(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183826
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】生体分析装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/145 20060101AFI20231221BHJP
A61B 8/13 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
A61B5/145
A61B8/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097580
(22)【出願日】2022-06-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年10月21日、Optics & Photonics Japan 2021講演予稿集 令和3年10月28日、Optics & Photonics Japan 2021(OPJ2021) 令和4年3月25日、電気学会研究会資料 令和4年3月28日、一般社団法人電気学会、光・量子デバイス研究会
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】松浦 祐司
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 亮太
【テーマコード(参考)】
4C038
4C601
【Fターム(参考)】
4C038KK01
4C038KK10
4C038KL05
4C038KL07
4C038KM01
4C038KY01
4C601DE16
4C601EE03
(57)【要約】
【課題】光音響分光法により生体試料中で発生した超音波を検出する感度を向上させることができる。
【解決手段】生体分析装置100は、光源20と、光源20による光線を導光するための孔43を有する基板41と、孔43を通過したと共に孔43に接触された生体試料60の内部を透過した前記光線によって発生する圧力を検出する圧電素子42と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源による光線を導光するための孔を有する基板と、
前記孔を通過したと共に前記孔に接触された生体試料の内部を透過した前記光線によって発生する圧力を検出する圧電素子と、
を備える、生体分析装置。
【請求項2】
前記孔と前記圧電素子との距離dは、fを前記光線の変調周波数とし、vを前記生体試料の内部の音速とし、nを自然数とするとき、
d=nv/2f
で表される、請求項1に記載の生体分析装置。
【請求項3】
前記圧電素子は、半円管状に湾曲した前記基板に備えられ、
前記孔は、前記基板の湾曲方向に平行であり前記圧電素子が位置する線分上に形成される、
請求項1又は2に記載の生体分析装置。
【請求項4】
前記圧電素子は、リング形状であり、
前記孔は、前記リング形状の中心部に重なるように形成される、
請求項3に記載の生体分析装置。
【請求項5】
前記生体試料として、ヒトの指が用いられる、
請求項3に記載の生体分析装置。
【請求項6】
前記基板は、前記生体試料を侵入させるための開口部を有する箱形状であり、
前記孔と前記圧電素子とは、前記箱形状の対向する2つの面に直交する一の線分上に備えられる、
請求項1又は2に記載の生体分析装置。
【請求項7】
前記生体試料として、ヒトの皮膚又は耳垂が用いられる、
請求項6に記載の生体分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内の種々成分を非侵襲に測定する手法として、光音響分光法(Photoacoustic Spectroscopy:PAS)が知られている。光音響分光法は、光を吸収した生体試料で発生する熱を音響的な方法を用いて生体組織の成分を検出する手法であり、検出器としてマイクロフォンを用いる手法はマイクロフォン法と呼ばれ、圧電素子を用いる手法はトランスデューサ法と呼ばれている。トランスデューサ法は、光を吸収した生体中に発生・伝搬する超音波を生体に接触させたトランスデューサで検出する(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光音響分光法は、生体の深部(生体の表面から数10μm程度)を測定することができるという点で優れている。しかしながら、生体中に発生する圧力の変位量は小さいと共に、超音波は生体内を伝播する過程で減衰するため、生体表面のトランスデューサで検出される受信信号は微弱なものとなる。したがって、光音響分光法による測定装置を実用化するために、微弱な超音波を高感度に検出することが求められている。
【0005】
本件の生体分析装置は、このような課題に鑑み案出されたもので、光音響分光法により生体試料中で発生した超音波を検出する感度を向上させることを目的とする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)ここで開示する生体分析装置は、光源と、前記光源による光線を導光するための孔を有する基板と、前記孔を通過したと共に前記孔に接触された生体試料の内部を透過した前記光線によって発生する圧力を検出する圧電素子と、を備える。
【0007】
(2)前記孔と前記圧電素子との距離dは、fを前記光線の変調周波数とし、vを前記生体試料の内部の音速とし、nを自然数とするとき、
d=nv/2f
で表されることが好ましい。
【0008】
(3)前記圧電素子は、半円管状に湾曲した前記基板に備えられ、前記孔は、前記基板の湾曲方向に平行であり前記圧電素子が位置する線分上に形成されることが好ましい。
【0009】
(4)前記圧電素子は、リング形状であり、前記孔は、前記リング形状の中心部に重なるように形成されることが好ましい。
【0010】
(5)前記生体試料として、ヒトの指が用いられることが好ましい。
【0011】
(6)前記基板は、前記生体試料を侵入させるための開口部を有する箱形状であり、前記孔と前記圧電素子とは、前記箱形状の対向する2つの面に直交する一の線分上に備えられることが好ましい。
【0012】
(7)前記生体試料として、ヒトの皮膚又は耳垂であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
開示の生体分析装置によれば、光音響分光法により生体試料中で発生した超音波を検出する感度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係る生体分析装置の全体構成を示す模式図である。
【
図2】
図2(a)は
図1の生体分析装置における実験1を説明するための図であり、
図2(b)は実験1の結果を示すグラフである。
【
図3】
図3(a)は
図1の生体分析装置における実験2を説明するための図であり、
図3(b)は実験2の結果を示すグラフである。
【
図4】第1実施形態にかかる測定部の構成を説明するための斜視図である。
【
図5】
図4の測定部のA-A断面及び孔と圧電素子との位置関係を説明するための模式図である。
【
図6】第1実施形態の変形例にかかる測定部の構成を説明するための斜視図である。
【
図7】
図6の測定部のB-B断面及び孔と圧電素子との位置関係を説明するための模式図である。
【
図8】
図6に示した圧電素子を説明するための斜視図である。
【
図9】第2実施形態の測定部の構成を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照して、実施形態としての生体分析装置100について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0016】
[1.全体構成]
図1は、本実施形態の生体分析装置100の全体構成を示す斜視図である。生体分析装置100は、前述したトランスデューサ法により生体組織の成分を測定し、分析するためのシステムである。生体組織の成分とは、例えば血液や間質液中のグルコース、コレステロール、中性脂肪、タンパク質、ヘモグロビン、ピリルビン、酸素量等である。生体分析装置100は、処理部10、光源20、ミラー30、測定部40及び増幅器50を備える。
図1に示すように、生体分析装置100の一部の要素は互いに通信可能に接続されている。
【0017】
処理部10は、生体分析装置100全体を制御するためのコントローラ(例えばCPU等)と、プログラム及びデータ等を記憶することが可能な記憶部とを備え(不図示)、汎用のコンピュータで実現される。処理部10は、測定部40で検出され、増幅器50で増幅された生体試料(以下、「試料」ともいう)60の測定データに基づいて、試料60中の成分に関する情報(以下、「生体成分情報」という)を出力する。
【0018】
光源20は、中赤外領域(3~12μm)の波長を発生する光源である。光源20の一例は、外部共振器型量子カスケードレーザ(External Cavity Quantum Cascade Laser:EC-QCL)である。光源20の波長は、測定対象の生体成分の分子振動に合う波長が選択される。光源20は、波長8.3~10.8μmの範囲で波長可変であり、波数930~1200cm-1の範囲で2cm-1ステップで波長掃引可能であることが好ましい。光源20のパルスの繰り返し周波数は、試料60中に発生させる超音波の周波数の範囲に設定される。この繰り返し周波数は、後述の圧電素子42の特性に応じて適宜選択可能である。照射光パワーは、最大1080cm-1で8.4mW程度であり、デューティ比4.0~6.0%のパルス変調、具体的には、繰り返し周波数400~600kHz、パルス幅100nsであることが好ましい。また、光の照射時間は、2分30秒程度であることが好ましい。
【0019】
ミラー30は、光源20と測定部40との間に配置され、光源20から出射された光線を生体試料60に向けて反射させることで生体試料60に光線を照射する。ミラー30の位置及び角度は、光源20の光出射口と、後述する基板41の孔43との位置関係に応じて決定される。光線のビーム幅が大きい場合は、
図1に示すように軸外し放物面ミラーを用いて複数の光線を集光することができる。光線のビーム幅が小さい場合は、平板ミラーを用いてもよい。
【0020】
測定部40は、基板41及び圧電素子42を備える。基板41は、生体試料60を載置するための台であり、孔43を有する。孔43は、光源20から照射され、ミラー30で反射された光を生体試料60へと導く。別言すると、基板41は、光源20による光線を導光するための孔43を有する。生体試料60は、孔43に接触するように載置される。基板41の形状は測定対象に応じて決定されてよい。形状の例については後述する。基板41の素材は、プラスチックや金属が可能であるが特に限定されない。孔43の大きさは、パルス光が通過するのに十分な大きさが適宜選択されてよい。
【0021】
圧電素子42は、生体試料60の表面に接触することができる位置に配置され、生体試料60の内部を透過した光線によって試料60中に発生する圧力(超音波)を検出する。圧電素子42の一例は、PZTトランスデューサである。
【0022】
増幅器50は、圧電素子42で検出された圧力(受信信号)を増幅し、更に、信号の雑音成分の除去をするためのデバイスである。増幅器50の一例は、ロックインアンプである。
【0023】
ここで、生体分析装置100におけるトランスデューサ法による分析方法について説明する。光源20は複数のパルス光を断続的に出射し、ミラー30は光源20からのパルス光を集光し、基板41の孔43に向けて反射する。パルス光は孔43を介して孔43に接触する生体試料60に入射する。試料60内に吸収されたパルス光は、非発光過程で熱に変換され、熱の発生に伴い試料60の表面が膨張・収縮することで、熱弾性波(超音波)の発生・伝搬が起こる。試料60の表面に接触する圧電素子42は、試料60が発生する超音波(圧力)を検出し、増幅器50に光音響信号を送信する。増幅器50は、圧電素子42から受信した光音響信号を増幅及び雑音除去し、当該信号を処理部10に送信する。処理部10は、増幅器50から受信した光音響信号の測定データ(中赤外光スぺクトル)に基づいて、生体成分情報を出力する。
【0024】
[2.実験]
ここで、超音波の検出感度を向上させるために行なった実験を説明する。
【0025】
<実験1>
図2(a)は
図1の生体分析装置100における実験1を説明するための図である。本実験では、圧電素子42を生体試料60上で200μmずつ移動させることで、光が生体試料60に照射する点(照射点)と、試料から発生する超音波を検出する点(検出点)との間の距離を変化させて光音響信号の強度を測定した。
【0026】
本実験では、
図1の生体分析装置100において、処理部10には汎用コンピュータ、光源20には波長可変なEC-QCL(Hedgehog, Daylight Solutions社製)、ミラー30には軸外し放物面ミラー、圧電素子42には圧電トランスデューサ(R-CAST AE センサM204A,富士セラミクス社製)、増幅器50にはロックインアンプ(LI5640,NF回路設計ブロック)を用いた。また、生体試料60には厚さ5.0mmのパッド超音波ジェル(生体模擬試料;タキロンシーアイ社 SONAGEL(登録商標))を用いた。EC-QCLは、波長8.3~10.8μmの範囲で波長可変である。本実験では繰り返し周波数を500kHzとし、波数1048cm
-1に固定して測定を行った。
【0027】
図2(b)は、実験1の結果を示すグラフである。
図2(b)の横軸は、照射点からの距離を表し、縦軸はトランスデューサで検出した光音響信号強度を表す。
図2(b)に示すように、距離2.3mm,3.8mm,5.3mm,6.8mm,8.6mmに離散的な信号強度のピークが観測された。
【0028】
<実験2>
図3(a)は
図1の生体分析装置100における実験2を説明するための図である。本実験では、圧電素子42を生体試料60に100μmずつ押し込むことで、生体試料60の厚さを変化させて、光音響信号の強度を測定した。本実験における生体分析装置100の条件は、繰り返し周波数を500kHz(λ~3.6mm)及び600kHz(λ~3.0mm)とした点を除いて実験1と同一である。
【0029】
図3(b)は実験2の結果を示すグラフである。
図3(b)の横軸は生体試料60の厚さを表し、縦軸はトランスデューサで検出した光音響信号強度を表す。
図3(b)に示すように、繰り返し周波数500kHzの場合、厚さ1.3mm,3.6mmに離散的な信号強度のピークが観測され、繰り返し周波数600kHZの場合、厚さ1.0mm,3.0mm,5.0mmに離散的な信号強度のピークが観測された。
【0030】
本願の発明者は、実験1及び2の結果について鋭意検討し、レーザ照射によって誘起される超音波の波長を考慮することで、生体試料中に発生する超音波を検出する感度を向上させることが可能になるとの知見を得た。具体的には、誘起される超音波の半波長となる周波数では共振現象により強力な信号が得られると推定される。かかる観点から、本実施形態に係る生体分析装置100では、誘起される超音波の共振現象を利用した測定部40を提案する。
【0031】
[3.第1実施形態]
図4及び
図5を参照して、第1実施形態を説明する。
図4は、第1実施形態にかかる測定部40の構成を説明するための斜視図である。本実施形態では、生体試料60として、ヒトの指が用いられる。測定部40は基板41及び圧電素子42で構成される。基板41は円筒を半割りした半円管状に湾曲した形状を有する。基板41は、内側の湾曲面に手の指の腹部分の皮膚が当接可能な形状及び大きさに形成されることが好ましい。圧電素子42は、基板41と一体化しており、更に基板41を貫通していて、基板41の湾曲面の外側から増幅器50に接続される通信線が延びる(
図5参照)。なお、圧電素子42は基板41を貫通して設けられていなくてもよく、この場合には増幅器50に接続される通信線は基板41の湾曲面の内側に延在してよい。
【0032】
図5は、
図4のA-A断面を示すとともに、孔43と圧電素子42との位置関係を説明するための模式図である。基板41の内側の湾曲面にはヒトの指(生体試料60)が載置されている。孔43及び圧電素子42は、一定の距離dを開けて設けられている。距離dは、生体試料60に対する光の照射点と生体試料60からの超音波の検出点との間の長さである。距離dは、孔43の中心(光線が生体試料60に入射する所)を始点とすると、終点は、圧電素子42の端部又は重心のいずれでもよい。孔43と圧電素子42との距離dは下記の式1で表される。
d=nv/2f・・・(式1)
【0033】
式1の右辺の変数は、f:パルス光(光線)の変調周波数、v:生体試料60の内部の音速、n:自然数である。例えば、fを600kHz、vを毎秒1800mmとすると、波長λは3mmになるため、n=1,2,3,4のとき、距離dはそれぞれ1.5mm,3.0mm,4.5mm,6.0mmと算出される。
【0034】
試料60中に発生した超音波(圧力)は、孔43から距離d離れた圧電素子42で検出される。孔43及び圧電素子42は、上記式1で算出した距離dを半径とする範囲内の位置にあることが好ましい。具体的には、孔43は、基板41の内側の湾曲面の、圧電素子42が位置する円周上に形成される。別言すると、孔43は、基板41の湾曲方向に平行であり圧電素子42が位置する線分上に形成される。本実施形態では、基板41の長尺延在方向に垂直な断面に孔43及び圧電素子42が設けられている。
【0035】
なお、圧電素子42は、基板41上に、式1のnを変化させることで算出される複数の距離dに基づいて、複数設けられてもよい。この場合、検出した信号は処理部10において合成され、分析される。
【0036】
[4.第1実施形態の変形例]
図6~
図8を参照して、第1実施形態の変形例を説明する。変形例は、第1実施形態の測定部40に対して、圧電素子の形状の点において相違している。以下、相違点を中心に説明する。なお、変形例の説明において、第1実施形態にて使用した符号と同じ符号を付したものは、同一又はほぼ同様のものである。
【0037】
図6は、第1実施形態の変形例にかかる測定部40の構成を説明するための斜視図である。本実施形態では、圧電素子42Aは、リング形状であり、孔43は、圧電素子42Aのリング形状の中心部に重なるように形成される。つまり、基板41には圧電素子42Aの外円の直径と一致する直径の孔43が設けられており、圧電素子42Aは当該孔43に嵌合し、圧電素子42のリング形状の中心部(内円の中)の開口と共に孔43が形成される。圧電素子42Aは、基板41の湾曲面に沿うように湾曲している、あるいは、基板41の湾曲面に影響しない大きさに形成されることが好ましい。圧電素子42Aは、基板41と一体化しており、更に基板41を貫通していて、基板41の湾曲面の外側から増幅器50に接続される通信線が延びる(
図7参照)。なお、圧電素子42Aは基板41を貫通して設けられていなくてもよく、この場合には増幅器50に接続される通信線は基板41の湾曲面の内側に延在してよい。
【0038】
図7は、
図6のB-B断面を示すとともに、孔43と圧電素子42Aとの位置関係を説明するための模式図である。孔43及び圧電素子42は、一定の距離dを開けて設けられている。
図8は、
図6に示した圧電素子42Aを説明するための斜視図である。本変形例では、
図8に示すように、距離dは、孔43の中心(光線が生体試料60に入射する所)と、圧電素子42Aの外円の円周との間の長さである。距離dは前述の式1で表される。なお、本変形例の距離dは、孔43の中心と、圧電素子42Aの外円と内円との中間の円周との間の長さ、或いは、孔43の中心と、内円の円周との間の長さであってもよい。
【0039】
[5.第2実施形態]
図9を参照して、第2実施形態を説明する。第2実施形態は、第1実施形態の測定部40に対して、基板の形状及び測定対象の点において相違している。以下、相違点を中心に説明する。なお、変形例の説明において、第1実施形態にて使用した符号と同じ符号を付したものは、同一又はほぼ同様のものである。
【0040】
図9は、第2実施形態にかかる測定部40の構成を説明するための断面図である。本実施形態では、生体試料60として、ヒトの皮膚又は耳垂が用いられる。ヒトの皮膚の一例は、手の指の間や手の甲の皮膚である。
【0041】
基板41Aは、箱形状であり、その内部空間に生体試料60を侵入させるための開口部44を有する。基板41Aは、生体試料60を内部に挿入するのに適した形状及び大きさに形成されることが好ましい。基板41Aは、孔43及び圧電素子42を備える。圧電素子42は、基板41Aと一体化しており、更に基板41Aを貫通して、基板41Aの箱形状の外側から増幅器50に接続される通信線が延びている。なお、圧電素子42は基板41Aを貫通して設けられていなくてもよく、この場合には増幅器50に接続される通信線は基板41Aの箱形状の内側に延在してよい。圧電素子42は、孔43から入射する光が直進する方向の線分上に配置されていることが好ましい。別言すると、孔43と圧電素子42とは、箱形状の対向する2つの面に直交する一の線分上に備えられることが好ましい。
【0042】
孔43及び圧電素子42は、一定の距離dを開けて設けられている。本実施形態では、距離dは、孔43の中心位置を始点とし、終点は、基板41Aの内部空間側の圧電素子42の面である。距離dは前述の式1で表される。
【0043】
基板41Aは、更に、挟持機構を備えたクリップ形状でもよい。これにより、測定部40を生体試料60に安定して取り付けることができる。
【0044】
[6.効果]
(1)生体分析装置100の圧電素子42は、基板41,41Aの孔43に接触された生体試料60の内部を透過したパルス光によって生体試料60中に発生する超音波(圧力)を検出する。光音響分光法を用いることで、生体の深部の成分情報を取得することができる。更に、トランスデューサ法を採用することで、マイクロフォン法と比較して、環境音や生体の水蒸気(汗)の影響を受けにくく、光音響セルが不要であるため、簡易な構成の生体分析装置100を実現することができる。
【0045】
(2)孔43と圧電素子42,42Aとの距離dは、fをパルス光の変調周波数とし、vを生体試料60の内部の音速とし、nを自然数とするとき、
d=nv/2f
で表される。これにより、試料60中に誘起される超音波の共振現象を利用し、光音響信号強度が増大する位置で当該信号を検出することができるため、測定感度を向上させることができる。
【0046】
(3)基板41が半円管状に湾曲していることで、生体試料60の載置が安定することとなり、光音響信号を検出する際に、測定感度が低下することを防止できる。
また、基板41には、孔43が基板41の湾曲方向に平行であり圧電素子42が位置する線分上に形成される。孔43がこのように形成されない場合に比べて、生体試料60への光の入射点と圧電素子42との距離が近いため、試料60を伝搬する微弱な超音波(圧力)を確実に検出することができる。
【0047】
(4)圧電素子42はリング形状であり、孔43はリング形状の中心部に重なるように形成される。生体試料60への光の入射点から等しい至近距離に圧電素子42が配置されることで、試料60を伝搬する微弱な超音波(圧力)を偏りなく、且つ、感度高く検出することができる。
【0048】
(5)生体試料60として、ヒトの指が用いられる。手指には血流が多く流れており、脈波信号が大きく安定しているため、生体成分情報を正確に取得することができる。
【0049】
(6)基板41Aは、生体試料60を侵入させるための開口部44を有する箱形状であり、孔43と圧電素子42とは、箱形状の対向する2つの面に直交する一の線分上に備えられる。生体試料60が基板41A内で孔43と圧電素子42によって挟み込まれることで、生体試料60への光の入射点と圧電素子42との距離が近くなるため、試料60を伝播する微弱な超音波(圧力)を感度高く検出することができる。
【0050】
(7)生体試料60として、ヒトの皮膚又は耳垂が用いられる。手指の厚さは2cmであるところ、皮膚や耳垂の厚さは約3~5mmである。このため、皮膚や耳垂では手指に比べて超音波が伝搬する距離が短いため、減衰の少ない超音波を検出することができる。
【0051】
[7.その他]
上述した測定部40の構成は一例であって、上述したものに限られない。例えば、基板41,41Aの形状は、生体試料60の形状に応じて適宜変更されてよい。例えば生体試料60として手首を用いる場合は、基板41は平板状であってよい。これにより、被検者に負担が少なく、かつ、正確な測定をすることができる。
【0052】
圧電素子42の形状は、
図4及び
図9に示される直方体形状に限られず、例えば円柱状であってもよい。また、圧電素子42Aの形状は、
図8に示される円柱のリング形状に限られず、例えば円錐、直方体、T字などに空洞が設けられた形状であってもよく、空洞の形状も円形に限られない。
【0053】
更に、基板41,41Aに圧電素子42の位置を可変にする機構が設けられていてもよい。生体内を超音波が伝搬する速度は一定であるが、圧電素子42の位置を調整可能にすることで、微弱な超音波をより感度良く検出することができる。
【符号の説明】
【0054】
10 :処理部
20 :光源
30 :ミラー
40 :測定部
41,41A:基板
42,42A:圧電素子
43 :孔
44 :開口部
50 :増幅器
60 :生体試料
100 :生体分析装置