(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183927
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】潤滑剤供給体及び潤滑剤供給体を備えた直動案内装置
(51)【国際特許分類】
F16C 29/06 20060101AFI20231221BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20231221BHJP
F16N 9/04 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
F16C29/06
F16C33/66 Z
F16N9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097740
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183357
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義美
(72)【発明者】
【氏名】筒井 燦
(72)【発明者】
【氏名】中川 匠
【テーマコード(参考)】
3J104
3J701
【Fターム(参考)】
3J104AA03
3J104AA65
3J104AA69
3J104AA74
3J104AA76
3J104CA23
3J104CA24
3J104CA35
3J104DA05
3J104EA10
3J701AA02
3J701AA42
3J701AA64
3J701AA72
3J701CA14
3J701EA63
3J701EA67
3J701EA76
3J701FA32
3J701GA60
(57)【要約】
【課題】スライダの摺動により潤滑剤を確実にレールに供給し、長期の潤滑維持を図ることを可能とした潤滑剤供給体、及びその潤滑剤供給体を備えた直動案内装置を提供する。
【解決手段】案内レール1に沿って軸方向L1に直進移動するスライダ5の端部5aに備えられ、案内レール1の転動体転動溝3に接して潤滑剤を供給する潤滑剤供給体13であって、少なくとも一部が隣接して配設されている潤滑剤含有ポリマ部材23と合成樹脂繊維部材19とを含み、潤滑剤含有ポリマ部材23と合成樹脂繊維部材19とは、少なくとも一部が転動体転動溝3に接しており、合成樹脂繊維部材19は、潤滑剤含有ポリマ部材23の外周を覆うようにフランジ部21が備えられており、スライダ5の移動方向と直交する方向において、合成樹脂繊維部材19のフランジ部内周21bは、潤滑剤含有ポリマ部材23の外周23bよりも小さく構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に直進移動する直動体の端部に備えられ、潤滑部位に接して潤滑剤を供給する潤滑剤供給体であって、
少なくとも一部が隣接して配設されている潤滑剤含有ポリマ部材と合成樹脂繊維部材とを含み、
前記潤滑剤含有ポリマ部材と前記合成樹脂繊維部材とは、それぞれの少なくとも一部が前記潤滑部位に接しており、
前記合成樹脂繊維部材は、前記潤滑剤含有ポリマ部材の外周を覆うようにフランジ部が備えられており、
前記直動体の移動方向と直交する方向において、前記合成樹脂繊維部材のフランジ部内周は、前記潤滑剤含有ポリマ部材の外周よりも小さく構成されていることを特徴とする潤滑剤供給体
【請求項2】
前記合成樹脂繊維部材は、初期に潤滑剤を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の潤滑剤供給体。
【請求項3】
前記合成樹脂繊維部材は、初期に潤滑剤を含んでいないことを特徴とする請求項1に記載の潤滑剤供給体。
【請求項4】
前記潤滑剤含有ポリマ部材と前記合成樹脂繊維部材とは、ケースに収容されていることを特徴とする請求項2に記載の潤滑剤供給体。
【請求項5】
前記潤滑剤含有ポリマ部材と前記合成樹脂繊維部材とは、ケースに収容されていることを特徴とする請求項3に記載の潤滑剤供給体。
【請求項6】
軸方向に延びる転動体転動溝を有する案内レールと、前記案内レールの前記転動体転動溝に対向する転動体転動溝を有すると共に前記案内レールに跨設されて軸方向に相対移動可能なスライダと、前記双方の転動体転動溝間に転動自在に組み込まれた転動体と、前記スライダの軸方向端部に取り付けられると共に、前記案内レールの転動体転動溝に摺接して潤滑剤を供給する潤滑剤供給体と、前記潤滑剤供給体を、前記スライダと共に挟持して配されるシール材と、を含み、
前記潤滑剤供給体が、請求項1乃至5のいずれかに記載の潤滑剤供給体であることを特徴とする直動案内装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動案内装置に備えられる潤滑剤供給体の改良、及びその潤滑剤供給体を備えた直動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直動案内装置は、例えば、軸方向に延びる案内レールと、案内レールに跨設されるとともに、軸方向に相対移動するスライダと、を含んで構成されている。案内レールの両側面には、それぞれ軸方向に延びる転動体転動溝が形成されており、スライダのスライダ本体には、その両袖部の内側面に、案内レール側の転動体転動溝に対向する転動体転動溝がそれぞれ形成されている。そして、それらの対向する両転動体転動溝間には、多数のボール(転動体)が転動自在に組み込まれており、これら多数のボールの転動を介してスライダが案内レール上を軸方向に相対移動する。
【0003】
特許文献1は、外郭層内部に潤滑剤を貯蔵・再補給可能な潤滑剤保持層を有する潤滑剤供給体について提案している。
外郭層は、潤滑剤含有ポリマからなり、少なくとも一部が潤滑部位に接触している。外郭層内部に設けた凹部には、グリース、若しくは潤滑油を吸収させた再補給可能な合成樹脂繊維からなるニードルフェルトを充填している。
しかし、特許文献1において、ニードルフェルトは、レールと接触しておらず、レールへの潤滑剤塗布の機能を持たない。
また、長期間の使用を目的とした場合、潤滑剤再補給のため機械の停止が必要とされる。
【0004】
また、特許文献2は、潤滑剤を含有する多孔質の樹脂材から形成され、転動体転動溝に摺接して潤滑剤を供給する潤滑剤供給部材を有し、その外面側に重ね合わせて配置された複数のシール材を備えている。このシール材の材質としてフェルト材が採用されている。
しかし、このフェルト材はシール形状を想定しており、潤滑剤含有ポリマ部材をレールへ押し付ける機能を持っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-036814号公報
【特許文献2】特開2005-337407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は従来技術の有するこのような問題点を解決するためになされたものであり、その課題とするところは、スライダの摺動により潤滑剤を確実にレールに供給し、長期の潤滑維持を図ることを可能とした潤滑剤供給体、及びその潤滑剤供給体を備えた直動案内装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、第1の本発明は、軸方向に直進移動する直動体の端部に備えられ、潤滑部位に接して潤滑剤を供給する潤滑剤供給体であって、
少なくとも一部が隣接して配設されている潤滑剤含有ポリマ部材と合成樹脂繊維部材とを含み、
前記潤滑剤含有ポリマ部材と前記合成樹脂繊維部材とは、それぞれの少なくとも一部が前記潤滑部位に接しており、
前記合成樹脂繊維部材は、前記潤滑剤含有ポリマ部材の外周を覆うようにフランジ部が備えられており、
前記直動体の移動方向と直交する方向において、前記合成樹脂繊維部材のフランジ部内周は、前記潤滑剤含有ポリマ部材の外周よりも小さく構成されていることを特徴とする潤滑剤供給体としたことである。
【0008】
第2の本発明は、第1の本発明において、前記合成樹脂繊維部材は、初期に潤滑剤を含んでいることを特徴とする潤滑剤供給体としたことである。
【0009】
第3の本発明は、第1の本発明において、前記合成樹脂繊維部材は、初期に潤滑剤を含んでいないことを特徴とする潤滑剤供給体としたことである。
【0010】
第4の本発明は、第2の本発明において、前記潤滑剤含有ポリマ部材と前記合成樹脂繊維部材とは、ケースに収容されていることを特徴とする潤滑剤供給体としたことである。
【0011】
第5の本発明は、第3の本発明において、前記潤滑剤含有ポリマ部材と前記合成樹脂繊維部材とは、ケースに収容されていることを特徴とする潤滑剤供給体としたことである。
【0012】
第6の本発明は、軸方向に延びる転動体転動溝を有する案内レールと、前記案内レールの前記転動体転動溝に対向する転動体転動溝を有すると共に前記案内レールに跨設されて軸方向に相対移動可能なスライダと、前記双方の転動体転動溝間に転動自在に組み込まれた転動体と、前記スライダの軸方向端部に取り付けられると共に、前記案内レールの転動体転動溝に摺接して潤滑剤を供給する潤滑剤供給体と、前記潤滑剤供給体を、前記スライダと共に挟持して配されるシール材と、を含み、
前記潤滑剤供給体が、第1の本発明乃至第5の本発明のいずれかに記載の潤滑剤供給体であることを特徴とする直動案内装置としたことである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、スライダの摺動により潤滑剤を確実にレールに供給し、長期の潤滑維持を図ることを可能とした潤滑剤供給体、及びその潤滑剤供給体を備えた直動案内装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の潤滑剤供給体を備えた直動案内装置の一実施形態を示す概略側面図である。
【
図2】本発明の潤滑剤供給体の第一実施形態を示す概略正面図である。
【
図3】本発明の潤滑剤供給体の第一実施形態を含むスライダの一部を拡大して示す概略断面図である。
【
図4】本発明の第三実施形態の潤滑剤供給体を示す概略正面図である。
【
図5】本発明の第三実施形態の潤滑剤供給体を含むスライダの一部を拡大して示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
なお、本実施形態は本発明の一実施形態に過ぎず、何等限定解釈されるものではなく、本発明の範囲内で適宜設計変更可能である。
「第一実施形態」
【0016】
本実施形態では、例えば、
図1に示す直動案内装置を想定している。
直動案内装置は、軸方向に延びる第一の転動体転動溝3を有する案内レール1と、案内レール1の第一の転動体転動溝3に対向する図示しない第二の転動体転動溝を有すると共に案内レール1に跨設されて軸方向(図中L1の方向)に相対移動可能な断面視で略コの字状のスライダ5と、第一の転動体転動溝3と第二の転動体転動溝との間に転動自在に組み込まれた多数の転動体(不図示)と、スライダ5の軸方向端部に取り付けられると共に、案内レール1の第一の転動体転動溝3に摺接して潤滑剤を供給する断面視で略コの字状の潤滑剤供給体13と、潤滑剤供給体13を、スライダ5と共に挟持して配される断面視で略コの字状のシール材(サイドシール)9と、を含んで構成している。また、スライダ5の軸方向端部5aには、断面視で略コの字状のエンドキャップ11が備えられている。なお、スライダ5、エンドキャップ11、潤滑剤供給体13及びサイドシール9の断面視で略コの字状の形状は略同一の形状に構成されている。
本発明は、潤滑剤供給体13に特徴的な構成を有しており、案内レール1、スライダ5、サイドシール9、エンドキャップ11は周知の構成が本発明の範囲内で採用可能であるため、ここでの詳細な説明は省略し、以下では本発明の特徴的構成要素である潤滑剤供給体13について詳細に説明する。
【0017】
潤滑剤供給体13は、サイドシール9とエンドキャップ11との間に挟持された状態で配設されており、サイドシール9及びエンドキャップ11と同一大きさの外形に形成されたケース15内に、合成樹脂繊維材(フェルト部材)19と潤滑剤含有ポリマ部材23とが隣接して配設されて構成されている(
図2及び
図3参照。)。
【0018】
ケース15は、スライダ5、サイドシール9及びエンドキャップ11と略同形状の断面視で略コの字状に形成されており、上端面、下端面、及び左右端面から、エンドキャップ方向(軸方向L1)に向けて所定長さのフランジ部17を突設している。
【0019】
フェルト部材19は、ケース15内面に密着して備えられる断面視略コの字状に形成されている。フェルト部材19は、上端面、下端面、及び左右端面から、エンドキャップ方向(軸方向L1)に向けて所定長さのフランジ部21を突設している。フランジ部21のそれぞれの端面21aは、ケース15のそれぞれのフランジ部17の端面17aと面一になるように配設されている(
図3参照。)。
すなわち、フェルト部材19は、そのフランジ部21により、潤滑剤含有ポリマ部材23の外周から軸方向外側へ、潤滑剤含有ポリマ部材23を覆うように配設され、少なくとも一部が案内レール1の転動体転動溝3に接触している。フェルト部材19は、ケース15と潤滑剤含有ポリマ部材23との間に配設されている。
また、本実施形態においてフェルト部材19には潤滑剤を含ませている。
【0020】
潤滑剤含有ポリマ部材23は、潤滑剤と樹脂を混合した原料を、樹脂の融点以上で加熱して可塑化し、所定の形状に成形後冷却して固形化したものである。これが、フェルト部材19の内面に密着して備えられる断面視略コの字状に形成され、フェルト部材19の内面に密着するとともに、ケース15及びフェルト部材19のそれぞれのフランジ部端面17a,21aと面一になるように配設されている。
そして、潤滑剤含有ポリマ部材23の少なくとも一部は案内レール1の転動体転動溝3と接触している。
【0021】
フェルト部材19の内周、本実施形態ではフランジ部21の内周21bは、潤滑剤含有ポリマ部材23の外周23bよりも小さく形成されている。
このように、フェルト部材19のフランジ部21の内周21bは、潤滑剤含有ポリマ部材23の外周23bよりも小さく形成しているため、ケース15とフェルト部材19を組み合わせた際に、フェルト部材19が潤滑剤含有ポリマ部材23を外周から案内レール1に押し付けることとなるため、安定した案内レール1への接触が実現できる(
図2中、矢印Pは押し付け方向を示す。)。
【0022】
本実施形態によれば、フェルト部材19は、隣接している潤滑剤含有ポリマ部材23から初期に放出された潤滑剤を回収し、保持した潤滑剤を摺動により案内レール1に供給できるため、余分に放出された潤滑剤を回収・再供給することにより機械を停止することなく長期の潤滑維持を実現できる。
また、フェルト部材19に前もって潤滑剤を含ませていることで、案内レール1・潤滑剤含有ポリマ部材23から過度に潤滑剤を回収しないように抑制している。
「第二実施形態」
【0023】
本実施形態の潤滑剤供給体13は、全体的な構成は
図1乃至
図3に示す第一実施形態と同じであるが、フェルト部材19には、前もって潤滑剤を含ませていない点で第一実施形態と相違している。
これにより、初期に潤滑剤が大量に放出され、無駄になってしまう環境下で、多くの潤滑剤を回収できる。
なお、その他の構成及び作用効果にあっては第一実施形態と同じであるため、第一実施形態の説明を援用し、ここでの詳細な説明は省略する。
「第三実施形態」
【0024】
本実施形態の潤滑剤供給体13は、フェルト部材19がケース15の役割を持ち、ケース15を含まない形態としている(
図4及び
図5)。
なお、その他の構成及び作用効果にあっては第一実施形態あるいは第二実施形態と同じであるため、第一実施形態あるいは第二実施形態の説明を援用し、ここでの詳細な説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、リニアガイド装置に限らず、直動案内装置全般に利用可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 案内レール
3 転動体転動溝(潤滑部位)
5 スライダ(直動体)
9 サイドシール
11 エンドキャップ
13 潤滑剤供給体
15 ケース
17 フランジ部
19 フェルト部材(合成樹脂繊維材)
21 フランジ部
21b 内周
23 潤滑剤含有ポリマ部材
23b外周