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特開2023-183878異常判定装置、異常判定方法、及び異常判定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183878
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】異常判定装置、異常判定方法、及び異常判定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/418 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097668
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】野村 泰佑
(72)【発明者】
【氏名】藤井 徹
(72)【発明者】
【氏名】服部 玲子
【テーマコード(参考)】
3C100
【Fターム(参考)】
3C100AA29
3C100AA70
3C100BB13
3C100BB15
3C100BB27
3C100BB33
(57)【要約】
【課題】生産設備において生じ得る異常に関連する因子を、被熟練者であっても容易に特定することができる、異常判定装置、異常判定方法、及び異常判定プログラムを提供する。
【解決手段】本発明に係る異常判定装置は、生産設備において生産される製品の品質に及ぼす複数の因子を計測する計測手段と、制御部と、記憶部と、を備え、前記記憶部は、前記生産設備において、正常な製品を生産時の前記因子から算出される特徴量に基づき、前記因子間の因果関係を特定した因果関係モデルと、前記因果関係モデルに基づいて、少なくとも1つの前記特徴量を入力とし、前記入力とは異なる他の前記特徴量を出力とする、予測式と、前記出力の予測範囲と、を記憶し、前記制御部は、前記生産設備の生産工程において計測された前記因子から算出された前記特徴量のうち、前記出力となる前記特徴量が前記予測範囲内にあるか否かを判定するように構成されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生産設備において生産される製品の品質に及ぼす複数の因子を計測する計測手段と、
制御部と、
記憶部と、
を備え、
前記記憶部は、
前記生産設備において、正常な製品を生産時の前記因子から算出される特徴量に基づき、前記因子間の因果関係を特定した因果関係モデルと、
前記因果関係モデルに基づいて、少なくとも1つの前記特徴量を入力とし、前記入力とは異なる他の前記特徴量を出力とする、予測式と、
前記出力の予測範囲と、
を記憶し、
前記制御部は、
前記生産設備の生産工程において計測された前記因子から算出された前記特徴量のうち、前記出力となる前記特徴量が前記予測範囲内にあるか否かを判定するように構成されている、異常判定装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記出力となる前記特徴量が前記予測範囲外にあるとき、当該特徴量に係る因子を通知するように構成されている、請求項1に記載の異常判定装置。
【請求項3】
前記特徴量の前記予測範囲からの乖離度を算出するように構成されている、請求項2に記載の異常判定装置。
【請求項4】
前記制御部は、
通知された前記因子と、当該因子に対応する前記乖離度とを表示させるように構成されている、請求項3に記載の異常判定装置。
【請求項5】
前記制御部は、
計測された一組の前記因子の前記特徴量を用いて前記判定を行うように構成されている、請求項1に記載の異常判定装置。
【請求項6】
前記予測範囲は、複数の正常データにより導かれる複数の特徴量のばらつきの幅に基づいて規定される、請求項1に記載の異常判定装置。
【請求項7】
異常と判定された前記製品における前記因子に基づいて、当該因子の値が前記予測範囲を超える他の前記因子を出力する、請求項1に記載の異常判定装置。
【請求項8】
生産設備において生産される製品の品質に及ぼす複数の因子から算出される特徴量のうち、正常な前記製品を生産時の前記特徴量から前記因子間の因果関係を特定し、因果関係モデルを生成するステップと、
前記因果関係モデルに基づいて、少なくとも1つの前記特徴量を入力とし、前記入力とは異なる他の前記特徴量を出力とする、予測式を生成するステップと、
前記出力の予測範囲を生成するステップと、
前記生産設備の生産工程において計測された前記因子から前記特徴量を算出するステップと、
算出された前記特徴量のうち、前記出力となる前記特徴量が前記予測範囲内にあるか否かを判定するステップと、
を備えている、異常判定方法。
【請求項9】
コンピュータに、
生産設備において生産される製品の品質に及ぼす複数の因子から算出される特徴量のうち、正常な前記製品を生産時の前記特徴量から前記因子間の因果関係を特定し、因果関係モデルを生成するステップと、
前記因果関係モデルに基づいて、少なくとも1つの前記特徴量を入力とし、前記入力とは異なる他の前記特徴量を出力とする、予測式を生成するステップと、
前記出力の予測範囲を生成するステップと、
前記生産設備の生産工程において計測された前記因子から前記特徴量を算出するステップと、
算出された前記特徴量のうち、前記出力となる前記特徴量が前記予測範囲内にあるか否かを判定するステップと、
を実行させる、異常判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常判定装置、異常判定方法、及び異常判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
設備状態を監視する方法として、特許文献1では、製造工程データにより得られた因果関係モデルを有効活用し、ドメイン知識による検証を容易にするシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-181158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の方法では、品質に影響を与える現象に対し、ドメイン知識をある程度保有することを前提としている。したがって、非熟練者、新規に発生した現象に対しては利用し難いと考えられる。本発明は、この問題を解決するためになされたものであり、生産設備において生じ得る異常に関連する因子を、被熟練者であっても容易に特定することができる、異常判定装置、異常判定方法、及び異常判定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の観点に係る異常判定装置は、生産設備において生産される製品の品質に及ぼす複数の因子を計測する計測手段と、制御部と、記憶部と、を備え、前記記憶部は、前記生産設備において、正常な製品を生産時の前記因子から算出される特徴量に基づき、前記因子間の因果関係を特定した因果関係モデルと、前記因果関係モデルに基づいて、少なくとも1つの前記特徴量を入力とし、前記入力とは異なる他の前記特徴量を出力とする、予測式と、前記出力の予測範囲と、を記憶し、前記制御部は、前記生産設備の生産工程において計測された前記因子から算出された前記特徴量のうち、前記出力となる前記特徴量が前記予測範囲内にあるか否かを判定するように構成されている。
【0006】
第2の観点に係る異常判定装置は、上記第1の観点に係る異常判定装置において、前記出力となる前記特徴量が前記予測範囲外にあるとき、当該特徴量に係る因子を通知するように構成されている。
【0007】
第3の観点に係る異常判定装置は、上記第2の観点に係る異常判定装置において、前記特徴量の前記予測範囲からの乖離度を算出するように構成されている。
【0008】
第4の観点に係る異常判定装置は、上記第3の観点に係る異常判定装置において、表示部をさらに備え、前記制御部は、通知された前記因子と、当該因子に対応する前記乖離度とを表示させるように構成されている。
【0009】
第5の観点に係る異常判定装置は、上記第1から第4のいずれかの観点に係る異常判定装置において、前記制御部は、計測された一組の前記因子の前記特徴量を用いて前記判定を行うように構成されている。
【0010】
第6の観点に係る異常判定装置は、上記第1から第5のいずれかの観点に係る異常判定装置において、前記予測範囲は、複数の正常データにより導かれる複数の特徴量のばらつきの幅(例えば、後述する予測式のばらつき)に基づいて規定されている。
【0011】
第7の観点に係る異常判定装置は、上記第1から第5のいずれかの観点に係る異常判定装置において、異常と判定された製品における因子データに基づいて、当該因子の値が前記予測範囲を超える他の因子を出力する。これにより、異常原因を推測する。
【0012】
本発明に係る第8の観点に係る異常判定方法は、生産設備において生産される製品の品質に及ぼす複数の因子から算出される特徴量のうち、正常な前記製品を生産時の前記特徴量から前記因子間の因果関係を特定し、因果関係モデルを生成するステップと、前記因果関係モデルに基づいて、少なくとも1つの前記特徴量を入力とし、前記入力とは異なる他の前記特徴量を出力とする、予測式を生成するステップと、前記出力の予測範囲を生成するステップと、前記生産設備の生産工程において計測された前記因子から前記特徴量を算出するステップと、算出された前記特徴量のうち、前記出力となる前記特徴量が前記予測範囲内にあるか否かを判定するステップと、を備えている。
【0013】
本発明に係る第9の観点に係る異常判定プログラムは、コンピュータに、生産設備において生産される製品の品質に及ぼす複数の因子から算出される特徴量のうち、正常な前記製品を生産時の前記特徴量から前記因子間の因果関係を特定し、因果関係モデルを生成するステップと、前記因果関係モデルに基づいて、少なくとも1つの前記特徴量を入力とし、前記入力とは異なる他の前記特徴量を出力とする、予測式を生成するステップと、前記出力の予測範囲を生成するステップと、前記生産設備の生産工程において計測された前記因子から前記特徴量を算出するステップと、算出された前記特徴量のうち、前記出力となる前記特徴量が前記予測範囲内にあるか否かを判定するステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、生産設備において生じ得る異常に関連する因子を、被熟練者であっても容易に特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明が適用される生産システムの一例を模式的に例示したブロック図である。
図2A】本発明の一実施形態に係る生産設備に含まれる接合機構の概略図である。
図2B】接合機構の動作を示す図である。
図3A】接合機構に異常が生じる場合の図である。
図3B】異常が生じた接合機構の動作を説明する図である。
図4】本発明の一実施形態に係る異常判定装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図5】異常判定装置の機能構成を示すブロック図である。
図6】因果関係モデルの例である。
図7】予測式の例を示す図である。
図8】予測範囲の例を示す図である。
図9】異常の判定を説明する図である。
図10】表示装置に表示された乖離度の例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る異常判定装置を、接合機構を有する生産設備に適用した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態に係る異常判定装置及び生産設備を含む生産システムのブロック図である。本実施形態においては、生産設備3に含まれる接合機構において異常が発生したか否かを、異常判定装置1において判定するように構成されている。
【0017】
<1.接合機構の概略>
図2Aに示すように、この生産設備3に含まれる接合機構は、設置治具面に配置された円柱状の部品1と円筒状の部品2とを接合するための接合機構を有している。初期状態において部品1は部品2の貫通孔に挿入されている。部品1は部品2よりも高く、部品2の貫通孔から上方に突出している。この状態から、図2Bに示すように、押圧部材をサーボモータなどにより所定の下降距離だけ下降させて部品1の上面を押圧すると、部品1が塑性変形する。すなわち、部品1の上下方向の長さが縮まるとともに、径方向の長さが増大する。これにより、径方向に増大した部品1の外周面が部品2の貫通孔の内周面に摩擦力によって接合される。
【0018】
接合機構が正常に稼働しているときには、上記のように部品1と部品2とが接合されるが、例えば、図3Aに示すように、部品1,2の設置治具面が異物の混入により傾いている場合には、図3Bに示すように、押圧部材で部品1を押圧したときに、押圧部材が本来の下降距離に達する前に部品2に接触してしまい、押圧が停止するおそれがある。これにより、部品1を部品2に接合できないという不具合(異常)が発生する。本実施形態においては、このような異常の発生の判定について説明する。
【0019】
本実施形態における接合機構では、一例として、押圧部材の押圧力(N)、押圧部材の下降速度(mm/s)、接合後の部品1の高さである部品高さ(mm)、部品1と部品2との接合強度(N)、及び接合後の部品1と部品2との高さの差(mm)、つまり部品段差(mm)を因子として用い、これらが動作状態データとして接合機構から抽出される。これらのうち、押圧力、部品高さ、及び押圧力は予め規定されたものであり、接合機構の動作を制御するPLC等のコンピュータに入力されている。一方、下降時間、接合強度、及び部品段差は接合機構においてリアルタイムに、あるいは事後的に計測され、動作状態データとして異常判定装置1に送信される。そのため、接合機構には、各因子を計測するためのセンサ等が設けられている。なお、各因子を事後的に計測する場合には、接合機構にセンサ等を設けなくてもよい。
【0020】
<2.異常判定装置>
<2-1.ハードウェア構成>
次に、本実施形態に係る異常判定装置1のハードウェア構成の一例を説明する。図4は異常判定装置のハードウェア構成を示すブロック図である。図4に示すように、この異常判定装置1は、制御部11、記憶部12、通信インタフェース13、外部インタフェース14、入力装置15、及びドライブ16が電気的に接続されたコンピュータである。
【0021】
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を含み、情報処理に応じて各構成の制御を行う。記憶部12は、例えば、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ等の補助記憶装置であり、制御部11で実行されるプログラム121、因果関係モデル122、予測式123、予測範囲124、予測データ125、及び動作状態データ126等を記憶する。
【0022】
プログラム121は、生産設備3から抽出される動作状態データから特徴量を算出し、これら特徴量から因子間の因果関係モデルを生成したり、異常の判定等を行うためのプログラムである。
【0023】
因果関係モデル122の対象となる特徴量は、接合機構で生産される製品の品質に影響を及ぼす因子に基づくものであり、製品が正常に生産されるときの因子間の因果関係が因果関係モデルとして構築される。この異常判定装置1では、上述した動作状態データから算出された特徴量等によって因果関係モデル122が生成されるが、外部の装置において予め生成された因果関係モデルを記憶することもできる。
【0024】
予測式123は、得られた特徴量のうち、入力となる特徴量から、入力以外の他の特徴量を算出するためのものであり、因果関係モデル122に基づいて生成される。予測範囲124は、予測式123から得られる出力の範囲を統計的に規定したものである。予測データ125は、異常が生じたときのデータであり、異常がある因子、特徴量、及びその特徴量の予測範囲124からの乖離度などを示すデータである。また、動作状態データ126は、上述したとおり、生産設備3から送信された動作状態データである。
【0025】
通信インタフェース13は、例えば、有線LAN(Local Area Network)モジュール、無線LANモジュール等であり、有線又は無線通信を行うためのインタフェースである。すなわち、通信インタフェース13は、他の装置と通信を行うように構成された通信部の一例である。本実施形態の異常判定装置1は、通信インタフェース13を介して生産設備3と接続されている。
【0026】
外部インタフェース14は、外部装置と接続するためのインタフェースであり、接続する外部装置に応じて適宜構成される。本実施形態では、外部インタフェース14が、表示装置2に接続されている。なお、表示装置2は、公知の液晶ディスプレイ、タッチパネルディスプレイ等が用いられてよい。
【0027】
入力装置15は、例えば、マウス、キーボード等の入力を行うための装置である。
【0028】
ドライブ16は、例えば、CD(Compact Disk)ドライブ、DVD(Digital Versatile Disk)ドライブ等であり、記憶媒体17に記憶されたプログラムを読み込むための装置である。ドライブ16の種類は、記憶媒体17の種類に応じて適宜選択されてよい。なお、記憶部に記憶されている、プログラム121を含む各種のデータ122~126の少なくとも一部は、この記憶媒体17に記憶されていてもよい。
【0029】
記憶媒体17は、コンピュータその他装置、機械等が記録されたプログラム等の情報を読み取り可能なように、このプログラム等の情報を、電気的、磁気的、光学的、機械的又は化学的作用によって蓄積する媒体である。図4では、記憶媒体17の一例として、CD、DVD等のディスク型の記憶媒体を例示している。しかしながら、記憶媒体17の種類は、ディスク型に限定される訳ではなく、ディスク型以外であってもよい。ディスク型以外の記憶媒体として、例えば、フラッシュメモリ等の半導体メモリを挙げることができる。
【0030】
なお、異常判定装置1の具体的なハードウェア構成に関して、実施形態に応じて、適宜、構成の省略、置換及び追加が可能である。例えば、制御部11は、複数のプロセッサを含んでもよい。異常判定装置1は、複数台の情報処理装置で構成されてもよい。また、異常判定装置1には、提供されるサービス専用に設計された情報処理装置の他、汎用のサーバ装置等が用いられてよい。
【0031】
<2-2.機能構成と異常の判定>
次に、異常判定装置1の機能構成(ソフトウエア構成)を説明する。図5は、本実施形態に係る異常判定装置1の機能構成の一例である。異常判定装置1の制御部11は、記憶部12に記憶されたプログラム121をRAMに展開する。そして、制御部11は、RAMに展開されたプログラム121をCPUにより解釈及び実行して、各構成を制御する。これによって、図5に示すように、本実施形態に係る異常判定装置1は、特徴量取得部111、モデル構築部112、異常判定部113、及び乖離算出部114を備えるコンピュータとして機能する。
【0032】
<2-2-1.特徴量の取得>
特徴量取得部111は、接合機構が部品1と部品2とを正常に接合した正常時、及び両部品が正しく接合されていない異常時それぞれについて、生産設備3の動作状態を示す動作状態データ126から算出される特徴量の値を取得する。但し、正常時の動作状態データ126としては、複数のタイミングで抽出されたデータが用いられるが、異常時の動作状態データとしては、異常が発生したと考えられる1または複数のタイミングで抽出されたデータが用いられる。そして、モデル構築部112は、取得した正常時の特徴量の値から、部品1,2を接合する際の各特徴量の関連度を導出する所定のアルゴリズムに基づいて、因子間の因果関係を示す因果関係モデル122を構築する。
【0033】
例えば、制御部11は、次のように特徴量を取得する。まず、制御部11は、特徴量を算出する処理範囲を規定するため、収集した動作状態データ126をフレーム毎に分割する。例えば、制御部11は、動作状態データ126を一定時間長のフレーム毎に分割してもよい。ただし、接合機構は、必ずしも一定時間間隔で動作しているとは限らない。そのため、動作状態データ126を一定時間長のフレーム毎に分割すると、各フレームに反映される接合機構の動作がずれてしまう可能性がある。
【0034】
そこで、本実施形態では、制御部11は、動作状態データ126をタクト時間毎にフレーム分割する。タクト時間は、製品を所定個数分生産する、すなわち、部品1,2を所定個数分接合するのにかかる時間である。このタクト時間は、接合機構を制御する信号、例えば、接合機構の各サーボモータ等の動作を制御する制御信号に基づいて特定することができる。なお、制御信号の種類は、接合機構を制御するのに利用可能な信号であれば、特に限定されなくてもよい。
【0035】
次に、制御部11は、動作状態データ126の各フレームから特徴量の値を算出する。例えば、動作状態データ126が上記のような量的データ(下降時間、接合強度、部品段差)である場合には、制御部11は、フレーム内の振幅、最大値、最小値、平均値、分散値、標準偏差、自己相関係数、フーリエ変換により得られるパワースペクトルの最大値、歪度、尖度等を特徴量として算出してもよい。
【0036】
さらに、特徴量は、単一の動作状態データ126からだけではなく、複数件の動作状態データ126から導出してもよい。例えば、制御部11は、動作状態データ126の対応するフレーム同士の相互相関係数、比率、差分、同期のずれ量、距離、等を特徴量として算出してもよい。
【0037】
こうして、制御部11は、正常時について、動作状態データ126から算出される複数種類の特徴量の値を取得することができる。また、特徴量は、上記のように得られたものをさらに正規化、外れ値除去などの前処理を行うことで算出することもできる。
【0038】
<2-2-2.因果関係モデルの構築>
モデル構築部112は、取得した各特徴量を確率変数として扱って、すなわち、取得した各特徴量を各ノードに設定し、例えば、以下のように因果関係モデルを構築することができる。
【0039】
(1)グラフィカルモデルの構築
(1-1)各特徴量を発生する時系列順などをもとに階層構造を指定する。
(1-2)階層構造を元に、各ノード間を有向線で結ぶ有向グラフを偏相関係数や相関誤差を基準として、決定する。
なお、有向線の選び方は特には限定されず、適合度指標GFIやSRMRを元に選ぶ方法もあれば、偏相関係数などのみを注視して選ぶ方法もある。
【0040】
(2)構造方程式モデリングによる定式化
(2-1)(1-2)で獲得した因果構造の各関係式をデータを元に学習する。線形であれば重回帰、非線形であれば、SVR(サポートベクトル回帰)などを用いることができる。
(2-2)当てはまりがよくない場合には、データの対数化や交互作用の追加を行うような工夫もあり得る。
【0041】
なお、因果関係モデルの構築方法は、これに限定されるものではなく、例えば、ベイジアンネットワークを構築することで、各因子間の因果関係を導出することができる。ベイジアンネットワークの構築には、公知の方法が用いられてよい。例えば、ベイジアンネットワークの構築には、Greedy Search アルゴリズム、Stingy Search アルゴリズム、全探索法等の構造学習アルゴリズムを用いることができる。また、構築されるベイジアンネットワークの評価基準には、AIC(Akaike ' s. Information Criterion)、C4.5、CHM(Cooper Herskovits Measure)、MDL(Minimum Description Length)、ML(Maximum Likelihood)等を用いることができる。また、ベイジアンネットワークの構築に利用する学習データ(動作状態データ126)に欠損値が含まれる場合の処理方法として、ペアワイズ法、リストワイズ法等を用いることができる。
【0042】
例えば、図6は、本実施形態の接合機構における下降速度、部品高さ、押圧力、下降時間、接合強度、及び部品段差の因果関係モデルを示している。この因果関係モデルによれば、下降速度及び部品高さが、下降時間に影響を及ぼし、下降時間及び押圧力が接合強度に影響を及ぼすことが分かる。すなわち、この因果関係モデルでは、下降速度、部品高さ、及び押圧力が制御因子(入力)となり、これに基づいて、下降時間が中間応答(出力)となり、接合強度及び部品段差が最終応答(出力)となる。
【0043】
<2-2-3.予測式の構築>
次に、モデル構築部112は、上記のように構築された因果関係モデルから中間応答及び最終応答の予測式を構築する。本実施形態では、部品1,2の接合において図3Bで示したような異常を予測するために、部品高さ及び下降速度から下降時間を算出する予測式を構築する。このような予測式は、得られた因果関係モデルに基づき、重回帰分析、サポートベタマシン(SVM)などで構築することができる。本実施形態では、予測式として、例えば、以下の式(1)を構築することができる。
下降時間=0.52*部品高さ-0.7*下降速度+0.03 (1)
【0044】
この予測式を図示すると、図7のようになる。これ以外に、接合強度及び部品段差の予測式を構築することもできる。すなわち、中間応答及び最終応答の全てについて予測式を構築することができる。
【0045】
<2-2-4.予測範囲の規定>
次に、正常時の下降時間の統計的な分布を算出する。これが予測範囲となる。例えば、得られた予測式から規定できる分布(信頼区間)、及びデータのばらつきを考慮した分布(例えば、3σ)により予測区間を規定することができる。ここでは、一例として、95%の予測区間を用いる。例えば、部品高さが0.6mm、下降速度が0.03mm/sであるときの下降時間の予測値は、上記予測式(1)より0.321sであるため、95%予測区間は0.163~0.479となる。図8は、この予測範囲を示した図である。また、上記と同様に、中間応答及び最終応答の全て(本実施形態では接合強度及び部品段差)について予測範囲を規定することができる。このように、予測範囲は、予測式のばらつきとデータのばらつきとのセットで規定することかできる。
【0046】
<2-2-5.異常の判定>
続いて、異常判定部113は、接合機構に異常が考えられるときに抽出された動作状態データから算出された特徴量から、異常の判定を行う。例えば、下降時間が異常であるか否かを判定するには、得られた部品高さ及び下降速度に対応する下降速度が、上記のように規定された予測範囲に入っているか否かを判定する。例えば、図9に示すように、部品高さが0.6mm、下降速度が0.03mm/sときの実測された下降時間が0.085sである場合、この下降時間は上記の予測範囲外であるため、異常が発生したと判定する。また、上記と同様に、中間応答及び最終応答の全て(本実施形態では接合強度及び部品段差)についても異常の判定を行う。このように、異常の判定は、1点のデータに基づいて行うことができる。
【0047】
<2-2-6.乖離度の算出>
次に、各特徴量について、どの程度の異常が発生しているかを判断するために、乖離算出部114により、乖離度の算出を行う。例えば、予測値からの差分の割合により乖離度を求めることができる。すなわち、上述した数値から、(予測値(0.321)-実測値(0.085))/予測値(0.321)=-0.74を乖離度とすることができる。また、例えば、接合強度に異常があると判定された場合にも同様に乖離度を算出する。こうして算出された乖離度は、例えば、図10に示すように、リストとして表示装置2に表示することができる。
【0048】
以上のように、異常の判定が行われ、異常が発生していることが確認できれば、これに基づいて、異常の発生原因を検討する。例えば、上記のように下降時間が予測値よりも短い場合には、図3のような異常が考えられる。なお、実測値が予測範囲外であったとしても、直ちに異常と判定せず、乖離度に基づいて異常を判定することもできる。
【0049】
<3.特徴>
(1)上記のように因果関係モデル、予測式、予測範囲を構築するため、非熟練者等でなくても、生産設備において生じ得る異常に関連する因子を容易に特定することができる。
【0050】
(2)本実施形態によれば、異常の判定を予測範囲を構築することで行っているため、例えば、異常時の因果関係モデル等を構築することなく、異常の判定を行うことができる。すなわち、上記のように、異常が発生していると考えられる場合の特徴量を抽出することで、異常の発生を判定することかできる。そのため、例えば、異常時の因果関係モデル等を構築するためのデータ取得のために、生産設備3を停止する必要が無い。特に、本実施形態では、異常が発生したと考えられる1のタイミングで抽出されたデータ(1点のデータ)を用いても異常の判定を行うことができるため、異常の判定のために要するコストや負荷を低減することができる。
【0051】
(3)異常が発生したと考えられる場合、各特徴量の乖離度を算出するため、どの程度の異常が発生しているかの判断を容易に行うことができる。また、この中間応答または最終応答とともに乖離度を表示することで、異常の発生を容易に視認することができる。
【0052】
<4.変形例>
以上、本発明の実施の形態を詳細に説明してきたが、前述までの説明はあらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。例えば、以下のような変更が可能である。なお、以下では、上記実施形態と同様の構成要素に関しては同様の符号を用い、上記実施形態と同様の点については、適宜説明を省略した。以下の変形例は適宜組み合わせ可能である。
【0053】
<4-1>
上記実施形態では、部品1,2を接合する工程で発生する異常の判定を例としたが、あくまでも一例であり、その他の工程に適用できることは言うまでもない。
【0054】
<4-2>
上記実施形態では、量的データを動作状態データとし、これに基づいて特徴量を算出したが、例えば、動作状態データ126をセンサのon/offなどの質的データとすることもできる。すなわち、各フレーム内の「on」時間、「off」時間、Duty比、「on」回数、「off」回数、等を特徴量として算出してもよい。
【0055】
<4-3>
動作状態データ126の収集から特徴量の値の算出までの処理は、異常判定装置1ではなく、生産設備3またはそれを制御する各種の装置で行うようにしてもよい。
【0056】
<4-4>
上記実施形態では、異常が考えられる場合に一組(1点)の特徴量から異常の判定を行っているが、複数のタイミングにおいて抽出された動作状態データ126から特徴量を算出し、これらを総合的に用いることで、異常を判定することができる。例えば複数のタイミングから算出された特徴量の平均を用いるなどすることができる。
【0057】
<4-5>
上記実施形態では、表示装置2に判定の結果を表示しているが、表示装置2への表示以外の方法で判定結果を通知することもできる。例えば、音声や光等による報知で異常の発生を通知することができる。また、乖離度の通知は必ずしも必要ではなく、異常のあった因子のみを通知したり、あるいは判定のみを行い、生産後など、事後的に判定の結果を検討することもできる。
【符号の説明】
【0058】
1…異常判定装置、
11…制御部
12…記憶部、
3…生産設備
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10