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特開2023-184092水処理システム、水処理方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184092
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】水処理システム、水処理方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/50 20230101AFI20231221BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20231221BHJP
   C02F 1/72 20230101ALI20231221BHJP
   C02F 1/76 20230101ALI20231221BHJP
【FI】
C02F1/50 550L
C02F1/28 D
C02F1/50 510A
C02F1/50 520C
C02F1/50 531P
C02F1/50 540B
C02F1/50 550C
C02F1/50 550H
C02F1/50 560B
C02F1/50 560E
C02F1/50 560Z
C02F1/72 Z
C02F1/76 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098025
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 法光
(72)【発明者】
【氏名】毛受 卓
(72)【発明者】
【氏名】温水 聡美
(72)【発明者】
【氏名】横山 雄
【テーマコード(参考)】
4D050
4D624
【Fターム(参考)】
4D050AA03
4D050AB06
4D050AB35
4D050AB55
4D050BB06
4D050BD03
4D050BD06
4D050BD08
4D050CA06
4D050CA09
4D050CA15
4D050CA17
4D624AA01
4D624AB00
4D624AB04
4D624BA02
4D624BB01
4D624BC04
4D624CA06
4D624DA03
4D624DA04
4D624DB03
4D624DB12
4D624DB21
4D624DB30
(57)【要約】
【課題】 消毒副生成物の生成を抑制すること。
【解決手段】 実施形態の水処理システムは、浄水処理の過程で生成される第1の消毒副生成物および第2の消毒副生成物のそれぞれの濃度推定値を演算する消毒副生成物濃度推定部と、前記第1の消毒副生成物の濃度推定値および前記第2の消毒副生成物の濃度推定値の少なくとも一方が、許容値を超えるか否かを判定し、許容値を超える場合、前塩注入を行わず、中塩注入を行うことを決定する前塩/中塩判定部とを具備する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浄水処理の過程で生成される第1の消毒副生成物および第2の消毒副生成物のそれぞれの濃度推定値を演算する消毒副生成物濃度推定部と、
前記第1の消毒副生成物の濃度推定値および前記第2の消毒副生成物の濃度推定値の少なくとも一方が、許容値を超えるか否かを判定し、許容値を超える場合、前塩注入を行わず、中塩注入を行うことを決定する前塩/中塩判定部と
を具備する、水処理システム。
【請求項2】
前記第1の消毒副生成物の濃度推定値および前記第2の消毒副生成物の濃度推定値のいずれもが、許容値を超えない場合、前記第1の消毒副生成物の濃度推定値と前記第2の消毒副生成物の濃度推定値とを比較し、その比較結果に応じて、粉末活性炭の注入点よりも水処理のプロセスにおいて上流に位置する注入点で塩素剤を注入する第1前塩注入を行うか、あるいは粉末活性炭の注入点よりも水処理のプロセスにおいて下流に位置する注入点で塩素剤を注入する第2前塩注入を行うか、を決定する前塩注入点判定部をさらに具備する、
請求項1に記載の水処理システム。
【請求項3】
前記第1の消毒副生成物は、トリハロメタン類であり、
前記第2の消毒副生成物は、ハロ酢酸類である、
請求項2に記載の水処理システム。
【請求項4】
前記前塩注入点判定部は、
前記第1の消毒副生成物の濃度推定値が、前記第2の消毒副生成物の濃度推定値以上である場合、もしくは前記第2の消毒副生成物の濃度推定値を超える場合には、前記第1前塩注入を行うことを決定し、そうでない場合には、前記第2前塩注入を行うことを決定する、
請求項3に記載の水処理システム。
【請求項5】
粉末活性炭注入率を修正する粉末活性炭注入補正演算部をさらに具備し、
前記粉末活性炭注入補正演算部は、
前記第1前塩注入を実施する場合、塩素剤の阻害作用による粉末活性炭の臭気物質残存率不足分を演算し、
前記第2前塩注入を実施する場合、塩素剤の脱着作用により粉末活性炭から放出される分の臭気物質残存率を演算し、
前記粉末活性炭の臭気物質残存率不足分または前記放出される分の臭気物質残存率を用いて、前記粉末活性炭注入率を補正する、
請求項2に記載の水処理システム。
【請求項6】
前記消毒副生成物濃度推定部は、
少なくとも原水の比吸光度と、粉末活性炭で吸着処理され凝集剤で除去処理された後の紫外線吸光度残存率と、原水の温度と、前塩注入率と、被処理水の平均水素イオン濃度指数と、を含む回帰式を用いて、前記第1の消毒副生成物の濃度推定値と前記第2の消毒副生成物の濃度推定値とを演算する、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の水処理システム。
【請求項7】
消毒副生成物濃度推定部により、浄水処理の過程で生成される第1の消毒副生成物および第2の消毒副生成物のそれぞれの濃度推定値を演算することと、
前塩/中塩判定部により、前記第1の消毒副生成物の濃度推定値および前記第2の消毒副生成物の濃度推定値の少なくとも一方が、許容値を超えるか否かを判定し、許容値を超える場合、前塩注入を行わず、中塩注入を行うことを決定することと
を含む、水処理方法。
【請求項8】
コンピュータに、
浄水処理の過程で生成される第1の消毒副生成物および第2の消毒副生成物のそれぞれの濃度推定値を演算させる機能と、
前記第1の消毒副生成物の濃度推定値および前記第2の消毒副生成物の濃度推定値の少なくとも一方が、許容値を超えるか否かを判定させ、許容値を超える場合、前塩注入を行わず、中塩注入を行うことを決定させる機能と
を実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、水処理システム、水処理方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
浄水場では、アンモニア性窒素や鉄・マンガン等の金属イオン類の除去や大腸菌等の有害細菌の消毒処理を目的として、塩素剤が注入される。水道水の受給者である住民の各家庭における水道栓から流出する水においては、遊離塩素の場合、残留塩素濃度が0.1(mg/L)以上となるよう管理しなければならないことが水道法で定められている。
【0003】
そのため、水道管路網で残留塩素濃度が減少することを考えると、浄水場出口において管路網での減少を考慮した所定の濃度の残留塩素濃度を安定して保つ必要がある。
【0004】
しかし、原水にアンモニア性窒素や鉄・マンガン等の金属イオン類が含まれている場合、塩素と結合して塩素を消費するため、これらの物質の濃度が高まったり変動したりすると、残留塩素を一定範囲に維持することが困難になる。このため、浄水場においては、予めアンモニア性窒素、鉄・マンガン等の金属イオン類を塩素と反応させておくための前塩素処理(以下、「前塩処理」とも称する)が行われる。
【0005】
前塩処理は、一般的な処理フローの浄水設備においては、混和池もしくは混和池の前段のどちらかで塩素剤が注入される。塩素処理を行うための塩素剤としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウムといった液体の塩素剤が広く用いられている。
【0006】
しかし、原水にフミン質等の溶解性有機物が含まれている場合、溶解性有機物と塩素剤が化学反応して発癌性のあるトリハロメタン類やハロ酢酸類といった消毒副生成物を生成する。ここで、トリハロメタン類とは、クロロホルム、ジブロモクロロメタン、ブロモジクロロメタン、ブロモホルムの総称、ハロ酢酸類とは、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸の総称である。
【0007】
水道水の水質基準は、水道法第4条に基づく水質基準に関する省令(平成15年5月30日厚生労働省令第101号)により定められており、トリハロメタン類の物質毎および総量、ハロ酢酸類の物質毎の基準値が定められている。
【0008】
トリハロメタン類およびハロ酢酸類の生成の原因となる原水中の溶解性有機物を除去するためには、一般に粉末活性炭が被処理水に注入されるが、塩素剤の注入点が粉末活性炭の注入点よりも前か後かでトリハロメタン類およびハロ酢酸類のそれぞれの生成率が異なるため、塩素剤の注入点の決定は重要である。
【0009】
しかし、塩素剤の注入点を粉末活性炭の注入点の前または後のいずれに設定するかを決めることは容易なことではない。また、前塩処理の注入点を粉末活性炭の注入点の前または後のいずれに設定しても、トリハロメタン類またはハロ酢酸類が過剰に生成されてしまうことがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】木村慎一、外6名、“微粉末活性炭による高濃度2-MIB除去における再放出の挙動把握と抑制に関する研究”、令和3年1月、水道協会雑誌、第90巻、第1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、消毒副生成物の生成を抑制することが可能な水処理システム、水処理方法、およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
実施形態の水処理システムは、浄水処理の過程で生成される第1の消毒副生成物および第2の消毒副生成物のそれぞれの濃度推定値を演算する消毒副生成物濃度推定部と、前記第1の消毒副生成物の濃度推定値および前記第2の消毒副生成物の濃度推定値の少なくとも一方が、許容値を超えるか否かを判定し、許容値を超える場合、前塩注入を行わず、中塩注入を行うことを決定する前塩/中塩判定部とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態に係る水処理システムの構成の一例を示す図である。
図2図2は、薬品注入率初期仮定部200および消毒副生成物濃度推定部300の機能構成の一例を示す図である。
図3図3は、主に消毒副生成物濃度推定部300で行われる処理の一例を示す図である。
図4図4は、主に塩素剤注入判定部400および粉末活性炭注入補正演算部500で行われる処理の一例を示す図である。
図5図5は、被処理水のトリハロメタン類(THMs)の濃度について、(1)塩素剤→粉末活性炭の順に処理した場合と、(2)粉末活性炭→塩素剤の順に処理した場合とを比較したグラフを示す図である。
図6図6は、ハロ酢酸類(HAAs)の濃度について、(1)塩素剤→粉末活性炭の順に処理した場合と、(2)粉末活性炭→塩素剤の順に処理した場合とを比較したグラフを示す図である。
図7図7は、(1)塩素剤→粉末活性炭の順に処理した場合と、(2)粉末活性炭→塩素剤の順に処理した場合とで、塩素剤注入率の増加に伴う2-MIB残存率の増加の傾きが異なることをグラフで示す図である。
図8図8は、実施形態の水処理システムによる動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、実施の形態について説明する。
【0015】
(システム構成)
図1は、実施形態に係る水処理システムの構成の一例を示す図である。
【0016】
ここでは、本実施形態に係る水処理システムを、急速ろ過方式の水処理施設に適用した例を示す。但し、本実施形態の水処理システムは、急速ろ過方式の水処理施設に限らず、他の方式の水処理施設にも適用できる。例えば、膜ろ過方式や砂ろ過方式の水処理設備に適用することができる。
【0017】
水処理施設1は、配管2、着水井3、混和池4、凝集沈澱池5、砂ろ過槽6、浄水池7を備えており、各部を通じて水処理を行う過程で、塩素処理、吸着処理、および凝集処理が行われる。
【0018】
塩素処理は、アンモニア性窒素や鉄・マンガン等の金属イオン類の酸化や大腸菌等の有害細菌の殺菌を塩素剤により行う処理であり、塩素剤を注入する場所によって、前塩素処理、中塩素処理、後塩素処理(それぞれ、前塩処理、中塩処理、後塩処理とも称する)に分けられる。
【0019】
前塩処理は、第1前塩処理と第2前塩処理とに分けられる。第1前塩処理では、粉末活性炭の注入点よりも水処理のプロセスにおいて上流に位置する注入点で(本例では、着水井3の前段で)、第1前塩注入装置10aにより塩素剤の注入(第1前塩注入)が行われる。第2前塩処理では、粉末活性炭の注入点よりも水処理のプロセスにおいて下流に位置する注入点で(本例では、混和池4で)、第2前塩注入装置10bにより塩素剤の注入(第2前塩注入)が行われる。中塩処理は、砂ろ過槽6から浄水池7に至る配管途中で、中塩注入装置11により塩素剤の注入(中塩注入)が行われる。後塩処理は、浄水池7で、後塩注入装置12により塩素剤の注入(後塩注入)が行われる。
【0020】
吸着処理は、原水(被処理水)中の臭気物質および溶解性有機物を粉末活性炭により吸着・除去する処理である。凝集処理は、原水(被処理水)中の濁質を凝集剤により凝集沈降させる処理である。
【0021】
原水(被処理水)は、配管2を通って着水井3へ流入する。配管2には、第1前塩注入管8が接続されている。第1前塩注入管8には、上述した第1前塩注入を行う場合に使用される第1前塩注入装置10aが接続されている。第1前塩注入装置10aは、塩素剤を第1前塩注入管8から配管2内の被処理水に注入する。
【0022】
着水井3は、配管2を通じて送られてくる被処理水を受け入れて着水として安定させる。この着水井3には、上述した吸着処理のために、粉末活性炭注入装置20が設けられる。粉末活性炭注入装置20は、粉末活性炭を被処理水に注入する粉末活性炭注入処理を行う。被処理水に注入された粉末活性炭は、原水(被処理水)に含まれる臭気物質および溶解性有機物質を吸着処理する。着水井3で吸着処理が行われた被処理水は、配管2を通じて凝集剤混和池4に導かれる。
【0023】
混和池4は、配管2を通じて送られてくる被処理水を受け入れる。この混和池4には、上述した凝集処理のために、凝集剤注入装置30が設けられる。凝集剤注入装置30は、凝集剤を被処理水に注入する凝集剤注入処理を行う。被処理水に注入された凝集剤は、被処理水に含まれる粘土質、細菌、藻類等の懸濁物質(濁質)および着水井3で注入された粉末活性炭を凝集させ、微細なフロックを生成させる。
【0024】
凝集剤としては、アルミニウム系凝集剤及び鉄系凝集剤を用いることが好ましい。アルミニウム系凝集剤の例としては、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、ポリ塩化アルミニウム(PACl)などが挙げられる。また、鉄系凝集剤の例としては、塩化鉄、硫酸鉄、およびポリシリカ鉄などが挙げられる。
【0025】
また、混和池4には、上述した第2前塩注入を行う場合に使用される第2前塩注入装置10bが接続されている。第2前塩注入装置10bは、塩素剤を混和池4内の被処理水に注入する。
【0026】
混和池4には、被処理水を撹拌するための撹拌機が設けられている。この撹拌機は、例えばフラッシュミキサを用いて構成される。混和池4で凝集剤等が注入された被処理水は、撹拌機により攪拌されて混和水となり、配管2を通じて凝集沈澱池5に導かれる。
【0027】
凝集沈澱池5は、フロキュレータ5aが設置されたフロック形成槽5bと成長したフロックを沈澱処理する沈殿槽5cによって構成され、着水井3で注入された粉末活性炭や凝集剤によって集められた濁質フロックを分離回収する。凝集沈澱池5でフロックが分離された上澄み水は砂ろ過槽6へ送られ、上澄み水に残った細かなマイクロフロックがろ過され、ろ過水として砂ろ過槽6から流出し浄水池7へ送られる。
【0028】
砂ろ過槽6から浄水池7に至る配管途中には、上述した中塩注入を行う場合に使用される中塩注入装置11が接続されている。中塩注入装置11は、塩素剤を配管内の被処理水に注入する。
【0029】
浄水池7には、上述した後塩注入を行う場合に使用される後塩注入装置12が接続されている。後塩注入装置12は、塩素剤を浄水池7内の被処理水に注入し、当該水処理施設から送水される浄水の残留塩素濃度を調整する。
【0030】
本実施形態に係る水処理システムは、水質目標設定部100、薬品注入率初期仮定部200、消毒副生成物濃度推定部300、塩素剤注入判定部400、粉末活性炭注入補正演算部500を含む。
【0031】
そのほか、図面の煩雑化を避けるために図示はしないが、当該水処理システムには、第1前塩注入装置10a、第2前塩注入装置10b、中塩注入装置11、後塩注入装置12が注入する塩素剤の注入率もしくは注入量の制御、粉末活性炭注入装置20が注入する粉末活性炭の注入率もしくは注入量の制御、凝集剤注入装置30が注入する凝集剤の注入率もしくは注入量制御をそれぞれ行う薬品注入制御部が備えられる。各薬品の注入率もしくは注入量は、例えば薬品注入率初期仮定部200で仮設定された初期値を用いて各種の変数を含む演算式により所定の演算を行うことにより求められる。
【0032】
水質目標設定部100は、被処理水の水質を示す各種の物理量に対する目標値を設定するものである。
【0033】
薬品注入率初期仮定部200は、被処理水に注入する薬品の注入率(凝集処理で使用する凝集剤の注入率、前塩処理で使用する塩素剤の注入率、吸着処理で使用する粉末活性炭の注入率)をそれぞれ仮設定するものである。
【0034】
消毒副生成物濃度推定部300は、水質目標設定部100により設定された水質の目標値と薬品注入率初期仮定部200により仮設定された各薬品の注入率とを用いて、浄水処理の過程で生成される消毒副生成物であるトリハロメタン類(THMs)およびハロ酢酸類(HAAs)の濃度をそれぞれ推定するものである。
【0035】
塩素剤注入判定部400は、前塩/中塩判定部401および前塩注入点判定部402を含む。
【0036】
前塩/中塩判定部401は、前塩注入と中塩注入のうちのいずれを実施するかの判定を行うものである。具体的には、トリハロメタン類の濃度推定値およびハロ酢酸類の濃度推定値の少なくとも一方が、許容値を超えるか否かを判定し、許容値を超える場合、前塩注入を行わず、中塩注入を行うことを決定する。
【0037】
前塩注入点判定部402は、前塩注入を実施する場合に第1前塩注入と第2前塩注入のうちのいずれを実施するかの判定を行うものである。具体的には、トリハロメタン類の濃度推定値およびハロ酢酸類の濃度推定値のいずれもが、許容値を超えない場合、トリハロメタン類の濃度推定値とハロ酢酸類の濃度推定値とを比較し、その比較結果に応じて、第1前塩注入を行うか、あるいは第2前塩注入を行うか、を決定する。トリハロメタン類の濃度推定値が、ハロ酢酸類の濃度推定値以上である場合(もしくはハロ酢酸類の消毒副生成物の濃度推定値を超える場合)には、第1前塩注入を行うことを決定し、そうでない場合には、第2前塩注入を行うことを決定する。
【0038】
粉末活性炭注入補正演算部500は、前塩処理の影響で粉末活性炭に吸着している臭気物質が脱着する脱着率などに応じて、着水井3内の被処理水に注入する粉末活性炭の注入率(粉末活性炭注入率)を修正するものである。具体的には、第1前塩注入を実施する場合、塩素剤の阻害作用による粉末活性炭の臭気物質残存率不足分を演算し、第2前塩注入を実施する場合、塩素剤の脱着作用により粉末活性炭から放出される分の臭気物質残存率を演算し、粉末活性炭の上記臭気物質残存率不足分または上記放出される分の臭気物質残存率を用いて、粉末活性炭注入率を補正する。
【0039】
なお、水質目標設定部100、薬品注入率初期仮定部200、消毒副生成物濃度推定部300、塩素剤注入判定部400、粉末活性炭注入補正演算部500のそれぞれの機能は、まとめて1つのコンピュータとして実現してもよいし、複数のコンピュータで分けて実現してもよい。また、それぞれの機能は、コンピュータに備えられる中央演算装置等のプロセッサが実行するプログラムとして実現してもよい。なお、それぞれの機能の詳細については、後で述べる。
【0040】
配管2には、原水水質計器セット40、前塩素指標計器50、臭気検出装置60、溶解性有機物計器70、流量計80が備えられている。また、混和池4にはpH計90が、凝集沈殿池5と砂ろ過槽6との間の配管の間の配管にはpH計91が備えられている。但し、pH計91は必ずしも必要とされるものではない。これらの計器類で計測された計測結果は水質目標設定部100や薬品注入率初期仮定部200へ送られる。
【0041】
ここで、原水水質計器セット40は、原水の濁度Tuを計測する濁度計40a、原水の水素イオン濃度指数pHを計測するpH計40b、原水の温度Twを計測する温度計40cで構成される。また、前塩素指標計器50は、原水のアンモニア性窒素濃度NH を計測するアンモニア計あるいは原水の塩素要求量Clを計測する塩素要求量計の何れかまたは両方で構成される。臭気物検出装置60は、原水中のカビ臭物質であるジメチルイソボルネオール(2-MIB)やジェオスミンの濃度を計測する計器である。溶解性有機物計器70は、原水の紫外線波長254nmから260nmの吸光度を計測する紫外線吸光度計などが用いられる。流量計80は、着水井3に流入する原水の流量Qを計測する。pH計90は、混和池4の混和水の水素イオン濃度指数pHを計測する。
【0042】
(水質目標設定部100)
水質目標設定部100は、原水水質計器セット40から供給されてくる各種の計測結果を用いて、臭気物質の種類Osを設定し、水道水の水質基準を満たす沈殿池上澄み水濁度Tu(度)、ろ過水の臭気物質濃度COf(ng/L)の各目標値を設定するとともに、トリハロメタン類の濃度管理目標値THMs、ハロ酢酸類の濃度管理目標値HAAsを設定する。
【0043】
(薬品注入率初期仮定部200および消毒副生成物濃度推定部300の機能構成)
図2に、薬品注入率初期仮定部200および消毒副生成物濃度推定部300の機能構成の一例を示す。
【0044】
薬品注入率初期仮定部200は、凝集剤注入率演算部201、前塩注入率演算部202、および粉末活性炭注入率演算部203を含む。
【0045】
薬品注入率初期仮定部300は、トリハロメタン類推定濃度演算部301およびハロ酢酸類推定濃度演算部302を含む。
【0046】
凝集剤注入率演算部201は、原水水質計器セット40で計測された原水濁度Tu(度)、原水温度Tw(℃)、流量計80で計測された流量Q(m/h)、混和池4出口に設置されたpH計90で計測された混和水の水素イオン濃度指数pH(pH)、沈殿池上澄み水濁度Tu(度)の目標値を用いて、次式で適正な凝集剤注入率IPACl(mg/L)を計算する。
【0047】
PACl = f(Tu,Tu,pH,Tw,Q) ・・・(1)
前塩注入率演算部202は、前塩指標計器50がアンモニア計の場合は、原水のアンモニア性窒素濃度NH (mg/L)と原水流量Q(m/h)とを用いて下記の(2)式により前塩注入率Ipre-Cl(mg/L)を計算し、前塩指標計器50が塩素要求量計の場合は、原水の塩素要求量Cl(mg/L)と原水流量Q(m/L)とを用いて下記の(3)式により前塩注入率Ipre-Cl(mg/L)を計算する。
【0048】
pre-Cl = f(NH ,Q) ・・・(2)
pre-Cl = f(Cl,Q) ・・・(3)
粉末活性炭注入率演算部203は、臭気検出装置60で計測された臭気物質の種類Osおよび濃度COR(ng/L)、溶解性有機物計器70の紫外線吸光度計で計測された紫外線吸光度UV254R(abs/cm)、流量計80で計測された原水流量Q(mg/L)、ろ過水の臭気物質濃度目標COf(ng/L)を用いて下記の(4)式で粉末活性炭注入率ICAR(mg/L)を計算する。
【0049】
CAR = f(O,COR,Q,UV254R,COf) ・・・(4)
薬品注入率初期仮定部200で計算された前塩注入率Ipre-Cl(mg/L)と原水の紫外線吸光度UV254R(abs/cm)、原水温度Twおよび混和水の水素イオン濃度指数pH(pH)は、消毒副生成物濃度推定部300へ送られる。
【0050】
トリハロメタン類推定濃度演算部301は、トリハロメタン類(THMs)の濃度を推定する。ハロ酢酸類推定濃度演算部302は、ハロ酢酸類(HAAs)の濃度を推定する。それぞれの濃度を推定する手法については後で述べる。
【0051】
(消毒副生成物濃度推定部300で行われる処理)
図3に、主に消毒副生成物濃度推定部300で行われる処理の一例を示す。
【0052】
図3では、計器類40,50,60,70,80,90で計測される処理を、それぞれ符号40A,50A,60A,70A,80A,90Aで表している。また、水質目標設定部100、薬品注入率初期仮定部200、消毒副生成物濃度推定部300で行われる処理を、それぞれ符号100A,200A,300Aで表している。
【0053】
消毒副生成物濃度推定部300では、消毒副生成物の濃度を推定するための処理300Aが行われる。消毒副生成物濃度推定部300での処理300Aに使用する各種の情報は、前述した水質目標設定部100で行われた処理100Aや薬品注入率初期仮定部200で行われた処理200Aから得られる。特に薬品注入率初期仮定部200からは、処理201A,202A,203Aにおいてそれぞれ求められた凝集剤注入率IPACl(mg/L)、前塩注入率Ipre-Cl(mg/L)、粉末活性炭注入率ICAR(mg/L)が得られる。
【0054】
消毒副生成物濃度推定部300で行われる演算処理は、各種の処理311A,312A,313A,314A,315A,316A,317A,301A,302Aを含み、それぞれ、後述する関数もしくは演算式により演算を行う。
【0055】
処理311Aでは、水質目標設定部100もしくは薬品注入率初期仮定部200から得られる情報に基づき、原水の溶解性有機体炭素濃度DOC(mg/L)を演算する。
【0056】
処理312Aでは、処理311Aの演算結果に基づき、原水の比吸光度SUVA(abs・L/(m・mg))を演算する。
【0057】
処理313Aでは、水質目標設定部100もしくは薬品注入率初期仮定部200から得られる情報に基づき、原水の蛍光強度FL(例えば励起波長345(nm)に対する蛍光波長425(nm)の蛍光強度)を演算する。
【0058】
処理314Aでは、水質目標設定部100もしくは薬品注入率初期仮定部200から得られる情報に基づき、粉末活性炭による吸着処理後に残留する被処理水の紫外線吸光度UV254CARの、原水の紫外線吸光度UV254Rに対する残存率RUVCAR(吸着処理後紫外線吸光度残存率)を演算する。
【0059】
処理315Aでは、水質目標設定部100もしくは薬品注入率初期仮定部200から得られる情報に基づき、凝集処理後に残留する被処理水の紫外線吸光度UV254PAClの、原水の紫外線吸光度UV254Rに対する残存率RUVPACl(凝集処理後紫外線吸光度残存率)を演算する。
【0060】
処理316Aでは、水質目標設定部100もしくは薬品注入率初期仮定部200から得られる情報に基づき、粉末活性炭と凝集剤注入による併用処理が行われた場合の係数FDOM(併用処理係数)を演算する。
【0061】
処理317Aでは、処理314A,315A,316Aの演算結果に基づき、砂ろ過槽6通過後の被処理水(ろ過水)の紫外線吸光度UV254fの、原水の紫外線吸光度UV254Rに対する残存率RUV(紫外線吸光度残存率)を演算する。
【0062】
処理301Aでは、水質目標設定部100もしくは薬品注入率初期仮定部200から得られる情報および処理312Aの演算結果に基づき、トリハロメタン類の濃度推定値THMs(mg/L)を演算する。この演算は、図2中のトリハロメタン類推定濃度演算部301により行われる。
【0063】
処理302Aでは、水質目標設定部100もしくは薬品注入率初期仮定部200から得られる情報および処理312Aの演算結果に基づき、ハロ酢酸類の濃度推定値HAAs(mg/L)を演算する。この演算は、図2中のハロ酢酸類推定濃度演算部302により行われる。
【0064】
(消毒副生成物濃度推定部300で行われる処理の詳細)
ここでは、最初に図3中に示される処理301A,302Aの詳細について説明し、その後に処理311A~317Aの詳細について説明する。
【0065】
処理301Aでは、トリハロメタン類の濃度推定値THMs(mg/L)が求められる。処理302Aでは、ハロ酢酸類の濃度推定値HAAs(mg/L)が求められる。
【0066】
処理301A,302Aでは、それぞれ下記の(5)式、(6)式が使用される。これらの演算式は所定の記憶領域に記憶されている。
【0067】
THMs = α×SUVAα1×RUVα2×Tw α3×Ipre-Cl α4
×pH α5 ・・・(5)
HAAs = β×SUVAβ1×RUVβ2×Tw β3×Ipre-Cl β4
×pH β5 ・・・(6)
ここで、(5)式および(6)式は、水処理施設1の事前調査で収集された処理条件と水質分析結果を用いた回帰分析により係数α0~α5およびβ0~β5が定められる回帰式である。
【0068】
(5)式、(6)式中のTwは、原水水質計器セット40の温度計40cで計測された原水温度、Ipre-Clは、薬品注入率初期仮定部200の前塩注入率演算部202で算出された前塩注入率(mg/L)、pHは、混和池4出口に取り付けられたpH計90で計測された混和水の水素イオン濃度指数(pH)である。pHは、被処理水の平均水素イオン濃度指数(pH)とみなすことができる。この被処理水の平均水素イオン濃度指数は、pHだけでなくpH計91で計測されたpH値をも用いて求めてもよい。
【0069】
また、(5)式、(6)式のSUVAは、原水の比吸光度(abs・L/(m・mg))であり、原水の紫外線吸光度UV254R(abs/cm)と原水の溶解性有機体炭素濃度DOC(mg/L)から下記の(7)式で求められる。(7)式の計算は、処理312Aで行われる。
【0070】
SUVA = (100×UV254R)/DOC ・・・(7)
原水の紫外線吸光度UV254R(abs/cm)は、配管2に設置された溶解性有機物計器70として設置された紫外線吸光度計による計測値であり、また、原水の水源が変動しない場合は、UV254R(abs/cm)とDOC(mg/L)とは強い相関関係があり、下記の(8)式が適用でき、DOC(mg/L)はUV254Rから(8)式で計算できる。(8)式の計算は、処理311Aで行われる。
【0071】
DOC= c×UV254R×d ・・・(8)
ここで、c,dは定数であり、水源の有機物組成が年間を通じて安定している場合は、事前の調査により求めることができる。
【0072】
また、RUVは、粉末活性炭で吸着処理され凝集剤で除去処理された後の紫外線吸光度残存率、すなわち、砂ろ過槽6通過後の被処理水(ろ過水)の紫外線吸光度UV254fの、原水の紫外線吸光度UV254Rに対する残存率であり、着水井3から凝集沈殿池5の間に注入される粉末活性炭と凝集剤による作用から次の(9)式で推定できる。(9)式の計算は、処理317Aで行われる。
【0073】
RUV = FDOM×RUVCAR×RUVPACl ・・・(9)
ここで、FDOMは、粉末活性炭と凝集剤注入による併用処理が行われた場合の係数(併用処理係数)であり、どちらか単独で行われた場合はFDOM=1.0となる。FDOMの計算は、処理316Aで行われる。また、RUVCARは、粉末活性炭による吸着処理後に残留する被処理水の紫外線吸光度UV254CARの、原水の紫外線吸光度UV254Rに対する残存率(吸着処理後紫外線吸光度残存率)であり、次の(10)式で推定される。(10)式の計算は、処理314Aで行われる。
【0074】
RUVCAR = f(ICAR,UV254R,KDOM,NDOM) ・・・(10)
ここで、ICARは、粉末活性炭注入率(mg/L)で薬品注入率初期仮定部200の粉末活性炭注入率演算部203で算出された値を代入する。UV254Rは、原水紫外線強度計で計測された原水の紫外線吸光度である。KDOM、NDOMは、それぞれ係数であり、粉末活性炭による有機物吸着の吸着係数であり使用する粉末活性炭よる事前評価のためのジャーテスト等で求めた値が適用される。
【0075】
また、(9)式中のRUVPAClは凝集処理後に残留する被処理水の紫外線吸光度UV254PAClの、原水の紫外線吸光度UV254Rに対する残存率(凝集処理後紫外線吸光度残存率)であり、次の(11)式で推定される。(11)式の計算は、処理315Aで行われる。
【0076】
RUVPACl = α×IPACl β ・・・(11)
ここで、IPAClは、凝集剤注入率(mg/L)である。α、βは、それぞれ係数であり、事前のジャーテストで求めた値が適用される。
【0077】
(塩素剤注入判定部400および粉末活性炭注入補正演算部500で行われる処理)
図4に、主に塩素剤注入判定部400および粉末活性炭注入補正演算部500で行われる処理の一例を示す。
【0078】
図4では、塩素剤注入判定部400および粉末活性炭注入補正演算部500で行われる処理を、それぞれ符号400Aおよび500Aで表している。なお、符号40A,50A,60A,70A,80A,90A、および符号100A,200A,300Aについては前述した通りである。
【0079】
塩素剤注入判定部400で行われる処理400Aには、判定処理401Aおよび判定処理402Aがある。
【0080】
判定処理401Aは、前塩注入と中塩注入のうちのいずれを実施するかの判定のための処理であり、図1中の前塩/中塩判定部401により行われる。
【0081】
判定処理402Aは、前塩注入を実施する場合に第1前塩注入と第2前塩注入のうちのいずれを実施するかの判定のための処理であり、図1中の前塩注入点判定部402により行われる。
【0082】
塩素剤注入判定部400で行われる各種の処理の詳細については、後で説明する。
【0083】
粉末活性炭注入補正演算部500で行われる処理500Aには、処理501A,502A,503A,504Aがある。
【0084】
処理501Aは、中塩注入を実施する場合に、処理200Aで仮定された粉末活性炭注入率ICARを補正せずにそのまま粉末活性炭注入率Icarとして採用する処理である。
【0085】
処理502Aは、第1前塩注入を実施する場合に、塩素剤の阻害作用による粉末活性炭の臭気物質残存率不足分ΔRCを演算する処理である。
【0086】
処理503Aは、第2前塩注入を実施する場合に、塩素剤の脱着作用により粉末活性炭から放出される分の臭気物質残存率ΔRCを演算する処理である。
【0087】
処理504Aは、処理502Aまたは処理503Aで演算した上記ΔRCを用いて上記粉末活性炭注入率ICARを補正した値を粉末活性炭注入率Icarとして採用する処理である。
【0088】
粉末活性炭注入補正演算部500で行われる各種の処理の詳細については、後で説明する。
【0089】
(塩素剤注入判定部400で行われる処理の詳細)
判定処理401Aでは、水質目標設定部100で設定されたトリハロメタン類の濃度管理目標値THMsと消毒副生成物濃度推定部300で推定されたトリハロメタン類の濃度推定値THMsとを比較するとともに、ハロ酢酸類の濃度管理目標値HAAsと消毒副生成物濃度推定部300で推定されたハロ酢酸類の濃度推定値HAAsとを比較する。
【0090】
トリハロメタン類の濃度推定値THMsがトリハロメタン類の濃度管理目標値THMs以上である場合(もしくは、濃度管理目標値THMsより大きい場合)や、ハロ酢酸類濃度の推定値HAAsがハロ酢酸類濃度の濃度管理目標値HAAs以上である場合(もしくは、濃度管理目標値HAAsより大きい場合)は、消毒副生成物の濃度が許容値を超えるので前塩注入による消毒副生成物の生成の抑制は困難と判定し、第1前塩注入装置10aや第2前塩注入装置10bによる前塩注入を行わず、中塩注入装置11による中塩注入を行うことを決定する。そうでない場合は、前塩注入による消毒副生成物の生成の抑制が可能であるとみなし、前塩注入を行うことを決定し、判定処理402を行う。中塩注入を行うことが決定された場合には、中塩注入装置11により塩素剤の注入が行われる。
【0091】
判定処理402Aでは、トリハロメタン類の濃度推定値THMsとハロ酢酸類推定値HAAsを比較し、トリハロメタン類の濃度推定値THMsがハロ酢酸類推定値HAAs以上である場合(もしくは、ハロ酢酸類推定値HAAsより大きい場合)は、第2前塩を行わず、第1前塩注入を行うことを決定する。第1前塩注入を行うことが決定された場合には、第1前塩注入装置10aにより塩素剤の注入が行われる。
【0092】
一方、ハロ酢酸類の濃度推定値HAAsがトリハロメタン類の濃度推定値THMs以上である場合(もしくは、トリハロメタン類の濃度推定値THMsより大きい場合)は、第1前塩を行わず、第2前塩注入を行うことを決定する。第2前塩注入を行うことが決定された場合には、第2前塩注入装置10bにより塩素剤の注入が行われる。
【0093】
発明者は、上記した処理により、生成リスクの高い消毒副生成物の生成を抑制する効果があることを以下の試験により確認した。
【0094】
試験は、純水にフミン酸とフルボ酸をそれぞれ溶解性有機体炭素濃度比1:1になるように調整し、全溶解性有機体炭素濃度を約3.0(mg/L)にした模擬原水を用い、(1)初めに前記原水に次亜塩素酸ナトリウムを1~3(mg/L)添加しジャーテスターにて回転数150(rpm)で30分間攪拌後、粉末活性炭を5(mg/L)添加し同一回転数で60分間攪拌した場合と、(2)初めに前記原水に粉末活性炭を5(mg/L)添加しジャーテスターにて回転数150(rpm)で60分間攪拌後、次亜塩素酸ナトリウムを1~3(mg/L)添加し同一回転数で30分間攪拌した場合と、についてトリハロメタン類(THMs)とハロ酢酸類(HAAs)の濃度を比較した。
【0095】
図5に、被処理水のトリハロメタン類(THMs)の濃度について、図6に、ハロ酢酸類(HAAs)の濃度について、(1)塩素剤→粉末活性炭の順に処理した場合と、(2)粉末活性炭→塩素剤の順に処理した場合とを比較したグラフを示す。図5図6のグラフでは、横軸は塩素注入率(mg/L)を示し、縦軸はトリハロメタン類(THMs)またはハロ酢酸類(HAAs)の濃度(μg/L)を示している。
【0096】
被処理水のトリハロメタン類(THMs)の濃度は、図5に示されるように、(2)粉末活性炭→塩素剤の順に処理した場合よりも、(1)塩素剤→粉末活性炭の順に処理した場合の方が低くなり、ハロ酢酸類(HAAs)の濃度は、図6に示されるように、(1)塩素剤→粉末活性炭の順に処理した場合よりも、(2)粉末活性炭→塩素剤の順に処理した場合の方が低くなっている。
【0097】
したがって、トリハロメタン類(THMs)の生成リスクが高い場合は、前塩処理を粉末活性炭処理前に行い、ハロ酢酸類(HAAs)の生成リスクが高い場合は、前塩処理を粉末活性炭処理後に行うことにより、消毒副生成物の生成リスクを低減できることがわかる。
【0098】
(粉末活性炭注入補正演算部500で行われる処理の詳細)
処理500Aでは、例えば前塩処理の影響で粉末活性炭に吸着している臭気物質が脱着する脱着率に応じて粉末活性炭注入率Icarを変える。
【0099】
ここで、図7のグラフを参照して、(1)塩素剤→粉末活性炭の順に処理した場合と、(2)粉末活性炭→塩素剤の順に処理した場合とで、塩素剤注入率の増加に伴う2-MIB残存率の増加の傾きが異なることについて説明する。図7のグラフでは、横軸は塩素注入率(mg/L)を示し、縦軸はジメチルイソボルネオール(2-MIB)の残存率RC2-MIB(%)を示している。
【0100】
図7は、前記試験において模擬原水にジメチルイソボルネオール(2-MIB)を加えて初期濃度を約100(ng/L)に調整した供試原水を用い、(1)次亜塩素酸ナトリウムを1~3(mg/L)添加しジャーテスターにて回転数150(rpm)で30分間攪拌後、粉末活性炭を5(mg/L)添加し同一回転数で60分間攪拌した場合と、(2)粉末活性炭を5(mg/L)添加しジャーテスターにて回転数150(rpm)で60分間攪拌後、次亜塩素酸ナトリウムを1~3(mg/L)添加し同一回転数で30分間攪拌した場合とについて、塩素剤の注入率(mg/L)と、処理後の2-MIB濃度C2-MIBの、原水の2-MIB濃度C2-MIBRに対する残存率RC2-MIB(=C2-MIB/C2-MIBR)との関係を示している。
【0101】
(1)塩素剤→粉末活性炭の順に処理した場合と、(2)粉末活性炭→塩素剤の順に処理した場合とを比較すると、両条件とも塩素剤の注入率の増加に伴い2-MIB残存率RC2-MIBも増加しているが、増加の傾きは異なり、(1)塩素剤→粉末活性炭の順に処理した場合よりも、(2)粉末活性炭→塩素剤の順に処理した場合の方が大きくなることがわかる。
【0102】
これは、(1)塩素剤→粉末活性炭の順に処理した場合では粉末活性炭による2-MIBの吸着において塩素剤が競合あるいは阻害物質として作用しているのに対し、(2)粉末活性炭→塩素剤の順に処理した場合では先に注入された粉末活性炭により2-MIBが吸着しているが、その後の塩素剤処理により粉末活性炭から2-MIBが脱着するように作用しているためである。
【0103】
したがって、薬品注入率初期仮定部200の粉末活性炭注入率演算部203で仮定された粉末活性炭注入率ICARのままでは塩素剤による阻害または脱着作用分の臭気物質濃度が目標よりも超過してしまうことになる。
【0104】
上記の問題に対し本実施形態では、第1前塩注入を行う場合は、処理502Aにおいて塩素剤の阻害作用による粉末活性炭の臭気物質残存率不足分ΔRCを次式で推定する。
【0105】
ΔRC =δ1st×Exp(n1st×Ipre-Cl) ・・・(12)
ここで、Ipre-Clは前塩注入率、δ1stは第1前塩の定数、n1stの係数である。
【0106】
一方、第2前塩注入を行う場合は、処理503Aにおいて塩素剤の脱着作用により粉末活性炭から放出される分の臭気物質残存率ΔRCを次式で推定する。
【0107】
ΔRC =δ2st×Exp(n2st×Ipre-Cl) ・・・(13)
ここで、Ipre-Clは前塩注入率、δ2ndは第2前塩の定数、n2ndの係数である。
【0108】
次に、臭気物質の処理後残存率目標値RCから上記ΔRCを差し引いた(RC-ΔRC)を新たな臭気物質残存率目標値として、次式により粉末活性炭注入率ICARを補正する。
【0109】
CAR = f(O,(RC-ΔRC),Q,UV254R) ・・・(14)
このようにして粉末活性炭注入率ICARを補正した値を粉末活性炭注入率Icarとして採用することにより、適正な粉末活性炭注入率Icarによる粉末活性炭注入が粉末活性炭注入装置20により行われることになる。
【0110】
(フローチャートの例)
次に、図8のフローチャートを参照して、本実施形態の水処理システムによる動作の一例を説明する。
【0111】
最初に、水質目標設定部100において、被処理水の水質を示す各種の物理量に対する目標値が設定される。具体的には、例えばトリハロメタン類の濃度管理目標値THMsおよびハロ酢酸類の濃度管理目標値HAAsが設定される(ステップS1)。
【0112】
薬品注入率初期仮定部200では、被処理水に注入する薬品の注入率がそれぞれ仮設定される。具体的には、凝集処理で使用する凝集剤の注入率(凝集剤注入率)IPACl、前塩処理で使用する塩素剤の注入率(前塩注入率)Ipre-Cl、吸着処理で使用する粉末活性炭の注入率(粉末活性炭注入率)ICARがそれぞれ演算されて仮設定される(ステップS2)。
【0113】
消毒副生成物濃度推定部300では、水質目標設定部100により設定された水質の目標値と、薬品注入率初期仮定部200により仮設定された各薬品の注入率とを用いて、浄水処理の過程で生成される消毒副生成物であるトリハロメタン類(THMs)およびハロ酢酸類(HAAs)の濃度がそれぞれ推定される(ステップS3)。
【0114】
塩素剤注入判定部400の前塩/中塩判定部401では、前塩注入と中塩注入のうちのいずれを実施するかの判定が行われる。具体的には、トリハロメタン類の濃度推定値THMsがトリハロメタン類の濃度管理目標値THMs以上であるか(もしくは、濃度管理目標値THMsより大きいか)、あるいは、ハロ酢酸類濃度の推定値HAAsがハロ酢酸類濃度の濃度管理目標値HAAs以上であるか(もしくは、濃度管理目標値HAAsより大きいか)が判定される(ステップS4)。
【0115】
ステップS4においていずれかに該当する場合(少なくとも一方に該当する場合)、消毒副生成物の濃度が許容値を超えるので前塩注入による消毒副生成物の生成の抑制は困難と判定される。その場合、第1前塩注入装置10aや第2前塩注入装置10bによる前塩注入を行わず、中塩注入装置11による中塩注入を行うことが決定される(ステップS5)。そして、ステップS2で仮設定された粉末活性炭注入率ICARは補正されずにそのまま粉末活性炭注入率Icarとして採用され、粉末活性炭注入と中塩注入とが実施されるよう制御される(ステップS6)。
【0116】
一方、ステップS4においていずれにも該当しない場合は、前塩注入による消毒副生成物の生成の抑制が可能であるとみなされる。その場合、塩素剤注入判定部400の前塩注入点判定部402では、第1前塩注入と第2前塩注入のうちのいずれを実施するかの判定が行われる。具体的には、トリハロメタン類の濃度推定値THMsがハロ酢酸類推定値HAAs以上であるか(もしくは、ハロ酢酸類推定値HAAsより大きいか)が判定される(ステップS7)。
【0117】
ステップS7において該当する場合、中塩注入や第2前塩注入を行わず、第1前塩注入を行うことが決定される(ステップS8)。その場合、粉末活性炭注入補正演算部500では、塩素剤の阻害作用による粉末活性炭の臭気物質残存率不足分ΔRCが演算され、当該ΔRCを用いて上記粉末活性炭注入率ICARを補正した値が粉末活性炭注入率Icarとして採用され、第1前塩注入と粉末活性炭注入とが実施されるよう制御される(ステップS9)。
【0118】
一方、ステップS7において該当しない場合、中塩注入や第1前塩注入を行わず、第2前塩注入を行うことが決定される(ステップS10)。その場合、粉末活性炭注入補正演算部500では、塩素剤の脱着作用により粉末活性炭から放出される分の臭気物質残存率ΔRCを演算され、当該ΔRCを用いて上記粉末活性炭注入率ICARを補正した値が粉末活性炭注入率Icarとして採用され、粉末活性炭注入と第2前塩注入とが実施されるよう制御される(ステップS11)。
【0119】
(まとめ)
以上詳述したように、実施形態によれば、消毒副生成物の生成を抑制することが可能となる。
【0120】
例えば、上記実施形態では、消毒副生成物濃度推定部300において、水質目標設定部100により設定された水質の目標値と、薬品注入率初期仮定部200により仮設定された各薬品の注入率とを用いて、浄水処理の過程で生成される消毒副生成物であるトリハロメタン類(THMs)およびハロ酢酸類(HAAs)の濃度をそれぞれ推定することが可能となる。
【0121】
そして、塩素剤注入判定部400の前塩/中塩判定部401での判定において、トリハロメタン類の濃度推定値THMsがトリハロメタン類の濃度管理目標値THMs以上である場合(もしくは、濃度管理目標値THMsより大きい場合)や、ハロ酢酸類濃度の推定値HAAsがハロ酢酸類濃度の濃度管理目標値HAAs以上である場合(もしくは、濃度管理目標値HAAsより大きい場合)には、消毒副生成物の濃度が許容値を超えるので前塩注入による消毒副生成物の生成の抑制は困難と判定され、第1前塩注入装置10aや第2前塩注入装置10bによる前塩注入は行われず、中塩注入装置11による中塩注入を行うことが決定されるので、消毒副生成物の過剰な生成を回避することができる。
【0122】
また、消毒副生成物の濃度が許容値を超えない場合は、塩素剤注入判定部400の前塩注入点判定部402での判定において、トリハロメタン類の濃度推定値THMsとハロ酢酸類の濃度推定値HAAsとが比較され、比較結果に基づき第1前塩注入と第2前塩注入のいずれかが選択されるので、生成リスクの高い消毒副生成物の生成を抑制することができる。また、生成リスクの高い消毒副生成物の生成が抑制されるように塩素剤の注入点を決定することができるので、前塩によるアンモニア性窒素および鉄・マンガン等の金属イオン類の酸化(除去)も可能となる。
【0123】
さらに、粉末活性炭注入補正演算部500において、塩素剤の注入点に応じて粉末活性炭注入率Icarを適正に補正することができるので、臭気物質の処理目標値超過を防止することができる。
【0124】
上述した実施形態における水処理システムを構成する各種機能はコンピュータで実現することができる。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0125】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0126】
1…水処理施設、2…配管、3…着水井、4…混和池、5…凝集沈殿池、6…砂ろ過槽、7…浄水池、8…第1前塩注入管、10a…第1前塩注入装置、10b…第2前塩注入装置、11…中塩注入装置、12…後塩注入装置、20…活性炭注入装置、30…凝集剤注入装置、40…原水水質計器セット、50…前塩指標計器、60…臭気物検出装置、70…溶解性有機物計器、80…流量計、90…pH計、91…pH計、100…水質目標設定部、200…薬品注入率初期仮定部、201…凝集剤注入率演算部、202…前塩注入率演算部、203…粉末活性炭注入率演算部、300…消毒副生成物濃度推定部、400…塩素剤注入判定部、401…前塩/中塩判定部、402…前塩注入点判定部、500…粉末活性炭注入補正演算部。
図1
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