(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183866
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】気体燃料用インジェクタ
(51)【国際特許分類】
F02M 51/06 20060101AFI20231221BHJP
F02M 61/04 20060101ALI20231221BHJP
F02M 61/16 20060101ALI20231221BHJP
F16K 31/06 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
F02M51/06 T
F02M61/04 G
F02M61/16 G
F02M61/16 U
F02M61/16 D
F02M51/06 J
F16K31/06 305M
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097647
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000153122
【氏名又は名称】株式会社ニッキ
(74)【代理人】
【識別番号】100092864
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 京子
(74)【代理人】
【氏名又は名称】橋本 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100226713
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 大輔
(72)【発明者】
【氏名】村上 努
(72)【発明者】
【氏名】會澤 修太郎
【テーマコード(参考)】
3G066
3H106
【Fターム(参考)】
3G066AB05
3G066BA31
3G066BA49
3G066CC06U
3G066CC16
3G066CE22
3H106DA07
3H106DA13
3H106DA23
3H106DB02
3H106DB32
3H106DC02
3H106DD07
3H106EE20
3H106EE33
3H106GB15
3H106KK18
(57)【要約】
【課題】閉弁動作時に弁体と弁座の間で衝撃荷重が増大することによる弁体の過剰な摩耗を防止して、開閉弁のシール性能を長期間に亘って維持できる気体燃料用インジェクタを提供する。
【解決手段】弁孔41を貫通形成した弁座40と、前記弁孔41を開閉する弁体50と、からなる開閉弁30を備えた電磁駆動式の気体燃料用インジェクタ1において、前記弁座40は、同心的に二重に形成された内側環状突起70および外側環状突起80からなる環状突起60が前記弁孔41の開口端42を囲んで前記弁体50に接触可能に形成されており、閉弁状態において前記内側環状突起70の上端縁71および前記外側環状突起80の上端縁81が共に前記弁体50に接触する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央に弁孔を貫通形成した弁座と、前記弁座と同軸に配置されて軸方向に移動可能且つコイルばねによって前記弁座方向に付勢された可動鉄心に固定されており前記弁孔を開閉する弁体と、からなる開閉弁を備え、
前記弁体が前記弁座に密着している閉弁状態から、電磁コイルへの通電により、前記可動鉄心を電磁吸引して前記弁体が前記弁座から離隔した開弁状態となり、前記弁孔を介して気体燃料を噴射させる電磁駆動式の気体燃料用インジェクタにおいて、
前記弁座は、同心的に二重に形成された内側環状突起および外側環状突起からなる環状突起が前記弁孔の開口端を囲んで前記弁体に接触可能に形成されており、
前記環状突起は、閉弁状態において前記内側環状突起の上端縁および前記外側環状突起の上端縁が共に前記弁体に接触することを特徴とする気体燃料用インジェクタ。
【請求項2】
前記環状突起は、前記内側環状突起が前記外側環状突起よりも高く形成されており、閉弁動作時に前記内側環状突起が前記外側環状突起よりも先に前記弁体に接触することを特徴とする請求項1に記載した気体燃料用インジェクタ。
【請求項3】
前記外側環状突起は、閉弁状態において前記外側環状突起の内側と外側の間で気体燃料が通過可能な連通溝が複数箇所形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載した気体燃料用インジェクタ。
【請求項4】
前記可動鉄心は、前記軸方向と直交して配置された円盤状の板ばねによって浮遊状態で支持されていることを特徴とする請求項1または2に記載した気体燃料用インジェクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばLPGなどの気体燃料により駆動するエンジンが要求する流量の気体燃料を噴射して供給するための常閉式の気体燃料用インジェクタに関する。
【背景技術】
【0002】
電磁コイルに通電して励磁させることで可動鉄心を吸引し開閉弁を開いて燃料を供給する電磁駆動式のインジェクタとしては、例えば特開2010-096073号公報(特許文献1)や特開2020-037927号公報(特許文献2)に記載された、
図4に示すような気体燃料用インジェクタ1aが広く知られている。
【0003】
この気体燃料用インジェクタ1aは、底面側に弁体50aを固定した可動鉄心(ムービングコア)23aが、固定鉄心(センターロッド)26aの下方で円盤状の板ばね22aの中央に支持されており、その弁体50aの下面にシール部分として設けたバルブラバー51aを、前記固定鉄心26aと可動鉄心23aの間に介装されたコイルばね21aの付勢力により、中央に弁孔41aが開口した弁座40aの円環状のシート面60aに押し付けることで閉弁状態を維持させる常閉式のものとなっている。
【0004】
しかし、このような従来のインジェクタにおいては、気体燃料の供給圧力が高圧になった場合、供給圧力が低圧の場合と比べて閉弁動作時の弁体と弁座の間の衝撃荷重が大幅に増加してしまうため、弁体のバルブラバー部分が過剰に摩耗しやすくなって、比較的短期間でインジェクタの調圧性能が低下したり、気体燃料が漏洩したりするという問題があった。
【0005】
このような弁体における摩耗の問題に対し、本願発明者・出願人らは、先に特開2019-206935号公報(特許文献3)において、弁体のストローク方向に沿って配設されたコイルばねと、弁体のストローク方向に対し直角に設けられて弁体を支持するように所定間隔を空けて並行に配設された複数枚の板ばねとの協働により弁体が閉弁方向に付勢されながら、非通電時に閉弁状態を維持する方式としたインジェクタを提案している。
【0006】
これにより、弁体が変位する際の傾きを抑制しながら、その作動状態を安定化させることができ、閉弁時のシール性能を長期間に亘って維持しやすいものとしている。しかしながら、この方式は、弁体の傾きを防止しながらバルブラバーの偏摩耗を低減することには有効であるが、供給燃料の高圧化で弁体と弁座の間の衝撃荷重が大幅に増加することを原因とするバルブラバーの耐久性の低下の問題には、充分に対応することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-096073号公報
【特許文献2】特開2020-037927号公報
【特許文献3】特開2019-206935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決しようとするものであり、気体燃料用インジェクタについて、閉弁動作時に弁体と弁座の間で衝撃荷重が増大することによる弁体の過剰な摩耗を防止して、開閉弁のシール性能を長期間に亘って維持できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明である気体燃料用インジェクタは、中央に弁孔を貫通形成した弁座と、前記弁座と同軸に配置されて軸方向に移動可能且つコイルばねによって前記弁座方向に付勢された可動鉄心に固定されており前記弁孔を開閉する弁体と、からなる開閉弁を備え、前記弁体が前記弁座に密着している閉弁状態から、電磁コイルへの通電により、前記可動鉄心を電磁吸引して前記弁体が前記弁座から離隔した開弁状態となり、前記弁孔を介して気体燃料を噴射させる電磁駆動式の気体燃料用インジェクタにおいて、前記弁座は、同心的に二重に形成された内側環状突起および外側環状突起からなる環状突起が前記弁孔の開口端を囲んで前記弁体に接触可能に形成されており、前記環状突起は、閉弁状態において前記内側環状突起の上端縁および前記外側環状突起の上端縁が共に前記弁体に接触することを特徴とする。
【0010】
このように、電磁駆動式の気体燃料用インジェクタにおいて、弁座における弁体が接触する部分に、内側環状突起および外側環状突起からなる環状突起を同心的に二重に形成したことで、開閉弁のシール部分における接触面積を大きくして、高圧燃料噴射時等における閉弁動作に伴う衝撃を分散・緩衝しながらシール性能を確保可能となるため、弁体の弁座との接触部分における過剰な摩耗の発生を防止して、開閉弁のシール性能を長期間に亘って維持可能なものとなる。
【0011】
また、前記環状突起は、前記内側環状突起が前記外側環状突起よりも高く形成されており、閉弁動作時に前記内側環状突起が前記外側環状突起よりも先に前記弁体に接触する場合、弁孔を囲む内側環状突起が閉弁状態において弁体への確実な密着状態を確保しながら、閉弁動作時に内側環状突起が必ず先に弁体に接触し、僅かに遅れて外側環状突起が弁体に接触する構成により、閉弁時の衝撃を2段階に分散させて優れた衝撃の分散・緩衝作用を発揮するものとなる。
【0012】
更に、前記外側環状突起は、閉弁状態において前記外側環状突起の内側と外側の間で気体燃料が通過可能な連通溝が複数箇所形成されている場合、外側環状突起には弁体側との接触面積の増加機能のみを発揮させつつ、内側環状突起だけに気密保持機能を持たせることになるため、インジェクタによる燃料供給量の精密な制御を実現しやすいものとなる。
【0013】
また、前記可動鉄心は、前記軸方向と直交して配置された円盤状の板ばねによって浮遊状態で支持されている場合、板ばねは摺動部無しで浮遊状態に支持して直線動させることが可能であって耐久性及び応答性において有利であるとともに、可動鉄心および弁体の傾きを防ぎ姿勢が安定した状態で開閉弁の開閉を行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、閉弁動作時に弁体と弁座の間で衝撃荷重が増大して生じる弁体の過剰な摩耗を防止して、開閉弁のシール性能を長期間に亘って維持可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明における実施の形態である気体燃料用インジェクタの先端側の構成を示す縦断面部分図。
【
図2】
図1の気体燃料用インジェクタにおける弁座を示す、(a)平面図および(b)斜視図。
【
図4】従来例の気体燃料用インジェクタの先端側の構成を示す部分縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。
【0017】
図1は、本実施の形態である気体燃料用インジェクタ1において技術的な特徴を有した先端側部分の詳細な構造を示す縦断面部分図である。この気体燃料用インジェクタ1は、所定圧力に減圧・調整した気体燃料をエンジンが要求する流量で供給するために、内装した電磁コイルに通電して励磁させることにより、可動鉄心を吸引することで開閉弁を開弁状態として燃料を噴射する電磁駆動式のインジェクタである。
【0018】
より詳細に説明すると、前記気体燃料用インジェクタ1は、円筒状部材からなるボディ10の内部に、中央に弁孔41を貫通形成した弁座40と、前記弁孔41を開閉する弁体50と、からなる開閉弁30を備えており、前記弁体50は、前記弁座40と同軸に配置されて軸方向に移動可能且つコイルばね21によって前記弁座40方向に付勢されるとともに前記軸方向と直交して配置された円盤状の板ばね22によって浮遊状態で支持された可動鉄心23の底面側に固定されている。尚、符号24は前記可動鉄心23と前記弁体50を一体に結合するためのねじ嵌合による結合部である。
【0019】
そして、固定鉄心26を中心部に配置した電磁コイル25に通電して励磁させることにより、前記可動鉄心23と同軸且つ前記弁座40と反対側に位置する前記固定鉄心26に向けて前記可動鉄心23が電磁吸引されて、前記弁座40に対して前記弁体50が前記コイルばね21の付勢力で密着した閉弁位置から離隔した開弁状態となり、前記弁孔41を介して気体燃料を噴射させる。
【0020】
本発明において、前記弁座40の上面には、前記弁孔41の開口端42を囲むように、シート面となる円環状(ドーナツ状)の環状突起60が形成されており、その上端縁にシール面となる前記弁体50のバルブラバー51が密着して閉弁状態になるものであるが、前記環状突起60は、同心的に二重に形成された内側環状突起70および外側環状突起80からなり、閉弁状態において前記内側環状突起70の上端縁71および前記外側環状突起80の上端縁81が共に前記弁体41のバルブラバー51表面に接触するようになっており、この点が本発明における最大の特徴部分となっている。
【0021】
このように、前記弁座40における前記弁体50と接触する箇所に、円環状の突起を同心的に二重に形成したことで、前記開閉弁30のシール部分における接触面積を拡大して、高圧燃料噴射時等における閉弁動作に伴う衝撃を分散・緩衝しながらシール性能を確保可能としたものであり、前記弁座40と接触する前記弁体50のバルブラバー51に過剰な摩耗が生じるのを防止して、前記開閉弁30のシール性能を長期間に亘って維持できるようにしている。
【0022】
図2(a)は、前記気体燃料用インジェクタ1の特徴部分になる前記弁座40の平面図、
図2(b)は斜視図(下側部分は省略)であり、
図3は前記弁座40の拡大縦断面図である。
【0023】
円柱状の部品である前記弁座40において、前記環状突起60は、前記内側環状突起70の高さT1が、前記外側環状突起80の高さT2よりも僅かに高く形成されており、この点も本実施の形態における重要な特徴部分となっている。
【0024】
このように、前記内側環状突起70の高さT1を前記外側環状突起80の高さT2よりも高く形成したことにより、閉弁動作時に前記内側環状突起70が前記外側環状突起80よりも先に前記弁体50のバルブラバー51に接触することになる。
【0025】
そのため、前記弁孔41を囲んでいる前記内側環状突起70が、閉弁状態において前記バルブラバー51への確実な密着状態を確保することに加え、閉弁動作時に前記内側環状突起70が必ず先に前記バルブラバー51に接触し、僅かに遅れて前記外側環状突起80が前記バルブラバー51に接触する構成となっていることから、閉弁動作時の衝撃を2段階に分散させながら優れた衝撃緩衝作用を発揮するため、本実施の形態の気体燃料用インジェクタ1は、耐久性に優れたものとなっている。
【0026】
また、本実施の形態においては、前記弁座40における二重の前記環状突起60のうち、前記外側環状突起80には、円環状に囲まれた内側と外側との間を連通させて気体燃料が通過可能な4つの連通溝82が、円周方向等間隔で形成されている点も特徴としている。
【0027】
このように、閉弁状態でドーナツ状の前記外側環状突起80で囲まれた内側と外側を連通させる前記連通溝82を設けたことにより、前記外側環状突起80には前記バルブラバー51との接触面積の増加機能のみを発揮させつつ、前記内側環状突起70だけに気密保持機能を持たせることになるため、気体燃料用インジェクタ1における精密な燃料供給量の制御を実現しやすいものとしている。
【0028】
以上、述べたように、気体燃料用インジェクタについて、本発明により閉弁動作時に弁体と弁座の間で衝撃荷重が増大して生じる弁体の過剰な摩耗を防止して、開閉弁のシール性能を長期間に亘って維持することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 気体燃料用インジェクタ、10 ボディ、21 コイルばね、22 板ばね、23 可動鉄心、24 結合部、25 電磁コイル、26 固定鉄心、30 開閉弁、40 弁座、41 弁孔、42 開口端、50 弁体、51 バルブラバー、60 環状突起、70 内側環状突起、71 上端縁、80 外側環状突起、81 上端縁、82 連通溝