(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184134
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】トランス
(51)【国際特許分類】
H01F 27/28 20060101AFI20231221BHJP
H01F 30/10 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
H01F27/28 K
H01F30/10 C
H01F30/10 D
H01F30/10 M
H01F27/28 147
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098100
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 領太
(72)【発明者】
【氏名】山口 晃弘
【テーマコード(参考)】
5E043
【Fターム(参考)】
5E043AA05
5E043AA08
5E043AB03
5E043BA01
5E043BA02
5E043BA03
(57)【要約】
【課題】 トランスの損失を低減することができる技術を提供する。
【解決手段】 トランスは、コアと、一次巻線と、第1の二次巻線と、第2の二次巻線と、を備える。第1の二次巻線が、コアの軸方向に沿って積層された複数の第1巻線層を有し、第2の二次巻線が、軸方向に沿って積層された複数の第2巻線層を有し、複数の第1巻線層が電気的に並列に接続されており、複数の第2巻線層が電気的に並列に接続されている。一次巻線と第1の二次巻線の間の距離が、隣接する第1巻線層の間の距離及び隣接する第2巻線層の間の距離よりも大きく、一次巻線と第2の二次巻線の間の距離が、隣接する第1巻線層の間の距離及び隣接する第2巻線層の間の距離よりも大きい、
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア(200x)と、前記コアに巻回されている一次巻線(101)と、前記コアに巻回されている第1の二次巻線(102)と、前記コアに巻回されている第2の二次巻線(103)と、を備えるトランス(100)であって、
前記第1の二次巻線が、前記コアの軸方向に沿って積層された複数の第1巻線層(L21、L22)を有し、
前記第2の二次巻線が、前記軸方向に沿って積層された複数の第2巻線層(L31、L32)を有し、
複数の前記第1巻線層が電気的に並列に接続されており、
複数の前記第2巻線層が電気的に並列に接続されており、
前記一次巻線と前記第1の二次巻線の間の距離が、隣接する前記第1巻線層の間の距離及び隣接する前記第2巻線層の間の距離よりも大きく、
前記一次巻線と前記第2の二次巻線の間の距離が、隣接する前記第1巻線層の間の前記距離及び隣接する前記第2巻線層の間の前記距離よりも大きい、
トランス。
【請求項2】
前記一次巻線を構成する巻線層のターン数が2以上であり、
前記各第1巻線層及び前記各第2巻線層のターン数が1である、請求項1に記載のトランス。
【請求項3】
前記一次巻線、前記第1の二次巻線、前記第2の二次巻線が、前記一次巻線が前記第1の二次巻線と前記第2の二次巻線との間に位置するように前記軸方向に沿って積層されている、請求項1に記載のトランス。
【請求項4】
前記一次巻線が、前記軸方向に沿って積層された2つの第3巻線層(L11、L12)を有し、
2つの前記第3巻線層が電気的に直列に接続されており、
2つの前記第3巻線層の間の距離が、隣接する前記第1巻線層の間の前記距離及び隣接する前記第2巻線層の間の前記距離よりも大きい、請求項1に記載のトランス。
【請求項5】
前記一次巻線、前記第1の二次巻線、及び前記第2の二次巻線を構成する導体の前記軸方向の厚みをt、前記導体の表皮深さをδとしたときに、2δ≦t≦4δの関係を満たす、請求項1に記載のトランス。
【請求項6】
前記第1の二次巻線及び前記第2の二次巻線を構成する導体の前記軸方向の厚みが、前記一次巻線を構成する導体の前記軸方向の厚みよりも厚い、請求項5に記載のトランス。
【請求項7】
前記第1の二次巻線及び前記第2の二次巻線の各端部に、センタータップ(110)が設けられており、
前記各センタータップは、端子(111)を介して接地されている、請求項1に記載のトランス。
【請求項8】
前記第1巻線層及び前記第2巻線層は、プリント基板(P)上に設けられており、
前記プリント基板は、前記コアと対向する面にシールド層(160)が設けられている、請求項1に記載のトランス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、トランスに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、一次巻線と二次巻線を備えるトランスが設けられた電力変換装置が開示されている。このトランスでは、一次巻線が3つの巻線層により構成されており、二次巻線が2つの巻線層により構成されている。一次巻線を構成する巻線層と、二次巻線を構成する巻線層とが、交互に積層されている。
【0003】
互いに近接した2つの巻線に電流が流れる場合、一方の巻線の周囲に発生する磁場の影響によって、他方の巻線を流れる電子にローレンツ力が作用することで、巻線内に流れる電流に偏りが生じる現象(近接効果)が生じる。近接効果が生じると、巻線の抵抗が上昇し、巻線損失(銅損)が増大する。特許文献1では、一次巻線を構成する巻線層と二次巻線を構成する巻線層を交互に配置している。すなわち、或る巻線に流れる電流は、当該或る巻線の両側に位置する巻線に流れる電流とは反対方向に流れる。このため、当該或る巻線に作用する磁場の影響が相殺され、巻線内の電流分布が均一化される。これにより、巻線損失を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電力変換装置の使用時には、一次巻線と二次巻線に印加される電圧に差が生じる。このため、一次巻線を構成する巻線層と二次巻線を構成する巻線層の間に寄生容量が生じる。本発明者らが鋭意検討した結果、この寄生容量に流れる電流(以下、本明細書では変位電流という。)によって発生する磁束によりコア内部の磁束密度が増大し、コア損失(鉄損)が増大することがわかった。本明細書では、トランスの損失を低減することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示するトランス(100)は、コア(200x)と、前記コアに巻回されている一次巻線(101)と、前記コアに巻回されている第1の二次巻線(102)と、前記コアに巻回されている第2の二次巻線(103)と、を備える。前記第1の二次巻線が、前記コアの軸方向に沿って積層された複数の第1巻線層(L21、L22)を有している。前記第2の二次巻線が、前記軸方向に沿って積層された複数の第2巻線層(L31、L32)を有している。複数の前記第1巻線層が電気的に並列に接続されている。複数の前記第2巻線層が電気的に並列に接続されている。前記一次巻線と前記第1の二次巻線の間の距離が、隣接する前記第1巻線層の間の距離及び隣接する前記第2巻線層の間の距離よりも大きい。前記一次巻線と前記第2の二次巻線の間の距離が、隣接する前記第1巻線層の間の前記距離及び隣接する前記第2巻線層の間の前記距離よりも大きい。
【0007】
このトランスでは、第1の二次巻線が、コアの軸方向に沿って積層された複数の第1巻線層によって構成されている。複数の第1巻線層が電気的に並列に接続されているので、複数の第1巻線層の間で電位差がほとんど生じず、複数の第1巻線層の間で寄生容量はほとんど生じない。また、第2の二次巻線が、コアの軸方向に沿って積層された複数の第2巻線層によって構成されている。複数の第2巻線層が電気的に並列に接続されているので、複数の第2巻線層の間で電位差がほとんど生じず、複数の第2巻線層の間で寄生容量はほとんど生じない。一方で、一次巻線と第1の二次巻線の間には電位差が生じるので、これらの間には寄生容量が生じる。しかしながら、一次巻線と第1の二次巻線の間の距離が、隣接する第1巻線層の間の距離及び隣接する第2巻線層の間の距離よりも大きいので、一次巻線と第1の二次巻線の間の寄生容量は小さい。また、一次巻線と第2の二次巻線の間には電位差が生じるので、これらの間には寄生容量が生じる。しかしながら、一次巻線と第2の二次巻線の間の距離が、隣接する第1巻線層の間の距離及び隣接する第2巻線層の間の距離よりも大きいので、一次巻線と第2の二次巻線の間の寄生容量は小さい。このように、このトランスでは、巻線間で生じる寄生容量を低減することができる。このため、寄生容量に流れる電流によって生じる磁束の影響が低減され、コア損失を低減することができる。また、このトランスでは、特許文献1のトランスに比べて巻線損失が増えるが、巻線損失とコア損失を合計した損失を特許文献1のトランスよりも低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】実施例1のトランスの各巻線層の分解斜視図。
【
図6】実施例1のトランスの構成を説明するための分解斜視図。
【
図7】実施例1のトランスの構成を説明するための分解側面図。
【
図9】トランスに流れる変位電流を説明するための断面図。
【
図10】巻線層に流れる交流電流の周波数と表皮深さとの関係を示す図。
【
図11】実施例2のトランスの構成を説明するための
図4に対応する分解斜視図。
【
図12】実施例3のトランスの構成を説明するための
図4に対応する分解斜視図。
【
図13】変形例のトランスの構成を説明するための
図2に対応する分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書が開示する一実施形態では、前記一次巻線を構成する巻線層のターン数が2以上であり、前記各第1巻線層及び前記各第2巻線層のターン数が1であってもよい。
【0010】
第1巻線層及び第2巻線層は、巻線層の最外層に配置される。上記の構成では、最外層にターン数が少ない(すなわち、表面積が大きい)巻線層を配置することで、放熱面積が大きくなり、放熱性能を向上させることができる。
【0011】
本明細書が開示する一実施形態では、前記一次巻線、前記第1の二次巻線、前記第2の二次巻線が、前記一次巻線が前記第1の二次巻線と前記第2の二次巻線との間に位置するように前記軸方向に沿って積層されていてもよい。
【0012】
トランスの動作時には、一次巻線と二次巻線には、反対方向に電流が流れる。このため、近接効果を抑制することができ、巻線損失の増大が抑制される。
【0013】
本明細書が開示する一実施形態では、前記一次巻線が、前記軸方向に沿って積層された2つの第3巻線層を有してもよい。2つの前記第3巻線層が電気的に直列に接続されてもよい。2つの前記第3巻線層の間の距離が、隣接する前記第1巻線層の間の前記距離及び隣接する前記第2巻線層の間の前記距離よりも大きくてもよい。
【0014】
トランスが動作するときには、直列に接続される2つの第3巻線層の間には、電位差が生じる。このため、2つの第3巻線層の間の距離を比較的大きくすることにより、第3巻線層の間の寄生容量を小さくすることができ、コア損失を低減することができる。
【0015】
本明細書が開示する一実施形態では、前記一次巻線、前記第1の二次巻線、及び前記第2の二次巻線を構成する導体の前記軸方向の厚みをt、前記導体の表皮深さをδとしたときに、2δ≦t≦4δの関係を満たしてもよい。
【0016】
巻線に高周波数の交流電流が流れると、発生する磁場の影響により、巻線の表面から中心に向かって電流密度が低くなる現象(表皮効果)が生じる。上記の構成では、導体の厚みが、表皮深さ(電流が導体表面を流れる電流の1/eになる深さ)の2倍以上かつ4倍以下であるため、交流抵抗に対する表皮効果による影響を効果的に低減することができる。
【0017】
本明細書が開示する一実施形態では、前記第1の二次巻線及び前記第2の二次巻線を構成する導体の前記軸方向の厚みが、前記一次巻線を構成する導体の前記軸方向の厚みよりも厚くてもよい。
【0018】
このような構成では、二次巻線の抵抗を小さくすることができ、巻線損失をより低減することができる。また、二次巻線の厚みを厚くすることにより、放熱面積が大きくなり、放熱性能を向上させることができる。
【0019】
本明細書が開示する一実施形態では、前記第1の二次巻線及び前記第2の二次巻線の各端部に、センタータップが設けられてもよい。前記各センタータップは、端子を介して接地されていてもよい。
【0020】
トランスの動作時には、発熱の影響によって各巻線層に反りが生じ得る。このような構成では、センタータップが端子を介して接地されるので、各巻線層の反りの影響を受け難く、センタータップをより確実に接地することができる。
【0021】
本明細書が開示する一実施形態では、前記第1巻線層及び前記第2巻線層は、プリント基板上に設けられてもよい。前記プリント基板は、前記コアと対向する面にシールド層が設けられていてもよい。
【0022】
このような構成では、変位電流によって発生した磁束をシールド層により遮蔽することができる。このため、コアに対する当該磁束による影響が抑制され、コア損失をより低減することができる。
【0023】
(実施例1)
まず、
図1を参照して、電力変換装置としてのDC/DCコンバータ1の構成について説明する。
図1に示すうように、DC/DCコンバータ1は、フルブリッジ回路20と、フルブリッジ回路20に並列に接続される平滑コンデンサ40と、トランス100と、整流回路120と、平滑回路140、及び制御装置50を備えている。なお、これらの各構成要素は、筐体(不図示)に固定されており、当該筐体が接地ラインとして機能する。
【0024】
フルブリッジ回路20は、スイッチング素子21、22、23、24を有している。各スイッチング素子21~24は、制御装置50から入力される駆動信号に基づいて、入力端子T1、T2間に印加される入力直流電圧を入力交流電圧に変換する。スイッチング素子21~24は、特に限定されないが、例えば、MOSFETやIGBT等のパワー半導体素子が用いられる。
【0025】
平滑コンデンサ40は、フルブリッジ回路20の動作により発生する交流成分を吸収し、入力ラインにノイズが発生することを抑制する機能を有している。また、フルブリッジ回路20は、コンデンサ31、32、33、34を有している。各コンデンサ31~34は、入力ラインとグランドの間に介装されており、入力ラインとグランドの間に発生するコモンモードノイズをバイパスする機能を有している。
【0026】
トランス100は、フルブリッジ回路20で生成された入力交流電圧を変圧し、出力交流電圧を出力する。一次巻線101のターン数は、二次巻線102、103のターン数より多く、一次巻線101と二次巻線102、103のターン数比は、変圧比によって適宜設定される。第1の二次巻線102と、第2の二次巻線103との間には、センタータップ110が設けられており、センタータップ110は、筐体に接続されている。すなわち、センタータップ110は、接地されている。
【0027】
整流回路120は、整流素子121、122からなる単相全波整流型である。整流素子121のドレインは、第1の二次巻線102に接続されている。整流素子121のソースは、平滑回路140に接続されている。整流素子122のドレインは、第2の二次巻線103に接続されている。整流素子122のソースは、平滑回路140に接続されている。整流回路120は、制御装置50から入力される駆動信号に基づいて、トランス100から出力される出力交流電圧を個別に整流して直流電圧を生成する。
【0028】
平滑回路140は、2つのコンデンサ130と1つのチョークコイル132を有している。平滑回路140は、整流回路120で整流された直流電圧を平滑化して、出力直流電圧を生成し、出力正極端子T3から低圧バッテリ等に供給する。なお、グランド134が、出力負極端子に相当する。
【0029】
DC/DCコンバータ1では、入力直流電圧Vinが入力端子T1、T2から供給され、フルブリッジ回路20で入力交流電圧に変換される。この入力交流電圧は、トランス100の一次巻線101に供給されて変圧され、二次巻線102、103から出力交流電圧として出力される。この出力交流電圧は、整流回路120により整流されるとともに、平滑回路140により平滑化され、出力端子T3から出力直流電圧Voutとして出力される。例えば、DC/DCコンバータ1は車両に搭載されて、入力端子T1、T2に供給される100~500Vの入力直流電圧Vinを、車載補機系部品の電源電圧である12~16V程度の出力直流電圧Voutに変圧して出力端子T3から出力する。
【0030】
次に、トランス100の構成について具体的に説明する。
図2は、トランス100を構成する各巻線の分解斜視図である。
図2では、図の見易さのため、トランス100の一部の構成(磁性コア部品200、基板P等(
図3、
図5等参照))が省略して描かれている。トランス100は、一次巻線101を構成する2つの巻線層L11、L12と、第1の二次巻線102を構成する2つの巻線層L21、L22と、第2の二次巻線103を構成する2つの巻線層L31、L32を有している。各巻線層L11~L32は、銅により構成されている。巻線層L11、L12、巻線層L21、L22、及び巻線層L31、L32は、それぞれ隣接して積層されている。巻線層L11、L12は、巻線層L21、L22と、巻線層L31、L32との間に配置されている。すなわち、一次巻線101は、第1の二次巻線102と第2の二次巻線103の間に位置するように積層されている。巻線層L21、L22が「第1巻線層」の一例である。巻線層L31、L32が「第2巻線層」の一例である。巻線層L11、L12が「第3巻線層」の一例である。
【0031】
図3に示すように、トランス100の各巻線層L11~L32は、絶縁層I1~I5によって互いに分離されている。巻線層L21は、絶縁層I1の上面に設けられている。巻線層L22は、絶縁層I1と絶縁層I2に挟まれている。巻線層L11は、絶縁層I2と絶縁層I3に挟まれている。巻線層L12は、絶縁層I3と絶縁層I4に挟まれている。巻線層L31は、絶縁層I4と絶縁層I5に挟まれている。巻線層L32は、絶縁層I5の下面に設けられている。絶縁層I1及び絶縁層I2は、巻線層L22が存在しない範囲において互いに接続されている。絶縁層I2及び絶縁層I3は、巻線層L11が存在しない範囲において互いに接続されている。絶縁層I3及び絶縁層I4は、巻線層L12が存在しない範囲において互いに接続されている。絶縁層I4及び絶縁層I5は、巻線層L31が存在しない範囲において互いに接続されている。なお、説明の便宜上、絶縁層I1~I5として区別しているが、実際には、絶縁層I1~I5は、一体的に形成されており、プリント基板Pを構成する。本実施例では、プリント基板Pは、熱硬化性樹脂(例えば、エポキシガラス)により構成されている。
【0032】
図4は、一次巻線101及び二次巻線102、103を各層に分解した平面図である。上述したように、絶縁層I1~I5は実際には一体となっているが、
図4は、絶縁層I1~I5を分解した状態で描かれている。まず、一次巻線101について説明する。上述したように、一次巻線101は、2つの巻線層L11、L12により構成されており、各巻線層L11、L12のターン数は4である。
図4に示すように、巻線層L11の一端には、貫通孔12aが設けられている。また、巻線層L12の一端には、貫通孔12bが設けられている。巻線層L11と巻線層L12は、貫通孔12a、12bを介して電気的に接続されている。すなわち、
図5に示すように、巻線層L11と巻線層L12は、直列に接続されている。したがって、本実施例では、一次巻線101のターン数が8となっている。例えば、巻線層L11の一端101a(
図1も参照)から流入した電流は、巻線層L11を流れた後、貫通孔12a、12bを介して巻線層L12に流入し、巻線層L12の一端101bから流出する。
【0033】
次に、第1の二次巻線102について説明する。上述したように、第1の二次巻線102は、2つの巻線層L21、L22により構成されており、各巻線層L21、L22のターン数は1である。
図4に示すように、巻線層L21、L22の一端には、第1の出力配線102a(
図1も参照)が設けられている。第1の出力配線102aには、複数のビア102bが形成されており、各第1の出力配線102aは、ビア102bを介して電気的に接続されている。なお、巻線層L11、L12、L31、L32が設けられた層にも複数のビア102bが形成された第1の出力配線102aが設けられている。各層に設けられた全ての第1の出力配線102aが、ビア102bを介して電気的に接続されている。ただし、巻線層L11、L12、L31、L32は、第1の出力配線102aから電気的に絶縁されている。また、巻線層L21、L22の他端には、センタータップ配線110aが設けられている。各センタータップ配線110aは、センタータップ110を介して電気的に接続されている。なお、巻線層L11、L12、L31、L32が設けられた層にもセンタータップ配線110aが設けられている。各層に設けられた全てのセンタータップ配線110aが、センタータップ110を介して電気的に接続されている。ただし、巻線層L11、L12は、センタータップ配線110aから電気的に絶縁されている。DC/DCコンバータ1が作動するときには、各巻線層L21、L22には、センタータップ配線110aから第1の出力配線102aに向かって電流が流れる。
図5に示すように、巻線層L21、L22は、互いに並列に接続されている。
【0034】
次に、第2の二次巻線103について説明する。上述したように、第2の二次巻線103は、2つの巻線層L31、L32により構成されており、各巻線層L31、L32のターン数は1である。
図4に示すように、巻線層L31、L32の一端には、第2の出力配線103a(
図1も参照)が設けられている。第2の出力配線103aには、複数のビア103bが形成されており、各第2の出力配線103aは、ビア103bを介して電気的に接続されている。なお、巻線層L11、L12、L21、L22が設けられた層にも複数のビア103bが形成された第2の出力配線103aが設けられている。各層に設けられた全ての第2の出力配線103aが、ビア103bを介して電気的に接続されている。ただし、巻線層L11、L12、L21、L22は、第2の出力配線103aから電気的に絶縁されている。また、巻線層L31、L32の他端には、センタータップ配線110aが設けられている。各センタータップ配線110aは、センタータップ110を介して電気的に接続されている。DC/DCコンバータ1が作動するときには、各巻線層L31、L32には、センタータップ配線110aから第2の出力配線103aに向かって電流が流れる。
図5に示すように、巻線層L31、L32は、互いに並列に接続されている。
【0035】
以上に説明した通り、トランス100は、一次巻線101が8ターンであり、第1の二次巻線102が1ターンであり、第2の二次巻線103が1ターンとなっている。すなわち、トランス100は、変圧比が8:1:1となっている。
【0036】
図6及び
図7に示すように、トランス100は、互いに対向して配置される一対のE型のコア部200a、200bによって構成される磁性コア部品200を有している。コア部200a、200bは、例えば、Mn-Zn系フェライトにより構成されている。なお、
図6は、各巻線層L11~L32が、基板Pにより一体となっている状態(
図3に示す状態)で描かれているため、
図6では、基板Pの表面上に露出する巻線層L21のみを見ることができる。
【0037】
図6及び
図7に示すように、各巻線層L11~L32は、コア部200a、200bのそれぞれの中央から突出する突出部200c、200d、に挿入される。突出部200cの端面は突出部200dの端面と接続されている。互いに接続された突出部200c、200dによってコア200x(
図9参照)が構成されている。コア200xは、巻線層L11、L12、L21、L22、L31、L32の中央を通るように伸びている。したがって、巻線層L11、L12、L21、L22、L31、L32は、コア200xの周囲に巻回されている。また、巻線層L11、L12、L21、L22、L31、L32は、コア200xの軸方向に沿って積層されている。
【0038】
図8は、各巻線層L11~L32の厚みと各絶縁層I1~I5の厚みを示している。
図8に示すように、本実施例では、巻線層L21及び巻線層L32の厚みが140μmであり、その他の巻線層L22、L11、L12、L31の厚みは105μmである。また、絶縁層I1~I5については、絶縁層I1及びI5の厚みが300μmであり、絶縁層I2~I4の厚みが600μmである。換言すると、巻線層L22及びL11の間の距離は、巻線層L21及びL22の間の距離及び巻線層L31及びL32の間の距離よりも大きい。また、巻線層L11及びL12の間の距離は、巻線層L21及びL22の間の距離及び巻線層L31及びL32の間の距離よりも大きい。また、巻線層L12及びL31の間の距離は、巻線層L21及びL22の間の距離及び巻線層L31及びL32の間の距離よりも大きい。
【0039】
本実施例のトランス100では、第1の二次巻線102が、互いに並列に接続されている2つの巻線層L21、L22によって構成されており、第2の二次巻線103が、互いに並列に接続されている2つの巻線層L31、L32によって構成されている。二次巻線102、103のそれぞれが、並列接続された2つの巻線層L21~L32によって構成されているので、巻線の抵抗が低減され、その結果、巻線損失が低減される。また、本実施例のトランス100では、一次巻線101が第1の二次巻線102と第2の二次巻線103の間に位置するようにコア200xの軸方向に沿って積層されている。一次巻線101と二次巻線102、103には、反対方向に電流が流れるので、近接効果を抑制することができ、巻線損失の増大が抑制される。
【0040】
トランス100の動作時には、一次巻線101と二次巻線102、103との間に電位差が生じる。また、一次巻線101を構成する巻線層L11、L12間にも電位差が生じる。このため、
図9に示すように、電位差が生じた巻線間に生じた寄生容量により、変位電流300が流れる。この変位電流300によって、
図9の紙面に垂直な方向に磁束が発生する。この磁束がコア200xを貫くことによってコア200x内部の磁束密度が増大し、コア損失が増大する。本実施例のトランス100では、巻線層L11と巻線層L22の間の距離、巻線層L12と巻線層L31の間の距離、巻線層L11と巻線層L12の間の距離(すなわち、電位差が生じる巻線層の間の距離、600μm)のそれぞれが、巻線層L21と巻線層L22の間の距離、巻線層L31と巻線層L32の間の距離(すなわち、電位差が生じない巻線層の間の距離、300μm)よりも大きい。電位差が生じる巻線層間の距離が比較的大きいので、当該巻線層間の寄生容量が小さい。具体的には、本実施例では、電位差が生じる巻線層間の寄生容量に対して、例えば、電位差が生じる巻線層の間の距離を、電位差が生じない巻線層の間の距離(300μm)と略等しくした場合、寄生容量がおよそ2倍の値となる。さらに、本実施例のトランス100は、第1の二次巻線102を構成する巻線層L21、L22がコア200xの軸方向に沿って積層されており、第2の二次巻線103を構成する巻線層L31、L32がコア200xの軸方向に沿って積層されている。巻線層L21、L22は電気的に並列に接続されているので、巻線層L21、L22の間では電位差がほとんど生じない。同様に、巻線層L31、L32は電気的に並列に接続されているので、巻線層L31、L32の間では電位差がほとんど生じない。したがって、例えば、一次巻線を構成する巻線層と、二次巻線を構成する巻線層を交互に配置した場合と比較して、電位差が生じる箇所が少ない。したがって、本実施例では、トランス100全体の寄生容量を小さくすることができ、寄生容量に流れる電流による磁束の影響が低減され、コア損失を低減することができる。以上の通り、本実施例のトランス100では、トランス100の損失を低減することができる。
【0041】
また、本実施例では、二次巻線102、103(より詳細には、巻線層L21、L32)が、最外層に配置されている。巻線層L21、L32のターン数は1であり、最外層にターン数が少ない(すなわち、表面積が大きい)巻線層L21、L32を配置することで、放熱面積が大きくなり、放熱性能を向上させることができる。
【0042】
また、本実施例では、巻線層L21の厚みが140μmであり、巻線層L22、L11、L12、L31、L32の厚みが105μmである。巻線層に高周波数の交流電流が流れると、発生する磁場の影響により、巻線の表面から中心に向かって電流密度が低くなる現象(表皮効果)が生じる。
図10は、各巻線層L11~L32に流れる交流電流の周波数と表皮深さ(電流が導体表面を流れる電流の1/eになる深さ)との関係を示す図である。本実施例のDC/DCコンバータ1では、交流電流が、約2MHzの周波数で流れる。
図10に示すように、交流電流の周波数が約2MHzである場合、各巻線層の表皮深さは、約46μmとなる。本実施例では、各巻線層L11~L32の厚みが、表皮深さの2倍以上であるため、電流密度が比較的高い領域を巻線の表面部分に沿って確保することができる。このため、交流抵抗に対する表皮効果による影響を効果的に低減することができる。
【0043】
(実施例2)
実施例2では、
図11に示すように、センタータップ110に、締結用端子111が設けられている。センタータップ110は、締結用端子111を介して、例えば、ねじにより接地される。トランス100の動作時には、発熱の影響によって各巻線層L21~L32に反りが生じ得る。実施例2の構成では、センタータップ110が締結用端子111を介して接地されるので、各巻線層L21~L32の反りの影響を受け難く、センタータップ110をより確実に接地することができる。このため、センタータップ110と筐体との接触抵抗が最小化され、巻線損失をより低減することができる。
【0044】
(実施例3)
実施例3のトランスは、
図12に示すように、基板Pにシールド層160が設けられている。シールド層160は、例えば、銅めっきである。シールド層160は、基板Pが磁性コア部品200に収納されたときに、突出部200c、200d(すなわち、コア200x)と対向する面に設けられている。また、シールド層160は、コア部200aの固定部210と、コア部200bの固定部220に対向する面にも設けられている。実施例3の構成では、変位電流によって発生した磁束をシールド層160により遮蔽することができる。このため、コア200xや固定部210、220に対する当該磁束による影響が抑制され、コア損失をより低減することができる。
【0045】
上述した各実施例では、第1の二次巻線102を構成する巻線層L22及び第2の二次巻線103を構成する巻線層L31の厚みが、一次巻線101を構成する巻線層L11、L12の厚みと等しかったが、二次巻線102、103を構成する巻線層L21~L32の厚みは、巻線層L11、L12よりも厚くてもよい。例えば、巻線層L21~L32の厚みは、巻線層L11、L12の厚みの2倍以上であってもよい。このような構成では、二次巻線102、103の抵抗をより小さくすることができ、巻線損失をより低減することができる。また、二次巻線102、103を構成する巻線層の厚みを厚くすることにより、放熱面積が大きくなり、放熱性能を向上させることができる。
【0046】
また、上述した実施例では、コア部200a、200bの材料として、Mn-Zn系フェライトを用いた。Mn-Zn系フェライトは、高い周波数においても高い透磁率を有しており、低損失な磁性材であるため、トランス100の損失を低減することができる。また、Mn-Zn系フェライトは容易に焼結加工することができるため、磁性コア部品200(すなわち、トランス100)を小型化することができる。しかしながら、コア部200a、200bを構成する材料は、特に限定されず、例えば、ナノ結晶軟磁性材を用いてもよい。ナノ結晶軟磁性材は、結晶粒径が小さいので、変位電流による磁束で生じる渦電流損失をより低減することができる。
【0047】
また、上述した各実施例において、基板Pの基材に、液晶ポリマーを用いてもよい。液晶ポリマーは、例えば、エポキシガラス基板等と比較して比誘電率が低い。このため、例えば、上述した実施例と同じ厚みを有する絶縁層I1~I5を各巻線層間に挿入した場合、巻線間の寄生容量をより低減することができ、コア損失をより低減することができる。
【0048】
また、上述した各実施例において、一次巻線101及び二次巻線102、103を構成する巻線層の数は限定されない。例えば、一次巻線101は、単層の巻線層によって構成されてもよいし、二次巻線102、103は、三層以上の巻線層によって構成されてもよい。
【0049】
また、
図13に示すように、トランス100は、各巻線層L11~L32に加えて、バスバ161、162をさらに有してもよい。この場合、バスバ161は、最上層の巻線層L21の上側に配置されてもよい。バスバ162は、最下層の巻線層L32の下側に配置されてもよい。バスバ161、162は、例えば、銅により構成することができる。バスバ161は、巻線層L21と略同形状を有しており、巻線層L21に電気的に接続されてもよい。バスバ162は、巻線層L32と略同形状を有しており、巻線層L32に電気的に接続されてもよい。また、バスバ161、162の厚みは特に限定されないが、例えば、1000μmとすることができる。このような構成では、二次巻線102、103の抵抗をより低減することができる。また、最外層の表面積が大きくなるので、放熱性能がより向上する。
【0050】
以下に、本明細書に開示のトランスの構成を列記する。
(構成1)
コアと、前記コアに巻回されている一次巻線と、前記コアに巻回されている第1の二次巻線と、前記コアに巻回されている第2の二次巻線と、を備えるトランスであって、
前記第1の二次巻線が、前記コアの軸方向に沿って積層された複数の第1巻線層を有し、
前記第2の二次巻線が、前記軸方向に沿って積層された複数の第2巻線層を有し、
複数の前記第1巻線層が電気的に並列に接続されており、
複数の前記第2巻線層が電気的に並列に接続されており、
前記一次巻線、前記第1の二次巻線、前記第2の二次巻線が、前記一次巻線が前記第1の二次巻線と前記第2の二次巻線との間に位置するように前記軸方向に沿って積層されており、
前記一次巻線と前記第1の二次巻線の間の距離が、隣接する前記第1巻線層の間の距離及び隣接する前記第2巻線層の間の距離よりも大きく、
前記一次巻線と前記第2の二次巻線の間の距離が、隣接する前記第1巻線層の間の前記距離及び隣接する前記第2巻線層の間の前記距離よりも大きい、
トランス。
(構成2)
前記一次巻線を構成する巻線層のターン数が2以上であり、
前記各第1巻線層及び前記各第2巻線層のターン数が1である、構成1に記載のトランス。
(構成3)
前記一次巻線が、前記軸方向に沿って積層された2つの第3巻線層を有し、
2つの前記第3巻線層が電気的に直列に接続されており、
2つの前記第3巻線層の間の距離が、隣接する前記第1巻線層の間の前記距離及び隣接する前記第2巻線層の間の前記距離よりも大きい、構成1又は2に記載のトランス。
(構成4)
前記一次巻線、前記第1の二次巻線、及び前記第2の二次巻線を構成する導体の前記軸方向の厚みをt、前記導体の表皮深さをδとしたときに、2δ≦t≦4δの関係を満たす、構成1~3のいずれかに記載のトランス。
(構成5)
前記第1の二次巻線及び前記第2の二次巻線を構成する導体の前記軸方向の厚みが、前記一次巻線を構成する導体の前記軸方向の厚みよりも厚い、構成4に記載のトランス。
(構成6)
前記第1の二次巻線及び前記第2の二次巻線の各端部に、センタータップが設けられており、
前記各センタータップは、端子を介して接地されている、構成1~5のいずれかに記載のトランス。
(構成7)
前記第1巻線層及び前記第2巻線層は、プリント基板上に設けられており、
前記プリント基板は、前記コアと対向する面にシールド層が設けられている、構成1~6のいずれかに記載のトランス。
【0051】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0052】
1:DC/DCコンバータ、100:トランス、101:一次巻線、102:第1の二次巻線、103:第2の二次巻線、110:センタータップ、200x:コア