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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184104
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】動圧軸受および流体動圧軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 17/04 20060101AFI20231221BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
F16C17/04 A
F16C17/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098050
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】小松原 慎治
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 冬木
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 稔明
(72)【発明者】
【氏名】山郷 正志
【テーマコード(参考)】
3J011
【Fターム(参考)】
3J011AA06
3J011BA02
3J011CA03
3J011JA02
3J011KA04
3J011LA04
3J011MA03
3J011RA03
(57)【要約】
【課題】全長(軸方向長さ)が短い軸受であっても、振れ回りを支持できる動圧軸受の提供、組立コストの増大を招くことなく、ロータの振れ回りを支持でき、かつオイル漏れを防止することが可能な流体動圧軸受装置を提供する。
【解決手段】内径面に複数のラジアル動圧溝と、軸方向一方の端面に複数のスラスト動圧溝とを有する動圧軸受である。スラスト動圧溝は潤滑油を外径側から内径側へ押し込むポンプインタイプとする。スラスト動圧溝の溝深さは内径側よりも外径側を浅く設定している。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径面に複数のラジアル動圧溝と、軸方向一方の端面に複数のスラスト動圧溝とを有する動圧軸受であって、
前記スラスト動圧溝は潤滑油を外径側から内径側へ押し込むポンプインタイプとし、前記スラスト動圧溝の溝深さは内径側よりも外径側を浅く設定していることを特徴とする動圧軸受。
【請求項2】
前記スラスト動圧溝の外径側溝深さが内径側溝深さの半分以下であることを特徴とする請求項1に記載の動圧軸受。
【請求項3】
溝深さが浅い外径側のスラスト動圧溝の内径寸法をD1とし、動圧軸受内径寸法をDaとし、動圧軸受外径寸法をDbとし、軸受外径面取り寸法をaとしたときに、(Da+Db)/2<D1<(Db-2a)とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の動圧軸受。
【請求項4】
内径面に複数のラジアル動圧溝と、軸方向一方の端面に複数のスラスト動圧溝とを有する動圧軸受であって、
前記スラスト動圧溝は潤滑油を外径側から内径側へ押し込むポンプインタイプとし、前記スラスト動圧溝は、内径側のスラスト動圧溝群と外径側のスラスト動圧溝群とを備え、外径側のスラスト動圧溝群の溝本数を内径側のスラスト動圧溝群の溝本数よりも多く設定されていることを特徴とする動圧軸受。
【請求項5】
外径側のスラスト動圧溝群の溝本数が内径側のスラスト動圧溝群の溝本数の2倍以下であることを特徴とする請求項4に記載の動圧軸受。
【請求項6】
各スラスト動圧溝の半径方向溝幅を一定としたことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の動圧軸受。
【請求項7】
外径側のスラスト動圧溝の内径端径寸法をD2とし、動圧軸受内径寸法をDaとし、動圧軸受外径寸法をDbとし、軸受外径面取り寸法をaとしたときに、(Da+Db)/2<D2<(Db-2a)とすることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の動圧軸受。
【請求項8】
内径面に複数のラジアル動圧溝と、軸方向一方の端面に複数のスラスト動圧溝とを有する動圧軸受であって、
前記スラスト動圧溝は潤滑油を外径側から内径側へ押し込むポンプインタイプとし、前記スラスト動圧溝の溝深さは内径側よりも外径側を浅く設定している第1のスラスト動圧溝群と、溝本数は内径側よりも外径側が多く設定されている第2のスラスト動圧溝群とを有することを特徴とする動圧軸受。
【請求項9】
請求項1又は請求項4に記載の動圧軸受と、前記動圧軸受の内周に挿入される軸部材と、この軸部材の軸方向一方側に付設されるロータとを備えた流体動圧軸受装置であって、
前記動圧軸受の内周面と前記軸部材の外周面との間のラジアル軸受隙間に生じる流体圧力で前記軸部材をラジアル方向に相対支持するラジアル軸受部と、前記動圧軸受の軸方向一方側の軸方向端面と前記ロータの軸受対向面との間のスラスト軸受隙間に生じる流体圧力で前記軸部材をスラスト方向に相対支持するスラスト軸受部とを備えたことを特徴とする流体動圧軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動圧軸受および流体動圧軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ファンモータ等の小型モータにおける軸部材の支持に使用される動圧軸受として、特許文献1に記載のように、軸受の軸方向両端面に、潤滑油Oを外径側から内径側へ押し込むポンプインタイプのスラスト動圧溝を備えたものがある。スラスト動圧溝に、図10図11に示すポンプインタイプと、図12図13に示すポンプアウトタイプとがある。
【0003】
図11図13に示すファンモータは、動圧軸受51と、動圧軸受の内周に挿入される軸部材52と、この軸部材52の軸方向一方側に付設されるロータ53とを備えたものである。この場合の動圧軸受51は、内径面51aに複数のラジアル動圧溝(図示省略)と、軸方向一方の端面に複数のスラスト動圧溝55(図10参照)とを有する。すなわち、動圧軸受51の内周面51aと軸部材52の外周面52aとの間に設けられるラジアル軸受隙間に生じる流体圧力で軸部材をラジアル方向に相対支持するラジアル軸受部70が形成される。動圧軸受51の一方の端面51bとロータ53の内面53aとの間のスラスト軸受隙間に生じる流体圧力で軸部材52をスラスト方向に相対支持するスラスト軸受部71が形成される。
【0004】
ポンプインタイプのスラスト動圧溝55(55A)は、図10に示すように、軸部材の回転(矢印Aの回転)に伴って、外径側から内径側に潤滑油Oを押し込むように作用する方向のスパイラル形状となっている。図10において、クロスハッチングを施している部位が丘56を示している。このため、図11の矢印B1で示すように、外径側から内径側に潤滑油Oが引き込まれることになる。
【0005】
ポンプアウトタイプのスラスト動圧溝55(55B)は、図12に示すように、軸部材52の回転(矢印Aの回転)に伴って、内径側から外径側に潤滑油Oを押し込むように作用する方向のスパイラル形状となっている。なお、図12において、クロスハッチングを施している部位が丘56を示している。図13の矢印B2で示すように、内径側から外径側に潤滑油が引き込まれることになる。
【0006】
従来におけるこの種のスラスト動圧溝55においては、内径側の圧力を高めるため、図14に示すように、半径方向の溝幅が外径側に向かって末広がりの形状となっている。また、図15は動圧発生原理を示し、軸60に対する軸受対向面61に動圧溝62が設けられ、これによって、対向面61にこの動圧溝62に隣接して丘63が設けられる。このため、軸外周面60aと丘外面63aとの間のすきまG1が設けられ、軸外周面60aと動圧溝溝底62aとの間にすきまG2が設けられる。この場合、G1<G2である。
【0007】
従って、軸60が矢印C方向に回転すれば、すきまG2において潤滑油Oが矢印D方向に流れ、すきまG2とすきまG1との間の段差部において、潤滑油Oの流れが密となって、くさび膜効果を発生させて、矢印E方向の動圧力が発生する。
【0008】
このため、圧力を高めるためには、丘63と溝62を増やす必要があるが、図14に示すように、溝幅が外径側に向かって末広がり形状となっていれば、丘63と溝62を増やすスペースがない。
【0009】
ところで、ウルトラブック(インテル社:登録商標)等に使用される冷却ファンモータは一層薄型化が進み、それに使用される軸受の全長(軸方向長さ)の薄型化が必要となる。しかしながら、軸受の軸方向長さが短くなれば、軸受内径面に有する動圧溝(ラジアル動圧溝)に発生する動圧力が小さくなる。
【0010】
また、冷却性能を維持するため、ファンモータの径方向サイズ(ロータ径)を大きくする必要があり、このような場合、軸受に作用する負荷が増加することになる。このため、軸受内径面で発生する動圧力が不足することになる。
【0011】
そこで、軸受の軸方向長さが短くなって、発生する動圧力が小さくなるとともに、径方向サイズ(ロータ径)が大きくなって、発生する動圧力が不足する分を補うため、特許文献1に記載のように、スラスト動圧溝をポンプインタイプとしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2018-31460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、ポンプインタイプの場合、中心側の圧力を高めることが可能であるが、外径側の圧力は相対的に低いため、ロータの振れ回りを支持しにくいものとなっている。また、ポンプインタイプの場合、外径側から内径側に潤滑油が引き込まれ、外径側が負圧になりやすい。ポンプアウトタイプの場合、内径側から外径側へ潤滑油が流れるため、外径側の圧力が高まるため、ロータの振れ回りを支持するためには、ポンプアウトタイプが好ましい。しかしながら、ポンプアウトタイプでは、内径側から外径側へ潤滑油が流れるため、潤滑油漏れ(オイル漏れ)が発生する可能性がある。
【0014】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みて、全長(軸方向長さ)が短い軸受であっても、振れ回りを支持できる動圧軸受の提供、組立コストの増大を招くことなく、ロータの振れ回りを支持でき、かつオイル漏れを防止することが可能な流体動圧軸受装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の動圧軸受は、内径面に複数のラジアル動圧溝と、軸方向一方の端面に複数のスラスト動圧溝とを有する動圧軸受であって、前記スラスト動圧溝は潤滑油を外径側から内径側へ押し込むポンプインタイプとし、前記スラスト動圧溝の溝深さは内径側よりも外径側を浅く設定しているものである。
【0016】
本発明の第1の動圧軸受によれば、スラスト動圧溝はポンプインタイプであるので、軸受内径面で発生する動圧力を高めることができる。しかも、スラスト動圧溝の溝深さは内径側よりも外径側を浅く設定しているので、外径側の圧力を高めることができる。
【0017】
前記スラスト動圧溝の外径側溝深さが内径側溝深さの半分以下であるのが好ましい。このように設定すれば、安定して外径側の圧力を高めることができる。
【0018】
溝深さが浅い外径側のスラスト動圧溝の内径寸法をD1とし、動圧軸受内径寸法をDaとし、動圧軸受外径寸法をDbとし、軸受外径面取り寸法をaとしたときに、(Da+Db)/2<D1<(Db-2a)とするのが好ましい。このように設定すれば、軸受外径面で発生する動圧力を安定して高めることができる。
【0019】
本発明の第2の動圧軸受は、内径面に複数のラジアル動圧溝と、軸方向一方の端面に複数のスラスト動圧溝とを有する動圧軸受であって、前記スラスト動圧溝は潤滑油を外径側から内径側へ押し込むポンプインタイプとし、前記スラスト動圧溝は、内径側のスラスト動圧溝群と外径側のスラスト動圧溝群とを備え、外径側のスラスト動圧溝群の溝本数を内径側のスラスト動圧溝群の溝本数よりも多く設定されているものである。
【0020】
本発明の第2の動圧軸受によれば、スラスト動圧溝はポンプインタイプであるので、軸受内径面で発生する動圧力を高めることができる。しかも、外径側のスラスト動圧溝群の溝本数を内径側のスラスト動圧溝群の溝本数よりも多く設定さているので、半径方向の溝幅が一定になるため、引き込まれるオイル量が減少することで、外径側での負圧発生防止に繋がる。
【0021】
外径側のスラスト動圧溝群の溝本数が内径側のスラスト動圧溝群の溝本数よりも多く、2倍以下であるのが好ましい。このように設定することによって、軸受外径面で発生する動圧力を安定して高め、且つ外径側での負圧発生を有効に抑えることができる。
【0022】
各スラスト動圧溝の半径方向溝幅を一定とするのが好ましい。このように設定することによって、外径側から内径側へ引き込まれる潤滑油量(オイル量)を有効に減少させることができる。
【0023】
外径側のスラスト動圧溝の内径端径寸法をD2とし、動圧軸受内径寸法をDaとし、動圧軸受外径寸法をDbとし、軸受外径面取り寸法をaとしたときに、(Da+Db)/2<D2<(Db-2a)とすることができる。このように設定することによって、外径側の圧力を高めるのに有効となる。
【0024】
本発明の第3の動圧軸受は、内径面に複数のラジアル動圧溝と、軸方向一方の端面に複数のスラスト動圧溝とを有する動圧軸受であって、前記スラスト動圧溝は潤滑油を外径側から内径側へ押し込むポンプインタイプとし、前記スラスト動圧溝の溝深さは内径側よりも外径側を浅く設定している第1のスラスト動圧溝群と、溝本数は内径側よりも外径側が多く設定されている第2のスラスト動圧溝群とを有するものである。
【0025】
本発明の第3の動圧軸受によれば、スラスト動圧溝はポンプインタイプであるので、軸受内径面で発生する動圧力を高めることができる。しかも、第1のスラスト動圧溝群では、スラスト動圧溝の溝深さは内径側よりも外径側を浅く設定しているので、外径側の圧力を高めることができる。
【0026】
本発明の流体動圧軸受装置は、前記動圧軸受と、前記動圧軸受が内嵌されるハウジングと、前記動圧軸受の内周に挿入される軸部材と、この軸部材の軸方向一方側に付設されるロータとを備えた流体動圧軸受装置であって、前記動圧軸受の内周面と前記軸部材の外周面との間のラジアル軸受隙間に生じる流体圧力で前記軸部材をラジアル方向に相対支持するラジアル軸受部と、前記動圧軸受の軸方向一方側の軸方向端面と前記ロータの軸受対向面との間のスラスト軸受隙間に生じる流体圧力で前記軸部材をスラスト方向に相対支持するスラスト軸受部とを備えたものである。
【0027】
本発明の流体動圧軸受装置によれば、スラスト動圧溝はポンプインタイプであるので、軸受内径面で発生する動圧力を高めることができ、外径側の圧力が高まり、ロータの振れ回りを支持することができる。しかも、スラスト動圧溝が軸方向一方側の軸方向端面に設けられるのみであり、組み立て性に優れる。すなわち、ハウジングに動圧軸受を挿入し、この動圧軸受にロータが付設された軸部材を挿入すれば、組み立てることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明では、全長(軸方向長さ)が短い軸受であっても、振れ回りを支持できる動圧軸受の提供、組立コストの増大を招くことなく、ロータの振れ回りを支持でき、かつオイル漏れを防止することが可能な流体動圧軸受装置を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明に係る流体動圧軸受装置が組み込まれたスピンドルモータの断面図である。
図2】本発明に係る動圧軸受が組み込まれたスピンドルモータの要部断面図である。
図3】本発明に係る動圧軸受が組み込まれたスピンドルモータの要部断面図である。
図4】本発明に係る動圧軸受の断面図である。
図5】本発明に係る動圧軸受の平面図である。
図6】スラスト動圧溝を示し、(a)は溝底がテーパ状である動圧溝の簡略断面図であり、(b)は溝深さが深い内径側溝と溝深さが浅い外径側溝とを有する動圧溝の簡略断面図である。
図7】本発明に係る動圧軸受が組み込まれたスピンドルモータの運転状態の模式図である。
図8】スラスト動圧溝の他の実施形態の簡略図である。
図9】圧力分布イメージ図である。
図10】ポンプインタイプのスラスト動圧溝の簡略図である。
図11】ポンプインタイプのスラスト動圧溝の潤滑油の流れを示す簡略図である。
図12】ポンプアウトタイプのスラスト動圧溝の簡略図である。
図13】ポンプアウトタイプのスラスト動圧溝の潤滑油の流れを示す簡略図である。
図14】従来のスラスト動圧溝の簡略図である。
図15】動圧発生原理の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下本発明の実施の形態を図1図9に基づいて説明する。
【0031】
図1に、HDDのディスク駆動装置に用いられるスピンドルモータを示す。このスピン
ドルモータは、本発明の一実施形態に係る動圧軸受8を有する流体動圧軸受装置1と、流体動圧軸受装置1が取り付けられたブラケット6と、半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5とを備えている。ステータコイル4はブラケット6に取り付けられ、ロータマグネット5は流体動圧軸受装置1のハブ3に取り付けられる。ハブ3には、所定枚数のディスク(図示省略)が搭載される。ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間の電磁力でロータマグネット5が回転し、これによりハブ3およびディスクが一体となって回転する。なお、この場合、ハブ3とロータマグネット5等でロータ10を構成している。
【0032】
流体動圧軸受装置1は、図2に示すように、動圧軸受8と、内周に動圧軸受8を保持する有底筒状のハウジング7と、動圧軸受8で回転自在に支持される軸部材2とを備える。また、軸部材2は、ハウジング7の底に設けられてスラスト受け9にて受けられている。なお、図2は、スラスト受け9を有し、図3ではスラスト受け9を有さない場合を示している。
【0033】
軸部材2は、例えば金属で形成され、凹凸の無いストレートな円筒面状の外周面2aを有する。また、軸部材2の軸方向一端側にロータ10が付設され、軸部材2の軸方向他端側は凸球面形状部2bとされている。スラスト受け9の受け面9aは、例えば樹脂で形成され、その受け面9aは凹凸の無い平坦面である。
【0034】
ハブ3は、例えば金属で形成され、軸部材2の上端から外径側に突出した円盤部3aと、円盤部3aの外径端から軸方向下方に延びた円筒部3bと、円筒部3bの下端部からさらに外径に延びた鍔部3cと、円盤部3aの半径方向略中央部から下方に延びた円筒状の環状突出部3dとで構成される。鍔部3cの上側端面に、図示しないディスクが搭載される。尚、図示例ではハブ3が一体に形成されているが、ハブ3を複数の部材で構成してもよく、例えば、環状突出部3dを別部材で形成してもよい。
【0035】
動圧軸受8は、金属や樹脂で円筒状に形成される。本実施形態では、動圧軸受8が焼結金属、例えば銅を比較的多く(例えば20質量%以上)含む焼結金属、具体的には銅を主成分とする銅系焼結金属、あるいは銅及び鉄を主成分とする銅鉄系焼結金属で形成される。
【0036】
動圧軸受8の内周面8aには、動圧溝が形成される。本実施形態では、図4に示すように、動圧軸受8の内周面8aの軸方向に離隔した2つの領域に、ヘリングボーン形状の動圧溝(ラジアル動圧溝)8a1,8a2がそれぞれ形成される(クロスハッチングは丘部)。図示例では、上側の動圧溝8a1が軸方向非対称に形成されており、具体的には、軸方向略中央の環状の丘部よりも上側の領域の軸方向寸法が、環状の丘部よりも下側の領域の軸方向寸法よりも大きくなっている。下側の動圧溝8a2は軸方向対称に形成されている。このため、動圧軸受8の内周面8aと軸部材2の外周面2aとの間に設けられるラジアル軸受隙間に生じる流体圧力で軸部材をラジアル方向に相対支持するラジアル軸受部20(図2及び図3参照)が形成される。
【0037】
図5に示すように、動圧軸受8の軸方向一端側の端面8bには動圧溝(スラスト動圧溝)8b1が形成される。具体的には、動圧軸受8の一方の端面8bに、動圧溝8b1と丘部8b2(クロスハッチングで示す)とが周方向で交互に設けられる。動圧溝8b1は、周方向に対して交差する方向に延び、例えばスパイラル形状を成している。動圧溝8b1は、軸部材の回転に伴って潤滑油Oを内径側に押し込むポンプインタイプである。すなわち、図5に示すように、矢印A方向に回転することにより、潤滑油Oが図2及び図3に示す矢印B1のように、外径側から内径側へ引き込まれることになる。動圧軸受8の一方の端面8bとロータ10のハブ3の内面との間のスラスト軸受隙間に生じる流体圧力で軸部材2をスラスト方向に相対支持するスラスト軸受部21(図2及び図3参照)が形成される。なお、動圧軸受8の他方の端面8cには、このような動圧溝が形成されない。
【0038】
動圧溝8b1および丘部8b2は、何れも動圧軸受8の端面8bの内径端および外径端(詳しくは、端面8bと、内周面8aおよび外周面8dとの境界に設けられた面取り部8e、8f)に達している。なお、動圧溝8b1および丘部8b2は、それぞれ外径側に行くにつれて徐々に周方向幅が広がっている。
【0039】
この動圧溝8b1は、溝深さが内径側よりも外径側が浅く設定されている。この場合、図6(a)(図5のX-X´線断面図)に示すように、内径側から外径側に向かって溝底8b11を順次浅くしても、図6(b)(図5のX-X´線断面図)に示すように、内径側に溝深さが深い内径側溝8b1aを設けるとともに、外径側に溝深さが浅い外径側溝8b1bを設けるものであってもよい。
【0040】
外径側の溝深さが浅いすぎると、摩耗等により、溝が消滅するので、図6(a)のように、溝底8b11がテーパ状になっている場合でも、図6(b)のように、内径側溝8b1aと外径側溝8b1bとを有するものであっても、浅い溝の溝深さを1μm以上(これより浅すぎると、摩耗により溝が消滅するおそれがある)に設定するのが好ましく、外径側溝深さが内径側溝深さの半分以下であるのが好ましい。この場合、図6(a)では、最外径側の溝深さを1μm以上とし、図6(b)では、外径側溝8b1bの溝深さを1μm以上として、図6(a)では、最外径側の溝深さを最内径側の溝深さの半分以下とし、図6(b)では、外径側溝8b1bの溝深さを内径側溝8b1aの溝深さの半分以下としている。
【0041】
また、図6(b)に示すように、内径側溝8b1aと外径側溝8b1bとを有するものであっては、内径側溝8b1aの内径寸法(直径寸法)をD1とし、動圧軸受8の内径寸法(直径寸法)をDa(図4参照)とし、動圧軸受8の外径寸法(直径寸法)をDb(図4参照)とし、軸受外径面取り寸法(外径端面取り部8b寸法)をaとしたときに、(Da+Db)/2<D1<(Db-2a)とする。
【0042】
ところで、図7はスピンドルモータの運転状態の模式図を示し、実線は、運転停止時を示し、破線が運転時を示している。この場合、この運転時に、ロータ10が触れ回った時に、ロータ10と動圧軸受8のロータ側の端面8bとの間の隙間が小さくなろうとしても、動圧軸受8のロータ側の端面8bに、外径側の溝深さが内径側の溝深さよりも浅く設定されているスラスト動圧溝が設けられていれば、外径側の圧力を高めることができ、ロータ10の振れ回りを支持することができる。
【0043】
このように、図6(a)(b)のように、スラスト動圧溝8b1を有する動圧軸受は、スラスト動圧溝8b1がポンプインタイプであるので、軸受内径面で発生する動圧力を高めることができる。しかも、スラスト動圧溝8b1の溝深さは内径側よりも外径側を浅く設定しているので、外径側の圧力を高めることができる。このため、全長(軸方向長さ)が短い軸受であっても、振れ回りを支持できる動圧軸受を提供できる。
【0044】
次に、図8は、第2の動圧軸受を示し、動圧軸受の軸方向一方の端面8bに設けられる複数のスラスト動圧溝は、内径側のスラスト動圧溝群11と、外径側のスラスト動圧溝群12とを有する。外径側のスラスト動圧溝群12の溝本数を内径側のスラスト動圧溝群11の溝本数よりも多くしている。
【0045】
この場合、半径方向の溝幅が同一の複数のスラスト動圧溝13を、内径側から外径側に設け、そのスラスト動圧溝間に、半径方向の溝幅が外径側に向かって末広がりとなる丘14を設け、各丘14の径方向中間部位から、半径方向の溝幅が同一の複数のスラスト動圧溝15を外径側まで設けている。これによって、内径側のスラスト動圧溝群11と、外径側のスラスト動圧溝群12とが形成され、外径側のスラスト動圧溝群12の溝12aの本数を内径側のスラスト動圧溝群11の溝11aの本数よりも多くしている(この場合、2倍)。すなわち、スラスト動圧溝13の内径側が、内径側のスラスト動圧溝群11の溝(動圧溝)11aとなり、スラスト動圧溝13の外径側、およびスラスト動圧溝15が、外径側のスラスト動圧溝群12の溝(動圧溝)12aとなる。
【0046】
この場合、外径側のスラスト動圧溝群の内径端径寸法(直径寸法)をD2とし、動圧軸受内径寸法をDaとし、動圧軸受外径寸法をDbとし、軸受外径面取り寸法をaとしたときに、(Da+Db)/2<D2<(Db-2a)とする。
【0047】
このように、外径側のスラスト動圧溝群12の溝本数を内径側のスラスト動圧溝群11の溝本数よりも多くすること、つまり、外径側において丘14と溝12aを増加させることにより、回転時において、外径側の圧力を高めることができ、ロータ10の振れ回りを支持することができる。
【0048】
ところで、丘14と溝12aを増やすためには、半径方向の溝幅を一定にするのが好ましい。また、単純に、全域において丘と溝を増やすのではなく、外径側の丘14と溝12aを増やすことで、外径側の圧力のみ高めることができる。
【0049】
図8に示すスラスト溝を有する動圧軸受によれば、スラスト動圧溝11a,12aはポンプインタイプであるので、軸受内径面で発生する動圧力を高めることができる。しかも、外径側のスラスト動圧溝群12の溝本数は内径側のスラスト動圧溝群11の溝本数よりも多く設定さているので、半径方向の溝幅が一定になるため、引き込まれるオイル量が減少することで、外径側での負圧発生防止に繋がる。
【0050】
この場合、外径側のスラスト動圧溝群12の溝本数が内径側のスラスト動圧溝群11の溝本数よりも多く、2倍以下であるのが好ましい。このように設定することによって、軸受外径面で発生する動圧力を安定して高め、且つ外径側での負圧発生を有効に抑えることができる。
【0051】
各スラスト動圧溝11a,12aの半径方向溝幅を一定とするのが好ましい。このように設定することによって、外径側から内径側へ引き込まれる潤滑油量(オイル量)を有効に減少させることができる。
【0052】
外径側のスラスト動圧溝12aの内径端径寸法をD2とし、動圧軸受内径寸法をDaとし、動圧軸受外径寸法をDbとし、軸受外径面取り寸法をaとしたときに、(Da+Db)/2<D2<(Db-2a)とすることができる。このように設定することによって、外径側の圧力を高めるのに有効となる。
【0053】
ところで、図9は、圧力分布イメージを示す。実線は図8に示すスラスト動圧溝が形成されたもので、仮想線は図14に示す従来のスラスト動圧溝が形成されたものである。この図からわかるように、実線で示すスラスト動圧溝では、半径方向の溝幅を一定にしているので、仮想線で示す従来のもの(半径方向の溝幅を外径側に向かって末広がりに設定しているもの)よりも、外径側から内径側に引き込まれる潤滑油量(オイル量)が減少し、外径側での負圧発生が防止できる。これに対して、仮想線で示す従来のスラスト動圧溝では、外径側から内径側に引き込まれるオイル量が減少せず、外径側で負圧発生する。
【0054】
ところで、他の動圧軸受として、図5に示すスラスト動圧溝8b1と図8に示すスラスト動圧溝11a、12aとを備えたもの(組み合わせたもの)であってもよい。すなわち、溝深さが内径側よりも外径側を浅くしたスラスト動圧溝(図6(a)タイプのものであっても、図6(b)タイプのものであってもよい。)と、スラスト動圧溝として、内径側のスラスト動圧溝群11と外径側のスラスト動圧溝群12とを備え、外径側のスラスト動圧溝群12の溝本数を内径側のスラスト動圧溝群11の溝本数よりも多くしているスラスト動圧溝とを備えたものとする。この場合、溝深さが内径側よりも外径側を浅くしたスラスト動圧溝を第1のスラスト動圧溝と呼び、内径側のスラスト動圧溝群11と外径側のスラスト動圧溝群12とを備えたスラスト動圧溝を第2のスラスト動圧溝と呼ぶことができる。
【0055】
このような、他の動圧軸受であっても、図5に示すスラスト動圧溝8b1を有する動圧軸受や図8に示すスラスト動圧溝11a、12aを備えた動圧軸受と同様の作用効果を奏する。なお、図5に示すスラスト動圧溝8b1と図8に示すスラスト動圧溝11a、12aとの割合比は、同一であっても、いずれか一方が多くなってもよい。
【0056】
図5に示すようなスラスト動圧溝を有する動圧軸受、図8に示すようなスラスト動圧溝を有する動圧軸受、これらを組み合わせたスラスト動圧溝を有す動圧軸受を用いた流体動圧軸受装置では、スラスト動圧溝はポンプインタイプであるので、軸受内径面で発生する動圧力を高めることができ、外径側の圧力が高まり、ロータ10の振れ回りを支持することができる。しかも、スラスト動圧溝が軸方向一方側の軸方向端面に設けられるのみであり、組み立て性に優れる。すなわち、ハウジングに動圧軸受を挿入し、この動圧軸受にロータが付設された軸部材を挿入すれば、組み立てることができる。
【0057】
このため、組立コストの増大を招くことなく、ロータの振れ回りを支持でき、かつオイル漏れを防止することが可能な流体動圧軸受装置を提供できる。
【0058】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、スラスト動圧溝の本数の増減は任意であり、図6(a)に示すスラスト動圧溝の溝底の傾斜角度、図6(b)に示すスラスト動圧溝の各溝深さも任意に設定できる。また、スラスト動圧の溝底を階段的に変化させて、溝深さを内径側よりも外径側を浅くするものであってもよい。
【0059】
また、本発明に係る動圧軸受およびこれを備えた流体動圧軸受装置は、HDD等のディスク駆動装置用のスピンドルモータのみならず、冷却ファン用のファンモータやレーザビームプリンタ用のポリゴンスキャナモータなどに組み込んで使用することもできる。
【符号の説明】
【0060】
2 軸部材
2a 外周面
8 動圧軸受
8a 内周面
8a1 ラジアル動圧溝
8a2 ラジアル動圧溝
8b 端面
8b1 スラスト動圧溝
8b1a 内径側溝
8b1b 外径側溝
10 ロータ
11 スラスト動圧溝群
12 スラスト動圧溝群
13 スラスト動圧溝
15 スラスト動圧溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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