(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183830
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】異常原因推定装置、異常原因推定方法、および、異常原因推定プログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
G05B23/02 302Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097592
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】真柄 洋平
(72)【発明者】
【氏名】笠原 孝保
(72)【発明者】
【氏名】西田 航平
(72)【発明者】
【氏名】亀田 玲
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA02
3C223AA05
3C223BA01
3C223CC01
3C223DD01
3C223EB01
3C223EB02
3C223FF03
3C223FF04
3C223FF13
3C223FF22
3C223FF24
3C223FF26
3C223FF45
3C223GG01
3C223HH04
(57)【要約】
【課題】設備の異常原因を簡便かつ高精度に推定する。
【解決手段】異常原因推定装置1は、設備に設けられたセンサから得られる計測値を入力する計測値入力部2と、計測値の異常の有無を判定する異常判定部4と、設備で想定される異常事象に基づいて予め分割された異常事象モデルを選択したものに、この計測値の異常の有無を入力して、設備の異常原因を推定する異常原因推定部6と、異常原因の推定結果を出力する結果出力部9とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
設備に設けられたセンサから得られる計測値を入力する計測値入力部と、
前記計測値の異常の有無を判定する異常判定部と、
前記設備で想定される異常事象に基づいて予め分割された異常事象モデルを選択したものに前記計測値の異常の有無を入力して、前記設備の異常原因を推定する異常原因推定部と、
前記異常原因の推定結果を出力する結果出力部と、
を有することを特徴とする異常原因推定装置。
【請求項2】
前記異常原因推定部は、前記設備で想定される異常事象に基づいて予め分割された異常事象モデルから、実際に設置されている設備に対応する異常事象モデルを選択して組み合わせたものに、前記計測値の異常の有無を計測パラメータとして入力することで、前記設備の異常原因を推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の異常原因推定装置。
【請求項3】
組み合わせた複数の異常事象モデルに対して、入力する前記計測値の異常の有無の情報が重複している、
ことを特徴とする請求項2に記載の異常原因推定装置。
【請求項4】
前記異常事象モデルは、前記設備の物理的な関係に基づいて、対象とする異常事象の発生時に異常が発生すると想定される影響パラメータと異常原因を予め紐づけており、当該設備に適用する際、実際の計測パラメータに対応する影響パラメータを接続する、
ことを特徴とする請求項1に記載の異常原因推定装置。
【請求項5】
前記異常事象モデルは、前記計測値の異常の有無から各異常原因の発生確率を推論する方法としてベイジアンネットワークを用いる、
ことを特徴とする請求項4に記載の異常原因推定装置。
【請求項6】
前記異常事象モデルは、前記設備に接続され得る他の設備と重複する影響パラメータが予め設定された接続部分を含んでいる、
ことを特徴とする請求項5に記載の異常原因推定装置。
【請求項7】
前記異常原因推定部は、前記異常事象モデルの影響パラメータに対応する計測パラメータがない場合には、ベイジアンネットワークにて推論される確率演算から当該影響パラメータを除外する、
ことを特徴とする請求項6に記載の異常原因推定装置。
【請求項8】
前記設備は、回転機械であり、
前記接続部分に対応する影響パラメータには、前記回転機械のロータを接続するカップリングの側に設けられた軸振動センサの計測値の異常の有無が計測パラメータとして接続される、
ことを特徴とする請求項6に記載の異常原因推定装置。
【請求項9】
計測値入力部が、設備に設けられたセンサから得られる計測値を入力するステップと、
異常判定部が、前記計測値の異常の有無を判定するステップと、
異常原因推定部が、前記設備で想定される異常事象に基づいて予め分割された異常事象モデルを選択したものに前記計測値の異常の有無を入力して、前記設備の異常原因を推定するステップと、
を有することを特徴とする異常原因推定方法。
【請求項10】
コンピュータに、
設備に設けられたセンサから得られる計測値を入力する手順、
前記計測値の異常の有無を判定する手順、
前記設備で想定される異常事象に基づいて予め分割された異常事象モデルを選択したものに前記計測値の異常の有無を入力して、前記設備の異常原因を推定する手順、
を実行させるための異常原因推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常原因推定装置、異常原因推定方法、および、異常原因推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
化学プラントや発電プラントでは、安定的な運転や保守作業の合理化を目的として、プラント機器の状態監視、診断技術の導入が進められている。プラント機器に異常が発生した場合に、早期に検知して対策を行うことで、運転の継続や保守作業時間の短縮などが期待できる。より効果的に対策を実施するために、異常が発生した場合に異常の原因を推定する診断技術が重要となる。
【0003】
診断技術の一例として、特許文献1の要約書には、「現象パターン抽出部104は、設備の過去のセンサ信号の現象パターンを抽出する。関連情報紐付部105は、センサ信号を保守履歴情報に基づいて紐付する。現象パターン分類基準作成部107は、抽出された現象パターンと、現象パターンのもととなるセンサ信号を紐付けた保守履歴情報に含まれる作業キーワードとに基づいて、現象パターンを分類するための分類基準を作成する。現象パターン分類部108は、分類基準に基づいて、現象パターンを分類する。診断モデル作成部109は、分類された現象パターンと、作業キーワードとに基づいて、保守作業者に提示する作業キーワードを推定するための診断モデルを作成する。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧縮機等の大型の設備の構成、接続、およびその計測パラメータは、プラントごとに異なる。そのため、ある設備の異常原因を診断する診断モデルを新たに構築する際に、その機器構成だけではなく、機器同士の接続形態や計測パラメータの違いに対応するために、改めて診断モデルを構築し直さなければならないという課題があった。
【0006】
また、圧縮機等の大型の設備はプラントの生産性を左右するため、もともと高い信頼性が求められる。そのため、設備の故障頻度は比較的低く、実際の異常発生時のデータから、ニューラルネットワーク等の機械学習によって計測パラメータと異常原因を結びつけるには異常発生時のデータが不足する場合があった。
【0007】
そこで、本発明は、設備の異常原因を簡便かつ高精度に推定することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題を解決するため、本発明の異常原因推定装置は、設備に設けられたセンサから得られる計測値を入力する計測値入力部と、前記計測値の異常の有無を判定する異常判定部と、前記設備で想定される異常事象に基づいて予め分割された異常事象モデルを選択したものに前記計測値の異常の有無を入力して、前記設備の異常原因を推定する異常原因推定部と、前記異常原因の推定結果を出力する結果出力部と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の異常原因推定方法は、計測値入力部が、設備に設けられたセンサから得られる計測値を入力するステップと、異常判定部が、前記計測値の異常の有無を判定するステップと、異常原因推定部が、前記設備で想定される異常事象に基づいて予め分割された異常事象モデルを選択したものに前記計測値の異常の有無を入力して、前記設備の異常原因を推定するステップと、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明の異常原因推定プログラムは、コンピュータに、設備に設けられたセンサから得られる計測値を入力する手順、前記計測値の異常の有無を判定する手順、前記設備で想定される異常事象に基づいて予め分割された異常事象モデルを選択したものに前記計測値の異常の有無を入力して、前記設備の異常原因を推定する手順、を実行させるためのものである。
その他の手段については、発明を実施するための形態のなかで説明する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、設備の異常原因を簡便かつ高精度に推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係る異常原因推定装置の構成図である。
【
図3】異常原因推定装置が取り扱う計測値の例である。
【
図4】異常原因推定モデルと異常事象モデルデータベースの詳細を示した図である。
【
図6】異常事象モデルの接続部分を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以降、本発明を実施するための形態を、各図を参照して詳細に説明する。なお、各図面を通して、同等の構成要素には同一の符号を付してある。
【0014】
図1は、本実施形態に係る異常原因推定装置1の構成図である。
異常原因推定装置1は、計測値入力部2、異常判定部4、正常時計測値データベース5、異常原因推定部6、異常原因推定モデル7、異常事象モデルデータベース8、結果出力部9を含んで構成される。この異常原因推定装置1は、設備の状態を監視して、異常があった場合に設備の異常原因を簡便かつ高精度に推定する装置である。なお、異常原因推定装置1は、不図示のCPUが、異常原因推定プログラムを実行することによって、各機能部が具現化されてもよい。
【0015】
計測値入力部2は、設備に設置されたセンサから得られる計測値を異常判定部4に入力する。本実施形態では、遠心圧縮機と駆動機とを異常原因の推定対象とする事例を示している。なお、計測値入力部2は、設備に設置されたセンサを監視して、リアルタイムでセンサから計測値を得てもよい。更に、設備に設置されたセンサで過去に計測された計測値のログを格納する記憶部を備えており、計測値入力部2は、その記憶部に格納された計測値のログを得てもよく、限定されない。
異常判定部4は、計測値入力部2にて入力された計測値の異常の有無を判定する。
【0016】
異常原因推定部6は、設備で想定される異常事象に基づいて予め分割された異常事象モデルを選択したものに、この計測値の異常の有無を計測パラメータとして入力し、設備の異常原因を推定する。この異常原因推定部6は、設備で想定される異常事象に基づいて予め分割された異常事象モデルから、実際に設置されている設備に対応する異常事象モデルを選択して組み合わせたものに、この計測値の異常の有無を計測パラメータとして入力することで、前記設備の異常原因を推定する。
結果出力部9は、異常原因推定部6が推定した異常原因の推定結果を出力する。
【0017】
正常時計測値データベース5は、正常時に設備に設置されたセンサから得られる計測値を格納したデータベースである。異常判定部4は、正常時計測値データベース5を参照して、計測値入力部2にて入力された計測値の異常の有無を判定する。これに限られず、異常判定部4は、計測値の正常範囲を格納したデータベースを参照して、計測値入力部2にて入力された計測値の異常の有無を判定してもよい。
【0018】
異常事象モデルデータベース8は、設備に関する異常事象に関して、異常事象と当該異常事象発生時に影響が出るパラメータとの関係を整理した異常事象モデルを格納したものである。異常事象モデルは、物理的な因果関係によって対象とする異常事象発生時に異常が発生すると想定される影響パラメータと異常原因とが予め紐づけられている。異常事象モデルを設備に適用する際、異常原因推定部6は、実際の計測パラメータに対応する影響パラメータを接続する。
【0019】
異常原因推定モデル7は、設備で発生する可能性がある異常事象に応じて異常原因を推定するための有向グラフィカルモデルであり、例えばベイジアンネットワークで構成されている。異常原因推定モデル7は、異常事象モデルデータベース8に格納された異常事象モデルを組み合わせて構築される。異常原因推定部6は、異常原因推定モデル7を用いて、計測値の異常の有無から各異常原因の発生確率を推論する。但し、異常原因推定部6は、異常事象モデルの影響パラメータに対応する計測パラメータがない場合には、ベイジアンネットワークにて推論される確率演算から、この影響パラメータを除外する。異常事象モデルは、設備に接続され得る他の設備と重複する影響パラメータが予め設定された接続部分を含んでいる。
【0020】
この異常原因推定装置1により、設備の異常原因を簡便かつ高精度に推定することが可能となる。
【0021】
図2は、第1例の設備を示す図である。
遠心圧縮機トレイン200は、回転機械であり、かつ、異常原因推定装置1が対象とする設備である。遠心圧縮機トレイン200は、遠心圧縮機201のロータ204と駆動機202のロータ205とがカップリング203で接続されて構成される。これにより、駆動機202の駆動力は、遠心圧縮機201のロータ204に伝達される。
【0022】
遠心圧縮機201には、ロータ204の軸振動を監視する4つの軸振動センサSC1~SC4と、吸込圧力を監視する吸込圧力センサSC5、吐出圧力を監視する吐出圧力センサSC6等のセンサが設けられている。
【0023】
駆動機202には、ロータ205の軸振動を監視する4つの軸振動センサSD1~SD4等のセンサが設けられている。ここでは一部センサについてのみ記載しているが、設備には、これ以外にも様々なセンサが設けられている。
【0024】
影響範囲301は、遠心圧縮機201のカップリングの故障によって影響を受ける範囲である。影響範囲301には、遠心圧縮機201の軸振動センサSD1~SD4と、駆動機202の軸振動センサSD1,SD2とが含まれる。
【0025】
図1に戻り説明を続ける。計測値入力部2は、遠心圧縮機トレイン200に設置された遠心圧縮機201の軸振動センサSC1~SC4、駆動機202の軸振動センサSD1~SD4から得られる軸振動、吸込圧力センサSC5から得られる吸込圧力、吐出圧力センサSC6から得られる吐出圧力などの計測値を異常判定部4に入力する。
【0026】
図3は、異常原因推定装置1が取り扱う計測値の例である。
各行は、各センサが検知した時刻を示している。各列は、何れのセンサによる計測値であるかを示している。
【0027】
SC1列には、軸振動センサSC1から得られる軸振動の計測値が格納されている。SC2列には、軸振動センサSC2から得られる軸振動の計測値が格納されている。SC5列には、吸込圧力センサSC5から得られる吸込圧力の計測値が格納されている。SC6列には、吐出圧力センサSC6から得られる吐出圧力の計測値が格納されている。なお、
図3は、軸振動センサSC3,SC4から得られる軸振動の計測値が省略して示されている。
SD1列には、軸振動センサSD1から得られる軸振動の計測値が格納されている。回転速度の列には、不図示の回転速度センサの計測値が格納されている。同様に各SD2~SD4列には、軸振動センサSD2~SD4の計測値などが格納されているが、ここでは他のセンサの計測値の記載を省略している。
【0028】
図1に戻り説明を続ける。異常判定部4では、計測値入力部2にて入力された計測値について、異常の有無を判定する機能を有している。計測値の異常とは、計測値が所定の正常範囲から逸脱していることを意味しており、設備の正常な機能が損なわれるか、または損なわれている可能性がある。異常判定部4は、遠心圧縮機201の正常時の計測値を正常時計測値データベース5から取得し、この正常時の計測値を基準として計測値に異常があるか否かを判定する。このような異常判定部4の処理として、例えばマハラノビス・タグチ法が用いられるが、これに限定されるものではない。異常判定部4は、各計測値の異常の有無を判定した結果を、異常原因推定部6に出力する。
【0029】
異常原因推定部6は、異常判定部4から受け取った異常判定結果に基づき、異常の原因を推定する機能を有している。異常原因推定部6は、遠心圧縮機トレイン200の構成で発生する可能性がある異常事象に応じて、予め異常原因推定モデル7を構築している。
【0030】
そして、異常原因推定部6は、予め構築した異常原因推定モデル7に各計測値の異常有無の組み合わせを入力として与えて、設備の異常原因を推定する。なお、本実施形態では、異常原因推定モデル7として、因果関係を有向非巡回グラフ構造で整理したベイジアンネットワークを用いて説明するが、これに限定されるものではない。
【0031】
ベイジアンネットワークでは、異常原因となる事象Aの発生確率P(A)およびパラメータBの異常発生確率P(B)、事象Aの発生時にパラメータBが異常になる条件付確率P(B|A)から、ベイズの定理に基づいて、パラメータBが異常の時に事象Aが原因である確率P(A|B)を求めることができる。これを式(1)で示す。
【数1】
【0032】
異常原因推定部6は、異常原因推定モデル7を参照し、このような処理を繰り返すことで、計測値の異常の有無が計測パラメータとして与えられた際に、各異常事象が原因である確率を求める。異常原因推定モデル7は、異常事象モデルデータベース8に格納された異常事象モデルが組み合わされて構築される。ベイジアンネットワークでは、ニューラルネットワークなどと異なり、予測時に全ての説明変数に観測値を入力する必要はない。ベイジアンネットワークでは、説明変数が不足していても、その範囲で分かる異常原因を推論して予測することができる。
【0033】
図4は、異常原因推定モデル7と異常事象モデルデータベース8の詳細を示した図である。
異常事象モデルデータベース8には、遠心圧縮機トレイン200の設備に関して、この設備の異常事象と、この異常事象の発生時に影響が出るパラメータとの関係を整理した異常事象モデル401a~401nを格納している。異常事象モデル401a~401nは、遠心圧縮機トレイン200の設備で想定される異常事象に基づいて予め分割されたものである。
【0034】
異常事象モデル401aは、遠心圧縮機201で発生するカップリング不良の異常事象に基づいて構築される。異常事象モデル401aは、円形アイコンで示される影響パラメータ402と、矩形アイコンで示される異常因子403とが、因果関係を示す矢印で結ばれて構成される。更に異常事象モデル401aは、異常因子403が階層的に、因果関係を示す矢印で結ばれる。異常原因推定部6は、影響パラメータ402に、実際の計測パラメータである計測値の異常の有無を接続することで、各異常因子403の確率を求め、よって遠心圧縮機201で発生するカップリング不良の異常原因を推定する。
【0035】
この異常事象モデル401aは、例えば遠心圧縮機201のロータ204の不釣り合い増大、または軸受摺動面の異常など、遠心圧縮機201の本体範囲の不具合に起因する異常事象を含んでいる。異常原因推定部6は、遠心圧縮機201のロータ204の軸振動に影響を及ぼすカップリング203の不具合は、遠心圧縮機201の本体の範囲外に起因して、遠心圧縮機201の異常として現れる事象を含んでいる。
図2の影響範囲301は、遠心圧縮機201で発生するカップリング不良として現れる異常事象が検知される範囲である。
【0036】
カップリング203に不具合が発生した場合、遠心圧縮機201のロータ204の軸振動センサSC3,SC4から得られる計測値に異常が発生する可能性が高い。加えて、カップリング203を介して接続されている駆動機202の軸振動センサSD1,SD2にも異常が発生する可能性が高い。よって、異常事象モデル401aでは、入力とすべき影響パラメータとして、駆動機202の軸振動センサSD1,SD2から得られた計測値の異常の有無の判定結果を含める。このように、設備の接続関係などから物理的に影響を及ぼす範囲を類推することで、適切に異常事象モデル401aを構成することができる。
【0037】
異常事象モデル401bは、遠心圧縮機201で発生する羽根車のクラックの異常事象に基づいて構築される。異常事象モデル401bも、円形アイコンで示される影響パラメータ402と、矩形アイコンで示される異常因子403とが、因果関係を示す矢印で結ばれて構成される。更に異常事象モデル401bは、異常因子403が階層的に、因果関係を示す矢印で結ばれる。異常原因推定部6は、影響パラメータ402に、実際の計測パラメータである計測値の異常の有無を接続することで、異常因子403の確率を求め、よって遠心圧縮機201で発生する羽根車のクラックの異常原因を推定する。異常因子403のうち右端部にあるものが、遠心圧縮機201で発生する羽根車のクラックの異常原因となる。
【0038】
異常事象モデル401bは、遠心圧縮機201の軸振動センサSC3,SC4から得られた計測値の異常の有無の判定結果を影響パラメータ402に含めている。
図2の影響範囲301は、遠心圧縮機201で発生する羽根車のクラックの異常事象が検知される範囲である。このように、物理的に影響を及ぼす範囲を類推することで、適切に異常事象モデル401bを構成することができる。
【0039】
このように、機器の範囲ではなく、事象発生時に影響が及ぶ範囲をモデル化することで、機器の範囲内の計測値の異常の有無の判定結果だけでは絞りこめない異常事象の絞り込みが可能となる。また、本実施形態のように、異常事象モデル401aと異常事象モデル401bには、重複して用いられる計測パラメータがある。これにより、限られた情報から有効に異常原因を推定することができる。
【0040】
事象発生時に影響が及ぶ範囲は、機器の物理的な接続関係および過去の異常事例に基づいて決定される。各機器の物理的な接続関係は、設計仕様から決定される。第1例の遠心圧縮機トレイン200は、遠心圧縮機201のロータ204の一方と駆動機202のロータ205とがカップリング203で接続されている。よって、遠心圧縮機トレイン200の管理者は、遠心圧縮機201で発生するカップリング不良の異常原因の推定にあたり、駆動機202のロータ205の軸振動センサSD1,SD2から得られた計測値の異常の有無の判定結果を含めている。
【0041】
更に遠心圧縮機トレイン200の管理者は、遠心圧縮機201で発生する羽根車のクラックの異常原因の推定にあたり、遠心圧縮機201のロータ204の軸振動センサSC3,SC4から得られた計測値の異常の有無の判定結果と、駆動機202のロータ205の軸振動センサSD1,SD2から得られた計測値の異常の有無の判定結果を含めている。
【0042】
ここで、遠心圧縮機201のロータ204の他方と遠心圧縮機201Eのロータ204Eとがカップリング203Eで接続されている第2例について検討する。
【0043】
図5は、第2例の設備を示す図である。
遠心圧縮機トレイン200Aは、異常原因推定装置1が対象とする設備である。遠心圧縮機トレイン200Aは、遠心圧縮機201のロータ204の一方と駆動機202のロータ205とがカップリング203で接続されて構成される。更に遠心圧縮機トレイン200は、遠心圧縮機201のロータ204の他方と、遠心圧縮機201Eのロータ204Eとがカップリング203Eで接続されて構成される。これにより、駆動機202の駆動力は、遠心圧縮機201のロータ204と遠心圧縮機201Eのロータ204Eとに伝達される。
【0044】
遠心圧縮機201Eには、ロータ204Eの軸振動を監視する4つの軸振動センサSE1~SE4と、吸込圧力を監視する吸込圧力センサSE5、吐出圧力を監視する吐出圧力センサSE6等のセンサが設けられている。
【0045】
図1に戻り、第2例に関する動作の説明を続ける。計測値入力部2は、遠心圧縮機トレイン200Aに設置された遠心圧縮機201の軸振動センサSC1~SC4、駆動機202の軸振動センサSD1~SD4等から得られる軸振動、吸込圧力センサSC5等から得られる吸込圧力、吐出圧力センサSC6等から得られる吐出圧力などの計測値を異常判定部4に入力する。更に計測値入力部2は、遠心圧縮機201Eの軸振動センサSE1~SE4等から得られる軸振動、吸込圧力センサSE5等から得られる吸込圧力、吐出圧力センサSE6等から得られる吐出圧力などの計測値を異常判定部4に入力する。異常判定部4は、計測値入力部2にて入力された計測値の異常の有無を判定する。
【0046】
図6は、異常事象モデル401aの接続部分501を示した図である。
図6の説明において、
図5の参照符号を適宜使用する。
異常事象モデル401aは、円形アイコンで示される影響パラメータ402と、矩形アイコンで示される異常因子403とが、因果関係を示す矢印で結ばれて構成される。更に異常事象モデル401aは、異常因子403が階層的に、因果関係を示す矢印で結ばれる。
【0047】
影響パラメータ402aには、
図5に示した吸込圧力センサSC5から得られる吸込圧力の計測値の異常の有無の判定結果が接続される。影響パラメータ402bには、
図5に示した吐出圧力センサSC6から得られる吐出圧力の計測値の異常の有無の判定結果が接続される。
【0048】
接続部分501aは、影響パラメータ402c~402fを含んで構成される。接続部分501aは、遠心圧縮機201と遠心圧縮機201Eとが物理的に接続されて影響を与える影響範囲301Eに相当するベイジアンネットワークである。
【0049】
影響パラメータ402c,402dには、軸振動センサSC1,SC2から得られる軸振動の計測値の異常の有無の判定結果が接続される。影響パラメータ402e,402fには、遠心圧縮機201Eの軸振動センサSE3,SE4から得られる軸振動の計測値の異常の有無の判定結果が接続される。つまり、影響パラメータ402c~402fには、回転機械のロータを接続するカップリングの側に設けられた軸振動センサの計測値の異常の有無が計測パラメータとして接続される。
【0050】
接続部分501bは、影響パラメータ402g~402jを含んで構成される。接続部分501bは、遠心圧縮機201と駆動機202とが物理的に接続されて影響を与える影響範囲301に相当するベイジアンネットワークである。接続部分501bは、遠心圧縮機201に接続され得る駆動機202と重複する影響パラメータが予め設定されている。
【0051】
影響パラメータ402g,402hには、軸振動センサSC3,SC4から得られる軸振動の計測値の異常の有無の判定結果が接続される。影響パラメータ402i,402jには、駆動機202の軸振動センサSD1,SD2から得られる軸振動の計測値の異常の有無の判定結果が接続される。つまり、影響パラメータ402g~402jには、回転機械のロータを接続するカップリングの側に設けられた軸振動センサの計測値の異常の有無が計測パラメータとして接続される。
【0052】
図6に示すように、異常原因推定部6は、想定される複数のトレイン構成に対して、異常事象モデル401aの接続部分501a,501bなどを予め用意しておき、実際の診断対象設備に適用する際に、影響パラメータに対応する計測パラメータを入力として与える。
【0053】
図6では、本実施形態で用いた接続部分501bだけではなく、遠心圧縮機201を挟んで、駆動機202とは反対側に別の遠心圧縮機201Eが接続される場合に用いる接続部分501aを備える場合の異常事象モデル401aを示している。接続部分501aでは、別の回転機械である遠心圧縮機201Eの軸振動センサSE3,SE4からの異常有無情報を影響パラメータ402e,402fに接続する。なお、影響パラメータに対応する計測パラメータがない場合は、その影響パラメータによる確率演算を除外する。それにより、異常原因推定部6は、原因推定精度の低下を最小限に抑えつつ、確率演算の規模を効率的に縮小することができる。
【0054】
結果出力部9は、異常原因推定部6から計測値の異常判定結果および推定された異常原因の確率を受け取り、診断結果としてグラフや表により出力する。
【0055】
第2例の設備を診断するため、異常事象モデルデータベース8には、この遠心圧縮機トレイン200Aを構成する各回転機械で想定される異常事象に基づいて予め分割された異常事象モデルが格納されている。そのため、異常原因推定部6が、遠心圧縮機トレイン200Aの異常原因を診断する異常事象モデルを新たに構築する際、機器同士の接続形態や計測パラメータの違いに容易に対応できる。
【0056】
そして、各異常事象モデルには、設備に接続され得る他の設備と重複する影響パラメータが予め設定された接続部分を含んでいる。そのため、異常原因推定部6は、影響パラメータによって影響を受ける障害因子を共通に演算できるので、異常原因の推定の演算量を減らし、短時間に異常原因を推定できる。
【0057】
また、本実施形態の異常事象モデルは、ベイジアンネットワークを用いて対象とする異常事象の発生時に異常が発生すると想定される影響パラメータと異常原因を予め紐づけている。これにより、そのため、故障頻度が比較的低い設備であっても、容易に異常発生時にその異常原因を推定するための異常事象モデルを構築可能である。
【0058】
(変形例)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば上記した実施形態は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除置換をすることも可能である。
【0059】
上記の各構成、機能、処理部、処理手段などは、それらの一部または全部を、例えば集積回路などのハードウェアで実現してもよい。上記の各構成、機能などは、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈して実行することにより、ソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイルなどの情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)などの記録装置、または、フラッシュメモリカード、DVD(Digital Versatile Disk)などの記録媒体に置くことができる。
【0060】
各実施形態に於いて、制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 異常原因推定装置
2 計測値入力部
4 異常判定部
5 正常時計測値データベース
6 異常原因推定部
7 異常原因推定モデル
8 異常事象モデルデータベース
9 結果出力部
200,200A 遠心圧縮機トレイン (設備)
201,201E 遠心圧縮機
202 駆動機
203,203E カップリング
204,204E ロータ
205 ロータ
SC5,SE5 吸込圧力センサ
SC6,SE6 吐出圧力センサ
SC1~SC4 軸振動センサ
SD1~SD4 軸振動センサ
SE1~SE4 軸振動センサ
401a~401n 異常事象モデル
402,402a~402j 影響パラメータ
403 異常因子
501 接続部分
501a 接続部分
501b 接続部分