差より、中央範囲Wにおける外側継手部材2のトラック溝7のPCD相互差が0.150mm以下であることを確認し、この外側継手部材2を選択組合せ工程に回す。
【0062】
前述したように、中央範囲Wにおける外側継手部材のトラック溝のPCD相互差を0.150mm以下としたので、トラックすきまΔの最小値Δminである0.010mm~0.100mmとした条件で、トラックすきまΔの最大値Δmaxの上限値0.250mmを確保することができる。中央範囲WにおけるトラックすきまΔの最大値Δmaxの上限値を0.250mmとしたので、トルク負荷時のガタ打ち音などの発生を抑制することができる。
【0063】
以上を要約すると、上記の特徴的な構成(1)~(3)が相俟って、鍛造、熱処理の実用精度レベルを基に、外側継手部材のトラック溝のPCD寸法に対する内側継手部材の選択組合せの実用を可能にし、かつ、車両への装着時の摺動抵抗による取り扱い性が良好で、かつ、実車で最も使用する頻度の高いスライド範囲の中央範囲Wにおける円周方向ガタを抑制することができ、耐久性、強度、NVH特性(低振動特性)を確保できる。
【0064】
本発明の第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手を図12図13に基づいて説明する。本実施形態のダブルオフセット型の摺動式等速自在継手は、トルク伝達ボールの個数が6個であり、第1の実施形態の摺動式等速自在継手とはトルク伝達ボールの個数が異なる。その他の構成については、第1の実施形態と同じであるので、同様の機能を有する部位には同一の符号を付し、要点のみを説明する。図12は本実施形態に係る摺動式等速自在継手の縦断面図で、図13のB-N-B’線における縦断面図である。図13は本実施形態に係る摺動式等速自在継手の横断面図で、図12のA-A線における横断面図である。
【0065】
図12図13に示すように、本実施形態に係るダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1は、外側継手部材2の円筒状内周面6には、6本のトラック溝7が円周方向に等間隔で、かつ軸方向に沿って直線状に形成されている。内側継手部材3の球状外周面8には、外側継手部材2のトラック溝7と対向するトラック溝9が円周方向に等間隔で、かつ軸方向に沿って直線状に形成されている。外側継手部材2のトラック溝7と内側継手部材3のトラック溝9との間に6個のトルク伝達ボール(以下、単にボールともいう)4が1個ずつ組み込まれている。
【0066】
ケージ5は、球状外周面11と球状内周面12を有し、球状外周面11は外側継手部材2の円筒状内周面6と嵌合して接触案内され、球状内周面12は内側継手部材3の球状外周面8と嵌合して接触案内される。ケージ5の球状外周面11は曲率中心をOc1とする曲率半径Rc1で形成され、球状内周面12は曲率中心をOc2とする曲率半径Rc2で形成されている。内側継手部材3の球状外周面8は曲率中心をOi2とする曲率半径Riで形成され、曲率中心Oi2は曲率中心Oc2と一致している。曲率中心Oc1、Oc2は、軸線N上に位置し、継手中心Oに対して軸方向の反対側に等距離オフセットされている。これにより、継手が作動角を取った場合、外側継手部材2と内側継手部材3の両軸線がなす角度を二等分する平面上にボール4が常に案内され、二軸間が等速回転で伝達される。
【0067】
本実施形態に係るダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1においても、前述した第1の実施形態に係るダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1と同様に、次の特徴的な構成(1)~(3)を備えている。
(1)外側継手部材のトラック溝の継手軸方向のスライド範囲中央部に対して奥側に10mmから開口側に10mmの範囲を中央範囲とし、当該中央範囲に、外側継手部材のトラック溝のPCDが最小となる部位を形成したこと。
(2)中央範囲におけるトラック溝のPCDすきまの最小値を0.010mm~0.100mmとしたこと。
(3)中央範囲における外側継手部材のトラック溝のPCD相互差を0.150mm以下としたこと。
【0068】
上記の特徴的な構成(1)~(3)が相俟って、鍛造、熱処理の実用精度レベルを基に、外側継手部材のトラック溝のPCD寸法に対する内側継手部材の選択組合せの実用を可能にし、かつ、車両への装着時の摺動抵抗による取り扱い性が良好で、かつ、実車で最も使用する頻度の高いスライド範囲の中央範囲Wにおける円周方向ガタを抑制することができ、耐久性、強度、NVH特性(低振動特性)を確保できる。上記の特徴的な構成(1)~(3)について第1の実施形態のダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1で説明した内容は、本実施形態のダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1でも同様であるので準用する。
【0069】
本発明の第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手の内側組立体の第1の変形例を図14に基づいて説明する。本変形例の内側組立体は、ケージのポケットとボールとの間に正の軸方向すきまを設けた点が第2の実施形態と異なる。その他の構成については、第2の実施形態と同じであるので、同様の機能を有する部位には同一の符号を付し、要点のみを説明する。
【0070】
図14は、第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手の内側組立体の第1の変形例の縦断面図である。図14に示すように、内側組立体Iは、内側継手部材3、ケージ5、ボー
ル4からなり、ケージ5のポケット5aの継手軸方向に対向する壁面5cとトルク伝達ボール4との間に正の軸方向すきまδ2が形成されている。ボール4の直径をDBALL、ケージ5のポケット5aの継手軸方向に対向する壁面5c間の幅をLwとすると、軸方向すきまδ2は、δ2=Lw-DBALLとなり、+0.001mm~+0.050mm程度である。これにより、ボール4がポケット5a内で滑らかに転がることができ、スライド抵抗の低減が図れる。
【0071】
本発明の第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手の内側組立体の第2の変形例を図15図16に基づいて説明する。本変形例の内側組立体は、ケージのポケットとボールとの間に正の軸方向すきまを設けた点および内側継手部材とケージとの軸方向の相対移動を可能にする軸方向すきまを設けた点が第2の実施形態と異なる。その他の構成については、第2の実施形態と同じであるので、同様の機能を有する部位には同一の符号を付し、要点のみを説明する。
【0072】
図15は、第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手の内側組立体の第2の変形例の縦断面図であり、図16は、図15のE部の拡大図である。図15に示すように、内側組立体Iは、内側継手部材3、ケージ5、ボール4からなり、ケージ5のポケット5aの継手
軸方向に対向する壁面5cとトルク伝達ボール4との間に正の軸方向すきまδ2が形成されている。ケージ5の球状外周面11は曲率中心Oc1とする曲率半径Rc1で形成され、球状内周面12は曲率中心Oc2とする曲率半径Rc2で形成されている。内側継手部材3の球状外周面8は曲率中心Oi2とする曲率半径Riで形成されている。曲率中心Oc1、Oi2は、軸線N上に位置し、継手中心Oに対して軸方向に等距離Fでオフセットされている。また、ケージ5の球状内周面12の曲率中心Oc2は、Rc2>Riとなるよう曲率中心Oi2に対して軸線Nより半径方向にオフセットして位置し、継手中心Oに対して軸方向に距離Fでオフセットされている。
【0073】
図16に示すように、内側継手部材3の球状外周面8の軸方向中央部でケージ5の球状内周面12に対して接触案内を可能にする球面すきまδ3が形成され、中央部の両側には、内側継手部材3とケージ5との軸方向の相対移動を可能にする軸方向すきまδ4が形成される。球面すきまδ3は、中央値で0.050mm程度である。軸方向すきまδ4は、1mm程度である。外側継手部材2に対する内側継手部材3の軸方向の移動可能量は、軸方向すきまδ4の1mm程度の2倍の2mm程度となり、この範囲の軸方向の移動可能量で振動が吸収される。すなわち、汎用される振動条件に対してスライド抵抗を低減することができる。球面すきまδ3および軸方向すきまδ4は、それぞれ誇張して図示している。
【0074】
ケージ5と内側継手部材3との間の軸方向すきまδ4と、ケージ5のポケット5aの継手軸方向に対向する壁面5cとボール4との間の正の軸方向すきまδ2とが相俟って、スライド抵抗を低減することができる。
【0075】
本発明の第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手の内側組立体の第3の変形例を図17に基づいて説明する。本変形例の内側組立体は、ケージの球状内周面の形状が第2の変形例と異なる。その他の構成については、第2の実施形態、第2の変形例と同様であるので、同様の機能を有する部位には同一の符号を付し、要点のみを説明する。
【0076】
図17は、第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手の内側組立体の第3の変形例の縦断面図である。図17に示すように、ケージ5の球状内周面12は、曲率中心Oc2とする曲率半径Rc2の球面部12aと、曲率中心Oc3とする曲率半径Rc2の球面部12bと、球面部12aと球面部12bとの間を接線で結ぶ円筒部12cとから構成されている。曲率中心Oc2、曲率中心Oc3は、軸線N上に位置し、曲率中心Oc2と曲率中心Oc3との軸方向の中心点が継手中心Oに対してFだけオフセットされている。内側継手部材3の球状外周面8は、曲率中心Oi2とする曲率半径Riで形成されている。図17の配置状態では、ケージ5の球状内周面12の曲率中心Oc2と曲率中心Oc3との軸方向の中心点は、内側継手部材3の球状外周面8の曲率中心Oi2と一致している。
【0077】
内側継手部材3の球状外周面8の軸方向中央部でケージ5の円筒部12cに対して接触案内を可能にする球面すきまδ3が形成され、中央部の両側には、内側継手部材3とケージ5との軸方向の相対移動を可能にする軸方向すきまδ4が形成される。円筒部12cの長さは1mm程度であり、軸方向すきまδ4は円筒部12cの長さに対応する。外側継手部材2に対する内側継手部材3の軸方向の移動可能量は、円筒部12cの長さ1mm程度の2倍の2mm程度となり、この範囲の軸方向の移動可能量で振動が吸収される。すなわち、汎用される振動条件に対してスライド抵抗を低減することができる。
【0078】
本変形例では、ケージ5の球状内周面12は、曲率中心Oc2とする曲率半径Rc2の球面部12aと、曲率中心Oc3とする曲率半径Rc2の球面部12bと、球面部12aと球面部12bとの間を接線で結ぶ円筒部12cとから構成されている。曲率半径Rc2と曲率半径Riとが実質的に同じであるので、ケージ5の球状内周面12と内側継手部材3の球状外周面8との間の接触案内が滑らかで、かつ安定する。第1、第2の変形例と同様、ケージ5のポケット5aの継手軸方向に対向する壁面5cとトルク伝達ボール4との間に正の軸方向すきまδ2が形成されている。
【0079】
第1~3の変形例の内側組立体からなるダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1においても、前述した第1の実施形態に係るダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1と同様に、次の特徴的な構成(1)~(3)を備えている。
(1)外側継手部材のトラック溝の継手軸方向のスライド範囲中央部に対して奥側に10mmから開口側に10mmの範囲を中央範囲とし、当該中央範囲に、外側継手部材のトラック溝のPCDが最小となる部位を形成したこと。
(2)中央範囲におけるトラック溝のPCDすきまの最小値を0.010mm~0.100mmとしたこと。
(3)中央範囲における外側継手部材のトラック溝のPCD相互差を0.150mm以下としたこと。
【0080】
上記の特徴的な構成(1)~(3)が相俟って、鍛造、熱処理の実用精度レベルを基に、外側継手部材のトラック溝のPCD寸法に対する内側継手部材の選択組合せの実用を可能にし、かつ、車両への装着時の摺動抵抗による取り扱い性が良好で、かつ、実車で最も使用する頻度の高いスライド範囲の中央範囲Wにおける円周方向ガタを抑制することができ、耐久性、強度、NVH特性(低振動特性)を確保できる。上記の特徴的な構成(1)~(3)について第1の実施形態のダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1で説明した内容は、本実施形態のダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1でも同様であるので準用する。
【0081】
第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手の内側組立体Iの第1~3の変形例は、トルク伝達ボール4の個数を6個から8個に変更して、第1の実施形態のダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1に適用することができる。
【0082】
本発明は前述した実施形態、変形例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0083】
1 摺動式等速自在継手
2 外側継手部材
3 内側継手部材
4 トルク伝達ボール
5 ケージ
5a ポケット
6 円筒状内周面
7 トラック溝
7a トラック溝のPCDが最小となる部位
8 球状外周面
9 トラック溝
11 球状外周面
12 球状内周面
C スライド範囲中央部
BALL ボール径
F オフセット量
O 継手中心
O1 曲率中心
O2 曲率中心
PCD ピッチ円直径
W 中央範囲
Δ PCDすきま
δ2 ボールとポケット間の正の軸方向すきま
δ3 球面すきま
δ4 ケージと内側継手部材間の軸方向すきま
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【手続補正書】
【提出日】2022-09-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0027
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0027】
図3に示すように、外側継手部材2のトラック溝7のピッチ円直径と内側継手部材3のトラック溝9のピッチ円直径を区別して表記する場合は、外側継手部材2のトラック溝7のピッチ円直径をToPCDと表記し、内側継手部材3のトラック溝9のピッチ円直径をTiPCDと表記する。ToPCDは、TiPCDより、中央値で例えば、0.050mm程度大きく設定されている。その結果、トルク伝達ボール4の中心Obは、ToPCDとTiPCDとの間の径方向中間に位置し、無負荷状態において、ボール4と外側継手部材2のトラック溝7および内側継手部材3のトラック溝9との間にトラック接触角α方向にトラックすきまが形成される。トラック接触角α方向のトラックすきまに基づく半径方向のすきま成分がPCDすきまΔである。つまり、PCDすきまΔは次式で表される。
PCDすきまΔ=ToPCD-TiPCD
本明細書および特許請求の範囲において、PCDすきまは上記の意味を有する。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0028
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0028】
ボール4の直径DBALL図2参照)は、基準直径(一定寸法)であるので、鍛造精度、熱処理変形により、外側継手部材2のトラック溝7のピッチ円直径ToPCDと内側継手部材3のトラック溝9のピッチ円直径TiPCDがばらつくと、PCDすきまΔは変動する。具体的には、外側継手部材2のトラック溝7のピッチ円直径ToPCDが大きくなり、内側継手部材3のトラック溝9のピッチ円直径TiPCDが小さくなると、PCDすきまΔは大きくなる。反対に、ToPCDが小さくなり、TiPCDが大きくなると、PCDすきまΔは小さくなる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0029
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0029】
PCDすきまΔに基づいて、円周方向ガタが生じる。本実施形態の摺動式等速自在継手1では、トラック溝7、9の横断面形状がゴシックアーチ形状に形成されているので、継手内部の回転方向ガタ量を確実に抑制でき、EVにおけるトルク負荷応答性も良好である。図3では、TiPCDとToPCDとの寸法差やPCDすきまΔを誇張して図示している。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0032
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0032】
本実施形態のダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1の全体的な構成は以上のとおりである。次に特徴的な構成を説明する。特徴的な構成は次の(1)~(3)である。
(1)外側継手部材のトラック溝の継手軸方向のスライド範囲中央部に対して奥側に10mmから開口側に10mmの範囲を中央範囲とし、当該中央範囲に、外側継手部材のトラック溝のPCDが最小となる部位を形成したこと。
(2)中央範囲におけるトラック溝のPCDすきまΔの最小値を0.010mm~0.100mmとしたこと。
(3)中央範囲における外側継手部材のトラック溝のPCD相互差を0.150mm以下としたこと。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0033
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0033】
上記の特徴的な構成(1)~(3)は以下の検討経過を経て到達した。すなわち、本発明者らが(a)鍛造、熱処理の限界にある精度レベル、(b)トラック溝のPCD寸法に対する内側継手部材の選択組合せの効率的な実用の可能性、(c)耐久性、強度、NVH特性(低振動特性)の確保という多面的な項目を種々検討した結果、ダブルオフセット型の摺動式等速自在継手を装着した実車で最も使用頻度の高いスライド範囲である外側継手部材のトラック溝の継手軸方向の中央範囲における円周方向ガタに焦点を当ることが解決の鍵になることに辿り着き、当該中央範囲におけるPCDすきまΔの最小値および外側継手部材のトラック溝のPCD相互差を設定するという新たな着想によって、上記の特徴的な構成(1)~(3)に到達した。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0034
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0034】
図面を参照して、特徴的な構成を順次説明する。特徴的な構成(1)は、ダブルオフセット型の摺動式等速自在継手を装着した実車で最も使用頻度の高いスライド範囲である外側継手部材のトラック溝の継手軸方向の中央範囲にPCDすきまΔを精度よく形成するために、中央範囲に、外側継手部材のトラック溝のPCDが最小となる部位を形成したものである。特徴的な構成(1)について、図4図5に基づいて具体的に説明する。図4は、図1の外側継手部材のトラック溝の継手軸方向の詳細を示し、スライド範囲中央部を示す縦断面図である。図5は、図4のスライド範囲中央部を解説する模式図である。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0047
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0047】
トラック溝のPCDすきまΔの最小値の下限を0.010mm以上としたことで、ボール4がトラック溝7内を不要な干渉なく滑らかにスライドすることが可能になり車両への装着時の摺動抵抗による取り扱い性が良好で、かつ、実車で最も使用する頻度の高いスライド範囲の中央範囲WにおけるPCDすきまΔが最小になるので、円周方向ガタを抑制することができ、耐久性、強度、NVH特性(低振動特性)を確保できる。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0056
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0056】
外側継手部材2のトラック溝7のPCDの最小値(ToPCDmin)と内側継手部材3のトラック溝9のPCDの最大値(TiPCDmax)および相互差(TiPCD相互差)との差がPCDすきまΔの最小値である。すなわち、外側継手部材2のトラック溝7のPCD最小位相と内側継手部材3のトラック溝9のPCD最大位相の位相合わせを考えることなく、外側継手部材2のトラック溝7の中央範囲WにおけるPCDすきまΔの最小値Δminは次式で表される。
Δmin=ToPCDmin-TiPCDmax-TiPCD相互差
本明細書および特許請求の範囲における外側継手部材のトラック溝の中央範囲WにおけるPCDすきまΔの最小値は、上記の意味を有する。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0059
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0059】
具体的には、中央範囲WにおけるPCDすきまΔの最小値である0.010mm~0.100mmの範囲は、中央範囲WにおけるPCDすきまΔの最大値Δmaxの上限値0.250mmを実質的に変動させる関係にある。上限値0.250mmを確保するためには、PCDすきまΔの最小値Δminである0.010mm~0.100mmの上限値0.100mmをPCDすきまΔの最大値Δmaxの上限値0.250mmから差し引いた0.150mmを、中央範囲Wにおける外側継手部材2のトラック溝7のPCD相互差の上限値とする必要があり、次の特徴的な構成(3)が導かれる。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0062
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0062】
前述したように、中央範囲Wにおける外側継手部材のトラック溝のPCD相互差を0.150mm以下としたので、PCDすきまΔの最小値Δminである0.010mm~0.100mmとした条件で、PCDすきまΔの最大値Δmaxの上限値0.250mmを確保することができる。中央範囲WにおけるPCDすきまΔの最大値Δmaxの上限値を0.250mmとしたので、トルク負荷時のガタ打ち音などの発生を抑制することができる。
【手続補正11】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0067
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0067】
本実施形態に係るダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1においても、前述した第1の実施形態に係るダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1と同様に、次の特徴的な構成(1)~(3)を備えている。
(1)外側継手部材のトラック溝の継手軸方向のスライド範囲中央部に対して奥側に10mmから開口側に10mmの範囲を中央範囲とし、当該中央範囲に、外側継手部材のトラック溝のPCDが最小となる部位を形成したこと。
(2)中央範囲におけるトラック溝のPCDすきまΔの最小値を0.010mm~0.100mmとしたこと。
(3)中央範囲における外側継手部材のトラック溝のPCD相互差を0.150mm以下としたこと。
【手続補正12】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0079
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0079】
第1~3の変形例の内側組立体からなるダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1においても、前述した第1の実施形態に係るダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1と同様に、次の特徴的な構成(1)~(3)を備えている。
(1)外側継手部材のトラック溝の継手軸方向のスライド範囲中央部に対して奥側に10mmから開口側に10mmの範囲を中央範囲とし、当該中央範囲に、外側継手部材のトラック溝のPCDが最小となる部位を形成したこと。
(2)中央範囲におけるトラック溝のPCDすきまΔの最小値を0.010mm~0.100mmとしたこと。
(3)中央範囲における外側継手部材のトラック溝のPCD相互差を0.150mm以下としたこと。