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特開2023-184045インクジェット記録装置、制御方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184045
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置、制御方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/175 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
B41J2/175 301
B41J2/175 503
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097942
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000208743
【氏名又は名称】キヤノンファインテックニスカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 雅規
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】工藤 友実
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA23
2C056EA24
2C056EB07
2C056EB30
2C056EB51
2C056EB56
2C056KB04
2C056KB08
2C056KB37
(57)【要約】
【課題】簡便な構成でインク残量を検出可能なインクジェット記録装置を提供すること。
【解決手段】本発明の一実施形態は、インクを貯留するインクタンクと、前記インクを検出するための第1センサ及び第2センサを有し、前記インクを吐出する記録ヘッドと、前記インクタンクと、前記記録ヘッドとの間を接続するチューブと、前記インクタンクから前記チューブを経由して前記記録ヘッドに、前記インクを供給する供給手段と、前記供給手段により、前記記録ヘッドに前記インクを供給した場合に、前記第1センサで前記インクを検出してから、前記第2センサで前記インクを検出するまでに要する時間に基づいて、前記インクタンクにおける前記インクの残量を導出する導出手段と、を有する、ことを特徴とするインクジェット記録装置である。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを貯留するインクタンクと、
前記インクを検出するための第1センサ及び第2センサを有し、前記インクを吐出する記録ヘッドと、
前記インクタンクと、前記記録ヘッドとの間を接続するチューブと、
前記インクタンクから前記チューブを経由して前記記録ヘッドに、前記インクを供給する供給手段と、
前記供給手段により、前記記録ヘッドに前記インクを供給した場合に、前記第1センサで前記インクを検出してから、前記第2センサで前記インクを検出するまでに要する時間に基づいて、前記インクタンクにおける前記インクの残量を導出する導出手段と、
を有する、
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記時間をカウントするカウント手段を更に有し、
前記導出手段は、前記カウント手段によって取得されるカウント値に基づいて、前記残量を導出する、
ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記導出手段は、前記時間のカウント値として、
新品の前記インクタンクが装着された第1タイミングで取得される第1基準値と、
前記インクタンクに貯留される前記インクの消費量が所定の閾値に達した第2タイミングで取得される第2基準値と、
を用いる、
ことを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
環境温度を検出する温度検出手段を更に有し、
前記導出手段は、前記第1タイミングにおける第1環境温度に基づく第1補正量と、前記第2タイミングにおける第2環境温度に基づく第2補正量とを用いて、第3補正量を算出する、
ことを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記第3補正量は、前記第1補正量から前記第2補正量を減算することで求まる、
ことを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記導出手段は、以下の式(1)に従い、時間差を算出する、
ことを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録装置。
時間差=第2基準値-第1基準値-第3補正量・・・式(1)
【請求項7】
前記導出手段は、インク残量変換テーブルを参照し、前記算出した時間差に対応する値を取得することで、前記残量を導出する、
ことを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記第1センサ及び前記第2センサを用いて、前記記録ヘッドの内部における前記インクの液面の高さが所定の範囲内にあるか否かを検出可能であり、
前記第1センサは、前記所定の範囲の下限に対応し、前記第2センサは、前記所定の範囲の上限に対応する、
ことを特徴とする請求項7に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記記録ヘッドの内部において、前記インクの供給流路の液室への流入口は、前記下限の高さより低い位置に配置されている、
ことを特徴とする請求項8に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記インクタンクは、前記記録ヘッドより低い位置に設置される、
ことを特徴とする請求項9に記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
前記供給手段は、チューブポンプである、
ことを特徴とする請求項10に記載のインクジェット記録装置。
【請求項12】
インクを貯留するインクタンクと、
前記インクを検出するための第1センサ及び第2センサを有し、前記インクを吐出する記録ヘッドと、
前記インクタンクと、前記記録ヘッドとの間を接続するチューブと、
前記インクタンクから前記チューブを経由して前記記録ヘッドに、前記インクを供給する供給手段と、
を有する記録装置の制御方法であって、
前記供給手段により、前記記録ヘッドに前記インクを供給した場合に、前記第1センサで前記インクを検出してから、前記第2センサで前記インクを検出するまでに要する時間に基づいて、前記インクタンクにおける前記インクの残量を導出するステップを有する、
ことを特徴とする制御方法。
【請求項13】
コンピュータに請求項12に記載の方法を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インクを吐出するインクジェット記録装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置として、例えば、液体吐出ヘッドとしての記録ヘッドから、液体として
のインクを吐出して画像を記録するインクジェット記録装置がある。このような記録装置
には、記録ヘッドに対して、それとは別に設置されたインクタンク(液体貯留部)からインクを供給し、インクタンク内のインク残量がなくなったときに、そのインクタンクを交換するものがある。
【0003】
特許文献1には、このようなインクタンク内のインク残量を検出するために、圧力センサを用いて、インクタンク内のインクに加わる圧力を検出する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-186845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述の特許文献は、圧力差よりインク残量を検出することを実現しているところ、圧力センサと圧力貯留用の空間であるバッファとが必要であり、サイズ、部品点数の観点から、低コストの構成にすることが難しい。
【0006】
そこで本開示は、上記の課題に鑑み、前述の特許文献より簡便な構成でインク残量を検出可能なインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態は、インクを貯留するインクタンクと、前記インクを検出するための第1センサ及び第2センサを有し、前記インクを吐出する記録ヘッドと、前記インクタンクと、前記記録ヘッドとの間を接続するチューブと、前記インクタンクから前記チューブを経由して前記記録ヘッドに、前記インクを供給する供給手段と、前記供給手段により、前記記録ヘッドに前記インクを供給した場合に、前記第1センサで前記インクを検出してから、前記第2センサで前記インクを検出するまでに要する時間に基づいて、前記インクタンクにおける前記インクの残量を導出する導出手段と、を有する、ことを特徴とするインクジェット記録装置である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、前述の特許文献より簡便な構成でインク残量を検出可能なインクジェット記録装置を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】インクジェット記録装置の構成を模式的に示す縦断側面図
図2】インクジェット記録装置の制御系の構成を示すブロック図
図3】記録ヘッドに対するインク流路構成を模式的に示す概略図
図4】記録ヘッド内部のインク流路構成を模式的に示す縦断側面図
図5】記録装置の設置時に実行される基準値を決定するための処理のフローチャート
図6】インクタンクの残量が少なくなった場合の残量予測のための処理のフローチャート
図7】温度差による誤差を補正するために用いられるテーブル
図8】インクタンクにおけるインクの残量を予測するために用いられるテーブル
図9】記録ヘッドにインクを流入した際の流入量と時間との関係を示すグラフ
図10】記録装置に設けた4つの弁の開閉状態に関する情報を保持する表
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係るインクジェット記録装置を例に用いて説明する。
【0011】
[第1実施形態]
<インクジェット記録装置の構成>
図1は、インクジェット方式の記録装置(以下、記録装置と記載)101の構成を模式的に示す縦断側面図である。記録装置101は、この記録装置101に印刷ジョブ(画像データ及び印刷設定情報を含む)を送るためのホスト装置102に接続されている。ホスト装置102は、例えばパーソナルコンピュータ等の情報処理装置である。記録装置101には、複数の記録ヘッド401(本例では、4つの記録ヘッド401K,401C,401M,401Y)が記録媒体(本例では、ロ-ル紙)Pの搬送方向(矢印Aの方向)に並ぶように配備されている。記録ヘッド401Kからブラックインクが、記録ヘッド401Cからシアンインクが、記録ヘッド401Mからマゼンダインクが、記録ヘッド401Yからイエローインクが、吐出される。記録ヘッド401は所謂ラインヘッドである。尚、本明細書では、記録ヘッドに対する符号に関して、特に色で区別しなくて良い場合、記録ヘッド401と総称し、記録ヘッド以外の構成要素についても同様に処置するものとする。
【0012】
記録ヘッド401にはインクを吐出可能な複数のノズルが形成されており、それらのノズルは、矢印Aの搬送方向と交差(本例では直交)する方向に延在するノズル列を形成する。そのノズル列の長さは、記録装置101において記録可能なロール紙Pの最大幅より長い。ノズルは、電気熱変換素子(ヒータ)やピエゾ素子などの吐出エネルギー発生素子を用いてインクを吐出する構成となっている。電気熱変換素子を用いた場合には、その発熱によってインクを発泡させ、その発泡エネルギーを利用してノズル先端の吐出口からインクを吐出することができる。
【0013】
複数の記録ヘッド401(本例では、4つの記録ヘッド401K,401C,401M,401Y)の夫々に対して、インクの吐出性能を維持するための回復処理を行う回復ユニットが備えられている。回復ユニットには、記録ヘッド401におけるノズルを保護するためのキャップ315が備えられている。キャップ315は、後述するように、吐出口から画像の記録に寄与しないインクを吐出する予備吐出、吐出口からのインクの吸引排出(吸引回復処理)、及び吐出口からのインクの加圧排出(加圧回復処理)のためにも用いられる。また、記録装置101には、記録ヘッド401(401K,401C,401M,401Y)に供給されるインクを貯留するインクタンク311(311K,311C,311M,311Y)が備えられている。またさらに、記録装置101には、後述するように、インク色毎のインクの供給系が備えられている。
【0014】
本例の記録装置101は所謂フルラインタイプであるため、ロール紙Pを矢印A方向に連続的に搬送しつつ、定位置の記録ヘッド401からインクを吐出することによって、ロール紙P上に画像を記録することができる。このような記録装置101は、例えば、多数枚の名刺、はがき、及びラベルなどを高速記録するプリンタとして用いられる。ロール紙Pに画像を記録する際には、矢印A方向に搬送されるロール紙Pの記録開始位置が記録ヘッド401Kの下方に到達したときに、記録データに基づいて、記録ヘッド401Kにおける複数のノズルから選択的にブラックインクを吐出する。同様に、記録ヘッド401C,401M,401Yがシアン、マゼンタ、イエローのインクを吐出することにより、ロール紙Pにカラー画像を記録することができる。
【0015】
図2は、記録装置101の制御系201の構成図である。ホスト装置102から送信された印刷ジョブ(画像データ及び印刷設定情報など)は、記録装置101のCPU211によって取得される。CPU211は、記録装置101における記録データの受信、記録動作、ロ-ル紙Pのハンドリング等全般の制御を掌る演算処理装置である。CPU211は、受信したコマンドを解析した後に、色成分毎の画像データをRAM212に展開し、ヘッド制御回路214を介して記録ヘッド401K,401C,401M,401Yの夫々に、各記録ヘッドに対応する記録データを送信する。
【0016】
CPU211は、モータ制御回路215を介して搬送モータ221を駆動することにより、ロール紙Pを矢印A方向に搬送する。また、CPU211は、ロール紙Pの搬送に同期して、RAM212へ展開したインク色毎の記録データをヘッド制御回路214から対応する記録ヘッド401に送信することにより、記録ヘッド401からインクを吐出させて、ロール紙Pにカラー画像を記録する。またさらに、CPU211は、ROM213に格納されている制御プログラムにしたがって、弁制御回路216を用いて、リフィル弁321、バッファ弁322、大気連通弁323、吸引回復弁324を駆動する。
【0017】
図3は、1つの記録ヘッド401(具体的には記録ヘッド401K)に対するインク流路構成を模式的に示す概略図である。他の記録ヘッド401C,401M,401Yに対しても同様に、インク流路が構成されている。
【0018】
記録ヘッド401のインク供給部はリフィル流路316によって、記録ヘッド401よりも低い位置に設置されるインクタンク(液体貯留部)311に連通されている。このように、記録ヘッド401が高低差をもってインクタンク311に連通されることにより、その高低差に対応するインクの水頭差によって生じる負圧が記録ヘッド401内のインクに付与される。記録ヘッド401には、複数の電極を用いて、記録ヘッド401内におけるインクの液面の高さが所定の範囲内にあるか否かを検出可能なセンサとして、下限センサ421と、上限センサ422とが備えられている。下限センサ421は、かかる所定の範囲の下限に対応し、上限センサ422は、所定の範囲の上限に対応する。
【0019】
また、インクタンク311の上部は大気に連通しており、リフィル流路316には開閉可能なリフィル弁321が備えられている。記録ヘッド401において、アウトフィルタ432を介して液室と連通するバッファジョイント412(図4参照)は、圧力導入路317によってバッファ(圧力貯留室)312に連通されており、その圧力導入路317にはバッファ弁322が備えられている。バッファ312は、空気(気体)を収容する閉空間としての気体室を形成可能であり、記録ヘッド401の内部に導入する圧力を貯留可能である。
【0020】
バッファ312は、廃インクを回収するためのメンテナンスカートリッジ314に連通されており、バッファ312とメンテナンスカートリッジ314との間の連通路には、ポンプ313が備えられている。本例のポンプ313はチューブポンプであり、回転方向に応じてバッファ312内を吸引又は加圧することが可能である。バッファ312には、大気と連通するための大気連通弁323が備えられている。またバッファ312は、吸引回復流路318によってキャップ315に連通されており、吸引回復流路318には吸引回復弁324が備えられている。
【0021】
図4は、1つの記録ヘッド401(具体的には記録ヘッド401K)内部のインク流路構成を模式的に示す概略図である。他の記録ヘッド401C,401M,401Yの内部も同様にインク流路が構成されている。
【0022】
記録ヘッド401は、リフィルジョイント411とリフィル流路316とを介して、インクタンク311まで導通している。インクタンクから供給されたインクは、インフィルタ431を通りインク供給流路413を経由して、ヘッド内に供給及び充填される。供給ないし充填されたインクについては、下限センサ421、上限センサ422、及びグランド423を用いることで、液面の状態を検出することが可能である。尚、ヘッド内の液室における下限センサ421及びグランド423と、インク供給流路413との位置関係に関しては、図4に示すように、下限センサ421の下端及びグランド423の下端より低い位置にインク供給流路413の液室への流入口がある。
【0023】
<記録動作>
記録動作時において、CPU211は、バッファ弁322、大気連通弁323、吸引回復弁324を閉じて、リフィル弁321を開く。これにより、記録ヘッド401内のイン
クに対して、記録ヘッド401の配置位置と、インクタンク311の配備位置との高低差に対応する圧力(負圧)が付与され、記録ヘッド401におけるノズルの吐出口にインクのメニスカスが形成される。この結果、ノズルの吐出口からのインクの漏出が抑制される。このように、記録ヘッド401内のインクに所定の圧力(負圧)を付与した状態において、CPU211は、ロール紙Pを矢印A方向に搬送させつつ、記録データに基づいて記録ヘッド401のノズルからインクを吐出させることで、ロール紙Pに画像を記録する。
【0024】
<予備吐出>
CPU211は、非記録動作時に、記録ヘッド401からキャップ315内に向かって、画像の記録に寄与しないインクを吐出することにより、記録ヘッド401におけるインクの吐出性能を維持することができる。このような吐出を予備吐出と呼ぶ。
【0025】
<吸引回復処理>
CPU211は、非記録動作時に吸引回復処理を行うことができる。吸引回復処理時に
おいて、CPU211は、キャップ315によって記録ヘッド401をキャッピングし、バッファ弁322、大気連通弁323、吸引回復弁324を閉じ、リフィル弁321を開状態にしてから、ポンプ313を一方向に回転させる。これにより、バッファ312内を吸引して、バッファ312内を所定の圧力(負圧)とする。CPU211は、所定の時間ポンプ313を作動させてから吸引回復弁324を開く。これにより、記録ヘッド401内のインクがノズル先端の吐出口からキャップ315内に吸引排出され、その吸引排出されたインクは、吸引回復流路318を通してバッファ312内に回収される。その後、CPU211は、キャップ315を記録ヘッド401から離間させて非キャッピング状態としてから、ポンプ313を一方向に回転させる。これにより、キャップ315内、吸引回復流路318内、およびバッファ312内のインクは、メンテナンスカートリッジ314内に回収される。
【0026】
<インク充填処理>
CPU211は、非記録動作時にインク充填処理を行うことができる。インク充填処理時において、CPU211は、リフィル弁321及びバッファ弁322を開放し、大気連通弁323と吸引回復弁324を閉じてから、ポンプ313を回転させることによりバッファ312内を加圧する。こうすることで、インクタンク311よりインクがリフィル流路316を通り、リフィルジョイント411を通じて記録ヘッド401へ充填される。CPU211は、インクの液面に関する情報を記録ヘッドより入手し、所定のタイミングでポンプ313を停止することで、記録ヘッド401へのインクの充填を終了する。
【0027】
<インク残量の検出処理>
図5及び図6は、インクタンク残量を予測するための処理の流れを示すフローチャートである。本実施形態では、チューブポンプであるポンプ313を駆動することによりバッファ312に規定の圧力をためて、その圧力によってインクタンク311より記録ヘッド401にインクを供給する際、インクタンクにおけるインク残量を予測する。具体的には、記録ヘッド401内に設けた下限センサ421と上限センサ422でインクを検知した際の時間を用いることで、インクタンクの残量を予測する。
【0028】
まずは図5について説明する。図5は、記録装置101の設置時に実行される基準値を決定するための処理のフローチャートである。インクを記録ヘッド401に流入する際、流入量や流入速度は、例えば、ポンプ313の吸引能力、バッファ312の体積、リフィル流路316の径などの要因によってばらつく。本体固有のバラつきを考慮して、まずは、記録装置101が設置された際、新品のインクタンクが装着されたタイミングで図5のフローを実行する。これによって、下限センサ421と上限センサ422とでインクを検知した時間差に基づく基準値を得る。
【0029】
記録装置101が設置された時、記録装置内にはインクが充填されていないため、充填のための回復動作が実行される。この回復動作が終了した後に図5のフローを開始する(ステップS501)。この時、記録装置101に設けられた4つの弁は、後述する図10の表に示すAの状態である。尚、以降では「ステップS~」を「S~」と略記する。
【0030】
次に、S502において、CPU211は、温度センサ217を用いることで、記録装置101本体が設置された環境の温度を検出し、記憶する。
【0031】
次に、S503において、CPU211は、弁を開閉し、図10に示すBの状態とする。
【0032】
S504において、CPU211は、ポンプ313を順方向(正圧方向)に駆動させて、記録ヘッド401内のインク液面を下げる。
【0033】
S505において、CPU211は、記録ヘッド401内のインク液面が下限センサ421で検出できなくなったか判定する。本ステップの判定結果が真の場合、S506に進む。一方、本ステップの判定結果が偽の場合、記録ヘッド401内のインク液面が下限センサ421で検出できなくなるまで、S505の判定処理を継続する。
【0034】
S506において、CPU211は、ポンプ313の駆動を停止させる。
【0035】
S507において、CPU211は、弁を開閉して図10に示すCの状態にする。
【0036】
次に、S508において、CPU211は、ポンプ313を逆方向(負圧方向)に規定量駆動させて、バッファ312に負圧を貯める。本例では、チューブポンプの駆動量は体積に換算しておよそ3ccとしており、これは下限センサ421から上限センサ422の間の容積2ccの1.5倍に相当する。
【0037】
次に、S509において、CPU211は、弁を開閉して図10に示すDの状態にする。本ステップによる弁の開閉によって、バッファ312に貯められた負圧で、インクタンク311のインクが流入し、記録ヘッド401内のインク液面が上昇する。
【0038】
S510において、CPU211は、記録ヘッド401内のインクを下限センサ421で検出したか判定する。本ステップの判定結果が真の場合、S511に進む。一方、本ステップの判定結果が偽の場合、S510の判定処理を継続する。
【0039】
S511において、CPU211は、時間のカウントを開始する。
【0040】
S512において、CPU211は、記録ヘッド401内のインクを上限センサ422で検出したか判定する。本ステップの判定結果が真の場合、S513に進む。一方、本ステップの判定結果が偽の場合、S512の判定処理を継続する。
【0041】
S513において、CPU211は、時間のカウントを停止する。
【0042】
S514において、CPU211は、弁を開閉して図10に示すEの状態にし、インクの流入を停止する。
【0043】
次に、CPU211は、S515において、弁を開閉して図10に示すFの状態にすることでバッファに残った圧を抜き、S516において、弁を開閉して図10に示すAの初期状態へと戻す。
【0044】
次に、S517において、CPU211は、下限から上限までインク液面を上がった時間のカウント値を記憶し、フローを終了する。本ステップで記憶される時間のカウント値を第1基準値と定義する。
【0045】
尚、図5のフローは一度実行すれば良い。但し、記録装置101が設置された場所から移送された場合や、ポンプや記録ヘッド等の部品が交換された場合は、再度図5のフローを実行することにより第1基準値(S517)を再取得する。
【0046】
記録装置101では、インク残量をドットカウント方式で管理しており、印刷や回復動作等でインクを消費するたびに、消費に相当するドット数をカウントしている。図6は、インクタンク311のインク残量が少なくなった際に実行される処理のフローチャートである。この一連の処理によってインクタンク311に残されたインクの残量を予測する。以下、図6の詳細について説明する。
【0047】
インクタンク311に貯留されるインクの消費量が規定の閾値(ドットカウント値)に達したタイミングで、図6の処理を実行する。本例の記録装置101では、かかるドットカウント値を5417777778dot(残りがおよそ20%) と規定している。図6の処理の開始時(S601)、記録装置101に設けられた4つの弁の状態を、図10の表に示すAの状態にする。
【0048】
次に、S602において、CPU211は、温度センサ217を用いることで、記録装置101本体が設置された環境の温度を検出し、記憶する。
【0049】
次に、S603において、CPU211は、弁を開閉し、図10に示すBの状態とする。
【0050】
S604において、CPU211は、ポンプ313を順方向(正圧方向)に駆動させて、記録ヘッド401内のインク液面を下げる。
【0051】
S605において、CPU211は、記録ヘッド401内のインク液面が下限センサ421で検出できなくなったか判定する。本ステップの判定結果が真の場合、S606に進む。一方、本ステップの判定結果が偽の場合、記録ヘッド401内のインク液面が下限センサ421で検出できなくなるまで、S605の判定処理を継続する。
【0052】
S606において、CPU211は、ポンプ313の駆動を停止させる。
【0053】
S607において、CPU211は、弁を開閉して図10に示すCの状態にする。
【0054】
次に、S608において、CPU211は、ポンプ313を逆方向(負圧方向)に規定量駆動させて、バッファ312に負圧を貯める。本例では、チューブポンプの駆動量は体積に換算しておよそ3ccとしており、これは下限センサ421から上限センサ422の間の容積2ccの1.5倍に相当する。
【0055】
次に、S609において、CPU211は、弁を開閉して図10に示すDの状態にする。本ステップによる弁の開閉によって、バッファ312に貯められた負圧で、インクタンク311のインクが流入し、記録ヘッド401内のインク液面が上昇する。
【0056】
S610において、CPU211は、記録ヘッド401内のインクを下限センサ421で検出したか判定する。本ステップの判定結果が真の場合、S611に進む。一方、本ステップの判定結果が偽の場合、S610の判定処理を継続する。
【0057】
S611において、CPU211は、時間のカウントを開始する。
【0058】
S612において、CPU211は、記録ヘッド401内のインクを上限センサ422で検出したか判定する。本ステップの判定結果が真の場合、S613に進む。一方、本ステップの判定結果が偽の場合、S612の判定処理を継続する。
【0059】
S613において、CPU211は、時間のカウントを停止する。
【0060】
S614において、CPU211は、弁を開閉して図10に示すEの状態にし、インクの流入を停止する。
【0061】
次に、CPU211は、S615において、弁を開閉して図10に示すFの状態にすることでバッファに残った圧を抜き、S616において、弁を開閉して図10に示すAの初期状態へと戻す。
【0062】
次に、S617において、CPU211は、下限から上限までインク液面を上がった時間のカウント値を記憶する。本ステップで記憶される時間のカウント値を第2基準値と定義する。
【0063】
次に、S618において、CPU211は、図5及び図6のフローを実行した際の環境温度差に基づいた補正を実施するために、図7に示す温度差補正テーブルを参照する。
【0064】
S619において、CPU211は、図7の温度差補正テーブルを用いて、S502で取得した温度に基づいて第1補正量を決定し、S602で取得した温度に基づいて第2補正量を決定する。そして、第1補正量から第2補正量を減算することで、第3補正量を求める(第3補正量=第1補正量-第2補正量)。
【0065】
次に、S620において、CPU211は、図8に示すインク残量変換テーブルを参照する。ここでは、S517及びS617で取得した時間カウント値(第1基準値、第2基準値)と、S619で取得した第3補正量とに基づいて、時間差Cを算出する。時間差Cは次の式(1)に従って算出する。
時間差C=第2基準値-第1基準値-第3補正量・・・式(1)
【0066】
S621において、CPU211は、インク残量を決定する。具体的には、インク残量変換テーブルを用いて、S620で取得した時間差Cに基づく残インク量のドットカウント値を取得し記憶するS621の後、一連の処理を終了する。
【0067】
尚、図6のフローで決定される残インク量のドットカウント値に相当したインクが消費された場合、インク無しの旨を示す警告メッセージが表示部(操作パネル等)に表示される。これにより、記録装置101のユーザに、インクタンクの交換タイミングが到来したことが伝わる。
【0068】
図7は、図6のフローで使用する温度差補正テーブルである。記録装置101で使用するインクは温度に応じて粘度が変化する。低温時よりも高温時の方が、インクの粘度が低くなる。この粘度の違いによって、S509にて記録ヘッド内でインク液面が上昇する時間と、S609にて記録ヘッド内でインク液面が上昇する時間とに差が生じるため、図7のテーブルを用いて補正を実施する必要がある。尚、図7のテーブルに保持する値は、記録装置101を使った実験により求められる。また、図7に示すテーブルは15℃から30℃までの温度に対応したものとなっているが、これは記録装置101が15℃から30℃の範囲で使用することを想定しているためである。但し、特に温度範囲を限定するものではなく、記録装置によって適した温度範囲のテーブルとすれば良い。
【0069】
図8は、S620で決定した時間差Cに基づいてS621でインク残量を予測するために用いられるテーブルである。図8のテーブルについて説明する。インクタンク311と記録ヘッド401との間のインク水頭差が大きいほど、記録ヘッド401内のインク液面の力を要する。図5図6とで同一のポンプ駆動で貯めた負圧によって、記録ヘッド401内のインク液面を一定量上昇させた場合、前述の水頭差の違いによって、その時間差が生じる。尚、図8のテーブルに保持する値は、記録装置101を使った実験により求められる。
【0070】
図9は、一定負圧をかけて記録ヘッドにインクを流入した際の記録ヘッドへのインク流入量と時間との関係を示すグラフである。実線はインクタンクがニアエンプティ時(水頭差100mmAq)、破線はインクタンクが満タン時(水頭差40mmAq) を示している。このグラフが示すように、一定量のインクをヘッドに流入する際に、水頭差によって時間差が生じることが分かる。
【0071】
[他の実施形態]
尚、前述の実施形態では図6のフローでインク残量の予測を実施しているが、予測を行うタイミングを複数回設けても良い。
【0072】
また、前述の実施形態では、図5又は図6の処理の実行時に環境温度差による補正を行っているが、仮に記録装置に大気圧センサを設けている場合には、各フロー(具体的には、S502の後又はS602の後)に大気圧を検出しても良い。図6の温度補正と同様、S619の後に大気圧差による補正を実施後、インク残量変換テーブルを参照し、インク残量を決定しても良い。尚、大気圧差の補正参照テーブルについても、第1実施形態と同様、記録装置101を用いた実験によって、テーブル内の値を決めると良い。
【0073】
本開示は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0074】
<本開示の技術的特徴>
本開示は、以下の構成及び方法を含む。
【0075】
(構成1)インクを貯留するインクタンクと、前記インクを検出するための第1センサ及び第2センサを有し、前記インクを吐出する記録ヘッドと、前記インクタンクと、前記記録ヘッドとの間を接続するチューブと、前記インクタンクから前記チューブを経由して前記記録ヘッドに、前記インクを供給する供給手段と、前記供給手段により、前記記録ヘッドに前記インクを供給した場合に、前記第1センサで前記インクを検出してから、前記第2センサで前記インクを検出するまでに要する時間に基づいて、前記インクタンクにおける前記インクの残量を導出する導出手段と、を有する、ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【0076】
(構成2)前記時間をカウントするカウント手段を更に有し、前記導出手段は、前記カウント手段によって取得されるカウント値に基づいて、前記残量を導出する、ことを特徴とする構成1に記載のインクジェット記録装置。
【0077】
(構成3)前記導出手段は、前記時間のカウント値として、新品の前記インクタンクが装着された第1タイミングで取得される第1基準値と、前記インクタンクに貯留される前記インクの消費量が所定の閾値に達した第2タイミングで取得される第2基準値と、を用いる、ことを特徴とする構成2に記載のインクジェット記録装置。
【0078】
(構成4)環境温度を検出する温度検出手段を更に有し、前記導出手段は、前記第1タイミングにおける第1環境温度に基づく第1補正量と、前記第2タイミングにおける第2環境温度に基づく第2補正量とを用いて、第3補正量を算出する、ことを特徴とする構成1乃至3の何れか1つに記載のインクジェット記録装置。
【0079】
(構成5)前記第3補正量は、前記第1補正量から前記第2補正量を減算することで求まる、ことを特徴とする構成4に記載のインクジェット記録装置。
【0080】
(構成6)前記導出手段は、次の式(1)に従い、時間差を算出する、ことを特徴とする構成1乃至5の何れか1つに記載のインクジェット記録装置。時間差=第2基準値-第1基準値-第3補正量・・・式(1)
【0081】
(構成7)前記導出手段は、インク残量変換テーブルを参照し、前記算出した時間差に対応する値を取得することで、前記残量を導出する、ことを特徴とする構成6に記載のインクジェット記録装置。
【0082】
(構成8)前記第1センサ及び前記第2センサを用いて、前記記録ヘッドの内部における前記インクの液面の高さが所定の範囲内にあるか否かを検出可能であり、前記第1センサは、前記所定の範囲の下限に対応し、前記第2センサは、前記所定の範囲の上限に対応する、ことを特徴とする構成1乃至7の何れか1つに記載のインクジェット記録装置。
【0083】
(構成9)前記記録ヘッドの内部において、前記インクの供給流路の液室への流入口は、前記下限の高さより低い位置に配置されている、ことを特徴とする構成1乃至8の何れか1つに記載のインクジェット記録装置。
【0084】
(構成10)前記インクタンクは、前記記録ヘッドより低い位置に設置される、ことを特徴とする構成1乃至9の何れか1つに記載のインクジェット記録装置。
【0085】
(構成11)前記供給手段は、チューブポンプである、ことを特徴とする構成1乃至10の何れか1つに記載のインクジェット記録装置。
【0086】
(方法1)インクを貯留するインクタンクと、前記インクを検出するための第1センサ及び第2センサを有し、前記インクを吐出する記録ヘッドと、前記インクタンクと、前記記録ヘッドとの間を接続するチューブと、前記インクタンクから前記チューブを経由して前記記録ヘッドに、前記インクを供給する供給手段と、を有する記録装置の制御方法であって、前記供給手段により、前記記録ヘッドに前記インクを供給した場合に、前記第1センサで前記インクを検出してから、前記第2センサで前記インクを検出するまでに要する時間に基づいて、前記インクタンクにおける前記インクの残量を導出するステップを有する、ことを特徴とする制御方法。
【符号の説明】
【0087】
101 記録装置
211 CPU
313 ポンプ
316 リフィル流路
401 記録ヘッド
421 下限センサ
422 上限センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10