(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183972
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】アークスタート制御方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/067 20060101AFI20231221BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20231221BHJP
B23K 10/00 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
B23K9/067
B23K9/12 303C
B23K10/00 502C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097818
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】下新原 春菜
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AA01
4E082DA01
4E082EA02
4E082EB02
4E082EB07
4E082EC03
4E082EC13
4E082EE01
4E082EE03
4E082EE07
4E082EE08
4E082EF07
4E082EF16
4E082JA01
4E082JA03
(57)【要約】
【課題】消耗電極式アーク溶接において、溶接開始時に溶接ワイヤと母材との短絡期間が長くなっても、良好なアークスタート性を得ること。
【解決手段】時刻t2に溶接ワイヤと母材とが短絡して溶接電流Iwが通電を開始するとホットスタート期間Thに入り、ホットスタート期間Th中はホットスタート電流Ihを通電すると共にホットスタート期間送給速度Fhで送給し、ホットスタート期間Thが終了すると定常期間に移行するアークスタート制御方法において、時刻t3に短絡の期間が基準時間以上になると溶断抑制期間Tmに入り、溶断抑制期間Tm中は50A程度の溶断抑制電流Imを通電すると共に1.0m/min程度の溶断抑制期間送給速度Fmで送給し、溶断抑制期間Tm中の時刻t4にアークが発生すると定常期間に移行する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接電源に溶接開始信号が入力されると前記溶接電源の出力及び溶接ワイヤの送給を開始し、前記溶接ワイヤと母材とが短絡して溶接電流が通電を開始するとホットスタート期間に入り、前記ホットスタート期間中はホットスタート電流を通電すると共に前記溶接ワイヤを定常送給速度よりも小さな値のホットスタート期間送給速度で送給し、前記ホットスタート期間が終了すると定常期間に移行するアークスタート制御方法において、
前記短絡の期間が基準時間以上になると溶断抑制期間に入り、前記溶断抑制期間中は前記ホットスタート電流よりも小さな値の溶断抑制電流を通電すると共に前記溶接ワイヤを前記ホットスタート期間送給速度よりも小さな値の溶断抑制期間送給速度で送給し、
前記溶断抑制期間中にアークが発生すると前記定常期間に移行する、
ことを特徴とするアークスタート制御方法。
【請求項2】
前記溶断抑制電流を100A以下にする、
ことを特徴とする請求項1に記載のアークスタート制御方法。
【請求項3】
前記溶断抑制期間送給速度を0として送給を停止する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアークスタート制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好なアークスタート性を得ることができる消耗電極式アーク溶接のアークスタート制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶接電源に溶接開始信号が入力されると溶接電源の出力及び溶接ワイヤの送給を開始し、溶接ワイヤと母材とが短絡して溶接電流が通電を開始するとホットスタート期間に入り、ホットスタート期間中はホットスタート電流を通電すると共に溶接ワイヤを定常送給速度よりも小さな値のホットスタート期間送給速度で送給し、ホットスタート期間が終了すると定常期間に移行するアークスタート制御方法が広く使用されている。
【0003】
ホットスタート期間中に溶接ワイヤと母材との短絡期間が長くなると、大電流値のホットスタート電流の通電によって溶接ワイヤの突き出し部は高温状態になっている。この状態で、アークが発生した直後に定常溶接電流を通電すると、アークが燃え上がりアーク長が長くなり過ぎてアーク切れが発生する場合が生じる。この問題に対処するために、特許文献1の発明では、短絡期間の長さが基準期間以上のとき、アークが発生した時点から溶接ワイヤの送給停止を継続すると共にホットスタート電流より低い燃上り抑制電流に移行してアークを所定期間継続する燃上り抑制期間を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ホットスタート期間中に短絡期間が長くなると、ワイヤ突き出し部が高温状態になり軟化されて、アークが発生することなくワイヤ突き出し部が溶断されて無負荷状態となる場合が発生する。このような問題には従来技術では対処することができない。
【0006】
そこで、本発明では、消耗電極式アーク溶接において、溶接開始時の溶接ワイヤと母材との短絡期間が長くなっても、ワイヤ突き出し部の溶断による無負荷状態又はアーク切れの発生を抑制することができるアークスタート制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接電源に溶接開始信号が入力されると前記溶接電源の出力及び溶接ワイヤの送給を開始し、前記溶接ワイヤと母材とが短絡して溶接電流が通電を開始するとホットスタート期間に入り、前記ホットスタート期間中はホットスタート電流を通電すると共に前記溶接ワイヤを定常送給速度よりも小さな値のホットスタート期間送給速度で送給し、前記ホットスタート期間が終了すると定常期間に移行するアークスタート制御方法において、
前記短絡の期間が基準時間以上になると溶断抑制期間に入り、前記溶断抑制期間中は前記ホットスタート電流よりも小さな値の溶断抑制電流を通電すると共に前記溶接ワイヤを前記ホットスタート期間送給速度よりも小さな値の溶断抑制期間送給速度で送給し、
前記溶断抑制期間中にアークが発生すると前記定常期間に移行する、
ことを特徴とするアークスタート制御方法である。
【0008】
請求項2の発明は、
前記溶断抑制電流を100A以下にする、
ことを特徴とする請求項1に記載のアークスタート制御方法である。
【0009】
請求項3の発明は、
前記溶断抑制期間送給速度を0として送給を停止する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアークスタート制御方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、消耗電極式アーク溶接において、溶接開始時の溶接ワイヤと母材との短絡期間が長くなっても、ワイヤ突き出し部の溶断による無負荷状態又はアーク切れの発生を抑制することができるので、良好なアークスタート性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態に係るアークスタート制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
【
図2】
図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係るアークスタート制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0014】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する駆動信号Dvに従ってインバータ制御等による出力制御を行い、溶接電流Iw及び溶接電圧Vwを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑するコンデンサ、平滑された直流を上記の駆動信号Dvに従って高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流をアーク溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を整流する2次整流器、整流された直流を平滑するリアクトルを備えている。
【0015】
溶接ワイヤ1は、送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生して溶接が行われる。溶接ワイヤ1と母材2との間には溶接電圧Vwが印加され、溶接電流Iwが通電する。溶接ワイヤ1の材質は、鉄鋼、アルミニウム等である。溶接トーチ4は、ロボット(図示は省略)に搭載されている。
【0016】
電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。
【0017】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。通電判別回路CDは、この電流検出信号Idを入力として、この値がしきい値以上のときはHighレベルとなる通電判別信号Cdを出力する。この通電判別信号Cdは、溶接電流Iwが通電するとHighレベルとなる信号である。したがって、しきい値は、5A程度に設定される。
【0018】
ロボット制御装置RCは、予め教示された作業プログラムを記憶しており、この作業プログラムに従ってロボット(図示は省略)の動作を制御すると共に、駆動回路DVおよび送給制御回路FCに対して溶接開始信号Stを出力する。
【0019】
アーク発生判別回路ADは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この値が10~40Vの範囲にあるときはアーク発生状態であると判別してHighレベルとなるアーク発生判別信号Adを出力する。
【0020】
短絡判別回路SDは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この値が8V以下であるときは溶接ワイヤ1と母材2とが短絡状態にあると判別してHighレベルとなる短絡判別信号Sdを出力する。
【0021】
基準時間設定回路TORは、長期短絡状態を判別するための予め定めた基準時間設定信号Torを出力する。
【0022】
期間設定回路MSは、上記の溶接開始信号St、上記の通電判別信号Cd、上記の短絡判別信号Sd及び上記のアーク発生判別信号Adを入力として、以下の処理を行い、期間信号Msを出力する。
1)溶接開始信号StがHighレベル(開始)に変化すると、その値が0から1となる期間設定信号Msを出力する。Ms=1の期間はスローダウン送給期間となる。
2)その後に、通電判別信号CdがHighレベル(通電)に変化すると、その値が2となる期間設定信号Msを出力する。Ms=2の期間はホットスタート期間Thとなる。このホットスタート期間Th中にアーク発生判別信号AdがHighレベルになると、ホットスタート期間Thを終了して以下の4)の処理に移行する。
3)その後に、短絡判別信号SdがHighレベルとなる短絡期間が基準時間設定信号Torの値以上になると、その値が3となる期間設定信号Msを出力する。Ms=3の期間は溶断抑制期間Tmとなる。
4)その後に、アーク発生判別信号AdがHighレベルに変化すると、その値が4となる期間設定信号Msを出力する。Ms=4の期間は定常期間となる。
【0023】
電圧設定回路VRは、定常期間中の溶接電圧Vwの値を設定するための予め定めた電圧設定信号Vrを出力する。
【0024】
電圧誤差増幅回路EVは、上記の電圧設定信号Vrと上記の電圧検出信号Vdとの誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0025】
ホットスタート電流設定回路IHRは、予め定めたホットスタート電流設定信号Ihrを出力する。
【0026】
溶断抑制電流設定回路IMRは、予め定めた溶断抑制電流設定信号Imrを出力する。ここで、Imr<Ihrである。さらに、Imrは100A以下であることが好ましく、50A以下であることがより好ましい。
【0027】
電流制御設定回路ICRは、上記のホットスタート電流設定信号Ihr、上記の溶断抑制電流設定信号Imr及び上記の期間設定信号Msを入力として、期間設定信号Ms=0~2のときはIcr=Ihrとなり、Ms=3~4のときはIcr=Imrとなる電流制御設定信号Icrを出力する。
【0028】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icrと上記の電流検出信号Idとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0029】
制御方式切換信号生成回路CSは、上記の期間信号Msを入力として、Ms=1(スローダウン送給期間)、2(ホットスタート期間Th)及び3(溶断抑制期間Tm)のときはLowレベル(定電流制御)となり、Ms=4(定常期間)のときはHighレベル(定電圧制御)になる制御方式切換信号Csを出力する。
【0030】
制御切換回路SWは、上記の電圧誤差増幅信号Ev、上記の電流誤差増幅信号Ei及び上記の制御方式切換信号Csを入力として、Cs=Lowレベル(定電流制御)のときは電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力し、Cs=Highレベル(定電圧制御)のときは電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。
【0031】
駆動回路DVは、上記の誤差増幅信号Ea及び上記の溶接開始信号Stを入力として、溶接開始信号StがHighレベルのときは誤差増幅信号Eaに基づいてPWM変調制御を行い、上記の電源主回路PM内のインバータ回路を駆動するための駆動信号Dvを出力し、溶接開始信号StがLowレベルのときは駆動信号Dvの出力を停止する。
【0032】
スローダウン送給速度設定回路FSRは、予め定めたスローダウン送給速度設定信号Fsrを出力する。
【0033】
ホットスタート期間送給速度設定回路FHRは、予め定めたホットスタート期間送給速度設定信号Fhrを出力する。
【0034】
溶断抑制期間送給速度設定回路FMRは、予め定めた溶断抑制期間送給速度設定信号Fmrを出力する。ここで、Fmr=0に設定されることが好ましい。
【0035】
定常送給速度設定回路FCRは、予め定めた定常送給速度設定信号Fcrを出力する。ここで、Fmr<Fhr<Fcrの関係である。
【0036】
送給速度設定回路FRは、上記のスローダウン送給速度設定信号Fsr、上記のホットスタート期間送給速度設定信号Fhr、上記の溶断抑制期間送給速度設定信号Fmr、上記の定常送給速度設定信号Fcr及び上記の期間信号Msを入力として、期間設定信号Ms=0~1のときはFr=Fsrとなり、Ms=2のときはFr=Fhrとなり、Ms=3のときはFr=Fmrとなり、Ms=4のときはFr=Fcrとなる送給速度設定信号Frを出力する。
【0037】
送給制御回路FCは、上記の送給速度設定信号Fr及び上記の溶接開始信号Stを入力として、溶接開始信号StがHighレベルのときは溶接ワイヤ1を送給速度設定信号Frによって定まる速度で送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力し、溶接開始信号StがLowレベルのときは送給を停止するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
【0038】
図2は、
図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接開始信号Stの時間変化を示し、同図(B)は制御方式切換信号Csの時間変化を示し、同図(C)は溶接ワイヤの送給速度Fwの時間変化を示し、同図(D)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(E)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(F)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(G)はアーク発生判別信号Adの時間変化を示す。同図は、ロボットを使用した溶接の場合を例示している。以下、同図を参照して説明する。
【0039】
同図において、時刻t1~t2の期間が
図1の期間信号Ms=1のスローダウン送給期間となり、時刻t2~t3の期間が
図1の期間信号Ms=2のホットスタート期間Thとなり、時刻t3~t4の期間が
図1の期間信号Ms=3の溶断抑制期間Tmとなり、時刻t4以降の期間が
図1の期間信号Ms=4の定常期間Tcとなる。
【0040】
時刻t1において、ロボットが移動して溶接トーチが溶接開始位置に到達すると、ロボット制御装置から溶接電源に対して溶接開始信号Stが出力される。
【0041】
(1)時刻t1~t2のスローダウン送給期間
同図(A)に示すように、時刻t1において、ロボット制御装置からの溶接開始信号StがHighレベルになると、溶接電源の出力が開始されるので、同図(E)に示すように、80V程度の無負荷電圧が溶接ワイヤと母材との間に印加される。同時に、同図(C)に示すように、送給速度Fwは、
図1のスローダウン送給速度設定信号Fsrによって定まるスローダウン送給速度Fsとなり、溶接ワイヤは母材へと次第に接近する。スローダウン送給速度Fsは、例えば1.5m/min程度である。同図(B)に示すように、制御方式切換信号Csは、溶断抑制期間Tmが終了する時刻t4まではLowレベル(定電流制御)となり、それ以降はHighレベル(定電圧制御)となる。この制御方式切換信号Csは、溶接電源の出力制御の方式を定電流制御にするか定電圧制御にするかを切り換える信号である。同図(F)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベルとなり、同図(G)に示すように、アーク発生判別信号AdはLowレベルとなる。
【0042】
(2)時刻t2~t3のホットスタート期間Th
時刻t2において、溶接ワイヤと母材とが接触して導通すると、同図(E)に示すように、溶接電圧Vwは、数V程度の短絡電圧値に急減する。これに応動して、同図(F)に示すように、短絡判別信号SdがHighレベルに変化する。同時に、同図(D)に示すように、溶接電流Iwの通電が開始されてホットスタート期間Thに入り、
図1のホットスタート電流設定信号Ihrによって設定されるホットスタート電流Ihが通電する。このホットスタート期間Th中は、同図(B)に示すように、制御方式切換信号CsがLowレベルであるので、定電流制御となる。同図(C)に示すように、送給速度Fwは、
図1のホットスタート期間送給速度設定信号Fhrによって設定されるホットスタート期間送給速度Fhとなる。ホットスタート電流Ihは、例えば450A程度に設定される。ホットスタート期間送給速度Fhは、定常送給速度Fwcよりも小さな値に設定され、例えば2m/min程度に設定される。ホットスタート期間送給速度Fhをスローダウン送給速度Fsと等しい値に設定しても良い。このホットスタート電流Ihは、溶接ワイヤの先端を早急に溶融してアークを発生させるために通電する。
【0043】
(3)時刻t3~t4の溶断抑制期間Tm
時刻t3において、同図(F)に示す短絡判別信号SdがHighレベルである短絡期間が
図1の基準時間設定信号Torの値に達すると、溶断抑制期間Tmに入り、
図1の溶断抑制電流設定信号Imrによって設定される溶断抑制電流Imが通電する。この溶断抑制期間Tm中は、同図(B)に示すように、制御方式切換信号CsがLowレベルであるので、定電流制御となる。同図(C)に示すように、送給速度Fwは、
図1の溶断抑制期間送給速度設定信号Fmrによって設定される溶断抑制期間送給速度Fmとなる。溶断抑制電流Imは、ホットスタート電流Ihよりも小さな値に設定される。好ましくは、100A以下に設定され、より好ましくは50A以下に設定される。溶断抑制期間送給速度Fmは、ホットスタート期間送給速度Fhよりも小さな値に設定され、例えば1m/min程度に設定される。より好ましくは0に設定されて、送給を停止する。基準時間は、
図1の基準時間設定信号Torによって設定される。基準時間は、短絡期間が長くなり、ワイヤ突き出し部が溶断する時間よりも短い時間に設定され、例えば10msに設定される。この溶断抑制期間Tmが開始された時点では、基準時間以上の短絡が発生しているために、大電流値のホットスタート電流Ihの通電によってワイヤ突き出し部が高温状態になっている。このために、送給速度Fwを小さな値又は0にし、かつ、小さな値の溶断抑制電流Imを通電することによって、ワイヤ突き出し部が溶断して無負荷状態になることを抑制している。その上で、アークが発生するのを待機している。
【0044】
(4)時刻t4以降の定常期間tc
時刻t4において、同図(G)に示すように、アーク発生判別信号AdがHighレベルに変化すると、定常期間Tcに移行する。これに応動して、同図(B)に示すように、制御方式切換信号CsはHighレベルとなり、溶接電源は定電圧制御される。同図(F)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベルに変化する。同図(C)に示すように、送給速度Fwは、時刻t4~t41の予め定めた遅延期間中は溶断抑制期間送給速度Fmのままであり、時刻t41において、
図1の定常送給速度設定信号Fcrによって設定される定常送給速度Fwcへと増加する。この定常送給速度Fwcは、3~10m/min程度の範囲である。遅延期間は0でも良く、0~50ms程度である。遅延期間を設けるのは、アークが発生して直ぐに送給速度Fwを早くすると、再び短絡が発生する場合があるためである。同図(D)に示すように、溶接電流Iwは、溶断抑制電流Imから増加して定常送給速度Fwcに対応した定常値となる。同図(E)に示すように、溶接電圧Vwは、
図1の電圧設定信号Vrによって設定される定常値に定電圧制御される。消耗電極式アーク溶接がパルスアーク溶接であるときは、溶接電流Iw及び溶接電圧Vwはパルス波形となる。
【0045】
以下、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態によれば、短絡の期間が基準時間以上になると溶断抑制期間に入り、溶断抑制期間中はホットスタート電流よりも小さな値の溶断抑制電流を通電すると共に溶接ワイヤをホットスタート期間送給速度よりも小さな値の溶断抑制期間送給速度で送給し、溶断抑制期間中にアークが発生すると定常期間に移行する。このようにすると、短絡期間が基準時間以上となり、大電流の通電によってワイヤ突き出し部が高温状態になっている状態において、溶断抑制期間を設けることによって、溶断による無負荷状態になることを抑制することができる。この結果、アークスタート時に長期短絡が発生しても、良好なアークスタート性を得ることができる。
【0046】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、溶断抑制電流を100A以下にする。このようにすると、より確実に溶断の発生を抑制することができる。
【0047】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、溶断抑制期間送給速度を0として送給を停止する。このようにすると、より確実に溶断の発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
AD アーク発生判別回路
Ad アーク発生判別信号
CD 通電判別回路
Cd 通電判別信号
CS 制御方式切換信号生成回路
Cs 制御方式切換信号
DV 駆動回路
Dv 駆動信号
Ea 誤差増幅信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FCR 定常送給速度設定回路
Fcr 定常送給速度設定信号
Fh ホットスタート期間送給速度
FHR ホットスタート期間送給速度設定回路
Fhr ホットスタート期間送給速度設定信号
Fm 溶断抑制期間送給速度
FMR 溶断抑制期間送給速度設定回路
Fmr 溶断抑制期間送給速度設定信号
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
Fs スローダウン送給速度
FSR スローダウン送給速度設定回路
Fsr スローダウン送給速度設定信号
Fw 送給速度
Fwc 定常送給速度
ICR 電流制御設定回路
Icr 電流制御設定信号
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
Ih ホットスタート電流
IHR ホットスタート電流設定回路
Ihr ホットスタート電流設定信号
Im 溶断抑制電流
IMR 溶断抑制電流設定回路
Imr 溶断抑制電流設定信号
Iw 溶接電流
MS 期間設定回路
Ms 期間信号
PM 電源主回路
RC ロボット制御装置
SD 短絡判別回路
Sd 短絡判別信号
St 溶接開始信号
SW 制御切換回路
Tc 定常期間
Th ホットスタート期間
Tm 溶断抑制期間
TOR 基準時間設定回路
Tor 基準時間設定信号
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
VR 電圧設定回路
Vr 電圧設定信号
Vw 溶接電圧
WM 送給モータ