(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183976
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】遠隔操船者の認知プロセスの解析方法、遠隔操船者の認知プロセスの解析システム、及び遠隔操船システムの設計方法
(51)【国際特許分類】
G09B 9/06 20060101AFI20231221BHJP
G06Q 50/30 20120101ALI20231221BHJP
B63H 25/00 20060101ALI20231221BHJP
G08G 3/00 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
G09B9/06 A
G06Q50/30
B63H25/00 Z
G08G3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097836
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博子
(72)【発明者】
【氏名】河島 園子
(72)【発明者】
【氏名】川村 恭己
(72)【発明者】
【氏名】大塚 宙樹
【テーマコード(参考)】
5H181
5L049
【Fターム(参考)】
5H181AA25
5H181CC04
5H181EE02
5L049CC42
(57)【要約】
【課題】遠隔操船システムを設計するに当たり必要な遠隔操船の安全性を向上させるための遠隔操船者の認知プロセスの解析方法、遠隔操船者の認知プロセスの解析システム、及び遠隔操船システムの設計方法を提供すること。
【解決手段】遠隔操船者の認知プロセスの解析方法は、コンピュータ30を用いて、遠隔操船の実験を行うための所定のシナリオを読み込むシナリオ読込ステップS1と、操船手段10を用いてシナリオに基づいて遠隔操船者αが行う模擬遠隔操船の操船・航跡データを取得し保存する操船・航跡データ取得ステップS2と、遠隔操船者αの視線データを取得し保存する視線データ取得ステップS3と、所定のシナリオを実行したかを判断するシナリオ実行判断ステップS6を実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを用いて、船舶を遠隔操船する遠隔操船者の認知プロセスの解析方法であって、
前記遠隔操船の実験を行うための所定のシナリオを読み込むシナリオ読込ステップと、
操船手段を用いて前記シナリオに基づいて前記遠隔操船者が行う模擬遠隔操船の操船・航跡データを取得し保存する操船・航跡データ取得ステップと、
前記遠隔操船者の視線データを取得し保存する視線データ取得ステップと、
所定の前記シナリオを実行したかを判断するシナリオ実行判断ステップを実行することを特徴とする遠隔操船者の認知プロセスの解析方法。
【請求項2】
前記遠隔操船の実験における前記遠隔操船者による前記模擬遠隔操船を撮像した映像データを取得し保存する映像データ取得ステップと、
前記遠隔操船者の前記模擬遠隔操船を行ったときのインタビューのデータを取得し保存するインタビューデータ取得ステップを実行することを特徴とする請求項1に記載の遠隔操船者の認知プロセスの解析方法。
【請求項3】
同一の前記シナリオに対し複数の前記遠隔操船者が、前記遠隔操船の実験における前記模擬遠隔操船を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の遠隔操船者の認知プロセスの解析方法。
【請求項4】
前記シナリオに前記船舶の模擬自動運航から前記模擬遠隔操船に移行する引継ぎ行動が含まれていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の遠隔操船者の認知プロセスの解析方法。
【請求項5】
前記遠隔操船者の前記視線データの取得は、前記遠隔操船者が装着したアイトラッカーにより行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の遠隔操船者の認知プロセスの解析方法。
【請求項6】
前記操船手段は、景観情報、海図情報、操作盤情報、及び舵情報を提供可能であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の遠隔操船者の認知プロセスの解析方法。
【請求項7】
コンピュータを用いて、
請求項2に記載の遠隔操船者の認知プロセスの解析方法における前記映像データ取得ステップで取得した前記映像データと、前記インタビューデータ取得ステップで取得した前記インタビューのデータに基づいて、前記遠隔操船者の前記模擬遠隔操船における前記操船手段を含む注視先と取得情報の対応を定義した対応定義結果を読み込む対応定義読込ステップを実行することを特徴とする遠隔操船者の認知プロセスの解析方法。
【請求項8】
前記対応定義読込ステップで取得した前記対応定義結果に基づいて、前記視線データを読み込んで、時系列注視先データに変換処理する時系列注視先データ変換ステップと、
前記操船・航跡データを読み込んで、操舵・船速調整行動データに変換処理する操舵・船速調整行動データ変換ステップと、前記時系列注視先データと前記操舵・船速調整行動データから時系列行動データへの変換処理を行う時系列行動データ変換ステップを実行することを特徴とする請求項7に記載の遠隔操船者の認知プロセスの解析方法。
【請求項9】
前記シナリオ読込ステップで読み込んだ所定の前記シナリオと、読み込んだ前記操船・航跡データに基づいて時系列船舶位置データへ変換処理する時系列船舶位置データ変換ステップと、
前記時系列船舶位置データに基づいて開始と終了時刻を含むイベントを定義するイベント定義ステップを実行することを特徴とする請求項8に記載の遠隔操船者の認知プロセスの解析方法。
【請求項10】
前記時系列行動データ変換ステップで変換処理した前記時系列行動データと、前記イベント定義ステップで定義された前記イベントに基づいてイベント毎の時系列行動データに変換処理するイベント毎時系列行動データ変換ステップと、
前記イベント毎の時系列行動データに基づいて時系列行動ログを記録する時系列行動ログ記録ステップを実行することを特徴とする請求項9に記載の遠隔操船者の認知プロセスの解析方法。
【請求項11】
請求項1又は請求項2に記載の遠隔操船者の認知プロセスの解析方法を実行するためのシステムであって、前記コンピュータと、前記シナリオ及び進行状況を提供するシナリオ提供手段と、前記操船手段としての操船シミュレータと、取得した前記操船・航跡データを保存する操船・航跡データ記録装置と、取得した前記視線データを保存する視線データ記録装置を備えたことを特徴とする遠隔操船者の認知プロセスの解析システム。
【請求項12】
取得した前記視線データを、視線解析装置を介して前記視線データ記録装置に記録することを特徴とする請求項11に記載の遠隔操船者の認知プロセスの解析システム。
【請求項13】
操船作業撮影用ビデオカメラで取得した前記遠隔操船者による前記模擬遠隔操船の前記映像データと、インタビュー記録用ビデオカメラで取得した前記遠隔操船者に対する前記インタビューのインタビュー映像データを保存する映像データ記録装置を備えたことを特徴とする請求項11に記載の遠隔操船者の認知プロセスの解析システム。
【請求項14】
取得した前記遠隔操船者に対する前記インタビューのデータを保存するインタビューデータ記録装置を備えたことを特徴とする請求項11に記載の遠隔操船者の認知プロセスの解析システム。
【請求項15】
前記操船シミュレータが、景観画面、海図画面、操作盤、及び舵角を含む舵確認画面を有したことを特徴とする請求項11に記載の遠隔操船者の認知プロセスの解析システム。
【請求項16】
請求項10に記載の遠隔操船者の認知プロセスの解析方法における前記時系列行動ログ記録ステップにおいて記録された前記時系列行動ログに基づいて、前記船舶の遠隔操船システムを設計することを特徴とする遠隔操船システムの設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶を遠隔操船する者の認知プロセスを解析する遠隔操船者の認知プロセスの解析方法、当該解析方法を実行するための遠隔操船者の認知プロセスの解析システム、及び当該解析方法を用いた遠隔操船システムの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、安全性の向上や船員の負担軽減等を目的とした船舶の自動運航技術の開発が行われている。自動運航技術の一つに、船舶の操縦をインターネットなどの通信回線を経由して物理的に当該船舶から離れた場所から行う遠隔操船がある。
【0003】
ここで、特許文献1には、視線検出部によって検出された運転者の視線が特定の範囲に対して閾値時間継続して存在することを、特定の範囲に対する注視として扱い、視線検出部によって検出された視線が特定の範囲に対して閾値時間以下の時間継続して存在することと、視線検出部によって検出された視線が特定の範囲に対して存在しないこととを、特定の範囲に対する注視として扱わないようにし、シミュレーション対象車が進行方向を変更する直前の特定の期間においてバックミラーの鏡面の範囲に対する注視が運転者によって実行されなかった場合に、バックミラーによる安全確認を行っていないことを注意する通知をシミュレーションにおいて実行するドライビングシミュレーター(運転用情報処理装置)が開示されており、段落0176には、当該運転用情報処理装置は船舶の操縦にも応用可能である旨の記載がある。
また、特許文献2には、マルチコプター等の移動物体が備える撮像装置によって撮像された画像を表示する表示装置に対向するユーザの視線を検出し、画像上におけるユーザの注視点を出力する視線検出装置から、注視点の情報を取得すると共に、取得した情報が示す注視点が所定の領域に含まれるか判断する操作検出部と、情報が示す注視点が所定の領域に含まれる場合は、当該領域に対応付けられた、移動物体を制御するための信号を送信させる信号出力制御部とを備えた遠隔制御装置が開示されている。
また、特許文献3には、自動車の運転者等の判定対象者の周囲において、判定対象者の注視対象となりえる対象物を検出するとともに、検出された対象物が存在する方向を算出する対象物検出手段と、判定対象者の視線方向を検出する視線方向検出手段と、判定対象者の眼球運動の速さを検出する眼球運動速さ検出手段と、所定時間の間、判定対象者の視線方向が、対象物検出手段によって検出された1つの特定の対象物の方向に向けられ、かつ、眼球運動速さ検出手段によって検出された眼球運動の速さが第1閾値以下である場合に、判定対象者の視線が特定の対象物に注がれた注意過多状態であると判定する注意過多判定手段とを備えた注意過多状態判定装置が開示されており、段落0063には、船舶にも適用可能である旨の記載がある。
また、特許文献4には、運転者の眼球状態を検出して、運転者が視認対象物を目視しているときの視距離を推定する視距離推定手段と、運転者から視認対象物までの実際の距離を検出する実距離検出手段と、 視距離推定手段で推定された視距離と実距離検出手段で検出された実際の距離との差分に対応した焦点評価指標に基づいて運転支援を行う支援手段とを備えた運転支援装置が開示されており、段落0068等には、船舶の操作者にも適用可能である旨の記載がある。
また、特許文献5には、工場等の生産現場における機器から時系列データを収集する収集部と、イベント毎に、保存対象とする関連データの項目を定めた保存ルールを記憶する記憶部と、保存ルールに従って、時系列データからイベント毎に関連データを抽出し、イベントデータに変換する変換部と、を備えたデータ作成装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-124892号公報
【特許文献2】特開2020-5114号公報
【特許文献3】特開2016-62330号公報
【特許文献4】特開2018-147479号公報
【特許文献5】特開2020-71570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
遠隔操船環境は観測機器や通信機器により構成されるところ、情報転送量や観測の範囲は機器の能力や通信環境等によって限定されるため、必要な情報の漏れや遅延が遠隔操船者の操船に影響して安全性に懸念が生じる可能性がある。
一方、本願発明者らは、遠隔操船者が操船作業で必要とする情報は、全方位に関して一様に詳細なものである訳ではなく、操船作業に応じて必要な情報が限られてくることに着目した。従い、遠隔操船者が行おうとしている作業において必要な情報を操船対象の船舶で観測して遠隔操船者に転送することで、限定された範囲の情報転送量と観測範囲の中でも安全性を向上させることができる。しかしながら、各操船作業においてどのような情報が必要であるかを精度よく把握する方法はこれまで提案されていない。そこで本発明は、遠隔操船システムを設計するに当たり、遠隔操船者が行う各操船作業において必要な情報を把握することができる、遠隔操船者の認知プロセスの解析方法、遠隔操船者の認知プロセスの解析システム、及び遠隔操船システムの設計方法を提供することを目的とする。
なお、特許文献1は、運転者の視線を検出して安全性の向上に活用しようとするものであるが、運転席に着座した状態を想定しており、遠隔操船のように物理的に離れた場所からの運転操作に関するものではない。また、遠隔操船者の認知プロセスを解析しようとするものでもない。
特許文献2は、移動物体に対する視線による遠隔制御の操作性の向上を図るものであり、遠隔操船者の認知プロセスを解析しようとするものではない。
特許文献3は、判定対象者の視線や眼球運動の速さを検出して注意過多状態をより高精度に判定しようとするものであるが、遠隔操船のように物理的に離れた場所からの運転操作に関するものではない。また、遠隔操船者の認知プロセスを解析しようとするものでもない。
特許文献4は、視認対象物に対する運転者の視認状態に対応させて運転支援を適切に行おうとするものであるが、遠隔操船のように物理的に離れた場所からの運転操作に関するものではない。また、遠隔操船者の認知プロセスを解析しようとするものでもない。
特許文献5は、機器に特定のイベントが発生した際の稼働状況を整理した情報を蓄積し工場全体の生産効率の改善を図るものであり、遠隔操船者の認知プロセスを解析しようとするものではない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載に対応した遠隔操船者の認知プロセスの解析方法においては、コンピュータを用いて、船舶を遠隔操船する遠隔操船者の認知プロセスの解析方法であって、遠隔操船の実験を行うための所定のシナリオを読み込むシナリオ読込ステップと、操船手段を用いてシナリオに基づいて遠隔操船者が行う模擬遠隔操船の操船・航跡データを取得し保存する操船・航跡データ取得ステップと、遠隔操船者の視線データを取得し保存する視線データ取得ステップと、所定のシナリオを実行したかを判断するシナリオ実行判断ステップを実行することを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、実験での観測により取得した模擬遠隔操船における操船内容や視線に関するデータに基づいて遠隔操船者の認知プロセスを解析して遠隔操船者が行う各操船作業において必要な情報を把握することが可能となり、解析結果を利用して遠隔操船の安全性向上等を図った遠隔操船システムへ展開することができる。
【0007】
請求項2記載の本発明は、遠隔操船の実験における遠隔操船者による模擬遠隔操船を撮像した映像データを取得し保存する映像データ取得ステップと、遠隔操船者の模擬遠隔操船を行ったときのインタビューのデータを取得し保存するインタビューデータ取得ステップを実行することを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、模擬遠隔操船の映像データと実験後のインタビューデータを取得及び保存しておくことで、遠隔操船者の認知プロセスをより詳細に、かつ的確に解析することが可能となる。
【0008】
請求項3記載の本発明は、同一のシナリオに対し複数の遠隔操船者が、遠隔操船の実験における模擬遠隔操船を行うことを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、複数の遠隔操船者の実験データを取得することで、遠隔操船者の認知プロセスをより多面的かつ客観的に解析することが可能となる。また、例えば、ベテランと新人といった遠隔操船者の経験による差を解析することが可能となる。
【0009】
請求項4記載の本発明は、シナリオに船舶の模擬自動運航から模擬遠隔操船に移行する引継ぎ行動が含まれていることを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、実験により取得した引継ぎ行動時のデータに基づいて遠隔操船者の認知プロセスを解析することが可能となり、自動運航船を遠隔から監視し非常時においては遠隔でフォールバックを行い遠隔操船の安全性向上を図ることができる。
【0010】
請求項5記載の本発明は、遠隔操船者の視線データの取得は、遠隔操船者が装着したアイトラッカーにより行うことを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、視線データを効率よく取得することができる。
【0011】
請求項6記載の本発明は、操船手段は、景観情報、海図情報、操作盤情報、及び舵情報を提供可能であることを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、実験中に遠隔操船者が遠隔操船に必要な景観情報、海図情報、操作盤情報、及び舵情報を注視していたタイミング等を遠隔操船者の認知プロセスの解析に用いることが可能となる。
【0012】
請求項7記載に対応した遠隔操船者の認知プロセスの解析方法においては、コンピュータを用いて、遠隔操船者の認知プロセスの解析方法における映像データ取得ステップで取得した映像データと、インタビューデータ取得ステップで取得したインタビューのデータに基づいて、遠隔操船者の模擬遠隔操船における操船手段を含む注視先と取得情報の対応を定義した対応定義結果を読み込む対応定義読込ステップを実行することを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、対応定義結果をコンピュータに読み込むことで、遠隔操船者の認知プロセスを詳細に、かつ的確に解析することが可能となる。
【0013】
請求項8記載の本発明は、対応定義読込ステップで取得した対応定義結果に基づいて、視線データを読み込んで、時系列注視先データに変換処理する時系列注視先データ変換ステップと、操船・航跡データを読み込んで、操舵・船速調整行動データに変換処理する操舵・船速調整行動データ変換ステップと、時系列注視先データと操舵・船速調整行動データから時系列行動データへの変換処理を行う時系列行動データ変換ステップを実行することを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、注視先と操舵・船速調整行動が対応付けられた時系列行動データに基づいて遠隔操船者の注視先と行動を対応付けた認知プロセスを詳細に解析することが可能となる。
【0014】
請求項9記載の本発明は、シナリオ読込ステップで読み込んだ所定のシナリオと、読み込んだ操船・航跡データに基づいて時系列船舶位置データへ変換処理する時系列船舶位置データ変換ステップと、時系列船舶位置データに基づいて開始と終了時刻を含むイベントを定義するイベント定義ステップを実行することを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、模擬遠隔操船において発生した船舶位置に対応付けられたイベントにおける遠隔操船者の認知プロセスを解析することが可能となる。
【0015】
請求項10記載の本発明は、時系列行動データ変換ステップで変換処理した時系列行動データと、イベント定義ステップで定義されたイベントに基づいてイベント毎の時系列行動データに変換処理するイベント毎時系列行動データ変換ステップと、イベント毎の時系列行動データに基づいて時系列行動ログを記録する時系列行動ログ記録ステップを実行することを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、イベント発生時における注視先と行動に基づいた時系列行動ログにより、遠隔操船者の認知プロセスを詳細に、かつ的確に解析することが可能となる。
【0016】
請求項11記載に対応した遠隔操船者の認知プロセスの解析システムにおいては、遠隔操船者の認知プロセスの解析方法を実行するためのシステムであって、コンピュータと、シナリオ及び進行状況を提供するシナリオ提供手段と、操船手段としての操船シミュレータと、取得した操船・航跡データを保存する操船・航跡データ記録装置と、取得した視線データを保存する視線データ記録装置を備えたことを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、解析に必要な遠隔操船者の遠隔操船を、操船シミュレータを用いて容易に実行し、必要なデータを記録することで遠隔操船者の認知プロセスの解析を容易にし、解析効率を高めることができる。
【0017】
請求項12記載の本発明は、取得した視線データを、視線解析装置を介して視線データ記録装置に記録することを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、観測した視線データを解析したうえで記録することで、視線データの利用を容易とすることができる。
【0018】
請求項13記載の本発明は、操船作業撮影用ビデオカメラで取得した遠隔操船者による模擬遠隔操船の映像データと、インタビュー記録用ビデオカメラで取得した遠隔操船者に対するインタビューのインタビュー映像データを保存する映像データ記録装置を備えたことを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、遠隔操船者の認知プロセスの解析を行う際に、模擬遠隔操船の映像データと、インタビューデータを用いて解析が可能となるため遠隔操船者の認知プロセスをより詳細に、かつ的確に解析することが可能となる。
【0019】
請求項14記載の本発明は、取得した遠隔操船者に対するインタビューのデータを保存するインタビューデータ記録装置を備えたことを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、インタビューデータ記録装置に保存されているインタビューのデータを遠隔操船者の認知プロセスの解析に活用することができる。
【0020】
請求項15記載の本発明は、操船シミュレータが、景観画面、海図画面、操作盤、及び舵角を含む舵確認画面を有したことを特徴とする。
請求項15に記載の本発明によれば、実験に当たり、シミュレータが遠隔操船に必要な景観画面、海図画面、操作盤、及び舵確認画面を有することにより、遠隔操船者がこれらを注視したり操作していたタイミング等を遠隔操船者の認知プロセスの解析に活用することができる。
【0021】
請求項16記載に対応した遠隔操船システムの設計方法においては、遠隔操船者の認知プロセスの解析方法における時系列行動ログ記録ステップに記録された時系列行動ログに基づいて、船舶の遠隔操船システムを設計することを特徴とする。
請求項16に記載の本発明によれば、イベント発生時における注視先と行動に基づいた時系列行動ログにより、安全性の高い遠隔操船システムを提供することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の遠隔操船者の認知プロセスの解析方法によれば、実験での観測により取得した模擬遠隔操船における操船内容や視線に関するデータに基づいて遠隔操船者の認知プロセスを解析して遠隔操船者が行う各操船作業において必要な情報を把握することが可能となり、解析結果を利用して遠隔操船の安全性向上等を図った遠隔操船システムへ展開することができる。
【0023】
また、遠隔操船の実験における遠隔操船者による模擬遠隔操船を撮像した映像データを取得し保存する映像データ取得ステップと、遠隔操船者の模擬遠隔操船を行ったときのインタビューのデータを取得し保存するインタビューデータ取得ステップを実行する場合には、模擬遠隔操船の映像データと実験後のインタビューデータを取得及び保存しておくことで、遠隔操船者の認知プロセスをより詳細に、かつ的確に解析することが可能となる。
【0024】
また、同一のシナリオに対し複数の遠隔操船者が、遠隔操船の実験における模擬遠隔操船を行う場合には、複数の遠隔操船者の実験データを取得することで、遠隔操船者の認知プロセスをより多面的かつ客観的に解析することが可能となる。また、例えば、ベテランと新人といった遠隔操船者の経験による差を解析することが可能となる。
【0025】
また、シナリオに船舶の模擬自動運航から模擬遠隔操船に移行する引継ぎ行動が含まれている場合には、実験により取得した引継ぎ行動時のデータに基づいて遠隔操船者の認知プロセスを解析することが可能となり、自動運航船を遠隔から監視し非常時においては遠隔でフォールバックを行い遠隔操船の安全性向上を図ることができる。
【0026】
また、遠隔操船者の視線データの取得は、遠隔操船者が装着したアイトラッカーにより行う場合には、視線データを効率よく取得することができる。
【0027】
また、操船手段は、景観情報、海図情報、操作盤情報、及び舵情報を提供可能である場合には、実験中に遠隔操船者が遠隔操船に必要な景観情報、海図情報、操作盤情報、及び舵情報を注視していたタイミング等を遠隔操船者の認知プロセスの解析に用いることが可能となる。
【0028】
また、コンピュータを用いて、遠隔操船者の認知プロセスの解析方法における映像データ取得ステップで取得した映像データと、インタビューデータ取得ステップで取得したインタビューのデータに基づいて、遠隔操船者の模擬遠隔操船における操船手段を含む注視先と取得情報の対応を定義した対応定義結果を読み込む対応定義読込ステップを実行することで、対応定義結果をコンピュータに読み込むことで、遠隔操船者の認知プロセスを詳細に、かつ的確に解析することが可能となる。
【0029】
また、対応定義読込ステップで取得した対応定義結果に基づいて、視線データを読み込んで、時系列注視先データに変換処理する時系列注視先データ変換ステップと、操船・航跡データを読み込んで、操舵・船速調整行動データに変換処理する操舵・船速調整行動データ変換ステップと、時系列注視先データと操舵・船速調整行動データから時系列行動データへの変換処理を行う時系列行動データ変換ステップを実行する場合には、注視先と操舵・船速調整行動が対応付けられた時系列行動データに基づいて遠隔操船者の注視先と行動を対応付けた認知プロセスを詳細に解析することが可能となる。
【0030】
また、シナリオ読込ステップで読み込んだ所定のシナリオと、読み込んだ操船・航跡データに基づいて時系列船舶位置データへ変換処理する時系列船舶位置データ変換ステップと、時系列船舶位置データに基づいて開始と終了時刻を含むイベントを定義するイベント定義ステップを実行する場合には、模擬遠隔操船において発生した船舶位置に対応付けられたイベントにおける遠隔操船者の認知プロセスを解析することが可能となる。
【0031】
また、時系列行動データ変換ステップで変換処理した時系列行動データと、イベント定義ステップで定義されたイベントに基づいてイベント毎の時系列行動データに変換処理するイベント毎時系列行動データ変換ステップと、イベント毎の時系列行動データに基づいて時系列行動ログを記録する時系列行動ログ記録ステップを実行する場合には、イベント発生時における注視先と行動に基づいた時系列行動ログにより、遠隔操船者の認知プロセスを詳細に、かつ的確に解析することが可能となる。
【0032】
また、本発明の遠隔操船者の認知プロセスの解析システムによれば、解析に必要な遠隔操船者の遠隔操船を、操船シミュレータを用いて容易に実行し、必要なデータを記録することで遠隔操船者の認知プロセスの解析を容易にし、解析効率を高めることができる。
【0033】
また、取得した視線データを、視線解析装置を介して視線データ記録装置に記録する場合には、観測した視線データを解析したうえで記録することで、視線データの利用を容易とすることができる。
【0034】
また、操船作業撮影用ビデオカメラで取得した遠隔操船者による模擬遠隔操船の映像データと、インタビュー記録用ビデオカメラで取得した遠隔操船者に対するインタビューのインタビュー映像データを保存する映像データ記録装置を備えた場合には、遠隔操船者の認知プロセスの解析を行う際に、模擬遠隔操船の映像データと、インタビューデータを用いて解析が可能となるため遠隔操船者の認知プロセスをより詳細に、かつ的確に解析することが可能となる。
【0035】
また、取得した遠隔操船者に対するインタビューのデータを保存するインタビューデータ記録装置を備えた場合には、インタビューデータ記録装置に保存されているインタビューのデータを遠隔操船者の認知プロセスの解析に活用することができる。
【0036】
また、操船シミュレータが、景観画面、海図画面、操作盤、及び舵角を含む舵確認画面を有した場合には、実験に当たり、シミュレータが遠隔操船に必要な景観画面、海図画面、操作盤、及び舵確認画面を有することにより、遠隔操船者がこれらを注視したり操作していたタイミング等を遠隔操船者の認知プロセスの解析に活用することができる。
【0037】
また、本発明の遠隔操船システムの設計方法によれば、イベント発生時における注視先と行動に基づいた時系列行動ログにより、安全性の高い遠隔操船システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の実施形態による遠隔操船者の認知プロセスの解析方法におけるデータ取得フロー
【
図2】同遠隔操船者の認知プロセスの解析システムのうちデータ取得に用いる機器を中心としたブロック図
【
図4】同遠隔操船者の認知プロセスの解析方法におけるデータ解析フロー
【
図5】同遠隔操船者の認知プロセスの解析システムのうちデータ解析に用いる機器を中心としたブロック図
【
図6】同遠隔操船者のイベント毎の行動一覧に基づく分析例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の実施形態による遠隔操船者の認知プロセスの解析方法、遠隔操船者の認知プロセスの解析システム、及び遠隔操船システムの設計方法について説明する。
遠隔操船者の認知プロセスの解析方法は、シミュレータ又は実船を用いた遠隔操船の実験において作業を行う人間(遠隔操船者)を観測してデータを収集し、取得したデータに基づいて遠隔操船者の操船作業を認知プロセスの観点から解析するものである。
図1は本実施形態による遠隔操船者の認知プロセスの解析方法におけるデータ取得フロー、
図2は遠隔操船者の認知プロセスの解析システムのうちデータ取得に用いる機器を中心としたブロック図、
図3は操船シミュレータのイメージ図である。
図2に示す解析システムは、操作盤11及びディスプレイ12を有し船舶が航行する海洋環境等を模擬的に再現する機能を持つ操船手段としての操船シミュレータ10と、実験(シミュレーション)における操船・航跡データを操船シミュレータ10から取得して保存する操船・航跡データ記録装置20と、実験により得られた各種データを処理するコンピュータ30と、実験に用いるシナリオと進行状況を操船シミュレータ10等に提供するシナリオ提供手段40と、遠隔操船者αの視線を解析し視線データを生成する視線解析装置50と、視線データを視線解析装置50から取得して保存する視線データ記録装置60と、遠隔操船者αが模擬遠隔操船を行う様子を撮影する二台の操船作業撮影用ビデオカメラ70と、インタビュアーβによる遠隔操船者αに対するインタビューの様子を撮影するインタビュー記録用ビデオカメラ90と、操船作業撮影用ビデオカメラ70及びインタビュー記録用ビデオカメラ80の映像データを記録する映像データ記録装置90と、遠隔操船者αに対するインタビューの結果をまとめたデータを記録するインタビューデータ記録装置100と、シナリオの進行状況の確認やシナリオに関する操作入力を行うためのタッチパネルモニタ等のシナリオ表示・操作装置110を備える。なお、シナリオ表示・操作装置110は、シナリオ提供手段40の一部として構成することもできる。
【0040】
図1に示すように、遠隔操船の実験が開始されると、操船シミュレータ10は、シナリオ提供手段40から提供される遠隔操船の実験を行うための所定のシナリオを読み込む(S1:シナリオ読込ステップ)。シナリオ提供手段40は、複数のシナリオを記憶できる記憶手段と、操船シミュレータ10に提供するシナリオの進行状況を管理するCPU等を有する。
シナリオ表示・操作装置110は、遠隔操船の実験を行う実験者γの席近く等に配置されている。シナリオ表示・操作装置110には、実験者γ等に向けてシナリオの進行状況を提示するシナリオ表示画面110Aや、実験者γ等からシナリオに関する操作を受け付けるシナリオ操作画面110Bが表示される。
シナリオは人(実験者γ等)によって予め定義されるものであり、定義されたシナリオはシナリオ提供手段40等に保存され、実験開始時に自動的又は実験者γ等の選択によりシナリオ提供手段40から操船シミュレータ10に提供される。シナリオの例としては、過去の運航実績に基づいた他船や気象海象との遭遇状況を再現しつつ出発地から到着地に至るシナリオや、今後想定される気象海象の中を航行するシナリオ、又は他船との接近や気象海象の変化がランダムに発生するシナリオ等が挙げられる。
また、シナリオに船舶の模擬自動運航から模擬遠隔操船に移行する引継ぎ行動を含めた場合には、実験により取得した引継ぎ行動時のデータに基づいて遠隔操船者αの認知プロセスを解析することが可能となり、自動運航船を遠隔から監視し非常時においては遠隔でフォールバックを行い遠隔操船の安全性向上を図ることができる。
【0041】
操船シミュレータ10により所定のシナリオに基づくシミュレーションが開始されると、遠隔操船者αへの提供情報がディスプレイ12に表示される。本実施形態で設けられているディスプレイ12は、船舶前方等の景観を表示する景観画面12A、海図を表示する海図画面12B、及び舵角等の舵に関する情報を表示する舵確認画面12Cであり、遠隔操船者αには、景観画面12Aにより景観情報が、海図画面12Bにより海図情報が、舵確認画面12Cにより舵情報が、それぞれ提供される。また、操作盤11からは操作盤情報が提供される。操作盤情報とは、遠隔操船者αが操作する機器類の状態等を示した情報であり、例えば、タッチパネル式の操作盤11であれば舵や機関等の操作画像が該当し、舵輪や機関操作レバー等の装置が設置されている操作盤11であれば、それら装置の現況が該当する。
遠隔操船者αは、シナリオに基づいた模擬遠隔操船を行う被験者(船員)であり、ディスプレイ12を見ながら操作盤11を操作する。操船シミュレータ10は、遠隔操船者αが操作盤11に入力した操作量に基づいて状態量を演算し、演算した状態量をディスプレイ12に表示される景観や舵角等の変化に反映させつつシミュレーションを進行する。
模擬遠隔操船において取得した操船・航跡データは、保存のために操船シミュレータ10から操船・航跡データ記録装置20に送信される(S2:操船・航跡データ取得ステップ)。操船・航跡データには、例えば、遠隔操船者αが操作盤11を操作したときの時間及び操作内容や、操船対象船舶の変針情報、速度情報等が含まれる。
【0042】
遠隔操船者αにはアイトラッカーを装着してもらい、模擬遠隔操船中における遠隔操船者αの視線や眼球の動き等を観測する。観測結果は視線解析装置50に入力し、解析により得られた視線データを視線データ記録装置60へ出力して収録時刻とともに保存する(S3:視線データ取得ステップ)。
遠隔操船者αの視線データの取得に遠隔操船者αが装着しているアイトラッカーを用いることで、視線データを効率よく取得することができる。また、取得した視線データを視線解析装置50で解析して視線データ記録装置60に記録することで、視線データの利用を容易とすることができる。
また、上述のように操船シミュレータ10は、景観情報、海図情報、操作盤情報、及び舵情報を遠隔操船者αに提供するため、実験中に遠隔操船者αが遠隔操船に必要な景観情報、海図情報、操作盤情報、及び舵情報を注視したり操作していたタイミング等を把握して遠隔操船者αの認知プロセスの解析に用いることが可能となる。
【0043】
実験中の遠隔操船者αによる模擬遠隔操船(操船作業)は、操船作業撮影用ビデオカメラ70で撮像し、取得した映像データを映像データ記録装置90に収録時刻とともに保存する(S4:映像データ取得ステップ)。
操船作業撮影用ビデオカメラ70は、ディスプレイ12に向けられた第一の操船作業撮影用ビデオカメラ71と、遠隔操船者αに向けられた第二の操船作業撮影用ビデオカメラ72がある。これにより、操船作業の映像データとして、ディスプレイ12の表示された情報を記録した映像データと、操船作業を行う遠隔操船者αの頭や体の動き等を記録した映像データが記録される。
【0044】
インタビュアーβは、シナリオが一つ完了した段階で遠隔操船者αに対してインタビューを行う。なお、インタビュアーβは実験者γが兼ねてもよい。インタビューにおいては、例えば、模擬遠隔操船でディスプレイ12に表示された情報について、情報量が充分であったかや提供タイミングが適切であったか等をヒアリングする。インタビューで取得した情報は、コンピュータ30に所定の書式で入力し、インタビューデータ記録装置100に保存する(S5:インタビューデータ取得ステップ)。実験中の操船作業を記録した映像データに加えて、当該操船作業を行った遠隔操船者αに対する実験後のインタビューデータを取得及び保存しておくことで、遠隔操船者αの認知プロセスをより詳細に、かつ的確に解析することが可能となる。
また、インタビューの様子は、インタビュー記録用ビデオカメラ80で撮像し、取得したインタビュー映像データを映像データ記録装置90に保存する。インタビュー映像データを取得及び保存しておくことで、遠隔操船者αの認知プロセスの解析を行う際に、模擬遠隔操船の映像データと、インタビューデータを用いて解析が可能となるため、遠隔操船者αの認知プロセスをより詳細に、かつ的確に解析することが可能となる。
【0045】
インタビューデータ取得ステップS5の後、実験者γは、シナリオ提供手段40から提供されたシナリオの進行状況に基づき、所定のシナリオを実行し終えたか否かを判断する(S6:シナリオ実行判断ステップ)。シナリオ実行判断ステップS6においては、例えば、同一のシナリオを一回のみ、又は繰り返し実行する実験の場合は、シナリオ数が規定回数実行されたか否かを判断し、実験1、実験2、・・のように、異なるシナリオを連続して実行する実験の場合は、全てのシナリオが実行されたか否かを判断する。
実験者γは、所定のシナリオを実行し終えた(Yes)とシナリオ実行判断ステップS6において判断した場合は、実験終了とする。一方、所定のシナリオを実行し終えていない(No)とシナリオ実行判断ステップS6において判断した場合は、次のシナリオを実行するよう操船シミュレータ10に指示する。この場合は、所定のシナリオを実行し終えたと判断されるまで、ステップS2~S6を繰り返す。
なお、シナリオ表示・操作装置110を操船手段10の近く等にも別途配置、又はシナリオ提供手段40と一体的に構成し、遠隔操船者αが、シナリオ表示画面110Aにてシナリオの進行状況を確認し、シナリオ実行判断ステップS6における判断を行い、その判断結果に基づきシナリオ操作画面110Bを用いて操船シミュレータ10に対する操作を行うというように、遠隔操船者α自身が実験を進行できるようにすることも可能である。
また、シナリオ実行判断ステップS6における判断とその判断結果に基づく進行は、実験者γや遠隔操船者α等の人が行うのではなく、操船シミュレータ10に行わせることもできる。
【0046】
このように、コンピュータ30を用いて、遠隔操船の実験を行うための所定のシナリオを読み込むシナリオ読込ステップS1と、操船手段10を用いてシナリオに基づいて遠隔操船者αが行う模擬遠隔操船の操船・航跡データを取得し保存する操船・航跡データ取得ステップS2と、遠隔操船者αの視線データを取得し保存する視線データ取得ステップS3と、所定のシナリオを実行したかを判断するシナリオ実行判断ステップS6を実行することで、実験での観測により取得した模擬遠隔操船における操船内容や視線に関するデータに基づいて遠隔操船者αの認知プロセスを解析して遠隔操船者αが行う各操船作業において必要な情報を把握することが可能となり、解析結果を利用した遠隔操船の安全性向上等を図った遠隔操船システムへ展開することができる。
また、解析システムが、コンピュータ30と、シナリオ及び進行状況を提供するシナリオ提供手段40と、操船手段10としての操船シミュレータと、取得した操船・航跡データを保存する操船・航跡データ記録装置20と、取得した視線データを保存する視線データ記録装置60を備えることで、解析に必要な遠隔操船者αの遠隔操船を、操船シミュレータ10を用いて容易に実行し、必要なデータを記録することで遠隔操船者αの認知プロセスの解析を容易にし、解析効率を高めることができる。
【0047】
なお、同一のシナリオに対し複数の遠隔操船者αが、遠隔操船の実験における模擬遠隔操船を行うことが好ましい。これにより、一つのシナリオにつき複数の遠隔操船者αの実験データを取得でき、遠隔操船者αの認知プロセスをより多面的かつ客観的に解析することが可能となる。また、例えば、ベテランと新人といった遠隔操船者αの経験による差を解析することが可能となる。
【0048】
図4は遠隔操船者の認知プロセスの解析方法におけるデータ解析フロー、
図5は遠隔操船者の認知プロセスの解析システムのうちデータ解析に用いる機器を中心としたブロック図である。
解析システムは、
図2に記載の機器以外に、モニタ等のインタビューデータ表示装置120と、記憶手段等の時系列行動ログ記録装置130を備える。
インタビューデータ表示装置120は、インタビューデータ記録装置100に保存されているデータの表示や、映像データ記録装置90に記録されているインタビュー映像データの再生に用いる。インタビュー映像データは、インタビューデータ記録装置100に保存したデータに対して補助的に記録しているものであり、解析において確認のために適宜使用する。
【0049】
遠隔操船者の認知プロセスの解析においては、まず、コンピュータ30に対応定義結果を読み込ませる(S11:対応定義読込ステップ)。
対応定義結果は、映像データ取得ステップS4で取得し映像データ記録装置90に保存した映像データと、インタビューデータ取得ステップS5で取得しインタビューデータ記録装置100に保存したインタビューのデータに基づいて、人が、遠隔操船者αの模擬遠隔操船における操船手段(操船シミュレータ)10を含む注視先と取得情報との対応を定義したものである。注視先は、例えば景観画面12Aや海図画面12B等であり、取得情報は、例えば他船位置や沿岸の地形等である。対応定義結果をコンピュータ30に読み込むことで、遠隔操船者αの認知プロセスを詳細に、かつ的確に解析することが可能となる。
【0050】
対応定義読込ステップS11の後、コンピュータ30は、視線データ記録装置60に保存されている視線データと、操船・航跡データ記録装置20に保存されている操船・航跡データを読み込む。そして、取得した対応定義結果に基づいて、視線データを時系列注視先データに変換処理し(S12:時系列注視先データ変換ステップ)、操船・航跡データを操舵・船速調整行動データに変換処理する(S13:操舵・船速調整行動データ変換ステップ)。時系列注視先データは、遠隔操船者αの注視先(視線)を時間順に並べたデータであり、操舵・船速調整行動データは、舵を操作した時刻及び船速を変更した時刻のデータである。
そしてコンピュータ30は、時系列注視先データと操舵・船速調整行動データから時系列行動データへの変換処理を実行する(S14:時系列行動データ変換ステップ)。時系列行動データは、遠隔操船者αの注視先と操作有無を対応付けて時間順に並べたデータである。これにより、注視先と操舵・船速調整行動が対応付けられた時系列行動データに基づいて遠隔操船者αの注視先と行動を対応付けた認知プロセスを詳細に解析することが可能となる。
【0051】
また、コンピュータ30は、シナリオ読込ステップS1で操船シミュレータ10が読み込んだ所定のシナリオと、対応定義読込ステップS11の後に読み込んだ操船・航跡データに基づいて、時系列船舶位置データへ変換処理する(S15:時系列船舶位置データ変換ステップ)。時系列船舶位置データは、操船対象船舶の位置を時間順に並べたものである。
そしてコンピュータ30は、時系列船舶位置データに基づいて、開始時刻と終了時刻を含むイベントを定義する(S16:イベント定義ステップ)。イベントは、例えば航行中に発生した緊急事態や、他船に対する避航、他船や障害物の見張り等である。これにより、模擬遠隔操船において発生した船舶位置に対応付けられたイベントにおける遠隔操船者αの認知プロセスを解析することが可能となる。
【0052】
また、コンピュータ30は、時系列行動データ変換ステップS14で変換処理した時系列行動データと、イベント定義ステップS16で定義されたイベントに基づいて、イベント毎の時系列行動データへ変換処理し(S17:イベント毎時系列行動データ変換ステップ)、イベント毎の時系列行動データに基づいて、時系列行動ログを記録する(S18:時系列行動ログ記録ステップ)。イベント毎の時系列行動データは、イベント毎の開始時から終了時までの一連の遠隔操船者αの注視先と行動を時間順に並べたものである。これにより、イベント発生時における注視先と行動に基づいた時系列行動ログにより、遠隔操船者αの認知プロセスを詳細に、かつ的確に解析することが可能となる。
【0053】
ここで、
図6は遠隔操船者のイベント毎の行動一覧に基づく分析例を示す図であり、複数の被験者(遠隔操船者)に対して同じく複数の実験(シナリオ)を行った場合において、被験者1の実験1の結果に基づくものである。
図6の上側は、イベント毎の行動一覧であり、各イベントにおける作業ごとの被験者1の視線先と操作の有無を時間順に示している。「視線」の行は、ディスプレイ12及び操作盤11に関する被験者1の注視先(注視点)を示しており、「景」は景観画面12A、「海」は海図画面12B、「舵」は舵確認画面12C、「盤」は操作盤11である。また、「操作」の行には、被験者1による操作盤11の操作があったことを「操」の文字で示している。
遠隔操船システムの設計方法においては、
図6の上側に示されるようなデータに基づいて、遠隔操船者αが安全に航行を行える船舶の遠隔操船システムを設計する。
図6の下側は、上側のデータを基に第1イベントについて作業1-1と作業1-2における注視先ごとの注視時間を分析した例を示している。
【0054】
上述のように遠隔操船環境における情報転送量や観測範囲には限界があるが、例えば
図6に示すような解析結果を基に、操船作業によって異なる必要性の高い情報と提供タイミングを考慮し、遠隔操船者αが行おうとしている作業において必要な情報をそれ以外の情報よりも優先的に操船対象船舶で観測し転送するように設定するなど、遠隔操船環境の構築にあたり、観測機器や通信機器の限られた能力を、必要とする操船作業の支援に適切に割り当てることで、必要性の高い情報の提供不足や遅延を防止して遠隔操船システムの安全性を高めることができる。
なお、
図6の上側に示すイベント毎の行動一覧に基づく他の分析例としては、遠隔操船者αがある情報を認知してから操舵を行うまでの各要素作業の所要時間の分析や、通信障害又は通信遅れが発生した状況下での作業の所要時間の分析等が挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、遠隔操船システムの開発において、船舶の遠隔操船を遠隔操船者が安全に行うための遠隔操船システムの適切な設計に役立てることができる。また、操船環境、観測機器、通信機器の配置などの適正化が図れる。
【符号の説明】
【0056】
10 操船手段(操船シミュレータ)
11 操作盤
12A 景観画面
12B 海図画面
12C 舵確認画面
20 操船・航跡データ記録装置
30 コンピュータ
40 シナリオ提供手段
50 視線解析装置
60 視線データ記録装置
70 操船作業撮影用ビデオカメラ
80 インタビュー記録用ビデオカメラ
90 映像データ記録装置
100 インタビューデータ記録装置
110 シナリオ表示・操作手段(シナリオ提供手段)
120 インタビューデータ表示装置
130 時系列行動ログ記録装置
α 遠隔操船者
S1 シナリオ読込ステップ
S2 操船・航跡データ取得ステップ
S3 視線データ取得ステップ
S4 映像データ取得ステップ
S5 インタビューデータ取得ステップ
S6 シナリオ実行判断ステップ
S11 対応定義読込ステップ
S12 時系列注視先データ変換ステップ
S13 操舵・船速調整行動データ変換ステップ
S14 時系列行動データ変換ステップ
S15 時系列船舶位置データ変換ステップ
S16 イベント定義ステップ
S17 イベント毎時系列行動データ変換ステップ
S18 時系列行動ログ記録ステップ