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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184054
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】転がり軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/66 20060101AFI20231221BHJP
   F16C 19/16 20060101ALI20231221BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20231221BHJP
【FI】
F16C33/66 Z
F16C19/16
F16H57/04 Q
F16H57/04 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097963
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 侑馬
(72)【発明者】
【氏名】山本 健
【テーマコード(参考)】
3J063
3J701
【Fターム(参考)】
3J063AA02
3J063AB01
3J063BA11
3J063BB11
3J063XD03
3J063XD16
3J063XD47
3J063XD73
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA77
3J701CA08
3J701CA11
3J701FA32
3J701FA33
3J701GA01
3J701GA11
(57)【要約】
【課題】外輪が回転する転がり軸受装置において内輪の軌道面のスミアリングを抑制する。
【解決手段】変位不能の軸88と、軸88に対して回転するハウジング82と、ハウジング82を支持する転がり軸受10と、を有し、転がり軸受10は、軸88に固定された内輪13と、ハウジング82に固定された外輪12と、外輪12と内輪13との間に転動自在に組み込まれた複数の転動体14と、を備えており、軸88は、内輪13が外嵌される軸部34と、内輪13の軸方向の一方の側面27と当接して内輪13の軸方向位置を規制する段部89を備えており、段部89の鉛直方向上方の外周に、径方向内方に窪むとともに軸方向に延在する凹部33を備えており、転がり軸受10を潤滑する潤滑油が凹部33に沿って流動する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変位不能の軸と、
前記軸に対して回転するハウジングと、
前記ハウジングを支持する転がり軸受と、を有し、
前記転がり軸受は、前記軸に固定された内輪と、
前記ハウジングに固定された外輪と、
前記外輪と前記内輪との間に転動自在に組み込まれた複数の転動体と、を備えており、
前記軸は、前記内輪が外嵌される軸部と、前記内輪の軸方向の一方の側面と当接して前記内輪の軸方向位置を規制する段部とを備えており、
前記段部の鉛直方向上方の外周に、径方向内方に凹んだ底面を有するとともに軸方向に延在する凹部を備えており、前記転がり軸受を潤滑する潤滑油が前記凹部に沿って流動することを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項2】
前記凹部は、それぞれ前記段部の外周から鉛直方向上方に突出する第1の突出部と第2の突出部とで周方向に画定されており、
前記第1の突出部は、前記段部の鉛直方向の最も上側から周方向の第1の側で前記内輪の前記軸方向の一方の肩より鉛直方向の上側に突出し、
前記第2の突出部は、前記段部の鉛直方向の最も上側から周方向の第2の側で前記内輪の前記軸方向の一方の肩より鉛直方向の上側に突出し、
前記底面は、径方向内方に凹んだ位置で前記第1の突出部と前記第2の突出部を周方向につなぐことを特徴とする請求項1に記載する転がり軸受装置。
【請求項3】
前記底面は、前記軸方向の他方の端部が前記軸方向の一方の端部より鉛直方向下方に位置する向きに傾斜するとともに、前記内輪の前記軸方向の一方の肩より径方向外方にあることを特徴とする請求項1又は2に記載する転がり軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体を転がり軸受で回転支持する転がり軸受装置、特に、外輪が回転して潤滑油で潤滑される転がり軸受を使用した転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、図7の矢印Cで示した個所に、自動車用トランスアクスル81に組み込まれて、転がり軸受83の外輪が回転する転がり軸受装置80を開示する。転がり軸受83は、内輪がケース(軸)88に固定され、外輪がカウンタドライブギア(ハウジング)82の内周に嵌め合わされており、外輪がカウンタドライブギア82とともに回転する。
【0003】
トランスアクスル81は、エンジンからの動力を入力する第1入力軸84と、モータからの動力を入力する第2入力軸85と、遊星機構87を備えており、それぞれ第1回転軸nに沿って直線状に配置されている。第1入力軸84及び第2入力軸85が回転すると、遊星機構87は、カウンタドライブギア82を回転させる。
【0004】
カウンタドライブギア82の駆動力はデファレンシャルギア86に伝達される。図示を省略した油槽がデファレンシャルギア86の下方に設けられている。油槽は、遊星機構87や転がり軸受83を潤滑するための潤滑油Gを貯留している。潤滑油Gは、デファレンシャルギア86の回転によって跳ね上げられて、カウンタドライブギア82の外周に飛散している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-061046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
潤滑油Gは、カウンタドライブギア82の外周に跳ねかけられ、図7に矢印G1で示すように、ケース88とカウンタドライブギア82とのすきまs1を通って下方に流れている。
転がり軸受83を組み付ける軸受取付部では、内輪の軸方向の位置を規制するために段部89が設けられている。すきまs1から流入した潤滑油Gは、段部89に到達した後、一部の潤滑油Gが転がり軸受83に供給されるとともに、その他の潤滑油Gは段部89の外周を周方向に流れて油槽に還流する。
【0007】
転がり軸受83に供給された潤滑油Gは、玉が自転と公転とし、外輪が回転していることによって遠心力が作用して、径方向外方に移動する。このため、潤滑油Gは、内輪軌道面で保持される量が少なくなって、玉と内輪軌道面とは、油膜形成が低下するおそれがある。油膜形成が低下すると、スミアリングが軌道面に発生する場合がある。スミアリングは、転がり軸受の損傷の一形態であって、転動体と軌道面との間で滑り接触が生じたときに潤滑油膜が切れて、軌道面が荒れた状態になることをいう。
【0008】
そこで、本発明は、転がり軸受の外輪が回転する転がり軸受装置において、内輪の軌道面に供給する潤滑油Gの量を増大させて、内輪軌道面のスミアリングの発生を抑制することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一形態は、変位不能の軸と、前記軸に対して回転するハウジングと、前記ハウジングを支持する転がり軸受と、を有し、前記転がり軸受は、前記軸に固定された内輪と、前記ハウジングに固定された外輪と、前記外輪と前記内輪との間に転動自在に組み込まれた複数の転動体と、を備えており、前記軸は、前記内輪が外嵌される軸部と、前記内輪の軸方向の一方の側面と当接して前記内輪の軸方向位置を規制する段部とを備えており、前記段部の鉛直方向上方の外周に、径方向内方に凹んだ底面を有するとともに軸方向に延在する凹部を備えており、前記転がり軸受を潤滑する潤滑油が前記凹部に沿って流動することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の転がり軸受の外輪が回転する転がり軸受装置は、内輪の軌道面に供給する潤滑油Gの量を増大させることができる。これにより、本発明の転がり軸受装置は、内輪軌道面のスミアリングの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明にかかる転がり軸受装置の軸方向断面図である。
図2】凹部の近傍を拡大した正面図である。
図3】ケースの内側における潤滑油の流れを説明する説明図である。
図4】従来のトランスアクスルにおける潤滑油の流れを説明する説明図である。
図5】第2実施形態の転がり軸受装置の軸方向断面図である。
図6】第3実施形態の転がり軸受装置の軸方向断面図である。
図7】従来の自動車用トランスアクスルの部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
図を用いて本発明の実施形態を説明する。本発明の一実施形態(以下、「第1実施形態」という)である転がり軸受装置10は、自動車用トランスアクスルに組み込まれて、カウンタドライブギアを回転支持する用途で使用される。転がり軸受装置10が組み込まれているトランスアクスルの基本的な構造は従来技術と同様である。このため、従来技術と共通する構成については図7を参照しつつ、同一の番号を付して説明する。
第1実施形態の転がり軸受装置10は、図7において矢印Cで示す個所で、カウンタドライブギア82の軸方向の第1の側に組み込まれている。
【0013】
図1は、転がり軸受装置10の軸方向断面図である。転がり軸受装置10は、転がり軸受11と、ケース(軸)88と、カウンタドライブギア(ハウジング)82を備えている。
図1における転がり軸受11の中心軸mは、図7における第1回転軸nと平行である。以下の説明では、転がり軸受11の中心軸mと平行となる方向は、軸方向であり、中心軸mと直交する方向は、径方向であり、中心軸mを中心として周回する方向は、周方向とである。また、図7に合わせて、図1の右側は、軸方向の第1の側であり、左側は、軸方向の第2の側である。
【0014】
(転がり軸受)
転がり軸受11は深溝玉軸受で、外輪12、内輪13、複数の転動体としての玉14及び保持器15を備えている。
【0015】
外輪12は、環状で、軸受鋼などの鋼材で製造されている。外輪12は、軸受外径面16と、一組の外輪側面17、17と、外輪軌道面18と、第3の肩19と、第4の肩20と、を備えている。
【0016】
軸受外径面16は、中心軸mを中心とする円筒面である。軸方向の第1の側の外輪側面17は、軸受外径面16の軸方向の第1の側の端部から径方向内方に延在しており、軸方向の第2の側の外輪側面17は、軸受外径面16の軸方向の第2の側の端部から径方向内方に延在している。一組の外輪側面17、17は、それぞれ中心軸mと直交する向きに延在しており、互いに平行である。
【0017】
外輪軌道面18は、外輪12の内周において軸方向の中央に全周にわたって形成されており、転がり軸受11が回転するときに玉14が転動する。外輪軌道面18の軸方向断面は、中央が径方向外方に向けて凹んだ円弧形状である。円弧の曲率半径は、玉14の外周面の曲率半径よりわずかに大きい。
第3の肩19は、外輪軌道面18の軸方向の第1の側に設けられており、第4の肩20は、軸方向の第2の側に設けられている。第3の肩19の内周面21と、第4の肩20の内周面22と、は、いずれも中心軸mを中心とする円筒面で、それぞれの内径は同じである。
【0018】
内輪13は、環状で、軸受鋼などの鋼材で製造されている。内輪13は、軸受内径面26と、一組の内輪側面27、27と、内輪軌道面28と、第1の肩29と、第2の肩30と、を備えている。
【0019】
軸受内径面26は、中心軸mを中心とする円筒面である。軸方向の第1の側の内輪側面27は、軸受内径面26の軸方向の第1の側の端部から径方向外方に延在しており、軸方向の第2の側の内輪側面27は、軸受内径面26の軸方向の第2の側の端部から径方向外方に延在している。一組の内輪側面27、27は、それぞれ中心軸mと直交する向きに延在しており、互いに平行である。
【0020】
内輪軌道面28は、内輪13の外周の軸方向の中央に全周にわたって形成されており、転がり軸受11が回転するときに玉14が転動する。内輪軌道面28の軸方向断面は、中央が径方向内方に向けて凹んだ円弧形状である。円弧の曲率半径は、玉14の外周面の曲率半径よりわずかに大きい。
第1の肩29は、内輪軌道面28の軸方向の第1の側に設けられており、第2の肩30は、軸方向の第2の側に設けられている。第1の肩29の外周面31と第2の肩30の外周面32は、いずれも中心軸mを中心とする円筒面で、それぞれの外径は同じである。
【0021】
玉14は、球形で、軸受鋼などの鋼材で製造されている。第1実施形態の転がり軸受11では、8個の玉14が、周方向に等しい間隔で組み込まれている。
保持器15は、波型保持器であって、SPCCなどの冷間圧延鋼板をプレス成形して製造された2枚の波形の環状部品を互いに向き合うように組み合わせて、互いにリベットで固定されている。保持器15は、周方向に等しい間隔で玉14を保持するポケットを有している。
【0022】
こうして、図1に示すように、転がり軸受11は、外輪12と内輪13とが中心軸を一致させて組み合わされ、外輪軌道面18と内輪軌道面28の間に複数の玉14が組み込まれる。玉14は、保持器15によって周方向に等しい間隔で保持されている。転がり軸受11は、外輪12が回転すると、玉14が公転する。玉14の公転運動に伴って保持器15が中心軸mを中心に回転する。
【0023】
(ケース)
図1及び図2によってケース88について説明する。
図2は、転がり軸受11を取り外した状態で、図1に白抜き矢印Aで示す向きにみたケース88の正面図である。
【0024】
図1を参照する。ケース88は、第1ケース本体91と、転がり軸受11を取り付けるための軸受取付部35と、転がり軸受11に向けて潤滑油Gを流動させるための凹部33を備えている。軸受取付部35は、軸部34と、転がり軸受11の軸方向の位置を規制する段部89と、を備えている。ケース88は、アルミニウム合金を用いて鋳造によって製造されており、第1ケース本体91と、軸受取付部35と、凹部33は、一体に形成されている。
図7に示すように、ケース88は、軸方向の第2の側に配置された第2のケース92と軸方向に連結されている。ケース88と第2のケース92は、互いに軸方向に組み合わされて、遊星機構87及びデファレンシャルギア86を密閉した状態で覆うケースを構成している。以下の説明において、各ケース88、92の遊星機構等が設置されている側の空間は、ケースの内周である。
【0025】
軸受取付部35について説明する。軸部34は、中心軸mを中心とする略円筒形状で、段部89の軸方向の第2の側から転がり軸受11の軸受幅と同等の長さで軸方向の第2の側に向けて延在している。軸部34は、内輪嵌合面34aと端面34bを備えている。内輪嵌合面34aは、中心軸mと平行に軸方向に延在する円筒面で、内輪嵌合面34aの直径は転がり軸受11の軸受内径面26の内径と同等である。端面34bは、中心軸mと直交する向きで、内輪嵌合面34aの軸方向の第2の側の端部から径方向内方に延在している。
軸部34の外周に、転がり軸受11の軸受内径面26が嵌め合わされる。軸部34は、転がり軸受11に作用する荷重を支持できるように、径方向に所定の厚さを有している。
【0026】
段部89は、第1ケース本体91の内側面から軸方向の第2の側に向かって周方向に一様に盛り上がった形態である。図1の白抜き矢印Aで示す向きに軸方向に見ると、段部89は、図2に示すように中心軸mを中心とする環状である。段部89は、全周にわたって軸受当接面38を有しており、凹部33が形成されている領域を除き、段部外周面39を有している。
【0027】
軸受当接面38は、内輪嵌合面34aの軸方向の第1の側の端部から中心軸mと直交する向きで径方向外方に延在している。軸受当接面38は、転がり軸受11を組み付けたときに内輪側面27と当接して、転がり軸受11の軸方向の位置を規制している。
段部外周面39は、中心軸mを中心とする円筒面で、軸受当接面38の径方向外方の端部から軸方向の第1の側に向かって中心軸mと平行に延在している。本実施形態では、段部外周面39の外径は、内輪13の第1の肩29の外径より小さいが、これに限定するものではなく、内輪13の第1の肩29の外径より大きくてもよく、また、同じであってもよい。
【0028】
第1ケース本体91は、軸受取付部35の近傍では、中心軸mに対して略直交する向きに形成されており、第1ケース本体91の内側面は、凹部33が形成されている領域を除き、段部外周面39の軸方向第1の側の端部とつながっている。
【0029】
図2によって、凹部33について説明する。凹部33は、段部89の鉛直方向の上側に配置されている。鉛直方向とは、トランスアクスル81を自動車等の車両に搭載して、車両を通常走行時の姿勢に保持したときの鉛直方向と一致する方向をいう。
凹部33は、段部外周面39から鉛直方向に突出する第1の突出部41と第2の突出部42とで周方向に画定され、第1の突出部41と第2の突出部42とで周方向に挟まれた領域が径方向内方に凹んでいる。
【0030】
第1の突出部41は、段部89の鉛直方向の最も上方の位置から周方向の第1の側(図2参照)に配置されている。第2の突出部42は、段部89の鉛直方向の最も上方の位置から周方向の第2の側に配置されている。
第1の突出部41と第2の突出部42とは、それぞれ周方向に所定の厚さを有する平板状で、互いに同等の形状である。凹部33は、中心軸mを含み鉛直方向に延在する平面pに関して対称に配置されている。第1の突出部41と平面pとの距離は第2の突出部42と平面pとの距離と同等で、第1の突出部41と第2の突出部42は、互いに平行である。以下、第1の突出部41について説明し、第2の突出部42の説明を省略する。
【0031】
第1の突出部41は、図2の白抜き矢印Bで示す向きで周方向に見た形態が、略矩形形状である。第1の突出部41は、径方向内方の端部が軸方向の全域で段部外周面39とつながっており、軸方向の第1の側の端部が径方向の全域で第1ケース本体91とつながっている。
第1の突出部41の軸方向の第2の側の側面43は、中心軸mと直交するとともに段部外周面39の位置から鉛直方向上向きに延在する平面であって、軸受当接面38と面一となっている。また、第1の突出部41の径方向外方の上側面44は、平面pと直交して、中心軸mと平行である。
【0032】
第1の突出部41の上側面44は、少なくとも、内輪13の第1の肩29の外周より鉛直方向の上側に突出するように配置されるが、本実施形態では、外輪12と接触しない程度で外輪12の第3の肩19の内周面21に近接した位置に配置している。図2において、転がり軸受11が軸受取付部35に組付けられたときの、外輪12の第3の肩19の内周面21の位置は、一点鎖線で示されている。
第1の突出部41が外輪12の第3の肩19の内周面21と近接した位置に配置されることによって、凹部33は、容積を大きくできる。凹部33の容積を大きくすることは、凹部33から流出する潤滑油Gの量を多くすることに繋がる。また、第1の突出部41は、外輪12に干渉しない。外輪12が回転するときに、第1の突出部41が外輪12に干渉することに伴う異音や振動の発生は、防止される。
【0033】
第1の突出部41と第2の突出部42は、凹部底面46と凹部背面47とで周方向につながっている。凹部背面47は、図2で、第1の突出部41の上側面44と第2の突出部42の上側面44をつなぐ仮想線tより径方向内方の平面である。第1実施形態の転がり軸受装置10において、凹部背面47は、第1ケース本体91の内周面と連続する平面となっている。
凹部底面46は、第1の突出部41の上側面44及び第2の突出部42の上側面44より径方向内方に凹んだ位置に配置される。凹部底面46は、軸方向の第2の側に進むにしたがって、中心軸mに接近する向きに傾斜している。凹部底面46の軸方向の第2の側の端部は、軸受当接面38の径方向外方の端部とつながっており、凹部底面46の軸方向第1の側の端部は、凹部背面47の径方向内方の端部とつながっている。
こうして、凹部33は、第1の突出部41と第2の突出部42と凹部底面46と凹部背面47とで画定されて、径方向内方に窪むとともに軸方向に延在する溝を構成している。後述するように、転がり軸受11を潤滑する潤滑油Gは、凹部33に沿って流動する。
【0034】
(カウンタドライブギア)
図1及び図7を参照する。カウンタドライブギア82は、中心軸mを中心とする略円筒形状で、外周に、デファレンシャルギア86とかみ合う外歯の歯車90を備えている。カウンタドライブギア82は、車両の走行時に、内周側に組み込まれた遊星機構87によって駆動されて中心軸mを中心として回転する。
カウンタドライブギア82は、軸方向の第1の側の端部の内周に、転がり軸受11の外輪12を組付ける嵌合部を備えている。嵌合部は、軸方向の第1の側の端面49から中心軸mと平行に延在する外輪嵌合面50と、外輪嵌合面50の軸方向の第2の側の端部から中心軸mと直交する向きで径方向内方に延在する軸受当接面51とで構成される。外輪嵌合面50の内径は、転がり軸受11の軸受外径面16の外径と同等である。端面49と軸受当接面51との軸方向の距離は、転がり軸受11の軸受幅と同等である。
【0035】
このため、外輪側面17とカウンタドライブギア82の端面49とは、ほぼ面一に組付けられる。第1ケース本体91の内周面は、内輪側面27に対して、段部外周面39の軸方向長さの分だけ軸方向の第1の側に離れているので、軸方向のすきまs1がカウンタドライブギア82の端面49と第1ケース本体91の内周面との間に形成される。デファレンシャルギア86で跳ね上げられた潤滑油Gは、当該すきまs1を通って転がり軸受11に向かって流動する。
カウンタドライブギア82のその他の形態は、従来のカウンタドライブギア82と同じであり説明を省略する。
【0036】
(転がり軸受装置)
次に、図3によって第1実施形態の転がり軸受装置10の作用効果について説明する。
図3(a)は図1と同様の転がり軸受装置10の部分断面図で、図3(b)は図2と同様の凹部33近傍の正面図であって、それぞれ第1ケース本体91の内周における潤滑油Gの流れを説明する説明図である。
【0037】
デファレンシャルギア86が回転すると、跳ね上げられた潤滑油Gが、カウンタドライブギア82の外周に飛散する(図7参照)。
図3に示すように、飛散した潤滑油Gはすきまs1を通って鉛直方向下方に流動する(矢印G1)。一部の潤滑油Gは、凹部33の周方向の内側(第1の突出部41と第2の突出部42とで挟まれた領域である)に流入して、凹部底面46に沿って転がり軸受11の内輪13に向けて流動する(矢印G2)。第1実施形態の転がり軸受装置10は、凹部底面46の軸方向の第2の側の端部と、内輪13の第1の肩29とが、径方向で同等の位置に形成されているので、凹部底面46を流動した潤滑油Gは、速やかに転がり軸受11に向けて流動する。
また、凹部33の周方向の外側(第1の突出部41より周方向の第1の側、又は第2の突出部42より周方向の第2の側である)に流動した潤滑油Gは、図3に破線で記載(矢印G3)したように、段部外周面39に沿って周方向に流動して、段部89の鉛直方向下方(図示を省略する)の最下部近傍からトランスアクスル81の油槽に還流する。
【0038】
本発明にかかる凹部33の作用効果を、段部89に凹部33を設けていないと仮定した場合と対比して、潤滑油Gの流れについて説明する。図4は、図3と同様の潤滑油Gの流れを説明する説明図であって、従来の転がり軸受装置80における潤滑油Gの流れを示している。
図4に示すように、従来の転がり軸受装置80の第1ケース本体91の段部外周面39は、全周にわたって連続した円筒面で形成されている。段部外周面39は、中心軸mを中心とする円筒面で中心軸mと平行に軸方向に延在している。
【0039】
すきまs1を通って鉛直方向下方に流動した潤滑油G(矢印G1)は、例えば、中心軸mを含み鉛直方向に延在する平面pと平行となる方向に流入して段部89の鉛直方向の最上部に到達すると、大部分の潤滑油Gが、周方向の両側に分かれて流動する。従来の第1ケース本体91は、突出部(第1の突出部41や第2の突出部42に相当する)を設けていないので、潤滑油Gは、本発明と比較して多くの量が段部外周面39に沿って周方向に流動する(矢印G3)。
こうして、すきまs1から流入した潤滑油Gの大部分は、段部89の外周を通って油槽に還流するので、転がり軸受11に供給される潤滑油Gの量は、十分でない。
【0040】
これに対して、第1実施形態の転がり軸受装置10は、平面pを挟んで周方向の両側に第1の突出部41及び第2の突出部42が設置されている。このため、例えば、潤滑油Gが、平面pと平行となる方向に段部89の上方から凹部33の内側に流入したときに、潤滑油Gは、周方向の流動が阻止されるので、凹部33に流入した潤滑油Gは、従来の転がり軸受装置80よりも多くが転がり軸受11に向けて軸方向に流動する(矢印G2)。
【0041】
更に、凹部33の底面である凹部底面46が、転がり軸受11に向かうほど鉛直方向下方に向けて傾斜しているので、凹部33の潤滑油Gは、更に勢いをもって転がり軸受11に向けて軸方向に流動する。また、凹部底面46の軸方向の第2の側の端部では、凹部底面46と、内輪13の第1の肩29の外周面31とが、径方向で同等の位置に配置されているので、潤滑油Gの流動は、段差等によって妨げられることがなく、潤滑油Gは、速やかに転がり軸受11に向けて流動する。
ただし、凹部底面46が上記のように傾斜する形態に限定するものではなく、凹部底面46は、例えば、中心軸mと平行となる形態であってよい。第1の突出部41及び第2の突出部42を設けることによって、潤滑油Gが、段部89の外周を周方向に流動して直接油槽に還流するのを抑制できるので、第1実施形態の転がり軸受装置10は、転がり軸受11に向けて流動する潤滑油Gの量を増大させて、内輪軌道面28により多くの潤滑油Gを供給できる。
【0042】
こうして、第1実施形態の転がり軸受装置10は、跳ね上げられた潤滑油Gを凹部33に流入させ、潤滑油Gは、転がり軸受11に向けて効率よく供給される。このため、第1実施形態の転がり軸受装置10は、内輪13の内輪軌道面28に供給する潤滑油Gの量を増大させることができるので、外輪12が回転するときに、内輪軌道面28のスミアリングの発生を抑制することができる。
【0043】
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態の転がり軸受装置10についての、図1と同様の軸方向断面図である。
第1実施形態において、各突出部41、42の軸方向の第2の側の側面43は、軸受当接面38と面一となっている。しかし、本発明の転がり軸受装置は、これに限定されるものではなく、図5に示すように、各突出部41、42の軸方向の第2の側の側面43は、軸受当接面38より軸方向の第2の側に突出してもよい。これにより、凹部33を流動する潤滑油Gは、内輪軌道面28の近傍まで誘導されるので、第2実施形態の転がり軸受装置10は、内輪13の内輪軌道面28に向けて潤滑油Gを更に効率よく供給することができる。
なお、各突出部41、42において軸受当接面38より軸方向の第2の側に突出する部分の径方向内方の端部は、内輪13の第1の肩29の外周面31と可能な限り径方向に近接させるのが好ましい。
【0044】
(第3実施形態)
図6は、第3実施形態の転がり軸受装置10についての、図1と同様の軸方向断面図である。
第1実施形態において、各突出部41、42の径方向外方の端部は、外輪12と接触しない程度で外輪12の第3の肩19の内周面21と近接した位置に配置されている。しかし、本発明の転がり軸受装置は、これに限定されるものではなく、第1実施形態の各突出部41、42に連続する拡張部52を各突出部41、42の鉛直方向上方に一体に設けてもよい。各突出部41、42と拡張部52とは、全体として、外輪12の第3の肩19の内周面21の位置より径方向外方に延在してもよい。この場合、図6に示すように、拡張部52の軸方向の第2の側の側面53は、各突出部41、42の側面43より軸方向の第1の側に位置ずれしており、外輪12と接触しない。
こうして、第3実施形態の転がり軸受装置10は、各突出部41、42と拡張部52との高さを高くすることによって凹部33の容積を大きくでき、転がり軸受11に供給する潤滑油Gの量を増大させることができる。
【0045】
また、図示を省略するが、第3実施形態の転がり軸受装置10において、周方向に向き合う一組の拡張部52、52は、鉛直方向外方ほど互いに離れる向きに傾斜する形態であってもよい。こうすることにより、鉛直方向下方に流動する潤滑油Gは、すきまs1を通って多量に凹部33に誘導できるので、第3実施形態の転がり軸受装置10は、転がり軸受11に向けて供給する潤滑油Gの量を更に増大させることができる、
【0046】
以上、上記第1乃至第3の実施形態により、本発明について、カウンタドライブギア82の軸方向の第1の側に組み込まれた転がり軸受装置10を例にして説明した。同様にして、本発明にかかる転がり軸受装置10は、カウンタドライブギア82の軸方向の第2の側にも組み込むことができる。第4の実施形態は、第1の実施形態の転がり軸受装置10を、カウンタドライブギア82の軸方向の第2の側に組み込んだ形態である。軸方向の第2の側の凹部33aの形態は、軸方向の第1の側の凹部33の形態と同様であるので、図1及び図2を参照して簡単に説明する。なお、軸方向第2の側における構成に付した符号は、軸方向の第1の側において対応する構成の符号に「a」を付して区別している。
【0047】
軸方向の第2の側において、第2の凹部33aは、第2のケース92に形成した第2の段部89aの鉛直方向の最上部に形成される。第2の凹部33aは、第2の段部89aの外周から鉛直方向上方に突出する一組の突出部41a、42aと、第2の凹部底面46aと、第2の凹部背面47aと、で画定されて、径方向内方に窪むとともに軸方向に延在する。凹部背面47aは、第2ケース本体91aの内周面と連続する平面とすることができる。
こうして、潤滑油Gは、カウンタドライブギア82と第2のケース92とのすきまs2を通って、鉛直方向下方に流動する第2の凹部33aに流入した後、第2の転がり軸受11aに向けて流動する。こうして、第4実施形態の転がり軸受装置10aは、跳ね上げられた潤滑油Gを凹部33aに流入させ、潤滑油Gは、転がり軸受11aに向けて効率よく供給される。このため、第4実施形態の転がり軸受装置10aは、内輪13aの内輪軌道面28aに供給する潤滑油Gの量を増大させることができるので、外輪12aが回転するときに、内輪軌道面28aのスミアリングの発生を抑制することができる。その他の構成及び作用効果は、第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0048】
以上、本発明の実施形態を説明したが、各実施形態は例示であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、転がり軸受装置10に組み込まれた転がり軸受11は、転動体が玉である深溝玉軸受を例にして説明したが、転動体は円筒ころ、円すいころ、球面ころであってもよい。また、自動車のトランスアクスル81に組み込まれた場合について説明したが、その他の外輪回転で使用する装置に使用してもよい。
また、各実施形態は、平面p上にあって中心軸mと直交する軸線(以下「基準軸」)を、鉛直方向と一致する向きに配置したときの各部の構成や作用効果を説明している。しかしながら、実際の使用において、基準軸を、幾何学的に鉛直方向に向けて使用することに限定するものではない。基準軸が、鉛直方向に対して所定の角度で傾いた状態であっても、同様の採用効果が得られるのは勿論である。したがって、基準軸が、鉛直方向に対して傾斜した状態で使用することを妨げるものではないが、基準軸と鉛直方向とのなす角度は45度以下であることが好ましい。
【符号の説明】
【0049】
(実施形態)10:転がり軸受装置、11:転がり軸受、12:外輪、13:内輪、14:玉、15:保持器、16:軸受外径面、17:外輪側面、18:外輪軌道面、19:第3の肩(外輪)、20:第4の肩(外輪)、26:軸受内径面、27:内輪側面、28:内輪軌道面、29:第1の肩(内輪)、30:第2の肩(内輪)、33:凹部、34:軸部、34a:内輪嵌合面、34b:端面、35:軸受取付部、38:軸受当接面、39:段部外周面、41:第1の突出部、42:第2の突出部、43:側面、44:上側面、46:凹部底面、47:凹部背面、49:端面(カウンタドライブギア)、50:外輪嵌合面、51:軸受当接面、52:拡張部、
(従来技術)80:転がり軸受装置、81:トランスアクスル、82:カウンタドライブギア(ハウジング)、83:転がり軸受、84:第1入力軸、85:第2入力軸、86:デファレンシャルギア、87:遊星機構、88:ケース、89:段部、90:歯車、91:第1ケース本体、91a:第2ケース本体、92:第2のケース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7