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特開2023-184097運転支援システム、運転支援方法、及び運転支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184097
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】運転支援システム、運転支援方法、及び運転支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20231221BHJP
   B60W 30/09 20120101ALI20231221BHJP
   B60W 40/02 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
G08G1/16 D
B60W30/09
B60W40/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098031
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川西 伶
(72)【発明者】
【氏名】坂井 克弘
(72)【発明者】
【氏名】菅岩 泰亮
(72)【発明者】
【氏名】中村 弘
(72)【発明者】
【氏名】長坂 直樹
【テーマコード(参考)】
3D241
5H181
【Fターム(参考)】
3D241BA33
3D241BA49
3D241BA51
3D241BC01
3D241BC02
3D241CC08
3D241CC17
3D241CE04
3D241CE05
3D241DA52Z
3D241DB01Z
3D241DB05Z
3D241DB12Z
3D241DB32Z
3D241DC18Z
3D241DC31Z
3D241DC35Z
3D241DC42Z
3D241DC50Z
3D241DC51Z
3D241DC54Z
5H181AA01
5H181AA21
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC12
5H181CC14
5H181EE13
5H181EE14
5H181FF04
5H181FF22
5H181FF27
5H181LL01
5H181LL02
5H181LL09
5H181LL15
(57)【要約】
【課題】ドライバに与える煩わしさや不安感を抑制しながら、車両の前方に存在する物標によって生じる衝突リスクを低減することができる運転支援システムを提供する。
【解決手段】本運転支援システムによれば、車両の周辺状況の情報から、車両に衝突リスクを生じさせる存在であるリスク物標に関するリスク物標情報が抽出される。また、リスク物標に影響を与える自然現象に関する自然現象情報が取得される。そして、リスク物標情報と自然現象情報とに基づいて衝突リスクを定量化したリスクパラメータが決定され、決定されたリスクパラメータに基づいて、衝突リスクを低減するように車両の運動を制御するアクチュエータの操作量が決定される。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのプロセッサと、
前記少なくとも一つのプロセッサに通信可能に結合された、実行可能な複数のインストラクションを記憶したプログラムメモリと、を備え、
前記複数のインストラクションは、前記少なくとも1つのプロセッサに、
車両の周辺状況の情報から、前記車両に衝突リスクを生じさせる存在であるリスク物標に関するリスク物標情報を抽出することと、
前記リスク物標に影響を与える自然現象に関する自然現象情報を取得することと、
前記リスク物標情報と前記自然現象情報とに基づいて前記衝突リスクを定量化したリスクパラメータを決定することと、
決定されたリスクパラメータに基づいて、前記衝突リスクを低減するように前記車両の運動を制御するアクチュエータの操作量を決定することと、を実行させるように構成された
ことを特徴とする運転支援システム。
【請求項2】
請求項1に記載の運転支援システムにおいて、
前記リスク物標情報を抽出することは、前記車両の前方に存在し、前記車両に衝突する可能性のある顕在リスク物標に関する情報を抽出することを含む
ことを特徴とする運転支援システム。
【請求項3】
請求項1に記載の運転支援システムにおいて、
前記リスク物標情報を抽出することは、前記車両の前方に存在し、前記車両から死角となる領域を作る潜在リスク物標に関する情報を抽出することを含む
ことを特徴とする運転支援システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の運転支援システムにおいて、
前記自然現象情報を取得することは、天候に関する情報を取得することを含む
ことを特徴とする運転支援システム。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の運転支援システムにおいて、
前記自然現象情報を取得することは、前記リスク物標から前記車両をみたときの逆光に関する情報を取得することを含む
ことを特徴とする運転支援システム。
【請求項6】
車両の周辺状況の情報から、前記車両に衝突リスクを生じさせる存在であるリスク物標に関するリスク物標情報を抽出することと、
前記リスク物標に影響を与える自然現象に関する自然現象情報を取得することと、
前記リスク物標情報と前記自然現象情報とに基づいて前記衝突リスクを定量化したリスクパラメータを決定することと、
決定されたリスクパラメータに基づいて、前記衝突リスクを低減するように前記車両の運動を制御するアクチュエータの操作量を決定することと、を含む
ことを特徴とする運転支援方法。
【請求項7】
車両の周辺状況の情報から、前記車両に衝突リスクを生じさせる存在であるリスク物標に関するリスク物標情報を抽出することと、
前記リスク物標に影響を与える自然現象に関する自然現象情報を取得することと、
前記リスク物標情報と前記自然現象情報とに基づいて前記衝突リスクを定量化したリスクパラメータを決定することと、
決定されたリスクパラメータに基づいて、前記衝突リスクを低減するように前記車両の運動を制御するアクチュエータの操作量を決定することと、をコンピュータに実行させるように構成された
ことを特徴とする運転支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の運転を支援する運転支援システム、運転支援方法、及び運転支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、横断歩道に向かって自車両が近づくシーンにおいて、見切り横断してしまう歩行者に対して急減速による回避動作がとられることを防止する技術が開示されている。この従来技術では、歩行者が横断する可能性が計算され、その可能性が所定値以上であると自車両の回避準備動作が実行される。歩行者が横断する可能性の計算には、歩行者の顔向き、歩行者の人数、信号機の種類、交差点のサイズ等の情報が用いられる。例えば、歩行者の顔向きが自車両の方向を見ていないときは、自車両の方向を見ているときよりも歩行者が横断する可能性は高い値に計算される。
【0003】
なお、本開示に関連する技術分野の技術水準を示す文献としては、上述の特許文献1の他にも特許文献2及び特許文献3を例示することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-157427号公報
【特許文献2】特開2014-102703号公報
【特許文献3】特開2017-206040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
歩行者との衝突を回避するための回避準備動作は、過度に行われるとドライバに煩わしさを感じさせてしまう。一方、状況によっては回避準備動作が行われないことでドライバに不安を与える場合がある。ゆえに、回避準備動作は適度に行われることが望ましい。しかし、上記従来技術では、天候や歩行者から自車両をみたときの逆光のような自然現象が衝突リスクに与える影響については考慮されていない。
【0006】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、ドライバに与える煩わしさや不安感を抑制しながら、車両の前方に存在する物標によって生じる衝突リスクを低減することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示は運転支援システムを提供する。本開示の運転支援システムは、少なくとも1つのプロセッサと、上記少なくとも一つのプロセッサに通信可能に結合された、実行可能な複数のインストラクションを記憶したプログラムメモリとを備える。上記複数のインストラクションは、上記少なくとも1つのプロセッサに、以下の第1乃至第4の処理を実行させるように構成されている。第1の処理は、車両の周辺状況の情報から、車両に衝突リスクを生じさせる存在であるリスク物標に関するリスク物標情報を抽出する処理である。第2の処理は、リスク物標に影響を与える自然現象に関する自然現象情報を取得する処理である。第3の処理は、第1の処理で車両の周辺状況の情報から抽出されたリスク物標情報と、第2の処理で取得された自然現象情報とに基づいて衝突リスクを定量化したリスクパラメータを決定する処理である。第4の処理は、第3の処理で決定されたリスクパラメータに基づいて、衝突リスクを低減するように車両の運動を制御するアクチュエータの操作量を決定する処理である。
【0008】
上記目的を達成するため、本開示は運転支援方法を提供する。本開示に係る運転支援方法は、以下の第1乃至第4のステップを有する。第1のステップは、車両の周辺状況の情報から、車両に衝突リスクを生じさせる存在であるリスク物標に関するリスク物標情報を抽出することである。第2のステップは、リスク物標に影響を与える自然現象に関する自然現象情報を取得することである。第3のステップは、第1のステップで車両の周辺状況の情報から抽出されたリスク物標情報と、第2のステップで取得された自然現象情報とに基づいて衝突リスクを定量化したリスクパラメータを決定することである。そして、第4のステップは、第3のステップで決定されたリスクパラメータに基づいて、衝突リスクを低減するように車両の運動を制御するアクチュエータの操作量を決定することである。
【0009】
上記目的を達成するため、本開示は運転支援プログラムを提供する。本開示に係る運転支援プログラムは、以下の第1乃至第4の処理をコンピュータに実行させるように構成されている。第1の処理は、車両の周辺状況の情報から、車両に衝突リスクを生じさせる存在であるリスク物標に関するリスク物標情報を抽出する処理である。第2の処理は、リスク物標に影響を与える自然現象に関する自然現象情報を取得する処理である。第3の処理は、第1の処理で車両の周辺状況の情報から抽出されたリスク物標情報と、第2の処理で取得された自然現象情報とに基づいて衝突リスクを定量化したリスクパラメータを決定する処理である。そして、第4の処理は、第3の処理で決定されたリスクパラメータに基づいて、衝突リスクを低減するように車両の運動を制御するアクチュエータの操作量を決定する処理である。
【0010】
本開示の運転支援システム、運転支援方法、及び運転支援プログラムによれば、リスク物標情報に自然現象情報を加えてリスクパラメータを決定することで、衝突リスクの低減のために行われるアクチュエータ操作への介入を適度なものにすることができる。これにより、ドライバに与える煩わしさや不安感を抑制しながら、車両の前方に存在する物標によって生じる衝突リスクを低減することができる。
【0011】
本開示の運転支援システム、運転支援方法、及び運転支援プログラムにおいて、リスク物標情報を抽出することは、車両の前方に存在し、車両に衝突する可能性のある顕在リスク物標に関する情報を抽出することを含んでもよい。顕在リスク物標に関する情報をリスク物標情報として抽出することにより、道路にはみ出すおそれのある歩行者のような顕在する衝突リスクを低減することができる。また、リスク物標情報を抽出することは、車両の前方に存在し、車両から死角となる領域を作る潜在リスク物標に関する情報を抽出することを含んでもよい。潜在リスク物標に関する情報をリスク物標情報として抽出することにより、車両からの死角に潜在する衝突リスクを低減することができる。
【0012】
本開示の運転支援システム、運転支援方法、及び運転支援プログラムにおいて、自然現象情報を取得することは、天候に関する情報を取得することを含んでもよい。天候の良し悪しは相手からの自車両に対する視認性に影響する。例えば、雨天時や、降雪時や、霧が出ている時の視認性は悪化する。天候を考慮してリスクパラメータを決定することで、天候の影響による衝突リスクを低減することができる。また、自然現象情報を取得することは、リスク物標から車両をみたときの逆光に関する情報を取得することを含んでもよい。相手から自車両をみたときの逆光は相手からの自車両に対する視認性に影響する。逆光を考慮してリスクパラメータを決定することで、天候の影響による衝突リスクを低減することができる。なお、ここでいう相手とは、リスク物標が顕在リスク物標である場合には顕在リスク物標そのものであり、リスク物標が潜在リスク物標である場合には潜在リスク物標の死角に潜む仮想の物体である。
【発明の効果】
【0013】
上述のように、本開示の技術によれば、リスク物標情報に影響因子情報を加えてリスクパラメータを決定することで、衝突リスクの低減のために行われるアクチュエータ操作への介入を適度なものにすることができる。これにより、ドライバに与える煩わしさや不安感を抑制しながら、車両の前方に存在する物標によって生じる衝突リスクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本開示の実施形態に係る運転支援システムによる運転支援制御のうちの顕在リスク回避制御を説明するための概念図である。
図2】本開示の実施形態に係る運転支援システムによる運転支援制御のうちの顕在リスク回避制御を説明するための概念図である。
図3】本開示の実施形態に係る運転支援システムによる運転支援制御のうちの潜在リスク回避制御を説明するための概念図である。
図4】本開示の実施形態に係る運転支援システムによる運転支援制御のうちの潜在リスク回避制御を説明するための概念図である。
図5】本開示の実施形態に係る運転支援システムとそれが適用された車両の構成例を示すブロック図である。
図6】本開示の実施形態に係るプロセッサにより実行される処理を示すブロック図である。
図7】本開示の実施形態に係るプロセッサにより実行されるリスクパラメータ決定処理を示すフローチャートである。
図8】本開示の実施形態に係る運転支援システムによる運転支援制御の第1実施例を説明するための概念図である。
図9】本開示の実施形態に係る運転支援システムによる運転支援制御の第1実施例を説明するための概念図である。
図10】本開示の実施形態に係る運転支援システムによる運転支援制御の第2実施例を説明するための概念図である。
図11】本開示の実施形態に係る運転支援システムによる運転支援制御の第2実施例を説明するための概念図である。
図12】リスクパラメータの計算方法の変形例を説明するための概念図である。
図13】リスクパラメータの計算方法の変形例を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。
【0016】
1.本実施形態に係る運転支援システムの概要
1-1.運転支援制御の概要
本実施形態に係る運転支援システムは、車両がその前方の物体と衝突するリスクを回避するように車両の運転を支援する運転支援制御を実行する。車両が回避すべき衝突リスクには、顕在リスクと潜在リスクとがある。顕在リスクは、道路にはみ出すおそれのある歩行者のような顕在する衝突リスクである。潜在リスクは、車両からの死角に潜在する衝突リスクである。本実施形態に係る運転支援システムは、これら2種類の衝突リスクの両方を回避対象とする。
【0017】
運転支援制御では、衝突リスクを定量化したリスクパラメータが用いられる。本実施形態で用いられるリスクパラメータは、衝突を回避する対象物体からのベクトルとその確度とで表わされる。ベクトルは予測される対象物体の移動方向及び距離であり、確度は予測確度である。以下、リスクパラメータとしての、予測確度を持ったベクトルを予測リスクベクトルと称する。予測リスクベクトルは、衝突を回避する対象物体の位置、車両の対象物体からの距離、対象物体の種別、対象物体の大きさ、対象物体の変位速度などの対象物体に関する情報に応じて定義される。
【0018】
衝突リスクが顕在リスクである場合、対象物体は顕在リスクを生じさせている物標(以下、この物標を顕在リスク物標と称する)そのものである。この場合、顕在リスク物標に関する情報に基づいて予測リスクベクトルが決定され、予測リスクベクトルは顕在リスク物標に紐づけられる。衝突リスクが潜在リスクである場合、対象物体は潜在リスクを生じさせている物標(以下、この物標を潜在リスク物標と称する)の死角に潜む仮想の物体である。この場合、予測リスクベクトルを定義するための対象物体に関する情報として、潜在リスク物標に紐づけられた仮想の情報が与えられる。ゆえに、衝突リスクが潜在リスクである場合、予測リスクベクトルは潜在リスク物標に紐づけられる。
【0019】
以上のように、運転支援制御に係る予測リスクベクトルは、顕在リスク物標或いは潜在リスク物標に関する情報に基づいて決定される。以下、この情報をリスク物標情報と称する。リスク物標情報は、車両に衝突リスクを生じさせる存在であるリスク物標に関する情報であり、車両に搭載された自律センサにより取得される周辺状況情報から抽出される。ただし、本実施形態に係る運転支援システムでは、予測リスクベクトルの決定に用いられる情報はリスク物標情報だけではない。
【0020】
本実施形態に係る運転支援システムは、リスク物標に影響を与える自然現象に関する情報をリスク値の決定に使用する。衝突リスクは、リスク物標それだけで決まるのではなく、それを取り巻く自然現象の影響を受けている。以下、リスク物標に影響を与える自然現象に関する情報を自然現象情報と称する。リスク物標情報は予測リスクベクトル及びその予測確度の基本値を決定する情報であり、自然現象情報は基本値を補正する補正項又は補正係数を与える情報であるともいえる。
【0021】
運転支援制御では、衝突リスクを回避するように車両を動作させる車両制御が行われる。リスク回避のための車両制御には、制動アクチュエータを操作して車両を制動する制動制御と、操舵アクチュエータを操作して車両を操舵する操舵制御の少なくとも1つが含まれる。上述のリスク値、より詳しくは、リスク値の分布であるリスクポテンシャル場は、各アクチュエータの操作量の決定に用いられる。
【0022】
以下、顕在リスクを回避対象として行われる運転支援制御を顕在リスク回避制御と称し、潜在リスクを回避対象として行われる運転支援制御を潜在リスク回避制御と称する。次の章では、顕在リスク回避制御と潜在リスク回避制御のそれぞれについてより詳細に説明する。
【0023】
1-2.顕在リスク回避制御
図1及び図2は、本実施形態に係る運転支援システム100による顕在リスク回避制御を説明するための概念図である。図1及び図2には、2本の区画線CL1,CL2で定義される走行車線を車両2が走行している様子が描かれている。左側の区画線CL1とその外側のブロック塀BWとの間は路側帯である。図1及び図2には、路側帯内の区画線CL1の近くにいる顕在リスク物標ERとしての歩行者4が認識されている。この歩行者4は仮想歩行者ではなく、自律センサによって認識される実在の歩行者である。
【0024】
顕在リスク物標ERの周りには、顕在リスク物標ERを基点として予測リスクベクトルが生成される。図1に示される例では、顕在リスク物標ERの真下に位置する予測リスクベクトルRV01と、顕在リスク物標ERから車線内側方向に延びる予測リスクベクトルRV02とが生成されている。図2に示される例では、顕在リスク物標ERの真下に位置する予測リスクベクトルRV03と、顕在リスク物標ERから車線内側方向に延びる予測リスクベクトルRV04とが生成されている。顕在リスク物標ERの真下に位置する予測リスクベクトルRV01,RV03はゼロベクトルであり、顕在リスク物標ERが停止することを予測している。
【0025】
図1及び図2において、各予測リスクベクトルの色の濃さは各予測リスクベクトルの予測確度の高さを示している。一つの顕在リスク物標ERから生じる予測リスクベクトルの予測確度の合計は100%である。ゆえに、図1において予測リスクベクトルRV01の予測確度と予測リスクベクトルRV02の予測確度との合計は100%である。図2において予測リスクベクトルRV03の予測確度と予測リスクベクトルRV04の予測確度との合計は100%である。本実施形態では、予測リスクベクトルの予測確度は高、中、低のいずれかであり、図中では予測確度が高い順に予測リスクベクトルは濃い色で表示されている。
【0026】
予測リスクベクトルの方向、大きさ、及び確度は運転支援システム100によって決定される。顕在リスク回避制御の場合、運転支援システム100は、自律センサにより取得された車両2の周辺状況情報から顕在リスク物標ERに関するリスク物標情報を抽出するとともに、自然現象IF01,IF02に関する自然現象情報を取得する。顕在リスク物標ERの他の例として、路側帯に存在する自転車、二輪車、駐車車両等が挙げられる。顕在リスク物標ERの更に他の例として、車線を走行する自転車、二輪車、車両等も挙げられる。顕在リスク物標ERに影響する自然現象の具体例は、後述する顕在リスク回避制御の実施例において説明される。
【0027】
運転支援システム100は、リスク物標情報と自然現象情報とに基づいて予測リスクベクトルを決定する。顕在リスク物標ERが共通の場合、リスク物標情報には違いはないため、自然現象IF01,IF02の違いによって、予測リスクベクトルに違いが生じる。例えば、図2に示される予測リスクベクトルRV04は、図1に示される予測リスクベクトルRV02よりも車線内側方向に長く伸びており、且つ、予測確度も高い。これは、図2における自然現象IF02の方が図1における自然現象IF01よりも衝突リスクに与える影響が大きいことによる。
【0028】
運転支援システム100は、予測リスクベクトルに基づいて車両2の目標軌跡を生成する。目標軌跡は、目標ルートにおいて車両2が進む軌跡であり、車両座標系での車両2の目標位置の集合と、各目標点での目標速度とを含む。典型的には、車両2が走行車線の中央を法定速度に則って走行するように目標軌跡は生成される。図1に示される例では、予測リスクベクトルRV02は短く予測確度も低いため、車両2と顕在リスク物標ERとの衝突を回避するためには、目標軌跡TR01をわずかに右側に膨らませればよい。図2に示される例では、予測リスクベクトルRV04は車両2が走行する車線の中程まで延びており、且つ、予測確度は予測リスクベクトルRV02よりも高い。このため、図2に示される例では、予測リスクベクトルRV04を右側に大きく迂回するような目標軌跡TR02が生成される。
【0029】
運転支援システム100は、車両2が目標軌跡に追従するように各アクチュエータの操作量を決定する。目標軌跡は予測リスクベクトルに基づいて生成されているので、車両2を目標軌跡に追従させることは、顕在リスク物標ERにより生じた衝突リスクを低減するように各アクチュエータの操作量が決定されることを意味する。
【0030】
顕在リスク回避制御によれば、リスク物標情報に自然現象情報を加えて予測リスクベクトルを決定することで、衝突リスクの低減のために行われるアクチュエータ操作への介入を適度なものにすることができる。これにより、ドライバに与える煩わしさや不安感を抑制しながら、車両2の前方に存在する顕在リスク物標ERによって生じる衝突リスクを低減することができる。
【0031】
1-3.潜在リスク回避制御
図3及び図4は、本実施形態に係る運転支援システム100による潜在リスク回避制御を説明するための概念図である。図1及び図2には、車両2が2本の区画線CL1,CL2で定義される走行車線を走行している様子が描かれている。走行車線の右側には脇道が接続している。脇道の存在は地図情報から取得することができる。脇道の手前には、潜在リスク物標PRとしての建物が認識されている。潜在リスク物標PRは、車両2の前方に存在し、車両2から死角となる領域を作る物標と定義される。車両2から死角となる領域とは、より詳しくは、車両2に搭載された自律センサにとって死角となる領域を意味する。潜在リスク物標PRそれ自体は自律センサによって認識することができる。
【0032】
潜在リスク物標PRによって、脇道には車両2からは見えない死角が生成される。潜在リスク回避制御では、潜在リスク物標PRの陰には仮想歩行者6が存在しているものと仮定される。そして、仮想歩行者6を基点として予測リスクベクトルが生成される。図3に示される例では、仮想歩行者6の真下に位置する予測リスクベクトルRV05と、仮想歩行者6から車線内側方向に延びる予測リスクベクトルRV06とが生成されている。図4に示される例では、仮想歩行者6の真下に位置する予測リスクベクトルRV07と、仮想歩行者6から車線内側方向に延びる予測リスクベクトルRV08とが生成されている。仮想歩行者6の真下に位置する予測リスクベクトルRV06,RV08はゼロベクトルであり、仮想歩行者6が停止することを予測している。図3及び図4における各予測リスクベクトルの色の濃さは各予測リスクベクトルの予測確度の高さを示している。
【0033】
予測リスクベクトルの方向、大きさ、及び確度は運転支援システム100によって決定される。潜在リスク回避制御の場合、運転支援システム100は、自律センサにより取得された車両2の周辺状況情報から潜在リスク物標PRに関するリスク物標情報を抽出するとともに、自然現象IF03,IF04に関する自然現象情報を取得する。潜在リスク物標PRの他の例として、交差点やT字路のコーナー部分に存在するブロック塀、壁、路側帯に存在する駐車車両等が挙げられる。
【0034】
運転支援システム100は、リスク物標情報と自然現象情報とに基づいてリスク値を決定する。潜在リスク物標PRが共通の場合、リスク物標情報には違いはないため、自然現象IF03,IF04の違いによって、予測リスクベクトルに違いが生じる。例えば、図4に示される予測リスクベクトルRV08は、図3に示される予測リスクベクトルRV06よりも車線内側方向に長く伸びており、且つ、予測確度も高い。これは、図4における自然現象IF04の方が図3における自然現象IF03よりも衝突リスクに与える影響が大きいことによる。
【0035】
運転支援システム100は、予測リスクベクトルに基づいて車両2の目標軌跡を生成する。図3に示される例では、予測リスクベクトルRV06は短く予測確度も低いため、予測リスクベクトルRV06と干渉しないように目標軌跡TR03を引くことができる。図4に示される例では、予測リスクベクトルRV08は車両2が走行する車線の中程まで延びており、且つ、予測確度は予測リスクベクトルRV06よりも高い。このため、図4に示される例では、予測リスクベクトルRV08を右側に大きく迂回するような目標軌跡TR04が生成される。
【0036】
運転支援システム100は、車両2が目標軌跡に追従するように各アクチュエータの操作量を決定する。目標軌跡は予測リスクベクトルに基づいて生成されているので、車両2を目標軌跡に追従させることは、潜在リスク物標PRにより生じた衝突リスクを低減するように各アクチュエータの操作量が決定されることを意味する。
【0037】
潜在リスク回避制御によれば、リスク物標情報に自然現象情報を加えて予測リスクベクトルを決定することで、衝突リスクの低減のために行われるアクチュエータ操作への介入を適度なものにすることができる。これにより、ドライバに与える煩わしさや不安感を抑制しながら、車両2の前方に存在する潜在リスク物標PRによって生じる衝突リスクを低減することができる。
【0038】
2.本実施形態に係る運転支援システムの構成及び機能
2-1.運転支援システムの構成
図5は、本実施形態に係る運転支援システム100とそれが適用された車両2の構成例を示す図である。車両2は、車両2を制御する制御装置20と、制御装置20に情報を入力するセンサ群10と、制御装置20から出力される信号によって動作する車両アクチュエータ30とを備える。制御装置20と、センサ群10及び車両アクチュエータ30とは車内ネットワークによって接続されている。運転支援システム100は、少なくとも制御装置20を含む。ただし、運転支援システム100は、制御装置20に加えてセンサ群10を含んでいてもよい。また、運転支援システム100は、さらに車両アクチュエータ30を含んでいてもよい。
【0039】
センサ群10は、自律センサ11、車両状態センサ12、位置センサ13、及びカメラ14を含む。自律センサ11は、車両2の前方の領域を含む車両の周辺状況の情報を取得するセンサである。自律センサ11は、カメラ、ミリ波レーダ、及びLiDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)のうちの少なくとも1つを含む。自律センサ11で得られた情報に基づき、車両2の周囲に存在する物体の検知、検知した物体の車両2に対する相対位置や相対速度の計測、及び検知した物体の形状の認識等の処理が行われる。車両状態センサ12は、車両2の運動に関する情報を取得するセンサである。車両状態センサ12は、例えば車輪速センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ、及び操舵角センサのうちの少なくとも1つを含む。位置センサ13は、車両2の現在位置に関する情報の取得に用いられる。位置センサ13としては、GPS(Global Positioning System)受信機が例示される。カメラ14は、車両2の周囲で起きている自然現象の認識に用いられる。カメラ14によって認識される自然現象には、例えば、雨、雪、霧、太陽光の向きが含まれる。なお、カメラ14は自律センサ11のカメラと兼用されてもよい。
【0040】
車両アクチュエータ30は、車両2の運動を制御するアクチュエータである。車両アクチュエータ30は、車両2を操舵する操舵アクチュエータ31、車両2を駆動する駆動アクチュエータ32、及び車両2を制動する制動アクチュエータ33を含む。操舵アクチュエータ31には、例えば、パワーステアリングシステム、ステアバイワイヤ操舵システム、及び後輪操舵システムが含まれる。駆動アクチュエータ32には、例えば、エンジン、EVシステム、及びハイブリッドシステムが含まれる。制動アクチュエータ33には、例えば、油圧ブレーキ、及び電力回生ブレーキが含まれる。
【0041】
制御装置20は、車両2に搭載されるECU(Electronic Control Unit)、或いは、複数のECUの集合体である。或いは、制御装置20は、その一部の機能或いは全部の機能を外部のサーバに配置されてもよい。その場合、車両2とサーバとは移動体通信ネットワークで接続される。いずれにしても、制御装置20は、少なくとも1つのプロセッサ21(以下、単にプロセッサという)と、プロセッサ21に通信可能に結合された1つ又は複数のメモリ(以下、単にメモリという)22とを有する。メモリ22はプログラムメモリを含む。プログラムメモリはコンピュータで読み取り可能な記録媒体である。プログラムメモリには、プロセッサ21で実行可能な複数のインストラクションからなる運転支援プログラム23が記憶されている。運転支援プログラム23は前述の運転支援制御をプロセッサ21に実行させるためのプログラムである。また、メモリ22には、運転支援プログラム23に関連する運転環境情報24とリスク情報25とが記憶されている。
【0042】
2-2.メモリに記憶される情報
運転環境情報24は、車両2の運転環境を示す情報である。運転環境情報24は、例えば、車両位置情報、車両状態情報、及び地図情報を含む。車両位置情報は、位置センサ13による検出結果から得られる車両2の位置及び方位を示す情報である。車両状態情報は、車両状態センサ12による検出結果から得られる車速、ヨーレート、横加速度、操舵角などの情報である。地図情報は、例えば、車線配置と道路形状とを含む。制御装置20は、地図データベースから必要なエリアの地図情報を取得する。地図データベースは、車両2に搭載されている所定のメモリに格納されていてもよいし、車両2の外部のサーバから取得されてもよい。
【0043】
運転環境情報24は、さらに、車両2の周囲の状況を示す周辺状況情報を含む。周辺状況情報は、自律センサ11によって得られた情報、例えば、カメラによって撮像された車両2の周囲の状況を示す画像情報と、ミリ波レーダやLiDARによって計測された計測情報とを含む。
【0044】
周辺状況情報は、さらに、道路構成情報を含む。道路構成情報は、車両2の周囲の道路構成の車両2に対する相対位置に関する情報である。車両2の周囲の道路構成は、区画線及び道路端物体を含む。道路端物体は、道路の端を示す立体物であって、例えば、縁石、ガードレール、壁、及び中央分離帯を含む。これらの道路構成の相対位置は、例えば、カメラによって得られた画像情報を解析することによって取得することができる。
【0045】
周辺状況情報は、さらに、物標情報を含む。物標情報は、車両2の周囲の物標に関する情報である。物標情報は、車両2に対する物標の相対位置及び相対速度を含む。例えば、カメラによって得られた画像情報を解析することによって物標を識別し、その物標の相対位置を算出することができる。また、レーダ計測情報に基づいて物標を識別し、その物標の相対位置と相対速度を取得することもできる。また、物標情報は、認識された物標の大きさと種類を含む。物標情報は、物標の移動方向や移動速度を含んでいてもよい。さらに、物標情報は、過去の一定期間の間の物標の相対位置、相対速度、移動方向、及び移動速度の履歴を含んでいてもよい。物標は前述の顕在リスク物標と潜在リスク物標とを含み、物標情報は前述のリスク物標情報を含む。
【0046】
運転環境情報24は、さらに、自然現象情報を含む。自然現象情報は、車両2の衝突リスクに影響を与える自然現象に関する情報である。自然現象情報の例としては、天候に関する情報と、リスク物標から車両2を見たときの逆光に関する情報とを挙げることができる。自然現象情報はリスク物標情報と関連付けて記憶される。
【0047】
リスク情報25は、車両2が走行する道路上の予測リスクベクトルとその予測確度とに関する情報である。車両座標系或いは絶対座標系における予測リスクベクトルとその予測確度がリスク情報25として記憶される。予測リスクベクトル及び予測確度は、リスク物標情報と自然現象情報とに基づいてプロセッサ21により計算される。
【0048】
2-3.プロセッサにより実行される処理
図6は、運転支援プログラム23の実行時、プロセッサ21により実行される処理を示すブロック図である。運転支援プログラム23の実行により、プロセッサ21は、処理211、処理212、処理213、処理214、及び処理215を実行する。
【0049】
まず、プロセッサ21は処理211を実行する。処理211により、自律センサ11から周辺状況情報が取得される。厳密に言えば、自律センサ11で検出された周辺状況情報はメモリ22に一時記憶され、一時記憶された周辺状況情報がプロセッサ21に読み出される。
【0050】
次に、プロセッサ21は処理212を実行する。処理212により、周辺状況情報に含まれる物標情報の中から、衝突リスクを生じさせる存在であるリスク物標に関するリスク物標情報が抽出される。車両2の前方に存在する物標がリスク物標かどうかは、物標の相対位置、相対速度、大きさ、及び種類などから判定される。車両2の前方に存在する全てのリスク物標について、周辺状況情報からリスク物標情報が抽出される。
【0051】
プロセッサ21は処理212と並行して処理213を実行する。処理213により、認識されたリスク物標に影響を与える自然現象情報がセンサ群10から取得される。なお、リスク物標が顕在リスク物標である場合、リスク物標に影響を与える自然現象とは、顕在リスク物標そのものからの車両2に対する視認性に影響を与える自然現象を意味する。一方、リスク物標が潜在リスク物標である場合、リスク物標に影響を与える自然現象とは、潜在リスク物標の死角に潜む仮想の物体からの車両2に対する視認性に影響を与える自然現象を意味する。プロセッサ21は、認識されたリスク物標ごとに、そのリスク物標に影響を与える全ての自然現象について、センサ群10から自然現象情報を取得する。
【0052】
処理212及び処理213の実行後、プロセッサ21は処理214を実行する。処理214により、リスク物標情報と自然現象情報とに基づいて衝突リスクを定量化したリスクパラメータ、すなわち、予測リスクベクトルとその予測確度が決定される。プロセッサ21は、リスク物標情報に基づいて予測リスクベクトルの基本リスクベクトル及び基本確度を計算する。次に、プロセッサ21は、自然現象情報に基づいて予測リスクベクトルの大きさ及び予測確度を基本値から補正する。例えば、自然現象が車両2の横方向(図1中のX方向)の衝突リスクを増大させるように影響するのであれば、プロセッサ21は、横方向の予測リスクベクトルの大きさを増大させるとともにその予測確度を増大させる。
【0053】
処理214の実行後、プロセッサ21は処理215を実行する。処理215により、処理214で決定された予測リスクベクトル及び予測確度に基づいてアクチュエータ操作量が決定される。詳しくは、予測リスクベクトル及び予測確度に基づいて衝突リスクが小さい目標軌跡が生成され、車両2を目標軌跡に追従させるためのアクチュエータ操作量が決定される。プロセッサ21は処理215で決定されたアクチュエータ操作量に従って車両アクチュエータ30を操作する。プロセッサ21による操舵アクチュエータ31の操作によって車両2の操舵が制御される。プロセッサ21による駆動アクチュエータ32の操作によって車両2の駆動が制御される。プロセッサ21による制動アクチュエータ33の操作によって車両2の制動が制御される。
【0054】
2-4.リスクパラメータ決定処理の具体例
図7は、プロセッサ21により実行されるリスクパラメータを決定する処理214の具体例を示すフローチャートである。処理214では、プロセッサ21は、ステップS01、ステップS02、ステップS03、ステップS04、ステップS05、及びステップS06を実行する。
【0055】
ステップS01では、プロセッサ21はリスク物標情報に基づき予測リスクベクトルの候補を挙げる。ここで挙げられる各予測リスクベクトルは、自然現象情報は考慮されてない基本リスクベクトルである。ステップS02では、プロセッサ21は各予測リスクベクトルについてその予測確度を計算する。ここで計算される予測確度は、自然現象情報は考慮されてない基本確度である。
【0056】
次に、ステップS03では、プロセッサ21は、歩行者や対向車の車両2に対する視認性に影響する自然現象が発生しているかどうか、自然現象情報に基づき判定する。なお、ここで挙げた歩行者や対向車は、顕在リスク物標の一例、或いは、潜在リスク物標の死角に潜む仮想の物体の一例である。上記のような自然現象が発生していない場合、プロセッサ21による処理はステップS04に進む。上記のような自然現象が発生している場合、プロセッサ21による処理はステップS05,S06を経てステップS04に進む。
【0057】
ステップS05では、プロセッサ21は、歩行者や対向車が車両2の走行領域に飛び出すと仮定する場合の飛び出し速度を高くする。すなわち、各予測リスクベクトルのうち車両2の走行車線に向かう予測リスクベクトルの大きさを大きくする。ステップS06では、プロセッサ21は、ステップS06で大きくされた予測リスクベクトル、すなわち、車両2の走行領域と将来交わる予測リスクベクトルの予測確度を高くする。
【0058】
ステップS04では、プロセッサ21は以上のようにして決定された各予測リスクベクトル及びその予測確度を車両2の挙動に反映させる。すなわち、処理215におけるアクチュエータ操作量の決定に反映させる。
【0059】
3.運転支援制御の実施例
3-1.第1実施例
図8及び図9は、運転支援システム100による運転支援制御の第1実施例を説明するための概念図である。運転支援制御の第1実施例は、顕在リスク回避制御の実施例である。図8及び図9のそれぞれには、車両2の車内から前方を見た図が描かれている。第1実施例では、左側の区画線CL1の外側の路側を歩行者4が歩いている。運転支援システム100は、車両2の前方に存在し、車両2に衝突する可能性のある歩行者4を顕在リスク物標として認識する。運転支援システム100は、顕在リスク物標である歩行者4に関する物標情報を周辺状況情報からリスク物標情報として抽出する。
【0060】
歩行者4によって生じる衝突リスクとは、歩行者4が区画線CL1を超えて車両2が走行している走行車線内に飛び出してくることによって車両2が歩行者4と衝突するリスクである。この衝突リスクは自然現象に左右される。第1実施例における自然現象は天候である。
【0061】
図8に示される例では、天候は晴れ又は曇りである。運転支援システム100は、顕在リスク物標である歩行者4に対して、区画線CL1と平行な方向の予測リスクベクトルRV11と、車両2が走行している走行車線内に向かう予測リスクベクトルRV12とを生成する。予測リスクベクトルRV11と予測リスクベクトルRV12は、ともに自然現象情報による補正を受けていない基本リスクベクトルである。予測リスクベクトルRV11は歩行者4が現在歩いている方向のベクトルであり、歩行者4の移動速度に基づいて生成される。予測リスクベクトルRV12は、歩行者4が突然に走行車線内に飛び出すと仮定した場合のベクトルである。
【0062】
晴れた日及び曇りの日は歩行者4からの車両2に対する視認性は良好であるため、歩行者4が車両に2に気付かずに走行車線内に飛び出してくる可能性は低い。よって、天候が晴れ又は曇りの場合、走行車線内に向かう予測リスクベクトルRV12は小さく、且つ、その予測確度は低く計算される。運転支援システム100は、走行車線内に延びる予測リスクベクトルRV12を避けるように中央より僅かに右側に膨らんだ目標軌跡TR11を生成する。運転支援システム100は、車両2が目標軌跡TR11に追従するように各アクチュエータの操作量を決定する。
【0063】
図9に示される例では、天候は雨である。運転支援システム100は、顕在リスク物標である歩行者4に対して、区画線CL1と平行な方向の予測リスクベクトルRV13と、車両2が走行している走行車線内に向かう予測リスクベクトルRV14とを生成する。予測リスクベクトルRV13は歩行者4が現在歩いている方向のベクトルであり、予測リスクベクトルRV14は、歩行者4が突然に走行車線内に飛び出すと仮定した場合のベクトルである。
【0064】
雨は歩行者4に影響を与える自然現象である。雨の日には、雨や傘により歩行者4からの車両2に対する視認性は悪化するため、歩行者4が車両に2に気付かずに走行車線内に飛び出してくる可能性は増大する。よって、天候が雨の場合、走行車線内に向かう予測リスクベクトルRV14は、晴れた日や曇りの日の予測リスクベクトルRV12に比較して大きくされ、且つ、その予測確度は大きく計算される。運転支援システム100は、走行車線の中ほどまで延びる予測リスクベクトルRV14を右側に大きく迂回するような目標軌跡TR12を生成する。運転支援システム100は、車両2が目標軌跡TR12に追従するように各アクチュエータの操作量を決定する。
【0065】
なお、第1実施例では歩行者に影響を与える自然現象として雨が例示されているが、雪や霧も歩行者に影響を与える自然現象に含まれる。降雪時や霧の発生時には歩行者からの自車両に対する視認性は悪化する。ゆえに、降雪時や霧の発生時にも歩行者から走行車線内に向かう予測リスクベクトルは大きくされ、且つ、その予測確度は大きく計算される。また、雨、雪、及び霧の日に自車両に対する視認性が悪化することは、対向車や自転車等の歩行者以外の顕在リスク物標にも当てはまる。
【0066】
3-2.第2実施例
図10及び図11は、運転支援システム100による運転支援制御の第2実施例を説明するための概念図である。運転支援制御の第2実施例は、顕在リスク回避制御の実施例である。図10及び図11のそれぞれには、車両2の車内から前方を見た図が描かれている。第2実施例では、隣接する車線を対向車8が走行している。運転支援システム100は、車両2の前方に存在し、車両2に衝突する可能性のある対向車8を顕在リスク物標として認識する。運転支援システム100は、顕在リスク物標である対向車8に関する物標情報を周辺状況情報からリスク物標情報として抽出する。
【0067】
対向車8によって生じる衝突リスクとは、対向車8が区画線CL2を超えて車両2が走行している走行車線内に飛び出してくることによって車両2が対向車8と衝突するリスクである。この衝突リスクは自然現象に左右される。第2実施例における自然現象は対向車8から車両2をみたときの逆光である。
【0068】
図10に示される例では、太陽は対向車8から見て車両2の方向には位置していない。運転支援システム100は、顕在リスク物標である対向車8に対して、対向車8が走行している隣接車線に沿った方向の予測リスクベクトルRV21と、車両2が走行している走行車線内に向かう予測リスクベクトルRV22とを生成する。予測リスクベクトルRV21と予測リスクベクトルRV22は、ともに自然現象情報による補正を受けていない基本リスクベクトルである。予測リスクベクトルRV21は対向車8が現在移動している方向のベクトルであり、対向車8の移動速度に基づいて生成される。予測リスクベクトルRV22は、対向車8が走行車線内に進入してくると仮定した場合のベクトルである。
【0069】
太陽が対向車8から見て車両2の方向に位置していなければ、対向車8にとっては逆光にはならない。このため、対向車8からの車両2に対する視認性は良好であるため、対向車8が車両に2に気付かずに走行車線内に進入してくる可能性は低い。よって、対向車8にとって逆光になっていない場合、走行車線内に向かう予測リスクベクトルRV22は小さく、且つ、その予測確度は低く計算される。運転支援システム100は、走行車線内に僅かに入り込む予測リスクベクトルRV22を避けるように中央より僅かに左側を通る目標軌跡TR21を生成する。運転支援システム100は、車両2が目標軌跡TR21に追従するように各アクチュエータの操作量を決定する。
【0070】
図11に示される例では、太陽300は車両2のルームミラーに映る位置、すなわち、対向車8から見て車両2の方向に位置している。運転支援システム100は、顕在リスク物標である対向車8に対して、対向車8が走行している隣接車線に沿った方向の予測リスクベクトルRV23と、車両2が走行している走行車線内に向かう予測リスクベクトルRV24とを生成する。予測リスクベクトルRV23は対向車8が現在移動している方向のベクトルであり、予測リスクベクトルRV24は、対向車8が走行車線内に進入してくると仮定した場合のベクトルである。
【0071】
太陽が対向車8から見て車両2の方向に位置している場合、車両2の側から太陽光302が対向車8のフロントガラスに入射する。すなわち、対向車8にとっては逆光になる。逆光は対向車8に影響を与える自然現象である。対向車8にとって逆光になっている場合、対向車8からの車両2に対する視認性は悪化するため、対向車8が車両に2に気付かずに走行車線内に進入してくる可能性は増大する。よって、対向車8にとって逆光の場合、走行車線内に向かう予測リスクベクトルRV24は、逆光でない場合の予測リスクベクトルRV22に比較して大きくされ、且つ、その予測確度は大きく計算される。運転支援システム100は、走行車線内に大きく入り込む予測リスクベクトルRV24を左側に大きく避けるような目標軌跡TR22を生成する。運転支援システム100は、車両2が目標軌跡TR22に追従するように各アクチュエータの操作量を決定する。
【0072】
なお、第2実施例では顕在リスク物標として対向車が例示されているが、歩行者にとっても逆光は自車両に対する視認性を悪化させる要因となる。ゆえに、歩行者にとって逆光の場合も、歩行者から走行車線内に向かう予測リスクベクトルは大きくされ、且つ、その予測確度は大きく計算される。
【0073】
4.その他実施形態
リスクパラメータは、車両座標系或いは絶対座標系におけるリスク値の分布として与えることもできる。このリスク値の分布はリスクポテンシャル場と定義される。典型的には、リスク値は、衝突を回避する対象物体の位置、対象物体からの距離、対象物体の種別、対象物体の大きさ、対象物体の変位速度などの対象物体に関する情報に応じて定義される。なお、車両座標系と絶対座標系とは座標変換が可能である。
【0074】
例えば、図12に示されるように、顕在リスク物標ERである歩行者4の周りには、歩行者4を中心に広がるリスクポテンシャル場RF01が生成される。リスクポテンシャル場RF01は、リスク値の大きさが同じ点の集合をつないだ等高線で表すことができる。これらの例では、中心に近い等高線ほどリスク値が大きく、外側の等高線ほどリスク値が小さい。リスクポテンシャル場RF01を形成する各位置のリスク値は運転支援システム100によって決定される。
【0075】
顕在リスク回避制御の場合、運転支援システム100は、自律センサにより取得された車両2の周辺状況情報から顕在リスク物標ERに関するリスク物標情報を抽出するとともに、自然現象IF05に関する情報である自然現象情報を取得する。運転支援システム100は、リスク物標情報と自然現象情報とに基づいてリスク値を決定する。決定されたリスク値の分布がリスクポテンシャル場RF01である。
【0076】
顕在リスク物標ERが共通の場合、リスク物標情報には違いはないため、自然現象情報の違いによって、リスクポテンシャル場の大きさに違いが生じる。例えば、図13に示されるリスクポテンシャル場RF02は、図12に示されるリスクポテンシャル場RF01よりも広い。これは、図13における自然現象IF06の方が図12における自然現象IF05よりも衝突リスクに与える影響が大きいことによる。
【0077】
運転支援システム100は、リスクポテンシャル場に基づいて車両2の目標軌跡を生成する。図12に示される例では、リスクポテンシャル場RF01は狭いため、目標軌跡TR03をリスクポテンシャル場RF01と干渉させないためには、目標軌跡TR05をわずかに右側に膨らませればよい。図13に示される例では、リスクポテンシャル場RF02は、車両2が走行する走行車線の中程まで大きく広がっている。このため、図13に示される例では、リスクポテンシャル場RF02を右側に大きく迂回するような目標軌跡TR06が生成される。
【0078】
なお、上述のリスクポテンシャル場を用いたリスク回避制御は、顕在リスク回避制御だけでなく潜在リスク回避制御でも用いることができる。
【符号の説明】
【0079】
2 車両
4 歩行者
6 仮想歩行者
8 対向車
100 運転支援システム
CL1,CL2 区画線
ER 顕在リスク物標
PR 潜在リスク物標
IF01,IF02,IF03,IF04 自然現象
RV01,RV02,RV03,RV04,RV11,RV12,RV13,RV14,RV21,RV22,RV23,RV24 予測リスクベクトル
RF01,RF02 リスクポテンシャル場
TR01,TR02,TR03,TR04,TR05,TR06,TR11,TR12,TR21,TR22 目標軌跡
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13