(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184020
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】分光分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3581 20140101AFI20231221BHJP
【FI】
G01N21/3581
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097907
(22)【出願日】2022-06-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)総務省、戦略的情報通信研究開発推進事業、「高速テラヘルツ波検出技術による1~3THz帯リアルタイム小型分光センシングシステムの研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】秋山 高一郎
(72)【発明者】
【氏名】中西 篤司
(72)【発明者】
【氏名】藤田 和上
(72)【発明者】
【氏名】道垣内 龍男
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059DD13
2G059EE01
2G059EE11
2G059GG01
2G059GG09
2G059HH05
2G059JJ11
2G059LL01
2G059NN05
(57)【要約】
【課題】テラヘルツ波による試料の分光分析を適切に実施することができる分光分析装置を提供する。
【解決手段】分光分析装置1Aは、所定の支持エリア2aを含むように試料Sを支持する支持部2と、所定の周波数範囲のテラヘルツ波Tを出射する光源3と、テラヘルツ波Tをコリメートする第1軸外放物面ミラー4と、テラヘルツ波Tを支持エリア2a上に集光する第1レンズ5と、試料Sに照射されたテラヘルツ波Tを検出する光検出器8と、を備える。光源3は、量子カスケードレーザ素子と、可動回折格子と、を有する。光源3から第1軸外放物面ミラー4及び第1レンズ5を介して支持エリア2aに至る距離は、10mm以上200mm以下である。第1レンズ5の有効径は、5mm以上80mm以下である。支持エリア2aの外径は、0.5mm以上3.5mm以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の支持エリアを含むように試料を支持する支持部と、
所定の周波数範囲のテラヘルツ波を出射する光源と、
前記光源から出射された前記テラヘルツ波をコリメートする第1軸外放物面ミラーと、
前記第1軸外放物面ミラーによってコリメートされた前記テラヘルツ波を前記支持エリア上に集光する第1レンズと、
前記試料に照射された前記テラヘルツ波を検出する光検出器と、を備え、
前記光源は、
第1周波数の第1光及び第2周波数の第2光を生成し、前記第1周波数及び前記第2周波数の差周波数の前記テラヘルツ波を出射する量子カスケードレーザ素子と、
前記第1光について外部共振器を構成し、前記量子カスケードレーザ素子に対する回折格子パターンの角度を変化させることで前記第1周波数を変化させる可動回折格子と、を有し、
前記光源から前記第1軸外放物面ミラー及び前記第1レンズを介して前記支持エリアに至る距離は、10mm以上200mm以下であり、
前記第1レンズの有効径は、5mm以上80mm以下であり、
前記支持エリアの外径は、0.5mm以上3.5mm以下である、分光分析装置。
【請求項2】
前記試料に照射された前記テラヘルツ波をコリメートする第2レンズを更に備える、請求項1に記載の分光分析装置。
【請求項3】
前記試料に照射された前記テラヘルツ波を前記光検出器に集光する第2軸外放物面ミラーを更に備える、請求項1又は2に記載の分光分析装置。
【請求項4】
不活性ガスへの置換又は真空引きが行われる筐体を更に備え、
少なくとも前記光源、前記第1軸外放物面ミラー、前記第1レンズ及び前記光検出器は、前記筐体内に配置されている、請求項1又は2に記載の分光分析装置。
【請求項5】
前記支持部は、前記筐体外に配置されており、
前記筐体は、前記支持エリアの両側において前記支持エリアに対向する第1壁及び第2壁を有し、
前記第1壁には、前記テラヘルツ波を透過させる第1窓部が設けられており、
前記第2壁には、前記テラヘルツ波を透過させる第2窓部が設けられている、請求項4に記載の分光分析装置。
【請求項6】
前記支持エリアと前記第1壁とが対向する方向から見た場合に、前記第1窓部の外径は、前記支持エリアの外径の1倍以上10倍以下である、請求項5に記載の分光分析装置。
【請求項7】
前記支持部及び前記光検出器のそれぞれの位置は、前記可動回折格子が前記回折格子パターンの前記角度を変化させた際に、固定されている、請求項1又は2に記載の分光分析装置。
【請求項8】
前記第1軸外放物面ミラー及び前記第1レンズのそれぞれの位置は、前記可動回折格子が前記回折格子パターンの前記角度を変化させた際に、固定されている、請求項1又は2に記載の分光分析装置。
【請求項9】
前記周波数範囲は、0.5THz以上5.0THz以下である、請求項1又は2に記載の分光分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
広帯域のテラヘルツ波の出射が可能な光源として、外部共振器型の非線形量子カスケードレーザ光源が知られている(例えば、特許文献1参照)。外部共振器型の非線形量子カスケードレーザ光源は、小型で且つ室温動作が可能な光源であるため、試料の分光分析への応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国出願公開第2015/0311665号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、外部共振器型の非線形量子カスケードレーザ光源には、テラヘルツ波の周波数に応じてテラヘルツ波の放射角が変化するという課題がある。そのため、試料の分光分析においては、例えば、テラヘルツ波の周波数に応じて試料を移動させないと、試料に対するテラヘルツ波の照射量がテラヘルツ波の周波数に応じて変化するおそれがある。
【0005】
本発明は、テラヘルツ波による試料の分光分析を適切に実施することができる分光分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の分光分析装置は、[1]「所定の支持エリアを含むように試料を支持する支持部と、所定の周波数範囲のテラヘルツ波を出射する光源と、前記光源から出射された前記テラヘルツ波をコリメートする第1軸外放物面ミラーと、前記第1軸外放物面ミラーによってコリメートされた前記テラヘルツ波を前記支持エリア上に集光する第1レンズと、前記試料に照射された前記テラヘルツ波を検出する光検出器と、を備え、前記光源は、第1周波数の第1光及び第2周波数の第2光を生成し、前記第1周波数及び前記第2周波数の差周波数の前記テラヘルツ波を出射する量子カスケードレーザ素子と、前記第1光について外部共振器を構成し、前記量子カスケードレーザ素子に対する回折格子パターンの角度を変化させることで前記第1周波数を変化させる可動回折格子と、を有し、前記光源から前記第1軸外放物面ミラー及び前記第1レンズを介して前記支持エリアに至る距離は、10mm以上200mm以下であり、前記第1レンズの有効径は、5mm以上80mm以下であり、前記支持エリアの外径は、0.5mm以上3.5mm以下である、分光分析装置」である。
【0007】
上記[1]の分光分析装置では、所定の周波数範囲のテラヘルツ波が第1レンズの有効径内の部分を実質的に通過し、所定の周波数範囲のテラヘルツ波の集光スポットが支持エリア内に実質的に収まる。ここで、試料は、外径が0.5mm以上3.5mm以下という微小な支持エリアを含むように支持されている。したがって、試料の分光分析の際に、例えば、テラヘルツ波の周波数に応じて試料を移動させなくても、試料に対するテラヘルツ波の照射量が略一定に維持される。テラヘルツ波の周波数に応じて試料を移動させないで済むことは、支持部の構造の簡素化、分析時間の短縮化に繋がる。よって、上記[1]の分光分析装置によれば、テラヘルツ波による試料の分光分析を適切に実施することができる。
【0008】
本発明の分光分析装置は、[2]「前記試料に照射された前記テラヘルツ波をコリメートする第2レンズを更に備える、上記[1]に記載の分光分析装置」であってもよい。当該[2]の分光分析装置によれば、試料に照射されたテラヘルツ波を光検出器に適切に入射させることができる。
【0009】
本発明の分光分析装置は、[3]「前記試料に照射された前記テラヘルツ波を前記光検出器に集光する第2軸外放物面ミラーを更に備える、上記[1]又は[2]に記載の分光分析装置」であってもよい。当該[3]の分光分析装置によれば、試料に照射されたテラヘルツ波を光検出器に適切に入射させることができる。
【0010】
本発明の分光分析装置は、[4]「不活性ガスへの置換又は真空引きが行われる筐体を更に備え、少なくとも前記光源、前記第1軸外放物面ミラー、前記第1レンズ及び前記光検出器は、前記筐体内に配置されている、上記[1]~[3]のいずれかに記載の分光分析装置」であってもよい。当該[4]の分光分析装置によれば、試料に照射されるテラヘルツ波、及び試料に照射されたテラヘルツ波が水分に吸収されるのを防止し、テラヘルツ波の検出感度を向上させることができる。
【0011】
本発明の分光分析装置は、[5]「前記支持部は、前記筐体外に配置されており、前記筐体は、前記支持エリアの両側において前記支持エリアに対向する第1壁及び第2壁を有し、前記第1壁には、前記テラヘルツ波を透過させる第1窓部が設けられており、前記第2壁には、前記テラヘルツ波を透過させる第2窓部が設けられている、上記[4]に記載の分光分析装置」であってもよい。当該[5]の分光分析装置によれば、筐体において不活性ガスへの置換又は真空引きが行われた状態を維持しつつ、支持部に対する試料の配置等を実施することができる。
【0012】
本発明の分光分析装置は、[6]「前記支持エリアと前記第1壁とが対向する方向から見た場合に、前記第1窓部の外径は、前記支持エリアの外径の1倍以上10倍以下である、上記[5]に記載の分光分析装置」であってもよい。当該[6]の分光分析装置によれば、テラヘルツ波の照射位置を把握しやすくなる。
【0013】
本発明の分光分析装置は、[7]「前記支持部及び前記光検出器のそれぞれの位置は、前記可動回折格子が前記回折格子パターンの前記角度を変化させた際に、固定されている、上記[1]~[6]のいずれかに記載の分光分析装置」であってもよい。当該[7]の分光分析装置によれば、支持部及び光検出器の構造の簡素化を図ることができる。
【0014】
本発明の分光分析装置は、[8]「前記第1軸外放物面ミラー及び前記第1レンズのそれぞれの位置は、前記可動回折格子が前記回折格子パターンの前記角度を変化させた際に、固定されている、上記[1]~[7]のいずれかに記載の分光分析装置」であってもよい。当該[8]の分光分析装置によれば、第1軸外放物面ミラー及び第1レンズの構造の簡素化を図ることができる。
【0015】
本発明の分光分析装置は、[9]「前記周波数範囲は、0.5THz以上5.0THz以下である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の分光分析装置」であってもよい。当該[9]の分光分析装置によれば、テラヘルツ波による試料の分光分析を広い周波数範囲で実施することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、テラヘルツ波による試料の分光分析を適切に実施することができる分光分析装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】第1シミュレーションによるテラヘルツ波の集光状態、及び第2シミュレーションによるテラヘルツ波の集光状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[分光分析装置の構成]
【0019】
図1に示されるように、分光分析装置1Aは、支持部2と、光源3と、第1軸外放物面ミラー4と、第1レンズ5と、第2レンズ6と、第2軸外放物面ミラー7と、光検出器8と、筐体9と、を備えている。分光分析装置1Aは、所定の周波数範囲のテラヘルツ波Tを試料Sに照射し、試料Sを透過したテラヘルツ波Tを検出することで、試料Sの分光分析を実施する。
【0020】
支持部2は、所定の支持エリア2aを含むように試料Sを支持する。支持エリア2aは、円形のエリアである。支持部2は、支持エリア2aに垂直な方向に沿ってテラヘルツ波Tが通過可能となるように試料Sを支持する。本実施形態では、支持部2は、板状に成形された試料Sが円環状のホルダHによって保持された状態で、試料Sを支持する。以下、支持エリア2aに垂直な方向をZ方向といい、Z方向に垂直な一方向をX方向といい、Z方向及びX方向の両方向に垂直な方向をY方向という。
【0021】
光源3は、外部共振器型の非線形量子カスケードレーザ光源であり、所定の周波数範囲のテラヘルツ波Tを出射する。本実施形態では、光源3は、テラヘルツ波TをY方向に沿って出射する。光源3から出射されるテラヘルツ波Tの周波数範囲は、0.5THz以上5.0THz以下である。
【0022】
第1軸外放物面ミラー4は、光源3から出射されたテラヘルツ波Tをコリメートする。第1軸外放物面ミラー4は、テラヘルツ波Tをコリメートすると共にテラヘルツ波Tを反射するミラー面4aを有している。本実施形態では、第1軸外放物面ミラー4は、テラヘルツ波Tの進行方向をY方向からZ方向に変更するようにテラヘルツ波Tを反射する。なお、第1軸外放物面ミラー4は、テラヘルツ波Tを完全な平行光にコリメートするものに限定されず、テラヘルツ波Tを実質的にコリメートするものであればよい。
【0023】
第1レンズ5は、第1軸外放物面ミラー4によってコリメートされたテラヘルツ波Tを支持エリア2a上に集光する。つまり、第1レンズ5は、テラヘルツ波Tの集光スポットが支持エリア2a上に位置するようにテラヘルツ波Tを集光する。本実施形態では、第1レンズ5は、テラヘルツ波TをZ方向に沿って透過させると共にテラヘルツ波Tを集光する。第1レンズ5は、支持エリア2a上においてテラヘルツ波Tの集光スポットの径(=(1.22×波長)/開口数)が1mm以下となるようにテラヘルツ波Tを集光する開口数を有している。ただし、支持エリア2a上におけるテラヘルツ波Tの集光スポットの径は、1mm以上であってもよい。
【0024】
第2レンズ6は、試料Sに照射されたテラヘルツ波Tをコリメートする。つまり、第2レンズ6は、試料Sを透過して発散状態にあるテラヘルツ波Tをコリメートする。本実施形態では、第2レンズ6は、テラヘルツ波TをZ方向に沿って透過させると共にテラヘルツ波Tをコリメートする。なお、第2レンズ6は、テラヘルツ波Tを完全な平行光にコリメートするものに限定されず、テラヘルツ波Tを実質的にコリメートするものであればよい。
【0025】
第2軸外放物面ミラー7は、第2レンズ6によってコリメートされたテラヘルツ波T(すなわち、試料Sに照射されたテラヘルツ波T)を光検出器8に集光する。第2軸外放物面ミラー7は、テラヘルツ波Tを集光すると共にテラヘルツ波Tを反射するミラー面7aを有している。本実施形態では、第2軸外放物面ミラー7は、テラヘルツ波Tの進行方向をZ方向からY方向に変更するようにテラヘルツ波Tを反射する。
【0026】
光検出器8は、第2軸外放物面ミラー7によって集光されたテラヘルツ波T(すなわち、試料Sに照射されたテラヘルツ波T)を検出する。光検出器8は、例えば、ゴーレイセル、ボロメータ等である。
【0027】
筐体9は、不活性ガスへの置換又は真空引きが行われる筐体である。光源3、第1軸外放物面ミラー4、第1レンズ5、第2レンズ6、第2軸外放物面ミラー7及び光検出器8は、筐体9内に配置されている。より具体的には、光源3、第1軸外放物面ミラー4及び第1レンズ5は、筐体9の第1部分9A内に配置されており、第2レンズ6、第2軸外放物面ミラー7及び光検出器8は、筐体9の第2部分9B内に配置されている。支持部2は、筐体9外に配置されている。一例として、筐体9内には、窒素ガスがパージされる。
【0028】
筐体9は、支持エリア2aの両側において支持エリア2aに対向する第1壁91及び第2壁92を有している。本実施形態では、第1壁91は、第1部分9Aを構成する壁の一部であり、第2壁92は、第2部分9Bを構成する壁の一部である。第1壁91には、テラヘルツ波Tを透過させる第1窓部91aが設けられている。第1窓部91aは、Z方向において支持エリア2aに対向している。第1窓部91aは、支持エリア2aと第1壁91とが対向する方向であるZ方向から見た場合に支持エリア2aを含む大きさを有している。つまり、支持エリア2aと第1壁91とが対向する方向であるZ方向から見た場合に、第1窓部91aの外縁は、支持エリア2aの外縁の外側に位置している。具体的には、Z方向から見た場合に、第1窓部91aの外径は、支持エリア2aの外径の1倍以上10倍以下である。第1窓部91aの外径は、例えば、20mm程度である。第2壁92には、テラヘルツ波Tを透過させる第2窓部92aが設けられている。第2窓部92aは、Z方向において支持エリア2aに対向している。第2窓部92aも、第1窓部91aと同様に、Z方向から見た場合に支持エリア2aを含む大きさを有している。第1窓部91a及び第2窓部92aの材料は、例えば、合成石英、プラスチック等である。
[光源の構成]
【0029】
図2に示されるように、光源3は、量子カスケードレーザ素子10を有している。量子カスケードレーザ素子10は、半導体基板11と、半導体層12と、を有している。半導体層12は、半導体基板11の一方の表面上に形成されたエピタキシャル成長層である。量子カスケードレーザ素子10は、方向Dを長手方向とするバー状に形成されている。方向Dは、半導体基板11の厚さ方向に垂直な一方向である。半導体層12は、方向Dにおいて対向する第1端面12a及び第2端面12bを有している。第1端面12a及び第2端面12bは、例えば、劈開面である。
【0030】
半導体基板11は、例えば、方向Dを長手方向とする長方形板状のInP単結晶基板である。半導体基板11の長さ、幅、厚さは、それぞれ、数百μm~数mm程度、数百μm~数mm程度、数百μm程度である。半導体基板11は、側面11aを有している。側面11aは、第1端面12aから連続する半導体基板11の側面と半導体層12とは反対側の半導体基板11の他方の表面との間に形成された傾斜面である。第1端面12aと側面11aとの間の角度は、例えば、120°~170°程度である。側面11aは、例えば、研磨面である。
【0031】
半導体層12は、活性層13と、上部ガイド層14と、下部ガイド層15と、上部クラッド層16と、下部クラッド層17と、上部コンタクト層18と、下部コンタクト層19と、を有している。下部コンタクト層19、下部クラッド層17、下部ガイド層15、活性層13、上部ガイド層14、上部クラッド層16及び上部コンタクト層18は、この順序で半導体基板11上に積層されている。
【0032】
下部コンタクト層19は、例えば、厚さ400nm程度のInGaAs層(Si doped:1.5×1018cm-3)である。下部クラッド層17は、例えば、厚さ5μm程度のInP層(Si doped:1.5×1016cm-3)である。下部ガイド層15は、例えば、厚さ250nm程度のInGaAs層(Si doped:1.5×1016cm-3)である。活性層13は、量子カスケード構造を有する層である。活性層13は、例えば、一層ずつ交互に積層された複数のInGaAs層及び複数のInAlAs層を含んでいる。上部ガイド層14は、例えば、厚さ450nm程度のInGaAs層(Si doped:1.5×1016cm-3)である。上部ガイド層14には、分布帰還(DFB:distributed feedback)構造として機能する回折格子層14aが方向Dに沿って形成されている。上部クラッド層16は、例えば、厚さ5μm程度のInP層(Si doped:1.5×1016cm-3)である。上部コンタクト層18は、例えば、厚さ15nm程度のInP層(Sidoped:1.5×1018cm-3)である。
【0033】
光源3は、可動回折格子20と、レンズ30と、を更に有している。可動回折格子20は、回折格子パターン20aを有している。回折格子パターン20aは、方向Dにおいて量子カスケードレーザ素子10の第2端面12bと対向している。可動回折格子20は、第1端面12aに平行且つ方向Dに垂直な軸線を中心として回折格子パターン20aを揺動するように構成されている。可動回折格子20は、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)可動回折格子デバイスである。レンズ30は、第2端面12bと回折格子パターン20aとの間に配置されている。レンズ30は、第2端面12bから出射された第1光L1(後述)をコリメートして回折格子パターン20aに入射させると共に、回折格子パターン20aで反射された第1光L1を集光して第2端面12bに入射させる。
【0034】
以上のように構成された光源3において、量子カスケードレーザ素子10は、第1周波数ω1の第1光L1及び第2周波数ω2の第2光L2を生成し、第1周波数ω1及び第2周波数ω2の差周波数ω3(=|ω1-ω2|)のテラヘルツ波Tを出射する。可動回折格子20は、第1光L1について外部共振器を構成し、量子カスケードレーザ素子10に対する回折格子パターン20aの角度を変化させることで第1周波数ω1を変化させる。
【0035】
より具体的には、活性層13では、中赤外域の光である第1周波数ω1の第1光L1及び第2周波数ω2の第2光L2が生成される。第1周波数ω1の第1光L1は、第1端面12a及び回折格子パターン20aが共振器として機能することで、単一モードで発振させられる。第2周波数ω2の第2光L2は、回折格子層14aが分布帰還構造として機能し且つ第1端面12a及び第2端面12bが共振器として機能することで、単一モードで発振させられる。その結果、活性層13では、差周波発生によって、第1周波数ω1及び第2周波数ω2の差周波数ω3のテラヘルツ波Tが生成される。このとき、可動回折格子20が第2端面12bに対する回折格子パターン20aの角度を変化させると、回折格子パターン20aから第2端面12bに帰還する第1光L1の第1周波数ω1が変化し、それに伴って差周波数ω3も変化する。したがって、量子カスケードレーザ素子10からは、チェレンコフ位相整合によって所定の周波数範囲のテラヘルツ波Tが出射され得る。
【0036】
テラヘルツ波Tは、放射角θc及び発散角θdで量子カスケードレーザ素子10の側面11aから出射される。放射角θcは、テラヘルツ波Tの中心線が方向Dに対して成す角度である。発散角θdは、テラヘルツ波Tの広がりの角度である。放射角θcは、テラヘルツ波Tの周波数(すなわち、差周波数ω3)に応じて変化する。例えば、2.0THzのテラヘルツ波Tと3.0THzのテラヘルツ波Tとでは、放射角θcに2.7°程度の差が出る。発散角θdは、50°程度である。
[分光分析装置における各構成の配置及び寸法]
【0037】
図1に示されるように、光源3は、Y方向に平行な光軸A1を有している。光軸A1は、テラヘルツ波Tが出射される光源3の光出射部(例えば、光出射レンズ等)の光軸である。第1レンズ5は、Z方向に平行な光軸A2を有している。第2レンズ6は、Z方向に平行な光軸A3を有している。光検出器8は、Y方向に平行な光軸A4を有している。光軸A4は、テラヘルツ波Tが入射する光検出器8の光入射部(例えば、光入射窓部材等)の光軸である。光軸A1及び光軸A2は、第1軸外放物面ミラー4のミラー面4a上の同じ位置でミラー面4aと交わっている。光軸A3及び光軸A4は、第2軸外放物面ミラー7のミラー面7a上の同じ位置でミラー面7aと交わっている。光軸A2及び光軸A3は、支持エリア2a上の同じ位置で支持エリア2aと交わっている。
【0038】
光源3から第1軸外放物面ミラー4及び第1レンズ5を介して支持エリア2aに至る距離(すなわち、「光源3から第1軸外放物面ミラー4及び第1レンズ5を介して支持エリア2aに至る光路」に沿った実距離)(以下、「光源3から支持エリア2aまでの距離」という)は、10mm以上200mm以下である。すなわち、「光軸A1と光源3の光出射部の光出射面との交点から、光軸A1と第1軸外放物面ミラー4のミラー面4aとの交点までの距離」と「光軸A2と第1軸外放物面ミラー4のミラー面4aとの交点から、光軸A2と支持エリア2aとの交点までの距離」との和は、10mm以上200mm以下である。第1レンズ5の有効径は、5mm以上80mm以下である。支持エリア2aの外径は、0.5mm以上3.5mm以下である。
【0039】
(i)光源3から出射されるテラヘルツ波Tの周波数範囲が0.5THz以上5.0THz以下であり、(ii)支持エリア2a上においてテラヘルツ波Tの集光スポットの径が1mm以下となるように第1レンズ5がテラヘルツ波Tを集光する開口数を有しており、(iii)第1レンズ5の有効径が5mm以上80mm以下であり、(iv)支持エリア2aの外径が0.5mm以上3.5mm以下である場合に、光源3から支持エリア2aまでの距離が200mm以下であると、テラヘルツ波Tが第1レンズ5の有効径内の部分を実質的に通過し、且つテラヘルツ波Tの集光スポットが支持エリア2a内に実質的に収まるように、分光分析装置1Aを構成することができる。そのため、分光分析装置1Aでは、支持部2、第1軸外放物面ミラー4、第1レンズ5、第2レンズ6、第2軸外放物面ミラー7及び光検出器8のそれぞれの位置が、可動回折格子20が回折格子パターン20aの角度を変化させた際にも、固定されている。
【0040】
なお、光源3から支持エリア2aまでの距離が10mmよりも小さくなると、各構成の配置が物理的に困難になる。そのため、分光分析装置1Aでは、光源3から支持エリア2aまでの距離が10mm以上とされている。また、第1レンズ5の有効径が80mmよりも大きくなると、第1レンズ5の開口数を確保するために第1レンズ5が厚くなり、第1レンズ5によるテラヘルツ波Tの減衰量が増加する。そのため、分光分析装置1Aでは、第1レンズ5の有効径が80mm以下とされている。また、光源3から支持エリア2aまでの距離を短くすることで、第1軸外放物面ミラー4の径が小さくなり、第1レンズ5によって集光される前のテラヘルツ波Tのビーム径も小さくなった場合にも、第1レンズ5の有効径を5mm以上とすることで、光源3から出射されたテラヘルツ波Tを支持エリア2aに十分に集光することができる。
【0041】
参考として、光軸A1と光源3の光出射部の光出射面との交点から、光軸A1と第1軸外放物面ミラー4のミラー面4aとの交点までの距離は、1mm以上100mm以下である。光軸A2と第1軸外放物面ミラー4のミラー面4aとの交点から、光軸A2と支持エリア2aとの交点までの距離は、4mm以上199mm以下である。光軸A2と第1軸外放物面ミラー4のミラー面4aとの交点から第1レンズ5の中心までの距離は、1mm以上199mm以下である。なお、第1レンズ5は、複数のレンズによって構成されていてもよい。その場合、第1レンズ5の有効径とは、支持エリア2aに最も近いレンズの有効径を意味し、第1レンズ5の中心とは、支持エリア2aに最も近いレンズの中心を意味する。
[作用及び効果]
【0042】
分光分析装置1Aでは、所定の周波数範囲のテラヘルツ波Tが第1レンズ5の有効径内の部分を実質的に通過し、所定の周波数範囲のテラヘルツ波Tの集光スポットが支持エリア2a内に実質的に収まる。ここで、試料Sは、外径が0.5mm以上3.5mm以下という微小な支持エリア2aを含むように支持されている。したがって、試料Sの分光分析の際に、例えば、テラヘルツ波Tの周波数に応じて試料Sを移動させなくても、試料Sに対するテラヘルツ波Tの照射量が略一定に維持される。テラヘルツ波Tの周波数に応じて試料Sを移動させないで済むことは、支持部2の構造の簡素化(ハード及びソフトの両面での簡素化)、延いては、分光分析装置1Aの小型化に繋がり、更に、分析時間の短縮化にも繋がる。よって、分光分析装置1Aによれば、テラヘルツ波Tによる試料Sの分光分析を適切に実施することができる。
【0043】
分光分析装置1Aでは、試料Sに照射されたテラヘルツ波Tが第2レンズ6によってコリメートされる。これにより、試料Sに照射されたテラヘルツ波Tを光検出器8に適切に入射させることができる。
【0044】
分光分析装置1Aでは、試料Sに照射されたテラヘルツ波Tが第2軸外放物面ミラー7によって光検出器8に集光される。これにより、試料Sに照射されたテラヘルツ波Tを光検出器8に適切に入射させることができる。
【0045】
分光分析装置1Aでは、不活性ガスへの置換又は真空引きが行われる筐体9内に、光源3、第1軸外放物面ミラー4、第1レンズ5、第2レンズ6、第2軸外放物面ミラー7及び光検出器8が配置されている。これにより、試料Sに照射されるテラヘルツ波T、及び試料Sに照射されたテラヘルツ波Tが水分に吸収されるのを防止し、テラヘルツ波Tの検出感度を向上させることができる。
【0046】
分光分析装置1Aでは、支持部2が筐体9外に配置されており、支持エリア2aに対向する筐体9の第1壁91に、テラヘルツ波Tを透過させる第1窓部91aが設けられており、支持エリア2aに対向する筐体9の第2壁92に、テラヘルツ波Tを透過させる第2窓部92aが設けられている。これにより、筐体9において不活性ガスへの置換又は真空引きが行われた状態を維持しつつ、支持部2に対する試料Sの配置等を実施することができる。
【0047】
分光分析装置1Aでは、Z方向から見た場合に、第1窓部91aの外径が、支持エリア2aの外径の1倍以上10倍以下である。これにより、テラヘルツ波Tの照射位置を把握しやすくなる。
【0048】
分光分析装置1Aでは、支持部2、第1軸外放物面ミラー4、第1レンズ5、第2レンズ6、第2軸外放物面ミラー7及び光検出器8のそれぞれの位置が、可動回折格子20が回折格子パターン20aの角度を変化させた際に、固定されている。これにより、支持部2、第1軸外放物面ミラー4、第1レンズ5、第2レンズ6、第2軸外放物面ミラー7及び光検出器8の構造の簡素化を図ることができる。
【0049】
分光分析装置1Aでは、光源3から出射されるテラヘルツ波Tの周波数範囲が0.5THz以上5.0THz以下である。これにより、テラヘルツ波Tによる試料Sの分光分析を広い周波数範囲で実施することができる。
【0050】
図3の(a)は、第1シミュレーションによるテラヘルツ波Tの集光状態を示す図である。第1シミュレーションの条件は、「放物面が3インチであり且つ焦点距離が2インチである第1軸外放物面ミラー4」及び「有効径が45mmであり且つ開口数が0.5625mmである第1レンズ5」を用い、「光軸A1と光源3の光出射部の光出射面との交点から、光軸A1と第1軸外放物面ミラー4のミラー面4aとの交点までの距離」を50.8mm、「光軸A2と第1軸外放物面ミラー4のミラー面4aとの交点から、光軸A2と支持エリア2aとの交点までの距離」を105mm、「光軸A2と第1軸外放物面ミラー4のミラー面4aとの交点から第1レンズ5の中心までの距離」を65mmとした。この場合、光源3から支持エリア2aまでの距離は155mmである。
【0051】
第1シミュレーションの結果、
図3の(a)に示されるように、「2.5THzのテラヘルツ波Tの集光スポットの中心」に対する「2.0THzのテラヘルツ波Tの集光スポットの中心」のずれ量は-0.2mm程度となり、「2.5THzのテラヘルツ波Tの集光スポットの中心」に対する「3.0THzのテラヘルツ波Tの集光スポットの中心」のずれ量は+0.2mm程度となった。この場合、集光スポットの径は0.5mm~0.6mm程度である。
図3の(a)に示される支持エリア2aの外径は2mmであるから、少なくとも2.0THz以上3.0THz以下のテラヘルツ波Tの集光スポットは、外径が2mmである支持エリア2a内に実質的に収まることが分かった。
【0052】
図3の(b)は、第2シミュレーションによるテラヘルツ波Tの集光状態を示す図である。第2シミュレーションの条件は、「光軸A2と第1軸外放物面ミラー4のミラー面4aとの交点から、光軸A2と支持エリア2aとの交点までの距離」を140mm、「光軸A2と第1軸外放物面ミラー4のミラー面4aとの交点から第1レンズ5の中心までの距離」を100mmとした点のみにおいて、上述した第1シミュレーションの条件と異なっている。この場合、光源3から支持エリア2aまでの距離は190mmである。
【0053】
第2シミュレーションの結果、
図3の(b)に示されるように、「2.5THzのテラヘルツ波Tの集光スポットの中心」に対する「2.0THzのテラヘルツ波Tの集光スポットの中心」のずれ量は-0.1mm程度となり、「2.5THzのテラヘルツ波Tの集光スポットの中心」に対する「3.0THzのテラヘルツ波Tの集光スポットの中心」のずれ量は+0.1mm程度となった。この場合、集光スポットの径は0.5mm~0.6mm程度である。
図3の(b)に示される支持エリア2aの外径は2mmであるから、少なくとも2.0THz以上3.0THz以下のテラヘルツ波Tの集光スポットは、外径が2mmである支持エリア2a内に実質的に収まることが分かった。ただし、第2シミュレーションにおいて支持エリア2a内に収まった各テラヘルツ波Tの光量の総和は、第1シミュレーションにおいて支持エリア2a内に収まった各テラヘルツ波Tの光量の総和に対して、38%程度低下した。ただし、第2シミュレーションにおいて支持エリア2a内に収まった各テラヘルツ波Tの光量の総和は、分光分析を行う上では十分なものである。光源3から支持エリア2aまでの距離を200mm以下とすれば、分光分析を行う上で十分な光量を得ることができる。
[変形例]
【0054】
本発明は、上述した実施形態に限定されない。例えば、
図4に示される分光分析装置1Bのように、光源3、第1軸外放物面ミラー4、第1レンズ5、第2レンズ6、第2軸外放物面ミラー7及び光検出器8と共に、支持部2も筐体9内に配置されていてもよい。また、
図5に示される分光分析装置1Cのように、光源3、第1軸外放物面ミラー4及び第1レンズ5を収容する筐体9の第1部分と、第2レンズ6、第2軸外放物面ミラー7及び光検出器8を収容する筐体9の第2部分とが連続していてもよい。また、Z方向から見た場合に、第1窓部91aの外径は、支持エリア2aの外径の1倍よりも小さくてもよいし、或いは、支持エリア2aの外径の10倍よりも大きくてもよい。また、支持エリア2aから光検出器8に至る光路上には、第2レンズ6及び第2軸外放物面ミラー7の少なくとも一方が配置されていなくてもよい。また、光源3から出射されるテラヘルツ波Tの周波数範囲は、0.5THz以上5.0THz以下に限定されない。
【符号の説明】
【0055】
1A,1B,1C…分光分析装置、2…支持部、2a…支持エリア、3…光源、4…第1軸外放物面ミラー、5…第1レンズ、6…第2レンズ、7…第2軸外放物面ミラー、8…光検出器、9…筐体、10…量子カスケードレーザ素子、20…可動回折格子、20a…回折格子パターン、91…第1壁、91a…第1窓部、92…第2壁、92a…第2窓部、L1…第1光、L2…第2光、S…試料、T…テラヘルツ波。