IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立オートモティブシステムズ株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184010
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】リニアモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 41/03 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
H02K41/03 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097890
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】青山 康明
(72)【発明者】
【氏名】志村 樹
(72)【発明者】
【氏名】星 遼佑
【テーマコード(参考)】
5H641
【Fターム(参考)】
5H641BB06
5H641BB14
5H641BB18
5H641GG03
5H641GG04
5H641GG08
5H641HH02
5H641JA01
5H641JA09
(57)【要約】
【課題】本発明は、推力の低下を抑制すると共に、空間利用効率の低下を抑制したリニアモータを提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明のリニアモータ1は、ティース2及びコイル5を備えた電機子8と、電機子8の外周側に備えられた永久磁石10とが軸方向に相対的に動作する。ティース2は軸方向から見た形状が多角形である。永久磁石10は平板状に形成され、ティース2の多角形の面と対向するように複数備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ティース及びコイルを備えた電機子と、前記電機子の外周側に備えられた永久磁石とが軸方向に相対的に動作するリニアモータであって、
前記ティースは軸方向から見た形状が多角形であり、
前記永久磁石は平板状に形成され、前記ティースの多角形の面と対向するように複数備えたことを特徴とするリニアモータ。
【請求項2】
請求項1において、
前記ティースは軸方向に複数重ねて配置され、隣り合う前記ティースの間に前記コイルを配置したことを特徴とするリニアモータ。
【請求項3】
請求項2において、
前記ティースは、軸方向から見た形状が方形状であることを特徴とするリニアモータ。
【請求項4】
請求項3において、
前記コイルは、軸方向から見た形状が方形状であることを特徴とするリニアモータ。
【請求項5】
請求項4において、
前記コイルの外周側の角部をR形状としたことを特徴とするリニアモータ。
【請求項6】
請求項3において、
前記コイルは、軸方向から見た形状が円形状であることを特徴とするリニアモータ。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項において、
前記永久磁石は異方性としたことを特徴とするリニアモータ。
【請求項8】
請求項1又は2において、
前記永久磁石と対向する前記ティースの辺の画数が2n角形(nは任意の整数)であることを特徴とするリニアモータ。
【請求項9】
請求項8において、
任意の整数nは5以下としたことを特徴とするリニアモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアモータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野で適用される機器の電動化が進められている。モータやリニアモータの電動化に不可欠な機器は小型高効率化、高出力密度化および大トルク大推力化が進んでおり、それらの技術が大きく進展してきている。それらの技術の進展に伴い、モータやリニアモータの小型化の要求が高まっている。
【0003】
一般に、モータは円筒形状であり、高出力化にはギアと併用してモータの回転数を高め、小型化を達成しやすい。しかし、リニアモータは直線運動をするため、ギアの設置が困難であり、リニアモータの高速駆動化でリニアモータの小型化をするのが困難である。モータやリニアモータを機器に組み込む際、そのスペースが限られるため、モータおよびモータとギア、リニアモータを小さくすることが望まれている。
【0004】
モータは一般に円筒形状のため、外周側(円弧を持つ略三角形のようなデッドスペースが四隅に生じることが多い)に無駄スペースが出来易い。しかし、先述のとおり、モータはギアと組み合わせることで小型化を実現し、機器内の占有スペースを小さくできる。このため、モータは円筒形状をしていても、ギアとの組み合わせで占有スペースを小さくできる特徴がある。
【0005】
一方、リニアモータはギアの併用が困難であり、占有スペースを小さくすることがそのリニアモータの形状に左右されることが多い。リニアモータは電機子と永久磁石が平面で対向する一般的な直方体の形状をしたリニアモータや、円筒状の磁石や円弧状の磁石と、リング状のコイルやコアを積み重ねた電機子とが対向する、円筒形状のリニアモータがある。電機子と永久磁石が平面で対向する一般的な直方体の形状をしたリニアモータは、直方体の形状のため機器内にレイアウトしやすい反面、電機子と磁石の吸引力が大きく、支持機構が大きくなる。また、コイルの端部が電機子からはみ出し、推力に寄与しないコイルエンドが生じるため、無駄な部分がある。
【0006】
一方、円筒形状のリニアモータは、円環状のコイル(トロイダルコイル)とコアを軸方向に積み重なることで、コイルエンドがなく無駄なコイル部が小さく済むが、外形が円筒形状であるため、モータと同様に外周側に無駄スペースが生じる課題があった。
【0007】
本技術分野の背景技術として、例えば特許文献1に記載の技術がある。特許文献1には、リニアモータを使用する電磁サスペンションが記載されている。特許文献1のリニアモータは、巻線と磁性体とで構成される電機子と、電機子の外周側に配置され、永久磁石と円筒状の磁性体とで構成される永久磁石部とを有しており、電機子と永久磁石部とが相対的に直線駆動するようにしている。電機子の磁性体は複数に分割され、中央部が軸方向に突出している。そして、一の磁性体の突出部が隣り合う他の磁性体の一部に重なるように配置されている。
【0008】
また、その他の背技術として、特許文献2に記載の技術がある。特許文献2には、筒状のコアとコアの外周に設けられたスロットに装着される巻線とにより電機子を構成している。この電機子は、内部に磁石を備えた筒状の界磁に挿入され、界磁内を移動する。コアは、それぞれ一つのティースを持つように軸方向に分割された複数の環状のコア分割体を積層して形成されている。隣り合うコア分割体のティース間にはスロットが形成され、このスロットに無き線が
装着される。また、コア分割体には、ティースの外周端からヨークに掛けて形成され、ティースを軸方向貫くとともに巻線のリード線が挿入されるスリットが形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2021/261059号
【特許文献2】特開2020-78235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載のリニアモータでは、コイルによって発生する磁束がティースの外周方向の360°に均等に発生でき、理想的な均一な磁束分布ができる。しかし、リニアモータを製作するにあたっては、コイルの配線や、その他周辺機器を配置するために、リニアモータの一部には欠損や切り欠き、溝、キーなどが必要であり、磁束が不均一になる可能性がある。その不均一の磁束によって、電機子と永久磁石の間に、リニアモータの進行方向と異なる方向への力が発生し、そのための対策や支持機構の設置などが必要となり、占用空間が大きくなるなどの課題があった。また、特許文献1では、リニアモータの形状が円柱状であり、機器の内部に設置した場合、円弧を持つ略三角形のようなデッドスペースが四隅に生じるため、空間利用率が低下しているという課題もあった。
【0011】
特許文献2に記載のリニアモータは、コア分割体に巻線のリード線が挿入されるスリットが形成されているので、推力にアンバランス生じ、進行方向と異なる方向の必要のない力が発生し、その対策が必要になるといった課題がある。また、リニアモータ外周の四隅の空間はデッドスペースになり、空間利用率が低下しているという課題もあった。
【0012】
本発明の目的は、推力の低下を抑制すると共に、空間利用効率の低下を抑制したリニアモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために本発明のリニアモータは、ティース及びコイルを備えた電機子と、前記電機子の外周側に備えられた永久磁石とが軸方向に相対的に動作するリニアモータであって、前記ティースは軸方向から見た形状が多角形であり、前記永久磁石は平板状に形成され、前記ティースの多角形の面と対向するように複数備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、推力の低下を抑制すると共に、空間利用効率の低下を抑制したリニアモータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例1に係るリニアモータ1を模式した外観斜視図である。
図2】本発明の実施例1に係るリニアモータ1の断面図及び右側面図である。
図3A】本発明の実施例1に係る電機子8の外周を1/4切り取った状態の外観斜視図である。
図3B】本発明の実施例1に係る電機子8の外周を1/2切り取った状態の外観斜視図である。
図4】本発明の実施例1に係るコイル5の外観斜視図である。
図5A】本発明の実施例2に係る電機子8の外観斜視図である。
図5B】本発明の実施例2に係る電機子8の外周を1/4切り取った状態の外観斜視図である。
図5C】本発明の実施例2に係る電機子8の外周を1/2切り取った状態の外観斜視図である。
図6A】本発明の実施例2に係る電機子8を軸方向(Z方向)に沿って断面した断面図である。
図6B図6AのVIB-VIB線断面図である。
図7】本発明の実施例2に係るコイル5の外観斜視図である。
図8A】本発明の実施例3に係る電機子8の外観斜視図である。
図8B】本発明の実施例3に係る電機子8の外周を1/4切り取った状態の外観斜視図である。
図8C】本発明の実施例3に係る電機子8の外周を1/2切り取った状態の外観斜視図である。
図9A】本発明の実施例3に係る電機子8を軸方向(Z方向)に沿って断面した断面図である。
図9B図9AのIXB-IXB線断面図である。
図10】本発明の実施例3に係るコイル5の外観斜視図である。
図11A】比較例に関する円弧状の永久磁石の構成を示す図である。
図11B】比較例に関するリング状の永久磁石の構成を示す図である。
図12A】本発明の実施例4に係る永久磁石10の単体を示す図である。
図12B】本発明の実施例4に係る永久磁石10を組み合わせた状態を示す図である。
図13A】円筒状のリニアモータにおける磁束の分布を示す図である。
図13B】、実使用における円筒状のリニアモータにおける磁束の分布を示す図である。
図13C】本発明の実施例3に係るリニアモータにおける磁束の分布を示す図である。
図14】本発明の実施例5に係るリニアモータ1の断面図及び右側面図である。
図15A】本発明の実施例5に係るリニアモータ1の外周を1/4切り取った状態の外観斜視図である。
図15B】本発明の実施例5に係る電機子の外周を1/4切り取った状態の外観斜視図である。
図16】本発明の実施例6に係るリニアモータの多角形の画数とギャップまでの距離を説明する図である。
図17】本発明の実施例6に係る六角形のリニアモータ1の外周を1/4切り取った状態の外観斜視図である。
図18】本発明の実施例6に係る六角形のリニアモータ1の断面図及び右側面図である。
図19】本発明の実施例6に係る八角形のリニアモータ1の外周を1/4切り取った状態の外観斜視図である。
図20】本発明の実施例6に係る八角形のリニアモータ1の断面図及び右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例について添付の図面を参照しつつ説明する。同様の構成要素には同様の符号を付し、同様の説明は繰り返さない。
【0017】
本発明の各種の構成要素は必ずしも個々に独立した存在である必要はなく、一の構成要素が複数の部材から成ること、複数の構成要素が一の部材から成ること、或る構成要素が別の構成要素の一部であること、或る構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複すること、などを許容する。
【実施例0018】
図1は、本発明の実施例1に係るリニアモータ1を模式した外観斜視図である。図1はリニアモータの1例の斜視図を示す。図1では、リニアモータ1および電機子8の構造がわかるように、リニアモータ1の外周1/4部分を切り取った模式的な斜視図としている。
【0019】
図中、矢印にて示すようにリニアモータの電機子が移動する方向を「軸方向(Z方向)」、軸方向(Z方向)」の周回りを「周方向」、シャフトを中心としたときの動径方向(半径方向)を「径方向(X方向、Y方向)」と定義する。
【0020】
本実施例のリニアモータ1は、図1に示すように、永久磁石が8個に対し、コイル5,ティース2が9個配置される8極9スロット構成のリニアモータ1の電機子を軸方向(Z方向)に2個連ねて高推力を得られるように構成したものである。
【0021】
永久磁石10とコイル5およびティース2の組み合わせは一例であって、本組み合わせに限定されるものではない。例えば、5極6スロット、7極6スロット、10極12スロットなど、どのような組み合わせでも同様の効果を得ることができれば適用可能である。また、電機子8の個数も必要な推力に応じて増減させることができる。
【0022】
図1のリニアモータ1は、電機子8のティース2に対向するように平板状の永久磁石10が配置され、永久磁石10はティース2に対向する表面側の少なくとも一部に平面部を有する。本実施例の永久磁石10は、電機子8の外周側に備えられ、ティース2に対向する表面側の全域に平面部を有している。
【0023】
一方、ティース2は軸方向から見た形状が多角形(四角形)であり、永久磁石10に対向する表面側の少なくとも一部に平面部を有する。本実施例のティース2は、永久磁石10に対向する表面側の全域に平面部を有する。本実施例では、互いが対向するティース2と永久磁石10のそれぞれに平面部を有することを特徴としている。すなわち、リニアモータ1の中心軸から永久磁石10の周方向における表面までの距離が異なることを特徴とする。
【0024】
コイル5とティース2で構成される電機子8は、磁性体で構成される角外筒20の内側に設けられ、永久磁石10で構成される2次側部材に対して軸方向に相対的に動作する。本実施例では、この電機子8と2次側部材(永久磁石10)でリニアモータ1を構成する。電機子8と2次側部材は、リニアガイドやベアリング、ローラベアリングおよびその他の支持機構(図示せず)によって相対的に駆動する方向以外の相対的な位置が保持されるように構成される。ここで、リニアモータ1のコイル5は通常、U相、V相、W相の3相の電流を制御することで、リニアモータが軸方向(Z方向)の推力を発生させ、電機子8と2次側部材が相対的に移動するものである。
【0025】
図1では、内周側にコイル5とティース2で構成される電機子8を配置し、外周側に磁性体で構成される角外筒20を配置し、この角外筒20の内側に2次側部材となる永久磁石10を設けた構成例を示しているが、本実施例は、角断面形状のロッドの各面に永久磁石10を張り付けた2次側部材を内周側とし、この2次側部材の外周にコイル5とティース2で構成される電機子を配置する構成であっても良い。
【0026】
図1で示した構成は、永久磁石10を有する2次側部材にはコイル5などを配置する必要がないため、永久磁石10を有する2次側部材を薄く構成でき、リニアモータ1の断面内において電機子8と永久磁石10の対向面積が大きくなり、同一体積での推力が大きくなる。
【0027】
図2は、本発明の実施例1に係るリニアモータ1の断面図及び右側面図である。図2では、左図は断面図を示し、右図は右側面図を示している。
【0028】
ティース2は、大小の正方形または長方形の磁性体を軸方向に複数組み合わせて構成されている。ティース2は、一般的なモータのように薄い電磁鋼板などの材料を軸方向(Z方向)に積層するか、若しくは一体の磁性材料からコイル5が配置される溝(スロット)を切削などで加工した一体構造で構成することも可能である。コイル5は隣り合うティースの間に配置される。
【0029】
ティース2は、大小の正方形または長方形の磁性体を軸方向に交互に組み合わせた形状であり、電磁鋼板などで構成した場合、重ねる枚数や大小の形状の比率、ティースの数など容易に変更することが可能であり、汎用性が高い。さらに、電磁鋼板などを積層して構成した場合は、ティース2の永久磁石10と対向する部位で大きく生じる損失を抑制できる。
【0030】
本実施例のリニアモータ1に使用されるティース2は、一般的なモータの断面形状のような複雑な形状でなく、中央に穴のあいた単純な正方形または長方形の電磁鋼板で構成できるため、製作性を向上することができる。
【0031】
図2の右側面図で示す点線は、コイル5の一例を示している。また、図4は、本発明の実施例1に係るコイル5の外観斜視図である。本実施例のコイル5は、正方形または長方形で形成された磁性体の形状に概ね沿うように、軸方向から見た形状が方形状に形成されている。コイル5の中央部には、方形状の貫通孔5aが形成されている。貫通孔5aには、ティース2の一部である磁性体2aが挿入される。貫通孔5aに挿入されるティース2の磁性体2aは、軸方向(Z方向)から見て方形状に形成されている。
【0032】
本実施例では、コイル5を方形状に形成しているので、永久磁石10の近傍に効率よく巻線を配置できるため、リニアモータ1の推力を大きくすることができる。また、正方形または長方形の磁性体2aと概ね沿うような外周形状を有する略方形のコイル5で構成することにより、コイル5の内周側の磁路断面積を大きくできるため、コイル5に大きな電流を流した際や、コイル5の巻き数を多くした場合など、起磁力が大きくなった際の磁気飽和を緩和することができ、電流が大きい領域での推力の非線形性を緩和することができる。
【0033】
次に、電機子8の構成について説明する。図3Aは、本発明の実施例1に係る電機子8の外周を1/4切り取った状態の外観斜視図である。図3Bは、本発明の実施例1に係る電機子8の外周を1/2切り取った状態の外観斜視図である。本実施例のリニアモータ1では、図3A及び図3Bに示す電機子8を2つ備えて構成している。
【0034】
電機子8は四角柱形状の中央部に電機子を連結したり、推力を伝達したりするためのシャフトなどを挿入するための挿入孔9が設けられている。電機子8は、軸方向(Z方向)に複数のティース2が積み重なって配置され、電機子8の内部側で磁気的に結合されている。また、隣り合うティース2同士の間には溝部が形成され、この溝部にコイル5が配置される。溝部は、軸方向(Z方向)から見て、方形状に形成されている。電機子8は、軸方向に複数、ティース2とコイル5が積み重なって構成されている。この際、ティース2を、大小の正方形または長方形の磁性体を軸方向に交互に組み合わせた形状とし、薄い電磁鋼板を重ね合わせる構成とした場合、重ね合わせる枚数でティース2のZ方向の寸法を任意に変更できる。
【0035】
一般にリニアモータは、モータと異なり電機子に端部が存在するため、電機子のZ方向の中央側と外側でパーミアンスが変化し、脈動が大きくなるといった課題がある。このパーミアンスの変化を小さくするように、ティース2のZ方向の厚さを変えることで脈動の小さなリニアモータを構成できるといった利点もある。すなわち、ティース2のZ方向の幅は均一でなくてもよい。
【0036】
以上のように本実施例では、リニアモータの形状を軸方向(Z方向)から見て方形状に形成するようにしたので、推力の低下を抑制すると共に、空間利用効率の低下を抑制したリニアモータを提供することができる。
【実施例0037】
本発明の実施例2について図5乃至図7を用いて説明する。図5Aは、本発明の実施例2に係る電機子8の外観斜視図である。図5Bは、本発明の実施例2に係る電機子8の外周を1/4切り取った状態の外観斜視図である。図5Cは、本発明の実施例2に係る電機子8の外周を1/2切り取った状態の外観斜視図である。図6Aは、本発明の実施例2に係る電機子8を軸方向(Z方向)に沿って断面した断面図である。図6Bは、図6AのVIB-VIB線断面図である。図7は、本発明の実施例2に係るコイル5の外観斜視図である。なお、図6Bでは便宜上、電機子を軸方向(Z方向)に沿って断面する前のVIB-VIB線断面図としている。
【0038】
本実施例において角外筒および永久磁石の構成は実施例1と同様であるため図示しない。実施例1と同様の構成については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0039】
本実施例のコイル5は、軸方向から見た形状が円形状をしている。また、コイル5の貫通孔5aも円形としている。コイル5の貫通孔5aに挿入されるティース2の磁性体2aも円形としている。本実施例ではコイル5を円形としているため、円形のコイル5を製作するため巻線作業が容易であり、特に機械で巻く作業やボビンなどに巻き付けたものを挿入するなどの作業が容易にできる利点がある。
【0040】
また、同一の巻き数の場合は、1ターン当たりの巻線の長さが短く出来、銅損を低減できる利点がある。一方で、コイル内周側の磁性体2aが狭くなるため、磁気飽和が発生しやすい。つまり、電流の小さな領域ではコイルの抵抗を小さく出来、コイルの抵抗によって生じる損失を抑制できる利点がある。
【0041】
また、ティース2には、中央部に円形のシャフトが挿入される挿入孔9が設けられている。挿入孔9に挿入されるシャフトは軸方向断面が円形でなくても構わない。例えば、シャフトは、軸方向断面が四角形状のもの、凸形状およびキーなどを持ったものなどであっても良い。
【0042】
また、図5A図5B図5Cに示すように、電機子8の外周側の角部には、円形のコイル5と方形状のティース2との形状の違いによる空間が生じる。この空間は、コイル5の引き出し線や結線のための空間と利用でき、ティースの欠損を抑制することできるので、磁束を安定でき、バランスの取れたリニアモータの推進力を発生することができる。
【0043】
以上のように本実施例では、実施例1の効果に加え、円形のコイル5を用いるようにしているので、コイル5を製作するため巻線作業が容易となり、また、ティース2の角部に発生する空間を利用してコイル5の引き出し線や結線の処理を行うことができる。
【実施例0044】
本発明の実施例3について図8乃至図10を用いて説明する。図8Aは、本発明の実施例3に係る電機子8の外観斜視図である。図8Bは、本発明の実施例3に係る電機子8の外周を1/4切り取った状態の外観斜視図である。図8Cは、本発明の実施例3に係る電機子8の外周を1/2切り取った状態の外観斜視図である。図9Aは、本発明の実施例3に係る電機子8を軸方向(Z方向)に沿って断面した断面図である。図9Bは、図9AのIXB-IXB線断面図である。なお、図9Bでは便宜上、電機子を軸方向(Z方向)に沿って断面する前のIXB-IXB線断面図としている。図10は、本発明の実施例3に係るコイル5の外観斜視図である。
【0045】
本実施例のコイル5は、実施例1と同様、方形状をしている。また、コイル5の貫通孔5aも方形状としている。コイル5の貫通孔5aに挿入されるティース2の磁性体2aも方形状としている。ただし、本実施例では、コイル5の角部をR形状としたことが実施例1とは異なる。
【0046】
方形状のコイル5は、ティース2の永久磁石対向面とほぼ平行に配置され、ティース2の角に近い領域の近傍にもコイル5が存在する。したがって、永久磁石10に鎖交する磁束を永久磁石10の近くで発生さることができるため効率よく力を発生できる。さらに、コイル5の内周部の磁性体2aも方形状とすることが可能であり、コイル内周側の磁路断面積を大きくすることができる。この領域は電流が大きくなり磁束の飽和が生じてくると相対的に推力が小さくなる。このため、電流と推力の線形性が乱れ、非線形特性を有する。このため、制御性の悪化、推力の低下、推力当たりの損失の増大などが生じる。したがって、コイル5の内周部の磁性体2aも方形状とすることにより、この飽和性を抑制できるためリニアモータとしての特性が向上する。
【0047】
また、ティース2には、中央部に円形のシャフトが挿入される挿入孔9が設けられている。挿入孔9に挿入されるシャフトは軸方向断面が円形でなくても構わない。例えば、シャフトは、軸方向断面が四角形状のもの、凸形状およびキーなどを持ったものなどであっても良い。
【0048】
また、本実施例では、図8A及び図10に示すように、矩形状のコイル5の角部をR形状としている。
【0049】
電機子8の外周側の角部には、角部をR形状としたコイル5と方形状のティース2との形状の違いによる空間が生じる。この空間は、コイル5の引き出し線や結線のための空間と利用でき、ティースの欠損を抑制することできるので、磁束を安定でき、バランスの取れたリニアモータの推力を得ることができる。
【0050】
さらに本実施例では、コイル5の内周側である貫通孔5aの角部をR形状としている。本実施例によれば、貫通孔5aの角部をR形状としているので、コイル5を挿入する際、コイル5の内周部が磁性体2aの角部に接触することによって損傷することを抑制できる。
【実施例0051】
本発明の実施例4について図11及び図12を用いて説明する。実施例4では、永久磁石の構成について説明する。図11Aは、比較例に関する円弧状の永久磁石の構成を示す図である。図11Bは、比較例に関するリング状の永久磁石の構成を示す図である。図12Aは、本発明の実施例4に係る永久磁石10の単体を示す図である。図12Bは、本発明の実施例4に係る永久磁石10を組み合わせた状態を示す図である。
【0052】
推力の大きなリニアモータは、異方性の残留磁束密度の大きな磁石を使うことで推力密度を向上できる。一般的に、磁石は成型時に磁場中で異方性を揃えた粒を磁石として成型する。この粒の向きを揃えるほど高残留磁束密度の永久磁石が得られる。外周が円形状のリニアモータは、図11A及び図11Bに示すように、円弧状の永久磁石を周方向に複数並べて円筒状にしたもの、あるいはリング状に一体化した永久磁石が用いられる。
【0053】
しかし、円弧状やリング状の永久磁石は、永久磁石中で放射状の磁場が必要になり、放射状の磁場中での成型は、粒の方向性のみだれや成型時の力(例えばプレス成型など)で粒の配向が揃い難く、高特性化に限界がある。
【0054】
一方で、本実施例の永久磁石は、図12Aのような矩形状の永久磁石10を用いることにより永久磁石を異方性とすることができ、永久磁石の高特性化が容易となり、高い推力のリニアモータを構成できる。
【0055】
また、矩形状の永久磁石を図12Bのように多面形状に配置することにより、永久磁石10と電機子の対向面積を大きくすることが可能となり、高特性な永久磁石の活用と、永久磁石10と電機子の対向面積増大の相乗効果によって、より高い推力のリニアモータを構成できる。
【0056】
図13Aは、円筒状のリニアモータにおける磁束の分布を示す図である。図13では、リニアモータの軸方向と直交する断面の1/4を示している。図13Aにおいて、リニアモータは円筒状の外筒20aを備えている。円筒状のリニアモータでは、円周状に沿って均等に永久磁石10bやティース2bが配置されている。円筒形のリニアモータでは、360°均等に磁束が分布し、特性が高い。
【0057】
一方で、実使用を考えると、コイルの配線やシャフトの結合部やキー溝、進行方向への配線の取り回しや、冷却スリットなど様々なものが配置される。このため、円筒状のリニアモータは、理想的に均一な磁束の分布になるため、コイルの配線やシャフトの結合部やキー溝、進行方向への配線の取り回しや、冷却スリットなどの配置によって磁束の分布が乱れ、効果的に推力を発生できない。
【0058】
実際の溝などが配置された場合の磁束分布の例を図13Bに示している。図13Bは、実使用における円筒状のリニアモータにおける磁束の分布を示す図である。図13Bに示すように、円筒型の円周状に磁石を配置したリニアモータは、実使用の配線などによって理想的に均一なであった磁束分布が不均一になってしまうという問題があった。また、円筒状の外筒20aの外周側には、略三角形の空間30が発生し、この空間30はリニアモータの四隅に発生する。この空間30は、他の機器を配置するには形状的に制約が多く、ある装置の中に円筒状のリニアモータを規則的に配置した場合であっても、円筒の場合必ず隙間が生じてしまい、空間利用率の低下を招いていた。
【0059】
図13Cは、本発明の実施例4に係るリニアモータにおける磁束の分布を示す図である。
【0060】
本実施例のリニアモータは、多角形状であり、円筒形に比べて無駄になる空間を小さくできる利点がある。また、図13Cに示すように、正方形、四角形断面のリニアモータであれば、その対角の領域31の部分において磁束の粗の領域が生じる。例えば、領域31の角部に角部空間32を形成し、角部空間32を配線収容空間やその他の欠損箇所にすることにより、磁束のアンバランスの抑制が可能となるとともに、対称性を持った形状にすることで、アンバランスを対象面で相殺できる利点がある。また、図13Cの形状であれば、角部にリニアモータを敷き詰めた場合に隙間となる部分が少なく、効果的に空間を利用できる利点がある。
【実施例0061】
本発明の実施例5について図14乃至図15を用いて説明する。図14は、本発明の実施例5に係るリニアモータ1の断面図及び右側面図である。図15Aは、本発明の実施例5に係るリニアモータ1の外周を1/4切り取った状態の外観斜視図である。図15Bは、本発明の実施例5に係る電機子の外周を1/4切り取った状態の外観斜視図である。実施例1乃至4と共通する構成については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0062】
本実施例のリニアモータには、シャフト25が装着されている。シャフト25は電機子8に形成された挿入孔9に挿入される。シャフト25の軸方向の一部(中央部)には、調整リング27が備えられている。本実施例のリニアモータでは、調整リング27を境として、調整リング27の軸方向両側に2つの電機子が備えられている。シャフト25の一方の端部から挿入された電機子は調整リング27の位置で移動が阻止される。同様に、シャフト25の他方の端部から挿入された電機子は、調整リング27の位置で移動が阻止される。調整リング27は、2つの電機子同士の距離を調整する機能を有する。すなわち、調整リング27は、調整リング27の軸方向厚みを変えることで、2つの電機子同士の距離を調整するスペーサとして機能する。なお、この調整リングは、外径形状に制限はなく、円筒状、矩形状であっても構わない。
【0063】
また、シャフト25の挿入された2つの電機子は、それぞれ一端側、他端側に配置された電機子押え部材26によって固定されている。
【0064】
本実施例では、このように配置することで、シャフト25の両端部からそれぞれの電機子を抜き差しすることが可能となり、故障時の電機子の抜きさしや、メンテナンス時などの作業性が大幅に向上する。
【実施例0065】
本発明の実施例6について図16乃至図20を用いて説明する。図16は、本発明の実施例6に係るリニアモータの多角形の画数とギャップまでの距離を説明する図である。図17は、本発明の実施例6に係る六角形のリニアモータ1の外周を1/4切り取った状態の外観斜視図である。図18は、本発明の実施例6に係る六角形のリニアモータ1の断面図及び右側面図である。図19は、本発明の実施例6に係る八角形のリニアモータ1の外周を1/4切り取った状態の外観斜視図である。図20は、本発明の実施例6に係る八角形のリニアモータ1の断面図及び右側面図である。実施例1乃至5と共通する構成については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0066】
本実施例のリニアモータは、永久磁石と対向する多角形のティース(電機子)の辺の画数が2n角形(nは任意の整数)にすることにより、リニアモータの中心軸を中心に、対称な面を有することができる。これにより、その対象面での永久磁石と電機子との吸引力を相殺することが可能となり、信頼性の高いリニアモータを構成できる。
【0067】
多角形の電機子に使用される永久磁石の最短距離を1とした場合、多角形の頂点までの距離が長い場合、電機子内の磁束の分布に粗密が生じる。本実施例のリニアモータはこの粗密を有効に利用するものであり、2nの整数が大きくなるにしたがってその効果は小さくなる。図16に各多角形におけるリニアモータの中心から永久磁石の面の最短部と最長部の距離の比較を示す。2nが大きくなるに従い、リニアモータの中心から永久磁石の面の最短部までの距離に対して、リニアモータの中心から永久磁石の面の最長部までの距離が短くなる。n=4(8角形)では、その比率は1.08であり、8%長さが長くなる。n=5を超えると、その長さはほぼ1に近くなり、効果が得られない。したがって、本実施例のリニアモータは、任意の整数nが5以下となることが望ましい。
【0068】
図17及び図18は六角形のリニアモータの構成を示しており、図19及び図20は八角形のリニアモータの構成を示している。これら多角形の電機子の角部は特に形状の変更はしていないが、角部をR形状にしたり、面取り加工などがあってもよい。永久磁石と電機子の対向する平面部が多角形であればよい。
【0069】
なお、本発明は、上述した実施例に限定するものではなく、様々な変形例が含まれる。上述した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定するものではない。
【符号の説明】
【0070】
1…リニアモータ、2…ティース、2a…磁性体、2b…ティース、5…コイル、5a…貫通孔、8…電機子、9…挿入孔、10…永久磁石、10b…永久磁石、20…角外筒、25…シャフト、26…電機子押え部材、27…調整リング、30…空間、31…領域、32…角部空間
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図13C
図14
図15A
図15B
図16
図17
図18
図19
図20