(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184015
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】ガラス母材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 8/04 20060101AFI20231221BHJP
C03B 37/018 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
C03B8/04 G
C03B8/04 Z
C03B37/018 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097897
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】楠 浩二
【テーマコード(参考)】
4G014
4G021
【Fターム(参考)】
4G014AH11
4G014AH12
4G021EA03
4G021EB06
4G021EB19
(57)【要約】
【課題】製造工程中で原料ガスの流量を低下させることがあっても、良好にガラス母材を形成できるガラス母材の製造方法を提供する。
【解決手段】本開示のガラス母材の製造方法は、原料ガスポートから噴出される原料ガスの流量である第一原料ガス流量と、不活性ガスポートから噴出される不活性ガスの流量である第一不活性ガス流量と、からなる第一流量条件と、原料ガスポートから噴出される原料ガスの流量である第二原料ガス流量と、不活性ガスポートから噴出される不活性ガスの流量である第二不活性ガス流量と、からなる第二流量条件と、を含み、第一流量条件と第二流量条件とを切り替えることが可能であり、第一原料ガス流量は第二原料ガス流量よりも大きく、第一不活性ガス流量は第二不活性ガス流量よりも小さい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーナにより形成された火炎中に原料ガスを噴出することにより、ガラス微粒子を生成し、ターゲット部材にガラス微粒子を堆積させるガラス母材の製造方法であって、
前記バーナは、
前記原料ガスを噴出する原料ガスポートと、
前記原料ガスポートに隣接して囲むように設けられ、不活性ガスを噴出する不活性ガスポートと、
前記不活性ガスポートの周囲に設けられ、燃焼ガスおよび助燃ガスを噴出する火炎形成ポートと、
を備え、
前記ガラス母材の製造方法は、
前記原料ガスポートから噴出される前記原料ガスの流量である第一原料流量と、前記不活性ガスポートから噴出される前記不活性ガスの流量である第一不活性ガス流量と、からなる第一流量条件と、
前記原料ガスポートから噴出される前記原料ガスの流量である第二原料流量と、前記不活性ガスポートから噴出される前記不活性ガスの流量である第二不活性ガス流量と、からなる第二流量条件と、を含み、
第一流量条件と第二流量条件とを切り替えることが可能であり、
前記第一原料流量は前記第二原料流量よりも大きく、前記第一不活性ガス流量は前記第二不活性ガス流量よりも小さい、
ガラス母材の製造方法。
【請求項2】
前記バーナを前記ターゲット部材に対して相対的に往復運動させることにより、ガラス母材を長尺状に形成するガラス母材の製造方法であって、
前記ターゲット部材の中心部に対しては、前記第一流量条件でガラス母材を形成し、
前記ターゲット部材の端部に対しては、前記第二流量条件でガラス母材を形成する、
請求項1に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項3】
前記ターゲット部材にガラス微粒子が堆積していない堆積開始段階において、前記第二流量条件でガラス母材を形成する、請求項1に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項4】
前記第二流量条件において、前記不活性ガスポートにおける前記不活性ガスの噴出流速は、前記原料ガスポートにおける前記原料ガスの噴出流速よりも大きい、請求項1に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項5】
前記バーナへ供給する前記原料ガスの流量を調節する流量調節器は、ノーマルオープン型である請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のガラス母材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガラス母材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1のようなガラス母材の製造方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、原料ガスと燃焼ガス及び助燃ガスとの間に不活性ガスを噴出するバーナを用いてガラス母材を形成するガラス母材の製造方法について記載されている。また、特許文献1に記載のガラス母材の製造方法は、バーナによってターゲット部材にガラス微粒子を堆積させる堆積モードと、ターゲット部材にガラス微粒子を堆積させない非堆積モードとを備え、非堆積モードにおいては原料ガスの流量を低下させることが記載されている。
【0005】
燃焼ガスと助燃ガスにより形成される火炎中に原料ガスが噴出されると、原料ガスが火炎加水分解反応してガラス微粒子が生成され、ターゲット部材にガラス微粒子が堆積する。ところで、原料ガスの流量を下げた状態において、バーナから噴出される原料ガスの流速が低減する。この状態において、原料ガスの反応がバーナ付近で発生することによって、バーナ付近でガラス微粒子が生成されてしまいバーナ先端にガラス微粒子が付着し、所望の形状にガラス母材を形成できないことがある。
【0006】
本開示は、製造工程中で原料ガスの流量を低下させることがあっても、良好にガラス母材を形成できるガラス母材の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係るガラス母材の製造方法は、
バーナにより形成された火炎中に原料ガスを噴出することにより、ガラス微粒子を生成し、ターゲット部材にガラス微粒子を堆積させるガラス母材の製造方法であって、
前記バーナは、
前記原料ガスを噴出する原料ガスポートと、
前記原料ガスポートに隣接して囲むように設けられ、不活性ガスを噴出する不活性ガスポートと、
前記不活性ガスポートの周囲に設けられ、燃焼ガスおよび助燃ガスを噴出する火炎形成ポートと、
を備え、
前記ガラス母材の製造方法は、
前記原料ガスポートから噴出される前記原料ガスの流量である第一原料流量と、前記不活性ガスポートから噴出される前記不活性ガスの流量である第一不活性ガス流量と、からなる第一流量条件と、
前記原料ガスポートから噴出される前記原料ガスの流量である第二原料流量と、前記不活性ガスポートから噴出される前記不活性ガスの流量である第二不活性ガス流量と、からなる第二流量条件と、を含み、
第一流量条件と第二流量条件とを切り替えることが可能であり、
前記第一原料流量は前記第二原料流量よりも大きく、前記第一不活性ガス流量は前記第二不活性ガス流量よりも小さい。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、製造工程中で原料ガスの流量を低下させることがあっても、良好にガラス母材を形成できるガラス母材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の実施形態に係るガラス母材の製造方法を用いてガラス母材を製造することが可能なガラス母材の製造装置の一例を示す概略構成図である。
【
図2】ガラス合成用のバーナの一例を示す図である。
【
図3】バーナから噴出される各ガスの流量条件の一例を示す図である。
【
図4】ガラス微粒子の堆積開始段階における各ガスの流量条件の一例を示す図である。
【
図5】ガラス母材の製造装置の変形例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の実施形態の説明)
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
本開示の一態様に係るガラス母材の製造方法は、
(1)バーナにより形成された火炎中に原料ガスを噴出することにより、ガラス微粒子を生成し、ターゲット部材にガラス微粒子を堆積させるガラス母材の製造方法であって、
前記バーナは、
前記原料ガスを噴出する原料ガスポートと、
前記原料ガスポートに隣接して囲むように設けられ、不活性ガスを噴出する不活性ガスポートと、
前記不活性ガスポートの周囲に設けられ、燃焼ガスおよび助燃ガスを噴出する火炎形成ポートと、
を備え、
前記ガラス母材の製造方法は、
前記原料ガスポートから噴出される前記原料ガスの流量である第一原料流量と、前記不活性ガスポートから噴出される前記不活性ガスの流量である第一不活性ガス流量と、からなる第一流量条件と、
前記原料ガスポートから噴出される前記原料ガスの流量である第二原料流量と、前記不活性ガスポートから噴出される前記不活性ガスの流量である第二不活性ガス流量と、からなる第二流量条件と、を含み、
第一流量条件と第二流量条件とを切り替えることが可能であり、
前記第一原料流量は前記第二原料流量よりも大きく、前記第一不活性ガス流量は前記第二不活性ガス流量よりも小さい。
上記製造方法によれば、第一原料流量は第二原料流量よりも大きく、第一不活性ガス流量は第二不活性ガス流量よりも小さいので、第一流量条件から第二流量条件に切り替わると、原料ガスの流量が低下して、原料ガスと燃焼ガス及び助燃ガスとの間に噴出される不活性ガスの流量が増加する。これにより、バーナ付近において、原料ガスと燃焼ガス及び助燃ガスとが反応しにくくなるので、バーナ自体にガラス微粒子が付着しにくくなり、ガラス母材を良好に形成することができる。
【0011】
(2)上記(1)の製造方法は、前記バーナを前記ターゲット部材に対して相対的に往復運動させることにより、ガラス母材を長尺状に形成するガラス母材の製造方法であって、
前記ターゲット部材の中心部に対しては、前記第一流量条件でガラス母材を形成し、
前記ターゲット部材の端部に対しては、前記第二流量条件でガラス母材を形成してもよい。
ガラス母材を良好に形成するためには、ターゲット部材の端部においてはターゲット部材の中心部よりも原料ガスの流量を低下させた状態で、ガラス母材の形成を行うことが望ましい。上記製造方法のように、ターゲット部材の中心部では第一流量条件でガラス母材を形成し、ターゲット部材の端部では第二流量条件でガラス母材の形成を行うことで、バーナ自体にガラス微粒子が堆積しにくくなる。
【0012】
(3)上記(1)または(2)の製造方法の前記ターゲット部材にガラス微粒子が堆積していない堆積開始段階において、前記第二流量条件でガラス母材を形成してもよい。
ターゲット部材にガラス微粒子が堆積していない堆積開始段階においては、ガラス微粒子の嵩密度を上げて堆積したガラス母材の強度を得るために、原料ガスの流量を減らすことが望ましい。上記製造方法によれば、堆積開始段階において、第二流量条件でガラス母材を形成するので、堆積開始段階で原料ガスの流量を減らした状態であっても、バーナにガラス微粒子が付着しにくい。
【0013】
(4)上記(1)から(3)のいずれかの製造方法の前記第二流量条件において、前記不活性ガスポートにおける前記不活性ガスの噴出流速は、前記原料ガスポートにおける前記原料ガスの噴出流速よりも大きくてもよい。
バーナ先端付近で不活性ガスの流速が低下すると、原料ガスと燃焼ガス及び助燃ガスとの間で反応が起きやすくなり、ガラス微粒子がバーナ先端及びバーナ先端に既に付着したガラス微粒子に堆積しやすくなる。上記製造方法によれば、第二流量条件において、不活性ガスポートにおける不活性ガスの噴出流速は、原料ガスポートにおける原料ガスの噴出流速よりも大きいので、ポート付近では原料ガスと燃焼ガス及び助燃ガスとの間で反応が起きにくい。
【0014】
(5)上記(1)から(4)のいずれかの製造方法において、前記バーナへ供給する前記原料ガスの流量を調節する流量調節器は、ノーマルオープン型であってもよい。
ノーマルオープン型の流量調節器はノーマルクローズ型の流量調節器よりも小流量域における制御が難しい。このため、ノーマルオープン型の流量調節器は小流量域において流量が周期的に昇降するハンチング現象が生じやすく、一定の流量を保ちづらい場合がある。上記製造方法によれば、ノーマルオープン型の流量調節器によって原料ガスの流量を小さくする場合であってもバーナにガラス微粒子が付着しづらいので、良好なガラス母材の製造状態を維持できる。
【0015】
(本開示の実施形態の詳細)
本開示の実施形態に係るガラス母材の製造方法の具体例を、以下に図面を参照して説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0016】
図1は、本開示の実施形態に係るガラス母材の製造方法を用いてガラス母材を製造することが可能なガラス母材の製造装置1の一例を示す概略構成図である。
図1に示すように、ガラス母材の製造装置1は、回転するターゲット部材11を収容する反応容器10と、ターゲット部材11に向けてガラス微粒子を噴き付けるガラス合成用のバーナ20と、を備えている。
【0017】
反応容器10の上壁には不図示の貫通孔が設けられており、棒状のターゲット部材11がこの貫通孔を上下方向に挿通されるように配置されている。ターゲット部材11は、上端が回転チャック13の保持部12により保持される。回転チャック13は上下に移動可能であり、保持部12を軸回りに回転させるように構成されている。回転チャック13は、その高さ位置に応じた信号が本製造装置の制御部(図示省略)に送信されるように構成されている。また、反応容器10には、ターゲット部材11を挟んで、バーナ20が配置されている側とは反対側に排気管14が設けられている。排気管14は、所定量のガスの排気を行い、ターゲット部材11に堆積されずに反応容器10内に浮遊するガラス微粒子を外部に排除する。
【0018】
バーナ20は、例えば、H2ガスを燃焼ガスとし、O2ガスを助燃ガスとし、N2ガス又はArガスなどの不活性ガスをキャリアガス又はシールガスとして、SiCl4、ドープ剤としてのGeCl4などの各種の原料ガスによる火炎の加水分解反応によりガラス微粒子を生成する。ここで、原料ガスは、各種の原料ガスを含むガスを指す。すなわち、SiCl4、GeCl4などの各種の原料ガスと他のガスとの混合ガスでもよいし、各種の原料ガスのみでもよい。他のガスは例えば燃焼ガスまたは助燃ガスであってよく、燃焼ガスまたは助燃ガスに加えて不活性ガスを含むガスでもよい。
バーナ20は、生成されたガラス微粒子をターゲット部材11に向けて噴出しつつ、ターゲット部材11が回転しながら上下方向へ往復移動することにより、ターゲット部材11における所定範囲の領域にガラス微粒子を堆積させる。
【0019】
図2は、バーナ20をガスの噴出側から見た図、すなわち
図1においてガラス母材15側からバーナ20を見た図である。
図2に示すように、バーナ20は、中心部に設けられた原料ガスポート21と、原料ガスポート21に隣接して原料ガスポート21を囲むように設けられた不活性ガスポート22と、不活性ガスポート22の周囲に設けられた火炎形成ポート25と、で構成されている。火炎形成ポート25は、不活性ガスポート22に隣接して不活性ガスポート22を囲むように設けられた燃焼ガスポート23と、助燃ガスポート24とで構成されている。助燃ガスポート24は、燃焼ガスポート23に隣接して燃焼ガスポート23を囲むように設けられた外助燃ガスポート24bと、燃焼ガスポート23内に不活性ガスポート22を囲むように配置された複数(本例では8個)の内助燃ガスポート24aと、で構成されている。なお、外助燃ガスポート24bには助燃ガスの代わりに不活性ガスを供給してもよい。
【0020】
図1に示すように、バーナ20には、上述した各ガスポート21,22,23,24へ各ガスを供給するためのガス供給装置26が、それぞれの配管121,122,123,124を介して接続されている。また、各配管121,122,123,124には、ガス供給装置26からバーナ20へ供給する各ガスの流量を調整するための流量調節器27(27a,27b,27c,27d)が設けられている。
【0021】
流量調節器27のうち少なくとも原料ガスポート21に供給するガスの流量を調整する原料ガス流量調節器27aは、電源がオフの状態で開状態となるノーマルオープン型の調節器である。流量調節器27は、本製造装置の制御部(図示省略)からの制御信号に基づき、バーナ20へ供給する各ガスの流量を制御する。
【0022】
このように、本開示の実施形態に係るガラス母材の製造装置1は、バーナ20と、軸回りに回転するターゲット部材11とを相対的に往復移動させてターゲット部材11にガラス微粒子を堆積させるOVD法(外付け法)に用いられる。
【0023】
次に、ガラス母材の製造装置1を用いたガラス母材15の製造方法について、
図3及び
図1を参照して説明する。
図3は、ガラス母材15の製造時におけるバーナ20の各ガスポート21,22,23,24から噴出されるガス流量の変化を示す図である。
【0024】
図3に示すように、各ガスポート21,22,23,24から噴出されるガス流量には、第一流量条件と第二流量条件とが設定されている。第一流量条件は、原料ガスポート21から噴出される原料ガスの流量が第一原料ガス流量A1となり、不活性ガスポート22から噴出される不活性ガスの流量が第一不活性ガス流量B1となるように設定された流量条件である。第二流量条件は、原料ガスポート21から噴出される原料ガスの流量が第二原料ガス流量A2となり、不活性ガスポート22から噴出される不活性ガスの流量が第二不活性ガス流量B2となるように設定された流量条件である。
【0025】
第一流量条件において噴出される第一原料ガス流量A1は、第二流量条件において噴出される第二原料ガス流量A2よりも大きい流量である。第一流量条件において噴出される第一不活性ガス流量B1は、第二流量条件において噴出される第二不活性ガス流量B2よりも小さい流量である。
【0026】
また、第二流量条件において、不活性ガスポート22から噴出される不活性ガスの噴出流速と、原料ガスポート21から噴出される原料ガスの噴出流速とを比較すると、不活性ガスの噴出流速の方が原料ガスの噴出流速よりも大きい。噴出流速とは、バーナ20の各ガスポート21,22,23,24の出口部における平均流速のことであり、各ガスポート21,22,23,24の流量/断面積により算出される値である。
【0027】
また、第二流量条件において、不活性ガスポート22から噴出される第二不活性ガス流量B2と、原料ガスポート21から噴出される第二原料ガス流量A2とを比較すると、第二不活性ガス流量B2の方が第二原料ガス流量A2よりも大きい。なお、第一流量条件において、原料ガスポート21から噴出される第一原料ガス流量A1と、不活性ガスポート22から噴出される第一不活性ガス流量B1とを比較すると、第一原料ガス流量A1の方が第一不活性ガス流量B1よりも大きい。
【0028】
また、第二流量条件において燃焼ガスポート23から噴出される燃焼ガスの流量である第二燃焼ガス流量C2と、第一流量条件において燃焼ガスポート23から噴出される燃焼ガスの流量である第一燃焼ガス流量C1とを比較すると、第二燃焼ガス流量C2の方が第一燃焼ガス流量C1よりも大きい。同様に、第二流量条件において助燃ガスポート24から噴出される助燃ガスの流量である第二助燃ガス流量D2と、第一流量条件において助燃ガスポート24から噴出される燃焼ガスの流量である第一助燃ガス流量D1とを比較すると、第二助燃ガス流量D2の方が第一助燃ガス流量D1よりも大きい。なお、燃焼ガスと助燃ガスのうち、燃焼ガスの流量のみを第二流量条件で増加させて、助燃ガスの流量は第一流量条件と第二流量条件で一定のままとしてもよい。
【0029】
【0030】
一例として、表1に示すように、原料ガス流量は、第一流量条件の流量:第二流量条件の流量=1:0.5に設定されていてもよい。不活性ガス流量は、第一流量条件の流量:第二流量条件の流量=1:2に設定されていてもよい。燃焼ガス流量は、第一流量条件の流量:第二流量条件の流量=1:1.2に設定されていてもよい。助燃ガス流量は、第一流量条件の流量:第二流量条件の流量=1:1.2に設定されていてもよい。また、第一流量条件における原料ガス流量と不活性ガス流量と燃焼ガス流量と助燃ガス流量との総量は、第二流量条件における原料ガス流量と不活性ガス流量と燃焼ガス流量と助燃ガス流量との総量と相違するように設定されていてもよい。
【0031】
第一流量条件は、ターゲット部材11の長手方向における中心部に対してガラス微粒子を噴出しガラス母材15の有効部を形成する流量条件である。有効部とは、ガラス母材15から製品となる光ファイバを製造できる部分である。第二流量条件は、ターゲット部材11の長手方向における両端部に対してガラス微粒子を噴出しガラス母材15の非有効部を形成する流量条件である。例えば、
図1に示す長尺状のガラス母材15において、ターゲット部材11の長手方向におけるY1の位置からY2の位置までの領域が中心部(有効部)であり、Y2の位置からY3の位置までの領域及びY1の位置からY4の位置までの領域が端部(非有効部)である。
【0032】
次に、
図3に示すガス流量の変化を
図1に示すガラス母材の製造装置1によるガラス母材15の製造に対応させながら説明する。
図3における時間t1から時間t2までの期間がターゲット部材11のY1の位置からY2の位置までの領域をバーナ20が相対的に上方へ向かって移動しながらガラス微粒子を堆積させる期間であり、時間t3から時間t4までの期間がターゲット部材11のY2の位置からY1の位置までの領域をバーナ20が相対的に下方へ向かって移動しながらガラス微粒子を堆積させる期間である。
【0033】
ガラス母材15の製造中、回転チャック13は、回転チャック13の高さ位置に対応する信号を制御部へ送る。制御部は回転チャック13からの信号に基づいてターゲット部材11におけるバーナ20に対向する高さ位置(すなわち堆積位置)を算出する。なお、制御部は、回転チャック13からの信号に限らず回転チャック13を制御するための信号に基づいて堆積位置を算出しても良い。
【0034】
図1に示すように、ガラス母材の製造装置1によるガラス母材15の製造中において、現在のバーナ20がターゲット部材11の長手方向における中央の位置にあり、バーナ20が相対的に上方向へ移動(ターゲット部材11がバーナ20に対して下方へ移動)している状態であるとする。
【0035】
その状態では、堆積位置がY1とY2の間の位置であることに基づいて、制御部は、流量調節器27a,27b,27c,27dからガスポート21,22,23,24へそれぞれ供給される各ガスの流量が第一流量条件のガス流量となるように制御する。
【0036】
次に、所定時間後(時間t2)に、堆積位置が上方向移動におけるY2の位置に達すると、制御部は、流量調節器27a,27b,27c,27dからガスポート21,22,23,24へそれぞれ供給される各ガスの流量が第二流量条件のガス流量となるように制御する。これにより、ターゲット部材11の長手方向におけるY1の位置からY2の位置までの中心部に対して、第一流量条件のガスがガスポート21,22,23,24から噴出されてガラス微粒子が堆積されるとともに、Y2の位置においてガスポート21,22,23,24から噴出されるガス流量が第二流量条件へと切り替えられる。
【0037】
次に、回転チャック13は、バーナ20の位置がY3の位置に達すると、ターゲット部材11の移動方向を反転させて、バーナ20がターゲット部材11に沿って相対的に下方向へ移動(ターゲット部材11がバーナ20に対して上方へ移動)するように制御する。
【0038】
次に、所定時間後(時間t3)に、バーナ20による堆積位置が下方向移動におけるY2の位置に達すると、制御部は、流量調節器27a,27b,27c,27dからガスポート21,22,23,24へそれぞれ供給される各ガスの流量が第一流量条件のガス流量となるように制御する。
このように、ターゲット部材11の長手方向における上方側端部であるY3の位置付近において第二流量条件のガスがガスポート21,22,23,24から噴出されてガラス微粒子が堆積される。また、Y2の位置においてガスポート21,22,23,24から噴出されるガス流量が第一流量条件と第二流量条件との間で切り替えられる。
【0039】
次に、所定時間後(時間t4)に、バーナ20による堆積位置が下方向移動におけるY1の位置に達すると、制御部は、流量調節器27a,27b,27c,27dからガスポート21,22,23,24へそれぞれ供給される各ガスの流量が第二流量条件のガス流量となるように制御する。これにより、ターゲット部材11の長手方向におけるY2の位置からY1の位置までの中心部に対して、第一流量条件のガスがガスポート21,22,23,24から噴出されてガラス微粒子が堆積されるとともに、Y1の位置においてガスポート21,22,23,24から噴出されるガス流量が第二流量条件へと切り替えられる。
【0040】
次に、回転チャック13は、バーナ20の位置がY4の位置に達すると、ターゲット部材11の移動方向を反転させて、バーナ20がターゲット部材11に沿って相対的に上方向へ移動するように制御する。
【0041】
次に、所定時間後(時間t5)に、バーナ20による堆積位置が上方向移動におけるY1の位置に達すると、制御部は、流量調節器27a,27b,27c,27dからガスポート21,22,23,24へそれぞれ供給される各ガスの流量が第一流量条件のガス流量となるように制御する。
このように、ターゲット部材11の長手方向における下方側端部Y4の位置付近において第二流量条件のガスがガスポート21,22,23,24から噴出されてガラス微粒子が堆積される。また、Y1の位置においてガスポート21,22,23,24から噴出されるガス流量が第一流量条件と第二流量条件との間で切り替えられる。
【0042】
これら第一流量条件及び第二流量条件による一連の処理工程が繰り返されることにより、中心部では第一流量条件により同一径のガラス母材が形成されるとともに、上下両端部では第二流量条件により端部ほど径が小さいガラス母材が形成される。
【0043】
次に、ガラス母材15の製造過程において、ターゲット部材11に対するガラス微粒子の堆積が開始された堆積開始段階におけるガスの流量条件について、
図4を参照して説明する。
図4は、堆積開始段階においてバーナ20の各ガスポート21,22,23,24から噴出されるガス流量の変化を示す図である。
【0044】
図4に示すように、ターゲット部材11に対するガラス微粒子の堆積が開始された堆積開始段階、すなわちターゲット部材11に対してガラス微粒子が堆積されていない所定の期間(時間t01~時間t02)においは、ガスポート21,22,23,24から第二流量条件のガスが噴出されてターゲット部材11にガラス微粒子が堆積される。所定の期間とは、例えば、ターゲット部材11の表面がガラス微粒子によりほぼ隙間なく一様に堆積された状態となるまでの期間のことをいう。つまり、堆積開始段階においては、ターゲット部材11の長手方向における下端のY4の位置から上端のY3の位置までの領域、すなわち端部だけでなく中心部においても第二流量条件でガラス母材15を形成する。上述したように、第二流量条件において、不活性ガスの第二不活性ガス流量B2は、原料ガスの第二原料ガス流量A2よりも大きくなるように設定されている。
【0045】
ところで、燃焼ガスと助燃ガスにより形成される火炎中に原料ガスを噴出することによりガラス微粒子を生成し、ターゲット部材にガラス微粒子を堆積する際において、原料ガスの流量を下げた状態にすると、バーナから噴出される原料ガスの流速が低減する。この状態において、原料ガスの反応がバーナ付近で発生すると、バーナ付近でガラス微粒子が生成されてしまいバーナ先端にガラス微粒子が付着し、ガラス母材を良好に形成できないことがある。例えば、原料ガスの流量を低下させるとき、目標とする流量をオーバーシュートして、目標とする流量を下回った流量から徐々に目標とする流量に近づくことがある。目標とする流量をオーバーシュートして下回る状態では、特にバーナ付近で原料ガスと燃焼ガス及び助燃ガスとが反応しやすく、生成されたガラス微粒子がバーナ自体に付着することがある。
【0046】
これに対して、本実施形態のガラス母材15の製造方法によれば、第一流量条件の第一原料ガス流量A1は第二流量条件の第二原料ガス流量A2よりも大きく設定され、第一流量条件の第一不活性ガス流量B1は第二流量条件の第二不活性ガス流量B2よりも小さく設定されている。このため、バーナ20から噴出されるガスの流量が第一流量条件から第二流量条件に切り替わると、原料ガスの流量が第一原料ガス流量A1から第二原料ガス流量A2に低下して、原料ガスと燃焼ガス及び助燃ガスとの間に噴出される不活性ガスの流量が第一不活性ガス流量B1から第二不活性ガス流量B2に増加する。これにより、バーナ20付近において、原料ガスと燃焼ガス及び助燃ガスとが反応しにくくなるので、原料ガスの流量を低下させることがあっても、バーナ20自体にガラス微粒子が付着しにくくなり、ガラス母材15を良好に形成することができる。
【0047】
また、ガラス母材の製造方法にあっては、ガラス母材を良好に形成するためには、ターゲット部材の端部においてはターゲット部材の中心部よりも原料ガスの流量を低下させた状態で、ガラス母材の形成を行うことが望ましい。これに対して、本実施形態のガラス母材15の製造方法においては、ターゲット部材11のY1の位置からY2の位置までの中心部では第一流量条件の第一原料ガス流量A1でガラス母材15を形成し、ターゲット部材11のY2の位置からY3の位置までの上方側端部及びY1の位置からY4の位置までの下方側端部では第二流量条件の第二原料ガス流量A2でガラス母材15の形成を行う。これにより、ガラス母材15を良好に形成しつつ、バーナ20自体にガラス微粒子を堆積しにくくすることができる。
【0048】
本実施形態のガラス母材15の製造方法によれば、ターゲット部材11にガラス微粒子が堆積していない堆積開始段階において、バーナ20のガスポート21,22,23,24から第二流量条件のガスを噴出してターゲット部材11にガラス微粒子を堆積する。ガラス微粒子が堆積していない堆積開始段階においては、ターゲット部材11に堆積するガラス微粒子の嵩密度を上げてガラス微粒子堆積体(ガラス母材15)の強度を高めることが望ましい。そして、ガラス微粒子の嵩密度を上げるためには、原料ガスの流量を減らすことが望ましい。上記製造方法によれば、堆積開始段階において、原料ガスが第二原料ガス流量A2である第二流量条件でガラス母材15を形成するので、ガラス微粒子の嵩密度を上げることができるとともに、堆積開始段階で原料ガスの流量を減らした状態であっても、バーナ20にガラス微粒子が付着しにくい。
【0049】
本実施形態のガラス母材15の製造方法は、第二流量条件において、不活性ガスポート22における不活性ガスの噴出流速は、原料ガスポート21における原料ガスの噴出流速よりも大きい。バーナ20の先端付近で不活性ガスの流速が低下すると、原料ガスと燃焼ガス及び助燃ガスとの間で反応が起きやすくなり、ガラス微粒子がバーナ20の先端及びバーナ20の先端に既に付着したガラス微粒子に堆積しやすくなる。上記製造方法によれば、第二流量条件において、不活性ガスポート22における不活性ガスの噴出流速が、原料ガスポート21における原料ガスの噴出流速よりも大きいので、原料ガスの流量が低下しても、ポート付近での原料ガスと燃焼ガス及び助燃ガスとの反応が起きにくく、バーナ20にガラス微粒子が付着しにくい。
【0050】
本実施形態のガラス母材15の製造方法において、バーナ20へ供給する原料ガスの流量を調節する原料ガス流量調節器27a(流量調節器27のうちの一つ)は、ノーマルオープン型である。ノーマルオープン型の流量調節器はノーマルクローズ型よりも小流量域における制御が難しい。このため、ノーマルオープン型の流量調節器は小流量域において流量が周期的に昇降するハンチング現象が生じやすく、一定の流量を保ちづらい場合がある。上記製造方法によれば、ノーマルオープン型の流量調節器によって原料ガスポート21からの原料ガスの流量を小さくする場合であっても不活性ガスポート22からの不活性ガスの流量を大きくするので、バーナ20にガラス微粒子を付着しづらくでき、良好なガラス母材15の製造状態を維持できる。
【0051】
本実施形態のガラス母材15の製造方法によれば、第二流量条件においては第二燃焼ガス流量C2が第一燃焼ガス流量C1よりも大きく、第二助燃ガス流量D2が第一助燃ガス流量D1よりも大きい。このように、ターゲット部材11の端部において原料ガスの流量を減少させるとともに、燃焼ガス及び助燃ガスの流量を増加させることにより、堆積するガラス微粒子の嵩密度を増加させることができる。これにより、ガラス母材15の端部におけるクラック発生(スス割れ)を抑制することができる。
【0052】
(変形例)
上述した例では、1本のバーナを備えたOVD法によりガラス母材15を製造する場合について説明したが、これに限定されない。本発明に係るガラス母材の製造方法は、例えば、
図5に示すように、複数本(例えば、6本)のバーナ120a,120b,120c,120d,120e,120fで構成されたバーナ列を備えたガラス母材の製造装置100を用いてもよい。ターゲット部材11は、軸回りに回転しながら矢印Qで示すように各バーナ120a,120b,120c,120d,120e,120fに対して相対的に上下に往復移動する。往復移動する範囲は、
図1で示した例より小さい。製造装置100は、各バーナ120a,120b,120c,120d,120e,120fで生成されたガラス微粒子をそれぞれターゲット部材11の長手方向の一部を覆うように堆積させ、且つ隣り合うバーナによりガラス微粒子を堆積させた範囲が連続して一つのガラス微粒子堆積体を形成するガラス母材の製造方法を実施することができる。なお、図示は省略するが、各バーナ120a,120b,120c,120d,120e,120fには、それぞれガスポート21~24が接続されている。また、
図5に示す製造装置100において、
図1の製造装置1と同様の機能を有する部材については同じ符号を付している。
【0053】
図5に示す製造装置100の場合には、上下方向のバーナ列の両端に配置されたバーナ120a及び120fから噴出される各ガスの流量が第一流量条件と第二流量条件とに切り替えられる。これに対して、バーナ120b,120c,120d,120eから噴出される各ガスの流量は、第一流量条件が維持される。バーナ列に対して相対的にターゲット部材11が下降した
図5の状態においては、バーナ120aから噴出される各ガスの流量が第一流量条件に切り替えられ、バーナ120fから噴出される各ガスの流量が第二流量条件に切り替えられる。これにより、ターゲット部材11の中心部では第一流量条件でガラス母材15を形成し、ターゲット部材11の端部では第二流量条件でガラス母材15の形成を行うことができる。この変形例においても、
図1から
図4に示した実施形態と同様に、バーナ自体にガラス微粒子が堆積しにくくなる。
【0054】
この変形例においても、堆積開始段階においては、すべてのバーナ120a,120b,120c,120d,120e,120fについて第二流量条件でガラス母材15を形成してもよい。
【0055】
以上、本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。また、上記説明した構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等に変更することができる。
【0056】
例えば、本実施形態において、ターゲット部材は上下方向に配置されているが、ターゲット部材が水平方向に配置されている場合でも、本開示において説明した製造方法を適用できる。
また、本実施形態において、ターゲット部材ではなくバーナが上下方向に移動することでガラス微粒子を堆積させてもよい。この場合であっても、本開示の製造方法を適用できる。
【符号の説明】
【0057】
1,100 ガラス母材の製造装置
11 ターゲット部材
12 保持部
13 回転チャック
14 排気管
15 ガラス母材
20,120a~120f バーナ
21 原料ガスポート
22 不活性ガスポート
23 燃焼ガスポート
24 助燃ガスポート
24a 内助燃ガスポート
24b 外助燃ガスポート
25 火炎形成ポート
26 ガス供給装置
27,27a,27b,27c,27d 流量調節器
27a 原料ガス流量調節器
27b 不活性ガス流量調節器
27c 燃焼ガス流量調節器
27d 助燃ガス流量調節器
121,122,123,124 配管
A1 第一原料ガス流量
A2 第二原料ガス流量
B1 第一不活性ガス流量
B2 第二不活性ガス流量
C1 第一燃焼ガス流量
C2 第二燃焼ガス流量
D1 第一助燃ガス流量
D2 第二助燃ガス流量