(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184082
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】道路橋のPCa床版の継手構造とその形成方法
(51)【国際特許分類】
E01D 19/12 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
E01D19/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098004
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】村田 裕志
(72)【発明者】
【氏名】府川 徹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昂平
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2D059GG55
(57)【要約】
【課題】相互に接続される2つのPCa床版をともに平行移動させることなく、縦継目にのみ効果的にプレストレス力を導入することのできる、道路橋のPCa床版の継手構造とその形成方法を提供する。
【解決手段】第1PCa床版10に設けられている第1継手30と、第2PCa床版20に設けられている第2継手40とが接続されている、道路橋のPCa床版の継手構造100であり、第1継手30を形成する第1軸体31は第1継手端面11から側方に張り出し、第2継手40は、第2PCa床版20の内部にあるボックス42を有し、ボックス42の内部には、ウォームギア43とウォームホイール44と第2継手端面21から側方に張り出す第2軸体41とを有し、第1軸体31と第2軸体41が第1継手端面11と第2継手端面21の間の隙間Gにおいて、カプラー60を貫通する螺合溝61の両端に螺合されることにより緊張され、隙間Gが間詰め材70により閉塞されている。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1PCa床版に設けられている第1継手と、第2PCa床版に設けられている第2継手とが接続されている、道路橋のPCa床版の継手構造であって、
前記第1継手は第1軸体により形成され、該第1軸体の一部は前記第1PCa床版の内部にある第1挿通孔の内部に配設され、他部は第1継手端面から側方に張り出しており、
前記第2継手は、
前記第2PCa床版の内部に設けられているボックスを有し、
前記ボックスの内部において、回転自在に取り付けられているウォームギアと、該ウォームギアによってその回転中心軸回りに回転されるウォームホイールと、該ウォームホイールの回転中心に開設されているボルト溝に対して螺合され、該回転中心軸に沿って摺動し、前記第2PCa床版の内部にある第2挿通孔を挿通して、第2継手端面から側方に張り出している、第2軸体とを有しており、
前記第1軸体と前記第2軸体が、前記第1継手端面と前記第2継手端面の間の隙間において、カプラーを貫通する螺合溝の両端に螺合されることにより緊張され、該隙間が間詰め材により閉塞されていることを特徴とする、道路橋のPCa床版の継手構造。
【請求項2】
前記第1継手は、前記第1軸体と、該第1軸体の一端に固定されている多角形頭部とを有しており、
前記第1挿通孔は、前記第1軸体よりも大径の直孔と、該直孔に連通して前記多角形頭部と相補的な輪郭を有し、該多角形頭部の厚みよりも深さのある、多角形孔とを有しており、
前記多角形孔に前記多角形頭部が係合して、前記第1軸体がその軸回りで回転することを防止する、回転防止機構を形成していることを特徴とする、請求項1に記載の道路橋のPCa床版の継手構造。
【請求項3】
前記螺合溝は右ねじ切りを有しており、
前記螺合溝の一端に前記第1軸体の一端が螺合し、前記螺合溝の他端に前記第2軸体の一端が螺合しており、前記カプラーを介して該第1軸体と該第2軸体を接続する際は、該第1軸体と該第2軸体に対して該カプラーが移動し、前記ウォームホイールの回転による該第2軸体の摺動により、前記第1継手と該第2軸体が緊張されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の道路橋のPCa床版の継手構造。
【請求項4】
前記第1挿通孔と前記第1軸体の間には、前記隙間まで張り出している第1シースが設けられ、
前記第2挿通孔と前記第2軸体の間には、前記隙間まで張り出している第2シースが設けられ、
前記隙間の前記カプラーの周囲には、前記第1シースと前記第2シースの双方の端部に亘る第3シースが設けられており、
前記第1シースと前記第2シースと前記第3シースの内部に、グラウトが充填されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の道路橋のPCa床版の継手構造。
【請求項5】
第1PCa床版に設けられている第1継手と、第2PCa床版に設けられている第2継手とを接続する、道路橋のPCa床版の継手構造の形成方法であって、
前記第1PCa床版と、前記第2PCa床版を用意し、該第1PCa床版を先行して桁の上に設置し、該第2PCa床版の第2継手端面を、前記第1PCa床版の第1継手端面から隙間を有した姿勢で桁の上に設置する、A工程と、
前記第1継手と前記第2継手を接続する、B工程とを有し、
前記A工程において、
前記第1継手は第1軸体により形成され、該第1軸体の一部は前記第1PCa床版の内部にある第1挿通孔の内部に配設され、他部は前記第1継手端面から側方に張り出しており、
前記第2継手は、
前記第2PCa床版の内部に設けられているボックスを有し、
前記ボックスの内部において、回転自在に取り付けられているウォームギアと、該ウォームギアによってその回転中心軸回りに回転されるウォームホイールと、該ウォームホイールの回転中心に開設されているボルト溝に対して螺合され、該回転中心軸に沿って摺動し、前記第2PCa床版の内部にある第2挿通孔を挿通して、前記第2継手端面から側方に張り出している、第2軸体とを有しており、
前記B工程では、
前記第1軸体と前記第2軸体を、前記隙間において、カプラーを貫通する螺合溝の両端に螺合し、該隙間を間詰め材により閉塞し、ウォームホイールを回転させて該第2軸体を摺動させることにより、該第1軸体と該第2軸体を緊張することを特徴とする、道路橋のPCa床版の継手構造の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路橋のPCa床版の継手構造とその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設から50年程度もしくはそれ以上が経過している高速道路では、床版が劣化し、剛性が低下していることから、新設の床版への取替え施工が行われている。従来の高速道路を構成する床版の取替え施工では、取替え対象の床版(例えば、既設のRC(Reinforced Concrete)床版)を備えている一方の車線(上り線もしくは下り線)を全面通行止めとし、他方の車線における走行車線と追越車線を対面通行規制とすることにより、高速道路を供用しながらの床版の取替え施工が行われる。
しかしながら、この方法では、重交通路線やインターチェンジ、サービスエリアの近くに位置する車線等において、対面通行規制の運用が困難になり得る。
そこで、このような車線においても床版の取替えを可能にする方法として、半断面床版取替工法が挙げられる。半断面床版取替工法とは、取替えを行う床版を走行車線側と追越車線側に分割し、車線規制により半断面ごとに既設の床版を撤去し、新設のプレキャストコンクリート床版(PCa:Precast Concrete床版、プレキャスト床版)に取替える施工方法である。この方法によれば、例えば上り線と下り線の双方の一部を供用しながら、床版の取替え施工を行うことが可能になる。
【0003】
半断面床版取替工法では、橋桁に対して先行して設置されるPCa床版と、後行設置されるPCa床版の間に、橋軸直角方向の縦継目が設けられることになる。しかしながら、この縦継目の施工においては、様々な課題が存在する。
1つの課題は、縦継目に鉄筋ループ継手を適用しようとした際に、鉄筋位置が同じ高さで相互に干渉することに起因して、位置合わせのための水平移動ができないことである。ここで、特許文献1には、このようなループ継手を用いたPCa床板の継手部構造が提案されているが、この継手部構造においても同様の課題が内在する。
また、他の1つの課題は、中間定着部を有するカーブさせたプレストレストコンクリート(PC:Prestressed Concrete)鋼材を適用しようとした際に、偏心軸力による曲げが作用してしまい、さらには、床版裏側における施工足場を必要とすることである。
また、他の1つの課題は、PC鋼棒を予め埋設してカプラーで接合する継手を適用しようとした際に、先行して設置されるプレキャストプレキャストコンクリート床版(PCaPC:Precast Prestressed Concrete)床版と後行設置されるPCaPC床版の双方のPC鋼棒のねじ山の整合が事実上不可能であることである。
さらに、他の1つの課題は、先行して設置されるPCaPC床版と後行設置されるPCaPC床版を貫通するようなPCケーブルにより、後から全体にプレストレス力を導入しようとした際に、予めそれぞれのPCaPC床版に導入されているプレストレス力に対してさらに別途のプレストレス力が上乗せされることになり、PCaPC床版における縦継目以外の一般部において過剰なプレストレス力が作用し、圧縮応力度が厳しくなることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、効率的な床版の取替を可能にする半断面床版取替工法の適用に際して、半断面床版取替工法が抱える上記様々な課題を解消することのできる、道路橋のPCa床版の継手構造とその形成方法が望まれる。
【0006】
本発明は、相互に接続される2つのPCa床版をともに平行移動させることなく、縦継目にのみ効果的にプレストレス力を導入することのできる、道路橋のPCa床版の継手構造とその形成方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成すべく、本発明による道路橋のPCa床版の継手構造の一態様は、
第1PCa床版に設けられている第1継手と、第2PCa床版に設けられている第2継手とが接続されている、道路橋のPCa床版の継手構造であって、
前記第1継手は第1軸体により形成され、該第1軸体の一部は前記第1PCa床版の内部にある第1挿通孔の内部に配設され、他部は第1継手端面から側方に張り出しており、
前記第2継手は、
前記第2PCa床版の内部に設けられているボックスを有し、
前記ボックスの内部において、回転自在に取り付けられているウォームギアと、該ウォームギアによってその回転中心軸回りに回転されるウォームホイールと、該ウォームホイールの回転中心に開設されているボルト溝に対して螺合され、該回転中心軸に沿って摺動し、前記第2PCa床版の内部にある第2挿通孔を挿通して、第2継手端面から側方に張り出している、第2軸体とを有しており、
前記第1軸体と前記第2軸体が、前記第1継手端面と前記第2継手端面の間の隙間において、カプラーを貫通する螺合溝の両端に螺合されることにより緊張され、該隙間が間詰め材により閉塞されていることを特徴とする。
【0008】
本態様によれば、相互に接続される、道路橋を構成する第1PCa床版の第1継手と第2PCa床版の第2継手がそれぞれ第1軸体と第2軸体を備え、第1軸体と第2軸体が双方の床版の端面の間の隙間においてカプラーに螺合され、緊張されることにより、接続される2つのPCa床版を平行移動させることなく、縦継目にのみ効果的にプレストレス力を導入することができる。
本明細書において、PCa床版には、PCaPC床版も含まれる。
第1PCa床版と第2PCa床版の双方の端面(第1継手端面と第2継手端面)の間の隙間に間詰め材が充填され、隙間にあるカプラーや、双方の端面から隙間に張り出す第1軸体と第2軸体の一部が間詰め材にて埋設されて隙間が閉塞される。
隙間が間詰め材により閉塞された後、ウォームホイールを回転させ、第2軸体を摺動させることにより、緊張姿勢の第2軸体がカプラーを引き寄せることによって第1軸体を緊張し、第2軸体と第1軸体の双方にプレストレス力が導入される。
【0009】
また、本発明による道路橋のPCa床版の継手構造の他の態様において、
前記第1継手は、前記第1軸体と、該第1軸体の一端に固定されている多角形頭部とを有しており、
前記第1挿通孔は、前記第1軸体よりも大径の直孔と、該直孔に連通して前記多角形頭部と相補的な輪郭を有し、該多角形頭部の厚みよりも深さのある、多角形孔とを有しており、
前記多角形孔に前記多角形頭部が係合して、前記第1軸体がその軸回りで回転することを防止する、回転防止機構を形成していることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、第1継手の備える多角形頭部が、第1挿通孔を構成する多角形孔に係合して、第1軸体の軸回りの回転を防止する回転防止機構を形成していることにより、ウォームホイールの回転によって第2軸体を回転させた際の第1軸体の供回りを回転防止機構にて防止でき、このことにより、カプラーと第1軸体の非回転姿勢を保持して第2軸体のみを回転させ、第2軸体を第2挿通孔の内部で摺動させながらカプラーを引き寄せ、第1軸体と第2軸体の双方にプレストレス力を導入することができる。
また、多角形孔が多角形頭部の厚みよりも深さがあることから、多角形孔に多角形頭部が配設された際に、多角形孔には遊びが存在することになる。従って、多角形頭部は回転不可の状態で多角形孔に係合するものの、多角形孔の深さ方向に移動することができる。このことから、カプラーと軸体の端部のねじ切り(ねじ山)の噛み合わせに対する微調整が可能になり、カプラーに対する軸体の端部の取り付けが容易になる。
【0011】
また、本発明による道路橋のPCa床版の継手構造の他の態様において、
前記螺合溝は右ねじ切りを有しており、
前記螺合溝の一端に前記第1軸体の一端が螺合し、前記螺合溝の他端に前記第2軸体の一端が螺合しており、前記カプラーを介して該第1軸体と該第2軸体を接続する際は、該第1軸体と該第2軸体に対して該カプラーが移動し、前記ウォームホイールの回転による該第2軸体の摺動により、前記第1継手と該第2軸体が緊張されていることを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、床版の取替え施工において、橋桁に第1PCa床版と第2PCa床版を隙間を備えた状態で設置し、カプラーの螺合溝の両端に対して第1軸体と第2軸体の双方の一端を螺合させる際に、最初に第1軸体の端部をカプラーの一端の螺合溝に螺合させた後、第1軸体側にカプラーを片寄し、次に第2PCa床版を設置後に第1軸体と第2軸体を螺合させる。この接続手順により、第1軸体と該第2軸体をカプラーを介して接続する際に、第1PCa床版と第2PCa床版のいずれか一方もしくは双方を平行移動させる必要はなく、良好な継手接続施工を実現できる。
【0013】
また、本発明による道路橋のPCa床版の継手構造の他の態様において、
前記第1挿通孔と前記第1軸体の間には、前記隙間まで張り出している第1シースが設けられ、
前記第2挿通孔と前記第2軸体の間には、前記隙間まで張り出している第2シースが設けられ、
前記隙間の前記カプラーの周囲には、前記第1シースと前記第2シースの双方の端部に亘る第3シースが設けられており、
前記第1シースと前記第2シースと前記第3シースの内部に、グラウトが充填されていることを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、第1挿通孔と第1軸体の間、及び第2挿通孔と第2軸体の間のそれぞれに隙間まで張り出している第1シースと第2シースが設けられ、隙間における第1軸体と第2軸体とカプラーの周囲に第1シースと第2シースにラップするようにして第3シースが設けられ、これらのシースの内部にグラウトが充填されていることにより、第1軸体と第2軸体とカプラーの防錆性を保証しながら、初期のプレストレス力の導入姿勢を保持することができる。
【0015】
また、本発明による道路橋のPCa床版の継手構造の形成方法の一態様は、
第1PCa床版に設けられている第1継手と、第2PCa床版に設けられている第2継手とを接続する、PCa床版の継手構造の形成方法であって、
前記第1PCa床版と、前記第2PCa床版を用意し、該第1PCa床版を先行して桁の上に設置し、該第2PCa床版の第2継手端面を、前記第1PCa床版の第1継手端面から隙間を有した姿勢で桁の上に設置する、A工程と、
前記第1継手と前記第2継手を接続する、B工程とを有し、
前記A工程において、
前記第1継手は第1軸体により形成され、該第1軸体の一部は前記第1PCa床版の内部にある第1挿通孔の内部に配設され、他部は前記第1継手端面から側方に張り出しており、
前記第2継手は、
前記第2PCa床版の内部に設けられているボックスを有し、
前記ボックスの内部において、回転自在に取り付けられているウォームギアと、該ウォームギアによってその回転中心軸回りに回転されるウォームホイールと、該ウォームホイールの回転中心に開設されているボルト溝に対して螺合され、該回転中心軸に沿って摺動し、前記第2PCa床版の内部にある第2挿通孔を挿通して、前記第2継手端面から側方に張り出している、第2軸体とを有しており、
前記B工程では、
前記第1軸体と前記第2軸体を、前記隙間において、カプラーを貫通する螺合溝の両端に螺合し、該隙間を間詰め材により閉塞し、ウォームホイールを回転させて該第2軸体を摺動させることにより、該第1軸体と該第2軸体を緊張することを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、道路橋を構成する第1PCa床版の第1継手と第2PCa床版の第2継手がそれぞれ第1軸体と第2軸体を備え、第1軸体と第2軸体を双方の床版の端面の間の隙間においてカプラーに螺合し、ウォームホイールを回転させて第2軸体を摺動させることによって第1軸体と第2軸体を緊張することにより、接続される2つのPCa床版を平行移動させることなく、縦継目にのみ効果的にプレストレス力を導入することができる。
【0017】
ここで、本態様は半断面床版取替工法を適用する施工方法であることから、A工程では、既設の老朽化した床版の半分(上り線や下り線のそれぞれの半分)を撤去して橋桁を露出させ、橋桁の上に複数の第1PCa床版を橋軸方向に設置していく。この際、橋軸方向に隣接する第1PCa床版同士は、双方の横継目で接続される。一定区間に亘り、複数の第1PCa床版が橋軸方向に設置された後、残りの半分の既設の床版を撤去して端桁を露出させ、橋桁の上に複数の第2PCa床版を橋軸方向に設置していく。この際、対応する第1PCa床版との間に隙間を備えた状態で第2PCa床版を設置する。そして、この隙間を利用してカプラーを貫通する螺合溝の両端に第1軸体と第2軸体の双方の端部を螺合させ、隙間を間詰め材により閉塞した後、上記するように第2軸体を摺動させることによって第1軸体と第2軸体を緊張する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の道路橋のPCa床版の継手構造とその形成方法によれば、相互に接続される2つのPCa床版をともに平行移動させることなく、縦継目にのみ効果的にプレストレス力を導入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】道路橋を構成する第1PCa床版の第1軸体の端部と第2PCa床版の第2軸体の端部をカプラーの両端に螺合する前の状態を示す斜視図であって、実施形態に係る道路橋のPCa床版の継手構造の形成方法の一例のA工程をともに示す図である。
【
図2】実施形態に係る道路橋のPCa床版の継手構造の一例の斜視図である。
【
図3】第1PCa床版に設けられている第1継手の一例を、埋設領域を透視して示した斜視図である。
【
図4】第2PCa床版に設けられている第2継手の一例を、埋設領域を透視して示した斜視図である。
【
図5】実施形態に係る道路橋のPCa床版の継手構造の形成方法の一例のB工程を説明する工程図である。
【
図6】
図5に続いて、B工程を説明する工程図である。
【
図7】
図6に続いて、B工程を説明する工程図である。
【
図8】
図7に続いて、B工程を説明する工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施形態に係る道路橋のPCa床版の継手構造とその形成方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0021】
[実施形態に係る道路橋のPCa床版の継手構造とその形成方法]
図1乃至
図8を参照して、実施形態に係るPCa床版の継手構造とその形成方法の一例について説明する。ここで、
図1は、道路橋を構成する第1PCa床版の第1軸体の端部と第2PCa床版の第2軸体の端部をカプラーの両端に螺合する前の状態を示す斜視図であって、実施形態に係る道路橋のPCa床版の継手構造の形成方法の一例のA工程をともに示す図である。また、
図2は、実施形態に係る道路橋のPCa床版の継手構造の一例の斜視図であり、
図3は、第1PCa床版に設けられている第1継手の一例を、埋設領域を透視して示した斜視図であり、
図4は、第2PCa床版に設けられている第2継手の一例を、埋設領域を透視して示した斜視図である。さらに、
図5乃至
図8は順に、実施形態に係る道路橋のPCa床版の継手構造の形成方法の一例のB工程を説明する工程図である。
【0022】
図1に示す第1PCa床版10と第2PCa床版20はいずれも、高速道路を構成する上り線と下り線のそれぞれの老朽化した不図示のRC床版を橋軸直角方向に分割し、分割した一方の領域における既設のRC床版を撤去して不図示の橋桁を露出させ、まず、複数の第1PCa床版10を橋軸方向に設置していく。ここで、
図1等においては、対応する第1PCa床版10と第2PCa床版20を1基ずつ示しているが、これらの組み合わせが橋軸方向に複数組み設置される。施工においては、橋軸方向の一定区間に亘り、先行して複数の第1PCa床版10を設置する。次いで、分割した他方の領域における既設のRC床版を撤去して不図示の橋桁を露出させ、複数の第2PCa床版20を橋軸方向に設置していく。この際、第1PCa床版10と第2PCa床版20の間に隙間Gを有した状態で、各第2PCa床版20を設置する。
【0023】
ここで、橋軸方向に隣接する第1PCa床版10の横継目の継手構造の図示は省略するが、適宜の継手構造が適用されて、複数の第1PCa床版10同士が橋軸方向に接続され、同様に複数の第2PCa床版20同士が橋軸方向に接続される。
【0024】
第1PCa床版10の第1継手端面11からは、複数本(図示例は5本)の第1軸体31の一部が、側方の第2PCa床版20側に張り出している。この第1軸体31は、多角形頭部32(
図3参照)とともに第1継手30を形成する。
【0025】
第1軸体31の周囲には、第1シース50Aが配設され、その一部が第1軸体31と同様に第1継手端面11から側方に張り出している。
【0026】
また、第1PCa床版10の広幅上面12のうち、第1継手30に対応する位置には、グラウト注入孔17の端部開口が臨んでいる。
【0027】
一方、第2PCa床版20の第2継手端面21からは、複数本(図示例は5本)の第2軸体41の一部が、側方の第1PCa床版10側に張り出している。この第2軸体41は、ボックス42やウォームギア43、ウォームホイール44(いずれも
図4参照)とともに第2継手40を形成する。
【0028】
第2軸体41の周囲には、第2シース50Bが配設され、その一部が第2軸体41と同様に第2継手端面21から側方に張り出している。
【0029】
また、第2PCa床版20の広幅上面22のうち、第2継手40に対応する位置には、グラウト注入孔27の端部開口が臨んでいる。さらに、ウォームギア43に連通する第2挿通孔26の端部開口が、広幅上面22に臨んでいる。
【0030】
カプラー60には、当該カプラー60を貫通する螺合溝61が設けられ、螺合溝61の一端61aに対して第1軸体31のねじ切り31bが螺合し、螺合溝61の他端61bに対して第2軸体41のねじ切り41bが螺合する。取り付けは、例えば第1軸体31のねじ切り31bに対してカプラー60の螺合溝61の一端61aをX1方向に螺合した後、第1軸体31側へカプラー60を片寄せし、第2PCa床版20を設置する。次に、カプラー60をX2方向に移動させ、第2軸体41のねじ切り41bをカプラー60の螺合溝61の他端61bに螺合する方法で行われる。以下で説明するように、第1軸体31は、第1継手端面11からの張り出し長さを調整することができ、従って、カプラー60に対して第1軸体31と第2軸体41の双方の端部を容易に取り付け可能となる。
【0031】
また、隙間Gにおいて、カプラー60の周囲には、第1シース50Aと第2シース50Bの双方の端部に跨がる第3シース50Cが配設されるようになっている。
図1では、1つのカプラー60の周囲に配設される1つの第3シース50Cのみを図示しているが、全てのカプラー60の周囲に第3シース50Cが配設されることになる。
【0032】
図示例の第3シース50Cは、2つの半割シース52が蝶番51を介して回動自在に接続された構造を有しており、カプラー60が第1軸体31と第2軸体41の双方の端部と螺合した後、カプラー60の周囲を包囲するようにして第3シース50CがX3方向に移載され、蝶番51を介して2つの半割シース52をX4方向に閉じることにより、カプラー60と第1軸体31と第2軸体41が、3種のシース50A,50B,50Cにて完全に包囲される。尚、各シース50A、50B,50Cの内部には、後工程でグラウトが充填されることになる。
【0033】
第1軸体31と第2軸体41へのプレストレス力の導入は、第2挿通孔26からトルク導入具TをX5方向に挿入し、トルク導入具Tの先端にある係合キーKをウォームギア43のキー係合溝43b(
図4参照)に係合して回転させることにより行う。尚、プレストレス力の導入方法の詳細は、以下で詳説する。
【0034】
プレストレス力の導入後、各グラウト注入孔17,27を介して、各シース50A、50B,50Cの内部へX6方向にグラウトが注入される。
【0035】
図2に示すように、第1軸体31と第2軸体41へのプレストレス力の導入に先行して、第1継手端面11と第2継手端面21の間の隙間Gに間詰め材70が充填され、間詰め材70が硬化した後、第1軸体31と第2軸体41へプレストレス力が導入され、各シース50A、50B,50Cの内部へグラウトが注入されることにより、道路橋のPCa床版の継手構造100が形成される。この継手構造100は、橋軸方向に延設する縦継目となる。
【0036】
第1PCa床版10の広幅上面12に臨んでいるグラウト注入孔17、第2PCa床版20の広幅上面22に臨んでいるグラウト注入孔27や第2挿通孔26Bは、いずれもグラウト80により閉塞される。
【0037】
図3に示すように、第1PCa床版10の内部には第1挿通孔15が開設され、その端部が第1継手端面11に臨んでいる。第1挿通孔15は、直孔15aと、直孔15aに連通する多角形孔15bとを有する。
【0038】
直孔15aには、第1シース50Aが挿通され、その一部が第1継手端面11から側方に張り出している。広幅上面12に臨んでいるグラウト注入孔17は、第1シース50Aの一部を貫通してその内壁に臨んでいる。
【0039】
第1継手30は、第1軸体31と、第1軸体31の一端31aに固定されている多角形頭部32(図示例は、六角形頭部)とを有する。ここで、第1軸体31と多角形頭部32は、それぞれが別体に製作されて接着剤や溶接等により固定されてもよいし、鋳造等により全体が一体に製作されてもよい。
【0040】
第1挿通孔15の直孔15aは、第1軸体31よりも大径であり、第1挿通孔15の多角形孔15bの正面視形状は、多角形頭部32と相補的な輪郭を有している。この構成により、多角形孔15bに対して多角形頭部32が係合することとなり、第1継手30はその長手方向軸を中心とした回転が第1挿通孔15により防止され、多角形孔15bと多角形頭部32による回転防止機構を形成する。
【0041】
また、多角形孔15bの深さt2は、多角形頭部32の厚みt1よりも深く設定されている。そして、双方の差分Δt(遊び分)だけ、第1継手30は第2PCa床版20側へX5方向にスライド可能になる。このことにより、カプラー60に対して第1軸体31の端部を先行して取り付けた後、第1軸体31の第1継手端面11からの張り出し長さを所望に調整することにより、カプラー60に対して第2軸体41の端部を容易に取り付けることができる。ここで、第1軸体31の他端31bには、カプラー60の螺合溝61に螺合するねじ切りが設けられている。
【0042】
図4に示すように、第2PCa床版20の内部には、第2継手40を形成するボックス42が埋設されている。ボックス42の内部には、回転自在に取り付けられているウォームギア43と、ウォームギア43によってその回転中心軸L回りに回転されるウォームホイール44が配設されている。ウォームギア43のギア43cとウォームホイール44のギア44cが相互に噛み合っており、ウォームギア43の回転をウォームホイール44に伝達できるようになっている。
【0043】
ウォームホイール44の回転中心にはボルト溝44aが開設されており、第2軸体41の一端41aがボルト溝44aに対して螺合されている。ここで、ボルト溝44aに第2軸体41の一端41aが螺合した状態において、ボルト溝44aには余長(遊び)があり、この余長において第2軸体41の一端41aがスライドできるようになっている。具体的には、以下で説明するように、第2軸体41がスライド(摺動)することにより、第2軸体41と第1軸体31の双方にプレストレス力が導入されるが、このプレストレス力導入時における第2軸体41のスライドを可能にしている。
【0044】
第2PCa床版20には、ボックス42の内部にあるウォームギア43に対応する位置に、広幅上面22に臨む第2挿通孔26Bが設けられている。さらに、第2PCa床版20には、第2継手端面21に臨む別途の第2挿通孔26Aが設けられており、第2挿通孔26Aに第2シース50Bが配設され、第2シース50Bの一部は第2継手端面21から側方へ張り出している。広幅上面22に臨んでいるグラウト注入孔27は、第2シース50Bの一部を貫通してその内壁に臨んでいる。
【0045】
ウォームホイール44のボルト溝44aに一端41aが螺合している第2軸体41は、第2挿通孔26Aに挿通され、その一部が第2継手端面21から側方へ張り出している。第2軸体41の他端41bには、カプラー60の螺合溝61に螺合するねじ切りが設けられている。
【0046】
ウォームギア43の一端には、係合溝43aが設けられており、係合溝43aにはキー係合溝43bが設けられている。トルク導入具T(
図1参照)を第2挿通孔26Bを介して係合溝43aに挿通し、トルク導入具Tの一端にある係合キーKをキー係合溝43bに係合し、トルク導入具Tの回転によりウォームギア43をY1方向に回転させる。ウォームギア43の回転により、ウォームホイール44がその回転中心軸Lを中心にY2方向に回転され、ウォームホイール44の回転に同期して第2軸体41がY3方向に回転する。
【0047】
このウォームホイール44の回転による第2軸体41の回転は、第1軸体31と第2軸体41の双方にプレストレス力を導入する際に行われる。このプレストレス力の導入に当たり、第1軸体31の端部のねじ切り31bと第2軸体41の端部のねじ切り41bは、カプラー60の螺合溝61の一端61a及び他端61bにそれぞれ螺合している。
【0048】
ここで、螺合溝61には右ねじ切りが設けられており、第1軸体31と第2軸体41のそれぞれのねじ切り31b、41bは、螺合溝61に螺合可能な形態のねじ切りとなっている。
【0049】
一方、上記するように、第1軸体31は、多角形孔15bと多角形頭部32による回転防止機構により、その軸回りに回転できないようになっている。これらの構成により、ウォームホイール44の回転に同期するようにして第2軸体41をY3方向に回転させた際に、第1軸体31とカプラー60は回転が拘束されていることから、第2軸体41のみが回転し、第2軸体41は回転に同期して第2挿通孔26Aの内部をY4方向に摺動し、カプラー60と第1軸体31を引き寄せる。
【0050】
第2軸体41によるカプラー60と第1軸体31の引き寄せ作用により、第1軸体31と第2軸体41の双方にプレストレス力が導入されることになる。しかも、このプレストレス力の導入方式によれば、第1継手30と第2継手40にのみプレストレス力が導入されることから、第1PCa床版10や第2PCa床版20における縦継目以外の一般部に対して、過剰なプレストレス力を作用させ、圧縮応力度が厳しくなるといった課題も生じない。
【0051】
継手構造100によれば、相互に接続される2つのPCa床版10,20をともに平行移動させることなく、縦継目にのみ効果的にプレストレス力を導入することが可能になる。
【0052】
次に、
図1と、
図5乃至
図8を参照して、実施形態に係る道路橋のPCa床版の継手構造の形成方法の一例について説明する。
【0053】
図1に示すように、老朽化した不図示のRC床版を橋軸直角方向に分割し、分割した一方の領域における既設のRC床版を撤去して不図示の橋桁を露出させ、複数の第1PCa床版10を橋軸方向に設置していく。次いで、分割した他方の領域における既設のRC床版を撤去して不図示の橋桁を露出させ、複数の第2PCa床版20を橋軸方向に設置していく。この際、
図5に示すように、第1PCa床版10と第2PCa床版20の間に隙間Gを有した状態で各第2PCa床版20を設置する(以上、A工程)。
【0054】
図5に示すように、第1PCa床版10の第1継手端面11からは、第1継手30を形成する第1軸体31の一部が側方に張り出し、第2PCa床版20の第2継手端面21からは、第2継手40を形成する第2軸体41の一部が側方に張り出している。まず、カプラー60の螺合溝61の一端61aに対して第1軸体31のねじ切り31bを螺合し、次に、螺合溝61の他端61bに対して第2軸体41のねじ切り41bを螺合する。
【0055】
この際、第1軸体31をX5方向に所望にスライドさせ、第1継手端面11からの張り出し長さを調整するとともに、カプラー60を回してねじ切り41b側へX6方向に移動させることにより、螺合溝61に対してねじ切り41bを螺合させる。ここで、第1挿通孔15と第1軸体31の間に配設されている第1シース50Aの一部が隙間Gに張り出しており、第2挿通孔26Aと第2軸体41の間に配設されている第2シース50Bの一部も隙間Gに張り出している。
【0056】
次に、
図6に示すように、隙間Gにあるカプラー60の周囲に、第1シース50Aと第2シース50Bの双方の張り出し部に跨がるようにして第3シース50Cを設置し、第1シース50Aと第2シース50Bと第3シース50Cにより、第1軸体31と第2軸体41とカプラー60を隙間Gに対してシールした後、隙間Gに対して間詰め材70を充填して隙間Gを間詰めする。
【0057】
次に、
図7に示すように、トルク導入具Tの先端をウォームギア43に係合し、トルク導入具Tにてウォームギア43をY1方向に回転させ、ウォームホイール44をその回転中心軸を中心にY2方向に回転させ、第2軸体41をY3方向に回転させる。
【0058】
多角形孔15bと多角形頭部32による回転防止機構により、回転しない第1軸体31とカプラー60に対して、第2軸体41が回転しながらY4方向に摺動する。第2軸体41のY4方向への摺動により、カプラー60と第1軸体31の全体が第2PCa床版20側へY5方向に引き寄せられ、第1軸体31と第2軸体41の双方に所望のプレストレス力が導入される。
【0059】
第1軸体31と第2軸体41に対して所望のプレストレス力を導入した後、
図8に示すように、グラウト注入孔17,27を介して、第1シース50Aと第2シース50Bと第3シース50Cの内部にグラウト80を注入する。グラウト80は、各シース50A,50B,50Cの内部の他、ボックス42の内部やグラウト注入孔17,27の内部も閉塞して、継手構造100が形成される(以上、B工程)。
【0060】
図示する継手構造の形成方法によれば、半断面床版取替工法を適用しながら、相互に接続される2つのPCa床版10,20をともに平行移動させることなく、縦継目にのみ効果的にプレストレス力を導入することができる。
【0061】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0062】
10:第1PCa床版(PCa床版)
11:第1継手端面
12:広幅上面
13:横継手端面
15:第1挿通孔
15a:直孔
15b:多角形孔
17:グラウト注入孔
20:第2PCa床版(PCa床版)
21:第2継手端面
22:広幅上面
23:横継手端面
26,26A,26B:第2挿通孔
27:グラウト注入孔
30:第1継手
31:第1軸体
31a:一端(端部)
31b:ねじ切り(他端)
32:多角形頭部
40:第2継手
41:第2軸体
41a:一端(端部)
41b:ねじ切り(他端)
42:ボックス
43:ウォームギア
43a:係合溝
43b:キー係合溝
43c:ギア
44:ウォームホイール
44a:ボルト溝
44c:ギア
50A:第1シース(シース)
50B:第2シース(シース)
50C:第3シース(シース)
51:蝶番
52:半割シース
60:カプラー
61:右ねじ切り(螺合溝)
61a:一端
61b:他端
70:間詰め材
80:グラウト
100:道路橋のPCa床版の継手構造(PCa床版の継手構造、継手構造)
G:隙間
T:トルク導入具
K:係合キー
L:回転中心軸