(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184046
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】セルソータ用細胞懸濁液を改良した高感度な単一細胞解析方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20231221BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALI20231221BHJP
G01N 15/14 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
C12M1/34 A
C12Q1/6806 Z ZNA
G01N15/14 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097943
(22)【出願日】2022-06-17
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 妃代美
(72)【発明者】
【氏名】白井 正敬
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029FA04
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ05
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR62
4B063QS10
4B063QS25
4B063QS28
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】低コストかつ高感度な単一細胞遺伝子発現解析を行うための装置及び方法を提供すること。
【解決手段】単一細胞解析装置であって、複数の細胞を含む懸濁液を導入する流路及び該複数の細胞の一部を選択する選択装置を備えたセルソータと、細胞を捕捉する細胞捕捉部及び該細胞に由来するmRNAを捕捉する核酸捕捉部を備えた単一細胞解析デバイスとを備え、前記セルソータで選択された細胞が、前記単一細胞解析デバイスの前記細胞捕捉部に捕捉されるように前記セルソータ及び前記単一細胞解析デバイスが配置されることができ、前記流路内に導入する前記懸濁液が、(a)タンパク質を含むが、前記懸濁液がヌクレアーゼ活性を実質的に有しない、又は(b)ヌクレアーゼ活性を有する成分を含むタンパク質を含まない、ことを特徴とする、単一細胞解析装置。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一細胞解析装置であって、
複数の細胞を含む懸濁液を導入する流路及び該複数の細胞の一部を選択する選択装置を備えたセルソータと、
細胞を捕捉する細胞捕捉部及び該細胞に由来するmRNAを捕捉する核酸捕捉部を備えた単一細胞解析デバイスと
を備え、
前記セルソータで選択された細胞が、前記単一細胞解析デバイスの前記細胞捕捉部に捕捉されるように前記セルソータ及び前記単一細胞解析デバイスが配置されることができ、
前記流路内に導入する前記懸濁液が、
(a)タンパク質を含むが、前記懸濁液がヌクレアーゼ活性を実質的に有しない、又は
(b)ヌクレアーゼ活性を有する成分を含むタンパク質を含まない、
ことを特徴とする、単一細胞解析装置。
【請求項2】
前記タンパク質が、ウシ胎仔血清(FBS)及びウシ血清アルブミン(BSA)から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記ヌクレアーゼが、RNA分解酵素及びDNA分解酵素から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記タンパク質に前記ヌクレアーゼを除去する処理が行われていることにより、前記懸濁液がヌクレアーゼ活性を実質的に有しない、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記懸濁液に前記ヌクレアーゼ活性を阻害する物質を混入することにより、前記懸濁液がヌクレアーゼ活性を実質的に有しない、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記懸濁液が冷却されることにより、前記懸濁液がヌクレアーゼ活性を実質的に有しない、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記単一細胞解析デバイスにおいて、前記核酸捕捉部に捕捉されたmRNAを鋳型とした逆転写反応が行われる、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記単一細胞解析デバイスにおいて、前記細胞捕捉部及び前記核酸捕捉部が直接に接続された貫通孔に形成され、前記懸濁液が、該貫通孔を通って前記単一細胞解析デバイスの外部に排出可能である、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
単一細胞解析方法であって、
セルソータの流路に複数の細胞を含む懸濁液を導入し、該複数の細胞の一部を選択する工程と、
前記選択された細胞を、細胞を捕捉する細胞捕捉部及び該細胞に由来するmRNAを捕捉する核酸捕捉部を備えた単一細胞解析デバイスの該細胞捕捉部に捕捉する工程と、
前記捕捉された細胞からmRNAを溶出して前記核酸捕捉部に捕捉する工程と
を含み、
前記流路内に導入する前記懸濁液が、
(a)タンパク質を含むが、前記懸濁液がヌクレアーゼ活性を実質的に有しない、又は
(b)ヌクレアーゼ活性を有する成分を含むタンパク質を含まない、
ことを特徴とする、単一細胞解析方法。
【請求項10】
前記選択された細胞が、他の処理を行わずに直接、前記細胞捕捉部に捕捉される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記タンパク質が、ウシ胎仔血清(FBS)及びウシ血清アルブミン(BSA)から選択される少なくとも1種を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記ヌクレアーゼが、RNA分解酵素及びDNA分解酵素から選択される少なくとも1種である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記タンパク質に前記ヌクレアーゼを除去する処理が行われていることにより、又は
前記懸濁液に前記ヌクレアーゼ活性を阻害する物質を混入することにより、又は
前記懸濁液が冷却されることにより、
前記懸濁液がヌクレアーゼ活性を実質的に有しない、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記単一細胞解析デバイスにおいて、前記核酸捕捉部に捕捉されたmRNAを鋳型とした逆転写反応を行う工程をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一細胞解析装置及び単一細胞解析方法に関する。具体的には、セルソータと単一細胞解析デバイスとに基づく単一細胞解析装置及び単一細胞解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単一細胞解析とは単一細胞毎の細胞中の生体分子を高精度に検出、定量する技術である。単一細胞解析は様々な技術が開発されているが、主に2つに分けられる。1つは個々の細胞の光学測定によって個々の細胞の情報を得るフローサイトメトリに代表される技術と、もう1つは細胞を単離破砕し、内部の遺伝子やタンパク質などを定量解析する方法である。
【0003】
1つ目の技術(フローサイトメトリ技術)は単独で単一細胞解析が可能である最も成熟した技術である。この技術では、ユーザが解析したい細胞膜上のタンパク質に選択的に結合する蛍光体付き抗体によって蛍光ラベルした細胞を流路に流し、個別にレーザ光を照射したときに発生する蛍光を細胞ごとに計測する機能を持つ。ユーザは細胞膜上の複数種類のタンパク質をそれぞれ異なる蛍光波長をもつ蛍光体でラベルし、同じ細胞に対して複数の波長での蛍光計測を行うことで、単一細胞の膜上に蛍光ラベルした目的の膜タンパク質がどの程度存在するかを計測することができる。このフローサイトメータを用いた解析では、同一の細胞上で定量・計測できる生体分子の数が限られるという制限があった。最近、この課題を緩和する技術が開発され数十種類の蛍光を計測可能な技術が開発されている(非特許文献1)。しかし、同時に計測できる生体分子は依然として数十であり、また、蛍光ラベルに生体分子に対する抗体を用いているため、蛍光ラベルの濃度に依存して蛍光強度が変化し(非特許文献2)、細胞上の生体分子が未知の場合に定量性が不安定となる課題がある。
【0004】
2つ目の技術にも様々な技術が提案・開発されているが、本発明で注目するのは、単一細胞ごとに細胞を破砕し、溶出した細胞中のmRNAを解析する単一細胞遺伝子発現解析法である。この方法の中で、最も基本的な方法は、単一細胞を1つの樹脂製容器(チューブ)に分注し、細胞破砕、mRNA抽出、cDNA合成、核酸増幅、次世代DNAシーケンサ向けタグ挿入、NGS解析を行う方法(非特許文献3、4)である。そのほかに、マイクロ流路デバイス中で上記反応の核酸増幅までのプロセスを実行する方法であり、1個のチップで96個までの細胞について個々の細胞からのサンプル調製を自動的に実行することが可能である(非特許文献5)。また、特許文献1には、より多くの細胞について、cDNA増幅又は核酸増幅までのプロセスをデバイス上で行う方法が開示されている。この方法では、細胞捕捉部で単一細胞を捕捉、単離し、その直下に配置された核酸捕捉部で、mRNAをビーズ又は多孔質材料表面上に固定されたタグ付きDNAで捕捉することで、細胞ごと、mRNA分子ごとに異なるタグを挿入する。さらに、デバイス上で逆転写することで、タグ配列と遺伝子配列が一本のcDNA鎖として合成され、このcDNAを核酸増幅し、次世代シーケンサーにて配列解析を行う。細胞識別タグ、分子識別タグごとに、計測されたリードをカウントすることで個々のcDNAの分子数をカウントできる。特に、この方法ではmRNAからcDNAへの変換効率が高く、高い精度の近似的なmRNAのカウントが可能となる。さらに、非特許文献3には、細胞をオイル中の液滴(エマルジョン)に細胞とビーズを1つずつ封入することで、細胞を単離し、個々の細胞中のmRNAをビーズ上に固定されたDNAで捕捉することで、細胞ごとに、分子ごとに異なるタグを挿入する方法である。その後、エマルジョンを壊し、ビーズを回収して、逆転写、核酸増幅、次世代シーケンサー用のタグの挿入を行う方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2016/125251 A
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S. P. Perfetto, et al., Nature Review Immunology, 第4巻第648-655頁, 2004年
【非特許文献2】S. Yamamoto et al., Drug metabolism and Pharmacokinetics, 第35巻第207-213頁, 2020年
【非特許文献3】F. Tang et al., Nature Methods, 第6巻第377-382頁, 2009年
【非特許文献4】S. Islam et al., Genome Res, 第21巻第1160-1167頁, 2011年
【非特許文献5】D. Ramskold et al., Nat Biotechnol, 第30巻第8号第777-782頁, 2012年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
がん研究の治療法の研究、特に個別化医療法の臨床研究において、がん微小環境の解析に注目が集まっている。このがん微小環境は、がん細胞、正常細胞、及び多様な免疫細胞で構成されており、これら細胞の機能解析を目的として細胞内部に発現している遺伝子の状態を解析する手段として単一細胞解析が注目されている。このような微小環境の解析に単一細胞解析を応用する場合、フローサイトメトリのみを用いると十分な種類数の生体分子を計測できないため、十分な分解能での細胞分類ができないという課題が生じる。一方、単一細胞解析(単一細胞中の遺伝子発現解析)のみを用いる場合は、がん微小環境に存在する多数の細胞(例えば数千~1万個)の解析が必要であり、高い精度と感度を維持するためには、1細胞あたりのコストが数百~数千円かかるため、1回の解析又は検査あたりの試薬のコストが数百万円以上と高くなりすぎる。それゆえ、コストを抑制しながら、有用な生体情報を得るためには、フローサイトメトリの原理を用いたセルソータで目的細胞(例えばT細胞全体、CD8陽性T細胞単独、CD4陽性T細胞単独、ミエロイド系細胞全体、マクロファージ単独、好中球単独、樹状細胞単独など)を選別後に単一細胞遺伝子発現解析を実施する方法が有効である。特に、低コストかつ高感度な単一細胞遺伝子発現解析を行うためには、セルソータと特許文献1に記載のような単一細胞解析デバイスを組み合わせるのが有効ではないかと考えられた。
【0008】
この組み合わせを行う場合、従来、
図1のフローチャートに示すようなマニュアル操作を含む操作が必要であった。すなわち、セルソータに細胞を導入するために、Fcレセプターのブロッキング後、蛍光体付き抗体で目的の細胞をラベリングし(
図1:Step 1)、過剰な抗体を洗浄する(
図1:Step 2)。次にセルソータで目的の細胞を選別しチューブ内に回収(分取)する(
図1:Step 3)。続いて遠心してバッファ交換し、細胞数を計測後、所望の細胞濃度になるよう適切なバッファ量を添加・再懸濁する(
図1:Step 4)。最後に単一細胞解析デバイス中のチップ上に適切な細胞数が含まれる細胞懸濁液を分注し(
図1:Step 5)、デバイス上での操作の準備を完了する。ここでの潜在的な課題は、Step 4の遠心操作後の細胞濃度の計測時に、少なくとも2万個以上の細胞(例:10
6細胞/mL, 20μL、あるいは5×10
5細胞/mL, 40μLなど)をチューブ内に回収する必要がある。これ以上少ない細胞数では、Step 4の遠心操作後の適切な濃度の細胞懸濁液を調製する工程にて、細胞ロス(プラスティックウェア(チューブ・ピペットチップ)への細胞の非特異的吸着、及び上澄み除去に伴う)が深刻となり、適切な濃度の細胞懸濁液の調製が困難となるためである。従って解析細胞中の選別される目的細胞の割合にも依存するが、Step 3では細胞の回収(分取)のために1時間以上必要となる場合も多い。臨床検体の採取後から単一細胞解析デバイスでの逆転写反応までの時間が長いほど、細胞内のmRNA量は時間経過とともに変化(ダウンレギュレート)してしまう課題がある。そのうえで、Step 4の遠心操作・バッファ交換後の懸濁操作が細胞に物理的ストレスを加えるために、このステップでの物理的ストレスによって細胞内のmRNA量がさらに変化(ダウンレギュレート)したり、細胞膜が壊れるリスク(死細胞)が高い課題もある。
【0009】
このステップで死細胞が混入された場合、死細胞も含めて、単一細胞解析デバイスに分注され、解析されるため、死細胞から溶媒液中へのmRNAの拡散によるバックグラウンドレベルの増大や、データ上の異常値としての解析が生じ、単一細胞解析データに悪影響をもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明者は、セルソータの装置に単一細胞解析デバイスを組み込むことによって、セルソータから出力される細胞を単一細胞解析デバイスで直接捕捉し、解析することを試みた。このような構成によって、セルソータに使用される細胞懸濁液中に含まれるタンパク質に含まれる成分がヌクレアーゼ活性(特にRNase活性)を有する場合に、単一細胞解析デバイスでの解析に悪影響があるという新たな課題を認識し、その課題の解決も試みた。こうして本発明は、セルソータと特許文献1に記載のような単一細胞解析デバイスを組み合わせ、また組み合わせることにより生じる課題を解決することによって、高精度かつ高分解能で少ない割合の細胞群を選別し、単一細胞レベルでの遺伝子発現解析を可能にする。
【0011】
本発明の一態様は、単一細胞解析装置であって、
複数の細胞を含む懸濁液を導入する流路及び該複数の細胞の一部を選択する選択装置を備えたセルソータと、
細胞を捕捉する細胞捕捉部及び該細胞に由来するmRNAを捕捉する核酸捕捉部を備えた単一細胞解析デバイスと
を備え、
前記セルソータで選択された細胞が、前記単一細胞解析デバイスの前記細胞捕捉部に捕捉されるように前記セルソータ及び前記単一細胞解析デバイスが配置されることができ、
前記流路内に導入する前記懸濁液が、
(a)タンパク質を含むが、前記懸濁液がヌクレアーゼ活性を実質的に有しない、又は
(b)ヌクレアーゼ活性を有する成分を含むタンパク質を含まない、
ことを特徴とする、単一細胞解析装置に関する。
【0012】
本発明の別の態様は、単一細胞解析方法であって、
セルソータの流路に複数の細胞を含む懸濁液を導入し、該複数の細胞の一部を選択する工程と、
前記選択された細胞を、細胞を捕捉する細胞捕捉部及び該細胞に由来するmRNAを捕捉する核酸捕捉部を備えた単一細胞解析デバイスの該細胞捕捉部に捕捉する工程と、
前記捕捉された細胞からmRNAを溶出して前記核酸捕捉部に捕捉する工程と
を含み、
前記流路内に導入する前記懸濁液が、
(a)タンパク質を含むが、前記懸濁液がヌクレアーゼ活性を実質的に有しない、又は
(b)ヌクレアーゼ活性を有する成分を含むタンパク質を含まない、
ことを特徴とする、単一細胞解析方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、単一細胞解析装置及び単一細胞解析方法が提供される。本発明に係る装置及び方法は、高精度かつ高分解能で少ない割合の細胞群を選別し、単一細胞レベルでの遺伝子発現解析を可能とするものであり、遺伝子発現解析、細胞機能解析、生体組織の解析方法及び病気の診断、創薬などの分野に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】セルソータ及び単一細胞解析デバイスを使用して単一細胞の遺伝子発現解析を行う従来法のフローチャートである。
【
図2】セルソータと単一細胞解析デバイスを直接接続した場合のセルソータ内部の構成例を示す。
【
図3】細胞懸濁液に含まれるFBS濃度に依存した逆転写効率の変化を示すグラフである。
【
図4】一定量のRNA分子の逆転写反応液中に、シース液と培地(RPMI+1%FBS)を混合比0~100%で添加後、逆転写反応により合成されたcDNA量をqPCR定量で調べた結果を示すグラフである。
【
図5】セルソータと単一細胞解析デバイスを直接接続した場合のセルソータ内部の別の構成例を示す。
【
図6】セルソータと単一細胞解析デバイスを直接接続した場合のセルソータ内部のまた別の構成例を示す。
【
図7】実施例の単一細胞解析装置及び単一細胞解析方法により、単一細胞由来の遺伝子発現解析を行った結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
一態様において、本発明は、単一細胞解析装置であって、
複数の細胞を含む懸濁液を導入する流路及び該複数の細胞の一部を選択する選択装置を備えたセルソータと、
細胞を捕捉する細胞捕捉部及び該細胞に由来するmRNAを捕捉する核酸捕捉部を備えた単一細胞解析デバイスと
を備え、
前記セルソータで選択された細胞が、前記単一細胞解析デバイスの前記細胞捕捉部に捕捉されるように前記セルソータ及び前記単一細胞解析デバイスが配置されることができ、
前記流路内に導入する前記懸濁液が、
(a)タンパク質を含むが、前記懸濁液がヌクレアーゼ活性を実質的に有しない、又は
(b)ヌクレアーゼ活性を有する成分を含むタンパク質を含まない、
ことを特徴とする、単一細胞解析装置を提供する。
【0016】
別の態様において、本発明は、単一細胞解析方法であって、
セルソータの流路に複数の細胞を含む懸濁液を導入し、該複数の細胞の一部を選択する工程と、
前記選択された細胞を、細胞を捕捉する細胞捕捉部及び該細胞に由来するmRNAを捕捉する核酸捕捉部を備えた単一細胞解析デバイスの該細胞捕捉部に捕捉する工程と、
前記捕捉された細胞からmRNAを溶出して前記核酸捕捉部に捕捉する工程と
を含み、
前記流路内に導入する前記懸濁液が、
(a)タンパク質を含むが、前記懸濁液がヌクレアーゼ活性を実質的に有しない、又は
(b)ヌクレアーゼ活性を有する成分を含むタンパク質を含まない、
ことを特徴とする、単一細胞解析方法を提供する。
【0017】
本発明に係る単一細胞解析装置及び単一細胞解析方法(以下、本単一細胞解析装置及び本単一細胞解析方法ともいう)は、いわゆるセルソータ及び単一細胞解析デバイスを使用し、セルソータの装置の中に単一細胞解析デバイスを組み込むことによって、セルソータから出力される細胞をデバイスで直接分取する。そのため、本単一細胞解析装置は、セルソータで選択された細胞が、単一細胞解析デバイスの細胞捕捉部に捕捉されるように、セルソータ及び単一細胞解析デバイスが配置されることができる構成とする。本明細書において、このような形式を直接接続と呼ぶ。例えば、セルソータの直下に単一細胞解析デバイスを配置したり、セルソータ及び単一細胞解析デバイスの一方又は両方を移動機構(例えば、可動ステージなど)によって移動させて、セルソータと単一細胞解析デバイスを直接接続することができる。好ましい実施形態では、選択された細胞は、他の処理(例えば、遠心処理、細胞の再懸濁など)を行わずに直接、単一細胞解析デバイスの細胞捕捉部に捕捉される。
【0018】
このように単一細胞解析デバイスをセルソータの中に組み込んで細胞を分取することで、解析に必要な細胞数を低減し、細胞選別に必要な時間を短縮するとともに、分取後の遠心処理・バッファ交換・細胞の再懸濁(ピペッティング)操作を省くことで細胞へのダメージによるmRNAの発現量の低下を防ぐことができる。
【0019】
本単一細胞解析装置及び本単一細胞解析方法において使用するセルソータ及び単一細胞解析デバイスは、当技術分野において慣用的に使用されているセルソータ及び単一細胞解析デバイスでよく、特に限定されるものではない。
【0020】
図2に、セルソータと単一細胞解析デバイスを直接接続した場合のセルソータ内部の構成例を示す。セルソータには、センスインチップタイプ、及びジェットインエアタイプがある。これらはレーザ照射による細胞計測位置の違いがある。すなわち、センスインチップは、チップ又はキュベットと呼ばれる透明な容器の中でレーザが照射され、生成される細胞からの蛍光を計測するが、ジェットインエアタイプは、チップから空気中に層流で細胞が放出された後、レーザ照射・計測が行われる。
図2は、センスインチップタイプの場合を図示しているが、ジェットインエアタイプでも単一細胞解析デバイスを直接接続する点では、セルソータの装置の構成以外は同じ構成で可能である。
【0021】
図2の直接接続の構成を説明する。サンプルである細胞をバッファ中に懸濁した細胞懸濁液2用の容器(チューブ)1は、通常、使いすてのプラスティック容器である。この容器に加圧することで細胞懸濁液2が挿入管5を通過して、チップ6中を層流で流れる。この時、チップ内では、細胞懸濁液中を細胞1個1個が分離して流れるようにするために、チップ内で細胞懸濁液の流れが絞りこまれていく必要がある。この細胞懸濁液の流れの絞り込みのためには、シース液4をチップ内の細胞懸濁液の流れより外側に流し、このシース液に加えられた圧力が細胞懸濁液に加えられる圧力よりも大きくなるようにする必要があることが知られている。3はシース液用の容器(チューブ)、4はシース液(通常PBSバッファ)である。
【0022】
セルソータは細胞にレーザ光を照射し、細胞からの散乱光や蛍光を計測することで、細胞を識別し、識別された細胞種ごとに細胞の射出方向を振り分ける。上記した流体力学的な絞りこみによって細胞懸濁液の層流の中で一列に配列した個々の細胞の光学計測のために、レーザ光をレンズ8でビームが細胞懸濁液の層流の中心で最も細くなるように絞り込む。得られた散乱光(レーザ光と同じ波長)はまた、蛍光(レーザ光と異なる波長(通常は長波長側))のフィルタ9(ダイクロイックミラー又は光学フィルタ、例えばバンドパスフィルタ)を用いて、計測したい細胞からの信号光波長を選択し、受光器10でパルス状の光信号を受光する。ここでは、1個のフィルタと受光器のみを記載したが、複数のフィルタの設置位置に光の進行方向に沿って、複数のフィルタ(ダイクロイックミラー)を配置し、対応する位置に受光器を配列させることで、個々の細胞から多数の蛍光波長を同時に計測することが可能である。(複数の)受光器で計測した光のパルス強度信号を信号増幅器・識別器11に入力し、細胞を識別する。どのような閾値で識別するかはユーザが決定する。計測が完了した細胞はチップ中を直進し、さらに絞り込まれて、流速を上げて、ノズル12から、シース液、細胞懸濁液とともに射出される。ノズルの内径は70~130μm程度である。射出された細胞溶液が細胞を1個ずつ含む安定した液滴を形成できるようにするために、圧電素子(ピエゾ素子)13を用いて、適切な振幅と高い周波数(20~200kHz)で射出方向と平行な方向にノズルを振動させる。1個の細胞を含む個々の液滴は、細胞識別結果に対応して、ノズルから射出直前の位置で、電解質であるシース液、細胞懸濁液にパルス状の電圧を印加することで帯電させる。この帯電された液滴は、一定の高電圧を印加した偏向板14によって、所望の細胞を含む液滴103のみの射出方向を変えて、目的の回収ウェル101に導入する。この時、シース液と細胞懸濁液に印加する圧力を制御することで流速を安定化し、パルス電圧のタイミングとノズルから出て液滴が形成される位置を制御する必要がある。
【0023】
この細胞の識別による細胞を含む液滴の射出方向の制御によって、単一細胞解析デバイス上の所望のウェル101に分注することができる。また、不要な細胞は102の廃液用の容器(チューブ)に液滴104を分注する。ここで1つ又は複数のウェル101を持つ単一細胞解析デバイス105であり、各ウェルに1つ又は複数のセルソータで識別された細胞を分注する。単一細胞解析デバイス105と廃液用容器(チューブ)102を固定アダプタ107上に固定し、このアダプタを電動可動ステージ108上に固定する。複数のウェルに分注するために、偏向板14に印加する電圧と電動可動ステージ108で単一細胞解析デバイスの位置を制御することで、所望のウェル101に細胞を分注する。なお、
図2は、偏向板14を1つ設置した構成例を示すが、偏向板を複数組み合わせて使用することもでき、そのような構成例を
図5に示す。
【0024】
本発明者は、上記構成の単一細胞解析装置の開発過程で、別の課題を認識した。複数の細胞を含む懸濁液、すなわち細胞懸濁液2は、死細胞の割合をできるだけ低下させるため、細胞懸濁液中に1~2%程度のFBS(ウシ胎仔血清:Fetal Bovine Serum)などのタンパク質を混和させることが多い。この細胞懸濁液は、細胞懸濁液用容器(チューブ)1にプールし、挿入管5を通じて、チップ内に導入される。特にチューブ1内、挿入管5内への細胞の吸着を抑制するためにも、FBSは効果があると考えられる。この場合、単一細胞解析デバイスのウェルには、FBSが含まれた細胞懸濁液とシース液が混和した液滴が分注される。ウェルの中に分注した細胞の細胞膜を細胞溶解試薬で破砕し、mRNAを抽出し、逆転写反応をデバイス上で行う場合、FBSに逆転写反応を阻害する物質が含まれると逆転写効率が低下する。
図3は、細胞懸濁液に含まれるFBS濃度に依存した逆転写効率の変化を示すグラフである。簡単に説明すると、PCRチューブへRTプローブ固定化ビーズ1μL(φ1μm, 7.5×10
11 RTプローブ/10
7 ビーズ/μL)を添加し、磁石でビーズを捕捉後、上澄みを除去した(n=9)。これらのビーズへシース液(Iso Flow, BECKMAN COULTER, #8546859)、RPMI(Thermo Fisher, #21870-076)+1%FBS(Thermo Fisher, #26140079)、およびRPMI(同上)+10%FBS(同上)をそれぞれ0.85μL添加し、混和した(3条件について各n=3)。これらビーズ混合溶液へ1μLのcRNA(10
5 分子/μL)をそれぞれ添加し、混和した。続いて、3.15μLのRT試薬(5xFSバッファー1μL、0.1M DTT 0.25μL、10mM dNTPs 0.8μL、10%Tween20 0.3μL、RNase OUT 0.4μL、SuperScriptIII (ThermoFisher) 0.4μL)をそれぞれ添加し、50℃で50分間インキュベートして逆転写反応を実施した。合成されたcDNA量をqPCRで評価した。一番左のグラフは、細胞懸濁液のバッファにシース液を用いた場合、左から2番目は細胞懸濁液として1%FBS含有培地(RPMI)を用いた場合、一番右は10%FBS含有培地(RPMI)を用いた場合を示している。
図3から、FBSの増加に伴って大幅に逆転写効率が低下することが分かる。
【0025】
さらに
図4は、一定量のRNA分子(10
5分子)の逆転写反応液中に、シース液と培地(RPMI+1%FBS)の割合(横軸の数値が培地の混合比:0~100%)を変えて添加後、逆転写反応により合成されたcDNA量をqPCR定量で調べた結果を示すグラフである(RT-qPCR:Reverse Transcript-quantitative Polymerase Chain Reaction)。簡単に説明すると、PCRチューブへRTプローブ固定化ビーズ1μL(φ1μm, 7.5×10
11RTプローブ/10
7 ビーズ/μL)を添加し、磁石でビーズを捕捉後、上澄みを除去した(n=33)。これらのビーズへ、表1に示すシース液(Iso Flow, BECKMAN COULTER, #8546859)と1%FBS(Thermo Fisher, #26140079)添加済みRPMI培地(Thermo Fisher, #21870-076)の混合液#1~5をそれぞれ0.85μL添加し(表1の混合液#1~#4について各n=6,および混合液#5についてn=9)、これらを氷上条件(混合液#1~#5について各n=3)、および室温条件(混合液#1~4について各n=3,混合液#5についてn=6)で混和した。室温条件の混合液#5のうちn=3について0.5μLのRNase OUTを添加した。
【0026】
【0027】
これらのビーズ混合溶液へ1μLのcRNA(105 分子/μL)をそれぞれ添加し、混和した。続いて3.15μLのRT試薬(5xFSバッファー1μL、0.1M DTT 0.25μL、10mM dNTPs 0.8μL、10%Tween20 0.3μL、RNase OUT 0.4μL、SuperScriptIII (ThermoFisher) 0.4μL)をそれぞれ添加し、50℃で50分間インキュベートして逆転写反応を実施した。合成されたcDNA量をqPCRで評価した。逆転写反応液を室温で調製した場合を黒四角で示し、氷温で調製した場合を黒丸で記した。培地由来のFBSによる悪影響は氷温での処理によって大幅に緩和することがわかる。また、黒三角は100%培地の条件であるが、逆転写反応液中にRNase阻害剤を加えることで、培地が含まれていない0%の条件でのcDNA定量値とほぼ同等にまで改善できることが分かる。この結果から、FBSによるcDNA定量値を低下させるという悪影響の原因は、FBS中のRNaseの活性であり、この活性を抑制することによって、上記悪影響を低減することが可能であることが分かる。
【0028】
したがって、セルソータに使用する細胞懸濁液は、一般的にFBSなどのタンパク質を含むことが多く、そのようなタンパク質はヌクレアーゼ活性を有する成分を含むことがあるが、本発明者は、セルソータとの直接接続において、細胞懸濁液が、RNaseなどのヌクレアーゼ活性を実質的に有しないことが望ましいという知見を得た。それゆえ、本単一細胞解析装置又は本単一細胞方法において使用する細胞懸濁液は、
(a)タンパク質を含むが、前記懸濁液がヌクレアーゼ活性を実質的に有しない、又は
(b)ヌクレアーゼ活性を有する成分を含むタンパク質を含まない
ものである。
【0029】
ここで、「ヌクレアーゼ活性を実質的に有しない」とは、ヌクレアーゼの活性が、何も処理を行わない場合と比べて80~100%、好ましくは90~100%、より好ましくは95~100%、さらに好ましくは98~100%低減していることを意味する。また、ヌクレアーゼは、RNA分解酵素(RNase)及びDNA分解酵素(DNase)から選択される少なくとも1種である。
【0030】
細胞懸濁液に含まれるタンパク質は、セルソータ用の懸濁液に慣用的に使用され、ヌクレアーゼ活性を有する成分を含むタンパク質であれば特に限定されるものではなく、例えば、ウシ胎仔血清(FBS)及びウシ血清アルブミン(BSA)から選択される少なくとも1種を含む。
【0031】
細胞懸濁液が、(a)タンパク質を含むが、前記懸濁液がヌクレアーゼ活性を実質的に有しない場合、懸濁液をヌクレアーゼ活性を実質的に有しないものとするため、一実施形態では、前記タンパク質にヌクレアーゼを除去する処理、例えば精製が行われている。例えば、タンパク質FBS及びBSAは、ヌクレアーゼ(RNase及びDNase)を含まないように精製された高純度のものが市販されており、そのようなタンパク質を使用することができる。
【0032】
別の実施形態では、懸濁液をヌクレアーゼ活性を実質的に有しないものとするため、懸濁液にヌクレアーゼ活性を阻害する物質を混入する。ヌクレアーゼ活性を阻害する物質は、当技術分野で公知であり、例えば、公知のRNase阻害剤、DNase阻害剤の中から、使用する細胞に影響のない物質を選択することができる。
【0033】
また別の実施形態では、懸濁液をヌクレアーゼ活性を実質的に有しないものとするため、懸濁液が冷却される。ヌクレアーゼ活性は、約5℃以下、好ましくは氷冷温度において低減する。そのため、本単一細胞解析装置又は本単一細胞解析方法において、懸濁液を冷却することにより、ヌクレアーゼ活性に起因する問題を解決できる。
【0034】
例えば、FBSを細胞懸濁液に混和させる場合には、FBS中のRNase活性を抑制するための阻害剤を混和させる、RNaseを精製等で排除する、などを行う。また、装置の中で細胞懸濁液を保存する容器、細胞懸濁液をチップに注入する挿入管、シース液等を氷温にすることも悪影響を緩和する方法である。
【0035】
また、細胞懸濁液へウシ血清アルブミン(BSA)を混和させる場合もあるが、この時も、RNase活性を低減するためにRNase Inhibitorを添加するか、アセチル化処理などのタンパク質変性によって意図せず混和されているRNaseの活性を抑制する方法や、カラム精製などによってRNaseを精製除去する方法が適用可能である。
【0036】
通常、上記FBSやBSA中のDNase活性は十分低いが、DNase活性が高い場合には、DNaseを細胞懸濁液に混和する前に精製除去するか、DNase阻害剤を混和させることによって、単一細胞解析上の固定DNAプローブの分解を抑制することが可能であり、計測効率が向上することが期待される。また、計測対象がDNA配列の場合には、上記処理はさらに重要である。同様に細胞懸濁液にタンパク質分解酵素が含まれないようにすることは、DNAプローブ固定用のストレプトアビジンなどのタンパク質が分解されて、DNAプローブが脱離して、mRNA捕捉効率の低下やcDNA合成効率低下、PCR効率の低下が起きることを抑制することが可能である。
【0037】
あるいは、細胞懸濁液が、(b)ヌクレアーゼ活性を有する成分を含むタンパク質を含まない場合には、上述したヌクレアーゼ活性に起因する問題は生じない。
【0038】
上述したように、本単一細胞解析装置及び本単一細胞解析方法では、セルソータに用いる細胞懸濁液中のヌクレアーゼ活性を抑制するか、ヌクレアーゼを除去することにより、単一細胞解析デバイスへのヌクレアーゼ(例えばRNase)の混入を防ぐことができる。そのため、セルソータから直接、単一細胞解析デバイスへ分注した細胞から溶出したmRNAが分解されることなく、単一細胞解析デバイスで捕捉され、高効率なcDNA合成を可能にするものである。これをPCR増幅した試料を次世代DNAシーケンサで解析することにより、高効率(すなわち、高感度)なmRNAの分子カウントが実現できる。またセルソータと単一細胞解析デバイスを直接接続することにより処理時間・操作の軽減が可能となるため、細胞ダメージによるmRNAの分解(遺伝子発現量のダウンレギュレーション)も抑制することができる。
【0039】
本単一細胞解析装置及び本単一細胞解析方法では、セルソータで選択された細胞を単一細胞解析デバイスの細胞捕捉部に捕捉し、細胞由来のmRNAが核酸捕捉部に捕捉した後、核酸捕捉部に捕捉されたmRNAを鋳型とした逆転写反応を行ってもよい。
【実施例0040】
以下に実施例を例示し、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のために提供するものであり、本出願において開示する発明の範囲を限定したり制限したりするものではない。
【0041】
[実施例1]
本実施例は、センスインチップタイプのセルソータにWO2016/125251A(特許文献1)に記載の単一細胞解析デバイスを直接接続することによって、遠心処理を省き、デバイスに導入前の細胞内でのmRNAの分解を抑制するようにした単一細胞解析方法の実施例である。同時に、細胞懸濁液中にRNaseを精製除去したBSA(ウシ血清アルブミン)を用いて、単一細胞解析デバイス中へのRNaseの持ち込みを低減し、単一細胞解析デバイス中に捕捉したmRNAの分解を抑制することによって、高効率にmRNAからcDNAを合成し、次世代DNAシーケンサによって、高効率(すなわち、高感度)にmRNAの分子カウントを実現する例である。
【0042】
以下のセルソータの構成についての記載は、本実施例の方法を実施するために必要最低限に必要な構成を示しているが、レーザ光源の波長やレーザの数、フィルタ、受光器の数等について複数の構成を用いてもかまわない。また、ここでは細胞の選択に蛍光ラベルを用いた識別を用いているが、前方散乱、側方散乱、様々な細胞イメージング、ラマン分光、2光子分光などの非線形分光など多様な光計測の結果を識別の情報として用いることも可能である。
【0043】
図2に本実施例の構成図を示す。ここでレーザ光源7はAr+マルチモードレーザ(488nm, 514.5nm)を用いた。レーザ光源はこれに限定されず、他のレーザ、例えば半導体レーザを用いてもよい。フィルタ9には550nmのロングパスダイクロイックミラーと560nm±10nmのバンドパスフィルタを用いた。受光器10にはPMT(光電子増倍管:Photo Multiplier Tube)を用いた。また、チップ6は石英製のキュベットであり、内部は300μm角のサイズとした。チップの材質はこれに限定されず、他の樹脂、例えばPMMA(ポリメチルメタクリレート)、COP(シクロポリオレフィンポリマー)などの蛍光バックグラウンドの低い樹脂を用いてもよい。
【0044】
また、ノズル12の内径は100μmとし、偏向板14には±3000Vの電圧を印加するとともに、ピエゾ素子13には20kHzでの流路と平行な方向の振動が得られるようにした。その結果、得られる液滴サイズは0.09uLとした。単一細胞解析デバイスの1つのウェルに設置している単一細胞解析用チップVFACs(Vertical Flow Array Chip)上のウェル数は100を用いたので、1つのウェルあたり80個分注した。この時の溶液量は7.2μlである。
【0045】
以下、1. 蛍光標識、2. セルソーティングと単一細胞解析デバイスへの分注、3. 単一細胞解析デバイス上での逆転写反応、4. PCR増幅による次世代シーケンサー用サンプルの調製の順に本実施例に基づく解析方法を記載する。
【0046】
1. 目的細胞の標識(ラベリング)
ここではCD8陽性T細胞を標識する例として、蛍光つき抗体(PE(Phycoerythrin)つき抗マウス抗CD8抗体)を用いた手順を示す。以下に詳細条件を示す。
【0047】
液体窒素(-196℃)保存したマウスの凍結プライマリT細胞(CD3陽性, 5x106細胞/チューブ)を液体窒素から取り出し、37℃のウォーターバスで1分間加温する。速やかに予め37℃に加温した約15mLの細胞培養培地(RPMI1640, 10%FBS, 2 mM Lグルタミン含有)へT細胞全量を混和する。これを遠心(200 g, 3分間)後、上澄み除去して約1mLのPBS(1% Ultra Pure BSA(RNase FreeのBSA, ThermoFisher, #AM2618), 0.005% Tween含有)で混和し、セルカウンターで細胞濃度と生細胞率を測定する。細胞濃度を106 cells/mLに調製した細胞懸濁液100μLを1.5mLチューブへ分注し、0.5μLのブロッキング剤である抗マウスCD16/32抗体を添加・混和して、10分間、室温でインキュベートする。続いて5μLのPEつき抗マウスCD8抗体を混和して、30分間、氷上でインキュベートする。1.4 mLのPBS(2% Ultra Pure BSA, 0.01% Tween含有)を添加・混和後、遠心(200 g, 3分間)し、上澄みを除去する。この洗浄操作を3回繰り返して細胞を洗浄し、最後に3mLのPBS(2% Ultra Pure BSA含有)で懸濁する。
【0048】
2. セルソータを用いた単一細胞解析へのCD8陽性T細胞の分注
単一細胞解析デバイス内に搭載されたチップ(VFACs)へ8μLのPBS(A)(1.33 U/μL RNase OUT, 0.1% Tween 20, 0.005% BSA)を添加し、VFACsの下方向からポンプ吸引(90 kPa)することにより各マイクロチャンバ内を予め洗浄する。これを再度、繰り返して2回実施する。続いて、PBS(B)(1.33 U/μL RNase OUT, 0.1% Tween 20)3uLを各ウェルに分注する。CD8+T細胞を分取するために電動可動ステージ108上に単一細胞解析デバイスを固定する。この単一細胞解析デバイスには、チップ(VFACs)109が6個ずつ2列に設置する。また、廃液用の容器(チューブ)102は2個をアダプタに設置する。セルソータの細胞懸濁液用の容器(チューブ)1に0.5mLの細胞懸濁液2を分注してセルソータに設置する。シース液用の容器3に500mLのPBSをシース液4として充填する。細胞懸濁液用容器1とシース液用容器3にそれぞれ、圧力を加え、液滴サイズが安定し、0.01~0.1μL(特に本実施例では0.09uL)になるように調整する。同時に、CD8+の識別のための蛍光強度を設定する。セルソータを用い、識別したCD8陽性のT細胞を各VFACあたり80細胞(細胞懸濁液7.2uL)を分注する。これによって各ウェルにはCD8陽性T細胞を含む溶液10.2uLが分注された状態となる。
【0049】
3. 単一細胞解析デバイスを用いた細胞捕捉及び細胞からの逆転写反応
単一細胞解析デバイスに設置したチップ(VFACs)の材料はPDMSであり、細胞を捕捉するための貫通孔の直径は平均3μmとなるようにレーザ加工し、ビーズを充填した核酸捕捉部は直径75μmで深さ70μmの円筒上の凹み部分にビーズを充填して構成している。このように、単一細胞解析デバイスにおいて、細胞捕捉部及び核酸捕捉部が直接に接続された貫通孔に形成されてもよく、このような貫通孔を通って、細胞懸濁液は単一細胞解析デバイスの外部に排出可能である。充填されるビーズ(直径1μm)上にはmRNAを捕捉するためのポリT配列含有RTプローブ(CCATCTCATCCCTGCGTGTCTCCGACTCAGTCGCGTACNNNNNNNTTTTTTTTTTTTTTTTTTVN:配列番号1)が固定されており、このRTプローブにはWO2016/125251A(特許文献1)に記載の通り細胞識別タグ(100種類程度ある既知配列の一例として、TCGCGTAC)と分子識別タグ配列(NNNNNNN、N=A、G、C又はT)も挿入されている。細胞分注後の逆転写反応までの処理方法を以下に示す。
【0050】
セルソータから固定アダプタ107に固定された単一細胞解析デバイスをセルソータから取り出し、吸引ポンプを吸引ポート110に接続する。吸引ポンプのスイッチを入れて、VFACの下方向からポンプ吸引(90 kPa)することにより、個々の細胞をVFACs上の3μmの細胞捕捉部で捕捉する。続いて8μLのCell wash buffer(100 mM Tris (pH8.0), 500 mM NaCl, 5 mM DTT, 0.4 U/μL RNase OUT, 0.1% Tween 20)を添加後、ポンプ吸引(90 kPa)し、VFACs表面などに残留した少数の細胞を再捕捉する。1μLのCell Lysis buffer(100 mM Tris (pH8.0), 500 mM NaCl, 10 mM EDTA, 1% SDS, 5 mM DTT, 1.33 U/μL RNase OUT)を添加して細胞を溶解するとともに、溶出されたmRNAをビーズ固定されたRTプローブで捕捉させる。反応後、ポンプ吸引(90 kPa)することでこの試薬の除去を行う。8μLのLysis wash buffer(100 mM Tris (pH8.0), 500 mM NaCl, 5 mM DTT, 0.4 U/μL RNase OUT, 1% Tween 20)添加後、ポンプ吸引(90 kPa)し、酵素反応阻害の原因になり得るCell Lysis bufferの残留試薬を除去する。この操作を2回繰り返す。本工程において90 kPaの強さで一連のポンプ吸引を実施しても、細胞由来mRNA(約106 分子/細胞)の損失が生じないことは確認している。Cell Lysis buffer及びLysis wash bufferには共に500 mMと高濃度のNaClが含まれていると共に、十分量(1.5x1010 分子)のRTプローブが磁気ビーズ上に固定されているため、細胞内の微量mRNAは効率よく捕捉される。
【0051】
各チップ(VFACs)上面へ、4.5μLの逆転写反応試薬(1 x FS Buffer (Takarabio), 2mM DTT, 2mM dNTPs, 3.2U/μL RNase inhibitor (Takarabio), 10 Unit/μL SmartScribe RT (Takarabio), 0.2% Tween20)を添加する。フローセルデバイス上面の開口部をシール(Thermo Fisher社,Optical Adhesive Film)し、予め42℃に加温した恒温槽で60分間インキュベートする。室温で5分間インキュベート後、デバイスのシールを剥がし、ポンプで逆転写反応の試薬を吸引除去する。フローセルデバイスからVFAC及びメンブレンをピンセットで取り出し、100μLのSuspension Buffer(50 mM NaCl, 50 mM Tris(pH8.0))を予め添加したPCR tubeへ投入する。チューブ底にネオジム磁石を近接し、ピンセットでVFACをほぐすことで、マイクロチャンバに充填されているビーズをBuffer内へ完全に撹拌させる。ピペットチップでVFACをチューブ上部へ移動させ、VFACに含まれる残留試薬を除去する目的でスピンダウン(脱水)して、再度上澄みを完全に除去し、VFACも除去する。50μLのwash buffer(0.1% Tween 20, 10 mM Tris, pH8.0)でビーズを2回洗浄後、1μLの同液でビーズを懸濁する。
【0052】
4. PCR増幅による次世代シーケンサー(NGS)解析用サンプルの調製
4.1. 1st multiplex PCR増幅
3で調製した試料について磁気ビーズ上のRTプローブをExonuclease Iにより分解後、1st multiplex PCR増幅を行う。ここでは以下の表2に記載の44種類のオリゴ(配列番号9~52)を混和したForwardプライマーセットと1種類のReverseプライマー(PA primer, CCATCTCATCCCTGCGTGTCT:配列番号2)を用いた。
【0053】
【0054】
1st multiplex PCR増幅の詳細は次の通りである。Exonuclease I反応液(1x Exonuclease I buffer, 0.067 Unit/μL)を氷上にて調製する。この14μLを2.及び3.で調製した試料と混和し、37℃で15分間インキュベートする。50μLのwash buffer(0.1% Tween 20, 50 mM Tris, pH8.0)でビーズを3回洗浄後、1μLの10 mM Tris (pH8.0)でビーズを懸濁する。9μLの1st Multiplex PCR試薬(1 x Gflex PCR buffer, 0.2μM 44plex primer mix, 2 μM PA primer, 0.075 Unit/μL Tks Gflex DNA polymerase)を氷上にて調製する。調製した9μLの1st Multiplex PCR試薬を1μLのビーズサンプルと混和し、適切な温度条件(94℃1分間の熱失活後、14サイクルの98℃10秒間→58℃3分間→68℃25秒間を実施し、68℃2分間後、4℃の一定温度)でPCR増幅させる。ネオジム磁石でビーズを捕捉後、増幅産物が含まれる上澄み10μLをチューブへ採取し、40μLのwash buffer(0.1% Tween 20, 10 mM Tris, pH8.0)でビーズを洗浄後、上澄みを増幅産物と混和して計50μLとする。サンプルのx0.7ボリュームに相当する35μLのAmpure XPを添加・混和してメーカ推奨プロトコル通り精製し、最後に35μLのwash buffer(10mM Tris (pH8.0), 0.1% Tween20)で溶出し、上澄みを別チューブに回収する。
【0055】
4.2. 2nd Multiplex PCR増幅
4.1.で得た1st Multiplex PCR産物(遺伝子解析用産物)について、R2SP(illumina社 NGS用共通配列)が付加された44種のForward プライマーセット(表3、配列番号53~96)及び1種類のReverseプライマー(PA primer, 配列番号2)を用いて、2nd Multiplex PCR増幅する。これにより遺伝子発現解析向けのDNAが増幅される。
【0056】
【0057】
2nd multiplex PCR増幅の詳細は次の通りである。13μLの2nd Multiplex PCR試薬(1x Multiplex PCR Plus, 0.3μMの2nd R2SP付加44plex primer mix、3μMのPA primer)を、7μLの1st Multiplex PCR産物と混和後、適切な温度条件(95℃5分間の熱失活後、3サイクルの95℃30秒間→61℃5分間→72℃30秒間後、3サイクルの95℃30秒間→59℃5分間→72℃30秒間後、3サイクルの95℃30秒間→57℃5分間→72℃30秒間後、3サイクルの95℃30秒間→55℃5分間→72℃30秒間実施し、72℃2分間後、4℃の一定温度)で増幅させる。20μLの2nd Multiplex PCR産物へ30μLの0.1% Tween 20(10 mM Tris, pH8.0)を添加する(計50μL)。サンプルのx0.7ボリュームに相当する35μLのAmpure XPを添加・混和してメーカ推奨プロトコル通り精製し、最後に40μLのwash buffer(10mM Tris (pH8.0), 0.1% Tween20)で溶出し、上澄みを別チューブに回収する。
【0058】
4.3. NGSライブラリ調製のための3rd PCR
4.2.で得た2nd Multiplex PCR産物を鋳型とし、3rd PCR増幅を行うことでillumina社製NGS(次世代シーケンシング)解析に必要な共通配列(P5-R1SP(AATGATACGGCGACCACCGAGATCTACACTCTTTCCCTACACGACGCTCTTCCGATCT:配列番号3)、P7-R2SP(CAAGCAGAAGACGGCATACGAGATGTGACTGGAGTTCAGACGTGTGCTCTTCCGATCT:配列番号4))、及びVFACを識別するChip Tag(CT)配列(64種類ある既知配列中の一例として、TGACATA)を導入する。詳細条件を以下に示す。
【0059】
22μLの3rd PCR試薬(1 x Gflex PCR buffer, 0.23μM P5_R1SP_CT_PA primer(64種類あるCTの一例を含む、AATGATACGGCGACCACCGAGATCTACACTCTTTCCCTACACGACGCTCTTCCGATCTTGACATACCATCTCATCCCTGCGTGTCTC:配列番号5)、0.23μM P7_R2SP primer(CAAGCAGAAGACGGCATACGAGATGTGACTGGAGTTCAGACGTGT:配列番号6)、0.01μM P5 primer(AATGATACGGCGACCACCGAGATCTACAC:配列番号7)、0.01μM P7 primer(CAAGCAGAAGACGGCATACGAGAT:配列番号8), 0.045 Unit/μLTks Gflex DNA polymerase)を氷上にて調製し、4.2.で得た2nd Multiplex PCR産物の8μLと混和する。適切な温度条件(94℃1分間の熱失活後、1サイクルの98℃10秒間→61℃1分間→68℃25秒間後、2サイクルの98℃10秒間→59℃1分間→68℃25秒間後、2サイクルの98℃10秒間→57℃1分間→68℃25秒間後、2サイクルの98℃10秒間→55℃1分間→68℃25秒間実施し、68℃2分間後、4℃の一定温度)で増幅させる。増幅産物30μLへ20μLの0.1% Tween 20(10 mM Tris, pH8.0)を添加して50μLへメスアップ後、サンプルのx0.7ボリュームに相当する35μLのAmpure XPを添加・混和してメーカ推奨プロトコル通り精製し、最後に40μLのwash buffer(10mM Tris (pH8.0), 0.1% Tween20)で溶出し、上澄みを別チューブに回収する。3rd PCR増幅産物の1μLをチップ電気泳動で解析し、増幅産物サイズ(bp)及び濃度(pmol/L)を決定後、NGS解析(illumina社, Miseq)を実施する。NGS解析後のデータをタグ配列(チップタグ、細胞識別タグ、分子識別タグ)ごとに分離し、44個の遺伝子の公共データベース上に公開された配列にマッピングすることで、mRNAの分子数をカウントし、各細胞ごとの遺伝子配列データを取得することが可能となる。その結果を
図7に示す。結果に示されるように、本実施例の単一細胞解析装置及び単一細胞解析方法により、単一細胞由来の遺伝子発現解析を実施できることが示された。
【0060】
[実施例2]
本実施例は、センスインチップタイプのセルソータにWO2016/125251A(特許文献1)に記載の単一細胞解析デバイスを直接接続することによって、遠心処理を省き、デバイスに導入前の細胞内でのmRNAの分解を抑制するようにした単一細胞解析方法の実施例である。同時に、細胞懸濁液中にRNase阻害剤を混和させることで、単一細胞解析デバイス中でのRNaseの活性を低減し、単一細胞解析デバイス中に捕捉したmRNAの分解を抑制することによって、高効率にmRNAからcDNAを合成し、次世代DNAシーケンサによって、高効率(すなわち、高感度)にmRNAの分子カウントを実現する例である。本実施例は、実施例1の細胞ラベリングの工程を下記のように変更した方法である。後続の工程は実施例1と同じであるため、省略する
【0061】
1. 目的細胞の標識(ラベリング)
液体窒素(-196℃)保存したマウスの凍結プライマリT細胞(CD3陽性, 5×106細胞/チューブ)を液体窒素から取り出し、37℃のウォーターバスで1分間加温する。速やかに予め37℃に加温した約15 mLの細胞培養培地(RPMI1640, 10%FBS, 2 mM Lグルタミン含有)へ全量を混和する。これを遠心(200 g, 3分間)後、上澄み除去して約1mLのPBS(1% BSA(一般的な分子生物学用の安価なBSA, ThermoFisher, #37525), 0.005% Tween含有)で混和し、セルカウンターで細胞濃度と生細胞率を測定する。細胞濃度を106 cells/mLに調整した細胞懸濁液100μLを1.5mLチューブへ分注し、0.5μLのブロッキング剤である抗マウスCD16/32抗体を添加・混和して、10分間、室温でインキュベートする。続いて5μLのPEつき抗マウスCD8抗体を混和して、30分間、氷上でインキュベートする。1.4 mLのPBS(2% BSA, 0.01% Tween含有)を添加・混和後、遠心(200 g, 3分間)し、上澄みを除去する。この洗浄操作を3回繰り返して細胞を洗浄し、最後に3mLのPBS(2% BSA, 0.5 units/μL, RNase OUT(Thermo Fisher, #10777019), 1mM DTT 含有)で懸濁する。
【0062】
[実施例3]
本実施例は、センスインチップタイプのセルソータに96穴プレートの個々のウェルに個々の所望の細胞を分注することによって単一細胞解析を行う方法において、事前にウェル内にRNase阻害剤を含む試薬を添加させることで、96穴プレート中でのRNaseの活性を低減し、各ウェル121のビーズ上で捕捉したmRNAの分解を抑制することによって、高効率にmRNAからcDNAを合成し、次世代DNAシーケンサによって、高効率(すなわち、高感度)にmRNAの分子カウントを実現する例である。また、プレートのウェルごとに異なる細胞識別配列を持つポリT配列含有 RTプローブ(配列番号1)が固定されたビーズ(実施例1及び2に記載のVFACs中の核酸捕捉部に充填されたビーズに相当)を分注することで、単一細胞別の解析を行う方法である。実施例1との相違点を中心に記載する。本実施例の構成図を
図6に示す。96穴プレートの各ウェル121にセルソータで識別された細胞を1液滴ずつ分注し、それ以外の細胞は廃液用容器(チューブ)102に分注する。プロセスは以下のとおりである。
【0063】
1. 蛍光標識の方法は実施例1と同じである。
【0064】
2. セルソータを用いた96穴プレートの各ウェルへの1個のCD8陽性T細胞の分注方法
96種類の異なる細胞認識配列を含むポリT配列含有 RTプローブを、それぞれ7.5分子/磁気ビーズとなるよう固定した磁気ビーズ(例えば径1μM, 106ビーズ/μL)を調製し、1ウェル毎に1種類ずつ磁気ビーズを1μL分注する。続いて4μLの逆転写反応試薬(1.25 x FS Buffer (Thermo Fisher), 6.4mM DTT, 2.29mM dNTPs, 6.1 Units /μL RNase OUT (Thermo Fisher), 4.9 Units/μL SuperScriptIII (Thermo Fisher), 0.45% NP40)を各ウェルに分注・混和する。CD8+T細胞を分取するために電動可動ステージ108上に96穴プレートを固定する。また、廃液用容器(チューブ)102は8個を固定アダプタ107に設置する。セルソータの細胞懸濁液用の容器(細胞懸濁液チューブ)1に0.5mLの細胞懸濁液2を分注してセルソータに設置する。シース液用の容器3に500mLのPBS(シース液4)を充填する。細胞懸濁液チューブとシース液容器にそれぞれ、圧力を加え、液滴サイズが安定し、0.01~0.1μL(特に本実施例では0.09uL)になるように調整する。同時に、CD8+の識別のための蛍光強度を設定する。セルソータを用い、識別したCD8陽性のT細胞を96穴プレートの各ウェル121に1細胞(細胞懸濁液0.09uL)を分注し、96穴プレートにシールをする。これによって各ウェルにはCD8陽性T細胞を含む溶液が5.09uLが分注された状態となる。1プレート1細胞の場合は、逆転写反応以降の酵素についてそれぞれ80細胞に使用していた酵素が1細胞に対して必要になるため、試薬コストが大幅に上昇する。
【0065】
3. 逆転写反応
96穴プレートを予め50℃に加温した恒温槽で60分間インキュベートする。室温で5分間インキュベート後、シールを剥がし、50μLのwash buffer(0.1% Tween 20, 10 mM Tris, pH8.0)を添加後、96穴プレートタイプのネオジム磁石を用いてビーズを捕捉し、上澄みを除去する。再度、15μLのwash bufferを添加し、96サンプルを1.5mLチューブへ回収してマージする。ネオジム磁石でビーズを捕捉して上澄みを除去後、1μLのwash bufferに懸濁する。
【0066】
4. 以降のPCR増幅反応は実施例1と同じである。