(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184143
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】超高圧封止装置および往復駆動ポンプ
(51)【国際特許分類】
F16J 15/46 20060101AFI20231221BHJP
F16J 15/18 20060101ALI20231221BHJP
F16J 15/3268 20160101ALI20231221BHJP
F04B 39/00 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
F16J15/46
F16J15/18 A
F16J15/3268
F04B39/00 104D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098118
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(72)【発明者】
【氏名】伊東 光一
【テーマコード(参考)】
3H003
3J043
【Fターム(参考)】
3H003AA02
3H003BC03
3H003CB04
3H003CD03
3H003CE04
3H003CE05
3J043AA12
3J043BA08
3J043BA09
3J043CA03
3J043CA06
3J043CB13
3J043DA02
3J043DA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】プランジャの往復移動による背圧の影響が低減されるように流体の導水性を高め、耐久性を向上させることができる超高圧封止装置および往復駆動ポンプを提供する。
【解決手段】超高圧封止装置1は、低圧側RLで外側部材2と接触して封止するボトムリング4と、ボトムリングの先端部に接触して封止するバックアップリング5と、ボトムリングとバックアップリングの高圧側端面部4c、5eと接触して封止するパッキンリング6と、パッキンリングの先端部に接触して封止する弾性リング7と、を備える。弾性リングは、U字部を有し、内側部材3が高圧側に移動するときは、外側部材2、パッキンリングおよび弾性リングで形成される環状空間C3と導通せず、内側部材が低圧側に移動するときは、環状空間と導通する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側部材と内側部材との間に形成された環状隙間に配設され、当該環状隙間を封止して高圧室と低圧室とを仕切る超高圧封止装置であって、
低圧側で前記外側部材と接触して封止するボトムリングと、
前記ボトムリングの先端部に接触して封止するバックアップリングと、
前記ボトムリングと前記バックアップリングの高圧側端面部と接触して封止するパッキンリングと、
前記パッキンリングの先端部に接触して封止する弾性リングと、を備え、
前記弾性リングは、U字部を有し、
前記内側部材が高圧側に移動するときは、当該環状隙間の一部であり、前記外側部材、前記パッキンリングおよび前記弾性リングで形成される環状空間と導通せず、
前記内側部材が低圧側に移動するときは、前記環状空間と導通する、超高圧封止装置。
【請求項2】
前記弾性リングは、
前記外側部材に接触し、外周側に形成される外周突起部と、
前記パッキンリングに接触し、内周側に形成される内周突起部と、を有する、請求項1に記載の超高圧封止装置。
【請求項3】
前記外周突起部は、
前記弾性リングの先端に形成される第1の外周部と、
前記第1の外周部とは傾斜角度の異なる接触面を有する第2の外周部と、を有する請求項1または請求項2記載の超高圧封止装置。
【請求項4】
前記外周突起部の傾斜角は、第1の基準面F1に対して、15~25°である、請求項2または請求項3記載の超高圧封止装置。
【請求項5】
前記内周突起部の傾斜角は、第2の基準面F2に対して、5~15°である、請求項2記載の超高圧封止装置。
【請求項6】
前記外周部の傾斜角は、第3の基準面F3に対して、10~20°である、請求項3または4のいずれか一項に記載の超高圧封止装置。
【請求項7】
前記弾性リングの高圧側で封止するスペーサリングを備え、
前記スペーサリングは、低圧側の端面に導水溝を有する、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の超高圧封止装置。
【請求項8】
前記弾性リングの高圧側で封止するスペーサリングを備え、
前記スペーサリングは、中央部に中央導水溝を有する、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の超高圧封止装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の超高圧封止装置を備え、圧力が500MPa以上の往復駆動ポンプであって、
前記外側部材は、シリンダ部材であり、
前記内側部材は、プランジャ部材であること、を特徴とする往復駆動ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高圧封止装置および往復駆動ポンプに係り、特に、U字部を形成した弾性リングを備えた超高圧封止装置および往復駆動ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧力が400MPaとなるような高圧ポンプにおいて、低圧部から高圧部に向かって、ボトムリング、バックアップリング、パッキンリング、および、弾性リングを軸方向に順次並べて構成したシール装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の高圧ポンプに使用されるシール装置は、内側部材(プランジャ)との摺動特性を確保するため、ボトムリングには強度の高いステンレス部材が採用されている。また、外側部材(シリンダ)とのシール性を確保するため、バックアップリングや、弾性リングを備える。
【0004】
また、特許文献2記載の超高圧封止装置は、ボトムリングとバックアップリングは、銅合金であり、ボトムリングは、バックアップリングよりも引張強さおよび硬度を高くしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4123547号公報
【特許文献2】特許第6397377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
超高圧(500MPa以上)に耐えうるようにシール性が向上することによって、シリンダ内部で加圧する(プランジャ部材を高圧側に移動させる)際に、パッキンリングや弾性リングの隙間に圧力が籠る機会が増加し、シリンダ内を減圧する(プランジャ部材を低圧側に移動させる)。その結果、パッキンリングや弾性リングの隙間に籠る背圧が残ったままとなる。
しかし、背圧が残ったままで、シリンダ内部の加圧と減圧(プランジャ部材の移動)を繰り返した場合、パッキンリングや弾性リングに必要以上に圧力がかかり、変形、損傷してしまうという課題があった。
【0007】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、超高圧における封止性能を向上させるとともに、外周突起部および内周突起部の間に構成される弾性リングのU字部によってプランジャの往復移動によるシリンダ内部の背圧の影響が低減されるように流体の導水性を高め、耐久性を向上できる超高圧封止装置および往復駆動ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の超高圧封止装置は、外側部材と内側部材との間に形成された環状隙間に配設され、環状隙間を封止して高圧室と低圧室とを仕切る超高圧封止装置であって、低圧側で外側部材と接触して封止するボトムリングと、ボトムリングの先端部に接触して封止するバックアップリングと、ボトムリングとバックアップリングの高圧側端面部と接触して封止するパッキンリングと、パッキンリングの先端部に接触して封止する弾性リングと、を備え、弾性リングは、U字部を有し、内側部材が高圧側に移動するときは、環状隙間の一部であり、外側部材、パッキンリングおよび弾性リングで形成される環状空間と導通せず、内側部材が低圧側に移動するときは、環状空間と導通する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る超高圧封止装置は、外周突起部および内周突起部の間に構成される弾性リングのU字部によって、U字部(外周突起部と内周突起部)が開く方向に作用することで超高圧における封止性能を向上させるとともに、U字部(外周突起部と内周突起部)が閉じる方向に作用することで封止しない状態となり、プランジャの往復移動によるシリンダ内部の背圧の影響が低減されるように流体の導水性を高め、耐久性を向上できる。そのため、この超高圧封止装置は、特に、圧力の高い超高圧領域(500~700MPa)において使用される往復駆動ポンプに好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る超高圧封止装置および往復駆動ポンプを示す要部概略断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る弾性リングを示す断面図である。
【
図4】超高圧が負荷されたときの状態を示す本発明の実施形態に係る超高圧封止装置および往復駆動ポンプの要部拡大図である。
【
図5】超高圧の負荷が解消されたときの状態を示す本発明の実施形態に係る超高圧封止装置および往復駆動ポンプの要部拡大図である。
【
図6】超高圧が負荷されたときの状態を示す従来の超高圧封止装置および往復駆動ポンプの要部拡大図である。
【
図7】超高圧の負荷が解消されたときの状態を示す従来の超高圧封止装置および往復駆動ポンプの要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係る超高圧封止装置および往復駆動ポンプの一例を説明する。
【0012】
≪超高圧封止装置≫
図1に示すように、超高圧封止装置1は、バルブ、スイベルジョイント等の流体継手や、往復駆動ポンプ、高圧プランジャポンプ等のポンプや、流体を加圧する高圧発生装置等の非常に高圧な流体をシールして漏れを防止するのに好適な装置であり、500MPa以上の圧力の流体を封止できる。超高圧封止装置1は、外側部材2と内側部材3との間に形成された環状隙間C1を封止するように配設され、この環状隙間C1を封止して高圧室RHと低圧室RLとを仕切るように設けられている。以下、超高圧封止装置1の一例として、外側部材2は圧力容器を構成するシリンダ部材20、内側部材3はシリンダ部材20内を進退移動するプランジャ部材30として構成される往復駆動ポンプ10(プランジャポンプ)に使用される場合を例に挙げて説明する。
【0013】
超高圧封止装置1は、環状隙間C1内において、プランジャ部材30の低圧室RL寄りの外周部に外嵌されたボトムリング4と、ボトムリング4の小径外周部4fおよび中央外周部4gに外嵌されたバックアップリング5と、プランジャ部材30の外周面の高圧室RH寄りのボトムリング4に隣接した位置に外嵌されたパッキンリング6と、パッキンリング6の小径外周部6fおよび中央外周部6gに外嵌された弾性リング7と、プランジャ部材30の高圧室RH側の外周部に遊嵌されたスペーサリング8と、で構成される。
【0014】
<外側部材>
図1に示すように、外側部材2は、シリンダ部材20等の圧力容器である。外側部材2は、内側部材3が進退自在に挿入されるシリンダ室2aを形成した円筒状の部材であり、不図示のハウジングに内設される。
【0015】
<内側部材>
内側部材3は、油圧等によって往復動作するプランジャ部材30(ピストン)である。内側部材3は、例えば、低圧室RL側に設けた弁ばね(図示省略)で後退することによって、流体を高圧室RH内に吸入して、高圧室RH側に前進するため、高圧室RH内の高圧流体を押圧して排出するポンプの機能を果たす。
【0016】
<環状隙間>
環状隙間C1は、プランジャ部材30とシリンダ部材20の間に形成された縦断面視して円筒形状の空間であり、パッキンリング6および弾性リング7等のパッキン部材(シール部材)が配置される設置空間である。環状隙間C1内は、低圧室RL側から高圧室RH低圧側へ向って順に、ボトムリング4、バックアップリング5、パッキンリング6、弾性リング7、スペーサリング8が挿入されて、高圧室RH側と低圧室RL側とを仕切るように封止されて、高圧流体が外部に漏れないように構成される。
【0017】
<ボトムリング>
ボトムリング4は、バックアップリング5、パッキンリング6、および弾性リング7よりも剛性を有する略円筒状の部材である。ボトムリング4は、プランジャ部材30(内側部材3)に当接する内周部4aと、低圧室側端面部4bに繋がりシリンダ部材20(外側部材2)に当接する大径外周部4eと、この大径外周部4eよりも縮径され高圧室側端面部4cに繋がる小径外周部4fと、外周部4dが大径外周部4eと小径外周部4fに繋がるように形成された中央外周部4gと、で構成される。ボトムリング4の先端部4Aは、縮径された突起である。
【0018】
ボトムリング4は、シリンダ部材20のシリンダ室2aの低圧室RL側の開口部に内嵌して配置される。
【0019】
内周部4aは、ボトムリング4において、最も軸心線側に形成されて、プランジャ部材30の外周面が当接するプランジャ部材30の軸受部位である。
【0020】
低圧室側端面部4bは、略円筒状のボトムリング4の低圧室RL側に形成された側面視して平な環状の端面である。
【0021】
高圧室側端面部4cは、ボトムリング4の高圧室RH側に形成された環状の端面である。この高圧室側端面部4cは、パッキンリング6の低圧室側端面部6bの軸心寄りの部位に当接した状態に配置される。
【0022】
外周部4dは、ボトムリング4の円筒状の外周面であって、後記する大径外周部4eと小径外周部4fと中央外周部4gとによって段差状に形成される。大径外周部4eは、外周部4dにおいて、最も外径が大きく形成された大径の外周面であり、低圧室RL寄りの部位に円筒状に形成される。この大径外周部4eには、シリンダ部材20のシリンダ室2aの内壁が当接した状態に配置される。ボトムリング4の大径外周部4eの外径と、バックアップリング5の外周部5cの外径と、パッキンリング6の大径外周部6eの外径と、弾性リング7の外周部7cの外径と、スペーサリング8の外周部8bの外径は、略同一である。
【0023】
小径外周部4fは、外周部4dにおいて、最も小径の周面であり、高圧室RH寄りの部位に円筒状に形成される。小径外周部4fには、バックアップリング5の内周部5aの内壁が当接した状態に配置される。互いに当接する小径外周部4fと内周部5aは、シリンダ室2aの内壁面およびプランジャ部材30の外周面に平行に配置される。
【0024】
ボトムリング4とバックアップリング5とは、テーパ形状でない嵌め合い部位である小径外周部4fおよび内周部5aを形成したことによって、同軸度を確保している。そのボトムリング4とバックアップリング5とのテーパ形状でない垂直な高圧室側端面部4cおよび高圧室側端面部5eは、パッキンリング6の低圧室側端面部6bに当接していることによって、直角度および同軸が確保されて、プランジャ部材30の同芯が振れないように軸支するとともに、流体漏れおよびパッキンの寿命を向上させる。
【0025】
中央外周部4gは、ボトムリング4の大径外周部4eから小径外周部4fに繋がるテーパ形状をなしている側面部位(外周部位)である。中央外周部4gには、軸心側の部位にバックアップリング5の係止部5bが当接した状態に配置され、外周寄りの部位に環状隙間C2が形成される。
【0026】
環状隙間C2は、ボトムリング4の中央外周部4gと、バックアップリング5の隙間形成端面5dと、シリンダ部材20のシリンダ室2aの内壁との間に形成された縦断面視して三角形の封止された環状空間である。環状隙間C2は、縦断面視して傾斜状に形成された中央外周部4gの外周寄りの部位に形成されていることによって、バックアップリング5の楔効果を高める役目を果たす。
【0027】
<バックアップリング>
バックアップリング5は、縦断面視して五角形(五辺を有する多角形)の楔形状のリング状部材であり、ボトムリング4の小径外周部4fおよび中央外周部4gに外嵌される。ボトムリング4の高圧室RH側は、縦断面視して、プランジャ部材30側のボトムリング4の小径部位と、シリンダ部材20(外側部材2)側のバックアップリング5と、に二分割した状態に配置される。バックアップリング5は、ボトムリング4の小径外周部4fに外嵌されてこの小径外周部4fに当接する内周部5aと、軸方向の移動が規制されるようにボトムリング4の中央外周部4gに係止される係止部5bと、シリンダ部材20に当接する外周部5cと、環状隙間C2に面した位置に形成された隙間形成端面5dと、パッキンリング6に当接する高圧室側端面部5eと、で構成される。
【0028】
内周部5aは、リング形状のバックアップリング5の軸心側(プランジャ部材30側)の内側表面であり、ボトムリング4の高圧室RH側に形成された小径外周部4fに外嵌される。係止部5bは、ボトムリング4のテーパ形状に適合するテーパ形状をなし、内周部5aの低圧室側端部から外周部方向に拡径して形成される。係止部5bは、ボトムリング4の中央外周部4gの軸心寄りの部位に外嵌して配置され、バックアップリング5の内周部5aの一部を形成する。
【0029】
外周部5cは、リング形状のバックアップリング5の外周側(シリンダ部材20のシリンダ室2a側)の外側表面であり、シリンダ室2aの内壁の当接した状態に配置される。隙間形成端面5dは、バックアップリング5の低圧室側端部の外周部側部位であり、外周部5cの低圧室側端部から係止部5bの外周側端部に亘って縮径して形成される。このため、隙間形成端面5dは、外周部5cの一部を構成する。
【0030】
高圧室側端面部5eは、バックアップリング5の高圧室側端面であり、パッキンリング6の低圧室側端面部6bの外周部側部位に当接して配置される。バックアップリング5の高圧室側端面部5eおよびボトムリング4の高圧室側端面部4cは、パッキンリング6が偏ったり、傾いたりするのを防止するために、軸方向(プランジャ部材30の外周面)に対して垂直な同じ面上に形成されて、縦断面視して一直線上に配置される。
【0031】
<パッキンリング>
パッキンリング6は、環状隙間C1において、ボトムリング4およびバックアップリング5と、スペーサリング8との間に介在された略円筒状の部材である。パッキンリング6は、バックアップリング5の高圧室側端面部5eに当接する低圧室側端面部6bと、プランジャ部材30に当接する内周部6aと、低圧室側端面部6bに繋がりシリンダ部材20に当接する大径外周部6eと、この大径外周部6eよりも縮径され高圧室側端面部6cに繋がる小径外周部6fと、外周部6dが大径外周部6eと小径外周部6fに繋がるように形成された中央外周部6gと、で構成する。パッキンリング6は、例えば、高分子ポリエチレン等の合成樹脂である。パッキンリング6の先端部6Aは、縮径された突起である。
【0032】
内周部6aは、パッキンリング6において、最も軸心線側に形成されて、プランジャ部材30の外周面3aが当接して配置されたシール部位である。
低圧室側端面部6bは、バックアップリング5の高圧室側端面部5eおよびボトムリング4の高圧室側端面部4cに当接して配置された部位である。この低圧室側端面部6bは、軸方向(プランジャ部材30の摺動方向)に対して垂直に形成されていることによって、パッキンリング6の垂直面の形状、および、パッキンリング6の同芯位置を保つ機能を果たす。
【0033】
高圧室側端面部6cは、パッキンリング6の高圧室RH側に形成された縦断面視して垂直な端面であり、側面視して環状に形成されている。高圧室側端面部6cは、スペーサリング8に低圧室RL方向の荷重aが負荷されていないときに、スペーサリング8の低圧室側端面部8cが離間した状態に配置される。高圧室側端面部6cは、スペーサリング8に低圧室RL方向の荷重aが負荷されているときに、スペーサリング8の低圧室側端面部8cに押圧されて、パッキンリング6が圧縮される。
【0034】
外周部6dは、パッキンリング6の円筒状の外周面であって、大径外周部6eと小径外周部6fと中央外周部6gとによって段差状に形成される。
【0035】
大径外周部6eは、外周部6dにおいて、最も外径が大きく形成された外周面であり、低圧室RL寄りの部位にプランジャ部材30の外周面に沿って平行な円筒状に形成される。この大径外周部6eには、シリンダ部材20のシリンダ室2aの内壁が当接した状態に配置される。大径外周部6eは、バックアップリング5と弾性リング7との間に介在されて、バックアップリング5と弾性リング7とが互いに当接しないように離間させて配置される。
【0036】
小径外周部6fは、外周部6dにおいて、大径外周部6eよりも小径の周面であり、高圧室RH寄りの部位に円筒状に形成されている。この小径外周部6fには、環状の弾性リング7の内周部7aの内壁が当接した状態に配置されて、シリンダ部材20とは非当接状態に配置される。
【0037】
中央外周部6gは、パッキンリング6の大径外周部6eから小径外周部6fに繋がるテーパ形状をなしている側面部位である。中央外周部6gには、軸心側の部位にパッキンリング6の係止部7bが当接した状態に配置され、外周寄りの部位に環状隙間(環状空間)C3が形成される。
【0038】
環状隙間(環状空間)C3は、パッキンリング6の中央外周部6gと、弾性リング7の隙間形成端面7dと、シリンダ室2aの内壁との間に形成された縦断面視して直角三角形の封止された空間である。環状隙間(環状空間)C3は、縦断面視して傾斜状に形成された中央外周部6gの外周寄りの部位に形成されていることによって、弾性リング7の楔効果を高め役目を果たす。
【0039】
図6に示すように、超高圧が負荷された状態の超高圧封止装置の場合、弾性リング7’には、矢印c方向および矢印d方向の力が加わり、外側部材2’とパッキンリング6’と密着した状態となる。このときに、環状隙間(環状空間)C3’内の面積は、超高圧が負荷する前よりも小さくなり、圧力が籠る状態である。
【0040】
また、
図7に示すように、超高圧の負荷が解消されたときの状態の超高圧封止装置の場合、弾性リング7’には、矢印ca方向および矢印da方向の力が加わり、外側部材2’とパッキンリング6’の先端部6a’と密着した状態となる。このときに、環状隙間(環状空間)C3’内の面積は、超高圧で負荷をかけた状態の反動も影響し、超高圧が負荷する前よりも大きくなり、背圧が緩む状態である。
【0041】
そして、往復駆動ポンプは、内側部材3’を往復させることで、高圧流体を生成するものであるため、再び、
図6の超高圧が負荷されたときの状態になるが、各要素で封止していても、流体の浸入を100%防ぐことは難しく、環状隙間(環状空間)C3’に流体が残ることや、さらに浸入してきた後に、環状隙間(環状空間)C3’内の面積が再度小さくなるわけであるから、環状隙間(環状空間)C3’の背圧によって、環状隙間(環状空間)C3’を構成する外側部材2’、パッキンリング6’および弾性リング7’の損傷を誘発する。
【0042】
そこで、本発明の超高圧封止装置において、外周突起部7eおよび内周突起部7fの間に構成される弾性リング7のU字部7gを形成することで、環状隙間(環状空間)C3に背圧が過度に籠らない状態にできる。
図4に示す超高圧が負荷されたときの状態は、
図6および
図7で作用するエネルギーや流体の移動と、基本的な原理は同じである。つまり、内側部材3が高圧側に移動するときには、環状隙間C1は、外側部材2、パッキンリング6および弾性リング7で形成される環状空間C3と導通しない。しかし、流体の浸入を100%防ぐことは難しい。
異なるのは、
図5に示すように、超高圧の負荷が解消されたときの状態の際におけるメカニズムである。
【0043】
弾性リング7には、矢印ca方向および矢印da方向の力が加わり、外側部材2とパッキンリング6の先端部6aと密着した状態となるものの、外周突起部7eおよび内周突起部7fの間に構成されるU字部7gを形成したことで、環状隙間(環状空間)C3内に浸入する流体がS3方向に移動するエネルギーによって、弾性リング7の外周突起部7eが一時的または断続的に内側方向へ入り込む形状に変形し、流体が環状隙間C1に流れ込むことで、環状隙間(環状空間)C3内に背圧が籠る状態を回避できる。
つまり、内側部材3が低圧側に移動するときは、外周突起部7eが一時的または断続的に内側方向へ入り込む形状に変形し、外周突起部環状空間C3と導通することで、流体が環状隙間C1に流れ込み、背圧が籠らない。
環状隙間(環状空間)C3に浸入した流体がS1の方向に排出されることで、再び超高圧を負荷したとしても、環状隙間(環状空間)C3の内部に背圧が籠らないことで、環状隙間(環状空間)C3を構成する外側部材2、パッキンリング6および弾性リング7の損傷を抑制できる。
【0044】
<弾性リング>
弾性リング7は、環状部材である。弾性リング7は、パッキンリング6の小径外周部6fに外嵌されてこの小径外周部6fに当接する内周部7aと、軸方向の移動が規制されるようにパッキンリング6の中央外周部6gに係止される係止部7bと、シリンダ部材20に当接する外周部7cと、環状隙間(環状空間)C3に面した位置に形成された隙間形成端面7dと、スペーサリング8側の外周部に形成された外周突起部7eと、スペーサリング8側の内周部に形成された内周突起部7fと、外周突起部7eと内周突起部7fの間にU字状に凹んだ状態で形成されるU字部7gと、で構成される。
弾性リング7の材質としては、例えば、ウレタンゴムやニトリルゴム等の弾性を有する合成ゴムを利用できる。
【0045】
弾性リング7は、パッキンリング6の小径外周部6fおよび中央外周部6gに外嵌されて、スペーサリング8に押圧された状態に配置されているので、シリンダ部材20とテーパ形状の中央外周部6gとの間に圧縮されて密着されるように配置される。このため、弾性リング7は、パッキンリング6をプランジャ部材30側方向(矢印b方向)に押圧する。その結果、弾性リング7は、弾性リング7の内周部7aおよび係止部7bがパッキンリング6の小径外周部6fおよび中央外周部6gに密着するとともに、外周部7cがシリンダ室2aの内壁面に密着し、パッキンリング6の内周部6aがプランジャ部材30の外周面に密着させて、各部材間の初期圧が得られるようになっている。
【0046】
内周部7aは、リング形状の弾性リング7の軸心側の内側表面であり、パッキンリング6の小径外周部6fに外嵌される。係止部7bは、パッキンリング6のテーパ形状に適合するテーパ形状をなし、内周部7aの低圧室側端部から外周部方向に拡径して形成されている。係止部7bは、パッキンリング6の中央外周部6gの軸心寄りの部位に外嵌して配置されて、弾性リング7の内周部7aの一部を形成する。
【0047】
外周部7cは、リング形状の弾性リング7の外周側の外側表面であり、シリンダ室2aの内壁の当接した状態に配置される。また、外周部7cは、外周突起部7eの先端に形成される第1の外周部7caと、第1の外周部7caと繋がり、第1の外周部7caとは傾斜角度の異なる接触面を有する第2の外周部7cbで構成される。
通常時において第1の外周部7caのみがシリンダ部材20に密着する形状にすることで、プランジャ部材30の移動に伴う環状隙間(環状空間)C3内の流体が外部に押し出される際に、外周突起部7eの変形が容易となる。
【0048】
隙間形成端面7dは、弾性リング7の低圧室側端部の外周部側部位であり、外周部7cの低圧室側端部から係止部7bの外周側端部に亘って垂直に形成される。
【0049】
外周突起部7eは、弾性リング7のスペーサリング8側に形成された外周部にあたる部位である。通常時(プランジャ部材30の移動がない状態)は、先端の第1の外周部7caがシリンダ部材20に密着した状態である。プランジャ部材30の移動によって、環状空間C内の圧力の上昇または下降に合わせて、外周突起部7eがシリンダ部材20との接触および非接触を調整することで、環状空間(環状空間)C3内の流体が籠りにくい状態を維持できる。
【0050】
内周突起部7fは、弾性リング7のスペーサリング8側に形成された内周部にあたる部位である。通常時(プランジャ部材30の移動がない状態)は、内周突起部7fがパッキンリング6に密着した状態である。
【0051】
U字部7gは、外周突起部7eと内周突起部7fの間に凹んだ状態で形成される部位である。U字部7gを形成することによって、流体の移動に伴う圧力変動があったとしても、外周突起部7eの動きを柔軟に調整できる。
【0052】
さらに、外周突起部7eの動きを柔軟にするためには、外周突起部7eや内周突起部7fの傾斜角が重要である。外周突起部7eの傾斜角α1と、内周突起部7fの傾斜角α2と、外周部の傾斜角α3と、を適切な範囲内に収めることによって、シール性能の維持と背圧回避性能の向上を図ることができる。
【0053】
外周突起部7eの傾斜角α1は、弾性リング7を断面視した場合、弾性リング7の軸と並行な第1の基準面F1に対して、15~25°、特に18°が好ましい。
傾斜角α1を設定することによって、外周突起部7eが外側部材3に接触し、封止するためのグリップ力を向上させることができる。
傾斜角α1と傾斜角α2の角度がそれぞれ外側に傾斜するだけ、U字部7g内の大きさが大きくなり、内側部材3が高圧側に移動するときには、内部に流体が入り込むとともに、外周突起部7eの外側部材3への接触圧と内周突起部7fの内側部材2への接触圧が強くなる。ただし、傾斜角α1と傾斜角α2の角度が大きすぎると、接触面にかかる負荷にバラつきがでるため、適度な角度に設定することで、より効果がある。
【0054】
内周突起部7fの傾斜角α2は、弾性リング7を断面視した場合、弾性リング7の軸と並行な第2の基準面F2に対して、5~15°、特に10°が好ましい。
傾斜角α2を設定することによって、内周突起部7fが内側部材2に接触し、封止するためのグリップ力を向上させることができる。角度が大きすぎると接触面にかかる負荷にバラつきがでるため、適度な角度に設定することで、より効果がある。
【0055】
外周部の傾斜角α3は、弾性リング7を断面視した場合、弾性リング7の軸と並行な第三の基準面F3に対して、10~20°、特に15°が好ましい。
傾斜角α3を設定することによって、外周突起部7eが外側部材3に接触し、封止するためのグリップ力を向上させることができる。
角度が大きすぎると接触面にかかる負荷にバラつきがでるため、適度な角度に設定することで、より効果がある。
なお、第1の基準面F1、第2の基準面F2、第三の基準面F3は、すべて平行な関係性にある。
【0056】
また、外周突起部7eの幅W1と内周突起部7fの幅W2を同一、一方を長くまたは短くすることによって、外側部材3や内側部材2とのグリップ力を確保することもできる。
【0057】
<スペーサリング>
スペーサリング8は、高圧室RH内において、弾性リング7の外周端に当接した状態に、シリンダ室2aの内壁に内嵌された金属製の円筒状部材である。
図1に示すように、スペーサリング8は、プランジャ部材30が進退自在に挿入配置された内周部8aと、シリンダ室2aの内壁面に内嵌された外周部8bと、パッキンリング6の高圧室側端面部6cおよび弾性リング7に対向配置された低圧室側端面部8cと、で構成される。
【0058】
さらに、スペーサリング8は、低圧側の端面に導水溝8dを有することもできる。導水溝8dを形成することによって、導水箇所が増え、環状空間Cにおける流体が籠らないようにすることで、パッキンリング6や弾性リング7の損傷を低減できる。
図5に示すように、S2の方向に流体を逃がすことができる。
【0059】
さらに、スペーサリング8は、中央部に中央導水溝(孔)8eを有することもできる。中央導水溝8eを形成することによって、環状隙間Cにおける流体が籠らないようにすることで、パッキンリング6や弾性リング7の損傷を低減できる。
図5に示すように、S3の方向に流体を逃がすことができる。
【0060】
中央導水溝(孔)8eによる導水性でも十分であるが、導水溝8dの方がスペーサリング8の低圧側で、パッキンリング6や弾性リング7と接する機会が多い箇所のため、より高い効果(損傷を低減する)が得られる可能性が高い。
なお、導水溝8dおよび中央導水溝(孔)8eの高さ、幅、深さ、形状、個数等は、適宜変更できる。
【0061】
≪作用≫
本発明の実施形態に係る超高圧封止装置1および往復駆動ポンプ10の作用を説明する。
【0062】
往復駆動ポンプ10は、パッキンリング6の高圧室RH側に、スペーサリング8に当接した弾性リング7が圧縮されるように配置されていることで、パッキンリング6を介してバックアップリング5およびボトムリング4に高圧室RH方向の圧力が伝達されて、それらの部材間が隙間なく密着されるため、各シール部材間に適宜な初期圧を得ることができる。
【0063】
また、往復駆動ポンプ10は、スペーサリング8に高圧室RH側から低圧室RL方向(矢印a方向)の負荷がかかると、弾性リング7およびパッキンリング6を低圧室RL方向に押し込んで、圧縮させる。弾性リング7は、全体的に低圧室RL方向に圧縮されて移動し、係止部7bが中央外周部6gのテーパ面に沿って移動し、外周部7cがシリンダ室2aの内壁面に押し当てられて密着してシールする。また、係止部7bは、パッキンリング6の中央外周部6gを軸心方向(矢印b方向)に押し込んで、内周部6aをプランジャ部材30に密着させてシールする。そのパッキンリング6は、バックアップリング5およびボトムリング4の高圧室側端面部5e、4cを押圧する。
【0064】
パッキンリング6の低圧室側端面部6bは、バックアップリング5の高圧室側端面部5eおよびボトムリング4の高圧室側端面部4cに当接していることで、パッキンリング6から伝達される超高圧の軸方向(矢印e方向)の押圧力をバックアップリング5とボトムリング4の両方に同時に伝達することができる。このため、バックアップリング5によるシリンダ室2aの内壁面に対するシール性と、ボトムリング4によるプランジャ部材30に対するシール性とを早期に発生させてシール性を向上できる。
【0065】
バックアップリング5は、ボトムリング4の小径外周部4fに外嵌されていることによって、パッキンリング6から伝達される超高圧の軸方向(矢印e方向)の押圧力をバックアップリング5とボトムリング4の両方でそれぞれ役割を分担できる。また、ボトムリング4の小径外周部4fは、バックアップリング5が外嵌されていることによって、ボトムリング4とバックアップリング5の同軸度を確保することができるため、パッキンリング6の外周部6dを適切にシリンダ室2aの内壁面に密着させることができる。
【0066】
バックアップリング5は、外周方向(矢印g方向)に拡径された外周部5cがシリンダ室2aの内壁面に押圧されて密着されるため、シリンダ室2aの内壁面とのシール性を向上できる。また、楔形状のバックアップリング5の係止部5bは、その軸心側にあるボトムリング4の内周部4aを、軸心方向(矢印f方向)に押し込んでプランジャ部材30の外周面に密着させてシールする。
【0067】
このため、ボトムリング4の内周部4aは、超高圧状態におけるプランジャ部材30に対するシール性を確保しながら摺動特性、封止性能、耐久性、およびシール寿命を大幅に向上できるため、500MPa以上の超高圧の流体であっても封止できる。
【0068】
前記実施形態では、超高圧において使用する超高圧封止装置1について説明したが、これに限定されるものではなく、超高圧(500MPa以上)よりも低圧な高圧の種々の部位にも同様に適用できる。
【符号の説明】
【0069】
1 超高圧封止装置
2 外側部材
3 内側部材
4 ボトムリング
4a、5a、6a、7a 内周部
4b、6b 低圧室側端面部
4c、5e、6c 高圧室側端面部
4d、5c、6d、7c 外周部
4e、6e 大径外周部
4f、6f 小径外周部
4g、6g 中央外周部
5 バックアップリング
5b、7b 係止部
6 パッキンリング
7 弾性リング
7ca 第1の外周部
7cb 第2の外周部
7e 外周突起部
7f 内周突起部
7g U字部
8 スペーサリング
8d 導水溝
8e 中央導水溝
10 往復駆動ポンプ
20 シリンダ部材
30 プランジャ部材
C1,C2 環状隙間
C3 環状隙間(環状空間)
F1、F2、F3 基準面
RH 高圧室
RL 低圧室
α1 外周突起部の傾斜角
α2 内周突起部の傾斜角
α3 外周面の傾斜角