(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183814
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】振動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
B06B 1/04 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
B06B1/04 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097559
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000112565
【氏名又は名称】フォスター電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】山上 憲
(72)【発明者】
【氏名】笹沼 起史
【テーマコード(参考)】
5D107
【Fターム(参考)】
5D107AA03
5D107AA13
5D107BB08
5D107CC08
5D107CC10
5D107FF10
(57)【要約】
【課題】 適正な内部損失を有するサスペンションの製造が可能となり、低コストで、振動特性に優れた振動アクチュエータを提供する。
【解決手段】
ケース2と、ケース2に設けられたコイル3と、ケース2の振動軸線Oに沿って振動する可動子4とから成る。外周部51がケース2に固定され、内周部52が可動子4に固定され、可動子4を振動軸線O方向に往復動可能に支持するサスペンション5を備え、サスペンション5は、可動子4の径方向に変形領域34を有し、変形領域34には、可動子4の振動軸線Oを中心とした円形状の凸部53a及び凹部53bの少なくとも一方が設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、
前記ケースに設けられたコイルと、
前記ケースの振動軸線に沿って振動する可動子と、
外周部が前記ケースに固定され、内周部が前記可動子に固定され、前記可動子を振動軸線方向に往復動可能に支持する少なくとも1つの板状体のサスペンションを備え、
前記サスペンションは、前記可動子の径方向に変形領域を有し、
前記変形領域には、前記可動子の振動軸線を中心とした円形状の凸部及び凹部の少なくとも一方が設けられている
振動アクチュエータ。
【請求項2】
前記サスペンションは、繊維を含む材料である請求項1に記載の振動アクチュエータ。
【請求項3】
前記可動子の両端側に、それぞれ不織布構造又は織布構造を有する板状体から成る前記サスペンションが設けられている請求項1に記載の振動アクチュエータ。
【請求項4】
前記可動子の一端側に、不織布構造又は織布構造を有する板状体から成る前記サスペンションが設けられ、前記可動子の他端側に、金属板から成るサスペンションが設けられている請求項1に記載の振動アクチュエータ。
【請求項5】
前記サスペンションと前記可動子は、前記可動子の径方向内側に配置される固定部により固定されている請求項1又は請求項2に記載の振動アクチュエータ。
【請求項6】
前記可動子は、前記サスペンション側に伸長した突起部を備える請求項5に記載の振動アクチュエータ。
【請求項7】
前記サスペンションは、前記内周部において、前記可動子に向けて突出した突出部を有する請求項5に記載の振動アクチュエータ。
【請求項8】
前記サスペンションは、前記外周部の固定位置と前記内周部の固定位置の高さが異なる請求項1又は請求項2に記載の振動アクチュエータ。
【請求項9】
前記サスペンションには、前記板状体を貫通する開口部が設けられている請求項1又は請求項2に記載の振動アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動アクチュエータに関し、特に、携帯電話やスマートフォン等の携帯端末、ゲーム機のコントローラ等に用いられる小型で軽量の振動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、携帯電話等の通信機器において、着信やアラームを人に知らせる方法として振動アクチュエータ(又は、振動モータ)を用いた振動による通知方法がある。そして、近年では、映画やゲーム、VR(Virtual Reality:仮想現実)の分野においても、例えば、アクションシーンの演出効果や、プレーヤーに対するフィードバック手段の一つとして振動アクチュエータが用いられており、振動により人の触覚を刺激することによってリアリティを向上させている。
【0003】
振動アクチュエータには、偏心錘をモータによって回転させて慣性力により振動を発生させる方法を用いるものもある。しかし、回転モータを利用した方法は、偏心錘の慣性力により振動を発生させるため、偏心錘が回転を始め振動が触感として得られるまでの反応が鈍く、リアリティが損なわれるという欠点があった。
【0004】
そこで、よりリアルな触感を得るためのアクチュエータとして、例えば、特許文献1に示すように、ボイスコイル型の振動アクチュエータを採用する場合がある。かかる振動アクチュエータでは、筒状のケース内にマグネットを有する可動子をサスペンションを用いた状態で配置すると共に、可動子の周囲にはケースに固定されたコイルを配置し、そのコイルに通電することにより可動子をケース内で往復動させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、可動子を懸架するためのサスペンションとして、ステンレス鋼板を用いて板金加工により形成された渦巻き形状の板ばねが複数用いられている。しかし、ステンレス鋼板はその物性から内部損失が低く、アクチュエータの共振周波数で振幅の制御が困難であり、小型化に支障がある。特に、ステンレス鋼板製の板ばねは、その板厚が各部で均一であることから、板厚方向に対する変形は可能であっても、板ばねの内周方向から外周方向に対する変形、軸と外周部間のねじれ方向の変形、更には、内周部近傍と外周部近傍とで弾性係数を変化させることが困難であり、振動アクチュエータのサスペンションに要求される種々のばね特性を得られない欠点がある。
【0007】
このような問題点を解決するための一つの手法として、ステンレス鋼板の板ばねを用いた上で、サスペンションにおいて発生する振動を減衰させて所望の振動特性を得るための手段として、板ばねとは別に金属製或いは樹脂製の制振部材が設けることも従来から提案されている。しかし、板ばねに制振部材を併用すると、材料費及び加工費が高くなってしまい、コストアップに繋がってしまう。また、板ばねと制振部材との正確な位置合わせや接着作業のため、組立作業が煩雑となる。
【0008】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものである。本発明の目的は、適正な内部損失を有するサスペンションの製造が可能となり、低コストで、振動特性に優れた振動アクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の振動アクチュエータは、次のような構成を有する。
(1)ケース。
(2)前記ケースに設けられたコイル。
(3)前記ケースの振動軸線に沿って振動する可動子。
(4)外周部が前記ケースに固定され、内周部が前記可動子に固定され、前記可動子を振動軸線方向に往復動可能に支持する少なくとも1つの板状体のサスペンション。
(5)前記サスペンションは、前記可動子の径方向に変形領域を有する。
(6)前記変形領域には、前記可動子の振動軸線を中心とした円形状の凸部及び凹部の少なくとも一方が設けられている。
【0010】
本発明の振動アクチュエータは、次のような構成を採用することができる。
(1)前記サスペンションは、繊維を含む材料である。
(2)前記可動子の両端側に、それぞれ不織布構造又は織布構造を有する板状体から成る前記サスペンションが設けられている。
(3)前記可動子の一端側に、不織布構造又は織布構造を有する板状体から成る前記サスペンションが設けられ、前記可動子の他端側に、金属板から成るサスペンションが設けられている。
(4)前記サスペンションと前記可動子は、前記可動子の径方向内側に配置される固定部により固定されている。
(5)前記可動子は、前記サスペンション側に伸長した突起部を備える。
(6)前記サスペンションは、前記内周部において、前記可動子に向けて突出した突出部を有する。
(7)前記サスペンションは、前記外周部の固定位置と前記内周部の固定位置の高さが異なる。
(8)前記サスペンションには、前記板状体を貫通する開口部が設けられている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、適正な内部損失を有するサスペンションの製造が可能となり、低コストで、振動特性に優れた振動アクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態の全体構成を示す振動軸線方向で切断した断面図である。
【
図2】第1実施形態の全体構成を示す分解斜視図である。
【
図3】第1実施形態におけるサスペンションを上方から見た斜視図である。
【
図4】第1実施形態におけるサスペンションを下方から見た斜視図である。
【
図5】第1実施形態におけるサスペンションを上方から見た断面図である。
【
図6】周方向に厚さが異なるサスペンションの断面図である。
【
図7】放射状に厚さが異なるサスペンションの断面図である。
【
図8】部分的に張り合わせて厚さ変化させたサスペンションの分解斜視図である。
【
図9】熱溶融性を有する繊維を使用したサスペンションの断面図である。
【
図10】不織布又は織布に樹脂層を形成したサスペンションの断面図である。
【
図11】サスペンション外周部とケースの固定方法の他の実施形態を示す断面図である。
【
図12】第2実施形態の全体構成を示す振動軸線方向で切断した断面図である。
【
図14】第2実施形態における板ばねを使用したサスペンションと制振部材の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
以下、
図1及び
図2を用いて第1実施形態の振動アクチュエータ1について説明する。本実施形態の振動アクチュエータ1は、その振動軸線O方向1/2の箇所において中心軸と直交する対称面(
図1の符号S)を境界として、同一形状の部材を設けている。そこで、対称面を境界として各部材の構成については、対称形の一方の構成のみを説明し、他方については特別に必要がない限りは同一の符号を付すことで説明は省略する。
【0014】
(1)ケース及びコイル
振動アクチュエータ1は、主に、外殻をなす筒状のケース2と、ケース2の内部に設けられたコイル3と、ケース2の振動軸線Oに沿って振動する可動子4と、内周部が可動子4に固定されるサスペンション5と、サスペンション5をケース2に固定する枠部6を備えている。
【0015】
ケース2は、筒状のケース本体10と、その両端開口を閉じるカバーケース11を備えている。本実施形態において、ケース本体10及びカバーケース11は、それぞれABS等の樹脂材料からなるが、樹脂材料に限定されるものでない。ケース2には、コイル3とヨーク20が挿入される。すなわち、ケース本体10には、その内周に沿うように形成された筒状の軟磁性材料でなるヨーク20が配置される。ヨーク20の内周にヨーク20と電気的に絶縁された状態で取り付けられたコイル3が設けられる。
【0016】
コイル3はケース本体10内に挿入された保護部材21の外周側に配置され、可動子4の外周部に対して所定の間隔を保って配置されている。保護部材21は、振動時における可動子4とコイル3との接触を防止するため、コイル3の可動子4側の表面を覆うように、ケース本体10の内周に内周壁を有し、保護部材21の内周壁と可動子4の外周面に隙間が設けられている。
【0017】
(2)可動子
可動子4は、筒状のケース2の中心軸方向である振動軸線Oに沿って振動するように、ケース本体10内に配置されている。可動子4は、円板状のマグネット30と、マグネット30の表面に配置された円板状のポールピース31と、ポールピース31の表面に配置される錘32とを有している。
【0018】
マグネット30は、その着磁方向が振動軸線O方向である。ポールピース31は、軟磁性材料でなり、マグネット30の磁気吸着力及び接着剤等により、マグネット30に取り付けられている。ポールピース31には、中央部に振動軸線Oに沿った凸部31aが形成されており、対応する錘32には中央部に振動軸線Oに沿った凹部32aが形成されている。ポールピース31の凸部31aと錘32の凹部32aが係合することで、ポールピース31と錘32が一体化されている。マグネット30、ポールピース31、及び錘32の一体化は、磁気吸着力や接着剤による取り付けに限定されるものではなく、圧入、ねじ止め等の機械的手段やその他の手段により固定することにより、一体化してもよい。
【0019】
可動子4は、サスペンション5側に伸長した突起部32bを備える。本実施形態の錘32は、非磁性体からなり、振動軸線O方向においてサスペンション5側に伸長した突起部32bと、突起部32bの根元部分(振動軸線O方向中央側)から振動軸線Oの外周方向に広がった円盤状の底部32cを備えている。錘32に設けられた突起部32bより、サスペンション5と可動子4との同軸度が安定する。そのため、サスペンション5と可動子4の固定がより強固となり、その結果、安定した振動が実現可能となる。
【0020】
少なくとも1つの錘32における突起部32bの中央には、振動軸線O方向に沿って穴が設けられる。錘32の中央の穴は、貫通穴でも、一方又は中央部が閉口した穴でも良い。
【0021】
(3)サスペンション
サスペンション5は、繊維を含む材料を有する板状体から構成されている。繊維を含む材料とは、天然繊維又は化学繊維による不織布構造又は織布構造を含むものとし、糸状のものから形成されたものも含むものとする。
図3から
図5に示すように、サスペンション5の外周部51は平板状に形成されると共に、その外周部51から中心の内周部52にかけて同心円状の凹凸部53が形成されている。
【0022】
図1の断面図のとおり、サスペンション5は、外周部51がケース2に固定され、内周部52が可動子4に固定され、可動子4を振動軸線O方向に往復動可能に支持する。すなわち、平板状に形成されたサスペンション5の外周部51は、カバーケース11の外周部下面と枠部6の上面との間に挟持されている。この場合、サスペンション5の外周部51は、枠部6に対して超音波溶接により固定される。なお、本実施形態では、ケース2と別体の枠部6を使用したが、ケース本体10に枠部6に相当する部分を一体に設けたケース2を使用することもできる。外周部51がケース2に固定される固定位置は、内周部52が可動子4に固定される固定位置と、振動軸線O方向において、同じ高さに形成することができる。なお、サスペンション5の外周部51は、挟持されなくてもよく、接着や溶着によって、少なくとも一方に固定されていてもよい。
【0023】
サスペンション5の内周部52の中心には、可動子4に向けて突出した突出部54が設けられ、この突出部54が錘32の貫通穴に重ね合された状態で、後述する固定部33により固定されている。
【0024】
サスペンション5は、可動子4の径方向に変形領域34を有する。変形領域34とは、可動子4が振動軸線O方向に振動する際に、サスペンション5が変形する領域とする。変形領域34は、固定部33と突起部32bとで挟まれた部分より外径の部分であり、カバーケース11の外周部下面と枠部6の上面との間に挟持されている部分より内径の部分である。本実施形態では、
図1に示すように、変形領域34には、可動子4の振動軸線O方向を中心とした円形状の少なくとも1個の凹凸部53が設けられている。なお、凹凸部53は、必ずしも凹凸の双方を備える形状に限定されず、少なくとも1つの凸部、又は少なくとも1つの凹部であってもよい。サスペンション5に設けられた円形状の凹凸部53は、
図5の断面図に示すように、本実施形態では、平板状の外周部51表面よりも上方に突出した環状の凸部53aと、平板状の外周部51表面よりも下方に突出した環状の凹部53bとを2重に形成した波形状断面をしている。この凸部53aと凹部53bの各面及び両面が連接する屈曲部分が変形することにより、可動子4の振動に伴う外周部51と内周部52間の変位を吸収する。
【0025】
本実施形態のサスペンション5は、不織布又は織布に対して樹脂を含侵させた板状体から形成されている。不織布又は織布を構成する繊維は、綿、アラミド繊維のいずれか又はその両方の混紡であることが好ましい。不織布又は織布に含侵させる樹脂は、熱硬化性樹脂が良く、特に、フェノール樹脂又はフェノール樹脂とゴムは、耐久性、可撓性、耐熱性に優れているため好ましいが、熱硬化性樹脂はこれに限定されない。織布又は織布構造を有する板状体にこれらの樹脂を含侵させた後、成型金型を用いてプレスにより熱形成し、内外径を切断してサスペンション5を形成する。
【0026】
(4)固定部
固定部33は、サスペンション5と可動子4を固定するものであり、可動子4の径方向内側に配置される。固定部33は、錘32の突起部32bに設けられており、振動軸を含む位置に設けられている。固定部33によって、サスペンション5を、磁気回路を形成する部品とは別部品である錘32に対して固定している。固定部33は、錘32から延在したピンを加締めることで形成してもよいし、サスペンション5における可動子4と反対方向から、固定用のピンを挿入して固定してもよく、その他の方法で固定してもよい。
【0027】
[1-2.実施形態の作用]
以上のように構成された振動アクチュエータ1は、コイル3に通電していない状態において、
図1に示すように、サスペンション5で支持される可動子4が、振動軸線O方向の中央に位置している。
【0028】
可動子4を振動させる際には、ターミナルを介して、コイル3に、交互に逆極性の磁界を発生する向きに交流を通電させる。すなわち、コイル3の隣り合う部分に同極が発生するようになっている。例えば、極性の場合、可動子4には振動軸線O方向の一側への推力が発生し、コイル3へ流す電流を反転させれば、可動子4には振動軸線O方向の他側への推力が発生する。このように、コイル3に交流を通電させれば、可動子4はサスペンション5による付勢力を両側から受けながら、振動軸線Oに沿って振動する。
【0029】
可動子4に発生する推力は、基本的にはフレミングの左手の法則に基づいて与えられる推力に準じられる。本実施形態では、対称形の配置された2つのコイル3がケース2に固定されているので、マグネット30等が取り付けられた可動子4に2つのコイル3に発生する力の反力としての推力も発生する。
【0030】
[1-3.実施形態の効果]
(1)本実施形態における振動アクチュエータ1は、サスペンション5が不織布又は織布構造を有する板状体から構成されている。そのため、適正な内部損失を有するサスペンション5の製造が可能となり、金属製のサスペンションのように制振部材を設ける必要がなく低コストで、振動特性に優れた小型の振動アクチュエータを提供することができる。
【0031】
(2)本実施形態における板状体は、不織布又は織布に対して樹脂を含侵させて成り、不織布又は織布を構成する繊維が樹脂によって固着されている。そのため、樹脂材料の持つ損失分を利用して可動子4の機械抵抗を得ることが可能となり、最大加速度周波数での振幅を抑えることができる。また、共振峰の尖鋭度を抑え、共振周波数の変化に伴う加速度の変化を抑えることができる。その結果、サスペンション5のずれや損傷を防止し、振動アクチュエータ1の耐久性を向上させることが可能となる。
【0032】
(3)本実施形態におけるサスペンション5は、凹凸部53を有するため、サスペンション5の強度を補強しつつ柔軟性を持たせることが可能となる。また、凹凸部53の形状や範囲さを調整することにより、全体の形状剛性が向上して共振が高い周波数に移動し且つ分散するので特定の大きなピークの発生を抑制できる。このように、本実施形態では適正な内部損失を有するサスペンション5を形成することが容易であり、スムーズな振動特性が得られる振動アクチュエータを提供することができる。
【0033】
(4)本実施形態におけるサスペンション5は、凹凸部53を有するため、可動子4の振動軸線O方向に対して回転方向の変形が無く、振幅方向にリニアな反応が可能である。また、凹凸部53によって、径方向の振動が吸収され、軸方向への振動特性をより向上させることができる。
【0034】
[2.サスペンションの変形例]
第1実施形態のサスペンション5は、不織布又は織布に対して樹脂を含侵させた板状体から形成されているが、板状体は樹脂の含浸体に限定されるものではなく、また、その形状も波形状断面に限定されない。以下、板状体の変形例を具体的に述べる。
【0035】
(1)
図6に示すサスペンション5は、波形状断面の凹凸部53を有するサスペンション5において、径方向に厚さを異ならせたものである。ステンレス鋼の板ばねと異なり、不織布や織布の場合には、その製造時において肉厚を制御することが容易であることから、サスペンション5の肉厚を各部で異ならせることで、所望の振動特性を得ることができる。
【0036】
(2)
図7に示すサスペンション5は、全体を放射状に分割し、その分割領域ごとに厚さを異ならせたもので、図中、aが厚肉部、bが薄肉部である。このサスペンション5においても、サスペンション5の肉厚を各部で異ならせたり、分割数や分割面積を調整したりすることで、所望の振動特性を得ることができる。
【0037】
(3)
図8のサスペンション5は、シート状に形成された平板部503の表面に他の材料507部分的に張り合わせて厚さ変化させたものである。大面積のシート状の素材をプレス加工するなどしてサスペンションを形成する場合、素材の一部に肉厚部を形成することが難しい場合がある。このサスペンション5によれば、他の材料507を積層するだけでサスペンション5の肉厚を部分的に変化させることができ、製造が容易になると共に、複雑な形状の肉厚部を有するサスペンションを容易に得ることができる。
【0038】
(4)
図9に示すサスペンション5は、その一部もしくは全部に熱溶融性を有する繊維を含む不織布又は織布から成り、不織布又は織布を構成する繊維が、熱溶融性を有する繊維によって固着されている。熱溶融を有する繊維は、耐熱性高弾性率繊維、高融点繊維、低融点繊維のいずれか、もしくはこれらから選択された複数の繊維から構成されている。特に、耐熱性高弾性率繊維はポリアミド繊維から成り、高融点繊維及び低融点繊維がポリエステル繊維から成ると、優れた剛性、弾力特性、耐久性、耐熱性を有するため好ましい。
【0039】
(5)
図10のサスペンション5は、不織布又は織布に樹脂層508を形成したものである。すなわち、板状体は、その表面又は裏面に形成された樹脂層508によって繊維が固着されている。樹脂層508は、板状体の表面に積層された樹脂フィルム又はコーティングされた樹脂によって構成されている。特に、樹脂層508をPET(ポリエチレンテレフタレート)、PP(ポリプロピレン)、PI(ポリイミド)、PEI(ポリエーテルイミド)のいずれか1層、もしくは複数層から構成すると、適正な内部損失を有するサスペンションの製造が可能となる。なお、板状体は、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PP(ポリプロピレン)、PI(ポリイミド)、PEI(ポリエーテルイミド)、熱硬化性エラストマ、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、ゴムなどであってもよい。
【0040】
(6)
図11のサスペンション5は、サスペンション5の外周部51と波形状断面の凹凸部53や平板部503の境界部分に、断面半円状の弾性部509を一体に設けたものである。この変形例では、ケース2側に固定される外周部51と振動する凹凸部53や平板部503との振動が弾性部509によって緩和されることから、サスペンション5の固定部分の破断の恐れがなく、優れた耐用年数を得ることができる。
【0041】
[3.第2実施形態]
図12から
図14は、本発明の第2実施形態を示すものである。すなわち、第1実施形態は、可動子4の両端側に、それぞれ不織布又は織布構造を有する板状体から成るサスペンション5が設けられている。一方、第2実施形態では、可動子4の一端側(図中上方)に、不織布又は織布構造を有する板状体から成るサスペンション5が設けられ、可動子4の他端側(図中下方)に、金属板から成る従来のサスペンション600が設けられている。また、金属板から成るサスペンション600に重ね合わせて同じく金属板から成る制振部材601が設けられている。
【0042】
このような構成を有する第2実施形態においては、可動子4の往側と復側の振動特性を異ならせることが可能となり、特異な振動特性を要する機器に対して本願のアクチュエータの適用が可能となる。特に、金属製のサスペンション600は、外部衝撃や耐久性の点で優れていることから、内部損失の少ない不織布又は織布から成る板状体のサスペンション5との組み合わせにより、種々の用途に適用可能である。
【0043】
[4.他の実施形態]
以上のように、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、発明の範囲を限定することを意図しておらず、以下に列記するように、発明の要旨を逸脱しない範囲で、そのほかの様々な形態で実施されることが可能であり、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。そして、これら実施形態、それらの組合せ、更にはそれらの変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。以下は、本発明に包含される実施形態の例である。
【0044】
(1)本実施形態のサスペンション5は、ステンレスなどの金属の一枚ないし複数枚の板ばねで構成されても良いし、織布又は織布構造を有する板状体から構成してもよいし、樹脂やゴム等から構成されてもよい。サスペンション5の材料は、耐久性及び可撓性に優れた材料が望ましい。
【0045】
(2)サスペンション5と錘32は、両者が固定されるものであれば、どちらに凸部、凹部又は貫通穴を設けるかは問わない。例えば、サスペンション5の中心には、振動軸線に沿って貫通穴を設けられ、錘32の中心には、サスペンション5の貫通穴に対向して凸形状が設けられ、錘32とサスペンション5は加締めにより固定されても良い。サスペンション5の表面から突出した錘32の凸形状が治具によって加熱・加圧されて押し潰されることで、錘32の表面とサスペンション5が重ね合わされた状態で加締められている。サスペンション5と錘32との固定手段は加締めに限定されるものではなく、ねじ止めや接着等の他の方法により固定(連結)することもできる。なお、サスペンション5又は錘32に凸形状を設ける場合、円形に限られず、三角形や四角形などの他の多角形であってもよい。
【0046】
(3)本実施形態のケース2は円筒状をなしており、可動子4は略円柱状をなしているが、ケース2及び可動子4の形状はこれに限られるものではなく、多角形やその他の形状であってもよい。また、本実施形態のケース2は、両端開口を閉じるカバーケース11を備えているが、ケース2の形状はこれに限定されず、有底円筒状のケースの開口にカバーを備えるものであっても、カバーを備えないものであっても良い。
【0047】
(4)本実施形態のコイル3には保護部材21を設けたが、コイル3に保護部材21を設けなくても良い。コイル3は、可動子4の外周部に対して所定の間隔を保って配置されるように、ヨーク20に接着剤等により固定される。本実施形態では、コイル3に保護部材21を設けないため、より小型の設計が可能になる。
【0048】
(5)本実施形態のサスペンション5は、外周部51がケース2に固定され、内周部52が可動子4に固定されるところ、外周部51の固定位置と内周部52の固定位置の高さを異ならせても良い。内周部52の固定位置の高さを、外周部51の固定位置より低くすると、可動子4の振動スペースがより広範に形成されるため、装置の小型化を図れる。
【0049】
(6)本実施形態のサスペンション5には、板状体を貫通する開口部が設けられてもよい。開口部により、サスペンション5の振動特性を制御することができると共に、サスペンション5の振動時において開口部を空気が通過することにより、振動抵抗や、動作音の低減を図ることができる。なお、開口部の形状には限定がなく、前記のような作用効果を発揮するものであれば、単数又は複数のスリット及び又は穴を設けることができる。
【0050】
(7)上記実施形態では、振動アクチュエータ1は、その振動軸線O方向1/2の箇所において中心軸と直交する対称面を境界として、対称に配置されたコイル3を有する例を示した。しかし、振動アクチュエータ1は、この態様に限定されず、1つのコイル3を有するタイプのアクチュエータとしてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 振動アクチュエータ
2 ケース
3 コイル
4 可動子
5 サスペンション
51 外周部
52 内周部
53 凹凸部
53a 凸部
53b 凹部
54 突出部
6 枠部
10 ケース本体
11 カバーケース
20 ヨーク
21 保護部材
30 マグネット
31 ポールピース
31a 凸部
32 錘
32a 凹部
32b 突起部
32c 底部
33 固定部
34 変形領域
503 平板部
507 他の材料
508 樹脂層
509 弾性部
600 サスペンション
601 制振部材