(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184004
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】ポリエステル繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 6/84 20060101AFI20231221BHJP
C08G 63/16 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
D01F6/84 301D
D01F6/84 301H
C08G63/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097879
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】591121513
【氏名又は名称】クラレトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】池田 貴志
(72)【発明者】
【氏名】中塚 均
(72)【発明者】
【氏名】河角 慎也
(72)【発明者】
【氏名】日笠 和之
【テーマコード(参考)】
4J029
4L035
【Fターム(参考)】
4J029AA05
4J029AB01
4J029AC02
4J029AD01
4J029AE02
4J029BA02
4J029BA03
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4J029BA05
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4J029CA02
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4J029CA06
4J029CB05A
4J029CB06A
4J029CB10A
4J029CC06A
4J029JA093
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4J029JA203
4J029JA253
4J029JE182
4J029JF251
4J029JF361
4J029JF471
4J029KB25
4J029KE03
4J029KE08
4J029KE15
4L035AA05
4L035BB31
4L035EE07
4L035EE20
4L035GG01
(57)【要約】
【課題】染色性及び耐光堅牢性に優れたポリエステル繊維を提供する。
【解決手段】ポリエステル樹脂から構成されるポリエステル繊維であって、該ポリエステル樹脂がジカルボン酸成分とグリコール成分からなる共重合体であり、該グリコール成分のうち95~99.87モル%がエチレングリコール及び/又はそのエステル形成性誘導体であり、0.13~5モル%が1,2-プロパンジオール及び/又はそのエステル形成性誘導体であることを特徴とする、ポリエステル繊維。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂から構成されるポリエステル繊維であって、該ポリエステル樹脂がジカルボン酸成分とグリコール成分からなる共重合体であり、該グリコール成分のうち95~99.87モル%がエチレングリコール及び/又はそのエステル形成性誘導体であり、0.13~5モル%が1,2-プロパンジオール及び/又はそのエステル形成性誘導体であることを特徴とする、ポリエステル繊維。
【請求項2】
請求項1に記載のポリエステル繊維を少なくとも一部に含む、繊維構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は染色性及び耐光堅牢性に優れたポリエステル繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、力学的特性や染色性及び取扱い性などの特性から、衣料用途を中心に様々な分野で使用されている。しかし、一般にポリエステル繊維はその緻密な繊維構造から染色性に劣っており、より良好な染色性を有するポリエステル繊維が求められている。そこで、ポリエステル樹脂のジカルボン酸成分やグリコール成分を変性することで、染色性を改良させる方法がこれまで数多く検討されている。
例えば、特許文献1(国際公開WO2011/068195号)には、ジカルボン酸成分を変性することで得られる常温可染ポリエステル繊維が開示されている。また、特許文献2(特開2009-209145号公報)及び特許文献3(国際公開WO2013/035559号)には、グリコール成分である1,2-プロパンジオール由来の成分を変性又は含有させることで改質されたポリエステル樹脂から得られるポリエステル繊維が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2011/068195号
【特許文献2】特開2009-209145号公報
【特許文献3】国際公開WO2013/035559号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のポリエステル繊維は、常温染色できるものの、ポリエチレンテレフタレート繊維よりも融点が低く、耐熱性が低いことに起因して、紡糸性が不十分な場合があった。また、特許文献2に記載の、1,2-プロパンジオールとテレフタル酸から得られるポリトリメチレンテレフタレート繊維は、ポリエチレンテレフタレート繊維に比べて、染色性と流動性に優れているものの、耐光堅牢性に問題があった。さらに、融点が低く、耐熱性が低いことに起因して、紡糸性が不十分な場合があった。特許文献3に記載のポリエステル繊維は、ポリエステル中に含まれる1,2-プロパンジオール由来の成分を15~500ppmに限定することで耐熱性が改善し、口金の汚れが低減し生産効率が増すものの、耐光堅牢性に問題があった。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記課題を解決するものであり、染色性及び耐光堅牢性に優れたポリエステル繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の好適な態様を提供するものである。
[1]ポリエステル樹脂から構成されるポリエステル繊維であって、該ポリエステル樹脂がジカルボン酸成分とグリコール成分からなる共重合体であり、該グリコール成分のうち95~99.87モル%がエチレングリコール及び/又はそのエステル形成性誘導体であり、0.13~5モル%が1,2-プロパンジオール及び/又はそのエステル形成性誘導体であることを特徴とする、ポリエステル繊維。
[2]前記[1]に記載のポリエステル繊維を少なくとも一部に含む、繊維構造体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、染色性及び耐光堅牢性に優れたポリエステル繊維を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のポリエステル繊維に用いるポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分とグリコール成分からなる共重合体であり、該グリコール成分のうち95~99.87モル%がエチレングリコール及び/又はそのエステル形成性誘導体であって、0.13~5モル%が1,2-プロパンジオール及び/又はそのエステル形成性誘導体である。
【0009】
本発明に用いるポリエステル樹脂のグリコール成分のうち95~99.87モル%は、エチレングリコール及び/又はそのエステル形成性誘導体である。エチレングリコール及び/又はそのエステル形成性誘導体が上記下限値よりも少ないと、耐熱性が低下し、紡糸性が悪くなるだけでなく、耐光堅牢性も低下し、ポリエステル繊維が本来有する優れた繊維物性を大きく損なう。また、エチレングリコール及び/又はそのエステル形成性誘導体が上記上限値を超えると、染色性が低下する。エチレングリコール及び/又はそのエステル形成性誘導体は97.5~99.85モル%であることが好ましく、98~99.83モル%であることがより好ましい。
【0010】
本発明に用いるポリエステル樹脂のグリコール成分のうち、0.13~5モル%が1,2-プロパンジオール及び/又はそのエステル形成性誘導体である。1,2-プロパンジオール及び/又はそのエステル形成性誘導体が上記上限値より多いと、ポリエステルの耐熱性が悪化して紡糸性が悪くなり、繊維製品の品位が悪くなるだけでなく、得られた繊維の融点が低くなるため、耐アイロン性などの消費性能が問題となる。また、得られた繊維を染色した場合には、耐光堅牢性が悪くなる。1,2-プロパンジオール及び/又はそのエステル形成性誘導体が上記下限値より少ないと、やはりポリエステルの耐熱性が悪化して紡糸性が悪くなり、繊維製品の品位が悪くなるばかりでなく、十分な染色性が得られない。1,2-プロパンジオール及び/又はそのエステル形成性誘導体は0.14~4モル%であることが好ましく、0.15~3モル%であることがより好ましい。
【0011】
耐光堅牢性が低下せずに染色性が向上する理由として、現時点では明確に解明されていないが、ポリマーガラス転移点が著しく低下しない範囲で、ポリマー分子骨格に組みこまれた1,2-プロパンジオールのメチル基が分子間に適度な空隙を形成し、非晶領域での染料の染着座席が増えるためと推定される。また、耐光堅牢性が高い理由は、エーテル結合の様に光エネルギーを吸収して分子骨格の解裂が生じ、染色堅牢性に悪影響を及ぼす様な酸素ラジカルの発生などが発生しないためと推定される。
【0012】
なお、共重合成分の1,2-プロパンジオール及び/又はそのエステル形成性誘導体の含有率は、ポリエステル樹脂を分解して分析した際に検出される1,2-プロパンジオール及び/又はそのエステル形成性誘導体の総量から求められるものであって、これはポリマー鎖中に共重合されている1,2-プロパンジオール由来構造からなる1,2-プロパンジオール及び/又はそのエステル形成性誘導体だけでなく、ポリマー間に混在している1,2-プロパンジオール及び/又はそのエステル形成性誘導体も含めた総量を表す。
【0013】
本発明に用いるポリエステル樹脂のモノマーであるジカルボン酸成分は、ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であることが好ましく、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル-4,4’-ジカルボン酸、及びそれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。本発明で言うエステル形成性誘導体とは、これらジカルボン酸の低級アルキルエステル、酸無水物、アシル塩化物などであり、メチルエステル、エチルエステル、ヒドロキシエチルエステルなどが好ましく用いられる。本発明で用いるジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体としてより好ましい態様は、テレフタル酸及び/又はそのジメチルエステルである。
【0014】
本発明に用いるポリエステル樹脂の共重合成分としては、例えばイソフタル酸、5-スルホイソフタル酸塩(5-スルホイソフタル酸リチウム塩、5-スルホイソフタル酸カリウム塩、5-スルホイソフタル酸ナトリウム塩など)、フタル酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体や、琥珀酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9-ノナンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体などのジカルボン酸成分が挙げられる。
【0015】
また、エチレングリコールをジオール成分にするポリエステルの共重合成分として、1,2-プロパンジオールだけでなく、例えば1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、分子量が500~20000のポリオキシアルキレングリコール(ポリエチレングリコールなど)、ジエチレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ビスフェノールA-エチレンオキサイド付加物、シクロヘキサンジメタノールなどのジオール成分を本発明のポリエステル繊維の物性を損なわない範囲で共重合してもよいが、共重合成分は1,2-プロパンジオール及び/又はそのエステル形成性誘導体のみであってもよい。
【0016】
本発明に用いるジカルボン酸成分とグリコール成分は、石油由来であってもよく、バイオマス由来であってもよい。バイオマス由来のエチレングリコールには1,2-プロパンジオールが含まれていることが多いため、精製により含有量を調整したバイオマス資源由来のエチレングリコールを用いることもできる。
また、上述した本発明に用いるポリエステル繊維の原料は、ケミカルリサイクルされたモノマーやオリゴマーであってもよい。
【0017】
本発明に用いるポリエステル樹脂は、通常の方法で製造される。例えば、直接エステル化反応の際、反応温度を250℃以下、圧力を1.2×100,000Pa以上とするのが好ましい。さらに続く重縮合反応では、反応温度を280℃以下、圧力は減圧にすればするほど重合時間が短くなり好ましいが、110Pa以上を保つことが好ましい。各反応段階で、これより高い温度、低い圧力のもとでは、エチレングリコールより沸点の低い1,2-プロパンジオールが優先的に揮発し、ポリエステル中に必要量含有されない場合がある。
【0018】
重縮合反応に使用する触媒には、公知のアンチモン化合物、アルミニウム化合物、ゲルマニウム化合物やチタン化合物が挙げられる。経済的にはアンチモン化合物が最も好ましく、アンチモンフリーの観点からはアルミニウム化合物、ゲルマニウム化合物及びチタン化合物が好ましい。
【0019】
本発明に用いるポリエステル樹脂には、安定剤としてリン化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、蛍光増白剤、艶消剤、可塑剤もしくは消泡剤又はその他の添加剤等を必要に応じて配合してもよい。
【0020】
また、本発明においてさらに高分子量のポリエステルを得るため、上記の方法で得られたポリエスエルについて、さらに固相重合を行ってもよい。固相重合は、装置・方法は特に限定されないが、不活性ガス雰囲気下又は減圧下で加熱処理されることで実施される。不活性ガスはポリエステルに対して不活性なものであれば良く、例えば窒素、ヘリウム、炭酸ガスなどを挙げることができるが、経済性から窒素が好ましく用いられる。また、減圧下としては、より減圧条件にすることが固相重縮合反応に要する時間を短くできるため有利であるが、110Pa以上を保つことがポリエステル中に1,2-プロパンジオール由来の成分を残存させるために好ましい。
【0021】
本発明に用いるポリエステル樹脂はバッチ重合、半連続重合、連続重合で生産することができる。
【0022】
本発明に用いるポリエステル樹脂は、固有粘度0.6~0.7であるが、好ましくは0.62~0.68、より好ましくは0.63~0.66である。固有粘度が上記上限値を上回ると、繊維化時の高速紡糸性が乏しくなる場合がある。また、紡糸が可能であり、目標の染着率が得られた場合においても、筒編染色生地で染色斑や筋の発生、織編物の風合いが劣るなど、得られた織編繊維の表面品位が低下し衣料用として好ましくない場合がある。また、固有粘度が上記下限値を下回ると紡糸中に断糸しやすく生産性が乏しくなる場合があり、得られた繊維の強度も低くなる場合がある。更に、紡糸が可能であり、目標の染着率が得られた場合においても、筒編染色生地で染色斑や筋の発生、織編物の風合いが劣るなど、得られた織編繊維の表面品位が低下し衣料用として好ましくない場合がある。
【0023】
本発明のポリエステル繊維は一般的な紡糸設備で製造することが可能であり、低速、中速で溶融紡糸した後に延伸する方法、高速による直接紡糸延伸方法、紡糸後に延伸、仮撚りを同時に又は続いて行う方法などの任意の製糸方法で製造することが出来る。
【0024】
例えば、本発明のポリエステル繊維の製造方法における紡糸工程においては、ポリエステル樹脂を通常の溶融紡糸装置を用いて口金より紡出する。また、口金の形状や大きさによって、得られる繊維の断面形状や径を任意に設定することが可能である。
【0025】
例えば、単軸押出機や二軸押出機を用いてポリエステル樹脂を溶融混練する。溶融混練する際の温度は、1,2-プロパンジオール及び/又はそのエステル形成性誘導体の共重合量によって異なるが、斑なく安定に溶融混練し且つ安定な製糸性や品位を得るためには、ポリマーの融点から20~60℃高い温度範囲で溶融混練し、溶融ポリマーを紡糸頭に導き、吐出する。
【0026】
そして、上記によって溶融紡出したポリエステル繊維を、一旦そのガラス転移温度以下の温度、好ましくはガラス転移温度よりも10℃以上低い温度に冷却する。この場合の冷却方法や冷却装置としては、紡出したポリエステル繊維をそのガラス転移温度以下に冷却できる方法や装置であればいずれでもよく特に制限されないが、紡糸口金の下に冷却風吹き付け筒などの冷却風吹き付け装置を設けておいて、紡出されてきたポリエステル繊維に冷却風を吹き付けてガラス転移温度以下に冷却するのが好ましい。
【0027】
次に、より効率的な生産性で且つ安定した品位の延伸糸を得る方法として、紡出後に一旦ガラス転移温度以下に糸条を冷却した後、引き続いてそのまま直接加熱帯域、具体的にはチューブ型加熱筒などの装置内を走行させて延伸熱処理し給油後に3500~5500m/分の速度で捲取ることで延伸糸を得ることができる。加熱工程における加熱温度は延伸しやすい温度、すなわちガラス転移温度以上で融点以下の温度が必要である。
【0028】
油剤は加熱装置による延伸処理工程通過後に付与する。これにより油剤による延伸断糸が少なくなる。油剤としては通常ポリエステルの紡糸に用いられるものであれば制限はない。給油方法としてはギヤポンプ方式によるオイリングノズル給油又はオイリングローラー給油のいずれでもよい。ただし、紡糸速度が高速化するにつれて前者の方式の方が糸条に斑無く、安定した油剤付着が可能である。油剤の付着量については特に制限はなく、断糸や原糸毛羽の抑制効果と織編物の工程に適した範囲であれば適宜調節しても良い。
そのうちでも、油剤の付着量を0.3~2.0質量%とすることが高品質のポリエステル繊維を円滑に得ることができるので好ましく、0.3~1.0質量%とすることがより好ましい。
【0029】
本発明のポリエステル繊維には、それぞれ、酸化チタン、硫酸バリウム、硫化亜鉛などの艶消剤、リン酸、亜リン酸などの熱安定剤、あるいは光安定剤、酸化防止剤、酸化ケイ素などの表面処理剤などが添加剤として含まれていてもよい。
【0030】
本発明のポリエステル繊維は、色度b*値が4.0~17.0であることが好ましく、より好ましくは4.5~16.0、最も好ましくは5.0~15.0である。b*値が上記上限値を上回ると、染色後の耐光堅牢性が低下するとともに製糸時の高速紡糸性が著しく乏しくなる場合がある。また、繊維が得られた場合も品位が低いために筒編染色生地で染色斑や筋の発生、織編物の風合いが劣るなど、衣料用として好ましくない場合もある。また、b*値が上記下限値を下回ると染色性は十分であるが高速紡糸性が乏しくなる場合がある。
【0031】
本発明のポリエステル繊維は、染色後の染色性の指標K/Sが19.0以上であることが好ましい。K/Sが上記下限値を下回ると十分な染色性が得られたと言えず、衣料用として好ましくない場合がある。K/Sの上限値については特に制限はないが、40以下であってもよい。
【0032】
本発明のポリエステル繊維は、耐光堅牢度が4級以上であることが好ましい。そのいずれかが3級以下であった場合、取扱い性の点から一般衣料用途としては好ましくない場合がある。
【0033】
本発明によれば、染色性及び耐光堅牢性に優れ、直接紡糸延伸手法又はその他の一般的な溶融紡糸手法においても安定した品質及び工程性が得られるポリエステル繊維を提供することができる。
【実施例0034】
以下、実施例によって本発明を詳しく説明するが、これらは本発明を限定するものでない。なお、本発明で得られた繊維の1,2-プロパンジオール成分の共重合量、繊度、引張強度及び伸度の各物性、紡糸性、耐光堅牢性、色度b*値、染着濃度K/Sの評価は以下の方法に従った。
【0035】
<繊維の1,2-プロパンジオールの共重合量>
繊維の1,2-プロパンジオールの共重合量は、繊維を重水素化トリフルオロ酢酸溶媒中に3.0%(wt/vol)の濃度で溶解し、40℃で400MHz 1H-NMR(日本電子製核磁気共鳴装置JNM-ECZ 400S)装置を用いて測定した。
【0036】
<紡糸性>
以下の基準に従って、紡糸性の評価を行った。
◎:24時間の連続紡糸を行い、紡糸時の断糸が何ら発生せず、しかも得られたポリエステル繊維には毛羽・ループが全く発生していないなど、紡糸性が極めて良好である。
○:24時間の連続紡糸を行い、紡糸時の断糸が1回以下の頻度で発生し、得られたポリエステル繊維に毛羽・ループが全く発生していないか、あるいは僅かに発生したものの、紡糸性がほぼ良好である。
△:24時間の連続紡糸を行い、紡糸時の断糸が3回まで発生し、紡糸性が不良である。
×:24時間の連続紡糸を行い、紡糸時の断糸が3回よりも多く発生し、紡糸性が極めて不良である。
【0037】
<繊度>
JIS L 1013「化学繊維フィラメント糸試験方法」に準拠して、得られた繊維の総繊度及び単糸繊度を測定した。総繊度はマルチフィラメント全体の繊度として測定し、単糸繊度は測定した総繊度の値をフィラメント数で除した値として算出した。
【0038】
<引張強度及び伸度>
JIS L 1013に準拠し、インストロン型の引張試験機(インストロン社製5500R)を用いて、試長20cm、初荷重0.1g/dtex、引張速度10cm/minの条件で測定し、強度及び伸度を求め、5点以上の平均値を採用した。
【0039】
<色度(b*値)>
色度b*値は、コニカミノルタ社製分光光度計「CM-3700A」を用いて、正反射処理:SCE、測定径:LAV(25.4mm)、UV条件:100%Full、視野:2度、主光源:C光源の条件で測定した。
測定用サンプルには、得られた繊維を丸編機(28ゲージ)を用いて筒編地を作製し、精練した後、180℃でプレセットしたものを用いた。
【0040】
<染色性>
染着濃度(K/S)は、染色後のサンプル編地の最大吸収波長における反射率Rを測定し、以下に示すKubelka-Munkの式から求めた。
分光反射率測定器:分光光度計 HITACHI
C-2000S Color Analyzer
K/S=(1-R)2 /2R
測定用サンプルには、得られた繊維の筒編地を精練した後、180℃でプレセットし、以下の染料で染色したものを用いた。
(染色)
・染料:Dianix Red UN-SE 1.0%owf
助剤:Disper TL:1.0cc/l
:ULTRA MT-N2:1.0cc/l
浴比:1/50
染色温度×時間:110℃×40分
(還元洗浄)
水酸化ナトリウム:1.0g/L
ハイドロサルファイトナトリウム:1.0g/L
アミラジンD:1.0g/L
浴比:1/50
還元洗浄温度×時間:80℃×20分
【0041】
<耐光堅牢度>
JIS L 0842の測定方法に準拠し、ブラックパネル63℃、第3露光法の測定方法にて測定した。
なお、測定用サンプルには、染着濃度の測定サンプルと全く同様に、染色後のサンプル編地を用いた。
【0042】
(実施例1)
エチレングリコール45重量部からなるグリコール原料とテレフタル酸100重量部からなるジカルボン酸原料とを混合してグリコール原料対ジカルボン酸原料のモル比が1.2対1のスラリーを調製した。このスラリーに1,2-プロパンジオールを得られるポリマーに対して、520ppmとなるよう添加し、加圧下(絶対圧0.25MPa)、250℃でエステル化率が95%になるまでエステル化反応を行い、低重合体を得た。次に、触媒として三酸化アンチモン350ppm、安定剤として亜リン酸を10ppm加え、120Paの減圧下、280℃で低重合体を重縮合し、極限粘度0.65dl/gの重合体を得た。
得られた重合体を押し出し機で溶融混練し、孔数24個の口金を用いて紡糸温度290℃の条件で、巻取り速度3000m/分で溶融紡糸し、ポリエステルフィラメント142dtex/24フィラメントで紡出した後、この未延伸糸を80℃の熱ローラー及び120℃の熱プレートに接触させ、延伸倍率1.7倍で延伸することにより、84dtex/24フィラメントのポリエステル繊維を得た。
紡糸性及び得られた繊維における1,2-プロパンジオール含有量、繊度、強度、伸度、色度、染色性、耐光堅牢性を表1に示した。いずれも良好に紡糸でき、良好な染色性及び耐光堅牢性を有していた。
【0043】
(実施例2~4)
重合時に添加する1,2-プロパンジオール量を変更し、得られた繊維の共重合量を調整した以外は、実施例1と同様にして表1に示すポリエステル繊維を得た。いずれも良好に紡糸でき、良好な染色性及び耐光堅牢性の物性を有していた。
【0044】
(実施例5)
紡糸方法を変更した以外は実施例1と同様にして、表1に示す繊維を得た。変更した紡糸方法は、孔数24個の口金を用いて紡糸温度290℃、温度25℃、湿度60%の冷却風を0.5m/秒の速度で紡出糸条に吹付け糸条を60℃以下にした後、紡糸口金下方1.2mの位置に設置したチューブヒーター(内温185℃)に導入してチューブヒーター内で延伸した後、4500m/分の速度で捲取り、56dtex/24フィラメントのポリエステル繊維を得た。得られた繊維は、良好な繊維物性を有していた。
【0045】
(比較例1~4)
重合時に添加する1,2-プロパンジオール量を変更し、得られた繊維の共重合量を調整した以外は、実施例1と同様にして表1に示す84dtex/24フィラメントのポリエステル繊維を得た。
【0046】
【0047】
比較例1では、1,2-プロパンジオールの共重量が少ないため、紡糸性が劣るだけでなく、染色性及び耐光堅牢性がやや劣っていた。比較例2および3では、1,2-プロパンジオールの共重量が多すぎるため、紡糸性が劣るだけでなく、耐光堅牢性も不十分であった。比較例4では、1,2-プロパンジオールを共重合していないため、耐光堅牢性は良好であるが、染色性及び紡糸性が不十分であった。
本発明のポリエステル繊維はフィラメントの形態でも使用できるが、ステープル、紡績糸、織編物の布帛、乾式不織布、湿式不織布の形態でも使用できる。具体的には、例えば紳士婦人向けフォーマル或いはカジュアルファッション衣料用途、スポーツ用途、ユニフォーム用途、自動車や航空機などの内装素材用途、カーテンやカーペットなど、多岐に渡って有効に利用することができる。さらには、プラスチック用補強材(FRP)、ゴム用補強材(FRR)、タイヤコード、スクリーン紗、エアーバッグ、ジオグリッド、セパレータ等の電池構造品、液体フィルター、エアフィルター、紙基材、ワイパー、人工皮革、合成皮革等にも好適に使用される。