(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183861
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】オフフレーバーが低減された果実酒およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/06 20060101AFI20231221BHJP
C12G 3/04 20190101ALI20231221BHJP
【FI】
C12G3/06
C12G3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097636
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】矢内 隆章
(72)【発明者】
【氏名】洞口 萌実
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115LG03
4B115LH11
4B115LP02
4B115MA03
(57)【要約】
【課題】2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンに起因するオフフレーバーを抑制された果実酒およびその製造方法の提供。
【解決手段】2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンを含む果実酒において、ヘキサナールの濃度を25~250質量ppbに調整する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンを含有する果実酒の製造方法であって、前記果実酒におけるヘキサナールの濃度を25~250質量ppbに調整する工程を含む、製造方法。
【請求項2】
前記果実酒における2-アセチルチアゾールの濃度が1.4~30質量ppbである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記果実酒における2-アセチル-1-ピロリンの濃度が0.25~10質量ppbである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記果実酒が亜硫酸無添加の果実酒である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法により製造される、果実酒。
【請求項6】
2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンを含有する果実酒におけるオフフレーバーを抑制する方法であって、
前記果実酒におけるヘキサナールの濃度を25~250質量ppbに調整する工程を含み、
前記オフフレーバーが2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンに起因する、
方法。
【請求項7】
前記果実酒における2-アセチルチアゾールの濃度が1.4~30質量ppbである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記果実酒における2-アセチル-1-ピロリンの濃度が0.25~10質量ppbである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記果実酒が亜硫酸無添加の果実酒である、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリン、ならびにヘキサナールを含む果実酒であって、
前記2-アセチルチアゾールを含む場合にはその濃度が1.4~30質量ppbであり、
前記2-アセチル-1-ピロリンを含む場合にはその濃度が0.25~10質量ppbであり、
前記ヘキサナールの濃度が25~250質量ppbである、
果実酒。
【請求項11】
2-アセチルチアゾールの濃度が3~30質量ppbである、請求項10に記載の果実酒。
【請求項12】
2-アセチル-1-ピロリンの濃度が7~10質量ppbである、請求項10に記載の果実酒。
【請求項13】
亜硫酸無添加の果実酒である、請求項10に記載の果実酒。
【請求項14】
ヘキサナールを含む、果実酒における2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンに起因するオフフレーバーを抑制するための、香味改良剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフフレーバーが低減された果実酒およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワイン等の果実酒において、その酸化や微生物汚染を抑制するために亜硫酸を添加することが知られている。亜硫酸は、酸化や微生物汚染の抑制の他に、果実酒の原料となる果皮からの赤色色素の溶出を促進して果実酒を呈色させたり、果汁を清澄化させたりする等の効果を有することも知られている。
【0003】
果実酒においては、その製造過程で空気中の酸素が溶解することから、果実酒に含まれる酸素によって製造後の果実酒中のエタノールが酸化されてアセトアルデヒドが生成し、果実酒において青臭い香りを引き起こす場合がある。また、果実酒においては、その好ましい香りの原因となる様々な化合物(香気成分)が含まれているが、それらが酸化されることによって、好ましい香りが減弱したり、一方で好ましくない香り(オフフレーバー)が増大したりする場合がある。また、果実酒が微生物により汚染されると、その微生物の代謝等により果実酒の成分が変化し、その味や香りに悪影響を及ぼす場合がある。例えば、亜硫酸を添加しない赤ワインにおいて、酸化イベントの進行により香気が損なわれることが知られている(例えば、非特許文献1)。
【0004】
ところで、2-アセチルチアゾールは、ロースト、粒状ナッツ、缶詰のスイートコーン、蒸した豆等の香りの原因となる化合物であることが知られている(例えば、非特許文献2および3)。また、2-アセチルチアゾールは、豆乳や蒸したじゃがいも等からも検出される化合物であることも知られている(例えば、非特許文献4および5)。しかしながら、2-アセチルチアゾールに起因する香りは果実酒においてはオフフレーバーと認識され、果実酒の酸化や微生物汚染によってその生成が促進されると考えられている。
【0005】
また、2-アセチル-1-ピロリンは、炊飯米の香気成分として見出され(例えば、非特許文献6)、炊飯米様、ボイルドチキン様、ローストチキン様、コーン様、ゴマ様、ナッツ様、バター様等の香りの付与の用途に用いられ得ることが知られている(例えば、特許文献1~3)。しかしながら、2-アセチルチアゾールと同様に、2-アセチル-1-ピロリンも果実酒においてはオフフレーバーと認識され、果実酒の酸化や微生物汚染によってその生成が促進されると考えられている。そのため、これまでにワイン、特に亜硫酸無添加ワインにおいて、2-アセチル-1-ピロリンに起因するオフフレーバーを防ぐために、ワインの原料である果汁における2-アセチル-1-ピロリンの含有量を測定して、その含有量がより低い果汁を選択して用いることによりワインの品質を管理する技術が知られている(例えば、特許文献4)
【0006】
このように、2-アセチルチアゾールおよび2-アセチル-1-ピロリンはいずれも果実酒の酸化や微生物汚染により生成が促進される香気成分であることから、これらの香気成分に起因する果実酒の香りの劣化は、亜硫酸を添加しない果実酒において特に促進されやすいと考えられている。
【0007】
しかしながら、亜硫酸については、アレルギー反応との関係や発がん性等、人体の健康に影響を及ぼす可能性が指摘されており、特に、近年の健康志向の上昇に伴い、亜硫酸を添加しない果実酒、亜硫酸を極力含まない果実酒が求められる傾向が強まっている。そのため、果実酒の製造工程において生成する亜硫酸を極力除去したり、果実酒への亜硫酸の添加を低減または無くしたりする工夫がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第500,049号
【特許文献2】米国特許出願公開第2010/400,913号
【特許文献3】特開2000-303091号公報
【特許文献4】特開2010-200651号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】OENO One, 2020, 54, 2, 687-697
【非特許文献2】J. Agric. Food Chem., 23, 3, 1975, 516-519
【非特許文献3】J. Agric. Food Chem., 42, 3, 1978, 643-651
【非特許文献4】Chemistry, Texture, and Flavor of soy, 2010, Chapter 22, 361-373
【非特許文献5】J. Agric. Food Chem., 1974, 22, 5, 912-914
【非特許文献6】J. Agric. Food Chem., 1983, 31, 4, 823-826
【発明の概要】
【0010】
このような状況下、果実酒、特に亜硫酸を添加しない果実酒において、2-アセチルチアゾールまたは2-アセチル-1-ピロリンに起因するオフフレーバーを抑制することが、技術的な課題として存在する。
【0011】
したがって、本発明は、2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンに起因するオフフレーバーが抑制された果実酒およびその製造方法、果実酒における2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンに起因するオフフレーバーを抑制する方法およびそのための香味改良剤を提供する。
【0012】
本発明者らは、2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンを含む果実酒において、ヘキサナールの濃度を25~250質量ppbに調整することにより、ヘキサナールに起因するオフフレーバーを顕在化させることなく、2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンに起因するオフフレーバーを抑制できるとの知見を得た。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0013】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンを含有する果実酒の製造方法であって、前記果実酒におけるヘキサナールの濃度を25~250質量ppbに調整する工程を含む、製造方法。
[2]前記果実酒における2-アセチルチアゾールの濃度が1.4~30質量ppbである、[1]に記載の製造方法。
[3]前記果実酒における2-アセチル-1-ピロリンの濃度が0.25~10質量ppbである、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]前記果実酒が亜硫酸無添加の果実酒である、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5][1]~[4]のいずれかに記載の製造方法により製造される、果実酒。
[6]2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンを含有する果実酒におけるオフフレーバーを抑制する方法であって、
前記果実酒におけるヘキサナールの濃度を25~250質量ppbに調整する工程を含み、
前記オフフレーバーが2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンに起因する、
方法。
[7]前記果実酒における2-アセチルチアゾールの濃度が1.4~30質量ppbである、[6]に記載の方法。
[8]前記果実酒における2-アセチル-1-ピロリンの濃度が0.25~10質量ppbである、[6]または[7]に記載の方法。
[9]前記果実酒が亜硫酸無添加の果実酒である、[6]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリン、ならびにヘキサナールを含む果実酒であって、
前記2-アセチルチアゾールを含む場合にはその濃度が1.4~30質量ppbであり、
前記2-アセチル-1-ピロリンを含む場合にはその濃度が0.25~10質量ppbであり、
前記ヘキサナールの濃度が25~250質量ppbである、
果実酒。
[11]2-アセチルチアゾールの濃度が3~30質量ppbである、[10]に記載の果実酒。
[12]2-アセチル-1-ピロリンの濃度が7~10質量ppbである、[10]または[11]に記載の果実酒。
[13]亜硫酸無添加の果実酒である、[10]~[12]のいずれかに記載の果実酒。
[14]ヘキサナールを含む、果実酒における2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンに起因するオフフレーバーを抑制するための、香味改良剤。
【0014】
本発明によれば、果実酒において、ヘキサナールに起因するオフフレーバーを顕在化させることなく、2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンに起因するオフフレーバーを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、各オフフレーバー抑制物質の添加前の果実酒のオフフレーバーのスコアを10とした場合の、各オフフレーバー抑制物質の添加後の果実酒のオフフレーバーのスコアを示すグラフである。
【
図2】
図2A~Cは、ヘキサナールを添加しない果実酒の各時点におけるオフフレーバーのスコアをそれぞれ10とした場合の、各濃度のヘキサナールを添加した果実酒の各時点におけるオフフレーバーのスコアを示すグラフである。
【発明の具体的説明】
【0016】
本発明において、果実酒についての「オフフレーバー」とは、JIS Z8144:2004において定義される「製品又は試料に本来備わっていない異質な風味」をいい、特に2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンに起因するオフフレーバーをいう。2-アセチルチアゾールおよび2-アセチル-1-ピロリンは、「蒸した豆様の臭い」、「ポップコーン様の臭い」と表現される臭いを呈し、これらは果実酒においてはオフフレーバーとして認識される。
【0017】
[果実酒]
本発明の一つの態様によれば、特定の濃度の2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリン、ならびに特定の濃度のヘキサナールを含む果実酒(以下、「本発明の果実酒」ともいう。)が提供される。本発明において「果実酒」とは、原料である果汁そのものまたは果汁を主に含む果汁組成物を酵母の作用によってアルコール発酵させて得られる発酵飲料であってもよく、そのような発酵飲料を主に含む飲料であってもよく、そのような発酵飲料にさらに果汁および/または果汁組成物を配合した飲料であってもよい。
【0018】
果実酒は、上述した定義を満たす限り、酒税法等の法律に基づくカテゴリーに限定されず、例えば、日本国の酒税法による分類に基づく果実酒、甘味果実酒、リキュール、その他の醸造酒等が含まれる。果実酒の種類としては、例えば、ワイン、シードル、ポートワイン、シェリー、マデイラ、マルサラ、ベルモット等が挙げられる。
【0019】
果実酒の原料となる果汁の種類は特に限定されないが、例えば、ブドウ果汁、ブルーベリー果汁、ラズベリー果汁、レッドラズベリー果汁、柑橘類果汁(レモン果汁、グレープフルーツ果汁、オレンジ果汁、ライム果汁、ミカン果汁、ユズ果汁、カボス果汁、イヨカン果汁等)、カシス果汁、リンゴ果汁、モモ果汁、スイカ果汁、イチゴ果汁、メロン果汁、熱帯果実果汁(パイナップル果汁、グァバ果汁、バナナ果汁、マンゴー果汁、アセロラ果汁、パパイヤ果汁、パッションフルーツ果汁、ライチ果汁等)、およびその他の果汁(ウメ果汁、ナシ果汁、アンズ果汁、スモモ果汁、キウイフルーツ果汁、サクランボ果汁、クリ果汁等)等が挙げられる。果実酒の原料となる果汁としては、好ましくはブドウ果汁が用いられる。
【0020】
果実酒は、上述した果汁に加えて果汁以外の原料を含んでいてもよい。果汁以外の原料は、果実酒の製造に通常用いられる原料であれば特に限定されず、目的とする果実酒の種類、味、香り等によって適宜設定することができる。果汁以外の原料としては、例えば、果皮、果肉、梗、種子、糖類、香料、香辛料等が挙げられる。
【0021】
一つの好ましい実施形態において、果実酒はワインである。ワインとしては、例えば、赤ワイン、白ワイン、ロゼワイン、スパークリングワイン等が挙げられるが、好ましくは赤ワインである。
【0022】
本発明の果実酒は特定の濃度のヘキサナールを含有する。具体的には、本発明の果実酒におけるヘキサナールの濃度は25~250質量ppbであり、好ましくは25~200ppb、より好ましくは50~180質量ppb、より一層好ましくは60~160質量ppb、特に好ましくは70~150質量ppbである。ここで、「質量ppb」とは、十億分率を示し、1質量ppbは1μg/Lに相当する。果実酒におけるヘキサナールの濃度が25質量ppb以上であることにより、2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンの濃度が後述する範囲にある場合に、それらに起因するオフフレーバーを十分に抑制することができる。一方で、ヘキサナールは果実酒において青臭さ、草臭さ等のオフフレーバーの原因となり得ることから、ヘキサナールの濃度が250質量ppb以下であることにより、2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンの濃度が後述する範囲にある場合に、ヘキサナールに起因するオフフレーバーを顕在化させることなく、2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンに起因するオフフレーバーを十分に抑制することができる。なお、一般的な果実酒に含まれるヘキサナールの濃度は10ppb以下と微量であることが知られており、例えば白ワインでは1.2~4.0ppb程度(例えば、“Volatile Compounds from Must and Wines from Five White Grape Varieties”, J. Food Chem. Nanotechnology, 2017, 3(1), 8-18を参照のこと)、赤ワインでは3.8~6.3ppb程度(例えば、“Volatile Compounds from Grape Skin, Juice and Wine from Five Interspecific Hybrid Grape Cultivars Grown in Quevec (Canada) for Wine Production”, Molecules, 2015, 20(6), 10980-11016を参照のこと)であることが知られている。ヘキサナールは、果実酒の原料、例えば果汁に由来するものであってもよく、果実酒の製造過程において生成するものであってもよく、果実酒の製造過程において添加されるものであってもよい。
【0023】
果実酒におけるヘキサナールの濃度を測定する方法は、溶液中のヘキサナールの濃度を正確に測定できる方法であればいかなる方法も用いることができるが、例えば、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)により測定することができる。具体的には、以下の測定装置および測定条件に従って想定することができる。
<測定装置>
・ガスクロマトグラフィー質量分析装置:オートサンプラーMPS2(Gerstel社製)を備えたガスクロマトグラフィー装置6890GC(Agilent Technologies社製)に質量選択検出器(MSD)5975シリーズ(Agilent Technologies社製)を結合した装置
・カラム:DB-Wax(長さ30m、内径0.25mm)(Agilent Technologies社製)
<測定条件>
・カラム温度条件:40℃(5分保持)→3℃/分で昇温して180℃まで加熱→30℃/分で昇温して240℃まで加熱→10分保持
・キャリアガス:ヘリウム
【0024】
本発明の果実酒は特定の濃度の2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンを含有する。
【0025】
本発明の果実酒が2-アセチルチアゾールを含有する場合、その濃度は1.4~30質量ppbであり、好ましくは3~30質量ppbである。果実酒において、2-アセチルチアゾールの濃度が高いほど2-アセチルチアゾールに起因するオフフレーバーは強くなり、特に濃度が3質量ppbからはオフフレーバーが知覚されるようになる。一方で、2-アセチルチアゾールの濃度が30質量ppb以下である場合には、上述した濃度のヘキサノールによって、2-アセチルチアゾールに起因するオフフレーバーを十分に抑制することができる。なお、2-アセチルチアゾールの検出限界は1.4質量ppbであることから(例えば、“Development and validation of method for heterocyclic compounds in wine: optimization of HS-SPME conditions applying a response surface methodology”, 2013, 117, 87-93を参照のこと)、本発明の果実酒における2-アセチルチアゾールの濃度の下限値を1.4質量ppbとするが、実際には1.4質量ppb未満であってもよい。2-アセチルチアゾールは、果実酒の原料、例えば果汁に由来するものであってもよく、果実酒の製造過程において生成するものであってもよく、果実酒の製造過程において添加されるものであってもよい。
【0026】
果実酒における2-アセチルチアゾールの濃度を測定する方法は、溶液中の2-アセチルチアゾールの濃度を正確に測定できる方法であればいかなる方法も用いることができるが、例えば、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)により測定することができる。具体的には、以下の測定装置および測定条件に従って想定することができる。
<測定装置>
・ガスクロマトグラフィー質量分析装置:オートサンプラーMPS2(Gerstel社製)を備えたガスクロマトグラフィー装置6890GC(Agilent Technologies社製)に質量選択検出器(MSD)5975シリーズ(Agilent Technologies社製)を結合した装置
・カラム:HP-5(長さ30m、内径0.25mm)(Agilent Technologies社製)
<測定条件>
・カラム温度条件:40℃(4分保持)→2℃/分で昇温して160℃まで加熱→1分保持→5℃/分で昇温して230℃まで加熱→5分保持
・キャリアガス:ヘリウム
【0027】
本発明の果実酒が2-アセチル-1-ピロリンを含有する場合、その濃度は0.25~10質量ppbであり、好ましくは7~10質量ppb、より好ましくは7.8~10質量ppbである。果実酒において、2-アセチル-1-ピロリンの濃度が高いほど2-アセチル-1-ピロリンに起因するオフフレーバーは強くなり、一般的に、濃度が約7.8質量ppb以上になるとオフフレーバーが知覚されるようになる。一方で、2-アセチル-1-ピロリンの濃度が10質量ppb以下である場合には、上述した濃度のヘキサノールによって、2-アセチル-1-ピロリンに起因するオフフレーバーを十分に抑制することができる。なお、2-アセチル-1-ピロリンの検出限界は0.25質量ppbであることから(例えば、“HS-SPME-GC-FID method for detection and quantification of Bacillus cereus ATCC 10702 mediated 2-acetyl-1-pyrroline”, 2014, 30(6), 1356-1363を参照のこと)、本発明の果実酒における2-アセチルチアゾールの濃度の下限値を0.25質量ppbとするが、実際には0.25質量ppb未満であってもよい。2-アセチル-1-ピロリンは、果実酒の原料、例えば果汁に由来するものであってもよく、果実酒の製造過程において生成するものであってもよく、果実酒の製造過程において添加されるものであってもよい。
【0028】
果実酒における2-アセチル-1-ピロリンの濃度を測定する方法、溶液中の2-アセチル-1-ピロリンの濃度を正確に測定できる方法であればいかなる方法も用いることができるが、例えば、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)により測定することができる。具体的には、以下の測定装置および測定条件に従って想定することができる。
<測定装置>
・ガスクロマトグラフィー質量分析装置:オートサンプラーMPS2(Gerstel社製)を備えたガスクロマトグラフィー装置6890GC(Agilent Technologies社製)に質量選択検出器(MSD)5975シリーズ(Agilent Technologies社製)を結合した装置
・カラム:HP-5MS(長さ30m、内径0.25mm)(Agilent Technologies社製)
<測定条件>
・カラム温度条件:40℃(1分保持)→4℃/分で昇温して150℃まで加熱→1分保持→3℃/分で昇温して250℃まで加熱→5分保持
・キャリアガス:ヘリウム
【0029】
本発明の果実酒は、亜硫酸を含んでもよく、亜硫酸を含まなくてもよいが、好ましくは亜硫酸を含まない。また、本発明の果実酒には、亜硫酸が添加されてもよく、添加されなくてもよいが、亜硫酸が添加されないことが好ましい。「亜硫酸」とは、遊離型亜硫酸であってもよく、結合型亜硫酸であってもよい。したがって、亜硫酸の含有量とは、遊離型亜硫酸および結合型亜硫酸の合計の含有量を意味する。
【0030】
果実酒が亜硫酸を含む場合、その含有量は、好ましくは0~350ppm、より好ましくは0~180ppm、より一層好ましくは0~30ppmである。なお、上述した果実酒における亜硫酸の含有量とは、果実酒の原料中に由来する亜硫酸、果実酒の製造過程において生成する亜硫酸および果実酒の製造過程において添加される亜硫酸の合計の含有量を意味する。
【0031】
果実酒における亜硫酸の含有量は、日本国の国税庁所定分析法(所定法)である通気蒸留・滴定法(いわゆる「ランキン法」)によって測定することができる。
【0032】
[果実酒の製造方法]
本発明の別の態様によれば、2-アセチルチアゾールまたは2-アセチル-1-ピロリンを含有する果実酒の製造方法であって、果実酒がヘキサナールを特定の濃度で含むように調整する工程を含む製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)が提供される。本発明の製造方法によれば、ヘキサナールに起因するオフフレーバーを顕在化させず、2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンに起因するオフフレーバーが十分に抑制された果実酒を製造することができる。
【0033】
本発明の製造方法においては、果実酒におけるヘキサナールの濃度が25~250質量ppbに調整され、好ましくは25~200ppb、より好ましくは50~180質量ppb、より一層好ましくは60~160質量ppb、特に好ましくは70~150質量ppbに調整される。果実酒におけるヘキサナールの濃度が25質量ppb以上となるように調整することにより、2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンに起因するオフフレーバーを抑制することができる。一方で、ヘキサナールは果実酒において青臭さ、草臭さ等のオフフレーバーの原因となり得ることから、ヘキサナールの濃度が250質量ppb以下に調整することにより、ヘキサナールに起因するオフフレーバーを顕在化させることなく、2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンに起因するオフフレーバーを抑制することができる。なお、果実酒におけるヘキサナールの濃度の測定方法は、上述した本発明の果実酒について説明した測定方法と同様とすることができる。
【0034】
果実酒におけるヘキサナールの濃度を調整する方法は特に限定されないが、例えば、果実酒の製造過程のいずれかの時点において、ヘキサナールを果実酒の原料、中間物に添加する、ヘキサナールを含む原料の使用量を増減させる、最終産物である果実酒中にヘキサナールを生成する原料の使用量を増減させる、酵母による発酵によってヘキサナールに変換される物質の濃度を調整すること等により行われる。これらの方法は1つを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
一つの実施形態において、果実酒における2-アセチルチアゾールの濃度は1.4~30質量ppbであり、好ましくは3~30質量ppbである。果実酒における、2-アセチルチアゾールの濃度が30質量ppb以下である場合には、ヘキサノールを上述した濃度に調整することによって、2-アセチルチアゾールに起因するオフフレーバーを十分に抑制することができる。2-アセチルチアゾールは、果実酒の原料、例えば果汁に由来するものであってもよく、果実酒の製造過程において生成するものであってもよく、果実酒の製造過程において添加されるものであってもよい。なお、果実酒における2-アセチルチアゾールの濃度の測定方法は、上述した本発明の果実酒について説明した測定方法と同様とすることができる。
【0036】
一つの実施形態において、果実酒における2-アセチル-1-ピロリンの濃度は0.25~10質量ppbであり、好ましくは7~10質量ppb、より好ましくは7.8~10質量ppbである。果実酒における、2-アセチル-1-ピロリンの濃度が10質量ppb以下である場合には、ヘキサノールを上述した濃度に調整することによって、2-アセチル-1-ピロリンに起因するオフフレーバーを十分に抑制することができる。2-アセチル-1-ピロリンは、果実酒の原料、例えば果汁に由来するものであってもよく、果実酒の製造過程において生成するものであってもよく、果実酒の製造過程において添加されるものであってもよい。なお、果実酒における2-アセチル-1-ピロリンの濃度の測定方法は、上述した本発明の果実酒について説明した測定方法と同様とすることができる。
【0037】
一つの実施形態において、果実酒は、2-アセチルチアゾールおよび2-アセチル-1-ピロリンの両方を含む。この実施形態において、2-アセチルチアゾールおよび2-アセチル-1-ピロリンの濃度はそれぞれ上述した濃度とすることができる。
【0038】
本発明の製造方法により製造される果実酒の分類や種類、果実酒の原料は、いずれも上述した本発明の果実酒について説明したものと同様とすることができる。
【0039】
本発明の製造方法により製造される果実酒は、亜硫酸を含んでもよく、亜硫酸を含まなくてもよいが、好ましくは亜硫酸を含まない。また、本発明の製造方法により製造される果実酒には、亜硫酸が添加されてもよく、添加されなくてもよいが、亜硫酸が添加されないことが好ましい。亜硫酸の好ましい含有量およびその測定方法は、いずれも上述した本発明の果実酒について説明したものと同様とすることができる。
【0040】
[果実酒におけるオフフレーバーの抑制方法]
本発明のさらに別の態様によれば、2-アセチルチアゾールまたは2-アセチル-1-ピロリンを含有する果実酒における、2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンに起因するオフフレーバーを抑制する方法であって、果実酒がヘキサナールを特定の濃度で含むように調整する工程を含む方法(以下、「本発明の方法」ともいう。)が提供される。本発明の方法によれば、果実酒において、ヘキサナールに起因するオフフレーバーを顕在化させず、2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンに起因するオフフレーバーを十分に抑制することができる。
【0041】
本発明の方法においては、果実酒におけるヘキサナールの濃度が25~250質量ppbに調整され、好ましくは25~200ppb、より好ましくは50~180質量ppb、より一層好ましくは60~160質量ppb、特に好ましくは70~150質量ppbに調整される。果実酒におけるヘキサナールの濃度が25質量ppb以上となるように調整することにより、2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンに起因するオフフレーバーを抑制することができる。一方で、ヘキサナールは果実酒において青臭さ、草臭さ等のオフフレーバーの原因となり得ることから、ヘキサナールの濃度が250質量ppb以下に調整することにより、ヘキサナールに起因するオフフレーバーを顕在化させることなく、2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンに起因するオフフレーバーを抑制することができる。なお、果実酒におけるヘキサナールの濃度の測定方法は、上述した本発明の果実酒について説明した測定方法と同様とすることができる。
【0042】
果実酒におけるヘキサナールの濃度を調整する方法は特に限定されないが、例えば、果実酒の製造過程のいずれかの時点において、ヘキサナールを果実酒の原料、中間物に添加する、ヘキサナールを含む原料の使用量を増減させる、最終産物である果実酒中にヘキサナールを生成する原料の使用量を増減させる、酵母による発酵によってヘキサナールに変換される物質の濃度を調整すること等により行われる。これらの方法は1つを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
一つの実施形態において、果実酒における2-アセチルチアゾールの濃度は1.4~30質量ppbであり、好ましくは3~30質量ppbである。果実酒における、2-アセチルチアゾールの濃度が30質量ppb以下である場合には、ヘキサノールを上述した濃度に調整することによって、2-アセチルチアゾールに起因するオフフレーバーを十分に抑制することができる。2-アセチルチアゾールは、果実酒の原料、例えば果汁に由来するものであってもよく、果実酒の製造過程において生成するものであってもよく、果実酒の製造過程において添加されるものであってもよい。なお、果実酒における2-アセチルチアゾールの濃度の測定方法は、上述した本発明の果実酒について説明した測定方法と同様とすることができる。
【0044】
一つの実施形態において、果実酒における2-アセチル-1-ピロリンの濃度は0.25~10質量ppbであり、好ましくは7~10質量ppb、より好ましくは7.8~10質量ppbである。果実酒における、2-アセチル-1-ピロリンの濃度が10質量ppb以下である場合には、ヘキサノールを上述した濃度に調整することによって、2-アセチル-1-ピロリンに起因するオフフレーバーを十分に抑制することができる。2-アセチル-1-ピロリンは、果実酒の原料、例えば果汁に由来するものであってもよく、果実酒の製造過程において生成するものであってもよく、果実酒の製造過程において添加されるものであってもよい。なお、果実酒における2-アセチル-1-ピロリンの濃度の測定方法は、上述した本発明の果実酒について説明した測定方法と同様とすることができる。
【0045】
一つの実施形態において、果実酒は、2-アセチルチアゾールおよび2-アセチル-1-ピロリンの両方を含む。この実施形態において、2-アセチルチアゾールおよび2-アセチル-1-ピロリンの濃度はそれぞれ上述した濃度とすることができる。
【0046】
本発明の方法によりオフフレーバーが抑制される果実酒の分類や種類、果実酒の原料は、いずれも上述した本発明の果実酒について説明したものと同様とすることができる。
【0047】
本発明の方法によりオフフレーバーが抑制される果実酒は、亜硫酸を含んでもよく、亜硫酸を含まなくてもよいが、好ましくは亜硫酸を含まない。また、本発明の方法によりオフフレーバーが抑制される果実酒には、亜硫酸が添加されてもよく、添加されなくてもよいが、亜硫酸が添加されないことが好ましい。亜硫酸の好ましい含有量およびその測定方法は、いずれも上述した本発明の果実酒について説明したものと同様とすることができる。
【0048】
[香味改良剤]
本発明のさらに別の態様によれば、ヘキサナールを含む、果実酒における2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンに起因するオフフレーバーを抑制するための香味改良剤(以下、「本発明の香味改良剤」ともいう。)が提供される。本発明の香味改良剤によれば、果実酒において、ヘキサナールに起因するオフフレーバーを顕在化させず、2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンに起因するオフフレーバーを十分に抑制することができる。
【0049】
一つの実施形態において、本発明の香味改良剤は、果実酒に対して、果実酒におけるヘキサナールの濃度が25~250質量ppbとなるように添加され、好ましくは25~200ppb、より好ましくは50~180質量ppb、より一層好ましくは60~160質量ppb、特に好ましくは70~150質量ppbとなるように添加される。果実酒におけるヘキサナールの濃度が25質量ppb以上となるように本発明の香味改良剤を添加することにより、2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンに起因するオフフレーバーを抑制することができる。一方で、ヘキサナールは果実酒において青臭さ、草臭さ等のオフフレーバーの原因となり得ることから、果実酒におけるヘキサナールの濃度が250質量ppb以下となるように本発明の香味改良剤を添加することにより、ヘキサナールに起因するオフフレーバーを顕在化させることなく、2-アセチルチアゾールおよび/または2-アセチル-1-ピロリンに起因するオフフレーバーを抑制することができる。なお、香味改良剤におけるヘキサナールの含有量の測定方法は、上述した本発明の果実酒について説明した測定方法と同様とすることができる。
【0050】
本発明の香味改良剤におけるヘキサナールの含有量は、特に制限されないが、例えば5~100質量%であり、好ましくは30~100質量%、より好ましくは60~100質量%、より一層好ましくは80~100質量%である。
【0051】
一つの実施形態において、本発明の香味改良剤における2-アセチルチアゾールの含有量は、本発明の香味改良剤が果実酒に添加された場合に、果実酒における2-アセチルチアゾールの濃度が30質量ppb以下となるように調整され、好ましくは15質量ppb以下、より好ましくは5質量ppb以下、より一層好ましくは1質量ppb以下となるように調整される。なお、香味改良剤における2-アセチルチアゾールの濃度の測定方法は、上述した本発明の果実酒について説明した測定方法と同様とすることができる。
【0052】
一つの実施形態において、本発明の香味改良剤における2-アセチル-1-ピロリンの含有量は、本発明の香味改良剤が果実酒に添加された場合に、果実酒における2-アセチル-1-ピロリンの濃度が10質量ppb以下となるように調整され、好ましくは8質量ppb以下、より好ましくは5質量ppb以下、より一層好ましくは3質量ppb以下となるように調整される。なお、香味改良剤における2-アセチル-1-ピロリンの濃度の測定方法は、上述した本発明の果実酒について説明した測定方法と同様とすることができる。
【実施例0053】
以下の実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
実施例1:オフフレーバーを抑制する物質の検討1
(1)果実酒モデルサンプルの作製
以下の手順に従って、2-アセチルチアゾールに起因するオフフレーバーを呈する果実酒モデルサンプルを作製した。
まず、2-アセチルチアゾールを含むチリ産の亜硫酸無添加赤ワイン(バルクワイン)をモデルとして、10%(v/v)エタノール溶液に2-アセチルチアゾールを200質量ppbとなるように添加して果実酒モデルを得た。次いで、得られた果実酒モデルに、オフフレーバー抑制効果があると考えられる物質(オフフレーバー抑制物質)である1-ヘキサノール(8.0質量ppm)、ヘキサナール(100質量ppb)およびバニリン(4.0質量ppm)をそれぞれ添加して、各果実酒モデルサンプルを作製した。
【0055】
(2)果実酒モデルサンプルの評価
上記(1)で作製された各果実酒モデルサンプルについて官能評価試験を行った。官能評価試験では、ワインの分野において高いスキルを有する専門パネル5名により、各オフフレーバー抑制物質の添加前および添加後1時間以内のそれぞれの時点において、2-アセチルチアゾールに起因するオフフレーバーである「蒸した豆様の臭い」および「ポップコーン様の臭い」の変化の評価を行った。
【0056】
官能評価試験の結果、いずれの果実酒モデルサンプルにおいても、オフフレーバー抑制物質の添加後の方が、その添加前と比較して、2-アセチルチアゾールに起因するオフフレーバーが抑制されていた。特に、オフフレーバー抑制物質としてヘキサナールを用いた場合には、2-アセチルチアゾールに起因するオフレーバーが、わずかな量で特に良好に抑制されていた。これらの結果から、2-アセチルチアゾールに起因するオフフレーバーの抑制のためにヘキサナールが特に有用であることが確認された。
【0057】
実施例2:オフフレーバーを抑制する物質の検討2
(1)果実酒サンプルの作製
以下の手順に従って、果実酒サンプルを作製した。
まず、オフフレーバー(蒸した豆様の臭い)が官能的に感じられるチリ産の亜硫酸無添加ワイン(バルクワイン)を準備した。次いで、準備されたチリ産の亜硫酸無添加ワインに、オフフレーバー抑制物質である1-ヘキサノール(8.0質量ppmに相当する量)、ヘキサナール(100質量ppbに相当する量)およびバニリン(2.0質量ppmに相当する量)をそれぞれ添加して、各果実酒サンプルを作製した。
【0058】
(2)果実酒サンプルの評価
上記(1)で作製された各果実酒サンプルについて官能評価試験を行った。官能評価試験では、ワインの分野において高いスキルを有する専門パネル8名により、各オフフレーバー抑制物質の添加前および添加後1時間以内のそれぞれの時点において、オフフレーバーである「蒸した豆様の臭い」および「ポップコーン様の臭い」の変化について、VAS法(Visual Analogue Scale法)によって官能評価を行った。具体的には、均等に0~10のスコアで区切られた100mmの線が記された評価用紙を準備し、線の左端(スコア0)を「オフフレーバーなし」とし、右端(スコア10)を「オフフレーバーあり」として、オフフレーバー抑制物質の添加前のスコアを10とした場合の各オフフレーバー抑制物質の添加後のスコアを評価結果として記載した。結果を
図1に示す。
【0059】
図1に示す結果から、いずれの果実酒サンプルにおいても、オフフレーバー抑制物質の添加後の方が、その添加前と比較して、オフフレーバーである「蒸した豆様の臭い」および「ポップコーン様の臭い」が抑制されていた。具体的には、1-ヘキサノール(8.0質量ppmに相当する量)を添加した果実酒サンプルでは4.89±2.29に、ヘキサナール(100質量ppbに相当する量)を添加した果実酒サンプルでは3.70±1.03に、バニリン(2.0質量ppmに相当する量)を添加した果実酒サンプルでは6.42±1.55にそれぞれスコアが低下していた。なお、各果実酒サンプルのスコアは、8名の専門パネルの評価の「平均値±標準偏差」を示す。これらの結果から、果実酒におけるオフフレーバー(蒸した豆様の臭いおよびポップコーン様の臭い)の抑制のために各オフフレーバー物質が有用であること、特にヘキサナールが有用であることが確認された。
【0060】
実施例3:ヘキサナールの濃度の検討
(1)果実酒サンプルの作製
以下の手順に従って、果実酒サンプルを作製した。
まず、オフフレーバーが官能的に感じられないチリ産の亜硫酸無添加ワイン(バルクワイン)を準備した。次いで、準備されたチリ産の亜硫酸無添加ワインに2-アセチルチアゾール(30質量ppbに相当する量)および2-アセチル-1-ピロリン(10質量ppbに相当する量)をそれぞれ添加した。次いで、ヘキサナールを25質量ppb、100質量ppbおよび200質量ppbに相当する量それぞれ添加して、各果実酒サンプルを作製した。また、ヘキサナールを添加しないこと以外は上記と同様にして、対照の果実酒サンプルを作製した。
【0061】
(2)果実酒サンプルの評価
上記(1)で作製された各果実酒サンプルについて官能評価試験を行った。官能評価試験では、ワインの分野において高いスキルを有する専門パネル7名により、各濃度のヘキサナールの添加後6時間の時点において、オフフレーバーである「蒸した豆様の臭い」および「ポップコーン様の臭い」の変化について、上述した実施例2と同様のVAS法によって官能評価を行った。具体的には、対照の果実酒サンプルを10mL口に含み、鼻呼吸をせず10秒間保持してオフフレーバーを確認した後、吐き出して、その時点(吐き出し直後:0秒)、吐き出した後30秒および60秒の各時点のオフフレーバーをそれぞれ記憶した。
【0062】
次いで、25質量ppbの濃度に相当する量のヘキサナールが添加された果実酒サンプルを10mL口に含み、鼻呼吸をせず10秒間保持してオフフレーバーを確認した後、吐き出して、その時点(吐き出し直後:0秒)のスコアを、対照の果実酒サンプルの吐き出し直後(0秒)のスコアを10とした場合の比較として記載した。次いで、吐き出した後30秒および60秒の各時点のスコアを、対照の果実酒サンプルの対応する各時点のスコアを10とした場合の比較として記載した。結果を
図2Aに示す。
【0063】
同様に、100質量ppbおよび200質量ppbの各濃度に相当する量のヘキサナールがそれぞれ添加された果実酒サンプルについても、吐き出し直後(0秒)、吐き出した後30秒および60秒の各時点のスコアを、対照の果実酒サンプルの対応する各時点のスコアを10とした場合の比較として記載した。結果をそれぞれ
図2BおよびCに示す。
【0064】
図2A~Cに示す結果から、いずれの果実酒サンプルにおいても、対照の果実酒サンプルと比較して、試験したすべての時点においてオフフレーバーである「蒸した豆様の臭い」および「ポップコーン様の臭い」が抑制されていた。具体的には、吐き出し直後(0秒)の時点における各果実酒サンプルのスコアは、8.66±1.53(25質量ppbに相当するヘキサナールが添加された果実酒)、6.36±2.06(100質量ppbに相当するヘキサナールが添加された果実酒)および7.03±2.45(200質量ppbに相当するヘキサナールが添加された果実酒)であり、対照の果実酒サンプルのスコア10に対していずれもスコアが低下していた。なお、各果実酒サンプルのスコアは、7名の専門パネルの評価の「平均値±標準偏差」を示す。
【0065】
また、吐き出し後30秒の時点における各果実酒サンプルのスコアは、6.93±2.02(25質量ppbに相当するヘキサナールが添加された果実酒)、3.30±1.51(100質量ppbに相当するヘキサナールが添加された果実酒)および4.84±2.59(200質量ppbに相当するヘキサナールが添加された果実酒)であり、対照の果実酒サンプルのスコア10に対していずれもスコアが低下していた。
【0066】
また、吐き出し後60秒の時点における各果実酒サンプルのスコアは、4.81±2.16(25質量ppbに相当するヘキサナールが添加された果実酒)、0.47±0.52(100質量ppbに相当するヘキサナールが添加された果実酒)および2.19±1.54(200質量ppbに相当するヘキサナールが添加された果実酒)であり、対照の果実酒サンプルのスコア10に対していずれもスコアが低下していた。
【0067】
これらの結果から、25~200質量ppbに相当するヘキサナールを添加することにより、果実酒におけるオフフレーバーを良好に抑制し得ること、100質量ppbに相当するヘキサナールを添加することによりオフフレーバーを顕著に抑制し得ることが確認された。