(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183936
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】目標検出装置およびレーダ装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/295 20060101AFI20231221BHJP
G01S 13/937 20200101ALI20231221BHJP
【FI】
G01S7/295
G01S13/937
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097753
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】土屋 廣憲
(72)【発明者】
【氏名】堀内 亮太
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB01
5J070AC02
5J070AC13
5J070AD01
5J070AF05
5J070AH31
5J070AK40
(57)【要約】
【課題】目標の誤検出を抑制し、かつ、処理負荷を低減することが可能な目標検出装置およびレーダ装置を提供する。
【解決手段】アンテナ2の1スキャン分の回転を複数のセクタに分割し、セクタごとに、セクタ内の複数のスイープデータが配列されたセクタデータを生成するセクタデータ生成部91と、セクタごとに順次に、セクタデータから目標を検出する検出処理部92とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナを回転させながらパルス状のレーダ波を送信し、前記レーダ波が反射されたエコーを受信するスイープ処理を繰り返すレーダ装置に用いられ、前記エコーに基づいて生成されたスイープデータから目標を検出する目標検出装置であって、
前記アンテナの1スキャン分の回転を複数のセクタに分割し、前記セクタごとに、前記セクタ内の複数の前記スイープデータが配列されたセクタデータを生成するセクタデータ生成手段と、
前記セクタごとに順次に、前記セクタデータから前記目標を検出する検出処理手段と、
を備えることを特徴とする目標検出装置。
【請求項2】
前記検出処理手段は、
前記複数のセクタのうち、前記目標の検出が先に行なわれる前セクタと、前記前セクタに隣接し、前記前セクタの次に前記目標の検出が行なわれる次セクタとの境界上に前記目標が存在するか否かを、前記前セクタの検出結果に基づいて判定し、
前記境界上に前記目標が存在すると判定した場合には、前記前セクタの境界付近の前記スイープデータと、前記次セクタの前記セクタデータとに基づいて、前記境界上の前記目標を検出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の目標検出装置。
【請求項3】
前記セクタデータは、前記スイープデータが前記アンテナからの距離に基づいて複数のセルに区画され、前記スイープデータが取得順に配列されて複数の前記セルがマトリクス状に配列された直交座標系を示しており、
前記検出処理手段は、
前記セルから前記エコーの信号強度を示すセルデータを読み出し、前記セルデータが所定値以上である目標セルを検出し、検出された前記目標セルのうち、互いに隣接する前記目標セルに対して同一の識別ラベルを付与するラベリング処理と、
前記同一の識別ラベルが付与されている前記目標セルの集合を前記目標として、前記目標の重心位置を算出する重心位置算出処理と、を実行し、
前記ラベリング処理において、前記前セクタと前記次セクタとの境界に配列された前記前セクタの最終スイープデータから前記目標セルが検出された場合には、
前記最終スイープデータと、前記最終スイープデータの前記目標セルと同一の識別ラベルが付与されている前記目標セルについては、前記前セクタでの前記重心位置算出処理に用いずに継続処理データとして一時記憶し、
前記次セクタにおいて、前記最終スイープデータと、前記次セクタのセクタデータとに基づいて前記ラベリング処理を実行し、
前記次セクタにおいて検出された、前記最終スイープデータの前記目標セルと同一の識別ラベルが付与されている前記目標セルと、前記継続処理データとに基づいて、前記重心位置算出処理を実行する、
ことを特徴とする請求項2に記載の目標検出装置。
【請求項4】
アンテナを回転させながらパルス状のレーダ波を送信し、前記レーダ波が反射されたエコーを受信するスイープ処理を繰り返すレーダ装置であって、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の目標検出装置を備える、
ことを特徴とするレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ波が反射されたエコーに基づいて目標の検出を行なう目標検出装置およびレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶などに搭載されるレーダ装置は、自船の全周方向にレーダ波を送信し、目標によって反射されたレーダ波のエコーをアンテナによって受信し、受信したエコーに基づいて目標の位置(方位および距離)を検出する。より具体的には、アンテナが水平面内で回転する間に、レーダ波としてパルス状の電波を送信し、レーダ波が反射されたエコーを受信するスイープ処理を繰り返し行なう。そして、各スイープ処理で受信したエコーに基づいてアナログのエコー信号を生成し、生成されたエコー信号をデジタルのスイープデータに逐次変換することにより、全周方向(1スキャン分)のスイープデータを得ることができる。
【0003】
従来のレーダ装置には、各スイープデータに基づいて目標の検出を行なうものがある。また、従来のレーダ装置には、1スキャン中に得られた多数のスイープデータに基づいて目標の検出を行なうものもある。例えば、特許文献1に記載されているレーダ装置では、
図10に示すように、横方向に延びるスイープデータを取得順に縦方向に複数配列し、アンテナからの距離Rおよび方位θを直交座標系によって示すスキャンデータを生成する。各スイープデータは、アンテナからの距離に基づいて複数のセルに区分けされており、各セルにはエコー信号の信号強度を示すセルデータが格納されている。このレーダ装置では、このようなスキャンデータにおいて、エコー信号の信号強度が所定値以上のセル(図中、破線で示す)を検出し、検出されたセルの集合を1つの目標として検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、各スイープデータに基づいて目標を検出するレーダ装置では、単一の目標を異なる複数の目標として検出してしまうことがある。このような誤検出が発生すると、単一の目標がレーダ画面上に複数の異なる目標として表示され、追尾されてしまう。また、1スキャン中に得られる多数のスイープデータに基づいて目標を検出する場合、その処理にかかる負荷が非常に大きくなるという問題があった。
【0006】
そこで本発明は、目標の誤検出を抑制し、かつ、処理負荷を低減することが可能な目標検出装置およびレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、アンテナを回転させながらパルス状のレーダ波を送信し、前記レーダ波が反射されたエコーを受信するスイープ処理を繰り返すレーダ装置に用いられ、前記エコーに基づいて生成されたスイープデータから目標を検出する目標検出装置であって、前記アンテナの1スキャン分の回転を複数のセクタに分割し、前記セクタごとに、前記セクタ内の複数の前記スイープデータが配列されたセクタデータを生成するセクタデータ生成手段と、前記セクタごとに順次に、前記セクタデータから前記目標を検出する検出処理手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の目標検出装置において、前記検出処理手段は、前記複数のセクタのうち、前記目標の検出が先に行なわれる前セクタと、前記前セクタに隣接し、前記前セクタの次に前記目標の検出が行なわれる次セクタとの境界上に前記目標が存在するか否かを、前記前セクタの検出結果に基づいて判定し、前記境界上に前記目標が存在すると判定した場合には、前記前セクタの境界付近の前記スイープデータと、前記次セクタの前記セクタデータとに基づいて、前記境界上の前記目標を検出する、ことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の目標検出装置において、前記セクタデータは、前記スイープデータが前記アンテナからの距離に基づいて複数のセルに区画され、前記スイープデータが取得順に配列されて複数の前記セルがマトリクス状に配列された直交座標系を示しており、前記検出処理手段は、前記セルから前記エコーの信号強度を示すセルデータを読み出し、前記セルデータが所定値以上である目標セルを検出し、検出された前記目標セルのうち、互いに隣接する前記目標セルに対して同一の識別ラベルを付与するラベリング処理と、前記同一の識別ラベルが付与されている前記目標セルの集合を前記目標として、前記目標の重心位置を算出する重心位置算出処理と、を実行し、前記ラベリング処理において、前記前セクタと前記次セクタとの境界に配列された前記前セクタの最終スイープデータから前記目標セルが検出された場合には、前記最終スイープデータと、前記最終スイープデータの前記目標セルと同一の識別ラベルが付与されている前記目標セルについては、前記前セクタでの前記重心位置算出処理に用いずに継続処理データとして一時記憶し、前記次セクタにおいて、前記最終スイープデータと、前記次セクタのセクタデータとに基づいて前記ラベリング処理を実行し、前記次セクタにおいて検出された、前記最終スイープデータの前記目標セルと同一の識別ラベルが付与されている前記目標セルと、前記継続処理データとに基づいて、前記重心位置算出処理を実行する、ことを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、アンテナを回転させながらパルス状のレーダ波を送信し、前記レーダ波が反射されたエコーを受信するスイープ処理を繰り返すレーダ装置であって、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の目標検出装置を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1および請求項4に記載の発明によれば、アンテナの1スキャン分の回転を複数のセクタに分割し、セクタごとに目標を検出するので、スイープデータごとに目標を検出する従来のレーダ装置と比べ、単一の目標を異なる複数の目標として検出するような誤検出を抑制することが可能である。また、各セクタのセクタデータごとに目標を検出するので、アンテナ1回転分のスキャンデータから目標を検出する場合に比べ、処理負荷を低減することが可能である。
【0012】
請求項2および請求項2を引用する請求項4に記載の発明によれば、隣接する前セクタと次セクタとの境界上に目標が存在するか否かを判定し、境界上に目標が存在すると判定した場合には、前セクタの境界付近のスイープデータと、次セクタのセクタデータとに基づいて境界上の目標を検出するので、セクタ間の境界上に存在する単一の目標が、異なる複数の目標として検出されるのを抑制することが可能である。
【0013】
請求項3および請求項3を引用する請求項4に記載の発明によれば、前セクタと次セクタとの境界に配列された前セクタの最終スイープデータから目標セルが検出された場合に、前セクタと次セクタとの境界上に目標が存在すると判定することが可能である。また、前セクタと次セクタとの境界上に目標が存在すると判定した場合には、前セクタでは境界上の目標について重心位置算出処理を行なわないので、境界上の単一の目標が、前セクタと次セクタとで異なる目標として検出されるのを抑制することが可能である。さらに、次セクタのセクタデータと、前セクタの最終スイープデータとに基づいてセクタ間のラベリング処理を行い、次セクタで同一の識別ラベルが付与された目標セルと、前セクタの継続処理データとを用いて重心位置算出処理を行なうので、境界上に存在する目標を適切に検出して重心位置を算出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】この発明の実施の形態に係るレーダ装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】レーダ波の1スイープ、セクタおよび1スキャンの説明図である。
【
図3】セクタデータにラベリング処理および再ラベリング処理を施した状態を示す図である。
【
図4】セクタデータに重心位置算出処理を施す手順を示す図である。
【
図5】セクタ間の境界上に目標が存在する状態を示す図である。
【
図6】境界上に目標が存在する前セクタのセクタデータを示す図である。
【
図7】前セクタの最終スイープデータにラベルの振り直しを行なっている状態を示す図である。
【
図8】次セクタのセクタデータにセクタ間ラベリング処理を行なっている状態を示す図である。
【
図9】目標検出の手順を示すフローチャートである。
【
図10】従来の1スキャン分のスイープデータから目標検出を行なう状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0016】
図1は、この発明の実施の形態に係るレーダ装置1の概略構成を示すブロック図である。レーダ装置1は、例えば、船舶に搭載されており、アンテナ2と、送受信部3と、A/D変換部4と、信号処理部5と、スイープデータ記憶部6と、表示制御部7と、表示部8と、目標検出部(目標検出装置)9と、を備えている。
【0017】
アンテナ2は、水平面内で回転しながらパルス状のレーダ波を送信し、目標にて反射されたレーダ波のエコーを受信するスイープ処理を繰り返す。送受信部3は、アンテナ2から送信するレーダ波を発生してアンテナ2に入力する。また、送受信部3は、アンテナ2によって受信したエコーを検波して増幅し、アナログのエコー信号を生成する。
【0018】
A/D変換部4は、送受信部3から出力されたエコー信号をA/D変換してデジタルのスイープデータを生成する。信号処理部5は、A/D変換部4から出力されたスイープデータに対し、海面反射、陸地反射、雨雪の反射などによる不要なエコー(クラッタ)の除去を含む信号処理を行なう。また、信号処理部5は、方位θおよび距離Rによって示される極座標系のスイープデータを直交座標系に変換する。
【0019】
スイープデータ記憶部6は、信号処理部5から出力された1スイープ分のスイープデータを記憶し、次のスイープ処理が実行されて新たなスイープデータが入力されるまで、この1スイープ分のスイープデータを表示制御部7および目標検出部9に出力する。目標検出部9は、スイープデータに基づいて目標を検出し、その検出結果を表示制御部7へ出力する。
【0020】
表示制御部7は、1スキャン分のスイープデータに基づいて、ラスタ形式のレーダ画像を生成する。また、表示制御部7は、目標検出部9の目標検出結果に基づいて、目標識別用グラフィック画像などを生成する。なお、目標識別用グラフィック画像は、目標検出部9により検出された目標の識別名などを表示するためのグラフィック画像であり、レーダ画像に重畳して表示される。表示部8は、表示制御部7によって生成されたレーダ画像およびグラフィック画像などを表示する機能を備えた表示器であり、例えば液晶ディスプレイによって構成される。
【0021】
目標検出部9は、セクタデータ生成部(セクタデータ生成手段)91と、検出処理部(検出処理手段)92と、を備えている。セクタデータ生成部91は、スイープデータ記憶部6から出力された1セクタ分のスイープデータに基づいて、セクタデータを生成する。
【0022】
ここで、
図2に示すように、アンテナ2によるレーダ波の送信からエコーの受信までの1回の送受信を1スイープとし、アンテナ2の1回転を1スキャンとした場合、1スキャンには多数のスイープ、すなわち、スイープデータが含まれている。セクタデータ生成部91は、アンテナ2の1スキャン分の回転を複数のセクタ(例えば、セクタS、セクタS+1、セクタS-1など)に分割し、セクタごとに、セクタ内の複数のスイープデータが配列されたセクタデータを生成する。
【0023】
図3(A)の符号91Aは、セクタデータ生成部91により生成されたセクタデータの一例を示している。セクタデータ91Aは、横軸方向に延びるスイープデータSwpが縦軸方向に沿って複数(1セクタ分)配列されている。各スイープデータSwpは、アンテナ2からの距離に基づいて複数のセルCに区分けされており、各セルCにはエコー信号の信号強度を示すセルデータが格納されている。これにより、セクタデータ91Aは、複数のセルCがマトリクス状に配列され、距離R及び方位θが直交座標系によって示されている。なお、セクタデータ91Aの横軸には、各セルCの距離方向の位置を示すデータ数カウンタ値が設定され、セクタデータ91Aの縦軸には、スイープデータSwpの位置(方位)を示すスイープカウンタ値が設定されている。
【0024】
検出処理部92は、セクタごとに順次に、セクタデータから目標を検出する処理を行なう。検出処理部92は、目標を検出するための処理として、ラベリング処理と、重心位置算出処理とを実行する。ラベリング処理は、セクタデータの各セルに対し所定の手順で識別ラベルを付与するための処理である。また、重心位置算出処理は、ラベリング処理によって同一の識別ラベルが付与されたセルの集合を目標として識別し、その目標ごとに面積および重心位置を算出するための処理である。なお、目標の面積は、その目標が他の船舶などであるのか否かを判断するために利用される。また、目標の重心位置は、検出された目標の追尾などに利用される。
【0025】
検出処理部92のラベリング処理では、スイープデータごとにアンテナ2に近い側のセル(データ数カウンタ値「1」)から順にセルデータが読み出され、セルデータが所定値以上のセルは目標セルとして検出され、識別ラベルが付与される。識別ラベルは、例えば「1」から始まる追番である。同じスイープデータ内で複数の目標セルが検出された場合、その目標セル同士が隣接している場合には同じ識別ラベルが付与され、目標セル同士が離れた位置にある場合には、異なる識別番号が付与される。
【0026】
また、隣接するスイープデータ間で隣接する目標セルが検出された場合には、後から検出された目標セルには、先に検出された目標セルと同一の識別ラベルが付与される。なお、目標ラベルがスイープデータ内(横方向)およびスイープデータ間(縦方向)の両方向において、先に検出された目標セルと隣接する場合には、スイープデータ間(縦方向)で隣接する目標セルの識別ラベルが優先して付与される。
【0027】
さらに、上記のような手順でラベリング処理が行なわれた後に、隣接して配置されている目標セルの集合に異なる識別ラベルが付与されている場合には、再ラベリング処理が実行される。この再ラベリング処理では、その集合内の目標セルの識別ラベルが、その集合内で最も多く付与されている識別ラベルに統一される。これにより、同一の目標を示す目標セルには、同じ識別ラベルが付与される。なお、ラベリング処理および再ラベリング処理では、識別ラベルが重複して使用されるのを防ぐために、使用済みの識別ラベルが記憶されるLUT(図示せず)を備えている。
【0028】
例えば、
図3(A)に示すセクタデータ91Aでは、上記のルールにしたがって、データ数カウンタ値およびスイープカウンタ値で示す座標が「8,5」、「4,6」、「8,6」、「9,5」および「8,7」の各セルCが目標セルTcとして検出され、それぞれ「1」または「2」の識別ラベルが付与されている。また、これらの目標セルTcの集合には、異なる識別ラベルが付与されているため、再ラベリング処理が実行され、同図(B)に示すように、同一の集合内の目標セルTcの識別ラベルが「1」に統一されている。これにより、識別ラベル「1」が付与された目標セルTcの集合は、目標Tとして検出される。
【0029】
次に、重心位置算出処理について説明する。
図4(A)は、
図3(B)において再ラベリング処理が施された目標Tに対する重心位置の算出手順を示しており、
図4(B)は、各算出手順における実際の算出内容を示している。
図4(A)、(B)は左側から順に、「ラベリング処理済みデータ」、「モーメント、面積、体積の計算」および「重心の計算」を示している。なお、
図4(A)、(B)では、目標Tの各目標セルTcに対し、a,b,c,d,eの識別符号を付している。
【0030】
「ラベリング処理済みデータ」では、目標Tの各目標セルTcについて、識別ラベルのラベル値(Label)と、データカウンタ値(D_cnt)と、スイープカウンタ値(L_cnt)と、セルデータのデータ値(Data)とが取得される。
【0031】
次の「モーメント、面積、体積の計算」では、目標セルTcごとに、下記の数式(1)~(3)に基づいて、方位方向のモーメント(M_TH)と、距離方向のモーメント(M_R)とが算出され、体積(V)が設定される。体積(V)には、セルデータのデータ値(Data)が用いられる。なお、この重心位置算出処理の説明では、ラベリング処理後に方位方向のモーメント(M_TH)および距離方向のモーメント(M_R)を算出しているが、実際には、ラベリング処理において目標セルを検出する際に、方位方向のモーメント(M_TH)および距離方向のモーメント(M_R)を算出している。
M_TH=L_cnt×Data・・・・・・(1)
M_R=D_cnt×Data・・・・・・・(2)
V=Data・・・・・・・・・・・・・・・(3)
【0032】
「モーメント、面積、体積の計算」では、目標セルTcごとに算出および設定された方位方向モーメント(M_TH)と、距離方向モーメント(M_R)と、体積(V)と、面積(S)とがそれぞれ加算され、目標T全体の総方位方向モーメント(TM_TH)と、総距離方向モーメント(TM_R)と、総体積(TV)と、総面積(TS)とがそれぞれ算出される。なお、総面積(TS)は、目標Tの総セル数である。
【0033】
次の「重心の計算」では、下記の数式(4)、(5)に基づいて、目標Tの方位成分重心位置(G_TH)と、距離成分重心位置(G_R)とが算出される。なお、下記の数式(4)、(5)において、「R1Width」は各セル間の距離を示し、「TH1Width」は1スイープ間隔の角度を示す。重心位置算出処理において算出された目標Tの方位成分重心位置(G_TH)および距離成分重心位置(G_R)は、目標検出部9から表示制御部7に出力される。
G_TH=(TM_TH/TV)×TH1Width・・・・・・(4)
G_R=(TM_R/TV)×R1Width・・・・・・・・・(5)
【0034】
以上で説明したように、セクタごとに目標検出のためのラベリング処理および重心位置算出処理を行なうことにより、スイープデータごとに目標検出を行なう場合に比べ、単一の目標を異なる複数の目標として検出するような誤検出を抑制することが可能である。また、セクタごとに目標を検出するので、アンテナ1回転分のスキャンデータから目標を検出する場合に比べ、処理負荷を低減することが可能である。
【0035】
なお、セクタごとに目標を検出した場合であっても、隣接するセクタ間の境界上に目標が存在する場合には、その同一の目標を異なる複数の目標として誤検出する可能性がある。
図5は、複数のセクタのうち、目標の検出が先に行なわれる前セクタと、前セクタに隣接し、前セクタの次に目標の検出が行なわれる次セクタとの境界上に2つの目標が存在する状態を示している。図中2点鎖線で囲んだ2つの目標は、前セクタと次セクタとでそれぞれ検出され、4つの異なる目標であると誤検出される可能性がある。
【0036】
本実施形態の目標検出部9は、上記のような隣接するセクタ間の境界上に存在する目標を適切に検出するために、前セクタと次セクタとの境界上に目標が存在するか否かを前セクタの検出結果に基づいて判定し、境界上に目標が存在すると判定した場合には、前セクタの境界付近のスイープデータと、次セクタのセクタデータとに基づいて境界上の目標を検出するために、セクタ間ラベリング処理を行なう。以下、このセクタ間ラベリング処理について説明する。
【0037】
図6は、検出処理部92により、ラベリング処理および再ラベリング処理が完了した後の前セクタのセクタデータ91Bと、使用済み識別ラベルが記憶されたLUTを示している。このセクタデータ91Bは、ラベリング処理により目標セルに「1」~「10」までの識別ラベルが付与された後、再ラベリング処理により識別ラベルが「1」、「2」、「7」および「9」に整理された状態を示している。LUTも同様に、ラベリング処理では「1」~「10」の識別ラベルが記憶されていたが、再ラベリング処理後には識別ラベル「3」~「6」、「8」、「10」は削除され、「1」、「2」、「7」および「9」の識別ラベルのみが残っている。
【0038】
検出処理部92は、上記のような前セクタのラベルデータ91Bにおいて、最後に目標セルの検出が行なわれた最終スイープデータSwp-Eから目標セルが検出されている場合に、セクタ間ラベリング処理を実行する。このセクタ間ラベリング処理では、最終スイープデータSwp-Eと、最終スイープデータSwp-Eの目標セルに付与されている識別ラベル(例えば、「7」、「9」)と同一の識別ラベルが付与されている目標セル(
図6において2点鎖線で囲んだ目標セル)については、前セクタでの重心位置算出処理に用いずに、継続処理データとして、図示しない一時記憶メモリに記憶される。この一時記憶メモリには、継続処理データとされた目標セルの関連データとして、方位方向モーメント(M_TH)、距離方向モーメント(M_R)およびセルデータも記憶される。さらに、LUTに記憶されている識別ラベルのうち、最終スイープデータSwp-Eの目標セルに付与されている識別ラベル「7」、「9」は、継続ラベルとして設定される。
【0039】
すなわち、セクタ間ラベリング処理を実行する場合、前セクタのセクタデータ91Bにおいては、最終スイープデータSwp-Eの目標セルとは関連しない識別ラベル「1」、「2」の集合のみについて重心位置算出処理が実行され、識別ラベル「7」、「9」の集合については、重心位置算出処理は実行されない。
【0040】
検出処理部92は、前セクタの最終スイープデータSwp-Eを次セクタのラベリング処理に利用するため、
図7に示すように、目標セルの識別ラベル「7」、「9」を、識別ラベルの開始番号「1」から順に振り直す。また、一時記憶メモリに継続処理データとして記憶されている目標セルの識別ラベルも最終スイープデータSwp-Eの目標セルと同様に「1」、「2」に変更される。さらに、LUTにおいて継続ラベルとして設定された識別ラベル「7」、「9」は、最終スイープデータSwp-Eの目標セルと同様に、識別ラベルが「1」、「2」に変更される。
【0041】
検出処理部92は、
図8に示すように、識別ラベルが振り直された前セクタの最終スイープデータSwp-Eを、次セクタのセクタデータ91Cの開始スイープデータSwp-Sの前に配列してラベリング処理を実行し、その後に再ラベリング処理を実行する。なお、
図8に示す次セクタのセクタデータ91Cは、図面の煩雑さを防ぐために表示列数を少なくしている。
【0042】
次セクタの再ラベリング処理の終了後、検出処理部92は、次セクタにおいて検出された、最終スイープデータSwp-Eの目標セルと同一の識別ラベルが付与されている目標セルと、継続処理データとして記憶されている目標セルおよびその関連データとに基づいて、重心位置算出処理を実行する。これにより、セクタ間の境界上に存在する目標を適切に検出することができる。
【0043】
なお、レーダ装置1の周囲を取り囲むような目標が存在する場合、各セクタの最終スイープデータからは必ず目標セルが検出されるため、セクタ間ラベリング処理は終了しない。そのため、ラベリング処理において、処理されたスイープデータの数をスイープカウンタ値に基づいてカウントし、カウント値が所定値以上となったときにセクタ間ラベリング処理を終了するようにしてもよい。セクタ間ラベリング処理を終了するためにカウントされるスイープ数の最大値としては、1スキャン分のスイープ数とするのが好ましい。
【0044】
次に、上記の実施の形態における目標検出処理の作用について、
図9に示すフローチャートに基づいて説明する。スイープデータ記憶部6は、アンテナ2による1回のレーダ波の送受信に基づいて生成されたスイープデータを目標検出部9へ出力する。目標検出部9のセクタデータ生成部91は、スイープデータ記憶部6から出力された1セクタ分のスイープデータに基づいて、セクタデータを生成する(ステップS1)。
【0045】
目標検出部9の検出処理部92は、セクタごとに順次に、セクタデータから目標を検出する処理を行なう。具体的には、検出処理部92は、セクタデータの各セルから目標セルを検出して識別ラベルを付与するためのラベリング処理(ステップS2)と、付与した識別ラベルを所定の手順で整理する再ラベリング処理(ステップS3)とを実行する。
【0046】
検出処理部92は、再ラベリング処理の完了後に、前セクタの最終スイープデータから目標セルが検出されていない場合には(ステップS4でNO)、再ラベリング処理が完了したセクタデータに対し、目標の面積および重心位置を算出するために重心位置算出処理(ステップS5)を実行する。重心位置算出処理により算出された目標の面積および重心位置は、表示制御部7に出力され、レーダ画像の表示に利用される。
【0047】
また、検出処理部92は、再ラベリング処理の完了後に、前セクタの最終スイープデータから目標セルが検出されていた場合には(ステップS4でYES)、前セクタの境界付近のスイープデータと、次セクタのセクタデータとに基づいて境界上の目標を検出するために、次セクタのセクタデータに対し、セクタ間ラベリング処理(ステップS6)を実行する。検出処理部92は、セクタ間ラベリング処理の完了後、重心位置算出処理(ステップS5)を実行し、算出された目標の面積および重心位置を表示制御部7に出力する。
【0048】
以上で説明したように、本実施の形態にレーダ装置1および目標検出部9によれば、アンテナ2の1スキャン分の回転を複数のセクタに分割し、セクタごとに目標を検出するので、スイープデータごとに目標を検出する従来のレーダ装置と比べ、単一の目標を異なる複数の目標として検出するような誤検出を抑制することが可能である。また、各セクタのセクタデータごとに目標を検出するので、アンテナ1回転分のスキャンデータから目標を検出する場合に比べ、処理負荷を低減することが可能である。
【0049】
また、本実施の形態にレーダ装置1および目標検出部9によれば、隣接する前セクタと次セクタとの境界上に目標が存在するか否かを判定し、境界上に目標が存在すると判定した場合には、前セクタの境界付近のスイープデータと、次セクタのセクタデータとに基づいて境界上の目標を検出するので、セクタ間の境界上に存在する単一の目標が、異なる複数の目標として検出されるのを抑制することが可能である。
【0050】
さらに、本実施の形態にレーダ装置1および目標検出部9によれば、前セクタと次セクタとの境界に配列された前セクタの最終スイープデータSwp-Eから目標セルTcが検出された場合には、前セクタと次セクタとの境界上に目標が存在すると判定することが可能である。また、前セクタと次セクタとの境界上に目標が存在すると判定した場合には、前セクタでは境界上の目標について重心位置算出処理を行なわないので、境界上の単一の目標が、前セクタと次セクタとで異なる目標として検出されるのを抑制することが可能である。さらに、次セクタにおいて、前セクタの最終スイープデータSwp-Eと、次セクタのセクタデータとに基づいてセクタ間ラベリング処理を行なってから重心位置算出処理を行なうので、境界上に存在する目標を適切に検出して重心位置を算出することが可能である。
【0051】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、船舶用のレーダ装置を例に説明したが、レーダ波が走査されるその他のレーダ装置にも適用可能である。
【0052】
1 レーダ装置
2 アンテナ
3 送受信部
4 A/D変換部
5 信号処理部
6 スイープデータ記憶部
7 表示制御部
8 表示部
9 目標検出部(目標検出装置)
91 セクタデータ生成部(セクタデータ生成手段)
92 検出処理部(検出処理手段)