(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183967
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】球状タンクの製造方法および球状タンク
(51)【国際特許分類】
B65D 88/04 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
B65D88/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097813
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】517152450
【氏名又は名称】合同会社イチセイ
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】萩原 一郎
(72)【発明者】
【氏名】趙 希禄
【テーマコード(参考)】
3E170
【Fターム(参考)】
3E170AA04
3E170AB02
3E170AB28
3E170DA01
3E170GB20
3E170KA01
3E170KC01
3E170VA01
(57)【要約】
【課題】従来の方法に比べて、球状のタンクを製造する時間とコストを削減すること。
【解決手段】
複数の五角形状の平板(1)と六角形状の平板(2)とを有し、各五角形状の平板(1)の5つの辺にそれぞれ異なる六角形状の平板(2)の辺が接合されて内部の空間が密閉された多面体(11)であって、平板(1,2)を貫通し且つ多面体(11)内部の密閉空間と多面体(11)の外部とを接続する接続部(6)を有する多面体(11)を作成する多面体作成工程と、接続部(6)を通じて多面体(11)の内部の密閉空間に圧力をかけて、多面体(11)を球状のタンク(21)に変形させる変形工程と、を実行する球状タンクの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の五角形状の平板と六角形状の平板とを有し、各五角形状の平板の5つの辺にそれぞれ異なる六角形状の平板の辺が接合されて内部の空間が密閉された多面体であって、前記平板を貫通し且つ前記多面体内部の密閉空間と前記多面体の外部とを接続する接続部を有する前記多面体を作成する多面体作成工程と、
前記接続部を通じて前記多面体の内部の密閉空間に圧力をかけて、前記多面体を球状のタンクに変形させる変形工程と、
を実行することを特徴とする球状タンクの製造方法。
【請求項2】
前記多面体作成工程で作成された多面体に対して、前記接続部を通じて前記多面体の内部の密閉空間に液体を供給する流体供給工程と、
前記変形工程で前記球状のタンクが作成された後に、前記接続部を通じて前記多面体の内部から流体を排出する排出工程と、
を実行することを特徴とする請求項1に記載の球状タンクの製造方法。
【請求項3】
12枚の正五角形の板が外側に向けて膨らんだ部分球状の部分と、20枚の正六角形の板が外側に向けて膨らんだ部分球状の部分と、を有し、前記正五角形の5つの辺にそれぞれ異なる前記正六角形の辺が接合された球状の外殻と、
前記外殻に設けられ、前記外殻の内部の流体収容空間と前記外殻の外部とを接続する接続部と、
を備えたことを特徴とする球状タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状タンクおよび球状タンクの製造方法に関し、特に、上水や天然ガス、工業ガス等の貯蔵に好適な球状タンクおよび球状タンクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガスや工業ガス等の貯蔵で使用される容器、タンクとして、内圧に対して理論上は理想的な形状である球状のタンクが広く使用されている。
【0003】
図2は、従来の球状タンクの製造方法の説明図である。
図2において、従来の球状のタンクを製造する場合には、まず、工場において、ポンチ01と成形ダイス02を使用する板金プレス方法で、湾曲した薄板鋼板パーツ03を1枚ずつ加工しておく。次に、現場において、円形リング状の位置決め治具04に沿って、湾曲した薄板鋼板パーツ03を順番に溶接していくことによって、最終的に球形タンク06を製造している。
【0004】
特許文献1(実開昭58-177393号公報)には、球殻(4)の外側に、サッカーボール状の五角形と六角形を組み合わせた断熱パネル(6)を磁石で固定する構成が記載されている。
【0005】
特許文献2(特表2012-503747号公報)には、航空機の液体水素の球形タンクとして、硬いシェル(111)の外側に断熱のためのエアロゲル断熱層(113)を設け、エアロゲル断熱層(113)を、粉状のエアロゲルを使用してサッカーボールパターンのタイルを並べた構成とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭58-177393号公報(第2頁第7行-第14行)
【特許文献2】特表2012-503747号公報(「0034」、「0087」)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
(従来技術の問題点)
図2に示す従来技術の製造方法では、加工時間とコストがかかる上に、部品点数が多いため、薄板鋼板パーツ03の部品精度や位置決め治具04の部品精度、組立精度等が重なって、最終的に得られる球状タンクの形状精度を確保することが難しく、精度を確保するには更なる時間とコストがかかる問題がある。
特許文献1,2に記載の技術では、断熱用の部材としてサッカーボール状のパターンの構成を採用することが記載されているが、タンク自体は球状の構成となっている。すなわち、内部に収容されるガスや液体が漏れよりは厳密さが求められない断熱ではサッカーボール状のものを採用可能であるが、タンク自体で使用された事例はない。特に、特許文献2のようにエアロゲルを使用する場合は、鋼板の溶接や曲げ等に比べて、特殊な製造方法が必要となりコストが問題となる。
【0008】
本発明は、従来の方法に比べて、球状のタンクを製造する時間とコストを削減することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明の球状タンクの製造方法は、
複数の五角形状の平板と六角形状の平板とを有し、各五角形状の平板の5つの辺にそれぞれ異なる六角形状の平板の辺が接合されて内部の空間が密閉された多面体であって、前記平板を貫通し且つ前記多面体内部の密閉空間と前記多面体の外部とを接続する接続部を有する前記多面体を作成する多面体作成工程と、
前記接続部を通じて前記多面体の内部の密閉空間に圧力をかけて、前記多面体を球状のタンクに変形させる変形工程と、
を実行することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の球状タンクの製造方法において、
前記多面体作成工程で作成された多面体に対して、前記接続部を通じて前記多面体の内部の密閉空間に液体を供給する流体供給工程と、
前記変形工程で前記球状のタンクが作成された後に、前記接続部を通じて前記多面体の内部から流体を排出する排出工程と、
を実行することを特徴とする。
【0011】
前記技術的課題を解決するために、請求項3に記載の発明の球状タンクは、
12枚の正五角形の板が外側に向けて膨らんだ部分球状の部分と、20枚の正六角形の板が外側に向けて膨らんだ部分球状の部分と、を有し、前記正五角形の5つの辺にそれぞれ異なる前記正六角形の辺が接合された球状の外殻と、
前記外殻に設けられ、前記外殻の内部の流体収容空間と前記外殻の外部とを接続する接続部と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1,3に記載の発明によれば、従来の方法に比べて、球状のタンクを製造する時間とコストを削減することができる。
請求項2に記載の発明によれば、気体を使用して変形工程を行う場合に比べて、事故の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は本発明の球状のタンクの製造方法の説明図である。
【
図2】
図2は従来の球状タンクの製造方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例(以下、実施例と記載する)を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例0015】
図1は本発明の球状のタンクの製造方法の説明図である。
図1において、本発明の実施例1の球状タンクの製造方法では、まず、五角形状の平板1と六角形状の平板2とを複数枚作成する。実施例1の五角形状の平板1は、一辺がaの正五角形の板で構成されている。六角形の平板2は、一辺がaの正六角形の板で構成されている。各平板1,2は、板状の鋼板から、レーザー加工(レーザーカット)やプレス加工等で切り出すことで作成可能である。実施例1では、一例として、五角形の平板1が12枚、六角形の平板2が20枚、作製されている。
【0016】
実施例1では、複数の六角形の平板2の中の1枚に、予め平板2を貫通する貫通孔2aを形成している。そして、貫通孔2aには、接続部の一例としての隔壁ソケット6が支持される。なお、貫通孔2aの形成は、後述の溶接後でも可能である。また、貫通孔2aは、六角形の平板2に形成したが、これに限定されず、五角形の平板1に形成することも可能である。
次に、五角形の平板1の5つの辺にそれぞれ六角形の平板2を接合する(多面体作成工程)。また、隣接する六角形の平板2の辺どうしも接合する。実施例1では、平板1、2の接合は、一例として、テープで仮止めした後に、TIG溶接で溶接を行ったが、これに限定されない。アーク溶接や接着剤等、従来公知の任意の接合方法を採用可能である。この接合により、多角立体状で内部に空間が形成された多面体11が得られる。
【0017】
次に、多面体11の内部の密閉空間に、隔壁ソケット6を介して、流体の一例としての水を供給する(流体供給工程)。なお、実施例1では、水道水を使用し、密閉空間内が水道水で満杯になるまで水道水を供給した。
次に、隔壁ソケット6に水圧ポンプ(図示せず)を接続して、密閉空間内に水圧を加えた(変形工程)。なお、圧力は、平板1,2が塑性変形する程度の圧力を加えればよく、一例として、平板1,2がSUS304のステンレス鋼板で、厚さが1mm、一辺a=100mmの場合では、2.5MPa程度の圧力で十分であった。よって、塑性変形可能な圧力を加えられる従来公知の種々の水圧ポンプを使用可能である。なお、流体として、液体状の水を使用したが、これに限定されない。水以外の液体を使用することも可能であるし、流体の一例としての気体を使用することも可能である。
【0018】
多面体11の密閉空間に圧力(内圧)が加わることで、平板1,2が塑性変形し、球状に膨らんだ形状のタンク21となる。したがって、製造されたタンク21の外殻22は、12枚の正五角形の板(平板1)が外側に向けて膨らんだ部分球状の部分22aと、20枚の正六角形の板(平板2)が外側に向けて膨らんだ部分球状の部分22bと、を有し、正五角形の5つの辺にそれぞれ異なる正六角形の辺が接合された球状に形成されている。
【0019】
次に、隔壁ソケット6を通じて、密閉空間内の水を排出する(排水工程)。実施例1では、一例として、排水用の器具の一例としてのサイフォンポンプを使用して密閉空間内の水を排水した。なお、排水は球状のタンク21の隔壁ソケット6を下に向けて、水を自然落下で排水することも可能である。なお、排水時に内圧が低下し、外殻22が変形する力を受けるが、この時の変形は非常に小さく、排水完了後の弾性復元(スプリングバック)でもとに戻るため、問題ない。
【0020】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1の球状のタンク21は、平板1,2が切り出されて、平板1,2の状態で溶接が行われ、内圧を高めることで塑性変形をして、球状のタンク21が得られている。従来技術では、薄板鋼板パーツ03を1枚1枚湾曲させる加工が必要であったが、実施例1では、平板1,2を切り出す加工だけであり、平板1,2どうしを溶接した後に圧力で変形させている。よって、従来技術に比べて、加工の手間が低減される。また、薄板鋼板パーツ03を湾曲した状態で接合する従来技術では、精度の確保が大変であるが、実施例1では平板1,2の状態で接合しており、従来技術に比べて、精度の確保が容易である。よって、精度確保のために従来技術では必要であったコスト増も抑制される。
【0021】
さらに、実施例1では、内圧をかける前に水を供給している。平板1,2どうしの接合が不十分な箇所があれば、水の漏出で接合不良を容易に確認できる。したがって、湾曲した薄板鋼板パーツ03を接合する従来技術では、接合不良の箇所の確認に時間と手間がかかることに比べて、簡易な方法で変形前に接合不良の確認も可能である。接合不良を確認する別の方法としては、水を供給する前に、内部空間に空気が入った状態で、水槽に多面体11を浸して、接合部分から泡がでるかどうかを確認することで、接合不良の確認を行うことも可能である。
【0022】
また、実施例1では、内圧をかける際に、流体として水(液体)を使用している。流体において、気体は液体に対して圧縮性が高く、圧力をかけた場合の体積変化が気体の方が大きい。気体を使用して変形工程を行った場合、溶接が弱い部分があったり圧力をかけすぎたりして外殻22が破裂する事故が発生する場合がある。圧力がかかった状態で外殻22が破裂すると、圧力が開放された気体の体積変化が爆発的になり、事故の規模が大きくなって、周囲に及ぼす影響が大きくなる恐れがある。これに対して、実施例1では圧縮性が気体に比べて低い液体を使用しており、外殻22が破裂する事故が起きる際でも、液体の体積変化が爆発的になりにくく、事故の規模が抑制される。したがって、気体を使用する場合に比べて、より安全にタンク21を製造することが可能である。特に、実施例1では、液体の一例として水道水を使用しており、コストも抑えられる。
【0023】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)~(H04)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、例示した具体的な材料名やサイズは、設計や仕様等に応じて任意に変更可能である。
(H02)前記実施例において、作製されたタンク21において、隔壁ソケット6をそのまま使用してもよいし、タンク21の用途に応じた別のソケットやバルブに交換することも可能である。
【0024】
(H03)前記実施例において、圧力をかける際に内部空間に供給する流体は、圧縮性の低い液体を使用することが好ましいが、気体を使用することも可能である。
一般に、塑性変形に必要な圧力Pは、半径Rと板厚tに応じて、以下の式で表されることが知られている。
P=2tσs/R
(t:板厚、R:半径、P:圧力、σs:降伏応力)
したがって、板厚(t)が同じ場合、小型(Rが小さい)の方が必要な圧力(P)が高くなる。よって、タンク21が小型の場合は破裂時の影響が大きいため液体(水等)を使うことが好ましい。一方、タンク21が大型の場合は、変形させる際の圧力(P)が小さく、破裂時の影響も比較的小さいことが予想されるため、気体(空気等)を使用することも可能である。
【0025】
(H04)前記実施例において、球状のタンク21は、天然ガスや工業ガスのタンクとして使用することも可能であるが、集合住宅や学校、ビルディング等の給水タンク、給水塔のような上水を内部に収容するタンクとして使用することも可能である。特に、既存の直方体形状の給水タンクは、長さに対する容積の空間効率が、球状の方よりも効率が低く、球状の方が、同じ容量でも小型化が可能である。また、給水タンクは建物の屋上に設置されることが多いが、高層の建物の屋上では強風が吹くことが多い。直方体形状のタンクでは、平面部分で風圧を強く受けやすく、風に対する対策が必要であるが、球状の場合は、球面で風を受け流しやすく、強風に強いことが期待できる。また、直方体状のみでなく球状のタンク21も採用可能であることで、美観やデザインの面でも選択肢を増やすことが可能である。