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特開2023-183859木部材の補修・補強剤及び補修・補強方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183859
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】木部材の補修・補強剤及び補修・補強方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20231221BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20231221BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
E04G23/02 A
C08L63/00 A
C08L1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097634
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】504397424
【氏名又は名称】株式会社 コーシンハウスケアリング
(71)【出願人】
【識別番号】306024148
【氏名又は名称】公立大学法人秋田県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100067644
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 裕
(72)【発明者】
【氏名】池谷 成海
(72)【発明者】
【氏名】大塚 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】境 英一
【テーマコード(参考)】
2E176
4J002
【Fターム(参考)】
2E176AA09
2E176BB03
2E176BB16
4J002AB01X
4J002CD04W
4J002CD05W
4J002CD06W
4J002GJ00
4J002GL00
4J002GM00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】木部材の外部のみならず内部に及んだ腐朽や虫害の補修・補強、更には経年による劣化の進行による木部材の耐力の補強や補修をする方法を提供せんとするものである。
【解決手段】エポキシ樹脂からなる第一液と、硬化剤からなる第二液とからなり、第一液若しくは第二液にセルロース繊維を配合し、セルロース繊維は植物繊維をミクロフィブリル単位までほぐすことにより得られるセルロースナノファイバーであることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂からなる第一液と、硬化剤からなる第二液とからなり、第一液若しくは第二液にセルロース繊維を配合することを特徴とする木部材の補修・補強剤。
【請求項2】
エポキシ樹脂からなる第一液にセルロース繊維を配合したことを特徴とする請求項1記載の木部材の補修・補強剤。
【請求項3】
硬化剤からなる第二液にセルロース繊維を配合したことを特徴とする請求項1記載の木部材の補修・補強剤。
【請求項4】
セルロース繊維は、植物繊維をミクロフィブリル単位までほぐすことにより得られるセルロースナノファイバーであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の木部材の補修・補強剤。
【請求項5】
エポキシ樹脂である第一液若しくは硬化剤である第二液のいずれかにセルロース繊維を配合し、第一液を被補修・補強箇所に充填した後、第二液を充填して硬化させることを特徴とする木部材の補修・補強方法。
【請求項6】
木部材の被補修箇所にセルロース繊維を配合したエポキシ樹脂からなる第一液を充填した後、該第一液に硬化剤である第二液を充填して硬化させることを特徴とする第5項記載の木部材の補修・補強方法。
【請求項7】
エポキシ樹脂からなる第一液を被補修箇所に充填した後、硬化剤にセルロース繊維を配合した第二液を充填して硬化させることを特徴とする請求項5記載の木部材の補修・補強方法。
【請求項8】
木部材内部の腐朽若しくは虫害箇所に外部から穿孔し、該穿孔を介してセルロース繊維を充填した後、エポキシ樹脂からなる第一液を充填して第一液にセルロース繊維を配合し、その後硬化剤である第二液を充填することを特徴とする請求項5記載の木部材の補修・補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、木部材の欠損箇所の補修や強度不足を補強するための補修若しくは補強のための補修・補強剤、及びその補修・補強剤を用いた木部材の補修・補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国では、古くから多くの木造建築物が建設されてきており、歴史的価値の高い伝統木造建築物が多く現存している。木造建築物は腐朽や虫害、経年による劣化の進行により木材の耐力は減少する。木造建築物のうち国の文化財指定を受けている建築物は文化財建造物保存の方針として極力古材を残すことが求められており、劣化部材を新材に取り替える修復ではなく、劣化部材に対して補強を行い、補修・修復をしていくことが求められている。
【0003】
従来、コンクリートや木材からなる建物外壁や建物基礎などの建造物表面の補強手段として、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂から選択される主剤を第一液とし、該第一液よりも低粘度の硬化剤にガラス繊維とロックウールを混合してなる第二液とを混合した二液性建造物補強剤を、建造物の表面に塗工して、建造物のひび割れや亀裂に浸透させると共に、表面に塗工膜を形成して建造物を補強する方法が特許第3806039号(特許文献1)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3806039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の補強方法では、建造物表面の補強方法としては有益であるが、木部材の内部の腐朽や虫害、経年による劣化の進行による木材の耐力の補強や補修には不十分であった。
【0006】
従来、木材の修復に採用される合成樹脂としては、酢酸ビニル樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が知られているが、酢酸ビニル樹脂と尿素樹脂は、樹脂自体の硬化収縮問題があり、その採用は普及していない。充填用途では、小さな部位への充填にはエポキシ樹脂や酢酸ビニル樹脂が、大きな空洞部への充填には硬質の発泡ウレタン樹脂が多く用いられるが、発泡ウレタン樹脂はエポキシ樹脂と比較すると木材との付着性能が劣るため、圧縮部材にしか適用できなかった。脆弱化した木材にウレタンなどの合成樹脂をしみこませて、材質中の繊細な隙間に合成樹脂を存在させることによりその部分を強化する方法も多く採用されているが、あくまでも部材表面の補強硬化しか望めず、補修後に腐朽や虫害が木材の内部にまで及ぶのを回避することはできなかった。エポキシ樹脂は、接着性と硬化収縮性率が低いという点で優れるものの、そのままでは揺変性が低いため、断面欠損部分に適用する場合、粘度調整としてマイクロバルーンや軽量骨材などの人工添加物が必要となり、蟻害などによる木材内部の充填ができなくなる問題があった。
【0007】
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、木部材の内部に及んだ腐朽や虫害の補修・補強、更には経年による劣化の進行による木部材の耐力の補強や補修を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明はエポキシ樹脂からなる第一液と、硬化剤からなる第二液とからなり、第一液若しくは第二液にセルロース繊維を配合したことを特徴とする木部材の補修・補強剤であり、セルロース繊維は、植物繊維をミクロフィブリル単位までほぐすことにより得られるセルロースナノファイバー(CNF)であることが好ましい。
【0009】
又、木部材の被補修箇所にセルロース繊維を配合したエポキシ樹脂からなる第一液を塗工し、該第一液に硬化剤である第二液を注入することを特徴とする木部材の補修・補強方法である。更に、エポキシ樹脂からなる第一液を被補修箇所に塗工した後、セルロース繊維を配合した第二液を注入することを特徴とする木部材の補修・補強方法である。
【0010】
更に、木部材内部の腐朽若しくは虫害箇所に外部から穿孔し、該穿孔を介してセルロース繊維を充填した後、エポキシ樹脂からなる第一液を充填して第一液にセルロース繊維を配合し、その後硬化剤である第二液を注入することを特徴とする木部材の補修・補強方法である。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、劣化、欠損、部位或は施工方法に応じて、現場でセルロース繊維のエポキシ樹脂への添加量調整が可能であり、補修対象の劣化の状況や程度に合わせた樹脂粘度に調整することが可能となる。又、断面欠損部分をセルロース繊維を配合したエポキシ樹脂で充填することが可能となることで、木材との付着性能が向上し、圧縮部材以外への適用が可能となる。更に、エポキシ樹脂は、硬化後透明になるため、意匠的に重要な部分や見え隠れしない部分、湾曲材などの補強が可能となる。蟻害などにより内部空洞を有する部位には、穿孔を介してセルロース繊維を内部空洞部に充填後、低粘度のエポキシ樹脂を注入することで内部空洞の補強が可能となる。塗工後、配合したセルロース繊維により、木部材との付着性能が向上し、圧縮部材のみならず、曲げ部材の補強が可能となる。特に、セルロース繊維を配合したエポキシ樹脂は、曲げ部材の補修・補強剤として効果的である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0013】
本発明の木部材の補修・補強剤は、エポキシ樹脂からなる第一液と、第一液と常温で反応して鎖状又は網目状高分子を生成する硬化剤からなる第二液とからなり、第一液若しくは第二液にセルロース繊維を配合する。二液性とすることにより、塗工前は、保存性、安定性に優れ、塗工の際には簡単に調整でき、且、塗工後も別段の作業なしに常温で即効的に硬化するという保存性、作業面での容易性を得ることができる。
【0014】
第一液のエポキシ樹脂は、例えば、ビスフェノールAや、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物、レゾルシン、ハイドロキノン等の多価フェノール、フェノールノボラック等のポリフェノール化合物と、エピクロルヒドリンとから誘導されるもの等が挙げられる。このエポキシ樹脂の粘度は、200~20,000(mPa・s)、好ましくは800~2,000(mPa・s)程度とする。
【0015】
第二液である硬化剤は、第一液であるエポキシ樹脂と反応して硬化物を得るものであり、アミン系物質、例えばフェニレンジアミン等の芳香族多価アミン、脂肪族多価アミン、ポリアミドアミン類等の変性アミン類が挙げられる。硬化剤の粘度は、100 ~5,000(mPa・s)好ましくは300~2,000(mPa・s)程度とする。
【0016】
配合されるセルロース繊維は植物由来とし、木質系或は草木系のいずれであっても良い。特にセルロース繊維抽出の容易さから、稲わら、麦わら、芝草、ケナフ、ジュート、葦、亜麻などが望ましい。セルロース繊維は、植物繊維をミクロフィブリル単位までほぐすことにより得られるセルロースナノファイバー(CNF)であることが好ましい。セルロース繊維の配合割合は、第一液に対しては2~10%程度が好ましく、第二液に対しては2~5%程度が好ましい。又、第一液と第二液の配合割合は、重量比で100対50程度が好ましい。
【0017】
尚、第一液又は第二液には、必要に応じて着色顔料や体質顔料、表面調整剤、消泡剤、分散剤、可塑剤、溶剤、硬化触媒、染料、温順剤、レベリング剤等を適宜添加しても良い。着色顔料を加えたものは、建造物の補強だけでなく、外観の美化にも有益である。
【0018】
塗工に際しては、セルロース繊維を配合した第一液を被補修箇所に充填した後、第二液を第一液に注入して硬化させる。又は、第一液を充填した後、セルロース繊維を配合した第二液を注入して硬化させても良い。更に、木部材の内部に腐朽や虫害による欠損部が存在する場合、外部から該内部欠損部に向って穿孔を行い、該穿孔を介して内部欠損部に先ずセルロース繊維を充填し、その後第一液を充填して第一液にセルロース繊維を配合した後、第二液を注入して硬化させるような施工方法を採用することができる。
【0019】
この発明の補修・補強手段は、木造建築物の腐朽や虫害、経年による劣化の進行による木材の耐力の減少を補強するのに適している。木造建築物のうち国の文化財指定を受けている建築物は文化財建造物保存の方針として極力古材を残すことが求められているが、この発明は、かかる劣化部材に対して補強を行い、補修・修復をしていくのに適している。
【実施例0020】
作業現場にて、エポキシ樹脂に対して稲藁から抽出したセルロースナノファイバー(CNF)を2%加えて、木部材の被補修箇所に充填した後、硬化剤としてポリアミンを混入して硬化させた。木部材の被補修箇所は、補強剤により充填され、強固な補強が得られた。
【0021】
CNFの配合による補強効果の確認を行うため、CNFをエポキシ樹脂に対して、2%、5%、10%配合した試験体を作成し、無配合の試験体と同様に圧縮試験を行った。又、CNFの配合により樹脂本来の強度の発現までの養生期間にズレが生じてくると考えられるので、材齢を7日、14日、28日、56日の試験体を作成した。無配合や2%、5%、10%の試験体の圧縮強度は42.4~50.9(N/mm2)であり、ベイマツやスギといった木材の基準圧縮強度と比較すると高い圧縮強度を有しており、健全材を上回る補強効果が確認されているため、CNFを配合した試験体でも圧縮の補強剤として十分な効果を確認することができた。
【0022】
次に、CNFを配合した捕集材の曲げ強度を確認するため曲げ試験を行った。木部材への樹脂充填を考慮する際には、樹脂のヤング係数の値は木部材と同等の固さか、木材よりも低いヤング係数であることが望ましいと考えられている。これは木部材に充填した樹脂が木材より固い材であると樹脂が木材の中で節のようになり、それが原因で壊れてしまう可能性が考えられるからである。試験の結果、一般的な建築材料では最大応力到達時に部材が壊れるような脆性的な破壊挙動を示すが、エポキシ樹脂は最大応力到達後一定値の応力低下はみられるが、急激に壊れることはなくひずみが増加していくことが分かった。このことから、木材にエポキシ樹脂を充填することで木部材の強度回復だけでなく、木材耐力も向上できることが確認できた。
【0023】
曲げ試験の結果、エポキシ樹脂による補修は、エポキシ樹脂のみの試験体よりもCNFを配合した試験体の方が高い補修効果を示し、CNFの配合量が多いほど補修効果が高くなることが確認された。又、曲げ試験結果より、エポキシ樹脂による補修は欠損率の大きな部材に対してより高い補修効果を示すことが確認でき、CNFは補修材として効果的である。繊維材料であるCNFをエポキシ樹脂に混入することによる補修は、欠損率の大きい部材に対してより高い補強効果を確認することができた。又、35%欠損の試験体に対してエポキシ樹脂にCNFを配合することによる曲げ性能の回復を確認することでき、CNFをエポキシ樹脂に配合した樹脂は、曲げ材料の捕集材として効果的な補修材であると考えられる。
【0024】
樹脂の流動性は現場で施工を行う上で重要である。施工性についての検討のため、流動性試験を行った結果、エポキシ樹脂に対するCNFの量を増やすごとに流動性は低下することが分かった。劣化材等への樹脂の充填時には、蟻道などの劣化に対して奥まで充填しやすい流動性の高い補修材の方が補修材として有効であると考えられ、充填した樹脂の硬化までの養生時間を考慮すると、流動性の低い補修材の方が有効であり、CNF5%配合程度の樹脂が最も施工しやすい樹脂であると考えられる。