(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184033
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02B 19/12 20060101AFI20231221BHJP
F02B 23/08 20060101ALI20231221BHJP
F02P 5/15 20060101ALI20231221BHJP
F02P 13/00 20060101ALI20231221BHJP
F02P 15/02 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
F02B19/12 D
F02B23/08 M
F02B19/12 A
F02P5/15 B
F02P13/00 302B
F02P15/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097928
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 建史
(72)【発明者】
【氏名】岡田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】木村 範孝
【テーマコード(参考)】
3G019
3G022
3G023
【Fターム(参考)】
3G019AB01
3G019DC07
3G019GA05
3G019GA08
3G019KA16
3G022GA05
3G022GA06
3G023AB02
3G023AC04
3G023AD25
(57)【要約】
【課題】点火プラグの作動を制御するためのECUの処理負荷を軽減する。
【解決手段】エンジンは、主燃焼室の内部の混合気を点火する主室点火プラグと、副燃焼室の内部の混合気を点火する副室点火プラグと、を有する。記憶部には、エンジン回転数とエンジン負荷とに応じた目標点火時期を表す先行点火マップと、エンジン回転数とエンジン負荷とに応じた主室点火プラグの点火時期と副室点火プラグの点火時期との間の目標位相差を表す位相差マップと、が記憶される。コントローラは、主室点火モードまたは副室点火モードが目標点火モードに決定されると、先行点火マップに基づく目標点火時期で点火プラグが点火し、位相差点火モードが目標点火モードに決定されると、先行点火マップに基づく目標点火時期で主室点火プラグが点火した後、位相差マップに基づく目標位相差の分だけ目標点火時期から遅角して副室プラグが点火するように点火プラグを制御する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒内を往復動するピストンに面した主燃焼室と、噴孔を介して前記主燃焼室に連通する副燃焼室と、前記主燃焼室の内部の混合気を点火する第1点火部と、前記副燃焼室の内部の混合気を点火する第2点火部と、を有する内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関の回転数を検出する回転数検出部と、
前記内燃機関に作用する負荷を検出する負荷検出部と、
前記内燃機関の回転数と前記内燃機関に作用する負荷と点火時期との関係を記憶する記憶部と、
吸気行程から排気行程に至るクランク角の範囲において、前記記憶部に記憶された前記関係に基づき、前記回転数検出部により検出された回転数と前記負荷検出部により検出された負荷とに応じて、前記第1点火部のみが点火する第1点火モード、前記第2点火部のみが点火する第2点火モード、および前記第1点火部と前記第2点火部の双方が点火する第3点火モードのいずれかを目標点火モードに決定するとともに、前記目標点火モードで点火するように前記第1点火部および前記第2点火部を制御する制御部と、を備え、
前記記憶部には、前記内燃機関の回転数と前記内燃機関に作用する負荷とに応じた目標点火時期を表す一次点火マップと、前記内燃機関の回転数と前記内燃機関に作用する負荷とに応じた前記第1点火部の点火時期と前記第2点火部の点火時期との間の目標位相差を表す二次点火マップと、が記憶され、
前記制御部は、前記第1点火モードまたは前記第2点火モードが前記目標点火モードに決定されると、前記記憶部に記憶された前記一次点火マップに基づく前記目標点火時期で前記第1点火部または前記第2点火部が点火し、前記第3点火モードが前記目標点火モードに決定されると、前記記憶部に記憶された前記一次点火マップに基づく前記目標点火時期で前記第1点火部が点火した後、前記記憶部に記憶された前記二次点火マップに基づく前記目標位相差の分だけ前記目標点火時期から遅角して前記第2点火部が点火するように前記第1点火部および前記第2点火部を制御することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、
前記制御部は、前記記憶部に記憶された前記二次点火マップに基づいて、前記回転数検出部により検出された回転数と前記負荷検出部により検出された負荷とに応じた前記目標位相差を算出し、前記目標位相差が第1所定値以上であるとき、前記第1点火モードを前記目標点火モードに決定し、前記目標位相差が前記第1所定値よりも小さい第2所定値以下であるとき、前記第2点火モードを前記目標点火モードに決定し、前記目標位相差が前記第2所定値より大きくかつ前記第1所定値より小さいとき、前記第3点火モードを前記目標点火モードに決定することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置において、
前記内燃機関におけるノッキングの発生または発生のおそれがあるノック状態を検出するノック検出部をさらに備え、
前記制御部は、前記第3点火モードが前記目標点火モードに決定されたときに、前記ノック検出部により前記ノック状態が検出されると、前記第1点火部と前記第2点火部との間の位相差を前記ノック状態が検出される前の前記目標位相差に維持したまま前記第1点火部の点火時期が遅角するように、前記一次点火マップおよび前記二次点火マップに基づき前記第1点火部および前記第2点火部を制御することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、副燃焼室を有する内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、従来、主燃焼室と副燃焼室とにそれぞれ点火プラグを設け、エンジンの運転状態に応じてこれら点火プラグの作動を制御するようにした装置が知られている(例えば特許文献1、2参照)。特許文献1記載の装置では、エンジン負荷が所定値以上かつエンジン回転数が所定値未満の高負荷低回転領域で、主燃焼室の点火プラグを点火し、エンジン負荷が所定値未満の低中負荷領域およびエンジン負荷が所定値以上かつエンジン回転数が所定値以上の高負荷高回転領域で、副燃焼室の点火プラグを点火する。特許文献2記載の装置では、エンジンの運転状態に応じて、主燃焼室の点火プラグの点火後に、位相差をもって副燃焼室の点火プラグを点火する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-113551号公報
【特許文献2】特許第4609357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1記載の装置では、点火モードが、主燃焼室の点火プラグのみを点火するモードと、副燃焼室の点火プラグのみを点火するモードとに切り換えられ、上記特許文献2記載の装置では、点火モードが、主燃焼室の点火プラグと副燃焼室の点火プラグとを位相差をもって点火するモードに切り換えられる。これら3つのモードを運転状態に応じて切り換えるように構成すると、各モードに対応した主燃焼室用および副燃焼室用の複数の点火時期テーブルが必要となる。その結果、点火プラグの作動を制御するためのECUの処理負荷が増大して処理能力の高い高価なECUが必要となり、コストの増加を伴う。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、気筒内を往復動するピストンに面した主燃焼室と、噴孔を介して主燃焼室に連通する副燃焼室と、主燃焼室の内部の混合気を点火する第1点火部と、副燃焼室の内部の混合気を点火する第2点火部と、を有する内燃機関の制御装置であって、内燃機関の回転数を検出する回転数検出部と、内燃機関に作用する負荷を検出する負荷検出部と、内燃機関の回転数と内燃機関に作用する負荷と点火時期との関係を記憶する記憶部と、吸気行程から排気行程に至るクランク角の範囲において、記憶部に記憶された関係に基づき、回転数検出部により検出された回転数と負荷検出部により検出された負荷とに応じて、第1点火部のみが点火する第1点火モード、第2点火部のみが点火する第2点火モード、および第1点火部と第2点火部の双方が点火する第3点火モードのいずれかを目標点火モードに決定するとともに、目標点火モードで点火するように第1点火部および第2点火部を制御する制御部と、を備える。記憶部には、内燃機関の回転数と内燃機関に作用する負荷とに応じた目標点火時期を表す一次点火マップと、内燃機関の回転数と内燃機関に作用する負荷とに応じた第1点火部の点火時期と第2点火部の点火時期との間の目標位相差を表す二次点火マップと、が記憶される。制御部は、第1点火モードまたは第2点火モードが目標点火モードに決定されると、記憶部に記憶された一次点火マップに基づく目標点火時期で第1点火部または第2点火部が点火し、第3点火モードが目標点火モードに決定されると、記憶部に記憶された一次点火マップに基づく目標点火時期で第1点火部が点火した後、記憶部に記憶された二次点火マップに基づく目標位相差の分だけ目標点火時期から遅角して第2点火部が点火するように第1点火部および第2点火部を制御する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、点火プラグの作動を制御するためのECUの処理負荷を軽減することができ、高価なECUを用いる必要がなく、安価に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態に係る内燃機関の制御装置が適用される内燃機関としてのエンジンの要部構成を概略的に示す図。
【
図2】
図1の矢印II-II線に沿って切断した場合のエンジンの要部を示す図。
【
図4】本発明の実施形態の参考例としての目標点火時期を決定するための複数のマップを示す図。
【
図5】点火モードごとの点火プラグの点火時期を模式的に示す図。
【
図6】本発明の実施形態に係る内燃機関の制御装置の要部構成を示すブロック図。
【
図7】本発明の実施形態に係る内燃機関の制御装置における目標点火時期を決定するための複数のマップを示す図。
【
図8】
図5のコントローラで実行される処理の一例を示すフローチャート。
【
図10】本発明の実施形態に係る内燃機関の制御装置の動作の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、
図1~
図10を参照して本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本発明が適用される内燃機関の一例であるエンジン1の要部構成を概略的に示す図である。エンジン1は、例えばガソリンを燃料として火花点火により混合気の燃焼を行うガソリンエンジンであり、動作周期の間に吸気、膨張、圧縮および排気の4つの行程を経る4ストロークエンジンである。吸気行程の開始から排気行程の終了までを、便宜上、エンジン1の燃焼行程の1サイクルまたは燃焼サイクルと称する。エンジン1は4気筒、6気筒、8気筒等、複数の気筒を有するが、
図1には、単一の気筒の構成を示す。なお、各気筒の構成は互いに同一である。燃料は、アルコールを含む燃料であってもよい。
【0009】
図1に示すように、エンジン1は、シリンダブロック11に形成された略円筒形状のシリンダ2と、シリンダ2の内壁に沿って摺動可能に配置されたピストン3と、ピストン3とシリンダヘッド12との間に形成された燃焼室4と、を有する。ピストン3は、コンロッド5を介してクランクシャフト6に連結され、シリンダ2内をピストン3が往復動することにより、クランクシャフト6が回転する。なお、ピストン3の上面は例えば凹凸状に形成されるが、
図1では、便宜上、平坦面として示す。
【0010】
シリンダヘッド12には、吸気ポート13と排気ポート14とが設けられる。燃焼室4には、吸気ポート13を介して吸気通路15が連通する一方、排気ポート14を介して排気通路16が連通する。吸気ポート13は吸気バルブ17により開閉され、排気ポート14は排気バルブ18により開閉される。吸気バルブ17の上流側の吸気通路15には、スロットルバルブ19が設けられ、スロットルバルブ19により燃焼室4へ流れる吸気量が調整される。吸気バルブ17と排気バルブ18とは、不図示の動弁機構により、クランクシャフト6の回転に同期した所定のタイミングで開閉される。
【0011】
シリンダヘッド12には、燃焼室4に臨むようにインジェクタ7が装着される。インジェクタ7は、例えばシリンダブロック11の側方かつ吸気バルブ17の近傍に、先端の燃料噴射口を斜め下方に向けて配置される。インジェクタ7は、コントローラ(
図5)からの指令により、吸気行程から圧縮行程にかけての範囲内で1回または複数回、燃焼室4内に燃料を噴射する。すなわち、インジェクタ7は、筒内噴射型の燃料噴射弁として構成される。なお、インジェクタ7の配置はこれに限らず、例えば吸気ポート13に面してインジェクタ7を配置し、ポート噴射型の燃料噴射弁として構成してもよい。
【0012】
図2は、吸気バルブ17と排気バルブ18の配置を概略的に示す図であり、シリンダ2を下方から見た図(
図1の矢印II-II線に沿って切断した図)である。
図2には、シリンダ2の中央を通り、互いに直交する一対の基準線L1,L2と、基準線L1,L2の交点を通って、基準線L1,L2に直交する軸線CL1と、が示される。さらに基準線L1上には、シリンダ2の中心線である軸線CL1と平行に、軸線CL2が示される。
図2に示すように、吸気バルブ17は、基準線L2の一方側に、基準線L1を挟んで一対設けられる。排気バルブ18は、基準線L2の他方側に、基準線L1を挟んで一対設けられる。なお、吸気ポート13と排気ポート14も、吸気バルブ17と排気バルブ18に対応してそれぞれ一対設けられる。一対の排気バルブ18間の距離は、一対の吸気バルブ17間の距離よりも長い。
図1のインジェクタ7は、基準線L1上(
図2の領域A1)に配置され、基準線L1に沿って吸気ポート側から排気ポート側へ燃料を噴射する。
【0013】
図1,
図2に示すように、シリンダヘッド12の中央部には、吸気ポート13と排気ポート14との間において、ピストン3に向けてハウジング45が突設される。
図3は、ハウジング45の周囲の構成を拡大して示す
図1の要部拡大図である。
図3に示すように、ハウジング45は、軸線CL2を中心とした断面略U字状、より具体的には、突出側の先端部46が略円弧状(例えば半円状ないしドーム状)に形成され、先端部46は、軸線CL2を中心とした対称形状を呈する。なお、軸線CL2は、
図1のシリンダ2の中心線(軸線CL1)からインジェクタ7の反対側にずれているが(
図1)、軸線CL2が軸線CL1に一致するようにハウジング45を設けてもよい。
【0014】
ハウジング45の先端部46には、軸線CL2を中心として周方向等間隔に周方向複数の貫通孔、すなわち噴孔47が開口される。噴孔47は、軸線CL2からピストン3側かつ径方向外側に斜めに延在する軸線CL3に沿って放射状に開口される。なお、軸線CL2と軸線CL3とのなす角α1は、燃焼室壁に火炎ジェットが触れないような角度に設定することが好ましく、例えば30°~60°の範囲にある。
【0015】
燃焼室4は、ハウジング45により、ハウジング45の外側の主燃焼室41と、ハウジング45の内側の副燃焼室42とに分けられる。
図1に示すように、インジェクタ7は主燃焼室41に面して配置され、主燃焼室41に燃料が噴射される。吸気ポート13と排気ポート14との間のシリンダヘッド12の中央部、より具体的には、軸線CL2上には、点火プラグ8が設けられる。点火プラグ8は、先端の点火部が副燃焼室42に面するようにその長手方向の中心線が例えば軸線CL2に沿って配置され、コントローラからの指定に応じて電気エネルギーにより点火部で火花を発生するように構成される。
【0016】
インジェクタ7から主燃焼室41に燃料が噴射されると、主燃焼室41で空気と燃料との混合気が生成される。この混合気の一部は、周方向複数の噴孔47を介して副燃焼室42に流入し、点火プラグ8で点火されて燃焼する。副燃焼室42で生成された燃焼ガスは、噴孔近傍の混合気を未燃ガスジェットとして主燃焼室41に追いやった後、複数の噴孔47からトーチ状の火炎ジェット48として放射状に噴出し、主燃焼室41の混合気を燃焼させる。膨張行程では、主燃焼室41で燃焼した高温高圧の燃焼ガスによってピストン3が押し下げられ、クランクシャフト6が回転される。
【0017】
図2に示すように、シリンダヘッド12には、一対の排気バルブ18の間に、より詳しくは基準線L1上に、さらに点火プラグ9が設けられる。点火プラグ9は、シリンダ2の中心線(軸線CL1)からシリンダ壁部までの中間地点(シリンダ半径の1/2の地点)ないしほぼ中間地点において、先端の点火部が主燃焼室41に面するようにその長手方向の中心線が軸線CL2と平行に配置され、コントローラからの指定に応じて電気エネルギーにより点火部で火花を発生するように構成される。なお、シリンダ半径の1/2の地点よりも中心側またはシリンダ壁部側に、点火プラグ9を配置してもよい。インジェクタ7から主燃焼室41に燃料が噴射された後、点火プラグ9が点火されると、主燃焼室41で混合気が燃焼してピストン3が押し下げられ、クランクシャフト6が回転される。
【0018】
このように本実施形態では、主燃焼室41と副燃焼室42とにそれぞれ点火プラグ8,9が設けられる。以下では、主燃焼室41に設けられる点火プラグ9を主室点火プラグと呼び、副燃焼室42に設けられる点火プラグ8を副室点火プラグと呼ぶことがある。点火プラグ8,9の作動はコントローラ(
図6)により制御される。点火モードには、各燃焼サイクルで主室点火プラグ9のみが点火される主室点火モード、副室点火プラグ8のみが点火される副室点火モード、および主室点火プラグ9と副室点火プラグ8の双方が点火される位相差点火モードが含まれる。
【0019】
位相差点火モードでは、同一の燃焼サイクルで、主室点火プラグ9が点火された後、クランク角が所定クランク角(所定位相差)だけ変化すると、副室点火プラグ8が点火される。このときの主室点火プラグ9の点火時期と副室点火プラグ8の点火時期との差は、クランクシャフト6の回転角度の差(クランク角差Δθ)によって表される。なお、クランク角差Δθを位相差とも呼ぶ。
【0020】
副室点火プラグ8による燃焼は火炎ジェットによる急速燃焼であるため、副室点火プラグ8による混合気の燃焼速度は、主室点火プラグ9による燃焼速度よりも速い。したがって、位相差Δθが小さすぎると、主燃焼室41における主室点火プラグ9の点火による火炎の伝播を、副室点火プラグ8の点火による火炎の伝播が追い越し、主室点火プラグ9の点火による効果が得られない。一方、位相差Δθが大きすぎると、主室点火プラグ9の点火によって混合気が十分に燃焼されるため、副室点火プラグ8の点火による火炎が主燃焼室41に到達するとき、主燃焼室41では混合気の未燃部分が残っておらず、副室点火プラグ8による急速燃焼の効果を生じさせることができない。この点を考慮し、位相差点火モードにおいて、主室点火プラグ9の点火による燃焼の効果と副室点火プラグ8の点火による燃焼の効果とを同時に得られるように、位相差点火モードの目標位相差Δθ1が設定される。
【0021】
コントローラは、エンジン回転数やエンジン1に作用する負荷等のエンジン1の運転状態に応じて点火モードを決定し、点火モードに応じて、点火プラグ8,9に制御信号を出力する。これにより、運転状態に応じて、主室点火モード、副室点火モードおよび位相差点火モードの間で、点火モードが切り換えられる。より詳しくは、予めコントローラのメモリには、エンジン回転数とエンジン負荷とに応じた点火時期を示す複数のマップが記憶されており、これらマップを用いて、点火モードが切り換えられる。
【0022】
図4は、本実施形態の参考例としての目標点火時期(目標クランク角)を決定するための複数のマップを示す図である。すなわち、予め点火モード(副室点火モード、位相差点火モード、主室点火モード)ごとに記憶された、エンジン回転数Neとエンジン負荷Gとに応じた副室点火プラグ8の目標点火時期を示すマップM10,M20,M30と、エンジン回転数とエンジン負荷とに応じた主室点火プラグ9の目標点火時期を示すマップM11,M21,M31とを示す図である。
図5は、点火モードごとの点火プラグ8,9の点火時期を模式的に示す図である。なお、
図5では、クランク角θの変化に伴う副室点火プラグ8の点火を〇印で、主室点火プラグ9の点火を△印でそれぞれ示す。
図5は、本実施形態と参考例の両方の点火動作を示す。
【0023】
図4に示すように、副室点火モードでは、マップM10により主室点火プラグ9の休止が指令され、マップM11により副室点火プラグ8の目標点火時期が算出される。位相差点火モードでは、マップM20により主室点火プラグ9の目標点火時期が算出され、マップM21により副室点火プラグ8の目標点火時期が算出される。主室点火モードでは、マップM30により主室点火プラグ9の目標点火時期が算出され、マップM31により副室点火プラグ8の休止が指令される。
【0024】
図5に示すように、副室点火モードでは、マップM10に従い主室点火プラグ9が休止され、マップM11に従いクランク角θ1で副室点火プラグ8が点火される。クランク角θ1は、例えば最大トルクが得られる最適点火時期MBTである。位相差点火モードでは、マップM20に従いクランク角θ2で主室点火プラグ9が点火され、その後、マップM21に従いクランク角θ1で副室点火プラグ8が点火される。主室点火モードでは、マップM30に従いクランク角θ2で主室点火プラグ9が点火され、マップM31に従い副室点火プラグ8が休止される。
【0025】
上述した参考例の構成では、予め点火モードごとに、主室点火プラグ9の点火時期を示す複数のマップM10,M20,M30と副室点火プラグ8の点火時期を示す複数のマップM11,M21,M31とが記憶され、これらマップを用いて点火プラグ8,9の作動が制御される。このため、メモリに記憶されるデータ量が増大するとともに、点火プラグ8,9の作動を制御するためのコントローラ(ECU)の処理負荷が増大して処理能力の高い高価なECUが必要となり、コストの増加を伴う。そこで、本実施形態では、ECUの演算負荷を軽減して安価なECUを用いることが可能となるよう、以下のように内燃機関の制御装置を構成する。
【0026】
図6は、本発明の実施形態に係る内燃機関の制御装置100の要部構成を示すブロック図である。
図6に示すように、内燃機関の制御装置100は、コントローラ50を中心として構成され、コントローラ50にそれぞれ接続されたクランク角センサ51と、吸気量センサ52と、点火プラグ8,9とを有する。
【0027】
クランク角センサ51は、クランクシャフト6に設けられ、クランクシャフト6の回転に伴いパルス信号を出力するように構成される。コントローラ50は、クランク角センサ51からのパルス信号に基づいて、ピストン3の吸気行程開始時の上死点TDCの位置を基準としたクランクシャフト6の回転角度(クランク角)を特定するとともに、エンジン回転数を算出する。したがって、クランク角センサ51は、エンジン回転数センサとしても機能する。以下では、便宜上、クランク角センサ51がエンジン回転数を検出するものとして扱う。
【0028】
吸気量センサ52は、シリンダ2への吸入空気量を検出するセンサであり、例えば吸気通路15(より具体的にはスロットルバルブの上流)に配置されたエアフロメータにより構成される。コントローラ50は、吸気量センサ52からの信号に基づいてインジェクタ7の目標噴射量を算出する。吸気量センサ52により検出される吸気量は、エンジン1の出力トルクと相関関係を有する。したがって、吸気量センサ52は、エンジン負荷を検出するセンサとしても機能する。なお、エンジン負荷(エンジン出力トルク)はコントローラ50で演算されるものであるが、以下では、便宜上、吸気量センサ52がエンジン負荷を検出するものとして扱う。
【0029】
コントローラ50は、電子制御ユニット(ECU)により構成され、CPU等の演算部と、ROM,RAM等の記憶部と、その他の周辺回路とを有するコンピュータを含んで構成される。コントローラ50は、機能的構成として、点火モード決定部50Aと、点火プラグ制御部50Bと、記憶部50Cとを有する。
【0030】
記憶部50Cには、予め目標点火時期を決定するための複数のマップが記憶される。
図7は、記憶部50Cに記憶される複数のマップを模式的に示す図である。
図7に示すように、記憶部50Cには、エンジン回転数Neとエンジン負荷Gとに応じた一対のマップM1,M2が記憶される。より具体的には、点火プラグ8,9のうちの先行点火プラグの目標点火時期を示す先行点火マップM1と、点火プラグ8,9の点火時期の目標位相差Δθを示す位相差マップM2とが記憶される。
【0031】
先行点火プラグとは、燃焼サイクルにおいて最初に点火される点火プラグであり、副室点火モードでは副室点火プラグ8が、主室点火プラグでは主室点火プラグ9が、位相差点火モードでは主室点火プラグ9が、先行点火プラグとなる。位相差マップM2には、少なくとも所定値(下限値)Δθ2以上かつ所定値(上限値)Δθ3以下の位相差Δθの範囲が含まれる。この範囲内の一部(Δθ2<Δθ<Δθ3)に、位相差点火モードにおける点火プラグ8,9の位相差Δθ1が含まれる。Δθ2は、位相差が小さすぎて主室点火プラグ9による点火の効果が得られない場合の位相差であり、例えば0度である。Δθ3は、位相差が大きすぎて副室点火プラグ8による点火の効果が得られない場合の位相差であり、例えば15度である。
【0032】
点火モード決定部50Aは、クランク角センサ51により検出されたエンジン回転数Neと、吸気量センサ52により検出されたエンジン負荷Gとに応じて、副室点火モード、位相差点火モードおよび主室点火モードの中から目標点火モードを決定する。具体的には、まず、
図7の位相差マップM2を用いて、目標位相差Δθを算出する。そして、目標位相差Δθが所定値Δθ2以下のとき、主室点火プラグ9の点火による燃焼の効果が得られないので、目標点火モードを副室点火モードに決定する。また、目標位相差Δθが所定値Δθ3以上のとき、副室点火プラグ8の点火による燃焼の効果が得られないので、目標点火モードを主室点火モードに決定する。一方、目標位相差Δθが所定値Δθ2より大きくかつ所定値Δθ3より小さいとき、目標点火モードを位相差点火モードに決定する。
【0033】
点火プラグ制御部50Bは、点火モード決定部50Aにより副室点火モードが目標点火モードに決定されると、記憶部50Cに記憶された先行点火マップM1を用いて、先行点火プラグ(この場合は副室点火プラグ8)の目標点火時期θ1を算出する。そして、主室点火プラグ9が点火することなく、副室点火プラグ8が目標点火時期θ1で点火するように、点火プラグ8,9に制御信号を出力する。これにより点火モードが
図5の副室点火モードとなる。
【0034】
点火プラグ制御部50Bは、点火モード決定部50Aにより主室点火モードが目標点火モードに決定されると、記憶部50Cに記憶された先行点火マップM1を用いて、先行点火プラグ(この場合は主室点火プラグ9)の目標点火時期θ2を算出する。そして、副室点火プラグ8が点火することなく、主室点火プラグ9が目標点火時期θ2で点火するように、点火プラグ8,9に制御信号を出力する。これにより点火モードが
図5の主室点火モードとなる。
【0035】
点火プラグ制御部50Bは、点火モード決定部50Aにより位相差点火モードが目標点火モードに決定されると、
図7の先行点火マップM1を用いて、先行点火プラグ(この場合は主室点火プラグ9)の目標点火時期θ2を算出する。次いで、位相差マップM2を用いて、エンジン回転数Neとエンジン負荷Gとに応じた主室点火プラグ9と副室点火プラグ8との間の目標位相差Δθ1を算出する。そして、主室点火プラグ9が目標点火時期θ2で点火した後、副室点火プラグ8がθ2から目標位相差Δθ1だけずれた点火時期θ1で点火するように、点火プラグ8,9に制御信号を出力する。これにより点火モードが
図5の位相差点火モードとなる。
【0036】
図8は、予め定められたプログラムに従い
図6のコントローラ50で実行される処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、エンジン始動後に開始され、所定周期で繰り返される。
図8に示すように、まず、ステップS1で、クランク角センサ51と吸気量センサ52とからの信号を読み込む。次いで、ステップS2で、ステップS1で読み込まれた信号に基づき、予め記憶された位相差マップM2を用いて、エンジン回転数Neとエンジン負荷Gとに応じた目標位相差Δθを算出する。
【0037】
次いで、ステップS3で、ステップS2で算出された目標位相差Δθが所定値Δθ2(例えば0度)以下であるか否かを判定する。ステップS3で肯定されるとステップS4に進み、予め記憶された先行点火マップM1を用いて、エンジン回転数Neとエンジン負荷Gとに応じた目標点火時期θ1を算出する。そして、主室点火プラグ9が点火することなく副室点火プラグ8が目標点火時期θ1で点火するように点火プラグ8,9に制御信号を出力し、処理を終了する。
【0038】
一方、ステップS3で否定されるとステップS5に進む。ステップS5では、ステップS2で算出された目標位相差Δθが所定値Δθ3(例えば15度)以上であるか否かを判定する。ステップS5で肯定されるとステップS6に進み、予め記憶された先行点火マップM1を用いて、エンジン回転数Neとエンジン負荷Gとに応じた目標点火時期θ2を算出する。そして、副室点火プラグ8が点火することなく主室点火プラグ9が目標点火時期θ2で点火するように点火プラグ8,9に制御信号を出力し、処理を終了する。
【0039】
ステップS5で否定されるとステップS7に進む。ステップS7では、予め記憶された先行点火マップM1を用いて、エンジン回転数Neとエンジン負荷Gとに応じた目標点火時期θ2を算出するとともに、予め記憶された位相差マップM2を用いて目標位相差Δθ1を算出する。そして、主室点火プラグ9が目標点火時期θ2で点火した後、θ2から目標位相差Δθ1だけずれたクランク角θ1で副室点火プラグ8が点火するように点火プラグ8,9に制御信号を出力し、処理を終了する。
【0040】
本実施形態に係る内燃機関の制御装置100の動作をまとめると以下のようになる。本実施形態では、予め記憶された位相差マップM2を用いて、エンジン回転数Neとエンジン負荷Gとに応じた点火モードが決定される。すなわち、位相差マップM2により求められる目標位相差Δθが所定値Δθ2以下であるとき、副室点火モードに、目標位相差Δθが所定値Δθ3以上のとき、主室点火モードに、目標位相差Δθが所定値Δθ2より大きくかつ所定値Δθ3より小さいとき、位相差点火モードに決定される(ステップS3~ステップS7)。これにより単一のマップM2により点火モードを決定することができ、構成が容易である。
【0041】
この場合、副室点火モードは、エンジン1の熱効率が他の点火モードよりも高いが、その反面、燃焼騒音の点では他の点火モードよりも悪化する。この点を考慮し、位相差マップM2は、エンジン回転数Neとエンジン負荷Gとに応じた最適な点火モードが設定されるように予め作成されて記憶される。位相差マップM2により決定される点火モードは、例えば以下のようになる。
【0042】
エンジン回転数が所定値Ne1以上かつエンジン負荷が所定値G1以上の高回転高負荷時には、騒音よりも熱効率が優先され、点火モードは副室点火モードになる。エンジン回転数が所定値Ne1未満かつエンジン負荷が所定値G1未満の低回転低負荷時、およびエンジン回転数が所定値Ne1以上かつエンジン負荷が所定値G1未満の高回転低負荷時にも、騒音よりも熱効率が優先され、点火モードは副室点火モードになる。一方、エンジン回転数が所定値Ne1未満かつエンジン負荷が所定値G1以上の低回転高負荷時には、熱効率よりも騒音が優先され、点火モードは位相差点火モードまたは主室点火モードになる。なお、点火モードの決定のパターンは上述したものに限らない。
【0043】
点火モードの決定後は、予め記憶された先行点火マップM1を用いて、エンジン回転数Neとエンジン負荷Gとに応じた目標点火時期が決定される。すなわち、副室点火モードのときは、先行点火プラグは副室点火プラグ8であり、副室点火プラグ8が先行点火マップM1に基づき目標点火時期θ1で点火される。主室点火モードのときは、先行点火プラグは主室点火プラグ9であり、主室点火プラグ9が先行点火マップM1に基づき目標点火時期θ2で点火される。位相差点火モードのときも、先行点火プラグは主室点火プラグ9であり、主室点火プラグ9は先行点火マップM1に基づき目標点火時期θ2で点火される。さらに位相差点火モードのときは、位相差マップM2に基づきエンジン回転数Neとエンジン負荷Gとに応じた位相差Δθが決定され、位相差Δθが目標位相差Δθ1となるように副室点火プラグ8が点火される。
【0044】
このように本実施形態では、単一の位相差マップM2を用いて点火モードが決定されるとともに、異なる点火モードに対し共通の先行点火マップM1を用いて先行点火プラグの目標点火時期が決定される。これにより、一対のマップM1,M2を用いて3つの点火モードの目標点火時期を決定することができ、コントローラ50の処理負荷を軽減できる。
【0045】
ところで、エンジン1のノッキングが発生する場合には、ノッキングを抑制するように点火時期を遅角させる必要がある。
図9は、
図6の変形例を示す図であり、ノッキングの検出時に点火時期をリタードさせるように構成された内燃機関の制御装置100の構成を示すブロック図である。
図6と比較すると、
図9では、ノッキングの発生を検出するノックセンサ53がコントローラ50に新たに接続され、クランク角センサ51と吸気量センサ52とノックセンサ53とからの信号がコントローラ50に入力される。
【0046】
コントローラ50は、ノックセンサ53により例えば副室点火モードでノッキングの発生が検出されると、副室点火プラグ8の点火時期を遅角させ、主室点火モードでノッキングの発生が検出されると、主室点火プラグ9の点火時期を遅角させる。この場合には、先行点火マップM1により算出された目標点火時期θ1,θ2をリタード補正する。一方、ノックセンサ53により位相差点火モードでノッキングの発生が検出されると、コントローラ50は、位相差を目標位相差Δθ1に保ったまま、副室点火プラグ8の点火時期と主室点火プラグ9の点火時期の両方を遅角させる。
【0047】
図10は、位相差点火モードにおける点火プラグ8,9の遅角動作の一例を示す図である。
図10の点線は、ノッキングが発生する前の初期の点火時期であり、実線は、ノッキングが発生してリタード補正した後の点火時期である。
図10に示すように、ノッキング発生後の主室点火プラグ9の点火時期はθ2aであり、副室点火プラグ8の点火時期はθ1aである。θ1aとθ2aとの位相差は、ノッキングの前後で変わらず、Δθ1である。
【0048】
これにより、ノッキング発生後は、コントローラ50は、主室点火プラグ9と副室点火プラグ8の点火時期の位相差Δθを所定の目標位相差Δθ1に保ったまま、先行点火マップM1を用いて、主室点火プラグ9の点火時期をリタード補正するだけであり、これにより制御構成を簡素化できる。すなわち、リタード補正時には、先行点火マップM1を用いて主室点火プラグ9の補正値のみを算出するので、ECUの処理負荷を軽減できる。これに対し、
図4の参考例のように、点火モード毎に主室点火プラグ9の点火時期と副室点火プラグ8の点火時期とを定める場合、位相差点火モードでノッキングが生じた場合に、マップM20を用いて主室点火プラグ9をリタード補正するとともに、マップM21を用いて副室点火プラグ8をリタード補正する必要があるため、制御構成が複雑となる。
【0049】
なお、エンジン1のトルクを低減するようなトルクダウン制御において、エンジン1に作用するトルクを推定する必要があるとき、本実施形態によれば、位相差点火モードで、先行点火マップM1を用いて基本発生トルクを算出するとともに、位相差マップM2を用いてトルク補正を行えばよい。これにより、トルク推定を容易かつ精度よく行うことができ、その結果、ECUの処理負荷を軽減することができる。
【0050】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)エンジン1は、シリンダ2(気筒)内を往復動するピストン3に面した主燃焼室41と、噴孔47を介して主燃焼室41に連通する副燃焼室42と、主燃焼室41の内部の混合気を点火する主室点火プラグ9と、副燃焼室42の内部の混合気を点火する副室点火プラグ8と、を有する(
図1~
図3)。内燃機関の制御装置100は、エンジン1の回転数(エンジン回転数Ne)を検出するクランク角センサ51と、エンジン1に作用する負荷(エンジン負荷G)を検出する吸気量センサ52と、エンジン回転数Neとエンジン負荷Gと点火時期との関係を記憶する記憶部50Cと、吸気行程から排気行程に至るクランク角θの範囲(燃焼サイクル)において、記憶部50Cに記憶された関係に基づき、クランク角センサ51により検出されたエンジン回転数Neと吸気量センサ52により検出されたエンジン負荷Gとに応じて、主室点火プラグ9のみが点火する主室点火モード、副室点火プラグ8のみが点火する副室点火モード、および主室点火プラグ9と副室点火プラグ8の双方が点火する位相差点火モードのいずれかを目標点火モードに決定するとともに、目標点火モードで点火するように主室点火プラグ9および副室点火プラグ8を制御するコントローラ50と、を備える(
図6)。記憶部50Cには、エンジン回転数Neとエンジン負荷Gとに応じた目標点火時期を表す先行点火マップM1(一次点火マップ)と、エンジン回転数Neとエンジン負荷Gとに応じた主室点火プラグ9の点火時期と副室点火プラグ8の点火時期との間の目標位相差を表す位相差マップM2と(二次点火マップ)と、が記憶される(
図7)。コントローラ50(点火プラグ制御部50B)は、主室点火モードまたは副室点火モードが目標点火モードに決定されると、記憶部50Cに記憶された先行点火マップに基づく目標点火時期で主室点火プラグ9または副室点火プラグ8が点火し、位相差点火モードが目標点火モードに決定されると、記憶部50Cに記憶された先行点火マップに基づく目標点火時期θ2で主室点火プラグ9が点火した後、記憶部50Cに記憶された位相差マップM2に基づく目標位相差Δθ1の分だけ目標点火時期θ2から遅角した目標点火時期θ1で副室点火プラグ8が点火するように点火プラグ8,9を制御する(
図8)。
【0051】
これにより、予め記憶部50Cに記憶された先行点火マップM1と位相差マップM2とを用いて、主室点火モードと副室点火モードと位相差点火モードとの間で、エンジン1の運転状態に応じて点火モードを切り換えることができる。さらに、各点火モードで、エンジン1の運転状態に応じた最適な点火時期で点火プラグ8,9を点火することができる。このため、点火時期の作動を制御するためのコントローラ50(ECU)の処理負荷を軽減することができ、内燃機関の制御装置100を安価に構成することができる。すなわち、点火モードごとに主室点火プラグ用の点火時期を示すマップと副室点火プラグ用の点火時期を示すマップを用いる場合(
図4)、参照するマップが多数あるため、ECUの処理負荷が大きくなるが、本実施形態では、2つのマップM1,M2を参照するだけなので、ECUの処理負荷を軽減できる。
【0052】
(2)コントローラ50(点火モード決定部50A)は、記憶部50Cに記憶された位相差マップM2に基づいて、クランク角センサ51により検出されたエンジン回転数Neと吸気量センサ52により検出されたエンジン負荷Gとに応じた目標位相差Δθを算出する。そして、目標位相差Δθが所定値Δθ3以上であるとき、主室点火モードを目標点火モードに決定し、目標位相差Δθが所定値Δθ3よりも小さい所定値Δθ2以下であるとき、副室点火モードを目標点火モードに決定し、目標位相差Δθが所定値Δθ2より大きくかつ所定値Δθ3より小さいとき、位相差点火モードを目標点火モードに決定する(
図8)。位相差Δθが小さ過ぎると、主室点火プラグ9の点火による十分な燃焼効果を発揮できず、位相差Δθが大き過ぎると、副室点火プラグ8の点火による十分な燃焼効果を発揮できない。この点、本実施形態では、位相差ΔθがΔθ2<Δθ<Δθ3の場合にのみ、主室点火プラグ9と副室点火プラグ8を点火するので、点火プラグ8,9が無駄に点火されることを抑制できる。
【0053】
(3)内燃機関の制御装置100は、エンジン1におけるノッキングの発生(ノック状態)を検出するノックセンサ53をさらに備える(
図9)。コントローラ50は、位相差点火モードが目標点火モードに決定されたときに、ノックセンサ53によりノック状態が検出されると、主室点火プラグ9と副室点火プラグ8との間の位相差Δθをノック状態が検出される前の目標位相差Δθ1に維持したまま、主室点火プラグ9の点火時期が遅角するように(θ2→θ2a)、先行点火マップM1および位相差マップM2に基づき主室点火プラグ9および副室点火プラグ8を制御する(
図10)。これにより、ノッキングの発生を抑制するために点火時期をリタード補正するとき、コントローラ50は、先行点火マップM1を用いて主室点火プラグ9の点火時期の補正値のみを算出すればよいので、リタード補正時の制御が容易である。
【0054】
なお、上記実施形態では、インジェクタ7と副室点火プラグ8(第2点火部)と主室点火プラグ9(第1点火部)とを同一直線(基準線L1)上に配置したが、第1点火部と第2点火部の配置は上述したものに限らない。上記実施形態では、副室点火プラグ8をシリンダ2の中心線(軸線CL1)からずらして配置したが、シリンダ2の中心線上に配置してもよい。すなわち、シリンダ2の略中央部に配置されるのであれば、第2点火部の位置は上述したものに限らない。
【0055】
上記実施形態では、クランク角センサ51により内燃機関としてのエンジン1の回転数を検出するようにしたが、エンジン回転数と相関関係を有する他の物理量を検出するセンサを用いてエンジン回転数を検出してもよく、回転数検出部の構成は上述したものに限らない。上記実施形態では、吸気量センサ52によりエンジン1に作用する負荷を検出するようにしたが、エンジン負荷と相関関係を有する他の物理量を検出するセンサを用いてエンジン負荷を検出するようにしてもよく、負荷検出部の構成は上述したものに限らない。
【0056】
上記実施形態では、制御部としてのコントローラ50が、エンジン回転数とエンジン負荷とに応じて、主室点火プラグ9のみが点火する主室点火モード(第1点火モード)と、副室点火プラグ8のみが点火する副室点火モード(第2点火モード)と、主室点火プラグ9と副室点火プラグ8の双方が点火する位相差点火モード(第3点火モード)とを切り換えるようにしたが、他のパラメータ(例えばエンジン温度)を考慮して、点火モードを切り換えるようにしてもよい。すなわち、エンジン1の低温始動時には副燃焼室42の壁面温度が低下しており、燃焼が安定しない。そこで、エンジン1の温度(例えばシリンダブロックの温度)を検出し、検出された温度が所定値以下の場合には、点火モードを主室点火モードに決定してもよい。
【0057】
上記実施形態では、コントローラ50が、記憶部50Cに記憶された位相差マップM2(二次点火マップ)に基づいて、点火モードを決定するようにした。すなわち、位相差マップを用いてエンジン回転数とエンジン負荷とに応じた目標位相差Δθを算出し、目標位相差Δθが所定値Δθ3(第1所定値)以上であるとき、主室点火モードを目標点火モードに決定し、目標位相差Δθが所定値Δθ2(第2所定値)以下であるとき、副室点火モードを目標点火モードに決定し、目標位相差Δθが所定値Δθ2より大きくかつ所定値Δθ3より小さいとき、位相差点火モードを目標点火モードに決定した。しかし、主室点火モードまたは副室点火モードが目標点火モードに決定されると、記憶部50Cに記憶された先行点火マップM1(一次点火マップ)に基づく目標点火時期で主室点火プラグ9または副室点火プラグ8が点火し、位相差点火モードが目標点火モードに決定されると、記憶部50Cに記憶された先行点火マップに基づく目標点火時期で主室点火プラグ9が点火した後、位相差マップM2(二次点火マップ)に基づく目標位相差Δθ1の分だけ目標点火時期から遅角して副室点火プラグ8が点火するように点火プラグ8,9を制御するのであれば、制御部の構成はいかなるものでもよい。
【0058】
上記実施形態では、ノックセンサ53によりノッキングの発生した状態であるノック状態を検出するようにしたが、ノッキングの発生のおそれのあるノック状態を検出するようにしてもよく、ノック検出部の構成は上述したものに限らない。上記実施形態では、コントローラ50が、位相差点火モードにおいて、ノック状態が検出されると、点火プラグ8,9の間の位相差Δθをノック状態が検出される前の目標位相差Δθ1に維持したまま、主室点火プラグ9の点火時期が遅角するように、先行点火マップM1に基づき点火プラグ8,9を制御するようにしたが、点火時期を遅角させる例はこれに限らない。例えば、走行中に燃料カット条件が成立して燃料カットするとき、燃料カットの前後でトルクダウン要求が発生する場合にも、点火時期をリタードしてトルクダウンさせることがある。この場合にも同様に、コントローラ50は、点火プラグ8,9間の位相差Δθを目標位相差Δθ1に維持したまま、主室点火プラグ9の点火時期が遅角するように、先行点火マップM1に基づき点火プラグ8,9を制御すればよい。
【0059】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 エンジン、2 シリンダ、3 ピストン、4 燃焼室、8 副室点火プラグ、9 主室点火プラグ、41 主燃焼室、42 副燃焼室、47 噴孔、50 コントローラ、50A 点火モード決定部、50B 点火プラグ制御部、50C 記憶部、51 クランク角センサ、52 吸気量センサ、53 ノックセンサ、100 制御装置