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特開2023-183987放射線不透過性生分解性ポリマー及びその製造方法
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  • 特開-放射線不透過性生分解性ポリマー及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183987
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】放射線不透過性生分解性ポリマー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/46 20060101AFI20231221BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20231221BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20231221BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20231221BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20231221BHJP
   A61K 49/04 20060101ALI20231221BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
C08G63/46
C08L101/16
A61K47/34
A61L31/06
A61L31/10
A61P35/00
A61P7/04
A61K49/04 210
A61L27/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097853
(22)【出願日】2022-06-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その1) ウェブサイトの掲載年月日 令和4年6月14日 ウェブサイトのアドレス https://acs.digitellinc.com/acs/live/28/page/905
(71)【出願人】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大山 裕也
(72)【発明者】
【氏名】黒川 成貴
(72)【発明者】
【氏名】堀田 篤
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C085
4J029
4J200
【Fターム(参考)】
4C076AA94
4C076BB12
4C076CC11
4C076CC14
4C076CC27
4C076EE24
4C076EE24M
4C076FF31
4C081AB00
4C081AC03
4C081AC06
4C081AC10
4C081BA16
4C081BB03
4C081BB06
4C081CA161
4C081DA01
4C081DA16
4C081DC03
4C085HH05
4C085KB18
4C085KB75
4C085LL01
4C085LL18
4J029AA01
4J029AB01
4J029AB04
4J029AC03
4J029AC05
4J029AD01
4J029AD07
4J029AE06
4J029BA00
4J029BA02
4J029FB15
4J029FC01
4J029FC02
4J029FC03
4J029GA12
4J029HA01
4J029HB02
4J029JB062
4J029JB292
4J029JD05
4J029JE241
4J029KC01
4J029KD02
4J029KE02
4J029KE09
4J029KE15
4J029KH01
4J029KH05
4J200AA10
4J200BA09
4J200BA22
4J200EA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】新規な放射性不透過性生分解性ポリマーの提供。
【解決手段】下記の式(1)で表される生分解性ポリマー。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で表される放射線不透過性生分解性ポリマー。
【化1】
(式(1)中、
1は直接結合、-(CH2)p-、または-(CH(OH))p-であり、pは1~3であり、
2は直接結合、-(CH2)q-または-(CH(OH))q-であり、qは1~3であり、
3は炭素数1~20の炭化水素鎖であり、
Aは、下記式(7-1)又は式(7-2)で表される基であり、
【化2】
(式中(7-1)中、R5は少なくとも1つの水素がハロゲンで置換された炭素数1~6の炭化水素基である。)
(式中(7-2)中、Phhaloは官能基としてハロゲンを1~3個有するフェニル基である。)
Bは、水素であるか、またはAと同一であり、
kは、1~1000
lは、1~1000
mは、0~1000
nは、1~1000
である。)
【請求項2】
Aは、式(7-2)で表される基であり、式中(7-2)中、Phhaloは官能基としてハロゲンを1~3個有するフェニル基である請求項1に記載の放射線不透過性生分解性ポリマー。
【請求項3】
前記ハロゲンはヨウ素である請求項1に記載の放射線不透過性生分解性ポリマー。
【請求項4】
式(2)で表されるポリマーに、式(8-1)又は式(8-2)で表されるハロゲン化カルボン酸を反応させることを含む、放射性不透過性生分解性ポリマーの製造方法。
【化3】
(式(2)中、
1は直接結合、-(CH2)p-、または-(CH(OH))p-であり、pは1~3であり、
2は直接結合、-(CH2)q-、または-(CH(OH))q-であり、qは1~3であり、
3は炭素数1~20の炭化水素鎖であり、
kは、1~1000
lは、1~1000
mは、0~1000
nは、1~1000
である。)
【化4】
(式中(8-1)中、R5は少なくとも1つの水素がハロゲンで置換された炭素数1~6の炭化水素基である。)
(式中(8-2)中、Phhaloは官能基としてハロゲンを1~3個有するフェニル基である。)
【請求項5】
1およびR2が直接結合である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
1およびR2の一方が-CH(OH)-であり、他方が-CH(OH)-CH(OH)-である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載の放射性不透過性生分解性ポリマーと、薬剤とを含む薬物送達用担体。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか一項に記載の放射性不透過性生分解性ポリマーからなる部材またはコーティングを備えた医療機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線不透過性生分解性ポリマー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマテリアル分野で頻繁に用いられるポリマーに、生分解性を持つポリエステルが挙げられる。ポリ乳酸やポリカプロラクトンに代表されるポリエステルは分子内にエステル結合を有することで、水や体内酵素による分解を受ける。この特性を利用してドラッグデリバリーシステム(DDS)分野における薬物輸送キャリアや、その他インプラントなどの医療用の生体適合性材料として活用されている。
【0003】
同時に、DDSやインプラントを含む特定の分野におけるバイオマテリアルには生体内イメージング性能が求められる場合がある。これは、体内に挿入した医療用デバイスを、非侵襲的な手法で追跡するためである。主な手法としてMRIやCT、蛍光を用いたものが挙げられる。X線視認性は成体内でのバイオマテリアルの位置の確認をするための有用な特性の一つである。
【0004】
X線視認性を有するポリエステルを作製する主な手法として、官能基を有するポリエステルに、X線視認性を有するヨウ素化合物を結合させる方法が挙げられる。
【0005】
このような手法として、例えば非特許文献1では、ポリ(ε-カプロラクトン)コポリマーを酸触媒下でアミノ基を有するヨウ素化合物により修飾し、X線不透過な生分解性ポリマーを製造している。しかしながら、アミノ基を介したポリマーへのヨウ素化合物はの結合は、汎用性に乏しく、実用化は難しいと考えられる。
【0006】
非特許文献2では、ポリ乳酸の末端に存在する水酸基に対してトリヨード安息香酸を結合することにより、放射線不透過性ポリ乳酸を製造している。この方法では、ポリ乳酸の末端のみにしかトリヨード安息香酸が結合できない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Polym. Sci., Part A: Polym. Chem. 2015, 53, 2421-2430
【非特許文献2】European Polymer Journal Volume 108, November 2018, Pages 337-347
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決すべき課題は、新規な構成を有する放射線不透過性を有する生分解性ポリエステルおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下に記載の実施形態を包含する。
項1.
下記の式(1)で表される放射線不透過性生分解性ポリマー。
【0010】
【化1】
【0011】
(式(1)中、
1は直接結合、-(CH2)p-、または-(CH(OH))p-であり、pは1~3であり、
2は直接結合、-(CH2)q-または-(CH(OH))q-であり、qは1~3であり、
3は炭素数1~20の炭化水素鎖であり、
Aは、下記式(7-1)又は式(7-2)で表される基であり、
【0012】
【化2】
【0013】
(式中(7-1)中、R5は少なくとも1つの水素がハロゲンで置換された炭素数1~6の炭化水素基である。)
(式中(7-2)中、Phhaloは官能基としてハロゲンを1~3個有するフェニル基である。)
Bは、水素であるか、またはAと同一であり、
kは、1~1000
lは、1~1000
mは、0~1000
nは、1~1000
である。)
項2.
Aは、式(7-2)で表される基であり、式中(7-2)中、Phhaloは官能基としてハロゲンを1~3個有するフェニル基である項1に記載の放射線不透過性生分解性ポリマー。
項3.
前記ハロゲンはヨウ素である項1に記載の放射線不透過性生分解性ポリマー。
項4.
式(2)で表されるポリマーに、式(8-1)又は式(8-2)で表されるハロゲン化カルボン酸を反応させることを含む、放射性不透過性生分解性ポリマーの製造方法。
【0014】
【化3】
【0015】
(式(2)中、
1は直接結合、-(CH2)p-、または-(CH(OH))p-であり、pは1~3であり、
2は直接結合、-(CH2)q-、または-(CH(OH))q-であり、qは1~3であり、
3は炭素数1~20の炭化水素鎖であり、
kは、1~1000
lは、1~1000
mは、0~1000
nは、1~1000
である。)
【0016】
【化4】
【0017】
(式中(8-1)中、R5は少なくとも1つの水素がハロゲンで置換された炭素数1~6の炭化水素基である。)
(式中(8-2)中、Phhaloは官能基としてハロゲンを1~3個有するフェニル基である。)
項5.
1およびR2が直接結合である、項4に記載の方法。
項6.
1およびR2の一方が-CH(OH)-であり、他方が-CH(OH)-CH(OH)-である、項4に記載の方法。
項7.
項1~3のいずれか一項に記載の放射性不透過性生分解性ポリマーと、薬剤とを含む薬物送達用担体。
項8.
項1~3のいずれか一項に記載の放射性不透過性生分解性ポリマーからなる部材またはコーティングを備えた医療機器。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、放射線不透過性と生分解性を兼ね備えた新規なポリマーおよびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】放射性不透過性生分解性ポリマーの模式図。
図2】各ポリマーのNMRスペクトル。上からPGA, PGA_Me, PGA_I, PGA_B, PGA_IB, PGA_3IB。
図3】各種ヨウ素化生分解性ポリマーの写真、上からPGA_I, PGA_B, PGA_IB, PGA_3IB。
図4】各種ポリマーのDSC曲線。
図5】各種ポリマーのCTスキャンの画像。
図6】各種ポリマーの視認性の比較。縦軸はグレイバリューを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書において、「生分解性」とは、生体内で分解される性質を指す。
【0021】
本発明のいくつかの態様において、下記の式(1)で表される放射線不透過性生分解性ポリマーが提供される。
【0022】
【化5】
【0023】
(式(1)中、
1は直接結合、-(CH2)p-、または-(CH(OH))p-であり、pは1~3であり、
2は直接結合、-(CH2)q-または-(CH(OH))q-であり、qは1~3であり、
3は炭素数1~20の炭化水素鎖であり、
Aは、下記式(7-1)又は式(7-2)で表される基であり、
【0024】
【化6】
【0025】
(式中(7-1)中、R5は少なくとも1つの水素がハロゲンで置換された炭素数1~6の炭化水素鎖である。)
(式中(7-2)中、Phhaloは官能基としてハロゲンを1~3個有するフェニル基である。)
Bは、水素であるか、またはAと同一であり、
kは、1~1000、
lは、1~1000、
mは、0~1000、
nは、1~1000、
である。)
式(1)において、ポリエステル鎖が、繰り返し単位を有する第1の鎖と、第1の鎖から分岐する、繰り返し単位からなる第2の鎖とを有し、第1の鎖の繰り返し単位と第2の鎖の繰り返し単位の両方における繰り返し単位の途中でエステル結合を介してハロゲン化炭化水素基が結合されている。このため、式(1)のポリマーは、生分解性と放射性不透過性とを有する。放射性不透過性は、好ましくはX線不透過性である。
【0026】
ここで、放射線不透過性ポリマーが「放射線不透過性」とは、放射線不透過性ポリマーが放射線透視画像上で視認できる程度であることを意味する。
【0027】
いくつかの実施形態では、放射線不透過性ポリマーのCT値が50HU以上である。CT値(値(Hounsfield unit: HUとも言う)は、CTに使用される一般的な技術用語であり、被写体のCT画像の濃度値を指す。CT 値は下記式(I)で表され、式中、μtは物質の吸収係数であり、μwは水の吸収係数である。水のCT 値が 0、空気の CT 値が -1000 である。
【0028】
【数1】
【0029】
ハロゲン結合とは、ハロゲン原子とルイス塩基との間に働く非共有結合の一種である。結合強度は水素結合と同程度であり、ハロゲン結合を利用した低分子の結晶構造に関する研究などが盛んであるが、物性に大きな影響を与えるほどにハロゲン結合をポリマーに導入した研究は非常に少ない。数少ない例としてヨウ素化ビニルポリマーが挙げられる(Yudai Morota, et. al., RSC Adv., 2022, 12, 2641-2651)。
【0030】
下記の式は、エステル化合物(左側)のエステル結合の酸素と、ヨウ素含有化合物(右側)のヨウ素との間のハロゲン結合を指す(R1、R2、R3は例えばアルキル基)。
【0031】
【化7】
【0032】
本発明が理論に束縛することは望まないが、図1に模式的に示すと、式(1)の放射性不透過性生分解性ポリマーは、第1鎖(符号1)及び第2鎖(符号2)のそれぞれが、エステル結合(符号3)と、ハロゲン(符号4)を有するため、エステル結合の酸素とハロゲンがハロゲン結合(符号5)を形成する。式(1)の放射性不透過性生分解性ポリマー自体が分岐ポリマーであることと、エステル結合の酸素とハロゲンがハロゲン結合(符号5)を形成することから、ウレタン結合が導入されたポリウレタンが水素結合由来の架橋により弾性を示すのと同様に、式(1)の放射性不透過性生分解性ポリマー自体が、擬似的な化学架橋を有する不規則な分岐構造をとる。このため、式(1)の放射性不透過性生分解性ポリマーは、ハロゲン結合がない対照ポリマーに比べて、エラストマーまたはゴムの様に挙動し、粘弾性が増強される場合がある。符号6は鎖同士の架橋部分である。
【0033】
式(1)の放射性不透過性生分解性ポリマーは、第1鎖及び第2の鎖のそれぞれがハロゲンを有するため、一分子中に多量のハロゲンを含ませることができる点で、放射性不透過性を高め、視認性を高めることができる点で有利である。
【0034】
いくつかの実施形態では、R1およびR2が直接結合である。
【0035】
いくつかの実施形態では、R1が-(CH2)p-及びR2が-(CH2)q-であり、pは1~3、qは1~3である。
【0036】
いくつかの実施形態では、R1が-(CH(OH))p-及びR2が-(CH(OH))q-であり、pは1~3、qは1~3である。
【0037】
いくつかの実施形態では、R1およびR2の一方が-(CH(OH))-であり、R1およびR2の他方が-(CH(OH))2-である。
【0038】
いくつかの実施形態では、R3は炭素数1~20の炭化水素鎖であり、好ましくは直鎖又は分岐鎖の炭素数1~20の脂肪族炭化水素鎖であり、より好ましくは直鎖又は分岐鎖の炭素数1~12の脂肪族炭化水素鎖であり、さらにより好ましくは炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素鎖である。
【0039】
いくつかの実施形態では、R3は直鎖又は分岐鎖の炭素数1~20の飽和脂肪族炭化水素鎖であり、好ましくは直鎖又は分岐鎖の炭素数1~12の飽和脂肪族炭化水素鎖であり、より好ましくは炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪族炭化水素鎖である。
【0040】
いくつかの実施形態では、R3は直鎖又は分岐鎖の炭素数1~20の不飽和脂肪族炭化水素鎖であり、好ましくは直鎖又は分岐鎖の炭素数1~12の不飽和脂肪族炭化水素鎖であり、より好ましくは炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖の不飽和脂肪族炭化水素鎖である。
【0041】
いくつかの実施形態では、R1およびR2が直接結合であり、R3は炭素数1~6の直鎖の脂肪族炭化水素鎖である。
【0042】
いくつかの実施形態では、R1およびR2の一方が-(CH(OH))-であり、R1およびR2の他方が-(CH(OH))2-であり、R3は炭素数1~6の直鎖の脂肪族炭化水素鎖である。
【0043】
いくつかの実施形態では、Aは式(7-1)で表される基であり、R5は炭素数1~6の飽和炭化水素鎖であり、X1はハロゲンである。ハロゲンは、ヨウ素、臭素、塩素、またはフッ素であってよい。放射性不透過性とハロゲン結合の強さの点で、ハロゲンはヨウ素であることが好ましい。耐薬性の点で、ハロゲンはフッ素であることが好ましい。
【0044】
いくつかの実施形態では、Aは式(7-1)で表される基であり、R5は1~13個の水素がハロゲンで置換された炭素数1~6の飽和炭化水素鎖である。いくつかの実施形態では、Aは式(7-1)で表される基であり、R5は1~7個の水素がハロゲンで置換された炭素数1~3の飽和炭化水素鎖である。いくつかの実施形態では、Aは式(7-1)で表される基であり、1~3個の水素がハロゲンで置換された炭素数1~3の飽和炭化水素鎖である。いくつかの実施形態では、Aは式(7-1)で表される基であり、R5の炭化水素鎖の末端の炭素の1~3個の水素のみがハロゲンで置換された飽和炭化水素鎖である。
【0045】
いくつかの実施形態では、Aは式(7-2)で表される基であり、Phhaloは官能基としてハロゲンを1~3個有するフェニル基、すなわちフェニル基に結合する水素のうち1~3個がハロゲンに置換されているフェニル基である。式(1)で表される放射線不透過性生分解性ポリマーの化学安定性の点で、Aはベンゼン環を有することが好ましい。ハロゲンは、ヨウ素、臭素、塩素、またはフッ素であってよい。放射性不透過性とハロゲン結合の強さの点で、ハロゲンはヨウ素であることが好ましい。耐薬性の点で、ハロゲンはフッ素であることが好ましい。
【0046】
いくつかの実施形態では、Bは水素である。いくつかの実施形態では、BはAは同一である。
【0047】
k、l、m、nは、好ましくはそれぞれ10~1000であり、より好ましくはそれぞれ10~500である。
【0048】
いくつかの実施形態では、k、l、m、nはそれぞれ1~1000、好ましくはそれぞれ1~1000であり、より好ましくはそれぞれ10~500である。
【0049】
いくつかの実施形態では、mは0であり、かつ、k、l、nはそれぞれ1~1000、好ましくはそれぞれ10~1000であり、より好ましくはそれぞれ10~500である。
【0050】
式(1)の化合物の分子量は特に限定されず、例えば500~1000000であってもよい。500~10000未満程度の低分子量であってもよいし、10000~500000程度の高分子量であってもよい。生分解性の点では、1000~100000であることが好ましい。分子量は公知の測定方法により測定することができる。分子量は好ましくは数平均分子量であり、この場合、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)で測定することができる。
【0051】
特定の実施形態において、式(1)で表される放射線不透過性生分解性ポリマーは、下記式(1-1)で表される放射線不透過性生分解性ポリマーである。
【0052】
【化8】
【0053】
(式中、A、B、k、l、m、nは、式(1)で表される放射線不透過性生分解性ポリマーに関して説明した通りである。)
【0054】
次に、式(1)で表される放射線不透過性生分解性ポリマーの製造方法について説明する。
【0055】
式(1)で表される放射線不透過性生分解性ポリマーは、式(2)で表されるポリマーに、式(8-1)又は式(8-2)で表されるハロゲン化カルボン酸を反応させることにより製造される。
【0056】
【化9】
【0057】
(式(2)中、
1は直接結合、-(CH2)p-、または-(CH(OH))p-であり、pは1~3であり、
2は直接結合、-(CH2)q-、または-(CH(OH))q-であり、qは1~3であり、
3は炭素数1~20の炭化水素鎖であり、
kは、1~1000、
lは、1~1000
mは、0~1000
nは、1~1000
である。)
【0058】
【化10】
【0059】
(式中(8-1)中、R5は少なくとも1つの水素がハロゲンで置換された炭素数1~6の炭化水素基である。)
(式中(8-2)中、Phhaloは官能基としてハロゲンを1~3個有するフェニル基である。)
【0060】
式(2)で表されるポリマーと、式(8-1)又は式(8-2)で表されるハロゲン化カルボン酸をエステル化反応させるときの配合比は特に限定されず、式(2)で表されるポリマーに対して、式(8-1)又は式(8-2)で表されるハロゲン化カルボン酸のモル量が少なくてもよいし、同じでもよいし、多くてもよい。式(2)で表されるポリマーのヒドロキシ基のモル数を1としたときに、式(8-1)又は式(8-2)で表されるハロゲン化カルボン酸の数が0モルよりも大きく、かつ1.5当量モル以下とすることが好ましく、0.01モル~1.5当量モルとすることがより好ましい。
【0061】
式(2)中のR1、R2、およびR3の実施形態は、式(1)で表される放射線不透過性生分解性ポリマーのR1、R2、およびR3の実施形態に関してそれぞれ説明した通りである。
【0062】
式(8-1)で表されるおよび式(8-2)で表される化合物は、いずれもカルボキシル基とハロゲンを有する化合物である。
【0063】
いくつかの実施形態では、式(8-1)で表される化合物は、飽和又は不飽和脂肪族カルボン酸の水素の一部がハロゲンに置換された化合物である。
【0064】
いくつかの実施形態では、式(8-1)で表される化合物は、飽和又は不飽和脂肪族カルボン酸のカルボキシ基と反対側の末端の炭素に結合した水素の1~3個がハロゲンにより置換されたヨウ素に置換された化合物である。
【0065】
いくつかの実施形態では、式(8-1)で表される化合物において、R5は1~13個の水素がハロゲンで置換された炭素数1~6の飽和炭化水素鎖である。いくつかの実施形態では、式(8-1)で表される化合物において、R5は1~7個の水素がハロゲンで置換された炭素数1~3の飽和炭化水素鎖である。いくつかの実施形態では、式(8-1)で表される化合物において、1~3個の水素がハロゲンで置換された炭素数1~3の飽和炭化水素鎖である。いくつかの実施形態では、式(8-1)で表される化合物において、R5は、炭化水素鎖の末端の炭素の1~3個の水素のみがハロゲンで置換された飽和炭化水素鎖である。
【0066】
式(8-1)で表される化合物としては種々の化合物が公知であり、例えばヨード酢酸(I-CH2-COOH)、3-ヨードプロピオン酸などが挙げられる。
【0067】
いくつかの実施形態では、式(8-2)で表される化合物は、ベンゼン環の水素の1つがカルボキシ基に置換され、ベンゼン環の別の水素の1~3つがハロゲンに置換された化合物である。
【0068】
いくつかの実施形態では、式(8-2)で表される化合物は、複素六員環の水素の1つがカルボキシ基に置換され、複素六員環の別の水素の1~3つがハロゲンに置換された化合物である。
【0069】
いくつかの実施形態では、式(8-2)で表される化合物は、ベンゼン環の水素の1~3つがハロゲンに置換されたベンゼンが、飽和直鎖炭化水素鎖を介してカルボキシル基と、結合された化合物である。
【0070】
式(8-2)で表される化合物としては種々の化合物が公知であり、例えばトリヨード安息香酸、ジアトリゾ酸、イオタラム酸(iothalmic acid)、2,3,5-トリヨード安息香酸、3-(4-ヨードフェニル)プロピオン酸、3-(2-ヨードフェニル)プロピオン酸;2,4,6-トリヨードフェニル)プロパン酸;ヨード安息香酸、2-ヨードピリジン-4-カルボン酸などが挙げられる。
【0071】
このように、生分解性ポリエステルの側鎖のヒドロキシ基と、カルボキシル基とヨウ素を有する化合物のカルボキシル基とが、エステル結合することにより、ヨウ素を有する生分解性ポリマー簡便に製造することができる。また、カルボキシル基とヨウ素を有する化合物は、安価な公知の製品を利用することができるため、ヨウ素を有する生分解性ポリマーの製造コストを抑える点で有利である。
【0072】
ハロゲンは、ヨウ素、臭素、塩素、またはフッ素であってよい。放射性不透過性とハロゲン結合の強さの点で、ハロゲンはヨウ素であることが好ましい。耐薬性の点で、ハロゲンはフッ素であることが好ましい。
【0073】
なお、式(2)で表されるポリマーと式(8-1)又は式(8-2)で表されるハロゲン化カルボン酸との反応に用いられる式(8-1)又は式(8-2)で表されるハロゲン化カルボンは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。例えば、式(2)で表されるポリマーに対し、2種類以上の式(8-2)で表されるハロゲン化カルボンを反応させてもよい。
【0074】
式(2)で表されるポリマーは、主鎖の下記の式(5)で表される両端と側鎖に水酸基を有するポリオールを、下記の式(6)で表されるジカルボン酸又はジカルボン酸エステルと酵素触媒により重合することで得られる、ポリエステルを主鎖とする生分解性ポリマーである。酵素触媒を用いた重合反応については V. Taresco et al. / Polymer 89 (2016) 41e49)を参照されたい。使用可能な酵素触媒としては、Novozyme 435(固定化リパーゼ、Novozyme社)、SPRIN Liposorb CALB(固定化Candida antarcticaリパーゼB、SPRIN technologies社)などが挙げられる。酵素触媒を用いることにより、式(2)で表されるポリマーにおいて、ポリオールの側鎖の水酸基の一部ではエステル結合が生じるが、一部は水酸基が残る。このため、主鎖(第1の鎖)の繰り返し単位と分岐鎖(第2の鎖)の繰り返し単位の両方において、繰り返し単位の途中で水酸基が残っているため、後の式(8-1)で表される化合物または式(8-2)で表される化合物とのエステル化反応により、ハロゲン結合が網目状に形成された式(1)の放射性不透過性生分解性ポリマーを製造することが可能となる。
【0075】
【化11】
【0076】
式(5)中のR1、R2、および式(6)中のR3の実施形態は、式(1)で表される放射線不透過性生分解性ポリマーのR1、R2、およびR3の実施形態に関してそれぞれ説明した通りである。
【0077】
式(6)中のR4は水素又は炭化水素基である。
【0078】
4が炭化水素基の場合、飽和又は不飽和の炭化水素鎖であってよく、脂肪族炭化水素鎖、脂環式炭化水素鎖、芳香族炭化水素鎖、又はそれらの組み合わせであってもよい。R4は炭素鎖の部分が直鎖であっても分岐鎖であってもよいが、生分解性の点では直鎖が好ましい。
【0079】
一つの実施形態において、R4は好ましくは直鎖又は分岐鎖の炭素数1~20の脂肪族炭化水素鎖であり、より好ましくは直鎖又は分岐鎖の炭素数1~12の脂肪族炭化水素鎖であり、さらにより好ましくは炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素鎖であり、例えばメチル、エチル、プロピル、n-ブチル、又はt-ブチルである。
【0080】
一つの実施形態において、R4は好ましくは直鎖又は分岐鎖の炭素数1~20の飽和脂肪族炭化水素鎖であり、より好ましくは直鎖又は分岐鎖の炭素数1~12の飽和脂肪族炭化水素鎖であり、さらにより好ましくは炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪族炭化水素鎖である。
【0081】
一つの実施形態において、R4は好ましくは直鎖又は分岐鎖の炭素数1~20の不飽和脂肪族炭化水素鎖であり、より好ましくは直鎖又は分岐鎖の炭素数1~12の不飽和脂肪族炭化水素鎖であり、さらにより好ましくは炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖の不飽和脂肪族炭化水素鎖であり、例えばビニルである。
【0082】
4が水素の場合、ジカルボン酸をそのままジオールを重合できる点で好ましい。R4がメチル又はエチルの場合、副生成物であるメタノールやエタノールが低沸点のため、エステル縮合反応自体が進みやすく好ましい。R4がビニル基の場合、得られるビニルアルコールがアセトアルデヒドとして系外に排出される点で好ましい。
【0083】
本発明の実施形態の式(1)の各々の放射性不透過性生分解性ポリマーは、該放射性不透過性生分解性ポリマーと、薬剤とを含む薬物送達用担体として使用することもできる。薬剤を本発明の実施形態の放射性不透過性生分解性ポリマーで内包することにより、生体内で、薬剤を所望の分解速度で徐放させることが可能となる。また、本発明の実施形態の放射性不透過性生分解性ポリマーは、放射性不透過性を有するため、生体内の薬物送達用担体をトレースすることもできる。
【0084】
本発明の実施形態の生分解性ポリマーから、直径が1nm以上1000nm未満のナノビーズ、医療機器用の外側部材またはコーティングなどを作製することもできる。
【0085】
本発明の実施形態の生分解性ポリマーを含有する樹脂組成物を成形してなるナノビーズは、血管塞栓剤として使用することができる。例えば、ナノビーズにより血管を塞栓して、塞栓の先に続くがんを壊死させたり、血管が破裂した際の塞栓剤として用いることができる。
【0086】
本発明の実施形態の生分解性ポリマーからなる部材またはコーティングを備えた医療機器としては、体内に留置されるインプラントなどが挙げられる。これらの医療機器は、放射線不透過性であるため、インビボにおけるCT検査によるイメージングが可能である。
【0087】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例0088】
実施例1 放射性不透過性生分解性ポリマーの製造
1.PGAの合成
先行研究(V. Taresco et al. / Polymer 89 (2016) 41e49)に則って実施した。グリセロール(1)とアジピン酸ジビニル(2)とを超脱水テトラヒドロフラン(20 mL)に溶解させ、酵素触媒 Novozyme435(Novozyme社)を投入し、撹拌した (50 ℃, 200 rpm, 24 h)。得られた溶液をろ過し、酵素触媒を取り除いた。エバポレータを用いて得られた溶液を十分に蒸発させた後、残留酵素を失活させるためにオーブンに入れた(100℃, 1 h)。その後、再度クロロホルムに溶解させたのち、メタノール(1L)に2回、ヘキサンに(1L)に一回ずつ再沈澱して精製し、ポリグリセロールアジペート(PGA)(3)を得た。得られたポリマーは常温で真空乾燥させた。1H NMRによると、PGA(3)の分子量は約17,000であった。
【0089】
【化12】
【0090】
2.PGA-iodineの合成
1.で合成したPGA(3)、4- (ジメチルアミノ)ピリジニウム-4-トルエンスルホン酸、各種カルボン酸含有化合物(ヨード酢酸(I)、安息香酸(B)、3-ヨード安息香酸(IB))を超脱水ジクロロメタン(20 mL)に溶解させ、アイスバスで冷却しながらN,N'-ジイソプロピルカルボジイミドを滴下した。その後常温に戻し、24時間撹拌した。得られた溶液をメタノール(1L)に2回、ヘキサンに(1L)に一回ずつ再沈澱して精製した。得られたポリマーは常温で真空乾燥させた。得られたポリマーをそれぞれPGA_I, PGA_B, PGA_IB, PGA_3IB,とした。PGA_Bはハロゲンを有しない対照ポリマーである。各ポリマーのNMRを確認したところ、PGA以外のポリマーでは、PGAのOH基がカルボン酸含有化合物によりエステル化されていることが確認された(図2)。なお、図2中のPGA_MeはPGAを酢酸でエステル化したポリマーである(参考例)。
【0091】
水飴状だったPGAに対し、PGA_Iは褐色の水飴状であった。PGA_Bは白いゴム状の物質であり、PGA_IBは黄色のゴム状、PGA_3IBは桃色の固体物質として得られた(図3)。
【0092】
【化13】
【0093】
【化14】
【0094】
実施例2 示差走査熱量分析(DSC)
実施例1で得られたポリマーのDSC曲線を図4に示す。ガラス転移温度(Tg)はPGA, PGA_I, PGA_B, PGA_IB, PGA_3IBの順に高くなった(表1)。PGAにヨード酢酸を結合させたPGA_Iは、ハロゲン結合の影響によりTgが上昇した。また、PGA_IよりPGA_BのTgが高いのは、ベンゼン環によるπ-π相互作用による影響が大きいためと考えられる。同様にして、PGA_IBのTgがPGA_IおよびPGA_Bより高くなったのは、ハロゲン結合とπ-π相互作用の両方の影響によるものだと思われる。また、ハロゲン結合をもたらすヨウ素の含有率がもっとも大きいPGA_3IBは、最も高いTgを示したことからも、これはハロゲン結合の影響と考えられた。
【0095】
【表1】
【0096】
実施例3 ポリマーのCTスキャン
実施例1で得られた各種ポリマーをCTスキャンにかけた結果を図5に示す。PGA, PGA_I, PGA_IB, PGA_3IBの4種のうち、ヨウ素を結合させたPGA_I, PGA_IB, PGA_3IBの視認性が高くなっていることがわかった(図6)。視認性測定条件を以下に示す。重量換算でのヨウ素含有率がPGA_3IB,PGA_I, PGA_IBの順であり、その順に視認性が高くなった。以上のことから、ヨウ素の含有率が多いほど視認性が高くなることがわかった。
画素サイズ30μm
撮影条件:
管電圧、電流:200 kV, 100 μA
撮影ビュー数:1200枚
画像取得モード:連続回転
金属フィルター:Cu 2 mm
線質硬化補正:アルミ用使用
データ処理ソフト:ボリュームグラフィクス社 VGSTUDIO MAX ver3.5 。
図1
図2
図3
図4
図5
図6