(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183816
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】粉体混練機の適正クリアランスの推定方法および適正クリアランスを備えた粉体混練機
(51)【国際特許分類】
B01F 27/091 20220101AFI20231221BHJP
B01F 23/53 20220101ALI20231221BHJP
B01F 23/60 20220101ALI20231221BHJP
B01F 27/702 20220101ALI20231221BHJP
【FI】
B01F27/091
B01F23/53
B01F23/60
B01F27/702
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097561
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】舘林 尭
(72)【発明者】
【氏名】清家 佑介
(72)【発明者】
【氏名】下部 友亮
【テーマコード(参考)】
4G035
4G078
【Fターム(参考)】
4G035AB46
4G035AB48
4G035AB54
4G035AE03
4G078AA09
4G078AB01
4G078BA01
4G078BA07
(57)【要約】
【課題】モデルを用いて粉体混練機の適正クリアランスの推定方法および適正クリアランスを備えた粉体混練機を提供すること目的とする。
【解決手段】粉体混練機の適正クリアランスの推定方法であって、回転羽根1およびケーシング2からなる前記粉体混練機のモデルにおいて、前記回転羽根1の回転軌跡と前記ケーシング2との間の円環状の領域を、幅Δrのn個(n≧3)の円環状のセルA
i(i=1、2、3...n)に分割し、セルA
1のさらに内側の幅Δrの円環状のセルをセルA
0とするセル分割工程と、流動速度仮定工程と、せん断速度計算工程と、せん断応力計算工程と、流動速度計算工程と、を備える、粉体混練機の適正クリアランスの推定方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体混練機の適正クリアランスの推定方法であって、
回転羽根およびケーシングからなる前記粉体混練機のモデルにおいて、前記回転羽根の回転軌跡と前記ケーシングとの間の円環状の領域を、幅Δrのn個(n≧3)の円環状のセルAi(i=1、2、3...n)に分割し、セルA1のさらに内側の幅Δrの円環状のセルをセルA0とするセル分割工程と、
前記セル分割工程S1で分割したセルAi(i=0、1、2、3...n)のそれぞれに対し、円周方向に沿った方向の流動速度Vi(i=0、1、2、3...n)を仮定する流動速度仮定工程と、
内周側からi番目のセルAi(i=1、2、3...n)とセルAi-1との境界面におけるせん断速度γAi-1⇔Aiを計算するせん断速度計算工程と、
前記せん断速度計算工程で計算したせん断速度γにおける粉体のせん断応力τ(γ)を計算するせん断応力計算工程と、
前記せん断応力計算工程で計算した、前記セルAiと前記セルAi-1との境界面におけるせん断応力τ(γAi-1⇔Ai)と、前記セルAiの内周の長さとの積が、全てのi(i=1、2、3...n)で等しくなるような、前記セルの流動速度を収束計算によって計算する流動速度計算工程と、
を備える、粉体混練機の適正クリアランスの推定方法。
【請求項2】
前記流動速度計算工程で計算した前記流動速度Viが0.01V0以下となるような前記セルからセルフライニングが発現する請求項1に記載の粉体混練機の適正クリアランスの推定方法。
【請求項3】
前記せん断応力計算工程では以下の式(1)によって前記せん断速度γにおける摩擦係数μ(γ)を計算し、以下の式(2)によって前記摩擦係数と粉圧Pとを乗算して、前記せん断速度γにおける前記せん断応力を得る、請求項1又は2に記載の粉体混練機の適正クリアランスの推定方法。
【数1】
【数2】
ただし、
γ
0:任意のせん断速度
μ´:せん断速度γ
0における摩擦係数
n:無次元パラメータ
である。
【請求項4】
前記せん断速度計算工程では以下の式(3)によって前記セルA
i-1と前記セルA
iとの境界面におけるせん断速度γ
Ai-1⇔Aiを計算し、前記流動速度計算工程では以下の式(4)が全てのi(i=1、2、3...n)で成立するように収束計算を実施し、前記流動速度を計算する請求項1又は2に記載の粉体混練機の適正クリアランスの推定方法。
【数3】
ただし、
△r:セルの幅
V
Ai:セルAiの円周に沿った方向の流動速度
V
Ai-1:セルAi-1の円周に沿った方向の流動速度
【数4】
ただし、
r:回転羽根の半径
【請求項5】
回転羽根の回転中心軸を略水平となるように回転羽根を1本以上設けた粉体混練機であって、前記粉体混練機のケーシング内面の点と、前記回転羽根のうち前記ケーシング内面の点に最も先端が近接する回転羽根との間のクリアランスdが、前記近接する回転羽根の半径rに対して式(5)の範囲にあるようなクリアランス適正点が存在し、前記クリアランス適正点からなる面積が、前記回転羽根の回転中心軸を通る水平面より下方の前記ケーシング内面の面積の50%以上を占めることを特徴とする適正クリアランスを備えた粉体混練機。
【数5】
ただし、Dは適正クリアランスであり、D=0.115×rで求める。
【請求項6】
回転羽根の回転中心軸と水平面のなす角θが0°<θ≦90°となるように回転羽根を1本以上設けた粉体混練機であって、前記粉体混練機のケーシング内面の点と、前記回転羽根のうち前記ケーシング内面の点に最も先端が近接する回転羽根との間のクリアランスdが、前記近接する回転羽根の半径rに対して式(5)の範囲にあるようなクリアランス適正点が存在し、前記クリアランス適正点からなる面積が、前記回転羽根の羽根最上端の回転軸中心部を通る水平面より下方の前記ケーシング内面の面積の50%以上を占めることを特徴とする適正クリアランスを備えた粉体混練機。ただし、Dは適正クリアランスであり、D=0.115×rで求める。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体若しくはスラリー又はこれらを含有する流動物を処理対象物とする混練機、混合機、撹拌機その他前記処理対象物を均一に分散させることを目的として運転する駆動機械(以下、単に「粉体混練機」という。)の適正クリアランスの推定方法および適正クリアランスを備えた粉体混練機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、粉体混練機によって高炉向コークス製造用原料炭の一部を石油系又は石炭系粘結補填材と共に混合し、その後加圧成形して配合する成型炭配合技術が実用化されている。
【0003】
しかしながら、成型炭配合技術に用いる粉体混練機において、石炭粉によるケーシングの摩耗が問題となっている。ケーシングが摩耗すると、ケーシングは破壊しやすくなる。
【0004】
上記の問題に鑑みて、回転羽根先端の描く回転軌跡とケーシングの間にクリアランスを設けることによって粉体によるセルフライニング層を形成させ、ケーシングの摩耗発生を防ぐ方法が公知となっている。
【0005】
例えば、特許文献1は、ケーシングの内部に、相反する方向に回転駆動される二本の混練軸を平行状態の配置で架設し、両混練軸のそれぞれに、先端にブレードを備えた複数の攪拌翼を突設した二軸ミキサであって、前記ケーシングの外板内面と攪拌翼の先端が描く回転軌跡との間に、混練物がケーシングの内面に付着することによって生成されるセルフライニング層を形成するための隙間を設け、ケーシングの摩耗発生を防ぎ、耐久性の大幅な向上を図ることができる二軸ミキサを提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、クリアランスの数値について、その推定方法は知られていない。実機においてセルフライニングを発生可能なクリアランスを推定するためには、まず計算で求められる理論上のクリアランス(適正クリアランス)を推定する必要がある。
【0008】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、粉体混練機の適正クリアランスの推定方法および適正クリアランスを備えた粉体混練機を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0010】
(1)粉体混練機の適正クリアランスの推定方法であって、回転羽根およびケーシングからなる前記粉体混練機のモデルにおいて、前記回転羽根の回転軌跡と前記ケーシングとの間の円環状の領域を、幅Δrのn個(n≧3)の円環状のセルA
i(i=1、2、3...n)に分割し、セルA
1のさらに内側の幅Δrの円環状のセルをセルA
0とするセル分割工程と、前記セル分割工程S1で分割したセルA
i(i=0、1、2、3...n)のそれぞれに対し、円周方向に沿った方向の流動速度V
i(i=0、1、2、3...n)を仮定する流動速度仮定工程と、内周側からi番目のセルA
i(i=1、2、3...n)とセルA
i-1との境界面におけるせん断速度γ
Ai-1⇔Aiを計算するせん断速度計算工程と、前記せん断速度計算工程で計算したせん断速度γにおける粉体のせん断応力τ(γ)を計算するせん断応力計算工程と、前記せん断応力計算工程で計算した、前記セルA
iと前記セルA
i-1との境界面におけるせん断応力τ(γ
Ai-1⇔Ai)と、前記セルA
iの内周の長さとの積が、全てのi(i=1、2、3...n)で等しくなるような、前記セルの流動速度を収束計算によって計算する流動速度計算工程と、を備える、粉体混練機の適正クリアランスの推定方法。
(2)前記流動速度計算工程で計算した前記流動速度V
iが0.01V
0以下となるような前記セルからセルフライニングが発現する(1)に記載の粉体混練機の適正クリアランスの推定方法。
(3)前記せん断応力計算工程では以下の式(1)によって前記せん断速度γにおける摩擦係数μ(γ)を計算し、以下の式(2)によって前記摩擦係数と粉圧Pとを乗算して、前記せん断速度γにおける前記せん断応力を得る、(1)又は(2)に記載の粉体混練機の適正クリアランスの推定方法。
【数1】
【数2】
ただし、
γ
0:任意のせん断速度
μ´:せん断速度γ
0における摩擦係数
n:無次元パラメータ
である。
(4)前記せん断速度計算工程では以下の式(3)によって前記セルA
i-1と前記セルA
iとの境界面におけるせん断速度γ
Ai-1⇔Aiを計算し、前記流動速度計算工程では以下の式(4)が全てのi(i=1、2、3...n)で成立するように収束計算を実施し、前記流動速度を計算する(1)又は(2)に記載の粉体混練機の適正クリアランスの推定方法。
【数3】
ただし、
△r:セルの幅
V
Ai:セルAiの円周に沿った方向の流動速度
V
Ai-1:セルAi-1の円周に沿った方向の流動速度
【数4】
ただし、
r:回転羽根の半径
(5)回転羽根の回転中心軸を略水平となるように回転羽根を1本以上設けた粉体混練機であって、前記粉体混練機のケーシング内面の点と、前記回転羽根のうち前記ケーシング内面の点に最も先端が近接する回転羽根との間のクリアランスdが、前記近接する回転羽根の半径rに対して式(5)の範囲にあるようなクリアランス適正点が存在し、前記クリアランス適正点からなる面積が、前記回転羽根の回転中心軸を通る水平面より下方の前記ケーシング内面の面積の50%以上を占めることを特徴とする適正クリアランスを備えた粉体混練機。
【数5】
ただし、Dは適正クリアランスであり、D=0.115×rで求める。
(6)回転羽根の回転中心軸と水平面のなす角θが0°<θ≦90°となるように回転羽根を1本以上設けた粉体混練機であって、前記粉体混練機のケーシング内面の点と、前記回転羽根のうち前記ケーシング内面の点に最も先端が近接する回転羽根との間のクリアランスdが、前記近接する回転羽根の半径rに対して式(5)の範囲にあるようなクリアランス適正点が存在し、前記クリアランス適正点からなる面積が、前記回転羽根の羽根最上端の回転軸中心部を通る水平面より下方の前記ケーシング内面の面積の50%以上を占めることを特徴とする適正クリアランスを備えた粉体混練機。ただし、Dは適正クリアランスであり、D=0.115×rで求める。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、粉体混練機の適正クリアランスの推定方法および適正クリアランスを備えた粉体混練機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】流動速度分布をせん断力のつり合いから予測するモデルを示す概略図である。
【
図2】セル分割工程で説明される
図1のモデルのセル拡大図である。
【
図3】流動速度仮定工程で説明される
図1のモデルのセル拡大図である。
【
図4】摩擦係数のせん断速度依存性を示すグラフである。
【
図5】適正クリアランス計算工程で説明される
図1のモデルのセル拡大図である。
【
図6】混練物流動速度と回転羽根先端からのケーシング内面方向の距離の関係を示すグラフである。
【
図7】セルフライニング検証試験を示す概略図である。
【
図8】適正クリアランスと回転羽根の直径との関係を示すグラフである。
【
図9】クリアランスを適用した粉体混練機の実機の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、粉体混練機の適正クリアランスの推定方法を知見した。
【0014】
以下、本発明に係る粉体混練機における回転羽根の回転軌跡とケーシングとの間の適正クリアランスを推定する方法の実施形態について詳細に説明する。本実施形態のクリアランスの推定方法は、セル分割工程S1と、流動速度仮定工程S2と、せん断速度計算工程S3と、せん断応力計算工程S4と、流動速度計算工程S5と、を備える。
【0015】
(セル分割工程S1)
本発明者らは、適正クリアランスを推定する方法を鋭意検討した結果、
図1のモデルを考案した。
図1に示すモデルは、回転羽根1、回転羽根1を収容するケーシング2、及び回転羽根1とケーシング2との間の円環状の領域から構成される。回転羽根1は、中心軸であるC軸に時計回りに回転する。
図1はケーシング2内で撹拌される粉体のモデル直径方向の流動速度分布をせん断力のつり合いから予測するモデルである。セル分割工程S1では、
図1のモデルにおいて、回転羽根1の回転軌跡とケーシング2との間の円環状の領域Bを、幅Δrのn個(n≧3)の円環状のセルに分割する。
図2は、
図1のモデルのセルを拡大した図である。
図2に記載のように、内周側からi番目のセルをセルA
i(i=1、2、3...n)とする。また、便宜上、セルA
1のさらに内側の幅Δrの円環状のセルをセルA
0とする。
【0016】
(流動速度仮定工程S2)
セル分割工程S1で分割したセルのそれぞれに対し、円周方向に沿った方向の流動速度を仮定する。具体的には、
図3に示すように、内周側からi番目のセルA
iの流動速度をV
Ai、セルA
iの1つ内側のセルA
i-1の円周に沿った方向の流動速度をV
Ai-1、セルAiの1つ外側のセルA
i+1の円周に沿った方向の流動速度をV
Ai+1と設定する。各セルはC軸方向から見て円環状の剛体とし、各セルの幅方向中心線における移動速度を各セルの流動速度とする。セル内部には速度差は生じない。各セルはそれぞれ流動速度が異なるので、セルとセルの間にせん断応力が生じる。
【0017】
(せん断速度計算工程S3)
セルA
iとセルA
i-1との間のせん断速度γ
Ai-1⇔Aiは、以下の式(1)によって求めることができる。また、
図3に示すように、△rの中点を通る境界をセル境界とする。
【数1】
式(1)において、△rをセルの幅、V
AiをセルA
iの円周に沿った方向の流動速度、V
Ai-1をセルA
i-1の円周に沿った方向の流動速度とする。
【0018】
(せん断応力計算工程S4)
図1のモデルを実用に供するためには、せん断速度とせん断応力の関係を明らかにする必要がある。そこで、本発明者らは、異なるせん断速度における粉体の摩擦係数を調査するためにせん断試験を実施した。せん断試験は、以下の条件で行われた。
試料:石炭/ロードタール混練物
試験方式:定容積せん断試験
せん断帯厚み:1mm
温度:65℃
せん断速度[1/s]は0.8、0.3、1と変化させた。
【0019】
図4は前記せん断試験で得られた摩擦係数のせん断速度依存性を示す図である。横軸がせん断速度、縦軸が摩擦係数であり、せん断速度の上昇と共に摩擦係数も増加した。
図4のグラフは以下の式(2)により近似される。
【数2】
式(2)において、μ(γ)をせん断速度γにおける摩擦係数、γ
0を任意のせん断速度、μ´をせん断速度γ
0における摩擦係数、αを無次元パラメータとする。
石炭/ロードタール混練物と異なる粉体を処理対象とする場合についても、前記せん断試験と同様の試験を実施することによって、式(2)のようなせん断速度と摩擦係数の関係を得ることができる。
【0020】
次に、(2)で求めた摩擦係数と粉圧Pを乗算することによって、せん断応力τ(γ)を求めることができる。これは、以下の式(3)により表される。
【数3】
【0021】
(流動速度計算工程S5)
せん断力とは、せん断面の面積(せん断応力に作用する接触面)とせん断応力とを乗算して求められる。
図1、
図2に記載のモデルでは、セルA
iとセルA
i+1との間のせん断速度γ
Ai⇔Ai+1により生じるせん断力(式(4)の左辺)と、セルA
iとセルA
i-1との間のせん断速度γ
Ai-1⇔Aiにより生じるせん断力(式(4)の右辺)は、A
iが加速も減速もしない定常状態で釣り合う。この理由を詳細に説明する。セルA
iは、回転羽根1の回転力を、セル間の摩擦力によって外側のセルへ伝達しながら円周方向に回転する。回転羽根1が回転を開始してから十分な時間が経過し、回転羽根1の回転力がケーシング2内の各セルに十分に伝達された時点においては、各セルは加減速することなく等速度で回転運動しているため、各セルにおいて、1つ内側のセルから作用するせん断力と、1つ外側のセルに対して作用するせん断力は釣り合っている。これは、以下の式(4)で表される。せん断面の面積は、セルの円周の長さとセルの奥行きの長さの積であるが、各セルの奥行きの長さは全て等しいため、両辺から消去されている。ここで、τ(γ
Ai⇔Ai+1)はせん断速度γ
Ai⇔Ai+1におけるせん断応力、rは回転羽根1が描く回転軌跡の半径を表す。
【数4】
【0022】
前記せん断力は、全ての隣接するセル同士の境界面で釣り合うため、以下の式(5)を満足するようなV
Ai(1≦i≦n)を求めれば、回転羽根1の回転力がケーシング2内の各セルに十分に伝達された時点におけるセルの流動速度を求めることができる。以下、セルの流動速度について詳細に説明する。
【数5】
【0023】
最後に、ケーシング2の最外周部のセルA
nの流動速度が0になるように収束計算を行う。適正クリアランス計算工程S6は、
図5のように計算する。このとき、rは回転羽根及びケーシングの中心を0とする直径方向の座標、A
iはi番目のセル、R
i(=r+i△r)はA
iの内側の座標を表す。
さらに、V
iをA
iの回転速度、F
iをA
iがA
i-1から受けるせん断応力とA
iの内周の長さとの積FをF1~Fnの平均とする(n=80)。F
iは以下の式(6)で表される。このとき、1≦i≦79とV
iを変化させ、式(7)の値が最小となるように、また全てのi(i=1、2、3...n)で成立するように収束計算する。このとき、制約条件はV
0=羽根先端の回転速度、1≦i≦79、V
i+1≦V
i、V
80=0である。また、V
iは式(1)により求められる。
【数6】
【数7】
式(7)の値が収束したと考えられる条件は以下の式(8)が成り立つときである。
【数8】
図6は、上述したモデル(
図1)を用いて計算した、回転羽根の直径を150mm、回転羽根の回転速度を32rpmとした場合の各セルの流動速度である。縦軸は混練物流動速度(V
i/V
0)、横軸は回転羽根先端からのケーシング内面方向の距離(R
i-r)を示している。
図6から読み取れるように、V
i=0.01V
0程度のセルを境界として、その外側から急激に流動速度が減少している。実用上は、V
i≦0.01V
0となるセルからセルフライニングが発現するということができる。
【0024】
(セルフライニング検証試験)
上述したモデルと実際の現象との整合性を確認するため、
図7のようにセルフライニング検証試験を行った。このとき容器の大きさを変えて各クリアランス(5、15、25mm)での粉体の流動の様子を評価した。
【0025】
図6での算出条件と同様に、回転羽根の直径を150mm、回転羽根の回転速度を32rpmとした。モーター性能は定格出力120W、定格トルク2.2Nmであった。粉体の流動が停滞する境界面より内側を流動層、外側を停滞層とし、流動層及び停滞層の厚みを求めた。結果は以下の表1のようになり、当該混練系での適正クリアランスの実験値は約9mmであった。この結果は、
図6に示した、モデルによる適正クリアランスの推定値と良い精度で整合した。
【0026】
【0027】
また、産業用途では大小さまざまな規模の粉体混練機が使用されることを想定し、回転羽根の直径と適正クリアランスの関係を当該モデルにより予測した。結果は以下の
図8のようになり、いずれの規模の粉体混練機においても、回転羽根の半径の0.115倍の幅が適正クリアランスであることが推定された。なお、当該モデルでは、適正クリアランスは回転速度によっては変化しなかった。
粉体混練機のクリアランスが適正クリアランスよりも過小であると、ケーシング内面と粉体との摺動が発生し、ケーシングに摩耗が発生する。逆に、粉体混練機のクリアランスが適正クリアランスよりも過大であると、粉体の混練性が低下し、又は装置が不要に巨大となる等の問題が発生する。
図6の横軸0.009は適正クリアランス(紛体速度=羽根先端速度×0.01倍)であると同時に実験で確認した流動部と滞留部の境界面でもある。その適正クリアランス(横軸0.009)を基準にして、横軸を0.008、0.007、0.006と小さくすると縦軸に示すケーシング表面近傍の紛体速度は増大し、ケーシングの摩耗速度を増大させる。逆に横軸を0.010に近づけていくと計算紛体速度は羽根先端速度の1/1000を下回り、殆ど0となることが予想される。
クリアランスを
図6の横軸0.009より小さい0.006で設計・製作した場合、紛体速度は適正クリアランス(0.009)に対して概略10倍となるためケーシングの摩耗が進み、クリアランスが0.009近傍になると摩耗が止まることが予想される。
そこで、産業用途の粉体混練機のクリアランスは、好ましくは、適正クリアランスの90%以上115%以下であり、より好ましくは、95%以上110%以下である。粉体混練機のクリアランスを適正クリアランスより僅かに小さく設計する場合、回転羽根の外周端を、そこから径方向外側へ延長した点を、ケーシング内面からケーシング板厚中心の範囲とする。これは、適正クリアランスの90%以上の値に相当する。僅かに小さく設計する場合、より好ましくは適正クリアランスの95%以上であってもよい。また、粉体混練機のクリアランスを適正クリアランスより僅かに大きく設計する場合、回転羽根の外周端を、そこから径方向外側へ適正クリアランスより110%延長した点が、ケーシング内面からケーシング板厚中心の範囲とする。これは、適正クリアランスの110%以下の値に相当する。僅かに大きく設計する場合、より望ましくは105%、100%相当長さを延長する。
【0028】
(適正クリアランスを備えた粉体混練機)
次に、計算した適正クリアランスを実機に設けた例について説明する。
【0029】
<横型の粉体混練機に適用した例>
本実施形態に係る適正クリアランスを備えた粉体混練機は、回転羽根の回転中心軸を略水平となるように回転羽根を1本以上設けた粉体混練機であって、粉体混練機のケーシング内面の点と、回転羽根のうちケーシング内面の点に最も先端が近接する回転羽根との間のクリアランスdが、近接する回転羽根の半径rに対して式(9)の範囲にあるようなクリアランス適正点が存在し、クリアランス適正点からなる面積が、回転羽根の回転中心軸を通る平面より下方の前記ケーシング内面の面積の80%以上を占めることを特徴とする。また、クリアランス適正点からなる面積が、回転羽根の羽根最上端を通る水平面より下方のケーシング内面の面積の50%以上としてもよい。ただし、Dは適正クリアランスであり、D=0.115×rで求める。
【数9】
【0030】
粉体混練機に2本以上の回転羽根が設けられている場合は、回転中心軸が最も長い回転羽根を、近接する回転羽根の半径rとする。式(9)は実機のクリアランスdが、適正クリアランスの90%以上115%以下であることを示す。
【0031】
<縦型の粉体混練機に適用した例>
本実施形態に係る適正クリアランスを備えた粉体混練機は、回転羽根の回転中心軸と水平面のなす角θが0°<θ≦90°となるように回転羽根を1本以上設けた粉体混練機であって、粉体混練機のケーシング内面の点と、回転羽根のうちケーシング内面の点に最も先端が近接する回転羽根との間のクリアランスdが、近接する回転羽根の半径rに対して式(9)の範囲にあるようなクリアランス適正点が存在し、クリアランス適正点からなる面積が、回転羽根の羽根最上端を通る水平面より下方のケーシング内面の面積の80%以上を占めることを特徴とする。また、クリアランス適正点からなる面積が、回転羽根の羽根最上端の回転軸中心部を通る水平面より下方のケーシング内面の面積の50%以上としてもよい。ただし、Dは適正クリアランスであり、D=0.115×rで求める。
【0032】
回転羽根の回転中心軸が略垂直とは、垂直方向に対して0°以上10°以下の角度範囲を含む。また、より好ましくは、0°以上10°以下の角度範囲を含む。粉体混練機に2本以上の回転羽根が設けられている場合は、回転中心軸が最も長い回転羽根を、近接する回転羽根の半径rとする。式(9)は実機のクリアランスdが、適正クリアランスの90%以上115%以下であることを示す。
【0033】
(実施例)
本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
図9はクリアランスを適用した粉体混練機4の実機の概略図である。
ケーシング2の底部には回転羽根1が2つある。ケーシング2の底面は回転羽根1と同軸の円筒面になっている。ケーシング2は、回転羽根1の軸よりも上側の部分では、側壁が鉛直方向に延びている。ノズル3はケーシング2の天井壁に複数設置されている。図示において回転羽根1の奥側に図示しないフィーダーが設置されている。図示において回転羽根1の手前側に図示しない排出口が配置されている。これらの粉体混練機4の混練対象物はどちらも石炭及び油である。混練対象物の石炭は、フィーダーから供給される。また、油はノズルから供給され、処理済みの混練物は開口部から排出される。実施例では適正クリアランスDから式(9)を用いて計算される範囲のクリアランスを適用した。比較例では適正クリアランスDから式(9)を用いて計算される範囲外のクリアランスを適用した。実施例及び比較例において、一定期間の試験運転の後にケーシングの摩耗量評価を実施した。実施例及び比較例における設計値(回転羽根の半径r、クリアランスd)、適正クリアランスD、被混練物の処理量及び摩耗量を表2に示す。
【0034】
【0035】
表2のように、実施例は被混練物の日当たり処理量が多くても、摩耗量は検出されなかった。一方比較例は被混練物の日当たり処理量が少なくても、摩耗量が検出された。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、当該モデルを用いることで、粉体混練機の適正クリアランスを提供することができる。また石炭粉とケーシング壁面間の摺動が抑制され、大幅な寿命の延長が期待される。従って、本発明は高い産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0037】
1 回転羽根
2 ケーシング
3 ノズル
4 粉体混練機