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特開2023-184008リニアモータ及びこれを備えた電動サスペンション装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184008
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】リニアモータ及びこれを備えた電動サスペンション装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 41/03 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
H02K41/03 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097888
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】青山 康明
(72)【発明者】
【氏名】星 遼佑
(72)【発明者】
【氏名】一丸 修之
【テーマコード(参考)】
5H641
【Fターム(参考)】
5H641BB06
5H641GG02
5H641GG04
5H641GG19
5H641HH03
(57)【要約】
【課題】本発明は、電機子の磁性体に発生する渦電流を抑制し、渦電流損失による効率の低下、推力の低下を抑制したリニアモータを提供する。
【解決手段】
本発明のリニアモータ1は、リング状のコイル5とティース2を備えた電機子8と、電機子8の外周側に備えられた永久磁石10とが相対的に動作する。ティース2は、第1のティース2aと、軸方向において第1のティース2aと隣り合う第2のティース2bを備える。コイル5は、第1のティース2aと第2のティース2bとの間に備えられる。第1のティース2aの内周側には、径方向において重なるように第2のティース2bの一部が配置される。第1のティース2aの一部と第2のティース2bの一部は、軸方向から見た同心円の円周上に位置するように配置されている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング状のコイルとティースを備えた電機子と、前記電機子の外周側に備えられた永久磁石とが相対的に動作するリニアモータであって、
前記ティースは、第1のティースと、軸方向において前記第1のティースと隣り合う第2のティースを備え、
前記コイルは、前記第1のティースと前記第2のティースとの間に備えられ、
前記第1のティースの内周側には、径方向において重なるように前記第2のティースの一部が配置され、
前記第1のティースの一部と前記第2のティースの一部は、軸方向から見た同心円の円周上に位置するように配置されたことを特徴とするリニアモータ。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1のティースは、軸方向に向かって突出した突出部を備え、
前記突出部は、径方向外側に向かって突出した複数の第1凸部と、周方向に隣り合う前記第1凸部同士の間であって、前記第1凸部の径方向外側の位置から径方向内側に向かって切欠かれた複数の第1凹部を備え、
前記第2のティースの一部は、前記第1凹部に位置させたことを特徴とするリニアモータ。
【請求項3】
請求項2において、
前記第1のティースと対向する側の前記第2のティースは、前記第1のティースの突出部が挿入される挿入部を備え、
前記挿入部は、径方向内側に向かって突出した第2凸部を備え、
前記第2凸部を前記第1凹部に位置させたことを特徴とするリニアモータ。
【請求項4】
請求項3において、
前記第2凸部を前記第1凹部に位置させて前記電機子の回転力を支持することを特徴とするリニアモータ。
【請求項5】
請求項3において、
前記第1のティースの内周側及び前記第2のティースの内周側は、それぞれ軸方向に貫通した貫通孔を備え、前記貫通孔に前記コイルに接続する配線を収容したことを特徴とするリニアモータ。
【請求項6】
請求項5において、
前記第1凹部は切欠き開口部を備え、前記配線は前記切欠き開口部を通して前記貫通孔に収容したことを特徴とするリニアモータ。
【請求項7】
請求項3において、
前記第1凸部は、外周面から径方向内側に凹んだ段部を備え、
前記段部に前記第2のティースの一部を位置させたことを特徴とするリニアモータ。
【請求項8】
請求項1において、
前記第1のティースと前記第2のティースの境界位置面を、前記第1のティースの径方向における磁路断面積の1/2より前記コイルに近い側に配置することを特徴とするリニアモータ。
【請求項9】
リング状のコイルとティースを備えた電機子と、前記電機子の内周側に備えられた永久磁石とが相対的に動作するリニアモータであって、
前記ティースは、第1のティースと、軸方向において前記第1のティースと隣り合う第2のティースを備え、
前記コイルは、前記第1のティースと前記第2のティースとの間に備えられ、
前記第1のティースの外周側には、径方向において重なるように前記第2のティースの一部が配置され、
前記第1のティースの一部と前記第2のティースの一部は、軸方向から見た同心円の円周上に位置するように配置されたことを特徴とするリニアモータ。
【請求項10】
請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載のリニアモータを備えた電動サスペンション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアモータ及びこれを備えた電動サスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各分野における電動化の拡大に伴い、モータやリニアモータの小型軽量化のため、磁石列や電機子の多極化が進んでいる。しかしながら、多極化が進むと単位回転速度や単位移動速度あたりの電気的な駆動周波数が高くなる。駆動周波数が高くなると、単位時間当たりの磁気回路内での磁束の変化が急峻に変化する。磁束が急峻に変化した場合、磁性体で生じる損失が大きくなり、効率の低下、発生する力の低下、発熱による温度上昇などの課題があった。
【0003】
本技術分野の背景技術として、例えば特許文献1に記載の技術がある。特許文献1には、リニアモータを使用する電磁サスペンションが記載されている。特許文献1のリニアモータは、巻線と磁性体とで構成される電機子と、電機子の外周側に配置され、永久磁石と円筒状の磁性体とで構成される永久磁石部とを有しており、電機子と永久磁石部とが相対的に直線駆動するようにしている。
【0004】
電機子の磁性体は複数に分割され、中央部が軸方向に突出している。そして、一の磁性体の突出部が隣り合う他の磁性体の一部に重なるように配置されている。
【0005】
また、特許文献1では、円筒状に形成された磁性体の外周部の同一円周上に、この外周部よりも凹んだ凹部とこの外周部よりも突出した凸部を形成している。特許文献1では、円筒状に形成された磁性体の外周部の同一円周上に凹部と凸部を設けることにより、他の部品や機器との干渉を抑制すると共、磁束のアンバランスによる推力の脈動を抑制し、推力の低下を抑制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2021/261059号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、リニアモータの磁束が通る磁性体が、軸方向にティース毎に分割されると共に、トロイダル状の巻線が軸方向においてティースと交互に並んで配置されている。トロイダル状の巻線を軸方向にティースと交互に並べたリニアモータにおいては、巻線に生じる電流の流れと逆向きに渦電流が発生する。すなわち、軸を中心に円を描くように渦電流が発生する。このため、特許文献1のように軸方向に磁性体を分割した構成では、渦電流損失を低減させる効果が得られにくい。
【0008】
特許文献1では、磁性体に生じる損失を効果的に抑制する点については考慮されておらず、リニアモータの磁性体に生じる損失が大きくなる課題があった。
【0009】
本発明の目的は、電機子の磁性体に発生する渦電流を抑制し、渦電流損失による効率の低下、推力の低下を抑制したリニアモータ及びこれを備えた電動サスペンション装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために本発明は、リング状のコイルとティースを備えた電機子と、前記電機子の外周側または内周側に備えられた永久磁石とが相対的に動作するリニアモータであって、前記ティースは、第1のティースと、軸方向において前記第1のティースと隣り合う第2のティースを備え、前記コイルは、前記第1のティースと前記第2のティースとの間に備えられ、前記第1のティースの内周側には、径方向において重なるように前記第2のティースの一部が配置され、前記第1のティースの一部と前記第2のティースの一部は、軸方向から見た同心円の円周上に位置するように配置されたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は前記リニアモータを電動サスペンション装置に備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電機子の磁性体に発生する渦電流を抑制し、渦電流損失による効率の低下、推力の低下を抑制したリニアモータ及びこれを備えた電動サスペンション装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例1に係るリニアモータ1を模式した外観斜視図である。
図2】本発明の実施例1に係るリニアモータ1の断面図及び右側面図である。
図3】リニアモータの電機子8を示す斜視図である。
図4】電機子8を軸方向に分解した分解斜視図である。
図5A】ティース2aを突出部側から見た斜視図である。
図5B】ティース2aを反突出部側から見た斜視図である。
図6A】ティース2bを突出部側から見た斜視図である。
図6B】ティース2bを反突出部側から見た斜視図である。
図7A】ティース2cを突出部側から見た斜視図である。
図7B】ティース2cを反突出部側から見た斜視図である。
図8】コイル5の外観斜視図である。
図9】本発明の実施例2に係るリニアモータ1を模式した外観斜視図である。
図10】本発明の実施例2に係るリニアモータの断面図及び右側面図である。
図11】リニアモータの電機子8を示す断面図である。
図12】リニアモータの電機子8を示す斜視図である。
図13】本発明の実施例3に係る電動サスペンション装置の外観斜視図である。
図14】本発明の実施例4に係るリニアモータ1をYZ平面で断面した断面模式図である。
図15】本発明の実施例5に係るリニアモータ1をYZ平面で断面した断面模式図である。
図16】リニアモータ内部を磁界解析によって導出した際の損失分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例について添付の図面を参照しつつ説明する。同様の構成要素には同様の符号を付し、同様の説明は繰り返さない。
【0015】
本発明の各種の構成要素は必ずしも個々に独立した存在である必要はなく、一の構成要素が複数の部材から成ること、複数の構成要素が一の部材から成ること、或る構成要素が別の構成要素の一部であること、或る構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複すること、などを許容する。
【実施例0016】
本実施例では、高推力および低発熱を実現する電動サンペンション装置に用いるリニアモータの例を説明する。図1は、本発明の実施例1に係るリニアモータ1を模式した外観斜視図である。図1では、リニアモータ1の外周1/4の部分を切り取った模式的な斜視図としている。
【0017】
図中、矢印にて示すようにリニアモータの電機子が移動する方向を「軸方向(Z方向)」、軸方向(Z方向)の周回りを「周方向」、シャフトを中心としたときの動径方向(半径方向)を「径方向(X方向、Y方向)」と定義する。
【0018】
本実施例のリニアモータ1は、図1に示すように、永久磁石10が8個に対し、コイル5,ティース2が9個配置される8極9スロット構成のリニアモータ1の電機子を軸方向(Z方向)に2個連ねて高推力を得られるように構成したものである。
【0019】
永久磁石10とコイル5およびティース2の組み合わせは一例であって、本組み合わせに限定されるものではない。例えば、5極6スロット、7極6スロット、10極12スロットなど、どのような組み合わせでも同様の効果が得られれば適用可能である。
【0020】
コイル5とティース2で構成される電機子8は、磁性体で構成される外筒15の内側に設けられ、永久磁石10で構成される2次側部材に対して相対的に直線駆動する。本実施例では、この電機子8と2次側部材でリニアモータ1を構成する。電機子8と2次側部材は、ロッド(図示せず)等を介してタイヤ側(図示せず)、車体側(図示せず)に接続され、車体側の振動を抑制する電動サスペンション装置を構成する。ここで、リニアモータ1のコイル5は通常、U相、V相、W相の3相のインバータ(図示せず)に接続され、3相の電流を制御することで、リニアモータが軸方向(Z方向)の推力を発生させ振動を抑制するものである。
【0021】
図1では、内周側にコイル5とティース2で構成される電機子8を配置し、外周側に磁性体で構成される外筒15を配置し、この外筒15の内側に2次側部材となる永久磁石10を設けた構成例を示しているが、本実施例は、中実ロッドや中空ロッドの外周に永久磁石10を張り付けた2次側部材を内周側とし、この2次側部材の外周にコイル5とティース2で構成される電機子8を配置する構成であっても良い。
【0022】
各相のコイル5に電流を流した際に、電流の変化の大きいコイルの近傍の磁性体に損失が発生する。本実施例のリニアモータ1は、中心が中空な凸状の磁性体でティース2を構成し、それをZ方向(軸方向)に複数並べて電機子8が構成されている。
【0023】
図2は、本発明の実施例1に係るリニアモータ1の断面図及び右側面図である。図2では、左図は断面図を示し、右図は右側面図を示している。
【0024】
リニアモータの内周側に位置する電機子8は、複数のティース2(2a~2j)を備えている。各ティースは軸方向において隣り合うように配置されている。例えば、第1のティース2aの内周側に位置する突出部21には、径方向において重なるように第2のティース2bの一部が配置されている。各ティースの軸方向の重なり部は凹凸を有している。本実施例では、隣り合うティース2a,2bの一部が、同一軸方向の位置における同一円周上に、少なくとも2つのティースの一部が配置されることを特徴とする。すなわち、右側面図で示すように、第1のティース2aの一部と第2のティース2bの一部は、軸方向から見た同心円の同一円周C上(周方向)に位置するように配置されている。同一軸方向の同一円周C上に第1のティース2aの一部と第2のティース2bの一部が存在することで、軸周りに円を描くように発生する渦電流を効果的に分断することが可能となり、損失を抑制し、効率の低下、推力の低下および温度の上昇を抑制するリニアモータおよび電動サスペンション装置を提供できる。
【0025】
図3は、リニアモータの電機子8を示す斜視図である。図3では、XY平面の1/4の領域を断面している。電機子8は、軸方向に凹凸を有する複数のティース2a~2jが組み合うようにZ方向に積重ねて構成している。電機子8のコイル5の内周側には、少なくとも2つ以上のティース2の一部が存在している。リニアモータは、電機子8を保持するためのねじ穴やキリ穴、キー溝や他の部品との干渉を避けるための欠損部などが存在すると、渦電流路が円周方向のみでなく径方向や軸方向(Z方向)にも発生するケースがある。このように、同一軸方向の位置において、径方向に少なくとも2つ以上のティース2の一部が存在することで、さらに損失を抑制できる。
【0026】
図4は、電機子8を軸方向に分解した分解斜視図である。図4に示すように、8極9スロットのリニアモータの電機子は、9個のティース2a~2iと、補助的なティース2jで構成されている。ティース2jは、端部での磁気回路のアンバランスの影響を抑制するために補助的に配置されている。本実施例のリニアモータ1は、補助的なティース2jの積み重ねた方向(軸方向)の幅と、径方向の長さ(直径)が小さくなっている。
【0027】
図4において、それぞれのティースはコイルの配置される溝の内周側に凹部と凸部を有しており、その凹凸が組み合わさるように結合される。このようにすることで、コイルの内周側で大きくなる損失を効果的に抑制できる。また、一番左のティース2aと左から2番目のティース2bは、周方向に回転する際に回転を抑制するキー的な作用も期待できる。すなわち、キー溝などによって生じる磁気回路のアンバランスなどを抑制することができ、軸方向や径方向の渦電流も抑制することができ、効果的に損失を抑制できる。また、ティース2aとティース2bの間に配置されるコイル5(コイルスペース)の径方向内側に、ティース2aの一部とティース2bの一部が配置されている。本実施例では、径方向においても2つの部位(境界面)が存在し(例えば円環部21aと凸部23b)、また同一軸方向の同一円周上(周方向)においても2つの部位(境界面)が存在しているため、渦電流の抑制効果が大きくなる。
【0028】
以下各ティースの構成について説明する。本実施例のティースは、ティース2aと、ティース2b,2d,2f,2hと、ティース2c,2e,2g,2iと、ティース2jの4つの形状に分類できる。それぞれの形状について説明する。
【0029】
図5Aは、ティース2aを突出部側から見た斜視図である。図5Bは、ティース2aを反突出部側から見た斜視図である。
【0030】
第1のティースとなるティース2aの一方の面には、平板部20から軸方向に向かって突出した突出部21が形成されている。ティース2aの中央部には貫通孔20aが形成されている。突出部21の周方向は歯車状に形成され、円環状に形成された円環部21aと、円環部21aから径方向外側に突出した複数の凸部21b(第1凸部)と、凸部21bの径方向外側の位置から径方向内側に向かって円環部21aの位置まで切欠かれた複数の凹部21c(第1凹部)が形成されている。複数の凹部21cは、周方向に隣り合う複数の凸部21b同士の間に形成されている。ティース2aの反突出部側は平板状となっている。
【0031】
図6Aは、ティース2bを突出部側から見た斜視図である。図6Bは、ティース2bを反突出部側から見た斜視図である。なお、ティース2d,2f,2hはティース2bと同一形状であるので、説明は省略する。
【0032】
第2のティースとなるティース2bの一方の面には、平板部22から軸方向に向かって突出した突出部23が形成されている。ティース2bの中央部には貫通孔22aが形成されている。突出部23の周方向は歯車状に形成され、円環状に形成された円環部23aと、円環部23aから径方向外側に突出した凸部23b(第2凸部)と、凸部23bから径方向内側に向かって切欠かれた凹部23cが形成されている。凹部23cには、ティース2bを軸方向に貫通する切欠き開口部23dが形成されている。ティース2bの反突出部側(ティース2aと対向する側)は、軸方向(突出部側)に向かって凹んだ挿入部24が形成されている。凸部23bはティース2bの反突出部側まで伸びている。挿入部24において凸部23bは、径方向内側に向かって突出している。
【0033】
図7Aは、ティース2cを突出部側から見た斜視図である。図7Bは、ティース2cを反突出部側から見た斜視図である。なお、ティース2e,2g,2iはティース2cと同一形状であるので、説明は省略する。
【0034】
第3のティースとなるティース2cの一方の面には、平板部25から軸方向に向かって突出した突出部26が形成されている。ティース2cの中央部には貫通孔25aが形成されている。突出部26の周方向は歯車状に形成され、円環状に形成された円環部26aと、円環部26aから径方向外側に突出した凸部26bと、凸部26bから径方向内側に向かって切欠かれた凹部26cが形成されている。凹部26cには、ティース2cを軸方向に貫通する切欠き開口部26dが形成されている。ティース2cの反突出部側(ティース2bと対向する側)は、軸方向(突出部側)に向かって凹んだ挿入部27が形成されている。凸部26bはティース2cの反突出部側まで伸びている。挿入部27において凸部26bは、径方向内側に向かって突出している。
【0035】
本実施例の電機子8は、これらのティース2a、2b、2cが組み合わされることにより構成される。
【0036】
ティース2aとティース2bとを組み合わせる場合には、ティース2aの突出部側とティース2bの反突出部側を対向させ、ティース2aの凸部21bをティース2bの凹部23cに挿入させる。凹部23cには、切欠き開口部23dが形成されているので、切欠き開口部23dを通してティース2aの凸部21bがティース2bの平板部22から突出する。すなわち、周方向において隣り合うティース2bの凸部23bの間にティース2aの凸部21bが位置し、ティース2aの凸部21bとティース2bの凸部23bが重なり合う。また、径方向においてティース2aの円環部21aとティース2bの凸部23bが重なり合う。ただし、ティース2aの凸部21bの突出部側における軸方向端面は、ティース2bの凸部23bの突出部側における軸方向端面までは達しておらず、突出部23の凹部23cの位置は、反突出部側に凹んだ状態となる。また、ティース2bの凸部23bの反突出部側は、ティース2aの凹部21cに挿入される。さらに、ティース2aの円環部21aは、ティース2bの円環部23aの反突出部側と接することにより、ティース2aの平板部20とティース2bの平板部22との間には、コイル5が配置される溝部が形成される。
【0037】
次にティース2bとティース2cとを組み合わせる場合には、ティース2bの突出部側とティース2cの反突出部側を対向させ、ティース2bの凸部23bをティース2cの凹部26cに挿入させる。凹部26cには、切欠き開口部26dが形成されているので、切欠き開口部26dを通してティース2bの凸部23bがティース2cの平板部25から突出する。すなわち、周方向において隣り合うティース2cの凸部26bの間にティース2bの凸部23bが位置し、ティース2bの凸部23bとティース2cの凸部26bが重なり合う。また、径方向においてティース2bの円環部23aとティース2cの凸部26bが重なり合う。ただし、ティース2bの凸部23bの突出部側における軸方向端面は、ティース2cの凸部26bの突出部側における軸方向端面までは達しておらず、突出部26の凹部26cの位置は、反突出部側に凹んだ状態となる。また、ティース2cの凸部26bの反突出部側は、ティース2bの凹部23cに挿入される。凹部23cの位置において、ティース2cの凸部26bの反突出部側とティース2aの凸部21bの突出部側とが対向する。さらに、ティース2bの円環部23aは、ティース2cの円環部26aの反突出部側と接することにより、ティース2bの平板部22とティース2cの平板部25との間には、コイル5が配置される溝部が形成される。
【0038】
上述したティース2aは、電機子8の端部を構成するティースであり、反突出部側には隣り合うティースが存在しないので、凹部21cには切欠き開口部が形成されていない。中間のティースとなるティース2b、2cの凹部23c、26cには、それぞれ隣り合うティースの凸部が挿入される切欠き開口部23d、26dが形成されている。中間のティース2cにおいては、凹部26cに瓦状の部材を設けたり、空間を設けることも可能である。この場合、部材の境界面が多くなる空隙により電気抵抗が大きくなるなど、併用することでその効果を大きくすることが可能となる。
【0039】
図8は、コイル5の外観斜視図である。本実施例のコイル5は、リング状を成して平板状に形成され、中央部にティースの突出部が挿入される開口部5aが形成されている。平板状に形成されたコイル5は、上述したティース2a~2i間に形成された溝部に配置される。図5では図示は省略しているが、コイル5には電源やインバータなどに接続するため配線が存在する。本実施例では、各ティースの内周側に貫通孔20a,22a,25aを備えるようにしているので、切欠き開口部23d、26dを通してティースの内周側に配線が収容でき、容積的に最小限のティースの欠損で配線することが可能になる。なお、本実施例では、凹部21cには切欠き開口部が形成されていないが、凹部21cにも切欠き開口部を形成して配線を通し、貫通孔20a,22a,25aに配線を収容するようにしても良い。
【0040】
本実施例によれば、少なくとも2つのティースを軸方向に積み重ね、積み重ねたティースの間にコイルを配置する溝部を設け、この溝部の内径側において2つのティースの一部が周方向、及び/又は径方向に重なるように配置したので、電機子に発生する渦電流を分断することができ、リニアモータの損失を低減することができる。
【実施例0041】
本発明の実施例2について図9図12を用いて説明する。図9は、本発明の実施例2に係るリニアモータ1を模式した外観斜視図である。図9では、リニアモータ1の外周の1/4の部分を切り取った模式的な斜視図としている。図10は、本発明の実施例2に係るリニアモータの断面図及び右側面図である。図10では、左図は断面図を示し、右図は右側面図を示している。図11は、リニアモータの電機子8を示す断面図である。図12は、リニアモータの電機子8を示す斜視図である。実施例1と同様の構成については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0042】
図10において、ティース2aの凸部21bには、外周面から径方向内側に凹んだ段部21eが形成されており、この段部21eにティース2bの一部(平板部22)を位置させている。すなわち、ティース2bを反突出部側から見た場合、ティース2aの凸部21bが挿入されるティース2bの凹部23cにおいて平板部22が径方向内側に向かって突出している。
【0043】
また、ティース2bの凸部23bには、外周面から径方向内側に凹んだ段部23eが形成されており、この段部23eにティース2cの一部(平板部25)を位置させている。ティース2cを反突出部側から見た場合、ティース2bの凸部23bが挿入されるティース2cの凹部26cにおいて平板部25が径方向内側に向かって突出している。
【0044】
同様に、ティース2cの凸部26bには、外周面から径方向内側に凹んだ段部26eが形成されており、この段部26eにティース2dの一部(平板部)を位置させている。
【0045】
本実施例によれば、少なくとも2つのティースを軸方向に積み重ね、積み重ねたティースの間にコイルを配置する溝部を設け、この溝部の内径側において2つのティースの一部が周方向、及び/又は径方向に加え、軸方向に重なるように配置したので、実施例1の効果に加え、電機子の軸方向に発生する渦電流を分断することができ、リニアモータの損失を低減することができる。本実施例では、3次元的に発生する渦電流を抑制することが可能となり、効果的にリニアモータの損失を小さくできる。
【実施例0046】
本発明の実施例3について図13を用いて説明する。図13は、本発明の実施例3に係る電動サスペンション装置の外観斜視図である。図13では、電動サスペンション装置100の外周の1/4の部分を切り取った斜視図としている。
【0047】
電動サスペンション装置100は、ティース2とコイル5で構成された電機子の内側にインナーロッド90が接続され、インナーロッド90の端部にロッドエンド30、インナーチューブ60が配置される。例えば、このロッドエンドにタイヤ側のサスペンションのリンクが結合される。また、電機子にギャップをもって対向する永久磁石10と、その外周側に磁性体で構成される外筒15が設けられる。その外筒15にはばね止め50が接続され、圧縮されたばね40が配置される。タイヤ側に接続された電機子と車体側に接続された2次側部材(永久磁石10や外筒15など)は相対的に直線運動をし、インナーチューブ摺動部材80で支持される。
【0048】
また、外筒15には、ロッド支持部材70が結合され、ロッド支持部材70に、例えば、ベアリングやすべり軸受などが設けられ、可動部が相対的に直線運動できるように構成されている。この時に、ステアリング動作でロッドエンド30やインナーロッド90が回転した際に、その反力で電機子が回転力を受け、ティース2やコイル5が回転しようとした際に、実施例1で説明したティース2の凹凸(図示しない)によって回転力を保持でき、コイル5の配線の絡みつきや、応力などを緩和することができ、電動サスペンション装置100の信頼性も向上できる。
【実施例0049】
本発明の実施例4について図14を用いて説明する。図14は、本発明の実施例4に係るリニアモータ1をYZ平面で断面した断面模式図である。本実施例のリニアモータ1は、中空シャフトで構成された内筒21の外周側に複数の永久磁石10を張り付けている。永久磁石10は、円弧状の磁石を円周状連続に張り付けたり、リング状の磁石を用いたりすることができる。
【0050】
永久磁石10の外周側には、コイル5とティース2で構成された電機子8Aが配置される。電機子8Aの内周側には、永久磁石10と内筒21で構成された2次側部材が配置される。本実施例のリニアモータ1は、電機子と2次側部材の配置が実施例1乃至3と異なっている。
【0051】
リニアモータの外周側に位置する電機子8Aは、複数のティース2(2a~2j)を備えている。本実施例では、内筒21の外周側において、複数のティース2(2a~2j)が存在している。本実施例では、実施例1乃至実施例3で示した構造に対し、電機子と磁石列の配置が内外周位置で反対の構成になっている。
【0052】
コイル5は、隣り合うティース同士の間に備えられている。例えば、コイル5は、ティース2aとティース2bとの間に備えられている。ティース2aの外周側には、径方向において重なるようにティース2bの一部が配置されている。同様に、ティース2b~2iの外周側には、径方向において重なるようにそれぞれティース2c~2iの一部が配置されている。そして、ティース2aの一部とティース2bの一部は、軸方向から見た同心円の円周上に位置するように配置されている。同様に、ティース2b~2iの一部とティース2c~2iの一部は、それぞれ軸方向から見た同心円の円周上に位置するように配置されている。
【0053】
このような配置においても、実施例1と同様の効果を得ることができる。また、実施例2にように段部を設けることにより、実施例2と同様の効果を得ることができる。
【0054】
なお、本実施例のリニアモータは、実施例3の電動サスペンション装置に適用することも可能である。
【実施例0055】
本発明の実施例5について図15及び図16を用いて説明する。図15は、本発明の実施例5に係るリニアモータ1をYZ平面で断面した断面模式図である。図16は、リニアモータ内部を磁界解析によって導出した際の損失分布を示す図である。実施例1乃至4と同様の構成については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0056】
本実施例のリニアモータ1は、5極6スロットで構成しており、ティース2a~2gが軸方向に積み重なって構成されている。
【0057】
図15において、ティース2aの中心軸からの半径をRcとし、ティース2aと隣り合うティース2bのティース2aとの境界位置における中心軸からの半径をRiとする。本実施例では、ティース2bとティース2aとの境界位置の半径Riをティース2aの中心軸からの半径Rcよりも中心軸側(永久磁石と反対側)に位置させている。換言すると、半径Riは半径Rcよりも小さい(Ri<Rc)。
【0058】
リニアモータ1を駆動させた状態のある瞬間のリニアモータ内部の損失を磁界解析によって導出すると、図16に示す分布となる。図16では、中心線を境に、上半分の状態を示している。
【0059】
図16に示すように、損失の大きい箇所は、電流の大きな相のコイルの近傍に発生することが確認できる。すなわち、コイル5の内周側(コイルからみて磁石と逆側)に大きな損失が発生する。各位相のコイルにはリニアモータの相対的な移動に伴って順次、大きな電流が流れるため、損失が大きくなる領域がコイル5から見て永久磁石10と反対側のティースの一部に発生する。さらに、損失は永久磁石10と反対側のティースの部位において、コイル5に近い側に発生する。そこで、この位置に第1のティース2aと第2のティース2bの境界面を配置することにより、効果的に損失を抑制できる。例えば、コイル5から見て永久磁石10と反対側のティース2において、第1のティース2aと第2のティース2bの境界位置(ティース2bとティース2aとの境界位置の半径Ri)を、第1のティース2aの径方向における磁路断面積の1/2よりコイルに近い側に配置することで、よりその効果が顕著に表れる。
【0060】
なお、本実施例のリニアモータは、実施例3の電動サスペンション装置に適用することも可能である。
【0061】
本発明は電機子の急峻な磁束の変化によって生じる損失を、隣り合うティースの境界形状やその位置によって効果的抑制するものであり、各ティースに生じる渦電流を分断または、渦電流路を長くする効果によって損失を抑制するものであり、同様の効果が得られれば、各実施例で説明した構成に限定されるものではない。
【0062】
また、本発明の効果としては、各ティースが軸方向に分断されているため、配線作業が容易になり、また出力や必要な推力に応じてティースの数を増減し出力や推力を調整することができる。
【符号の説明】
【0063】
1…リニアモータ、2,2a~2j…ティース、5…コイル、5a…開口部、8,8A…電機子、10…永久磁石、15…外筒、20…平板部、20a…貫通孔、21…突出部、21a…円環部、21b…凸部、21c…凹部、21e…段部、22…平板部、22a…貫通孔、23…突出部、23a…円環部、23b…凸部、23c…凹部、23d…切欠き開口部、23e…段部、24…挿入部、25…平板部、25a…貫通孔、26…突出部、26a…円環部、26b…凸部、26c…凹部、26d…切欠き開口部、26e…段部、27…挿入部、30…ロッドエンド、40…ばね、50…ばね止め、60…インナーチューブ、70…ロッド支持部材、80…インナーチューブ摺動部材、90…インナーロッド、100…電動サスペンション装置
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16